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特許7555000非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池
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  • 特許-非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20240913BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240913BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
C01G53/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021551285
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2020036800
(87)【国際公開番号】W WO2021065860
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2019179786
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】村田 晶子
(72)【発明者】
【氏名】日比野 光宏
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-120705(JP,A)
【文献】特開平11-191416(JP,A)
【文献】特開2017-033817(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043566(WO,A1)
【文献】特開2013-149433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル構造を有し、一般式Li1+αNi0.5-xMn1.5-y-zGex+z(式中、0≦α<0.2、0≦x<0.2、0<y<0.45、0≦z<0.2、MはMg、Al、Sc、Ti、Cr、V、Fe及びCoから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の2次粒子において、表面部分におけるLi以外の金属元素の総モル数を2とした時のGeのモル数(Gesurf)は、中心部分におけるLi以外の金属元素の総モル数を2とした時のGeのモル数(Gebulk)よりも高い、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記Gebulkに対する、前記Gesurfの比率(Gesurf/Gebulk)は、1.5<Gesurf/Gebulk<5.0の関係を満たす、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記Gebulkは、0.005<Gebulk<0.45を満たす、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、
負極と、
電解質と、を備える非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質、及び当該正極活物質を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
Li、Ni、及びMnを含有し、スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、高電圧で使用可能で、Mnの可採埋蔵量も豊富であることから正極活物質として注目されている。特許文献1には、高温下での電池特性の劣化を防止するために、リチウムニッケルマンガン酸化物のNi及びMnの一部を他の金属元素に置換し、且つ、Fを含有した正極活物質が開示されている。また、特許文献2には、電池特性の劣化を防止するために、スピネル構造を有し、表面と内部で組成が異なる2層構造のリチウムマンガン酸化物からなる正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-33817号公報
【文献】特表2008-535173号公報
【発明の概要】
【0004】
特許文献1に開示された正極活物質は、置換する金属元素によっては電池の放電容量が低下することがある。また、特許文献2に開示された正極活物質は、表面のコーティング層が電気化学的に不活性であり、電池の放電容量が低下することがある。
【0005】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、スピネル構造を有し、一般式Li1+αNi0.5-xMn1.5-y-zGex+z(式中、0≦α<0.2、0≦x<0.2、0<y<0.45、0≦z<0.2、MはMg、Al、Sc、Ti、Cr、V、Fe及びCoから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む。リチウム遷移金属複合酸化物の2次粒子において、表面部分におけるLi以外の金属元素の総モル数を2とした時のGeのモル数(Gesurf)は、中心部分におけるLi以外の金属元素の総モル数を2とした時のGeのモル数(Gebulk)よりも高い。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備える。
【0007】
本開示の一態様によれば、二次電池の電圧を高くしつつ、放電容量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の一例である二次電池の斜視図であって、外装体の手前側を外した状態での電池ケースの内部の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
Li、Ni、及びMnを含有し、スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、理論的には4.7V程度で充放電が可能であるが、リチウム遷移金属複合酸化物を合成する際に酸素欠損が生じやすいため、実際には4.5V以上の電圧で充放電できる容量は限られる。特許文献1に開示されているように添加元素をリチウム遷移金属複合酸化物に加えて合成時の酸素欠陥の発生を抑制することは有効であるが、添加元素の多くは電気化学的に不活性であるため、実際の容量が低下することがある。また、特許文献2に開示された正極活物質は、表面のコーティング層が電気化学的に不活性であり、電池の放電容量が低下することがある。本願発明者の検討により、Li、Ni、Mn、及びGeを含有し、スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、表面におけるGeのモル分率が、中心におけるGeのモル分率よりも大きい正極活物質によれば、4.5V以上の高電圧で使用可能で、且つ、電池の放電容量が大きい二次電池を得られることが判明した。これは、表面にGeを多く含有させることで酸素欠陥の発生を抑制しつつ、中心にGeを少なく含有させることで電池の容量の低下を抑制できたため、と推察される。
【0010】
以下、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。本実施形態では、角形の金属製の外装体1を備えた二次電池100を例示するが、外装体は角形に限定されず、例えば、円筒形等であってもよい。また、巻回型の電極体3を例示するが、複数の正極と複数の負極とがセパレータを介して交互に1枚ずつ積層されてなる積層型の電極体であってもよい。また、正極及び負極の両方において、各合材層が各芯体の両面に形成される場合を例示するが、各合材層は、各芯体の両面に形成される場合に限定されず、少なくとも一方の表面に形成されればよい。
【0011】
図1に例示するように、二次電池100は、正極と負極がセパレータを介して巻回され、平坦部及び一対の湾曲部を有する扁平状に成形された巻回型の電極体3と、電解質と、電極体3及び電解質を収容する外装体1とを備える。外装体1及び封口板2はいずれも金属製であり、アルミニウム製又はアルミニウム合金製であることが好ましい。
【0012】
外装体1は、底面視略長方形状の底部、及び底部の周縁に立設した側壁部を有する。側壁部は、底部に対して垂直に形成される。外装体1の寸法は特に限定されないが、一例としては、横方向長さが60~160mm、高さが60~100mm、厚みが10~40mmである。
【0013】
正極は、金属製の正極芯体と、芯体の両面に形成された正極合材層とを有する長尺体であって、短手方向における一方の端部に長手方向に沿って正極芯体が露出する帯状の正極芯体露出部4が形成されたものである。同様に、負極は、金属製の負極芯体と、芯体の両面に形成された負極合材層とを有する長尺体であって、短手方向における一方の端部に長手方向に沿って負極芯体が露出する帯状の負極芯体露出部5が形成されたものである。電極体3は、軸方向一端側に正極の正極芯体露出部4が、軸方向他端側に負極の負極芯体露出部5がそれぞれ配置された状態で、セパレータを介して正極及び負極が巻回された構造を有する。
【0014】
正極の正極芯体露出部4の積層部には正極集電体6が、負極の負極芯体露出部5の積層部には負極集電体8がそれぞれ接続される。好適な正極集電体6は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製である。好適な負極集電体8は、銅又は銅合金製である。正極端子7は、封口板2の電池外部側に配置される正極外部導電部13と、正極外部導電部13に接続された正極ボルト部14と、封口板2に設けられた貫通穴に挿入される正極挿入部15とを有し、正極集電体6と電気的に接続されている。また、負極端子9は、封口板2の電池外部側に配置される負極外部導電部16と、負極外部導電部16に接続された負極ボルト部17と、封口板2に設けられた貫通穴に挿入される負極挿入部18とを有し、負極集電体8と電気的に接続されている。
【0015】
正極端子7及び正極集電体6は、それぞれ内部側絶縁部材及び外部側絶縁部材を介して封口板2に固定される。内部側絶縁部材は、封口板2と正極集電体6との間に配置され、外部側絶縁部材は封口板2と正極端子7との間に配置される。同様に、負極端子9及び負極集電体8は、それぞれ内部側絶縁部材及び外部側絶縁部材を介して封口板2に固定される。内部側絶縁部材は封口板2と負極集電体8との間に配置され、外部側絶縁部材は封口板2と負極端子9との間に配置される。
【0016】
電極体3は、外装体1内に収容される。封口板2は、外装体1の開口縁部にレーザー溶接等により接続される。封口板2は電解質注液孔10を有し、この電解質注液孔10は外装体1内に電解質を注液した後、封止栓により電解質注液孔10が封止される。封口板2には、電池内部の圧力が所定値以上となった場合にガスを排出するためのガス排出弁11が形成されている。
【0017】
電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む非水電解質である。非水溶媒には、例えばカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を用いることができ、これらの溶媒は2種以上を混合して用いることができる。2種以上の溶媒を混合して用いる場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒を用いることが好ましい。例えば、環状カーボネートとしてエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等を用いることができ、鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジエチルカーボネート(DEC)等を用いることができる。非水溶媒は、上記の溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO等及びこれらの混合物を用いることができる。非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、例えば0.5~2.0mol/Lとすることができる。また、適宜ビニレンカーボネート(VC)等の添加剤を添加することもできる。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0018】
以下、電極体3を構成する正極、負極、及びセパレータについて、特に正極を構成する正極活物質について詳説する。
【0019】
[正極]
正極は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、結着材、及び導電材を含み、正極芯体露出部4を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極は、例えば正極芯体の表面に正極活物質、結着材、及び導電材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0020】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0021】
正極活物質は、スピネル構造を有し、一般式Li1+αNi0.5-xMn1.5-y-zGex+z(式中、0≦α<0.2、0≦x<0.2、0<y<0.45、0≦z<0.2、MはMg、Al、Sc、Ti、Cr、V、Fe及びCoから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む。リチウム遷移金属複合酸化物において、Li、Ni、Mn、及びGeは必須成分であり、Mは任意成分である。Ni及びMnの含有量について、0≦x<0.2及び0<y<0.45を満たすことで、リチウム遷移金属複合酸化物は、高電圧で使用可能となる。リチウム遷移金属複合酸化物がスピネル構造を有することは、X線回折法(XRD)により確認することができる。また、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する各元素のモル分率は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定される。以下、説明の便宜上、上記のリチウム遷移金属複合酸化物を「複合酸化物(Z)」とする。正極活物質は、複合酸化物(Z)を主成分とし、実質的に複合酸化物(Z)のみで構成されていてもよい。正極活物質には、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物(Z)以外の複合酸化物、或いはその他の化合物が含まれてもよい。
【0022】
複合酸化物(Z)は、例えば、複数の1次粒子が凝集してなる2次粒子である。2次粒子を構成する1次粒子の粒径は、例えば0.05μm~1μmである。1次粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される粒子画像において外接円の直径として測定される。
【0023】
複合酸化物(Z)は、体積基準のメジアン径(D50)が、例えば3μm~30μm、好ましくは5μm~25μm、特に好ましくは7μm~15μmの粒子である。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。複合酸化物(Z)の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0024】
複合酸化物(Z)において、表面部分におけるLi以外の金属元素の総モル数を2とした時のGeのモル数(Gesurf)は、中心部分におけるLi以外の金属元素の総モル数を2とした時のGeのモル数(Gebulk)よりも高い。これにより、二次電池の電圧を高くしつつ、放電容量を大きくすることができる。ここで、複合酸化物(Z)の断面において、中心から半径の1/3の厚み部分を中心部分といい、表面から半径の1/3の厚み部分を表面部分という。複合酸化物(Z)は、Li以外の金属元素の総モル数に対するGeのモル分率が、表面から内部に向かって高くなるグラデーション構造を有してもよい。Gesurf及びGebulkは、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で測定することができる。
【0025】
Gebulkに対する、Gesurfの比率(Gesurf/Gebulk)は、1.5<Gesurf/Gebulk<5.0の関係を満たしてもよい。Gesurf/Gebulkがこの範囲にあることで、放電容量をより大きくすることができる。Gesurf/Gebulkがこの範囲より小さい場合、粒子の表面に酸素欠損が生じやすくなり、放電容量は減少する。また、この範囲より大きい場合、表面が電気化学的に不活性となってしまうため、抵抗上昇などを引き起こす。
【0026】
Gebulkは、0.005<Gebulk<0.45を満たしてもよい。Gebulkがこの範囲にあることで、電池の電圧をより高くすることができる。Gebulkがこの範囲より小さい場合、電圧向上の効果が満足に得られない。また、Gebulkがこの範囲より大きい場合、電気化学的に不活性となるため、抵抗上昇などを引き起こす。
【0027】
複合酸化物(Z)は、例えば以下の手順で作製できる。
(1)Liを含有しない複合化合物(X)に、水酸化リチウム(LiOH)等のLi源を添加して焼成し、リチウム複合酸化物(Y)を合成する。複合化合物(X)の一例は、Ni、Mnを含有する複合酸化物や水酸化物である。
(2)リチウム複合酸化物(Y)にGeO、GeCl、テトラメトキシゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、LiNi0.5Ge1.5、LiCo0.5Ge1.5、LiZn0.5Ge1.5、GeMnO、GeCoO、GeMn、GeCo等のGe源を添加し、混合した後に焼成することで、Geをリチウム複合酸化物(Y)に固溶させて、複合酸化物(Z)を合成する。このとき、Ge源と共に、LiOH等のLi源を添加させてもよい。
【0028】
上記工程(2)において、焼成温度は、例えば700℃~1200℃であり、焼成時間は、例えば10分~10時間である。焼成温度及び焼成時間の調整によって、複合酸化物(Z)に固溶するGeの分布状態を変化させることができるので、Gesurf及びGebulkを調整することができる。焼成温度が低く、焼成時間が短いほど、Geが表面近傍に留まって内部に侵入しないので、Gesurf/Gebulkの値が大きくなる。
【0029】
[負極]
負極は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを有する。負極芯体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含み、負極芯体露出部5を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0030】
負極合材層には、負極活物質として、例えばリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が含まれる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質には、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。
【0031】
負極合材層に含まれる結着材には、正極の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0032】
[セパレータ]
セパレータには、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータは、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータの表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【0033】
<実施例>
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
<実施例1>
[正極活物質の合成]
共沈により得られた、D50が12μmで組成がNi0.5Mn1.5(OH)4のニッケルマンガン複合水酸化物を500℃で焼成して、ニッケルマンガン複合酸化物(X)を得た。
【0035】
次に、LiOHと、ニッケルマンガン複合酸化物(X)を、Liと、Ni、Mnの総量のモル比が、1.02:1になるように混合した。この混合物を酸素雰囲気中にて700℃で8時間焼成した後、粉砕することにより、リチウム複合酸化物(Y)を得た。XRDにより、リチウム複合酸化物(Y)がスピネル構造を有することを確認した。また、ICPによりリチウム複合酸化物(Y)の組成を分析した結果、LiNi0.5Mn1.5であった。
【0036】
次に、リチウム複合酸化物(Y)と、GeOとを、リチウム複合酸化物(Y)中のNi、Mnの総量と、GeO中のGeのモル比が、2:0.136になるように乾式混合し、この混合物を大気中にて1000℃で30分間焼成した後、粉砕することにより、リチウム複合酸化物(Y)にGeを固溶させた正極活物質を得た。EPMAによる測定の結果、Gebulkの値は0.082であり、Gesurf/Gebulkの値は2.1であった。また、ICPにより正極活物質の組成を分析した結果、LiNi0.5Mn1.5Ge0.136であった。なお、XRDにより、得られた正極活物質がスピネル構造を有することを確認した。
【0037】
[正極の作製]
上記正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、96.3:2.5:1.2の固形分質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えた後、これを混練して正極合材スラリーを調製した。当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を得た。なお、正極の一部に正極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0038】
[負極の作製]
負極活物質として天然黒鉛を用いた。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を、100:1:1の固形分質量比で水溶液中において混合し、負極合材スラリーを調製した。当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、負極芯体の両面に負極合材層が形成された負極を得た。なお、負極の一部に負極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0039】
[非水電解質の調製]
フルオロエチレンカーボネート(FEC)と3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(FMP)を、2:8の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.0モル/リットルの濃度で溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して2.0質量%の濃度で溶解させた非水電解質を調製した。
【0040】
[電池の作製]
上記正極の露出部にアルミニウムリードを、上記負極の露出部にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリオレフィン製のセパレータを介して正極と負極を渦巻き状に巻回した後、径方向にプレス成形して扁平状の巻回型電極体を作製した。この電極体をアルミラミネートシートで構成される外装体内に収容し、上記非水電解質を注入した後、外装体の開口部を封止して、設計容量650mAhの非水電解質二次電池を得た。
【0041】
<実施例2>
リチウム複合酸化物(Y)と、GeOとを、リチウム複合酸化物(Y)中のNi、Mnの総量と、GeO中のGeのモル比が、2:0.015になるように乾式混合し、この混合物を大気中にて1000℃で30分間焼成した後、粉砕することにより、リチウム複合酸化物(Y)にGeを固溶させた正極活物質を得たこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。EPMAによる測定の結果、Gebulkの値は0.0076であり、Gesurf/Gebulkの値は2.5であった。また、ICPにより正極活物質の組成を分析した結果、LiNi0.5Mn1.5Ge0.015であった。なお、XRDにより、得られた正極活物質がスピネル構造を有することを確認した。
【0042】
<比較例1>
GeOを固溶せず、リチウム複合酸化物(Y)をそのまま正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0043】
実施例及び比較例の各電池について、放電容量、及びSOC50%における電圧を評価した。評価結果を表1に示す。さらに、表1には、Gebulk、及び、Gesurf/Gebulkも示す。
【0044】
[放電容量の測定]
上記試験セルについて、25℃の温度条件下で、セル電圧が4.9Vになるまで0.2Cで定電流充電を行い、その後、セル電圧が3.0Vになるまで0.2Cで定電流放電を行って放電容量を求めた。
【0045】
[SOC50%における電圧の評価]
上記試験セルについて、25℃の温度条件下で、電池の設計容量の50%まで0.2Cで定電流充電を行い、その後、1Cで定電流放電する際の初期の電圧をSOC50%における電圧とした。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて、放電容量が大きく、SOC50%における電圧が高かった。特に、Gebulkを0.082とした実施例1は大きく特性が改善した。
【符号の説明】
【0048】
1 外装体
2 封口板
3 電極体
4 正極芯体露出部
5 負極芯体露出部
6 正極集電体
7 正極端子
8 負極集電体
9 負極端子
10 電解質注液孔
11 ガス排出弁
13 正極外部導電部
14 正極ボルト部
15 正極挿入部
16 負極外部導電部
17 負極ボルト部
18 負極挿入部
100 二次電池
図1