(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】スピーカー振動板用積層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 7/02 20060101AFI20240912BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H04R7/02 D
H04R31/00 A
(21)【出願番号】P 2022565365
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2021042947
(87)【国際公開番号】W WO2022113990
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020197079
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】野々下 奬
【審査官】▲徳▼田 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-077949(JP,A)
【文献】特開2018-183914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/02
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂固形分の総量を基準に、230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィン60~90質量%及び熱可塑性芳香族液晶ポリエステル10~40質量%を少なくとも含む1以上のスキン層と、
熱可塑性エラストマー及び230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィンよりなる群から選択される1種類以上を含むコア層と、を少なくとも備え、
前記スキン層の1以上が前記コア層上に支持された積層構造を有する、
スピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項2】
7.0×10
8Pa以上の貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)を有する
請求項1に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項3】
0.04以上の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)を有する
請求項1又は2に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項4】
前記スキン層の前記熱可塑性ポリオレフィンが、ポリプロピレン系ポリマー、環状オレフィンポリマー及び環状オレフィンコポリマーよりなる群から選択される1種類以上を含む
請求項1~3のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項5】
前記スキン層の前記熱可塑性芳香族液晶ポリエステルが、熱可塑性全芳香族液晶ポリエステルを含む
請求項1~4のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項6】
前記コア層の前記熱可塑性エラストマーが、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びポリウレタン系熱可塑性エラストマーよりなる群から選択される1種類以上を含む
請求項1~5のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項7】
前記スキン層は、積層フィルムの総厚みに対して、15%以上80%以下の総厚みを有する
請求項1~6のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項8】
9.0×10
8Pa以上の貯蔵弾性率E’ (25℃、周波数1Hz)を有する
請求項1~7のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項9】
0.06以上の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)を有する
請求項1~8のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項10】
150℃での引張破断伸度が200%以上である
請求項1~9のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項11】
前記スキン層は、2.0×10
8Pa以上の貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)
及び0.03以上の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)を有する
請求項1~10のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【請求項12】
樹脂固形分の総量を基準に、230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィン60~90質量%及び熱可塑性芳香族液晶ポリエステル10~40質量%を少なくとも含む第1樹脂組成物と、熱可塑性エラストマー及び230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィンよりなる群から選択される1種類以上を含む第2樹脂組成物とを、溶融共押出成形する
スピーカー振動板用積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー振動板用積層フィルム、及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載用スピーカー、携帯電話、携帯ゲーム機器、スマートフォン、タブレット型携帯端末、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、ノートパソコン、液晶TV、携帯型音響機器、マイクロホン、イヤホン等の各種電子機器に搭載される小型のスピーカー(通常、「マイクロスピーカー」と呼ばれる。)には、ポリエチレンテレフタレート製の単層構造のスピーカー振動板が用いられてきた。
【0003】
ところが近年、電子機器のさらなる高機能化や高性能化が進展し、これにともない、スピーカー振動板に対する要求特性も益々厳しくなってきている。スピーカー振動板に求められる要求特性としては、軽量で強度や剛性が高く、耐久性や耐熱性、さらに必要に応じて耐湿性や耐水性に優れること等が挙げられる。
【0004】
そのため、軽量で耐熱性や成形性に優れるのみならず、伝搬速度に優れ再生帯域が比較的に良好なポリエーテルイミド(PEI)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のスーパーエンジニアプラスチック製の単層構造のスピーカー振動板も検討されている。しかしながら、これらの単層フィルムは、伝搬速度は1000~1500m/s程度と良好なものの内部損失Tanδ(損失正接ともいう。)が0.04~0.05程度に留まり、音質面、とりわけ音圧の周波数特性の点で限界があり、高音質が求められるハイエンド電子機器における要求性能を満たすことは困難であった。
【0005】
これらの問題を解決するために、コア層上にスキン層を設けて多層化した、多層構造のスピーカー振動板が検討されている。例えば特許文献1~3には、熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム或いは樹脂含浸基材等からなるコア層上に、ポリエステル系樹脂或いはPEEK等からなるスキン層を積層した、多層構造のスピーカー振動板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平03-102999号公報
【文献】特開平03-107300号公報
【文献】特開2005-101889号公報
【文献】特開2018-064150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ポリエステル系樹脂をスキン層として用いた特許文献1~3の技術では、強度が不十分であり、また、貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)や内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)が不十分である。そして、特許文献1~3の技術では、スキン層の耐熱性が低いため、温度変化による貯蔵弾性率の値の変動が大きく、音の伝わりが安定している領域が狭いという欠点も招かれる。
【0008】
また、PEEKをスキン層として用いた特許文献4の技術においても、貯蔵弾性率E’及び内部損失Tanδが未だ不十分である。しかも、特許文献4の技術では、比較的に硬質でミクロンオーダーのPEEKフィルムをコア層となるシリコーンゴム層上にドライラミネーションして積層させている。この積層方法では製造時においてフィルムのハンドリング性が悪いため生産性が劣り、また、得られる積層体は厚みむらが生じ易く、厚み精度が劣る。しかも、PEEKフィルムは比較的に高価であるため、経済性にも劣る。そのため、高品質で高音質なスピーカー振動板を大量生産する観点で、特許文献4の技術は工業的利用性が乏しいものであった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、貯蔵弾性率E’及び内部損失Tanδが双方ともに高く、生産性及び経済性に優れ工業的利用価値の高い、スピーカー振動板用積層フィルム、及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定組成の熱可塑性ポリオレフィン系樹脂層をスキン層とし、このスキン層がコア層上に支持された積層構造を有する多層フィルムを新規に設計開発し、この積層フィルムを用いれば上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
(1)樹脂固形分の総量を基準に、230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィン60~90質量%及び熱可塑性芳香族液晶ポリエステル10~40質量%を少なくとも含むスキン層と、熱可塑性エラストマー及び230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィンよりなる群から選択される1種類以上を含むコア層と、を少なくとも備え、前記スキン層の1以上が前記コア層上に支持された積層構造を有する、スピーカー振動板用積層フィルム。
【0012】
(2)7.0×108Pa以上の貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)を有する(1)に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
(3)0.04以上の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)を有する(1)又は(2)に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【0013】
(4)前記スキン層の前記熱可塑性ポリオレフィンが、ポリプロピレン系ポリマー、環状オレフィンポリマー及び環状オレフィンコポリマーよりなる群から選択される1種類以上を含む(1)~(3)のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
(5)前記スキン層の前記熱可塑性芳香族液晶ポリエステルが、熱可塑性全芳香族液晶ポリエステルを含む(1)~(4)のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
(6)前記コア層の前記熱可塑性エラストマーが、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びポリウレタン系熱可塑性エラストマーよりなる群から選択される1種類以上を含む(1)~(5)のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
(7)前記スキン層は、積層フィルムの総厚みに対して、15%以上80%以下の総厚みを有する(1)~(6)のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【0014】
(8)9.0×108Pa以上の貯蔵弾性率E’ (25℃、周波数1Hz)を有する(1)~(7)のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
(9)0.06以上の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)を有する(1)~(8)のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
(10)150℃での引張破断伸度が200%以上である(1)~(9)のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
(11)前記スキン層は、2.0×108Pa以上の貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)及び0.03以上の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)を有する(1)~(10)のいずれか一項に記載のスピーカー振動板用積層フィルム。
【0015】
(12)樹脂固形分の総量を基準に、230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィン60~90質量%及び熱可塑性芳香族液晶ポリエステル10~40質量%を少なくとも含む第1樹脂組成物と、熱可塑性エラストマー及び230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィンよりなる群から選択される1種類以上を含む第2樹脂組成物とを、溶融共押出成形するスピーカー振動板用積層フィルムの製造方法。ここで上記(12)に記載の製造方法は、上記(1)~(11)のいずれか一項に記載の技術的特徴をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、貯蔵弾性率E’及び内部損失Tanδが双方ともに高く、比較的に低コストで生産性及び経済性に優れる、スピーカー振動板用積層フィルム及びその製造方法等を提供することができる。また、本発明の好ましい一態様によれば、従来技術では実現できなかった音響特性、すなわち7.0×108Pa以上の貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)及び0.04以上の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)を有するスピーカー振動板用積層フィルムを提供することができ、その結果、再生帯域が広く、且つ、音圧の平坦性に優れるスピーカーを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態のスピーカー振動板用積層フィルム100を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。但し、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0019】
(スピーカー振動板用積層フィルム)
図1は、本実施形態のスピーカー振動板用積層フィルム100を示す模式断面図である。本実施形態のスピーカー振動板用積層フィルム100は、スキン層11,12とコア層21とを少なくとも備え、スキン層11,12の1以上がコア層21上に支持された積層構造を有する。
【0020】
本実施形態のスピーカー振動板用積層フィルム100は、スキン層11、コア層21、及びスキン層12が、少なくともこの順に配列された積層構造(3層構造)を有する。この積層構造において、スキン層11は、コア層21の面21a側に設けられ、スキン層12は、コア層21の面21b側に設けられている。なお、本実施形態ではスピーカー振動板用積層フィルム100を例示するが、本発明は、スキン層11又はスキン層12のいずれかを省略した2層構造のスピーカー振動板用積層フィルムとしても実施可能であり、また、例えば3層構造や2層構造の積層フィルムを複数枚それぞれ積層させた態様でも実施可能である。
【0021】
ここで本明細書において、「少なくともこの順に配列された」とは、本実施形態のようにコア層21の表面(例えば面21aや面21b)にスキン層11,12が直接載置された態様のみならず、コア層21の面21a,面21bとスキン層11,12との間に図示しない任意の層(例えばプライマー層、接着層、樹脂層等)が介在して、スキン層11,12がコア層21の面21a,21bから離間して配置(支持)された態様を包含する意味である。このような場合、スピーカー振動板用積層フィルム100は、4層構造や5層構造等を有することになる。
【0022】
スキン層11,12は、熱可塑性の樹脂成分をフィルム状に成型したものである。スキン層11,12は、コア層21の面21a,面21bに支持される層であり、本実施形態においては、スピーカー振動板用積層フィルム100の最表面にそれぞれ位置している。スキン層11,12を設けることにより、スピーカー振動板用積層フィルム100に良好な伝送速度と内部損失を付与できる。スキン層11,12としては、Tダイ溶融押出フィルム等の溶融押出フィルムが好ましく用いられる。
【0023】
スキン層11,12は、樹脂固形分の総量を基準に、230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィン60~90質量%及び熱可塑性芳香族液晶ポリエステル10~40質量%を少なくとも含む。このように融解温度の高い熱可塑性ポリオレフィンを主成分とするポリマーブレンドのスキン層11,12を設けることで、後述するコア層と相まって、従来技術では達成し得なかった、伝送速度と内部損失と強度の両立を実現している。なお、本明細書において「熱可塑性ポリオレフィンを主成分とする」とは、スキン層11,12に含まれる樹脂成分の総量に対して、当該熱可塑性ポリオレフィンの含有割合が50質量%を超えることを意味する。
【0024】
スキン層11,12に含まれる230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィンの種類は、特に限定されず、公知のものの中から適宜選択して用いることができる。かかる熱可塑性ポリオレフィンの具体例としては、プロピレンホモポリマー、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体等のポリプロピレン系ポリマー;ノルボルネンを開環重合し水素添加した重合物等の環状オレフィン系ポリマー(COP)、ノルボルネンとエチレン等のオレフィンとを原料とした共重合体、テトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンとを原料とした共重合体等の環状オレフィン系コポリマー(COC);これらの変性体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、熱可塑性ポリオレフィンは、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0025】
スキン層11,12に含まれる上記の熱可塑性ポリオレフィンとしては、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)が好ましく、環状オレフィンポリマー(COP)がより好ましい。環状オレフィンポリマー(COP)としては、例えば特開平5-317411号公報や特開2014-068767号公報に記載のポリオレフィン樹脂が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。なお、環状オレフィンポリマー(COP)の市販品としては、例えば日本ゼオン株式会社製のZEONEX(登録商標)やZEONOR(登録商標)、株式会社大協精工製のDaikyo Resin CZ(登録商標)等が知られている。また、環状オレフィンコポリマー(COC)の市販品としては、例えば三井化学株式会社製のアペル(登録商標)、Topas Advanced Polymers社製のTOPAS(登録商標)等が知られている。
【0026】
スキン層11,12に含まれる熱可塑性ポリオレフィンの融解温度は、特に限定されないが、熱可塑性芳香族液晶ポリエステルとの良好な分散性を確保する等の観点から、210℃以上が好ましく、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは250℃以上であり、上限側は320℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以下である。なお、本明細書において、融解温度は、DSC8500(PerkinElmer社製)を用いて、温度区間30~400℃で、20℃/分の昇温速度で加熱したときの示差走査熱量測定法(DSC)における融解ピーク温度を意味する。
【0027】
上述した熱可塑性ポリオレフィンの含有割合は、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、熱可塑性芳香族液晶ポリエステルの配向性を制御し、良好な音響特性を確保する等の観点から、スキン層11,12に含まれる樹脂固形分の総量を基準に、合計で60~90質量%が好ましく、より好ましくは合計で65~90質量%、さらに好ましくは合計で70~90質量%である。なお、スキン層11,12に含まれる熱可塑性ポリオレフィンの種類及び含有割合は、同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
スキン層11,12に含まれる熱可塑性芳香族液晶ポリエステルの種類は、特に限定されず、公知のものの中から適宜選択して用いることができる。かかる熱可塑性芳香族液晶ポリエステルは、熱可塑性全芳香族液晶ポリエステルを包含する概念である。熱可塑性芳香族液晶ポリエステルは、光学的に異方性の溶融相を形成するポリマーであり、代表的にはサーモトロピック液晶化合物が挙げられる。なお、異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した偏光検査法等の公知の方法によって確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施することができる。
【0029】
熱可塑性芳香族液晶ポリエステルの具体例としては、芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物、芳香族又は脂肪族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族アミノカルボン酸等の単量体を重縮合させたものが挙げられるが、これらに特に限定されない。熱可塑性芳香族液晶ポリエステルは、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0030】
これらの中でも、サーモトロピック型の液晶様性質を示し、融解温度(融点)が250℃以上、好ましくは融解温度が270℃~380℃の、熱可塑性芳香族液晶ポリエステルが好ましく用いられる。このような熱可塑性芳香族液晶ポリエステルとしては、例えば、芳香族ジオール、芳香族カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等のモノマーから合成される、溶融時に液晶性を示す熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂が知られている。その代表的なものとしては、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、フェノール及びフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、2,6-ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0031】
好ましい一態様としては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体(以降において、単に「モノマー成分A」と称する場合がある。)とパラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体(以降において、単に「モノマー成分B」と称する場合がある。)とを基本構造として有する芳香族ポリエステル樹脂が挙げられる。このような芳香族ポリエステル樹脂は、溶融状態で分子の直鎖が規則正しく並んで異方性溶融相を形成し、典型的にはサーモトロピック型の液晶様性質を示し、機械的特性、電気特性、高周波特性、耐熱性、吸湿性等において優れた基本性能を有するものとなる。
【0032】
また、上述した好ましい一態様の芳香族ポリエステル樹脂は、必須単位としてモノマー成分A及びモノマー成分Bを有するものである限り、任意の構成を採ることができる。例えば2種以上のモノマー成分Aを有していても、3種以上のモノマー成分Aを有していてもよい。また、上述した好ましい一態様の芳香族ポリエステル樹脂は、モノマー成分A及びモノマー成分B以外の、他のモノマー成分(以降において、単に「モノマー成分C」と称する場合がある。)を含有していてもよい。すなわち、上述した好ましい一態様の芳香族ポリエステル樹脂は、モノマー成分A及びモノマー成分Bのみからなる2元系以上の重縮合体であっても、モノマー成分A、モノマー成分B及びモノマー成分Cからなる3元系以上のモノマー成分の重縮合体であってもよい。他のモノマー成分としては、上述したモノマー成分A及びモノマー成分B以外のもの、具体的には芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物及びその誘導体;芳香族又は脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体;芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体;芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸及びその誘導体;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。モノマー成分Cの具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェノール、エチレンテレフタレート等が例示されるが、これらに特に限定されない。他のモノマー成分は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0033】
なお、本明細書において、「誘導体」とは、上述したモノマー成分の一部に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~5のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等)、フェニル基等のアリール基、水酸基、炭素数1~5のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)、カルボニル基、-O-、-S-、-CH2-等の修飾基が導入されているもの(以降において、「置換基を有するモノマー成分」と称する場合がある。)を意味する。ここで、「誘導体」は、上述した修飾基を有していてもよいモノマー成分A及びBのアシル化物、エステル誘導体、又は酸ハロゲン化物等のエステル形成性モノマーであってもよい。
【0034】
特に好ましい一態様としては、パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体との二元系重縮合体;パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体とモノマー成分Cとの三元系以上の重縮合体;パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体とテレフタル酸、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェノール、エチレンテレフタレート及びこれらの誘導体よりなる群から選択される1種以上とからなる三元系以上の重縮合体;パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸及びその誘導体とテレフタル酸、イソフタル酸、6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシビフェノール、エチレンテレフタレート及びこれらの誘導体よりなる群から選択される1種以上と1種以上のモノマー成分Cとからなる四元系以上の重縮合体;が挙げられる。これらは、例えばパラヒドロキシ安息香酸のホモポリマー等に対して比較的に低融解温度を有するものとして得ることができ、そのため、これらを用いた熱可塑性液晶ポリマーは、被着体への熱圧着時の成型加工性に優れたものとなる。
【0035】
スキン層11,12に含まれる熱可塑性芳香族液晶ポリエステルの融解温度は、特に限定されないが、熱可塑性ポリオレフィンとの良好な分散性を確保する等の観点から、220℃以上が好ましく、より好ましくは240℃以上、さらに好ましくは260℃以上であり、上限側は350℃以下が好ましく、より好ましくは330℃以下である。
【0036】
上述した熱可塑性芳香族液晶ポリエステルの含有割合は、要求性能に応じて適宜設定で、特に限定されないが、熱可塑性芳香族液晶ポリエステルの配向性を制御し、良好な音響特性を確保する等の観点から、スキン層11,12に含まれる樹脂固形分の総量を基準に、合計で10~40質量%が好ましく、より好ましくは合計で10~35質量%、さらに好ましくは合計で10~30質量%である。なお、スキン層11,12に含まれる熱可塑性芳香族液晶ポリエステルの種類及び含有割合は、同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
スキン層11,12は、上述した熱可塑性ポリオレフィン及び熱可塑性芳香族液晶ポリエステル以外に、無機フィラーをさらに含有していてもよい。無機フィラーを含有することで、より高い貯蔵弾性率E’を実現できるため、例えば音響特性の向上において特に有用となる。
【0038】
ここで用いる無機フィラーは、当業界で公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない。例えばカオリン、焼成カオリン、焼成クレー、未焼成クレー、シリカ(例えば天然シリカ、溶融シリカ、アモルファスシリカ、中空シリカ、湿式シリカ、合成シリカ、アエロジル等)、アルミニウム化合物(例えばベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、ハイドロタルサイト、ホウ酸アルミニウム、窒化アルミニウム等)、マグネシウム化合物(例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等)、カルシウム化合物(例えば炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ホウ酸カルシウム等)、モリブデン化合物(例えば酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛等)、タルク(例えば天然タルク、焼成タルク等)、マイカ(雲母)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸ナトリウム、窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、錫酸亜鉛等の錫酸塩等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、強度や音響特性等の観点から、タルク、シリカが好ましい。
【0039】
また、ここで用いる無機フィラーは、当業界で公知の表面処理が施されたものであってもよい。表面処理により、耐湿性、接着強度、分散性等を向上させることができる。表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、スルホン酸エステル、カルボン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0040】
無機フィラーのメディアン径(d50)は、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。調製時の混練性や取扱性、強度や音響特性の向上効果等の観点から、無機フィラーのd50は、0.01μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは0.03μm以上50μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上50μm以下である。
【0041】
無機フィラーの含有量は、他の必須成分及び任意成分との配合バランスを考慮し、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。調製時の混練性や取扱性、線膨張係数の低減効果等の観点から、スキン層11,12の総量に対する固形分換算で、無機フィラーの含有量は、合計で0.5質量%以上40質量%以下が好ましく、より好ましくは合計で1質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは合計で3質量%以上20質量%以下である。なお、スキン層11,12に含まれ得る無機フィラーの種類及び含有割合は、同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
スキン層11,12は、本発明の効果を過度に損なわない範囲で、上述した熱可塑性ポリオレフィン及び熱可塑性芳香族液晶ポリエステル以外の樹脂成分、例えばアセテート系重合体、ポリ(メタ)アクリル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリエーテルスルホン系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリカーボネート系重合体、ポリアミド系重合体、ポリイミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、ポリアリレート系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリビニルアルコール系重合体等の、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等を含有していてもよい。また、スキン層11,12は、本発明の効果を過度に損なわない範囲で、当業界で公知の添加剤、例えば炭素数10~25の高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、ポリシロキサン、フッ素樹脂等の離型改良剤;染料、顔料等の着色剤;有機充填剤;酸化防止剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤;界面活性剤;防錆剤;消泡剤;蛍光剤等を含んでいてもよい。これらの樹脂成分や添加剤は、それぞれ1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの添加剤は、例えばスキン層11,12の製膜時に調製する溶融樹脂組成物に含ませることができる。これらの樹脂成分や添加剤の含有量は、特に限定されないが、成型加工性や熱安定等の観点から、スキン層11,12の総量に対して、それぞれ0.01~10質量%が好ましく、より好ましくはそれぞれ0.1~7質量%、さらに好ましくはそれぞれ0.5~5質量%である。
【0043】
スキン層11,12の厚みは、要求性に応じて適宜設定でき、特に限定されない。取扱性や生産性等を考慮すると、1μm以上40μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以上30μm以下、さらに好ましくは5μm以30μm以下である。
【0044】
スキン層11,12の融解温度は、要求性に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、フィルムの耐熱性や加工性等の観点から、180~300℃であることが好ましく、より好ましくは200~290℃、さらに好ましくは220~280℃である。
【0045】
スキン層11,12の製膜方法としては、特に限定されないが、溶融押出法が好ましく用いられる。好ましい一態様としては、上述した各成分を含む第1樹脂組成物を、Tダイを用いた溶融押出製膜法(以降において、単に「Tダイ溶融押出」という場合がある。)によりTダイからフィルム状に押し出して製膜し、その後に必要に応じてTダイ溶融押出フィルムを加圧加熱処理して、所定のスキン層11,12を得る方法が挙げられる。また、この溶融押出の際に、コア層21とともにスキン層11,12を共押出成形することもできる。
【0046】
スキン層11,12の単層の音響特性は、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、2.0×108Pa以上の貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)及び0.03以上の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)を有することが好ましい。このようなスキン層11,12をコア層21と組み合わせて用いることにより、従来技術では達成し得なかった伝送速度と内部損失と強度の両立が、容易になる。スキン層11,12の単層の貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)は、より好ましくは5.0×108Pa以上、さらに好ましくは8.0×108Pa以上であり、その上限側は、特に限定されないが、1.0×1010Pa以下が目安とされる。また、スキン層11,12の単層の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)は、より好ましくは0.04以上であり、その上限側は、特に限定されないが、0.80以下が目安とされる。
【0047】
ここで、本明細書において、貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)及び内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)は、動的粘弾性装置RSA-G2(TA Instruments社製)を用いて、25℃、周波数1Hzで測定される値を意味する。その他の詳細については、後述する実施例に記載の測定条件に従うものとする。
【0048】
コア層21は、熱可塑性の樹脂成分をフィルム状に成型したものであり、上述したスキン層11,12を支持する層である。コア層21を設けることにより、スピーカー振動板用積層フィルム100に優れた強度と内部損失が付与される。コア層21としては、Tダイ溶融押出フィルム等の溶融押出フィルムが好ましく用いられる。
【0049】
コア層21は、熱可塑性エラストマー及び230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィンよりなる群から選択される1種類以上を含む。このように比較的に柔軟性に富むコア層21を設けることで、前述したスキン層11,12と相まって、従来技術では達成し得なかった、伝送速度と内部損失と強度の両立を実現している。
【0050】
コア層21に含まれる熱可塑性エラストマーの種類は、特に限定されず、公知のものの中から適宜選択して用いることができる。かかる熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等が挙げられるが、これらに特に限定されない。熱可塑性エラストマーは、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。これらの中でも、内部損失の高さにより優れた音響特性を得る等の観点から、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましく、ポリエステル系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0051】
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、三井化学株式会社製のミラストマーシリーズ(登録商標)、三菱ケミカル株式会社製のトレックスプレーンシリーズ(登録商標)が挙げられる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーの具体例としては、東レ・デュポン株式会社製のハイトレルシリーズ(登録商標)、三菱ケミカル株式会社製のテファブロックシリーズ(登録商標)が挙げられる。ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、大日精化工業株式会社製のレザミンシリーズ(登録商標)、東ソー株式会社製のミラクトランシリーズ(登録商標)が挙げられる。
【0052】
コア層21に含まれる熱可塑性エラストマーの融解温度は、特に限定されないが、共押出による積層時の層間の接着性等の観点から、150℃以上が好ましく、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは190℃以上であり、上限側は250℃以下が好ましく、より好ましくは230℃以下である。
【0053】
コア層21に含まれる230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィンの具体例や好適例は、上述したスキン層11,12に含まれる230℃以上の融解温度を有する熱可塑性ポリオレフィンで説明したものと同じであり、ここでの重複した説明は省略する。
【0054】
コア層21は、上述した熱可塑性エラストマーや熱可塑性ポリオレフィン以外に、無機フィラーをさらに含有していてもよい。無機フィラーを含有することで、内部損失の向上を実現できるため、例えばスピーカー振動板の制振性を向上させる場合において特に有用となる。ここで用いる無機フィラーの具体例や好適例は、上述したスキン層11,12に含まれ得る無機フィラーで説明したものと同じであり、ここでの重複した説明は省略する。
【0055】
コア層21は、本発明の効果を過度に損なわない範囲で、上述した熱可塑性エラストマーや熱可塑性ポリオレフィン以外の樹脂成分、当業界で公知の添加剤をさらに含有していてもよい。ここで用いる樹脂成分や添加剤の具体例や好適例は、上述したスキン層11,12に含まれ得る樹脂成分や添加剤で説明したものと同じであり、ここでの重複した説明は省略する。
【0056】
コア層21の厚みは、要求性に応じて適宜設定でき、特に限定されない。取扱性や生産性等を考慮すると、3μm以上70μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上60μm以下、さらに好ましくは7μm以50μm以下である。
【0057】
コア層21の融解温度は、要求性に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、フィルムの耐熱性や加工性等の観点から、150~250℃であることが好ましく、より好ましくは170~230℃、さらに好ましくは190~220℃である。
【0058】
コア層21の製膜方法としては、特に限定されないが、溶融押出法が好ましく用いられる。好ましい一態様としては、上述した各成分を含む第2樹脂組成物を、Tダイを用いた溶融押出製膜法(以降において、単に「Tダイ溶融押出」という場合がある。)によりTダイからフィルム状に押し出して製膜し、その後に必要に応じてTダイ溶融押出フィルムを加圧加熱処理して、所定のコア層21を得る方法が挙げられる。また、この溶融押出の際に、上述したスキン層11,12とともにコア層21を共押出成形することもできる。
【0059】
スピーカー振動板用積層フィルム100は、上述したスキン層11,12とコア層21とを積層形成したものである。その積層形成方法は、特に限定されず、当業界で公知の方法を適用できる。例えば、個別に溶融押出成形されたスキン層11,12とコア層21とを準備し、必要に応じてスキン層11,12とコア層21間にプライマー層、接着層、樹脂層等を配して、スキン層11,12とコア層21とをドライラミネーションすることで、スピーカー振動板用積層フィルム100を得ることができる。
【0060】
スピーカー振動板用積層フィルム100の製造方法として好ましい一態様としては、上述した熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性芳香族液晶ポリエステル、必要に応じて配合される樹脂成分及び添加剤を含む、スキン層11,12用の第1樹脂組成物と、上述した熱可塑性エラストマー及び/又は熱可塑性ポリオレフィン、必要に応じて配合される樹脂成分及び添加剤を含む、コア層21用の第2樹脂組成物と、を予め調製しておき、これらの樹脂組成物をそれぞれ溶融押出機から独立して供給して、スキン層11,12及びコア層21の積層フィルムを溶融共押出成形することで、スピーカー振動板用積層フィルム100を得る方法が挙げられる。このような溶融共押出成形は、ドライラミネーションに比して、製造時のハンドリング性や取扱性に優れ、また、得られる積層フィルムの厚みムラ(厚み寸法精度)を低減できるため、高品質で生産性及び経済性に優れるスピーカー振動板用積層フィルム100を実現できる。
【0061】
このとき、各樹脂組成物の調製は、常法にしたがって行えばよく、特に限定されない。上述した各成分を、例えば混練、溶融混錬、造粒、押出成形、プレス又は射出成形等の公知の方法によって製造及び加工することができる。なお、溶融混練を行う際には、一般に使用されている一軸式又は二軸式の押出機や各種ニーダー等の混練装置を用いることができる。これらの溶融混練装置に各成分を供給するに際し、各成分を予めタンブラーやヘンシェルミキサー等の混合装置を用いてドライブレンドしてもよい。溶融混練の際、混練装置のシリンダー設定温度は、適宜設定すればよく特に限定されないが、熱可塑性樹脂成分の融解温度以上360℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは熱可塑性樹脂成分の融解温度+10℃以上360℃以下である。
【0062】
溶融共押出の際の設定条件は、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする溶融共押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。一般的には、押出機のシリンダーの設定温度は230~360℃が好ましく、より好ましくは280~350℃である。また、例えばTダイのスリット間隙も同様に、使用する樹脂組成物の種類や組成、目的とする溶融共押出フィルムの所望性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが。一般的には0.1~1.5mmが好ましく、より好ましくは0.2~0.8mmである。
【0063】
なお、得られる溶融共押出フィルムは、そのままスピーカー振動板用積層フィルム100として用いることができるが、フィルム配向度を低減等させるために必要に応じて、後加熱処理(アニーリング)を行ってもよい。後加熱処理は、当業界で公知の方法、例えば接触式の熱処理、非接触性の熱処理等を用いて行えばよく、その種類は特に限定されない。例えば非接触式ヒーター、オーブン、ブロー装置、熱ロール、冷却ロール、熱プレス機、ダブルベルト熱プレス機等の公知の機器を用いて熱セットすることができる。このとき、必要に応じて、溶融共押出フィルムの表面に、当業界で公知の剥離フィルムや多孔質フィルムを配して、熱圧処理を行うことができる。
【0064】
後加熱処理の処理温度としては、熱可塑性樹脂成分の融解温度より高い温度以上、同融解温度より70℃高い温度以下で行うことが好ましく、より好ましくは同融解温度より+5℃高い温度以上、同融解温度より60℃高い温度以下、さらに好ましくは同融解温度より+10℃高い温度以上、同融解温度より50℃高い温度以下である。このときの熱圧着条件は、所望性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、面圧0.5~10MPaで加熱加圧時間250~430℃の条件下で行うことが好ましく、より好ましくは面圧0.6~8MPaで加熱加圧時間260~400℃の条件下、さらに好ましくは面圧0.7~6MPaで加熱加圧時間270~370℃の条件下である。一方、非接触式ヒーターやオーブンを用いる場合には、例えば200~320℃で1~20時間の条件下で行うことが好ましい。
【0065】
スピーカー振動板用積層フィルム100の総厚みは、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。積層性や加工性、音響特性や機械的強度等の観点から、5~200μmが好ましく、より好ましくは7~150μm、さらに好ましく10~100μmである。
【0066】
スピーカー振動板用積層フィルム100の総厚みに対する、スキン層11,12の総厚みの割合は、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、積層性や加工性、音響特性や機械的強度等の観点から、15%以上80%以下が好ましく、より好ましくは20%以上70%以下である。
【0067】
スピーカー振動板用積層フィルム100の貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)は、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、広い再生帯域を実現する等の観点から、7.0×108Pa以上が好ましく、より好ましくは7.0×108Pa以上、さらに好ましくは9.0×108Pa以上であり、その上限側は、特に限定されないが、9.0×1010Pa以下が目安とされる。
【0068】
スピーカー振動板用積層フィルム100の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)は、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、音圧の平坦性を向上させる等の観点から、0.04以上が好ましく、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.06以上であり、その上限側は、特に限定されないが、1.0以下が目安とされる。
【0069】
スピーカー振動板用積層フィルム100の150℃での引張破断伸度は、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、音響特性と強度とのバランス等の観点から、200%以上が好ましく、より好ましくは240%以上であり、その上限側は、特に限定されないが、1200%以下が目安とされる。なお、本明細書において、引張破断伸度は、JIS K7127(タイプ2)に準拠し、引張試験機ストログラフVE1D(東洋精機製作所社製)を用いてフィルムの長手方向(MD方向:Machine Direction)及び幅方向(TD方向: Transverse Direction)の150℃での引張破断伸度を測定し、測定された長手方向の引張破断伸度と幅方向の引張破断伸度のうち小さな値とする。その他の詳細については、後述する実施例に記載の測定条件に従うものとする。
【0070】
本実施形態のスピーカー振動板用積層フィルム100は、上述した構成を採用することで、貯蔵弾性率E’及び内部損失Tanδが双方ともに高く、音響特性に優れるのみならず、生産性及び経済性に優れる。とりわけ、好ましい一態様では、従来技術では実現できなかった音響特性、すなわち8.0×108Pa以上の貯蔵弾性率E’(25℃、周波数1Hz)及び0.05以上の内部損失Tanδ(25℃、周波数1Hz)を実現することができ、再生帯域が広く、且つ、音圧の平坦性に優れるスピーカーを実現することができる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい数値範囲は前記の上限値又は下限値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0072】
実施例及び比較例で用いた材料は、以下のとおりである。
(樹脂A)
(A-1)熱可塑性シクロオレフィンポリマー樹脂、日本ゼオン社製「ZEONEX(登録商標)C2420」、融解温度:263℃
(A-2)熱可塑性ポリプロピレン系樹脂、サンアロマー社製「サンアロマー(登録商標)PM600M」、融解温度:163℃
(樹脂B)
(B-1)熱可塑性液晶ポリマー樹脂、上野製薬社製「UENO LCP(登録商標)A-5000」、融解温度:280℃
(B-2)ポリブチレンテレフタレート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製「NOVADURAN(登録商標)5010R8」、融解温度:222℃
(樹脂C)
(C-1)ポリエステルエラストマー樹脂、東レ・デュポン社製「ハイトレル(登録商標)7277」、融解温度:219℃
【0073】
貯蔵弾性率E’(引張粘弾性)及び内部損失Tanδは、以下の条件で測定した。
装置:動的粘弾性装置RSA-G2(TA Instruments社製)
測定条件:引張モード
振動周波数:1Hz
測定温度:25℃の一定の温度とした。
測定方向:フィルムの長手方向(フィルム搬送方向)
評価項目:25℃、1Hzにおける貯蔵弾性率E’及び内部損Tanδ
【0074】
引張破断伸度は、以下の条件で測定した。
装置:引張試験機 ストログラフVE1D(東洋精機製作所社製)
サンプルサイズ:150mm×10mm(JIS K7127:タイプ2)
呼び歪み:50mm
チャック間距離:50mm
引張速度:50mm
測定環境:23℃×50%RH
測定方向:フィルムの長手方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)
評価項目:MD方向及びTD方向における150℃での引張破断伸度
【0075】
[実施例1~6]
80℃にて8時間以上乾燥させた樹脂Aと樹脂Bとを、表1に記載の組成及び配合比にてドライブレンドし、得られたブレンド物を300℃に加熱した同方向回転タイプのベント式2軸混練押出機にて溶融混練させ、得られたストランドをペレタイザーにてカットすることで、樹脂A及び樹脂Bをそれぞれ所定割合で含有する、表側及び裏側スキン層用の第1樹脂組成物(ブレンドチップ)を調製した。また、コア層用の第2樹脂組成物として、樹脂Cのペレットをそのまま用いた。
【0076】
次に、表側スキン層用の第1樹脂組成物と、コア層用の第2樹脂組成物と、裏側スキン層用の第1樹脂組成物とを、ホッパードライヤー等を用いて80℃にて8時間以上乾燥させ、押出機に備えられた300℃に加熱された独立した3台のホッパーにそれぞれ投入して溶融混練し、その押出機先端のTダイポリマーからフィルム状に共押出し、冷却して、表側スキン層/コア層/裏側スキン層の積層構造を有する、総厚みが50μmの実施例1~6のスピーカー振動板用積層フィルムを得た。
【0077】
[比較例1~3]
樹脂A及び樹脂Bの配合割合を表1に記載のとおりに変更する以外は、実施例1と同様に行い、表側スキン層/コア層/裏側スキン層の積層構造を有する、総厚みが50μmの比較例1~3のスピーカー振動板用積層フィルムを得た。
【0078】
[比較例4]
コア層用の第2樹脂組成物を使用せずに、表側スキン層用の第1樹脂組成物と、裏側スキン層用の第1樹脂組成物とを、押出機に備えられた300℃に加熱された独立した2台のホッパーにそれぞれ投入して溶融混練し、その押出機先端のTダイポリマーからフィルム状に共押出し、冷却して、表側スキン層/裏側スキン層の積層構造を有する、総厚みが50μmの比較例4のスピーカー振動板用積層フィルムを得た。
【0079】
[比較例5]
樹脂A-1に代えて樹脂A-2を用いる以外は、実施例1と同様に行い、表側スキン層/コア層/裏側スキン層の積層構造を有する、総厚みが50μmの比較例5のスピーカー振動板用積層フィルムを得た。
【0080】
[比較例6]
樹脂B-1に代えて樹脂B-2を用いる以外は、実施例1と同様に行い、表側スキン層/コア層/裏側スキン層の積層構造を有する、総厚みが50μmの比較例6のスピーカー振動板用積層フィルムを得た。
【0081】
各スピーカー振動板用積層フィルムの性能評価を行った。結果を表1に示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のスピーカー振動板用積層フィルム等は、蔵弾性率E’及び内部損失Tanδが双方ともに高く、従来技術では実現できなかった音響特性を実現できるため、高音質が求められるスピーカー振動板用途において、広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0083】
11 ・・・スキン層
12 ・・・スキン層
21 ・・・コア層
21a・・・面
21b・・・面
100 ・・・スピーカー振動板用積層フィルム