(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】電気化学セル及び水素生成方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/042 20210101AFI20240913BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240913BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240913BHJP
C25B 13/07 20210101ALI20240913BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240913BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20240913BHJP
【FI】
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B13/07
C25B15/08 302
C25B9/77
(21)【出願番号】P 2021522167
(86)(22)【出願日】2020-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2020018754
(87)【国際公開番号】W WO2020241211
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019098695
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 丈人
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 智宏
(72)【発明者】
【氏名】嘉久和 孝
(72)【発明者】
【氏名】寺山 健
(72)【発明者】
【氏名】尾沼 重徳
(72)【発明者】
【氏名】見神 祐一
(72)【発明者】
【氏名】布尾 孝祐
(72)【発明者】
【氏名】川田 恭平
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-503689(JP,A)
【文献】特開平01-100868(JP,A)
【文献】特表2008-533678(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0151349(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物イオン伝導体を含む第一電解質層を有する第一セルと、
プロトン伝導体を含む第二電解質層を有し、前記第一セルに向かい合うように配置された第二セルと、
前記第一セルと前記第二セルとの間に設けられたガス経路と、
を備え、
前記ガス経路を介して前記第一セルと前記第二セルとが互いに向かい合っており、
前記第一セルは、第一電極及び第二電極をさらに有し、
前記第一セルにおいて、前記第一電極と前記第二電極との間に前記第一電解質層が配置されており、
前記第二セルは、第三電極及び第四電極をさらに有し、
前記第二セルにおいて、前記第三電極と前記第四電極との間に前記第二電解質層が配置されており、
前記第一電極と前記第三電極とが向かい合っており、
前記第一電極において水素が生成され、
前記第二電極において酸素が生成され、
前記第三電極において水素がプロトンに変換され、
前記第四電極において水素が生成され、
前記第一電極と前記第三電極は、前記ガス経路において電気的に絶縁されている、電気化学セル。
【請求項2】
前記ガス経路は前記第一セルと前記第二セルとの間の空間である、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記ガス経路に絶縁体層が設けられている、
請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記ガス経路の下流端が閉じられている、
請求項
1から3のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記第一セルと前記第二セルとの間に配置された多孔質層をさらに備え、
前記ガス経路の少なくとも一部が前記多孔質層によって構成されて
おり、
前記多孔質層は絶縁体である、
請求項
1又は4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記ガス経路に配置され、前記第一セルと前記第二セルとに接している支柱をさらに備
え、
前記支柱は絶縁体である、
請求項
1又は4に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記ガス経路の上流部分の流路断面積が前記ガス経路の下流部分の流路断面積よりも広い、
請求項
1から
6のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記第一セルと前記第二セルとに電力を供給する電源をさらに備えた、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記第一セルに電力を供給する第一電源と、
前記第二セルに電力を供給する第二電源と、
をさらに備えた、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記プロトン伝導体は、BaZr
1-x1M1
x1O
3-δ、BaCe
1-x2M2
x2O
3-δ及びBaZr
1-x3-y3Ce
x3M3
y3O
3-δからなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、
M1、M2及びM3は、それぞれ、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、In及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、
x1の値が0<x1<1を満たし、
x2の値が0<x2<1を満たし、
x3の値が0<x3<1を満たし、
y3の値が0<y3<1を満たし、
δの値が0<δ<0.5を満たす、
請求項1から
9のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記プロトン伝導体は、BaZr
1-x1M1
x1O
3-δからなる、
請求項
10に記載の電気化学セル。
【請求項12】
酸化物イオン伝導体を電解質として含む第一セルとプロトン伝導体を電解質として含む第二セルと
がガス経路を介して互いに向かい合うように配置
された電気化学セルの水素生成方法であって、
前記第一セルを用い、水蒸気を分解して水素と酸素とを生成することと、
前記第二セルを用い、前記第一セルで生成された前記水素と前記第一セルで分解されなかった前記水蒸気との混合ガスから前記水素を分離することと、
を含
み、
前記第一セルと前記第二セルは、前記ガス経路において電気的に絶縁されている、水素生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学セル及び水素生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気分解を用いた水素の製造方法の一つとして、固体酸化物形電気化学セル(SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell)を用いた高温水蒸気電解が知られている。高温水蒸気電解は、電気分解反応に必要なエネルギーとして熱エネルギーを使用することによって高い変換効率を達成できる。固体酸化物形電気化学セルの電解質としては、イットリア安定化ジルコニアなどの酸化物イオン伝導体が用いられる。
【0003】
高温水蒸気電解では、水素極に水蒸気が供給され、水蒸気が水素と酸化物イオンとに分解される。酸化物イオンは、電解質層を伝導して酸素極に到達し、酸素極で酸素へと変化する。生成された水素と残余の水蒸気とを含む混合ガスが水素極から排出される。
【0004】
水素の用途を考えると、生成された水素の純度を高めることが望まれる。特許文献1には、水素と水蒸気との混合ガスを凝縮器に通して水を除去し、その後、水素を圧縮して水素貯蔵タンクに貯蔵するように構成された電力貯蔵システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたシステムにおいては、電気化学セルと凝縮器とが完全に分離しており、配管によって接続されている。このような構成は、システムの小型化を困難にする。
【0007】
本開示は、システムの小型化を容易にする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、
酸化物イオン伝導体を含む第一電解質層を有する第一セルと、
プロトン伝導体を含む第二電解質層を有し、前記第一セルに向かい合うように配置された第二セルと、
を備えた、電気化学セルを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の電気化学セルは、当該電気化学セルを用いたシステムの小型化を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本開示の第1実施形態に係る電気化学セルの斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、本開示の第1実施形態に係る電気化学セルの断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の第2実施形態に係る電気化学セルの断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の第3実施形態に係る電気化学セルの断面図である。
【
図4A】
図4Aは、本開示の第4実施形態に係る電気化学セルの斜視図である。
【
図4B】
図4Bは、本開示の第4実施形態に係る電気化学セルの断面図である。
【
図5】
図5は、本開示の第5実施形態に係る電気化学セルの断面図である。
【
図6】
図6は、本開示の第6実施形態に係る電気化学セルの断面図である。
【
図7】
図7は、本開示の第7実施形態に係る電気化学セルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見)
本発明者らは、混合ガスから水素を分離するための技術について鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、プロトン伝導体を用いることによって、高濃度の水素が得られることを見出した。プロトン伝導体を用いた水素分離をSOECに組み合わせることによって、凝縮器に頼ることなく、高濃度の水素を生成できることを見出した。
【0012】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1態様に係る電気化学セルは、
酸化物イオン伝導体を含む第一電解質層を有する第一セルと、
プロトン伝導体を含む第二電解質層を有し、前記第一セルに向かい合うように配置された第二セルと、
を備えている。
【0013】
第1態様の電気化学セルは、当該電気化学セルを用いたシステムの小型化を容易にする。
【0014】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係る電気化学セルは、前記第一セルと前記第二セルとの間に設けられたガス経路をさらに備えていてもよく、前記ガス経路を介して前記第一セルと前記第二セルとが互いに向かい合っていてもよい。このような構成によれば、第一セルで生成された水素が第二セルに導かれやすい。
【0015】
本開示の第3態様において、例えば、第2態様に係る電気化学セルでは、前記ガス経路の下流端が閉じられていてもよい。このような構成によれば、水蒸気の利用効率を最大限に高めることができる。
【0016】
本開示の第4態様において、例えば、第2又は第3態様に係る電気化学セルは、前記第一セルと前記第二セルとの間に配置された多孔質層をさらに備えていてもよく、前記ガス経路の少なくとも一部が前記多孔質層によって構成されていてもよい。このような構成によれば、第一セルと第二セルとを接続しつつ、第一セルと第二セルとの間のガス経路に反応に必要な水蒸気及び水素を流通させることができる。
【0017】
本開示の第5態様において、例えば、第2又は第3態様に係る電気化学セルは、前記ガス経路に配置され、前記第一セルと前記第二セルとに接している支柱をさらに備えていてもよい。このような構成によれば、第一セルと第二セルとを接続しつつ、第一セルと第二セルとの間のガス経路に反応に必要な水蒸気及び水素を流通させることができる。
【0018】
本開示の第6態様において、例えば、第2から第6態様のいずれか1つに係る電気化学セルでは、前記ガス経路の上流部分の流路断面積が前記ガス経路の下流部分の流路断面積よりも広くてもよい。このような構成によれば、反応に使用される水蒸気が上流側から下流側に向かって一方向に流れることを促進できる。
【0019】
本開示の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つに係る電気化学セルでは、前記第一セルは、第一電極及び第二電極をさらに有していてもよく、前記第一セルにおいて、前記第一電極と前記第二電極との間に前記第一電解質層が配置されていてもよく、前記第二セルは、第三電極及び第四電極をさらに有していてもよく、前記第二セルにおいて、前記第三電極と前記第四電極との間に前記第二電解質層が配置されていてもよく、前記第一電極と前記第三電極とが向かい合っていてもよい。このような構成によれば、ガス経路に存在する水蒸気が第一電極で速やかに処理されるとともに、ガス経路に存在する水素が第三電極で速やかに処理される。
【0020】
本開示の第8態様において、例えば、第7態様に係る電気化学セルでは、前記第一電極において水素が生成されてもよく、前記第二電極において酸素が生成されてもよく、前記第三電極において水素がプロトンに変換されてもよく、前記第四電極において水素が生成されてもよい。このような構成によれば、高濃度の水素を得ることができる。
【0021】
本開示の第9態様において、例えば、第1から第8態様のいずれか1つに係る電気化学セルは、前記第一セルと前記第二セルとに電力を供給する電源をさらに備えていてもよい。このような構成によれば、第一セル及び第二セルに必要な電気エネルギーを確実に供給でき、これにより、高濃度の水素を効率的に生成することができる。
【0022】
本開示の第10態様において、例えば、第1から第8態様のいずれか1つに係る電気化学セルは、前記第一セルに電力を供給する第一電源と、前記第二セルに電力を供給する第二電源と、をさらに備えていてもよい。このような構成によれば、第一セル及び第二セルのそれぞれに高い出力で運転させることに適した大きさの電力を供給できる。
【0023】
本開示の第11態様において、例えば、第1から第10態様のいずれか1つに係る電気化学セルでは、前記プロトン伝導体は、BaZr1-x1M1x1O3-δ、BaCe1-x2M2x2O3-δ及びBaZr1-x3-y3Cex3M3y3O3-δからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。M1、M2及びM3は、それぞれ、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、In及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよく、x1の値が0<x1<1を満たし、x2の値が0<x2<1を満たし、x3の値が0<x3<1を満たし、y3の値が0<y3<1を満たし、δの値が0<δ<0.5を満たす。これらのプロトン伝導体は、電気化学セルの作動温度において、高いプロトン伝導性を有する。
【0024】
本開示の第12態様において、例えば、第11態様に係る電気化学装置では、前記プロトン伝導体は、BaZr1-x1M1x1O3-δからなっていてもよい。BaZr1-x1Ybx1O3-δは、高いプロトン伝導性を有する。
【0025】
本開示の第13態様において、例えば、第7態様に係る電気化学セルでは、前記第四電極において水素がプロトンに変換されてもよく、前記第三電極において水素が生成されてもよく、前記第一セルは、前記第一電極に供給された前記水素と前記第二電極に供給された酸素とを用いて電力を生成してもよい。このような構成によれば、電気エネルギーを外部に供給することができる。
【0026】
本開示の第14態様に係る水素生成方法は、
酸化物イオン伝導体を電解質として含む第一セルとプロトン伝導体を電解質として含む第二セルとを互いに向かい合うように配置することと、
前記第一セルを用い、水蒸気を分解して水素と酸素とを生成することと、
前記第二セルを用い、前記第一セルで生成された前記水素と前記第一セルで分解されなかった前記水蒸気との混合ガスから前記水素を分離することと、
を含む。
【0027】
第14態様によれば、高濃度の水素を効率的に生成することができる。
【0028】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0029】
(第1実施形態)
図1Aは、本開示の第1実施形態に係る電気化学セル100の構成を斜めから示している。
図1Bは、
図1Aに示す電気化学セル100の断面を示している。電気化学セル100は、第一セル1及び第二セル2を備えている。第二セル2は、第一セル1に向かい合うように配置されている。
【0030】
第一セル1は、第一電解質層11、第一電極12及び第二電極13によって構成されている。第一電極12と第二電極13との間に第一電解質層11が配置されている。第一電解質層11は、酸化物イオン伝導体を電解質として含む。
【0031】
第二セル2は、第二電解質層21、第三電極22及び第四電極23によって構成されている。第三電極22と第四電極23との間に第二電解質層21が配置されている。第二電解質層21は、プロトン伝導体を電解質として含む。
【0032】
本実施形態において、第一セル1及び第二セル2は、共に板状であり、所定間隔を空けて互いに平行に並べられている。
【0033】
電気化学セル100において、第一セル1の役割は、第二セル2の役割と異なる。第一セル1は、水蒸気を分解して水素と酸素とを生成する。この過程は、SOECを用いた高温水蒸気電解である。第二セル2は、プロトン伝導体の働きによって、第一セル1で生成された水素と第一セル1で分解されなかった水蒸気との混合ガスから水素を選択的に分離する。これにより、高濃度の水素を得ることができる。第一セル1と第二セル2とが互いに向かい合っているので、第一セル1で生成された水素は、第二セル2に容易に到達し、第二セル2によって直ちに処理される。
【0034】
本実施形態の電気化学セル100によれば、混合ガスから水蒸気を除去するための凝縮器を使用することなく、高濃度の水素を生成することができる。つまり、電気化学セル100は、水素生成システムの小型化を容易にする。もちろん、電気化学セル100と凝縮器とを組み合わせて使用することも可能である。その場合、凝縮器のサイズダウンによるシステムの小型化を期待できる。
【0035】
本明細書において「水素」及び「酸素」は、特に断らない限り、それぞれ、「水素ガス」及び「酸素ガス」を意味する。
【0036】
第一セル1において、第一電解質層11に使用される酸化物イオン伝導体としては、安定化ジルコニア、ランタンガレート系酸化物、セリア系酸化物などが挙げられる。第一電解質層11は、典型的には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)によって構成されている。
【0037】
第一電極12は、水蒸気の電気化学的な酸化反応を進行させるための触媒を含む。触媒として、Niなどの金属を用いることができる。第一電極12は、サーメットで構成されていてもよい。サーメットとは、金属とセラミックス材料との混合物である。サーメットとしては、Ni-YSZ、Niとセリア系酸化物との混合物などが挙げられる。第一電極12がサーメットで構成されていると、水蒸気を酸化させるための反応活性点を増やす効果が期待できる。水蒸気の拡散を促進するために、第一電極12は多孔体であってもよい。
【0038】
第二電極13は、酸化物イオンの電気化学的な酸化反応を進行させるための触媒を含む。触媒として、Mn、Fe、Co及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む酸化物が挙げられる。触媒の具体例としては、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物(LSCF)、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物(LSC)、ランタンストロンチウム鉄複合酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムマンガン複合酸化物(LSM)、バリウムストロンチウムコバルト鉄複合酸化物(BSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト複合酸化物(SSC)、ランタンニッケル鉄複合酸化物、ランタンニッケル複合酸化物、バリウムガドリニウムランタンコバルト複合酸化物などが挙げられる。触媒は、Mn、Fe、Co及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む酸化物と、他の酸化物又は金属との複合体であってもよい。生成した酸素の拡散を促進するために、第二電極13は多孔体であってもよい。
【0039】
第二セル2において、第二電解質層21に使用されるプロトン伝導体としては、プロトン伝導性酸化物が挙げられる。具体的に、第二電解質層21は、BaZr1-x1M1x1O3-δ、BaCe1-x2M2x2O3-δ及びBaZr1-x3-y3Cex3M3y3O3-δからなる群より選ばれる少なくとも1つをプロトン伝導体として含みうる。M1、M2及びM3は、それぞれ、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、In及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1つを含みうる。x1が0<x1<1を満たす。x2が0<x2<1を満たす。x3が0<x3<1を満たす。y3が0<y3<1を満たす。δの値が0<δ<0.5を満たす。これらのプロトン伝導体は、高いプロトン伝導性を有する。高いプロトン伝導性を有する固体電解質を用いることによって、第二セル2の電気化学性能を向上させることができる。プロトン伝導体は、BaZr1-x1Ybx1O3-δからなっていてもよい。BaZr1-x1Ybx1O3-δは、高いプロトン伝導性を有する。変数δは、酸化物の結晶格子における酸素の欠陥量を組成上に表すための値である。δの値は、x1の値、x2の値、x3の値、y3の値、温度、酸素分圧、水蒸気分圧などに応じて変化する値である。第二電解質層21は緻密体であってもよい。
【0040】
第三電極22は、水素を電気化学的に酸化するための触媒を含む。触媒として、Niなどの金属を用いることができる。第三電極22は、サーメットで構成されていてもよい。サーメットとしては、Niとプロトン伝導性酸化物との混合物、例えば、NiとBaZr1-x1Ybx1O3-δとの混合物などが挙げられる。第三電極22がサーメットで構成されていると、水素を酸化させるための反応活性点を増やす効果が期待できる。水素及び水蒸気の拡散を促進するために、第三電極22は多孔体であってもよい。
【0041】
第四電極23は、プロトンを電気化学的に還元するための触媒を含む。触媒として、Niなどの金属を用いることができる。第四電極23は、サーメットで構成されていてもよい。サーメットとしては、Niとプロトン伝導性酸化物との混合物、例えば、NiとBaZr1-x1Ybx1O3-δとの混合物などが挙げられる。第四電極23がサーメットで構成されていると、プロトンを還元するための反応活性点を増やす効果が期待できる。水素の拡散を促進するために、第四電極23は多孔体であってもよい。
【0042】
「多孔体」、「多孔質」とは、例えば、20%以上の空隙率を有する材料を意味する。空隙率は、アルキメデス法又は水銀圧入法によって測定されうる。
【0043】
電気化学セル100は、ガス経路3をさらに備えている。ガス経路3は、第一セル1と第二セル2との間に設けられている。ガス経路3を介して、第一セル1と第二セル2とが互いに向かい合っている。このような構成によれば、第一セル1で生成された水素が第二セル2に導かれやすい。第一セル1における水蒸気電解と第二セル2における水素分離とがスムーズに進行する。
【0044】
第一セル1及び第二セル2は、ガス経路3に面している。詳細には、第一セル1の第一電極12及び第二セル2の第三電極22がガス経路3に面している。第一電極12と第三電極22とが互いに向かい合っている。言い換えれば、ガス経路3の内壁面の少なくとも一部が第一電極12及び第三電極22によって構成されている。このような構成によれば、ガス経路3に存在する水蒸気が第一電極12で速やかに処理されるとともに、ガス経路3に存在する水素が第三電極2で速やかに処理される。
【0045】
ガス経路3は、第一セル1と第二セル2との間の空間であってもよい。例えば、第一セル1及び第二セル2が円筒の形状を有し、同心状に配置されているとき、第一セル1と第二セル2との間の空間がガス経路3を構成する。あるいは、第一セル1及び第二セル2とは別の部材によってガス経路3が構成されていてもよい。別の部材としては、金属管が挙げられる。金属管の内部に面するように、金属管に第一セル1及び第二セル2が取り付けられていてもよい。
【0046】
ガス経路3は、入口31及び出口32を有する。入口31を通じて、水蒸気電解の原料である水蒸気が電気化学セル100に供給される。出口32を通じて、未反応の水素及び未反応の水蒸気が電気化学セル100から排出される。
【0047】
なお、ガス流路3を確保するため、すなわち、第一セル1と第二セル2とが離隔する構成を有するようにするため、電気化学セル100は、締結構造を有していてもよい。締結構造は、例えば、第一セル1と第二セル2との4隅にそれぞれ、設けられている。そして、第一セル1の第一電極12と第二セル2の第三電極22とが離隔するように、締結構造が第一セル1と第二セル2とを保持する。
【0048】
電気化学セル100は、酸素経路5及び水素経路6をさらに備えている。酸素経路5は、第一セル1で生成された酸素が流れる経路であり、第一セル1に接続されている。詳細には、酸素経路5は、第一セル1の第二電極13に接続されている。酸素経路5の終端は、酸素貯蔵設備などに接続されている。水素経路6は、第二セル2で分離された水素が流れる経路であり、第二セル2に接続されている。詳細には、水素経路6は、第二セル2の第四電極23に接続されている。水素経路6の終端は、水素貯蔵設備などに接続されている。酸素経路5及び水素経路6は、金属配管などの耐熱性を有する配管によって構成されうる。
【0049】
電気化学装置100は、電源4をさらに備えている。電源4は、第一セル1と第二セル2とに電力を供給する。本実施形態では、電源4は、第一セル1及び第二セル2に共用されている。電源4は、第一セル1の第二電極13と第二セル2の第四電極23とに接続されている。第一セル1の第一電極12と第二セル2の第三電極22とが電気的に接続されている。つまり、第一セル1と第二セル2とが直列に接続されている。電源4によれば、第一セル1及び第二セル2に必要な電気エネルギーを確実に供給でき、これにより、高濃度の水素を効率的に生成することができる。電源4が第一セル1及び第二セル2に共用されていることは、コストの低減に資する。
【0050】
次に、電気化学セル100の動作を詳細に説明する。電気化学セル100においては、水蒸気を電解して水素と酸素とを生成する工程と、水素と水蒸気との混合ガスから水素を分離する工程とが並行して進む。水素と酸素とを生成する工程は、酸化物イオン伝導体を電解質として含む第一セル1を用いて行われる。混合ガスから水素を分離する工程は、プロトン伝導体を電解質として含む第二セル2を用いて行われる。混合ガスは、第一セル1で生成された水素と第一セル1で分解されなかった水蒸気とを含む。これらの工程を実施することによって、高濃度の水素を効率的に生成することができる。
【0051】
まず、電源4をオンにし、ガス経路3に水蒸気を供給する。第一セル1の表面に水蒸気が到達すると、第一電極12において、水蒸気が還元されて水素と酸化物イオンとが生成される。詳細には、第一電解質層11と第一電極12との界面近傍において、水蒸気が還元されて水素と酸化物イオンとが生成される。酸化物イオンは、第一電解質層11を伝導して第二電極13に到達する。第二電極13において、酸化物イオンの酸化反応が起こり、酸素が生成される。詳細には、第一電解質層11と第二電極13との界面近傍において、酸化物イオンが酸化されて酸素に変換される。酸素は、第二電極13から排出され、酸素経路5を通じて電気化学セル100の外部に導かれる。
【0052】
第一セル1の表面で生成された水素は、ガス経路3を拡散して第二セル2の表面に到達する。第二セル2の表面に水素が到達すると、第三電極22において、水素が酸化されてプロトンに変換される。詳細には、第二電解質層21と第三電極22との界面近傍において、水素が酸化されてプロトンに変換される。プロトンは、第二電解質層21を伝導して第四電極23に到達する。第四電極23において、プロトンの還元反応が起こり、水素が生成される。詳細には、第二電解質層21と第四電極23との界面近傍において、プロトンが還元されて水素に変換される。水素は、水素経路6を通じて電気化学セル100の外部に導かれる。上記の反応に基づいて電気化学セル100の外部には、第二電解質層21と第四電極23との界面近傍での反応による水素のみが供給される。したがって、高濃度の水素を得ることができる。
【0053】
未反応の水素及び未反応の水蒸気を含む混合ガスは、ガス経路3を通じて電気化学セル100の外部に排出される。
【0054】
各電極での反応は以下の通りである。
第一電極12:2H2O+4e-→2H2+2O2-
第二電極13:2O2-→O2+4e-
第三電極22:H2→2H++2e-
第四電極23:2H++2e-→H2
【0055】
電気化学セル100の動作時において、第一セル1及び第二セル2の周囲の温度(すなわち、作動温度)は、例えば、500℃以上1000℃以下に保たれている。作動温度は、第一電解質層11に含まれた酸化物イオン伝導体の酸化物イオン伝導度を基づいて定められている。例えば、イットリア安定化ジルコニアが第一電解質層11に使用されているとき、作動温度は700℃以上に設定されうる。第二電解質層21が十分なプロトン伝導度を示す温度は、第一電解質層12に適した温度よりも低く、約600℃である。第一セル1及び第二セル2は、断熱性を有する筐体に格納されていてもよい。
【0056】
以下、他のいくつかの実施形態について説明する。第1実施形態と他の実施形態とで共通する要素には同じ参照符号を付し、それらの説明を省略することがある。各実施形態に関する説明は、技術的に矛盾しない限り、相互に適用されうる。技術的に矛盾しない限り、各実施形態は、相互に組み合わされてもよい。
【0057】
(第2実施形態)
図2は、本開示の第2実施形態に係る電気化学セル102の断面を示している。電気化学セル102は、電源4に代えて、第一電源41及び第二電源42を備えている。第一電源41は、第一セル1に電力を供給する。第一電源41は、第一セル1の第一電極12及び第二電極13のそれぞれに接続されている。第二電源42は、第二セル2に電力を供給する。第二電源42は、第二セル2の第三電極22及び第四電極23のそれぞれに接続されている。
【0058】
先に説明した電源4によれば、第一セル1及び第二セル2が直列に接続されているので、第一セル1及び第二セル2のそれぞれに等しい値の電流が流れる。しかし、第一セル1における水蒸気電解反応に適した電流値は、第二セル2における電気化学的な水素分離に適した電流値と異なる可能性がある。本実施形態によれば、第一電源41及び第二電源42を個別に制御可能である。この場合、第一セル1及び第二セル2のそれぞれに適した大きさの電力を供給できるので、電気化学セル102は優れた制御性を有する。
【0059】
本実施形態では、第一セル1と第二セル2とが電気的に絶縁されている。第一セル1と第二セル2とが確実に絶縁されるように、電気化学セル102は、第一セル1と第二セル2との間に配置された絶縁体層7をさらに備えていてもよい。絶縁体層7は、例えば、ガスの流れ方向に沿ってガス経路3を分断するようにガス流路3に配置されうる。絶縁体層7の材料としては、アルミナ、安定化ジルコニア、バリウムジルコネート系酸化物などの酸化物が挙げられる。ガラス系のシール材料も絶縁体層7の材料として使用可能である。
【0060】
(第3実施形態)
図3は、本開示の第3実施形態に係る電気化学セル104の断面を示している。電気化学セル104は、第一セル1と第二セル2との間に配置された多孔質層33をさらに備えている。ガス経路3の少なくとも一部が多孔質層33によって構成されている。多孔質層33は、第一セル1と第二セル2とを接続している。多孔質層33によって第一セル1と第二セル2とが互いに固定されている。
【0061】
多孔質層33によれば、第一セル1と第二セル2とを接続しつつ、第一セル1と第二セル2との間のガス経路3に反応に必要な水蒸気及び水素を流通させることができる。外部から供給された水蒸気及び第一電極12において生成された水素の流通を許容しつつ、全体が効率良く反応に寄与する電気化学セル104を提供できる。
【0062】
多孔質層33を構成する多孔質材料としては、多孔質セラミック、金属多孔質体、金属メッシュなどが挙げられる。多孔質層33の空隙率は、例えば、20%以上である。なお、多孔質層33が金属でできている場合、多孔質層33を介して第一電極12と第三電極22とが短絡しないように、絶縁措置が施されていてもよい。
【0063】
(第4実施形態)
図4Aは、本開示の第4実施形態に係る電気化学セル106の構成を斜めから示している。
図4Bは、
図4Aに示す電気化学セル106の断面を示している。電気化学セル106は、ガス経路3に配置された少なくとも1つの支柱34をさらに備えている。本実施形態では、複数の支柱34が設けられている。支柱34によって第一セル1と第二セル2とが接続されている。支柱34によって第一セル1と第二セル2とが互いに固定されている。
【0064】
支柱34によれば、第一セル1と第二セル2とを接続しつつ、第一セル1と第二セル2との間のガス経路3に反応に必要な水蒸気及び水素を流通させることができる。外部から供給された水蒸気及び第一電極12において生成された水素の流通を許容しつつ、全体が効率良く反応に寄与する電気化学セル106を提供できる。
【0065】
本実施形態において、支柱34は、規則的に並べられている。水蒸気の流れ方向において、支柱34が等間隔で配置されている。ただし、第一セル1及び第二セル2が互いに安定して固定される限りにおいて、支柱34の配置は特に限定されない。支柱34の配置を決める要素には、支柱34の数及び支柱34の位置が挙げられる。例えば、第一セル1及び第二セル2が共に直方体の形状を有するとき、四隅のそれぞれに支柱34が設けられていてもよい。
【0066】
支柱34の材料としては、金属、セラミック、サーメットなどが挙げられる。具体的には、Ni、Niを含むサーメットなどが挙げられる。Niを含むサーメットとしては、Ni-YSZ、Ni-BaZr1-x1Ybx1O3-δなどが挙げられる。なお、支柱34が金属でできている場合、支柱34を介して第一電極12と第三電極22とが短絡しないように、絶縁措置が施されていてもよい。
【0067】
(第5実施形態)
図5は、本開示の第5実施形態に係る電気化学セル108の断面を示している。電気化学セル108において、ガス経路3の下流端は閉じられている。言い換えれば、ガス経路3の出口32が閉じられている。ガス経路3が閉じられている場合、供給された水蒸気の全部が水蒸気電解反応に使用される。つまり、水蒸気の利用効率を最大限に高めることができる。
【0068】
ガス経路3を閉じるための部材として、電気化学セル108は、封止部材8をさらに備えている。水蒸気の流れ方向において、封止部材8は、ガス経路3の下流側に設けられている。封止部材8は、第一セル1と第二セル2とを接続する役割も担っている。本実施形態では、第一セル1及び第二セル2の端面であって、水蒸気の流れ方向における下流側の端面に封止部材8が取り付けられている。これにより、第一セル1と第二セル2との間の空間(例えば、ガス経路3)の外部への水蒸気の流出が防止されている。
【0069】
封止部材8の材料としては、サーミキュライト、結晶性ガラスなどのシール材料が挙げられる。
【0070】
本実施形態において、封止部材8は、板状であり、第一電解質層11の側面から第二電解質層21の側面まで延びて、第一セル1及び第二セル2を互いに接続している。ただし、ガス経路3の下流端を閉じるための構造は特に限定されない。例えば、封止部材8は、第一電極12の側面から第三電極22の側面までの範囲のみ存在していてもよい。第一電極12と第三電極22とが封止部材8によって接続されていてもよい。
【0071】
また、封止部材8は、ガス経路3の下流端、すなわち、ガス経路3の出口32が開閉可能となるように構成されていてもよい。例えば、封止部材8に電磁開閉弁などのガス排出機構が設けられていてもよい。ガス経路3の出口32が閉じられている場合、水蒸気電解反応に寄与しない不純物がガス経路3に蓄積する可能性がある。ガス排出機構を制御してガス経路3の出口32を開き、不純物を定期的に又は任意のタイミングで取り除けば、効率的な水蒸気電解反応を継続させることができるとともに、効率的な水素分離を継続させることができる。
【0072】
(第6実施形態)
図6は、本開示の第6実施形態に係る電気化学セル110の断面を示している。電気化学セル110において、ガス経路3の上流部分の流路断面積は、ガス経路3の下流部分の流路断面積よりも広い。言い換えれば、ガス経路3の入口31の開口面積がガス経路3の出口32の開口面積よりも広い。水蒸気の流れ方向において、ガス経路3の流路断面積は、連続的に減少している。言い換えれば、水蒸気の流れ方向において、第一電極12と第三電極22との距離が連続的に減少している。このような構成によれば、反応に使用される水蒸気が上流側から下流側に向かって一方向に流れることを促進できる。このことによって、水蒸気電解反応を効率的に進行させることができる。
【0073】
本実施形態では、ガス経路3の上流側から下流側に向かって、第一電極12の厚さ及び第三電極22の厚さの少なくとも1つを連続的に増加させることによって、上記の構成を実現している。なお、ガス経路3の流路断面積が段階的に減少していたとしても、ガス経路3の形状次第で同じ効果が得られる。
【0074】
「ガス経路3の入口31の開口面積」は、第一セル1及び第二セル2の上流端の位置におけるガス経路3の流路断面積を意味する。「ガス経路3の出口32の開口面積」は、第一セル1及び第二セル2の下流端の位置におけるガス経路3の流路断面積を意味する。「上流端の位置」は、水蒸気の流れ方向に関する上流端の位置を意味する。「下流端の位置」は、水蒸気の流れ方向に関する下流端の位置を意味する。なお、
図6において、第一電極12と第三電極22との厚みが変化している。しかしながら、それらの厚みが変化しなくてもよい。言い換えると、第一電極12と第三電極22との厚みは均一であってもよい。例えば、第一セル1と第二セル2とを平行でなく、斜めに設けてもよい。このような構成をとることで、電気化学セル110において、ガス経路3の入口31の開口面積がガス経路3の出口32の開口面積よりも広くなる。
【0075】
(第7実施形態)
図7は、本開示の第7実施形態に係る電気化学セル100aの断面を示している。電源4が外部負荷4aに置き換わったことを除き、電気化学セル100aは、
図1を参照して説明した電気化学セル100の構成と同じ構成を有する。第一セル1及び第二セル2の構成は、第1実施形態で説明した通りである。
【0076】
電気化学セル100aの各電極で進行する反応は、第1実施形態の電気化学セル100の各電極で進行する反応とは逆の反応である。本実施形態では、外部から供給された酸素と、第二セル2を通過した水素とを用い、第一セル1において発電反応が行われる。本実施形態によれば、電気エネルギーを外部に供給することができる。この点に関して、本実施形態は、第1実施形態と異なる。
【0077】
電気化学セル100aの運転を詳細に説明する。
【0078】
第一セル1及び第二セル2の動作温度は、例えば、500℃以上1000℃以下である。このことは、本実施形態と第1実施形態とで共通である。
【0079】
まず、第二セル2の第四電極23に水素を供給する。第四電極23において、水素の酸化反応が起こり、プロトンが生成される。詳細には、第二電解質層21と第四電極23との界面近傍において、水素が酸化されてプロトンに変換される。プロトンは、第二電解質層21を伝導して第三電極22に到達する。第三電極22において、プロトンの還元反応が起こり、水素が生成される。詳細には、第二電解質層21と第三電極22との界面近傍において、プロトンが還元されて水素に変換される。第二セル2の表面で生成された水素は、ガス経路3を拡散して第一セル1の表面に到達する。
【0080】
第一セル1は、第一電極12に供給された水素と第二電極13に供給された酸素とを用いて電力を生成する。具体的には、酸素を含むガスが第一セル1の第二電極13に供給される。酸素を含むガスの典型例は空気である。第二電極13において、酸素の還元反応が起こり、酸化物イオンが生成される。酸化物イオンは、第一電解質層11を伝導して第一電極12に到達する。第一電極12において、酸化物イオン及び水素から水蒸気及び電子を生成する電気化学反応が進行する。水蒸気及び未反応の水素は、ガス経路3を通じて電気化学セル100aの外部に導かれる。バーナー又は触媒燃焼によって水素を燃焼させてもよい。
【0081】
各電極での反応は以下の通りである。
第一電極12:2H2+2O2-→2H2O+4e-
第二電極13:O2+4e-→2O2-
第三電極22:2H++2e-→H2
第四電極23:H2→2H++2e-
【0082】
本実施形態によれば、第二セル2の第四電極23に供給されるべきガスに水素だけでなく水蒸気、二酸化炭素などの不純物が含まれていたとしても、純粋な水素を第二セル2で生成して第一セル1に供給することができる。その結果、第一セル1において、発電性能の向上、炭素析出の抑制といった効果が得られる。第二セル2に供給されるべきガスは、例えば、メタンなどの原料ガスを改質することによって得られた水素含有ガスであってもよく、水蒸気電解によって得られた水素含有ガスであってもよい。
【0083】
第一セル1で進行する反応は、水素及び酸素から水蒸気及び電気エネルギーを生成する電気化学反応(すなわち、燃料電池における反応)である。電気エネルギーは、第一セル1に接続された外部負荷4aに供給されうる。電気エネルギーの一部は、第二セル2におけるプロトン伝導のエネルギーに使用される。電気化学セル100aは、燃料電池として機能し、電気エネルギーを生成する。
【0084】
本実施形態によれば、第三経路5に導入されるべきガスに水素だけでなく水蒸気、二酸化炭素などの不純物が含まれていたとしても、純粋な水素を第二セル2によって生成して第一セル1に供給することができる。その結果、第一セル1において、発電性能の向上、炭素析出の抑制といった効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示に係る電気化学セルは、水素生成システム又は燃料電池システムに適している。本開示に係る電気化学セルは、水素純化装置、水素圧縮装置などの電気化学的水素ポンプにも利用されうる。
【符号の説明】
【0086】
1 第一セル
2 第二セル
3 ガス経路
4 電源
5 酸素経路
6 水素経路
7 絶縁体層
8 封止部材
11 第一電解質層
12 第一電極
13 第二電極
21 第二電解質層
22 第三電極
23 第四電極
31 入口
32 出口
33 多孔質層
34 支柱
41 第一電源
42 第二電源
100,102,104,106,108,110,100a 電気化学セル