(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】有効成分としてオセルタミビルを含む錠剤の製造方法、オセルタミビルリン酸塩を含む錠剤、オセルタミビルリン酸塩の結晶多形を転移させる方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/215 20060101AFI20240912BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240912BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61K31/215
A61K9/20
A61P31/16
(21)【出願番号】P 2023063066
(22)【出願日】2023-04-07
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】千々石 雅志
(72)【発明者】
【氏名】三宅 克紀
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-102543(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115463100(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第115054580(CN,A)
【文献】特表2011-510914(JP,A)
【文献】International Journal of Innovative Pharmaceutical Sciences and Research,2019年,Vol.7, No.1,pp.63-79
【文献】安定性試験ガイドラインについて[オンライン],1999年04月08日,「3 原薬の安定性試験」、別記,[retrieved on 2016.09.05],Retrieved from the Internet:<URL: http://www.pmda.go.jp/files/000156805.pd
【文献】平山令明,有機化合物結晶作製ハンドブック,2008年,p.17-23,37-40,45-51,57-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩を含む
圧縮成形物の製造方法であって、
前記有効成分を含む圧縮成形物を
50℃以上70℃以下の温度かつ相対湿度75%以上の条件で加湿する
ことにより、前記圧縮成形物中のオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩の結晶形態Bを結晶形態Aに転移させる工程を含む、
圧縮成形物の製造方法。
【請求項2】
前記転移させる工程において、前記有効成分を含む圧縮成形物を50℃以上70℃以下の温度かつ相対湿度90%以上の条件で加湿する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記転移させる工程において、前記有効成分を含む圧縮成形物を前記条件で1時間以上加湿する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記転移させる工程において、前記有効成分を含む圧縮成形物を前記条件で6時間以上加湿する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
有効成分としてオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩を含む錠剤の製造方法であって、
前記有効成分と、薬学的に許容される添加剤とを含む混合物を圧縮成形して
錠剤を得る工程と、
前記圧縮成形
により得られた錠剤を
50℃以上70℃以下の温度かつ相対湿度75%以上の条件で加湿する
ことにより、前記錠剤中のオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩の結晶形態Bを結晶形態Aに転移させる工程と
を含む、錠剤の製造方法。
【請求項6】
前記転移させる工程において、前記圧縮成形により得られた錠剤を50℃以上70℃以下の温度かつ相対湿度90%以上の条件で加湿する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記転移させる工程において、前記圧縮成形により得られた錠剤を前記条件で1時間以上加湿する請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記転移させる工程において、前記圧縮成形により得られた錠剤を前記条件で6時間以上加湿する請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記有効成分が、オセルタミビルリン酸塩である請求項1又は5に記載の製造方法。
【請求項10】
結晶形態Aからなるオセルタミビルリン酸塩を有効成分として含む圧縮成形物。
【請求項11】
オセルタミビルリン酸塩の結晶形態A及び結晶形態Bと、薬学的に許容される添加剤とを含む混合物からなる圧縮成形物を
50℃以上70℃以下の温度かつ相対湿度75%以上の条件で加湿することによる、前記圧縮成形物中のオセルタミビルリン酸塩の結晶形態Bを結晶形態Aに転移させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてオセルタミビルを含む錠剤の製造方法に関する。本発明は、結晶多形としてオセルタミビルリン酸のみを含む錠剤に関する。本発明は、圧縮成形物中のオセルタミビルリン酸塩の結晶形態Bを結晶形態Aに転移させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オセルタミビルは、下記の式(I)で示される化合物であり、その化学名は、(-)-(3R, 4R , 5S)-4-アセトアミド-5-アミノ-3-(1-エチルプロポキシ)シクロヘキセ-1-エン-1-カルボン酸エチルエステルである。オセルタミビルは、ヒトA型及びB型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを選択的に阻害し、新しく形成されたウイルスの感染細胞からの遊離を阻害することにより、ウイルスの増殖を抑制する。
【0003】
【0004】
現在市販されているオセルタミビル製剤はカプセル剤であり、オセルタミビルの錠剤は市販されていないが、オセルタミビルの錠剤について記載された文献はいくつか存在する。例えば、特許文献1には、有効成分としてオセルタミビルと、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムとを含む錠剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、オセルタミビルを含む錠剤について検討していく中で、オセルタミビルを含む錠剤を圧縮成形によって製造する際に、錠剤中のオセルタミビルの結晶構造が変化することを新たに発見した。そのため、圧縮によって変化したオセルタミビルの結晶構造を元の結晶構造に戻すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、結晶構造の変化したオセルタミビルに対して加湿することで、変化した結晶構造を元の結晶構造に戻せることを見いだし、本発明に到った。よって、本発明は、有効成分としてオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩を含む錠剤の製造方法であって、有効成分を含む圧縮成形物を加湿する工程を含む、錠剤の製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、オセルタミビルリン酸塩を含む錠剤であって、オセルタミビルリン酸塩が結晶形態Aからなる、錠剤を提供する。
【0009】
本発明は、オセルタミビルリン酸塩の結晶形態A及び結晶形態Bと、薬学的に許容される添加剤とを含む混合物からなる圧縮成形物を加湿することによる、圧縮成形物中のオセルタミビルリン酸塩の結晶形態Bを結晶形態Aに転移させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、打錠前の結晶構造を有したオセルタミビルを含む錠剤及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】原薬、加圧原薬及び加圧・加湿原薬に対してX線回折(XRD)測定を行った結果を示す図である。
【
図1B】原薬、加圧原薬及び加圧・加湿原薬に対してXRD測定を行った結果を示す図である。
【
図2A】オセルタミビルを含む錠剤(素錠)に対して加湿処理を行い、結晶構造の経時変化を、XRDを用いて測定した結果を示す図である。
【
図2B】圧縮成形直後の素錠と12時間加湿処理を行った素錠について、結晶構造の変化を、XRDを用いて測定した結果を示す図である。
【
図3】加湿処理を行わなかったオセルタミビルを含む錠剤(素錠)を異なる包装形態で保存し、保存前後の結晶構造の経時変化を、XRDを用いて測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態は、有効成分としてオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩を含む、錠剤の製造方法である。この製造方法、製造方法によって製造される錠剤について、以下に説明する。
【0013】
本実施形態の錠剤は、有効成分として、オセルタミビル又はその薬学的に許容される塩を含む。オセルタミビルの薬学的に許容される塩とは、上記の式(I)で表される化合物と有機又は無機の酸とから形成される、ヒトを含む哺乳動物への投与が許容される塩をいう。そのような薬学的に許容される塩としては、例えばリン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩又は炭酸塩などが挙げられる。それらの中でも、オセルタミビルリン酸塩が好ましい。
【0014】
以下、「オセルタミビル」との用語は、特に言及しない限り、上記の式(I)で示される化合物、その薬学的に許容される塩を包含する。オセルタミビルの形状は、特に限定されず、例えば粉末、結晶などのいずれの形状であってもよい。オセルタミビルの粒子径は特に限定されないが、例えば、オセルタミビルの粉末の平均粒子径(D50)が5μm以上120μm以下であることが好ましく、15μm以上110μm以下であることがより好ましい。本明細書では、このD50は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準粒子径分布に基づく。レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル株式会社の「エアロトラックLDSA-SPR」、Malvern Panalytical社の「Mastersizer 3000」などが挙げられる。
【0015】
オセルタミビルには、複数の結晶形態が存在することが知られている(例えば、特表2011-510914号公報を参照)。オセルタミビルは、製造時には、X線源としてCuKα線を用いたX線回折(XRD)測定(以下の測定において、特に言及しない限りX線源はCuKαである)において、以下のX線回折ピークを有している。
【0016】
2θ=5.1±0.2、12.4±0.2、13.0±0.2、14.3±0.2、15.2±0.2、16.1±0.2、19.0±0.2、19.3±0.2、20.3±0.2、20.6±0.2、21.6±0.2、24.4±0.2、26.3±0.2
【0017】
以下、このX線回折ピークを有しているオセルタミビルを結晶形態Aと呼ぶ。
【0018】
本発明者らは、オセルタミビルを加圧すると上述した結晶形態Aの構造を有するオセルタミビルが、以下の様なX線回折ピークを有する構造に変化する事を見いだしている。
【0019】
2θ=5.3±0.2、6.0±0.2、7.4±0.2、12.1±0.2、12.8±0.2、13.6±0.2、16.1±0.2、18.0±0.2、18.7±0.2、21.4±0.2、23.8±0.2、24.3±0.2
【0020】
以下、このX線回折ピークを有しているオセルタミビルを結晶形態Bと呼ぶ。発明者らは、結晶形態Bを有したオセルタミビルに対して加湿することで変化した結晶構造を元に戻せることを新たに見いだしている。
【0021】
錠剤中のオセルタミビルの結晶構造は、実質的に結晶形態Aであり、好ましくは結晶形態Aからなる。より好ましくは、錠剤中のオセルタミビルがオセルタミビルリン酸塩であり、かつその結晶構造は結晶形態Aからなる。実質的に結晶形態Aであるとは、結晶形態A以外の結晶は含まれていてもごく微量であり、XRD測定などでは検出されない程度の量を指す。錠剤中のオセルタミビルの結晶構造が結晶形態Aからなることは、例えば上述のXRD測定におけるオセルタミビルの回折ピークにおいて、結晶形態Aに由来するX線回折ピークのみが観測されることで判断できる。
【0022】
実質的に結晶形態Aであるオセルタミビルを有効成分として含む錠剤は、例えば、オセルタミビルを含む造粒物を製造後、打錠機によって圧縮成形することにより、圧縮成形物を得、これを加湿処理することで製造することができる。この製造方法について、以下に説明する。
【0023】
用語「圧縮成形物」は、特に言及しない限り、ローラーコンパクター造粒や押出造粒による加圧、打錠による圧縮等の機械的な圧力を受けた顆粒や錠剤等の組成物を意味する。
【0024】
まず、オセルタミビルと、薬学的に許容される添加剤(以下、単に添加剤とも呼ぶ。添加剤については後述)とを混合して、造粒用混合物を得る。オセルタミビルと添加剤との混合は、当該技術分野で公知の方法で行うことができる。混合を用手法で行う場合は、例えば、オセルタミビルと賦形剤とを適当な袋に入れて撹拌する袋混合を行ってもよい。混合を機械で行う場合は、当該技術分野で公知の混合機を用いてもよい。混合機は、回転型混合機及び固定型混合機のいずれであってもよい。回転型混合機は、容器自体を回転させることで、該容器に収容した粉体を混合する機械である。固定型混合機は、容器内に備えられた撹拌羽根、スクリューなどを回転させることで、該容器に収容した粉体を混合する機械である。混合機としては、例えばV型混合機、二重円錐型混合機、リボン型混合機、円錐スクリュー型混合機などが挙げられる。あるいは、撹拌造粒機のような、後述の造粒工程も行える装置に導入して混合してもよい。混合するオセルタミビルや添加剤の量は、用いる混合機に応じて適宜設定することができる。
【0025】
オセルタミビル及び/又は添加剤は、混合前に衝撃粉砕機などに供されて予め粉砕されていてもよい。衝撃粉砕機としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の装置を用いることができる。そのような装置としては、例えばピンミルやハンマーミルなどが挙げられる。
【0026】
次に、造粒用混合物を造粒機に入れて造粒し、有効成分としてオセルタミビルを含む造粒物を得る。造粒機としては、特に限定されず、例えば、撹拌造粒機、流動層造粒機、乾式造粒機などを用いることができる。また、装置が乾燥機能を有していてもよい。造粒用混合物や造粒物は、特定の網目を有する篩に供して分級してもよい。篩に通すことによって、造粒用混合物や造粒物の粒子径を適切な大きさに調整することができる。得られた造粒物に更に添加剤を加えて混合してもよい。混合には、上述の混合機を用いることができる。
【0027】
得られた造粒物、又は造粒物と添加剤との混合物を打錠機によって圧縮成形することにより、圧縮成形物を得ることができる。圧縮成形に用いる打錠機は公知のものを用いることができる。公知の打錠機としては、例えば、ロータリー式打錠機を用いることができる。
【0028】
圧縮成形物を製造する際の打錠圧力は、特に限定されず、錠剤の組成や質量などに応じて適宜設定し得る。打錠圧力は、例えば、3kN以上12kN以下になるように設定でき、4kN以上10kN以下であることが好ましい。
【0029】
得られた圧縮成形物を、加湿条件下に置き圧縮成形物を加湿する。加湿条件は、圧縮成形物中の結晶形態Bのオセルタミビルを結晶形態Aのオセルタミビルへと変化させることができるのであれば特に限定されない。加湿は、例えば相対湿度60%~100%の条件下で行われることが好ましく、70%~100%の条件下で行われることがより好ましい。加湿時の温度は特に限定されないが、例えば20℃以上70℃以下であり、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲である。特に、加湿時の温度40℃以上70℃以下かつ相対湿度75%以上であることが好ましく、加湿時の温度50℃以上70℃以下かつ相対湿度75%以上であることがより好ましく、加湿時の温度50℃以上70℃以下かつ相対湿度90%以上であることがより好ましい。加湿は、圧縮成型物に対して後述するコーティングを行ったものに対して行ってもよい。
【0030】
加湿時間は、圧縮成形物中の結晶形態Bのオセルタミビルを結晶形態Aのオセルタミビルへと変化させることができるのであれば特に限定されない。例えば1時間以上であってもよく、1.5時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、6時間より長い時間であることがより好ましく、10時間より長い時間であることがより好ましく、11時間以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましい。加湿装置は、圧縮成形物中の結晶形態Bのオセルタミビルを結晶形態Aのオセルタミビルへと変化させることができるのであれば特に限定されない。例えば恒温室や市販の恒温機を用いる事ができる。このように、圧縮成形物を加湿することで圧縮成形物中の結晶形態Bのオセルタミビルを結晶形態Aのオセルタミビルへと変化した錠剤を得ることができる。
【0031】
(最終製品としての)錠剤中の水分値は特に限定されないが、0.1から12質量%の範囲であってもよく、0.2から10質量%の範囲であることが好ましく、0.3から8質量%の範囲であることがより好ましく、0.4から6質量%の範囲であることがより好ましく、0.5から5質量%の範囲であることがより好ましい。なお、本明細書における水分値とは、カールフィッシャー法に基づいて測定した値であるが、適宜、乾燥減量試験法等を採用することもできる。
【0032】
薬学的に許容される添加剤とは、錠剤の製造に用いられる薬学的に許容される添加剤をいう。そのような添加剤としては、薬学的に許容される賦形剤、結合剤、甘味剤、滑沢剤、着色剤、香料等から適宜選択できる。
【0033】
薬学的に許容される賦形剤としては、例えば、デンプン類、セルロース類、糖類、糖アルコール類などが挙げられる。デンプン類としては、部分アルファー化デンプン、トウモロコシデンプンなどが挙げられる。セルロース類としては、結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。糖類としては、乳糖(乳糖水和物ともいう)、白糖などが挙げられる。糖アルコール類としては、D-ソルビトール、D-マンニトールなどが挙げられる。このうち、吸湿性の低い賦形剤から選択されることが好ましい。そのような賦形剤としては例えばD-マンニトールが挙げられる。賦形剤は、一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0034】
薬学的に許容される結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEなどが挙げられる。それらの中でも、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることが好ましい。結合剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースを用いた際の、ヒドロキシプロピルセルロースの粘度は、特に限定されないが、2mPa・s以上10mPa・s以下となることが好ましい。ここで、本明細書におけるヒドロキシプロピルセルロースの粘度とは、日本薬局方に記載の粘度測定法に基づいてヒドロキシプロピルセルロースの20℃、2質量%の水溶液の粘度を測定した値を指す。ヒドロキシプロピルセルロースとしては、例えば、粘度が2mPa・s以上2.9mPa・s以下となるものを用いてもよいし、3mPa・s以上5.9mPa・s以下となるものを用いてもよいし、6mPa・s以上10mPa・s以下となるものを用いてもよい。
【0035】
薬学的に許容される甘味剤としては、例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリンナトリウムなどが挙げられる。甘味剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0036】
薬学的に許容される滑沢剤としては、例えばフマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。滑沢剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0037】
滑沢剤としては、特にフマル酸ステアリルナトリウムを用いる事が好ましい。滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いる事で、錠剤を製造した際のバインディングの発生を抑制することができる。バインディングとは、錠剤を打錠する際に、錠剤の側面に傷が生じる現象のことを指す。錠剤中のフマル酸ステアリルナトリウムの含有量は、錠剤の全質量の0.9質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。用いるフマル酸ステアリルナトリウムの粒子径は特に限定されないが、例えば、フマル酸ステアリルナトリウムの粉末の粒子径(D50)は、0.3μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0038】
薬学的に許容される着色剤としては、例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄などが挙げられる。着色剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0039】
薬学的に許容される香料としては、例えばストロベリーミクロン、ペパーミントミクロン、ピーチミクロン、ライチミクロン及びパイナップルミクロン等が挙げられる。香料は、一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0040】
これらの添加剤をどのように加えるかは、その錠剤の大きさや使用目的などによって適宜調製することができる。例えば、オセルタミビルを含む造粒物を得る際に、賦形剤としてD-マンニトール、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースとを加え、圧縮成形時に造粒物に滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムとを加えてもよい。
【0041】
錠剤に含まれる添加剤の量は、特に限定されないが、例えば、錠剤の全質量のうちの50質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、10質量%以下としてもよい。
【0042】
顆粒や錠剤などの圧縮成形物は、必要に応じて、さらにコーティングされていてもよい。コーティング方法としては、公知のコーティング方法を用いることができる。例えば、パンコーティング法、流動層コーティング法などを用いることができる。
【0043】
薬学的に許容されるコーティング剤としては、例えば、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ヒプロメロース、エチルセルロース、タルク、酸化チタン、珪酸、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアセテートフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒプロメロースフタレート、メタクリル酸共重合体、メタクリル酸メチルとメタクリル酸ブチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体などが挙げられる。コーティング剤は、一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。アミノアルキルメタクリレートコポリマーEとしては、例えば、オイドラギット(登録商標)E100が挙げられる。コーティング剤としてヒプロメロースを用いた際の、ヒプロメロースの粘度は、特に限定されないが、3 mPa・s以上10 mPa・s以下となることが好ましく、4.8 mPa・s以上7.2 mPa・s以下となることがより好ましい。
【0044】
コーティング液は、上述のコーティング剤を溶媒に分散することによって得ることができる。コーティング剤は、適宜調製してフィルムコーティング液とすることができる。コーティング剤の溶媒としては、コーティング剤を分散することができれば特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。コーティング剤の溶媒への分散時に上述の添加剤をともに加えてもよい。また、コーティング液には、必要に応じて、リン酸塩(リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等)、クエン酸塩((クエン酸二ナトリウム等)、コハク酸塩(コハク酸一ナトリウム等)のような酸性物質を加えてもよい。フィルムコーティング液は、例えば、ヒプメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、タルク及び酸化チタンを精製水に分散してフィルムコーティング液とすることができる。分散後の溶液は、篩に通して濾過してもよい。コーティングは、後述する加湿後に行ってもよいし、圧縮成形前の造粒物に対して行ってもよい。
【0045】
コーティングは一度のみ行われてもよいし、複数回行われていてもよい。例えば、圧縮成形物を、上述した酸性物質を含むコーティング液でコーティングした後、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを含むコーティング液でコーティングしてもよい。
【0046】
製造される錠剤の質量は特に限定されないが、錠剤が、式(I)で表される化合物として少なくとも75mg含むことができる質量が好ましい。錠剤の質量は、例えば、1錠剤あたり50mg以上500mg以下であり、100mg以上400mg以下であることが好ましく、100mg以上300mg以下であることがより好ましく、100mg以上200mg以下であることがより好ましい。
【0047】
本実施形態では、錠剤中のオセルタミビルリン酸塩の含有量は、錠剤の全質量の60質量%以上90質量%以下である。錠剤中のオセルタミビルリン酸塩の含有量の下限は、例えば60質量%、65質量%、67質量%である。錠剤中のオセルタミビルリン酸塩の含有量の上限は、例えば90質量%、85質量%、80質量%、75質量%である。
【0048】
本発明の一実施形態は、有効成分としてオセルタミビルリン酸塩を含む錠剤であって、前記オセルタミビルリン酸塩が結晶形態Aからなる、錠剤である。上述した製造方法によって有効成分としてオセルタミビルリン酸塩からなる錠剤を製造することができる。錠剤中のオセルタミビルが結晶形態Aからなることを示すことは、例えば、上述のXRD測定におけるオセルタミビルの回折ピークにおいて、結晶形態Aに由来するX線回折ピークのみが観測されることで判断できる。錠剤に含まれる添加剤については上述の通りである。
【0049】
また、本発明の一実施形態は、加湿工程を含まない製法で製造された、オセルタミビルリン酸塩を含む参照錠剤であって、参照錠剤が、X線源としてCuKα線を用いたX線回折測定において2θ=5.3±0.2、6.0±0.2、7.4±0.2、12.1±0.2、12.8±0.2、13.6±0.2、16.1±0.2、18.0±0.2、18.7±0.2、21.4±0.2、23.8±0.2、24.3±0.2にピークを有する、参照錠剤と比較して、ピークが観測されない錠剤である。あるいは、本発明の一実施形態は、加湿工程を含まない製法で製造された、オセルタミビルリン酸塩を含む参照錠剤であって、参照錠剤が、X線源としてCuKα線を用いたX線回折測定において2θ=5.8~6.2°の間にピークを有する、参照錠剤と比較して、ピークが観測されない錠剤である。
【0050】
参照錠剤としては、例えば上述した圧縮成形物、又は圧縮成形物にコーティングを施したものなどの加湿工程を経ていないオセルタミビルを含む錠剤などの圧縮成形物を用いることができる。参照錠剤は、加湿工程を経ていないため、錠剤中に結晶形態Bのオセルタミビルに由来するピークが存在する。すなわち、X線源としてCuKα線を用いたX線回折測定において2θ=5.3±0.2、6.0±0.2、7.4±0.2、12.1±0.2、12.8±0.2、13.6±0.2、16.1±0.2、18.0±0.2、18.7±0.2、21.4±0.2、23.8±0.2、24.3±0.2にピークを有し、特に2θ=5.8~6.2°の間にピークを有している。あるオセルタミビルを含有する錠剤において、X線源としてCuKα線を用いたX線回折測定を行い、上述のピークを有する錠剤と比較して、これらのピークが観測されなければ、該錠剤は、本実施形態の結晶形態Aのオセルタミビルのみが存在している錠剤であるといえる。
【0051】
本実施形態の錠剤は、上述の加湿工程に供して結晶構造を変化させた後、必要に応じてPTP包装、ビン充填、アルミ包装などにより包装されていてもよい。PTP包装の素材としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン又はポリカーボネートなどの樹脂や、アルミニウムなどの金属が挙げられる。これらの素材は、一種類で用いても、複数種類を組み合わせて用いてもよい。組み合わせの例としては、例えば、ポリ塩化ビニルとポリ塩化ビニリデンとを積層することや、ポリ塩化ビニルとポリクロロトリフルオロエチレンとを積層することなどが挙げられる。上記の樹脂を公知の方法で成形した樹脂シートの、成形したポケットに錠剤を入れ、アルミニウム箔を用いて蓋をすることで、包装することができる。
【0052】
PTP包装は、更にアルミピローによって包装されていてもよい。このアルミピローには、更に乾燥剤や脱酸素剤が収容されていてもよい。乾燥剤としては、例えば、塩化カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカゲル又はゼオライトなどが挙げられる。脱酸素剤としては、例えば、鉄粉のような鉄系の脱酸素剤、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、ヒドロキノン又はカテコールのような有機系の脱酸素剤などが挙げられる。これらの乾燥剤や脱炭素剤は一種類で用いても、複数種類を組み合わせて用いてもよいし、乾燥剤と脱酸素剤とを組み合わせて用いてもよい。乾燥剤と脱酸素剤とを組み合わせた製品としては、例えば、三菱ガス化学株式会社の「ファーマキープ(登録商標)」等が挙げられる。
【0053】
錠剤は、必要に応じてガラスビンやプラスチック製ボトルに充填されていてもよく、アルミ包装により1回分毎に分包されていてもよい。プラスチック製ボトルの素材としては、上述したPTP包装用の樹脂が挙げられる。アルミ包装は、更にアルミピローによって包装されていてもよい。このアルミピローには、更に上述した乾燥剤や脱酸素剤が収容されていてもよい。
【0054】
本発明の一実施形態は、オセルタミビルリン酸塩の結晶形態A及び結晶形態Bと、薬学的に許容される添加剤とを含む混合物からなる圧縮成形物を加湿することによる、圧縮成形物中のオセルタミビルリン酸塩の結晶形態Bを結晶形態Aに転移させる方法である。上述したように、オセルタミビルリン酸塩の結晶形態A及び結晶形態Bを含む圧縮成形物、又はコーティングされた圧縮成形物に対して加湿することにより、結晶形態Bの結晶多形を結晶形態Aに転移させて、錠剤中の結晶多形を結晶形態Aのみにすることができる。圧縮成形物、結晶形態A、結晶形態B、加湿などについては上述のとおりである。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0056】
(オセルタミビルの加圧による結晶構造への影響の検証)
オセルタミビルに圧を加えた際の結晶形の変化を確認した。市販のオセルタミビルリン酸塩(以下、原薬とも呼ぶ)に対し、卓上型錠剤成形機(HANDTAB)を用い、径7.0mmの杵で10kNの打錠圧力で加圧した。この加圧した原薬を加圧原薬とする。この加圧原薬の一部を50℃、75%RHの条件の恒温室に12時間静置した。この加圧原薬を加圧・加湿原薬とする。
【0057】
上記原薬、加圧原薬及び加圧・加湿原薬に対してX線回折(XRD)測定を行った。X線回折装置としては、Bruker AXS社製の全自動多目的X線回折装置D8 ADVANCEを用い、CuKα線(=1.5406×10-10 m)にて測定を行った。
【0058】
XRDの測定結果を
図1A及び
図1Bそれぞれ示す。
図1Bは、
図1Aのそれぞれの結果を重ね合わせたものである。
図1Aから、原薬には結晶形態Aに由来する回折ピークのみが観測されるのに対し、加圧原薬には、原薬にはない結晶形態Bに由来する回折ピークも観測されることがわかる。そして、加圧・加湿原薬では、加圧原薬で観測された結晶形態Bに由来する回折ピークが消失していることが分かる。このことから、結晶形態Aを有するオセルタミビルを加圧すると、結晶の一部が結晶形態Bに転移し、複数の結晶形態が混ざり合う形になること、そしてこの複数の結晶形態が混ざりあったオセルタミビルに対して加湿処理を行うことにより、結晶形態Aのみを有する状態へと戻せることが示された。このような、オセルタミビルを加圧することによって結晶形態が変化すること、及び、結晶形態が変化したオセルタミビルを加湿することで結晶形態を元の単一のものに戻せることは、ともに発明者が初めて見いだした。
【0059】
(オセルタミビルを含む錠剤の製造工程における結晶構造への影響の検証)
上記の結果に基づいて、オセルタミビルを含む錠剤を圧縮成形により製造し、その結晶構造の変化について検証した。まず、オセルタミビルを含む錠剤を製造するために用いる打錠用混合物は以下のようにして製造した。
【0060】
(打錠用混合物の製造)
オセルタミビルリン酸塩を衝撃粉砕機へ投入し、オセルタミビルリン酸塩を粉砕しオセルタミビルリン酸塩粉砕物を得た。このオセルタミビルリン酸塩粉砕物を、D-マンニトール及びヒドロキシプロピルセルロースとともに撹拌造粒機に投入して混合した。混合後、精製水をスプレーして練合し、有効成分としてオセルタミビルリン酸塩を含む造粒末を得た。得られた造粒末を、流動層造粒乾燥機に投入して乾燥、整粒し、有効成分としてオセルタミビルリン酸塩を含む造粒物を得た。
【0061】
得られた造粒物を、フマル酸ステアリルナトリウムとともに拡散式混合機を用いて混合することで、打錠用混合物を得た。
【0062】
(オセルタミビルを含む錠剤(素錠)の製造)
上述した「打錠用混合物の製造」にて得られた打錠用混合物を、ロータリー式打錠機を用いて径7.0mmの杵で7kNの打錠圧力で打錠した。これにより、オセルタミビルを含む錠剤(素錠)を製造した。
【0063】
(フィルムコーティング)
製造した素錠に対してフィルムコーティング処理を行った。フィルムコーティングに用いるフィルムコーティング液は以下のようにして調製した。
【0064】
ヒプロメロース及びヒドロキシプロピルセルロースを精製水に溶解した。この溶解液にタルクを投入して分散させて、分散液Iを得た。分散液Iとは別に、酸化チタンを精製水に分散させて、分散液IIを得た。分散液I及び分散液IIを混和して、フィルムコーティング液を得た。
【0065】
素錠をコーティングパン機に入れ、フィルムコーティング液でコーティングした後乾燥してオセルタミビルを含む錠剤(フィルムコーティング錠)を得た。得られた錠剤の1錠辺りの分量は以下の表1の通りである。なお、フィルムコーティング錠の錠径及び錠厚はダイヤルシックネスゲージを用いて測定し、錠経は7.1mm、錠厚は3.4mmであった。
【0066】
【0067】
得られたオセルタミビルを含む錠剤(素錠)を、50℃、75%RHの条件の恒温室に複数個静置して加湿し、6、8、10、12、16及び20時間経過時点でその一部を回収した。回収した各錠剤に対してXRD測定を行った。XRD測定の条件は原薬に対して行った条件と同じである。比較として、製造直後の素錠に対しても同様にXRD測定を行った。
【0068】
XRDの測定結果を
図2A及びBにそれぞれ示す。
図2Aの各測定結果の右に記載された時間は、それぞれ測定した錠剤の加湿時間を示す。0hは錠剤を製造後すぐXRDで測定した結果である。
図2Bは、
図2Aのうち製造直後と加湿開始後12時間のデータを抽出したものである。
図2Aより、製造直後の錠剤では結晶形態Bに由来する回折ピークが測定されることが分かる。このことから、錠剤の製造工程における打錠工程の打錠圧によってオセルタミビルの結晶構造が変化していることが分かる。そして、
図2A及びBからは、錠剤を加湿条件に置くことで時間が経つ毎に結晶形態Bに由来する回折ピークが減少し、12時間で結晶形態Bに由来する回折ピークが完全に消失することが分かる。このことから、オセルタミビルを含む錠剤においても、打錠時の加圧によって結晶の一部が結晶形態Bに転移し、複数の結晶形態が混ざり合う形になること、そしてこの複数の結晶形態が混ざりあったオセルタミビルに対して加湿処理を行うことにより、結晶形態Aのみを有する状態へと戻せることが示された。
【0069】
(錠剤をピローに保存した場合の結晶構造の変化の検証)
上述したオセルタミビルを含む錠剤を長期間保存し、結晶構造の変化を検証した。実験は、上記「オセルタミビルを含む錠剤(素錠)の製造」、「フィルムコーティング」と同様の手順によって製造したオセルタミビルを含む錠剤(フィルムコーティング錠)を用いて行った。実験は、複数個の錠剤を3つに小分けにし、それぞれポリ塩化ビニル(PVC)製のシートにPTP包装機 (大和化成工業社製半自動PTP包装機)を用いて錠剤1つ1つを包装したもの(PVC)、このPTP包装を包装ごとアルミピローによって更に包装したもの(PVC+AL)、アルミピローにPTP包装を入れる際にアルミピロー内に更に乾燥剤(田中製紙工業社製塩化カルシウム)を封入したもの(PVC+AL+乾燥剤)の組み合わせで包装したものを用いた。
【0070】
上記3つの形態の包装を、40℃、75%RHの条件の恒温室に3ヶ月静置した。静置後、錠剤を取り出し、各錠剤に対してXRD測定を行った。XRD測定の条件は上記原薬に対して行った条件と同じである。その結果を
図3に示す。
図3では、製造時の錠剤に対してXRD測定を行った結果についてもあわせて記載している。
図3より、製造時において錠剤に観察される結晶形態Bに由来する回折ピークは、単にPTP包装したのみでは消失しているものの、アルミピローによって保存されるとそのまま残っていることが分かる。PTP包装(PVC製)は水の透過性を有しているが、アルミピローは低い。これらのことから、錠剤の結晶構造の変化は、単に長時間錠剤を置いただけでは変化せず、加湿を行うことが必要であることが示された。
【0071】
(参考 類縁物質量)
上記「オセルタミビルを含む錠剤(素錠)の製造」、「フィルムコーティング」と同様の手順によって製造したオセルタミビルを含む錠剤(フィルムコーティング錠)4錠を、50℃、75%RHの条件の恒温室に静置した。静置後、錠剤を1つずつ0h、12h、24h及び48hで回収し、錠剤中の類縁物質量を測定した。類縁物質量の測定は、以下のようにして行った。
【0072】
錠剤を抽出溶媒(水/メタノール混液(4:1))に供し、メンブレンフィルターでろ過して抽出溶液を得た。この抽出溶液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して測定した。HPLCの測定条件は以下の表2及び3に、測定結果は表4にそれぞれ示す。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
表4の結果を見ると、時間経過によって類縁物質の量はほとんど変化していないことが分かる。このことから、製造した錠剤を加湿処理に供してもオセルタミビルの結晶構造が変化すること以外の品質変化がない事が分かる。
【要約】
【課題】圧縮によって変化したオセルタミビルの結晶構造を元の結晶構造に戻す方法を提供することを課題とする。
【解決手段】結晶構造の変化したオセルタミビルを加湿することによって課題を解決する。
【選択図】
図1B