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特許7554819カムシャフトのバルブの位相を変更する装置を備えた内燃エンジン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】カムシャフトのバルブの位相を変更する装置を備えた内燃エンジン
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
F01L1/356 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022515129
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 IB2020058455
(87)【国際公開番号】W WO2021048804
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】102019000016283
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】515217546
【氏名又は名称】ピアッジオ エ チ.ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】マリオッティ ウォルター
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-229831(JP,A)
【文献】特開2009-185656(JP,A)
【文献】特開昭59-015630(JP,A)
【文献】特開2004-150397(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0025138(US,A1)
【文献】英国特許出願公開第02263152(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/34- 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗車可能な座席を有する自動車用の内燃エンジン(1、1B)であって、前記エンジン(1、1B)は、ドライブシャフト(300)と、複数の開閉バルブ(110)を制御するカムシャフト(10、20)とを備え、前記エンジン(1、1B)は、前記ドライブシャフト(300)に対して前記バルブ(110)のタイミングを変更する装置(2)を備え、前記装置(2)は、
-前記カムシャフト(10)と同じ回転軸(101)を中心に回転するように前記カムシャフト(10)に遊動的に取り付けられた第1のディスク(11)であって、前記第1のディスク(11)は、第1のトラック(31)を規定する第1の側面(11A)を備え、その各々が第1の基準方向(R1)に沿って延びる、第1のディスク(11)と、
-前記カムシャフト(10)と一体である第2のディスク(12)であって、前記第2のディスク(12)は、前記第1のディスク(11)の前記第1の側面(11A)に面する第2のトラック(32)を備え、前記第2のトラック(32)の各々は、前記第1のディスク(11)の対応する第1のトラック(31)に部分的に面し、前記第2のトラック(32)の各々は、前記第1の基準方向(R1)とは異なる第2の基準方向(R2)に沿って伸長する、第2のディスク(12)と、
-前記第1のディスク(11)と前記第2のディスク(12)との間で運動を伝達するための複数の駆動要素(40)であって、前記駆動要素(40)は、前記第1および第2のディスク(11、12)の間に介在され、各駆動要素(40)が部分的に向かい合う第1および第2のトラック(31、32)の対応する2つの間に収容され、前記カムシャフト(10)の回転速度によって引き起こされる遠心力が変化すると、前記駆動要素(40)の各々は、それぞれ、前記カムシャフト(10)の回転軸に近い第1の基準位置と、前記カムシャフト(10)の回転軸から遠い第2の基準位置との間で、対応する部分的に向かい合う第1および第2のトラック(31、32)に沿って移動する、複数の駆動要素(40)と、
-前記第1のディスク(11)に作用して、前記カムシャフト(10)の回転軸(101)に平行な方向に沿った前記第2のディスク(12)に対する前記第1のディスク(11)の移動を防止する、軸方向予圧手段(70)と、を備え、
前記装置は、前記駆動要素(40)を保持する保持手段(6)を備え、前記保持手段(6)は、前記第1のディスク(11)と前記第2のディスク(12)との間に動作可能に介在され、前記第2の基準位置に向かう前記駆動要素(40)の移動に対抗するように作用する力を発揮し、
前記保持手段(6)は、
-前記第1および第2のディスク(11、12)の各々に対して自由に回転するように前記第1のディスク(11)と前記第2のディスク(12)との間に介在されるディスク状要素(15)であって、前記ディスク状要素(15)は、前記駆動要素(40)によって横断される少なくとも1つの開口(41)を規定し、前記少なくとも1つの開口(41)は複数のガイド面(45)を規定し、それらの各々は前記第1および第2の基準位置間の移動中に前記駆動要素(40)のうちの対応する1つに接触している、ディスク状要素(15)と、
-前記ガイド面(45)の各々を前記駆動要素(40)のうちの対応する1つと接触させる力を前記ディスク状要素(15)上に作用させるように、前記第1および第2のディスク(11、12)のうちの1つと前記ディスク状要素(15)との間に介在される弾性手段(16)と、
を備える、自動車用内燃エンジン(1、1B)。
【請求項2】
前記エンジンは、前記第1のディスク(11)を回転させるための分配システム(5)を備え、前記分配システム(5)は、前記ドライブシャフト(300)にキー止めされた第1の分配ホイール(51)と、前記第1のディスク(11)と一体である第2の分配ホイール(52)と、前記ドライブシャフト(300)の回転が前記第1のディスク(11)に伝わるように前記第1および第2の分配ホイール(51、52)を接続する柔軟な駆動要素(53)と、を備える、請求項1に記載のエンジン(1、1B)。
【請求項3】
前記エンジン(1、1B)は、前記第1のディスク(11)と一体に作られるスリーブ本体(62)を備え、前記第1のディスク(11)は、前記スリーブ本体(62)の第1の端部に規定され、第2の端部にフランジ部分(61)を含み、前記第2の分配ホイール(52)は、前記スリーブ本体(62)の前記フランジ部分(61)に接続されている、請求項2に記載のエンジン(1、1B)。
【請求項4】
前記軸方向予圧手段(70)は、前記フランジ部分(61)に作用して前記スリーブ本体(62)を前記第2のディスク(12)に向けて押し付けるカップスプリング(71)を備え、前記カップスプリング(71)は、前記フランジ部分(61)と前記カムシャフト(10)の端部に同軸で螺合する調整ねじ(72)との間に介在されて、前記調整ねじ(72)の回転によって前記カップスプリング(71)の圧縮を引き起こす、請求項3に記載のエンジン(1、1B)。
【請求項5】
前記第1のディスク(11)は、回転運動をさらなるカムシャフトに伝達するための、または回転運動をさらなるカムシャフトから受け取るためのリングギア(111)を備え、前記さらなるカムシャフトは、前記第1のディスク(11)が取り付けられるものとは異なる、請求項1~4のいずれか1項に記載のエンジン(1、1B)。
【請求項6】
前記ディスク状要素(15)は、前記駆動要素(40)の各々のための開口部(41)を備え、各開口部(41)は、前記第1の基準方向(R1)および前記第2の基準方向(R2)に対して傾斜している第3の直線基準方向(R3)にしたがって少なくとも部分的に延びるガイド面(45)を規定する、請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジン(1、1B)。
【請求項7】
前記弾性手段は、各開口部(41)のための弾性スプリングを備え、各弾性スプリングは、当該弾性スプリングの第1の端部(16A)で、前記ディスク状要素(15)によって定義される第1の境界面(48)に載り、当該弾性スプリングの前記第1の端部と反対側の第2の端部(16B)で、前記第2のディスク(12)により定義される第2の境界面(49)に載る、請求項1~6のいずれか1項に記載のエンジン(1、1B)。
【請求項8】
弾性スプリングについて、前記第1の境界面(48)は、前記第2のディスク(12)に面する前記ディスク状要素(15)の第1の側面(15A)から軸方向に出ている軸方向部分(18)によって規定され、各弾性スプリングについて、前記第2の境界面(49)は、前記ディスク状要素(15)に面する前記第2のディスク(12)の側面(12A)上に定義された座(35)の第1の側面(35A)によって定義され、各弾性スプリングについて、前記軸方向部分(18)は、前記座(35)の第2の側面(35B)に近い位置で前記座(35)に配置されている、請求項7に記載のエンジン(1、1B)。
【請求項9】
前記駆動要素(40)は、金属材料からなるボールである、請求項1~8のいずれか1項に記載のエンジン(1、1B)。
【請求項10】
前記第1のディスク(11)の前記第1のトラック(31)および前記第2のディスク(12)の前記第2のトラック(32)は、テーパー形状を有し前記第1のトラック(31)および前記第2のトラック(32)の側面(31B、32B)が、前記駆動要素(40)上に載るように構成される、請求項1~9のいずれか1項に記載のエンジン(1、1B)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗車可能な座席を有する車両の製造分野に関する。この用語は、一般に、主に人を輸送することを目的とした、2輪、3輪または4輪を有するオートバイ(motorcycle)または自動車(motor vehicle)を意味する。本発明は、特に、複数の(サクションまたはリリーフ)バルブを制御するためのカムシャフトと、ドライブシャフトに対する前記カムシャフト、すなわち前記バルブ、の位相を変更するための装置とを備える、乗車可能な座席を有する車両のための内燃エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、乗車可能な座席を有する車両の内燃エンジンは、シリンダの燃焼室内のピストンの動きによって回転するドライブシャフトを備える。また、エンジンは、燃焼室に混合気を導入するための1つまたは複数のサクションバルブ(suction valve)と、燃焼ガスを排出するための1つまたは複数のリリーフバルブ(relief valve)とを備える。サクションバルブとリリーフバルブは、ドライブシャフトに機械的に接続されたそれぞれのカムシャフトによって、典型的には歯車、ベルト、またはチェーンからなる分配システム(distribution system)を介して制御される。したがって、分配システムを介したカムシャフトの回転運動は、ドライブシャフトの回転運動と同期している。
【0003】
「タイミング(timing)」とは、通常、ピストンの所定位置を基準として、サクションバルブとリリーフバルブの開閉が発生する瞬間を意味する。特に、タイミングを定義するために、BDC(下死点)を基準として開バルブ進角(または遅角)(opening advance (or delay) angle)が考慮され、UDC(上死点)を基準として閉バルブ進角(または遅角)(closing advance (or delay) angle)が考慮される。進角とは、バルブが完全に開/閉位置に到達し、そのストロークが終了する瞬間と定義される。したがって、進角の値は、バルブが開動作(全閉状態から)または閉動作(全開状態から)を開始する瞬間となる。
【0004】
ある時間間隔、すなわちドライブシャフトの所与の回転角度において、サクションバルブとリリーフバルブとが同時に開いていることは同様に知られている。この区間は「交差角(crossing angle)」と呼ばれ、排気ガスが燃焼室から素早く出て、新鮮なガスの吸引を増加させることができる吸引を誘発するステップである。このため、サクションバルブとリリーフバルブのタイミングが交差角の値となる。
【0005】
この交差角の値によって、ドライブシャフトの回転速度に応じたさまざまな効果が得られることは周知のとおりである。交差角の値を大きくすると、高回転域での性能は向上するが、低回転域ではエンジンの効率が悪くなり、さらに燃焼効率が悪くなるため、排気ガスが増加する。逆に、交差角をかなり抑えると、高回転域でエンジンの効率が低下する。
【0006】
上記に関し、サクションバルブおよび/またはリリーフバルブのタイミングを変更する、すなわち、バルブの交差角の値を回転数の関数として変更する技術的解決策が種々提案されている。
【0007】
特許文献1には、このような技術的解決策の1つが記載されている。具体的には、特許文献1は、分配システムが、2つのカムシャフトからなるDOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト)タイプのエンジンであり、一方がサクションバルブ、他方がリリーフバルブの制御を目的とし、これらのカムシャフトはエンジンヘッドの上方に配置されているエンジンを記載している。分配システムは、ドライブシャフトと一体化した駆動歯車を備える。3つのホイール(駆動、従動)ホイールは、駆動ベルトで接続されている。各駆動ホイールは、対応するカムシャフトの端部近くに取り付けられ、ホイール自体に対するカムシャフトの相対回転を可能にする。
【0008】
対応するバルブのタイミングを変更するための装置が、カムシャフトの各々に設けられている。各カムシャフト用の分配システムの従動ホイールは、従動ホイールに隣接する位置を取るように、溝付きプロファイルカップリングを介してカムシャフトの前記端部にキー止めされたガイド要素と共に、前記装置の一部であり、それにより、従動ホイールの一側面がガイド要素の一側面に面する。従動ホイールとガイド要素との間には、ボール形状の動きの駆動要素が介在している。各駆動要素は、従動ホイールの前記側面に定義されたトラック(track)に部分的に収容され、ガイド要素の前記側面に定義された対応するトラックに部分的に収容される。従動ホイールのトラックは、カムシャフトの回転軸に直交する平面上で評価された傾斜を有し、この傾斜は、ガイド要素上に定義されたトラックの傾斜とは異なっている。したがって、各駆動要素は、部分的にしか向い合っていない2つのトラックの間に収容される。さらに、両方の構成要素(従動ホイールとガイド要素)のためのトラックは、半径方向の断面平面上で評価される湾曲したプロファイルを有している。
【0009】
特許文献1に記載の装置は、ガイド要素に作用し、ガイド要素を軸方向に従動ホイールに押し付けるスラスト手段をさらに備えている。ドライブシャフトの回転は、上述した分配システムを介して、対応するカムシャフトに取り付けられた対応する従動ホイールに伝達される。駆動要素の回転運動は、駆動要素によってカムシャフトに伝達される。回転速度が上がると、遠心力によって駆動要素はトラックに沿って外側へ、つまりカムシャフトの回転軸から離れる方向へ押し出される。トラックの形状により、ガイド要素は、従動ホイールに対して相対回転をしながら軸方向に移動する。この回転により、カムシャフトが従動ホイールに対して相対的に回転し、したがって、対応するバルブのタイミングが変更される。
【0010】
上記と同様の技術的解決策は、特許文献2、特許文献3および特許文献4にも記載されている。これらの技術的解決策、および概念的に類似した他の技術的解決策は、予め設定された機能性を達成するものの、特定の欠点を有する。主なものは、相変更を達成するために相互作用する構成要素を特徴づける複雑さにおいて検出される。
【0011】
特に、これらの公知の解決策では、ボールの数が増加しており、その結果、ボールを支持し、タイミング変更のためにそのガイドを規定するそれぞれのトラックを規定するための2つの構成要素(分配システムによって作動する従動ホイールおよび従動軸にキー止めされるガイド要素)の処理が長く、負担がかかる。ボールの数を増やすことは、構成要素の回転を正しく駆動する必要性によって指示され、それはボールとトラックの間に存在するクリアランスに悩まされる。このようなクリアランスは、トラックに沿ったボールの動きにも影響し、したがって、ボール自体を支持する2つの構成要素の間の相対的な回転にも影響する。
【0012】
トラックの数の増加に加えて、同じボールの表面のプロファイルも、位相変更装置を形成する2つのコンポーネントの時間、したがって処理コストにどのように影響するかを見出すことができる。上記に示したように、ボールは、従動輪に対するガイド要素の軸方向移動を確実にするために、各構成要素について湾曲したプロファイルを有する。
【0013】
記載された解決策の別の制限は、位相変更の特徴が、トラックのサイズおよび形状、ならびに駆動要素の数に厳密に依存するという事実に見出される。したがって、そのような特徴を変更する場合、実際には、位相変更器の構成要素(分配システムによって作動する従動ホイールと、従動軸にキー止めされたガイド要素)を、便利な構成で、異なる位相変更を達成できる他のものと交換する必要性がある。実際、公知の解決策による位相変更機能の修正は、位相変更器構成要素の異なる設計を必要とし、したがって、著しく負担のかかる運用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第9719381号明細書
【文献】特開2010-317855号公報
【文献】特開2009-185656号公報
【文献】特許第5724669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明の主たる課題は、上記欠点を克服することができる乗車可能な座席を有する車両用内燃エンジンを提供することである。この課題の範囲内で、本発明の第1の目的は、カムシャフトのタイミングを変更するための装置を備え、そのような装置が比較的少ない数の駆動要素を必要とする内燃エンジンを提供することである。本発明の他の目的は、タイミング変更装置の構成要素が単純化された形状を有し、製造が容易なエンジンを提供することである。本発明のさらに別の目的は、相変更の特徴の可能な修正が、迅速にかつ高い競争力のあるコストで作動され得るエンジンを提供することである。
【0016】
本発明の目的は、信頼性が高く、製造が容易で、コスト競争力のあるタイミング変更装置(timing changer device)を有するエンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題および目的は、カムシャフトのタイミングの変更を意図する装置に、保持手段であって、遠心力によって引き起こされる駆動要素の移動に対抗し(oppose)、同じ駆動要素と装置の構成要素上に定義されたトラックとの間の既存のクリアランスを相殺する保持手段を導入することによって達成され得ることを、出願人は確認した。より詳細には、上記課題および目的は、乗車可能な座席(ridable seat)を有する自動車用の内燃エンジンによって達成され、前記エンジンは、ドライブシャフトと、複数の開/閉バルブを制御するカムシャフトとを備え、前記エンジンは、前記ドライブシャフトに対してバルブのタイミングを変更するための装置を備えている。
【0018】
本発明によれば、この装置は、
-前記カムシャフトと同じ回転軸を中心に回転するように前記カムシャフトに遊動的に取り付けられた第1のディスクであって、前記第1のディスクは、第1のトラックを規定する第1の側面を備え、その各々が第1の基準方向に沿って延びる、第1のディスクと、
-カムシャフトと一体であり、第1のディスクの第1の側面に面する第2のトラックを備え、前記第2のトラックの各々は、第1のディスクの対応する第1の溝に部分的に面し、前記第2のトラックの各々は、第1の方向とは異なる第2の基準方向に沿って伸長する、第2のディスクと、
-前記第1のディスクと前記第2のディスクとの間で運動を伝達するための複数の駆動要素であって、駆動要素はディスクの間に介在され、各駆動要素は前記部分的に向かい合うトラックの対応する2つの間に収容され、カムシャフトの回転速度による遠心力が変化すると、駆動要素の各々は、それぞれ、カムシャフトの回転軸に近い第1の基準位置と、遠い第2の基準位置との間を対応する部分的に向かい合うトラックに沿って移動する、複数の駆動要素と、
-第1のディスクに作用し、カムシャフトの回転軸に平行な方向に沿った第2のディスクに対する第1のディスクの並進を防止する軸方向の予圧手段と、を備える。
【0019】
本発明によるエンジンは、タイミング変更装置が駆動要素を保持する手段を備え、前記保持手段は、2つのディスクの間に作動的に介在され、第2の基準位置への駆動要素の移動に対抗する傾向の力を発揮する。
【0020】
可能な実施形態によれば、エンジンは、第1のディスクを回転させるための分配システムを備え、このような分配システムは、ドライブシャフトにキー止めされた第1の分配ホイールと、第1のディスクと一体である第2の分配ホイールと、ドライブシャフトの回転が第1のディスクに伝達されるように2つの分配ホイールを接続する柔軟な駆動要素と、を備える。
【0021】
一実施形態によれば、エンジンは、第1のディスクと一体に作られるスリーブ本体を備え、スリーブ本体の第1の端部に第1のディスクが規定され、スリーブ本体の第2の端部にフランジ部分が規定され、前記第2の分配ホイールは、スリーブ本体のフランジ部分に接続されている。
【0022】
可能な実施形態では、前記予圧手段は、スリーブ本体を第2のディスクに向かって押すように前記フランジ部分に作用するカップスプリングを備え、カップスプリングは、フランジ部分と、カムシャフトの端部に同軸でねじ込まれる調整ねじとの間に介在されて、ねじの回転がカップスプリングの圧縮を引き起こす。
【0023】
好ましい実施形態によれば、第1のディスクは、回転運動をさらなるカムシャフトに伝達するための、またはさらなるカムシャフトから回転運動を受け取るためのリングギアを備え、前記さらなるカムシャフトは、前記第1のディスクが取り付けられるものとは異なる。
【0024】
可能な実施形態によれば、保持手段は、
-ディスクの各々に対して自由に回転するように第1のディスクと第2のディスクとの間に介在されるディスク状要素であって、ディスク状要素は、駆動要素によって横断される少なくとも1つの開口を規定し(define)、前記少なくとも1つの開口は複数のガイド面を規定し(define)、その各々は前記基準位置間の移動中に駆動要素のうちの対応する1つに接触している、ディスク状要素と、
-前記ディスクのうちの1つと前記ディスク状要素との間に介在され、前記ディスク状要素に力を与えて、ガイド面の各々を前記駆動要素の対応する1つと接触させる弾性手段と、を備える。
【0025】
前記ディスク状要素は、好ましくは、駆動要素の各々のための開口部を備え、各開口部は、前記第1の方向および前記第2の方向に対して傾斜している第3の基準方向にしたがって少なくとも部分的に延びるガイド面を定義する(define)。
【0026】
弾性手段は、好ましくは、各開口部のための弾性スプリングからなり、各弾性スプリングは、その第1の端部で、ディスク状要素によって規定される第1の境界面または当接面(abutment surface)に載り(rest)、第1の端部と反対側のその第2の端部で、第2のディスクにより規定される第2の境界面または当接面(abutment surface)に載る(rest)。
【0027】
可能な実施形態によれば、各スプリングについて、対応する第1の境界面は、第2のディスクに面するディスク状要素の第1の側面から軸方向に出ている軸方向部分によって規定され、その際、各スプリングについて、第2の境界面は、代わりにディスク状要素に面する第2のディスクの側面上に規定された座(seat)の第1の側面によって規定され、各スプリングについて、前記軸方向部分は、前記座の第2の側面に近い位置で前記座に配置されている。
【0028】
好ましい実施形態によれば、前記駆動要素は、金属材料で作られたボールである。
【0029】
さらなる実施形態によれば、第1のディスクの第1のトラックは、第2のディスクに対して反対方向のテーパー形状を有し、第2のディスクの第2のトラックは、第1のディスクに対して反対方向のテーパー形状を有する。
【0030】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付図面を用いて非限定的な例として示される、本発明によるエンジンのいくつかの好ましい、しかし排他的ではない実施形態の以下の詳細な説明の議論から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明によるエンジンの部品群の概略的斜視図である。
図2図2は、本発明によるエンジンの部品群の概略的正面図である。
図3図3は、図2の切断線III-IIIに沿った断面図である。
図4図4は、図2の切断線IV-IVに沿った断面図である。
図5図5は、本発明によるエンジンの部品群を第1の観察点から見た斜視図である。
図6図6は、本発明によるエンジンの部品群を第1の観察点から見た分解図である。
図7図7は、図5に示された部品群を、前記第1の観察点とは実質的に反対の第2の観察点から見たさらなる斜視図である。
図8図8は、図6に示された部品群を、前記第1の観察点とは実質的に反対の第2の観察点から見たさらなる分解図である。
図9図9は、本発明によるエンジンの可能な実施形態を、図10とは異なる観察点から見た概略図である。
図10図10は、本発明によるエンジンの可能な実施形態を、図9とは異なる観察点から見た概略図である。
図11図11は、本発明によるエンジンのカムシャフトの側面図である。
図12図12は、本発明によるエンジンのカムシャフトの断面図であり、図11の切断線XII-XIIにより定義されている。
図13図13は、図12の切断線XIII-XIIIに沿った断面図である。
図14図14は、図12の切断線XIV-XIVに沿った断面図である。
図15図15は、図12の切断線XV-XVに沿った断面図である。
図16図16は、第1の動作構成にある図11のカムシャフトの、図17とは異なる観察点から見たさらなる図である。
図17図17は、第1の動作構成にある図12のカムシャフトの、図16とは異なる観察点から見たさらなる図である。
図18図18は、図17の切断線XVIII-XVIIIによる断面図である。
図19図19は、図16のカムシャフトの側面図である。
図20図20は、図17のカムシャフトの断面図であり、図19の切断線XX-XXにより定義されている。
図21図21は、第2の動作構成における図16のカムシャフトの、図22とは異なる観察点から見たさらなる図である。
図22図22は、第2の動作構成における図17のカムシャフトの、図21とは異なる観察点から見たさらなる図である。
図23図23は、図22の切断線XXIII-XXIIIによる断面図である。
図24図24は、図21のカムシャフトの側面図である。
図25図25は、図22のカムシャフトの断面図であり、図24の切断線XXV-XXVにより定義されている。
図26図26は、図21のカムシャフトのさらなる側面図である。
図27図27は、図22のカムシャフトのさらなる断面図であり、図26の切断線XXVII-XXVIIにより定義されている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図中の同じ数字および参照文字は、同じ要素または部品を示している。
【0033】
前述の図を参照すると、本発明は、乗車可能な座席を有する自動車用の燃焼エンジンに関し、この用語は一般に、主に人を輸送することを目的とした、2輪、3輪または4輪を有するオートバイまたは自動車を意味する。図1は、本発明による内燃エンジン1の特定の部品を概略的に示しているが、本発明を理解するのに必須ではない他の部品は、例示的な明確さを増すという理由で示されていない。
【0034】
本発明によるエンジン1は、複数のサクションバルブ110および複数のサクションバルブ210をそれぞれ制御するために、第1の回転軸101を中心に回転する第1のカムシャフト10と、第2の回転軸102を中心に回転する第2のカムシャフト20と、を備えている。エンジン1はまた、ドライブシャフトに対する、2つのカムシャフト10、20のうちの一方のバルブ110、210のタイミングを変更するための装置2を備えている。ドライブシャフトは、添付の図には示されておらず、むしろ参照数字300を有する軸によって概略的に示されている。装置2は、説明の続きにおいて、「位相変更器(phase changer)2」または「位相変更装置(phase changer device)2」という用語によっても示される。
【0035】
図1に示す実施形態では、装置2は、ドライブシャフト300に対するサクションバルブ210の位相を変更するために、第1のカムシャフト10に適用される。しかしながら、装置2は、リリーフバルブ220の位相を変更するために、第2のカムシャフト20と動作的に関連付けられることも可能である。さらに、本発明のさらなる可能な実施形態によれば、エンジン1は、サクションバルブの位相を変更するための第1の装置と、リリーフバルブの位相を変更するための第2の装置とを備えることができ、これらの位相変更装置は、それぞれ、第1のカムシャフトと第2のカムシャフトとに動作的に関連している。
【0036】
以下の説明では、位相変更装置2について、主に第1のカムシャフト10を参照しながら説明するが、より一般的な用語「カムシャフト10」によっても示される。位相変更装置2の構成要素を参照すると、「軸方向の」および「軸方向に」という用語は、第1のカムシャフト10の回転軸101に沿って評価される距離、厚さ、および/または位置を意味する。
【0037】
本発明によれば、位相変更器2は、第1のディスク11とカムシャフト10とが同一の回転軸101を中心に回転するように、カムシャフト10に遊動的にかつ同軸に取り付けられた(mounted idly and coaxial)第1のディスク11を備えている。「遊動的(idle)」であることにより、第1のディスク11は、カムシャフト10に対して回転の自由度を保ち、逆に、カムシャフト10は、第1のディスク11に対して回転の自由度を保つ。それにより、カムシャフト10は、以下でよりよく説明されるように、バルブのタイミングを変更するように、第1の回転軸101を中心として第1のディスク11に対して回転することができる。
【0038】
第1のディスク11は第1の側面11Aを備え、第1の側面11A上に、第1のトラック31、特にスロット状の溝(例えば図8参照)、以下、第1の溝(groove)31として示す、が定義されている。それらの各々は、第1の直線基準方向(図13および図25においてR1で示される)に沿って延在している。好ましくは、しかし排他的ではなく、3つの第1の溝31があり、それらは、それぞれの直線基準線R1がそれらの相互交差で正三角形を識別するように分配される。図に示す可能な、しかし排他的ではない実施形態において、第1の溝31はブラインドであり、すなわち、それらは軸方向におけるそれらの延長を定義する底面を備えている。代替の実施形態(図には示されていない)において、第1の溝31は、第1のディスク11の軸方向の厚さを通過することができる。
【0039】
位相変更装置2はまた、第1の回転軸101を中心にこれと一体的に回転するようにカムシャフト10に連結された第2のディスク12を備えている。この目的のため、図に示す好ましい実施形態によれば、第2のディスク12は、カムシャフト10と一体に作られている。あるいは、第2のディスク12は、カムシャフト10から独立して作られることができ、次いで、それに(例えば、キー接続を介して)剛性的にキー接続されることができる。
【0040】
いずれの場合も、第2のディスク12はまた、第2の基準方向(図中R2で示す)に沿って延びる複数の第2のトラック、特にスロット状の溝、以下、第2の溝(groove)32として示す、を備えている。第2の溝32は、第2のディスク12の一面12Aのみに、すなわち第1のディスク11について上述したのと同様の解決策により定義されてもよく、あるいは代替的に図に示す解決策のように(例えば図6および図8を参照)、第2のディスク12の厚さを軸方向に通過してもよい。
【0041】
いずれにしても、2つのディスク11、12は、カムシャフト10上に軸方向に配置され、第2の溝32の各々が少なくとも部分的に前記第1の溝31の対応する1つに面するように、回転軸101を中心に角度を付けて配置されている。したがって、第2の溝32の数は、好ましくは、第1の溝31の数に対応する。
【0042】
さらに、第2の溝32は、各々の第2の方向R2が、それが部分的に面する対応する第1の溝31の第1の方向R1に対して傾くように定義されている。基準方向R1、R2の異なる傾斜は、図13に明確に示されている。
【0043】
本発明の目的のために、「スロット(slot)」とは、(第1および第2の)溝(groove)のうち、直線状の対向する伸び部分と、対向し同じ曲率半径を有する2つの曲線部分とが識別される形状を意味する。
【0044】
位相変更装置2は、複数の駆動要素40を備え、各駆動要素40は、上に示した2つのディスク11、12の間に介在される。より正確には、各駆動要素40は、前記第1の溝31のうちの1つと、これに部分的に対向する前記第2の溝32の対応する1つとの間に収容される。駆動要素40は、回転運動を第1のディスク11から第2のディスク12に、すなわち第2のディスク12と一体であるカムシャフト10に伝達する目的を果たす。
【0045】
本発明によれば、位相変更器2は、第2のディスク12に対する第1のディスク11の軸方向移動を排除するように、したがって、駆動要素40を2つのディスク11、12の間に、各々が収容されている2つの溝(第1の溝31および対応する溝32)内に維持するように構成された予圧手段(preloading means)70を備えている。予圧手段70の可能な実施形態については、後述する。
【0046】
全体として、2枚のディスク11、12と駆動要素40とによって、遠心式位相変更器2が構成される。したがって、回転速度の増加によって引き起こされる遠心力の増加に続いて、駆動要素40の各々は、同じ要素が収容される座(seat)を規定する2つの溝31、32全体に沿って外側に移動する(すなわち、回転軸101から離れるように移動する)。特に、このような移動は、回転軸101に近い第1の基準位置と、回転軸101から遠い第2の基準位置との間で生じる。
【0047】
駆動要素40の各々について示される(第1および第2の)位置は、好ましくは、駆動要素40が収容される溝31、32の対応する端部によって規定される。後により良く説明するように、第1の溝31を参照する第1の方向R1に対して、第2の溝32を参照する第2の方向R2の異なる傾きに際して、第1の基準位置から第2の基準位置への駆動要素40の移動は、第1のディスク11に対して第2のディスク12(したがってカムシャフト10)の相対回転を引き起こす。このような相対回転は、ドライブシャフト300に対するカムシャフト10のバルブ110のタイミングの変更に変換される。
【0048】
本発明は、前記位相変更装置2が、第1のディスク11と第2のディスク12との間に介在する駆動要素40を保持する手段6を備えていることを特徴とする。このような保持手段6は、駆動要素40に作用し、駆動要素40を上記の第1の位置に向けて(すなわち、回転軸101に向けて)押し付ける傾向にある力を駆動要素40の各々に作用させる。保持手段6の採用により、駆動要素40と溝31、32との間のクリアランスを回復することができ、したがって、伝達をより効率的にすることができることが示された。公知のタイプの遠心分離機(centrifugal changer)に関して、保持手段6の採用は、駆動要素40の数、したがって、溝31、32の数を減らすことを可能にする。全体として、これは、ディスクの構造の簡素化をもたらし、したがって、エンジンの製造および組立に関連するコストの削減をもたらす。
【0049】
図1図4に示す可能な実施形態によれば、第1のディスク11の回転は、ドライブシャフト300によって直接作動する分配システム5によって引き起こされる。このような分配システム5は、ドライブシャフト300(図2に破線で示す)にキー止めされた第1の分配ホイール51と、第1のディスク11と一体である第2の分配ホイール52と、ドライブシャフト300の回転が位相変更器2の第1のディスク11に伝達されるように2つの分配ホイール51、52を接続する(チェーンまたはベルトの形態の)柔軟な(flexible)駆動要素53と、を備えている。
【0050】
分配システム5は、回転を第2のカムシャフト20にも伝達するように構成され得ることは注目に値する。上に示したように、可能な実施形態では、リリーフバルブの位相を変更するためのさらなる装置(第1のシャフトについて上に説明したものと同様)が、第2のカムシャフト20と関連付けられ得る。したがって、このさらなる装置の第1のディスクも、エンジンの分配システムによって作動させることができる。
【0051】
実施形態(例えば図4に示す)によれば、第2の分配ホイール52は、第1のディスク11と一体に作られたスリーブ本体(sleeve body)62のフランジ部分(flange portion)61に接続されている。第1のディスク11は、特に、フランジ部分61を規定する第2の端部とは反対側の、スリーブ本体62の第1の端部に規定されている。第2の分配ホイール52は、好ましくは、ねじ接続手段66を介してフランジ部分61に接続されている。図3および図4を参照すると、スリーブ本体62は、好ましくは、既に上に示した目的のために、第1のディスク11が第2のディスク12に面するようにカムシャフト10の端部10Aに取り付けられる。
【0052】
その可能な実施形態において、上記予圧手段70は、スリーブ本体62のフランジ部分61を第2のディスク12に向かって押すように作用するカップスプリング71を備える。カップスプリング71は、フランジ部分61と、フランジ部分61が配置されたカムシャフト10の端部に同軸で螺合する調整ねじ72との間に介在されている。閉止ねじ72は、カップスプリング71の圧縮をもたらし、したがって、第1のディスク11が第2のディスク12から離れる方向に移動することに対抗する軸方向の力をもたらす。
【0053】
構造的に異なるが機能的には上述と同等である予圧手段の他の実施形態は、いかなる場合も本発明の範囲に含まれると考えられる。
【0054】
図に示す好ましい実施形態によれば、第1のディスク11は、同じ第1のディスク11が取り付けられるものとは異なる、さらなるカムシャフトに回転運動を伝達するためのリングギア111を備える。リングギア111は、好ましくは、ギアホイールに相当する構成をとるように、第1のディスク11と一体に作られる。
【0055】
図1図4に示す、すなわち位相変更装置2が第1のカムシャフト10と作動的に関連している場合、リングギア111は、第2のカムシャフト20とその回転軸102を中心に一体的に回転するギアホイール222に噛み合っている。サクションバルブに加えてリリーフバルブについてもタイミングを変更することが代わりに提供され得る代替実施形態では、ギアホイール222は、第2のカムシャフト20に関連付けられたさらなる変更装置の第1のディスクと一体であることが可能である。
【0056】
図9および図10は、本発明によるエンジン(参照数字1Bで示す)のさらなる実施形態を示し、この場合、第2のカムシャフト20は、上述の技術的特徴を有する位相変更装置(参照数字2Bで示す)を備える。またこの場合、カムシャフト10と一体のギアホイール223と噛み合うリングギア(111Bで示す)が、装置2Bの第1のディスク(11Bで示す)と一体化されている。これにより、第1のカムシャフト10の回転により、第1のディスク11Bの回転が生じる。要するに、リングギア111Bおよびギアホイール223は、第1のカムシャフト10からの運動のリングギア111Bへの戻り駆動を規定する。したがって、一般に、第1のディスク11、11Bのリングギア111~111Bは、同じ第1のディスク11が取り付けられるものとは異なるさらなるカムシャフトからの回転運動を受けるように規定されてよい。
【0057】
本発明の目的のために、第1のディスク11が第2のディスク12の「駆動ディスク」の機能を果たすことは注目に値する。いずれにせよ、第1のディスク11の回転は、同駆動ディスクが取り付けられたカムシャフト(10または20)の外部にある構成部品によって引き起こされる。図1図4に示す実施形態では、第1のディスク11は、実際に分配システム5によって作動される一方、図9および図10の実施形態では、第1のディスク11は、ホイール111Bおよび223によって規定される戻り駆動を介して作動される。
【0058】
また、図1および図4の実施形態が特に有利であるのは、位相変更装置2の一部であることに加えて、第1のディスク11が有利には第2のカムシャフト20に運動を伝達するための手段として使用されるからであることに注目すべきである。先行技術に関して、特に特許文献1の記載に関して、この技術的解決策は、分配システムを単純化し、したがってバルブのタイミングをとるために用いられるエンジンの構成要素を削減することを可能にする。
【0059】
図6および図8に示す好ましい実施形態によれば、位相変更装置2の保持手段6は、カムシャフト10に取り付けられ、2つのディスク11、12の各々に対して自由に回転するように第1のディスク11と第2のディスク12との間に介在するディスク状要素(discoidal element)15を備えている。ディスク状要素15は、その軸方向厚さ全体を通る1つ以上の開口部41を規定し、この開口部は、1つ以上の前記駆動要素40によって横切られる。前記1つ以上の開口部41は、そのプロファイルの一部で、複数のガイド面45を規定し、その各々は、遠心力によって引き起こされる、上記に示された2つの基準位置の間のその移動中に、対応する駆動要素40と接触する。
【0060】
本実施形態では、保持手段6は、各ガイド面45を対応する駆動要素40に常に接触させる力をディスク状要素15上に作用させるように、2枚のディスク11、12のうちの一方とディスク状要素15との間に介在された弾性手段(スプリング16)も備えている。その形状および弾性手段16の作用により、各ガイド面45は、対応する駆動要素40上の要素自体の移動に対抗する作用を及ぼす。この作用により、駆動要素40と溝31、32との間の既存のクリアランスを回復しつつ、装置2の安定した動作を保証するように同じ要素の動きを安定化させることができる。
【0061】
詳細には、各ガイド面45の形状も、バルブのタイミング変更法則を規定するものである。特に、開口部におけるガイド面の形状自体、すなわち開口部の内部形状自体は、適用されるエンジンのタイプの関数として適合させてよく、したがって、バルブの異なるタイミングを生成し得る。実際、開口部を有するディスクの介在は、好適に形成された開口部が、例えば回転速度の関数として、ボールの動きの法則を引き起こすので、タイミングの特定の機械的調整を生み出す。例えば、開口部は、第1の回転速度を超えない場合、ボールがガイド面の形状によって静止するのを保留するような形状であってよい。そのような回転速度を超えると、代わりにボールが動くので、ガイド面の形状の関数としてなど、決定された速度が常に保たれる。複数のガイド面は、単一の開口部、複数のガイドストレッチを得てよく、各々は、したがってタイミングの専用の変更を引き起こすようにボールを従わせるために、それぞれの法則を定義する。
【0062】
このシステムは、タイミングがスプリングの種類とスプリングに接触する採用された質量の直接的かつ排他的な関数である公知技術のシステムに関して、非常に進化している。
【0063】
実施形態において、ディスク状要素15は、各駆動要素40のための開口部41を備える。各開口部41は、実質的に「半スロット(half slot)」のように構成されたガイド面45を規定し、この用語は、「スロット」形状に関して直線の伸びのうちの1つを欠いた形状を意味する。スロット形状は、断面図である図13図15間の比較から推測できるように、第1の方向R1および第2の方向R2に対して傾斜している第3の直線基準方向(R3で示す)(形状の直線の伸びに平行)によって特徴付けられる。
【0064】
弾性手段は、好ましくは、各開口部41、したがって各駆動要素40に対応する弾性スプリング16からなる。各弾性スプリング16は、その第1の端部16Aで、ディスク状要素15によって定義された第1の境界面(abutment surface)48上に載り(rest)、その第2の端部16B(前記第1の端部と反対側)で、第2のディスク12によって定義された第2の境界面(abutment surface)49上に載っている(rest)。したがって、各スプリング16は、ディスク状要素15と第2のディスク12との間に動作可能に配置される。各スプリング16は、好ましくは、対応する開口部41の一部分に少なくとも部分的に収容されたままである。
【0065】
再び好ましい実施形態によれば、各スプリングについて、対応する第1の境界面48 16は、第2のディスク12に面するディスク状要素15の第1の側面15Aから軸方向に出ている(emerge)部分18によって定義される。各スプリングについて、第2の境界面49 16は、代わりに、ディスク状要素15に面する第2のディスク12の側面12A上に規定された座(seat)35の第1の側面35Aによって規定される(図6参照)。各スプリングについて、ディスク状要素15 16の軸方向部分18は、前記第1の側面35Aとは反対側の第2の側面35Bに近い位置で座35に配置される。それによって、各スプリング16は、第2のディスク12に定義された対応する座35に少なくとも部分的に収容されたままである。
【0066】
各スプリング16の位置決めを可能にすることに加えて、この解決策は、位相変更装置45の組立作業を有利に容易にすることが示されている。実際、座35の対向する側面(35Aおよび35B)および軸方向部分18は、全体として、それぞれの構成要素の相互位置決めのための物理的基準の有利なシステムを定義する。
【0067】
図に示す可能な、しかし排他的ではない実施形態において、座35は、第2のディスク12の全厚さを軸方向に通過してよい。あるいは、座35は、ブラインドであってもよい。座35の全ての側面を規定する表面は、好ましくは、軸方向に延在する。
【0068】
本発明の好ましい実施形態によれば、駆動要素40は、金属材料で作られたボールである。したがって、「ボール40」という用語は、続きの駆動要素を意味する場合にも使用される。しかしながら、ボールの代わりにローラの形態の駆動要素を使用する可能性は、本発明の範囲内に入る。
【0069】
一実施形態によれば、第1のディスク11の第1の溝31は第2のディスク12と反対方向のテーパー形状を有する一方、第2のディスク12の第2の溝32は第1のディスク11と反対方向のテーパー形状を有している。要するに、両ディスク11、12の関連する溝31、32は、対応するボール40が連続的に載る(rest)傾斜した側面31B、32B(すなわち、軸方向に平行に延びていない)を有している。
【0070】
この点、図27は、破断された切断線により定義された断面図である。この図により、第1の溝31の側面31Bおよび第2の溝32の側面32Bが、考慮される切断線の向きに関係なく、いかなる場合でもテーパー状であることを確認することが可能である。このことの確認として、図18および図23は、半径方向の断面面、すなわちカムシャフト10の回転軸101を含む断面面による断面図である。またこの場合、いずれの場合も溝31、32の側面31B、32Bが、各側面が対応するボール40上に載る(rest)ように傾いていることに注目されたい。さらに、図18図23との比較から、側面31B、32Bのボール40との接触が、ボール40が取る位置に関係なく、どのように一定であるかを見ることができる。
【0071】
図13図15の断面図により、本発明による位相変更装置2の構造のある側面を理解することができる。特に、図12に明確に示されているように、カムシャフト10の回転軸101に対して直交する断面平面/線に関して、断面が定義されている。図13を定義する断面平面は、第1のディスク11を横切る一方、図14を定義する断面平面は、ディスク状要素15に軸方向に配置されている。最後に、図15を定義する断面平面は、第2のディスク12を横切っている。
【0072】
図13の断面では、第1のディスク11が手前に見えるため、第1の溝31の相互位置が見える。各第1の溝31の底面には、ディスク状要素15の一部と第2のディスク12の一部が示されている。この点で、図13は、上記で定義された3つの直線基準方向(straight reference direction)R1、R2、R3を示している。
【0073】
図14の断面図により、ディスク状要素15を横断する開口部41の好ましい実施形態を詳細に見ることができる。特に、各開口部は、互いに連絡する第1の領域41Aおよび第2の領域41Bを特徴付ける。第1の領域41Aは、ガイド面45によって規定される半スロット形状によって区切られ、実際には、対応するボール40が移動する空間-ディスク状要素15を基準にしてのみ考慮される-である。第2の領域41Bは、環状のセクターのような形状を有し、対応する弾性スプリング16は、部分的にそこに収容される。
【0074】
図15の断面図では、第2のディスク12の座35の形状を見ることができ、各々に対応するスプリング16が配置されている。座35はまた、対応するスプリング16の一部を収容するために上記で定義された第2の領域41Bのそれと幾何学的に適合する環状のセクターのような形状を有している。この点で、スプリング16は、第2のディスク12に対するディスク状要素15の相対回転時に圧縮されるように好都合な形状である。
【0075】
再び図15を参照すると、座(seat)自体の第1の側面35Aによって規定される第1の境界面49に対して静止している対応するスプリング16の第2の端部16Bが、座35の各々において示されている。同図には、軸方向部分18によって定義された第2の境界面49に対して静止しているスプリングの第2の端部16Bも示されている。無負荷のスプリングの状態では、軸方向部分18は、第1のスプリング16Aが載っている側とは反対側の、座自体の第2の側に対して載る(rest)ように座35に配置される。
【0076】
図16図25により、本発明によるエンジンの位相変更器2を理解することができる。特に、図16図20は(言及した図13図15と同様に)、ボール40がカムシャフト10の回転軸101に近い第1の基準位置を占める第1の動作構成における装置2を指す(特に断面図18および20を参照)。ボール40の位置は、カムシャフト10が第1のディスク11によって回転させられる回転速度によって確立される。したがって、回転速度、すなわちボール40に作用する遠心力が予め設定された閾値以下である限り、第1の基準位置が維持される。この閾値を超えると、ボール40は、2つのディスク11、12の溝31、32に沿ってその移動を開始し、各々ディスク状要素15の関連するガイド面45に接触したままである。
【0077】
図17の角度αは、スリーブ62のフランジ61に対する第1のディスク11の相対的な位置を示している。角度αは、第1のディスク11が第1の軸101を中心とする回転においてフランジ61と一体であるので、変動しないままである。図17の角度βは、代わりに、前記第1の動作構成における第2のディスク12に対する第1のディスク11の角度位置を示している。再び図17において、そのような角度位置の別の基準は、第1のディスク11の外側プロファイルを規定するリングギア111上に示される点P1である。
【0078】
図14および図20の断面図により、ボール40が第1の基準位置を占めたときの保持手段6の状態を見ることができる。各ボール40は、回転軸101に最も近いその端部において、ガイド面45に接触して配置される。その形状により、ガイド面45は、第1の溝部31に沿ったボール40の移動と第2の溝部32に沿ったボール40の移動とに連続的に対抗する(oppose)傾向がある。図13および図20が示すように、第3の方向R3(ガイド面45の特徴)は、2つのディスク11、12の溝31、32を規定する基準方向R1、R2に対して傾いている。
【0079】
図20を参照して、第1のディスク11が時計回りに回転するものとする(矢印W)。トルクは、ボール40を介して第2のディスク12に、したがってカムシャフト10に伝達され、これらもまた時計回りに回転する。ディスク状要素は、2つのディスク11、12の間に挟まれているため、ボール40によって回転軸101を中心に回転させられる。回転速度が増加すると、ボール40は第2の基準位置に向かって移動し始め、第1のディスク11に対する第2のディスク12(したがってカムシャフト10)の相対回転を引き起こす。このような相対回転は、図22において、角度γと、基準βおよびP1に対する点P2とによって見られ、これらは、第1の動作構成(図17)の典型的なものである。
【0080】
図21図22図23のカムシャフト10は、ディスク11、12間の相対回転が、第1のディスク11が取る異なる角度位置から見えるように、図16、17、18に示される同じ位置に描かれていることは注目に値する。既に上述したように、第1のディスク11の回転は、いかなる場合でも外部要素(分配システムまたは機械的な戻りシステム)によって引き起こされるので、実際には、バルブの異なるタイミングを得るために第1のディスクに対して相対的に回転するのは、第2のディスク12である。
【0081】
2枚のディスク11、12間の相対回転と同時に、回転速度の上昇に伴い、ディスク状要素15は、それが介在する2枚のディスク11、12に対する相対回転を発生する。特に、第2のディスク12に対するディスク状要素15の相対移動により、スプリング16の圧縮が発生し、これは、図20図25との比較から分かる。図25は、ボール40が第2の基準位置を占めたときの保持手段6の状態を示している。再び図20図25とを比較すると、第2のディスク12に対するディスク状要素15の相対的な動きは、座35内で軸方向部分18が取る異なる位置から見ることができる。有利には、スプリング16の圧縮は、第1の基準位置と第2の基準位置との間のボール40の移動に対抗し、したがって安定させるように、ガイド面45をボール40に接触させたままにしている。同時に、スプリング16は、回転速度が低下するにつれて、ボール40の第1の基準位置への復帰を促進する。
【0082】
一方では2つのディスク11、12の間で相対回転が起こる方向、他方ではディスク状要素15と同じ2つのディスク11、12との間の相対回転が、基準方向R1、R2、R3に割り当てられた上記の異なる傾斜に依存していることは、注目に値する。図に示す場合、2つのディスク11、12とディスク状要素15とは、同一の回転軸101を中心に回転する単一のシステムを形成する。第1のディスク11の時計回りの回転(矢印W1で示す)を仮定すると、第1のディスク11に対する第2のディスク12の相対回転も時計回り方向で発生し、第1のディスク11に対するディスク状要素15の相対回転は反時計回り方向で発生する。ディスク11、12間の相対回転の実体は、基準方向R1とR2との間の角度(θで示す)に依存する一方、ディスク状要素15と2つのディスク11、12との間の相対回転の実体は、方向R3と方向R1との間の角度(θで示す)に依存している。
【0083】
上述した技術的解決策により、課題および予め設定された目的を達成することができる。特に、駆動要素の移動に対抗する保持手段を用いることにより、有利には、要素自体の数の削減と、位相変更装置の構成要素の構造の大幅な簡素化が可能となる。これに加えて、位相変更装置の構成により、位相変更の特徴は、有利には、保持手段6に割り当てられた構成によって規定される。図に示す場合を参照すると、このような特徴は、弾性手段の負荷と、ボールを半径方向に含むディスク状要素のガイド面の形状とによって規定され、その位置が規定される。公知の解決策とは異なる方法において、タイミングの異なる特徴が必要な場合、2つのディスクの構造に作用することなく、保持手段の構造を変更すれば十分であり、コストの面で明らかな利点がある。最後に、位相変更装置の構成は、既知の解決策で必要とされるのとは逆に、複雑な弾性特徴を持たないようにする予圧手段の著しい簡素化を可能にする。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11-12】
図13
図14
図15
図16-18】
図19
図20
図21-23】
図24
図25
図26
図27