(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】モイルポイントツール及びこれを用いた破砕方法
(51)【国際特許分類】
B25D 1/02 20060101AFI20240912BHJP
B25D 17/02 20060101ALI20240912BHJP
B28D 1/26 20060101ALI20240912BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20240912BHJP
E21C 27/28 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B25D1/02
B25D17/02
B28D1/26
E04G23/08 C
E21C27/28
(21)【出願番号】P 2023198693
(22)【出願日】2023-11-22
【審査請求日】2023-11-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507373151
【氏名又は名称】小岩 貴男
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】小岩 貴男
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特許第6276457(JP,B1)
【文献】実開昭62-078278(JP,U)
【文献】登録実用新案第3051699(JP,U)
【文献】特許第4107538(JP,B2)
【文献】特開2008-231876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 1/02
B25D 17/02
B28D 1/26
E04G 23/08
E21C 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド状のツール本体部と、ツール本体部の先端に三角錐状に面取りされた状態の先端部と、ツール本体部の他端にシャンク部とを備えたモイルポイントツールの打撃運動により対象物を破砕する方法であって、
対象物の表面にモイルポイントツールのツール本体部の外径Rの2/5~3/5の直径の多数の下孔をツール本体部の外径Rの2~4倍の間隔を離間させて一列状に穿孔した後、
モイルポイントツールの先端部を対象物の端部に近い下孔に順次挿入しては打撃運動による破砕動作を繰り返すことで対象物を順次破砕していく手順からなる、
モイルポイントツールを用いた破砕方法。
【請求項2】
下孔に挿し入れるモイルポイントツールの先端の向きが、三角錐の斜辺の1つが下孔に当接する点を対象物の端部側に配し、残り2つの斜辺と対象物との当接点同士を結んだ直線が隣接する下孔の列と平行であることを特徴とする、
請求項1に記載のモイルポイントツールを用いた破砕方法。
【請求項3】
下孔に挿し入れるモイルポイントツールの先端の向きが、三角錐の斜辺の1つが下孔に当接する点を対象物の端部側から一番遠い箇所に配し、残り2つの斜辺と対象物との当接点同士を結んだ直線が隣接する下孔の列と平行であることを特徴とする、
請求項1に記載のモイルポイントツールを用いた破砕方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は三角錐状の先端を備えたモイルポイントツールに関する。モイルポイントツールは、岩盤や岩石、コンクリート構造物、コンクリート舗装版などを打撃により破砕する際に用いるロッドの先端が尖っている先端工具であって、下孔にツールの先端を挿し入れて下孔に突き刺すように打撃することで対象物を破砕するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、岩盤やコンクリート構造物を破砕する際には、油圧ショベルの本体動力源を利用する油圧式の衝撃工具、圧縮空気によるエア式の衝撃工具、電動式の衝撃工具などの大型から小型のハンディタイプまで、種々の衝撃工具の先端に破砕用の鋼製ツールが取り付けられ、対象物を打撃することで対象物の破砕に用いられている。そして衝撃工具に取り付けられる破砕用ツールには、鋼製のロッドの先端が平たがね状の(側面視楔型の)ウェッジポイント(横一文字状)、先端が円錐状に尖ったコーンロッド、ロッドの先端が四角錐状に尖ったモイルポイントツール、先端が尖っていないフラットエンドなどがある。
【0003】
もっとも硬い岩盤ともなると、衝撃破砕工具での破砕は必ずしも容易ではなく、対象物を効率よく砕くことは難しいため、破砕に際しては前もって対象物の所望の箇所にドリルで穿孔して下孔を設け、下孔にツールの先端を挿し入れた状態で衝撃工具を稼働し、ツール先端から下孔周辺に向かって衝撃を加えるように打撃して、対象物を破砕している。しかし、先端が尖ったモイルポイントツールであっても、十分な破砕効率は得られていない。
【0004】
なお、モイルポイントツールは、棒鋼の先端を4方向から面取りするように研磨して四角錐状に尖らせるように形成されている。製造するうえでも、表裏の2方向を研磨したうえで、左右の2方向を研磨するのであれば、作業上も研磨が容易であり、加工しやすいからである。
【0005】
さらに、ツールの先端部からロッド本体に向かってスリット状の細い溝を設ける工夫が提案されている(例えば特許公報1参照。)。表面積が増えることで熱処理深さが深く形成されて破砕性能や寿命が伸びることを狙ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
衝撃工具による破砕は、破砕用のツールを前後方向に振動させて、繰り返し対象物に衝撃を加えて破砕を推し進めていく。特に硬い岩盤のような破砕が難しい対象物においては、予め下孔を穿孔し、下孔に挿し入れたツールは、下孔をガイド孔とし、繰り返しの打撃により深く対象物に食い込んでいく。ところが、下孔の径はロッドの径よりも小さいため、四角錐状のモイルポイントを下孔に突き刺したとき、四角錐は接触箇所が多く、下孔との隙間も小さいことから、事実上ほぼ塞がっている状態に近いものとなる。
【0008】
すると、対象物にツールの先端が食い込む際には接触面が抵抗となることに加え、打撃の衝撃で破砕された小片や粉塵を含んだ空気が圧縮されたときに下孔の隙間から排出しづらいこととなるので、下孔内の圧力が高まることで、ツールが下方に食い込むことができず、破砕効率が落ちることとなる。そして破砕した粉塵が下孔内に詰まってしまうこととなれば破砕が容易には進まなくなる。食い込んで詰まってしまうと、ツールが抜けず動かなくなってしまい、止まってしまうので、破砕動作が繰り返せず、抜きなおすまで破砕作業を中断せざるを得なくなる。このように、ツールがスタックしてしまうと抜くための手間を余計に要していた。
【0009】
そこで、従来のモイルポイントツールは四角錐であり、四角錐の斜辺の稜線に沿って四方に割られるため、破砕力に優れるとされるものの、下孔内の内圧の高まりによって破砕が進みづらく、粉塵も排出しづらいといった不都合が生じやすかった。すなわち、四角錐では、破砕した粉塵が下孔内に堆積して閉塞し、破砕の進行を阻むこととなりやすいかった。また四方に割り拡げられることから、十字方向に亀裂が入るので、破砕の方向を制御しづらいものでもあった。すなわち、破砕方向がモイルポイントの4隅に影響されるため、十字にひずませることから、意図した方向にコントロールしづらいものであった。
【0010】
四角錐の4面の中央に先端から後方に向かってスリットを設けると、空気の排出を促し内圧を下げることになるが、スリットを設けるために溝を切るという余計な加工が必要となる。モイルポイントツールは、打撃を繰り返すので、先端部が徐々に摩耗していくことから、ロッドの先端が摩耗するたびに溝も不可避に再加工することが必要となる。このように、スリット加工のみでは摩耗の影響を受けやすいため、安定的な対策としては十分とはいえなかった。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、先端が尖っていることで対象物に刺さりやすく硬い岩盤などへの破砕力に優れつつも、下孔への内圧や粉塵で破砕能力が低下してしまうことが抑制された破砕用のモイルポイントツールを提供することである。また破砕の方向を従来よりも制御しやすい破砕用のモイルポイントツールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者は鋭意検討の結果、先端を尖らせたツールであっても、円錐や四角錐では下孔との接触が大きく下孔内部の圧力が排出しづらく、食い込む力が減衰され、破砕力が劣る一方で、ロッドの棒材(断面が円もしくは六角形)の先端を三角錐状に尖らせた場合には、接触箇所が少なく、かつ隙間が大きいので破砕片の排出も容易であり、ロッド先端部が多少摩耗してもその影響を受けにくいことに想到した。また、三角形の断面のほうが破砕方向もコントロールしやすいことを見出した。
【0013】
すなわち、本発明の課題を解決するための第1の手段は、ロッド状のツール本体部と、ツール本体部の先端に三角錐状に面取りされた状態の先端部と、ツール本体部の他端にシャンク部、とを備えたモイルポイントツールである。ロッドの先端を3方向から面取りして三角錐状に尖らせた鋼製のツールは、先端が鋭利であるから食い込みやすいものとなる。
【0014】
その第2の手段は、三角錐状に面取りされた先端部の断面形状が正三角形であることを特徴とする第1の手段に記載のモイルポイントツールである。
【0015】
その第3の手段は、三角錐状に面取りされた先端部の断面形状が底辺が等辺より長い二等辺三角形であることを特徴とする第1の手段に記載のモイルポイントツールである。
【0016】
その第4の手段は、三角錐状に面取りされた先端部の断面形状が底辺が等辺より短い二等辺三角形であることを特徴とする第1の手段に記載のモイルポイントツールである。
【0017】
なお、第1から第4の手段のモイルポイントツールの面取り部から本体部に向かって軸方向のスリットを設けて、三角錐状の形状と組み合わせてもよい。熱処理により表面が十分に硬化するほか、下孔内の圧力や粉塵をより排出することができる。
【0018】
その第5の手段は、第1から第4のいずれか1の手段に記載の三角錐状に面取りされた状態の先端部を備えたモイルポイントツールの打撃運動により対象物を破砕する方法であって、対象物の表面にモイルポイントツールのツール本体部の外径Rの2/5~3/5の直径の多数の下孔をツール本体部の外径Rの2~4倍の間隔を離間させて一列状に穿孔した後、モイルポイントツールの先端部を対象物の端部に近い下孔に順次挿入しては打撃運動による破砕動作を繰り返すことで対象物を順次破砕していく、モイルポイントツールを用いた破砕方法である。
【0019】
その第6の手段は、下孔に挿し入れるモイルポイントツールの先端の向きが、三角錐の斜辺の1つが下孔に当接する点を対象物の端部側に配し、残り2つの斜辺と対象物との当接点同士を結んだ直線が隣接する下孔の列と平行であることを特徴とする、第5の手段に記載のモイルポイントツールを用いた破砕方法である。
【0020】
その第7の手段は、下孔に挿し入れるモイルポイントツールの先端の向きが、三角錐の斜辺の1つが下孔に当接する点を対象物の端部側から一番遠い箇所に配し、残り2つの斜辺と対象物との当接点同士を結んだ直線が隣接する下孔の列と平行であることを特徴とする、第5の手段に記載のモイルポイントツールを用いた破砕方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のモイルポイントツールは、モイルポイントツールの先端部が三角錐状に尖らせてあることから、下孔に対しての当接箇所が三角形の頂点のみと少なく、下孔の円との隙間が大きいので、下孔内の空気や破砕片や粉塵を逃がす余地が確保できている。そこで、モイルポイントツールの打撃により対象物に食い込む動作に抵抗する圧力が高くなりづらいので、下孔内にモイルポイントツールの先端部が深く侵入していくことができる。また、破砕片や粉塵が排出されやすいので、モイルポイントツールの先端が対象物の下孔に食い込んだまま詰まったままとなるスタック現象が低減され、破砕動作が継続できる。そこで、深く連続して破砕していくことができるので、破砕効果が高いものとなる。
【0022】
本発明の先端部が三角錐上のモイルポイントツールを用いると、下孔から大きく深くモイルポイントツールが入ることができるので、対象物が大きい破砕片となって割れやすくなるほか、粉塵の発生量も低減される。また、モイルポイントツールが下孔内の圧力で跳ね返されることが抑制されるので、押し込み圧力が小さくて済むことから、効率よく下孔に沿って深くロッドを進行させることができる。押し込み時に適切に潜れず跳ね返されることによって生じる飛び石の飛散量も低減される。また、下孔に沿ってモイルポイントが進行するので、チゼルが滑りづらく、制御しやすい。また、余計な振動や、騒音が抑制できるので、衝撃音が大きくなりづらい。
【0023】
対象物の下孔に挿し入れるモイルポイントツールの当接箇所が形成する三角形の頂点の1つを対象物の端部の自由端面に配し、残りの2つの頂点を通る線を隣接の下孔の列方向と平行とにすることで、三角形が下孔に食い込むこととすると、モイルポイントツールの打撃によってツールが深く入ることで自由端面に近い頂点と残りの2つの頂点との距離が押し拡がることとなる。すると、2つの頂点から隣接する下孔への亀裂を促進されるので、破砕効率を促進されることとなる。
【0024】
対象物の下孔に挿し入れるモイルポイントツールの当接箇所が形成する三角形の頂点の1つを対象物の端部の自由端面とは一番遠い、真反対の位置に配し、残りの2つの頂点を通る線を隣接の下孔の列方向と平行とにすることで、三角形が下孔に食い込むこととすると、モイルポイントツールの打撃によってツールが深く入ることで自由端面から遠い頂点と残りの2つの頂点との距離が押し拡がることとなる。すると、2つの頂点から隣接する下孔への亀裂を促進されるので、破砕効率を促進されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は棒状のロッドの先端を三角錐状に面取りした本発明のモイルポイントツールの一例を示した図である。
【
図2】
図2は下孔を列状に穿孔した対象物に、本発明の実施例1のモイルポイントツールの先端を挿し入れる向きを示した説明図である。
【
図3】
図3は下孔を列状に穿孔した対象物に、本発明の実施例2のモイルポイントツールの先端を挿し入れる向きを示した説明図である。
【
図4】
図4は下孔を列状に穿孔した対象物に、比較例1となる四角錐状のモイルポイントの先端を挿し入れる向きを示した説明図である。
【
図5】
図5は下孔を列状に穿孔した対象物に、比較例2となる四角錐状のモイルポイントの先端を挿し入れる向きを示した説明図である。
【
図6】
図6は下孔を列状に穿孔した対象物に、比較例4となる一文字の楔型のウエッジポイントの先端を挿し入れる向きを示した説明図である。
【
図7】
図7は下孔を列状に穿孔した対象物に、比較例5となる一文字の楔型のウエッジポイントの先端を挿し入れる向きを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のモイルポイントツールの実施の形態について適宜図面を用いて説明する。
図1に示す本発明のモイルポイントツール(1)は、棒鋼のロッド本体部(4)の先端部(2)を鋭利に面取りすることで三角錐状に形成したものであって、面取り部(3)は、研削加工によって削られ、適宜表面が研磨されたものである。ロッド本体部(2)の他端の柄には衝撃工具と接続されるシャンク部(5)を備えている。
【0027】
本発明のモイルポイントツールの材質は、鋼であり、通常のモイルポイントツールの材質が適用できる。摩耗しやすいことから、焼入れ焼戻しなどの熱処理による硬化処理にも適した炭素鋼であることが好ましい。さらに熱処理性を考慮してSCM435、SCM440などのクロムモリブデン鋼などの特殊鋼を用いてもよい。このように、モイルポイントツールは、三角錐状の表面を熱処理により硬化しておくと、耐摩耗性に優れるので、繰り返し破砕処理をすることができる。
【0028】
ロッド本体部(2)の外径サイズや、シャンク部(5)の回り止め等の凸凹形状のスリット溝などは、使用する衝撃工具(大型の油圧式からハンディタイプまで)のサイズや形式に適合させるべく、適宜設定することができる。
【0029】
ロッド本体部(4)の棒鋼の断面は円又は六角形である。たとえば、ハンディタイプの衝撃工具に用いるモイルポイントツール(1)の一例として、外径が18mm、ロッドの全長300mmの棒材を例にとると、先端部(2)の当初長さは55mm、面取りされた三角錐状の3つの側面の面取り部(3)は、それぞれロッドの軸中心線から約10度傾斜しており、これらの傾斜により形成された三角錐状の先端部(2)の先端にはモイルポイントツールの破砕力が集中しうるようになっている。
【0030】
鋼製のロッドの外径がより太い場合でも、先端部に10~15度程度の傾斜面からなる面取り部を設けることによって三角錐状の先端部を形成することができる。
【0031】
なお、従来の四角錐状のモイルポイントツールの場合は、同じ外径18mm、全長300mmのロッドの場合、先端部に90度毎に備えた4つの面取り部の面の傾斜は、軸中心線から約10度の傾きで、先端部の当初長さは約50mmである。したがって、本発明の三角錐の先端部の傾斜は従来のモイルポイントツールと同程度の傾斜角が確保できており、下孔への食い込み性において、同等以上であって、面取り部の傾斜が食い込みや割岩の支障になることは全くない。
【0032】
本発明が破砕しようとしている対象物は、コンクリート構造物、コンクリート舗装版、岩盤、岩石などの硬くて容易に破砕できないような物である。そこで、ロッドの外径よりも小さい下孔をドリルなどで100mm程度穿孔して、その下孔にモイルポイントツールの尖った先端を挿し入れる。モイルポイントツールは衝撃工具により勢いよく対象物を打撃するから、下孔をガイドとしてコンクリートや岩盤内にモイルポイントツールは深く入り込むようにして、下孔から押し広げるようにして衝撃で対象物を破砕していく。
【0033】
対象物の下孔のサイズはモイルポイントツールのロッドの外径より小さい径であって、ドリルで穿孔する際の負荷も大きくなる。そこで、下孔の外径は、ロッドの外径に対して1/3~3/4程度、好ましくは2/5~3/5程度、目安として1/2程度が好ましい。下孔の外径がロッドの外径の2分の1のサイズの場合、ロッドが深く刺さると下孔の面積の4倍に押し広げられるので、深く刺さることができれば、非常に大きな破砕力につながる。
【0034】
円形の下孔に挿入されるモイルポイントツールの先端部が四角錐である場合と三角錐である場合とでは、ツールの周囲に確保される隙間空間が異なる。下孔に挿し入れられた先端は打撃によりさらに深く押し込まれて孔を押し広げることとなるが、深く押し込まれる際に下孔内の空気が押し込み抵抗となる。
【0035】
そこで、下孔に三角錐が差し込まれた場合と、四角錐が差し込まれた状場合の、打撃前の状態についてみると、下孔に内接する正三角形の面積は下孔の面積は下孔の41%、下孔に内接する正方形の面積は下孔の64%である。深く差し込まれる際には、隙間はさらに狭まる方向に向かうので、空気が逃げる隙間がもともと小さい、断面四角形の先端部が四角錐形状のものは、断面三角形の三角錐状のものに比して、押し込み抵抗が大きいこととなる。モイルポイントツールは、ロッドを深く食い込ませることで破砕力を得るので、押し込み抵抗が大きいと、深く食い込ませることが難しくなり、破砕力が大きく減衰される。
【0036】
また、破砕により生じた粉塵が下孔内から排出できないと、粉塵自体も押し込み抵抗となる。三角錐状の場合も四角錐状の場合も、差し込まれる先端の深さはほぼ同程度であるから、下孔に刺さったツールの先端の体積は、角錐の体積の公式(底面積×高さ÷3)から上記の面積に比例して差し込まれる容積も小さくなる。そこで、三角錐状の場合は、下孔の下方の空間がそれだけ広いこととなるので、隙間が大きく粉塵も排出されやすく押し込み抵抗となりづらいこととなる。このように、三角形と四角形では、その隙間のサイズの違いが明らかなように破砕片の排出には断面三角形の三角錐状の先端のモイルポイントツールが顕著に有利である。
【0037】
本発明に比して、マイナスドライバー状の楔型の一文字のウエッジポイントでは、先端がロッド径と同じ太さの一文字であることから、より径の小さな下孔があっても下孔に入っておらず、下孔があまり奏功しない。跳ね返されるので飛び石も多く発生し、十分な破砕深さを得ることが容易ではないこととなる。
【0038】
本発明においては、さらに、先端方向から本体部方向に軸方向に面取り部(3)に、スリット(6)を設けてもよい。スリットを組み合わせることは、内部の圧力が高まりにくく押し込み深さをより確保しやすくなるほか、表面積が増えることで熱処理硬化深さを十分に確保しやすいからである。たとえば、上述の18mmの外径のロッドの場合であれば、面取り部(3)に、それぞれ2mm幅、深さ1mmのスリット(6)を適宜設けるなどする。
【0039】
本発明のモイルポイントツール(1)の先端部(2)の三角錐状の先端は、その断面が三角形の形状が正三角形とすると、3つの面取り部は均等となる。それ以外に、二等辺三角形の断面としてもよい。底辺が等辺より長いやや扁平な二等辺三角形と、底辺より等辺がやや長い二等辺三角形としてもよい。
【0040】
対象物(7)に直線上に穿孔した多数の下孔(8)の列と、モイルポイントツール(1)の先端部(2)を、三角錐の断面の正三角形の1辺あるいは二等辺三角形の底辺を、下孔の列と平行となる向きに揃えて下孔(8)の中に挿し込むようにして、衝撃装置で破砕していくと、隣接する下孔の方向に向かって亀裂が進行しやすくなったり、底辺と対抗する角に沿ってモイルポイントツールが押し広がるので、下孔の列と直行する向きに大きく押し広がって、割れることとなるので、大きな塊となって割れやすいものとなる。
【0041】
そこで、モイルポイントツール(1)の先端部の三角錐の面取り部の1つが、下孔の列と平行な向きとなるようにして、破砕していくことが好ましい。
【0042】
次に、本発明のモイルポイントツールを用いて試験体の直方体(横幅700mm、奥行300mm、高さ300mm)のコンクリートブロックを対象物として破砕する場合を例に、破砕方法の一形態について説明する。この説明では、この直方体の正面側の側壁を、正面側自由端部と定義し、以下、この自由端部側を破砕することを目的とした本発明の三角錐状のモイルポイントツール(外径18mm)を用いた衝撃工具による破砕を例にして、破砕手順の一例を説明する。
【0043】
(下孔の穿孔について)
モイルポイントツールの外径が18mmであることから、約2分の1のサイズの下孔を穿孔には、φ8.5mmのドリルビット(SDSφ8.5mm3Dビット)を振動ドリル(ボッシュ社製GBH2-26-DE)に取り付けて用いた。下孔の穿孔位置は、直方体の上平面の正面から50mmの距離に下孔間を50mm離間させて順次穿孔することとした。なお、1つ目の下孔は、左側面から60mmの位置とした。このように下孔を複数穿孔する場合は、下孔を一列に離間して穿孔すると、破砕効率が上がる。また、予め下孔を複数列開けてもよい。
【0044】
下孔同士の離間距離は、モイルポイントツールの外径の2~4倍程度とするとよい。
【0045】
(破砕)
モイルポイントツールは、長さ300mm、外径18mmの丸棒の鋼材の先端部を約10度の傾斜で3方向に面取りして三角錐状にしたものである。衝撃工具は、ボッシュ製GBH7-46-DEであり、モイルポイントツールのシャンク部形状はこれに適合した形状である。
【0046】
モイルポイントツールの先端部は、三角形の底辺(正三角形であれば一辺)を下孔の穿孔の列と平行となるように、すなわち、立方体の横方向と平行な向きとなるように
図2及び
図3に▽や△で示す向きとする。底辺と対向する頂点は、モイルポイントツールが深く食い込むときに、奥行方向に拡げようとする力となる。底辺の両端の頂点は、隣接する下孔の方向に近いので、隣の下孔の周囲を崩すことにつながりやすい。三角錐であることで、より深く食い込むため、破砕片が大きくなり、破砕効率を上げることとなっている。
【0047】
下孔に沿っての破砕は、1つの下孔に対して衝撃工具からの打撃を加えてモイルポイントツールを深く食い込ませて周囲を破砕したら、隣の下孔に移動してモイルポイントツールを差し込んで打撃を加えていくといった手順を繰り返していく。もしくは、同じ下孔に対して何度も打撃を繰り返してから隣の下孔に移動して打撃を繰り返していくことを順次進めていくことで対象物を破砕していくこともできる。
【0048】
上記の試験体の直方体のコンクリートブロックについて、本発明の先端部が三角錐状のモイルポイントツールと、比較例として先端部が四角錐のモイルポイントツール、一文字のウエッジポイントツールを用いて、破砕特性を確認した。下孔を一列に配したコンクリートブロックにおいては、下孔に対して
図2~
図7に示すような向きでツールの先端部を配置してから、ハンド式衝撃工具を用いて破砕試験をした。
【0049】
図2~7に示す直方体の手前に表れる正面を破砕したい部位の自由端であると想定したとき、以下の条件で破砕試験を実施した。
実施例1:三角錐状の先端部を△の向きで下孔に挿入した。
実施例2:三角錐状の先端部を▽の向きで下孔に挿入した。
実施例3:三角錐状の先端部を△の向きとし、下孔なしで破砕試験をした。
比較例1:四角錐状の先端部を□の向きとし、下孔に挿入した。
比較例2:四角錐状の先端部を◇の向きとし、下孔に挿入した。
比較例3:四角錐状の先端部を◇の向きとし、下孔なしで破砕試験をした。
比較例4:一文字楔状の先端部を|の向きとし、下孔に上から押し当てた。
比較例5:一文字楔状の先端部を-の向きとし、下孔に上から押し当てた。
比較例6:一文字楔状の先端部を|の向きとし、下孔なしで破砕試験をした。
【0050】
破砕の様子について、以下の各項目を5段階で評価し、結果を表1に示した。
・破砕効率:進み具合の最も悪いものを1とし、最も優れるものを5とした。
・破砕片の形状の大小:小片を1とし、大きく割れるものを5とした。
・飛び石の量:ツールが弾き飛ばす小片の量が多いときは1と、少ないときは5とした。
・粉塵の量:発生する微細な粉塵の量が多いときは1と、少ないときは5とした。
・深さ方向への進行:ツールの食い込み深さが浅いものを1、より深いものを5とした。
・ツールの跳ね戻り:ツールが跳ねる度合が大きいものを1、跳ねないものを5とした。
・ツールの滑り:ツールが対象物の表面で滑ってしまうものを1と、滑らないものを5とした。
・騒音:破砕時に騒音の大きいものを1、騒音が小さいものを5とした。
・振動:破砕時に作業者に伝わる振動の大きいものを1、振動が小さいものを5とした。
【0051】
【0052】
本発明のモイルポイントツールは、三角錐状であって、実施例1,2のように下孔があるときは、下孔に沿ってチゼルが侵入しやすく、深く食い込むため、亀裂が大きく発生し、破砕効率が最も高く、破砕片も大きいものとなった。飛び石や粉塵の発生量も少なく、ツールが跳ね返ることも少なく、スタックも少なかった。また、ツール先端が滑って力が食い込み方向からそれて逃げてしまうこともなかった。四角錐状のツールと比較しても、三角錐状のツールは先端が下孔に刺さってスタックしづらかった。下孔がある場合、最も破砕能力が高いツールであり、従来の四角錐状のモイルポイントツールに比して優れた性能を示した。
また、実施例3に示すように、下孔のない場合には、ツールが跳ねたり滑ることがあるが、ツールが深さ方向に侵入しやすく、侵入すればその後の割岩硬化は中程度に得られ、下孔がない場合でも、比較例に比して最も破砕能力に優れていた。
【0053】
比較例1の四角錐状のモイルポイントツールは、自由面と□の辺の向きが平行であることから、破砕効率が中程度にとどまり、大きな破砕につながらず、中程度の破砕片となった。下孔に入り込むため当初は破砕するが、亀裂が進みにくく、四角錐のツールが試験体に刺さってしまいスタックすることがあった。
【0054】
比較例2の四角錐状のモイルポイントツールは、◇の向きであるため、比較例1よりは破砕効率に優れていた。もっとも、下孔に入り込むため当初は破砕できるもののツールが刺さってスタックしてしまいやすく、作業が進まなくなった。三角錐状に比べて、侵入深さが途中から得づらくなり、スタックしてしまうことがあった。
【0055】
比較例3の四角錐状のモイルポイントツールは、下孔がないと、刺さりやすくスタックして詰まりやすいものとなった。飛び石も粉塵も多く発生し、跳ね戻りや滑りもあった。
【0056】
比較例4のウェッジポイントは、下孔があっても径の小さな下孔ではツールの先端が入り込まないため、ガイド効果が発揮されづらく、侵入深さが十分に得られず、ツールが跳ねたり滑りやすくなった。また、騒音も振動も大きくなった。
【0057】
比較例5のウェッジポイントは、下孔があっても径の小さな下孔ではツールの先端が入り込まないため、ガイド効果が発揮されづらく、侵入深さが十分に得られず、ツールが跳ねたり滑りやすくなった。また、騒音も振動も大きくなった。比較例4よりも破砕片がやや大きく割れて割石性に若干違いがあったが、跳ねや滑りが大きく扱いづらいところがあった。
【0058】
比較例6のウェッジポイントは、下孔がないため、跳ねて滑りやすく、破砕効率が悪かった。飛び石も多く侵入深さは浅く、粉塵も多く発生した。振動、騒音も大きかった。いったん食い込めば割岩効果が得られるが、滑りや跳ねが大きいので、操作が難しかった。
【0059】
以上のとおり、三角錐状の先端部を備えた本発明のモイルポイントツールは、下孔がある場合の破砕効果に特に優れ、大きな破砕片となってコンクリートブロックが破砕されるなど、作業性に優れたものとなり、跳ねや滑りも少なく、スタックもしにくく、深くツールを侵入させていくことができるなど、きわめて良好な結果が得られたほか、下孔がない場合でも、従来に比して作業性に優れたものとなった。硬い岩盤などにスタックしづらく、優れた破砕効率を有するものであることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 モイルポイントツール
2 先端部
3 面取り部
4 ロッド本体部
5 シャンク部
6 スリット
7 対象物
8 下孔
【要約】
【課題】 先端が尖っていることで対象物に刺さりやすく硬い岩盤などへの破砕力に優れつつも、下孔への内圧や粉塵で破砕能力が低下してしまうことが抑制された破砕用のモイルポイントツールを提供すること。
【解決手段】 ロッド状のツール本体部と、ツール本体部の先端に三角錐状に面取りされた状態の先端部と、ツール本体部の他端にシャンク部、とを備えたモイルポイントツール。
【選択図】
図1