IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井金属鉱業株式会社の特許一覧

特許7554935タングステン酸溶液およびその製造方法、酸化タングステン粉末およびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】タングステン酸溶液およびその製造方法、酸化タングステン粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/00 20060101AFI20240912BHJP
   C01G 41/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C01G41/00 B
C01G41/00 A
C01G41/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023534886
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2022025274
(87)【国際公開番号】W WO2023013287
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2021128392
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】久間 大平
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/053194(WO,A1)
【文献】特開2020-076999(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110813338(CN,A)
【文献】国際公開第2020/196720(WO,A1)
【文献】特開2003-312158(JP,A)
【文献】特開2014-231439(JP,A)
【文献】国際公開第2005/037932(WO,A1)
【文献】特開2010-064927(JP,A)
【文献】特開昭60-222146(JP,A)
【文献】特開2003-245997(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047606(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0185346(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111744500(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101928968(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104556232(CN,A)
【文献】特開2008-150251(JP,A)
【文献】米国特許第03472613(US,A)
【文献】特開2004-131346(JP,A)
【文献】DE BUYSSER, K. et al.,physica status solidi b,2008年10月09日,Vol.245,pp.2483-2489,<DOI:10.1002/pssb.200880255>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 41/00 - 41/02
B01J 21/00 - 38/74
C01B 25/00 - 25/46
C01B 33/00 - 33/46
C08G 77/04 - 77/398
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンをWO換算で、0.1~30質量%含有するタングステン酸溶液であって、
アンモニア及び有機窒素化合物(但しドーパミン塩酸塩を除く)を含有し、
pHが6~9であり、且つ動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が20nm以下であり、
前記有機窒素化合物が、脂肪族アミンおよび/または4級アンモニウムであることを特徴とするタングステン酸溶液。
【請求項2】
前記タングステン酸溶液が、水溶液であることを特徴とする請求項1に記載のタングステン酸溶液。
【請求項3】
1ヶ月経過後の動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が20nm以下であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のタングステン酸溶液。
【請求項4】
前記脂肪族アミンが、メチルアミン、ジメチルアミンであり、前記4級アンモニウムが水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であることを特徴とする請求項1に記載のタングステン酸溶液。
【請求項5】
前記粒子径分布測定において、粒子径(D50)が10nm以下であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のタングステン酸溶液。
【請求項6】
前記粒子径分布測定において、粒子径(D50)が2nm以下であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のタングステン酸溶液。
【請求項7】
前記粒子径分布測定において、粒子径(D50)が1nm以下であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のタングステン酸溶液。
【請求項8】
タングステンをWO換算で、1~100g/L含有する酸性タングステン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、タングステン含有沈殿を生成する工程と、
前記タングステン含有沈殿をスラリー状としたタングステン含有沈殿スラリーに、有機窒素化合物を前記有機窒素化合物と前記タングステンとのモル比が1.49以下となるように添加し、タングステン酸溶液を生成する工程と、
を有し、
前記有機窒素化合物が、脂肪族アミンおよび/または4級アンモニウムであることを特徴とするタングステン酸溶液の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により得られるタングステン酸溶液を乾燥し、焼成し、酸化タングステン粉末を生成する工程を有することを特徴とする酸化タングステン粉末の製造方法。
【請求項10】
タングステンをWO換算で、0.1~30質量%含有し、且つ有機窒素化合物と前記タングステンとのモル比が1.49以下であるタングステン酸溶液と、
Si、Al、Ti、Zn、Sn、Y、Ce、Ba、Sr、P、S、La、Gd、Nd、Eu、Dy、Yb、Nb、Li、Na、K、Mg、Ca、Zr、Mo、およびTaからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、
を有し、
前記有機窒素化合物が、脂肪族アミンおよび/または水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であることを特徴とする複合タングステン酸組成物。
【請求項11】
請求項8に記載のタングステン酸溶液の製造方法により生成された前記タングステン酸溶液と、Si、Al、Ti、Zn、Sn、Y、Ce、Ba、Sr、P、S、La、Gd、Nd、Eu、Dy、Yb、Nb、Li、Na、K、Mg、Ca、Zr、Mo、およびTaからなる群より選択される少なくとも1種の元素とを混合し、複合組成物を生成する工程を有する複合タングステン酸組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1、又は2に記載のタングステン酸溶液を塗布し、焼成することを特徴とするタングステン酸膜の製造方法。
【請求項13】
請求項10に記載の複合タングステン酸組成物を塗布し、焼成することを特徴とする複合タングステン酸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン酸溶液およびその製造方法、酸化タングステン粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンは、金属の中では最も融点が高く、金属としては比較的大きな電気抵抗を有し、さらに高い硬度を有する金属であり、工業用・医療用の分野で広く利用されている。例えば、三酸化タングステンを溶液化することができれば、コーティングが容易となり、また複数の元素と複合化し、用途に合わせた特性を付加することが容易になると研究なされている。例えば、特許文献1には、70℃に加熱したアンモニア水に溶解される酸化タングステンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-44739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された酸化タングステンは、濃度が25%という高濃度のアンモニア水を70℃に加熱するための設備が必要となることから、製造コストの抑制が困難であった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて、常温で溶解させることができ、且つ溶液安定性に優れたタングステン酸溶液およびその製造方法、酸化タングステン粉末およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明のタングステン酸溶液は、タングステンをWO換算で、0.1~40質量%含有するタングステン酸溶液であって、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が20nm以下であることを特徴とする。
本発明のタングステン酸溶液は、タングステンをWO換算で、0.1~40質量%含有すると、当該溶液の溶液安定性が向上する点で好ましい。また、本発明のタングステン酸溶液は、タングステンをWO換算で、20~30質量%であるとより好ましい。
【0007】
ここで、タングステン酸溶液中のタングステン酸濃度は、当該溶液を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、酸化タングステン(WO)換算のW重量分率を測定して算出する。なお、本発明のタングステン酸溶液中のタングステン酸は、必ずしもWOの状態で存在するものではない。タングステン酸の含有量を、WO換算で示しているのは、タングステン酸濃度を示す際の慣例に基づくものである。
【0008】
ここで、本発明のタングステン酸溶液中のタングステン酸は、タングステン原子と酸素原子とが溶液中で多段縮合化したポリタングステン酸多核錯体イオンとして溶液中に存在するものと推測する。
【0009】
また、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が20nm以下であると経時安定性の観点から好ましく、10nm以下であるとより好ましく、2nm以下であるとさらに好ましく、1nm以下であると特に好ましく、1nm未満の検出限界未満であるとさらに一層好ましい。このように、本発明の粒子径(D50)は、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定により、粒子径(D50)が20nm以下である状態の溶液を、本発明の「タングステン酸溶液」とする。例えば、本発明のタングステン酸溶液中のタングステン酸粒子などの動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、20nm以下であると経時安定性の観点から好ましく、10nm以下であるとより好ましく、2nm以下であるとさらに好ましく、1nm以下であると特に好ましく、1nm未満の検出限界未満であるとさらに一層好ましい。
【0010】
ここで、動的光散乱法とは、懸濁溶液などの溶液にレーザ光などの光を照射することにより、ブラウン運動する粒子群からの光散乱強度を測定し、その強度の時間的変動から粒子径と分布を求める方法である。具体的には、粒度分布の評価方法は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000ZS)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施する。また、測定直前に測定対象である溶液中の埃等を除去するため、2μm孔径のフィルタで当該溶液を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて3分間の超音波処理を実施する。さらに、測定態様である溶液の液温は25℃に調整した。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。
【0011】
なお、本発明における「溶液」とは、溶質が溶媒中に単分子の状態で分散又は混合しているものに限られず、複数の分子が分子間の相互作用により引き合った集合体、例えば(1)多量体分子、(2)溶媒和分子、(3)分子クラスター、(4)コロイド粒子などが溶媒に分散しているものも含まれる。
【0012】
また、本発明のタングステン酸溶液は、前記タングステン酸溶液が、水溶液であることが好ましい。
本発明のタングステン酸溶液中のタングステン酸は、水への分散性が高く、水に対する溶解性が良好であるため、溶媒として純水を用いることができる。
【0013】
また、本発明のタングステン酸溶液は、アンモニア及び有機窒素化合物を含有することを特徴とする。
本発明のタングステン酸溶液は、タングステン酸の他に、アンモニア及び有機窒素化合物が含まれる。また、本発明に係る「アンモニア」及び「有機窒素化合物」は、本発明のタングステン酸溶液中でそれぞれがイオン化されたものを含む。後述する本発明のタングステン酸溶液の製造方法で詳しく説明するが、当該製造工程において、酸性のタングステン溶液をアンモニア水に添加する逆中和法により、タングステン含有沈殿スラリーである含水タングステン酸アンモニウムケーキを生成した後、有機窒素化合物を加え、混合することにより、本発明のタングステン酸溶液が生成されることから、置換されたアンモニア及び有機窒素化合物が陽イオンとして当該溶液中に存在すると考えられる。
【0014】
当該溶液中に存在するアンモニア濃度の測定方法は、当該溶液に水酸化ナトリウムを加えてアンモニアを蒸留分離し、イオンメータによりアンモニア濃度を定量する方法、ガス化した試料中のN分を熱伝導度計で定量する方法、ケルダール法、ガスクロマトグラフィー(GC)、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)などが挙げられる。
【0015】
他方、有機窒素化合物としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノアルコール、アミノ酸、ポリアミン、4級アンモニウム、グアニジン化合物、アゾール化合物が挙げられる。
【0016】
脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ピぺリジンなどが挙げられる。
【0017】
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、フェニレンジアミン、ジアミノトルエンなどが挙げられる。さらに、アミノアルコールとしては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエチルメタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタンおよびアミノフェノールなどが挙げられる。また、アミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、EDTAなどが挙げられる。さらに、ポリアミンとしては、例えば、ポリアミン、ポリエーテルアミンなどが挙げられる。
【0018】
4級アンモニウムとしては、例えば、アルキルイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジウム、テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられる。ここで、アルキルイミダゾリウムの具体例としては、1-メチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。また、ピリジニウム、ピロリジウムの具体例としては、N-ブチル-ピリジニウム、N-エチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ブチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ヘキシル-4-(ジメチルアミノ)-ピリジニウム、N-メチル-1-メチルピロリジニウム、N-ブチル-1-メチルピロリジニウムなどが挙げられる。さらに、テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、エチル-ジメチル-プロピルアンモニウムが挙げられる。なお、上述したカチオンと塩を形成するアニオンとしては、OH、Cl、Br、I、BF 、HSO などが挙げられる。
【0019】
グアニジン化合物としては、グアニジン、ジフェニルグアニジン、ジトリルグアニジンなどが挙げられる。また、アゾール化合物としては、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物などが挙げられる。ここで、イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。また、トリアゾール化合物の具体例としては、1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸メチル、1,2,3-ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0020】
当該溶液中に存在する有機窒素化合物濃度の測定方法は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)などが挙げられ、またガス化した試料中のN分を熱伝導度計で定量する方法を併用してもよい。
【0021】
また、本発明のタングステン酸溶液は、前記有機窒素化合物が、脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウムであると好ましい。
前記有機窒素化合物が、脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウムであると、用途に合わせた特性を付加するために、複数の元素と複合化する際に、これらの有機窒素化合物は揮発性が高く、除去しやすいからである。
【0022】
ここで、前記有機窒素化合物が、脂肪族アミンであると、特に低毒性となり好ましい。具体的には、炭素数1以上4以下の脂肪族アミンであるとより好ましく、炭素数1以上2以下の脂肪族アミンであると特に好ましい。例えば、メチルアミン、ジメチルアミンなどが挙げられる。
【0023】
また、前記有機窒素化合物が、4級アンモニウムであると、溶解性が高いだけでなく、高い結晶化抑制や、高いゾル化抑制を有する点で好ましい。例えば、テトラアルキルアンモニウム塩が好ましく、水酸化テトラアルキルアンモニウム塩がより好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムが特に好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)がまた特に好ましい。
【0024】
さらに、前記有機窒素化合物は、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノアルコール、アミノ酸、ポリアミン、4級アンモニウム、グアニジン化合物、アゾール化合物から選択された1種ではなく、2種以上を混合したものであってもよい。例えば、脂肪族アミンと4級アンモニウムとの2種を混合したものであれば、毒性が上がらないように添加量を抑えつつ、溶解度をあげることができる点で好ましい。
【0025】
具体的には、メチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン及びジメチルアミンのように2種の有機窒素化合物を混合したものや、メチルアミン、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のように3種の有機窒素化合物を混合したものが挙げられる。
【0026】
また、本発明のタングステン酸溶液は、前記脂肪族アミンが、メチルアミン、ジメチルアミンであり、前記4級アンモニウムが水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であるとより好ましい。
脂肪族アミンが、メチルアミン、ジメチルアミンであると、上述したように低毒性となり好ましい。また、4級アンモニウムが水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であると、上述したように溶解性が高いだけでなく、高い結晶化抑制や、高いゾル化抑制を有する点で好ましい。さらに、高い結晶化抑制や、高いゾル化抑制を有する点で、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であると特に好ましい。
【0027】
また、本発明のタングステン酸溶液は、pHが6以上13以下であると好ましい。
本発明のタングステン酸溶液は、pHが6以上13以下であると、当該溶液がより溶液安定性に優れるからである。また、当該pHは6以上9以下であるとより好ましく、6以上8以下であるとさらに好ましい。本発明のタングステン酸溶液は、当該溶液に含有される有機窒素化合物の塩基性が上がるほど、ポリタングステン酸多核錯体イオンと強く結合し、ポリタングステン酸多核錯体イオン中のHが遊離するため、pHが低下する傾向があると推定される。
【0028】
本発明のタングステン酸溶液は、添加物として、Nb、Ta、Ti、Mo、Si、Zr、Zn、Al、Y、V、La系(La、Ce、Nd、Eu、Gd、Dy、Yb)などの酸化物粉末を含有してもよい。本発明のタングステン酸溶液は、均一な溶液であることから、これらの酸化物粉末が懸濁状態であっても、均一性の向上、反応性(反応率)の向上が見込まれるからである。また、これらの酸化物粉末が本発明のタングステン酸溶液に溶解し、均一な溶液となれば、複合化元素が最も反応性が良好な状態にすることができる。
【0029】
さらに、本発明のタングステン酸溶液は、その作用効果を阻害しない範囲で、タングステン乃至タングステン酸に由来する成分、及び、アンモニア及び有機窒素化合物に由来する成分以外の成分(「他成分」という。)を含有してもよい。他成分としては、例えばNb、Ta、Ti、Mo、Si、Zr、Zn、Al、Y、V、La系(La、Ce、Nd、Eu、Gd、Dy、Yb)などが挙げられる。但し、これらに限定するものではない。本発明のタングステン酸溶液における他成分の含有量は、5質量%未満であるのが好ましく、4質量%未満であるのがより好ましく、3質量%未満であるとさらに好ましい。なお、本発明のタングステン酸溶液は、意図したものではなく、不可避不純物を含むことが想定される。不可避不純物の含有量は0.01質量%未満であるのが好ましい。
【0030】
また、本発明の酸化タングステン粉末は、タングステン酸溶液に含まれるタングステン酸粒子を含有することを特徴とする。
本発明の酸化タングステン粉末は、上述したタングステン酸溶液に含まれるタングステン酸粒子を含有する。なお、本発明の酸化タングステン粉末の製造方法は、後述する。
【0031】
上述した本発明のタングステン酸溶液の製造方法について、以下説明する。
【0032】
本発明のタングステン酸溶液の製造方法は、タングステンをWO換算で、1~100g/L含有する酸性タングステン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、タングステン含有沈殿を生成する工程と、前記タングステン含有沈殿をスラリー状としたタングステン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、タングステン酸溶液を生成する工程と、を有することを特徴とする。
【0033】
先ず、タングステンをWO換算で、1~100g/L含有する酸性タングステン水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、タングステン含有沈殿を生成する工程において、酸性タングステン水溶液は、タングステンが硫酸を含む酸性水溶液に溶解した溶解液を溶媒抽出することにより得られた硫酸タングステン水溶液をいう。なお、本明細書で言及するタングステンは、特段の説明がない限り、タングステン酸化物を含むものである。
【0034】
ここで、硫酸タングステン水溶液は、水(例えば純水)を加えてタングステンをWO換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、タングステン濃度がWO換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいタングステン酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、タングステン濃度がWO換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいタングステン酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいタングステン酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、硫酸タングステン水溶液のpHは、タングステン乃至タングステン酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0035】
硫酸タングステン水溶液をアンモニア水溶液に添加する際、いわゆる逆中和法では、硫酸タングステン水溶液を10質量%~30質量%のアンモニア水溶液中に添加し、すなわち逆中和法により、タングステン酸化合物水和物のスラリー、いわゆるタングステン含有沈殿物のスラリーを得るのが好ましい。
【0036】
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、タングステンが溶け残りにくくなり、タングステン乃至タングステン酸化物を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0037】
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0038】
逆中和の際、アンモニア水に添加する硫酸タングステン水溶液の添加量は、NH/WOのモル比が0.1以上300以下とするのが好ましく、5以上200以下とするのがより好ましい。また、アンモニア水に添加する硫酸タングステン水溶液は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるタングステン酸化合物が生成する観点から、NH/SO 2-のモル比が3.0以上とするのが好ましく、10.0以上とするとより好ましく、20.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/SO 2-のモル比が200以下とするのが好ましく、150以下とするとより好ましく、100以下とするとさらに好ましい。
【0039】
逆中和において、硫酸タングステン水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に硫酸タングステン水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性の硫酸タングステン水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、硫酸タングステン水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0040】
そして、逆中和法により得られたタングステン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去し、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿を生成する。逆中和法により得られたタングステン含有沈殿物のスラリーには、不純物として、タングステン乃至タングステン酸化物と反応せず残った硫酸イオン、及び硫酸水素イオンの硫黄分が存在するため、これらを除去することが好ましい。
【0041】
硫黄分の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、タングステン含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
【0042】
具体的には、逆中和法により得られたタングステン含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、タングステン含有沈殿物のスラリーの導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿物が得られる。当該導電率は、タングステン含有沈殿物のスラリーの液温を25℃に調整し、導電率計(アズワン社製:ASCON2)の測定部を当該沈殿物のスラリーの上澄み液に浸漬され、導電率の値が安定してから、その数値を読み取った。
【0043】
硫黄分の除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンが硫黄分に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0044】
次に、前記タングステン含有沈殿をスラリー状としたタングステン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、タングステン酸溶液を生成する工程において、タングステン含有沈殿スラリーは、上述したように硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿を純水などで希釈し、スラリー状としたものである。なお、硫黄分が除去された、タングステン含有沈殿スラリーのタングステン濃度は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、WOを生成する。このように生成したWOの重量を測定し、その重量から当該スラリーのタングステン濃度を算出することができる。
【0045】
そして、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を混合することにより、本発明のタングステン酸溶液が得られる。
【0046】
具体的には、最終的な混合物のタングステン濃度がWO換算で0.1~40質量%となるように、得られたタングステン含有沈殿スラリーを、有機窒素化合物に加え、純水と混合し、当該混合物を撹拌しながら、液温を室温(25℃)に1時間保持することにより、本発明の無色透明なタングステン酸溶液が得られる。
【0047】
タングステン含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、脂肪族アミン、およびまたは、4級アンモニウムであると好ましい。
【0048】
ここで、脂肪族アミンは、溶解性の観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の脂肪族アミン濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。なお、脂肪族アミンは、メチルアミン、又はジメチルアミンであるとより好ましい。
【0049】
他方、4級アンモニウムは、溶解性の観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、タングステン含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。なお、4級アンモニウムは、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であるとより好ましい。
【0050】
さらに、タングステン含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、脂肪族アミン、または4級アンモニウムの何れかの1種ではなく、2種以上を混合したものでもよい。例えば、メチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン及びジメチルアミンのように2種以上の有機窒素化合物を混合したものや、メチルアミン、ジメチルアミン及び水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のように3種以上の有機窒素化合物を混合したものが挙げられ、用途に合わせて適宜変更してもよい。
【0051】
また、上述した本発明のタングステン酸溶液から酸化タングステン粉末の製造方法について、以下説明する。
【0052】
本発明の酸化タングステン粉末の製造方法は、上述した本発明のタングステン酸溶液の製造方法により得られるタングステン酸溶液を乾燥し、焼成し、酸化タングステン粉末を生成する工程を有することを特徴とする。
【0053】
先ず、上述した本発明のタングステン酸溶液の製造方法により得られたタングステン酸溶液を静置炉内に載置し、加熱温度約110℃で7時間大気乾燥することにより、本発明のタングステン酸溶液中の水分を飛ばすことにより、本発明のタングステン酸溶液に含まれる酸化タングステン粒子を含有する酸化タングステン粉末の中間生成物が得られる。また、当該タングステン酸溶液を、炉内気圧を0.01MPaに設定した真空乾燥炉内に載置し、60℃以上に加熱して6時間真空乾燥させてもよい。
【0054】
次に、得られた酸化タングステン粒子を含有する酸化タングステン粉末の中間生成物(乾燥粉ともいう。)を静置炉内に載置し、650℃以上に加熱し、1~3時間に亘って焼成することにより、酸化タングステン粉末が得られる。加熱温度は、500℃以上2,000℃以下が好ましい。加熱温度が500℃以上2,000℃以下であると、酸化タングステン粒子の成長に十分な温度であり、且つ焼成コストを抑制することができ、また焼成により得られる焼成品が固い塊状になることがないため、粉砕の手間やコストの増加を回避することができるからである。さらに、加熱温度は、700℃以上1,500℃以下がより好ましく、900℃以上1,500℃以下がさらに好ましい。また、焼成時間は、0.5時間~72時間が好ましい。焼成時間が0.5時間~72時間であると、酸化タングステン粒子の成長に十分な時間であり、不要なコストを抑えることができるからである。さらに、焼成時間は、0.5時間~50時間がより好ましく、0.5時間~30時間がさらに好ましい。
【0055】
また、焼成品を粉砕したものを酸化タングステン粉末として用いてもよい。また、粉砕されるか否かに拘らず、焼成品を篩などによって分級した得られた篩下(微粒側)を酸化タングステン粉末として用いてもよい。篩上(粗粒側)は再度粉砕し、分級して用いてもよい。なお、ナイロン、またはフッ素樹脂によりコーティングした鉄球等が粉砕メディアとして投入された振動篩を使用して粉砕と分級とを兼ねることも可能である。このように分級と粉砕とを兼ねることにより、焙焼後大き過ぎる酸化タングステン粒子が存在しても除去が可能である。具体的には、篩を用いて分級する場合、目開きが150μm~1,000μmのものを用いると好ましい。150μm~1,000μmであると、篩上の割合が多くなりすぎることがなく再粉砕を繰り返すことがなく、また篩下に再粉砕が必要な酸化タングステン粉末が分級されることがない。
【0056】
また、本発明の複合タングステン酸組成物は、上述した本発明のタングステン酸溶液と、Si、Al、Ti、Zn、Sn、Y、Ce、Ba、Sr、P、S、La、Gd、Nd、Eu、Dy、Yb、Nb、Li、Na、K、Mg、Ca、Zr、Mo、およびTaからなる群より選択される少なくとも1種の元素とを有するものであることを特徴とする。
本発明の複合タングステン酸組成物は、タングステン酸と当該群より選択される少なくとも1種の元素とがイオン結合した状態のイオンとして溶液中に存在するものと推測する。ここで、本発明の複合タングステン酸組成物は、本発明における「溶液」に限らず、当該「溶液」中に沈殿物が生じるものも含まれる。なお、本発明の複合タングステン酸組成物中のタングステン酸濃度は、当該組成物を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、WO換算のW重量分率を測定して算出することができる。W重量分率と同様に、本発明の複合タングステン酸組成物中の当該群より選択される少なくとも1種の元素濃度も算出することができる。
【0057】
また、本発明の複合タングステン酸組成物の製造方法は、上述した本発明のタングステン酸溶液の製造方法により生成された前記タングステン酸溶液と、Si、Al、Ti、Zn、Sn、Y、Ce、Ba、Sr、P、S、La、Gd、Nd、Eu、Dy、Yb、Nb、Li、Na、K、Mg、Ca、Zr、Mo、およびTaからなる群より選択される少なくとも1種の元素とを混合し、複合タングステン酸組成物を生成する工程を有する。
上述した本発明のタングステン酸溶液と当該群より選択される少なくとも1種の元素とを混合した混合物を撹拌しながら、その液温を適切な温度に所定時間保持することにより、本発明の複合タングステン酸組成物が得られる。ここで、上述した本発明のタングステン酸溶液の製造方法により生成された前記タングステン酸溶液と混合される、当該群より選択される少なくとも1種の元素は、ポリオキソメタレート、ペルオキソ錯体からなる酸化物、水酸化物、金属錯体、塩といった種々の形態であってもよい。
【0058】
また、本発明のタングステン酸膜は、前記タングステン酸溶液に含まれるタングステン酸粒子を含有することを特徴とする。
本発明のタングステン酸膜、すなわちタングステン酸成形膜は、上述したタングステン酸溶液に含まれるタングステン酸粒子を含有する。
【0059】
本発明のタングステン酸膜の製造方法は、上述した本発明のタングステン酸溶液の製造方法により得られるタングステン酸溶液を塗布し、焼成し、タングステン酸膜を生成する工程を有することを特徴とする。
【0060】
具体的には、上述した本発明のタングステン酸溶液の製造方法により得られたタングステン酸溶液を、必要に応じて、例えば2μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて基板上に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布した。そして、本発明のタングステン酸溶液が塗布された基板を、静置炉内に載置し、700℃以上に加熱し、1時間に亘って焼成することにより、本発明のタングステン酸膜が得られる。
【0061】
また、本発明の複合タングステン酸膜は、前記複合タングステン酸組成物に含まれる複合タングステン酸粒子を含有することを特徴とする。
本発明の複合タングステン酸膜、すなわち複合タングステン酸成形膜は、上述した複合タングステン酸溶液に含まれる複合タングステン酸粒子を含有する。
【0062】
本発明の複合タングステン酸膜の製造方法は、上述した本発明の複合タングステン酸組成物の製造方法により得られる複合タングステン酸組成物を塗布し、焼成し、複合タングステン酸膜を生成する工程を有することを特徴とする。
【0063】
具体的には、上述した本発明の複合タングステン酸組成物の製造方法により得られた複合タングステン酸組成物を、必要に応じて、例えば2μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて基板上に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布した。そして、本発明の複合タングステン酸組成物が塗布された基板を、静置炉内に載置し、700℃以上に加熱し、1時間に亘って焼成することにより、本発明の複合タングステン酸膜が得られる。
【0064】
なお、本発明のタングステン酸溶液は、適宜用途に合わせて、分散剤、pH調整剤、着色剤、増粘剤、湿潤剤、バインダー樹脂等を添加してもよい。
【発明の効果】
【0065】
本発明のタングステン酸溶液は、高濃度、且つ溶液安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
以下、本発明に係る実施形態のタングステン酸溶液ついて、以下の実施例によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0067】
(実施例1)
三酸化タングステン100gを55質量%硫酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を添加することによって、タングステンをWO換算で100g/L含有する硫酸タングステン水溶液を得た。この硫酸タングステン水溶液200mLを、アンモニア水(NH濃度25質量%)1Lに、1分間未満の時間で添加して(NH/WOモル比=170.47、NH3/SO 2-モル比=13.11)、反応液(pH11)を得た。この反応液はタングステン酸化合物水和物のスラリー、言い換えればタングステン含有沈殿物のスラリーであった。
【0068】
次に、この反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄して、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
【0069】
さらに、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿を純水で希釈することにより、硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーを得た。硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーの一部を110℃で24時間乾燥後、1,000℃で4時間焼成することでWOを生成し、その重量から硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーに含まれるWO濃度を算出した。
【0070】
そして、純水で希釈した硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のタングステン濃度がWO換算で10質量%となるように、2質量%メチルアミンと純水とを混合し、この混合物を撹拌しながら、液温が室温下(25℃)に維持しながら1時間保持し、実施例1に係る無色透明なタングステン酸水溶液を得た。得られた実施例1に係るタングステン酸水溶液のpHは8.2であった。
【0071】
(実施例2)
実施例2では、最終的な混合物のタングステン濃度がWO換算で0.1質量%となるように、2質量%メチルアミンと純水とを混合した以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例2に係る無色透明なタングステン酸水溶液を得た。得られた実施例2に係るタングステン酸水溶液のpHは8.5であった。
【0072】
(実施例3)
実施例3では、最終的な混合物のタングステン濃度がWO換算で30質量%となるように、2質量%メチルアミンと純水とを混合した以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例3に係る無色透明なタングステン酸水溶液を得た。得られた実施例3に係るタングステン酸水溶液のpHは8.3であった。
【0073】
(実施例4)
実施例4では、純水で希釈した硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーに、2質量%メチルアミンではなく、2質量%ジメチルアミンを混合した以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例5に係る無色透明なタングステン酸水溶液を得た。得られた実施例5に係るタングステン酸水溶液のpHは7.0であった。
【0074】
(実施例5)
実施例5では、純水で希釈した硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーに、2質量%メチルアミンではなく、2質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を混合した以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例6に係る無色透明なタングステン酸水溶液を得た。得られた実施例6に係るタングステン酸水溶液のpHは6.9であった。
【0075】
(実施例6)
実施例6では、最終的な混合物のタングステン濃度がWO換算で30質量%となるようにし、且つ純水で希釈した硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーに、2質量%メチルアミンではなく、2質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を混合した以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例6に係る無色透明なタングステン酸水溶液を得た。得られた実施例6に係るタングステン酸水溶液のpHは6.8であった。
【0076】
(比較例1)
比較例1では、上述したタングステン含有沈殿物のスラリーを、限外ろ過装置を用いて、当該スラリーのタングステン濃度がWO換算で10質量%となるまで濃縮し、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄することにより、半透明ゾル(懸濁溶液)を得た。そして、この混合物を撹拌しながら、液温を室温下(25℃)に維持しながら1時間保持し、比較例1に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のタングステン酸水溶液を得た。得られた比較例1に係るタングステン酸水溶液のpHは7.3であった。
【0077】
(比較例2)
比較例2では、純水で希釈した硫黄分が除去されたタングステン含有沈殿スラリーに、2質量%メチルアミンではなく、22質量%メチルアミンを混合した以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、比較例2に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のタングステン酸水溶液を得た。得られた比較例2に係るタングステン酸水溶液のpHは6.7であった。
【0078】
そして、実施例1~6、及び比較例1、2において得られたタングステン酸水溶液について、次のような物性を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、測定結果を表1に示す。
【0079】
〈元素分析〉
必要に応じて試料を希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、WO換算のW重量分率を測定した。
【0080】
〈動的光散乱法〉
粒度分布の評価は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000ZS)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行った。また、2μm孔径のフィルタで濾過し、前述の超音波を用いた分散処理を行った。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。表1の「初期粒子径D50(nm)」とは、生成された直後に液温25℃に調整したタングステン水溶液中のタングステン酸粒子径(D50)をいう。また、表1の「経時粒子径D50(nm)」とは、室温25℃に設定した恒温器内で1カ月静置した後のタングステン水溶液中のタングステン酸粒子径(D50)をいう。
【0081】
〈アンモニア定量分析〉
水酸化ナトリウム溶液(30g/100ml)25mlを試料溶液1~5mlに加え、この混合液を沸騰させて蒸留し、その蒸留液(約200ml)を純水20mlと硫酸0.5mlとを入れた容器に流出させることによりアンモニアを分離した。次に、分離したアンモニアを250mlのメスフラスコに転移し純水で250mlに定容した。さらに、250mlに定容した溶液を100mlのメスフラスコに10ml分取し、分取した溶液に、水酸化ナトリウム溶液(30g/100mL)1mlを加え、純水で100mlに定容した。このようにして得られた溶液をイオンメータ(本体:HORITA F-53、電極:HORIBA 500 2A)を用いて定量分析することにより、溶液中に含まれるアンモニウムイオン濃度(質量%)を測定した。
【0082】
〈pH測定〉
25℃にした試料を卓上型pHメータ(株式会社堀場製作所製:F-71S:スタンダードToupH電極)を用いて測定した。
【0083】
〈経時安定性試験〉
実施例1~6、及び比較例1、2のタングステン酸水溶液を室温25℃に設定した恒温器内で1カ月間静置した後、著しい粒度の増加の有無を目視観察することにより行った。著しい粒度の増加が観察されなかったもの、具体的には、初期粒度が200nm以下であって、且つ1カ月後の粒度の増加が2割以下であったものは経時安定性を有するとして「○(GOOD)」と評価し、著しい粒度の増加や、沈殿物が観察されたもの、具体的には、初期粒度が200nm超であったものや、1カ月後の粒度の増加が2割超であったものは経時安定性を有しないとして「×(BAD)」と評価した。また、1カ月静置後の実施例1~6、及び比較例1、2のタングステン酸水溶液中のタングステン酸粒子の経時粒子径(D50)を、上述した動的光散乱法を用いて測定した。
【0084】
〈成膜性試験〉
集電板の代替品であるガラス基板の表面に形成した塗膜の外観評価を光学顕微鏡で観察することによって行った。実施例1~6、及び比較例1、2のタングステン酸水溶液を、シリンジを用いて15mm×15mmのガラス基板に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布した。そして、塗布した箇所を、高圧エアーにより風乾することにより、ガラス基板上に塗膜を形成した。形成した塗膜を光学顕微鏡で100倍にて観察し、気泡、塗工ムラ、ひび割れが、一つも観察されなかったものは成膜性に優れているとして「○(GOOD)」と評価し、一つでも観察されたものを成膜性に優れていないとして「×(BAD)」と評価した。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示す通り、実施例1~6に係るタングステン酸水溶液は、当該水溶液中のタングステン酸濃度が0.1~40質量%であると、長期保管時の溶液安定性に優れるものであった。他方、比較例1に係るタングステン酸水溶液は、上述した経時安定性試験の試験条件下、1カ月静置した後、沈殿物が析出していることを観察した。比較例2に係るタングステン酸水溶液は、沈殿物が観察された。
【0087】
また、実施例1~6に係るタングステン酸水溶液は、当該水溶液中の動的光散乱法によるタングステン酸粒子径(D50)が20nm以下であると、経時安定性試験の結果について、良好な結果が得られた。具体的には、実施例1~6に係るタングステン酸水溶液は、1カ月経過した後であっても、タングステン酸の経時粒子径(D50)は初期粒子径(D50)から粒度の増加はほぼ観察されず、経時安定性に優れるものであった。他方、比較例1に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のタングステン酸水溶液は、タングステン酸の初期粒子径(D50)から経時粒子径(D50)で約10倍増加し、さらに沈殿物が観察された。比較例2に係るタングステン酸水溶液は、沈殿物が観察された。
【0088】
実施例1~6に係るタングステン酸水溶液は、当該水溶液のpHが6以上13以下であると、溶液安定性がより向上した。実施例1~6に係るタングステン酸水溶液は、当該水溶液に含有するメチルアミン、ジメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)の順で塩基性が上がることから、塩基性が上がるにつれて、ポリタングステン酸多核錯体イオンと強く結合し、ポリタングステン酸多核錯体イオン中のHが遊離することにより、pHが低下する傾向があると推定した。
【0089】
実施例1~6に係るタングステン酸水溶液は、これらのタングステン酸水溶液から形成した塗膜を光学顕微鏡で100倍にて観察した結果、全ての実施例に係るタングステン酸水溶液から形成されたタングステン酸膜において、気泡、塗工ムラ、ひび割れが、一つも観察されず、成膜性に優れるものであった。
【0090】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係るタングステン酸水溶液は、高濃度、且つ溶液安定性に優れており、コーティング剤や、複数の元素との複合化材料として好適である。本発明に係るタングステン酸水溶液は、従来タングステン酸複合化材料等は高温での焼成を経て製造されていたのに対し、水溶液混合による低温(低エネルギー)での製造が可能であり、また物として安定であることから、天然資源の持続可能な管理、効率的な利用、及び脱炭素(カーボンニュートラル)を達成することにつながる。