(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】第1および第2の量子ビットを有する回路を動作させるための方法
(51)【国際特許分類】
G06N 10/40 20220101AFI20240912BHJP
【FI】
G06N10/40
(21)【出願番号】P 2023513769
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2021073339
(87)【国際公開番号】W WO2022043297
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】102020005218.5
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020122245.9
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】522350221
【氏名又は名称】フォルシュングスツィントルム ユーリッヒ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Forschungszentrum Julich GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】アンサリ,ムハンマド
(72)【発明者】
【氏名】シュ,シュエシン
【審査官】佐藤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/235132(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0408112(US,A1)
【文献】米国特許第10924095(US,B1)
【文献】特表2019-508876(JP,A)
【文献】Peng ZHAO et.al,High-contrast ZZ interaction using superconducting qubits with opposite-sign anharmonicity,[online],v3,2020年08月20日,pp. 1-6,[2024年6月12日検索]、インターネット <URL:https://arxiv.org/pdf/2002.07560v3.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の量子ビット(7)および第2の量子ビット(3)を有する回路を動作させる方法であって、前記回路は、前記第1の量子ビット(7)の周波数が前記第2の量子ビット(3)の周波数とは異なるように構成され、結合器(4)が、前記第1の量子ビット(7)と前記第2の量子ビット(3)を結合し、交差共鳴パルスが、前記第1の量子ビット(7)に送られ、前記交差共鳴パルスの振幅は、2量子ビット位相誤差が最小または少なくとも実質的に最小になるように選択され、2量子ビット位相誤差は、量子ビットエネルギーレベルと非計算レベルとの間の反発によって生成される、方法。
【請求項2】
前記交差共鳴パルスの前記振幅は、前記2量子ビット位相誤差がゼロに設定されるように選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
量子ビット(7)のための制御デバイスが存在し、前記制御デバイスによって、前記量子ビットの周波数を調整することができることを特徴とする、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記制御デバイスは、磁場を生成および変化させることができることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記制御デバイスは、電磁石を備えることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記交差共鳴パルスの周波数は、前記第2の量子ビット(3)の前記周波数に対応することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の量子ビット(7)は、トランスモンであり、前記第2の量子ビット(3)は、トランスモンであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記
第1の量子ビット(7)の前記周波数は、前記
第2の量子ビット(3)の前記周波数よりも大きいことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記
第1の量子ビット(7)は、CSFQであり、前記
第2の量子ビット(3)は、トランスモンであることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記
第1の量子ビット(7)の前記周波数は、前記
第2の量子ビット(3)の前記周波数よりも低いことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記
第2の量子ビット(3)は、読み出しデバイスに結合されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1および第2の量子ビットを有し、かつ第1の量子ビットを第2の量子ビットに結合する結合器を有する回路を動作させるための方法に関する。
【0002】
典型的なコンピュータは、ビットの形式でデータを記憶および処理することができる。ビットの代わりに、量子コンピュータは、量子ビット(qubit)とも呼ばれる量子ビット(quantum bit)を記憶および処理する。
【0003】
ビットと同様に、量子ビットは、2つの異なる状態を有することができる。2つの異なる状態は、典型的なコンピュータの場合のように0および1を表すことができる2つの異なるエネルギー固有値とすることができる。基底状態、すなわち、最低エネルギーレベルは、0で表すことができる。これには、Ι0>という表記を使用することができる。1については、次に高いエネルギーを有する状態を提供することができ、これは表記Ι1>で表現することができる。これら2つの基底状態Ι0>およびΙ1>に加えて、量子ビットは、同時に状態Ι0>およびΙ1>を占めることができる。このような2つの状態Ι0>とΙ1>の重ね合わせは、重ね合わせと呼ばれる。これは、Ιψ>=c0 Ι0>+c1 Ι1>によって数学的に説明することができる。重ね合わせは、非常に短い時間しか維持することができない。したがって、重ね合わせを利用する計算動作に利用可能な時間はほとんどない。研究所において得られた物理量子ビットは、計算状態とも呼ばれるこれら2つの状態0および1を有するだけでなく、Ι2>、Ι3>、Ι4>…で示されるより高い励起レベルも有する。より高い励起レベルは、非計算状態とも呼ばれる。
量子コンピュータの量子ビットは、互いに独立していてもよい。しかし、量子ビットはまた、互いに依存し得る。依存状態は、エンタングルメントと呼ばれる。
【0004】
量子レジスタを形成するために、量子コンピュータにおいていくつかの量子ビットが組み合わされる。2つの量子ビットからなるレジスタの場合、ベース状態Ι00>、Ι01>、Ι10>、Ι11>が存在する。レジスタの状態は、レジスタのベース状態の任意の重ね合わせとすることができる。2つの量子ビットは、計算状態Ι00>、Ι01>、Ι10>、Ι11>を定義する。n量子ビットについての計算状態の数は、2のn乗、すなわち、2nである。2つの量子ビットは、Ι02>、Ι03>、…、Ι20>、Ι30>、…、Ι12>、Ι13>、Ι22>、Ι31>、…などの非計算状態を定義する。非計算状態の数は大きく、無限でさえあり得る。
【0005】
2つの量子ビットを有する回路は、エネルギーレベルを含む。2つの量子ビットが状態|n1,n2>にある場合、対応するエネルギーレベルは、En1n2である。n1およびn2は、それぞれ第1の量子ビットおよび第2の量子ビットの状態である。したがって、E11は、状態|1,1>が存在するとき、すなわち、両方の量子ビットが状態|1>にあるときの回路のエネルギーレベルである。量子ビットの場合、状態0と状態1との間のエネルギー差は量子ビット周波数ω=(E1-E0)/hと呼ばれ、hは、プランク定数である。量子ビットのエネルギースペクトルは、等距離ではない(均一に分布していない)。したがって、量子ビットのエネルギースペクトルは、調和振動子のエネルギースペクトルと類似していない。量子ビット非調和性は、δ=(E2-2E1-E0)/hと定義される。
【0006】
非相互作用量子ビット1および2の場合、計算状態のエネルギーレベルは、最低4レベルであり、すべての非計算状態は、E11よりも大きいエネルギーを有する。相互作用量子ビット1および2の場合、非計算状態のいくつかは、E11を下回るエネルギーを見つけることができる。これは、量子ビット間の相互作用の強度に依存し、量子ビット周波数および非調和性にも依存する。
【0007】
量子コンピュータには、互いに独立したエンタングルした量子ビットと量子ビットの両方が存在する。理想的には、独立した量子ビットは、互いに影響を及ぼさない。独立した量子ビットは、アイドル量子ビットと呼ばれる。ゲートが存在しない場合、超伝導アイドル量子ビットは、2つの量子ビットの状態の位相に誤差を蓄積する。2つの量子ビットの状態が同じ、両方が0または両方が1である場合、それらは正の位相を蓄積する。2つの量子ビットの状態が異なる場合、それらは負の位相を蓄積する。これは、ゲートが存在しない場合の時間t以降、アイドル状態|00>がexp(+i g.t)|00>に変化することを意味する。同様に、状態|11>はexp(+i g.t)|11>に変化する。状態|01>は、exp(-i g.t)|01>に発展する。状態|10>は、exp(-i g.t)|10>に発展する。
【0008】
2つの超伝導量子ビットゲートは、望ましくないZZ型相互作用の劣化影響を常に伴う。ゲートが存在しない場合、このZZ相互作用は、gに比例する結合強度で現れる。これは、2量子ビット状態位相誤差を引き起こすのと同じ係数である。
【0009】
時間の経過と共にアクションが量子レジスタに適用される場合、これは量子ゲートまたはゲートと呼ばれる。したがって、量子ゲートは量子レジスタに作用し、それによって量子レジスタの状態を変化させる。量子コンピュータに必須の量子ゲートは、CNOTゲートである。量子レジスタが2つの量子ビットからなる場合、第1の量子ビットは制御量子ビットとして作用し、第2の量子ビットはターゲット量子ビットとして作用する。CNOTゲートは、制御量子ビットの基底状態がΙ1>であるとき、ターゲット量子ビットの基底状態を変化させる。制御量子ビットの基底状態がΙ0>である場合、ターゲット量子ビットの基底状態は変化しない。
【0010】
CNOTゲートは、2つの相互作用する量子ビットをエンタングルさせるために適用される2量子ビットゲートの一例である。第1の量子ビットが|0>である2量子ビット状態にCNOTを適用すると、同じ状態になる。|1>状態における第1の量子ビットにCNOTを適用すると状態反転が生じ、第2の量子ビットでは|0>が|1>に変化するか、または|1>が|0>に変化する。
【0011】
0状態および1状態を超えるより高い励起レベルを有する量子ビットにCNOTを適用すると、最終状態に対して2量子ビット位相誤差が生じるだけではない。これは、CNOTが適用された時間の間、量子ビット間の望ましくないZZ相互作用に起因して状態が位相を蓄積したことを示唆している。
【0012】
第1の量子ビットと第2の量子ビットとの間の2量子ビット位相誤差の存在およびそれらのクロストークは、量子コンピュータの主な問題の1つである。超伝導量子ビットでは、そのような望ましくないエンタングルメントは、各量子ビットにおけるより高い励起エネルギーの存在に起因する。トランスモンなどの超伝導量子ビットは、望ましくないことに、非計算状態およびエネルギーレベルにわたって情報およびエネルギーを交換する。計算状態と非計算状態との間のそのような相互作用の1つは、ZZ相互作用である。どのゲートが量子ビットに適用されるか否かに関係なく、ZZ相互作用は常に存在する。ゲートが存在しない場合のZZ相互作用は、静的ZZ相互作用と呼ばれる。静的ZZ相互作用gの結合強度は、以下のエネルギー差に相当する:E11-E01-E10+E00。この絶対値は、計算状態における非計算状態との相互作用からのレベル反発に対応する。レベル反発は、回避重ね合わせ(avoided superposition)とも呼ばれる。静的反発は常に存在し、静止時に量子ビットに不規則な位相を蓄積させる。
【0013】
マイクロ波が2つの量子ビットのうちの1つに適用されると、2つの量子ビットのすべてのエネルギーレベルEn1n2が変化し、一部は減少し、一部は増加する。これにより、CNOTなどの所望の2量子ビットゲートが得られる。
【0014】
マイクロ波2量子ビットゲートを適用すると、非計算ベースのエネルギーレベルの反発レベルが変化する。ゲートは、マイクロ波パルスの存在下で、位相誤差の大きさを自由量子ビットにおけるexp(±i g.t)からγ exp(±i γ.t)に変化させる。位相誤差の大きさは、増減し得る。レベル反発を排除することによって、γ=0が設定され、これにより位相誤差exp(±i γ.t)を1に設定することによって解消する。この「位相誤差のない2量子ビット状態」を発生させるプロセスは、本発明の目的である。
【0015】
国際公開第2014/140943号パンフレットは、少なくとも2つの量子ビットを有するデバイスを開示している。バス共振器が、2つの量子ビットに結合される。量子ビットの例として、トランスモンおよびCSFQ(容量シャント型磁束量子ビット)が挙げられる。国際公開第2013/126120号パンフレットならびに国際公開第2018/177577号パンフレットは、量子ビットの例としてトランスモンまたはCSFQを開示している。刊行物「Engineering Cross Resonance Interaction in Multi-modal Quantum Circuits,Sumeru Hazra et al.,arXiv:1912.10953v1[quant-ph] 23 Dec 2019」は、マルチ量子ビットゲートのための交差共鳴相互作用の調整を開示している。交差共鳴パルスは、この刊行物から知られている。米国特許出願公開第2014264285号明細書は、少なくとも2つの量子ビットおよび共振器を有する量子コンピュータを開示している。共振器は、2つの量子ビットに結合される。マイクロ波駆動装置が提供される。2量子ビット位相相互作用は、量子ビットに適用される調整されたマイクロ波信号によって活性化され得る。米国特許出願公開第2018/0225586号明細書は、超伝導制御量子ビットおよび超伝導ターゲット量子ビットを備えるシステムを開示している。
【0016】
刊行物「Suppression of Unwanted ZZ Interactions in a Hybrid Two-Qubit System,Jaseung Ku,Xuexin Xu,Markus Brink,David C.McKay,Jared B.Hertzberg,Mohammad H.Ansari,and B.L.T.Plourde,arXiv:2003.02775v2[quant-ph] 9 Apr 2020」は、2つの量子ビットを備える回路による望ましくないZZ相互作用の抑制を開示している。第1の量子ビットは、負の非調和エネルギースペクトルを有する量子ビットである。第2の量子ビットは、正の非調和エネルギースペクトルを有する量子ビットである。この刊行物は、アイドル2量子ビット位相誤差をゼロ、すなわち、g=0に設定するための回路特性を示す。
【0017】
本発明の課題は、2量子ビットゲート忠実度を改善することである。2量子ビットゲート忠実度は、実ゲートを適用した後の2つの量子ビットの最終状態が理想ゲートを適用した後の最終状態に類似する程度を決定する。本発明では、2量子ビットゲートから2量子ビット位相誤差を排除し、ゲート忠実度を改善する。
本発明の課題は、第1の請求項の特徴を有する方法によって解決される。有利な実施形態は、従属請求項から生じる。
【0018】
この問題を解決するために、回路は、第1の量子ビットと、第2の量子ビットとを備える。第1の量子ビットの周波数は、第2の量子ビットの周波数とは異なる。2つの量子ビットの非調和性は、同じまたは反対の符号を有することができる。第1の量子ビットと第2の量子ビットを結合する、結合器が存在する。マイクロ波を生成するために使用することができる、少なくとも1つのマイクロ波発生器が存在する。マイクロ波発生器は、マイクロ波パルスを第1の量子ビットに送ることができるように第1の量子ビットに結合される。第1の交差共鳴パルスが、第1の量子ビットに送られる。第1の交差共鳴パルスの振幅は、tの期間にわたって交差共鳴パルスを適用した後に生じる2量子ビット位相誤差の絶対値が実質的に小さくなるように設定される。好ましくは、CR誘導2量子ビット状態位相誤差は、交差共鳴パルスが適用される期間tにわたって正確にゼロになる。
【0019】
交差共鳴パルスの振幅をどのように選択するかは、例えば回路QED理論によって理論的に決定することができる。非計算状態のCR誘導レベルの反発がゼロであるか、または少なくともゼロに近いかを実験的に決定するために、量子ハミルトニアン断層撮影法の修正版を使用することができる。標準的な量子ハミルトニアン断層撮影法は、刊行物Sarah Sheldon,Easwar Magesan,Jerry M.Chow,and Jay M.Gambetta,「Procedure for systematic tuning up known cross-talk in the cross-resonance gate」,PHYSICAL REVIEW A 93,060302(R)(2016)に見出すことができる。修正された量子ハミルトン断層撮影は、エコー状の交差共鳴パルスを交差共鳴パルスに置き換える。
【0020】
2つの量子ビットの周波数が異なるようにするために、それらは異なって構築することができる。代替的または相補的に、磁場を使用して、周波数が異なる2つの量子ビットを有する回路に到達するように量子ビットの周波数を変化させることができる。
交差共鳴パルスが送られる第1の量子ビットは、制御量子ビットと呼ばれる。他方の量子ビットは、ターゲット量子ビットと呼ばれる。
【0021】
第1および第2の量子ビットは、超伝導量子ビットであり得る。第1の量子ビットは、トランスモンであってもよい。第1の量子ビットは、CSFQであってもよい。第2の量子ビットは、トランスモンであってもよい。第2の量子ビットは、CSFQであってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態では、両方の量子ビットは、トランスモンである。より大きい周波数を有する量子ビットが、制御量子ビットとして選択される。一定の振幅を有する交差共鳴を適用した後、2量子ビット状態位相誤差が低減される。これにより、CRゲート忠実度が向上する。CRゲートとは、交差共鳴ゲートを意味する。
【0023】
本発明の一実施形態では、制御量子ビットは、CSFQである。ターゲット量子ビットは、トランスモンである。回路は、トランスモンの周波数がCSFQの周波数よりも大きくなるように構成される。一定の振幅での交差共鳴の適用は、CRゲート忠実度を改善することができる。
【0024】
好ましくは、量子ビットを調整することができる量子ビットのための制御デバイスが提供される。制御デバイスを通じて、量子ビットの周波数および非調和性を変化させることができる。量子ビットの周波数を変化させることができることによって、必要に応じて、第1の量子ビットの周波数および非調和性と第2の量子ビットの周波数および非調和性との間の差を最適化することができる。そのような最適化は、改善された方式で忠実度を改善することができる。
【0025】
本発明の一実施形態では、CRパルスが時間tの期間にわたって制御量子ビットに適用された後、読み出しパルスがターゲット量子ビットに送られる。読み出しパルスの周波数は、好ましくは、測定された反射パルスが最小になるように選択される。読み出しパルスの振幅または電力は、好ましくは、共振器内、すなわち、対応する電気伝導体内の光子の数が平均して1未満になるように選ばれる。共振器は、結合器の一例である。結合器は、その固有周波数に等しい長さを有する伝送線路であり、量子ビットを容量結合する超伝導体からなる。共振器内の光子の数は、読み出しパルスの電力および周波数に比例する。実際には、光子の平均数が1未満、すなわち、単一の光子範囲であることを確実にするために、反射は、異なるマイクロ波電力での周波数の関数として測定することができる。その結果、システムがいわゆる「ドレスト状態」に入ると、マイクロ波電力(したがって、光子の数)の平均電力が減少するにつれて、一般に裸の共振器の周波数と呼ばれる高電力での共振周波数は最低周波数にシフトし、最終的に最低共振周波数にシフトする。ドレスト状態に達する直前の「膝(knee)」では、光子の数は典型的には、約1である。実際には、マイクロ波電力は、好ましくはこの膝からより低く設定され、真に1光子領域にあることを確実にする。例えば、マイクロ波電力は、10dB~30dB低く、例えば20dB低く設定され得る。読み出しパルスによって、ターゲット量子ビットの状態を測定することができる。
【0026】
本発明によれば、量子ビットパラメータ、ならびに量子ビットと結合器との間、および2つの量子ビットと制御量子ビット上のCRマイクロ波の振幅との間の容量結合を調整することによって、ZZレベル反発に起因する望ましくない2量子ビット位相誤差を抑制することができ、したがってCRゲート忠実度を改善することができる。
【0027】
回路内の量子ビットは、等しい非調和性符号を有してもよい。回路内の量子ビットは、等しい非調和性符号を有する必要はない。回路内の量子ビットの非調和性はまた、反対の符号であってもよい。したがって、回路の1つの量子ビットは、負の非調和性を有するトランスモンであってもよく、別の量子ビットは、CSFQ量子ビットなどの反対の符号の量子ビットであってもよい。回路の1つの量子ビットは、トランスモンであってもよく、別の量子ビットは、さらなるトランスモンであってもよい。回路の1つの量子ビットは、CSFQであってもよく、別の量子ビットは、別のCSFQであってもよい。
【0028】
任意の単一の量子ビットゲートが、ブロッホ球における回転によって達成される。単一の量子ビットの異なるエネルギーレベル間の回転は、マイクロ波パルスによって誘導される。マイクロ波パルスは、マイクロ波発生器によってアンテナまたは量子ビットに結合された伝送線路に送ることができる。マイクロ波パルスの周波数は、量子ビットの2つのエネルギーレベル間のエネルギー差に対する共振周波数であってもよい。個々の量子ビットは、他の量子ビットが共振していない場合、専用の伝送線路または共通線路によってアドレス指定され得る。回転軸は、マイクロ波パルスの直交振幅変調によって設定することができる。パルス長は、回転角度を決定する。
【0029】
2つの量子ビットがエンタングルされるマイクロ波は、交差共鳴ゲートである。CRゲートとも呼ばれるこの交差共鳴ゲートは、所望の方式で量子ビットをエンタングルさせるために使用される。CRゲートは、CNOTを生成するために使用される所望のZX相互作用を生成する。単一のCRパルスの代わりに、「Echo-CR」と呼ばれる4つのパルスのシーケンスが制御量子ビットに適用される場合、ターゲット量子ビットのXおよびY回転などの望ましくない相互作用のいくつかを排除することができる。Echo-CRは、所望の相互作用ZXを保持し、また、ZZ反発相互作用から生じる2量子ビット位相誤差を排除することができない。
【0030】
本発明者らは、量子ビットのパラメータおよび量子ビットと結合器との間の結合強度、ならびに交差共鳴パルスの振幅を調整することによって、各々が結合器と相互作用し、そのうちの1つが交差共鳴パルスによって駆動される2つの量子ビットを有する回路において、2量子ビット状態における望ましくない位相誤差を排除することが可能であることを見出した。量子ビットの非調和性は、同じ符号を有することができ、量子ビットの非調和性は、反対の符号を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明は、図を参照して以下により詳細に説明される。図は、以下のとおりである。
【
図3】誤差のないトランスモン-トランスモン位相についての回路QEDパラメータを示す図である。
【
図4】誤差のないトランスモン-トランスモン位相についての回路QEDパラメータを示す図である。
【0032】
図1は、第1の量子ビット3と、第2の量子ビット7と、2つの結合キャパシタ8および9を介して2つの量子ビット3および7を間接的に結合するための結合器4とを有する基本構造を示している。量子ビット3および7もまた、キャパシタ10を介して直接結合される。第1のマイクロ波伝送線路2は、第1の量子ビット3に結合される。第2のマイクロ波伝送線路6は、第2の量子ビット7に結合される。第1のマイクロ波ポート1が、第1のマイクロ波伝送線路2に結合される。第2のマイクロ波ポート5が、第2のマイクロ波伝送線路6に結合される。
【0033】
第1の量子ビット3は、ターゲット量子ビットとして提供されてもよい。第2の量子ビット7は、制御量子ビットとして提供されてもよい。量子ビット3、7は、超伝導トレースを備えることができる。量子ビット3、7は、1つまたは複数のジョセフソン接点を備えることができる。制御量子ビット7は、周波数調整可能なトランスモンであってもよい。制御量子ビット7は、周波数調整可能なCSFQであってもよい。
図1では、制御量子ビット7が2つの非対称のジョセフソン接点を有する周波数調整可能なトランスモンであり、ターゲット量子ビット3が1つのジョセフソン接点を有する固定周波数トランスモンの例である例示的な回路を提示する。
【0034】
結合器4は、バス共振器であってもよい。結合器4は、それぞれキャパシタンス8および9を介して両方の量子ビット3および7に結合された超伝導体であってもよい。第1および第2のマイクロ波ポート2および6は、それぞれ関連する量子ビット3および7、ならびにそれぞれ関連する伝送線路ポート1および5にキャパシタンスを介して結合することができる超伝導体であってもよい。
結合器4を通じて、2つの量子ビット3および7の間に間接結合が存在する。
【0035】
有利には、第1の量子ビット3または第2の量子ビット7の周波数を調整することができる。制御量子ビットの周波数は、
図1の場合に設定することができる。例えば、調整可能な量子ビットは、非対称トランスモンにおける2つの遷移のループを貫通する磁場によって調整することができる。この場合、制御デバイスは、量子ビットを調整するための磁場を生成および変化させることができる。制御デバイスは、電磁石を備えてもよい。制御量子ビット
7は、非対称トランスモンなどの調整可能な周波数を有してもよく、ターゲット量子ビットは、固定周波数トランスモンであってもよい。
【0036】
第2の量子ビット7は、読み出しデバイスに結合されてもよい。読み出しデバイスは、読み出しパルスを生成するためのマイクロ波発生器を備えることができる。
【0037】
図2は、制御量子ビット7へのパルスシーケンスの伝送を概略的に示す。パルス高さは、x軸上の時間tに対してy軸上にプロットされている。制御量子ビット7およびターゲット量子ビット3は、基底状態|00>に設定される。これは、「状態準備」と呼ばれる。設定された振幅を有する、時間tの期間の間の交差共鳴パルス11が、ポート5を介して共振器6に適用され、そこから制御量子ビット7に送られる。これは、「CR駆動」と呼ばれる。交差共鳴パルス11の放出後、量子ビットレベルの反発が測定されるべきである。これは、「ターゲット状態断層撮影」と呼ばれる。ターゲット状態断層撮影ステップは、刊行物Sarah Sheldon,Easwar Magesan,Jerry M.Chow,and Jay M.Gambetta,「Procedure for systematic tuning up known cross-talk in the cross-resonance gate」,PHYSICAL REVIEW A 93,060302(R)(2016)に見出すことができる。ターゲット状態断層撮影ステップの場合、マイクロ波パルス13をポート1に送り、次にこれは共振器2を介してターゲット量子ビット3に進む。マイクロ波パルス13は、3つのタイプが存在する。第1のタイプのマイクロ波パルス13は、ターゲット量子ビット3をブロッホ球のX軸に沿って角度π/2だけ回転させる。第2のタイプのマイクロ波パルス13は、ターゲット量子ビット3をブロッホ球のY軸に沿って角度π/2だけ回転させる。第3のタイプのマイクロ波パルス13は、ターゲット量子ビット3をブロッホ球のZ軸に沿って角度π/2だけ回転させる。3つのタイプのマイクロ波13のうちの1つのみをターゲット量子ビットに適用し、次いで14におけるターゲット量子ビット状態を測定する。測定後、状態準備ステップで状態を再初期化し、同じ振幅および時間長tを有する不変のCR駆動パルスを適用し、次いで3つのタイプのマイクロ波13のうちの1つを適用し、再び測定を実施する。3つのタイプのマイクロ波13のうちの1つで、これを何千回も繰り返す。これは、x軸およびy軸およびz軸に投影されたターゲット量子ビット状態の平均確率を決定する。x軸に沿った状態確率の平均値を<x>で示し、y軸に沿った状態確率の平均値を<y>で示し、z軸に沿った状態確率の平均値を<z>で示す。ターゲット量子ビット状態断層撮影は、3つの数<x>、<y>、<z>によってターゲット量子ビット状態を特徴付ける。CR長tおよび振幅に関連する<x>、<y>、および<z>を決定した後、CRゲート長tを変化させ、振幅は保持する。次に、ターゲット量子状態断層撮影を繰り返し、新しい投影されたターゲット状態成分<x>、<y>、および<z>を決定する。このようにして、CRパルス長に依存する<x>(t)、<y>(t)、および<z>(t)を見つける。
【0038】
|0>状態における2つの量子ビットを再初期化し、このとき、初期化ステップの後に毎回角度πだけX回転ゲートを制御量子ビットに適用する。これは、マイクロ波パルス12を制御量子ビットに適用することによって行うことができる。このようにして、ターゲット量子ビットが|0>状態にある間、制御量子ビットは常に|1>状態で初期化される。CR駆動ステップおよびターゲット状態断層撮影を適用するプロセスは、同様に繰り返される。制御量子ビット7が|1>状態で初期化された場合について、<x>(t)、<y>(t)、および<z>(t)を決定するプロセスを繰り返す。
【0039】
ハミルトニアンモデルを使用して、制御状態に依存する同じターゲット状態投影<x>(t)、<y>(t)、および<z>(t)を決定する。Sarah Sheldon,et.al.PHYSICAL REVIEW A 93,060302(R)(2016)に記載されているように、理論モデルをフィッティングして実験的な制御状態依存関数<x>(t)、<y>(t)、および<z>(t)を決定する場合、ZZ相互作用項がハミルトニアンモデルに含まれなければならない。このZZ相互作用項は、CRゲートの存在下での2量子ビット状態位相誤差の結合強度γに対応する。
【0040】
CRパルス11に対して異なる振幅で
図2の量子ハミルトニアン断層撮影ステップを繰り返すことにより、異なるγ、したがって異なる2量子ビット位相誤差が決定される。CRパルス11の特定の振幅で同じ実験を繰り返すと、γ=0が設定され、したがって2量子ビット状態位相誤差は生じない。
2つの交差共鳴パルスの周波数は、ターゲット量子ビット3の周波数に対応する。
【0041】
CRパルスを生成するために、2つのマイクロ波発生器を設けることができる。第1のマイクロ波発生器は、X軸パルス12に沿ってπ回転を生成する。第2のマイクロ波発生器は、交差共鳴パルス11を生成する。マイクロ波ポート5を介してパルスシーケンスを第1の量子ビット7に送るために、加算器15が設けられてもよい。読み出しパルスを送るために、第3のマイクロ波発生器が設けられてもよい。マイクロ波パルス13によってターゲット量子ビット3に対してπ/2だけXおよびY回転の2つのタイプのうちの1つを生成するために、読み出しパルスが第3のマイクロ波発生器によって第2のマイクロ波ポート5を介して第2の量子ビット7に送られてもよい。Z軸に沿った回転のために、X(π/2)およびY(π/2)を生成するために1つではなく2つのマイクロ波発生器が必要である。ある実施では、マイクロ波パルス13は、最初にπ/2だけX回転し、続いてπ/2だけY回転する、2つの連続するパルスから形成される。再初期化後、このときパルス13は、最初にπ/2だけY回転を実施し、続いてπ/2だけX回転を実施する。角度π/2によるZ回転は、反対の順序で測定された結果における差の結果である。読み出しパルス15を送信するために、第5のマイクロ波発生器が設けられてもよい。読み出しパルスは、第3のマイクロ波発生器から第2のマイクロ波リンク1を介して量子ビット3に送信されてもよい。
【0042】
CRパルスによる2量子ビット位相誤差γは、制御量子ビットとターゲット量子ビットとの間のCR振幅および周波数同調に依存する。関係は、γ=g+η(Δ)Ω2であり、ここで、gはアイドル2量子ビット誤差であり、ΩはCRパルスの振幅であり、η(Δ)は周波数同調Δ=ωtarget-ωcontrolの関数である。CRパルスを使用して2量子ビット位相誤差を排除することは、γ=0に設定することを意味する。これは、一定の静的誤差gおよび離調周波数Δを有する回路では、一定の振幅Ωで排除が発生することを意味する。
【0043】
図3は、制御量子ビットとターゲット量子ビットの両方がトランスモンである回路の回路QEDモデリングの理論的結果を示す。制御量子ビット7は、振幅ΩのCRパルス11によって駆動される。制御量子ビットの周波数はωcであり、ターゲット量子ビットの周波数はωtである。同じ非調和性の値を有する制御量子ビットおよびターゲット量子ビットの場合、制御量子ビットは、より大きい周波数を有する。ターゲット量子ビットの周波数と制御量子ビットの周波数との間の差は、トランスモン-トランスモン離調の周波数である。離調周波数Δは、負とすることができる。
図3のx軸上に離調周波数を示し、y軸上にCRパルスの振幅を示す。矩形および実線は、任意の離調周波数Δについて、E11と非計算状態との間の反発レベルがゼロに設定されたCRパルス振幅の推定値を示す。実線は、摂動理論から得られた解である。矩形は、正確な解の結果を示す。
【0044】
図4は、制御量子ビットがCSFQであり、ターゲット量子ビットがトランスモンである回路の回路QEDモデリングの理論的結果を示す。制御量子ビット7は、振幅ΩのCRパルス11によって駆動される。制御量子ビットの周波数はωcであり、ターゲット量子ビットの周波数はωtである。制御量子ビットでは、非調和性は正であり、ターゲット量子ビットでは、非調和性は負である。制御量子ビットの非調和性は、ターゲット量子ビットにおける非調和性の絶対値よりも大きくすることができる。この場合、制御量子ビットの周波数は、ターゲット量子ビットの周波数よりも小さい。ターゲット量子ビットの周波数と制御量子ビットの周波数との間の差は、CSFQトランスモン離調周波数である。離調周波数Δは、正とすることができる。
図4のx軸上に離調周波数を示し、y軸上にCRパルスの振幅を示す。矩形および実線は、離調周波数Δごとに量子ビットレベルの反発が消失するCRパルスの推定振幅を示す。実線は、摂動理論からの結果を示す。矩形は、結果が摂動的ではなく、より正確な結果を与えることを示している。
【0045】
レベル反発による状態ディフェージングがゼロであるか、または少なくともゼロに近いかを実験的に決定するために、ハミルトニアン断層撮影が決定を行う必要がある。ハミルトニアン断層撮影は、Sarah Sheldon,Easwar Magesan,Jerry M.Chow,and Jay M.Gambetta,「Procedure for systematic tuning up cross-talk in the cross-resonance gate」,PHYSICAL REVIEW A 93,060302(R)(2016)に見出すことができる。したがって、既知の方法を使用することができる。交差共鳴駆動がしばらくの時間にわたって適用され、Rabi振動がターゲット量子ビットで測定される。ターゲット量子ビットの状態をRabi駆動後のx、y、およびzに投影し、これを|0>および|1>における制御量子ビットについて繰り返す。このようにして、CRハミルトニアンにおいて上記の項の各々の正確な相互作用強度を見つける。これは、CR断層撮影実験と呼ばれる。
第1のステップでは、2つの量子ビットが|00>状態で初期化される。CRパルスが、制御量子ビット7に送られる。
【0046】
次いで、反発面からの状態のディフェージングをCR断層撮影によって測定する。値がゼロでない場合、交差共鳴パルスの振幅を変化させ、プロセスが繰り返される。値がゼロである場合、求められる最適な振幅が見つかっている。
【0047】
図5に示す結果は、10の異なるケースについて見出された。最初の5つのケースは、第1の量子ビットがCSFQであり、第2の量子ビットがトランスモンである前述のケースについての結果を示す。後の5つのケースは、前述したように、第1の量子ビットおよび第2の量子ビットがトランスモンである回路に関する。すべてのケースにおいて、2つの量子ビットのエンタングルメントは成功した。表は、常にゼロの値を見つけることができるとは限らないことを示す。これらのケースでは、ゼロに最も近い振幅が選択される。
【0048】
図6は、2対の量子ビットに2つの量子ビットゲートCNOTを適用した結果を示す。ゲートCNOTは、時間tの期間にわたって量子ビットに作用する。第1の対には、2量子ビット位相誤差が存在する。位相誤差は、±γtに比例する。符号は、2つの量子ビットの状態に依存する。2つの量子ビットが同じ状態を有する場合、符号は正である。量子ビットの状態が異なる場合、符号は負である。第2の対では、量子ビットパラメータ、およびマイクロ波パルスの振幅を調整することによって、基本的な2量子ビット位相誤差を排除する。
【0049】
図7は、2つの異なるトランスモン-トランスモン回路16および17におけるCRパルス振幅の関数としての2量子ビット位相誤差γの値を示す。回路16では、位相誤差は、振幅を増加させることによって最初は減少するが、ゼロ交差なしに正の最小値に達した後に増加し始める。したがって、回路16から2量子ビット位相誤差をなくすことはできない。回路17では、位相誤差は、CRパルスの振幅を増加させることによって減少し、ゼロに交差して符号が変化する。ゼロ交差が生じる点は、量子ビット-2量子ビット位相誤差を排除する特定の振幅である。