(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】高分子固体電解質の製造方法及びこれより製造された高分子固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20240912BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240912BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0565
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2024503963
(86)(22)【出願日】2022-12-08
(86)【国際出願番号】 KR2022019897
(87)【国際公開番号】W WO2023106851
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】10-2021-0175035
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0169918
(32)【優先日】2022-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】チョン・ピル・イ
(72)【発明者】
【氏名】ドン・キュ・キム
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-62895(JP,A)
【文献】特表2019-526908(JP,A)
【文献】特開2021-157983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01M 10/0565
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1)高分子、非揮発性(non-volatile)液状化合物及びリチウム塩を溶媒に添加して高分子固体電解質形成用溶液を製造する段階と;
(S2)前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布してコーティング層を形成する段階と;
(S3)前記コーティング層を乾燥させて、液相の膜と高分子固体電解質膜に相分離させる段階と;
(S4)前記高分子固体電解質膜を分離する段階と;を含
み、
前記液相の膜は基材上に形成され、前記高分子固体電解質膜は前記液相の膜上に形成されるものであり、
前記高分子固体電解質形成用溶液内の高分子と非揮発性液状化合物の重量比は1:0.8ないし1:5.5である、高分子固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記液相の膜は前記非揮発性液状化合物を含み、前記高分子固体電解質膜は前記高分子及びリチウム塩を含み、
前記非揮発性液状化合物は前記高分子に対して非混和性(immiscible)
である、請求項1に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記高分子は、ポリプロピレンカーボネート(polypropylene carbonate、PPC)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile、PAN)及びポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone、PVP)からなる群から選択された1種以上を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記非揮発性液状化合物は、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS、polyhedral oligomeric silsesquioxane)及びイオン性液体(ionic liquid)からなる群から選択された1種以上を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記POSSは一つ以上の官能基(functional group、R)を含み、前記官能基はO、N、S、Si及びPの中で選択される1種以上の元素を含む官能基であるか、またはリチウムイオンと結合することができる官能基である、請求項
4に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記官能基は、ポリエチレングリコール(poly(ethylene glycol)、PEG)、アルコール(alcohol)、アミン(amine)、カルボン酸(carboxylic acid)、アリル(allyl)、エポキシド(epoxide)、チオール(thiol)、シラン(silane)またはシラノール(silanol)である、請求項
5に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記イオン性液体は陽イオン及び陰イオンを含み、前記陽イオンは炭素数1ないし15のアルキル基によって置換されるか、または非置換されたイミダゾリウム、ピラゾリウム、トリアゾリウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、ピリジニウム及びピロリジニウムからなる群から選択された1種以上を含み、
前記陰イオンはPF
6
-、BF
4
-、CF
3SO
3
-、N(CF
3SO
2)
2
-、N(C
2F
5SO
2)
2
-、C(CF
2SO
2)
3
-、AsF
6
-、SbF
6
-、AlCl
4
-、NbF
6
-、HSO
4
-、ClO
4
-、CH
3SO
3
-及びCF
3CO
2
-からなる群から選択された1種以上を含むものである、請求項
4に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI、Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、Lithium bis(fluorosulfonyl)imide)、LiNO
3、LiOH、LiCl、LiBr、LiI、LiClO
4、LiBF
4、LiB
10Cl
10、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、CH
3SO
3Li、CF
3SO
3Li、LiSCN、LiC(CF
3SO
2)
3、(CF
3SO
2)
2NLi及び(FSO
2)
2NLiからなる群から選択される1種以上を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記基材はステンレススチール(Stainless Steel)、Cuホイル及びAlホイルからなる群から選択される1種以上を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記コーティング層を形成する方法は、バーコーティング(bar coating)、ロールコーティング(roll coating)、スピンコーティング(spin coating)、スリットコーティング(slit coating)、ダイコーティング(die coating)、ブレードコーティング(blade coating)、コンマコーティング(comma coating)、スロットダイコーティング(slot die coating)、リップコーティング(lip coating)または溶液流延法(solution casting)である、請求項1に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項11】
前記高分子とリチウム塩の重量比は1:0.5ないし1:3である、請求項1に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピオネイト(MP)、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)、ガンマブチロラクトン(GBL)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸ブチルからなる群から選択された1種以上を含むものである、請求項1に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【請求項13】
前記コーティング層の乾燥は150℃以下で遂行されるものである、請求項1に記載の高分子固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年12月8日付韓国特許出願第2021-0175035号及び2022年12月7日付韓国特許出願第2022-0169918号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として組み込む。
【0002】
本発明は、高分子固体電解質の製造方法及びこれより製造された高分子固体電解質に関する。
【背景技術】
【0003】
電池の容量、安全性、出力、大型化、超小型化などの観点から、現在、リチウム二次電池の限界を乗り越えることができる多様な電池が研究されている。
【0004】
代表的に、現在のリチウム二次電池に比べて容量の側面で理論容量が非常に大きい金属-空気電池(metal-air battery)、安全性の側面で爆発の危険がない全固体電池(all solid battery)、出力の側面ではスーパーキャパシタ(super capacitor)、大型化の側面ではNaS電池あるいはRFB(redox flow battery)、超小型化の側面では薄膜電池(thin film battery)などに対して持続的な研究が進められている。
【0005】
この中で全固体電池は、既存のリチウム二次電池で使われる液体電解質を固体に代替した電池を意味し、電池内で可燃性溶媒を使わないため、従来電解液の分解反応などによる発火や爆発が全然発生しないので、安全性を大幅に改善することができる。また、負極素材としてLi金属またはLi合金を使用することができるため、電池の質量及び体積に対するエネルギー密度を画基的に向上させることができる長所がある。
【0006】
このように全固体電池は、安全性、高いエネルギー密度、高出力、製造工程の単純化などの観点から次世代リチウム二次電池として注目されている。
【0007】
しかし、このような全固体電池は電極と固体電解質がいずれも固体であって液体電解質がないため、電極と固体電解質との間の界面でデッドスペース(dead space)、つまり、イオン伝導度がない空隙が発生する問題がある。
【0008】
また、電池の薄膜化によって薄膜の固体電解質に対する需要が増加しているが、固体電解質は薄膜化されながら強度が弱くなって製造過程で付着した離型フィルムと分離することが容易ではないうえ、薄膜が損傷される問題がある。
【0009】
よって、均一な薄膜形態の固体電解質を製造することができる技術開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは前記問題点を解決するために多角的に研究した結果、高分子固体電解質製造の際に原料物質として互いに混和性(miscibility)がよくない高分子と非揮発性液状化合物を使用することで、これらを混合及び乾燥させる時発生する相分離現象によって形成された液相の膜と高分子固体電解質膜が形成され、前記高分子固体電解質膜は均一な薄膜形態を示すことを確認した。
【0012】
したがって、本発明の目的は均一な薄膜形態の高分子固体電解質の製造方法及びこれより製造された高分子固体電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、高分子固体電解質の製造方法に関するもので、前記高分子固体電解質の製造方法は、(S1)高分子、非揮発性(non-volatile)液状化合物及びリチウム塩を溶媒に添加して高分子固体電解質形成用溶液を製造する段階と;(S2)前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布してコーティング層を形成する段階と;(S3)前記コーティング層を乾燥させて、液相の膜と高分子固体電解質膜に相分離させる段階と;(S4)前記高分子固体電解質膜を分離する段階と;を含む。
【0014】
前記液相の膜は前記非揮発性液状化合物を含み、前記高分子固体電解質膜は前記高分子及びリチウム塩を含み、前記非揮発性液状化合物は前記高分子に対して非混和性(immiscible)で、前記液相の膜は基材上に形成され、前記高分子固体電解質膜は前記液状の膜上に形成されるものであってもよい。
【0015】
前記高分子と非揮発性液状化合物の重量比は1:0.8ないし1:5.5であってもよい。
【0016】
前記高分子はポリプロピレンカーボネート(polypropylene carbonate、PPC)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile、PAN)及びポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone、PVP)からなる群から選択された1種以上を含むものであってもよい。
【0017】
前記非揮発性液状化合物はポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS、polyhedral oligomeric silsesquioxane)及びイオン性液体(ionic liquid)からなる群から選択された1種以上を含むものであってもよい。
【0018】
前記POSSは一つ以上の官能基(functional group、R)を含んで、前記官能基はO、N、S、Si及びPの中で選択される1種以上の元素を含む官能基であるか、またはリチウムイオンと結合することができる官能基であってもよい。
【0019】
前記官能基はポリエチレングリコール(poly(ethylene glycol)、PEG)、アルコール(alcohol)、アミン(amine)、カルボン酸(carboxylic acid)、アリル(allyl)、エポキシド(epoxide)、チオール(thiol)、シラン(silane)またはシラノール(silanol)であってもよい。
【0020】
前記イオン性液体は陽イオン及び陰イオンを含み、前記陽イオンは炭素数1ないし15のアルキル基によって置換されるか、または非置換されたイミダゾリウム、ピラゾリウム、トリアゾリウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、ピリジニウム及びピロリジニウムからなる群から選択された1種以上を含み、
前記陰イオンはPF6
-、BF4
-、CF3SO3
-、N(CF3SO2)2
-、N(C2F5SO2)2
-、C(CF2SO2)3
-、AsF6
-、SbF6
-、AlCl4
-、NbF6
-、HSO4
-、ClO4
-、CH3SO3
-及びCF3CO2
-からなる群から選択された1種以上を含むものであってもよい。
【0021】
前記リチウム塩はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI、Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、Lithium bis(fluorosulfonyl)imide)、LiNO3、LiOH、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、LiSCN、LiC(CF3SO2)3、(CF3SO2)2NLi及び(FSO2)2NLiからなる群から選択される1種以上を含むものであってもよい。
【0022】
前記基材はステンレススチール(Stainless Steel)、Cuホイル及びAlホイルからなる群から選択される1種以上を含むものであってもよい。
【0023】
前記コーティング層を形成する方法は、バーコーティング(bar coating)、ロールコーティング(roll coating)、スピンコーティング(spin coating)、スリットコーティング(slit coating)、ダイコーティング(die coating)、ブレードコーティング(blade coating)、コンマコーティング(comma coating)、スロットダイコーティング(slot die coating)、リップコーティング(lip coating)または溶液流延法(solution casting)であってもよい。
【0024】
前記高分子とリチウム塩の重量比は1:0.5ないし1:3であってもよい。
【0025】
前記溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピオネイト(MP)、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)、ガンマブチロラクトン(GBL)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸ブチルからなる群から選択された1種以上を含むものであってもよい。
【0026】
前記コーティング層の乾燥は150℃以下で遂行されてもよい。
【0027】
本発明はまた、前記高分子及びリチウム塩を含む高分子固体電解質を提供する。
【0028】
前記高分子固体電解質の厚さは23μmないし35μmであってもよい。
【0029】
前記高分子固体電解質の厚さの偏差は0.7μm以下で、前記厚さの偏差は、3×3cm2で打ち抜いた高分子固体電解質サンプル内の9個の位置で厚さを測定し、最も厚い厚さと最も薄い厚さとの間の偏差を計算したものである。
【0030】
前記高分子固体電解質はフリースタンディングフィルム(freestanding film)形態であってもよい。
【0031】
前記高分子固体電解質のイオン伝導度は1.2×10-5ないし4.5×10-5S/cmで、前記イオン伝導度は80℃で測定されたものである。
【0032】
本発明はまた、前記高分子固体電解質を含む全固体電池を提供する。
【0033】
本発明はまた、高分子固体電解質として、前記高分子固体電解質の厚さは23μmないし35μmで、前記高分子固体電解質の厚さ偏差は0.7μm以下であり、前記厚さ偏差は、3×3cm2で打ち抜いた高分子固体電解質サンプル内の9個の位置で厚さを測定し、最も厚い厚さと最も薄い厚さとの間の偏差を計算したもので、前記高分子固体電解質はフリースタンディングフィルム(freestanding film)形態で、前記高分子固体電解質のイオン伝導度は1.2×10-5ないし4.5×10-5S/cmである、高分子固体電解質を提供する。
【発明の効果】
【0034】
本発明によると、前記高分子固体電解質の製造工程において、原料物質として互いに混和性がよくない高分子と非揮発性液状化合物を使って、前記高分子と非揮発性液状化合物を混合した後、乾燥の際に相分離が起きる原理によって液相の膜と高分子固体電解質膜が積層された積層体を形成した後分離して均一な薄膜形態の高分子固体電解質を製造することができる。
【0035】
また、前記高分子固体電解質の製造工程において、前記基材上に液相の膜と高分子固体電解質膜が形成された後、基材で前記高分子固体電解質膜を分離する時、前記基材と接した液相の膜によって、別途抵抗なしに高分子固体電解質膜を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施例によって、高分子固体電解質を製造する過程を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施例による高分子固体電解質製造工程の中に形成された液相の膜と高分子固体電解質膜を含む積層体の構造を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施例によって製造された高分子固体電解質の均一度を測定するためのサンプルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に対する理解を助けるために本発明をより詳しく説明する。
【0038】
本明細書及び特許請求の範囲で使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈しなければならない。
【0039】
本明細書で使われた用語「混和性(miscibility)」は混じりあわない性質を意味する。
【0040】
本明細書で使われた用語「フリースタンディングフィルム(free-standing film)」とは、常温・常圧で別途支持体なしにそれ自体でフィルム形態を維持することができるフィルムを意味する。
【0041】
高分子固体電解質の製造方法
本発明は高分子固体電解質の製造方法に関することで、(S1)高分子、非揮発性(non-volatile)液状化合物及びリチウム塩を溶媒に添加して高分子固体電解質形成用溶液を製造する段階と;(S2)前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布してコーティング層を形成する段階と;(S3)前記コーティング層を乾燥させ、液相の膜と高分子固体電解質膜に相分離させる段階と;(S4)前記高分子固体電解質膜を分離する段階と;を含み、前記非揮発性液状化合物は前記高分子に対して非混和性(immiscible)で、前記液相の膜は前記非揮発性液状化合物を含み、前記高分子固体電解質膜は前記高分子及びリチウム塩を含む。
【0042】
前記高分子固体電解質の製造方法としては、原料物質として互いに混和性(miscibility)がよくない高分子と非揮発性(non-volatile)液状化合物を使用する。前記高分子と非揮発性液状化合物は混合した後で乾燥の際に相分離現象が起きて、前記非揮発性液状化合物を含む液相の膜と高分子を含む高分子固体電解質膜が形成されることができ、基材、液相の膜及び高分子固体電解質膜の順に積層された積層体が形成され後、前記高分子固体電解質膜を分離して高分子固体電解質を得ることができる。この時、前記基材と高分子固体電解質膜との間に液相の膜が形成されているので、抵抗なしに容易に高分子固体電解質膜を分離することができる。
【0043】
図1は本発明の一実施例による、高分子固体電解質の製造方法を示す模式図で、
図2は本発明の一実施例による高分子固体電解質の製造工程中に形成された液相の膜と高分子固体電解質膜を含む積層体の構造を示す模式図であって、これらの図面を参照して各段階別に本発明による高分子固体電解質の製造方法をより詳しく説明する。
【0044】
本発明において、前記(S1)段階では、高分子、非揮発性液状化合物及びリチウム塩を溶媒に添加して高分子固体電解質形成用溶液を製造することができる。
【0045】
前記高分子は高分子固体電解質の電気伝導度とイオン伝導度を低下させずに均一な薄膜形態の高分子固体電解質を形成させることができる。
【0046】
また、前記高分子は前記液相の膜に含まれた非揮発性液状化合物に対して非混和性特性を示す高分子であれば特に制限されず、例えば、前記高分子はポリプロピレンカーボネート(polypropylene carbonate、PPC)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile、PAN)及びポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone、PVP)からなる群から選択された1種以上を含むことができる。
【0047】
前記非揮発性液状化合物は前記高分子に対して非混和性特性を示して、高分子固体電解質の製造工程中に前記高分子と相分離されて別途レイヤー形態の液相の膜を形成することができる。
【0048】
また、前記非揮発性液状化合物はポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS、Polyhedral Oligomeric Silsesquioxane)及び/またはイオン性液体(ionic liquid)を含むことができる。
【0049】
前記POSSは多面体のオリゴシルセスキオキサンとして、一つ以上の官能基(functional group、R)を含み、前記官能基(R)はO、N、S、Si及びPの中で選択される1種以上の元素を含む官能基(functional group)であるか、またはリチウムイオンと結合することができる官能基を含む。例えば、前記官能基(R)はポリエチレングリコール(poly(ethylene glycol)、PEG)、アルコール(alcohol)、アミン(amine)、カルボン酸(carboxylic acid)、アリル(allyl)、エポキシド(epoxide)、チオール(thiol)、シラン(silane)、シラノール(silanol)、グリシジル(glycidyl)、オクタシラン(octasilane)またはメタクリル(methacryl)であってもよい。
【0050】
また、前記 POSSは官能基(R)としてエチレングリコール(PEG)を含むPEG-POSSであってもよく、前記PEG-POSSを使用する場合、高分子の相分離がもっと円滑に行われる。例えば、PPCとPEG-POSSを使用する場合、相分離が円滑に行われて工程の効率性が向上されることができる。
【0051】
また、POSSは官能基(R)によって固相または液相である。高分子との相分離が円滑に行われるためには、液状POSSを使用することが有利であり、前記液状POSSは上述したような官能基(R)を含むものであってもよく、好ましくは、前記液状のPOSSはPEG-POSSであってもよい。
【0052】
本発明において、前記液状POSSは下記化学式1で表されるものであってもよい:
[化学式1]
【化1】
前記化学式1において、
Rは互いに同一であるか、または異なってもよく、それぞれ独立的に下記化学式1-1ないし1-4で表される基からなる群から選択される:
[化学式1-1]
【化2】
[化学式1-2]
【化3】
[化学式1-3]
【化4】
[化学式1-4]
【化5】
【0053】
前記化学式1-1ないし1-4において、
L1ないしL5はC1ないしC30のアルキレン基で、
R1ないしR4は水素;ヒドロキシ基;アミノ基;チオール基;C1ないしC30のアルキル基;C2ないしC30のアルケニル基;C2ないしC30のアルキニル基;C1ないしC30のアルコキシ基;及びC1ないしC30のカルボキシル基;からなる群から選択され、
m及びnは互いに同一であるか、または異なってもよく、それぞれ独立的に0ないし10の整数で、
*は結合位置である。
【0054】
本発明の一具体例において、前記化学式1-1ないし1-4で、L1ないしL5はC1ないしC10のアルキレン基で、R1ないしR4は水素;ヒドロキシ基;またはC1ないしC30のアルキル基で、m及びnは互いに同一であるか、または異なってもよく、それぞれ独立的に0ないし10の整数であってもよい。
【0055】
本発明の一具体例において、化学式1で官能基であるRは、ポリエチレングリコール基、グリシジル基、オクタシラン基及びメタクリル基からなる群から選択される。
【0056】
また、前記イオン性液体は陽イオン及び陰イオンを含み、前記陽イオンは炭素数1ないし15のアルキル基によって置換されるか、または非置換されたイミダゾリウム、ピラゾリウム、トリアゾリウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、ピリジニウム及びピロリジニウムからなる群から選択された1種以上を含み、前記陰イオンはPF6
-、BF4
-、CF3SO3
-、N(CF3SO2)2
-、N(C2F5SO2)2
-、C(CF2SO2)3
-、AsF6
-、SbF6
-、AlCl4
-、NbF6
-、HSO4
-、ClO4
-、CH3SO3
-及びCF3CO2
-からなる群から選択された1種以上を含むことができる。例えば、前記イオン性液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(1-Ethyl-3-methyl imidazolium)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(1-Butyl-3-methyl imidazolium)、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム(1-Butyl-1-methyl pyrrolidinium)、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム(1-Methyl-1-proply piperidinium)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(bis(trifluoromethylsulfonyl)imide、TFSI)及びトリフルオロメタンスルホネート(trifluoromethanesulfonate)からなる群から選択された1種以上を含むことができる。
【0057】
前記リチウム塩は高分子固体電解質にイオン伝導度を与えることができ、前記電気伝導度高分子による電気伝導度を低下させずにイオン伝導度を改善させることができる。
【0058】
また、前記リチウム塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI、Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、Lithium bis(fluorosulfonyl)imide)、LiNO3、LiOH、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、LiSCN、LiC(CF3SO2)3、(CF3SO2)2NLi、(FSO2)2NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム及び4-フェニルホウ酸リチウムからなる群から選択された1種以上を含むものであってもよい。
【0059】
前記高分子及び非揮発性液状化合物の重量比は1:0.8ないし1:5.5であってもよく、具体的には、1:0.8以下、1:0.9以下または1:1以下であってもよく、1:5以上、1:5.2以上または1:5.5以上であってもよい。前記重量比が1:0.8超過であれば前記高分子の含量が過度に多くなって相分離現象が発生せず、前記高分子と非揮発性液状化合物が単純混合された状態でフリースタンディングフィルム形態の高分子固体電解質が製造され、前記高分子固体電解質の均一度とイオン伝導度が低下することができる。また、前記重量比が1:5.5未満であれば前記非揮発性液状化合物の含量が過度に多くなって固体高分子電解質が製造されずに液状の電解質が製造されることができる。
【0060】
また、前記高分子及びリチウム塩の重量比は1:0.5ないし1:3であってもよく、具体的に、1:0.5以下、1:0.6以下または1:0.7以下であってもよく、1:1.5以上、1:2以上または1:3以上であってもよい。前記重量比が1:0.5超過であれば前記高分子の含量が過度に多くなって高分子固体電解質のイオン伝導度が低下することがあって、1:3未満であれば前記リチウム塩の含量が過度に多くなって高分子電解質膜が形成されないことがある。
【0061】
前記溶媒は当業界で電解質の製造に用いられる溶媒であれば特に制限されない。例えば、前記溶媒はプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピオネイト(MP)、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)、ガンマブチロラクトン(GBL)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸ブチルからなる群から選択された1種以上を含むことができる。
【0062】
前記高分子固体電解質形成用溶液の濃度は特に制限されないし、コーティング工程を遂行することができる程度の濃度であれば特に制限されない。例えば、前記高分子固体電解質形成用溶液の濃度は10ないし40重量%であってもよく、具体的には10重量%以上、15重量%以上または20重量%以上であってもよく、30重量%以下、35重量%以下または40重量%以下であってもよい。前記範囲内でコーティング工程を遂行することができる程度の濃度で適切に調節することができる。
【0063】
また、前記高分子固体電解質形成用溶液は液体部分(liquid moiety)と高分子鎖(polymer chain)が混合された形態である。
【0064】
前記液体部分(liquid moiety)は前記非揮発性液状化合物に由来したもので、前記高分子鎖は前記高分子に由来したものである。前記非揮発性液状化合物と高分子とは互いに混じり合わない性質を持つため、前記非揮発性液状化合物と高分子はそれぞれ分離されたまま溶液内で存在する。
【0065】
本発明において、前記(S2)段階では、前記高分子固体電解質形成用溶液を基材上に塗布してコーティング層を形成することができる。
【0066】
前記基材はホイル形態であってもよく、前記ホイルはアルミニウム、銅またはステンレススチール(Stainless Steel)のような金属の薄膜形態であってもよい。前記基材として金属薄膜形態のホイルを使用することで、フリースタンディングフィルム形態の固体電解質の製造に有利である。
【0067】
また、前記コーティング方法は、バーコーティング(bar coating)、ロールコーティング(roll coating)、スピンコーティング(spin coating)、スリットコーティング(slit coating)、ダイコーティング(die coating)、ブレードコーティング(blade coating)、コンマコーティング(comma coating)、スロットダイコーティング(slot die coating)、リップコーティング(lip coating)または溶液流延法(solution casting)であってもよいが、前記基材上にコーティング層を形成することができるコーティング方法であれば、これに制限されるものではない。
【0068】
本発明において、前記(S3)段階では、前記コーティング層を乾燥させて、前記コーティング層を液相の膜と高分子電解質膜に相分離することができる。
【0069】
前記乾燥はコーティング層に含まれた液体部分と高分子鎖の相分離を誘導することができる乾燥方法であれば特に制限されるものではない。例えば、前記乾燥は150℃以下、130℃以下または110℃以下で遂行されることができる。
【0070】
前記相分離は原料物質である前記高分子、及び前記非揮発性(non-volatile)液状化合物が互いに非混和性の特性によって表れるものである。
【0071】
図2に示されたように、基材10上に前記非揮発性液状化合物を含む液相の膜20が形成されて前記液相の膜20上に高分子とリチウム塩を含む高分子固体電解質膜30が形成されることができる。
【0072】
本発明において、前記(S4)段階では、前記高分子固体電解質膜を分離することができる。
【0073】
一般に、高分子固体電解質膜は薄膜化されながら強度が弱くなって、これによって基材から分離することが難しくなる。しかし、前記(S3)段階で前記基材と高分子固体電解質膜の間に液相の膜が形成されるので、別途抵抗なしに前記高分子固体電解質膜を前記基材から分離することができる。
【0074】
また、前記高分子固体電解質膜を分離した後、前記高分子固体電解質膜に残りの非揮発性液状化合物を取り除くための洗浄段階をさらに実施することもできる。
【0075】
高分子固体電解質
本発明はまた、上述したような高分子固体電解質の製造方法によって製造された高分子固体電解質を提供する。
【0076】
前記高分子固体電解質は高分子とリチウム塩を含む。前記高分子とリチウム塩の種類及び重量比は前述したとおりである。
【0077】
本発明において、前記高分子固体電解質の厚さは23μmないし35μmであってもよく、一般的な高分子固体電解質に比べて厚さが減少して、薄膜の固体電解質の形態を示すことができる。前記厚さが23μm未満であれば高分子固体電解質の耐久性が低下することがあって、35μm超過であれば電池駆動の際に抵抗として作用することができる。
【0078】
また、前記高分子固体電解質の厚さ偏差は0.7μm以下であってもよく、前記範囲内で厚さ偏差が小さいほど均一度がよいことを意味し、0.7μm超過であれば前記高分子固体電解質の均一度がよくない。例えば、前記厚さ偏差は前記高分子固体電解質を3*3cm2の大きさで打ち抜いたサンプルに対して、総9個の指定された位置で厚さを測定し、最も厚い位置での厚さと最も薄い位置での厚さの間の偏差を計算した。計算された厚さの偏差が小さいほど均一であると判断した。
【0079】
本発明において、前記高分子固体電解質はフリースタンディングフィルムの形態であってもよい。
【0080】
前記フリースタンディングフィルム形態の高分子固体電解質は常温及び常圧でそれ自体でフィルムの形態を保ち、多様な用途で適用することができる。
【0081】
本発明において、前記高分子固体電解質のイオン伝導度は1.2×10-5ないし4.5×10-5S/cmで、前記イオン伝導度は80℃で測定されたものである。前記イオン伝導度を持つ高分子固体電解質は全固体電池に適用する時に安定性を向上させると同時に電池の性能と寿命を改善させることができる。
【0082】
全固体電池
本発明はまた、前述した高分子固体電解質を含む全固体電池に関するもので、前記全固体電池は正極、負極及びこれらの間に介在された前記高分子固体電解質を含むことができる。
【0083】
また、前記高分子固体電解質は電極に適用され、正極または負極の一面に付着した状態で全固体電池に含まれることもできる。
【0084】
本発明において、前記正極は正極集電体及び前記正極集電体上に形成された正極活物質層を含む。
【0085】
前記正極活物質層は正極活物質、バインダー及び導電材を含む。
【0086】
また、前記正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、Li[NixCoyMnzMv]O2(前記式において、MはAl、Ga及びInからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の元素であり;0.3≦x<1.0、0≦y、z≦0.5、0≦v≦0.1、x+y+z+v=1である)、Li(LiaMb-a-b'M'b')O2-cAc(前記式において、0≦a≦0.2、0.6≦b≦1、0≦b'≦0.2、0≦c≦0.2であり;MはMnと、Ni、Co、Fe、Cr、V、Cu、Zn及びTiからなる群から選択される1種以上を含み;M'はAl、Mg及びBからなる群から選択される1種以上であり、AはP、F、S及びNからなる群から選択される1種以上である)などの層状化合物や、1またはそれ以上の遷移金属に置換された化合物;化学式Li1+yMn2-yO4(ここで、yは0-0.33である)、LiMnO3、LiMn2O3、LiMnO2などのリチウムマンガン酸化物;リチウム銅酸化物(Li2CuO2);LiV3O8、LiFe3O4、V2O5、Cu2V2O7などのバナジウム酸化物;化学式LiNi1-yMyO2(ここで、M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGaで、y=0.01-0.3である)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物;化学式LiMn2-yMyO2(ここで、M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTaで、y=0.01-0.1である)またはLi2Mn3MO8(ここで、M=Fe、Co、Ni、CuまたはZnである)で表されるリチウムマンガン複合酸化物;化学式のLiの一部がアルカリ土類金属イオンに置換されたLiMn2O4;ジスルフィド化合物;Fe2(MoO4)3などを挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0087】
前記正極活物質は前記正極活物質層の総重量を基準にして40ないし80重量%で含まれることができる。具体的に、前記正極活物質の含量は40重量%以上または50重量%以上であってもよく、70重量%以下または80重量%以下であってもよい。前記正極活物質の含量が40重量%未満であれば湿式正極活物質層と乾式正極活物質層との連結性が不足になることがあって、80重量%超過であれば物質伝達抵抗が大きくなることがある。
【0088】
また、前記バインダーは正極活物質と導電材などの結合及び集電体に対する結合に助力する成分として、スチレン-ブタジエンゴム、アクリル化スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ポリエチレンオキサイド、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリエピクロロヒドリン、ポリホスファゲン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ラテックス、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネイト、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリカルボキシレート、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、リチウムポリアクリレート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン及びポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフルオロプロペンからなる群から選択される1種以上を含むことができる。好ましくは、前記バインダーはスチレン-ブタジエンゴム、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、リチウムポリアクリレート及びポリフッ化ビニリデンからなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0089】
また、前記バインダーは前記正極活物質層の総重量を基準にして1重量%ないし30重量%で含まれることができ、具体的には、前記バインダーの含量は1重量%以上または3重量%以上であってもよく、15重量%以下または30重量%以下であってもよい。前記バインダーの含量が1重量%未満であれば正極活物質と正極集電体との接着力が低下することがあって、30重量%を超過すれば接着力は向上されるが、その分正極活物質の含量が減少して電池容量が低くなることがある。
【0090】
また、前記導電材は全固体電池の内部環境で副反応を防止し、当該電池に化学的変化を引き起こさずに優れる電気伝導度を持つものであれば特に制限されず、代表的には黒鉛または導電性炭素を使用することができ、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;結晶構造がグラフェンやグラファイトである炭素系物質;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム粉末、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性酸化物;及びポリフェニレン誘導体などの導電性高分子;を単独で、または2種以上混合して使用することができるが、必ずこれに限定されるものではない。
【0091】
前記導電材は通常的に前記正極活物質層の総重量を基準にして0.5重量%ないし30重量%で含まれることができ、具体的に前記導電材の含量は0.5重量%以上または1重量%以上であってもよく、20重量%以下または30重量%以下であってもよい。前記導電材の含量が0.5重量%未満で少なすぎると電気伝導度向上効果を基待しにくいか、または電池の電気化学的特性が低下することがあって、30重量%を超過して多すぎると相対的に正極活物質の量が少なくなって容量及びエネルギー密度が低下することがある。正極に導電材を含ませる方法はさほど制限されず、正極活物質へのコーティングなど当分野に公知された通常の方法を利用することができる。
【0092】
また、前記正極集電体は前記正極活物質層を支持し、外部導線と正極活物質層との間で電子を伝達する役目をするものである。
【0093】
前記正極集電体は全固体電池に化学的変化を引き起こさずに高い電子伝導性を持つものであれば特に制限されるものではない。例えば、前記正極集電体として銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、パラジウム、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使われることができる。
【0094】
前記正極集電体は正極活物質層との結合力を強化させるために正極集電体の表面に微細な凹凸構造を持つか3次元多孔性構造を採用することができる。これによって、前記正極集電体はフィルム、シート、ホイル、メッシュ、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を含むことができる。
【0095】
前記のような正極は通常の方法によって製造されることができ、具体的には正極活物質と導電材及びバインダーを溶媒上で混合して製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布及び乾燥し、選択的に電極密度の向上のために集電体に圧縮成形して製造することができる。この時、前記溶媒としては正極活物質、バインダー及び導電材を均一に分散させることができ、容易に蒸発されるものを使用することが好ましい。具体的には、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、水、イソプロピルアルコールなどを挙げることができる。
【0096】
本発明において、前記負極は負極集電体及び前記負極集電体上に形成された負極活物質層を含む。前記負極活物質層は負極活物質、バインダー及び導電材を含む。
【0097】
前記負極活物質はリチウム(Li+)を可逆的に挿入(intercalation)または脱挿入(deintercalation)できる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質、リチウム金属またはリチウム合金を含むことができる。
【0098】
前記リチウムイオン(Li+)を可逆的に挿入または脱挿入することができる物質は、例えば、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物であってもよい。前記リチウムイオン(Li+)と反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質は、例えば、酸化スズ、窒化チタンまたはシリコンであってもよい。前記リチウム合金は、例えば、リチウム(Li)とナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、アルミニウム(Al)及びスズ(Sn)からなる群から選択される金属の合金であってもよい。
【0099】
好ましくは、前記負極活物質はリチウム金属であってもよく、具体的に、リチウム金属薄膜またはリチウム金属粉末の形態であってもよい。
【0100】
前記負極活物質は前記負極活物質層の総重量を基準にして40ないし80重量%で含まれることができる。具体的に、前記負極活物質の含量は40重量%以上または50重量%以上であってもよく、70重量%以下または80重量%以下であってもよい。前記負極活物質の含量が40重量%未満であれば湿式負極活物質層と乾式負極活物質層との連結性が不足することがあって、80重量%超過であれば物質伝達抵抗が大きくなることがある。
【0101】
また、前記バインダーは前記正極活物質層で上述したとおりである。
【0102】
また、前記導電材は前記正極活物質層で上述したとおりである。
【0103】
また、前記負極集電体は当該電池に化学的変化を引き起こさずに導電性を持つものであれば特に制限されず、例えば、前記負極集電体は、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使われることができる。また、前記負極集電体は正極集電体と同様、表面に微細な凹凸が形成されたフィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態が使われることができる。
【0104】
前記負極の製造方法は特に制限されず、負極集電体上に当業界で通常的に使われる層または膜の形成方法を利用して負極活物質層を形成して製造することができる。例えば、圧搾、コーティング、蒸着などの方法を利用することができる。また、前記負極集電体にリチウム薄膜がない状態で電池を組み立てた後、初基充電によって板金上に金属リチウム薄膜が形成される場合も本発明の負極に含まれる。
【0105】
前記構成を持つ全固体電池の製造は本発明で特に限定せず、公知の方法が利用されることができる。
【0106】
本発明の全固体電池の製造の際に、正極と負極を含む電極を配置させた後、これを加圧成形してセルを組み立てる。
【0107】
前記組み立てられたセルは外装材内に設置した後、加熱圧搾などによって封止する。外装材としては、アルミニウム、ステンレスなどのラミネートパック、円筒状や角形の金属製容器がとても適する。
【0108】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって自明であり、このような変更及び修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然である。
【0109】
下記実施例及び比較例では、下記表1に記載したような基材、高分子、リチウム塩及び溶媒の種類及び重量比によって、固体電解質を製造した。
【0110】
【0111】
実施例1
高分子固体電解質を製造するための原料物質として、高分子であるポリプロピレンカーボネート(PPC、polypropylene carbonate)、非揮発性液状化合物であるポリエチレングリコール-ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(PEG-POSS、poly(ethylene glycol)-polyhedral oligomeric silsesquioxane)、リチウム塩であるLiTFSI及び溶媒であるNMPを準備した。前記高分子であるPPC、非揮発性液状化合物であるPEG-POSS、リチウム塩であるLiTFSIの重量比は1:1:1になるように使用した。
【0112】
前記高分子、非揮発性液状化合物及びリチウム塩を溶媒に添加して混合して20%濃度の高分子固体電解質形成用溶液を製造した。
【0113】
前記高分子固体電解質形成用溶液を基材であるステンレススチール(Stainless steel、SS)ホイル上にバーコーティング(bar coating)してコーティング層を形成した。
【0114】
その後、前記コーティング層を100℃で真空乾燥した。乾燥の際に相分離が発生し、前記SSホイル上に前記非揮発性液状化合物を含む液相の膜と、前記高分子とリチウム塩を含む高分子固体電解質膜が順次形成された積層体を製造した。前記積層体から前記SSホイルを分離して、液相の膜及び前記液相の膜上に形成された高分子固体電解質膜を含む高分子固体電解質を得た。
【0115】
実施例2
高分子及び非揮発性液状化合物で使われたPPCとPEG-POSSの重量比を1:2にしたことを除いて、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質を製造した。
【0116】
実施例3
高分子及び非揮発性液状化合物で使われたPPCとPEG-POSSの重量比を1:5にしたことを除いて、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質を製造した。
【0117】
比較例1
非揮発性液状化合物を使わないことを除いて、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質を製造した。
【0118】
比較例2
非揮発性液状化合物を使わずに、基材としてSSホイルの代わりにポリエチレンテレフタレート(PET、polyethylene terephthalate)離型フィルムを使ったことを除いて、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質を製造した。
【0119】
比較例3
高分子及び非揮発性液状化合物で使われたPPCとPEG-POSSの重量比を1:6にしたことを除いて、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質を製造した。
【0120】
比較例4
高分子及び非揮発性液状化合物で使われたPPCとPEG-POSSの重量比を1:0.5にしたことを除いて、実施例1と同様の方法で高分子固体電解質を製造した。
【0121】
実験例1:高分子固体電解質の評価
実施例及び比較例で製造された高分子固体電解質に対し、以下のような方法でフリースタンディングフィルム形態の可能可否、厚さ、均一度及びイオン伝導度を測定し、その結果は下記表2に記載した。
【0122】
(1)フリースタンディングフィルム形態の可能可否
基材から高分子固体電解質膜が分離されて膜で得られるか否かを確認し、高分子固体電解質のフリースタンディングフィルム形態の可能可否を評価した。
【0123】
(2)厚さ
図3に示されたように、製作された高分子固体電解質を3*3cm
2の大きさで打ち抜いたサンプルに対して、総9個の指定された位置で厚さを測定し、平均厚さを算出した。
【0124】
(3)均一度
前記(2)で得た、総9個の指定された位置の厚さの全体測定値で厚さの間の偏差を計算した。計算された厚さの偏差が小さいほど均一であると判断した。
【0125】
(4)イオン伝導度
前記(3)で得た高分子固体電解質のサンプルを前記サンプルと同一表面積のSS金属電極と接触させた後、常温でサンプル両面の電極を通じて交流電圧を印加した。この時、印加される条件として測定周波数0.01Hzないし1MHzの振幅範囲で設定し、BioLogic社のVMP3を利用してインピーダンスを測定した。測定されたインピーダンス軌跡の半円や直線が実軸と会う交点(Rb)から高分子固体電解質の抵抗を求め、サンプルの広さと厚さから80℃での高分子固体電解質のイオン伝導度を計算した。
【0126】
[数式1]
【数1】
σ:イオン伝導度
Rb:インピーダンス軌跡が実軸との交点
A:サンプルの広さ
t:サンプルの厚さ
【0127】
【0128】
前記表2に示されたように、高分子であるPPCと非揮発性液状化合物であるPEG-POSSが適正重量比で使われて製造された実施例1ないし実施例3の高分子固体電解質はフリースタンディングフィルムの形態で製造されたことを確認した。また、実施例1ないし実施例3の高分子固体電解質は厚さの偏差が少なくて均一に製造されたことが分かって、イオン伝導度も優れることを確認した。また、比較例1は非揮発性液状化合物を使わずに製造された高分子固体電解質として、フリースタンディングフィルムの形態で製造されず、このため厚さとイオン伝導度を測定することができなかった。
【0129】
また、比較例2は非揮発性液状化合物を使わずに、基材としてSSホイルの代わりにPET離型フィルムを使って製造された高分子固体電解質として、フリースタンディングフィルムの形態で製造されたが、厚さ偏差が大きくて均一度がよくないし、イオン伝導度も実施例1ないし実施例3に比べて相対的に低下したことを確認した。一般に、SS、Cu、またはAlのような金属ホイルと比べて、PET離型フィルムの場合、金属ホイルに製造された電解質膜との接着力が低くて乾燥後に比較的に前記電解質膜を分離しやすい方であるが、前記電解質膜の強度が弱い場合、破れるか増える変形が生じて結局利用することが難しいことがある。
【0130】
一方、比較例3は高分子であるPPCに比べて非揮発性液状化合物であるPEG-POSSが過度に多く使われ、膜の形態で製造されず、液相(liquid)状態で存在した。これによって、厚さ、均一度及びイオン伝導度を測定することができなかった。
【0131】
また、比較例4は高分子であるPPCに比べて非揮発性液状化合物であるPEG-POSSがとても少なく使用され、前記高分子と非揮発性液状化合物の相分離が起きずに、前記高分子と非揮発性液状化合物が混合された状態で含まれた膜が形成され、厚さ偏差が大きくて均一度がよくないことを確認した。
【0132】
このような結果より、混和性がよくない高分子と非揮発性液状化合物を適正重量比で使って、前記高分子と非揮発性液状化合物の相分離を利用して高分子固体電解質を製造する場合、前記高分子と非揮発性液状化合物が相分離されて形成された液相の膜と高分子固体電解質膜を含むフリースタンディングフィルム形態の高分子固体電解質が製造され、均一度とイオン伝導度に優れることを確認することができた。
【0133】
以上、本発明はたとえ限定された実施例と図面によって説明されたが、本発明はこれによって限定されず、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者によって本発明の技術思想と下記特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0134】
1:高分子固体電解質
10:基材
20:液相の膜
30:高分子固体電解質膜