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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ミセル消毒剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20240912BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20240912BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20240912BHJP
   A01N 37/10 20060101ALI20240912BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240912BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 33/40 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240912BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240912BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240912BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A01N59/00 A
A01N25/04 101
A01N25/30
A01N37/10
A01P1/00
A01P3/00
A61K9/107
A61K33/40
A61K47/02
A61K47/08
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/36
A61P1/02
A61P17/00 101
A61P31/00
【請求項の数】 37
(21)【出願番号】P 2022552319
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 IB2021051647
(87)【国際公開番号】W WO2021171263
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】62/983,283
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522343256
【氏名又は名称】デントフォーユー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】DENT4YOU AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボザ・トロンコソ,アメリコ・シィ
(72)【発明者】
【氏名】アコスタ・ザラ,エドガー・ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】シオラカ,ドラン
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0304608(US,A1)
【文献】特表2019-502792(JP,A)
【文献】特表2006-506423(JP,A)
【文献】特表2012-504109(JP,A)
【文献】特開2013-079219(JP,A)
【文献】国際公開第2017/210188(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコバクテリア、細菌、真菌およびウイルスのうちの1種または複数を表面から排除するためのミセル組成物であって、
a.リン脂質と、
b.非イオン性界面活性剤と、
c.過酸化水素と、
d.芳香族カルボン酸および/または芳香族ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸および/または芳香族ヒドロキシカルボン酸および/または芳香族ジヒドロキシもしくはトリヒドロキシモノカルボン酸もしくはジカルボン酸と
を含み、1分未満の接触時間内に表面からマイコバクテリア、細菌、真菌およびウイルスのうちの1種または複数を排除する、組成物。
【請求項2】
pHが約0.3~8である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
pHが約2~4である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記リン脂質がアルキルアミドプロピル-プロピレングリコール-ジモニウムクロリドリン酸である、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記リン脂質が前記ミセル組成物の総重量に対して約0.3~10%w/wの濃度である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記リン脂質が、ミリスタミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸もしくはコカミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸もしくはリノールアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸またはそれらの組合せである、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤が、脂肪酸ポリグリセリルエステルもしくはアルキル(C8~C18)エトキシレート(4~16)界面活性剤もしくはそれらの多分散混合物、またはアルキル多糖類、例えば、D-グルコピラノース、ソルビタンエステルのオリゴマー性デシル-オクチルグリコシドもしくはポリオキシエチレン誘導体、例えば、POE(20)ソルビタンモノパルミテートもしくはPOE(20)ソルビタンモノオレエート、あるいはそれらの組合せである、請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸ポリグリセリルエステルが、(カプリル酸/カプリン酸)ポリグリセリル-10もしくは(ラウリン酸/セバシン酸)ポリグリセリル-4および(カプリル酸/カプリン酸)ポリグリセリル-4もしくは(ラウリン酸/セバシン酸)ポリグリセリル-4および(カプリル酸/カプリン酸)ポリグリセリル-6またはそれらの組合せである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記非イオン性界面活性剤が、前記ミセル組成物の総重量の0%w/wよりも高く10%w/w以下の濃度である、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
過酸化水素が、前記ミセル組成物の総重量に対して約0.1~2.9%w/wの濃度である、請求項1から9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記芳香族カルボン酸および/または芳香族ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸および/または芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジヒドロキシモノカルボン酸もしくはジカルボン酸が、前記ミセル組成物の総重量に対して約0.01~1%w/wの濃度である、請求項1から10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記芳香族カルボン酸が安息香酸である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも飽和アルキルモノ、ジもしくはトリカルボン酸および/または不飽和アルキルジカルボン酸をさらに含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
和アルキルモノ、ジまたはトリヒドロキシモノ、ジまたはトリカルボン酸を、前記ミセル組成物の総重量に対して約0.01~5%w/wの濃度で含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
少なくとも芳香族アルファヒドロキシ酸(マンデル酸)、および/またはオルト、パラもしくはベータアミノ安息香酸、および/または5-ピロリドン-2-カルボン酸、および/またはアスコルビン酸、および/またはアスパラギン酸、および/またはプロリンおよび/またはグリシンおよび/または尿素を、前記ミセル組成物の総重量に対して0.01~3%w/wの濃度でさらに含む、請求項1から14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
少なくとも、前記ミセル組成物の総重量の0.5~5%w/wの芳香族グリコールエーテルをさらに含む、請求項1から15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記芳香族グリコールエーテルがフェノキシエタノールである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも1種の防食剤をさらに含む、請求項1から17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記少なくとも1種の防食剤がベンゾトリアゾールである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記ベンゾトリアゾールを前記ミセル組成物の総重量に対して0.01~1%の濃度で含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
少なくとも1種の有機塩をさらに含む、請求項1から20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記少なくとも1種の有機塩を前記ミセル組成物の総重量に対して0.01~2%の濃度で含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記有機塩が、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、例えば、クエン酸リチウム、クエン酸ナトリウムもしくはクエン酸カリウム、クエン酸カルシウムもしくはクエン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウムもしくは安息香酸カルシウム、EDTAナトリウム、もしくは酢酸マグネシウム、またはそれらの混合物である、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項24】
前記有機塩がクエン酸ナトリウムである、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記有機塩が、防食剤および/またはキレート剤および/またはpH調整剤および/またはコスモトロープとして機能する、請求項21から24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
無機塩をさらに含む、請求項1から25のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
前記無機塩が、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウムもしくは塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウム、もしくは硝酸マグネシウム、またはそれらの混合物である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記無機塩が、硝酸マグネシウムである、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
難溶性の消毒成分を可溶化するために配合されている、請求項1から28のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項30】
非常にわずかしか溶けない(0.1~1mg/ml)、わずかしか溶けない(1~10mg/ml)、やや溶けにくい(10~33mg/ml)、溶ける(33~100mg/ml)、および/または溶けやすい(100~1000mg/ml)消毒成分を可溶化するために配合されている、請求項1から29のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項31】
ミセルが約4~約30nmまたは約20~約50nmの範囲のサイズを有する、請求項1から30のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項32】
前記表面が非孔質表面である、請求項1から31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
前記表面がテーブルである、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記表面が多孔質表面である、請求項1から31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項35】
前記表面が歯である、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
根管内の細菌および/または細菌産物を阻止または排除するのに使用するための歯内洗浄剤ミセル組成物であって、
a.リン脂質と、
b.非イオン性界面活性剤と、
c.過酸化水素と、
d.芳香族カルボン酸および/または芳香族ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸および/または芳香族ヒドロキシカルボン酸および/または芳香族ジヒドロキシもしくはトリヒドロキシモノカルボン酸もしくはジカルボン酸と
を含み、1分未満の接触時間内に根管から細菌を阻止または排除する、組成物。
【請求項37】
pHが約4~約8である、請求項36に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年2月28日に出願された米国仮出願第62/983,283号の優先権を主張する。この仮出願は、参照することによってその全体が本出願に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、安定なミセル消毒剤に関する。態様において、本発明は、殺結核菌、殺ウイルス、殺真菌および/または殺細菌効力接触時間が短い、皮膚に優しい添加剤を含有する非腐食性の安定なミセス消毒剤に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
ヒトの疾患のうち、約36%は細菌性、33%はウイルス性、6%は真菌性、25は寄生虫性である。抗ウイルス薬は全てのウイルス性疾患を治癒させることができるとは限らないので、消毒によるその場での疾患の予防が促された。消毒は、1676年ごろにLeeumenhoekの研究によって始められ、欧州連合だけでも250種を超える有効成分が報告されている。しかし、これらの有効成分のうち頻繁に使用されているのは、約100種のみである。特定の用途においては、物理的および化学的特性がそれらの使用を制限している。厳しい規制上の要件もまた、毒性または環境への残留性に起因して、それらの量または最終的にはそれらの使用を制限している。加えて、現在の要件では、消毒剤が良好な保存寿命、広域スペクトルの殺生物活性、適合性および短い接触時間を有することが要求される。
【0004】
液体消毒剤は典型的には、分子溶液およびヒドロトロープ溶液からなる。分子溶液は、各分子が液体中で自由にかつ会合せずに運動する成分の液相中混合物、例えば、高濃度アルコール溶液である。ヒドロトロープ溶液は、酸、アルコールおよびヒドロトロープと名付けられた界面活性成分の混合物を含有し得る。
【0005】
最も使用されている市販の消毒剤には、いわゆる第四級アンモニウム化合物(QUAC)、ハロゲン放出化合物、アルデヒド、アルキルアルコール、フェノール類、過酸化物、ビグアナイド、ジアミジンなどがある。しかし、製剤中に使用される典型的な有効成分は高濃度で存在して、死滅させるまたは不活性化するのが困難な微生物、例えば、マイコバクテリアに対して、妥当な接触時間で有効である必要がある。
【0006】
例えば、過酸化水素を3%より高い過酸化水素濃度で含有する市販の消毒剤が腐食性および刺激性である傾向があることは、公知である。アルデヒドを含まない組成物は、全て重量で10~20%のQUAC、5~15%のフェノキシアルコールおよび3~10%のアミノアルキルグリシンを含む。アルデヒドをベースとする場合、典型的な消毒剤は、5~15%のグルタルアルデヒド、7~11%のホルムアルデヒドおよび依然として2~6%の量のQUACからなる。アルキルアルコールをベースとする製剤は典型的には、有効であるために、高いアルコール濃度を含む。分子の溶解性が低下すると、それらの殺生物効力が増加することが認められている。例えば、パラベン(アルキルパラ-フェノール誘導体)、フェノール誘導体およびコールタール化学物質。周知の消毒用化学物質であるトリクロサンもまた、実質的に不溶性である。このような不都合のため、それらは、中レベルおよび高レベルの消毒剤の配合にそれらを使用するのに好適でない可能性がある。
【0007】
消毒剤を頻繁に使用すると環境に残留物が残されて、環境および健康への懸念が生じるので、消毒剤は安全要件を満たさなければならない。表面での使用に基づき、それらは、皮膚または粘膜との接触頻度に応じて、非侵襲的、半侵襲的および侵襲的と類型化される。研究から、次亜塩素酸ナトリウム、QUAC、塩素ガスおよびグルタルアルデヒドをベースとする殺生物剤が、最も多くの労働衛生上の疾病の原因であったことが示されている。
【0008】
接触皮膚炎もまた、公知の市販消毒剤中に存在するアニオン界面活性剤によって引き起こされる可能性がある主要な懸念事項である。
【0009】
このような化学物質の量を減少させるために、化学物質と抗生物質との混合物が、消毒剤製剤のために考案されている。しかし、数十年にわたって抗生物質と消毒剤を頻繁に使用すると、微生物が耐性を生じることが現在、十分に実証されている。変異によるこの獲得耐性には、一部の微生物の既存の固有耐性に加えてさらなる消毒上の課題がある。結核(TB)は、多剤耐性菌により大発生が再び起きているこれらの場合の1つである。TBは、2017年には約160万人が死亡したことを考慮に入れて、世界の死因のトップ10の1つとされている。カンジダ・アウリス(Candida auris)は、現在懸念されている新興真菌病原体であって、ほぼ全世界に広がっており、多剤耐性および消毒剤に対する耐性を有する。細菌耐性を予防するまたは遅延させるために、in vivo治療は併用療法の使用で構成される。医療施設の消毒では、一定期間にわたって消毒剤をローテーションすることが事実上義務づけられている。
【0010】
医療用途のための現在公知の消毒技術は、加速過酸化水素(AHP)を含み、これは、過酢酸+過酸化水素、グルタルアルデヒド、過酸化水素、過酢酸、オルト-フタルアルデヒド、および2%活性化過酸化水素を含み得る。AHPの欠点は、腐食を含む材料(基材)適合性に対する、および製剤がある特定の有機材料に浸透できずに、ある特定の微生物へのアクセスが制限される可能性があることに対する懸念である。
【0011】
現在の市販加速化過酸化水素(AHP)技術は、希過酸化水素溶液(0.5~2%)をリン酸/ホスホン酸の塩およびアルキル-アリールスルホン酸塩型のアニオン性界面活性剤と組み合わせたものを使用する。
【0012】
しかし、ドデシル硫酸ナトリウムのような界面活性剤およびさらには、現在のAHP製剤に使用されるもののような非イオン性エトキシレート界面活性剤は、細胞膜全体の構造を軟化させ、長期曝露により皮膚刺激作用をもたらし得る。例えば、アルキルアリールスルホン酸塩は、皮膚上に残留物が残された場合に軽度の刺激性があることがわかっており、刺激作用を予防するために特殊な製剤を必要とする。QUAC、活性殺生物剤および界面活性成分もまた、皮膚を損傷または刺激することが報告されている。
【0013】
一部の市販の消毒剤は、過酢酸+過酸化水素、グルタルアルデヒド、オルト-フタルアルデヒドを含む他の成分と共に、過酸化水素を2%の濃度で含有するが、腐食を含む材料(基材)適合性に対する、およびこのような製剤がある特定の微生物の細胞膜または細胞壁を破壊できない可能性があることに対する懸念がある。これらの技術のほとんどは、皮膚刺激を引き起こすことが公知であるアニオン性界面活性剤を使用する。
【0014】
ほとんどの消毒剤の課題は、使用者にとって比較的穏やかで、時間が経っても安定性であることができかつ製剤に曝露される基材に対して腐食性がない、製剤を使用して、消毒剤と基材との短い接触時間後に、微生物の数の(および広範囲の微生物に対する)大幅な減少を達成することである。保存剤は、微生物のあらゆる潜在的増殖を回避するために保護される材料と継続的に接触していることが意図されるので、消毒の課題は、接触時間が問題とならない保存剤の課題とは異なる。
【0015】
したがって、短い殺結核菌、殺ウイルス、殺真菌および殺細菌効力ならびに短縮された接触時間を有する、皮膚に優しく、非腐食性で、安定なミセル消毒剤を提供する必要性がある。
【0016】
根管中の組織が傷つけられているまたは感染している場合は常に、普通は根管治療が必要とされる。根管治療を確実に成功させるためには、細菌などの微生物による感染症およびエンドトキシンなどの細菌産物の予防または排除が望まれる。その上、細菌は歯の内腔を占有する軟組織を破壊する可能性があり、歯根から周囲の骨に漏れ出す可能性もある。根管治療は、根管から細菌および有機物を除去し、次いで、細菌の侵入および周辺組織への刺激を防ぐために内腔に充填を行うことによって、実現される。
【0017】
根管治療には、根管部から組織、壊死組織片および/または微生物を除去するために根管腔に送達される歯内洗浄剤の使用が必要である。したがって、望ましい歯内洗浄剤は、不要な組織および壊死細胞片を除去するための好適な機械的特性ならびに微生物感染症を予防または排除するための好適な生物学的/化学的活性を有するべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
公知の歯内洗浄剤は、高濃度の活性物質の使用に依拠する。公知の溶液は、好適な機械的特性と好適な生物学的/化学的活性の両方を有する組成物に対する必要性に対処しないので、最適ではない。次亜塩素酸ナトリウムは歯内洗浄剤によく使用されているが、不注意に組織に送達される場合またはそれが治療領域から漏れる場合には、その関連する毒性のため、望ましくない可能性がある。歯内洗浄剤の役割は、根管における感染症を予防または排除することであり、それらはそのための化学的、機械的および生物学的活性を有するべきである。これらの3つの要件は、高い活性物質濃度に基づく、現在利用されている洗浄剤溶液では満たすことができない。例えば、次亜塩素酸ナトリウム、EDTA、クロルヘキシジン、クエン酸など。次亜塩素酸ナトリウムは、依然として最もよく使用されている歯内洗浄剤であり、使用シェアの約91%を占める。しかし、次亜塩素酸ナトリウムには、不注意に組織に送達される場合または流体が治療領域から漏れる場合には、生組織に重篤な作用を生じるその毒性と関連する弱点がある。その結果、最適な洗浄活性要件:化学的、機械的および生物学的要件を達成することができる生体適合性洗浄剤が必要とされる。より具体的には、これらの3つの特性により、洗浄剤は、壊死組織を溶解させることができ、不要な組織および壊死組織片を取り除く能力を有することができ、臨床的に関連する時間枠内で広域スペクトルの抗菌活性を有することができ、低毒性であることができる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の概要
本開示は、約1分以内の表面接触時間内に表面からマイコバクテリア、細菌、真菌およびウイルスを含む1種または複数種の微生物を排除するためのミセル組成物であって、生体模倣型リン脂質および非イオン性界面活性剤ならび場合により他の成分を含み、約0.3~8のpHを有する、ミセル組成物に関する。一態様において、本発明は、硬い無生物表面だけでなく、歯内治療用途のために組織にも適用される、100%バイオベースの(再生可能な)生分解性無毒成分を含む。
【0020】
本発明の一実施形態は、難溶性の消毒剤を可溶化する能力を有する、等方性で水性のリン脂質をベースとするミセル組成物を含む消毒剤を提供することである。一実施形態において、組成物は、非常にわずかしか溶けない(0.1~1mg/ml)、および/またはわずかしか溶けない(1~10mg/ml)、および/またはやや溶けにくい(10~33mg/ml)成分を有するように配合されたミセル溶液を含む。別の実施形態において、溶ける(33~100mg/ml)、および/または溶けやすい(100~1000mg/ml)成分と組み合わせた、非常にわずかしか溶けない、および/またはわずかしか溶けない、および/またはやや溶けにくい成分は、消毒プロセスにおいて相乗的に作用する。
【0021】
硬表面のための消毒用液体ミセル組成物であって、リン脂質界面活性剤および非イオン性界面活性剤、例えば、脂肪酸のポリグリセリルエステルもしくはアルキル(C8~C18)エトキシレート(4~16)界面活性剤もしくはそれらの多分散混合物、またはアルキル多糖類、例えば、D-グルコピラノース、ソルビタンエステルのオリゴマー性デシル-オクチルグリコシドもしくはポリオキシエチレン誘導体、例えば、POE(20)ソルビタンモノパルミテートもしくはPOE(20)ソルビタンモノオレエートを含み、非常にわずかしか溶けない、わずかしか溶けないおよび/またはやや溶けにくい成分と、ミセル組成物の総重量の0.05~2.5w/w%の範囲の濃度の過酸化水素とを有することができる、組成物を提供することである。
【0022】
本発明の一実施形態は、疎水性成分の組合せを提供することである。一部の態様において、製剤中の疎水性成分は、最大殺生物効力を生じるミセルの最大可溶化能力近くの、熱力学的に安定で透明な水中油型の等方性ミセル溶液を生成するのに十分な濃度に保持される。一部の態様において、疎水性成分は、防食剤および/または相乗的殺生物剤として機能することが意図される。好ましい一実施形態において、成分は、アスパラギン酸(防食剤)、ベンゾトリアゾール(防食剤)、安息香酸(相乗的殺生物剤)、ヒドロキシアルキルフェニルエーテル(相乗的殺生物剤)またはそれらの組合せを含むことができる。
【0023】
本発明の一実施形態は、高速で1分間で殺ウイルス、殺細菌、殺結核菌(M.テラエ(terrae))および殺真菌効力を生じることができるミセル系であって、皮膚に優しい添加剤および食品産業において使用される成分を含有し、3%未満の低い過酸化水素濃度を有する、ミセル系を提供することである。
【0024】
本発明の一実施形態は、アルキルアミドプロピル-プロピレングリコール-ジモニウムクロリドリン酸型の生体模倣型リン脂質(生分解性で皮膚に優しい)およびアルキルポリグリセロールモノエステルで製造された水中油型等方性水性(水80~98%)ミセル組成物を提供することである。本発明の一実施形態は、サイズが約4~約30nmまたは約20~約50nmの範囲である、水中油型等方性ミセル溶液の多分散混合構造を含む組成物を提供することである。生体模倣型であるため、これらのリン脂質は生分解性であり、皮膚に優しい。
【0025】
本発明の一実施形態は、水への溶解性が限定された成分をミセル構造に組み込むことである。この枠組み内で、やや水に溶けにくいまたはほとんど水に溶けない化学物質を、それらの単一の水溶解性を超えてまたは他の化学物質とのそれらの最大複合水可溶化を超えて等方性溶液に組み込むことができる。これらの化学物質としては、芳香族カルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸、芳香モノヒドロキシカルボン酸、芳香族ジヒドロキシカルボン酸、芳香族トリヒドロキシカルボン酸、直鎖飽和アルキルジカルボン酸、直鎖不飽和ジカルボン酸、アミノ酸ならびにアルコール、例えば、フェノキシエタノールおよびフェネチルアルコールが挙げられる。一部の態様において、水への溶解性が限定された活性殺生物剤の濃度の増加は、製剤の殺生物効力の増加と相関する。
【0026】
本発明の一実施形態は、条件に応じて異なる自己集合をする、ナノメーター規模の等方性ミセル溶液を提供することである。特定の実施形態において、わずかしか溶けないおよび/もしくはやや溶けにくい、ならびに/または溶けるおよび/もしくは溶けやすい化学物質と関連した自己集合構造は、異なる側面、例えば、成分の性質、濃度、溶液中における化学物質の分配、ミセルの剛性、微生物の剛性、化学物質の解離、pH、化学物質のオクタノール-分配係数およびとりわけ、化学物質の溶解性の相互作用の結果として、異なる殺生物効力を生じる。
【0027】
安定性、殺生物効力または皮膚および/もしくは表面(多孔質または非孔質表面)との適合性を達成するために、本発明の一実施形態は、ベンゾトリアゾール、EDTAナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸リチウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウムおよび硫酸マグネシウムを含む、防食性の有機および無機塩を組成物の総重量に対して0.001~1%w/wの範囲の濃度で提供することである。
【0028】
本発明の一実施形態は、特に4以下の低pH範囲に対しておよび組成物の総重量に対して0.01~2.9%w/wの過酸化水素の存在下で、ベンゾトリアゾールと硝酸マグネシウムの混合物の相乗的な防食効果を有する組成物を提供することである。
【0029】
本発明の一実施形態は、物理的および化学的に不安定になり得る、ある範囲の成分および/またはそのような種類の成分を含む組成物を提供することである。物理的不安定性は、ある特定の条件下でミセル構造を形成できない製剤および/または相分離を受け得る製剤に関連する。後者は、その中の化合物が化学反応を起こして、製剤の効力が減少するように異なる化合物を形成する組成物を指す。本発明の一実施形態において、紙または疎水性ワイプ、例えば、ポリプロピレンに注ぐまたは噴霧することができる、直ぐ使用できる物理的および化学的に安定な消毒剤組成物が提供される。
【0030】
本発明の一実施形態は、短い消毒接触時間(1分未満)でマイコバクテリア、細菌、真菌を死滅させかつウイルスを不活性化するのに有効な水性等方性ミセル組成物であって、約0.3~8のpHを有する組成物を提供することである。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、アルキルアミドプロピル-プロピレングリコール-ジモニウムクロリドリン酸型の生体模倣型リン脂質を含む組成物が提供される。一部の実施形態において、アルキルアミドプロピル-プロピレングリコール-ジモニウムクロリドリン酸の濃度は、ミセル組成物の総重量に対して約0.3~5%(w/w)の濃度である。
【0032】
一実施形態によれば、リン脂質は、ミリスタミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸もしくはコカミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸もしくはリノールアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸またはそれらの組合せである。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも脂肪酸ポリグリセリルエステルをさらに含むミセル組成物が提供される。一部の実施形態において、脂肪酸ポリグリセリルエステルは、ミセル組成物の総重量の0~8%w/wの濃度である。一実施形態によれば、脂肪酸ポリグリセリルエステルは、(カプリル酸/カプリン酸)ポリグリセリル-10もしくは(ラウリン酸/セバシン酸)ポリグリセリル-4および(カプリル酸/カプリン酸)ポリグリセリル-4もしくは(ラウリン酸/セバシン酸)ポリグリセリル-4および(カプリル酸/カプリン酸)ポリグリセリル-6またはそれらの組合せである。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、少なくともアルキル(C8~C18)エトキシレート(4~16)界面活性剤もしくはそれらの多分散混合物、またはアルキル多糖類、例えば、D-グルコピラノース、ソルビタンエステルのオリゴマー性デシル-オクチルグリコシドもしくはポリオキシエチレン誘導体、例えば、POE(20)ソルビタンモノパルミテートもしくはPOE(20)ソルビタンモノオレエートをさらに含むミセル組成物が提供される。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、非イオン性界面活性剤がミセル組成物の総重量の0~10%w/wの濃度である、ミセル組成物が提供される。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、過酸化水素をミセル組成物の総重量に対して約0.1~2.9%w/wの濃度でさらに含むミセル組成物が提供される。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも芳香族カルボン酸および/または芳香族ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸、および/または芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジヒドロキシモノカルボン酸もしくはジカルボン酸を、ミセル組成物の総重量に対して約0.01~1%w/wの濃度でさらに含む組成物が提供される。この実施形態によれば、好ましい芳香族カルボン酸は安息香酸である。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも飽和アルキルモノ、ジもしくはトリカルボン酸および/または不飽和アルキルジカルボン酸、および/または飽和アルキルモノ、ジもしくはトリヒドロキシモノ、ジもしくはトリカルボン酸を、ミセル組成物の総重量に対して約0.01~5%w/wの濃度でさらに含む組成物が提供される。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも、ミセル組成物の総重量に対して0.5~5%w/wの芳香族グリコールエーテルをさらに含む組成物が提供される。一実施形態によれば、芳香族グリコールエーテルはフェノキシエタノールである。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、ベンゾトリアゾールを、ミセル組成物の総重量に対して約0.01~1%w/wの濃度でさらに含む組成物が提供される。一実施形態において、ベンゾトリアゾールは、防食剤として十分な量である。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、防食剤および/またはキレート剤および/またはpH調整剤および/またはコスモトロープとして機能する有機塩を、ミセル組成物の総重量に対して約0.01~2%w/wの濃度でさらに含む組成物が提供される。一実施形態によれば、有機塩は、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、例えば、クエン酸リチウム、クエン酸ナトリウムもしくはクエン酸カリウム、クエン酸カルシウムもしくはクエン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウムもしくは安息香酸カルシウム、EDTAナトリウム、もしくは酢酸マグネシウム、またはそれらの混合物である。一実施形態によれば、塩はクエン酸ナトリウムである。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、相乗的殺生物剤として作用する無機塩をさらに含む組成物が提供される。本発明の一実施形態によれば、無機塩は、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウムもしくは塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウムまたはそれらの混合物である。
【0043】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも、ミセル組成物の総重量に対して約0.5~5%w/wの芳香族グリコールエーテルをさらに含む組成物が提供される。一実施形態によれば、芳香族グリコールエーテルはフェノキシエタノールである。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、ベンゾトリアゾールをミセル組成物の総重量に対して約0.01~1%w/wの濃度でさらに含む組成物が提供される。
【0045】
本発明の一実施形態によれば、相乗的殺生物剤として作用する無機塩をさらに含む組成物が提供される。本発明の一実施形態によれば、無機塩は、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウムもしくは塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウムまたはそれらの混合物である。一実施形態によれば、塩は硝酸マグネシウムである。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、表面を消毒してマイコバクテリア、細菌、真菌およびウイルスのうちの1種または複数を除去するための方法であって、請求項1から23のいずれか1項に記載の組成物を表面に適用して、1分未満の表面接触時間内に前記表面を消毒してマイコバクテリア、細菌、真菌およびウイルスのうちの1種または複数を除去することを含む、方法が提供される。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、1分未満の表面接触時間内に表面を消毒してマイコバクテリア、細菌、真菌およびウイルスのうちの1種または複数を除去するための、組成物の使用が提供される。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、生体適合性および生分解性である、歯内洗浄のためのミセル組成物が提供される。一態様において、組成物のミセルの性質により、望ましい化学的、機械的、生物学的な洗浄特性を達成するための製剤の修正が可能になる。
【0049】
一態様において、ミセル組成物は、生理的pH範囲(7.35~7.45)により近いpHで製剤化して、依然として著しい殺生物効力を有し、歯内洗浄に好適でありながら、組織損傷を予防することができる。
【0050】
一実施形態において、本開示の歯内洗浄剤組成物の殺細菌力価は、水に難溶性の成分の活性物質濃度をこれまで使用されていないレベルまで増加させることによって、増加させることができる。
【0051】
これらの実施形態内において、本開示の歯内洗浄剤組成物は、微生物感染症を予防または排除することができる。これは、低減された量で相乗的に作用することもできるミセル構造成分の性質により、ミセル組成物を、依然として生体適合性でありながら、所望の化学的、機械的および殺生物活性に関して調整することができるためである。
【0052】
これらの実施形態内において、壊死組織の除去を促進するように調整されたレオロジー特性およびぬれ挙動を有する歯内洗浄剤組成物を製造することができる。同様に、製剤の表面張力は、流体が、アクセスできない部位に流れ込んで壊死組織を除去できるように調整することができる。
【0053】
一態様において、歯内洗浄剤組成物は、金属表面に対して依然として腐食性がないまたは腐食性が軽度でしかない一方で、約3%などの高い過酸化水素濃度を含むことができる。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、根管内の細菌および/または細菌産物を阻止または排除するのに使用するための歯内洗浄剤ミセル組成物であって、リン脂質と、非イオン性界面活性剤と、過酸化水素と、芳香族カルボン酸および/または芳香族ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸および/または芳香族ヒドロキシカルボン酸および/または芳香族ジヒドロキシもしくはトリヒドロキシモノカルボン酸もしくはジカルボン酸とを含み、1分未満の接触時間内に根管から細菌を阻止または排除する、組成物が提供される。一態様において、歯内洗浄剤ミセル組成物のpHは、約4~約8である。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、根管を消毒する方法であって、歯を歯内洗浄剤ミセル組成物と接触させることを含む、方法が提供される。
【0056】
本発明の一実施形態によれば、1分未満の表面接触時間内に根管を消毒して細菌を除去するための、歯内洗浄剤ミセル組成物の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】種々の界面活性剤濃度を有する例示的な溶液の位相スキャンを示す図である。
図2】種々の濃度のフェノキシエタノール(OH)および安息香酸(BA)の濃度に関して界面活性剤濃度%Sを示すグラフである。
図3】種々の界面活性剤濃度に対する、ミセルの有効径を示すグラフである。
図4】表VIIIに記載された製剤の、裸アルミニウムに対する腐食速度を示すグラフである。
図5】表VIIIに記載された製剤の、陽極酸化アルミニウムに対する腐食速度を示すグラフである。
図6】表Xに記載された製剤の、裸アルミニウムに対する腐食速度を示すグラフである。
図7】表Xに記載された溶液中における17時間の浸漬試験後の裸アルミニウムクーポンを示す図である。
図8】表Xに記載された製剤の、陽極酸化アルミニウムに対する腐食速度を示すグラフである。
図9】表Xに記載された溶液中における17時間の浸漬試験後の陽極酸化アルミニウムクーポンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
詳細な説明
以下、本発明の例示的な実施形態について詳細に言及するが、その例は添付の図面に示されている。可能な限り、図面全体にわたって使用される同一の参照番号は、同一のまたは同様の部分を指す。
【0059】
例示的なリン脂質界面活性剤
本発明の軟質ナノ粒子構造物は、表Iに記載した界面活性剤を使用して形成することができる。リン脂質は皮膚および毛髪に適用する場合、低刺激性であり、あらゆるタイプの皮膚に好適であり、一方、脂肪酸ポリグリセリルエステルは、化粧品業界において、目元の製品には約24%の濃度で、リップスティック製剤には約40%の濃度で使用されていることが報告されている。
【0060】
【表1】
【0061】
溶解性の研究
可溶化が困難な物質の溶解性は、他の溶質の存在の影響を受ける可能性がある。安息香酸およびフェノキシエタノールの純水への溶解性はそれぞれ、約0.33および2.6%w/wであるが、本発明者らの研究は、安息香酸が標準状態(25℃)において2.5%w/wのフェノキシエタノールを含有する水溶液中にはわずか約0.13%しか溶解しないことを示している。これは、安息香酸の溶解性が約55%低下したことを意味する。安息香酸の溶解性を0.29%まで引き上げるために、2.5%のポリフェノキシエタノールを含有する水溶液中に、ミリスタミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸(Arlasilk PTM)を、組成物全体の約1.4%w/wの量で含ませる。溶液の混合溶解性の増加は、界面活性剤が自己集合してミセルを形成し、両化学物質、安息香酸およびフェノキシエタノールを部分的または完全にその構造体中に吸収することに起因する。
【0062】
2.5%フェノキシエタノールおよび水から構成される同一溶液中の安息香酸の量を増大させることがさらに必要な場合には、界面活性剤濃度も増加させて、相分離を回避しなければならない。ミセル溶液中における相分離を回避するための最小界面活性剤量は、最適表面活性剤濃度と称され、ミセル水溶液中に存在する、可溶化が困難な化学物質の量によって異なる。この最適量は典型的には、当業者に公知の位相スキャン研究を行うことによって見出される。
【0063】
脂肪酸のポリグリセリルエステル(0.2%)、過酸化水素(0.5%)、クエン酸(0.3%)、マンデル酸(0.6%)、安息香酸(0.25%)、フェノキシエタノール(2%)、硝酸マグネシウム(0.05%)およびベンゾトリアゾール(0.15%)の水溶液の場合、界面活性剤Arlasilk PTMの最適濃度は、図1に示されるように、約1.25%である。ミセル溶液が相分離をしない、またはある特定の温度変動によりもしくは時間が経つにつれて白濁溶液を示す場合、それを物理的に安定であると考える。
【0064】
等方性最適ミセル溶液が得られても安定性は保証できないことに留意すべきである。同様に、時間が経つにつれて、等方性溶液は、典型的には酸化時に色の変化を示し、したがって、化学的に安定ではない可能性がある。このため、組成物は、安定した状態を保つように製剤化し、かつ/または組成物は、反応しないかまたは非常にゆっくり反応する。
【0065】
前述の実施形態において、0.1%w/wから1%w/wまで変動する安息香酸の濃度を除く全ての濃度が保持される場合、ミセル溶液の、界面活性剤濃度の最適量は、安息香酸濃度の増加につれて増加する。同様に、同じ実施形態において、1.5%w/wから3%w/wまで変動するアルコールの濃度を除く全ての量が再び保持される場合、最適界面活性剤濃度はまた増加する。両方の事例を、図2に示す。
【0066】
安定性の研究
前記状況に加えて、消毒剤製品の安定性もまた、有効成分および非有効成分の蒸発の影響を受ける可能性がある。これは、溶液の濃度変化が、それらの殺生物効力を劇的に低下させる可能性があるためである。実際に、塩素および商業用途のほとんどのアルキルアルコールの場合がそうである。組成物は、水に非常にわずかしか溶けない状態から、水に溶けやすい状態までの範囲の固体有機酸の組合せからなる。一部の組成物は液体有機酸からなることもあるが、それらは100℃超の沸点を有する。
【0067】
公知の液体消毒剤は界面活性剤を含むことがある。一部の界面活性剤は、ポリマー材料の環境応力亀裂(ESC)を引き起こすことが公知である。ESCは、市販製品を収容するために使用される熱可塑性非晶質ポリマーの破損の最も一般的な原因である。消毒剤溶液の固有安定性またはそれらの容器と関連するそれらの安定性または容器自体の安定性を評価するためには、パッケージ化された試料を一定期間:典型的には1~3年にわたって保存する必要がある。新しい製品の導入および開発を容易にするために、促進安定性試験が確立されている。一般に認められている方法は、製品候補または製品を、短縮された期間にわたって、制御された環境条件下で高温に曝露することで構成される。実時間と促進老化時間との相関を、ASTM F1980-16によって確立されているようにして、アレニウス型の式を使用して計算する。ほとんどの規制機関では、55℃に15日間供された試料は、1年の実時間保存条件に相関する。特定の製剤の最適条件を確立したら、高密度ポリエチレンボトル中にシールされた、この研究において列挙されている組成物の物理的および化学的完全性を55℃において15日間および30日間という加速的条件下で評価した。試料を、3日毎に取り出し、それらの物理的および化学的安定性を、有効成分の滴定(過酸化水素の減少<5%)、濁度、酸化還元電位(ORP)、導電率およびpHによって評価した。ボトルを、目視観察によって評価した。これらの評価から、ボトルがESCの徴候および漏れのない状態に保たれながら安定である最適界面活性剤濃度を確立した。表IIは、このような試験の典型的な記録を示している。網掛けのあるセルは溶液が物理的または化学的に不安定であった日数を表し、網掛けのないセルは、溶液が安定な状態に保たれかつボトルが著しい構造的または視覚的変化がない状態に保たれた日数を表している。これらの評価から、本技術において提示された科学技術は、2年を超える保存寿命を有するであろう組成物を生成する。
【0068】
【表2】
【0069】
粒子サイズの特性決定
Brookhaven Instrumentsの90Plus/Bi-masナノ粒子サイズ分析器を使用して、動的光散乱(DLS)を使用して、ミセルを特性決定した。2から3.25%まで(他の成分は一定のままである)の界面活性剤濃度の変動に伴う製剤VIIIの粒子サイズの変動(表IVに記載)を測定した。分析は、界面活性剤の濃度に応じて、粒子サイズが約8.5~14nmの範囲の膨潤ミセルの中程度(0.1~0.4)~広い(>0.4)の多分散混合物の形成を示している。図3は、界面活性剤濃度が異なる各点に関して、6つの測定値の平均である、有効径を示している。
【0070】
殺生物効力
本発明による製剤の殺生物効力を評価するために、カナダ保健省(Health Canada)および環境保護局(EPA、Environmental Protection Agency)によって要求されている方法を使用して、製剤を試験した。これらの方法は一般に、表IIIに示すように、公認分析化学者協会(AOAC、Association of Official Analytical Chemists)および米国材料試験協会(ASTM、American Society for Testing and Materials)によって開発されたものを含む。合格判定基準および試験条件は、前述の規制機関によって確立されたものであった。試験生物、方法、微生物の低減および保菌者の数についての要約を、表IIIに示す。表IIIによる、この研究の効力試験の結果は全て、室温条件で行った。
【0071】
【表3】
【0072】
M.テラエは、殺結核菌性のための試験微生物である。表IIIの最後の縦列は、試験に合格するための、消毒後の増殖(+)を示すプレートの最大数を指す。広域スペクトルの殺ウイルス効果については、米国においてはlog 3の減少が要求され、カナダでも、log 3の減少が要求されるが、ウイルスの完全な不活性化が要求される。
【0073】
殺結核菌効力
表IVは、M.テラエに対する殺結核菌効力を伴う、過酸化水素を同様の量(0.5%)で含有する、本発明による組成物例を示している。やや溶けにくい化合物、フェノキシエタノールの使用は一般に、より良好な効力と相関することが認められる(製剤I~III)。しかし、このアルコール量をより多くしても、製剤が化学物質の適切な組合せを含有しない場合、例えば、製剤IIIを製剤IV~VIIIのいずれかと比較した場合、アルコール量がより少ない他の場合よりも良好に機能することは必ずしも保証されない。製剤VI~VIIIにおいて示されるように、このアルコールとわずかしか溶けない酸、例えば、安息香酸との組合せが、表IIIにおける確立された評価基準、すなわち、1分の接触時間、全てのキャリアにおける陽性が0および4超のlog減少に合致する殺結核菌効果を提供することが認められる。
【0074】
【表4】
【0075】
殺ウイルス効力
種々の微生物の種々の消毒剤に対する感受性は、それらの構造および生理学的作用によって異なる。消毒剤に対するそれらの固有耐性は伝統的に、耐性の高いものものから低いものへ、プリオン>胞子>マイコバクテリア>小型ノンエンベロープウイルス>真菌胞子>グラム陰性細菌>栄養型真菌>大型ノンエンベロープウイルス>グラム陽性細菌>エンベロープウイルスとして分類されている。したがって、同じ消毒接触時間の場合、表IIIの評価基準に従えば、マイコバクテリウム属(Micobacterium)菌株に対して効果的な製剤は、ノンエンベロープウイルスおよび真菌に対してより効率的である、または少なくとも同程度に効率的であることが予想されるであろう。しかし、表II中のマイコバクテリア・テラエ(Micobacterium terrae)に対して効率的な製剤のほとんどは、表Vに示されるように、接触時間が同じ場合(1分)、ポリオウイルスに対しては有効でない。このことは、マイコバクテリウム属菌株に対する酸とアルコールの有効な組合せは、このようなウイルスに対して有効でない、または十分でないことを示唆しているであろう。典型的には、水に非常にわずかしか溶けない~水にやや溶けにくい有機酸は、高いオクタノール-水分配係数(log P)を有する傾向があるのに対し、溶ける~溶けやすい有機酸は低いlog Pを有する傾向がある。驚いたことに、表IVの製剤スキームを参照とした場合、マイコバクテリアに対する酸とアルコールの有効な組合せ+水への溶解性が比較的高いかつ比較的高いlog Pを有するという、拮抗的に見える挙動を示す酸、例えばマンデル酸およびジカルボン酸は、製剤VIII、XIIおよびXIIIに示されるように、製剤を、ポリオウイルスに対しても有効にする。マンデル酸の、補足的なジカルボン酸に対するこの比は、約2が効率的であることが示されている。製剤XVおよびXVIIIから、わずかしか溶けない酸、例えば、安息香酸の存在が製剤の殺ウイルス効力も増加させることが認められる。加えて、これらの組合せは、有機塩、例えば、クエン酸ナトリウムを含む。この枠組み内でより高いアルコール濃度(>2%)は、処方XXに見られるように、製剤の殺ウイルス効力を妨げることも注目される。処方XIXで認められるように、溶液のpHを4近くまで増加させても、溶液が有効でなくなることも注目される。
【0076】
【表5】
【0077】
殺真菌効力
最近では、トリコフィトン・インテルディジタレ(Trichophyton interdigitale)によって引き起こされる新興真菌感染症が、ヒトにおける皮膚糸状菌症の主な原因となっている。しかし、栄養型の真菌、例えば、T.インテルディジタレは、非芽胞性細菌よりも殺細菌剤に対して耐性が大きいことが一般にわかっている。これらの微生物の固有耐性は、さらに架橋されていることもあるキチン、グルカンおよびポリマーでできているそれらの細胞壁による。このことから、殺細菌接触時間をはるかに短くできた場合であっても、殺真菌効力接触時間は4分以上であることが確認された。表VIは、T.インテルディジタレ(カナダおよび米国における殺真菌性主張のための試験生物)に対して、1分の接触時間内に効果的である例示的な組成物を示している。
【0078】
【表6】
【0079】
殺細菌効力
細菌の消毒は一般に、ウイルスの不活性化よりも容易に達成されると考えられる。しかし、細菌は多種多様であり、最も適応性の高い微生物の1つである。細菌は文字通り、抗生物質および殺生物剤に対して感受性が低くなるように訓練され得ることが言及されており、これは、持続的な環境ストレスまたは不良な消毒の実施によって発生する事実である。このような最終的な問題を解決するために、本開示は、必要な接触時間および細菌の最終的な獲得耐性に応じて活性物質の濃度を増加させることによって、殺細菌力価の調節を可能にする。表VIIは、1分以内に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する殺細菌効力を可能にする例示的な組成物を示している。これらの組成物中の、このような効力を可能にするこの具体例における活性物質は、フェノキシエタノールおよび/または過酸化水素であることに留意すべきである。フェノキシエタノールは、ミセル技術を使用して初めて、水の持続的な環境に一定レベルを超えて組み込むことができるので、技術的な制限がある。過酸化水素は、その安定性および適合性が制御される場合にのみ、特定の量で添加することができるので、実際的な制限がある。
【0080】
【表7】
【0081】
腐食および防食効果
過酸化水素および酸は典型的には、金属の貴卑性(nobility)に応じて、金属に腐食を引き起こす。貴卑性のチャートにおいて金属順位が高いほど、腐食に対して耐性がある。裸アルミニウムは、このような表において順位が低いことは公知である。したがって、裸アルミニウムは、これもまた貴卑性のチャートに基づき他の材料に対する適合性参照を提供するので、適合性試験において使用するのに理想的な材料である。他方、陽極酸化アルミニウムは、異なるツールおよび装置において使用される典型的な材料である。Q-Labsから入手した裸アルミニウム(A型、ASTM:B209)および陽極処理アルミニウム(AN型、ASTM:B209)の両材料を、G031-72 ASTM浸漬試験のエミュレーションを使用して、17時間試験した。
【0082】
アルミニウムおよびほとんどのその合金は、4.5未満および8.5超のpHにおいて種々の酸の攻撃によって腐食されやすいことに留意することも重要である。本発明による一部の製剤および他の市販消毒剤が約2のpHを有することを考慮すると、腐食の評価は重要である。
【0083】
表VIIIは、防食製剤の例を示している。これらの製剤の成分は異なる相乗効果を有し得るが、以下は、コスモトロピック効果および他の役割も果たす有機および無機塩の、アルミニウムに対する防食効果を評価することを意図するものである。
【0084】
【表8】
【0085】
表IXおよび図4は、裸アルミニウムに対する製剤XX~XXIXの腐食挙動を、参照として使用される過酸化水素ベースの消毒剤製品:SaniswissのバイオサニタイザーS1(BSTZ)と比較して示している。製剤は全て、BSTZと比較して穏やかな腐食挙動を示す。とりわけ、XXIIは、製剤の全てより腐食性が低く、BSTZと比較して約1桁以内で腐食性が低い。この処方では、硝酸マグネシウムと公知の防食化合物であるベンゾトリアゾールとの組合せが、防食機能を増強していることが注目される。他の場合、例えば、製剤XXを製剤XXIと比較した場合、製剤XXIVを製剤XXVと比較した場合および製剤XXVIを製剤XXVIIと比較した場合、クエン酸ナトリウムおよびクエン酸カリウムならびに塩化ナトリウムと組み合わせて使用した場合に、ベンゾトリアゾールを含めてもより良好な防食特性が得られない可能性がある。むしろ、それは、より腐食性の製剤を生じる可能性があり、したがって、公知の防食性化学物質の使用は、製剤中の他の成分に基づいて種々の効果を有する可能性がある。いかなる理論にも限定するものではないが、全体的な効果は、特定の溶液の化学物質とその材料との間に確立される電気力学的平衡に左右され得る。
【0086】
EDTAナトリウムは単独でも、製剤に防食特性を与える。腐食防止剤としても知られるこの化学物質の、製剤への防食性寄与は上記に基づく。
【0087】
ここに示す防食剤の例は、本技術において見られる事例の全体を構成するものではなく、他の防食製剤は、単独でまたはベンゾトリアゾールならびに/またはカルシウムおよびマグネシウムの有機塩および無機塩と組み合わせて使用される、アミノ酸、トリヒドロキシ安息香酸、ジヒドロ安息香酸、グルコン酸ラクトン、ジグルコン酸クロルヘキシジン、ジカルボン酸およびトリカルボン酸の使用を含む。
【0088】
【表9】
【0089】
陽極酸化アルミニウムに対する、本技術において提示した例の腐食挙動をBSTZと比較すると、表IXおよび図5において認められるように、本技術の例は全て、BSTZよりも良好に機能することが認められる。製剤XXII、XXVおよびXXIXは、その他の組成物と比較して傑出している。その他の組成物は、第1の事例では製剤の良好な性能を達成するのに硝酸マグネシウムとベンゾトリアゾールの組合せが必要とされる一方、2つの後者の事例ではベンゾトリアゾールの存在はこれら2種の有機塩の性能を増強しないことが顕著である。むしろ、製剤XXVと比較した製剤XXIVおよび製剤XXVIIと比較した製剤XXVIから、ベンゾトリアゾールがクエン酸カリウムおよび塩化ナトリウムの防食挙動をそれぞれ奪うことが認められる。陽極酸化アルミニウムの腐食に対するベンゾトリアゾールの効果は、裸アルミニウムに関する先の事例において認められるものと類似した特徴も示し、これは、いずれの事例においても、ベンゾトリアゾールが一般に防食性材料であるという通説とは矛盾している。
【0090】
表Xに示す実施形態は、酸および過酸化水素の腐食挙動を制御できることを実証している。過酸化水素および酸の量が固定されている場合、ベンゾトリアゾールと漸増量の硝酸マグネシウムの組合せは、裸アルミニウムまたは陽極酸化アルミニウムのいずれに対しても製剤の腐食速度を低下させることが認められる。
【0091】
表XIおよび図6から、裸アルミニウムに対しては、本技術の組成物の腐食速度は、BSTZと比較して腐食性が少なくとも1桁低いことが注目される。視覚的には、図7の写真から、BSTZは連続腐食(クーポンが白化)および孔食(クーポンに孔が局在)の特徴を示すのを認めることができる。製剤XXX~XXXIIもまた、製剤XXXIII~XXXVで認められるような、徐々に制御される連続腐食の特徴を示している。
【0092】
陽極酸化アルミニウムについての同様の研究の結果は、試験前と試験後のクーポンの重量差によってもたらされる腐食速度は残余の検出能力の誤差のオーダーであるので、本技術において示される例の腐食挙動はほぼゼロであることを示している。図8および図9に示される、この試験に供した腐食クーポンの腐食速度および外観は、当技術の製剤が全て、BSTZよりも良好に機能することを示している。
【0093】
【表10】
【0094】
【表11】
【0095】
一実施形態において、例は、化粧品業界において使用される再生可能な植物由来の界面活性剤から作られた等方性ミセル溶液を、化粧品および食品業界において保存剤としても使用される他の化学物質と関連させて、生分解性で無毒性の中間レベルの消毒剤に変えることができることを開示している。
【0096】
特に、組成物は、C8~C16アルキルプロピルPGジモニウムクロリドリン酸型のミセル形成生体模倣型界面活性剤リン脂質、抗菌補助剤としてのフェノキシエタノールおよび湿潤剤としてのカプリル酸ポリグリセリルを含有する。
【0097】
組成物は、「保存剤を含まない」と考えられるほど穏やかな保存性組成物である。表IV、VIおよびVIIにおいて認められるように、保存性組成物は、0.01~2.9%の範囲の低濃度の過酸化水素、0.01~2%またはそれ以上のフェノキシエタノール(微生物によって異なる)、0.01~0.25%の安息香酸および0.01~1%のマンデル酸を抗菌剤の相乗的混合物として導入することによって、細菌およびウイルスに対して速効性の消毒溶液に変えられた。
【0098】
例はまた、アスパラギン酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸を含む、ポリカルボン酸とそれらのナトリウム塩またはマグネシウム塩の混合物からなる殺ウイルス補助剤の必要性を示している。
【0099】
抗菌剤と穏やかな保存性組成物とを組み合わせると、接触時間が1分の殺細菌剤、殺ウイルス剤、殺真菌剤および殺結核菌剤(M.テラエに対する)として有効な消毒製剤が生成された。一部の実施形態において、本製剤は、公知の過酸化水素製剤と同程度に有効である、またはさらにはそれより有効であることができ、一部の実施形態において、本製剤では、同じまたはさらにはより大きい消毒効果を達成するのに他の公知の製剤よりも少ない過酸化水素を使用することが可能である。
【0100】
一態様によれば、本開示の組成物の殺真菌および殺細菌力価は、水に難溶性の成分の活性物質濃度を、これまで使用されていないレベルまで増加させることによって、増加させることができる。
【0101】
ある特定の態様において、本発明は、一部の成分の特定の濃度を超えて、製剤の殺細菌活性を向上させることは、殺ウイルス活性にとっては有害であることを示した。この実証は、1つの種類の微生物に対する製剤の効力を向上させると他の微生物に対する効力も向上されることを予想する、従来の予想に相違する。この事実はまた、本開示の組成物は特定の微生物に対する力価を増加させることが可能であり、微生物の耐性株のために製剤を最終的に設計する可能性を提供できることを示している。
【0102】
本発明のミセル溶液は、その成分の性質、使用する活性物質の量、およびミセルによって得ることができる調節可能な特性に起因して、両方を達成するためのできる選択肢を構成する。
【0103】
一態様において、ミセル組成物は、生体適合性、生分解性であり、かつほとんどバイオベースである原料に由来するので、歯内洗浄剤として有用である。その上、ミセルの性質により、この用途に適した、pHを含む、望ましい化学的、機械的および生物学的な洗浄特性を達成するための製剤の修正が可能になる。
【0104】
これらの実施形態の範囲内において、生理的pH範囲(7.35~7.45)に近いpHを有するミセル構造を製造して、依然として著しい殺生物効力を有しながら組織損傷を予防することができる。
【0105】
一実施形態において、本開示の歯内洗浄剤組成物の殺細菌力価は、水に難溶性の成分の活性物質濃度をこれまで使用されていないレベルまで増加させることによって、増加させることができる。
【0106】
これらの実施形態の範囲内において、本開示の歯内洗浄剤組成物は、微生物感染症を予防または排除することができる。これは、低減された量で相乗的に作用することもできるミセル構造成分の性質により、ミセル組成物を、依然として生体適合性でありながら、所望の化学的、機械的および殺生物活性に関して調整することができるためである。
【0107】
これらの実施形態の範囲内において、壊死組織の除去を促進するように調整されたレオロジー特性およびぬれ挙動を有するミセル洗浄剤を製造することができる。同様に、製剤の表面張力は、流体が、アクセスできない部位に流れ込んで壊死組織を除去できるように調整することができる。
【0108】
これらの実施形態の範囲内において、金属表面に対して依然として腐食性がないまたは腐食性が軽度である一方で、約3%の高い過酸化水素濃度を含むミセル洗浄剤を製造できる。
【0109】
本明細書中で引用した公表文献および特許は、個々の公表文献および特許が参照によって組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、参照によって本明細書中に組み込まれ、関連して公表文献が引用されている方法および/またが材料を開示および記載するために参照によって本明細書中に組み込まれる。いずれの公表文献の引用も、出願日より前のその開示に対するものであり、本開示が、先行開示によってこのような公表文献に先行する権利がないことを認めるものと解するべきではない。さらに、示された公表日は、実際の公表日とは異なることがあり、独自に確認する必要があることがある。
【0110】
前述の本出願の実施形態は、例に過ぎないことを意図するものである。当業者は、本出願の意図する範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に改変、修正および変形を行うことができる。特に、前述の実施形態の1つまたは複数からの特徴を選択して、上に明示的に記載されていない場合がある特徴の下位組合せで構成される代替的実施形態を作成することが可能である。加えて、前述の実施形態の1つまたは複数からの特徴を選択して組み合わせて、上に明示的に記載されていない場合がある特徴の組合せで構成される代替的実施形態を作成することが可能である。このような組合せおよび下位組合せに好適な特徴は、本出願を総括して見直せば、当業者には容易に明らかになるであろう。例中に示した量はいずれも、例示のみを目的として示すものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書中および列挙した特許請求の範囲に記載した主題は、技術の全ての好適な変更を網羅し、包含することを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9