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特許7554805ブリキの表面を不動態化する方法およびこの方法を実施するための電解システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ブリキの表面を不動態化する方法およびこの方法を実施するための電解システム
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/06 20060101AFI20240912BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20240912BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20240912BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20240912BHJP
   C25D 17/06 20060101ALI20240912BHJP
   C25D 19/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C25D3/06
C25D5/26 B
C25D5/50
C25D5/48
C25D17/06 H
C25D19/00 D
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022155876
(22)【出願日】2022-09-29
(65)【公開番号】P2023054762
(43)【公開日】2023-04-14
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】10 2021 125 696.8
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ モルズ
(72)【発明者】
【氏名】ビルギット バーグホルツ
(72)【発明者】
【氏名】ゲールハルト メンゼル
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第02687693(FR,A1)
【文献】特開2020-172701(JP,A)
【文献】国際公開第2014/006031(WO,A1)
【文献】堀口 誠・黒川 亘・松林 宏,ぶりきのすず酸化物成長抑制に及ぼす不働態処理皮膜の微細構造の影響,鉄と鋼,第8号,日本,1986年06月,pp. 1142~1148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/06
C25D 5/26
C25D 5/50
C25D 5/48
C25D 17/06
C25D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリキの表面上に酸化クロムを含む不動態化層を適用することによりブリキの表面を不動態化する方法であって、
前記不動態化層は、3価クロム化合物と、導電率を高めるための少なくとも1種の塩と、所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸または塩基とを含み、有機錯化剤を含まず、緩衝剤を含まない電解液(E)から少なくとも部分的に、酸化クロム及び水酸化クロム含有の不動態化層を電解析出することによって得られ、
前記不動態化層の前記電解析出の直後で、且つ前記不動態化層の析出の完了後10秒以下の中間時間内に、不動態化されたブリキは、前記不動態化層から水酸化クロムを除去するために、100℃以上の処理温度で少なくとも0.5秒の処理時間維持される熱処理に供される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記処理時間は0.5秒~30分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理温度は150℃~232℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理のために、前記不動態化されたブリキは前記処理温度まで誘導加熱される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記電解液(E)は、20℃~80℃の範囲の平均温度を有し、前記不動態化層の電解析出の完了直後の前記不動態化されたブリキは、前記電解液(E)の前記平均温度と同等のブリキ温度を有し、前記熱処理のために、当該ブリキは、前記ブリキ温度から始まって前記処理温度まで加熱される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記不動態化されたブリキは、前記不動態化層の電解析出の完了直後に、100~700K/sの加熱速度で前記処理温度まで加熱される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記電解液(E)は、前記3価クロム化合物、前記少なくとも1種の塩および前記少なくとも1種の酸または塩基ならびに溶媒から成る、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理後、前記不動態化層は、硫酸クロムおよび水酸化クロムの残渣を含む不可避的副生成物を除いて、3価酸化クロムからなる、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電解液(E)から得られた前記不動態化層は、95%を超える酸化クロム及び水酸化クロムの重量割合を有し、前記不動態化層の残部は、硫酸クロムを含む不可避的副生成物によって形成される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記不動態化層の電解析出のために、前記ブリキは、走行方向に所定の速度(v)で、少なくとも1つの電解槽(1)または前記走行方向に前後に配置された複数の電解槽(1a,1b,1c)を通過し、前記速度(v)は少なくとも100m/分である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ブリキが、前記1つの電解槽(1)において又は前記複数の電解槽(1a,1b,1c)の各々において前記電解液(E)と電解的に効果的に接触している電解時間(t)が1.0秒未満である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ブリキが、すべての電解槽(1,1a~1c)において前記電解液(E)と電解的に効果的に接触している総電解時間(t)が0.5秒~2.0秒である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記不動態化層の電解析出のために、前記ブリキは、走行方向に所定の速度(v)で、前記走行方向に前後に配置された複数の電解槽(1a,1b,1c)を通過し、前記走行方向で見て、少なくとも最後の電解槽(1c)は、前記3価クロム化合物、前記少なくとも1種の塩および前記少なくとも1種の酸または塩基ならびに溶媒から成る電解液(E)を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記電解液(E)から得られた前記不動態化層は、クロム換算で少なくとも3mg/mの、酸化クロム及び水酸化クロムの総コーティング重量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
4価の酸化スズ(SnO)から成る酸化スズ層が、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩または炭酸塩を含む水性電解質中に前記ブリキをアノードとして置くことによって、前記不動態化層の前記電解析出の前に前記ブリキの前記表面上に形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ブリキの表面上に酸化クロム含有不動態化層を析出させることによって前記ブリキの表面を電解的に不動態化するための電解システムであって、
第1の電解液(E)で満たされた少なくとも1つの電解槽(1)であり、前記第1の電解液(E)は、3価クロム化合物と、導電率を高めるための少なくとも1種の塩と、所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸または塩基とを含み、有機錯化剤を含まず、緩衝剤も含んでいない、少なくとも1つの電解槽(1)、または、
連続して配置された複数の電解槽(1a,1b,1c)であって、少なくとも1つの電解槽(1c)は前記第1の電解液(E)で満たされ、残りの電解槽(1a,1b)は前記第1の電解液(E)で満たされているか、または、3価クロム化合物を含み、前記第1の電解液(E)とは組成が異なる別の電解液(E´)で満たされている複数の電解槽(1a、1b、1c)と、
前記ブリキの表面上に、前記第1の電解液(E)および任意選択で前記別の電解液(E´)から、酸化クロム及び水酸化クロム含有の不動態化層を電解析出させるために、所定の速度(v)で走行方向に、前記少なくとも1つの電解槽(1)を通って、または前記複数の電解槽(1a,1b,1c)を連続して通って、ストリップ状ブリキを搬送するための搬送装置と、
前記走行方向において前記電解槽(1)の直後の下流に、または前記複数の電解槽(1a,1b,1c)のうちの最後の電解槽(1c)の直後に配置されていると共に、前記不動態化層から水酸化クロムを除去するために、前記不動態化されたブリキを、少なくとも0.5秒の所定の処理時間の間、少なくとも100℃の所定の処理温度に加熱するように設計された加熱装置と、
を含む電解システム。
【請求項17】
前記加熱装置は、少なくとも3mの長さを有する加熱セクションを備える連続炉として設計されている、請求項16に記載の電解システム。
【請求項18】
前記加熱装置は誘導ヒータを含む、請求項16又は17に記載の電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリキの表面上に酸化クロム含有不動態化層を電解析出させることによってブリキの表面を不動態化する方法、およびブリキの表面上に酸化クロム含有不動態化層を電解析出させる電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
クロムおよび酸化クロム/水酸化クロムの不動態化層で電解コーティングされた鋼板は、パッケージ(包装)の製造のための最新技術から知られている。これらは、ティンフリー鋼(TFS)または電解クロム被覆鋼(ECCS)として知られており、ブリキの代替品である。これらのティンフリー鋼板は、ラッカーまたは有機コーティング(PPまたはPETで作られたポリマーコーティングなど)に対する良好な接着性を特に特徴とする。一般に20nm未満であるクロムおよび酸化クロム/水酸化クロムの不動態化層の厚さが薄いにもかかわらず、これらのクロム被覆鋼板は、成形プロセス、例えば、パッケージの製造のための深絞りおよび絞り-しごきプロセスにおいて良好な耐食性および良好な成形性を示す。
【0003】
スズめっき鋼板(ブリキ)は、通常、電解スズめっき後に、スズ表面の大気酸素への酸化を防止するために不動態化層が設けられる。適切な不動態化層は、クロム(VI)を含む電解質からブリキのスズ表面に電解析出させることができるクロム含有層であることが証明されている。これらのクロム含有不動態化層は、金属クロムおよび酸化クロムから構成される。ここで酸化クロムは、水酸化クロムを含む、クロムと酸素とのすべての化合物を含むと理解される。
【0004】
電解クロム被覆鋼板(ECCS)の製造およびブリキ表面の不動態化のために、金属クロムおよび酸化クロム/水酸化クロムを含む不動態化層を、クロム-VIを含む電解質を使用してストリップコーティングライン内のストリップ状基材(コーティングされていない鋼板またはブリキ)に適用することができる電解コーティング法が従来技術から知られている。しかしながら、これらのコーティング方法は、電解方法で使用されるクロム-VI含有電解質の環境および健康に有害な特性のためにかなりの欠点を有し、クロム-VIを含む材料の使用が将来禁止されるため、予測可能な将来において代替のコーティング方法に置き換えなければならない。
【0005】
このため、クロム-VIを含む電解質の使用を省くことができる電解コーティング法が、最新技術において既に開発されている。例えば、クロム金属酸化クロム(Cr-CrOx)層を用いたストリップ状鋼板、特にストリップ状の黒板またはブリキの電解不動態化方法は、特許文献1および特許文献2から知られており、ストリップコーティングラインでカソードとして接続された鋼板は、3価クロム化合物(特にCr-III硫酸塩)ならびに錯化剤および導電率増加塩を含み、かつ塩化物およびホウ酸などの緩衝剤を含まない単一の電解液を100m/分を超える速いストリップ速度で通過する。
【0006】
有機物、特にギ酸塩、好ましくはギ酸ナトリウムまたはギ酸カリウムが錯化剤として使用される。好ましいpH値を2.5~3.5の範囲に設定するために、電解液は硫酸を含むことができる。クロム金属および酸化クロムの不動態化層は、連続する電解槽(電解槽はそれぞれ同じ電解液で満たされてい)または連続するコイルコーティングライン内で層に析出させることができる。
【0007】
電解析出した不動態化層は、クロム金属および酸化クロム/水酸化クロムの成分に加えて硫酸クロムおよび炭化クロムも含むことができ、不動態化層の総コーティング重量におけるこれらの成分の割合は、電解槽に設定された電流密度に非常に実質的に依存することが観察された。電流密度の関数として3つの範囲(レジームI、レジームII、およびレジームIII)が形成され、第1の電流密度閾値までの低い電流密度を有する第1の範囲(レジームI)では、鋼基板上にクロム含有析出はまだ生じず、中程度の電流密度を有する第2の範囲(レジームII)では、電流密度と析出した不動態化層のコーティング重量との間に線形関係があり、第2の電流密度閾値を超える電流密度(レジームIII)では、設けられた不動態化層の部分的分解が起こり、その結果、このレジームにおける不動態化層のクロムのコーティング重量は、電流密度が増加するにつれて最初に低下し、次いでより高い電流密度で一定の値に落ち着くことが分かった。ここで、中程度の電流密度を有する領域(レジームII)では、本質的に金属クロムが(不動態化層の総重量に基づいて)最大80%の重量割合で鋼基板上に析出し、第2の電流密度閾値を超えると(レジームIII)、不動態化層はより高い割合の酸化クロムを含み、より高い電流密度の領域では、不動態化層の総コーティング重量の1/4~1/3を占める。範囲(レジームI~III)を互いに区切る電流密度閾値の値は、鋼板が電解液を通って移動するストリップ速度に依存する。
【0008】
酸素含有環境における酸化に対するブリキ表面の良好な不動態化、およびラッカーまたは熱可塑性樹脂などの有機コーティングの良好な接着性の形成のために、特にPET、PP、PEまたはそれらの混合物で作製されたプラスチックフィルムの積層のために、クロム含有不動態化層中の酸化クロムの可能な限り高い割合が有利である。
【0009】
特許文献3から、少なくとも本質的に酸化クロムおよび水酸化クロムのみからなる不動態化層の析出によってブリキの表面を不動態化する方法が知られており、この目的のために、有機物質を含まず、特に有機錯化剤を含まない3価クロム化合物を含む電解質の水溶液が使用される。水性電解液の使用により、析出した不動態化層は、酸化クロムに加えて水酸化クロム含有量が高い。しかしながら、不動態化層の水酸化クロム含有量は、不動態化されたブリキが空気雰囲気中で長期間保管された場合に、大気中の酸素が不動態化層を通って拡散することを可能にする。不動態化層を通した大気中の酸素の拡散により、ブリキのスズ表面に有害な酸化スズ層が形成され、これは本質的に2価の酸化スズ(SnO)からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2015/177314
【文献】WO2015/177315
【文献】EP3722464A1
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の課題は、酸素を含む雰囲気中または空気中でブリキのスズ表面上の酸化スズ層の成長を防止することができる、3価クロム化合物を含む電解液に基づくクロム酸化物含有不動態化層でブリキの表面を不動態化するための効率的で費用効果の高い電解方法を提供することである。いずれの場合でも、電解方法の中間生成物であったとしても、クロム-VIを含む物質の使用は、クロム-VIを含む物質の禁止に関する法的要件を完全に遵守することができるように回避されるべきである。本方法に従ってコーティングされたブリキは、酸素含有環境、特に大気酸素中での酸化に対して可能な限り高い耐性を有するべきであり、有機ラッカーおよびポリマーコーティング(特に、例えば、PET、PEまたはPPから作製されたポリマーフィルム)などの有機コーティングに対して良好な接着特性を有するべきである。
【0012】
本発明による方法では、3価クロム化合物と、導電率を高めるための少なくとも1種の塩と、所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸または塩基とを含み、有機錯化剤を含まず、緩衝剤を含まない電解液から、スズめっき鋼ストリップ(ブリキストリップ)上にクロム酸化物含有不動態化層を電解析出させ、不動態化層の電界析出後、不動態化されたブリキは、不動態化されたブリキが100℃以上の処理温度で少なくとも0.5秒間の処理時間維持される熱処理に供される。不動態化されたブリキの熱処理は、不動態化層の電解析出の直後に行われ、不動態化層に含まれる水酸化クロム成分を不動態化層から除去する。これにより、不動態化層は酸素に対して不透過性になり、ブリキのスズ表面上の酸化スズ層の成長を防止することができる。不動態化層の析出後に本発明に従って熱処理されたブリキの場合、酸素含有雰囲気中で少なくとも4週間保管した後、70C/m未満の酸化スズオーバーレイを有する酸化スズ層が不動態化層の下に存在する。好ましくは、少なくとも4週間の保管後の酸化スズ層のオーバーレイは55C/m未満であり、より好ましくは40C/m未満であり、特に20C/m~60C/mの範囲である。これにより、酸化スズ層のオーバーレイ全体を、大気酸素中でのスズ表面の自然酸化によって生成される2価の酸化スズ(SnO)と、不動態化層の電解析出の前に、目標とするアノード酸化によって生成される4価の酸化スズ(SnO)とで構成することができる。好ましくは、4価の酸化スズは、40C/m未満、さらにより好ましくは30C/m未満のオーバーレイを有する。
【0013】
本発明による方法では、中間体としてさえもクロムVIを含む物質は使用されないので、プロセスはクロムVIを含む物質を完全に含まず、したがってプロセスが実施されるときに環境または人間の健康を損なわない。
【0014】
有機錯化剤を含まない(特にギ酸塩を含まない)電解液を、不動態化層または少なくとも不動態化層の上層の電解析出のために使用することに起因して、および不動態化層を備えたブリキのその後の熱処理に起因して、不動態化層は、不可避的不純物(特に、これは、水酸化クロムおよび硫酸クロム(硫酸クロム(III)が電解液中で3価クロム化合物として使用される場合)の残留物であり得る)を除いて、少なくとも本質的に純粋な酸化クロムから成るか、または純粋な酸化クロムの少なくとも1つの上層を含む。純粋な酸化クロムから成る不動態化層または不動態化層の上層は、一方では、酸素の浸透に対する非常に良好なバリアを形成し、他方では、有機ラッカーまたはPET、PPまたはPEから作製されたポリマーフィルムなどの有機コーティングに良好な接着性を提供する。
【0015】
酸化クロムに言及する場合、クロムの全ての(3価)酸化物形態(CrOx)を意味する。水酸化クロムに言及する場合、すべての水和形態の酸化クロム、特にクロム(III)水酸化物およびクロム(III)酸化物水和物、ならびにそれらの混合物を意味する。
【0016】
本発明による熱処理後、電解的に設けられた不動態化層は、可能な限り高い酸化クロム含有量を有する。好ましくは、酸化クロムの重量割合は95%を超える。一方では、これはブリキの表面の酸化に対する良好な不動態化を確実にし、他方では、有機ラッカーまたはPET、PEまたはPPなどの熱可塑性物質で作製されたポリマー層などの有機コーティングに良好な特性を提供する。
【0017】
不動態化層の電解析出のために、ブリキストリップはカソードとして接続され、所定の電解時間にわたって少なくとも1つの電解槽内で電解液と接触する。電解時間は、好ましくは0.3~5.0秒の範囲内、特に好ましくは0.6~1.5秒の間である。この目的のために、ブリキストリップは、少なくとも1つの電解槽またはストリップの走行方向に前後に配置された複数の電解槽を連続して所定の速度で通過し、ストリップ速度は、好ましくは少なくとも100m/分、さらにより好ましくは200m/分~750m/分である。高速は、本方法の高効率を保証することができる。
【0018】
電解析出した不動態化層の厚さまたはコーティング重量は、電解時間によって、したがってストリップ速度によって制御することができる。好ましくは、電解時間は、析出した酸化クロムがクロム換算で少なくとも3mg/m、好ましくは8mg/m~12mg/mのコーティング重量を有するように選択される。不動態化層のこれらの好ましいコーティング重量は、パッケージ用途のためのブリキの十分な耐酸化性および耐食性をもたらし、ラッカーまたは熱可塑性フィルムなどの有機コーティングのための良好な接着ベースも提供する。
【0019】
したがって、耐腐食性を改善し、硫黄含有材料、特にパッケージの硫酸塩または亜硫酸塩含有内容物に対するバリアを形成するために、不動態化層を電解的に設けた後に、不動態化層の表面を有機コーティングでコーティングするか、またはPET、PPおよび/またはPEなどの熱可塑性樹脂のプラスチック層を設けることによって、不動態化層の酸化クロム層に良好に接着する有機材料のコーティング、特に熱可塑性樹脂、特にPET、PE、PPまたはそれらの混合物のポリマーフィルムのコーティングを設けることが可能である。
【0020】
本方法がクロム-VI含有物質を完全に含まないことを確実にするために、適切なアノードが不動態化層の電解析出のために選択され、電解槽または複数の電解槽それぞれ内に配置されて、電解液の3価クロム化合物からクロム-(VI)へのクロム-(III)の酸化を防止する。金属酸化物(特に酸化イリジウム)または混合金属酸化物(特にイリジウム-タンタル酸化物)の外面または不動態化層を有する、鋼およびステンレス鋼を含まないアノードが、この目的に特に適していることが判明している。好ましくは、アノードはステンレス鋼も白金も含まない。このようなアノードを使用することにより、3価の酸化クロムおよび/または水酸化クロムのみ、特にCrおよび/またはCr(OH)のみを含むコーティングをブリキ上に析出させることができる。
【0021】
本発明による方法を実施するために、
第1の電解液で満たされた少なくとも1つの電解槽、または連続して配置された複数の電解槽であって、少なくとも1つの電解槽は第1の電解液で満たされ、残りの電解槽は、第1の電解液、または3価クロム化合物を含み、第1の電解液とは組成が異なる別の電解液で満たされている、複数の電解槽であり、
第1の電解液は、3価クロム化合物と、導電率を高めるための少なくとも1種の塩と、所望のpH値に調整するための少なくとも1種の酸または塩基と、を含み、有機錯化剤を含まず、緩衝剤も含まない、電解槽と、
ブリキの表面上に第1の電解液および任意選択で別の電解液から不動態化層を電解析出させるために、好ましくは100m/分を超える所定の速度で走行方向に、少なくとも1つの電解槽、または複数の電解槽を連続して通って、ストリップ状ブリキを搬送するための搬送装置と、
走行方向において、電解槽の下流または複数の電解槽の下流に配置され、不動態化されたブリキを少なくとも100℃の所定の処理温度に少なくとも0.5秒の所定の処理時間にわたって加熱するように設計された加熱装置と、
を含む電解システムを使用することができる。
【0022】
一実施形態では、本発明による電解システムは、連続して配置された複数の電解槽を含み、複数の電解槽のうち、ストリップの走行方向で見て少なくとも最後の電解槽は第1の電解液で満たされ、それよりも前の電解槽は、3価クロム化合物に加えて、導電率を高めるための少なくとも1種の塩および所望のpH値に設定するための少なくとも1種の酸または塩基ならびに有機錯化剤を含む別の電解液で満たされる。特に、ギ酸塩、好ましくはギ酸ナトリウムまたはギ酸カリウムを錯化剤として使用することができる。個々の電解槽内の電解液の温度も異なるように選択することができる。この実施形態は、ブリキの表面上に、異なる組成を有する複数の層を備えた酸化クロム含有不動態化層を析出させることを可能にする。
【0023】
特に、電解システムのこの実施形態は、金属クロムおよび酸化クロム/水酸化クロムならびに場合によっては炭化クロムの下層と、純粋な酸化クロムの上層とを有する不動態化層を製造するために使用することができる。不動態化層の個々の層は、前後に配置された電解システムの個々の電解槽内でブリキのスズ表面に析出する。個々の電解槽内の電解液の組成および/または温度の差は、特に酸化クロムの重量割合が互いに異なる不動態化層の層の異なる組成をもたらす。
【0024】
加熱装置を使用して、不動態化層の水酸化クロム成分または少なくとも不動態化層の上層の水酸化クロム成分を酸化クロムに変換することができ、その結果、不動態化層は完全に純粋な酸化クロムから成るか、または少なくとも不動態化層の上層は本質的に酸化クロムのみを含み、特に金属クロムを含まず、せいぜい不可避的残留水酸化クロムを有する。加熱装置は、ストリップの走行方向で見て、電解槽のすぐ下流または複数の電解槽の最後の電解槽のすぐ下流に配置されることが好ましい。これにより、不動態化層の熱処理を、不動態化層を電解的に設けることが完了した後、例えば10秒未満の短い時間間隔で直ちに行うことができる。
【0025】
本発明による電解システムは、ブリキの鋼板基板にスズ層が電解的に設けられる電解スズめっきラインのすぐ下流に好都合に配置することができる。したがって、ブリキのブリキ表面に不動態化層を設けることが、ブリキストリップを巻き上げる必要なしに、鋼板基板の電解スズめっきの直後に行うことができる。したがって、ブリキの鋼板基材は、スズめっきのために所定のストリップ速度で鋼ストリップとしてスズめっきラインを通って供給され、スズめっき直後に輸送装置によって同じストリップ速度で本発明による電解システムを通過させるようにさらに供給することができる。しかしながら、最初にブリキ鋼ストリップをコイルに巻き取り、ブリキ鋼ストリップを巻き戻して輸送するために、コイルを本発明による電解システムの輸送装置に供給することも可能である。
【0026】
加熱装置は、少なくとも3mの好ましい長さを有する加熱セクションを有する連続炉として設計されてもよい。加熱装置はまた、誘導加熱器を含んでもよい。本発明による電解システムはまた、ストリップの走行方向で見て、(第1の)電解槽の上流または複数の電解槽の上流に配置されたさらなる加熱装置を含むことができる。好ましくは誘導加熱器として設計されたこのさらなる加熱装置は、さらなる加熱装置内のブリキストリップをスズの融点を超える温度に加熱することによって、スズめっきラインで設けられたブリキのスズ層を少なくとも部分的に溶融するために使用することができる。
【0027】
電解液は、好ましくは20℃~80℃の範囲、特に好ましくは30℃~65℃の範囲、特に40℃~60℃の電解質温度を有する。これらの温度では、酸化クロム含有不動態化層の電解析出が非常に効率的である。電解質温度または電解液の温度または電解槽内の温度が言及される場合、それぞれの場合において、電解槽の全体積にわたって平均化された平均温度を意味する。概して、電解槽内には、上から下へと温度が上昇する温度勾配が存在する。複数の電解槽が使用される場合、各電解槽内の電解質温度は異なっていてもよく、これは各電解槽内で析出する不動態化層の層の組成に影響を及ぼし得る。例えば、40℃未満の電解質温度では、電解質温度がそれよりも高い電解槽と比較して、酸化クロム含有量がより高い層が析出する。したがって、本発明による方法では、不動態化層の上層の酸化クロム含有量を最大にするために、最後の電解槽の電解質温度を40℃以下に設定することが有利である。
【0028】
少なくとも1つ、好ましくは走行方向で見て最後の電解槽に満たされた第1の電解液は、3価クロム化合物および溶媒水に加えて、少なくとも1種の導電性向上塩および適切なpH値に設定するための少なくとも1種の酸または塩基を含み、好ましくは塩化物イオンを含まず、緩衝剤を含まず、特にホウ酸緩衝剤を含まない。
【0029】
電解液の3価クロム化合物は、好ましくは塩基性硫酸Cr(III)(Cr(SO)、硝酸Cr(III)(Cr(NO)、シュウ酸Cr(III)(CrC)、酢酸Cr(III)(C1236ClCr22)、ギ酸Cr(III)(Cr(OOCH))またはそれらの混合物を含む群から選択される。電解液中の3価クロム化合物の濃度は、少なくとも10g/Lであることが好ましく、15g/Lを超えることが特に好ましく、20g/L以上であることが特に好ましい。
【0030】
導電率を高めるために、電解液は、好ましくはアルカリ金属硫酸塩、特に硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムである少なくとも1種の塩を含む。
【0031】
酸化クロムおよび水酸化クロムを含む不動態化層の非常に効率的な析出は、電解液のpH(20℃の温度で測定)が2.3~5.0の範囲、好ましくは2.5~3.5の間である場合に達成される。所望のpHは、電解液に酸または塩基を添加することによって調整することができる。3価クロム化合物として塩基性硫酸Cr(III)を使用する場合、硫酸または硫酸を含む酸混合物が所望のpHに調整するのに特に適している。
【0032】
電解液の特に好ましい組成は、3価クロム化合物として塩基性硫酸Cr(III)(Cr(SO)、導電性向上塩として硫酸ナトリウム、好ましいpHを2.5~3.5の範囲に設定するための硫酸をそれぞれ含む。
【0033】
3価のクロム含有物質、導電率を高めるための少なくとも1種の塩、pH値を調整するための少なくとも1種の酸または塩基に加えて、電解液は溶媒水以外の他の成分を含まない。これにより、電解液の簡単で安価な調製が保証され、少なくとも実質的に酸化クロムおよび水酸化クロムのみからなり、それ以外に、硫酸クロム(3価クロム化合物として硫酸Cr-(III)が使用される場合)などの不可避的不純物のみを含む不動態化層の析出がもたらされる。
【0034】
本発明による方法では、不動態化されたブリキを100℃以上の処理温度で少なくとも0.5秒の処理時間維持する熱処理に供することによって、電着された不動態化層に含まれる水酸化クロム成分を不動態化層から除去する。その結果、水和酸化クロムの水が蒸発し、水酸化クロムが酸化クロムに変換される。
【0035】
処理時間は、好ましくは0.5秒~30分であり、さらに好ましくは1.0秒~1分である。ブリキのスズ表面の溶融を防ぐため、処理温度は150℃~スズの溶融温度(232℃)が好ましい。特に、熱処理は、ブリキストリップが電解槽を通過するストリップ速度で、ブリキストリップを炉を通過させることによって、ブリキストリップ上に不動態化層を電解析出させた直後に行われる。好ましくは100m/分超~900m/分までの高速ストリップ速度では、ストリップの走行方向において好ましくは5~30mの間である炉の長さに応じて、数秒またはさらには1秒未満の非常に短い処理時間となる。1秒以下の非常に短い処理時間の場合、より高い処理温度が選択され、例えば170℃~230℃とすることができる。ストリップ走行方向で見て最後の電解槽内の電解質の温度が比較的高い、例えば50℃以上の範囲内である場合、1秒以下の非常に短い処理時間は、150℃未満のより低い処理温度でも十分である、なぜなら、不動態化されたブリキストリップがこの温度を有し、短時間で、熱処理のための(最高)処理温度まで加熱するだけでよいからである。
【0036】
不動態化されたブリキを(最高)処理温度まで特に迅速かつ効率的に加熱することは、誘導コイルにおける誘導加熱によって達成することができる。100K/s~700K/sの加熱速度を達成することができ、これにより不動態化されたブリキを最後の電解槽の電解質温度から(最高)処理温度まで加熱することができる。
【0037】
しかしながら、必要に応じて、ブリキストリップを複数のシートに切断した後、オーブン内で、または不動態化ブリキのIR照射によって、不動態化ブリキの熱処理を行うことも可能である。オーブンを使用することによって数分のより長い処理時間を選択することができ、それにより100℃~150℃の範囲のより低い処理温度を使用することができる。
【0038】
不動態化層の析出後にまだ湿った状態の不動態化層を通って酸素が拡散するのを防ぐために、熱処理は、好ましくは、不動態化層の電解析出直後に、すなわち最後の電解槽を出た直後に行われる。不動態化層の析出の完了後、すなわち最後の電解槽を出てから処理温度に達するまでの間に、好ましくは最大10秒の中間時間が存在する。
【0039】
この方法の好ましい実施形態では、本質的に4価の酸化スズ(SnO)から成る酸化スズ層が、水性、特にリン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩または炭酸塩を含む塩基性電解質中にブリキをアノードとして配置することによって、不動態化層の電解析出の前にブリキの表面上に生成される。2価の酸化スズよりも酸素雰囲気中でのさらなる酸化に対して不活性である4価の酸化スズ層の形成は、酸素含有雰囲気中でのブリキのスズ表面上の酸化物層の避けられない成長を最小限に抑え、ブリキから製造されたパッケージの硫黄内容物などの硫黄含有物質に対するブリキの耐マーブリング性を改善する。一方では、酸化スズ層の化学量論および2価および4価の酸化スズの比は、目標とするアノード酸化によって制御することができ、他方では、ブリキの表面上の酸化スズ層の均一な分布が達成される。
【0040】
本発明による電解システムにおいて不動態化層を電解的に設けることが行われる前に、アノード酸化が、不動態化層を電解的に設けることが行われる電解ラインにおいて、すなわち、3価クロム電解液を有する電解槽の上流に接続されており、塩基性電解液で満たされている第1の電解槽を、ブリキストリップを通過させて行われることが好都合である。これにより、ブリキストリップは、塩基性電解質を有する電解槽内でアノードとして接続され、その後の3価クロム電解液を有する電解槽内でカソードとして接続される。
【0041】
塩基性電解質は、例えば、1重量%~10重量%の範囲の濃度を有する炭酸ナトリウム水溶液であってもよく、好ましくは、30~60℃の範囲の温度および7~11の範囲のpH値を有し、特に炭酸ナトリウムの場合、10~11の間のpH値を有する。アノード酸化が起こる第1の電解槽内の電流密度は、好ましくは0.1~10A/dmの範囲内、特に好ましくは0.2~3A/dmの間である。アノード酸化時間、すなわちブリキが塩基性電解質と電解的に効果的に接触している時間は、好ましくは5秒未満、好ましくは0.1~1.0秒の範囲であり、ブリキストリップが電解システムを通過するストリップ速度に適切に適合させることができる。
【0042】
アノード酸化の結果として、酸化スズ層(SnO)がブリキのまだ不動態化されていないスズ表面に設けられ、これは好ましくは10~40C/mの範囲、特に好ましくは30C/m未満、特に10~28C/mのコーティング重量を有し、これは数nmの厚さに相当する。試料上の酸化スズ層のオーバーレイは、測定される材料で作られ、予め脱脂された作用電極と、カーボンロッドで作られた対電極と、水中で0.01n溶液(0.01mol/l)に希釈され、不活性ガス(例えばN)で完全に脱気された47%臭化水素酸(HBr)中のAg/AgCl参照電極とを用いて、設けられた酸化スズ層を測定することによって、クロノアンペロメトリック測定法でクーロメトリーで決定することができ、試料上の酸化スズ層のオーバーレイは、ブリキ試料から還元され、0.5~0.7A/mの範囲の電流密度で酸化スズ層を完全に還元するのに必要なクーロン(カソード電流Aと還元時間tとの積から決定される)の電荷量が記録され、ここで、C/mでの単位面積当たりの電荷は、クーロン(C)の電荷量と試料の面積(m)との商から得られる(欧州規格EN10202:2001案の付属書Dによる)。
【0043】
アノード酸化の前に、ブリキをスズの融点(232℃)を超える温度に加熱することによって、ブリキのスズ層を任意に部分的に溶融することができる。好ましくは、加熱は、鋼基板に面するスズ層の一部のみを溶融することができ、かつ金属スズがスズ層の表面に残るように誘導的である。スズ層の溶融領域は、鋼基材の鉄原子と共に鉄-スズ合金層を形成し、これは腐食に対するバリアを形成する。
【0044】
本発明による方法によって製造されたブリキは、(この順序で)以下の層構造を有する:
鋼基材(特に、厚さ0.5mm以下の一回(SR)または二回(DR)冷間圧延鋼板)、
任意選択:特にスズ換算で0.1~2g/mの範囲のコーティング重量を有する鉄-スズ合金層、
特に0.5~5g/mの範囲のコーティング重量を有する遊離(金属)スズ、
特にSnOからの、特に10~30C/mの範囲の電荷密度を有する酸化スズ、
特にクロム換算で3~12mg/mの範囲のコーティング重量を有する酸化クロム含有不動態化層。
【0045】
酸化クロム不動態化層は、不可避的不純物を除いて、純粋な酸化クロム層とすることができる。しかしながら、不動態化層は、異なる組成の複数の重ね合わされた層から構成することもでき、それによって、個々の層は、金属クロム、酸化クロムおよび/または水酸化クロム、ならびに場合によっては炭化クロムを含むことができ、それらの酸化クロム含有量は互いに異なる。特に、不動態化層は、金属クロムおよび酸化クロム/水酸化クロムならびに場合によっては炭化クロムの下層と、純粋な酸化クロムの上層と、を含んでもよい。これにより、不動態化層の個々の層を、前後に配置された本発明による電解システムの個々の電解槽内でブリキのスズ表面に析出させることができ、個々の電解槽は異なる組成の電解液で満たされ、および/または異なる電解液温度を有する。個々の電解槽内の電解液の組成および/または温度の差は、不動態化層の個々の層の異なる組成をもたらす。
【0046】
電解析出した不動態化層の上層は、酸化クロムおよび水酸化クロムのみを好都合に含み、水酸化クロムは、本発明による方法における熱処理によって酸化クロムに変換され、その結果、本発明によるブリキの上層は、不可避的不純物および残留水酸化クロムを除いて、熱処理後、少なくとも純粋な酸化クロムから本質的に成る。
【0047】
したがって、本発明による方法は、酸化クロム含有不動態化層を有するブリキを製造するために使用することができ、不動態化層は、少なくとも1つの上層を有しており、少なくとも1つの上層は、本質的に3価酸化クロムのみから成り、特に残留成分以外の水酸化クロムを含まない。好ましくは、不動態化層の少なくとも上層は、95%を超える、より好ましくは98%を超える酸化クロム含有量を有する。好ましくは、不動態化層またはその上層は、クロムが3価形態で、特にCrおよび/またはCr(OH)として存在するクロムおよび酸素の化合物のみを少なくとも実質的に含む。
【0048】
本発明によるブリキは、高い耐食性、硫黄含有材料に対する良好な耐マーブリング性、およびラッカーまたはポリマーコーティングなどの有機コーティングに対する良好な接着性を特徴とする。
【0049】
酸化クロムと水酸化クロムの残留物とに加えて、不動態化層またはその上層は、不可避的不純物を除いて、残留硫酸クロム(例えば、電解液中の3価クロム化合物として硫酸Cr-(III)を使用する場合、電解析出法の出発クロム化合物として)を依然として含み得る。
【0050】
有利な実施形態では、本発明によるブリキの不動態化層は、ブリキの表面に面する少なくとも下層と、不動態化ブリキの表面を形成する上層と、から構成され、下層は、金属クロムならびに酸化クロム/水酸化クロムおよび任意に炭化クロムを含み、上層は、水酸化クロムおよび硫酸クロムの前記残留成分ならびに他の不可避的不純物を除いて、純粋な酸化クロムから成る。
【0051】
本発明によるブリキの良好な耐食性は、不動態化層がクロム換算で少なくとも3mg/m、好ましくは5mg/m~15mg/mの総コーティング重量を有する場合に達成することができる。
【0052】
以下、添付の図面を参照して実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は例としてのみ本発明を説明するものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される保護の範囲に関して本発明を限定するものではない。図面は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明による方法を実施するための本発明による電解システムの2つの異なる実施形態の概略図であり、図1Aは、3価クロム電解液で満たされた電解槽を有する第1の実施形態を示し、図1Bは、異なる組成の3価クロム電解液でそれぞれ満たされた2つの電解槽を有する第2の実施形態を示す。
図2】本発明によるブリキの実施形態の概略断面図であり、図2Aは、単層不動態化層を有する実施形態を示し、図2Bは、二層不動態化層を有する実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1Aおよび図1Bは、本発明による方法を実施するための電解システムの様々な実施形態を概略的に示す。図1Aの電解システムは、ストリップ走行方向に互いに隣接してまたは前後に配置された3つの槽1a,1b,1cを含み、第1の槽1aは塩基性電解質BEで満たされ、中間槽1bはすすぎ溶液Spで満たされ、最後の槽1cは第1の電解液E1で満たされる。
【0055】
塩基性電解質BEは、ソーダ水溶液(1~10重量%の濃度および10~11のpH値の炭酸ナトリウム溶液)からなる。すすぎ溶液Spは、蒸留水または脱塩水からなる。
【0056】
第1の電解液E1は、3価クロム化合物の水溶液であり、導電率を高めるための塩と、2.5~3.5の間の所望のpH値に調整するための酸とをさらに含み、有機錯化剤および緩衝剤を含まない。好ましい実施形態では、第1の電解液E1は、3価クロム化合物(特に、硫酸Cr-(III))、塩(例えば、硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウム)、酸(例えば、硫酸)および溶媒としての水から成り、それ以外他の成分を有さない。第1の電解液E1は、特に有機成分を含まず、特にギ酸塩などの有機錯化剤およびホウ酸などの緩衝剤を含まず、ハロゲン化物を含まない。第1の電解液E1の組成の一例を表1に示す。第1の電解液E1中の3価クロム化合物の濃度は、少なくとも10g/Lであることが好ましく、20g/L以上であることが特に好ましい。第1の電解液E1の温度は、25℃~70℃であることが好ましい。
【0057】
カソード対KPは第1の槽1aに配置され、アノード対APは最後の槽1cに配置されている。アノード対APは、ステンレス鋼および白金を含まず、酸化イリジウムなどの金属酸化物またはタンタル-イリジウム酸化物などの混合金属酸化物のコーティングを含む。APアノード対のアノードはまた、全体が金属酸化物または混合金属酸化物で作製されてもよい。電流は、カソード対KPのカソードおよびアノード対APのアノードに印加され得る。
【0058】
スズメッキ鋼ストリップ(以下、ストリップBとも呼ばれるブリキストリップ)が槽1a~1cを通って連続的に供給される。ストリップBは、好ましくは100m/分を超える、特に100~750m/分の範囲の所定のストリップ速度で、ここでは図示されていない搬送装置によってストリップ走行方向vに槽1a~1cを通って引き出される。電流ローラSは、槽1a~1cの上方に配置され、電流ローラを介してベルトBをアノードまたはカソードとして切り替えることができる。各電解槽内および槽1a~1cの上方には偏向ローラUも配置されており、偏向ローラUの周りでストリップBが案内され、これによってストリップBが槽1a~1cを通って供給される。ストリップBは、カソード対KPの対向するカソード間およびアノード対APの2つのアノード間に案内される。
【0059】
最後の槽1cの下流には第1の加熱装置H1が配置され、第1の槽の上流には第2の加熱装置H2が配置されている。加熱装置H1およびH2の各々は、ストリップBが所定の温度に加熱され、この温度である保持時間保持される連続炉とすることができる。保持時間は、ストリップ速度および連続炉の長さによって決定される。加熱装置H1およびH2は、好ましくは、ストリップの誘導加熱のための誘導コイルも含むことができる。第1の加熱装置H1は、少なくとも0.5秒の処理時間にわたって100℃~232℃の温度にストリップBを急速に加熱するように構成される。第2の加熱装置H2は、ストリップBをスズの融点(232℃)を超える温度に加熱するように構成される。
【0060】
電気分解方法の準備において、ストリップBは、最初に脱脂され、濯がれ、酸洗いされ、再び濯がれ、次いで最初に第2の加熱装置H2を通過し、次いで連続的に槽1a~1cを通過し、最後に第1の加熱装置H1を通過する。
【0061】
第2の加熱装置H2では、ブリキストリップBのスズコーティングは、スズの融点を超える温度に加熱されることによって少なくとも部分的に溶融される。スズコーティングの溶融は、鋼板基材とブリキのスズコーティングとの界面に緻密な鉄-スズ合金層を生成し、鉄-スズ合金層の組成は温度に依存し、鉄-スズ合金層は、FeSnおよびFeSnまたはそれらの混合物を含み得る。好ましくは、スズコーティングは部分的にのみ溶融し、表面に遊離金属スズの層を残す。これは、第1の槽1a内でアノード酸化することができる。
【0062】
この目的のために、第1の槽1a内のストリップBはアノードとして接続され、ストリップ速度に応じて、0.1~10A/dmの範囲、好ましくは0.2~3A/dmの間の電流密度がカソード対KPによって生成される。対応する電流密度で、少なくとも4価の酸化スズ(SnO)から本質的に成る酸化スズ層が、塩基性電解質BEとの電解相互作用に起因してブリキのスズ表面に形成される。第1の槽1aで電解的に生成される酸化スズ層の厚さは、ストリップ速度および電流密度に依存する。第1の槽1aを、電流なしで通過することもでき、その結果、ブリキストリップBのスズ表面に(4価の)酸化スズ層は形成されない。
【0063】
続いて、ストリップBは、ストリップをすすぐために、すすぎ溶液Spを有する中央槽1bを通過する。これに続いて、ここには示されていない乾燥装置によって乾燥される。
【0064】
後続の槽1cでは、ストリップBがカソードとして接続され、アノード対APのアノードによって、15A/dmを超える、特に20A/dm~40A/dmの範囲の電流密度が生成される。この電流密度では、酸化クロムを含む不動態化層PがブリキストリップBの(酸化された)表面に析出し、これは酸化クロムに加えて水酸化クロムと硫酸クロムの不可避的不純物とを含み得る。酸化クロム含有層の重量は、最後の槽1cにおける電解時間によって制御することができ、これはストリップ速度および電流密度によって制御することができる。ストリップ速度が速いほど、酸化クロム含有層の電解析出に必要な最小電流密度が増加する。最後の槽における電解時間は、ストリップ速度に応じて0.5~2.0秒である。好ましくは、最後の槽1cでは、酸化クロム含有不動態化層Pが、3~12mg/mのクロム関連コーティング重量でブリキストリップBの(酸化された)表面に析出する。
【0065】
電着不動態化層Pは、本質的に酸化クロムおよび水酸化クロムから成り、特に、不動態化層の総コーティング重量に関して酸化クロムおよび水酸化クロムの重量割合が少なくとも90%、好ましくは95%を超える。第1の電解液E1中のクロム化合物として硫酸Cr-(III)が使用されている場合、酸化クロムおよび水酸化クロムに加えて、不動態化層は依然として残留硫酸クロムなどの不可避的不純物を含み得る。
【0066】
不動態化層中の水酸化クロムの量を最小限に抑えるために、不動態化されたストリップBを、第1の加熱装置H1を通過させ、第1の加熱装置H1中で、100℃を超える処理温度、特に100℃~230℃の範囲で、少なくとも0.5秒の処理時間維持される。スズ層の溶融を防止するために、処理温度はスズの融点(232℃)を超えてはならない。処理時間は、ストリップ速度および第1の加熱装置H1の長さに依存し、その長さは3m~30mの範囲とすることができる。誘導加熱を用いると、加熱装置の長さを短くすることもできる。第1の加熱装置における熱処理の後、不動態化層の総コーティング重量に対する酸化クロムの重量割合は、好ましくは少なくとも95%であり、さらにより好ましくは98%を超える。
【0067】
図2Aは、図1Aの電解システムを用いて製造することができるブリキストリップBの断面図を概略的に示す。鋼板基板S、鉄-スズ合金層(FeSn/FeSn)、金属スズ層(Sn)および(4価)酸化スズ層(SnO)から構成されるストリップBの片面には、純粋な酸化クロムから本質的に成る不動態化層Pが設けられる。ストリップBは、両面に、対応する不動態化層Pを含むこともできる。
【0068】
第1の加熱装置H1で熱処理した後、乾燥した不動態化層Pを備えたストリップBをすすぎ、乾燥させ、油(例えばDOS)を塗ることができる。この後、不動態化されたストリップBは、有機コーティングをさらに備えることができる。有機コーティングは、既知の方法で、例えばラッカー塗装またはプラスチックフィルムを積層することによって、酸化クロム不動態化層の表面に設けられる。不動態化層の酸化クロム表面は、有機コーティングの有機材料のための良好な接着ベースを提供する。有機コーティングは、例えば、有機ラッカー、またはPET、PE、PPもしくはそれらの混合物などの熱可塑性ポリマーで作られたポリマーフィルムであり得る。有機コーティングは、例えば、コイルコーティング法またはシート法で設けることができ、コーティングされたストリップは、最初にシート法で複数のシートに分割され、次いでその複数のシートは有機コーティングでコーティングされるか、またはポリマーフィルムで積層される。
【0069】
図1Bは、ストリップの走行方向に前後に配置された4つの槽1a,1b,1c,1dを含む電解システムの第2の実施形態を示す。ストリップの走行方向で見て2つの前方槽1a,1bは、図1Aの実施形態の槽1aおよび1bに対応し、塩基性電解質BEおよびすすぎ溶液Spで満たされている。第2の槽1bの下流には、第2の電解液E2で満たされた第3の槽1cがある。ストリップ走行方向vで第3の槽1cの隣には、第1の電解液E1で満たされている第4の槽1dがある。第1の電解液E1および第2の電解液E2の組成の例を表1に示す。
【0070】
【0071】
第1および第2の電解液E1,E2の組成は、(図1Aの実施形態のように)第1の電解液E1が有機成分を含まず、特に有機錯化剤を含まないのに対して、第2の電解液E2が3価クロム化合物、導電率向上塩、酸および溶媒としての水に加えて有機錯化剤を含む点で異なる。特に、ギ酸塩、例えばギ酸ナトリウムまたはギ酸カリウムが有機錯化剤として使用される。
【0072】
2つの下流の槽1cおよび1dを満たす電解液E1およびE2の異なる組成に起因して、酸化クロムを含む複数の層が、これらの最後の2つの槽1cおよび1dでブリキストリップBの表面に電解析出し、これらはそれらの組成に関して互いに異なる。ここで、槽1cでは、第2の電解液E2から、不動態化層Pの下層L1が析出し、最後の槽1dでは、第1の電解液E1から、上層L2が析出する。第2の電解液E2から槽1c内で析出した下層L1は、酸化クロム/水酸化クロム、ならびに金属クロムおよび炭化クロムを含む。一方、上層L2は、酸化クロム/水酸化クロムから本質的に成る。したがって、酸化クロムおよび水酸化クロムの重量割合は、ストリップ走行方向で見て最後の槽1dでブリキストリップBの表面に析出した上層L2よりも、上流槽1cで析出した下層L1の方が低い。したがって、最後の2つの槽1c,1dで析出した不動態化層Pは、鋼板基板Sに面する下層L1と、下層L1の上に析出した上層L2とから構成され、下層および上層の組成は、酸化クロムおよび水酸化クロムの重量割合ならびに金属クロムおよび炭化クロムの重量割合に関して異なる。特に、上層L2は、酸化クロム/水酸化クロムの重量割合が高く、金属クロムを含まない。下層では、10%~50%の重量割合が金属クロムに起因し、残りは酸化クロム/水酸化クロムおよび炭化クロムに起因し得る。
【0073】
図2Aは、図1Bの電解システムを用いて製造することができる不動態化層Pを有するブリキストリップBの断面図を概略的に示す。図2Aの実施形態と比較して、不動態化されたブリキストリップの表面上の不動態化層Pは、2つの層、すなわち下層L1および上層L2で構成され、これらは組成の点で互いに異なり、特にクロム金属および酸化クロム/水酸化クロムの重量割合の点で互いに異なり、上層L2では酸化クロム/水酸化クロムの重量割合がより高い。
【0074】
図1Aの実施形態のように、図1Bの電解システムでは、不動態化層PがブリキストリップBの表面に設けられた後、乾燥および酸化クロムへの変換によって不動態化層Pから、特に上層L2から水酸化クロムを除去するために、第1の加熱装置H1で熱処理が行われる。熱処理後、少なくとも上層L2は、純粋な酸化クロムから本質的に成り、不可避的不純物を除いて、不動態化層Pの総コーティング重量に対する酸化クロムの重量パーセントは、少なくとも95%、好ましくは98%超である。
【実施例
【0075】
実施例1
3価クロム化合物を含む電解液に基づいて酸化クロムを含む不動態化層で電解コーティングされた不動態化スズシートのスズ表面での酸化スズの成長を決定するために、酸化クロムを含む不動態化層の電解析出によってスズシートを実験室で不動態化し、次いで本発明による熱処理に供した。続いて、試料を40℃および湿度80%の人工気候室内の酸素含有雰囲気(空気)中で6週間保管した。開始前および保管期間中に、大気酸素による酸化によってブリキ試料のスズ表面に形成された酸化スズ層の量を記録した。大気酸素への酸化によって形成された酸化スズ層の量をクーロメトリーで決定した。
【0076】
比較のために、熱処理なしの同じ試料を、不動態化層Pの電解析出後に人工気候室内の同じ保管条件に曝露し、保管前および保管中に大気酸素による酸化によってブリキ試料のスズ表面に形成された酸化スズの量も、これらの比較試料に対してクーロメトリーで記録した。
【0077】
実験室試験からの試験されたブリキ試料の方法および材料パラメータを表2に示す。
【0078】
試験片を調製するために、両面に1.4g/mのスズコーティングを有する部分的に溶融された不動態化されていないブリキ試験片を、5%ソーダ溶液中で2.5A/dmの電流密度で30秒のアノード酸化時間のカソード脱脂後にカソード脱脂し、次いで完全脱塩水ですすいだ。2A/dmの電流密度でカソード脱脂した後、温度35℃、電解時間0.5~1.0秒で、硫酸の添加によりpH=3.2に調整した表1の第1の電解液E1から、ブリキ試料に酸化クロム含有不動態化層Pを電解的に設けた。電解析出した不動態化層Pのクロム換算のコーティング重量を、「クロム支持体(Cr)」として表2に示す。
【0079】
次いで、不動態化層Pを備えたブリキ試料を、本発明による熱処理のために炉内で200℃の温度に600秒間供した。この熱処理は、表2の比較試験片(試験片番号1a,1b,2a,2b,3aおよび4a)には行わなかった。
【0080】
その後、本発明に従って熱処理された試料および比較試料を、40℃および湿度80%の大気酸素の存在下で人工気候室で6週間保管した。保管開始時および2週間間隔で、それぞれの保管期間中にブリキ試料のスズ表面に形成された酸化スズ層(SnO)の量をクーロメトリーで決定した。表2は、試料を保管する前に表面に存在していた酸化スズ層(SnO)の初期量、および2、4、および6週間の保管期間後に記録された酸化スズ層(SnO)の量を示す。表2の最後の列は、人工気候室で6週間保管した後の酸化スズ層(SnO)の量と酸化スズ層(SnO)の初期量との差を示す。
【0081】
表2の最後の列から、不動態化層Pの電解析出後に本発明による熱処理が行われた本発明による試料(試料1c,2c,3bおよび4b)は、熱処理が行われていない対照試料(試料1a,1b,2a,2b,3aおよび4a)と比較して、酸化スズの成長が著しく低いことが分かる。したがって、本発明による不動態化されたブリキ試料の熱処理は、ブリキ試料をより長期間保管した場合、酸素含有雰囲気中での酸化スズの成長を著しく減少させる。比較において、対照試料と比較して、本発明に従って処理した試料では、50%を超える酸化スズ成長の阻害が見られ得る。
【0082】
実施例2
プラント試験では、両面に2.4g/mのスズコーティングを有するブリキストリップを、300m/分のストリップ速度で図1Aに示す種類の電解システムに通した。電解槽を表1の電解液E1で満たした。第2の加熱装置H2では、スズ層を部分的に溶融させ、第1の槽1aを電流なしで通過させた、すなわちスズ表面のアノード酸化は行わなかった。最後の槽1cでは、クロム換算で約9mg/mのコーティング重量(クロム支持体)で、酸化クロムを含む不動態化層Pをブリキのスズ表面に電解析出させた。不動態化層の析出後、本発明によるブリキ試料(表3の試料番号2~5)を室温まで冷却し、処理温度187℃で、10秒~120秒の異なる処理時間、第1の加熱装置H1内で熱処理した。第1の加熱装置H1を使用してブリキ試料を加熱した。この熱処理は、比較試料(表3の試料番号1)には行わなかった。次いで、ブリキストリップを複数のシートに切断し、このようにして製造された試料のスズ表面上の酸化スズの初期量をクーロメトリーで記録した。ブリキ試料を、40℃、空気中湿度80%の人工気候室で4週間保管し、大気酸素による酸化に起因する、保管中に試料のスズ表面に形成された酸化スズの量を2週間間隔でクーロメトリーで記録した。
【0083】
表3は、プラント試験の結果をまとめたものである。比較試料(試料番号1)は、人工気候室保管の開始時にスズ表面上で11C/mの酸化スズ(SnO)占有率を示し、この酸化物占有率は、2週間後に44C/mに増加し、4週間後に60C/mに増加した。
【0084】
対照的に、本発明に従って熱処理されたブリキ試料(表3の試料番号2~5)は、人工気候室保管の開始時に既に低い酸化スズ層を示し、人工気候室での保管中の酸化スズ層の成長は、本発明による試料では有意に低く、それによって酸化スズ成長の阻害は、より長い処理時間でより高くなる。例えば、それぞれ60秒(試料番号4)および120秒(試料番号5)の処理時間で187℃で熱処理された試料番号4および5は、人工気候室での4週間の保管後に40C/m未満の酸化スズのオーバーレイを示す。40C/m未満のこのような酸化スズのオーバーレイは、視覚的にも、ラッカー接着性および塗装性の観点からも好ましい。41C/m~69C/mの酸化スズコーティングを有するブリキは、有機コーティングに対して十分な接着性を示すが、淡黄色に変色した表面を有するため、最適ではない。69C/mを超える酸化スズコーティングは、不動態化されたブリキの表面への不十分な接着のために、材料の完全な破損、特に有機コーティングの剥離を引き起こす可能性がある。
【0085】
本発明による方法は、3価クロム電解質から電解的に不動態化されたブリキのスズ表面上の酸化スズの成長を著しく減少させることができ、有機コーティングのより良好な接着および表面の望ましい視覚的外観をもたらす。
【0086】
【0087】
図1
図2