(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】鞍乗型車両のブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20240912BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B60T7/12 B
B60T8/1755 C
(21)【出願番号】P 2023503394
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2021046861
(87)【国際公開番号】W WO2022185672
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2021034321
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】兼田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】能勢 翼
(72)【発明者】
【氏名】稲田 恭介
(72)【発明者】
【氏名】神戸 佑太
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131504(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/202261(WO,A1)
【文献】特開2016-037254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種々の情報に応じてブレーキ(BF,BR)のブレーキ液圧を自動制御する制御装置(70)を有する鞍乗型車両のブレーキシステムにおいて、
ピッチ角速度検出部(95)の出力に基づいて車両のピッチ角速度(ω)を検出するピッチ角速度検出手段(73)を具備し、
前記制御装置(70)は、前記自動制御によって前輪ブレーキ(BF)のブレーキ液圧を徐々に増加させている途中で前記ピッチ角速度(ω)が所定閾値以上になると、ブレーキ液圧の増加度合を小さくするまたはその時点でのブレーキ液圧を維持することを特徴とする鞍乗型車両のブレーキシステム。
【請求項2】
運転者の着座状態を検知する着座センサ(76)を具備し、
前記制御装置(70)は、前記着座センサ(76)が運転者の着座状態を検知していない場合に前記所定閾値を下げることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両のブレーキシステム。
【請求項3】
前記制御装置(70)は、走行中の路面が下り坂であると判定される場合に前記所定閾値を下げると共に、路面が上り坂であると判定される場合に前記所定閾値を上げることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両のブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両のブレーキシステムに係り、特に、各種センサ情報に基づく自動制御を可能とする鞍乗型車両のブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種センサ情報に基づく自動制御を可能とするブレーキシステムが知られている。
【0003】
特許文献1には、ブレーキシステムを自動制御する際に、まず軽めの制動力を与えて運転者の姿勢変化を観察し、大きな変化が生じない場合に目標制動力を与えるようにしたブレーキシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、目標制動力を与えるために前輪ブレーキのブレーキ液圧を高める際には、前輪サスペンションが収縮して車体が前下がりの姿勢になりやすく、この前下がりの姿勢に変化する速度が速すぎると運転者の安心感が低下するという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、車両が前下がりの姿勢に変化する速度を抑えて運転者の安心感を高めることを可能とする鞍乗型車両のブレーキシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、種々の情報に応じてブレーキ(BF,BR)のブレーキ液圧を自動制御する制御装置(70)を有する鞍乗型車両のブレーキシステムにおいて、ピッチ角速度検出部(95)の出力に基づいて車両のピッチ角速度(ω)を検出するピッチ角速度検出手段(73)を具備し、前記制御装置(70)は、前記自動制御によって前輪ブレーキ(BF)のブレーキ液圧を徐々に増加させている途中で前記ピッチ角速度(ω)が所定閾値以上になると、ブレーキ液圧の増加度合を小さくするまたはその時点でのブレーキ液圧を維持する点に第1の特徴がある。
【0008】
また、運転者の着座状態を検知する着座センサ(76)を具備し、前記制御装置(70)は、前記着座センサ(76)が運転者の着座状態を検知していない場合に前記所定閾値を下げる点に第2の特徴がある。
【0009】
さらに、前記制御装置(70)は、走行中の路面が下り坂であると判定される場合に前記所定閾値を下げると共に、路面が上り坂であると判定される場合に前記所定閾値を上げる点に第3の特徴がある。
【発明の効果】
【0010】
第1の特徴によれば、種々の情報に応じてブレーキ(BF,BR)のブレーキ液圧を自動制御する制御装置(70)を有する鞍乗型車両のブレーキシステムにおいて、ピッチ角速度検出部(95)の出力に基づいて車両のピッチ角速度(ω)を検出するピッチ角速度検出手段(73)を具備し、前記制御装置(70)は、前記自動制御によって前輪ブレーキ(BF)のブレーキ液圧を徐々に増加させている途中で前記ピッチ角速度(ω)が所定閾値以上になると、ブレーキ液圧の増加度合を小さくするまたはその時点でのブレーキ液圧を維持するので、車両が前下がりの姿勢に変化する速度を抑えることが可能となる。これにより、運転者の安心感を高めることができる。
【0011】
第2の特徴によれば、運転者の着座状態を検知する着座センサ(76)を具備し、前記制御装置(70)は、前記着座センサ(76)が運転者の着座状態を検知していない場合に前記所定閾値を下げるので、所定閾値を下げて、前輪ブレーキ液圧の増加度合を小さくするまたはその時点でのブレーキ液圧の維持に切り替えるタイミングを早くすることで、運転者の安心感を高めることが可能となる。
【0012】
第3の特徴によれば、前記制御装置(70)は、走行中の路面が下り坂であると判定される場合に前記所定閾値を下げると共に、路面が上り坂であると判定される場合に前記所定閾値を上げるので、下り坂を走行中に前輪ブレーキを作動させると前下がりの姿勢になりやすいところ、所定閾値を下げて、前輪ブレーキ液圧の増加度合を小さくするまたはその時点でのブレーキ液圧の維持に切り替えるタイミングを早くすることで、運転者の安心感を高めることが可能となる。また、上り坂を走行中は、前輪ブレーキを作動させても前下がりの姿勢になりにくいことから、前輪ブレーキ液圧の増加度合を小さくするまたはその時点でのブレーキ液圧の維持に切り替えるタイミングを遅くして高い制動力を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るブレーキシステムを適用した自動二輪車の右側面図である。
【
図2】本実施形態に係るブレーキシステムの構成を示すブロック図である。
【
図3】ブレーキシステムの自動制御におけるピッチ角速度および前輪ブレーキ液圧の推移を示すグラフである。
【
図4】ブレーキシステムの自動制御におけるピッチ角速度および前輪ブレーキ液圧の推移を示すグラフである。
【
図5】本実施形態に係るブレーキシステムに適用される自動ブレーキ制御の手順を示すフローチャートである。
【
図6】所定閾値設定制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキシステムを適用した自動二輪車1の右側面図である。自動二輪車1は、パワーユニットPの駆動力をドライブチェーン14を介して後輪WRに伝達する鞍乗型車両である。車体フレームFの前端に位置するヘッドパイプF1には、不図示のステアリングステムが揺動自在に軸支されている。ステアリングステムの上下には、左右一対のフロントフォーク10を支持するボトムブリッジ23およびトップブリッジ24が固定されている。
【0015】
トップブリッジ24の上部には、左右一対のバックミラー4を支持する操向ハンドル2が取り付けられている。右側の操向ハンドル2には、前輪ブレーキ操作子としてのブレーキレバー50が取り付けられている。フロントフォーク10には、前輪WFと同期回転する前輪ブレーキディスク31に制動力を与える前輪ブレーキとしての前輪ブレーキキャリパBFと、フロントフェンダ11とが取り付けられている。
【0016】
ヘッドパイプF1の後部には、斜め後方下方に延びる左右一対のメインフレームF2と、下方に延びてパワーユニットPの下側を支持するアンダフレームF5とが取り付けられている。メインフレームF2の後端には、スイングアーム15を揺動自在に軸支するピボット22を有するピボットフレームF3が連結されており、ピボットフレームF3の下端部には、アンダフレームF5の後端部が連結されている。ピボットフレームF3には、運転者が足を乗せる足乗せステップ39が左右一対で取り付けられている。
【0017】
メインフレームF2およびアンダフレームF5で囲まれて支持されるパワーユニットPの駆動力は、ドライブチェーン14を介して後輪WRに伝達される。パワーユニットPの前方寄りの底部には、アンダガード12が取り付けられている。パワーユニットPの燃焼ガスは、アンダガード12の内側を通る排気管37を介して車体後方のマフラ16に送られる。
【0018】
ピボット22で軸支されるスイングアーム15の後端部には、後輪WRが回転自在に軸支されている。スイングアーム15には、後輪WRと同期回転する後輪ブレーキディスク33に制動力を与える後輪ブレーキとしての後輪ブレーキキャリパBRが支持されている。車幅方向右側のピボットフレームF3には、運転者の右足で操作する後輪ブレーキ操作子 としてのブレーキペダル50が揺動自在に軸支されている。
【0019】
ヘッドパイプF1の車体前方は、ヘッドライト9、防風スクリーン6および左右一対の前側フラッシャランプ8を支持するフロントカウル7が配設されている。フロントカウル7の車体後方かつメインフレームF2の上部には、燃料タンク3が配設されている。ピボットフレームF3の後部には、運転者が着座する前側シート21およびパッセンジャーが着座する後側シート20を支持するリヤフレームF4が固定されている。リヤフレームF4の車幅方向左右はリヤカウル19で覆われており、リヤカウル19の後端部には、尾灯装置18および左右一対の後側フラッシャランプ17を支持するリヤフェンダ38が取り付けられている。
【0020】
車体フレームFの上部には、燃料噴射装置や点火装置、ブレーキシステム等の制御を行う制御装置70が配設されている。制御装置70には、前輪ブレーキBFのブレーキ液圧を生成する前輪側のブレーキアクチュエータ(以下、単にアクチュエータと示すこともある)52と、後輪ブレーキBRのブレーキ液圧を生成する後輪側のブレーキアクチュエータ62とが一体に構成されている。前輪ブレーキBFのブレーキ液圧を検知する前輪ブレーキ液圧センサ53および後輪ブレーキBRのブレーキ液圧を検知する後輪ブレーキ液圧センサ63は、アクチュエータ52,62の近傍にそれぞれ配設されている。ブレーキレバー50の近傍には、ブレーキレバー50に入力される操作力を検出する前輪ブレーキ操作力センサ51が配設されており、ブレーキペダル60の近傍には、ブレーキペダル60に入力される操作力を検出する後輪ブレーキ操作力センサ61が配設されている。
【0021】
前側シート21の内部には、運転者の着座状態を検知する着座センサ21が配設されている。着座センサ21は、運転者の荷重がかかっている状態をオン、荷重がかかっていない状態をオフとする。例えば、オフ状態はシートから浮いた状態と判定される場合がある。また、アンダガード12の内側には、路面が濡れているか否かを検知する路面センサ77が配設されている。
【0022】
防風スクリーン6の後方には、ブレーキシステムの自動制御に用いられる前方カメラ80および前方レーダ81が配設されている。本実施形態に係るブレーキシステムは、通常時は、ブレーキ操作子50,60の操作力に対応したブレーキ液圧をアクチュエータ52,62によって生成すると共に、前方カメラ80および前方レーダ81によって検知される障害物の接近等の自動制御条件が満たされると、ブレーキ操作子50,60の操作が行われなくとも制御装置70によって最適なブレーキ液圧を自動的に生成するように構成されている。ブレーキシステムの自動制御時は、前7:後3や前6:後4等の前後配分も、車速や車体姿勢、路面状況等に応じて自動的に設定される。
【0023】
図2は、本実施形態に係るブレーキシステムの構成を示すブロック図である。制御装置70には、閾値設定部71、タイマ72、ピッチ角速度検出手段73、閾値比較部74およびブレーキ液圧制御部74が含まれる。制御装置70には、前方カメラ80、前方レーダ81からの情報のほか、車速センサ90、スロットル開度センサ91、エンジン回転数センサ92、ギヤポジションセンサ93、ピッチ角速度検出部としてのジャイロセンサ95からの情報が入力される。また、制御装置70には、着座センサ76および路面センサ77からの情報が入力される。ジャイロセンサ95は、車体のロール角速度、ピッチ角速度、ヨー角速度を検出することができる。また、角速度に基づいて、ロール角、ピッチ角、ヨー角の算出ができる。
【0024】
ブレーキ液圧制御部72は、各種センサの情報に基づいてアクチュエータ52,62を駆動し、前輪ブレーキBFおよび後輪ブレーキBRに制動力を発揮させる。ピッチ角速度検出手段73は、ジャイロセンサ95の出力に基づいてピッチ角速度ωを検出する。本実施形態では、ブレーキシステムの自動制御において前輪ブレーキBFのブレーキ液圧を増加させている途中でピッチ角速度ωが所定閾値以上となると、ブレーキ液圧の増加度合を小さくするまたは維持に変更する点に特徴がある。閾値設定部71は、各種センサ情報に基づいて所定閾値を設定する。閾値比較部74は、所定閾値とピッチ角速度ωとを比較することで、ブレーキ液圧の増加度合を小さくするまたは維持に切り替えるか否かを決定する。
【0025】
図3は、ブレーキシステムの自動制御におけるピッチ角速度ωおよび前輪ブレーキ液圧Pの推移を示すグラフである。このグラフでは、時刻t1で自動制御が開始されて前輪ブレーキ液圧Pの増加が開始され、時刻t2でピッチ角速度ωが所定閾値ω1に到達する状態を示している。本実施形態では、前輪ブレーキ液圧Pの増加に伴ってピッチ角速度ωが所定閾値ω1に到達すると、前輪ブレーキ液圧Pをその時点での値P1に維持する点に特徴がある。これにより、車両が前下がりの姿勢に変化する速度を抑えて、運転者の安心感を高めることが可能となる。なお、前輪ブレーキ液圧Pの増加態様は、図示するように直線状に増加させるほか、曲線状や階段状に増加させるようにしてもよい。
【0026】
図4は、ブレーキシステムの自動制御におけるピッチ角速度ωおよび前輪ブレーキ液圧Pの推移を示すグラフである。このグラフでは、時刻t10で自動制御が開始されて前輪ブレーキ液圧Pの増加が開始され、時刻t11でピッチ角速度ωが所定閾値ω1に到達する状態を示している。本実施形態では、前輪ブレーキ液圧Pの増加に伴ってピッチ角速度ωが所定閾値ω1に到達すると、前輪ブレーキ液圧Pの増加度合を小さくする(グラフの傾きを小さくする)点に特徴がある。これにより、車両が前下がりの姿勢に変化する速度を抑えて、運転者の安心感を高めることが可能となる。増加度合を小さくする際の態様は種々の変形が可能である。
【0027】
図5は、本実施形態に係るブレーキシステムに適用される自動ブレーキ制御の手順を示すフローチャートである。ステップS1では、ブレーキシステムの自動制御が開始される。なお、自動制御の開始は、運転者が操向ハンドル2を握っているか否かを検知してから実行するように設定できる。続くステップS2では、前輪ブレーキ液圧Pが増加中であるか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS3に進む。
【0028】
ステップS3では、ピッチ角速度検出手段73によりピッチ角速度ωが検出される。続くステップS4では、ピッチ角速度ωが所定閾値ω1以上となったか否かが判定される。ステップS4で肯定判定されると、ステップS5に進み、前輪ブレーキ液圧Pを増加から液圧傾きを小さくするまたは維持に切り替える。
【0029】
ステップS6では、ブレーキシステムの自動制御の解除条件が満たされたか否かが判定され、肯定判定されるとステップS7に進む。自動制御解除条件には、車速が所定値以下、ブレーキ操作子の操作力が所定値以上、スロットル操作量および操作速度が所定値以上、車体ロール角が所定値以上、等が設定される。ステップS7では、自動制御が解除されて手動制御に切り替えられ、一連の制御を終了する。なお、ステップS2で否定判定されると、ステップS3~S5をスキップしてステップS6に進む。
【0030】
図6は、所定閾値設定制御の手順を示すフローチャートである。ステップS10では、着座センサ76がオフであるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS12に進んで所定閾値が下げられる。すなわち、着座センサ76がオフで運転者が立ち乗りをしていると判定される場合は、所定閾値を下げて、前輪ブレーキ液圧Pの増加度合を小さくするまたはその時点でのブレーキ液圧の維持に切り替えるタイミングを早くすることで、運転者の安心感を高めることが可能となる。
【0031】
また、ステップS10で否定判定されるとステップS11に進み、路面が下り坂か否かが判定される。ステップS11で肯定判定されると、ステップS12に進んで所定閾値ω1が下げられる。すなわち、下り坂を走行中に前輪ブレーキBFを作動させると前下がりの姿勢になりやすいところ、所定閾値ω1を下げて、前輪ブレーキ液圧Pの増加度合を小さくするまたはその時点でのブレーキ液圧の維持に切り替えるタイミングを早くすることで、運転者の安心感を高めることが可能となる。
【0032】
ステップS11で否定判定されると、所定閾値ω1を下げる必要がないとして、ステップS13に進み、所定閾値ω1を維持してステップS14に進む。なお、所定閾値ω1を下げる程度は、例えば、下り坂の勾配や車速等に応じて数パーセントから数十パーセントの間で変位させることが可能である。
【0033】
ステップS14では、路面が上り坂か否かが判定され、肯定判定されるとステップS15に進んで所定閾値ω1が上げられる。すなわち、上り坂を走行中は、前輪ブレーキBFを作動させても前下がりの姿勢になりにくいことから、前輪ブレーキ液圧の増加度合を小さくするまたはその時点でのブレーキ液圧の維持に切り替えるタイミングを遅くして高い制動力を得ることが可能となる。一方、ステップS14で否定判定されると、そのまま一連の制御を終了する。なお、所定閾値ω1を上げる程度は、上り坂の勾配に応じて数パーセントから数十パーセントの間で変位させることが可能である。
【0034】
なお、自動二輪車の形態、ブレーキシステムの構成、前輪ブレーキ操作子および後輪ブレーキ操作子の態様、所定閾値の設定、ピッチ角速度検出部の態様等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、ピッチ角速度が所定閾値以上となった場合に、ブレーキ液圧を増加から減少に切り替えてもよい。また、ブレーキ液圧を増加から維持に変更することでピッチ角速度が低下した場合は、再度、ブレーキ液圧を増加に転ずることもできる。また、ロール角速度が所定閾値以上となった場合に、車体のロール角が所定値以上である場合は、路面状態検知部(前方カメラなど)によって検知される路面摩擦係数の推測値が低いときには制動装置は閾値を下げるように構成することができる。本発明に係るブレーキシステムは、自動二輪車に限られず、鞍乗型の三輪車や四輪車等に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1…自動二輪車(鞍乗型車両)、52…前輪側のブレーキアクチュエータ、62…後輪側のブレーキアクチュエータ、70…制御装置、71…閾値設定部、72…タイマ、73…ピッチ角速度検出手段、74…閾値比較部、75…ブレーキ液圧制御部、76…着座センサ、77…路面センサ、80…前方カメラ、81…前方レーダ、95…ジャイロセンサ(ピッチ角速度検出部)、BF…前輪ブレーキ、BR…後輪ブレーキ