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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】観察装置および観察方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/14 20060101AFI20240912BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20240912BHJP
   G01N 21/45 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G02B21/14
G01N21/17 Z
G01N21/45 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023023359
(22)【出願日】2023-02-17
(65)【公開番号】P2024117324
(43)【公開日】2024-08-29
【審査請求日】2024-06-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】安彦 修
(72)【発明者】
【氏名】竹内 康造
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀直
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-42165(JP,A)
【文献】国際公開第2022/054305(WO,A1)
【文献】特開2019-124679(JP,A)
【文献】特開2019-144121(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044336(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/013325(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
G01N 21/17
G01N 21/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間的にコヒーレントな光を出力する光源と、
前記光から第1光および第2光を生成し、前記第1光および前記第2光の双方を観察対象物に照射する照射部と、
前記観察対象物に照射されて前記観察対象物を経た前記第1光および前記第2光の双方を受光して、前記第1光と前記第2光との干渉による干渉強度画像を撮像する撮像部と、
前記干渉強度画像に基づいて処理を行う処理部と、
を備え、
前記照射部は、
前記観察対象物に対して前記第1光を一定の光照射方向に沿って照射し、
前記観察対象物に対して前記第2光を複数の光照射方向それぞれに沿って照射し、
前記撮像部は、
前記第2光の前記複数の光照射方向それぞれについて、前記第1光と前記第2光との間の位相差が複数の位相差それぞれに設定されたときの前記干渉強度画像を撮像し、
前記処理部は、
前記第2光の前記複数の光照射方向それぞれについて、前記複数の位相差それぞれに設定されたときに前記撮像部により撮像された前記干渉強度画像に基づいて位相シフト法により干渉項を求める干渉項算出部と、
前記第2光の前記複数の光照射方向それぞれについて求めた前記干渉項に基づいて前記第1光の複素振幅画像を生成する第1複素振幅画像生成部と、
前記第1光の複素振幅画像に基づいて前記複数の光照射方向それぞれの前記第2光の複素振幅画像を生成する第2複素振幅画像生成部と、
を含む、
観察装置。
【請求項2】
前記撮像部は、前記観察対象物の外側の面における前記干渉強度画像を撮像する、
請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記照射部は、
互いに直交する第1方位および第2方位それぞれの直線偏光の光のうち前記第2方位の直線偏光の光に対して選択的に位相変調する空間光変調器を含み、
前記光源から出力された光を前記空間光変調器に入射させ、その入射光のうち前記第1方位の直線偏光の光を前記第1光とし、前記第2方位の直線偏光の光を前記空間光変調器により位相変調して前記光照射方向および前記位相差を設定して前記第2光とする、
請求項1に記載の観察装置。
【請求項4】
前記照射部は、
ミラーおよび強度変調型の空間光変調器を含み、
前記光源から出力された光を2分岐して前記第1光および前記第2光とし、前記第1光を前記ミラーにより反射させ、前記第2光を前記空間光変調器により強度変調して前記光照射方向および前記位相差を設定して、前記第1光および前記第2光を合波して出力する、
請求項1に記載の観察装置。
【請求項5】
前記照射部は、
第1ミラーおよび第2ミラーを含み、
前記光源から出力された光を2分岐して前記第1光および前記第2光とし、前記第1光を前記第1ミラーにより反射させ、前記第2光を前記第2ミラーにより反射させて、前記第1光および前記第2光を合波して出力し、
前記第2ミラーの反射面の方位によって前記光照射方向を設定し、
前記第1ミラーまたは前記第2ミラーの反射面の位置によって前記位相差を設定する、
請求項1に記載の観察装置。
【請求項6】
前記照射部は、
第1ミラーおよび第2ミラーを含み、
前記光源から出力された光を偏光分離して前記第1光および前記第2光とし、前記第1光を前記第1ミラーにより反射させ、前記第2光を前記第2ミラーにより反射させて、前記第1光および前記第2光を偏波合成して出力し、
前記第2ミラーの反射面の方位によって前記光照射方向を設定し、
前記撮像部は、
複数の偏光成分の光それぞれについて同時に撮像が可能な偏光カメラを含み、複数の偏光成分の光それぞれについて撮像を行うことにより前記位相差が互いに異なる複数の前記干渉強度画像を撮像する、
請求項1に記載の観察装置。
【請求項7】
前記第1複素振幅画像生成部は、前記第2光の前記複数の光照射方向それぞれについて求めた前記干渉項のコヒーレント和に基づいて前記第1光の複素振幅画像の位相を求める、
請求項1~6何れか一項に記載の観察装置。
【請求項8】
前記第1複素振幅画像生成部は、前記第1光および前記第2光のうち前記第1光のみを前記観察対象物に照射したときに前記撮像部により撮像された強度画像に基づいて前記第1光の複素振幅画像の振幅を求める、
請求項1~6の何れか一項に記載の観察装置。
【請求項9】
前記第1複素振幅画像生成部は、前記第2光の前記複数の光照射方向それぞれについて求めた前記干渉項の強度和に基づいて前記第1光の複素振幅画像の振幅を求める、
請求項1~6の何れか一項に記載の観察装置。
【請求項10】
前記処理部は、前記複数の光照射方向それぞれの前記第2光の複素振幅画像に基づいて複素微分干渉画像を生成する複素微分干渉画像生成部を更に含む、
請求項1~6の何れか一項に記載の観察装置。
【請求項11】
前記処理部は、前記複素微分干渉画像に基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部を更に含む、
請求項10に記載の観察装置。
【請求項12】
前記処理部は、前記位相微分画像に基づいて前記観察対象物の屈折率分布画像を生成する屈折率分布画像生成部を更に含む、
請求項11に記載の観察装置。
【請求項13】
光源から出力された空間的にコヒーレントな光から第1光および第2光を生成し、前記第1光および前記第2光の双方を観察対象物に照射する照射ステップと、
前記観察対象物に照射されて前記観察対象物を経た前記第1光および前記第2光の双方を受光して、前記第1光と前記第2光との干渉による干渉強度画像を撮像する撮像ステップと、
前記干渉強度画像に基づいて処理を行う処理ステップと、
を備え、
前記照射ステップにおいて、
前記観察対象物に対して前記第1光を一定の光照射方向に沿って照射し、
前記観察対象物に対して前記第2光を複数の光照射方向それぞれに沿って照射し、
前記撮像ステップにおいて、
前記第2光の前記複数の光照射方向それぞれについて、前記第1光と前記第2光との間の位相差が複数の位相差それぞれに設定されたときの前記干渉強度画像を撮像し、
前記処理ステップにおいて、
前記第2光の前記複数の光照射方向それぞれについて、前記複数の位相差それぞれに設定されたときに前記撮像ステップにおいて撮像された前記干渉強度画像に基づいて位相シフト法により干渉項を求め、
前記第2光の前記複数の光照射方向それぞれについて求めた前記干渉項に基づいて前記第1光の複素振幅画像を生成し、
前記第1光の複素振幅画像に基づいて前記複数の光照射方向それぞれの前記第2光の複素振幅画像を生成する、
観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察装置および観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スフェロイドやオルガノイドと呼ばれる3次元の細胞組織を作製する技術が進歩している。また、これらの3次元細胞組織を創薬や再生医療などに応用する研究が進んでいる。これらの3次元細胞組織は光学的に透明な多重散乱体である。このような光学的に透明な散乱体をイメージングする技術として、これまでに多種多様な手法が提案されている。そのうち蛍光プローブを用いるイメージング技術としては、共焦点顕微鏡、多光子顕微鏡、ライトシート顕微鏡が挙げられる。一方、蛍光プローブを用いない非染色・非侵襲のイメージング技術としては、光コヒーレンス・トモグラフィ(Optical Coherence Tomography、OCT)などが知られている。
【0003】
スフェロイドやオルガノイドなどのような観察対象物については非染色・非侵襲のイメージングが望まれる場合が多いものの、これらの観察対象物のイメージングにOCTが適用されたという報告例は多くない。その理由としては、OCTによるイメージングの分解能が低いこと、および、OCTによるイメージングにより得られた信号の解釈が難しいこと、が考えられる。したがって、現時点では、ゴールドスタンダードとなりうる非染色の3次元細胞組織のイメージング技術は確立されていないと言ってよい。
【0004】
観察対象物の光路長を非染色・非侵襲でイメージングすることができる技術として、定量位相イメージング(Quantitative Phase Imaging、QPI)も知られている。QPIは、観察対象物(例えば細胞)の光路長という物理的な情報を取得することができることから、生物分野で応用が進んでいる。QPIにより取得した画像を用いて、微分干渉画像や位相差顕微鏡画像などの他の種類の画像を生成することができる。QPIは、情報量が比較的多い画像を取得することができる技術であり、従来の明視野画像を用いた解析よりハイコンテントな解析にも適用することができると期待されている。また、近年の機械学習による画像認識精度の向上により非染色のイメージング技術を使ったハイコンテントな解析が盛んに研究されており、今後、多重散乱体の非染色イメージングは重要な役割を担うことが期待される。しかし、QPIは、取得される画像があくまで光路長の2次元への投影であるので、真の3次元の構造を把握できない。
【0005】
また、観察対象物の光路長を非染色・非侵襲でイメージングすることができる技術として、特許文献1に記載されている光回折トモグラフィ(Optical Diffraction Tomography、ODT)も知られている。ODTは、QPIを3次元イメージング可能な技術に発展させたものであり、観察対象物の3次元屈折率トモグラフィを実現することができる。ODTを用いて細胞観察を行うことにより、細胞核やミトコンドリアなどの細胞小器官の同定が可能になり、また、3次元的な形態変化の追跡が可能になって、QPIより更にハイコンテントな解析ができることが期待されている。また、特許文献2に記載されている技術も、観察対象物の3次元屈折率トモグラフィを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-219826号公報
【文献】米国特許第10215697号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載された技術を含む従来の技術では、光源から出力された光を2分岐し、観察対象物を経た一方の分岐光を物体光とし、観察対象物を経ない他方の分岐光を参照光として、これら物体光と参照光との干渉による干渉強度画像を撮像部により撮像する。そして、この干渉強度画像に基づいて所要の演算をすることにより、複素振幅画像を生成することができ、更には観察対象物の3次元屈折率分布画像を生成することができる。従来の二光束干渉法では、観察対象物を経ない既知の波面(平面波)を有する参照光を用いて、干渉計により物体光と参照光とを干渉させて干渉強度画像を取得することにより、物体光の複素振幅(振幅および位相)を正確に求めることができる。
【0008】
しかし、従来の二光束干渉法では、互いに大きく異なる経路を経て撮像部に到達する物体光と参照光とを効率よく干渉させる為に、コヒーレンス長が長い単一周波数の光を出力するレーザ光源を用いる必要がある。物体光と参照光とを効率よく干渉させる為に、撮像部に到るまでの両光間の光路長差をできる限り短くする必要があるが、観察装置の光学系の調整は容易でなく、環境変動等の要因により光路長差が変化すると干渉信号も変化することから安定性に欠ける。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、観察対象物が多重散乱体である場合であっても、多重散乱光の影響を低減して観察対象物を容易に観察することができる観察装置および観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の観察装置の第1態様は、(1) 空間的にコヒーレントな光を出力する光源と、(2) 光から第1光および第2光を生成し、第1光および第2光の双方を観察対象物に照射する照射部と、(3) 観察対象物に照射されて観察対象物を経た第1光および第2光の双方を受光して、第1光と第2光との干渉による干渉強度画像を撮像する撮像部と、(4) 干渉強度画像に基づいて処理を行う処理部と、を備える。照射部は、観察対象物に対して第1光を一定の光照射方向に沿って照射し、観察対象物に対して第2光を複数の光照射方向それぞれに沿って照射する。撮像部は、第2光の複数の光照射方向それぞれについて、第1光と第2光との間の位相差が複数の位相差それぞれに設定されたときの干渉強度画像を撮像する。処理部は、(a) 第2光の複数の光照射方向それぞれについて、複数の位相差それぞれに設定されたときに撮像部により撮像された干渉強度画像に基づいて位相シフト法により干渉項を求める干渉項算出部と、(b) 第2光の複数の光照射方向それぞれについて求めた干渉項に基づいて第1光の複素振幅画像を生成する第1複素振幅画像生成部と、(c) 第1光の複素振幅画像に基づいて複数の光照射方向それぞれの第2光の複素振幅画像を生成するする第2複素振幅画像生成部と、を含む。
【0011】
本発明の観察装置は、次のような態様としてもよい。
第2態様では、第1態様に加えて、撮像部は、観察対象物の外側の面における干渉強度画像を撮像する。
【0012】
第3態様では、第1態様または第2態様に加えて、照射部は、互いに直交する第1方位および第2方位それぞれの直線偏光の光のうち第2方位の直線偏光の光に対して選択的に位相変調する空間光変調器を含み、光源から出力された光を空間光変調器に入射させ、その入射光のうち第1方位の直線偏光の光を第1光とし、第2方位の直線偏光の光を空間光変調器により位相変調して光照射方向および位相差を設定して第2光とする。
【0013】
第4態様では、第1態様または第2態様に加えて、照射部は、ミラーおよび強度変調型の空間光変調器を含み、光源から出力された光を2分岐して第1光および第2光とし、第1光をミラーにより反射させ、第2光を空間光変調器により強度変調して光照射方向および位相差を設定して、第1光および第2光を合波して出力する。
【0014】
第5態様では、第1態様または第2態様に加えて、照射部は、第1ミラーおよび第2ミラーを含み、光源から出力された光を2分岐して第1光および第2光とし、第1光を第1ミラーにより反射させ、第2光を第2ミラーにより反射させて、第1光および第2光を合波して出力し、第2ミラーの反射面の方位によって光照射方向を設定し、第1ミラーまたは第2ミラーの反射面の位置によって位相差を設定する。
【0015】
第6態様では、第1態様または第2態様に加えて、照射部は、第1ミラーおよび第2ミラーを含み、光源から出力された光を偏光分離して第1光および第2光とし、第1光を第1ミラーにより反射させ、第2光を第2ミラーにより反射させて、第1光および第2光を偏波合成して出力し、第2ミラーの反射面の方位によって光照射方向を設定する。撮像部は、複数の偏光成分の光それぞれについて同時に撮像が可能な偏光カメラを含み、複数の偏光成分の光それぞれについて撮像を行うことにより位相差が互いに異なる複数の干渉強度画像を撮像する。
【0016】
第7態様では、第1~第6の態様の何れかに加えて、第1複素振幅画像生成部は、第2光の複数の光照射方向それぞれについて求めた干渉項のコヒーレント和に基づいて第1光の複素振幅画像の位相を求める。
第8態様では、第1~第7の態様の何れかに加えて、第1複素振幅画像生成部は、第1光および第2光のうち第1光のみを観察対象物に照射したときに撮像部により撮像された強度画像に基づいて第1光の複素振幅画像の振幅を求める。
第9態様では、第1~第7の態様の何れかに加えて、第1複素振幅画像生成部は、第2光の複数の光照射方向それぞれについて求めた干渉項の強度和に基づいて第1光の複素振幅画像の振幅を求める。
【0017】
第10態様では、第1~第9の態様の何れかに加えて、処理部は、複数の光照射方向それぞれの第2光の複素振幅画像に基づいて複素微分干渉画像を生成する複素微分干渉画像生成部を更に含む。
第11態様では、第10態様に加えて、処理部は、複素微分干渉画像に基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部を更に含む。
第12態様では、第11態様に加えて、処理部は、位相微分画像に基づいて観察対象物の屈折率分布画像を生成する屈折率分布画像生成部を更に含む。
【0018】
本発明の観察方法の第1態様は、(1) 光源から出力された空間的にコヒーレントな光から第1光および第2光を生成し、第1光および第2光の双方を観察対象物に照射する照射ステップと、(2) 観察対象物に照射されて観察対象物を経た第1光および第2光の双方を受光して、第1光と第2光との干渉による干渉強度画像を撮像する撮像ステップと、(3) 干渉強度画像に基づいて処理を行う処理ステップと、を備える。照射ステップにおいて、観察対象物に対して第1光を一定の光照射方向に沿って照射し、観察対象物に対して第2光を複数の光照射方向それぞれに沿って照射する。撮像ステップにおいて、第2光の複数の光照射方向それぞれについて、第1光と第2光との間の位相差が複数の位相差それぞれに設定されたときの干渉強度画像を撮像する。処理ステップにおいて、第2光の複数の光照射方向それぞれについて、複数の位相差それぞれに設定されたときに撮像ステップにおいて撮像された干渉強度画像に基づいて位相シフト法により干渉項を求め、第2光の複数の光照射方向それぞれについて求めた干渉項に基づいて第1光の複素振幅画像を生成し、第1光の複素振幅画像に基づいて複数の光照射方向それぞれの第2光の複素振幅画像を生成する。
【0019】
本発明の観察方法は、第1態様に加えて、上記の観察装置の第2~第12の態様の何れかと同趣旨の態様としてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、観察対象物が多重散乱体である場合であっても、多重散乱光の影響を低減して観察対象物を容易に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、観察装置1Aの構成を示す図である。
図2図2は、観察装置1Bの構成を示す図である。
図3図3は、観察装置1Cの構成を示す図である。
図4図4は、観察装置1Dの構成を示す図である。
図5図5は、観察装置1Eの構成を示す図である。
図6図6は、観察装置1Fの構成を示す図である。
図7図7は、照射部31~35から観察対象物Sへの光照射方向の走査の例を示す図である。
図8図8は、観察対象物Sへの第1光および第2光の入射、ならびに、観察対象物Sを経た後の撮像部50への第1光および第2光の入射、を模式的に示す図である。
図9図9は、観察装置の処理部60の構成を示す図である。
図10図10は、観察方法のフローチャートである。
図11図11は、シミュレーションA時の配置を模式的に説明する図である。
図12図12は、シミュレーションAの結果を示す図である。
図13図13は、シミュレーションAの結果を示す図である。
図14図14は、シミュレーションAの結果を示す図である。
図15図15は、シミュレーションB時の配置を模式的に説明する図である。
図16図16は、シミュレーションBの結果を示す図である。
図17図17は、シミュレーションBの結果を示す図である。
図18図18は、シミュレーションBの結果を示す図である。
図19図19は、シミュレーションC時の配置を模式的に説明する図である。
図20図20は、シミュレーションCの結果を示す図である。
図21図21は、シミュレーションCの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
初めに図1図6を用いて観察装置の光学系の構成について説明し、その後に観察装置および観察方法における処理の詳細な内容について説明する。
【0024】
図1は、観察装置1Aの構成を示す図である。この観察装置1Aは、光源10、照射部31、撮像部50および処理部60等を備える。光源10は、空間的にコヒーレントな光を出力する。光源10から出力される光は、時間的にコヒーレントであってもよいし、時間的にコヒーレントでなくてもよい。光源10は、レーザ光源であってもよいし、例えばSLD(Super Luminescent Diode)、SC(Super Continuum)光源および光周波数コム光源などの光源であってよい。また、LED(Light Emitting Diode)や水銀ランプなどから出力された空間インコヒーレントな光を、ピンホール等を通すことで空間的なコヒーレンスを高めてもよい。
【0025】
レンズ21は、光源10と光学的に接続されており、光源10から出力された光を光ファイバ23の光入射端22に集光して、その光を光入射端22に入射させる。光ファイバ23は、光入射端22に入射された光を光出射端24まで導光する。光ファイバ23により導光された光は光出射端24から発散光として出射される。レンズ25は、光出射端24と光学的に接続されており、光出射端24から発散光として出力された光を入力してコリメートし、そのコリメートした光を照射部31へ出力する。
【0026】
照射部31は、光源10から出力されてレンズ21,光ファイバ23およびレンズ25を経た光を入力し、その入力した光から第1光および第2光を生成する。また、照射部31は、これら第1光および第2光を互いに重ね合わせて観察対象物Sに照射する。照射部31は、観察対象物Sに対して第1光を一定の光照射方向に沿って照射し、観察対象物Sに対して第2光を複数の光照射方向それぞれに沿って照射する。
【0027】
照射部31は、ビームスプリッタ311、位相変調型の空間光変調器313、偏光子314、2分の1波長板315、偏光子316、レンズ318および対物レンズ319を含む。
【0028】
ビームスプリッタ311は、レンズ25との間に設けられた偏光子314および2分の1波長板315を経て到達した光を空間光変調器313へ反射させる。また、ビームスプリッタ311は、空間光変調器313から到達した光を入力して、この光を偏光子316へ出力する。
【0029】
空間光変調器313は、変調面に入射される互いに直交する第1方位および第2方位それぞれの直線偏光の光のうち、第1方位の直線偏光の光に対して位相変調することなく、第2方位の直線偏光の光に対して選択的に位相変調する。偏光子314および2分の1波長板315は、ビームスプリッタ311から空間光変調器313の変調面へ入射される光が第1方位および第2方位それぞれの直線偏光成分を互いに同程度に含むように、光の偏光状態を設定する。
【0030】
偏光子316は、空間光変調器313からビームスプリッタ311を経て到達した光を入力し、その光に含まれる第1方位および第2方位それぞれの直線偏光の光を干渉可能とする。偏光子316は、空間光変調器313からビームスプリッタ311を経て到達した光(第1方位および第2方位それぞれの直線偏光の光)の偏光方位に対して45度だけ異なる方位の光学軸を有し、入力した光のうち光学軸の方位の偏光成分を選択的に透過させる。レンズ318および対物レンズ319は、偏光子316から出力された第1光および第2光それぞれを平面波として観察対象物Sに照射する。
【0031】
このような構成を有する照射部31は、空間光変調器313により位相変調されなかった第1方位の直線偏光の光を第1光として、この第1光を観察対象物Sに対して一定の光照射方向に沿って照射することができる。照射部31は、空間光変調器313により位相変調された第2方位の直線偏光の光を第2光として、この第2光を観察対象物Sに対して複数の光照射方向それぞれに沿って照射することができる。観察対象物Sへの第2光の光照射方向は、空間光変調器313の変調面における位相変調パターンの向き及び間隔により設定することができる。また、第1光と第2光との間の位相差は、空間光変調器313の変調面における位相変調パターンのシフトにより設定することができる。
【0032】
対物レンズ41は、照射部31により観察対象物Sに照射されて観察対象物Sを経た光(第1光、第2光)を入力し、その光をミラー42へ出力する。レンズ43は、対物レンズ41から出力されてミラー42により反射された光を入力し、その光を撮像部50の撮像面に入射させる。
【0033】
撮像部50は、レンズ43から撮像面に到達した第1光および第2光の双方を受光して、第1光と第2光との干渉による干渉強度画像を撮像する。撮像部50は、第2光の複数の光照射方向それぞれについて、第1光と第2光との間の位相差が複数の位相差それぞれに設定されたときの干渉強度画像を撮像する。
【0034】
処理部60は、撮像部50と電気的に接続されており、撮像部50により撮像された干渉強度画像に基づいて所要の処理をして、複素振幅画像などを生成する。処理部60の処理内容については後述する。
【0035】
図2は、観察装置1Bの構成を示す図である。この観察装置1Bは、光源10、照射部32、撮像部50および処理部60等を備える。観察装置1A(図1)と比べると、観察装置1B(図2)は、照射部31に替えて照射部32を備える点で相違する。
【0036】
照射部32は、ビームスプリッタ321、ミラー322、強度変調型の空間光変調器323、レンズ328および対物レンズ329を含む。空間光変調器323は、DMD(Digital Micromirror Device)であってもよい。
【0037】
ビームスプリッタ321は、レンズ25から到達した光を2分岐して第1分岐光(第1光)および第2分岐光(第2光)とし、第1分岐光をミラー322へ出力し、第2分岐光を空間光変調器323へ出力する。また、ビームスプリッタ321は、ミラー322により反射された第1分岐光を入力するとともに、空間光変調器323により強度変調された第2分岐光を入力して、これら第1分岐光および第2分岐光を合波してレンズ328へ出力する。レンズ328および対物レンズ329は、ビームスプリッタ321から出力された第1分岐光および第2分岐光それぞれを平面波として観察対象物Sに照射する。
【0038】
このような構成を有する照射部32は、ミラー322により反射された第1分岐光を観察対象物Sに対して一定の光照射方向に沿って照射することができる。照射部32は、空間光変調器323により強度変調された第2分岐光を観察対象物Sに対して複数の光照射方向それぞれに沿って照射することができる。観察対象物Sへの第2分岐光の光照射方向は、空間光変調器323の変調面における強度相変調パターンの向き及び間隔により設定することができる。また、第1分岐光と第2分岐光との間の位相差は、空間光変調器323の変調面における強度変調パターンのシフトにより設定することができる。
【0039】
なお、ミラー322または空間光変調器323の位置により位相差を調整することもできる。しかし、空間光変調器323の変調面における強度変調パターンのシフトにより位相差を設定する場合の方が、構成要素の機械的な移動がない点で好ましい。
【0040】
図3は、観察装置1Cの構成を示す図である。この観察装置1Cは、光源10、照射部33、撮像部50および処理部60等を備える。観察装置1A(図1)と比べると、観察装置1C(図3)は、照射部31に替えて照射部33を備える点で相違する。
【0041】
照射部33は、ビームスプリッタ331、ミラー332、ミラー333、レンズ338および対物レンズ339を含む。ミラー332は、例えばピエゾアクチュエータによる駆動により、反射面に直交する方向に沿って反射面の位置が可変である。ミラー333は、例えばガルバノミラー、ボイスコイルミラーやピエゾチルトミラー等により、反射面の方位が可変とされる。
【0042】
ビームスプリッタ331は、レンズ25から到達した光を2分岐して第1分岐光(第1光)および第2分岐光(第2光)とし、第1分岐光をミラー332へ出力し、第2分岐光をミラー333へ出力する。また、ビームスプリッタ331は、ミラー332により反射された第1分岐光を入力するとともに、ミラー333により反射された第2分岐光を入力して、これら第1分岐光および第2分岐光を合波してレンズ338へ出力する。レンズ338および対物レンズ339は、ビームスプリッタ331から出力された第1分岐光および第2分岐光それぞれを平面波として観察対象物Sに照射する。
【0043】
このような構成を有する照射部33は、ミラー332により反射された第1分岐光を観察対象物Sに対して一定の光照射方向に沿って照射することができる。照射部33は、ミラー333により反射された第2分岐光を観察対象物Sに対して複数の光照射方向それぞれに沿って照射することができる。観察対象物Sへの第2分岐光の光照射方向は、ミラー333の反射面の方位により設定することができる。また、第1分岐光と第2分岐光との間の位相差は、ミラー332の反射面の位置により設定することができる。この位相差は、ミラー333の反射面の位置により設定してもよい。
【0044】
図4は、観察装置1Dの構成を示す図である。この観察装置1Dは、光源10、照射部34、撮像部50および処理部60等を備える。観察装置1A(図1)と比べると、観察装置1D(図4)は、照射部31に替えて照射部34を備える点で相違し、撮像部50に替えて撮像部51を備える点で相違し、対物レンズ41と撮像部51との間の光路上に設けられた4分の1波長板44を更に備える点で相違する。
【0045】
照射部34は、偏光ビームスプリッタ341、ミラー342、ミラー343、偏光子344、2分の1波長板345、4分の1波長板346、4分の1波長板347、レンズ348および対物レンズ349を含む。ミラー343は、例えばガルバノミラー、ボイスコイルミラーやピエゾチルトミラー等により、反射面の方位が可変とされる。
【0046】
偏光ビームスプリッタ341は、レンズ25との間に設けられた偏光子344および2分の1波長板345を経て到達した光を偏光分離して第1分岐光(第1光)および第2分岐光(第2光)とし、第1分岐光をミラー342へ出力し、第2分岐光をミラー343へ出力する。4分の1波長板346は、第1分岐光を反射させるミラー342と偏光ビームスプリッタ341との間に設けられており、第1分岐光を2度通過させることで、第1分岐光の直線偏光の方位を90°回転させる。4分の1波長板347は、第2分岐光を反射させるミラー343と偏光ビームスプリッタ341との間に設けられており、第2分岐光を2度通過させることで、第2分岐光の直線偏光の方位を90°回転させる。
【0047】
偏光ビームスプリッタ341は、ミラー342により反射されて4分の1波長板346を通過した第1分岐光を入力するとともに、ミラー343により反射されて4分の1波長板347を通過した第2分岐光を入力して、これら入力した第1分岐光および第2分岐光を偏波合成してレンズ348へ出力する。レンズ348および対物レンズ349は、偏光ビームスプリッタ341から出力された第1分岐光および第2分岐光それぞれを平面波として観察対象物Sに照射する。
【0048】
このような構成を有する照射部34は、ミラー342により反射された第1分岐光を観察対象物Sに対して一定の光照射方向に沿って照射することができる。照射部34は、ミラー343により反射された第2分岐光を観察対象物Sに対して複数の光照射方向それぞれに沿って照射することができる。観察対象物Sへの第2分岐光の光照射方向は、ミラー343の反射面の方位により設定することができる。
【0049】
4分の1波長板44は、対物レンズ41と撮像部51との間の光路上に設けられている。4分の1波長板44は、互いに直交する直線偏光である第1分岐光および第2分岐光を入力して、これら第1分岐光および第2分岐光を互いに異なる回転方向の円偏光として出力する。
【0050】
撮像部51は、複数の偏光成分の光それぞれについて個別に且つ同時に撮像が可能な偏光カメラを含む。撮像部51は、4分の1波長板44を経た第1分岐光および第2分岐光を受光することで、両光間の位相差が複数の位相差それぞれに設定されたときの干渉強度画像を撮像することができる。
【0051】
偏光カメラとしてソニー株式会社により商品化されているイメージセンサ(Polarsens(登録商標))やTeledyneDALSA社により商品化されているイメージセンサ(Area Scan Polarization Sensor)を挙げることができる。これらは、4つの方位の直線偏光の2次元像を同時に撮像することができ、位相差がπ/2ずつ異なる4つの干渉強度画像を同時に得ることができる。また、偏光カメラとしてTeledyne DALSA社により商品化されているイメージセンサ(Line Scan Polarization Sensor)も挙げることができ、これは、3つの方位の直線偏光の2次元像を同時に撮像することができる。
【0052】
図5は、観察装置1Eの構成を示す図である。観察装置1A(図1)は、観察対象物Sを透過した第1光および第2光の干渉による干渉強度画像を撮像する。これに対して、観察装置1E(図5)は、観察対象物Sで反射された第1光および第2光の干渉による干渉強度画像を撮像する。
【0053】
観察装置1E(図5)は、光源10、照射部35、撮像部50および処理部60等を備える。観察装置1A(図1)と比べると、観察装置1E(図5)は、照射部31に替えて照射部35を備える点で相違する。照射部35は、照射部31の構成において、レンズ318と対物レンズ319との間の光路上にビームスプリッタ45が挿入されている。
【0054】
観察対象物Sへの光照射の際には、ビームスプリッタ311から出力された第1光および第2光は、偏光子316、レンズ318、ビームスプリッタ45および対物レンズ319を順に経て観察対象物Sへ照射される。撮像部50による撮像の際には、観察対象物Sで反射された第1光および第2光は、対物レンズ319、ビームスプリッタ45およびレンズ43を順に経て撮像部50に到達する。観察装置1E(図5)の対物レンズ319は、観察装置1A(図1)の対物レンズ41を兼ねている。
【0055】
観察装置1E(図5)の反射型の構成は、観察装置1A(図1)の透過型の構成に対応するものである。同様にして、観察装置1B(図2)、観察装置1C(図3)および観察装置1D(図4)それぞれの透過型の構成に対応して、反射型の構成も可能である。観察装置1D(図4)に対応する反射型の構成の場合には、4分の1波長板44および撮像部51を用いる。
【0056】
図6は、観察装置1Fの構成を示す図である。観察装置1A(図1)は、撮像部50と観察対象物Sとの間に結像光学系が設けられていて、撮像部50の撮像面に対して光学的に共役な面における干渉強度画像を撮像する。これに対して、観察装置1F(図6)は、結像光学系が設けられておらず、撮像部50の撮像面が観察対象物Sの直下に近接して配置されている。
【0057】
観察装置1A(図1)と比べると、観察装置1F(図6)は、結像光学系(対物レンズ41、ミラー42、レンズ43)が設けられていない点で相違する。撮像部50は、観察対象物Sを透過した直後の第1光および第2光を撮像面に受光して、これら第1光と第2光との干渉による干渉強度画像を撮像する。
【0058】
観察装置1F(図6)の構成は、観察装置1A(図1)の構成に対応するものである。同様にして、観察装置1B(図2)、観察装置1C(図3)および観察装置1D(図4)それぞれの構成に対応して、結像光学系を設けない構成も可能である。観察装置1D(図4)に対応する結像光学系を設けない構成の場合には、4分の1波長板44および撮像部51を用いる。
【0059】
図7は、照射部31~35から観察対象物Sへの光照射方向の走査の例を示す図である。ここでは、観察対象物Sへ光を照射する対物レンズの光軸に平行な方向にz軸を有するxyz直交座標系を設定した上で、各々の光照射方向をk波数空間における位置で表す。この図は、横軸をkとし縦軸をkとしたk平面において各々の丸印の位置が光照射方向を表している。光照射方向の走査は、k平面において、(a)矩形格子状に離散的かつ周期的に配置されるようなものであってもよいし、(b)ハニカム状に離散的かつ周期的に配置されるようなものであってもよいし、(c)六方格子状に離散的かつ周期的に配置されるようなものであってもよいし、(d)同心の複数の円それぞれの周上に離散的に配置されるようなものであってもよいし、(e)螺旋状に離散的に配置されるようなものであってもよい。何れの場合にも、観察対象物Sへ光を照射する対物レンズの許す限りで光照射方向の走査が可能である。ラスタスキャンおよびランダムスキャンの何れであってもよい。ラスタスキャンの場合には、戻りスキャンが有ってもよいし無くてもよい。
【0060】
次に、観察装置1A(図1)を用いた観察方法について説明する。他の構成の観察装置を用いた場合でも同様である。
【0061】
図8は、観察対象物Sへの第1光および第2光の入射、ならびに、観察対象物Sを経た後の撮像部50への第1光および第2光の入射、を模式的に示す図である。観察対象物Sへ入射する第1光の波面をu0,in(r)と表す。第2光の複数(N個)の光照射方向のうち第n光照射方向(n=1~N)に沿って観察対象物Sへ入射する第2光の波面をun,in(r)exp(iφ)と表す。rは位置を表す変数である。φは、第1光と第2光との間の位相差である。iは虚数単位である。撮像部50の撮像面または焦点面(撮像面に対して光学的に共役な面)における第1光の波面をu(r)と表し、第2光の波面をu(r)exp(iφ)と表す。
【0062】
撮像部50による撮像により取得される干渉強度画像I(r,φ)は下記(1)式で表される。干渉強度画像I(r,φ)は、第1光と第2光との間の位相差をφとして、観察対象物に対して第1光を一定の光照射方向に沿って観察対象物Sへ入射させ、観察対象物に対して第2光を第n光照射方向に沿って入射させたときに、撮像部50による撮像により取得される干渉強度画像である。焦点面(撮像面に対して光学的に共役な面)は、観察対象物Sにあってもよいし、観察対象物Sより撮像部50側にあってもよいし、観察対象物Sより照射部31側にあってもよい。
【0063】
【数1】
【0064】
図9は、観察装置の処理部60の構成を示す図である。処理部60は、干渉項算出部61、第1複素振幅画像生成部62、第2複素振幅画像生成部63、複素微分干渉画像生成部64、位相微分画像生成部65および屈折率分布画像生成部66を含む。
【0065】
図10は、観察方法のフローチャートである。照射ステップS1において、照射部31は、観察対象物Sに対して第1光および第2光を重ねて照射する。このとき、観察対象物Sに対する第1光の光照射方向を一定とし、観察対象物Sに対する第2光の光照射方向を複数の光照射方向それぞれとし、第1光と第2光との間の位相差φを各値に設定する。
【0066】
撮像ステップS2において、撮像部50は、第2光の複数の光照射方向それぞれについて、第1光と第2光との間の位相差φが複数の位相差それぞれに設定されたときの干渉強度画像((1)式)を撮像する。
【0067】
処理部60が行う処理ステップは、ステップS3~S8を含む。干渉項算出ステップS3において、処理部60の干渉項算出部61は、第2光の複数の光照射方向それぞれについて、複数の位相差φそれぞれに設定されたときに撮像部50により取得された干渉強度画像((1)式)に基づいて、位相シフト法により干渉項を求める。例えば、3点位相シフト法を用いる場合、干渉項算出部61は、下記(2)式により干渉項C(r)=u (r)・u(r)を求める。干渉項u(r)・u (r)を求めてもよい。4点以上の位相シフト法を用いてもよい。この干渉項C(r)を第2光の複数の光照射方向それぞれについて(すなわち、各n(=1~N))について求める。
【0068】
【数2】
【0069】
第1複素振幅画像生成ステップS4において、処理部60の第1複素振幅画像生成部62は、第2光の複数の光照射方向それぞれについて求めた干渉項C(r)に基づいて、第1光の複素振幅画像を生成する。第1光の複素振幅u(r)の位相は、次のようにして推定することができる。第1光と第2光との間の位相傾き(光入射方向の差異)を補正した後、その補正後の干渉項のコヒーレント和Csum(r)を下記(3)式により求める。ここでは、第1光の光入射方向をz軸に平行とし、第2光の第n光入射方向を表す波数ベクトルをkとする。
【0070】
【数3】
【0071】
この(3)式の最右辺の第1因子(u (r))の位相は、観察対象物Sに対して一定の光照射方向に沿って入射した第1光の成分であり、オプティカルセクショニング効果がないので、散乱の影響を大きく受ける。一方、(3)式の最右辺の第2因子(u(r)exp(ikr)の総和)の位相は、複数の光入射方向についての総和であり、コヒーレント和によるオプティカルセクショニング効果によって、焦点面付近の情報が選択的に抽出されたものであるので、比較的平坦な分布を有する。このことから、第1光の複素振幅u(r)の位相φ(r)は、下記(4)式で表されるとおり、位相傾き補正後の干渉項のコヒーレント和Csum(r)の位相で近似的に表すことができる。
【0072】
【数4】
【0073】
第1光の複素振幅u(r)の振幅は、第2光を観察対象物Sに照射せずに、第1光のみを観察対象物Sに照射したときに、撮像部50により撮像された強度画像|u(r)|から求めることができる。例えば、観察装置1A(図1)では照射部31において偏光子314および2分の1波長板315それぞれの光学軸の方位を調整することにより、観察装置1B(図2)では照射部32において空間光変調器323の変調パターン設定により、観察装置1C(図3)では照射部33においてミラー333を取り外すことにより、観察装置1D(図4)では照射部34においてミラー343を取り外すことにより、第1光のみを観察対象物Sに照射することができる。
【0074】
また、第1光の複素振幅u(r)の振幅は、干渉項C(r)に基づいて次のようにして推定することもできる。干渉項C(r)の強度和Isum(r)を下記(5)式により求める。
【0075】
【数5】
【0076】
この(5)式の最右辺の第1因子(|u(r)|)は、観察対象物Sに対して一定の光照射方向に沿って入射した第1光の成分であり、オプティカルセクショニング効果がないので、散乱の影響を大きく受ける。一方、(5)式の最右辺の第2因子(|u(r)|の総和)は、複数の光入射方向についての総和であり、コヒーレント和によるオプティカルセクショニング効果によって、散乱光が平均化されて比較的均一な分布となる。このことから、第1光の複素振幅u(r)の振幅A(r)は、下記(6)式で示されるとおり、干渉項C(r)の強度和Isum(r)の平方根で近似的に表すことができる。
【0077】
【数6】
【0078】
第1複素振幅画像生成ステップS4において、第1複素振幅画像生成部62は、以上のようにして求めた第1光の複素振幅u(r)の位相φ(r)および振幅A(r)に基づいて、下記(7)式により、第1光の複素振幅画像u(r)を生成することができる。
【0079】
【数7】
【0080】
オプティカルセクショニング効果とは、例えば共焦点顕微鏡や微分干渉顕微鏡において、対物レンズの焦点面の画像を選択的に取得することができる効果である。これらの顕微鏡では、入射側および検出側の双方の開口数を大きくとることで、選択的照射および選択的検出を実現して、オプティカルセクショニング効果を実現することができる。
【0081】
第2複素振幅画像生成ステップS5において、処理部60の第2複素振幅画像生成部63は、第1光の複素振幅画像u(r)および干渉項C(r)に基づいて、下記(8)式により、複数の光照射方向それぞれの第2光の複素振幅画像u(r)を生成することができる。ただし、この(8)式では右辺の分母が0であるときにu(r)が不定となるので、この(8)式に替えて下記(9)式により、複数の光照射方向それぞれの第2光の複素振幅画像u(r)を生成するのが好ましい。εは正の微小値である。ε=0とした場合、(9)式は(8)式と一致する。
【0082】
【数8】
【0083】
【数9】
【0084】
複素微分干渉画像生成ステップS6において、処理部60の複素微分干渉画像生成部64は、複数の光照射方向それぞれの第2光の複素振幅画像u(r)に基づいて、下記(10)式により複素微分干渉画像W(r)を生成することができる。δrはシアーを表す。δrのx成分δxおよびy成分δyのうち少なくとも一方は非0である。δx≠0,δy=0であれば、x方向をシアー方向とする複素微分干渉画像が得られる。δx=0,δy≠0であれば、y方向をシアー方向とする複素微分干渉画像が得られる。δx≠0,δy≠0であれば、δxとδyとの比に応じた方向をシアー方向とする複素微分干渉画像が得られる。
【0085】
【数10】
【0086】
位相微分画像生成ステップS7において、処理部60の位相微分画像生成部65は、複素微分干渉画像W(r)の位相で表される位相微分画像を生成することができる。さらに、屈折率分布画像生成ステップS8において、処理部60の屈折率分布画像生成部66は、波面の自由伝搬の式を用いてz軸方向の各位置における位相微分画像(すなわち3次元位相微分画像)を求め、これに基づいてデコンボリューションにより観察対象物Sの屈折率分布画像を生成することができる。
【0087】
次に、シミュレーション結果について説明する。以下に説明するシミュレーションA,Bでは位相微分画像を求め、シミュレーションCでは屈折率分布画像まで求めた。
【0088】
シミュレーションAでは、図11に示されるように、5種類の位相画像を互いに間隔をあけて並列配置したものを観察対象物とし、5種類の位相画像のうち最も撮像部に近い位相画像から5λだけ離れた撮像部側の面に焦点面を設定した。λは光の波長である。図11は、シミュレーションA時の配置を模式的に説明する図である。
【0089】
図12は、シミュレーションA時に干渉項に基づいて求められた(a)|u(r)|、(b)|u(r)|の強度和の平方根、および、(c)推定された第1光の複素振幅u(r)の振幅A(r)、それぞれの画像を示す図である。この図に示されるように、|u(r)|は散乱の影響を大きく受けているのに対して、|u(r)|の総和は比較的均一な分布となっており、第1光の複素振幅u(r)の振幅A(r)は、干渉項の強度和Isum(r)の平方根で近似的に表すことができる。
【0090】
図13は、シミュレーションA時に干渉項に基づいて求められた(a)u (r)の位相、(b)u(r)のコヒーレント和の位相、および、(c)推定された第1光の複素振幅u(r)の位相φ(r)、それぞれの画像を示す図である。この図に示されるように、u (r)の位相は散乱の影響を大きく受けているのに対して、u(r)のコヒーレント和の位相は比較的平坦な分布を有しており、第1光の複素振幅u(r)の位相φ(r)は、干渉項のコヒーレント和Csum(r)の位相で近似的に表すことができる。
【0091】
図14は、シミュレーションAの結果を示す図である。この図において、上段は厳密解の位相微分画像を示し、中段は従来の二光束干渉法により生成された位相微分画像を示し、下段は本実施形態により生成された位相微分画像を示す。この図に示されるように、シミュレーションAで生成された位相微分画像は、従来の二光束干渉法により生成された位相微分画像と同程度の鮮明さであった。
【0092】
シミュレーションBでは、図15に示されるように、5種類の位相画像を互いに間隔をあけて並列配置したものを観察対象物とし、5種類の位相画像のうち中央にある位相画像の面に焦点面を設定した。λは光の波長である。図15は、シミュレーションB時の配置を模式的に説明する図である。
【0093】
図16は、シミュレーションB時に干渉項に基づいて求められた(a)|u(r)|、(b)|u(r)|の強度和の平方根、および、(c)推定された第1光の複素振幅u(r)の振幅A(r)、それぞれの画像を示す図である。この図に示されるように、|u(r)|は散乱の影響を大きく受けているのに対して、|u(r)|の総和は比較的均一な分布となっており、第1光の複素振幅u(r)の振幅A(r)は、干渉項の強度和Isum(r)の平方根で近似的に表すことができる。
【0094】
図17は、シミュレーションB時に干渉項に基づいて求められた(a)u (r)の位相、(b)u(r)のコヒーレント和の位相、および、(c)推定された第1光の複素振幅u(r)の位相φ(r)、それぞれの画像を示す図である。この図に示されるように、シミュレーションBの焦点面の位置に関する条件では、u (r)の位相は散乱の影響を大きく受けており、u(r)のコヒーレント和の位相も少なからず散乱の影響を受けている。
【0095】
図18は、シミュレーションBの結果を示す図である。この図において、上段は厳密解の位相微分画像を示し、中段は従来の二光束干渉法により生成された位相微分画像を示し、下段は本実施形態により生成された位相微分画像を示す。この図に示されるように、シミュレーションBで生成された位相微分画像は、従来の二光束干渉法により生成された位相微分画像と比べると乱れたものとなっている。焦点面にある中央の位相画像は特に乱れている。しかし、焦点面が観察対象物に位置する場合であっても、位相微分画像を生成することができることが確認された。
【0096】
シミュレーションCでは、図19に示されるように、細胞塊を模擬したものを観察対象物として用い、観察対象物と撮像部との間に焦点面を設定した。図19は、シミュレーションC時の配置を模式的に説明する図である。図20および図21それぞれは、シミュレーションCの結果を示す図である。
【0097】
図20において、上段は従来の二光束干渉法により生成された位相微分画像を示し、下段は本実施形態により生成された位相微分画像を示す。また、図20において、左端はz軸に平行な断面における位相微分画像を示し、その他はz方向の三つの位置それぞれにおけるxy断面における位相微分画像を示す。
【0098】
図21において、上段は厳密解の屈折率分布画像を示し、中段は従来の二光束干渉法により生成された屈折率分布画像を示し、下段は本実施形態により生成された屈折率分布画像を示す。また、図21において、左端はy方向への最大値投影画像を示し、その他はz方向の三つの位置それぞれにおけるxy断面における屈折率分布画像を示す。
【0099】
シミュレーションCで生成された位相微分画像、屈折率分布画像は、従来の二光束干渉法により生成された位相微分画像、屈折率分布画像と同程度の鮮明さであった。
【0100】
シミュレーションA~Cの結果から、撮像部と観察対象物との間に結像光学系を設ける場合に、撮像部の焦点面(撮像面に対して光学的に共役な面)は観察対象物の外に設定するのが好適であることが分かる。
【0101】
本実施形態において観察対象物に対して一定の光照射方向に沿って照射される第1光は、従来の二光束干渉法における参照光に替わるものである。従来の二光束干渉法では、参照光が観察対象物を経ることはなく、観察対象物を経た後の物体光と参照光とが合波されて撮像部により受光される。これに対して、本実施形態では、照射部において生成された第1光および第2光の双方は、その照射部から出力されて観察対象物を経て撮像部により受光される。
【0102】
本実施形態では、照射部が干渉光学系の構成を有する場合であっても、その干渉光学系の光路上に観察対象物が配置されない。本実施形態では、照射部における干渉光学系の光路は、光路上に観察対象物を配置する従来の二光束干渉法の場合の光路と比べて短くすることができる。したがって、本実施形態では、照射部は小型なものとすることができ、このような照射部を備える観察装置も小型なものとすることができる。なお、照射部が干渉光学系の構成を有する場合、その干渉光学系は、上記実施形態ではマイケルソン干渉計であったが、マッハツェンダ干渉計であってもよい。
【0103】
また、本実施形態では、照射部は、小型化することができることから、光学系の調整が容易であり、第1光と第2光との間の光路長差を短くすることも容易である。これにより、光源は、コヒーレンス長が長い単一周波数の光を出力するものである必要がなくなり、光源選択の自由度が増える。
【0104】
また、本実施形態では、照射部は一体化された構成とすることもできる。特に、照射部が空間光変調器を含む構成である場合、その照射部を構成する各部品(空間光変調器、ビームスプリッタ、ミラー、レンズ等)の相対的位置関係を固定して一体化することができる。また、照射部においてミラーの位置または方位をピエゾアクチュエータにより調整する構成であっても、その照射部を構成する各部品(ビームスプリッタ、ピエゾアクチュエータ、レンズ等)の相対的位置関係を固定して一体化することができる。このように照射部を一体化した構成とすることにより、その照射部を備える観察装置を組み立てることが更に容易となり、観察対象物を更に容易に観察することができる。
【0105】
本実施形態によれば、観察対象物が多重散乱体である場合であっても、多重散乱光の影響を低減して観察対象物を容易に観察することができる。
【符号の説明】
【0106】
1A~1F…観察装置、10…光源、21…レンズ、22…光入射端、23…光ファイバ、24…光出射端、25…レンズ、31~35…照射部、41…対物レンズ、42…ミラー、43…レンズ、44…4分の1波長板、45…ビームスプリッタ、50,51…撮像部、60…処理部、61…干渉項算出部、62…第1複素振幅画像生成部、63…第2複素振幅画像生成部、64…複素微分干渉画像生成部、65…位相微分画像生成部、66…屈折率分布画像生成部。
311…ビームスプリッタ、313…空間光変調器、314…偏光子、315…2分の1波長板、316…偏光子、318…レンズ、319…対物レンズ、321…ビームスプリッタ、322…ミラー、323…空間光変調器、328…レンズ、329…対物レンズ、331…ビームスプリッタ、332,333…ミラー、338…レンズ、339…対物レンズ、341…偏光ビームスプリッタ、342,343…ミラー、344…偏光子、345…2分の1波長板、346,347…4分の1波長板、348…レンズ、349…対物レンズ。
図1
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