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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
   B28B 3/02 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
B28B3/02 S
B28B3/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021550427
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2020032038
(87)【国際公開番号】W WO2021065253
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019178350
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】澤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達郎
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】金 公彦
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-79202(JP,A)
【文献】特開平10-101450(JP,A)
【文献】特開平3-115148(JP,A)
【文献】特開平4-130041(JP,A)
【文献】特開2001-302312(JP,A)
【文献】特開2002-87861(JP,A)
【文献】特公平6-49604(JP,B2)
【文献】特公昭58-11378(JP,B2)
【文献】特表2019-524621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/00- 5/12
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーマイト又は酸化亜鉛を主成分として含む無機物質からなる複数の粒子により構成されており、前記無機物質の粒子同士が互いに結合することにより形成された無機マトリックス部と、
前記無機物質に由来し、前記無機物質と有機質繊維との間、前記無機物質の間及び前記有機質繊維の間に形成される連結部を介して、前記無機マトリックス部と直接固着しており、さらに前記無機マトリックス部の内部に分散した状態で存在する有機質繊維と、
を備え、
前記無機物質の粒子同士は、前記無機物質に由来し、前記無機物質と前記有機質繊維との間、前記無機物質の間及び前記有機質繊維の間に形成される連結部を介して互いに結合しており、
前記無機マトリックス部の断面における気孔率が20%以下であり、
前記無機物質は、カルシウム化合物の水和物を含まない、複合部材。
【請求項2】
前記無機マトリックス部の体積に対する前記有機質繊維の体積の割合は、20%未満である、請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記無機マトリックス部の断面における気孔率が10%以下である、請求項1又は2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記有機質繊維は、石油由来物又は植物由来物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項5】
前記有機質繊維は、セルロースナノファイバーである、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項6】
前記無機物質は多結晶体である、請求項1から5のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項7】
前記連結部は、非晶質の無機化合物を含むアモルファス部である、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項8】
前記無機物質の粒子及び前記アモルファス部は同じ金属元素を含有する、請求項7に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、高強度で耐熱性が高い反面、ひずみ難いことが知られている。そのため、セラミックスに荷重が加わった際、荷重を緩和する能力が小さいことから、突発的な破壊が生じることがある。このような特性を改善するために、従来より、セラミックスに繊維を配合することにより、強度を向上させる研究が盛んに行われている。
【0003】
特許文献1は、ポリエステル系樹脂中でセルロースを微細化して得られたセルロースナノファイバー含有のマスターバッチ(A)、無水マレイン酸共重合樹脂(B)、及び水(C)を含有するセメント用混和剤を開示している。そして、セメント用混和剤をセメント組成物に加えることにより、セメント組成物中に均一にセルロースナノファイバーを分散させることができ、その結果、コンクリート、モルタル等のセメント成形体の強度が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-155357号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、セメント成形体は主に水和物からなり、気孔が多く存在することから、たとえ繊維を配合したとしても、得られる成形体の機械的強度が不十分であるという問題があった。また、セメント成形体に多数の気孔が存在する場合、繊維は大気と接触するため、長期間の使用により繊維が酸化劣化してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、有機質繊維を用いた場合でも長期的に安定であり、さらに機械的強度に優れた複合部材を提供することにある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様に係る複合部材は、金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方を含む無機物質によって構成される無機マトリックス部と、無機マトリックス部を構成する無機物質とは異なる接着物質を介することなく、無機マトリックス部と直接固着しており、さらに無機マトリックス部の内部に分散した状態で存在する有機質繊維とを備える。そして、複合部材は、無機マトリックス部の断面における気孔率が20%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係る複合部材の一例を概略的に示す断面図である。
図2図2(a)は、図1の複合部材の断面を拡大して示す概略図である。図2(b)は、無機物質の粒子群の粒界近傍を概略的に示す断面図である。
図3図3は、本実施形態に係る複合部材の他の例を概略的に示す断面図である。
図4図4は、本実施形態に係る複合部材の他の例を概略的に示す断面図である。
図5図5(a)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置1の二次電子像を示す図である。図5(b)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置1の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
図6図6(a)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置2の二次電子像を示す図である。図6(b)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置2の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
図7図7(a)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置3の二次電子像を示す図である。図7(b)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置3の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本実施形態に係る複合部材について説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
[複合部材]
本実施形態の複合部材100は、図1に示すように、無機マトリックス部10と、無機マトリックス部10を構成する無機物質とは異なる接着物質を介することなく、無機マトリックス部10と直接固着している有機質繊維20とを備えている。そして、複合部材100において、有機質繊維20は、無機マトリックス部10の内部に分散した状態で、無機マトリックス部10に固着している。
【0011】
無機マトリックス部10は、図2に示すように、無機物質からなる複数の粒子11により構成されており、無機物質の粒子11同士が互いに結合することにより、無機マトリックス部10が形成されている。
【0012】
無機マトリックス部10を構成する無機物質は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有していることが好ましい。本明細書において、アルカリ土類金属は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムに加えて、ベリリウム及びマグネシウムを包含する。卑金属は、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、すず、水銀、タリウム、鉛、ビスマス及びポロニウムを包含する。半金属は、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルを包含する。この中でも、無機物質は、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有していることが好ましい。これらの金属元素を含有する無機物質は、後述するように、加圧加熱法により、無機物質に由来する連結部を容易に形成することが可能となる。
【0013】
無機物質は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを主成分として含有することがより好ましい。つまり、無機物質は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましい。なお、上述の金属元素の酸化物は、金属元素に酸素のみが結合した化合物に加え、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩及びホウ酸塩を包含している。このような無機物質は、大気中の酸素及び水蒸気に対する安定性が高いことから、無機マトリックス部10の内部に有機質繊維20を分散させることにより、有機質繊維20と酸素及び水蒸気との接触を抑制して、有機質繊維20の劣化を抑えることができる。
【0014】
無機マトリックス部10を構成する無機物質は、酸化物であることが特に好ましい。無機物質が上記金属元素の酸化物からなることにより、より耐久性の高い複合部材100を得ることができる。なお、金属元素の酸化物は、金属元素に酸素のみが結合した化合物であることが好ましい。
【0015】
無機マトリックス部10を構成する無機物質は、多結晶体であることが好ましい。つまり、無機物質の粒子11は結晶質の粒子であり、無機マトリックス部10は多数の粒子11が凝集してなるものであることが好ましい。無機マトリックス部10を構成する無機物質が多結晶体であることにより、無機物質がアモルファスからなる場合と比べて、耐久性の高い複合部材100を得ることができる。なお、無機物質の粒子11は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有する結晶質の粒子であることがより好ましい。また、無機物質の粒子11は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを含有する結晶質の粒子であることが好ましい。無機物質の粒子11は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを主成分とする結晶質の粒子であることがより好ましい。
【0016】
なお、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、ベーマイトであることも好ましい。ベーマイトは、AlOOHの組成式で示されるアルミニウムオキシ水酸化物である。ベーマイトは、水に不溶であり、酸及びアルカリにも常温下では殆ど反応しないことから化学的安定性が高く、さらに脱水温度が500℃前後と高いことから耐熱性にも優れるという特性を有する。また、ベーマイトは、比重が3.07程度であるため、無機マトリックス部10がベーマイトからなる場合には、軽量であり、かつ、化学的安定性に優れる複合部材100を得ることができる。
【0017】
無機マトリックス部10を構成する無機物質がベーマイトである場合、粒子11は、ベーマイト相のみからなる粒子であってもよく、ベーマイトと、ベーマイト以外の酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムとの混合相からなる粒子であってもよい。例えば、粒子11は、ベーマイトからなる相と、ギブサイト(Al(OH))からなる相が混合した粒子であってもよい。
【0018】
上述のように、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを主成分として含有することがより好ましい。そのため、無機マトリックス部10も、酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を主成分とすることが好ましい。つまり、無機マトリックス部10は、酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましい。ただ、無機マトリックス部10は、実質的に水和物を含まないことが好ましい。本明細書において、「無機マトリックス部は、実質的に水和物を含まない」とは、無機マトリックス部10に故意に水和物を含有させたものではないことを意味する。そのため、無機マトリックス部10に水和物が不可避不純物として混入した場合は、「無機マトリックス部は、実質的に水和物を含まない」という条件を満たす。なお、ベーマイトはオキシ水酸化物であることから、本明細書においては水和物に包含されない。
【0019】
無機マトリックス部10を構成する無機物質は、カルシウム化合物の水和物を含まないことが好ましい。ここでいうカルシウム化合物は、ケイ酸三カルシウム(エーライト、3CaO・SiO)、ケイ酸二カルシウム(ビーライト、2CaO・SiO)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al・Fe)、硫酸カルシウム(CaSO・2HO)である。無機マトリックス部10を構成する無機物質が上記カルシウム化合物の水和物を含む場合、得られる複合部材は、無機マトリックス部の断面における気孔率が20%を超えて、強度が低下する可能性がある。そのため、無機物質は、上記カルシウム化合物の水和物を含まないことが好ましい。また、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、リン酸セメント、リン酸亜鉛セメント、及びリン酸カルシウムセメントも含まないことが好ましい。無機物質がこれらのセメントを含まないことにより、無機マトリックス部の断面における気孔率が低下することから、機械的強度を高めることができる。
【0020】
無機マトリックス部10を構成する無機物質の粒子11の平均粒子径は、特に限定されない。ただ、粒子11の平均粒子径は、300nm以上50μm以下であることが好ましく、300nm以上30μm以下であることがより好ましく、300nm以上10μm以下であることがさらに好ましく、300nm以上5μm以下であることが特に好ましい。無機物質の粒子11の平均粒子径がこの範囲内であることにより、粒子11同士が強固に結合し、無機マトリックス部10の強度を高めることができる。また、無機物質の粒子11の平均粒子径がこの範囲内であることにより、無機マトリックス部10の内部に存在する気孔の割合が20%以下となることから、有機質繊維20の酸化劣化を抑制することが可能となる。なお、本明細書において、「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0021】
無機物質の粒子11の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、粒子11は、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。ウィスカー状粒子又は鱗片状粒子は、球状粒子と比べて他の粒子との接触性が高まり、無機マトリックス部10の強度が向上しやすい。そのため、粒子11としてこのような形状の粒子を用いることにより、複合部材100全体の強度を高めることが可能となる。なお、ウィスカー状の粒子11としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化アルミニウム(Al)の少なくとも一つを含有する粒子を用いることができる。
【0022】
上述のように、複合部材100において、無機マトリックス部10は、無機物質の粒子群により構成されていることが好ましい。つまり、無機マトリックス部10は、無機物質からなる複数の粒子11により構成されており、無機物質の粒子11同士が互いに結合することにより、無機マトリックス部10が形成されていることが好ましい。この際、粒子11同士は、点接触の状態であってもよく、粒子11の粒子面同士が接触した面接触の状態であってもよい。そして、有機質繊維20は、無機マトリックス部10の内部で略均一に分散した状態で存在することが好ましい。ただ、有機質繊維20は、無機物質の粒子11の粒界に存在することが好ましい。図2に示すように、有機質繊維20が隣接する無機物質の粒子11の間に偏在することにより、無機物質の粒子11間の空隙を埋めるように有機質繊維20が変形する。そのため、無機マトリックス部10の内部に存在する気孔の割合をより低減することが可能となる。
【0023】
複合部材100において、無機マトリックス部10が無機物質の粒子群により構成されている場合、隣接する無機物質の粒子11の間には、有機質繊維20が存在していてもよい。ただ、図2に示すように、隣接する無機物質の粒子11の間には、有機質繊維20以外に、非晶質の無機化合物を含むアモルファス部30が存在していてもよい。アモルファス部30が存在することにより、隣接する無機物質の粒子11同士がアモルファス部30を介して結合するため、無機マトリックス部10の強度をより高めることが可能となる。なお、アモルファス部30は、少なくとも無機物質の粒子11の表面に接触するように存在することが好ましい。また、アモルファス部30は、隣接する無機物質の粒子11の間に加えて、無機物質の粒子11と有機質繊維20との間、及び、隣接する有機質繊維20の間に存在していてもよい。
【0024】
アモルファス部30は、非晶質の無機化合物を含むことが好ましい。具体的には、アモルファス部30は、非晶質の無機化合物のみからなる部位であってもよく、非晶質の無機化合物と結晶質の無機化合物とが混在してなる部位であってもよい。また、アモルファス部30は、非晶質の無機化合物の内部に結晶質の無機化合物が分散した部位であってもよい。
【0025】
無機物質の粒子11及びアモルファス部30は同じ金属元素を含有し、当該金属元素はアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。つまり、粒子11を構成する無機化合物と、アモルファス部30を構成する非晶質の無機化合物は、少なくとも同じ金属元素を含有していることが好ましい。また、粒子11を構成する無機化合物と、アモルファス部30を構成する非晶質の無機化合物は化学組成が同じであってもよく、化学組成が異なっていてもよい。具体的には、金属元素が亜鉛である場合、粒子11を構成する無機化合物とアモルファス部30を構成する非晶質の無機化合物は、両方とも酸化亜鉛(ZnO)であってもよい。または、粒子11を構成する無機化合物がZnOであるが、アモルファス部30を構成する非晶質の無機化合物はZnO以外の亜鉛含有酸化物であってもよい。
【0026】
なお、アモルファス部30が非晶質の無機化合物と結晶質の無機化合物とが混在してなる部位の場合、非晶質の無機化合物と結晶質の無機化合物は化学組成が同じであってもよく、また化学組成が互いに異なっていてもよい。
【0027】
複合部材100において、粒子11及びアモルファス部30は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素の酸化物を含有することが好ましい。このような金属元素の酸化物は耐久性が高いことから、有機質繊維20と酸素及び水蒸気との接触を長期間に亘って抑制して、有機質繊維20の劣化を抑えることができる。
【0028】
粒子11及びアモルファス部30の両方に含まれる金属元素の酸化物は、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、並びに酸化亜鉛と酸化マグネシウムとの複合体からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。後述するように、これらの金属元素の酸化物を用いることにより、簡易な方法でアモルファス部30を形成することが可能となる。
【0029】
上述のように、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、ベーマイトであってもよい。この場合、無機マトリックス部10の粒子11は、ベーマイト相のみからなる粒子であってもよく、ベーマイトと、ベーマイト以外の酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムとの混合相からなる粒子であってもよい。そして、この場合、隣接する粒子11は、アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合していることが好ましい。つまり、粒子11は、有機化合物からなる有機バインダーで結合しておらず、アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物以外の無機化合物からなる無機バインダーでも結合していないことが好ましい。なお、隣接する粒子11がアルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合している場合、当該アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物は結晶質であってもよく、また、非晶質であってもよい。
【0030】
無機マトリックス部10がベーマイトからなる場合、ベーマイト相の存在割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。ベーマイト相の割合が増加することにより、軽量であり、かつ、化学的安定性及び耐熱性に優れた無機マトリックス部10を得ることができる。なお、無機マトリックス部10におけるベーマイト相の割合は、X線回折法により無機マトリックス部10のX線回折パターンを測定した後、リートベルト解析を行うことにより、求めることができる。
【0031】
複合部材100において、無機マトリックス部10の断面における気孔率は、20%以下であることが好ましい。つまり、無機マトリックス部10の断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔の割合の平均値が20%以下であることが好ましい。気孔率が20%以下の場合には、緻密な無機物質の内部に、有機質繊維20を封止することができる。そのため、複合部材100の外部からの酸素及び水蒸気と、有機質繊維20との接触率が減少することから、有機質繊維20の腐食を抑制し、長期間に亘って有機質繊維20の特性を維持することが可能となる。なお、無機マトリックス部10の断面における気孔率は15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。無機マトリックス部10の断面における気孔率が小さいほど、有機質繊維20と酸素及び水蒸気との接触が抑制されるため、有機質繊維20の酸化劣化を防ぐことが可能となる。
【0032】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、無機マトリックス部10の断面を観察し、無機マトリックス部10、有機質繊維20及び気孔を判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔の割合を求める。このような単位面積あたりの気孔の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔の割合の平均値を、気孔率とする。なお、無機マトリックス部10の断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0033】
複合部材100において、有機質繊維20は、有機化合物からなる繊維状物質であり、その分子量に基づく高い強度を有している。このような有機質繊維20としては、植物繊維及び動物繊維の少なくとも一方を用いることができる。植物繊維としては、例えば、木質繊維、綿、麻、ケナフなどを挙げることができる。動物繊維としては、例えば絹、羊毛、カシミアなどを挙げることができる。
【0034】
また、有機質繊維20としては、再生繊維、半合成繊維及び合成繊維の少なくとも一つを用いることもできる。再生繊維としては、レーヨン及びリヨセルなどを挙げることができる。半合成繊維としては、アセテート及びトリアセテートなどを挙げることができる。合成繊維としては、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリフルオロエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリウレタン繊維などを挙げることができる。
【0035】
有機質繊維20の繊維長は特に限定されないが、1nm~10mmであることが好ましく、10nm~1mmであることがより好ましい。また、有機質繊維20の繊維径も特に限定されないが、1nm~1mmであることが好ましく、5nm~500μmであることがより好ましい。有機質繊維20がこのような繊維長及び繊維径を有することにより、無機マトリックス部10の内部に高分散し、複合部材100の機械的強度をより高めることができる。
【0036】
上述のように、有機質繊維20は、石油由来物又は植物由来物であることが好ましい。有機質繊維20が、石油を加工して得られる繊維又は植物を加工して得られる繊維である場合には、安定的に入手することができるため、工業生産に適した複合部材100を得ることができる。
【0037】
有機質繊維20は、表面が親水性であることが好ましい。具体的には、有機質繊維20は、表面に親水性の官能基を有していることが好ましい。有機質繊維20が親水性であることにより、複合部材100の製造過程で溶媒として水を使用した場合、有機質繊維20が凝集し難くなることから、有機質繊維20を無機マトリックス部10に高分散させることができる。なお、必要に応じて、有機質繊維20の表面を親水性にするための処理を施してもよい。具体的には、有機質繊維20の表面をシランカップリング剤で処理することにより、親水化させてもよい。
【0038】
なお、有機質繊維20は、セルロースナノファイバー(CNF)であることが好ましい。セルロースナノファイバーは、軽量、高強度、低熱膨張性という特徴を有することから、無機マトリックス部10の内部に分散させることにより、複数の粒子11に密着し、無機マトリックス部10の破損を抑制する。また、セルロースナノファイバーは水との親和性が高いため、製造過程で溶媒として水を使用した際には、セルロースナノファイバーが解繊しやすくなり、無機マトリックス部10に高分散させることが可能となる。
【0039】
セルロースナノファイバーは特に限定されないが、原料であるパルプのナノ解繊を促進する方法により得られたものを用いることが好ましい。具体的には、セルロースナノファイバーとしては、表面にカルボキシメチル基を導入したカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを用いることができる。また、セルロースナノファイバーとしては、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル)を触媒に用い、表面にカルボキシ基を導入したTEMPO酸化セルロースナノファイバーを用いることができる。
【0040】
本実施形態の複合部材100は、図1に示すように、有機質繊維20が、無機マトリックス部10に直接固着した状態で、無機マトリックス部10の内部に分散している。上述のように、無機マトリックス部10自体は、無機物質の粒子11同士が結合することにより形成されているため、硬度は高いが脆性破壊しやすい。しかしながら、無機マトリックス部10の内部に有機質繊維20を分散させることにより、無機物質の粒子11同士を有機質繊維20で連結しやすくなる。つまり、無機マトリックス部10に有機質繊維20を分散させることにより、有機質繊維20同士が絡み合いつつ、さらに粒子11にも絡み合う。そのため、無機マトリックス部10に外力が加わった場合でも、ひび割れ等の発生を抑制することができる。また、仮に無機マトリックス部10にひび割れが発生したとしても、有機質繊維20を分散させることにより、ひび割れ面間をつなぎ止め、無機マトリックス部10の破断を抑制することができる。
【0041】
また、複合部材100は、断面における気孔率が20%以下である。そのため、酸素及び水蒸気と有機質繊維20との接触率が減少することから、有機質繊維20の酸化分解を抑制し、長期間に亘って複合部材100の機械的強度を維持することが可能となる。さらに、無機マトリックス部10は、内部の気孔が少なく、無機物質が緻密となっていることから、複合部材100は高い強度を有することができる。
【0042】
複合部材100の形状は特に限定されないが、例えば板状とすることができる。また、複合部材100(無機マトリックス部10)の厚みtは特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。複合部材100の厚みtは1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。複合部材100の厚みtの上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0043】
複合部材100において、有機質繊維20は、無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連続的に存在せず、かつ、無機マトリックス部10の表面10aに膜状に存在していないことが好ましい。具体的には、有機質繊維20は、無機マトリックス部10の内部に分散した状態で存在していることが好ましい。また、有機質繊維20の一部は、無機マトリックス部10の内部で偏析してもよい。ただ、有機質繊維20aは、図3に示すような、無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連続的に存在している状態ではないことが好ましい。無機マトリックス部10の表面10aに存在する有機質繊維20aは、大気中の酸素及び水蒸気に接触して劣化する可能性がある。無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連続的に存在している有機質繊維20aも、表面10aに存在する有機質繊維20aの酸化劣化に起因して劣化する可能性がある。そのため、有機質繊維20の劣化を抑制する観点から、有機質繊維20は、無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連続的に存在していないことが好ましい。
【0044】
複合部材100において、無機マトリックス部10は、無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連通する空隙10bを有しないことが好ましい。無機マトリックス部10の内部の有機質繊維20は、無機物質の粒子11により覆われているため、酸化劣化し難い。ただ、図4に示すように、無機マトリックス部10に空隙10bが存在する場合、空隙10bを通じて無機マトリックス部10の内部に酸素及び水蒸気が到達してしまい、無機マトリックス部10の内部の有機質繊維20と接触する可能性がある。そのため、有機質繊維20の酸化劣化を抑制する観点から、無機マトリックス部10は、表面10aから内部にかけて連通する空隙10bを有しないことが好ましい。
【0045】
複合部材100において、無機マトリックス部10は有機質繊維20よりも体積比率が大きいことが好ましい。具体的には、無機マトリックス部10の体積に対する有機質繊維20の体積の割合([有機質繊維の体積]/[無機マトリックス部の体積])は、20%未満であることが好ましい。無機マトリックス部10の体積比率を有機質繊維20よりも高めることにより、有機質繊維20の周囲を無機物質の粒子11で覆いやすくなる。そのため、有機質繊維20の劣化をより抑制する観点から、無機マトリックス部10は有機質繊維20よりも体積比率が大きいことが好ましい。
【0046】
このように、本実施形態の複合部材100は、金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方を含む無機物質によって構成される無機マトリックス部10を備える。複合部材100は、さらに、無機マトリックス部10を構成する無機物質とは異なる接着物質を介することなく、無機マトリックス部10と直接固着しており、さらに無機マトリックス部10の内部に分散した状態で存在する有機質繊維20を備える。そして、複合部材100は、無機マトリックス部10の断面における気孔率が20%以下である。複合部材100では、無機マトリックス部10の内部に有機質繊維20を分散させているため、無機物質の粒子11同士を有機質繊維20により連結し、複合部材100の機械的強度及び靱性を高めることができる。さらに、複合部材100は断面における気孔率が20%以下であることから、酸素及び水蒸気と有機質繊維20との接触が抑制され、有機質繊維20を長期間に亘って安定的に分散させることができる。
【0047】
[複合部材の製造方法]
次に、本実施形態に係る複合部材の製造方法について説明する。複合部材は、無機物質の粒子と有機質繊維20との混合物を、溶媒を含んだ状態で加圧して加熱することにより製造することができる。このような加圧加熱法を用いることにより、無機物質同士が互いに結合し、無機マトリックス部10を形成することができる。
【0048】
具体的には、まず、無機物質の粉末と有機質繊維20を混合して混合物を調製する。無機物質の粉末と有機質繊維20の混合方法は特に限定されず、乾式又は湿式で行うことができる。また、無機物質の粉末と有機質繊維20は空気中で混合してもよく、不活性雰囲気下で混合してもよい。
【0049】
ここで、無機物質の粉末は、平均粒子径D50が300nm以上50μm以下の範囲内にあることが好ましい。このような無機物質は、取り扱いが容易なだけでなく、比較的大きな比表面積を持つことから、混合物を加圧した際に粒子同士の接触面積が大きくなる。そのため、無機物質同士の結着力を高めるように作用し、無機マトリックス部10の緻密性を向上させることが可能となる。
【0050】
次に、混合物に溶媒を添加する。溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、混合物を加圧及び加熱した際に、無機物質の一部を溶解することが可能なものを用いることができる。また、溶媒としては、無機物質と反応して、当該無機物質とは異なる無機物質を生成することが可能なものを用いることができる。このような溶媒としては、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、水、アルコール、ケトン及びエステルからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。酸性水溶液としては、pH1~3の水溶液を用いることができる。アルカリ性水溶液としては、pH10~14の水溶液を用いることができる。酸性水溶液としては、有機酸の水溶液を用いることが好ましい。また、アルコールとしては、炭素数が1~12のアルコールを用いることが好ましい。
【0051】
次いで、無機物質と有機質繊維20と溶媒とを含む混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、無機物質及び有機質繊維20が緻密化すると同時に、無機物質の粒子同士が互いに結合する。
【0052】
ここで、溶媒として、無機物質の一部を溶解するものを用いた場合、高圧状態では、無機物質を構成する無機化合物が溶媒に溶解する。溶解した無機化合物は、無機物質と有機質繊維20との間の空隙、無機物質の間の空隙、及び有機質繊維20の間の空隙に浸入する。そして、この状態で混合物中の溶媒を除去することにより、無機物質と有機質繊維20との間、無機物質の間及び有機質繊維20の間に、無機物質に由来する連結部が形成される。また、溶媒として、無機物質と反応して、当該無機物質とは異なる無機物質を生成するものを用いた場合、高圧状態では、無機物質を構成する無機化合物が溶媒と反応する。そして、反応により生成した他の無機物質が、無機物質と有機質繊維20との間の空隙、無機物質の間の空隙、及び有機質繊維20の間の空隙に充填され、他の無機物質に由来する連結部が形成される。
【0053】
無機物質と有機質繊維20と溶媒とを含む混合物の加熱加圧条件は、溶媒として、無機物質の一部を溶解するものを用いた場合、無機物質の表面の溶解が進行するような条件であれば特に限定されない。また、当該混合物の加熱加圧条件は、溶媒として、無機物質と反応して、当該無機物質とは異なる無機物質を生成するものを用いた場合、無機物質と溶媒との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、無機物質と有機質繊維20と溶媒とを含む混合物を、50~300℃に加熱した後、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、無機物質と有機質繊維20と溶媒とを含む混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、無機物質と有機質繊維20と溶媒とを含む混合物を加圧する際の圧力は、50~400MPaであることがより好ましく、50~200MPaであることがさらに好ましい。加熱温度をこのような数値範囲内に限定することによって、有機質繊維の変質や消失を抑制し、無機マトリックス部と有機質繊維とが複合された所望の複合部材を得ることができる。また、圧力をこのような数値範囲内に限定することによって、緻密で、かつ、内部歪を抑制した複合部材を得ることができる。
【0054】
そして、金型の内部から成型体を取り出すことにより、複合部材を得ることができる。なお、無機物質と有機質繊維20との間、無機物質の間及び有機質繊維20の間に形成された、無機物質に由来の連結部は、上述のアモルファス部30であることが好ましい。
【0055】
ここで、セラミックスからなる無機部材の製造方法としては、従来より焼結法が知られている。焼結法は、無機物質からなる固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、焼結体を得る方法である。ただ、焼結法では、例えば1000℃以上に固体粉末を加熱する。そのため、焼結法を用いて無機物質と有機質繊維からなる複合部材を得ようとしても、高温での加熱により有機質繊維が炭化してしまうため、複合部材が得られない。しかしながら、本実施形態の複合部材の製造方法では、無機物質の粉末と有機質繊維20を混合してなる混合物を、300℃以下という低温で加熱するため、有機質繊維20の炭化が起こり難い。そのため、無機物質からなる無機マトリックス部10に有機質繊維20を直接固着することができる。
【0056】
さらに、本実施形態の製造方法では、無機物質の粉末と有機質繊維20を混合してなる混合物を、加熱しながら加圧していることから、無機物質が凝集して緻密な無機マトリックス部10となる。その結果、無機マトリックス部10内部の気孔が少なくなることから、高い強度を有する複合部材100を得ることができる。
【0057】
次に、無機マトリックス部10を構成する無機物質がベーマイトである複合部材100の製造方法について説明する。無機物質がベーマイトである複合部材100は、水硬性アルミナと有機質繊維20と水を含む溶媒とを混合した後、加圧して加熱することにより製造することができる。水硬性アルミナは、水酸化アルミニウムを加熱処理して得られる酸化物であり、ρアルミナを含んでいる。このような水硬性アルミナは、水和反応によって結合及び硬化する性質を有する。そのため、加圧加熱法を用いることにより、水硬性アルミナの水和反応が進行して水硬性アルミナ同士が互いに結合しつつ、ベーマイトに結晶構造が変化することにより、無機マトリックス部10を形成することができる。
【0058】
具体的には、まず、水硬性アルミナの粉末と、有機質繊維20と、水を含む溶媒とを混合して混合物を調製する。水を含む溶媒は、純水又はイオン交換水であることが好ましい。ただ、水を含む溶媒は、水以外に、酸性物質又はアルカリ性物質が含まれていてもよい。また、水を含む溶媒は水が主成分であればよく、例えば有機溶媒(例えばアルコールなど)が含まれていてもよい。
【0059】
水硬性アルミナに対する溶媒の添加量は、水硬性アルミナの水和反応が十分に進行する量であることが好ましい。溶媒の添加量は、水硬性アルミナに対して20~200質量%が好ましく、50~150質量%がより好ましい。
【0060】
次いで、水硬性アルミナと有機質繊維20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、水硬性アルミナが高充填化し、水硬性アルミナの粒子同士が互いに結合することで、高密度化する。具体的には、水硬性アルミナに水を加えることにより、水硬性アルミナが水和反応し、水硬性アルミナ粒子の表面に、ベーマイトと水酸化アルミニウムが生成する。そして、金型内部で当該混合物を加熱しながら加圧することにより、生成したベーマイトと水酸化アルミニウムが隣接する水硬性アルミナ粒子の間を相互に拡散して、水硬性アルミナ粒子同士が徐々に結合する。その後、加熱により脱水反応が進行することで、水酸化アルミニウムからベーマイトに結晶構造が変化する。なお、このような水硬性アルミナの水和反応、水硬性アルミナ粒子間の相互拡散、及び脱水反応は、ほぼ同時に進行すると推測される。
【0061】
そして、金型の内部から成型体を取り出すことにより、有機質繊維20が固着しつつも、複数の粒子11同士がアルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合した複合部材100を得ることができる。
【0062】
なお、水硬性アルミナと有機質繊維20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、水硬性アルミナと当該溶媒との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、水硬性アルミナと有機質繊維20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物を、50~300℃に加熱しつつ、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、水硬性アルミナと有機質繊維20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、水硬性アルミナと有機質繊維20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加圧する際の圧力は、50~600MPaであることがより好ましく、200~600MPaであることがさらに好ましい。
【0063】
このように、複合部材の製造方法は、無機物質の粉末と有機質繊維20とを混合して混合物を得る工程と、無機物質を溶解する溶媒又は無機物質と反応する溶媒を混合物に添加した後、当該混合物を加圧及び加熱する工程とを有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。本実施形態の製造方法では、このような低温条件下で複合部材100を成型することから、有機質繊維20の炭化を抑制して、有機質繊維20を無機マトリックス部10に直接固着することができる。
【0064】
また、無機物質がベーマイトである複合部材100の製造方法は、水硬性アルミナと有機質繊維20と水を含む溶媒とを混合して混合物を得る工程と、当該混合物を加圧及び加熱する工程とを有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。この製造方法では、低温条件下で複合部材100を成型することから、得られる部材はベーマイト相を主体とする。そのため、軽量であり、かつ、化学的安定性に優れた複合部材100を簡易な方法で得ることができる。
【0065】
[複合部材の用途]
次に、本実施形態に係る複合部材100の用途について説明する。複合部材100は、上述のように、機械的強度が高く、さらに厚みの大きな板状とすることができることから、構造物に用いることができる。そして、複合部材100を備える構造物としては、住宅設備、住宅部材、建材、建造物であることが好ましい。住宅設備、住宅部材、建材及び建造物は、人の生活の中で需要が多い構造物であることから、複合部材100を構造物に用いることにより、新しい大きな市場の創出効果を期待することができる。
【0066】
本実施形態の複合部材は、建築部材に使用することができる。言い換えれば、本実施形態の建築部材は、複合部材100を備えている。建築部材は建築用に製造された部材であり、本実施形態では少なくとも一部に複合部材100を使用することができる。複合部材100は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができ、さらに高い強度及び耐久性を有している。そのため、複合部材100を建築部材として好適に用いることができる。建築部材としては、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材などを挙げることができる。また、建築部材としては、道路用材料、外溝用材料も挙げることができる。
【0067】
さらに、本実施形態の複合部材は、内装部材にも使用することができる。言い換えれば、本実施形態の内装部材は、複合部材100を備えている。内装部材としては、例えば、浴槽、キッチンカウンター、洗面台、床材などを挙げることができる。
【実施例
【0068】
以下、実施例により本実施形態の複合部材をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0069】
[試験サンプルの調製]
(実施例1)
無機粒子として、平均粒子径D50が約1μmの酸化亜鉛粒子(株式会社高純度化学研究所製、純度99.99%)を準備した。また、有機質繊維として、日本製紙株式会社製セルロースナノファイバー、セレンピア(登録商標)CS-01(カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)を準備した。そして、酸化亜鉛粒子に対して5体積%となるようにセルロースナノファイバー粉末を秤量した後、酸化亜鉛粒子と有機質繊維の粉末とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合粉末を得た。
【0070】
次に、得られた混合粉末を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。さらに、成形用金型の内部に充填した混合粉末に、1Mの酢酸を、酸化亜鉛粒子に対して20質量%となるように添加した。そして、当該酢酸を含んだ混合粉末を、100MPa、150℃、30分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプルを得た。
【0071】
(実施例2)
酸化亜鉛粒子に対して10体積%となるようにセルロースナノファイバー粉末を添加したこと以外は実施例1と同様にして、本例の試験サンプルを得た。
【0072】
(実施例3)
酸化亜鉛粒子に対して15体積%となるようにセルロースナノファイバー粉末を添加したこと以外は実施例1と同様にして、本例の試験サンプルを得た。
【0073】
(比較例1)
セルロースナノファイバー粉末を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、本例の試験サンプルを得た。
【0074】
実施例1~3及び比較例1の試験サンプルにおける、セルロースナノファイバーの添加量を、表1に纏めて示す。
【0075】
【表1】
【0076】
[試験サンプルの評価]
(曲げ強さ測定)
各例の試験サンプルについて、日本工業規格JIS R1601(ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)に準拠して曲げ強さを測定した。なお、試験サンプルの曲げ強さは、JIS R1601の3点曲げ強さ試験方法により測定した。各例の試験サンプルにおける応力の最大値を表1に合わせて示す。
【0077】
表1に示すように、有機質繊維であるセルロースナノファイバーを添加することにより、曲げ応力が高まり、機械的強度が向上することが分かる。特に、酸化亜鉛に対するセルロースナノファイバーの添加量が5~10体積%の場合には、セルロースナノファイバーを添加しない場合に比べて、曲げ応力が5倍程度向上することが分かる。
【0078】
(密度割合測定)
まず、各例の試験サンプルの体積と質量から比重を求めた。さらに、酸化亜鉛の比重が5.6であり、セルロースナノファイバーの比重が1.4であることから、各試験サンプルの理論比重を求めた。つまり、実施例1の試験サンプルの場合、酸化亜鉛の体積割合が95%であり、セルロースナノファイバーの体積割合が5%であることから、理論比重は、5.6×0.95+1.4×0.05=5.39である。そして、理論比重に対する実際の比重([実際の比重]/[理論比重]×100)を密度割合(%)とした。各試験サンプルの密度割合を表1に合わせて示す。
【0079】
表1に示すように、セルロースナノファイバーの添加量が増加するにつれて、密度割合が低下することが分かる。つまり、試験サンプルの理論比重と比べて、実際の比重が低下することが分かる。この原因は、セルロースナノファイバーの割合が増加するにつれて、気孔が増加するためであると推測される。そのため、気孔率が20%を超えないように、有機質繊維の添加量を調整することが好ましい。
【0080】
(気孔率測定)
まず、円柱状である実施例2の試験サンプルの断面に、クロスセクションポリッシャー加工(CP加工)を施した。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、試験サンプルの断面について、20000倍の倍率で二次電子像を観察した。実施例2の試験サンプルにおける断面の3か所(位置1~3)を観察することにより得られた二次電子像を、図5(a)、図6(a)及び図7(a)に示す。観察した二次電子像において、灰色部が酸化亜鉛(無機物質の粒子11)であり、黒色部が気孔40である。なお、図5図6及び図7では確認できないものの、酸化亜鉛の粒子11の間には、微細なセルロースナノファイバーが分散している。
【0081】
次いで、3視野のSEM像についてそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。図5(a)、図6(a)及び図7(a)の二次電子像を二値化した画像を、それぞれ図5(b)、図6(b)及び図7(b)に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、図5(b)より、位置1の気孔部分の面積割合は4.6%であった。図6(b)より、位置2の気孔部分の面積割合は4.4%であった。図7(b)より、位置3の気孔部分の面積割合は1.6%であった。そのため、実施例2の試験サンプルの気孔率は、位置1~3の気孔部分の面積割合の平均値である3.5%であった。
【0082】
図5図6及び図7より、実施例2の試験サンプルの気孔率が20%以下であることから、有機質繊維は大気及び水蒸気との接触が抑制され、酸化劣化が抑えられることが分かる。
【0083】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0084】
特願2019-178350号(出願日:2019年9月30日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示によれば、有機質繊維を用いた場合でも長期的に安定であり、さらに機械的強度に優れた複合部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 無機マトリックス部
20 有機質繊維
100 複合部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7