(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】プレス焼入れ用の金型装置
(51)【国際特許分類】
B21D 24/00 20060101AFI20240912BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B21D24/00 G
B21D22/20 H
B21D24/00 M
(21)【出願番号】P 2023211622
(22)【出願日】2023-12-15
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】田部井 貴秀
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-091207(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162350(WO,A1)
【文献】特開2017-148859(JP,A)
【文献】特許第7133049(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00ー26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス機械に取付けられ、ブランク材に成形加工と穴開け加工と焼入れ処理とを施すプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記金型装置は、前記プレス機械のベッドに取付けられる下型と、上型ベース及び成形用パッドを含み前記プレス機械のスライドに取付けられる上型とからなり、
前記成形用パッドは、前記ブランク材に穴を開ける第1ピアスパンチを内蔵し、
前記上型は、前記第1ピアスパンチに連結するピアスプレートを含み、このピアスプレートは、軸方向に伸縮可能である第1弾性支持手段により、前記上型ベースに直接的又は間接的に吊り下げられる形態で支持され、
さらに前記成形用パッドは、軸方向に伸縮可能である第2弾性支持手段により、前記上型ベースに直接的又は間接的に吊り下げられる形態で支持され、
前記金型装置は、前記スライドの下降力を駆動源にして、前記ブランク材から前記第1ピアスパンチを引き抜くピアス引き抜き機構を備え、
前記ピアス引き抜き機構の付勢力は、前記第1弾性支持手段の付勢力より大きく設定され、
前記第1ピアスパンチが前記ブランク材から引き抜かれた時点で前記第1ピアスパンチの進出を防止するピアスパンチの進出防止手段を備え、
前記プレス機械が下死点から上死点に転じた状態で、前記第1ピアスパンチが前記ブランク材に向かわないようにしたことを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項2】
請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記第1弾性支持手段は、オイルダンパ-に圧縮ばねを加えたもの、又はガスス
プリングに圧縮ばねを加えたものであることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項3】
請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記上型は、2階とその下の1階からなる2階構造を呈し、
前記2階に前記第1弾性支持手段が配置され、
前記1階に前記第2弾性支持手段が配置され、加えて前記1階に前記ピアスプレートを押し上げる油圧シリンダ形アクチェータが配置され、さらに加えて前記1階に前記ピアスプレートから下へ延びて前記第1ピアスパンチを支えるパンチ支持ロッドが配置され、
このパンチ支持ロッドと前記第1ピアスパンチが共通の鉛直線上に配置されていることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項4】
請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記第1弾性支持手段と前記第2弾性支持手段は、共に前記上型ベースから下へ延ばされ、
前記ピアス引き抜き機構は、前記下型に配置されるスライドカムを含む機構であることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項5】
請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記上型は、ラムクッションを介して前記スライドに取付けられ、
前記第1弾性支持手段と前記第2弾性支持手段の要部は、前記ラムクッションに配置され、
前記ピアス引き抜き機構は、前記下型に配置されるスライドカムを含む機構であることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項6】
請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記ピアス引き抜き機構は、圧油を発生する油圧シリンダ形ポンプと、前記圧油で駆動される油圧シリンダ形アクチェータと、この油圧シリンダ形アクチェータと前記油圧シリンダ形ポンプを結ぶ油圧ホースとからなり、
前記油圧シリンダ形ポンプは、前記上型と前記下型の一方に取付けられ、前記油圧シリンダ形ポンプを駆動するポンプ駆動ロッドが前記上型と前記下型の他方に設けられ、
前記油圧シリンダ形アクチェータは、前記成形用パッド又はこの成形用パッドを支える成形用パッドベースと前記ピアスプレートの間に配置され、
前記ポンプ駆動ロッドが前記油圧シリンダ形ポンプを押し、前記油圧ホースを介し前記油圧シリンダ形アクチェータを作動し、前記ピアスプレートを前記成形用パッドから離間させる、ことを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項7】
請求項4又は請求項5記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記ピアス引き抜き機構は、水平に移動可能に前記下型に支持される前記スライドカムと、このスライドカムを待機位置へ戻す第1リターンばねと、前記スライドカムから前記ピアスプレートへ向かって起立する起立棒とからなり、
前記スライドカムは、前記上型に設けられた第1カム面に接する第2カム面、及び前記起立棒に接する第3カム面とを備え、
前記起立棒は、下端に前記第3カム面に接する第4カム面を備え、
前記第1カム面の作用で前記スライドカムが前進すると前記起立棒が上昇し、前記第1リターンばねの作用で前記スライドカムが待機位置へ戻ると前記起立棒が下降するようにしたことを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項8】
請求項7記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記スライドカムにおいて、前記第2カム面と前記第3カム面は、側面視でハの字に配置されていることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項9】
請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記成形用パッドは、前記第1ピアスパンチに加えて、前記ブランク材の縁を切断するトリム刃を備えていることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項10】
請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記成形用パッド又はこの成形用パッドを支える成形用パッドベースからガイドポストを上へ延ばし、前記ピアスプレートに第3ガイドブッシュを設け、この第3ガイドブッシュに前記ガイドポストを通したことを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項11】
請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記第1ピアスパンチに加えて、長手軸がほぼ水平である第2ピアスパンチ、及びこの第2ピアスパンチを移動する第2ピアス移動機構を備え、
前記第2ピアス移動機構は、前記成形用パッドに取付けられる中空ケースと、この中空ケースに上下動可能に収納される第2駆動スライダと、前記中空ケースに前記長手軸に沿って移動可能に収納され前記第2ピアスパンチを移動する第2従動スライダと、前記第2従動スライダを待機位置へ戻す第2リターンばねとを備え、
前記ピアスプレートから下へ延びる第2パンチ押し棒で前記第2駆動スライダが押し下げられると、前記第2リターンばねを圧縮しつつ前記第2従動スライダが移動することで前記第2ピアスパンチで前記ブランク材のハット断面に絞り成形された側壁に穴開け加工が施され、
前記第2パンチ押し棒が上がると、前記第2リターンばねの付勢作用で前記第2ピアスパンチが前記ブランク材から引き抜かれることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項12】
請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記第1ピアスパンチは鉛直軸に対して傾斜して設けられ、前記ピアスプレートからパンチ押し棒が下へ延ばされ、このパンチ押し棒の下部に第3駆動カム面が設けられ、
この第3駆動カム面と前記第1ピアスパンチとの間に、この第1ピアスパンチを抜け方向へ付勢する第3リターンばねと、前記第3駆動カム面に当たる第3従動カム面を上部に有する第3従動スライダとが配置され、
前記パンチ押し棒で前記第3従動スライダが下げられると、この第3従動スライダで前記第1ピアスパンチが移動することで前記ブランク材のハット断面に絞り成形された上壁の傾斜面に穴開け加工を施し、
前記パンチ押し棒が上がると、前記第3リターンばねの付勢作用で前記第1ピアスパンチが前記ブランク材から引き抜かれることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項13】
請求項12記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記ピアスプレートに第3ガイドブッシュが設けられ、前記成形用パッド又は前記成形用パッドを支える成形用パッドベースから前記第3ガイドブッシュに嵌るガイドポストが立てられ、前記ピアスプレートから前記パンチ押し棒に沿わせる添え木状のバックアップ材が下げられ、前記成形用パッド又は前記成形用パッドベースから前記バックアップ材の下端を支える補助材が延ばされていることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項14】
請求項11記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記第2ピアスパンチに加えて、前記ブランク材の縁を切断するトリム刃を備え、このトリム刃に上下に延びる長穴を設け、この長穴に前記第2ピアスパンチを通すようにすると共に、前記成形用パッドに前記第2ピアスパンチの先端を支える第2ガイドブッシュを設けたことを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【請求項15】
請求項9記載のプレス焼入れ用の金型装置であって、
前記上型ベースから前記トリム刃へトリム刃押し棒が下げられ、このトリム刃押し棒と前記トリム刃の間にクリアランスを設けられ、
このクリアランスにより、前記トリム刃の移動量が前記第1ピアスパンチの移動量より小さく設定されていることを特徴とするプレス焼入れ用の金型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械に取付けられてブランク材に種々の加工や処理を施す金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[用語の説明]
伸動:油圧シリンダなどのシリンダにおいて、全長が「伸びる」ように作動すること。伸長も全長が伸びることをいう。
縮動:油圧シリンダなどのシリンダにおいて、全長が「縮む」ように作動すること。収縮も全長が縮むことをいう。
【0003】
ブランク材:プレス機械に投入される「平たい鋼板」である。平たい鋼板は塑性加工が施され立体となる。この立体は成形体と呼ばれる。この明細書では、ブランク材から成形体までの間の「中間物」もブランク材と呼ぶ。
【0004】
種々の加工や処理:ブランク材に絞り加工や曲げ加工や切断加工(トリム加工)や穴開け加工(ピアス加工)や焼入れ処理を指す。絞り加工や曲げ加工は、纏めて成形と呼ばれる。
【0005】
焼入れ:ブランク材を焼入れ温度(オーステナイト変態点以上の温度)に加熱し、空気、水又は油で急速冷却してマルテンサイトなどに変態させる熱処理を指す。本発明では、加熱はプレス機械とは別に設置される加熱炉で実施される。
【0006】
プレス焼入れ:プレスクエンチ(press quench)とも呼ばれ、プレスした状態を維持しつつ焼入れを行うことを指す。焼入れ歪が少なくなるという利点がある。
【0007】
従来、種々の加工や処理が実施できる金型装置は、色々と提案されてきた(例えば、特許文献1(
図1(a)~(c))参照)。
【0008】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図17(a)~(c)は従来の金型装置の基本原理を説明する図である。
図17(a)に示すように、従来の金型装置200は、下型201と、この下型201の上に配置される上型202と、この上型202を支える上型ベース203と、この上型ベース203の上に配置される加圧プレート204と、この加圧プレート204を下方へ付勢する油圧シリンダ205と、加圧プレート204から下げられるピアスパンチ206と、このピアスパンチ206を囲いつつ上型ベース203から下げられるパッド207と、上型ベース203と加圧プレート204の間に配置される第1弾性体208と、上型ベース203とパッド207の間に配置される第2弾性体209とを、主要素とする構造体である。
【0009】
図17(a)において、別の加熱炉で所定温度に加熱されたブランク材211が、ロボットなどにより下型201に載せられる。
次に、
図17(b)に示すように、油圧シリンダ205を伸動すると、パッド207が下がってブランク材211を抑え、上型202が下がってブランク材211に絞り加工を施し、ピアスパンチ206が下がってブランク材211に穴開け加工を施す。
【0010】
次に、
図17(c)に示すように、穴開け加工後に、油圧シリンダ205を少し縮動する。ピアスパンチ206が上がりブランク材211から抜ける。この間、第1弾性体208の下向き付勢力により、上型202はプレス位置に維持され、上型ベース203と加圧プレート204の間に隙間が生じる。この隙間へ加圧ブロック212が挿入される。
この加圧ブロック212が挿入された後に、油圧シリンダ205を伸動し、ブランク材211への加圧力を増す。
【0011】
加圧力が増した状態で、下型201及び上型202を強く冷却し、ブランク材211を急冷する。結果、ブランク材211に焼入れ処理が施される。なお、ブランク材211はマルテンサイトなどに変態するときに変形しようとするが、加圧力が増やされているので、変形、すなわち歪の発生は抑制される。
【0012】
以上に述べたように特許文献1の技術により、ブランク材211に、絞り加工と穴開け加工と焼入れ処理とからなる種々の加工や処理を施すことができる金型装置200が提供される。
【0013】
しかし、特許文献1の技術には、次に述べる問題点が存在する。
特許文献1の技術では、上死点から下死点までの長い距離の「伸動」→ピアスパンチ206の引き抜きと加圧ブロック212の挿入のための短い距離の「縮動」→冷却のための短い距離の「伸動」→下死点から上死点までの長い距離の「縮動」からなる多段動作が必須となる。このような多段動作は迅速に、且つ精密に行う必要がある。このような迅速、且つ精密な制御を、油圧シリンダ205で実行する。そのために、油圧シリンダ205における油圧精密制御が必要となる。
【0014】
しかし、多段動作や油圧精密制御は、無駄な動作が多く含まれ、結果として生産性が悪くなる。加えて、多段動作や油圧精密制御は、プレス機械の故障を誘発する。さらに加えて、油圧精密制御を備えるプレス機械は、非常に高価なものとなる。
【0015】
生産性の向上及びプレス機械の設備コスト低減が望まれる中、油圧シリンダを精密に制御することなく、種々の加工や処理を施すことができる金型装置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、油圧シリンダを精密に制御することなく、種々の加工や処理を施すことができる金型装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために次の2点を維持しつつ開発を進めた。
第1は油圧シリンダに対して油圧精密制御を行わないこと。
第2はピアスパンチの昇降はスライドの昇降を駆動源として行うこと。
すなわち、スライドの昇降とは別の駆動源でピアスパンチを昇降すると、別の制御系を準備する必要があり、設備コストが嵩み、好ましくない。そこで、ピアスパンチの昇降はスライドの昇降を駆動源とすることにする。
【0019】
本発明が完成するに至った過程を、
図1(a)~(i)に基づいて説明する。なお、
図1は、横軸が時間軸であり、縦軸に沿って並べた(a)~(i)が各要素であり、これらの各要素の作用を説明するタイムチャートである。
【0020】
図1(a)はスライドの動きを示し、汎用のプレス機械においては、スライドは、上死点から下死点まで、及び下死点から上死点まで、単純に昇降する。
図1(b)はブランク材の状態を示し、ブランク材には、上死点から下死点までに、絞り加工、穴開け加工及び冷却処理がこの順で施される。
【0021】
本発明者らは、スライドを駆動源としてピアスパンチを昇降する手段として、例えば、スライドの下降動作で駆動される、穴明けのためピアスパンチの進出方向に伸長・収縮する弾性支持手段と、穴から抜くためピアスパンチの後退方向に作動するピアス引き抜き機構を試した。
なお、弾性支持手段は、ゴム、スプリング、ガススプリングなどである。
また、ピアス引き抜き機構は、油圧シリンダ型アクチュエータ、またはカム機構などである。
【0022】
すなわち、
図2(b)に示す第1弾性支持手段52は、スライド17の下降力で伸長・収縮する。
図1(b)の穴開け完了後に、
図1(c)に示すように第1弾性支持手段は、ピアス引き抜き機構(
図2(b)、符号70)により収縮するようにした。
また、
図1(d)に示すように、ピアス引き抜き機構は、
図1(b)の穴開け完了後から下死点までの間に伸動するようにした。
【0023】
図1(e)に示すように、ピアスパンチは、穴開け完了後にピアス引き抜き機構の作用で後退する。
ピアスパンチがブランク材から引き抜かれた状態で、
図1(b)に示す冷却処理が行われる。加熱すると膨張する性質のブランク材においては、温度が下がると穴の径が小さくなる。予め抜いておくことでピアスパンチがブランク材に噛まれることを防止することができる。
【0024】
図1(a)において、上死点から下死点までの作用と、下死点から上死点までの作用は、中央の下死点を基準に対称、すなわち折り返した形態となる。
【0025】
すると、
図1(c)に示すように、下死点以降、弾性支持手段はスライドが上昇するにつれ伸長する。
図1(d)に示すように、下死点以降、ピアス引き抜き機構は作動しない。そのため、
図1(e)に示すように、下死点以降、ピアスパンチは進出(進入)状態となる。
下死点以降ではブランク材は冷却されて穴は径が小さくなっている。そこへ、ピアパンチが進入すると、ピアスパンチが折れたり、穴が傷んだりする。このことは許容されない。
【0026】
そこで、開発を進める中で、次に述べる対策を講じた。
対策として、ピアスパンチの下降を防止するピアスパンチの進出防止手段(
図2(b)、符号30)を準備する。ピアスパンチの進出防止手段の主要素は、例えばブロック(
図2(b)、符号31)である。
そして、
図1(f)に示すように、下死点以降に一定時間だけブロックを所定場所に挿入するようにした。
【0027】
図1(g)は
図1(c)と同じで、
図1(h)は
図1(d)と同じである。
ブロックが挿入されたので、
図1(i)に示すように、ピアスパンチは下死点以降に、後退状態が維持される。すなわち、ピアスパンチは下がらない。結果、ピアスパンチが折れることはなく、穴が傷むことは無くなる。
【0028】
図1(a)~(i)に基づいて完成した本発明は以下に述べる通りである。なお、各請求項の構成要素に括弧つき符号を付したが、本発明は括弧つき符号に限定されるものではない。また、各請求項に参照する図面を例示したが、各請求項はこれらの図面に限定されるものではない。
【0029】
請求項1に係る発明は、
図2(a)、(b)を参照することができる。
すなわち、請求項1に係る発明は、プレス機械(10)に取付けられ、ブランク材(63)に成形加工と穴開け加工と焼入れ処理とを施すプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記金型装置(20)は、前記プレス機械(10)のベッド(11)に取付けられる下型(21)と、上型ベース(16)及び成形用パッド(42)を含み前記プレス機械(10)のスライド(17)に取付けられる上型(41)とからなり、
前記成形用パッド(42)は、前記ブランク材(63)に穴を開ける第1ピアスパンチ(43)を内蔵し、
前記上型(41)は、前記第1ピアスパンチ(43)に連結するピアスプレート(45)を含み、このピアスプレート(45)は、軸方向に伸縮可能である第1弾性支持手段(52)により、前記上型ベース(16)に直接的又は間接的に吊り下げられる形態で支持され、
さらに前記成形用パッド(42)は、軸方向に伸縮可能である第2弾性支持手段(55)により、前記上型ベース(16)に直接的又は間接的に吊り下げられる形態で支持され、
前記金型装置(20)は、前記スライド(17)の下降力を駆動源にして、前記ブランク材(63)から前記第1ピアスパンチ(43)を引き抜くピアス引き抜き機構(70)を備え、
前記ピアス引き抜き機構(70)の付勢力は、前記第1弾性支持手段(52)の付勢力より大きく設定され、
前記第1ピアスパンチ(43)が前記ブランク材(63)から引き抜かれた時点で前記第1ピアスパンチ(43)の進出を防止するピアスパンチの進出防止手段(30)を備え、
前記プレス機械(10)が下死点から上死点に転じた状態で、前記第1ピアスパンチ(43)が前記ブランク材(63)に向かわないようにしたことを特徴とする。
【0030】
請求項2に係る発明は、
図4を参照することができる。
すなわち、請求項2に係る発明は、請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記第1弾性支持手段(52)は、オイルダンパ-に圧縮ばね(68)を加えたもの、又はガスス
プリングに圧縮ばね(68)を加えたものであることを特徴とする。
【0031】
請求項3に係る発明は、
図2(b)を参照することができる。
すなわち、請求項3に係る発明は、請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記上型(41)は、2階とその下の1階からなる2階構造を呈し、
前記2階に前記第1弾性支持手段(52)が配置され、
前記1階に前記第2弾性支持手段(55)が配置され、加えて前記1階に前記ピアスプレート(45)を押し上げる油圧シリンダ形アクチェータ(72)が配置され、さらに加えて前記1階に前記ピアスプレート(45)から下へ延びて前記第1ピアスパンチ(43)を支えるパンチ支持ロッド(46)が配置され、
このパンチ支持ロッド(46)と前記第1ピアスパンチ(43)が共通の鉛直線上に配置されていることを特徴とする。
【0032】
請求項4に係る発明は、
図12を参照することができる。
すなわち、請求項4に係る発明は、請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記第1弾性支持手段(52)と前記第2弾性支持手段(55)は、共に前記上型ベース(16)から下へ延ばされ、
前記ピアス引き抜き機構(70)は、前記下型(21)に配置されるスライドカム(75)を含む機構であることを特徴とする。
【0033】
請求項5に係る発明は、
図14を参照することができる。
すなわち、請求項5に係る発明は、請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記上型(41)は、ラムクッション(111)を介して前記スライド(17)に取付けられ、
前記第1弾性支持手段(52)と前記第2弾性支持手段(55)の要部は、前記ラムクッション(111)に配置され、
前記ピアス引き抜き機構(70)は、前記下型(21)に配置されるスライドカム(75)を含む機構であることを特徴とする。
【0034】
請求項6に係る発明は、
図5(a)、(b)を参照することができる。
すなわち、請求項6に係る発明は、請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記ピアス引き抜き機構(70)は、圧油を発生する油圧シリンダ形ポンプ(71)と、前記圧油で駆動される油圧シリンダ形アクチェータ(72)と、この油圧シリンダ形アクチェータ(72)と前記油圧シリンダ形ポンプ(71)を結ぶ油圧ホース(73)とからなり、
前記油圧シリンダ形ポンプ(71)は、前記上型(41)と前記下型(21)の一方に取付けられ、前記油圧シリンダ形ポンプ(71)を駆動するポンプ駆動ロッド(28)が前記上型(41)と前記下型(21)の他方に設けられ、
前記油圧シリンダ形アクチェータ(72)は、前記成形用パッド(42)又はこの成形用パッド(42)を支える成形用パッドベース(56)と前記ピアスプレート(45)の間に配置され、
前記ポンプ駆動ロッド(28)が前記油圧シリンダ形ポンプ(71)を押し、前記油圧ホース(73)を介し前記油圧シリンダ形アクチェータ(72)を作動し、前記ピアスプレート(45)を前記成形用パッド(42)から離間させる、ことを特徴とする。
【0035】
請求項7に係る発明は、
図13(a)、(b)を参照することができる。
すなわち、請求項7に係る発明は、請求項4又は請求項5記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記ピアス引き抜き機構(70)は、水平に移動可能に前記下型(21)に支持される前記スライドカム(75)と、このスライドカム(75)を待機位置へ戻す第1リターンばね(76)と、前記スライドカム(75)から前記ピアスプレート(45)へ向かって起立する起立棒(77)とからなり、
前記スライドカム(75)は、前記上型(41)に設けられた第1カム面(78)に接する第2カム面(79)、及び前記起立棒(77)に接する第3カム面(81)とを備え、
前記起立棒(77)は、下端に前記第3カム面(81)に接する第4カム面(82)を備え、
前記第1カム面(78)の作用で前記スライドカム(75)が前進すると前記起立棒(77)が上昇し、前記第1リターンばね(76)の作用で前記スライドカム(75)が待機位置へ戻ると前記起立棒(77)が下降するようにしたことを特徴とする。
【0036】
請求項8に係る発明は、
図13(a)を参照することができる。
すなわち、請求項8に係る発明は、請求項7記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記スライドカム(75)において、前記第2カム面(79)と前記第3カム面(81)は、側面視でハの字に配置されていることを特徴とする。
【0037】
請求項9に係る発明は、
図2(b)を参照することができる。
すなわち、請求項9に係る発明は、請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記成形用パッド(42)は、前記第1ピアスパンチ(43)に加えて、前記ブランク材(63)の縁を切断するトリム刃(59)を備えていることを特徴とする。
【0038】
請求項10に係る発明は、
図11を参照することができる。
すなわち、請求項10に係る発明は、請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記成形用パッド(42)又はこの成形用パッド(42)を支える成形用パッドベース(56)からガイドポスト(107)を上へ延ばし、前記ピアスプレート(45)に第3ガイドブッシュ(106)を設け、この第3ガイドブッシュ(106)に前記ガイドポスト(107)を通したことを特徴とする。
【0039】
請求項11に係る発明は、
図2(b)及び
図6(a)、(b)を参照することができる。
すなわち、請求項11に係る発明は、請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記第1ピアスパンチ(43)に加えて、長手軸(91a)がほぼ水平である第2ピアスパンチ(91)、及びこの第2ピアスパンチ(91)を移動する第2ピアス移動機構(90)を備え、
前記第2ピアス移動機構(90)は、前記成形用パッド(42)に取付けられる中空ケース(92)と、この中空ケース(92)に上下動可能に収納される第2駆動スライダ(94)と、前記中空ケース(92)に前記長手軸(91a)に沿って移動可能に収納され前記第2ピアスパンチ(91)を移動する第2従動スライダ(93)と、前記第2従動スライダ(93)を待機位置へ戻す第2リターンばね(95)とを備え、
前記ピアスプレート(45)から下へ延びる第2パンチ押し棒(47)で前記第2駆動スライダ(94)が押し下げられると、前記第2リターンばね(95)を圧縮しつつ前記第2従動スライダ(93)が移動することで前記第2ピアスパンチ(91)で前記ブランク材(63)のハット断面に絞り成形された側壁(63b)に穴開け加工が施され、
前記第2パンチ押し棒(47)が上がると、前記第2リターンばね(95)の付勢作用で前記第2ピアスパンチ(91)が前記ブランク材(63)から引き抜かれることを特徴とする。
【0040】
請求項12に係る発明は、
図9及び
図10(a)、(b)を参照することができる。
すなわち、請求項12に係る発明は、請求項1記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記第1ピアスパンチ(43)は鉛直軸に対して傾斜して設けられ、前記ピアスプレート(45)からパンチ押し棒(101)が下へ延ばされ、このパンチ押し棒(101)の下部に第3駆動カム面(101a)が設けられ、
この第3駆動カム面(101a)と前記第1ピアスパンチ(43)との間に、この第1ピアスパンチ(43)を抜け方向へ付勢する第3リターンばね(102)と、前記第3駆動カム面(101a)に当たる第3従動カム面(103a)を上部に有する第3従動スライダ(103)とが配置され、
前記パンチ押し棒(101)で前記第3従動スライダ(103)が下げられると、この第3従動スライダ(103)で前記第1ピアスパンチ(43)が移動することで前記ブランク材(63)のハット断面に絞り成形された上壁の傾斜面(63c)に穴開け加工を施し、
前記パンチ押し棒(101)が上がると、前記第3リターンばね(102)の付勢作用で前記第1ピアスパンチ(43)が前記ブランク材(63)から引き抜かれることを特徴とする。
【0041】
請求項13に係る発明は、
図11を参照することができる。
すなわち、請求項13に係る発明は、請求項12記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記ピアスプレート(45)に第3ガイドブッシュ(106)が設けられ、前記成形用パッド(42)又は前記成形用パッド(42)を支える成形用パッドベース(56)から前記第3ガイドブッシュ(106)に嵌るガイドポスト(107)が立てられ、前記ピアスプレート(45)から前記パンチ押し棒(101)に沿わせる添え木状のバックアップ材(108)が下げられ、前記成形用パッド(42)又は前記成形用パッド(42)から前記バックアップ材(108)の下端を支える補助材(109)が延ばされていることを特徴とする。なお、パンチ押し棒(101)とバックアップ材(108)は一体でもよい。
【0042】
請求項14に係る発明は、
図6(a)、(b)を参照することができる。
すなわち、請求項14に係る発明は、請求項11記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記第2ピアスパンチ(91)に加えて、前記ブランク材(63)の縁を切断するトリム刃(59)を備え、このトリム刃(59)に上下に延びる長穴(59a)を設け、この長穴(59a)に前記第2ピアスパンチ(91)を通すようにすると共に、前記成形用パッド(42)に前記第2ピアスパンチ(91)の先端を支える第2ガイドブッシュ(96)を設けたことを特徴とする。
【0043】
請求項15に係る発明は、
図16(a)を参照することができる。
すなわち、請求項15に係る発明は、請求項9記載のプレス焼入れ用の金型装置(20)であって、
前記上型ベース(16)から前記トリム刃(59)へトリム刃押し棒(61)が下げられ、このトリム刃押し棒(61)と前記トリム刃(59)の間にクリアランス(112)を設けられ、
このクリアランス(112)により、前記トリム刃(59)の移動量が前記第1ピアスパンチ(43)の移動量より小さく設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0044】
請求項1に係る発明では、ピアスパンチの進出防止手段を備えることで、冷却後のブランク材にピアスパンチが向かわないようにした。結果、ピアスパンチの折損及びブランク材の痛みが防止され、好ましい穴精度が維持される。
【0045】
加えて、プレス機械に多段動作や油圧精密制御を付加する必要が無いため、プレス機械は汎用機械のままでよく、プレス機械設備コストが嵩むことはない。
よって、本発明により、油圧シリンダを精密に制御することなく、種々の加工や処理を施すことができる金型装置が提供される。
【0046】
加えて、請求項1に係る発明では、ピアス引き抜き機構の付勢力は、第1弾性支持手段の付勢力より大きく設定した。ピアス引き抜き機構はスライドの下降力を利用するため、第1弾性支持手段の付勢力より大きく設定することができる。
第1弾性支持手段は第1ピアスパンチの抜けを阻止する作用を発揮するが、第1弾性支持手段の付勢力が小さく、ピアス引き抜き機構の付勢力が大きいため、穴開け加工後に、第1ピアスパンチをブランク材から容易に引き抜くことができる。
請求項2に係る発明では、オイル又は圧縮ガスでクッション作用を発揮させることができる。
【0047】
請求項3に係る発明では、上型を2階構造とし、2階に第1弾性支持手段を配置し、1階に第2弾性支持手段、油圧シリンダ形アクチェータ、第1ピアスパンチ、及びパンチ支持ロッドを配置した。
2階と1階に分けて主要要素を配置したため、これらの主要要素の配置自由度が高まる。加えて、パンチ支持ロッドと第1ピアスパンチを共通の鉛直線上に配置することが容易に行える。
【0048】
請求項4に係る発明では、上型は2階構造ではない。そのため、上型の高さ寸法を小さくすることができる。加えて、上型の構造を簡素化することができる。
加えて、スライドカムを含むピアス引き抜き機構を、下型に配置したため、上型の一層の簡素化が図れる。
【0049】
請求項5に係る発明では、請求項4と同様に、上型は2階構造ではない。そのため、上型の高さ寸法を小さくすることができる。加えて、上型の構造を簡素化することができる。
加えて、スライドカムを含むピアス引き抜き機構を、下型に配置したため、上型の一層の簡素化が図れる。
さらに加えて、主要要素をラムクッションに配置できるため、これらの主要要素の配置自由度が高まる。
【0050】
請求項6に係る発明では、ピアス引き抜き機構は、油圧シリンダ形ポンプと、油圧シリンダ形アクチェータと、油圧ホースとから構成される。
油圧シリンダ形ポンプ、油圧シリンダ形アクチェータ、油圧ホースは、構造が簡単であり、安価である。安価であるため、設備コストの圧縮に貢献する。
【0051】
請求項7に係る発明では、ピアス引き抜き機構は、スライドカムと、第1リターンばねと、起立棒とから構成される。
スライドカム、第1リターンばね、起立棒は、構造が簡単であり、安価である。安価であるため、設備コストの圧縮に貢献する。
【0052】
請求項8に係る発明では、スライドカムにおいて、第2カム面と第3カム面は、ハの字に配置されている。1個のスライドカムで下向き力を水平力に変換し、且つこの水平力を上向き力に変換する。結果、ピアス引き抜き機構のコンパクト化が図れる。
【0053】
請求項9に係る発明では、成形用パッドにトリム刃を付設した。
絞り加工、穴開け加工、及び焼入れ処理に、トリム加工を加えることができる。結果、プレス焼入れ用の金型装置の付加価値を高めることができる。
【0054】
請求項10に係る発明では、第3ガイドブッシュとガイドポストにより、成形用パッドの水平方向における振れを防止することができる。結果、高い精度の絞り加工及び穴開け加工が実施される。
【0055】
請求項11に係る発明では、第2ピアスパンチ及び第2ピアス移動機構をさらに備える。ブランク材に複数個所の穴開けが可能であるため、プレス焼入れ用の金型装置の付加価値を高めることができる。
【0056】
請求項12に係る発明では、パンチ押し棒と第3リターンばねと第3従動スライダを用いることで、第1ピアスパンチを鉛直軸に対して傾斜させることができる。
第1ピアスパンチが鉛直軸に対して傾斜させることができるため、ブランク材に傾斜面が存在しても、この傾斜面に対して容易に穴開けを施すことができる。
【0057】
請求項13に係る発明では、請求項12の構成に、ガイドポストとバックアップ材と補助材を加えて、パンチ押し棒の曲がりを是正するようにした。
【0058】
請求項14に係る発明では、トリム刃に長穴を設け、この長穴に第2ピアスパンチを通すようにした。
長穴を設けたので、トリム刃と第2ピアスパンチの干渉を避けつつ、上型にトリム刃と第2ピアスパンチを集中的に配置することができる。結果、プレス焼入れ用の金型装置の付加価値をさらに高めることができる。
【0059】
加えて、成形用パッドに第2ガイドブッシュを設け、この第2ガイドブッシュで第2ピアスパンチの先端を支えるようにした。
第2ガイドブッシュで第2ピアスパンチの先端の振れを防止することができる。
【0060】
請求項15に係る発明では、トリム刃の移動量が第1ピアスパンチの移動量より小さく設定されている。
トリム刃は不可避的にブランク材の切断面に接触する。この接触によりトリム刃は摩耗する。
トリム刃の移動量が大きい程、トリム刃の摩耗が顕著になるが、本発明によれば、移動量が小さいため、トリム刃の摩耗が小さくなり、トリム刃の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】(a)~(i)は本発明が完成するに至った過程を説明するタイムチャートである。
【
図2】(a)はプレス機械の原理図、(b)は本発明に係るプレス焼入れ用の金型装置の原理図である。
【
図4】(a)は第1・第2弾性支持手段の原理図であり、(b)は第1・第2弾性支持手段の作用図である。
【
図5】(a)はピアス引き抜き機構の原理図であり、(b)はピアス引き抜き機構の作用図である。
【
図6】(a)は第2ピアスパンチ及びそれの駆動機構の原理図であり、(b)は第2ピアスパンチ及びそれの駆動機構の作用図である。
【
図7】(a)~(d)は本発明に係る金型装置の作用を説明する図である。
【
図8】(a)~(d)は本発明に係る金型装置の作用を説明する図である。
【
図9】傾斜させた第1ピアスパンチを備える上型の構成図である。
【
図10】(a)、(b)は傾斜させた第1ピアスパンチの作用図である。
【
図11】傾斜させた第1ピアスパンチを備える上型の変更例を説明する図である。
【
図12】本発明に係る金型装置の変更例を説明する分解図である。
【
図13】(a)はスライドブロックを含むピアス引き抜き機構の原理図であり、(b)はピアス引き抜き機構の作用図である。
【
図14】本発明に係る金型装置のさらなる変更例を説明する分解図である。
【
図15】(a)~(d)はさらなる変更例の作用を説明する図である。
【
図16】(a)~(c)はトリム刃の移動量を説明する図である。
【
図17】(a)~(c)は従来の金型装置の基本原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0063】
[プレス機械]
図2(a)に示すように、プレス機械10は、汎用の液圧プレス又は機械プレスで差し支えない。
【0064】
汎用の液圧プレスを例に挙げると、プレス機械10は、ベッド11と、このベッド11から立てられる左右一対のコラム12と、これらのコラム12の上端に掛け渡されたトップフレーム13と、このトップフレーム13の幅方向中央にピストンロッド14が下に延びるように設けられた油圧シリンダ15と、この油圧シリンダ15で昇降されると共に左右一対のコラム12に沿ってスライドするスライド17とを備える設備である。
【0065】
[金型装置]
図2(b)に基づいて、プレス焼入れ用の金型装置20(以下、金型装置20と略記す。)を説明する。なお、
図2(b)は構造が明瞭になるように拡大した。
【0066】
図2(b)に示すように、金型装置20は、プレス機械10のベッド11に取付けられる下型21と、プレス機械10のスライド17に取付けられる上型41とからなる。
【0067】
[下型]
下型21は、例えば、ベース本体23と、このベース本体23の中央に載せられる下型ベース24と、この下型ベース24に載せられるダイ22と、このダイ22の側方位置にてベース本体23に立てられるクッション25と、このクッション25で弾性的に支えられるブランクホルダ26と、ベース本体23の左右端に上へ延びるようにして付設される左起立部27L(Lは左を示す添え字である。以下同じ)及び右起立部27R(Rは右を示す添え字である。以下同じ)と、左起立部27Lから上へ延びているポンプ駆動ロッド28と、左起立部27L及び右起立部27Rの各々の上面に水平移動可能に載せられるブロック31と、このブロック31を往復移動させるブロック挿入機構32とからなる。なお、ベース本体23、左起立部27L、及び右起立部27Rは鋳造品として一体でもよい。
【0068】
[ピアスパンチの進出防止手段]
ピアスパンチの進出防止手段30は、第1ピアスパンチ43がブランク材63から引き抜かれた時点で第1ピアスパンチ43の進出を防止する作用を発揮する手段である。
ピアスパンチの進出防止手段30は、例えば、前記ブロック31と前記ブロック挿入機構32とで構成される。
【0069】
なお、ブロック31はサイドピンであってもよい。すなわち、サイドピンをピアスプレートロッド45aに挿入して固定してもよい。
よって、ピアスパンチの進出防止手段30は、実施例に限定されない。
【0070】
ブロック挿入機構32は、ブロック31を単に往復させるだけであるからエアシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダ又は同等品であればよく、形式は任意である。
【0071】
[ダイ]
好ましくは、ダイ22に、ピアス工程で発生するスクラップを通過させるスクラップ通路33を適宜設け、下型ベース24の内部空洞に、スクラップを溜めるトレイ34を配置する。
また好ましくは、ブランクホルダ26に、トリム刃受け35及びこのトリム刃受け35を弾性的に支えるクッション36を内蔵する。
【0072】
[上型]
上型41は、図面表裏方向に複数の構成要素が重なっており分かり難いので、
図3を用いて説明する。
図3に示すように、上型41は、図面下半部に描かれ第1ピアスパンチ43を主体とするパンチ主体部44と、図面上半部に描かれ成形用パッド42を主体とする上型主体部51とからなる。
【0073】
[パンチ主体部]
パンチ主体部44は、下型(
図2(b)、符号21)とともにブロック(
図2(b)、符号31)を挟むピアスプレートロッド45aを左右に備える平板状プレートが形成する門型のピアスプレート45と、このピアスプレート45の幅方向中央から下げられたパンチ支持ロッド46と、このパンチ支持ロッド46の下端に取付けられた第1ピアスパンチ43とからなる。
【0074】
好ましくは、ピアスプレート45から第2パンチ押し棒47を下げる。好ましくは、ピアスプレート45からストッパ48を下げる。これらのストッパ48は、成形用パッドベース56に当たることで、ピアスプレート45が過度に下がることを防止する役割を果たす。
このような構造のパンチ主体部44は、第1弾性支持手段52(詳細構造は後述する。)を介して上型ベース16に吊るされる。
【0075】
[上型主体部]
上型主体部51は、上型ベース16に取付けた第1弾性支持手段52と、上型ベース16の左右端から各々下げられる左下がり部53L及び右下がり部53Rと、左下がり部53L及び右下がり部53R同士を繋ぐクロスメンバー54と、このクロスメンバー54に取付けた第2弾性支持手段55(詳細構造は後述する。)と、これらの第2弾性支持手段55で支持される成形用パッドベース56と、この成形用パッドベース56で支えられる成形用パッド42と、成形用パッドベース56と左下がり部53Lとの間に設けられたピアス引き抜き機構70とからなる。なお、上型ベース16、左下がり部53L及び右下がり部53R、クロスメンバー54は鋳造品として一体でもよい。
【0076】
[成形用パッド]
成形用パッド42は、ブランク材をハット(帽子)断面に絞り成形する成形面を有する十分に大きな金型であり、左右にパッド面58を一体的に備える。
好ましくは、成形用パッド42に縁切り用のトリム刃59を備え、このトリム刃59を押し下げるトリム刃押し棒61を上型ベース16から下げる。トリム刃59はクッション62により、待機位置に保持され、トリム刃押し棒61で押されることで下がる。
【0077】
トリム刃59は必須でなないが、付設することが推奨される。
成形用パッド42にトリム刃59を付設することで、絞り加工、穴開け加工、及び焼入れ処理に、トリム加工を加えることができる。結果、金型装置20の付加価値を高めることができる。
【0078】
また、成形用パッド42に第2ピアスパンチ91及びこの第2ピアスパンチ91を往復移動させる第2ピアス移動機構90を付設してもよい。
第2ピアスパンチ91及び第2ピアス移動機構90を付設することにより、前記第1ピアスパンチ43がブランク材のハット断面に成形された上壁に穴開けすることに加えて側壁に複数個所の穴開けが可能となり、金型装置20の付加価値が高まる。
【0079】
上型主体部51にパンチ主体部44を組合させたものが、
図2(b)に示す上型41となる。
図2(b)にて、ダイ22の上に置かれたブランク材63は、スライド17と共に成形用パッド42が下がるとブランクホルダ26とパッド面58とで強く挟まれる(ホールドされる)。クッション25が縮むため、このホールド作用は絞り加工中維持される。
【0080】
図2(b)の上型41に注目すると、1階に第2弾性支持手段55及びパンチ支持ロッド46が配置され、2階に第1弾性支持手段52が配置されている。
2階と1階に分けて2階フロア構造に主要要素を配置したため、これらの主要要素の配置自由度が高まる。
【0081】
加えて、2階に容易に空間を確保できるため、第1弾性支持手段52を配置する自由度が増す。
さらに加えて、1階において、パンチ支持ロッド46及び第1ピアスパンチ43を鉛直線上に配置できるため、安定した穴開け加工が実施できる。
【0082】
以下、
図2(b)並びに
図3に示す主要要素について、詳細を図面に基づいて順次説明する。
【0083】
[第1・第2弾性支持手段]
図4(a)に示すように、第1弾性支持手段52は、例えば、容器状の筒体65と、この筒体65内を昇降するディスク66と、このディスク66から下へ筒体65の外まで延びる支持ロッド67と、筒体65内に配置されディスク66を下方へ付勢する圧縮ばね68とからなる。
【0084】
図4(a)において支持ロッド67に圧縮ばね68に抗する上向き力が加わると、
図4(b)に示すように、ディスク66及び支持ロッド67が上昇しつつ圧縮ばね68が圧縮される。
圧縮ばね68のばね係数をk、圧縮量をLとすると、ばね反力はkLとなる。
上向き力とばね反力とが釣り合ったところで、ディスク66及び支持ロッド67は止まる。
【0085】
なお、
図4(b)に示すように、ディスク66にピストンリングを追加し、ディスク66にオリフィス孔69を追加し、筒体65にオイル又は圧縮ガスを封入してもよい。オイル又は圧縮ガスがクッション作用を発揮し、ディスク66が筒体65のエンドに穏やかに当たるようになり、好ましい。
【0086】
よって、第1弾性支持手段52及び第2弾性支持手段55は、オイルダンパーに圧縮ばねを加えたものや、ガススプリングに圧縮ばねを加えたものであってもよく、構造は実施例に限定されるものではない。
【0087】
また、
図2(b)に示したクッション25及びクッション36と、
図3に示したクッション62は、
図4(a)、(b)(ただし、天地は逆にする。)と類似した構造にしてもよい。
【0088】
図5(a)に示すように、ピアス引き抜き機構70は、例えば、左下
がり部53L(すなわち上型ベース16)に下向きに取付けられた油圧シリンダ形ポンプ71と、成形用パッドベース56に上向きに取付けられた油圧シリンダ形アクチェータ72と、これらを結ぶ油圧ホース73とからなる。
図5(a)では、油圧シリンダ形ポンプ71は、待機状態にある。
【0089】
図5(b)に示すように、油圧シリンダ形ポンプ71が下がり、それのピストンロッド71aがポンプ駆動ロッド28(すなわち下型)により、押し上げられると、圧油が油圧ホース73を介して油圧シリンダ形アクチェータ72へ供給され、それのピストンロッド72aが上昇し、ピアスプレート45を押し上げる。この押し上げにより、第1ピアスパンチ43がブランク材63から抜ける。
【0090】
図5(b)において、油圧シリンダ形ポンプ71が上がり、それのピストンロッド71aがポンプ駆動ロッド28から離れると、圧縮ばね72b(及び71b)が伸びる。結果、圧油が油圧シリンダ形アクチェータ72から油圧シリンダ形ポンプ71へ戻り、
図5(a)となる。
【0091】
以上、
図5(a)、(b)でピアス引き抜き機構70を説明した。ブランク材63に刺さった第1ピアスパンチ43は、スライドの下降力を駆動源としてブランク材63から引き抜かれる。この下降力は第1弾性支持手段52の付勢力より圧倒的に大きいので、ピアスパンチの数を増やしても容易にピアスプレート45を成形用パッド42から離間させ、ピアスパンチを引き抜くことができる。
油圧シリンダ形ポンプ71、油圧シリンダ形アクチェータ72及び油圧ホース73は、構造が単純であるため、安価であり、設備コストの低減を図ることができる。
【0092】
なお、油圧シリンダ形ポンプ71は、天地を逆にして、左起立部27L(すなわち下型)に取付け、それのピストンロッド71aを左下がり部53L(すなわち上型)で押させるようにしてもよい。
【0093】
また、油圧シリンダ形アクチェータ72は、天地を逆にして、ピアスプレート45に取付け、それのピストンロッド72aを成形用パッドベース56で押させるようにしてもよい。
【0094】
また、
図3において、成形用パッドベース56を省いて、成形用パッド42を直接的に第2弾性支持手段55で吊るようにすることは差し支えない。
この場合は、油圧シリンダ形アクチェータ72は、成形用パッド42に取付けられる。
【0095】
[第2ピアスパンチ]
図6(a)に示すように、第2ピアスパンチ91は、それの長手軸91aが水平又は水平軸に対して傾斜した形態で、成形用パッド42に設けられる。
傾斜させることで、ブランク材63の傾斜した側壁(ハット断面に絞り成形された側壁)63bに、長手軸91aを直交させることができ、第2ピアスパンチ91の折損を回避することができる。
【0096】
成形用パッド42にトリム刃59を設ける場合は、第2ピアスパンチ91は必然的に長くなる。そのため、成形用パッド42に第2ガイドブッシュ96を埋め込み、この第2ガイドブッシュ96で第2ピアスパンチ91の振れや曲がりを防止するようにする。
【0097】
[第2ピアス移動機構]
図6(a)に示すように、第2ピアス移動機構90は、成形用パッド42に一部が嵌め込まれる中空ケース92と、この中空ケース92に横移動可能に収納される第2従動スライダ93と、中空ケース92に上下移動可能に収納される第2駆動スライダ94と、この第2駆動スライダ94の上に配置される第2パンチ押し棒47(
図3も参照)と、第2従動スライダ93を待機位置へ戻す第2リターンばね95とからなる。
そして、第2駆動スライダ94に傾斜した第2駆動カム面94aが設けられ、第2従動スライダ93に第2駆動カム面94aに対応する第2従動カム面93aが設けられている。
【0098】
図6(b)に示すように、下降中の第2パンチ押し棒47で第2駆動スライダ94が押し下げられると、第2駆動カム面94aが滑りながら第2従動カム面93aを押し、結果、第2従動スライダ93は図面左へ移動する(ブランク材63へ向かう)。これで、ブランク材63の側壁63bに穴開けを施すことができる。
【0099】
図6(b)において、第2パンチ押し棒47が上昇すると、第2リターンばね95の作用で第2従動スライダ93及び第2駆動スライダ94が待機位置、すなわち、
図6(a)に戻る。
【0100】
[トリム刃]
図6(a)に示すように、トリム刃59は、ブランク材63の縁を切る刃であるため、図面表裏方向に延びる長刃である。そのため、第2ピアスパンチ91はトリム刃59を貫通する。トリム刃59は昇降するため、トリム刃59に上下に延びる長穴59aを設ける。
【0101】
図6(b)に示すように、トリム刃押し棒61(
図3も参照)でトリム刃59が押し下げられると、ブランク材63はトリム加工される。このトリム加工中、長穴59aの存在により、トリム刃59と第2ピアスパンチ91との干渉が回避される。
また、長穴59aを設けたことより、成形用パッド42に第2ピアスパンチ91とトリム刃59とを集中して配置することができ、金型装置の付加価値を高めることができると、言える。
【0102】
以上、
図6(a)、(b)で別の形態のピアス引き抜き機構70を説明した。
この別の形態のピアス引き抜き機構70においては、ピアスプレート45から延びる第2パンチ押し棒47の下降により、第2リターンばね95にエネルギーが蓄積される。このエネルギーを吐き出すことで、ブランク材63から第2ピアスパンチ91が引き抜かれる。
【0103】
すなわち、
図6(a)、(b)にあっても、間接的ではあるが、ブランク材63に刺さった第2ピアスパンチ91は、スライドの下降力を駆動源としてブランク材63から引き抜かれる。
【0104】
[金型装置の作用]
以上に述べた金型装置20の作用を、
図7(a)~(d)及び
図8(a)~(d)に基づいて説明する。なお、図面は便宜的に簡略化した。
【0105】
図2(a)で説明したように、上型ベース16はスライド17に取付けられており、スライド17と上型ベース16は一緒に上下する。以下の説明では、上型ベース16(スライド)と記載する。
【0106】
図7(a)に示すように上型ベース16(スライド)は上死点にある。別の加熱炉でオーステナイト変態温度以上に加熱されたブランク材63がダイ22の上に保持される。この状態から上型ベース16(スライド)が下げられる。
【0107】
図7(b)にて、絞り加工が完了した。この状態から上型ベース16(スライド)が引き続き下げられる。成形用パッド42はこれ以上下がらないが、第2弾性支持手段55が縮むため、クロスメンバー54は上型ベース16(スライド)と共に下がり続ける。ピアスプレート45も上型ベース16(スライド)と共に下がり続ける。
【0108】
図7(c)にて、下がり続ける第1ピアスパンチ43により、ブランク材63に穴開けが施される。穴開けが完了した時点で、油圧シリンダ形ポンプ71が圧油を油圧シリンダ形アクチェータ72へ送り始める。これにより、穴開け完了後にピアスプレート45が上がり始める。
上型ベース16(スライド)は下がり続けるが、第1弾性支持手段52が縮むため、及びスライドの下降力が大きいためピアスプレート45の上昇は妨げられない。
【0109】
図7(d)にて、第1ピアスパンチ43の引き抜きが完了した。この引き抜き完了の後に、成形用パッド42及びダイ22を急冷することで、ブランク材63が急冷され、マルテンサイトに変態する。すなわち、焼入れが施される。第1ピアスパンチ43は引き抜かれたままであるため、焼入れは支障なく行われる。
【0110】
図8(a)に示す上型ベース16(スライド)は下死点にある。このときに、左起立部27Lとピアスプレート45から下型に向け突出するピアスプレートロッド45aとの間の隙間が最大となる。この隙間へブロック31を挿入する。そして、上型ベース16(スライド)を上死点に向けて上げ始める。
【0111】
すると
図8(b)において、油圧シリンダ形ポンプ71が伸動し油圧シリンダ形アクチェータ72が縮む。この縮みによりピアスプレート45が下がろうとするが、ブロック31の存在で下降は妨げられる。結果、第1ピアスパンチ43がブランク材63に当たることはなく、第1ピアスパンチ43が折れることはなく、ブランク材63に傷が付くこともない。
【0112】
図8(c)にて、引き続き上型ベース16(スライド)を上げる。
図8(d)に示すように、上型ベース16(スライド)が上死点に達したら、
図7(a)に戻る。
ブロック31は、
図8(c)から
図8(d)までの適当な時期に待機位置へ戻せばよい。好ましくは、ブロック31は、上死点保持中に退避させる。
【0113】
次に、第1弾性支持手段52の付勢力と第2弾性支持手段55の付勢力を検討する。
図7(b)にて、第2弾性支持手段55は、直接的にブランク材63の絞り成形に関与する。
【0114】
図7(c)にて、第1弾性支持手段52は、直接的にブランク材63の穴開けに関与する。
【0115】
しかし、
図7(d)にて、第1弾性支持手段52の反力が上向き力の形で上型ベース16に加わる。スライド(
図2(a)、符号17)は油圧シリンダ(
図2(a)、符号15)で下方へ付勢されているため、上がる心配はない。しかし、上向き力を補うだけ油圧シリンダ15の付勢力を高める必要はある。
【0116】
本発明では、ピアス引き抜き機構70の付勢力は、第1弾性支持手段52の付勢力より大きく設定したことにより、次に述べる作用効果が得られる。
ピアス引き抜き機構70の付勢力により、ピアスプレート45を第1弾性支持手段52の付勢力に抗して成形用パッド42から離間させ第1ピアスパンチ43を容易に引き抜くことができる。
【0117】
加えて、第1弾性支持手段52の付勢力が小さいため、油圧シリンダ形ポンプ71と油圧シリンダ形アクチェータ72は、共に小径にすることができる。
【0118】
次に、第1ピアスパンチ43の姿勢を検討する。
図2(b)では、第1ピアスパンチ43は鉛直線上に配置した。しかし、例えば、ハット断面形状や凹凸形状の絞り成形後のブランク材の形状などにより、第1ピアスパンチ43を鉛直線に対して所定角度傾けることが必要になることがある。
【0119】
これに応え得る実施例を、
図9及び
図10(a)、(b)に基づいて説明する。
図9に示すように、成形用パッド42に内蔵する第1ピアスパンチ43を鉛直線に対して傾斜させた。成形用パッド42に、第3従動スライダ103を内蔵した。パンチ支持ロッド(
図3、符号46)に代えて、ピアスプレート45からパンチ押し棒101を下げた。その他は、
図3と同じであるため、
図3の符号を流用し、詳細な説明は省略する。
【0120】
図10(a)に示すように、成形用パッドベース56及び成形用パッド42に斜めの穴を開け、この斜めの穴に第3リターンばね102を収納し、第1ピアスパンチ43を収納し、第3従動スライダ103を収納し、第3従動スライダ103が抜けないように抜け止めプレート104を成形用パッドベース56にボルトなどで固定する。第3従動スライダ103の上部に第3従動カム面103aが設けられている。
ピアスプレート45から下がるパンチ押し棒101の下部に第3駆動カム面101aが設けられている。
【0121】
図10(b)に示すように、ピアスプレート45と共にパンチ押し棒101が下がると、第3駆動カム面101aが第3従動カム面103aを押す。第3従動カム面103aが押し下げられると、第1ピアスパンチ43は下降しブランク材63のハット断面に絞り成形された上壁の傾斜面63cに穴開けを施す。第3リターンばね102は圧縮される。
【0122】
ピアスプレート45と共にパンチ押し棒101が上がると、第3リターンばね102の付勢力で第3従動スライダ103が上昇し、第1ピアスパンチ43がブランク材63から抜け、
図10(a)に戻る。
【0123】
抜け止めプレート104により、第3従動スライダ103が上へ抜けることが防止される。
そして、パンチ押し棒101の軸が鉛直で、第3従動スライダ103の移動軸が斜めであるにも拘わらず、第3駆動カム面101aと第3従動カム面103aとに相対的な滑りが生じ、軸ずれが吸収される。
【0124】
ところで、
図10(b)において、硬いブランク材63に第1ピアスパンチ43を刺すときに大きな反力が発生する。この反力により、パンチ押し棒101が図面時計回りに曲げられる。この曲げが顕著であると、第3駆動カム面101aと第3従動カム面103aとの接触が不十分となる。その対策を、
図11に基づいて説明する。
【0125】
図11に示すように、ピアスプレート45とクロスメンバー54の一方又は両方に第3ガイドブッシュ106を嵌め、この第3ガイドブッシュ106に成形用パッドベース56から立てたガイドポスト107を挿入する。加えて、ピアスプレート45から添え木状のバックアップ材108を下げる。さらに加えて、成形用パッドベース56から図面表裏方向へ延びる補助材109を延ばす。
【0126】
パンチ押し棒101が図面時計回りに外力を受けて曲がろうとすると、バックアップ材108で曲げが抑制される。この過程でバックアップ材108が曲がろうとすると、補助材109が曲げを阻止する。この過程で補助材109が図面左に移動しそうになると、ピアスプレート45とクロスメンバー54の一方又は両方に嵌っているガイドポスト107が移動を阻止する。
以上により、第3駆動カム面101aと第3従動カム面103aの好ましい接触が維持され、精度のよい穴開けが実施される。
【0127】
なお、
図11中の第3ガイドブッシュ106とガイドポスト107のみを、
図2(b)の上型41に付加するは好ましいことである。
図2(b)において、付加した第3ガイドブッシュ106とガイドポスト107により、成形用パッド42の水平方向における振れを防止することができる。結果、高い精度の絞り加工及び穴開け加工が実施される。
【0128】
次に、金型装置20の変更例を説明する。
図2(b)で説明した金型装置20に対して、
図12に示す金型装置20は、以下の点で相違する。
図12に示すように、下型21の左起立部27Lと右起立部27Rにピアス引き抜き機構70を設けた点。
ピアス引き抜き機構70の構造を変更した点(詳細は後述する)。
第1弾性支持手段52に加えて、第2弾性支持手段55を上型ベース16に取付けた点。
トリム刃59を、直接的にピアスプレート45に設けた点。
【0129】
その他は、
図2(b)と共通するため、
図12では
図2(b)の符号を流用して、詳細な説明は省略する。
図12から明らかなように、上型41は2階構造ではない。そのため、上型41の高さ寸法を小さくすることができる。加えて、上型41の構造を簡素化することができる。第2弾性支持手段55を上型ベース16内に移動することで数を増加させて成形用パッド42の加圧力を増加できる。
加えて、スライドカム75を含むピアス引き抜き機構70を、下型21に配置したため、上型41の一層の簡素化が図れる。
【0130】
図13(a)に示すように、ピアス引き抜き機構70は、左起立部27Lと右起立部27Rの上部に各々水平移動自在の載せられたスライドカム75と、これらのスライドカム75を待機位置へ戻す第1リターンばね76と、左起立部27Lと右起立部27Rの各々に昇降可能にガイドされつつ上へ延びる起立棒77とを主要素とする。
以下、左起立部27L周りについて説明し、右起立部27R周りについては同様であるため説明を省略する。
【0131】
スライドカム75、第1リターンばね76及び起立棒77は、構造が簡単であり、安価である。安価であるため、設備コストの圧縮に貢献する。
【0132】
加えて、左下がり部53Lの下部に設けられる第1カム面78と、スライドカム75の両肩の一方の設けられる第2カム面79と、スライドカム75の他方の方に設けられる第3カム面81と、起立棒77の下部に設けられる第4カム面82とが設けられている。
【0133】
左下がり部53Lがスライド(
図12、符号16)と共に下降すると、第1カム面78が第2カム面79を押し、結果、スライドカム75は第1リターンばね76が縮む方向へ移動する。すると、スライドカム75の第3カム面81が第4カム面82を押し上げる。
【0134】
結果、
図13(b)に示すように、起立棒77が上昇する。この上昇する起立棒77がピアスプレート(
図12、符号45)を押し上げる。
そして、スライド(
図12、符号17)が下死点に達したときに、ブロック31を左起立部27Lに載せる。
【0135】
下死点以降に左下がり部53Lが上がると、第1リターンばね76が伸動し、スライドカム75を待機位置へ戻す。すると、起立棒77が下がる。起立棒77は下がるが、ピアスプレート45はブロック31により下降が妨げられる。
【0136】
なお、スライドカム75の形状は任意に変更して差し支えない。
しかし、実施例のように、第2カム面79と第3カム面81は、側面視でハの字に配置されてことが好ましい。スライドカム75の形状が単純になり、スライドカム75の小型化が可能となるからである。加えて、1個のスライドカム75で下向き力を水平力に変換し、且つこの水平力を上向き力に変換する。結果、ピアス引き抜き機構のコンパクト化が図れる。
【0137】
次に、金型装置20のさらなる変更例を説明する。
図12で説明した金型装置20に対して、
図14に示す金型装置20は、以下の点で相違する。
第1に、スライド17と上型ベース16の間に、ラムクッション111を介在させた点。
第2に、ラムクッション111に第1弾性支持手段52と第2弾性支持手段55を配置しつつ、第1弾性支持手段52と第2弾性支持手段55を上型ベース16に取付けた点。
その他は、構成要素が共通するため、
図14では
図12の符号を流用し、詳細な説明は省略する。
【0138】
図14から明らかなように、上型41は2階構造ではない。第1弾性支持手段52と第2弾性支持手段55をラムクッション111に集約するため、配置の自由度が増大し、最適な位置を付勢できる。また、上型41の高さ寸法を小さくすることができる。加えて、上型41の構造を簡素化することができる。
【0139】
加えて、スライドカム75を含むピアス引き抜き機構70を、下型21に配置したため、上型41の一層の簡素化が図れる。
さらに加えて、主要要素をラムクッション111に配置できるため、これらの主要要素の配置自由度が高まる。
【0140】
図12に示す金型装置20と、
図14に示す金型装置20とには、基本的な作用は同じである。
図14に示す金型装置20の作用を、以下に説明する。
【0141】
図14に示すスライド17は上死点にある。別の加熱炉でオーステナイト変態温度以上に加熱されたブランク材63がダイ22の上に保持される。この状態からスライド17が下げられる。
【0142】
図15(a)にて、成形が完了した。この状態からスライド17が引き続き下げられる。成形用パッド42はこれ以上下がらないが、第2弾性支持手段55が縮むため、上型ベース16はスライド17と共に下がり続ける。ピアスプレート45もスライド17と共に下がり続ける。
【0143】
図15(b)にて、下がり続ける第1ピアスパンチ43により、ブランク材63に穴が開けられた。
穴開けが完了した時点で、左下がり部53Lによりスライドカム75が移動し始め(図では右へ移動し始め)、起立棒77が上がり始める。これにより、穴開け完了後にピアスプレート45が上がり始める。
スライド17は下がり続けるが、第1弾性支持手段52が縮むため、ピアスプレート45の上昇は妨げられない。
【0144】
図15(c)にて、第1ピアスパンチ43の引き抜きが完了した。この引き抜き完了の後に、成形用パッド42及びダイ22を急冷することで、ブランク材63が急冷され、マルテンサイトに変態する。すなわち、焼入れが施される。第1ピアスパンチ43は引き抜かれたままであるため、焼入れは支障なく行われる。
【0145】
図15(d)に示すスライド17は下死点にある。このときに、左起立部27Lとピアスプレート45との間の隙間が最大となる。この隙間へブロック31を挿入する。そして、スライド17を上死点に向けって上げ始める。
【0146】
すると、左下がり部53Lが上がり、スライドカム75が待機位置へ戻り始め、起立棒77が下がり始める。起立棒77が下がると、ピアスプレート45が下がろうとするが、ブロック31の存在で下降は妨げられる。結果、第1ピアスパンチ43がブランク材63に当たることはなく、第1ピアスパンチ43が折れることはなく、ブランク材63に傷が付くこともない。
【0147】
以上に説明した
図15(a)は
図7(b)と同じ内容の作用図である。同様に、
図15(b)は
図7(c)と同じで、
図15(c)は
図7(d)と同じで、
図15(d)は
図8(a)と同じ内容の作用図である。
よって、
図5(a)に示すピアス引き抜き機構70と、
図13(a)に示すピアス引き抜き機構70とは、構造は相違するものの、共にスライド17の下降力を駆動源として第1ピアスパンチ43をブランク材63から抜く作用を発揮することは共通することが確認できた。
【0148】
加えて、
図2(b)に示す金型装置20と、
図12に示す金型装置20と、
図14に示す金型装置20とは、構造は相違するものの、作用は共通であることが確認できた。
【0149】
ところで、
図2(b)では、第1弾性支持手段52は上型ベース16に直接取付けられ、第2弾性支持手段55は上型ベース16に左
下がり部53L、右
下がり部53R及びクロスメンバー54を介して間接的に取付けられている。
また、
図12では、第1弾性支持手段52と第2弾性支持手段55が、上型ベース16に直接取付けられている。
【0150】
また、
図14では、第1弾性支持手段52と第2弾性支持手段55が、上型ベース16に直接取付けられている。
よって、第1弾性支持手段52と第2弾性支持手段55は、上型ベース16に直接的又は間接的に取付けられる。
【0151】
次に、トリム刃(
図2、符号59)の移動量について、検討する。
図16(a)において、図面左半分は比較例を示す図であり、図面右半分が実施例を示す図である。
図面左半分に示す比較例では、トリム刃59は直接的にスライド17に繋がっている。
対して、図右半分に示す実施例では、スライド17から下がるトリム刃押し棒61の下端とその下のトリム刃59との間に、所定の大きさのクリアランス112が設けられている。
【0152】
図16(a)において、図面左半分では、トリム刃59は第1ピアスパンチ43とほぼ同じ位に大きく下げられる。
図16(b)は
図16(a)の16b部に対する作用図である。
図16(b)に示すように、トリム刃59は大きく下がる。トリム刃59は、トリム中に不可避的にブランク材63の切断面63aに摺接する。この摺接により、トリム刃59は摩耗する。このときの摩耗はトリム刃59の移動量が大きい程、増大する。
【0153】
図16(a)において、図面右半分では、トリム刃押し棒61は大きく下がるが、トリム刃59はクリアランス112がゼロになってから下がり始める。結果、トリム刃59の移動量は小さくなる。なお、トリム刃59の移動量は、トリム刃59の移動量=(トリム刃押し棒61の移動量―クリアランス112)の算式により算出される。
【0154】
図16(c)は
図16(a)の16c部に対する作用図である。
図16(c)に示すように、トリム刃59は小さく下がる。結果、トリム刃59の摩耗は僅かで済む。
よって、
図16(a)の右半分及び
図16(c)の構造が推奨される。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は、プレス機械に取付けられ、ブランク材に成形加工と穴開け加工と焼入れ処理とを施すプレス焼入れ用の金型装置に好適である。
なお、ピアスパンチの進出防止手段として、実施例ではブロックとしたが、それ以外に、サイドピンをピアスプレートロッドに挿入して固定するなどがある。
【符号の説明】
【0156】
10…プレス機械、11…ベッド、16…上型ベース、17…スライド、20…プレス焼入れ用の金型装置(金型装置)、21…下型、28…ポンプ駆動ロッド、30…ピアスパンチの進出防止手段、31…ブロック、32…ブロック挿入機構、41…上型、42…成形用パッド、43…第1ピアスパンチ、45…ピアスプレート、46…パンチ支持ロッド、47…第2パンチ押し棒、52…第1弾性支持手段、55…第2弾性支持手段、56…成形用パッドベース、59…トリム刃、59a…長穴、61…トリム刃押し棒、63…ブランク材、63b…ブランク材の側壁、63c…上壁の傾斜面、70…ピアス引き抜き機構、71…油圧シリンダ形ポンプ、71a…油圧シリンダ形ポンプのピストンロッド、72…油圧シリンダ形アクチェータ、72a…油圧シリンダ形アクチェータのピストンロッド、73…油圧ホース、75…スライドカム、76…第1リターンばね、77…起立棒、78…第1カム面、79…第2カム面、81…第3カム面、82…第4カム面、90…第2ピアス移動機構、91…第2ピアスパンチ、91a…長手軸、92…中空ケース、93…第2従動スライダ、94…第2駆動スライダ、95…第2リターンばね、96…第2ガイドブッシュ、101…パンチ押し棒、101a…第3駆動カム面、102…第3リターンばね、103…第3従動スライダ、103a…第3従動カム面、106…第3ガイドブッシュ、107…ガイドポスト、108…バックアップ材、109…補助材、111…ラムクッション、112…クリアランス。
【要約】
【課題】油圧シリンダを精密に制御することなく、種々の加工や処理を施すことができる金型装置を提供する。
【解決手段】
図1(a)に示すように、スライドは単に昇降する。この間に
図1(b)に示すように、ブランク材に種々の加工や処理がなされる。
図1(e)に示すように、比較例ではピアスパンチは、下死点後に進出する。この進出はピアスパンチの折損やブランク材の品質低下を招き、具合が悪い。本発明では
図1(f)に示すように、下死点直後にブロックを挿入する。この処置により、
図1(i)に示すように、ピアスパンチの不都合な進出を防止する。
【選択図】
図1