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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電気化学セルとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/109 20210101AFI20240912BHJP
   H01G 11/80 20130101ALI20240912BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20240912BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/153 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/159 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/169 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/531 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/545 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/636 20210101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M50/109
H01G11/80
H01G11/84
H01M10/04 W
H01M10/04 Z
H01M10/0566
H01M10/058
H01M10/0587
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/153
H01M50/159
H01M50/169
H01M50/531
H01M50/545
H01M50/636
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023531398
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2022009711
(87)【国際公開番号】W WO2023276284
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2021108595
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 俊二
(72)【発明者】
【氏名】田中 和美
(72)【発明者】
【氏名】木村 長幸
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-46639(JP,A)
【文献】特開2011-228409(JP,A)
【文献】特開2020-72061(JP,A)
【文献】特開2008-16368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B
H01M
H01G 11/80
H01G 11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側部と底部とを有し、一方の前記底部が開口部であり、他方の前記底部に透孔が形成されたケースと、前記開口部に溶接され前記開口部を封止する蓋板と、前記透孔の周縁部に融着した樹脂フィルムを介して前記透孔を塞ぐ電極板と、を有する外装体を備え、前記蓋板の一部に折曲矯正部または湾曲矯正部を有することを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記ケース及び前記蓋板は金属製であり、
前記外装体に電極体が収容され、
前記電極体を構成する正極体と負極体のうち一方が前記ケースに電気的に接続され、他方が前記電極板に電気的に接続されたことを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記樹脂フィルムが前記透孔の位置を除いた前記底部のほぼ全面に形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記電極板が前記樹脂フィルムとほぼ同一の外周となるよう形成されたことを特徴とする請求項3に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記電極板が、前記ケースの前記底部の外周縁から突出する電極端子を備えたことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記樹脂フィルムの外周縁部であって前記電極端子の基端部に接する部分に、前記樹脂フィルムの外周縁部から外方に突出する保護部が形成されたことを特徴とする請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
側部と底部とを有し、一方の前記底部が開口部であり、他方の前記底部に透孔が形成されたケースと、前記開口部に溶接され前記開口部を封止する蓋板と、前記透孔の周縁部に融着した樹脂フィルムを介して前記透孔を塞ぐ電極板と、を有する外装体を備え、前記外装体に電極体を収容した電気化学セルを製造するに際し、
前記ケースの内部に前記電極体を収容した後、外周縁部の少なくとも一部に折曲部または湾曲部を有する蓋板を前記ケースの開口周縁部に被せ、前記折曲部または前記湾曲部の存在により前記ケースの開口周縁部に生成した隙間を利用して前記ケース内に電解液の注入を行い、電解液の注入後、前記ケースの開口周縁部と前記蓋板の外周縁部を溶接することを特徴とする電気化学セルの製造方法。
【請求項8】
前記ケースの開口周縁部と前記蓋板の外周縁部を溶接するに際し、前記蓋板の外周縁部を前記ケースの開口周縁部に押し付けつつ、該押し付け部分に沿って前記蓋板の外周縁部を前記ケースの開口周縁部に溶接することを特徴とする請求項に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項9】
前記電極体に形成されている正極と負極のどちらか一方を前記蓋板に電気的に接続し、前記正極と前記負極のどちらか他方を前記透孔を介し前記電極板に電気的に接続することを特徴とする請求項又は請求項に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項10】
前記電極板として、前記樹脂フィルムの前記透孔を塞ぐとともに前記樹脂フィルムの外周縁部までを蔽う電極部と、該電極部から外方に突出され、前記樹脂フィルムの外周縁部より外方に突出された電極端子を有する電極板を用いる請求項~請求項のいずれか一項に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項11】
前記樹脂フィルムの外周縁部であって前記電極端子の基端部に接する部分に、前記樹脂フィルムの外周縁部から外方に突出する保護部が形成された樹脂フィルムを用いることを特徴とする請求項10に記載の電気化学セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルとその製造方法に関する。本願は、2021年06月30日に、日本国に出願された特願2021-108595号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、スマートフォン、ウエアラブル機器、補聴器などの小型機器の電源として、リチウムイオン二次電池、電気化学キャパシタ等の電気化学セルが広く活用されている。
この種の電気化学セルにおいて、電池容量並びに充電電流および放電電流を大きくする観点から、電気化学セル内で対向している電極どうしの面積を可能な限り大きくすることが必要とされている。電気化学セルの構造として、一対の帯状の正極電極と負極電極をセパレータを介し巻回するか、折り畳み構造としてケースに収め、電解液をケースに封入した構造が知られている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、正極電極および負極電極からなる電極体と、第1のラミネート部材および第2のラミネート部材からなる外装体を備え、外装体の外周部に第1のラミネート部材の外周部と第2のラミネート部材の外周部を折曲して構成した外周壁を有する電池(電気化学セル)が記載されている。
前記外装体は、金属箔と樹脂層の積層型ラミネート部材からなり、第1と第2のラミネート部材の外周壁どうしを折り曲げつつ熱融着することにより封止されているので、体積当たりの容量を高めることができる電池を提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-085214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、正極電極と負極電極を積層した構造の電極体を金属製のケースに封入したボタン型の電気化学セルが知られている。
図19は、円筒容器型の金属ケース100の内部に電極体101を収容し、金属ケース100の上面側開口部を金属製の蓋板102で閉じる構成のボタン型電気化学セル103の分解断面を示す。例えば、図20に示すように金属ケース100の開口周縁部に蓋板102を溶接し、蓋板102の中央部に形成した透孔105を閉じるように電極板106を設けることで電気化学セル103が構成される。
上述の電気化学セル103の場合、金属ケース100との短絡防止とセル内部に収容する電解液の漏れ防止および水分侵入の防止などに配慮しつつ電極板106を取り付ける必要がある。このため、電極板106より径の大きなリング状のシーラントフィルム108を電極板106に熱融着し、シーラントフィルム108の周縁側を蓋板102の上面に熱融着することでシール性を確保した電気化学セル103が構成される。
なお、シール性を向上させるために、図20に示すようにシーラントフィルム108と同等形状のシーラントフィルム109を別途用意し、電極板106とシーラントフィルム108の上に熱融着する構成も採用できる。
【0006】
図20に示す電気化学セル103においては、蓋板102の中央部に透孔105の周囲を囲むように凹部110が形成され、凹部110の底面にシーラントフィルム108が熱融着されている。この構造を採用した場合、電解液の漏洩防止などのための封止構造の信頼性を向上させるためには、シーラントフィルム108の面積をできる限り大きくする必要がある。
ところが、蓋板102に形成した凹部110の大きさによりシーラントフィルム108の大きさに制約が生じるので、シーラントフィルム108の融着面積を大きくできない問題がある。この問題は、シーラントフィルム109を追加した場合も同様となる。
【0007】
図21は、先に説明した電気化学セル103と類似構成の電気化学セル120を示す分解断面図であり、図22に示すように金属ケース100に対し平板状の蓋板121を溶接する場合の構造を示す。
図22に示す構成では、蓋板121に凹部などを有していないため、シーラントフィルム108を大きくできると想定できる。ところが、蓋板121の外周縁部を金属ケース100の開口周縁部に溶接するため、蓋板121の外周縁部には溶接時の熱が作用するおそれが高い。従って、シーラントフィルム108を大きくしても、シーラントフィルム108の周縁側が溶接時の熱の影響により再溶融するおそれがあり、融着不良部分を生じるおそれがある。
【0008】
図23は、図20に示す構成の電気化学セル103に対し電極端子122を取り付けた構造を示す。電気化学セル103にあっては、凹部110の内部側に電極板106が設けられているので、電極端子122の基端部122AをL字型に折曲して段差部122Bを設けた上で電極板106に接続する必要がある。また、電極端子122と蓋板102の短絡防止のため、電極端子122と蓋板102の間に絶縁テープ123を介挿する必要がある。
このため、絶縁テープ123を貼り付けるための工程が別途必要となり製造時の作業工数が増加する問題がある。また、電極端子122の段差部122Bを大きくすると電極端子122を含めた電気化学セル103としての総厚が不要に高くなる問題がある。
【0009】
図24は、図22に示す構成の電気化学セル120に対し電極端子122を取り付けた構造を示す。電極板106は平板状の蓋板121の上面に貼り付けられ、この電極板の上面に電極端子122の基端部122Aが接続されている。電極板106の先端側は電極板106の若干上方に延在されてはいるが、短絡防止のため、電極板106と蓋板121との間に絶縁テープ125を設ける必要がある。
このため、絶縁テープ125を貼り付ける工程が別途必要になる事情は先の例と同様であり、製造時の作業工数が増加する問題がある。図24に示す構成では、図23に示す構造に対し、段差部122Bを若干小さくできる可能性はあるものの、絶縁テープ125は必要となる。
【0010】
本発明は、以上説明した従来技術の背景に鑑みなされたものであり、ケースに電極体を収容する電気化学セルにおいて、ケースと電極体を樹脂フィルムで融着する部分の構造に信頼性の高い構成を適用できる電気化学セルとその製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、電気化学セルに設ける電極板に段差部分を有することがなく、電気化学セルとしての総厚を不要に高くすることのない電気化学セルとその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る電気化学セルは、側部と底部とを有し、一方の前記底部が開口部であり、他方の前記底部に透孔が形成されたケースと、前記開口部に溶接され前記開口部を封止する蓋板と、前記透孔の周縁部に融着した樹脂フィルムを介して前記透孔を塞ぐ電極板と、を有する外装体を備え、前記蓋板の一部に折曲矯正部または湾曲矯正部を有することを特徴とする。
【0012】
前述の構成であれば、ケースの底部に設けた樹脂フィルムをケースの底部に対応させて十分に大きくしても、融着した樹脂フィルムのシール性に問題を生じない。これは、ケースの開口部に蓋板を溶接する場合、蓋板を溶接する位置と樹脂フィルムの周縁部の位置を側部の高さ方向に側部を介し十分離間した位置に設定できるためである。
底部の外周に達するように樹脂フィルムの面積を大きくできるとともに、蓋板を溶接する場合の熱的影響を樹脂フィルムが受け難いことから、融着した樹脂フィルムによるシール性が良好であり、水分の浸入を防止し、電解液漏れなどを生じ難い、信頼性の高い電気化学セルを提供できる。
蓋板の一部に折曲部または湾曲部を設けておくと、ケースの開口部を蓋板で閉じる場合、ケースの開口部と蓋板との間に隙間を形成でき、この隙間を利用することで電解液の注入が可能となる。
蓋板はケースの開口部を閉じるように溶接されるので、折曲部や湾曲部を有していた蓋板は、溶接後に平板状に矯正されるので、折曲矯正部または湾曲矯正部を有する蓋板となる。
【0013】
(2)本発明に係る電気化学セルにおいては、前記ケース及び前記蓋板は金属製であり、前記外装体に電極体が収容され、前記電極体を構成する正極体と負極体のうち一方が前記ケースに電気的に接続され、他方が前記電極板に電気的に接続された構成を採用できる。
【0014】
電極体の正極と負極をケースまたは電極板に接続することで、電気化学セルの一方の極をケースに、他方の極を電極板とすることができる。ケースと電極板の間に上述の如く面積が大きく、シール性に問題を生じない樹脂フィルムを介在させているので、正極と負極との間で内部短絡などの問題を生じ難い、信頼性の高い電気化学セルを提供できる。
樹脂フィルムに設けた透孔を介し電極体の正極あるいは負極を電極板に接続することができ、電極体の正極側あるいは負極側と電極板との接続ができる。
【0015】
(3)本発明に係る電気化学セルにおいて、前記樹脂フィルムが前記透孔の位置を除いた前記底部のほぼ全面に形成された構成を採用できる。
【0016】
ケースと電極板の間に底部のほほ全面に相当する面積が大きく、シール性に問題を生じない樹脂フィルムを介在させているので、正極と負極との間で内部短絡などの問題を生じ難い、信頼性の高い電気化学セルを提供できる。
【0017】
(4)本発明に係る電気化学セルにおいては、前記電極板が前記樹脂フィルムとほぼ同一の外周となるよう形成されたことが好ましい。
【0018】
この構造により、面積の大きな電極板を備えた電気化学セルを提供できる。
【0019】
(5)本発明に係る電気化学セルにおいては、前記電極板が、前記ケースの前記底部の外周縁から突出する電極端子を備えたことが好ましい。
【0020】
ケースの底部から突出した電極端子は、段差を有しない平板状に形成できるので、電極端子を備えた構成であっても、必要以上に総厚を大きくすることのない電気化学セルを提供できる。電極部と電極端子を一体構造として全体を平板状にすると、必要以上に総厚を大きくしない電気化学セルを提供できる。
【0021】
(6)本発明に係る電気化学セルにおいて、前記樹脂フィルムの外周縁部であって前記電極端子の基端部に接する部分に、前記樹脂フィルムの外周縁部から外方に突出する保護部が形成されたことが好ましい。
【0022】
樹脂フィルムの外周縁部に設けた保護部は、ケースに電極端子の基端部が接触しないように保護する。よって、電極端子とケースの短絡を生じ難い電気化学セルを提供できる。
【0025】
)本発明に係る電気化学セルの製造方法は、側部と底部とを有し、一方の前記底部が開口部であり、他方の前記底部に透孔が形成されたケースと、前記開口部に溶接され前記開口部を封止する蓋板と、前記透孔の周縁部に融着した樹脂フィルムを介して前記透孔を塞ぐ電極板と、を有する外装体を備え、前記外装体に電極体を収容した電気化学セルを製造するに際し、前記ケースの内部に前記電極体を収容した後、外周縁部の少なくとも一部に折曲部または湾曲部を有する蓋板を前記ケースの開口周縁部に被せ、前記折曲部または前記湾曲部の存在により前記ケースの開口周縁部に生成した隙間を利用して前記ケース内に電解液の注入を行い、電解液の注入後、前記ケースの開口周縁部と前記蓋板の外周縁部を溶接することを特徴とする。
【0026】
外周縁部の少なくとも一部に折曲部または湾曲部を有する蓋板をケースの開口周縁部に被せ、ケースの開口周縁部に生成した隙間を利用し、ケースに電解液の注入ができる。この隙間は、蓋板をケースの開口周縁部に溶接する場合、強制的に閉じるように溶接することで、閉じることができる。
【0027】
)本発明に係る電気化学セルの製造方法において、前記ケースの開口周縁部と前記蓋板の外周縁部を溶接するに際し、前記蓋板の外周縁部を前記ケースの開口周縁部に押し付けつつ、該押し付け部分に沿って前記蓋板の外周縁部を前記ケースの開口周縁部に溶接する
方法を採用できる。
【0028】
蓋板でケースの開口部を閉じるように蓋板を押し付けつつ蓋板をケースの開口周縁部に溶接することで、ケースの開口部を蓋板で完全に閉じた状態となるように蓋板を溶接し、ケースを密閉した構造にできる。
【0029】
)本発明に係る電気化学セルの製造方法において、前記電極体に形成されている正極と負極のどちらか一方を前記蓋板に電気的に接続し、前記正極タブと前記負極タブのどちらか他方を前記透孔を介し前記電極板に電気的に接続することが好ましい。
【0030】
電極体の正極と負極の一方を前記蓋板に接続し、他方を前記電極板に接続することで、一方の極を蓋板に、他方の極を電極板に設けた電池が完成する。
【0031】
10)本発明に係る電気化学セルの製造方法において、前記電極板として、前記樹脂フィルムの前記透孔を塞ぐとともに前記樹脂フィルムの外周縁部までを蔽う電極部と、該電極部から外方に突出され、前記樹脂フィルムの外周縁部より外方に突出された電極端子を有する電極板を用いることを特徴とする()~()のいずれか一項に記載の電気化学セルの製造方法。
【0032】
電極板として電極部と電極端子を一体構成とした構造を適用できる。電極部と電極端子を一体構造として全体を平板状にすると、必要以上に総厚を大きくしない電気化学セルを提供できる。
【0033】
11)本発明に係る電気化学セルの製造方法において、前記樹脂フィルムの外周縁部であって前記電極端子の前記基端部に接する部分に、前記樹脂フィルムの外周縁部から外方に突出する保護部が形成された樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0034】
樹脂フィルムの外周縁部に設けた保護部は、ケースに電極端子の基端部が接触しないように保護する。よって、電極端子とケースの短絡を生じ難い電気化学セルを提供できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る電気化学セルであるならば、ケースの底部に設けた樹脂フィルムの面積をケースの底部の面積に対応させて十分に大きくしても、融着した樹脂フィルムのシール性に問題を生じない。これは、ケースの開口部に蓋板を溶接する場合、蓋板を溶接する位置と樹脂フィルムの周縁部の位置を側部の高さ方向に側部を介し十分離間した位置に設定できるためである。
底部の外周部あるいは天井壁の外周部に達するように樹脂フィルムの面積を大きくできるとともに、蓋板を溶接する場合の熱的影響を樹脂フィルムが受け難いことから、樹脂フィルムによるシール性が良好であり、水分の浸入を防止し、電解液漏れなどを生じない、信頼性の高い電気化学セルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係る第1実施形態の電気化学セルを示す断面図である。
図2】本発明に係る第2実施形態の電気化学セルを示す断面図である。
図3】本発明に係る第3実施形態の電気化学セルを示す断面図である。
図4】本発明に係る第4実施形態の電気化学セルを示す断面図である。
図5】本発明に係る第5実施形態の電気化学セルを示す断面図である。
図6図5に示す電気化学セルの平面図である。
図7図5に示す電気化学セルに適用される樹脂フィルムを示す平面図である。
図8】本発明に係る第6実施形態の電気化学セルを示す断面図である。
図9】同第6実施形態の電気化学セルに適用される電極と樹脂フィルムの一例を示す平面図である。
図10】第5実施形態の電気化学セルに適用される樹脂フィルムの第2の例を示す平面図である。
図11】第5実施形態の電気化学セルに適用される樹脂フィルムの第2の例と電極を示す平面図である。
図12】本発明に係る第7実施形態の電気化学セルにおいて、電極体を金属ケースと蓋体に接続し、金属ケースに収容する状態を説明するための部分断面図である。
図13図12に示す蓋板の平面図である。
図14図12に示す状態から金属ケース内に電極体を収容し、金属ケースの開口部に対し蓋板を仮止めした状態を示す断面図である。
図15図15に示す電極体の仮止め位置を示す平面図である。
図16図14に示す金属ケースと蓋板に対し溶接機のローラーを配置して溶接する状態を示す部分断面図である。
図17図16に示す状態から溶接部材を回転させて蓋板を金属ケースに溶接する状態を示す平面図である。
図18図12に示す電極体の具体例を示す斜視図である。
図19】従来の電気化学セルの一例において金属ケースに蓋板を溶接する前の状態を示す断面図である。
図20】従来の電気化学セルの一例において金属ケースに蓋板を溶接した状態を示す断面図である。
図21】従来の電気化学セルの他の例において金属ケースに蓋板を溶接する前の状態を示す断面図である。
図22】従来の電気化学セルの他の例において金属ケースに蓋板を溶接した状態を示す断面図である。
図23】従来の電気化学セルにおいて凹部を有する蓋板に電極端子を取り付けた状態を示す断面図である。
図24】従来の電気化学セルにおいて平板状の蓋板に電極端子を取り付けた状態を示す断面図である。
図25】従来の電気化学セルにおいて金属ケースに電極体を収容する場合について示す説明図である。
図26】従来の電気化学セルに適用される蓋板の一例を示す分解図である。
図27】従来の電気化学セルの別の例において金属ケースに電極体を収容し、金属ケースに対し蓋板を溶接する状態を示す断面図である。
図28】従来の電気化学セルの別の例において金属ケースに電極体を収容し、金属ケースに対し蓋板を溶接する状態を示す断面図である。
図29】従来の電気化学セルの別の例において電解液を充填する場合について示すための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る電気化学セルの第1実施形態について図面を参照して説明する。
以下に説明する実施形態では、電気化学セルの一例として、ボタン型二次電池(以下、単に「電池」ということがある。)を挙げ、この電池について説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している場合がある。
【0038】
<第1実施形態>
図1は本発明に係る電気化学セルの第1実施形態について説明するための断面図であり、第1実施形態の電気化学セル(電池)1は、平面視円形状のボタン型電池である。この電池1は、金属缶からなる外装体2の内部に収容された電極体3を備えている。
なお、図1では略されているが、外装体2の内部に電解液が充填されている。この電解液は支持塩を非水溶媒に溶解した電解液などが好適に用いられる。
【0039】
外装体2は、底部(底壁)2aと側部(側壁)2bを有する上面開口型の金属製のケース2Aと、該ケース2Aの上面開口を閉じるように溶接などの接合方法により開口周縁部に固定された金属製の蓋板2Bからなる。
ケース2Aは、例えば、SUS316などの耐食性に優れたステンレス鋼板からなり、電池1の一方の極として機能する。ケース2Aにおいて底部2aの中央部には、底部2aの外径の数分の一程度の内径を有する透孔2dが形成され、底部2aの下面側にリング状の樹脂フィルム(シーラントフィルム)5を介し金属製の電極板6が取り付けられている。
樹脂フィルム5の中央部に底部2aの透孔2dと同一内径の透孔5aが形成され、樹脂フィルム5はこの透孔5aを前記透孔2dと位置合わせして底部2aの下面に融着されている。樹脂フィルム5の外径は底部2aの外径とほぼ同一に形成されている。従って、樹脂フィルム5は底部2aの透孔2dを除く下面ほぼ全面を蔽うように底部2aに融着されている。また、樹脂フィルム5の外周縁部は、底部2aの外周部に到達し、側部2aの外周部まで覆っている。即ち、外装体2の底面のほぼ全面が樹脂フィルム5により覆われている。
【0040】
電極板6は、金属製の円板からなり、その外径は樹脂フィルム5の外径と同一に形成されている。従って、電極板6は樹脂フィルム5の透孔5aの部分を含め樹脂フィルム5の下面全面を蔽うように設けられている。電極板6は、例えば、SUS316などの耐食性に優れたステンレス鋼板からなり、電池1の他方の極として機能する。
【0041】
樹脂フィルム(シーラントフィルム)5は、後述する融着により、金属製の底部2aと電極板6に貼着可能な材料からなる。樹脂フィルム5は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ナイロン、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの高融点樹脂からなるシートもしくは不織布からなる基層を有する。また、樹脂フィルム5は、前記基層の両面側に設けられた、変性PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)などの熱可塑性樹脂の単体やコポリマーなどの低融点樹脂からなる融着層の3層構造を採用できる。
ここで言及した高融点樹脂とは、一般的な熱融着温度(150~200℃)よりも融点の高い樹脂を意味し、低融点樹脂とは高融点樹脂よりも融点の低い樹脂、換言すると一般的な熱融着温度より融点の低い樹脂であることが好ましい。また、樹脂フィルム5は熱融着が可能な樹脂からなる単層構造でも差し支えない。
なお、樹脂フィルム5の融着は、熱融着の他に、超音波溶着、レーザー溶着、高周波溶着など、他の融着手段(溶着手段)を用いても良い。
【0042】
電極体3は、例えば、負極体と正極体を積層した構造を有し、その一側から正極タブが他側から負極タブが延出された構造を有する。図1では略されているが、電極体3の正極タブが蓋板2Bあるいはケース2Aに電気的に接続され、電極体3の負極タブが電極板6に電気的に接続され、外装体2の内部に電解液が充填されることで電池1が構成される。
【0043】
図1に示す電池1を製造するには、ケース2Aの底部下面側に樹脂フィルム5と電極板6を位置合わせして貼り合わせ、熱融着可能な温度に必要時間加熱後、常温に冷却する。この状態でケース2Aの底面側には樹脂フィルム5と電極板6が融着され、これらにより底部下面側が蔽われるが、ケース2Aの上面側は蓋板2Bが溶接されておらず開放された状態であり、電極体3も収容されていない状態とする。
【0044】
電極体3の負極タブを電極板6に溶接などの接合方法により接続し、電極体3の正極タブを蓋板2Bに溶接などの接合方法により接続し、ケース2Aの内部に電極体3を収容する。負極タブと正極タブの長さに余裕を持たせた状態として電極体3をケース2Aに収容後、ケース2Aの上面側の開口部から電解液を注入する。
電解液の注入後、ケース2Aの開口部を蓋板2Bで閉じるとともに、蓋板2Bの外周縁部に図1の下向きの矢印で示す方向から溶接機で圧力を印加しつつ蓋板2Bの外周縁部全周に渡り溶接することで図1に示す構造の電池1を得ることができる。溶接方法として抵抗溶接法、レーザー溶接法などを適用できる。
【0045】
図1に示す電池1を製造する場合、蓋板2Bの外周縁部を抵抗溶接法などの溶接法により接合するが、溶接する位置と樹脂フィルム5の外周縁部は側部2bを介し離間しているので、樹脂フィルム5の熱融着部分が溶接時の熱で剥離するなどの問題は生じない。
従って、図1に示す構成では、底部2aの下面全面を蔽うような面積の大きな樹脂フィルム5を用いることができ、樹脂フィルム5を用いて良好なシール性で電極板6を底部2aに融着できる。
【0046】
これに対し、図22に示す従来構造の電気化学セル120では、シーラントフィルム108を大きくすると、シーラントフィルム108の周辺部が溶接部分に接近するので、シーラントフィルム108を大きくできない問題があった。
従って、図1に示す電池1では、樹脂フィルム5により電極板6を貼着する構造の信頼性が高く、樹脂フィルム5によるシール性に優れた構造を提供できる。従って、電池1において、樹脂フィルム5の貼着部分を介する水分の侵入や電解液漏れを防止し、信頼性の高い構造を提供できる。
【0047】
ところで、図1の構造では、底部2aと側部2bを有する上面開口型のケース2Aを用いたが、図1の構成を上下逆転させた構成であり、側部と天井部(底部)を有する下面開口型のケースを用い、下面側の開口部を蓋板で閉じる構成の電池を構成しても良い。その場合、天井壁の上面側に樹脂フィルム5と電極板6が貼着される構成となる。
【0048】
<第2実施形態>
図2は、側部12bと天井壁(底部)12aを有する下面開口型の金属製のケース12Aを用い、ケース12Aの下面側の開口部を蓋板12Bで閉じた第2実施形態の電池(電気化学セル)10を示す。天井壁12aの上面側に樹脂フィルム15を介し電極板16が融着されている。樹脂フィルム15には透孔15aが形成されている。
図2に示す電池10は、図1に示す電池1を上下逆転させた構成であり、ケース12Aの下面開口部を閉じるように平板状の蓋板12Bが溶接されている。ケース12Aの下面開口部周縁に蓋板12の外周縁部が溶接され、ケース12Aの下面開口部が閉じられている。
図2に示す構成は、図1に示すケース2Aと蓋板2Bの関係を上下逆転させた構成に加え、樹脂フィルム15と電極板16が天井壁12aに融着されている点が異なるのみで、その他の構成は図1の構成と同等である。
【0049】
図2に示す第2実施形態の電池10においても、樹脂フィルム15の面積を大きくできる点、樹脂フィルム15がシール性に優れる点など、図1に示す第1実施形態の電池1と同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
電池10を製造するには、例えば、樹脂フィルム15と電極板16の取り付けを行っていない状態のケース12Aの内部に電極体3を収容し、蓋板12Bに電極体3の正極タブを溶接した後、蓋板12Bをケース12Aの下面側開口部に溶接する。
この後、天井壁12aの透孔12dを介し電解液を充填後、電極体3の負極タブを電極板16に溶接し、この後、樹脂フィルム15と電極板16を天井壁12aの外面(上面)に融着することで電池10を作製できる。
【0051】
<第3実施形態>
図3図1に示す構成の電池1に対し、電極端子20を取り付けた第3実施形態の構成を示すもので、電極板6の底面中央部から電極板6の外方にまで延出形成された平板状の電極端子20を備えている。
電極板6は平板状であり、電極端子20も平板状であるので、図3に示す構造では電池1としての総厚を不要に高くすることなく電極端子付きの電池1を提供できる。
図3に示す構成において電極端子20は、ケース2Aに触れるおそれがないので、内部短絡のおそれを有しない。即ち、樹脂フィルム5が底部2aの下面全面を蔽う大きさであるので、電極板6が底部2aあるいは側部2bに接触するおそれがなく、電極端子20が底部2aあるいは側部2bに接触するおそれもないので内部短絡を防止できる。
なお、図23図24を基に先に説明した従来構造では電極端子122と蓋板102あるいは蓋板121の短絡防止のための絶縁テープ123、125を必要としていたが、図3に示す構造において絶縁テープは不要となる。また、電極端子20は段差を有しない平板状であるため、電池1の総厚を不要に高くすることもない。
【0052】
<第4実施形態>
図4図1に示す構成の電池1と類似構成の電池(電気化学セル)25に対し、電極端子20を取り付けた第4実施形態の構成を示すもので、電極板26の底面中央部から電極板26の外方にまで延出形成された平板状の電極端子20が取り付けられている。
図4に示す電池25は、電池1に対し電極板26の大きさが異なり、その他の構成は同等である。
電池25において、樹脂フィルム5より電極板26が若干小さい円板状に形成されている。電池25は、電極板26より樹脂フィルム5が大きい構成であるが、図23図24に示す従来構造において必要であった絶縁テープ123、125は不要な構成である。
図4の構成では、樹脂フィルム5が底部2aの外周縁まで覆っているので、電極端子20とケース2Aとの短絡を防止できる。その他の作用効果については、図3に示す電池1と同様の作用効果が得られる。
【0053】
<第5実施形態>
図5図1に示す構成の電池1と類似構成の電池(電気化学セル)30に対し、電極板31を設けた第5実施形態の構成を示す。
電池30において、ケース2Aと蓋板2Bから外装体2が構成され、外装体2の内部に電極体3が収容された構造は電池1と同等である。また、ケース2Aの底部2aの下面(外面)に樹脂フィルム5が融着されている構造も電池1と同等である。
【0054】
第5実施形態は、樹脂フィルム5の外径と同一外径の図6に示す円板状の電極部31Aと、電極部31Aの外周縁の一部から外方に延出された短冊板状の電極端子31Bを有する平板状の電極板31が設けられている点に特徴を有する。
電極板31において電極部31Aは図7に平面形状を示すリング状の樹脂フィルム5に対し相互の中心を位置合わせして融着されている。電極部31Aは樹脂フィルム5の透孔5aを含め樹脂フィルム5の外周縁を含む下面のほぼ全面を蔽っている。
【0055】
電極板31は電極端子31Bを備えているので、図3図4に示す構造のように、電極板6の外面に別途電極端子20を別途接続する必要がない。
図5に示す構成であれば、平板状の電極板31が端子も兼ねるので電池30の総厚を高くすることがなく、端子を別途接続する必要もない。このため、構造の簡略化、製造工程の簡略化をなし得る。その他の作用効果については、図3に示す電池1と同様の作用効果が得られる。
【0056】
<第6実施形態>
図8図1に示す電池1と類似構成の電池(電気化学セル)35に対し、電極板36を設けた第6実施形態の構成を示す。
電池35において、ケース2Aと蓋板2Bから外装体2が構成され、外装体2の内部に電極体3が収容された構造は同等である。また、ケース2Aの底部2aの下面(外面)に樹脂フィルム5が融着されている構造も同等である。
【0057】
第6実施形態の構造は、樹脂フィルム5の外径より外径の若干小さい図9に示す円板状の電極部36Aと、電極部36Aの外周縁の一部から外方に延出された短冊板状の電極端子36Bを有する平板状の電極板36が設けられている点に特徴を有する。電極板36において電極部36Aは図9に平面形状を示す樹脂フィルム5に対し相互の中心を位置合わせして融着されている。
【0058】
電極板36は電極端子36Bを備えているので、図3図4に示す構造のように、電極板6の外面に電極端子20を別途接続する必要がない。
図8に示す構成であれば、平板状の電極板36が端子も兼ねるので電池35の総厚を高くすることがなく、端子を別途接続する必要もない。このため、構造の簡略化、製造工程の簡略化をなし得る。その他の作用効果については、図3に示す電池1と同様の作用効果が得られる。
【0059】
図10は、先の第5実施形態の構造(図5図6参照)に適用可能な樹脂フィルムの第2の例を示す。この例の樹脂フィルム50は、先の樹脂フィルム5と同一外径の円板状の被覆部50Aと、被覆部50Aの外周縁の一部から外方に突出された平面視矩形状の保護部50Bを有する。保護部50Bの長さは第5実施形態の電極端子36Bより短く形成され、保護部50Bの幅は第5実施形態の電極端子36Bの幅より若干幅広に形成されている。
【0060】
図11は、樹脂フィルム50における被覆部50Aの外面に、第5実施形態の電極部31Aを互いの中心を位置合わせし、樹脂フィルム50の保護部50Bに対し第5実施形態の電極端子31Bを位置合わせした上で融着した状態を示す。
図11に示すように、電極端子31Bの基端部裏面側に保護部50Bを配置しているので、電極端子31Bが金属製のケース2Aに接触するおそれがない構成を提供できる。
よって、図11に示す構成を採用すると、電極端子31Bがケース2Aに短絡するおそれのない構成を実現できる。
【0061】
<電池を製造する場合の課題>
ここまでの実施形態においては、樹脂フィルムの融着により電極板を外装体の蓋板に融着した種々の構成について説明した。しかし、樹脂フィルムの融着技術を用いて電池を製造する場合、以下に説明する課題がある。
図25図29は、電池を製造する場合における課題について説明するための図である。
図25に、底部130Aと側部130Bを有する浅底型の金属製のケース130に電極体131の負極タブ131Aを接続し、電極体131正極タブ131Bを蓋板131Cに融着した電極板132に接続した状態を示す。図25では、電極板132の上下両面に樹脂フィルム133、134(図26参照)を配置し、樹脂フィルム133、134の周縁側を相互融着し、樹脂フィルム134の外周側を蓋板131Cの裏面側に融着している。なお、樹脂フィルム134は、溶接部の邪魔にならない程度に大きくしている。
【0062】
電池を製造するには、図25に示す状態から、電極体131を図27に示すようにケース130に挿入し、電解液の注入と蓋板131Cの溶接を行う必要がある。
具体的には、図27に示す状態とした後、乾燥工程において真空乾燥装置に搬送し、充分に乾燥した後、電解液の注入と蓋板131Cの溶接を行う必要がある。
しかし、電極体131の負極タブ131Aと正極タブ131Bは、通常、薄い金属箔に活物質等を塗布した構成であるため、タブの強度は弱く、乾燥工程において搬送している間にタブ切れを引き起こすおそれがある。なお、金属箔を厚いものに置き換えると、活物質量が減少するので、電池の容量が低下する問題があり、金属箔を従来よりも厚いものに置き換えることはできない。
【0063】
図27に示す状態から図28に示すように蓋板131Cをケース130の開口部に仮溶接などを行って仮止めすると、搬送中のタブ切れを防止できる。
ところが、仮止めを行うと、図29に示すようにスポイトなどの注入器138を用いて電解液140を注入する作業が問題となる。即ち、仮止めを一端解除し蓋板131Cをケース130の開口部から外す必要があるが、この作業を行うと、タブ切れを発生させるおそれも高くなる。
また、仮止めを解除した後、図29に示すように蓋板131Cの全周に渡り溶接を実施し、ケース130の上面側開口部に蓋板131Cを本固定する必要がある。
従来技術においては、上述の問題点を解決した上で、問題のない製造方法を実施する必要があったが、タブ切れを引き起こすおそれのない構造は提供されていなかった。
以下に説明する第7実施形態では、上述の課題を解決できる製造方法と該製造方法に対応する構造を提供できる。
【0064】
<第7実施形態>
図12は、図1に示す電池1と類似構成の第7実施形態の電池(電気化学セル)60を製造する場合に好適な状態を説明するための分解部分断面図であり、以下に説明する工程を経ることで図17に示す電池60が得られる。
第7実施形態の電池60は、ケース2Aと蓋板2Bにより外装体2が構成され、外装体2の内部に電極体3が収容される構造に関し、図1に示す電池1と同等の構造を有する。さらに、底部2aの外面(下面)に樹脂フィルム5を介し電極板6が融着されている構造に関し、図1に示す電池1と同等の構造を有する。
第7実施形態の電池60において図1に示す電池1と異なるのは、蓋板2Bに後述する折曲部2eを形成後、溶接時に折曲部2eを矯正して平板状に戻すことで形成した折曲矯正部2gを有する点である。
【0065】
以下、図12から順に電池60を製造するための手順に基づき説明する。
図12に示すように上面が開口した状態のケース2Aに樹脂フィルム5により電極板6を融着した状態とする。また、ケース2Aの上方に電極体3と蓋板2Bを順次配置し、電極体3の正極タブ3Aを蓋板2Bの中央部に、負極タブ3Bを電極板6の中央部に、各々超音波溶接等の接合方法により接合した状態を図12に示している。図12に示す状態において、電極体3の正極は上述のタブ接続により蓋板2Bに電気的に接続され、電極体3の負極は上述のタブ接続により電極板6に電気的に接続されている。
図12に示す構造において、蓋板2Bとして、図13に鎖線で示す位置に折曲部2eを形成した蓋板2Bを用いる。図12図13に示すように、折曲部2eは、平面視円形状の蓋板2Bの中心線Sと平行な位置であって、蓋板2Bの中心より右側寄りの位置に前記中心線Sと平行に形成されている。この例の蓋板2Bは、図12に示すように、折曲部2eの左側の部分に対し折曲部2eの右側の部分を斜め上方に若干の傾斜角度(図12では傾斜角度:α≒10°)で折り曲げた構造を有する。
【0066】
図12に示す状態から、正極タブ3Aと負極タブ3Bを折り畳んで電極体3をケース2Aに収容した状態を図14に示す。また、図14に示す状態を平面視した図15に示す矢印で示す位置(蓋板2Bの外周縁の2箇所)を溶接により仮止めする。仮止めする位置は、図15に示す蓋板2Bの折曲部2eより左側の平板状の部分で行う。
この状態では図14に示すように蓋板2Bにおける先端部2fがケース2Aの上面開口部2iから反って若干浮き上がるので、ケース2Aの上面開口部2iと蓋板2Bの先端部2fとの間に隙間dが生じる。この隙間dを利用し、電解液をスポイトや注射器などの注入器によってケース2Aの内部に注入することができる。
蓋板2Bに折曲部2eを設けることにより、上述の如く隙間dを形成でき、この隙間dを利用して電解液の注入ができる。なお、折曲部2eは徐々に曲率が変化する湾曲部であっても良い。
【0067】
上述のように蓋板2Bを仮止めした状態でケース2Aを搬送しても、正極タブ3Aと負極タブ3Bに負荷がかからないので、電極体3を収容したケース2Aを安全に搬送できる。例えば、乾燥エリアへの搬送、乾燥エリアから電解液の注入エリアなどに搬送する際、あるいはこれらのエリアでハンドリングする場合にタブ切れを引き起こすことなく搬送できる。
【0068】
電解液の注入作業が終了したならば、図16図17に示すように溶接機の加圧ローラー61、61を蓋板2Bの上から押し付け、加圧ローラー61、61を蓋板2Bの周回り方向に回転させつつケース2Aの上面開口部と蓋板2Bの外周縁部を抵抗溶接し、ケース2Aと蓋板2Bを一体化することで外装体2を構成し、電池60を形成する。
加圧ローラー61、61を用いて蓋板2Bの全周をケース2Aの上面開口部に溶接すると、折曲部2eを有していた蓋板2Bは加圧ローラー61により上面開口部に押し付けられ、押し付け部分に沿って平板状に矯正されつつ溶接される。このため、平板状の蓋板2Bにおいて折曲部2eに相当する部分に折曲矯正部2gが形成される。
【0069】
折曲矯正部2gとは、金属板である蓋板2Bに一端折曲部2eを形成した後、蓋板2Bを強制的に平板状に塑性加工すると塑性加工の痕跡を伴って平板状に矯正された部分を意味する。なお、折曲部2eの代わりに湾曲部を形成した場合、塑性加工の痕跡を伴って平板状に矯正された部分としての湾曲矯正部が生成する。
【0070】
なお、蓋板2Bの溶接を行う場合、レーザー溶接を適用するには、ガラス板等の充分透明な部材で蓋板2Bの反りを抑えて平板状に矯正した後、レーザーを照射して蓋板2Bの溶接を行えば良い。あるいは、蓋板2Bの数カ所をレーザー溶接により仮止めし、反りを矯正して平板状に矯正し、この状態でレーザー溶接を実施すれば良い。
【0071】
以上説明した方法により電池60を製造すると、ケース2Aと蓋板2Bに対する正極タブ3Aおよび負極タブ3Bの接合と、ケース2Aに対する電極体3の収容と、ケース2Aに対する電解液の注入と、ケース2Aに対する蓋板2Bの溶接を円滑かつ確実に行うことができる。
このため、複雑な工程や作業の繁雑な工程を実施することなく電池60を製造することができる。
【0072】
例えば、電極体3に設けられている正極タブ3Aと負極タブ3Bは、薄いフィルム状の金属箔に活物質を塗布した構成が一般的であり、電池の製造段階で金属箔に無理な折り曲げ力や引張力を負荷するとタブが破断するおそれがある。この点、図12に示す状態から正極タブ3Aと負極タブ3Bを折り曲げつつ電極体3をケース2Aに収容する段階で各タブ3A、3Bに負荷がかかるおそれは低いので、製造時のタブ切れの問題は生じ難い。
【0073】
ここで仮に、蓋板2Bに折曲部2eを設けていない平板状の蓋板2Bを用いて電池を製造しようとすると、ケース2Aに電解液を注入するために、ケース2Aの上面開口部に隙間ができるように蓋板2Bを傾斜させたまま、蓋板2を保持する必要がある。
ボタン型電池は、外径数mm程度の大きさの場合があり、蓋板2Bを傾斜させたまま支持すること自体、煩雑な作業であることがあり、注入器で電解液を注入する場合に、正極タブ3Aを損傷させるおそれもある。
これらの背景に鑑み、上述のように説明した手順によれば、複雑な工程や作業の繁雑な工程を実施することなく、タブ切れを引き起こすことなく電池60を製造することができる。
【0074】
なお、ここまで説明した第1実施形態~第7実施形態の電池1、10、25、30、35、60にあっては、電極体3の構成について詳しい説明は省略したが、電極体は一例として以下に説明するような構成を採用することができる。
【0075】
<電極体の具体例>
図18は、電極体3の一形態を示す斜視図であり、この電極体65は、負極側セパレータ層66で被覆された負極体67と正極側セパレータ層68で被覆された正極体69からなる。
電極体65は、負極体67および正極体69を互い違いに積層するように巻回した電極体である。具体的に、電極体65は、負極側セパレータ層66を介し負極体67と正極体69とを重ね合わせて扁平状に巻回することにより形成されている。負極体67には負極タブ70が設けられ、正極体69には正極タブ71が設けられている。例えば、負極タブ70は上述の電極板6に接続され、正極タブ71は上述の蓋板2Bに接続される。
なお、巻回構造の電極体65は一例に過ぎないので、つづら折り構造など、他の構造を採用しても良い。
【0076】
負極側セパレータ層66は負極体67において負極タブ70とその基端側の周囲部分を除き、残り全体を覆うように形成されている。正極側セパレータ層68は正極体69において正極タブ71とその基端側周囲部分を除き、残り全体を覆うように形成されている。
このため、セパレータ層66、68は、負極体67と正極体69を巻回した状態において負極体67および正極体69の周囲およびこれらの層間に配置され、負極体67と正極体69が絶縁分離される。
【0077】
なお、図18においては層厚を無視してセパレータ層66、68の存在位置のみを表示しているが、セパレータ層66、68は少なくとも負極体67と正極体69とが対向する領域の全体で負極体67と正極体69との間に介在するように、かつ、負極側セパレータ層66が負極体67を覆うように、正極側セパレータ層68が正極体69を覆うように配置されている。
負極体67および正極体69が巻回されて積層された方向を積層方向と称することができる。なお、巻回とは、特定の巻回中心軸の周囲を周回するように巻かれることである。
【0078】
負極体67は、金属材料により形成された箔状の負極集電体と、負極集電体の片面または両面に塗工された負極活物質層とを備えたシート状の部材である。負極集電体は、例えば銅やニッケル等の金属箔により形成されている。金属箔の厚さは一例として数μm程度である。負極活物質は、例えば、シリコンやシリコン酸化物、グラファイト、ハードカーボン、チタン酸リチウム等の単体又は混合物である。負極集電体は円形状の複数の負極本体と隣接する負極本体を接続する帯状の接続部とからなり、配列方向一端の負極集電体の外周部から負極タブが延出されている。
【0079】
負極活物質層の形成材料として、負極活物質に加え、導電助剤(例えば、アセチレンブラック等)、バインダ(例えば、ポリフッ化ビニリデンやスチレンブタジエンゴム(SBR)のディスパージョン等)、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)等)、溶剤(例えば、水、N-メチルピロリドン等の任意の溶媒)を混合して負極用スラリーを作製することができる。負極活物質層を形成するための構成材料を含む塗布液を「負極用スラリー」ということができる。この負極用スラリーを負極側集電体に塗布し、乾燥させることにより負極活物質層を形成できる。
【0080】
正極体69は、金属材料により形成された箔状の正極集電体と、正極集電体の片面または両面に塗工された正極活物質層と、を備えた1枚のシート状の部材である。正極集電体は、例えばアルミニウムやステンレス等の金属箔により形成されている。金属箔の厚さは一例として10数μm程度である。
正極活物質は、電池1がリチウム電池である場合、例えば、コバルト酸リチウムやチタン酸リチウム、マンガン酸リチウム等のように、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物である。正極集電体は円形状の複数の正極本体と隣接する正極本体を接続する帯状の接続部とからなり、配列方向一端の正極集電体の外周部から正極タブが延出されている。
【0081】
正極活物質層の形成材料として、上述の正極活物質に加え、導電助剤(例えば、アセチレンブラック等)、バインダ(例えば、ポリフッ化ビニリデン等)、溶剤(例えばN-メチルピロリドン等の任意の溶媒)を混合して正極用スラリーを作製することができる。正極活物質層を形成するための構成材料を含む塗布液を「正極用スラリー」ということができる。この正極用スラリーを正極側集電体に塗布し、乾燥させることにより正極活物質層を形成できる。
【0082】
セパレータ層66、68は、一例としてリチウムイオン導電性を有する樹脂層である。セパレータ層66、68は、例えばポリオレフィン製の樹脂ポーラスフィルムやガラス製不織布、樹脂製不織布、セルロース繊維の積層体等により形成されている。なお、セパレータ層66、68は正極体69と負極体67の分離を行えば良いため、どちらか一方を略しても良い。
【0083】
図18に示すように本実施形態の電極体65は、外装体2内に高密度で配置されるように、外装体内の密封空間の形状に対応する形状に形成されている。すなわち、電極体65は、積層方向から見て、円形状に形成されている。
負極体67は円形状の複数の負極本体67aを帯状などの形状に配列するように接続部を介し接続した構成を有し、正極体69は円形状の複数の正極本体69aを帯状などの形状に配列するように接続部を介し接続した構成を採用できる。このため、負極体67の円形状の負極集電体と正極体69の円形状の正極集電体を交互に積み重ねるか巻回することにより、図18に示す電極体65が構成される。なお、電極体65の上面側においてセパレータ層66の端部66aを負極本体67aの端部より内側の位置で留めてくことで負極タブ70の折返しが容易となる。
図18に示す電極体65は、先の第1実施形態~第7実施形態の電極体3として適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1…電池(電気化学セル)、2…外装体、2A…ケース、2a…底部、2B…蓋板、2b…側部、2d…透孔、2e…折曲部、2f…先端部、2g…折曲矯正部、d…隙間、3…電極体、5、15…樹脂フィルム(シーラントフィルム)、
5a、15a…透孔、6、16…電極板、10…電池(電気化学セル)、
12…外装体、12A…ケース、12a…天井壁、12B…蓋板、12b…側部、12d…透孔、20…電極板、25…電池(電気化学セル)、26…電極板、30…電池(電気化学セル)、31…電極板、31A…電極部、31B…電極端子、35…電池(電気化学セル)、36…電極板、36A…電極部、36B…電極端子、50…樹脂フィルム(シーラントフィルム)、50A…被覆部、50B…保護部、60…電池(電気化学セル)、61…加圧ローラー、65…電極体、
66…負極側セパレータ層、67…負極体、68…正極側セパレータ層、69…正極体、70…負極タブ、71…正極タブ。
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