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特許7554773表面処理されたアルミナでコーティングされたリチウムイオン電池セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】表面処理されたアルミナでコーティングされたリチウムイオン電池セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/451 20210101AFI20240912BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20240912BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M50/451
C07F7/18 K
C08F220/10
H01M10/052
H01M10/0565
H01M50/403 D
H01M50/417
H01M50/42
H01M50/426
H01M50/429
H01M50/434
H01M50/44
H01M50/443 M
H01M50/489
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021566122
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2020061683
(87)【国際公開番号】W WO2020225018
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】19172990.4
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユエン-チャン ホアン
(72)【発明者】
【氏名】ピン-スン シェイ
(72)【発明者】
【氏名】ドン-ウォン キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュンファン アン
(72)【発明者】
【氏名】サンミン リー
(72)【発明者】
【氏名】テ-スン ユ
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-161784(JP,A)
【文献】特開2007-294437(JP,A)
【文献】特開2017-123330(JP,A)
【文献】特表2012-521615(JP,A)
【文献】特表2006-526559(JP,A)
【文献】特開2011-044419(JP,A)
【文献】特開2017-076623(JP,A)
【文献】特開2013-206846(JP,A)
【文献】特開2014-056843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-497
H01M 10/052-0587
C07F 7/18
C08F 220/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーと表面処理されたアルミナとを含むコーティング層でコーティングされた有機基材を含む、リチウムイオン電池用のセパレータであって、前記表面処理されたアルミナは、一般式(Ia):
【化1】
[式中、
R=HまたはCHであり
は、分岐状または非分岐状の、脂肪族、芳香族または混合型脂肪族芳香族のC1~C30の炭素ベースの基であり、
Xは、Clまたは基OYから選択され、ここで、Yは、H、もしくはC1~C30の分岐状もしくは非分岐状のアルキル、アルケニル、アリール、もしくはアラルキル基、分岐状もしくは非分岐状のC2~C30のアルキルエーテル基、もしくは分岐状もしくは非分岐状のC2~C30のアルキルポリエーテル基、またはそれらの混合物である]の化合物でアルミナを表面処理することによって製造される、セパレータ。
【請求項2】
一般式(Ia)の化合物は、(ジクロロシランジイル)ビス(プロパン-3,1-ジイル)ビス(2-メチルアクリレート)(Ia、R=CH、B=-(CH-、X=Cl)、(ジメトキシシランジイル)ビス(プロパン-3,1-ジイル)ビス(2-メチルアクリレート)(Ia、R=CH、B=-(CH-、X=OCH)、(ジエトキシシランジイル)ビス(プロパン-3,1-ジイル)ビス(2-メチルアクリレート)(Ia、R=CH、B=-(CH-、X=OC)、およびそれらの混合物から選択される、請求項1記載のセパレータ。
【請求項3】
前記表面処理されたアルミナは、フュームドアルミナである、請求項1または2記載のセパレータ。
【請求項4】
前記表面処理されたアルミナは、50m/g~150m/gの比BET表面積を有する、請求項1からまでのいずれか1項記載のセパレータ。
【請求項5】
前記表面処理されたアルミナは、0.5重量%~5.0重量%の炭素含有量を有する、請求項1からまでのいずれか1項記載のセパレータ。
【請求項6】
前記表面処理されたアルミナは、20nm~400nmの数平均粒子径d50を有する、請求項1からまでのいずれか1項記載のセパレータ。
【請求項7】
前記有機基材は、ポリオレフィン樹脂、フッ素化ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、不織布、またはそれらの混合物を含む、請求項1からまでのいずれか1項記載のセパレータ。
【請求項8】
前記バインダーは、ポリ(フッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ウレタン)、ポリ(アクリロニトリル)、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、カルボキシルメチルセルロース、ポリ(イミド)、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1からまでのいずれか1項記載のセパレータ。
【請求項9】
前記セパレータの総厚は、5μm~200μmである、請求項1からまでのいずれか1項記載のセパレータ。
【請求項10】
前記コーティング層の厚さは、0.1μm~20μmである、請求項1からまでのいずれか1項記載のセパレータ。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載のセパレータの製造方法であって、
1)アルミナを表面処理剤で表面処理することにより、表面処理されたアルミナを製造するステップと、
2)前記表面処理されたアルミナとバインダーとを含むコーティング混合物を製造するステップと、
3)前記コーティング混合物で有機基材の表面をコーティングして、前記表面処理されたアルミナと前記バインダーとを含むコーティング層を前記有機基材の前記表面上に形成するステップと
を含む、方法。
【請求項12】
リチウムイオン電池の構成要素としての、請求項1から10までのいずれか1項記載のセパレータの使用。
【請求項13】
前記リチウムイオン電池は、ゲル電解質を含む、請求項12記載のセパレータの使用。
【請求項14】
請求項1から10までのいずれか1項記載のセパレータを備えた、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーと、一般式(I)または(Ia)のシランで表面処理されたアルミナ粒子とを含むコーティング層でコーティングされた有機基材を含む、リチウムイオン電池用のセパレータ、該セパレータの合成方法、およびリチウムイオン電池におけるその使用に関する。
【0002】
近年、様々なエネルギー貯蔵技術がますます人々の注目を集めており、産業界および学術界において集中的な研究開発の対象となっている。エネルギー貯蔵技術が携帯電話、カムコーダー、ノートパソコンなどのデバイス、さらには電気自動車にまで拡大するにつれて、これらのデバイスの電源として使用される高エネルギー密度電池の需要が高まっている。リチウムイオン二次電池は、現在使用されている最も重要な種類の電池の1つである。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、通常、炭素材料またはリチウム金属合金製のアノードと、リチウム金属酸化物製のカソードと、リチウム塩が有機溶媒に溶解されている電解質とから構成されている。リチウムイオン電池のセパレータは、充放電プロセス中に正極と負極との間のリチウムイオンの通過を提供する。
【0004】
リチウムイオン電池の安全性は重要な課題である。
【0005】
セパレータは、内部短絡を招くであろう2つの電極間の直接接触を防ぐ。したがって、このようなセパレータの構造は、リチウムイオン電池の安全性にとって非常に重要であると考えられている。
【0006】
ポリエチレンやポリプロピレン製などのポリオレフィンセパレータは、その優れた機械的強度、化学的安定性および低コストゆえに、リチウムイオン電池で最も広く使用されている。しかし、通常のポリオレフィンセパレータは、いくつかの重大な欠点を示す場合がある。ポリオレフィンセパレータは疎水性が高いため、極性電解質による濡れ性がかなり低く、これによりリチウムイオン電池の性能が低下する場合がある。さらに、このようなポリオレフィンセパレータは、高温にさらされると機械的安定性を失い、収縮する場合がある。
【0007】
従来のポリオレフィンセパレータの性能を改善するための1つの可能な方法は、そのようなセパレータをいくつかの熱的に安定な材料、例えば無機粒子でコーティングすることである。
【0008】
欧州特許出願公開第2639854号明細書には、基材と基材の表面上のコーティング層とを含み、コーティング層が、シラン化合物でコーティングされた元素Sn、Ce、Mg、Ni、Ca、Zn、Zr、Y、Al、Tiの酸化物からなる群から選択される金属酸化物粒子とバインダーとを含むリチウム二次電池用のセパレータが開示されている。シランは、好ましくは、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基またはメルカプト基を含む反応性置換基を有する。シランのそのような反応性基により、好ましくは-COOHまたは-OH基を含むバインダーとの反応が可能となる。
【0009】
リチウムイオン電池の安全性は、使用する電解質の種類にも大きく依存する。現在リチウムイオン電池で最も広く使用されている液体電解質は、漏出し易いため、電池が損傷したり、高温にさらされたりすると、火災や爆発さえも容易に引き起こすおそれがある。これらの問題は、リチウムイオン電池で使用するための液体電解質よりも安全なポリマーゲル電解質を使用することで解決できる可能性がある。
【0010】
韓国公開特許第20150099648号公報には、重合性のビニル官能基を有する修飾剤で修飾された無機粒子、例えば、Si、Sn、Ge、Cr、Al、Mn、Ni、Zn、Zr、Co、In、Cd、Bi、PbまたはV酸化物でコーティングされたセパレータ膜が開示されている。特に、ビニル基で修飾されたシリカ粒子でコーティングされたポリエチレンセパレータの製造が記載されており、これは、ゲルポリマー電解質を備えたリチウムイオン電池で使用することができる。ビニル基で修飾されたコロイダルシリカ粒子は、ビニルトリメトキシシランの加水分解と、それに続く沈殿物の分離と、70℃でのその乾燥とによって製造される。
【0011】
韓国公開特許第20170103049号公報には、無機粒子でコーティングされたリチウムイオン電池用のセパレータの製造方法であって、(a)適切な無機粒子を製造するステップと、(b)無機粒子を溶媒と混合するステップと、(c)無機粒子と溶媒との混合物にセパレータフィルムを浸漬するステップと、(d)セパレータフィルムを乾燥させて、コーティングされたセパレータフィルムを製造するステップとを含む方法が記載されている。特に、韓国公開特許第20170103049号公報の例には、テトラオルトシリケート(TEOS)の加水分解によるコロイダルシリカの製造、これらのシリカ粒子の存在下でのスチレンのフリーラジカル重合、続いて550℃での熱処理による修飾シリカ凝集体の製造が示されており、該凝集体は、次いで3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで処理される。その後、これらの官能化シリカ粒子は、リチウムイオン電池用のセパレータ膜のコーティングに使用される。
【0012】
リチウムイオン電池の充放電の繰り返しの際に発生する問題の1つは、電池の電解質に使用されるリチウム塩、例えばLiPFの、系内に存在する痕跡量の水による加水分解の生成物としてフッ化水素酸(HF)が生成されることである。HFは、電池のカソード活物質と反応して、電池の長期性能を低下させるおそれがある。韓国公開特許第20150099648号公報および韓国公開特許第20170103049号公報に記載されているように、セパレータ材料を取り巻くコーティング層にシリカ粒子が存在すると、HFとSiOとが反応してガス状四フッ化ケイ素(SiF)が形成される可能性があるため、不利になり得る。電池セルの動作中にガスが形成されると、バッテリの破損や、発生するガスの圧力下での爆発さえも生じるリスクがあるため、特に不利である。
【0013】
国際公開第2014104687号には、多孔質ポリオレフィン基材と、基材の表面上にコーティングされた活性層とを含む、二次電池用セパレータの製造方法が開示されている。活性層は、SiO、Al、TiO、SnO、CeO、ZrO、BaTiO、Yなどの無機粒子と、様々なシランカップリング剤とを含むことができる。実施例3および実施例4には、3-アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理された平均粒子径400nmのアルミナ粒子が挙げられている。これらの実施例では、そのような表面処理されたアルミナ粒子は、(シランカップリング剤の既存のアミノ基を介して)ZrO粒子とカップリングされ、得られたAl-シラン-ZrOハイブリッド体が、ポリエチレンセパレータ膜上にコーティングされる。
【0014】
米国特許出願公開第20120301774号明細書には、多孔質基材と、様々なシランまたはシロキサンなどのバインダーとSiO、Al、CaO、TiO、ZnO、MgO、ZrO、SnOなどの無機粒子との混合物を含む活性層とを含む、強化された抗酸化性能を備えたセパレータが開示されている。(メタ)アクリルシランとアルミナ粒子との組み合わせは開示されていない。実施例2および実施例3には、ポリアクリル酸-ポリアクリル酸ナトリウムと3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとを含む溶液でのアルミナ粉末の処理を含む、無機/有機複合セパレータの製造が開示されている。
【0015】
本発明によって対処される課題は、シリカをセパレータコーティングの構成要素として使用せずに、特に高温で、充放電プロセス中に高い容量保持を提供するリチウムイオン電池で使用するための改良されたセパレータ、およびそのような電池を提供することである。
【0016】
本発明は、バインダーと表面処理されたアルミナとを含むコーティング層でコーティングされた有機基材を含む、リチウムイオン電池用のセパレータであって、表面処理されたアルミナは、一般式(I)または(Ia):
【化1】
[式中、
R=HまたはCHであり、
0≦h≦2であり、
Aは、H、または分岐状もしくは非分岐状のC1~C4のアルキル基であり、
Bは、分岐状または非分岐状の、脂肪族、芳香族または混合型脂肪族芳香族のC1~C30の炭素ベースの基であり、
Xは、Clまたは基OYから選択され、ここで、Yは、H、もしくはC1~C30の分岐状もしくは非分岐状のアルキル、アルケニル、アリール、もしくはアラルキル基、分岐状もしくは非分岐状のC2~C30のアルキルエーテル基、もしくは分岐状もしくは非分岐状のC2~C30のアルキルポリエーテル基、またはそれらの混合物である]の化合物でアルミナを表面処理することによって製造される、セパレータを提供する。
【0017】
コーティング層
本発明のセパレータは、バインダーと表面処理されたアルミナとを含むコーティング層でコーティングされている。
【0018】
表面処理されたアルミナ
「アルミナ」および「酸化アルミニウム」という用語は、本発明の文脈において互換的に使用することができ、例えば、粉末または顆粒の形態のアルミナ粒子を指す。
【0019】
本発明によるセパレータ中に存在するアルミナは、表面処理されている。この表面処理、特に疎水性表面処理は、アルミナ粒子と疎水性バインダーとセパレータ材料との適合性を改善し得る。
【0020】
本発明で使用される表面処理されたアルミナは、好ましくは疎水性であり、メタノール/水混合物中でのメタノール含有量が5体積%を超え、好ましくは10体積%~80体積%、より好ましくは15体積%~70体積%、特に好ましくは20体積%~65体積%、最も好ましくは25体積%~60体積%のメタノール濡れ性を有する。
【0021】
本発明の文脈における「疎水性」という用語は、水などの極性媒体に対して低い親和性を有する粒子を指す。対照的に、親水性粒子は、水などの極性媒体に対して高い親和性を有する。疎水性材料の疎水性は、通常、粒子の表面に適切な非極性基を施与することによって達成できる。疎水性アルミナなどの無機酸化物の疎水性の程度は、例えば、国際公開第2011/076518号、第5頁~第6頁に詳細に記載されているように、そのメタノール濡れ性を含むパラメータにより決定することができる。純水中では、例えばアルミナの疎水性粒子は水から完全に分離し、溶媒に濡れることなくその表面に浮かぶ。対照的に、純粋なメタノール中では、疎水性粒子は溶媒のボリューム全体に分布し、完全な濡れが生じる。メタノールの濡れ性の測定では、アルミナがまだ濡れていないときの、つまり、使用したアルミナ100%が、試験混合物との接触後に濡れていない形で試験混合物から分離したままであるときの最大のメタノール含有量が、メタノール/水試験混合物で決定される。メタノール/水混合物中のこのメタノール含有量(体積%)が、メタノールの濡れ性と呼ばれる。このようなメタノールの濡れ性のレベルが高いほど、アルミナの疎水性が高くなる。メタノールの濡れ性が低いほど、材料の疎水性が低くなり、親水性が高くなる。
【0022】
本発明のセパレータは、一般式(I)または(Ia)[式中、
R=HまたはCH、好ましくはCHであり、
0≦h≦2、好ましくはh=0または1であり、
Aは、H、または分岐状もしくは非分岐状のC1~C4のアルキル基、好ましくはA=HまたはCHであり、
Bは、分岐状または非分岐状の、脂肪族、芳香族または混合型脂肪族芳香族のC1~C30の炭素ベースの基、好ましくはB=-(CH-であり、
Xは、Clまたは基OYから選択され、ここで、Yは、H、もしくはC1~C30の分岐状もしくは非分岐状のアルキル、アルケニル、アリール、もしくはアラルキル基、分岐状もしくは非分岐状のC2~C30のアルキルエーテル基、もしくは分岐状もしくは非分岐状のC2~C30のアルキルポリエーテル基、またはそれらの混合物である]の化合物でアルミナを表面処理することによって製造された、表面処理されたアルミナを含む。最も好ましくは、X=ClまたはOCHである。
【0023】
一般式(I)の化合物は、好ましくは、3-(トリエトキシシリル)プロピルメタクリレート(I、R=Me、h=0、B=-(CH-、X=OEt)、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(I、R=Me、h=0、B=-(CH-、X=OMe)、3-(トリクロロシリル)プロピルメタクリレート(I、R=Me、h=0、B=-(CH-、X=Cl)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0024】
一般式(Ia)の化合物は、好ましくは、(ジクロロシランジイル)ビス(プロパン-3,1-ジイル)ビス(2-メチルアクリレート)(Ia、R=CH、B=-(CH-、X=Cl)、(ジメトキシシランジイル)ビス(プロパン-3,1-ジイル)ビス(2-メチルアクリレート)(Ia、R=CH、B=-(CH-、X=OCH)、(ジエトキシシランジイル)ビス(プロパン-3,1-ジイル)ビス(2-メチルアクリレート)(Ia、R=CH、B=-(CH-、X=OC)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0025】
表面処理されたアルミナは、好ましくはフュームドアルミナである。
【0026】
フュームドアルミナは、例えば火炎加水分解や火炎熱分解などの高熱法から得られるアルミナである。火炎加水分解プロセスでは、アルミニウム化合物、好ましくは塩化アルミニウムが気化され、これが水素と酸素との反応によって生成された火炎中で反応して、アルミナ粒子を形成する。このようにして得られた粉末は、「高熱法」または「ヒュームド」アルミナと呼ばれる。この反応により、高度に分散した一次粒子がまず形成され、これが反応のさらなる過程で合体して凝集体を形成する。これらの粉末の凝集体の寸法は、総じて0.2μm~1μmの範囲である。前記粉末は、適切な粉砕によって部分的に破壊され、本発明にとって有利であるナノメートル(nm)範囲の粒子に変換され得る。高熱法により製造された酸化アルミニウムは、非常に小さい粒子径、高い比表面積(BET)、非常に高い純度、一次粒子の球形、および細孔の不在を特徴としている。火炎加水分解プロセスによるフュームドアルミナの製造は、例えば、独国特許出願公開第19943291号明細書に詳細に記載されている。
【0027】
表面処理されたアルミナは、好ましくは、30m/g~200m/g、より好ましくは50m/g~150m/gの比表面積(BET)を有する。比表面積は単にBET表面積とも呼ばれ、DIN 9277:2014に準拠して、Brunauer-Emmett-Teller法による窒素吸着によって決定することができる。
【0028】
表面処理されたアルミナは、好ましくは0.1重量%~15.0重量%、より好ましくは0.5重量%~5.0重量%の炭素含有量を有する。炭素含有量は、元素分析によって決定することができる。分析されたサンプルは、燃焼添加剤が供給されたセラミックるつぼに秤入れられ、酸素流下にて誘導炉内で加熱される。存在する炭素は、COに酸化される。COガスの量は、赤外線検出器によって定量化される。
【0029】
表面処理されたアルミナは、好ましくは1μm未満、より好ましくは900nm未満、さらにより好ましくは20nm~800nm、さらにより好ましくは30nm~700nm、最も好ましくは50nm~500nmの数平均粒子径d50を有する。数平均粒子径は、動的光散乱法(DLS)によって決定することができる。アルミナは、部分的または完全に個々の一次粒子の形態で存在し得る。しかし、フュームドアルミナの場合、粒子は通常、ほとんどが凝集体の形態で存在する。凝集粒子の場合、数平均粒子径は、凝集体のサイズを指す。
【0030】
表面処理されたアルミナは、好ましくは25g/L~130g/Lのタップ密度を有する。タップ密度は、DIN ISO 787/XIに準拠して決定することができ、所定の条件下にてタップ体積測定器でタッピングした後の粉末の重量および体積の商に等しい。
【0031】
表面処理されたアルミナのpH値は、好ましくは3~9であり、より好ましくは4~8である。pH値は、水:メタノール=1:1(重量%:重量%)の混合物中の表面処理されたフュームドアルミナの4%水性分散液で決定することができる。
【0032】
バインダー
本発明のセパレータのコーティング層は、バインダーを含む。バインダーの材料は、この材料がアルミナ粒子と有機基材の表面との間の効率的な接着を可能にする限り、特に限定されない。バインダーは、ポリ(フッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ウレタン)、ポリ(アクリロニトリル)、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、カルボキシルメチルセルロース、ポリ(イミド)、およびそれらの混合物からなる群から選択できる。
【0033】
バインダーとアルミナとの重量比は、0.1:99.9~99:1、好ましくは1:99~90:10であり得る。バインダーとアルミナとの混合物に対して1重量%未満のバインダーが使用される場合、アルミナ粒子と有機基材の表面との間の接着は不十分となり得る。バインダーが90重量%を超えると、バインダーとアルミナとを含むコーティング層の多孔性が低下し得る。
【0034】
コーティング層の厚さは、好ましくは0.1μm~20μm、より好ましくは0.1μm~10μmである。
【0035】
有機基材
本発明によるセパレータは、有機基材を含む。このような有機基材の材料は、総じて電池用のセパレータとして使用できる限り、特に限定されない。
【0036】
このような有機基材は、通常は多孔質である。有機基材の気孔率は、有機基材のある単位の総体積に対する有機基材のこの単位の全細孔容積の比であり、これは好ましくは30%超、より好ましくは30%~80%である。有機基材の気孔率が30%未満の場合、セパレータ膜を通過するイオン伝導性が妨げられる可能性がある。一方、有機基材の気孔率が80%を超えると、セパレータ膜の機械的安定性が不十分になり、安全性の問題が増大する可能性がある。
【0037】
有機基材は、ポリオレフィン樹脂、フッ素化ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、不織布、またはそれらの混合物を含み得る。好ましくは、有機基材は、ポリエチレンまたはポリプロピレンベースのポリマーなどのポリオレフィン樹脂、フッ化ポリビニリデンポリマーまたはポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素化樹脂、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、不織布、またはそれらの混合物を含む。
【0038】
本発明によるセパレータは、好ましくは、5μm~200μm、より好ましくは5μm~100μmの総厚を有する。
【0039】
セパレータの製造方法
本発明はさらに、本発明によるセパレータの製造方法であって、
1)アルミナを表面処理剤で表面処理することにより、表面処理されたアルミナを製造するステップと、
2)表面処理されたアルミナとバインダーとを含むコーティング混合物を製造するステップと、
3)コーティング混合物で有機基材の表面をコーティングして、表面処理されたアルミナとバインダーとを含むコーティング層を有機基材の表面上に形成するステップと
を含む方法を提供する。
【0040】
本発明のセパレータを製造するための本発明の方法のステップ1)は、表面処理されていない(親水性)アルミナを表面処理剤で処理することによって実施することができる。
【0041】
このステップ1)では、未処理のアルミナに適切な表面処理剤を周囲温度(約25℃)で噴霧し、続いて混合物を50℃~400℃の温度で1~6時間の一定期間にわたって熱処理することが好ましい。
【0042】
ステップ1)におけるアルミナの表面処理の代替的方法は、アルミナを蒸気の形態の適切な表面処理剤で処理し、続いて混合物を50℃~800℃の温度で0.5~6時間の一定期間にわたって熱処理することによって実施することができる。
【0043】
ステップ1)の熱処理は、例えば窒素などの保護ガス下で行うことができる。表面処理は、噴霧装置を備えた加熱可能なミキサーおよび乾燥機で、連続的またはバッチ的に実施することができる。適切な装置は、例えば、プラウシェアミキサーもしくはプレート、サイクロン、または流動床乾燥機であり得る。
【0044】
使用される表面処理剤の量は、アルミナの種類および施与される表面処理剤の種類によって異なる。しかし、通常は、アルミナの量に対して1重量%~15重量%、好ましくは2重量%~10重量%の表面処理剤が使用される。
【0045】
本発明のセパレータを製造するための本発明の方法のステップ2)において、表面処理されたアルミナと、バインダーと、任意に溶媒とを含む混合物を製造する。バインダーとアルミナとの重量比は、1:99~99:1、好ましくは10:90~90:10であり得る。好ましくは、表面処理されたアルミナとバインダーとを含む混合物は、全混合物に対して1重量%~30重量%の溶媒をさらに含む。溶媒は、バインダーを溶解することができる限り、特に限定されない。適切な溶媒の例は、アセトン、トルエン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、n-ブタノール、N-メチルピロリドンである。
【0046】
本発明のセパレータを製造するための本発明の方法のステップ3)において、コーティング混合物で有機基材の表面をコーティングして、表面処理されたアルミナとバインダーとを含むコーティング層を有機基材の表面上に形成する。比較的薄いコーティング層の施与を可能にする任意の適切なコーティング方法を適用することができる。コーティングステップに適した装置の一例は、ドクターブレードデバイスSA-202(製造元:Tester Sangyo)である。
【0047】
コーティング混合物を、有機基材の表面上でさらに乾燥または硬化させて、最終的なコーティング層を形成することができる。
【0048】
セパレータの使用
本発明はさらに、リチウムイオン電池の構成要素としての本発明によるセパレータの使用を提供する。
【0049】
特に本発明は、リチウムイオン電池の構成要素としての本発明のセパレータの使用を提供し、ここで、リチウムイオン電池は、ゲル電解質を含む。
【0050】
本発明のセパレータは、
1)架橋剤と、開始剤と、液体電解質とを含む電解質前駆体溶液を製造するステップと、
2)電解質前駆体溶液と、本発明のセパレータと、カソードと、アノードとを備えたリチウムイオン電池を組み立てるステップと、
3)電解質前駆体溶液を架橋させて、ゲル電解質を含むリチウムイオン電池を製造するステップと
を含む、ゲル電解質を含むリチウムイオン電池の製造方法において使用することができる。
【0051】
リチウムイオン電池
本発明はさらに、本発明によるセパレータを備えたリチウムイオン電池を提供する。
【0052】
本発明のリチウムイオン電池は、セパレータの他に、通常は、カソードと、アノードと、リチウム塩を含む電解質とを含む。
【0053】
リチウムイオン電池のカソードは、通常、集電体と、集電体上に形成されたカソード活物質層とを含む。
【0054】
集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、導電性金属でコーティングされたポリマー基材、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0055】
カソード活物質は、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離し得る材料を含み、当技術分野で周知である。そのようなカソード活物質は、リチウム金属、リチウム合金、ケイ素、酸化ケイ素、炭化ケイ素複合材料、ケイ素合金、Sn、SnO、または遷移金属酸化物、例えば、Li、Ni、Co、Mn、Vもしくは他の遷移金属を含む混合酸化物を含み得る。
【0056】
リチウムイオン電池のアノードは、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離し得る、リチウムイオン二次電池で一般的に使用される任意の適切な材料を含む。その典型的な例は炭素質材料であり、これには、結晶性炭素、例えば、板状、フレーク状、球状または繊維状タイプのグラファイトの形態の天然または人造グラファイト;アモルファスカーボン、例えば、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソフェーズピッチカーバイド、焼成コークスなど、またはそれらの混合物が含まれる。
【0057】
本発明のリチウムイオン電池の液体電解質は、無水エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメトキシエタン、フルオロエチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、またはそれらの混合物など、リチウムイオン電池で一般的に使用されるいずれかの適切な有機溶媒を含むことができる。
【0058】
リチウムイオン電池の電解質は通常、リチウム塩を含む。そのようなリチウム塩の例としては、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、リチウムビス2-(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF)、LiSiF、リチウムトリフレート、LiN(SOCFCF、およびそれらの混合物が含まれる。
【0059】
本発明のリチウムイオン電池は、液体電解質またはゲル電解質を含むことができる。硬化、重合または架橋されていない、リチウム塩と有機溶媒との液体混合物を、本発明の文脈において「液体電解質」と呼ぶ。硬化、重合または架橋された化合物またはそれらの混合物と、任意に溶媒と、リチウム塩とを含むゲルまたは固体混合物を、「ゲル電解質」と呼ぶ。そのようなゲル電解質は、少なくとも1つの反応性、すなわち重合性または架橋性の化合物とリチウム塩とを含む混合物の重合または架橋によって製造することができる。
【0060】
本発明のリチウムイオン電池は、好ましくは、液体電解質前駆体溶液から製造されるゲル電解質を含み、この液体電解質前駆体溶液は、架橋剤と、開始剤と、リチウム塩と、液体電解質とを含み、これは好ましくは、反応性、すなわち重合性または架橋性化合物を含む。そのような反応性化合物は、ビニル基、アクリレートもしくはメタクリレート基、またはそれらの組み合わせの二重結合などの反応性官能基を含み得る。そのような反応性化合物の一例は、ビニルエチレンカーボネートである。
【0061】
架橋剤は、ビニル基、アクリレートもしくはメタクリレート基、またはそれらの組み合わせの二重結合などの2つ以上の反応性官能基を含み得る。そのような架橋剤の一例は、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート(TEGDA)である。電解質前駆体溶液中の架橋剤の含有量は、0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.1重量%~5重量%であり得る。
【0062】
適切な開始剤の例は、t-アミルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)などのアゾビス化合物、またはそれらの組み合わせである。
【0063】
本発明のリチウムイオン電池は、
1)架橋剤と、開始剤と、液体電解質とを含む電解質前駆体溶液を製造するステップと、
2)電解質前駆体溶液と、本発明のセパレータと、カソードと、アノードとを備えたリチウムイオン電池を組み立てるステップと、
3)電解質前駆体溶液を架橋させて、ゲル電解質を含むリチウムイオン電池を製造するステップと
を含む方法により製造することができる。
【0064】
実験の部
無機粒子
フュームドアルミナ1
3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートで表面処理されたフュームドアルミナ1の製造を、欧州特許第1628916号明細書の実施例11に従って行った。アルミナ1のBETは93m/gであり、C含有量は4.0重量%であった。
【0065】
AEROXIDE(登録商標)Alu C 805
n-オクチルトリメトキシシランで表面処理されたフュームドアルミナ:
AEROXIDE(登録商標)Alu C 805、製造元:Evonik Resource Efficiency GmbH。データシートによれば、AEROXIDE(登録商標)Alu C 805のBETは75~105m/gであり、C含有量は3.5~4.5重量%であった。
【0066】
AEROSIL(登録商標)R 711
3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートで表面処理されたヒュームドシリカ:
AEROSIL(登録商標)R711、製造元:Evonik Resource Efficiency GmbH。データシートによれば、AEROSIL(登録商標)R711のBETは125~175m/gであり、C含有量は4.5~6.5重量%であった。
【0067】
セパレータ
厚さ9μmのポリエチレンフィルム(製造元:SK Innovation)。
【0068】
バインダー
ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(Kynar Flex(登録商標)2801-00、製造元:Arkema)。
【0069】
セパレータのコーティング:一般的な手順
ドクターブレードデバイスSA-202(製造元:Tester Sangyo)を使用して、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドンで希釈した無機粒子とバインダーとの混合物(無機粒子:バインダー:NMP=5:5:90(重量による))でポリエチレンセパレータフィルムをコーティングして、コーティングされたポリエチレンセパレータの総厚を15μmとした。
【0070】
リチウムイオン電池
韓国のBexel社から購入したアノード電極およびカソード電極と、セパレータと、電解質とを備えた、負極および正極の設計面積容量比(N/P比)=1.175、面積容量2.0mAh/cmのリチウムイオン電池を、以下の材料を用いて組み立てた:
アノード電極:昭和電工製人造グラファイト(担持量:6.86mg/cm)90重量%+導電性カーボン3重量%+PVdFバインダーKF9130(Kureha)7重量%
カソード電極:NCM 622、LiNi0.6Co0.2Mn0.2(担持量:12.0mg/cm)95重量%+導電性カーボン3重量%+PVdFバインダーKF7208(Kureha)2重量%
セパレータ:上記の無機粒子でコーティングされたポリエチレンフィルム
電解質:
液体電解質(LE):エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジエチルカーボネート(DEC)(3:5:2 vol:vol:vol)(製造元:Panax Etec)中のLiPFの1.15M溶液100重量%と、フルオロエチレンカーボネート(FEC、製造元:Panax Etec)5重量%と、ビニルエチレンカーボネート(VEC、製造元:Panax Etec)1重量%との混合物
ゲル電解質(GE):上記の液体電解質100重量%と、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート(TEGDA、製造元:Sigma-Aldrich)6重量%と、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、製造元:Sigma-Aldrich)0.06重量%との混合物。
【0071】
リチウムイオン電池(コインセル)の組み立て:
(1)カソード電極を直径14mm、アノード電極を直径16mm、セパレータを直径18mmに切断する。
【0072】
(2)円形のカソード、アノードおよびセパレータを、組み立てのためにグローブボックスに入れる。
【0073】
(3)それぞれ、ケース、ガスケット、ディスク(厚さ1mm)、スプリングおよびキャップからなるコインセル部品としてのコインセル(CR2032)を準備する。
【0074】
(4)ケースおよびカソード電極を、コーティング面を上にして中央に置く。
【0075】
(5)マイクロピペットを用いてゲル電解質前駆体溶液または液体電解質を40μL定量し、カソード電極のウェルに滴下する。
【0076】
(6)セパレータをカソード電極の上に置く。カソード電極とセパレータとの間に気泡が形成されないようにする。気泡がある場合は、テフロンピンセットを使用して間から排出させる。コーティングされたセパレータの場合は、アノード電極に接するようにコーティング面を上にする。
【0077】
(7)カソード電極およびアノード電極が動かないように、ガスケットを正しい方向に挿入する。
【0078】
(8)マイクロピペットを用いてゲル電解質前駆体溶液または液体電解質を40μL定量し、ガスケットで固定したセパレータの中央に滴下する。
【0079】
(9)コーティング面を下にしてアノード電極を置き、ディスク部分、スプリング部分およびキャップ部分の順にアノード銅箔上に置く。
【0080】
(10)組み立てたセルをテフロンピンセットの上面で押して、すべての部品がよく合うことを確認した後、圧着機を使用してCR2032コインセルを完成させる。
【0081】
(11)エージングプロセスとしてコインセルを25℃のオーブンに12時間入れ、セパレータおよび電極を液体電解質またはゲル電解質前駆体で十分に濡らす。
【0082】
(12)エージングプロセス後にコインセルを70℃のオーブンに2時間入れて、ゲル電解質前駆体の化学的架橋を誘発させる。
【0083】
(13)オーブンからコインセルを取り出し、さらに試験を進める。
【0084】
リチウムイオン電池の試験
交流(AC)インピーダンス
ACインピーダンスアナライザCHI 660D(製造元:CH instruments)を用いて、25℃または55℃でACインピーダンスの測定を行った。コインセル1つを用いて測定した値を、以下の表1および表2に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
表1および表2は、表面処理されたアルミナ粒子でコーティングされた本発明のセパレータを備えたリチウムイオン電池が、何もコーティングされていない同じセパレータや他の無機粒子でコーティングされたセパレータと比較して、25℃で300回の再充電サイクル後でも、55℃で100回のサイクル後でも、ACインピーダンスの上昇が少ないことを実証していることを示している。
【0088】
サイクル性能
サイクル性能を、25℃または55℃で、バッテリサイクラーPEBC 50.2(製造元:PNE solutions)を用いて、カットオフ電圧3.0~4.3V、充電レート:0.5C CC/CV、および放電レート:0.5C CC/CV(0.5Cレートは、1.0mAh/cmの電流密度に相当)で測定した。結果の再現性を保証するため、それぞれのケースで少なくとも3~5個のセルを組み立てて試験した。これらの試験の平均値を、以下の表3および表4に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
表3および表4は、表面処理されたアルミナ粒子でコーティングされた本発明のセパレータを備えたリチウムイオン電池が、何もコーティングされていない同じセパレータや他の無機粒子でコーティングされたセパレータと比較して、25℃で300回の再充電サイクル後でも、55℃で100回のサイクル後でも、より高い保持率を実証していることを示している。
【0092】
フッ化水素酸(HF)含有量の測定
電解質(89.4重量%)と、架橋剤(5.7重量%)と、開始剤(0.1重量%)と、無機粒子(4.8重量%)との混合物を55℃で7日間保存した後、メチルオレンジを指示薬として使用した、ジメチルカーボネート(DMC)中のトリエチルアミンの0.01M溶液を用いた酸塩基滴定により、この混合物のHF含有量を測定した。
【0093】
【表5】
【0094】
HF含有量の測定結果(表5)から、疎水性のシリカおよびアルミナでコーティングされたセパレータを備えたどちらのサンプルでも、コーティングされていないセパレータと比較してHF含有量が増加するが、シリカ粒子を使用した系では、アルミナ粒子を使用した系の2倍のHFを示すことがわかる。シリカ粉末およびアルミナ粉末はどちらも必然的に痕跡量の水を含んでおり、これが電解質中のLiPFの部分的な加水分解につながる。