(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
B28B 3/02 20060101AFI20240913BHJP
B28B 3/00 20060101ALI20240913BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B28B3/02 R
B28B3/00 C
C04B35/622
(21)【出願番号】P 2021550435
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032387
(87)【国際公開番号】W WO2021065261
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-08
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019178441
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】金 公彦
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-101450(JP,A)
【文献】国際公開第2018/039620(WO,A1)
【文献】特公昭60-59182(JP,B2)
【文献】特開平3-115148(JP,A)
【文献】特開平4-130041(JP,A)
【文献】特開2001-302312(JP,A)
【文献】特開2002-87861(JP,A)
【文献】特公平6-49604(JP,B2)
【文献】特公昭58-11378(JP,B2)
【文献】特表2018-537393(JP,A)
【文献】特表2019-524621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/00- 5/12
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーマイト又は酸化亜鉛を主成分として含む無機物質からなる複数の粒子により構成されており、前記無機物質の粒子同士が互いに結合することにより形成された無機マトリックス部と、
前記無機マトリックス部の内部に分散した状態で存在し、弾性を有し、樹脂を主成分として含む分散体と、を備え、
前記分散体を構成する材料の引張弾性率が100Pa以上3.5GPa以下であり、
前記無機物質の粒子同士は、前記無機物質に由来し
、前記無機物質と前記分散体との間、前記無機物質の間及び前記分散体の間に形成される連結部を介して互いに結合しており、
前記無機マトリックス部の断面における気孔率が20%以下であり、
前記無機物質は、カルシウム化合物の水和物を含まない、複合部材。
【請求項2】
前記分散体を構成する材料の引張弾性率が1000Pa以上0.5GPa以下である、請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記無機マトリックス部を構成する材料のヤング率は、前記分散体を構成する材料のヤング率より大きい、請求項1又は2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記分散体は、前記無機マトリックス部の表面から内部にかけて連続的に存在せず、かつ、前記無機マトリックス部の表面に膜状に存在していない、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項5】
前記無機マトリックス部は前記分散体よりも体積比率が大きい、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項6】
前記無機マトリックス部の断面における気孔率が10%以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項7】
前記連結部は、非晶質の無機化合物を含むアモルファス部である、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項8】
前記無機物質の粒子及び前記アモルファス部は同じ金属元素を含有する、請求項7に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、高強度で耐熱性が高い反面、ひずみ難いことが知られている。そのため、セラミックスに荷重(衝撃)が加わった際、荷重を緩和する能力が小さいことから、突発的な破壊が生じることがある。このような特性を改善するために、従来より、セラミックスに対して衝撃吸収性を付与する研究が盛んに行われている。
【0003】
特許文献1は、軽量かつ割れ難く、衝撃吸収性に優れた複合構造体を開示している。具体的には、特許文献1は、長尺状の芯材と該芯材の外周を被覆して前記芯材とは異なる組成からなる被覆層とで構成された複合繊維体を集束した繊維集束層と、単一セラミック層と、を積層した複合構造体を開示している。この構成により、衝撃によって発生したクラックの進行方向が複合繊維体と接触して偏向されることにより、高い衝撃吸収効果を発揮できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1の複合構造体では、繊維集束層と単一セラミック層は互いに構成材料が異なることから、繊維集束層と単一セラミック層は熱膨張率に差が生じてしまう。そのため、長期間の使用により、単一セラミック層から繊維集束層が剥離してしまう可能性があった。さらに、特許文献1の複合構造体は積層構造であることから、繊維集束層側からの衝撃には吸収効果があるものの、単一セラミック層側からの衝撃には吸収効果が不十分である。そのため、当該複合構造体は、繊維集束層側で衝撃を吸収するような形状にする必要があることから、衝撃吸収形状に制限があるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、長期的に安定であり、さらに全体として衝撃を吸収することが可能な複合部材を提供することにある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様に係る複合部材は、無機物質によって構成される無機マトリックス部と、無機マトリックス部の内部に分散した状態で存在し、弾性を有する分散体と、を備え、分散体を構成する材料の引張弾性率が100Pa以上3.5GPa以下である。そして、複合部材は、無機マトリックス部の断面における気孔率が20%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る複合部材の一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、本実施形態に係る複合部材の断面を拡大して示す概略図である。
図2(b)は、無機物質の粒子群の粒界近傍を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る複合部材の他の例を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る複合部材の他の例を概略的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施例1において、衝撃吸収性を測定するための方法を説明するための概略図である。
【
図6】
図6(a)は、実施例1-3の試験サンプルにおいて、位置1の二次電子像を示す図である。
図6(b)は、実施例1-3の試験サンプルにおいて、位置1の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図7】
図7(a)は、実施例1-3の試験サンプルにおいて、位置2の二次電子像を示す図である。
図7(b)は、実施例1-3の試験サンプルにおいて、位置2の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図8】
図8(a)は、実施例1-3の試験サンプルにおいて、位置3の二次電子像を示す図である。
図8(b)は、実施例1-3の試験サンプルにおいて、位置3の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図9】
図9(a)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置1の二次電子像を示す図である。
図9(b)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置1の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置2の二次電子像を示す図である。
図10(b)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置2の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図11】
図11(a)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置3の二次電子像を示す図である。
図11(b)は、実施例2の試験サンプルにおいて、位置3の二次電子像を二値化したデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本実施形態に係る複合部材について説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
[複合部材]
本実施形態の複合部材100は、
図1に示すように、無機物質によって構成される無機マトリックス部10と、無機マトリックス部10の内部に分散した状態で存在する分散体20とを備えている。無機マトリックス部10は、
図2に示すように、無機物質からなる複数の粒子11により構成されており、無機物質の粒子11同士が互いに結合することにより、無機マトリックス部10が形成されている。
【0011】
無機マトリックス部10を構成する無機物質は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有していることが好ましい。本明細書において、アルカリ土類金属は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムに加えて、ベリリウム及びマグネシウムを包含する。卑金属は、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、すず、水銀、タリウム、鉛、ビスマス及びポロニウムを包含する。半金属は、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルを包含する。この中でも、無機物質は、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有していることが好ましい。これらの金属元素を含有する無機物質は、後述するように、加圧加熱法により、無機物質に由来する連結部を容易に形成することが可能となる。
【0012】
無機物質は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを含有することが好ましい。また、無機物質は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを主成分として含有することがより好ましい。つまり、無機物質は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましい。なお、上述の金属元素の酸化物は、金属元素に酸素のみが結合した化合物に加え、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩及びホウ酸塩を包含している。このような無機物質は、大気中の酸素及び水蒸気に対する安定性が高いことから、無機マトリックス部10の内部に分散体20を分散させることにより、分散体20と酸素及び水蒸気との接触を抑制して、分散体20の劣化を抑えることができる。
【0013】
無機マトリックス部10を構成する無機物質は、酸化物であることが特に好ましい。無機物質が上記金属元素の酸化物からなることにより、より耐久性の高い複合部材100を得ることができる。なお、金属元素の酸化物は、金属元素に酸素のみが結合した化合物であることが好ましい。
【0014】
無機マトリックス部10を構成する無機物質は、多結晶体であることが好ましい。つまり、無機物質の粒子11は結晶質の粒子であり、無機マトリックス部10は多数の粒子11が凝集してなるものであることが好ましい。無機マトリックス部10を構成する無機物質が多結晶体であることにより、無機物質がアモルファスからなる場合と比べて、耐久性の高い複合部材100を得ることができる。なお、無機物質の粒子11は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有する結晶質の粒子であることがより好ましい。また、無機物質の粒子11は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを含有する結晶質の粒子であることが好ましい。無機物質の粒子11は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを主成分とする結晶質の粒子であることがより好ましい。
【0015】
なお、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、ベーマイトであることも好ましい。ベーマイトは、AlOOHの組成式で示されるアルミニウムオキシ水酸化物である。ベーマイトは、水に不溶であり、酸及びアルカリにも常温下では殆ど反応しないことから化学的安定性が高く、さらに脱水温度が500℃前後と高いことから耐熱性にも優れるという特性を有する。また、ベーマイトは、比重が3.07程度であるため、無機マトリックス部10がベーマイトからなる場合には、軽量であり、かつ、化学的安定性に優れる複合部材100を得ることができる。
【0016】
無機マトリックス部10を構成する無機物質がベーマイトである場合、粒子11は、ベーマイト相のみからなる粒子であってもよく、ベーマイトと、ベーマイト以外の酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムとの混合相からなる粒子であってもよい。例えば、粒子11は、ベーマイトからなる相と、ギブサイト(Al(OH)3)からなる相が混合した粒子であってもよい。
【0017】
なお、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、カルシウム化合物の水和物を含まないことが好ましい。ここでいうカルシウム化合物は、ケイ酸三カルシウム(エーライト、3CaO・SiO2)、ケイ酸二カルシウム(ビーライト、2CaO・SiO2)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al2O3)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)、硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)である。無機マトリックス部10を構成する無機物質が上記カルシウム化合物の水和物を含む場合、得られる複合部材は、無機マトリックス部の断面における気孔率が20%を超える可能性がある。そのため、無機物質は、上記カルシウム化合物の水和物を含まないことが好ましい。また、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、リン酸セメント、リン酸亜鉛セメント、及びリン酸カルシウムセメントも含まないことが好ましい。無機物質がこれらのセメントを含まないことにより、得られる複合部材の気孔率を20%以下にすることが可能となる。
【0018】
無機マトリックス部10を構成する無機物質の粒子11の平均粒子径は、特に限定されない。ただ、粒子11の平均粒子径は、300nm以上50μm以下であることが好ましく、300nm以上30μm以下であることがより好ましく、300nm以上10μm以下であることがさらに好ましく、300nm以上5μm以下であることが特に好ましい。無機物質の粒子11の平均粒子径がこの範囲内であることにより、粒子11同士が強固に結合し、無機マトリックス部10の強度を高めることができる。また、無機物質の粒子11の平均粒子径がこの範囲内であることにより、後述するように、無機マトリックス部10の内部に存在する気孔の割合が20%以下となることから、分散体20の劣化を抑制することが可能となる。なお、本明細書において、「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0019】
無機物質の粒子11の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、粒子11は、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。ウィスカー状粒子又は鱗片状粒子は、球状粒子と比べて他の粒子との接触性が高まり、無機マトリックス部10の強度が向上しやすい。そのため、粒子11としてこのような形状の粒子を用いることにより、複合部材100全体の強度を高めることが可能となる。なお、ウィスカー状の粒子11としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化アルミニウム(Al2O3)の少なくとも一つを含有する粒子を用いることができる。
【0020】
無機マトリックス部10の内部に分散する分散体20は、弾性を有する材料からなることが好ましい。無機マトリックス部10の内部に弾性を有する分散体20を分散させることにより、複合部材100の衝撃吸収性を高めることが可能となる。つまり、分散体20を内部に分散させることにより、複合部材100の外部から荷重(衝撃)が加わった際に変形しやすくなることから、荷重を緩和して吸収することが可能となる。
【0021】
複合部材100において、分散体20を構成する材料の引張弾性率は、100Pa以上3.5GPa以下であることが好ましい。また、分散体20を構成する材料の引張弾性率は、1000Pa以上0.5GPa以下であることがより好ましい。このような引張弾性率の分散体20を用いることにより、無機マトリックス部10が変形しやすくなることから、複合部材100の衝撃吸収性を高めることができる。なお、分散体20を構成する材料の引張弾性率は、日本産業規格JIS K7161-1に準じて測定することができる。
【0022】
分散体20を構成する材料は上述の引張弾性率を満たすものであれば特に限定されないが、当該材料は樹脂であることが好ましい。つまり、分散体20は樹脂を含むことが好ましく、樹脂を主成分とすることがより好ましい。分散体20が樹脂からなる場合には、無機マトリックス部10を通じた衝撃及び振動が樹脂で吸収されやすくなり、さらに無機マトリックス部10が変形しやすくなることから、複合部材100の衝撃吸収性を高めることが可能となる。なお、分散体20を構成する樹脂は上述の引張弾性率を満たすものであれば特に限定されないが、例えば表1及び表2に示す樹脂の少なくとも一つを用いることができる。また、表1及び表2には、各樹脂において、フィラーを添加していない状態の代表的な引張弾性率を合わせて示す。
【0023】
【0024】
【0025】
上述のように、複合部材100において、無機マトリックス部10は、無機物質の粒子群により構成されていることが好ましい。つまり、無機マトリックス部10は、無機物質からなる複数の粒子11により構成されており、無機物質の粒子11同士が互いに結合することにより、無機マトリックス部10が形成されていることが好ましい。この際、粒子11同士は、点接触の状態であってもよく、粒子11の粒子面同士が接触した面接触の状態であってもよい。そして、分散体20は、無機マトリックス部10の内部で略均一に分散した状態で存在することが好ましい。ただ、分散体20は、無機物質の粒子11の粒界に存在することが好ましい。
図2に示すように、分散体20が隣接する無機物質の粒子11の間に偏在することにより、無機物質の粒子11間の空隙を埋めるように分散体20が変形する。そのため、無機マトリックス部10の内部に存在する気孔の割合をより低減することが可能となる。
【0026】
複合部材100において、無機マトリックス部10が無機物質の粒子群により構成されている場合、隣接する無機物質の粒子11の間には、分散体20が存在していてもよい。ただ、
図2に示すように、隣接する無機物質の粒子11の間には、分散体20以外に、非晶質の無機化合物を含むアモルファス部30が存在していてもよい。アモルファス部30が存在することにより、隣接する無機物質の粒子11同士がアモルファス部30を介して結合するため、無機マトリックス部10の強度をより高めることが可能となる。なお、アモルファス部30は、少なくとも無機物質の粒子11の表面に接触するように存在することが好ましい。また、アモルファス部30は、隣接する無機物質の粒子11の間に加えて、無機物質の粒子11と分散体20との間、及び、隣接する分散体20の間に存在していてもよい。
【0027】
アモルファス部30は、非晶質の無機化合物を含むことが好ましい。具体的には、アモルファス部30は、非晶質の無機化合物のみからなる部位であってもよく、非晶質の無機化合物と結晶質の無機化合物とが混在してなる部位であってもよい。また、アモルファス部30は、非晶質の無機化合物の内部に結晶質の無機化合物が分散した部位であってもよい。
【0028】
無機物質の粒子11及びアモルファス部30は同じ金属元素を含有し、当該金属元素はアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。つまり、粒子11を構成する無機化合物と、アモルファス部30を構成する非晶質の無機化合物は、少なくとも同じ金属元素を含有していることが好ましい。また、粒子11を構成する無機化合物と、アモルファス部30を構成する非晶質の無機化合物は化学組成が同じであってもよく、化学組成が異なっていてもよい。具体的には、金属元素が亜鉛である場合、粒子11を構成する無機化合物とアモルファス部30を構成する非晶質の無機化合物は、両方とも酸化亜鉛(ZnO)であってもよい。または、粒子11を構成する無機化合物がZnOであるが、アモルファス部30を構成する非晶質の無機化合物はZnO以外の亜鉛含有酸化物であってもよい。
【0029】
なお、アモルファス部30が非晶質の無機化合物と結晶質の無機化合物とが混在してなる部位の場合、非晶質の無機化合物と結晶質の無機化合物は化学組成が同じであってもよく、また化学組成が互いに異なっていてもよい。
【0030】
複合部材100において、粒子11及びアモルファス部30は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素の酸化物を含有することが好ましい。このような金属元素の酸化物は耐久性が高いことから、分散体20と酸素及び水蒸気との接触を長期間に亘って抑制して、分散体20の劣化を抑えることができる。
【0031】
粒子11及びアモルファス部30の両方に含まれる金属元素の酸化物は、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、並びに酸化亜鉛と酸化マグネシウムとの複合体からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。後述するように、これらの金属元素の酸化物を用いることにより、簡易な方法でアモルファス部30を形成することが可能となる。
【0032】
上述のように、無機マトリックス部10を構成する無機物質は、ベーマイトであってもよい。この場合、無機マトリックス部10の粒子11は、ベーマイト相のみからなる粒子であってもよく、ベーマイトと、ベーマイト以外の酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムとの混合相からなる粒子であってもよい。そして、この場合、隣接する粒子11は、アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合していることが好ましい。つまり、粒子11は、有機化合物からなる有機バインダーで結合しておらず、アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物以外の無機化合物からなる無機バインダーでも結合していないことが好ましい。なお、隣接する粒子11がアルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合している場合、当該アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物は結晶質であってもよく、また、非晶質であってもよい。
【0033】
無機マトリックス部10がベーマイトからなる場合、ベーマイト相の存在割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。ベーマイト相の割合が増加することにより、軽量であり、かつ、化学的安定性及び耐熱性に優れた無機マトリックス部10を得ることができる。なお、無機マトリックス部10におけるベーマイト相の割合は、X線回折法により無機マトリックス部10のX線回折パターンを測定した後、リートベルト解析を行うことにより、求めることができる。
【0034】
複合部材100において、無機マトリックス部10の断面における気孔率は20%以下であることが好ましい。つまり、無機マトリックス部10の断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔の割合の平均値が20%以下であることが好ましい。気孔率が20%以下の場合には、緻密な無機物質の内部に、分散体20を封止することができる。そのため、複合部材100の外部からの酸素及び水蒸気と、分散体20との接触率が減少することから、分散体20の酸化分解を抑制し、長期間に亘って分散体20の弾性を維持することが可能となる。なお、無機マトリックス部10の断面における気孔率は15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。無機マトリックス部10の断面における気孔率が小さいほど、分散体20と酸素及び水蒸気との接触が抑制されるため、分散体20の劣化を防ぐことが可能となる。
【0035】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、無機マトリックス部10の断面を観察し、無機マトリックス部10、分散体20及び気孔を判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔の割合を求める。このような単位面積あたりの気孔の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔の割合の平均値を、気孔率とする。なお、無機マトリックス部10の断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0036】
複合部材100の形状は特に限定されないが、例えば板状とすることができる。また、複合部材100(無機マトリックス部10)の厚みtは特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。後述するように、複合部材100は、加圧加熱法により形成するため、厚みの大きな複合部材100を容易に得ることができる。なお、複合部材100(無機マトリックス部10)の厚みtは1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。複合部材100(無機マトリックス部10)の厚みtの上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0037】
複合部材100において、分散体20は、無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連続的に存在せず、かつ、無機マトリックス部10の表面10aに膜状に存在していないことが好ましい。具体的には、分散体20は、無機マトリックス部10の内部に分散した状態で存在していることが好ましい。また、分散体20の一部は、無機マトリックス部10の内部で偏析してもよい。ただ、
図3に示すように、偏析した分散体20aが無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連続的に存在していないことが好ましい。分散体20aが樹脂からなる場合、無機マトリックス部10の表面10aに存在する分散体20aは、大気中の酸素及び水蒸気に接触して劣化する可能性がある。無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連続的に存在している分散体20aも、表面10aに存在する分散体20aの酸化劣化に起因して劣化する可能性がある。そのため、分散体20の劣化を抑制する観点から、分散体20は、無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連続的に存在していないことが好ましい。
【0038】
また、無機マトリックス部10に分散している分散体20に関し、分散体20の一部が無機マトリックス部10の表面10aに膜状に存在していないことが好ましい。分散体20が樹脂からなる場合、膜状の分散体20は、大気中の酸素及び水蒸気に晒されることから、酸化劣化する可能性がある。
【0039】
複合部材100において、無機マトリックス部10は、無機マトリックス部10の表面10aから内部にかけて連通する空隙10bを有しないことが好ましい。無機マトリックス部10の内部の分散体20は、無機物質の粒子11により覆われているため、酸化劣化し難い。ただ、
図4に示すように、無機マトリックス部10に空隙10bが存在する場合、空隙10bを通じて無機マトリックス部10の内部に酸素及び水蒸気が到達してしまい、無機マトリックス部10の内部の分散体20と接触する可能性がある。そのため、分散体20の酸化劣化を抑制する観点から、無機マトリックス部10は、表面10aから内部にかけて連通する空隙10bを有しないことが好ましい。
【0040】
このように本実施形態の複合部材100は、無機物質によって構成される無機マトリックス部10と、無機マトリックス部10の内部に分散した状態で存在し、弾性を有する分散体20と、を備える。また、分散体20を構成する材料の引張弾性率が、100Pa以上3.5GPa以下である。そして、複合部材100は、無機マトリックス部10の断面における気孔率が20%以下である。複合部材100では、無機マトリックス部10の内部に、所定の引張弾性率を有する分散体20を分散させることにより、複合部材100全体の弾性を高めている。そのため、複合部材100は、外部から衝撃が加わった場合でも、衝撃に応じて変形し、その衝撃を吸収することが可能となる。また、複合部材100では、無機マトリックス部10の内部全体に分散体20が分散しているため、複合部材100全体として衝撃吸収性を有する。そのため、複合部材100は、あらゆる方向からの衝撃を吸収することが可能となる。
【0041】
また、複合部材100は、断面における気孔率が20%以下である。そのため、酸素及び水蒸気と分散体20との接触率が減少することから、分散体20の酸化分解を抑制し、長期間に亘って複合部材100の弾性を維持することが可能となる。さらに、無機マトリックス部10は、内部の気孔が少なく、無機物質が緻密となっていることから、複合部材100は高い強度を有することができる。
【0042】
上述のように、特許文献1の複合繊維体は、繊維集束層と単一セラミック層との熱膨張率の差により、繊維集束層が剥離してしまう可能性がある。しかしながら、複合部材100では、分散体20が無機マトリックス部10の内部に高分散していることから、剥離の問題が生じ難い。つまり、複合部材100では、分散体20を包み込むように無機マトリックス部10が配置されているため、分散体20の全表面が無機マトリックス部10に接触するようになる。その結果、無機マトリックス部10と分散体20との接触面積が増えることから、これらの間の剥離が抑制され、長期間に亘って高い安定性を保つことができる。
【0043】
複合部材100において、無機マトリックス部10を構成する材料のヤング率は、分散体20を構成する材料のヤング率よりも大きいことが好ましい。無機マトリックス部10自体は無機物質からなるため、ヤング率が大きくひずみ難いことから、衝撃を緩和し難い。しかし、無機マトリックス部10と分散体20との間のヤング率がこのような関係にあることにより、無機マトリックス部を通じた衝撃が分散体で吸収されやすくなり、さらに無機マトリックス部が変形しやすくなることから、衝撃を緩和することができる。なお、ヤング率は、室温における引張試験により求めることができる。
【0044】
複合部材100において、分散体20は樹脂を含み、無機物質は金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方であることが好ましい。分散体20が樹脂からなる場合には、無機マトリックス部10を通じた衝撃が分散体20で吸収されやすくなり、さらに無機マトリックス部10が変形しやすくなることから、複合部材100の衝撃吸収性を高めることが可能となる。また、金属酸化物及び金属酸化水酸化物は、大気中の酸素及び水蒸気に対する安定性が高い。そのため、無機マトリックス部の無機物質が金属酸化物及び金属酸化水酸化物からなる場合には、無機マトリックス部の酸素透過性が低くなりガスバリア性が向上することから、分散体と酸素及び水蒸気との接触を抑制して、分散体の劣化を抑えることができる。
【0045】
複合部材100において、無機マトリックス部10は分散体20よりも体積比率が大きいことが好ましい。無機マトリックス部10の体積比率を分散体20よりも高めることにより、分散体20の周囲を無機物質の粒子11で覆いやすくなる。そのため、分散体20の劣化をより抑制する観点から、無機マトリックス部10は分散体20よりも体積比率が大きいことが好ましい。
【0046】
[複合部材の製造方法]
次に、本実施形態に係る複合部材100の製造方法について説明する。複合部材100は、無機物質の粒子と分散体20との混合物を、溶媒を含んだ状態で加圧して加熱することにより製造することができる。このような加圧加熱法を用いることにより、無機物質同士が互いに結合するため、分散体20が内部に分散した無機マトリックス部10を形成することができる。
【0047】
具体的には、まず、無機物質の粉末と分散体20の粉末を混合して混合粉末を調製する。無機物質の粉末と分散体20の粉末の混合方法は特に限定されず、乾式又は湿式で行うことができる。また、無機物質の粉末と分散体20の粉末は空気中で混合してもよく、不活性雰囲気下で混合してもよい。
【0048】
次に、混合粉末に溶媒を添加する。溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、混合粉末を加圧及び加熱した際に、無機物質の一部を溶解することが可能なものを用いることができる。また、溶媒としては、無機物質と反応して、当該無機物質とは異なる無機物質を生成することが可能なものを用いることができる。このような溶媒としては、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、水、アルコール、ケトン及びエステルからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。酸性水溶液としては、pH1~3の水溶液を用いることができる。アルカリ性水溶液としては、pH10~14の水溶液を用いることができる。酸性水溶液としては、有機酸の水溶液を用いることが好ましい。また、アルコールとしては、炭素数が1~12のアルコールを用いることが好ましい。
【0049】
無機物質と分散体20と溶媒とを含む混合物は、上述のように、無機物質の粉末と分散体20の粉末を混合した後、溶媒を添加する方法で調製することができる。ただ、無機物質と分散体20と溶媒とを含む混合物の調製方法は、このような方法に限定されない。当該混合物の調製方法としては、まず、分散体20と溶媒とを混合する。この際、分散体20は溶媒に溶解させてもよく、溶解させなくてもよい。そして、分散体20と溶媒との混合物に、無機物質の粉末を添加することにより、無機物質と分散体20と溶媒とを含む混合物を調製してもよい。
【0050】
次いで、無機物質と分散体20と溶媒とを含む混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、無機物質及び分散体20が緻密化すると同時に、無機物質の粒子同士が互いに結合する。
【0051】
ここで、溶媒として、無機物質の一部を溶解するものを用いた場合、高圧状態では、無機物質を構成する無機化合物が溶媒に溶解する。溶解した無機化合物は、無機物質と分散体20との間の空隙、無機物質の間の空隙、及び分散体20の間の空隙に浸入する。そして、この状態で混合物中の溶媒を除去することにより、無機物質と分散体20との間、無機物質の間及び分散体20の間に、無機物質に由来する連結部が形成される。また、溶媒として、無機物質と反応して、当該無機物質とは異なる無機物質を生成するものを用いた場合、高圧状態では、無機物質を構成する無機化合物が溶媒と反応する。そして、反応により生成した他の無機物質が、無機物質と分散体20との間の空隙、無機物質の間の空隙、及び分散体20の間の空隙に充填され、他の無機物質に由来する連結部が形成される。
【0052】
無機物質と分散体20と溶媒とを含む混合物の加熱加圧条件は、溶媒として、無機物質の一部を溶解するものを用いた場合、無機物質の表面の溶解が進行するような条件であれば特に限定されない。また、当該混合物の加熱加圧条件は、溶媒として、無機物質と反応して、当該無機物質とは異なる無機物質を生成するものを用いた場合、無機物質と溶媒との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、無機物質と分散体20と溶媒とを含む混合物を、50~300℃に加熱した後、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、無機物質と分散体20と溶媒とを含む混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、無機物質と分散体20と溶媒とを含む混合物を加圧する際の圧力は、50~400MPaであることがより好ましく、50~200MPaであることがさらに好ましい。
【0053】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、複合部材100を得ることができる。なお、無機物質と分散体20との間、無機物質の間及び分散体20の間に形成された、無機物質に由来の連結部は、上述のアモルファス部30であることが好ましい。
【0054】
ここで、セラミックスからなる無機部材の製造方法としては、従来より焼結法が知られている。焼結法は、無機物質からなる固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、焼結体を得る方法である。ただ、焼結法では、例えば1000℃以上に固体粉末を加熱する。そのため、焼結法を用いて無機物質と樹脂分散体からなる複合部材を得ようとしても、高温での加熱により分散体が炭化してしまうため、複合部材が得られない。しかしながら、本実施形態の複合部材100の製造方法では、無機物質の粉末と分散体20の粉末を混合してなる混合物を、300℃以下という低温で加熱するため、分散体20の炭化が起こり難い。そのため、無機物質からなる無機マトリックス部10の内部に分散体20を安定的に分散させ、衝撃吸収性を付与することができる。
【0055】
さらに、本実施形態の製造方法では、無機物質の粉末と分散体20の粉末を混合してなる混合物を、加熱しながら加圧していることから、無機物質が凝集して緻密な無機マトリックス部10となる。その結果、無機マトリックス部10内部の気孔が少なくなることから、分散体20の酸化劣化を抑制しつつも、高い強度を有する複合部材100を得ることができる。
【0056】
次に、無機マトリックス部10を構成する無機物質がベーマイトである複合部材100の製造方法について説明する。無機物質がベーマイトである複合部材100は、水硬性アルミナと分散体20と水を含む溶媒とを混合した後、加圧して加熱することにより製造することができる。水硬性アルミナは、水酸化アルミニウムを加熱処理して得られる酸化物であり、ρアルミナを含んでいる。このような水硬性アルミナは、水和反応によって結合及び硬化する性質を有する。そのため、加圧加熱法を用いることにより、水硬性アルミナの水和反応が進行して水硬性アルミナ同士が互いに結合しつつ、ベーマイトに結晶構造が変化することにより、複合部材100を形成することができる。
【0057】
具体的には、まず、水硬性アルミナの粉末と、分散体20と、水を含む溶媒とを混合して混合物を調製する。水を含む溶媒は、純水又はイオン交換水であることが好ましい。ただ、水を含む溶媒は、水以外に、酸性物質又はアルカリ性物質が含まれていてもよい。また、水を含む溶媒は水が主成分であればよく、例えば有機溶媒(例えばアルコールなど)が含まれていてもよい。
【0058】
水硬性アルミナに対する溶媒の添加量は、水硬性アルミナの水和反応が十分に進行する量であることが好ましい。溶媒の添加量は、水硬性アルミナに対して20~200質量%が好ましく、50~150質量%がより好ましい。
【0059】
次いで、水硬性アルミナと分散体20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、水硬性アルミナが高充填化し、水硬性アルミナの粒子同士が互いに結合することで、高密度化する。具体的には、水硬性アルミナに水を加えることにより、水硬性アルミナが水和反応し、水硬性アルミナ粒子の表面に、ベーマイトと水酸化アルミニウムが生成する。そして、金型内部で当該混合物を加熱しながら加圧することにより、生成したベーマイトと水酸化アルミニウムが隣接する水硬性アルミナ粒子の間を相互に拡散して、水硬性アルミナ粒子同士が徐々に結合する。その後、加熱により脱水反応が進行することで、水酸化アルミニウムからベーマイトに結晶構造が変化する。なお、このような水硬性アルミナの水和反応、水硬性アルミナ粒子間の相互拡散、及び脱水反応は、ほぼ同時に進行すると推測される。
【0060】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、分散体20が高分散しつつも、複数の粒子11同士がアルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合した複合部材100を得ることができる。
【0061】
なお、水硬性アルミナと分散体20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、水硬性アルミナと当該溶媒との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、水硬性アルミナと分散体20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物を、50~300℃に加熱しつつ、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、水硬性アルミナと分散体20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、水硬性アルミナと分散体20と水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加圧する際の圧力は、50~600MPaであることがより好ましく、200~600MPaであることがさらに好ましい。
【0062】
このように、複合部材100の製造方法は、無機物質の粉末と分散体20の粉末とを混合して混合物を得る工程と、無機物質を溶解する溶媒又は無機物質と反応する溶媒を混合物に添加した後、当該混合物を加圧及び加熱する工程とを有する。また、複合部材100の製造方法は、無機物質を溶解する溶媒又は無機物質と反応する溶媒に、分散体20を混合する工程と、分散体20を含んだ溶媒に無機物質の粉末を混合して混合物を得る工程と、当該混合物を加圧及び加熱する工程とを有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。本実施形態の製造方法では、このような低温条件下で複合部材100を成形することから、分散体20の炭化を抑制して、衝撃吸収性を有するセラミックス部材を得ることができる。
【0063】
また、無機物質がベーマイトである複合部材100の製造方法は、水硬性アルミナと分散体20と水を含む溶媒とを混合して混合物を得る工程と、当該混合物を加圧及び加熱する工程とを有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。この製造方法では、低温条件下で複合部材100を成形することから、得られる部材はベーマイト相を主体とする。そのため、軽量であり、かつ、化学的安定性に優れた複合部材100を簡易な方法で得ることができる。
【0064】
[複合部材の用途]
次に、本実施形態に係る複合部材100の用途について説明する。本実施形態の複合部材100は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができ、さらに衝撃吸収性にも優れている。また、複合部材100は、機械的強度が高く、一般的なセラミックス部材と同様に切断することができると共に、表面加工することもできる。そのため、複合部材100は、屋内の構造部材として好適に用いることができる。具体的には、複合部材100は、人が転倒した際の衝撃を吸収することができるため、床材、例えば水廻りの床材や風呂の床材に用いることができる。また、複合部材100は、段差及び階段の廻りの部材として用いることもできる。
【0065】
さらに、複合部材100は衝撃吸収性を有するため、人が触れた際の感触を改善することができる。そのため、複合部材100は、人が触れる部位へも適用することができる。具体的には、複合部材100は、便座、浴槽、洗面台に適用することができる。
【0066】
また、複合部材100は水の跳ね返りを抑制することができるため、水廻り関連の部材にも適用することができる。具体的には、複合部材100は、便器に適用することができる。また、複合部材100は、水の跳ね返りだけでなく、水音も抑制できる可能性がある。
【0067】
上述のように、複合部材100は衝撃吸収性を有するため、デバイスの保護材として好適に用いることができる。具体的には、複合部材100は、デバイスの外部より受ける衝撃及び振動から保護する吸収材としてだけでなく、デバイスの内部で発生する振動、音、高周波などを吸収する部材にも適用することができる。
【0068】
複合部材100は、建築部材として好適に用いることができる。建築部材としては特に限定されないが、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材などを挙げることができる。複合部材100を屋根材として用いることにより、雨の飛び散りや雨音を抑制することができる。また、建築部材としては、道路用材料、外溝用材料も挙げることができる。複合部材100を道路用材料として用いることにより、雨の飛び散りや水音の抑制に加えて、歩行者に対する衝撃を吸収したり、歩行時の感触を改善することができる。
【0069】
以下、実施例により本実施形態の複合部材をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0070】
[試験サンプルの調製]
(実施例1-1)
まず、水硬性アルミナとして、住友化学株式会社製、水硬性アルミナBK-112を準備した。なお、当該水硬性アルミナは、中心粒径が16μmである。この水硬性アルミナに対して、X線回折法によりX線回折パターンを測定した結果、ベーマイト(AlOOH)とギブサイト(水酸化アルミニウム、Al(OH)3)との混合物であることが分かった。また、水硬性アルミナにはρアルミナも含まれていた。
【0071】
さらに、ポリメチルメタクリレート(PMMA)として、積水化成品工業株式会社製の架橋ポリメタクリル酸メチル、グレード:MBX-5を準備した。なお、当該架橋ポリメタクリル酸メチルは、平均粒子径が5μmである。
【0072】
次に、水硬性アルミナとPMMAとを、水硬性アルミナ:PMMA=95体積%:5体積%となるように秤量した後、水硬性アルミナとPMMAとを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合した。さらに、水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナ及びPMMAに混合することにより、混合物を得た。
【0073】
次いで、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。そして、当該混合物を、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプルを得た。
【0074】
(実施例1-2)
水硬性アルミナ:PMMA=90体積%:10体積%となるように秤量したこと以外は実施例1-1と同様にして、本例の試験サンプルを得た。
【0075】
(実施例1-3)
まず、ポリエチレン(PE)として、BYK社製、マイクロナイズド変性HDポリエチレンワックスCERAFLOUR(登録商標)950を準備した。なお、当該ポリエチレンは、平均粒子径(D50)が9μmである。
【0076】
次に、実施例1-1と同じ水硬性アルミナとPEとを、水硬性アルミナ:PE=93体積%:7体積%となるように秤量した後、水硬性アルミナとPEとを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合した。さらに、水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナ及びPEに混合することにより、混合物を得た。
【0077】
次いで、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。そして、当該混合物を、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプルを得た。
【0078】
(比較例1-1)
実施例1-1と同じ水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナとイオン交換水とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合物を得た。次に、得られた混合物を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。そして、当該混合物を、400MPa、180℃、20分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプルを得た。
【0079】
実施例1-1~1-3及び比較例1-1で得られた試験サンプルにおける水硬性アルミナ、PMMA及びPEの配合比を表3に纏めて示す。
【0080】
【0081】
[評価]
(気孔率測定)
まず、円柱状である実施例1-3の試験サンプルの断面に、クロスセクションポリッシャー加工(CP加工)を施した。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、試験サンプルの断面について、20000倍の倍率で二次電子像を観察した。実施例1-3の試験サンプルの断面の3か所(位置1~3)を観察することにより得られた二次電子像を、
図6(a)、
図7(a)及び
図8(a)に示す。
【0082】
次いで、3視野のSEM像についてそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。
図6(a)、
図7(a)及び
図8(a)の二次電子像を二値化した画像を、それぞれ
図6(b)、
図7(b)及び
図8(b)に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、
図6(b)より、位置1の気孔部分の面積割合は1.4%であった。
図7(b)より、位置2の気孔部分の面積割合は1.1%であった。
図8(b)より、位置3の気孔部分の面積割合は1.7%であった。そのため、実施例1-3の試験サンプルの気孔率は、位置1~3の気孔部分の面積割合の平均値である1.4%であった。
【0083】
図6、
図7及び
図8より、実施例1-3の試験サンプルの気孔率が10%未満であることから、分散体は大気及び水蒸気との接触が抑制され、酸化劣化が抑えられることが分かる。なお、
図6、
図7及び
図8に示す分散体20は、ポリエチレンの凝集体である。そして、これらの図では確認できないものの、ベーマイトの粒子11の間には、微細なポリエチレンが分散している。
【0084】
(衝撃吸収性試験)
実施例1-1~1-3及び比較例1-1の各試験サンプルに対して、樹脂中空ボールを落下させて衝突させた後、樹脂中空ボールの跳ね返り高さを測定することにより、衝撃吸収性を評価した。具体的には、
図5に示すように、直径φが10mmである各例の試験サンプル200の表面に、10cmの高さから樹脂中空ボール210を落下させて衝突させた。そして、樹脂中空ボール210が試験サンプル200の表面で跳ね返ったときの高さHを測定した。なお、樹脂中空ボールは、質量が0.15gであり、直径が3mmである樹脂製の球体を使用した。
【0085】
そして、試験サンプルの衝撃吸収性が高いほど、樹脂中空ボールの反発力が吸収されるため、高さHが低くなる。各例の試験サンプルに対する衝撃吸収性試験の結果を表3に合わせて示す。
【0086】
表3に示すように、分散体を含まない比較例1-1の試験サンプルは、樹脂中空ボールが反発したときの高さが4cmであった。これに対して、分散体としてPMMAを添加した実施例1-1及び実施例1-2の試験サンプルは、樹脂中空ボールが反発したときの高さが1cm以下であった。また、分散体としてPEを添加した実施例1-3の試験サンプルは、樹脂中空ボールが反発したときの高さが2cmであった。
【0087】
このように、ベーマイト粒子からなる無機マトリックス部に、分散体を分散させることにより、複合部材に対して衝撃吸収性を付与できることが分かる。また、分散体は、無機マトリックス部により覆われており、酸化劣化し難いことから、長期間に亘って安定的に弾性を付与することができる。
【実施例2】
【0088】
[試験サンプルの調製]
無機粒子として、平均粒子径D50が約1μmの酸化亜鉛粒子(株式会社高純度化学研究所製、純度99.99%)を準備した。また、分散体として、実施例1-3と同じポリエチレン粒子を準備した。そして、酸化亜鉛粒子に対して7体積%となるようにポリエチレン粒子を秤量した後、酸化亜鉛粒子とポリエチレン粒子とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用い、アセトンを加えて湿式混合することにより、混合粉末を得た。
【0089】
次に、得られた混合粉末を、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に投入した。さらに、成形用金型の内部に充填した混合粉末に、1Mの酢酸を、酸化亜鉛粒子1gに対して200μLとなるように添加した。そして、当該酢酸を含んだ混合粉末を、50MPa、150℃、30分の条件で加熱及び加圧することにより、本例の試験サンプルを得た。
【0090】
[評価]
(気孔率測定)
まず、円柱状である実施例2の試験サンプルの断面に、クロスセクションポリッシャー加工を施した。次に、走査型電子顕微鏡を用い、試験サンプルの断面について、20000倍の倍率で二次電子像を観察した。実施例2の試験サンプルの断面の3か所(位置1~3)を観察することにより得られた二次電子像を、
図9(a)、
図10(a)及び
図11(a)に示す。
【0091】
次いで、3視野のSEM像についてそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。
図9(a)、
図10(a)及び
図11(a)の二次電子像を二値化した画像を、それぞれ
図9(b)、
図10(b)及び
図11(b)に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、
図9(b)より、位置1の気孔部分の面積割合は0.44%であった。
図10(b)より、位置2の気孔部分の面積割合は2.1%であった。
図11(b)より、位置3の気孔部分の面積割合は0.86%であった。そのため、実施例2の試験サンプルの気孔率は、位置1~3の気孔部分の面積割合の平均値である1.1%であった。
【0092】
図9、
図10及び
図11より、実施例2の試験サンプルの気孔率も10%未満であることから、分散体は大気及び水蒸気との接触が抑制され、酸化劣化が抑えられることが分かる。
【0093】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0094】
特願2019-178441号(出願日:2019年9月30日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本開示によれば、長期的に安定であり、さらに全体として衝撃を吸収することが可能な複合部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0096】
10 無機マトリックス部
10a 無機マトリックス部の表面
11 無機物質の粒子
20 分散体
100 複合部材