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  • 特許-フッ化物蛍光体、複合体および発光装置 図1
  • 特許-フッ化物蛍光体、複合体および発光装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】フッ化物蛍光体、複合体および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/61 20060101AFI20240912BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
C09K11/61
H01L33/50
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022544460
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2021029864
(87)【国際公開番号】W WO2022044860
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020141416
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】市川 真義
(72)【発明者】
【氏名】三谷 駿介
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/094832(WO,A1)
【文献】特開2018-012825(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115188(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230569(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230572(WO,A1)
【文献】特開2019-186537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が以下一般式(1)で表され、
レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積10%値をD 10 累積50%値をD50、累積90%値をD90としたとき、 10 が5.5~8μmであり、50~9.5μmであり、D9010~16μmであるフッ化物蛍光体。
一般式(1):A(1-n):Mn4+
一般式(1)において、
元素AはK単体であり、
元素MはSi単体であり、
0.015≦n≦0.04である。
【請求項2】
請求項1に記載のフッ化物蛍光体であって、
γ=(D90-D50)/D50で定義されるγの値が0.5以下であるフッ化物蛍光体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフッ化物蛍光体であって
δ=(D90-D10)/D50で定義されるδの値が0.75以下であるフッ化物蛍光体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれ1項に記載のフッ化物蛍光体であって、
レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積97%値をD97としたとき、D97が20μm以下であるフッ化物蛍光体。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体であって、
波長455nmの光で励起させたときの外部量子効率が45%以上であるフッ化物蛍光体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体と、前記フッ化物蛍光体を封止する封止材と、を備える複合体。
【請求項7】
励起光を発する発光素子と、前記励起光の波長を変換する請求項に記載の複合体と、を備える発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物蛍光体、複合体および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
青色発光ダイオードから発せられる青色光を赤色光に変換可能な蛍光体として、KSiF:Mn4+で表されるフッ化物蛍光体(しばしば「KSF蛍光体」などと略記される)が知られている。この蛍光体は青色光で効率良く励起される。また、この蛍光体の発光スペクトルの半値幅は、狭く、シャープである。このため、赤色蛍光体としてこの蛍光体を用いることで、白色LEDの輝度を低下させることなく、優れた演色性や色再現性を実現しうる。
【0003】
フッ化物蛍光体の先行技術としては、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、組成が一般式A(1-n):Mn4+ で表され、嵩密度が0.80g/cm以上、かつ、質量メジアン径が30μm以下であるフッ化物蛍光体が記載されている。一般式において、0<n≦0.1、元素AはKを含有する1種以上のアルカリ金属元素、元素MはSi単体、Ge単体、またはSiとGe、Sn、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる1種以上の元素との組み合わせである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-001897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
KSF蛍光体などのフッ化物蛍光体については、その良好な発光特性に基づき、照明用途に加え、ディスプレイ用途など様々な用途への適用が検討されている。
【0006】
従来の照明用途では、通常「ポッティング法」により、粉状のフッ化物蛍光体と樹脂を混合した蛍光剤をディスペンサで基板上に滴下し固めることで、青色光を他色の光に変換することができる複合体を設けている。
一方、フッ化物蛍光体の新たな用途への適用、例えば、近年の小型化されたLEDや、ディスプレイ用途(ミニLEDディスプレイなど適用を鑑みた場合、ポッティング法ではなく、塗布法、印刷法やその他の方法により、比較的薄い蛍光体膜を形成できることが好ましい。
【0007】
しかし、本発明者の予備的検討によると、従来のフッ化物蛍光体を用いて、塗布法、印刷法やその他の方法により蛍光体層を形成しようとした場合、十分に平滑かつ均一な蛍光体膜を形成できないことがあった。特に近年、デバイスの小型化・複雑化などに伴い、薄い蛍光体膜を設ける要求があるが、従来のフッ化物蛍光体ではその要求に満足に応えられていなかった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、平滑かつ均一な蛍光体膜の形成に好ましく適用可能なフッ化物蛍光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0010】
本発明のフッ化物蛍光体は、
組成が以下一般式(1)で表され、
レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積50%値をD50、累積90%値をD90としたとき、D50が0.1~9.5μmであり、D90が0.5~16μmである。
一般式(1):A(1-n):Mn4+
一般式(1)において、
元素AはKを含有する1種以上のアルカリ金属元素であり、
元素MはSi単体、Ge単体、または、SiとGe、Sn、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる1種以上の元素との組み合わせであり、
0<n≦0.1である。
【0011】
本発明の複合体は、上記のフッ化物蛍光体と、前記フッ化物蛍光体を封止する封止材と、を備える
【0012】
本発明の発光装置は、励起光を発する発光素子と、前記励起光の波長を変換する上記複合体と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、平滑かつ均一な蛍光体膜の形成に好ましく適用可能なフッ化物蛍光体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】複合体/発光装置の一例を説明するための図である。
図2】複合体/発光装置の別の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0016】
<フッ化物蛍光体>
本実施形態のフッ化物蛍光体の組成は、以下一般式(1)で表される。
一般式(1):A(1-n):Mn4+
【0017】
一般式(1)において、
元素AはKを含有する1種以上のアルカリ金属元素であり、
元素MはSi単体、Ge単体、または、SiとGe、Sn、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる1種以上の元素との組み合わせであり、
0<n≦0.1である。
【0018】
また、本実施形態のフッ化物蛍光体の、レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積50%値をD50、累積90%値をD90としたとき、D50は0.1~9μmであり、D90は0.5~16μmである。
【0019】
本実施形態のフッ化物蛍光体は、一般式(1)で表される組成を有することにより、青色LEDから発せられる青色光を赤色光に変換する。
また、D50が0.1~9.5μmであり、D90が0.5~16μmであることにより、本実施形態のフッ化物蛍光体は、平滑かつ均一な蛍光体膜の形成に好ましく適用される。D50が9μm以下であり、かつ、D90が16μm以下であるということは、平滑かつ均一な蛍光体膜の形成に障害となりうる比較的大きな粒子が本実施形態のフッ化物蛍光体にはあまり含まれないということを意味する。つまり、D50が9μm以下であり、かつ、D90が16μm以下であることにより、平滑かつ均一な蛍光体膜の形成が可能となっている。
【0020】
さらに、本実施形態のフッ化物蛍光体を用いて作製された蛍光体膜は、良好な光学特性を有することができる。具体的には、本実施形態のフッ化物蛍光体を用いて作製された蛍光体膜は、励起光である青色光を透過しにくい傾向を有する(蛍光体の粒径が小さいことにより、蛍光体膜中での分散性が良化し、青色光が透過しにくくなるため)。このような光学特性は、例えば、本実施形態のフッ化物蛍光体を、後述するマイクロLED、ミニLED、プロジェクタの波長変換素子などに好ましく適用できることを意味する。
【0021】
ちなみに、D50が0.1μm以上であることや、D90が0.5μm以上であること(つまり、フッ化物蛍光体を構成する粒子が「ある程度大きい」こと)により、フッ化物蛍光体の量子効率の過度な低下が抑えられやすい。別の言い方として、本実施形態のフッ化物蛍光体は、平滑かつ均一な蛍光体膜の形成に好ましく適用可能である一方で、良好な量子効率を有する。
【0022】
本実施形態のフッ化物蛍光体は、適切な原料を用い、適切な製法およびその製造条件を採用することにより製造することができる。詳細は後述するが、例えば、水溶液の飽和度をコントロールしてフッ化物蛍光体を析出させる際に、水を短時間で一気に系中に加えて瞬間的に飽和度を高める製法により、結晶の成長が必要以上に進むことが抑制される。このような製法により、D50が0.1~9.5μmであり、D90が0.5~16μmであるフッ化物蛍光体を製造することができる。
参考のため述べておくと、このような方法を採用していない公知の製法またはその製造条件によっては、フッ化物蛍光体のD50および/またはD90は大きくなりがちである。
【0023】
本実施形態のフッ化物蛍光体に関する説明を続ける。
【0024】
(組成:一般式(1)について)
元素AはKを含有する1種以上のアルカリ金属元素である。具体的にはカリウム単体、または、カリウムとリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)のなかから選ばれる1種以上のアルカリ金属元素との組み合わせであることができる。化学的安定性の観点から、元素A中のカリウムの含有割合は高いこと(例えば元素A中50モル%以上がカリウムであること)が好ましく、元素Aはカリウム単体であることがより好ましい。
【0025】
元素MはSi単体、Ge単体、または、SiとGe、Sn、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる1種以上の元素との組み合わせである。化学的安定性の観点から、元素M中のケイ素の含有割合は高いこと(例えば元素M中50モル%以上がケイ素であること)が好ましく、元素Mはケイ素単体であることがより好ましい。
【0026】
一般式(1)において、nは0<n≦0.1であればよいが、より良好な発光特性の観点では、0.015≦n≦0.04であることが好ましい。
【0027】
(D50
本実施形態のフッ化物蛍光体のD50は、0.1~9.5μmであればよいが、好ましくは1~9.5μm、より好ましくは3~9.2μm、さらに好ましくは5~9μm、特に好ましくは7~9μmである。D50が適度に大きいことにより、十二分な量子効率を有しつつ、平滑かつ均一な蛍光体膜を形成することができる。
【0028】
(D90
本実施形態のフッ化物蛍光体のD90は、0.5~16μmであればよいが、好ましくは3~16μm、より好ましくは5~16μm、さらに好ましくは7~15μm、特に好ましくは10~14μm、とりわけ好ましくは11~13μmである。
90が適度に大きいことにより、十二分な量子効率を有しつつ、平滑かつ均一な蛍光体膜を形成することができる。また、D90が適度に小さいことにより、蛍光体膜の平滑性や均一性を一層高めることができる。さらに、D90が適度に小さいことにより、薄い蛍光体膜を形成する場合においても、平滑かつ均一な蛍光体膜を得やすい。
【0029】
(D97、D100
本実施形態のフッ化物蛍光体のD97(レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積97%値)は、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは17μm以下である。D97の下限値は、例えば10μm、具体的には12μm、より具体的には14μmである。
また、本実施形態のフッ化物蛍光体のD100(レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積97%値)は、好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。D100の下限値は、例えば15μm、具体的には18μm、より具体的には20μmである。
97やD100が大きすぎないことにより、蛍光体膜の平滑性や均一性を一層高めることができる。また、薄い蛍光体膜を形成する場合においても、平滑かつ均一な蛍光体膜を得やすい。
【0030】
(D10
本実施形態のフッ化物蛍光体のD10(レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積10%値)は、好ましくは5.5μm以上、より好ましくは6μm以上である。D10の上限は特にないが、例えば10μm以下、具体的には8μm以下である。
10がある程度大きな値であるということは、発光効率が低い微小粒子の割合が少ないことを意味する。よって、D10がある程度大きな値であることにより、量子効率が一層高まる傾向がある。
【0031】
ちなみに、D10が5.5μm以上であり、かつ、D50が0.1~9.5μmでありD90が0.5~16μmであるフッ化物蛍光体は、後述する水溶液から析出させる方法により好ましく製造される。粒径の大きなフッ化物蛍光体を機械的に粉砕することでD50やD90を小さくしようとした場合、微粉が多く発生し、これに伴ってD10も小さくなる傾向がある。粉砕による微粉が多く含まれるフッ化物蛍光体の発光効率は低い傾向がある。
【0032】
(γ:(D90-D50)/D50
本実施形態のフッ化物蛍光体において、(D90-D50)/D50で定義されるγの値は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.46以下である。この下限は特にないが、例えば0.25以上、具体的には0.35以上である。
γは、D50を基準としたときの相対的なD90の値と解釈可能な指標であり、D50およびD90の値そのものを前述の範囲内とすることに加え、γの値を適切に調整することで、蛍光体膜の平滑性および均一性を一層高めることができる。
【0033】
(δ:(D90-D10)/D50
本実施形態のフッ化物蛍光体において、(D90-D10)/D50で定義されるδの値は、好ましくは0.75以下であり、より好ましくは0.73以下である。この下限は特にないが、例えば0.30以上、具体的には0.50以上である。
δは、粒径分布の「幅」を表す指標と捉えることができる。フッ化物蛍光体の粒径分布の幅が狭いということは、フッ化物蛍光体を構成する粒子の粒径が比較的「揃っている」ということである。よって、δを0.75以下とすることで、蛍光体膜の平滑性および均一性を一層高めることができる。
【0034】
前述したように、D10を大きくするためには、機械的な粉砕を行わずに、水溶液から析出させる方法(詳細は後述)をフッ化物蛍光体の製造方法として採用することが好ましい。D10が大きければδは小さくなるため、δを0.75以下とする観点からも、水溶液からフッ化物蛍光体を析出させる方法を製造方法として採用することが好ましい。
【0035】
(量子効率)
本実施形態のフッ化物蛍光体の内部量子効率は、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。内部量子効率の上限は特にないが、現実的には上限は例えば95%、具体的には90%である。
本実施形態のフッ化物蛍光体の外部量子効率は、好ましくは45%以上、より好ましくは46.5%以上、さらに好ましくは48%以上である。外部量子効率の上限は特にないが、現実的には例えば70%、具体的には65%、より具体的には61%である。
一般的な傾向としては、粒径が小さいフッ化物蛍光体の量子効率は小さくなる傾向にあるが、本実施形態のフッ化物蛍光体は、比較的良好な量子効率を示す。特に、D10およびδを前述の数値範囲内とすることにより、良好な量子効率を有しつつ、平滑かつ均一な蛍光体膜を得やすい。
【0036】
<製造方法について>
本実施形態のフッ化物蛍光体の製造方法は限定されない。適切な素材を用い、適切な製造方法・製造条件を選択することで本実施形態のフッ化物蛍光体は製造可能である。具体的な製造方法の例は後掲の実施例に記載しているが、以下で「製造方法1」および「製造方法2」として2パターンの製造方法を説明する。
【0037】
(製造方法1)
製造方法1は、主に、溶解工程と、析出工程とを含む。以下、これら工程について説明する。これら工程は、室温下で行うことができる。
【0038】
・溶解工程
溶解工程においては、通常、フッ化水素酸に、(i)元素A(Kなど)を供給する原料、(ii)元素M(好ましくはSi)を供給する原料、(iii)Fを供給する原料などを溶解させる。一つの原料が、(i)~(iii)のうち2以上を兼ねてもよい。例えば、後掲のKSiFは、(i)~(iii)の原料全てを兼ねる。
(i)~(iii)の原料を溶解させる前のフッ化水素酸中のフッ化水素の濃度は、好ましくは50~60質量%である。
【0039】
元素Aを供給するための原料としては、化学的安定性から、元素Aの化合物が好ましい。例えば、元素Aの酸化物、水酸化物、フッ化物、炭酸塩を使用することができる。
Fを供給するための原料は、他の元素(A、M、Mn)の原料としてのフッ化物であることができる。また、溶媒に用いられるフッ化水素酸中のフッ化水素からも、フッ素は供給される。
【0040】
溶解工程で用いられる特に好ましい原料(フッ化水素酸中のフッ化水素酸以外)としては、KSiFが挙げられる。
【0041】
・析出工程
析出工程においては、Mnを供給するための原料と、適量の水とを、可能な限り素早く系中に投入する。これにより、系が急激に過飽和な状態となり、一般式(1)で表される組成のフッ化物蛍光体が析出する。ここでの「可能な限り素早く」とは、系のスケールにもよるが、例えば溶解工程において1Lのフッ化水素酸を用いた場合、水については、好ましくは1.5L程度を3秒程度で系中に投入することを言う。また、Mnを供給するための原料については、好ましくは必要量を一括して系中に投入することを言う。
このような操作(系を急激に過飽和な状態とする操作)により、結晶の成長が必要以上に進むことが抑えられて、D50が0.1~9.5μmであり、D90が0.5~16μmであるフッ化物蛍光体を得ることができると考えられる。
【0042】
析出工程においてMnを供給するための原料としては、ヘキサフルオロマンガン酸塩、過マンガン酸塩、酸化物(過マンガン酸塩を除く)、フッ化物(ヘキサフルオロマンガン酸塩を除く)、塩化物、硫酸塩、硝酸塩が挙げられる。なかでも、フッ化物蛍光体中のSiサイトにMnを効率よく置換させることができ、良好な発光特性が得られることからフッ化物が好ましく、フッ化物の中でもヘキサフルオロマンガン酸塩が好ましい。ヘキサフルオロマンガン酸塩として、NaMnF、KMnF、RbMnF、MgMnF、CaMnF、SrMnF、BaMnFなど挙げられる。特にKMnFは、Mn以外にもフッ化物蛍光体を構成するFやK(元素Aに該当)を同時に供給できるため好ましい。
【0043】
析出工程で得られたフッ化物蛍光体については、ろ過などにより固液分離して回収し、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶剤で洗浄する。フッ化物蛍光体を水で洗浄してしまうと、その一部が加水分解して茶色のマンガン化合物が生成し、フッ化物蛍光体の特性を低下させることがある。このため、洗浄工程では有機溶剤を用いることが好ましい。また、有機溶剤での洗浄前に、フッ化水素酸反応液で数回洗浄を行うと、微量生成していた不純物を溶解除去することができる。洗浄に用いるフッ化水素酸反応液におけるフッ化水素酸の濃度は、フッ化物蛍光体の分解抑制の観点から、5質量%以上が好ましく、フッ化物蛍光体の溶解性の観点から60質量%以下が好ましい。洗浄工程後には、フッ化物蛍光体を乾燥させて洗浄液を十分に蒸発させることが好ましい。
また、所定の目開きの篩を用いて分級したり、粗大粒子を取り除いたりしてもよい。
【0044】
(製造方法2)
製造方法2は、製造方法1とは異なるものの、系を急激に過飽和な状態とすることにより一般式(1)で表される組成のフッ化物蛍光体を析出させる点では類似している。製造方法2は、主に、溶解工程と、Mnを供給する原料の投入工程と、析出工程とを含む。以下、これら工程について説明する。これら工程は、室温下で行うことができる。
【0045】
・溶解工程
製造方法2における溶解工程は、製造方法1と同様とすることができる。
【0046】
・Mnを供給する原料の投入工程
Mnを供給する原料の投入工程では、例えばKMnFなど、製造方法1の析出工程で説明した「Mnを供給するための原料」を、溶解工程で得られた溶液に投入して攪拌し、溶解させる。
【0047】
・析出工程
製造方法2における析出工程では、例えば、フッ化水素酸カリウム(KHF)が10~40g/L程度で溶解した水溶液を可能な限り素早く系中に投入する。これにより、系を急激に過飽和な状態とし、一般式(1)で表される組成のフッ化物蛍光体を析出させる。ここでの「可能な限り素早く」とは、系のスケールにもよるが、例えば溶解工程において1Lのフッ化水素酸水溶液を用いた場合、好ましくは1.5L程度の上記水溶液を3秒程度で系中に投入することを意味する。このようにして系を急激に過飽和な状態とすることで、結晶の成長が必要以上に進むことが抑えられて、D50が0.1~9.5μmであり、D90が0.5~16μmであるフッ化物蛍光体を得ることができると考えられる。
析出工程では、KHFの代わりにKFなどのカリウム源を用いてもよい。
【0048】
製造方法2においても、製造方法1と同様、ろ過、洗浄、篩による分級/粗大粒子の除去などを行うことが好ましい。
【0049】
<複合体、発光装置>
本実施形態の複合体は、上述のフッ化物蛍光体と、そのフッ化物蛍光体を封止する封止材と、を備える。
また、本実施形態の発光装置は、励起光を発する発光素子と、その励起光の波長を変換する上記複合体と、を備える。
【0050】
以下、図1を参照しつつ、複合体および発光装置の一例を説明する。また、図2を参照しつつ、図1とは異なる複合体および発光装置について説明する。
【0051】
図1
図1は、発光装置1の模式図である。
発光装置1は、複合体10と、発光素子20とを備える。複合体10は、発光素子20の上部に接して設けられている。
発光素子20は、典型的には青色LEDである。発光素子20の下部には端子が存在する。端子が電源と接続されることで、発光素子20は発光することができる。
発光素子20から発せられた励起光は、複合体10により波長変換される。励起光が青色光である場合、青色光は、フッ化物蛍光体を含む複合体10により、赤色光に波長変換される。
【0052】
複合体10は、上述のフッ化物蛍光体と、そのフッ化物蛍光体を封止する封止材とにより構成することができる。
封止材としては、例えば、各種の硬化性樹脂材料(熱および/または光により硬化する材料)を用いることができる。十分に透明であり、ディスプレイや照明装置に必要な光学特性を得られるものである限り、任意の硬化性樹脂材料を用いることができる。
封止材としては、例えばシリコーン樹脂材料を挙げることができる。シリコーン樹脂材料については、東レ・ダウコーニング社や信越化学社などから、硬化性のものが供給されている、シリコーン樹脂材料は、透明性が高いことに加え、耐熱性に優れることなどの観点でも好ましい。また、封止材としては、エポキシ樹脂材料やウレタン樹脂材料なども挙げることができる。
複合体10中におけるフッ化物蛍光体の粒子の量は、例えば10~70質量%、好ましくは25~55質量%である。
【0053】
発光素子20の大きさや形は特に限定されない。発光装置1の用途により、発光素子20は、任意の大きさや形であることができる。
【0054】
発光装置1は、例えば、自発光型ディスプレイを製造するためのマイクロLEDまたはミニLEDであることができる。マイクロLEDとは、通常、自発光型ディスプレイの画素を構成する、チップサイズが100μm角未満のLEDのことをいう。また、ミニLEDとは、自発光型ディスプレイの画素を構成する、チップサイズが100μm以上(より具体的には100μm以上200μm以下)のLEDのことをいう。複数個のマイクロLEDまたはミニLEDを用いることで、自発光型のディスプレイを製造することができる。
【0055】
具体的には、発光装置1を画素(典型的には赤色画素)として用い、その他、青色光を発するマイクロLEDまたはミニLEDと、緑色光を発するマイクロLEDまたはミニLEDを組み合わせて用いることで、カラー表示が可能な自発光型ディスプレイを構成することができる。
マイクロLEDディスプレイやミニLEDディスプレイについては、文献「2019 次世代ディスプレイ技術と関連材料/プロセスの最新動向調査(富士キメラ総研)」、「Appl.Sci.2018,8,1557」、「映像情報メディア学会誌 Vol.73,No.5,pp.939~942(2019)」などを参考とすることができる。
【0056】
本実施形態においては、D50が0.1~9.5μmであり、D90が0.5~16μmであるフッ化物蛍光体を用いることにより、複合体10を平滑性および均一性を高めやすかったり、複合体10を薄くしやすかったりする。
平滑かつ均一な複合体10を設けられることにより、例えば、発光装置1の歩留まり向上や、発光装置1の発光特性のバラつき抑制などの効果を得ることができる。「バラつき抑制」の効果は、特に発光装置1を自発光型ディスプレイに適用する場合に望ましい効果である。発光装置1の発光特性のバラつきが抑制された自発光型ディスプレイでは、画素間での発光特性を「揃える」ことができる。
また、複合体10を薄くできることは、発光装置1全体の小型化にも資する。すなわち、複合体10を薄くできることにより、マイクロLEDやミニLEDのような「小さな発光装置1」を製造しやすい。
【0057】
ちなみに、本実施形態のフッ化物蛍光体から発光する光は、色度図において比較的大きなx値を有する傾向がある。このことからも、本実施形態のフッ化物蛍光体を用いて、自発光型ディスプレイを構成することは好ましい。
【0058】
図2
図2は、本実施形態の複合体の一例である、プロジェクタの波長変換部材を模式的に示した図である。この波長変換部材は、いわゆる透過型の回転蛍光板(蛍光体ホイール)である。
【0059】
この波長変換部材においては、モーター300により回転駆動される円板状の基板1の回転方向に沿って、蛍光体層200(複合体)が形成されている。蛍光体層2が形成されている領域は、青色光源からの青色光(典型的には青色レーザ光)が入射する青色光入射領域を含む。
基板100がモーター300によって回転軸の周りに回転駆動されることにより、青色光入射領域は、回転軸の周りを基板100に対して相対的に移動する。
【0060】
蛍光体層200は、蛍光体粒子と、その蛍光体粒子を封止する封止材と、を備える複合体である。
蛍光体層200(複合体)を形成するための封止材としては、図1の発光装置で説明したものと同様のものを挙げることができる。蛍光体層200(複合体)中の蛍光体粒子の量は、例えば10~70質量%、好ましくは25~55質量%である。
【0061】
基板100は、可視光を透過する材料で構成されることが好ましい。基板100の材料としては、例えば、石英ガラス、水晶、サファイア、光学ガラス、透明樹脂等を挙げることができる。基板100と蛍光体層200との間には、誘電体多層膜(不図示)が設けられていてもよい。誘電体多層膜はダイクロイックミラーとして機能するものであり、波長450nm付近の青色光は透過し、蛍光体層200から射出される蛍光の波長範囲(490nm~750nm)を含む490nm以上の光は反射するようになっている。
基板100の形状は、典型的には円板状であるが、円板状のみには限られない。
【0062】
蛍光体層200は、基板1とともに、使用時には回転する。このような基板100では、蛍光体層200に青色光(レーザ光)が入射されると、蛍光体層200における青色光入射領域に対応する部分が発熱する。そして、この発熱した部分(発熱部分)は、基板100が回転することにより、回転軸の周りを円を描いて移動し、再び、青色光入射領域に戻るというサイクルを繰り返す。このように、蛍光体層200に対する青色光の照射位置を逐次変化させることにより、過度な発熱が抑えられるようにしている。
【0063】
波長変換部材に入射した青色光の少なくとも一部は、蛍光体層200により、赤色光に波長変換される。その赤色光の少なくとも一部は、青色光が入射した側とは反対側に放射される。
【0064】
上述のフッ化物蛍光体および封止材を用いることにより、平滑かつ均一な蛍光体層200(複合体)を設けることができる。このことは、例えば波長変換部材の歩留まり向上などに寄与する。
【0065】
青色光源を用いるプロジェクタ(発光装置)は、典型的には、青色レーザなどの青色光源と、青色光源から発せられた青色光を波長変換する波長変換部材と、波長変換素子から射出された光を画像信号により変調する変調素子と、その変調素子により変調された光を投射する当社光学系と、を備える。
波長変換素子やプロジェクタの具体的な構成については、特開2013-162021号公報の図1およびその説明、特開2013-92796号公報の記載、などを参照することができる。その他、波長変換素子やプロジェクタを構成するにあたっては、公知技術を適宜適用することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
組成が以下一般式(1)で表され、
レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積50%値をD 50 、累積90%値をD 90 としたとき、D 50 が0.1~9.5μmであり、D 90 が0.5~16μmであるフッ化物蛍光体。
一般式(1):A (1-n) :Mn 4+
一般式(1)において、
元素AはKを含有する1種以上のアルカリ金属元素であり、
元素MはSi単体、Ge単体、または、SiとGe、Sn、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる1種以上の元素との組み合わせであり、
0<n≦0.1である。
2.
1.に記載のフッ化物蛍光体であって、
γ=(D 90 -D 50 )/D 50 で定義されるγの値が0.5以下であるフッ化物蛍光体。
3.
1.または2.に記載のフッ化物蛍光体であって、
レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積10%値をD 10 としたとき、δ=(D 90 -D 10 )/D 50 で定義されるδの値が0.75以下であるフッ化物蛍光体。
4.
1.~3のいずれ1つに記載のフッ化物蛍光体であって、
レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積97%値をD 97 としたとき、D 97 が20μm以下であるフッ化物蛍光体。
5.
1.~4のいずれ1つに記載のフッ化物蛍光体であって、
レーザ回折散乱法により求められる体積基準の粒子径分布曲線における累積10%値をD 10 としたとき、D 10 が5.5μm以上であるフッ化物蛍光体。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載のフッ化物蛍光体であって、
波長455nmの光で励起させたときの外部量子効率が45%以上であるフッ化物蛍光体。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載のフッ化物蛍光体と、前記フッ化物蛍光体を封止する封止材と、を備える複合体。
8.
励起光を発する発光素子と、前記励起光の波長を変換する7.に記載の複合体と、を備える発光装置。
【実施例
【0067】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0068】
以下において、原料については、以下のものを用いた。
フッ化水素酸:ステラケミファ社製
SiF:固体/森田化学社製
MnF:特開2019-1897号公報の段落0042に記載の方法で準備したもの
KHF:富士フイルム和光純薬株式会社、特級試薬
SiO:高純度化学社製
【0069】
<実施例1>
室温下で、テフロン(登録商標)製ビーカーに、濃度55質量%フッ化水素酸水溶液 1000mLを供給した。これに、KSiF 50gを加え、5分間攪拌して均一な溶液を得た。
攪拌を継続しながら、この均一な溶液に、KMnF 6gと、イオン交換水 1500mLとを同時に入れた。この際、KMnFについては全量を一括して投入し、イオン交換水については全量を3秒で投入した(つまり、500mL/sの速さで投入した)。これにより黄色の固形分の析出が開始した。その後、5分間攪拌を継続した。
【0070】
攪拌終了後、溶液を静置して黄色の固形分を沈殿させた。沈殿確認後、上澄み液を除去し、黄色の固形分を、濃度約24質量%のフッ化水素酸で洗浄し、その後、メタノールを用いて洗浄した。洗浄した固形分を濾過して固形分を分離回収し、更に乾燥処理により、残存メタノールを蒸発除去した。乾燥処理後、目開き75μmのナイロン製篩を用い、この篩を通過した黄色粉末だけを分級して回収した。
以上により、フッ化物蛍光体を得た。
【0071】
<実施例2>
フッ化水素酸水溶液にKSiFを投入した後の攪拌時間を、5分間ではなく10分間とした以外は、実施例1と同様にしてフッ化物蛍光体を得た。
【0072】
<実施例3>
室温下で、テフロン(登録商標)製ビーカーに、濃度55質量%フッ化水素酸 1000mLを供給した。これに、KSiF 50gを加え、10分間攪拌して均一な溶液を得た。
攪拌を継続しながら、この均一な溶液に、KMnF 6gを入れ、さらに30秒間攪拌した。その後、別のビーカーで準備しておいたKHF水溶液(イオン交換水 1500mLに、KHF 35gを加えて5分間攪拌して均一溶解した水溶液)を投入した。この水溶液については全量を3秒で投入した(つまり、500mL/sの速度で投入した)。これにより黄色の固形分の析出が開始した。その後、5分間攪拌を継続した。
【0073】
攪拌終了後の固形分の回収、洗浄などの操作については実施例1と同様とした。そしてフッ化物蛍光体を得た。
【0074】
<実施例4>
KHF水溶液として、イオン交換水 1500mLに、KHF 27gを加えて5分間攪拌して均一溶解した水溶液を用いた以外は、実施例3と同様にしてフッ化物蛍光体を得た。
【0075】
<比較例1>
比較例1は、従来の貧溶媒法によるフッ化物蛍光体の製造に対応する製造例である。
室温下で、テフロン(登録商標)製ビーカーに、濃度55質量%フッ化水素酸水溶液 1000mLを供給した。これに、KSiF 50gおよびKMnF 3gを加え、10分間攪拌して均一な溶液を得た。
この溶液に、イオン交換水 1500mLを10秒かけて投入した(つまり、150mL/sの速度で投入した)。これにより黄色の固形分の析出が開始した。その後、5分間攪拌を継続した。
【0076】
攪拌終了後の固形分の回収、洗浄などの操作については実施例1と同様とした。そしてフッ化物蛍光体を得た。
【0077】
<比較例2>
比較例2は、従来シリカ添加法と呼ばれる製法によるフッ化物蛍光体の製造例である。
室温下で、テフロン(登録商標)製ビーカーに、濃度55質量%フッ化水素酸 700mLを供給した。これに、KHF 93.8gを加え、15分間攪拌した。その後、KMnF 4.0gを加え、30秒間攪拌した。そして、SiO 24gを添加して10分攪拌した。
【0078】
攪拌終了後の固形分の回収、洗浄などの操作については実施例1と同様とした。そしてフッ化物蛍光体を得た。
【0079】
<比較例3>
比較例3も、従来シリカ添加法と呼ばれる製法によるフッ化物蛍光体の製造例である。
MnF 4.0gを加えた後の攪拌時間を30秒ではなく45秒とした以外は、比較例2と同様にしてフッ化物蛍光体を得た。
【0080】
<同定:結晶相測定など>
実施例1~4で得られたフッ化物蛍光体(黄色粉末)について、X線回折装置を用いて、X線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンは、KSiF結晶と同一パターンであった。このことから、KSi(1-n):Mn4+ が単相で得られたことを確認した。
【0081】
X線回折とは別に、実施例1で得られたフッ化物蛍光体(黄色粉末)を、それぞれ、炭酸ナトリウムおよびホウ酸を用いて溶解し、ICP発光分光分析法により分析することで、K、SiおよびMnの含有量を求めた。また、Fの含有量を、フッ化物蛍光体(黄色粉末)0.1gを水で溶解し、JIS K 8821「ふっ化ナトリウム(試薬)」の「7.2 純度」の測定方法に準拠し、分析した。これら分析に基づく、前述の一般式(1)におけるnの値は0.03であった。
原料の仕込み比などに基づけば、実施例2~4においても、nの値はおおよそ同程度と考えられる。
【0082】
<レーザ回折散乱法による粒径分布測定>
50mLのビーカーにエタノール30mLを計量し、その中にフッ化物蛍光体0.03gを投入した。次に、その容器を事前に出力を「Altitude:100%」に調整したホモジナイザー(日本精機製作所社製、商品名US-150E)にセットし、3分間前処理を実施した。
このようにして準備した溶液を対象にして、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックベル社製、商品名MT3300EXII)を用いて、体積基準の粒子径分布曲線を得た。そして、得られた曲線から、D10、D50、D90、D57およびD100を求め、さらにγ=(D90-D50)/D50およびδ=(D90-D10)/D50を求めた。
【0083】
<発光特性評価(量子効率および色度)>
積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に、反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、商品名スペクトラロン)をセットした。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光のスペクトルを分光光度計(大塚電子社製、商品名MCPD-7000)により測定した。この際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
次に、凹型のセルに表面が平滑になるようにフッ化物蛍光体を充填したものを積分球の開口部にセットし、波長455nmの単色光を照射し、励起の反射光および蛍光のスペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)および蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465~800nmの範囲で算出した。得られた三種類のフォトン数から、吸収率(=(Qex-Qref)/Qex×100)、内部量子効率(=Qem/(Qex-Qref)×100)および外部量子効率(=Qem/Qex×100)を求めた。
また、この測定で得られたデータに基づき、装置に付属の解析ソフトを用いて、フッ化物蛍光体から発せられた蛍光の、xy色度図におけるx値とy値を求めた。
【0084】
<蛍光体膜の平滑性および均一性、光学特性>
まず、フェニルシリコーン樹脂:OE-6630(ダウコーニング社製)と、フッ化物蛍光体とを、混合器ARE-310(シンキー社製)を用い、脱泡しつつ混合した。これにより蛍光体膜形成用の混合物を得た。フッ化物蛍光体の使用量は、混合物中のフッ化物蛍光体の比率が40質量%となる量とした。
次に、厚さ100μmのPFA(フッ素樹脂)フィルム2枚の間に上記の混合物を塗布し、厚みを50μmに設定したローラーに通した。その後、150℃1時間の条件で加熱処理を行った。冷却後、PFAフィルムをはがし、20mm×20mmの大きさにカットした。このようにしてシート状の蛍光体膜(複合体)を得た。
【0085】
得られた蛍光体膜を目視で観察した。目視では不均一性が認められず、平滑であった場合を良い(○)、 目視で明らかにわかる不均一性が認められた場合を悪い(×)、一見しただけではわからないが注意して目視するとわかる不均一性が認められた場合をやや悪い(△)と評価した。
【0086】
また、得られた蛍光体膜を、発光波長455nmの青色LED上にセットし、その青色LEDを発光させた。そして、蛍光体膜における青色LEDがある側とは反対側に射出する光の明るさを、全光束測定システムHM9100(大塚電子製)を用いて評価した。実施例1を基準として、実施例1と同程度の明るさが得られた場合を良い(○)、実施例1よりも明るかった場合をとても良い(◎)、実施例1よりもやや暗かった場合をやや悪い(△)、実施例1よりも明らかに暗かった場合を悪い(×)と評価した。
【0087】
各種測定/評価結果をまとめて下表に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
上表に示されるとおり、実施例1~4のフッ化物蛍光体(D50が0.1~9.5μmであり、D90が0.5~16μmである)を用いて形成した蛍光体膜は、平滑であり、膜に不均一性は認められなかった(実施例1~4)。一方、比較例1~3の、D50が9.5μm超であったり、D90が16μm超であったりするフッ化物蛍光体を用いて形成した蛍光体膜には、不均一性が認められた。
【0090】
また、実施例1~4のフッ化物蛍光体を用いて形成した蛍光体膜は、良好な光学特性(明るさ)を示した。
さらに、実施例1~4のフッ化物蛍光体の量子効率は、比較例1~3と同程度であった。
【0091】
この出願は、2020年8月25日に出願された日本出願特願2020-141416号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0092】
1 発光装置
10 複合体
20 発光素子
100 基板
200 蛍光体層(複合体)
300 モーター
図1
図2