(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】クロムフリー下地処理剤
(51)【国際特許分類】
C23C 22/34 20060101AFI20240912BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20240912BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240912BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20240912BHJP
C09D 143/02 20060101ALI20240912BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240912BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240912BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C23C22/34
C09D5/08
C09D7/61
C09D133/00
C09D143/02
C23C26/00 B
C23C28/00 C
C23F11/00 E
(21)【出願番号】P 2024530511
(86)(22)【出願日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2023045606
【審査請求日】2024-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2022209996
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】香山 仁志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】山根 健輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 由希菜
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友見
(72)【発明者】
【氏名】大竹 祐二
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/145594(WO,A1)
【文献】特表2008-510603(JP,A)
【文献】特開2007-177314(JP,A)
【文献】特開2001-335954(JP,A)
【文献】特表2008-529759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
C23C 26/00
C23C 28/00
C23F 11/00
C09D 133/00
C09D 143/02
C09D 5/08
C09D 7/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムフリー下地処理剤であって、
有機ホスホン酸樹脂と、リン酸化合物と、錯フッ化物と、マンガン化合物と、を含み、
前記有機ホスホン酸樹脂は、カルボキシ基含有アクリル酸モノマーに由来するセグメントと、ホスホン酸基含有モノマーに由来するセグメントと、を含む共重合体であり、
前記ホスホン酸基含有モノマーは、ビニルホスホン酸又はホスホン酸基含有アクリル酸エステルであ
り、
前記有機ホスホン酸樹脂に対する前記マンガン化合物のマンガン元素の含有比率(マンガン/有機ホスホン酸樹脂)が0.05~2.0である、クロムフリー下地処理剤。
【請求項2】
更に、バナジウム化合物を含む、請求項1に記載のクロムフリー下地処理剤。
【請求項3】
前記錯フッ化物がケイフッ酸である、請求項1又は2に記載のクロムフリー下地処理剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のクロムフリー下地処理剤を硬化した下地処理皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムフリー下地処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属の耐食性を向上させるために、6価クロム化合物、3価クロム化合物等のクロム化合物を含む下地処理剤で金属を表面処理する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、近年の環境規制の動向によると、クロム化合物を含む下地処理剤の使用が制限される可能性がある。そこで、クロム化合物を含まない、クロムフリーの下地処理剤が種々開発されている。例えば、亜鉛メッキ系鋼板材料、アルミニウム系材料等の金属材料に使用されるクロムフリー金属表面処理剤として、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、金属フルオロ錯体化合物、有機リン化合物及び無機リン化合物、高酸価樹脂を含有するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術は、金属材料との密着性だけでなく、塗膜との密着性、及び耐食性を向上させるものであるが、特に金属材料の端面における耐食性や耐薬品性の点で更なる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、金属の耐食性及び耐薬品性を向上させることが可能なクロムフリー下地処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) クロムフリー下地処理剤であって、有機ホスホン酸樹脂と、リン酸化合物と、錯フッ化物と、マンガン化合物と、を含み、前記有機ホスホン酸樹脂は、カルボキシ基含有アクリル酸モノマーに由来するセグメントと、ホスホン酸基含有モノマーに由来するセグメントと、を含む共重合体であり、前記ホスホン酸基含有モノマーは、ビニルホスホン酸又はホスホン酸基含有アクリル酸エステルである、クロムフリー下地処理剤。
【0008】
(2) 更に、バナジウム化合物を含む、(1)に記載のクロムフリー下地処理剤。
【0009】
(3) 前記錯フッ化物がケイフッ酸である、(1)又は(2)に記載のクロムフリー下地処理剤。
【0010】
(4) 前記有機ホスホン酸樹脂に対する前記マンガン化合物のマンガン元素の含有比率(マンガン/有機ホスホン酸樹脂)が0.05~2.0である、(1)~(3)いずれかに記載のクロムフリー下地処理剤。
【0011】
(5) (1)~(4)いずれかに記載のクロムフリー下地処理剤を硬化した下地処理皮膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属の耐食性及び耐薬品性を向上させることが可能なクロムフリー下地処理剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る下地処理剤について説明する。本発明は以下の実施形態の記載に限定されない。
【0014】
<クロムフリー下地処理剤>
本実施形態に係るクロムフリー下地処理剤(以下、「下地処理剤」と記載する場合がある)は、有機ホスホン酸樹脂と、リン酸化合物と、錯フッ化物と、マンガン化合物と、を含む。更に、バナジウム化合物を含むことが好ましい。
【0015】
本実施形態に係る下地処理剤は、3価及び6価のクロムを含有しないことが好ましい。3価及び6価のクロムの態様としては、金属クロム、クロムイオン、クロム化合物等、特に限定されない。
【0016】
(有機ホスホン酸樹脂)
有機ホスホン酸樹脂は、カルボキシ基含有アクリル酸モノマーに由来するセグメントと、ホスホン酸基含有モノマーに由来するセグメントと、を含む共重合体である。カルボキシ基含有アクリル酸モノマーに由来するセグメントは、下地処理剤により形成される皮膜の上に形成される塗膜と反応し、密着性を向上させる。ホスホン酸基含有モノマーに由来するセグメントは、下地処理剤が塗布される金属基材表面と反応し、密着性を向上させる。また、他の成分による架橋効果により、耐薬品性を向上させる。カルボキシ基含有アクリル酸モノマーに由来するセグメントとは、カルボキシ基以外の官能基を有するアクリルモノマーの官能基が変性されてカルボキシ基となったモノマーセグメントであってよい。ホスホン酸基含有モノマーに由来するセグメントとは、ホスホン酸基以外の官能基を有するモノマーの官能基が変性されてホスホン酸基となったモノマーセグメントであってよい。
【0017】
カルボキシ基含有アクリル酸モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸モノマーを用いることが好ましい。
【0018】
ホスホン酸基含有モノマーは、ビニルホスホン酸、ビニリデン-1,1-ジホスホン酸、又はホスホン酸基含有アクリル酸エステルである。
【0019】
有機ホスホン酸樹脂中における、ホスホン酸基含有モノマーに由来するセグメントの含有比率は、有機ホスホン酸樹脂を構成する全てのセグメントの合計に対して、20mol%以上、95mol%以下であることが好ましい。ホスホン酸含有モノマーに由来するセグメントの含有比率が20mol%以上であることで、ホスホン酸基が金属基材表面と十分に結合し、密着性や耐食性が向上する。一方で、95mol%を超えると塗膜との結合が不足し、密着性や耐食性が低下する。
【0020】
有機ホスホン酸樹脂中における、カルボキシ基含有アクリル酸モノマーに由来するセグメントの含有比率は、有機ホスホン酸樹脂を構成する全てのセグメントの合計に対して、5mol%以上、80mol%以下であることが好ましい。カルボキシ基含有アクリル酸モノマーに由来するセグメントの含有比率が5mol%以上であることで、アクリル酸基が塗膜と十分に結合し、密着性や耐食性が向上する。一方で、80mol%を超えると金属基材表面との結合が不足し、密着性や耐食性が低下する。
【0021】
有機ホスホン酸樹脂には、上記以外のモノマーに由来する、その他のセグメントが含まれていてもよい。上記以外のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有アクリルモノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、1-メチルエチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート等のアクリル酸エステルモノマー;スチレン、α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ブタジエン、イソプレン等の非アクリル系モノマー;N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N’-メチレンビスアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;が挙げられる。有機ホスホン酸樹脂中における、上記その他のセグメントの含有比率は、30mol%以下であることが好ましく、10mol%以下であることがより好ましく、0mol%であることが最も好ましい。有機ホスホン酸樹脂は、カルボキシ基含有アクリル酸モノマーとホスホン酸基含有モノマーとの2成分系であり、その他のモノマーに由来するセグメントを含まないことが、より好ましい。有機ホスホン酸樹脂中における、上記その他のセグメントが30mol%以下であることで金属基材表面および、塗膜と十分に結合し密着性や耐食性が向上する。
【0022】
有機ホスホン酸樹脂は、上記各モノマーを含むモノマー混合物を、溶液重合を行うことにより調製することができる。有機ホスホン樹脂の分子量としては、重量平均分子量として10,000~100,000であることが好ましい。重量平均分子量が10,000以上であることで、密着性や耐食性が向上し、重量平均分子量が100,000以下であることで他の金属成分と架橋して増粘することなく配合することが可能となる。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によって測定することができる。有機ホスホン酸樹脂として市販のものを使用してもよい。市販のものとしては特に限定されず、例えばSolvay社製ADDIBOND(登録商標)シリーズ等を挙げることができる。
【0023】
表面処理剤の全固形分に対し、有機ホスホン酸樹脂の含有量が2質量%以上であることで金属の密着性や端面耐食性を向上させることが可能となる。有機ホスホン酸樹脂の含有量が30質量%以下であることで他の成分とバランス良く配合することが可能となり、高い耐食性、密着性、耐薬品性を発揮することが可能となる。
【0024】
(リン酸化合物)
リン酸化合物は、オルトリン酸(リン酸)、縮合リン酸等のリン酸基を有する化合物、及びこれらの塩を含む。下地処理剤中にリン酸化合物が含まれることで、金属の耐食性を向上できる。上記縮合リン酸は、オルトリン酸の脱水縮合によって生じる直鎖状高分子リン酸の総称であり、例えば、ピロリン酸、トリポリリン酸、ポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ウルトラリン酸等が挙げられる。上記リン酸化合物の塩としては、特に限定されないが、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0025】
下地処理剤の全固形分に対し、リン酸化合物の含有量は30~70質量%であることが好ましい。リン酸化合物の含有量が30質量%以上であることで金属の耐食性を向上させることが可能となる。リン酸化合物の含有量が70質量%以下であることで他の成分とバランス良く配合することが可能となり、高い耐食性、密着性、耐薬品性を発揮することが可能となる。
【0026】
(錯フッ化物)
錯フッ化物は、下地処理剤に含まれることで、下地処理剤により形成される皮膜と金属との密着性を向上させる。錯フッ化物としては、例えば、ケイフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸亜鉛、ケイフッ化水素酸マグネシウム、ケイフッ化水素酸ニッケル、ケイフッ化水素酸鉄、ケイフッ化水素酸カルシウム等のケイフッ酸;ジルコンフッ化水素酸(H2ZrF6)、ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム((NH4)2ZrF6)等のジルコニウムフッ化物;チタンフッ化水素酸(H2TiF6)、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム((NH4)2TiF6)等のチタンフッ化物等が挙げられる。錯フッ化物は、密着性がさらに良好となることから、ケイフッ酸であることが好ましい。
【0027】
下地処理剤の全固形分に対し、錯フッ化物の含有量は5.0~20質量%であることが好ましい。錯フッ化物の含有量が5.0質量%以上であることが皮膜と金属との密着性が良好となる。錯フッ化物の含有量が20質量%以下であることで他の成分とバランス良く配合することが可能となり、高い耐食性、密着性、耐薬品性を発揮することが可能となる。
【0028】
(マンガン化合物)
マンガン化合物は、下地処理剤に含まれることで、金属の耐薬品性(耐酸性及び耐アルカリ性)を向上させる。マンガン化合物としては、例えば、酢酸マンガン、安息香酸マンガン、乳酸マンガン、ギ酸マンガン、酒石酸マンガン等の有機酸塩;塩化マンガン、臭化マンガン等のハロゲン化物;硝酸マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン等の無機酸塩;マンガンメトキサイド等のアルコキサイド;アセチルアセトンマンガン(II)、アセチルアセトンマンガン(III)、二酸化マンガン、酸化マンガン等が挙げられる。
【0029】
表面処理剤の全固形分に対し、マンガン化合物に由来するマンガン元素の含有量が1質量%以上であることで金属の耐薬品性を向上させることが可能となる。マンガン化合物に由来するマンガン元素の含有量が15質量%以下であることで他の成分とバランス良く配合することが可能となり、高い耐食性、密着性、耐薬品性を発揮することが可能となる。
【0030】
有機ホスホン酸樹脂に対するマンガン化合物のマンガン元素の含有質量比率(マンガン/有機ホスホン酸樹脂)は、0.05~2.0であることが好ましい。マンガン/有機ホスホン酸樹脂が0.05以上であることで、耐薬品性を発現させるために十分なマンガンの量が確保されるため、金属の耐薬品性を好ましく向上できる。マンガン/有機ホスホン酸樹脂が2.0以下であることで、有機ホスホン樹脂の官能基がマンガンとの結合に消費されることなく、十分な有機ホスホン酸樹脂量が確保されるため、密着性や耐食性を好ましく向上できる。上記の観点から、マンガン/有機ホスホン酸樹脂は0.1~1.0であることがより好ましい。
【0031】
(バナジウム化合物)
バナジウム化合物は、下地処理剤に含まれることで、防錆剤(インヒビター)として作用し、金属の耐食性を向上させる。バナジウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム、硫酸バナジル、シュウ酸バナジル、バナジン酸マグネシウム、三酸化バナジウム、三塩化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジルアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0032】
下地処理剤の全固形分に対し、バナジウム化合物の含有量は5.0~20質量%であることが好ましい。バナジウム化合物の含有量が5.0質量%以上出ることで金属の耐食性が向上する。バナジウム化合物の含有量が20質量%以下であることで他の成分とバランス良く配合することが可能となり、高い耐食性、密着性、耐薬品性を発揮することが可能となる。
【0033】
(その他の成分)
本実施形態の下地処理剤は、処理液の安定性向上の観点から、キレート剤を含んでも良い。本実施形態の下地処理剤に適用できるキレート剤としては、例えば、ホスホン酸系キレート剤、アミノカルボン酸型キレート剤、及びカルボキシエチル基系キレート剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0034】
ここで、ホスホン酸系キレート剤としては、例えば、HEDP、NTMP、PBTC、EDTMP等が挙げられる。アミノカルボン酸型キレート剤としては、例えば、EDTA、NTA、DTPA、HEDTA、TTHA、PDTA、DPTA-OH、HIDA、DHEG、GEDTA、CMGA、EDDS等が挙げられる。カルボキシエチル基系キレート剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸の構造異性体、アジピン酸、アミノヘキサン酸等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の下地処理剤に含まれるキレート剤の合計含有量は、1000~15000質量ppmであることが好ましく、より好ましくは、1500~12000質量ppmである。キレート剤の合計含有量が1000質量ppm未満である場合には、水溶液中での金属成分のキレート安定化効果が不十分となる。一方、キレート剤の合計含有量が15000質量ppmを超える場合には、キレート安定化効果が飽和するため、非経済的となる。
【0036】
本実施形態の下地処理剤には、上記の機能を阻害しない範囲で、更にその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、架橋剤、防錆剤、レベリング剤、消泡剤、pH調整剤等の下地処理剤に含まれる公知の成分が挙げられる。
【0037】
<金属基材>
本実施形態の下地処理剤により下地処理される対象である金属基材としては、特に限定されないが、例えば、鉄系材料としては冷延鋼材、熱延鋼材、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼材、溶融亜鉛めっき鋼材、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼材、亜鉛-鉄合金系めっき鋼材、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼材、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼材、アルミニウム系めっき鋼材、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼材、錫系めっき鋼材、鉛-錫系めっき鋼材、クロム系めっき鋼材、Ni系めっき鋼材等の金属鋼材が挙げられる。アルミニウム系材料としては純アルミニウム、各種アルミニウム合金等の金属材料が挙げられる。金属基材の形状としては、特に限定されないが、例えば、板状等が挙げられる。
【0038】
<下地処理方法>
本実施形態の下地処理剤を用いた下地処理方法としては、例えば、金属基材の表面に下地処理剤を塗布する塗布工程と、金属基材に塗布された下地処理剤を焼付けて硬化させる焼付工程と、を備える。
【0039】
塗布工程において、金属基材の表面に下地処理剤を塗布する方法は特に限定されず、例えば、ロールコート法、バーコート法、スプレー処理法、浸漬処理法等による方法が挙げられる。なお、塗布工程に先立って、必要に応じて金属基材の表面に脱脂処理や酸洗、エッチング処理を施してもよい。
【0040】
焼付工程において、塗布工程の後に、金属基材に塗布した下地処理剤を焼付ける。上記焼付ける方法としては特に限定されない。例えば、下地処理剤を金属基材の表面に塗布後、下地処理剤が未硬化の状態で上層に塗装を行い、その後に焼付を行ってもよい。
【0041】
<下地処理皮膜>
上記下地処理剤により形成される皮膜(以下、「皮膜」と記載する場合がある)は、上記金属基材の表面に形成される。皮膜の膜厚としては特に限定されないが、0.01~1.0μmであることが好ましい。皮膜の重量としては特に限定されないが、0.01~1.0g/m2であることが好ましい。皮膜の上層には、塗膜が形成されることが好ましい。本実施形態の下地処理剤は、塗膜との好ましい密着性が得られるためである。塗膜を形成する塗料としては、特に限定されず、1コート用塗料を用いてもよいし、プライマー及びトップコートを用いてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。ただし、実施例1~31は、参考例である。
【0043】
<下地処理剤の調製>
[実施例1~41、比較例1~6]
以下の表1~4に記載の含有量となるように、有機ホスホン酸樹脂、樹脂(比較例)、リン酸化合物、錯フッ化物、マンガン化合物、バナジウム化合物、キレート化合物、及び下地処理剤中の固形分量が2質量%となるようにイオン交換水を混合撹拌し、下地処理剤を得た。表1~4に記載した各成分の配合量は、固形分量(質量部)を示す。
【0044】
表1~4に記載した原料の種類の詳細を以下に示す。
【0045】
(A1~A3:有機ホスホン酸樹脂、A4~A5:樹脂(比較例))
A1:ADDIBOND(登録商標) 021(有機ホスホン酸樹脂(不揮発分(NV):20%)、ビニルホスホン酸とアクリル酸の共重合体、ビニルホスホン酸のモル比率:30%、重量平均分子量:30,000~90,000、Solvay社製)
A2:ADDIBOND(登録商標) 829(有機ホスホン酸樹脂(不揮発分(NV):40%)、Solvay社製)
A3:ジュリマーAC-10L(ポリアクリル酸(不揮発分(NV):40%)、東亞合成株式会社製)
A4:ポリビニルホスホン酸(不揮発分(NV):100%、Sigma-Aldrich社製)
【0046】
(B1~B3:リン酸化合物)
B1:リン酸
B2:ピロリン酸
B3:ポリリン酸
【0047】
(C1~C4:錯フッ化物)
C1:ケイフッ化水素酸
C2:チタンフッ化水素酸(森田化学工業株式会社製)
C3:ジルコンフッ化水素酸(森田化学工業株式会社製)
C4:フッ化アルミニウム
【0048】
(D1~D2:マンガン化合物)
D1:硝酸マンガン
D2:炭酸マンガン
【0049】
(E1~E6:バナジウム化合物)
E1:硫酸バナジル
E2:メタバナジン酸アンモニウム
E3:メタバナジン酸ナトリウム
E4:シュウ酸バナジル
E5:五酸化バナジウム
E6:バナジルアセチルアセトネート(VO(C5H7O2)2)(ナーセムバナジル、日本化学産業株式会社製)
【0050】
(F1~F2:キレート剤)
F1:1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)
F2:2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
<試験板の作製>
表1~4に示す下地処理剤を用い、溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼板(表1~4に示す基材:GL)又は溶融亜鉛めっき鋼板(表2に示す基材:GI)に対してそれぞれ下地処理を行った。下地処理は、以下の手順で行った。
【0056】
(脱脂・表面処理)
アルカリ脱脂剤(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、サーフクリーナー155)を用いて60℃で10秒間スプレー脱脂し、水洗後、80℃で乾燥した。続いて、実施例及び比較例にて作成した表面処理剤を、固形分濃度を調整した後、脱脂した鋼板にバーコーター(番手:#3)で塗布し、熱風循環型オーブンを用いて金属基材の到達温度が80℃となるよう乾燥させ、化成皮膜が形成された試験板を作製した。
【0057】
(樹脂層形成)
市販のPCMプライマー塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、フレキコート600)を塗布した(乾燥膜厚5.0μm)後、200℃で焼き付け、ついで、焼き付け表面にさらにPCMトップコート塗料(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、ポリエステル系塗料、フレキコート5030)を塗布した(乾燥膜厚15μm)後、225℃で焼き付けて塗装鋼板を作製した。このようにして作製した各塗装鋼板から適宜試験片を切り出して試験板とした。上記により得られた試験板を用いて以下の評価を行った。
【0058】
<評価>
[複合サイクル試験(耐食性)]
上記作製した各試験板の塗膜に金属素地に達する傷をカッターナイフで入れ、JIS H 8502(JASO M609-91)に規定された複合サイクル試験(CCT)を150サイクル実施した。その後、傷部からの塗膜膨れ幅の最大値、及び試験片の端面部からの塗膜膨れ幅の平均的な値をそれぞれ測定し、以下の基準により評価し、それぞれ評価3.5以上を合格とした。結果を表1~4に示した。なお、上記平均的な値の測定とは、試験片の端面部からの塗膜膨れ部全体において目視で平均的な膨れ幅の個所を選定し、当該箇所の塗膜膨れ幅を測定したことを意味する。
【0059】
(評価基準:傷部からの塗膜膨れ幅最大値)
5:1mm未満
4.5:1mm以上2mm未満
4:2mm以上3mm未満
3.5:3mm以上4mm未満
3:4mm以上5mm未満
2.5:5mm以上6mm未満
2:6mm以上7mm未満
1.5:7以上8mm未満
1:8mm以上
【0060】
(評価基準:試験片端面部からの塗膜膨れ幅の平均的な値)
5:4mm未満
4.5:4mm以上6mm未満
4:6mm以上8mm未満
3.5:8mm以上10mm未満
3:10mm以上12mm未満
2.5:12mm以上14mm未満
2:14mm以上16mm未満
1.5:16mm以上18mm未満
1:18mm以上
【0061】
[折り曲げ1次密着性]
上記作製した各試験板に対して、JIS G3312に規定された試験法に準じてスペーサーを挟み2T折曲げ加工(180度折曲する加工)を20℃で行い、折曲げ部のテープ剥離試験を実施した。その後、試験後の塗膜剥離状態を目視にて以下の基準により評価し、評価3.5以上を合格とした。結果を表1~4に示した。
5:剥離なし
4.5:1~10%剥離
4:11~20%剥離
3.5:21~30%剥離
3:31~40%剥離
2.5:41~50%剥離
2:51~60%剥離
1.5:61~70%剥離
1:71~80%剥離
0.5:81~90%剥離
0:91~100%剥離
【0062】
[折り曲げ2次密着性]
試験板を沸騰水に2時間浸漬後、24時間室内に放置したものについて、折り曲げ一次密着性と同様に、2TTの条件で、それぞれ同一基準で評価した。3.5以上を合格とし、結果を表1~4に示した。
【0063】
[耐アルカリ性(耐薬品性)]
上記作製した各試験板に対して、ASTM D714-56に規定された試験法に準じて、以下の方法で耐アルカリ性の評価を行った。作製した各試験板を5質量%の水酸化ナトリウム水溶液中に室温にて24時間浸漬した後、評価面に発生したブリスターの大きさと発生密度を目視にて以下の基準により評価し、評価3.5以上を合格とした。結果を表1~4に示した。
【0064】
(評価基準:耐アルカリ性(耐薬品性))
5:ブリスターなし
4.5:1つのブリスターの大きさが0.3mm未満でかつ発生密度がVFまたはFである。
4:1つのブリスターの大きさが0.3mm以上0.6mm未満でかつ発生密度がVFまたはFである。
3.5:1つのブリスターの大きさが0.6mm未満でかつ発生密度がFMである。
3:1つのブリスターの大きさが0.6mm未満でかつ発生密度がMである。あるいは、1つのブリスターの大きさが0.6mm以上1.2mm未満でかつ発生密度がFまたはFMである。
2.5:1つのブリスターの大きさが0.6mm未満でかつ発生密度がMDである。あるいは、1つのブリスターの大きさが0.6mm以上1.2mm未満でかつ発生密度がFMまたはMである。あるいは、1つのブリスターの大きさが1.2mm以上1.8mm未満でかつ発生密度がVFまたはFである。
2:1つのブリスターの大きさが0.6mm以上1.2mm未満でかつ発生密度がMまたはMDである。あるいは、1つのブリスターの大きさが1.2mm以上1.8mm未満でかつ発生密度がFまたはFMである。
1.5:1つのブリスターの大きさが1.2mm以上1.8mm未満でかつ発生密度がMまたはMDである。
1:1つのブリスターの大きさが1.8mm以上である。あるいは、ブリスターの大きさに拘らず発生密度がDである。
なお、発生密度に関して用いた記号の意味は以下の通りである。
VF:ブリスター発生個数が極めて僅かである。
F:ブリスター発生個数が僅かである。
FM:ブリスター発生個数がFとMの中間程度である。
M:ブリスター発生個数が多い。
MD:ブリスター発生個数がMとDの中間程度である。
D:ブリスター発生個数が極めて多い。
【0065】
[耐酸性(耐薬品性)]
上記作製した各試験板を、5質量%の塩酸水溶液中に室温にて24時間浸漬した後、評価面に発生したブリスターの大きさと発生密度を目視にて、耐アルカリ性試験と同様の基準により評価し、評価3.5以上を合格とした。結果を表1~4に示した。
【0066】
表1~4の結果から、各実施例の下地処理剤は、各比較例の下地処理剤と比較して、金属の耐食性、密着性及び耐薬品性が高い結果が明らかである。例えば、有機ホスホン酸樹脂が含まれていない比較例1、5、6の下地処理剤と比較して、各実施例の下地処理剤は、金属の耐食性、密着性、及び耐薬品性(耐アルカリ性)が高い。また、マンガン化合物が含まれていない比較例4の下地処理剤と比較して、各実施例の下地処理剤は、金属の耐薬品性が高い。
【要約】
金属の耐食性及び耐薬品性を向上させることが可能なクロムフリー下地処理剤。クロムフリー下地処理剤であって、有機ホスホン酸樹脂と、リン酸化合物と、錯フッ化物と、マンガン化合物と、を含み、有機ホスホン酸樹脂は、カルボキシ基含有アクリル酸モノマーに由来するセグメントと、ホスホン酸基含有モノマーに由来するセグメントと、を含む共重合体であり、ホスホン酸基含有モノマーは、ビニルホスホン酸又はホスホン酸基含有アクリル酸エステルである、クロムフリー下地処理剤。