(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】電動工具、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20240913BHJP
B25B 21/02 20060101ALI20240913BHJP
B25B 23/14 20060101ALI20240913BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B25B21/00 510C
B25B21/00 530Z
B25B21/02 Z
B25B23/14 640M
B25F5/00 A
B25F5/00 C
(21)【出願番号】P 2019210773
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】中原 雅之
(72)【発明者】
【氏名】植田 尊大
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/230141(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230140(WO,A1)
【文献】特開平10-328952(JP,A)
【文献】特許第5483086(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00
B25B 21/02
B25B 23/14
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
ユーザからの操作を受け付ける操作部と、
ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御する制御部と、
前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する伝達機構と、
前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容するハウジングと、
を備え、
前記制御部は、前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出する検出機能を有し
、
前記制御部は、前記検出機能において、
単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、直前の単位時間の値よりも所定の閾値以上増加していることを検出する、及び/又は
単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以下となったことを検出すると、
前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出する、
電動工具。
【請求項2】
前記制御部は、前記検出機能において、前記トルク電流に基づいて求めた前記回転軸にかかる負荷が、所定値以上となると、前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆があると判定する、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
モータと、
ユーザからの操作を受け付ける操作部と、
ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御する制御部と、
前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する伝達機構と、
前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容するハウジングと、
を備え、
前記制御部は、前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出する検出機能を有し
、
前記制御部は、前記検出機能において、
単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、直前の単位時間の値よりも所定の閾値以上減少していることを検出する、及び/又は
単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以上となったことを検出すると、
前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出する、
電動工具。
【請求項4】
前記制御部は、前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出すると、前記モータの速度を低下させる又は前記モータを停止させる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記制御部は、前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出すると、前記モータの前記回転軸の前記回転力の前記先端工具への伝達を遮断させる、
請求項1~4のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項6】
前記電動工具は、前記先端工具が連結される出力軸を備え、
前記伝達機構は、前記出力軸に加えられるトルクの大きさに応じて前記出力軸に打撃力を加える打撃動作を行うインパクト機構を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項7】
前記検出機能の有効と無効とを切り換える切換部を備える、
請求項1~6のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項8】
モータと、
ユーザからの操作を受け付ける操作部と、
ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御する制御部と、
前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する伝達機構と、
前記先端工具が連結される出力軸と、
前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容するハウジングと、
を備え、
前記伝達機構は、前記出力軸に加えられるトルクの大きさに応じて前記出力軸に打撃力を加える打撃動作を行うインパクト機構を有し、
前記制御部は、前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出する検出機能を有し、
前記制御部は、前記検出機能において、前記打撃動作の開始後に、
単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、前記打撃動作の開始直後の値よりも所定の閾値以上増加していることを検出する、及び/又は
単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以下となったことを検出すると、
前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出する、
電動工具。
【請求項9】
電動工具の制御方法であって、
前記電動工具は、
モータと、
ユーザからの操作を受け付ける操作部と、
前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する伝達機構と、
前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容するハウジングと、
制御部と、
を備え、
前記制御方法は、前記制御部が、
ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御することと、
前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出することと、
を含み
、
前記制御方法は、前記制御部が、
単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、直前の単位時間の値よりも所定の閾値以上増加していることを検出する、及び/又は
単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以下となったことを検出すると、
前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出することを含む、
制御方法。
【請求項10】
電動工具の制御方法であって、
前記電動工具は、
モータと、
ユーザからの操作を受け付ける操作部と、
前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する伝達機構と、
前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容するハウジングと、
制御部と、
を備え、
前記制御方法は、前記制御部が、
ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御することと、
前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出することと、
を含み
、
前記制御方法は、前記制御部が、
単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、直前の単位時間の値よりも所定の閾値以上減少していることを検出する、及び/又は
単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以上となったことを検出すると、
前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出することを含む、
制御方法。
【請求項11】
電動工具の制御方法であって、
前記電動工具は、
モータと、
ユーザからの操作を受け付ける操作部と、
前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する伝達機構と、
前記先端工具が連結される出力軸と、
前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容するハウジングと、
制御部と、
を備え、
前記伝達機構は、前記出力軸に加えられるトルクの大きさに応じて前記出力軸に打撃力を加える打撃動作を行うインパクト機構を有し、
前記制御方法は、前記制御部が、
ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御することと、
前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出することと、
を含み、
前記制御方法は、前記制御部が、前記打撃動作の開始後に、
単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、前記打撃動作の開始直後の値よりも所定の閾値以上増加していることを検出する、及び/又は
単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以下となったことを検出すると、
前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出することを含む、
制御方法。
【請求項12】
1以上のプロセッサに、請求項9~11のいずれか1項に記載の制御方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に電動工具、制御方法、及びプログラムに関し、より詳細には、ベクトル制御を用いてモータを制御する電動工具、電動工具の制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電動工具を開示する。特許文献1記載の電動工具は、モータと、トリガスイッチと、制御部と、チャックと、を備える。制御部は、トリガスイッチの引き込み量に基づいてモータの回転数を制御する。チャックは、ホールソー等の先端工具が着脱可能となっている。トリガスイッチが引き込まれることで制御部によってモータが駆動される。これにより先端工具が回転し、穴開け等の作業が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような電動工具では、板材等の作業対象への穴開け作業中に、先端工具が作業対象を噛み込むと、先端工具の回転が阻害される場合がある。その場合、工具本体(ハウジング)が先端工具を中心として作業対象に対して回転する等して、工具本体に急峻な移動が起こる可能性がある。工具本体が急激に移動する可能性があると、使用者はその動きに対して身構えることとなるため、使用者にとって電動工具の使い勝手が低下する可能性がある。
【0005】
本開示は、上記事由に鑑みてなされており、電動工具の使い勝手を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電動工具は、モータと、操作部と、制御部と、伝達機構と、ハウジングと、を備える。前記操作部は、ユーザからの操作を受け付ける。前記制御部は、ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御する。前記伝達機構は、前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する。前記ハウジングは、前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容する。前記制御部は、検出機能を有する。前記検出機能において、前記制御部は、前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出する。前記制御部は、前記検出機能において、単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、直前の単位時間の値よりも所定の閾値以上増加していることを検出する、及び/又は単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以下となったことを検出すると、前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出する。
本開示の一態様に係る電動工具は、モータと、操作部と、制御部と、伝達機構と、ハウジングと、を備える。前記操作部は、ユーザからの操作を受け付ける。前記制御部は、ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御する。前記伝達機構は、前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する。前記ハウジングは、前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容する。前記制御部は、検出機能を有する。前記検出機能において、前記制御部は、前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出する。前記制御部は、前記検出機能において、単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、直前の単位時間の値よりも所定の閾値以上減少していることを検出する、及び/又は単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以上となったことを検出すると、前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出する。
本開示の一態様に係る電動工具は、モータと、操作部と、制御部と、伝達機構と、出力軸と、ハウジングと、を備える。前記操作部は、ユーザからの操作を受け付ける。前記制御部は、ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御する。前記伝達機構は、前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する。前記出力軸は、前記先端工具が連結される。前記ハウジングは、前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容する。前記伝達機構は、前記出力軸に加えられるトルクの大きさに応じて前記出力軸に打撃力を加える打撃動作を行うインパクト機構を有する。前記制御部は、検出機能を有する。前記検出機能において、前記制御部は、前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出する。前記制御部は、前記検出機能において、前記打撃動作の開始後に、単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、前記打撃動作の開始直後の値よりも所定の閾値以上増加していることを検出する、及び/又は単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以下となったことを検出すると、前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出する。
【0007】
本開示の一態様に係る制御方法は、電動工具の制御方法である。前記電動工具は、モータと、操作部と、伝達機構と、ハウジングと、制御部と、を備える。前記操作部は、ユーザからの操作を受け付ける。前記伝達機構は、前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する。前記ハウジングは、前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容する。前記制御方法は、前記制御部が、ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御することを含む。前記制御方法は、前記制御部が、前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出することを含む。前記制御方法は、前記制御部が、単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、直前の単位時間の値よりも所定の閾値以上増加していることを検出する、及び/又は単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以下となったことを検出すると、前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出することを含む。
本開示の一態様に係る制御方法は、電動工具の制御方法である。前記電動工具は、モータと、操作部と、伝達機構と、ハウジングと、制御部と、を備える。前記操作部は、ユーザからの操作を受け付ける。前記伝達機構は、前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する。前記ハウジングは、前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容する。前記制御方法は、前記制御部が、ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御することを含む。前記制御方法は、前記制御部が、前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出することを含む。前記制御方法は、前記制御部が、単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、直前の単位時間の値よりも所定の閾値以上減少していることを検出する、及び/又は単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以上となったことを検出すると、前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出することを含む。
本開示の一態様に係る制御方法は、電動工具の制御方法である。前記電動工具は、モータと、操作部と、伝達機構と、出力軸と、ハウジングと、制御部と、を備える。前記操作部は、ユーザからの操作を受け付ける。前記伝達機構は、前記モータの回転軸の回転力を、作業対象に対して作業を行う先端工具へと伝達する。前記出力軸は、前記先端工具が連結される。前記ハウジングは、前記モータ及び前記伝達機構を少なくとも収容する。前記伝達機構は、前記出力軸に加えられるトルクの大きさに応じて前記出力軸に打撃力を加える打撃動作を行うインパクト機構を有する。前記制御方法は、前記制御部が、ベクトル制御を利用して、前記操作部への操作に応じて前記モータの回転動作を制御することを含む。前記制御方法は、前記制御部が、前記モータに供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、前記作業対象に対する前記ハウジングの急峻な移動又はその予兆を検出することを含む。前記制御方法は、前記制御部が、前記打撃動作の開始後に、単位時間あたりの前記トルク電流の最大値又は最小値又は平均値が、前記打撃動作の開始直後の値よりも所定の閾値以上増加していることを検出する、及び/又は単位時間あたりの前記励磁電流の最小値が、所定の閾値以下となったことを検出すると、前記ハウジングの急峻な移動が生じた、又はその予兆があると検出することを含む。
【0008】
本開示の一態様に係るプログラムは、1以上のプロセッサに前記制御方法を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、電動工具の使い勝手を向上させることができる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電動工具のブロック図である。
【
図3】
図3は、同上の電動工具の制御部によるベクトル制御の説明図である。
【
図4】
図4は、同上の電動工具の動作例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、同上の電動工具の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に係る電動工具1について、図面を用いて説明する。ただし、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の1つに過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0012】
(1)概要
図1、
図2に示すように、電動工具1は、モータ15と、操作部29と、制御部4と、伝達機構18と、ハウジング9と、を備える。
【0013】
操作部29は、ユーザからの操作を受け付ける。制御部4は、ベクトル制御を利用して、操作部29への操作に応じてモータ15の回転動作を制御する。伝達機構18は、モータ15の回転軸16の回転力を、作業対象100に対して作業を行う先端工具28へと伝達する。ハウジング9は、少なくとも、モータ15及び伝達機構18を収容する。先端工具28は、例えばソケットビット、レンチビット、ドライバビット、トルクス(登録商標)ビット等である。作業対象100は、例えば木材、壁等である。
【0014】
制御部4は、検出機能を有している。検出機能は、作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する機能である。制御部4は、検出機能において、モータ15に供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。
【0015】
また、電動工具1は、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出すると、ハウジング9の急峻な移動を抑制するための保護動作を実行する。一例において、制御部4は、保護動作として、モータ15の速度を低下させる又はモータ15を停止させる。ここでは、制御部4は、保護動作として、モータ15を停止させる。
【0016】
電動工具1の検出機能では、モータ15に供給されるトルク電流及び/又は励磁電流に基づいて、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆が検出される。そのため、制御部4は、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆の検出に応じて、モータ15を停止させる等の対処を行うことが可能となる。そのため、検出機能を設けることで、電動工具1の使い勝手を向上できる。
【0017】
また、検出機能で用いられるトルク電流及び励磁電流は、モータ15のベクトル制御にも用いられている。そのため、ハウジング9の動きを検出するための専用のセンサ(例えば加速度センサ)等を新たに追加する必要がなく、電動工具1の大型化及びコストの上昇を抑えることができる。
【0018】
(2)詳細
(2.1)電動工具
以下、本実施形態の電動工具1について、図面を参照して更に詳細に説明する。本実施形態の電動工具1は、いわゆるインパクト工具である。インパクト工具は、例えば、インパクトドライバ、ハンマドリル、インパクトドリル、インパクトドリルドライバ又はインパクトレンチとして用いられる。本実施形態では、代表例として、電動工具1がインパクトドライバとして用いられる場合について説明する。
【0019】
図1、
図2に示すように、電動工具1は、モータ15と、伝達機構18と、出力軸21と、ソケット23と、先端工具28と、電源部32と、操作部29と、制御部4と、インバータ回路部51と、ハウジング9と、を備えている。
【0020】
ハウジング9は、モータ15と、伝達機構18と、制御部4と、インバータ回路部51と、出力軸21の一部と、を収容している。ハウジング9は、例えば樹脂製である。ハウジング9は、胴体部91と、グリップ部92と、を有している。胴体部91の形状は、円筒状である。グリップ部92は、胴体部91から突出している。
【0021】
モータ15は、ブラシレスモータである。特に、本実施形態のモータ15は、同期電動機であり、より詳細には、永久磁石同期電動機(PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor))である。モータ15は、永久磁石131を有する回転子13と、コイル141を有する固定子14と、を含んでいる。回転子13は、回転動力を出力する回転軸16を有している。コイル141と永久磁石131との電磁的相互作用により、回転子13は、固定子14に対して回転する。
【0022】
出力軸21は、モータ15から伝達機構18を介して伝達された駆動力により回転する部分である。ソケット23は、出力軸21に固定されている。ソケット23には、先端工具28が着脱自在に取り付けられる。すなわち、出力軸21には、先端工具28が連結される。先端工具28は、出力軸21と一緒に回転する。
【0023】
電動工具1は、モータ15の駆動力で出力軸21を回転させることで、先端工具28を回転させる。すなわち、電動工具1は、先端工具28をモータ15の駆動力で駆動する工具である。各種の先端工具28のうち用途に応じた先端工具28が、ソケット23に取り付けられて用いられる。なお、出力軸21に直接に先端工具28が装着されてもよい。
【0024】
なお、本実施形態の電動工具1はソケット23を備えることで、先端工具28を用途に応じて交換可能であるが、先端工具28が交換可能であることは必須ではない。例えば、電動工具1は、特定の先端工具28のみ用いることができる工具であってもよい。
【0025】
本実施形態の先端工具28は、締付部材30(ねじ)を締める又は緩めるためのドライバビットである。より詳細には、先端工具28は、先端部280が+(プラス)形に形成されたプラスドライバビットである。すなわち、出力軸21は、ねじを締める又は緩めるためのドライバビットを保持し、モータ15から動力を得て回転する。ねじの種類は特に限定されず、例えば、ボルト、ビス又はナットであってよい。
【0026】
伝達機構18は、インパクト機構17と、遊星歯車機構25と、駆動軸22と、を有している。伝達機構18は、モータ15の回転軸16の回転動力を出力軸21に伝達する。より詳細には、伝達機構18は、モータ15の回転軸16の回転動力を調整して、出力軸21の回転として出力する。
【0027】
モータ15の回転軸16は、遊星歯車機構25に接続されている。駆動軸22は、遊星歯車機構25と、インパクト機構17と、に接続されている。遊星歯車機構25は、モータ15の回転軸16の回転動力を所定の減速比で減速して、駆動軸22の回転として出力する。
【0028】
インパクト機構17は、出力軸21と連結されている。インパクト機構17は、遊星歯車機構25及び駆動軸22を介して受け取ったモータ15(回転軸16)の回転動力を、出力軸21に伝達する。
【0029】
インパクト機構17は、出力軸21に加えられるトルクの大きさに応じて打撃動作を行う。インパクト機構17は、打撃動作において、出力軸21に打撃力を加える。
【0030】
図2に示すように、インパクト機構17は、ハンマ19と、アンビル20と、ばね24と、を備えている。ハンマ19は、駆動軸22にカム機構を介して取り付けられている。アンビル20はハンマ19に接触しており、ハンマ19と一体に回転する。ばね24は、ハンマ19をアンビル20側に押している。アンビル20は、出力軸21と一体に形成されている。なお、アンビル20は、出力軸21とは別体に形成されて出力軸21に固定されていてもよい。
【0031】
出力軸21にかかる負荷(トルク)が所定の閾値より小さい場合には、インパクト機構17は、モータ15の回転動力により出力軸21を連続的に回転させる。すなわち、この場合には、カム機構により連結された駆動軸22とハンマ19とが一体に回転し、更にハンマ19とアンビル20とが一体に回転するので、アンビル20と一体に形成された出力軸21が駆動軸22と一緒に回転する。
【0032】
一方で、出力軸21に所定の閾値以上の負荷がかかった場合には、インパクト機構17は、打撃動作を行う。インパクト機構17は、打撃動作において、モータ15の回転動力をパルス状のトルクに変換して打撃力を発生する。すなわち、打撃動作では、ハンマ19は、駆動軸22との間のカム機構による規制を受けながら、ばね24に抗して後退する(アンビル20から離れる)。ハンマ19の後退によりハンマ19とアンビル20との結合が外れた時点で、ハンマ19は回転しながら前進して(出力軸21側へ移動して)アンビル20に回転方向の打撃力を加え、出力軸21を回転させる。つまり、インパクト機構17は、アンビル20を介して出力軸21に軸(出力軸21)周りの回転打撃を加える。インパクト機構17の打撃動作では、ハンマ19がアンビル20に回転方向の打撃力を加える動作が繰り返される。ハンマ19が後退して前進する度に、打撃力が1回発生する。
【0033】
電源部32は、モータ15を駆動する電流を供給する。電源部32は、例えば、電池パックである。電源部32は、例えば、1又は複数の2次電池を含む。電源部32は、例えば、グリップ部92に着脱可能に取り付けられる。
【0034】
操作部29は、トリガスイッチを備えている。トリガスイッチは、グリップ部92から突出している。トリガスイッチを引く操作により、モータ15のオンオフを切換可能である。また、トリガスイッチを引く操作の引込み量で、モータの回転速度を調整可能である。その結果として、トリガスイッチを引く操作の引込み量で、出力軸21の回転速度を調整可能である。上記引込み量が大きいほど、モータ15及び出力軸21の回転速度が速くなる。制御部4は、トリガスイッチを引く操作の引込み量に応じて、モータ15及び出力軸21を回転又は停止させ、また、モータ15及び出力軸21の回転速度を制御する。この電動工具1では、先端工具28がソケット23を介して出力軸21に連結される。そして、トリガスイッチへの操作によってモータ15及び出力軸21の回転速度が制御されることで、先端工具28の回転速度が制御される。
【0035】
より詳細には、トリガスイッチは、操作信号を出力する多段階スイッチ又は無段階スイッチ(可変抵抗器)を備える。操作信号は、トリガスイッチへの操作量(引込み量)に応じて変化する。トリガスイッチは、操作信号に応じてモータ15の速度(回転数)の目標値ω1
*を決定し、制御部4に与える。制御部4は、トリガスイッチから受け取った目標値ω1
*に基づいて、モータ15の回転を制御する。
【0036】
インバータ回路部51は、モータ15を駆動するための回路である。インバータ回路部51は、電源部32からの電圧Vdcを、モータ15用の駆動電圧Vaに変換する。本実施形態では、駆動電圧Vaは、U相電圧、V相電圧及びW相電圧を含む三相交流電圧である。以下では、必要に応じて、U相電圧をvu、V相電圧をvv、W相電圧をvwで表す。各電圧vu,vv,vwは、正弦波電圧である。
【0037】
インバータ回路部51は、PWMインバータとPWM変換器とを利用して実現できる。PWM変換器は、駆動電圧Va(U相電圧vu、V相電圧vv、W相電圧vw)の目標値(電圧指令値)vu
*,vv
*,vw
*に従って、パルス幅変調されたPWM信号を生成する。PWMインバータは、このPWM信号に応じた駆動電圧Va(vu,vv,vw)をモータ15に与えてモータ15を駆動する。より具体的には、PWMインバータは、3相分のハーフブリッジ回路とドライバとを備える。PWMインバータでは、ドライバがPWM信号に従って各ハーフブリッジ回路におけるスイッチング素子をオン/オフすることにより、電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*に従った駆動電圧Va(vu,vv,vw)がモータ15に与えられる。これによって、モータ15には、駆動電圧Va(vu,vv,vw)に応じた駆動電流が供給される。駆動電流は、U相電流iu、V相電流iv、及びW相電流iwを含む。より詳細には、U相電流iu、V相電流iv、及びW相電流iwは、モータ15の固定子14における、U相の電機子巻線の電流、V相の電機子巻線の電流及びW相の電機子巻線の電流である。
【0038】
制御部4は、操作部29から与えられるモータ15の速度の目標値ω1
*に基づいて、モータ15の速度の指令値ω2
*を定める。また、制御部4は、モータ15の速度が指令値ω2
*に一致するように、駆動電圧Vaの目標値(電圧指令値)vu
*,vv
*,vw
*を決定して、インバータ回路部51に与える。
【0039】
(2.2)制御部
以下、制御部4について更に詳細に説明する。制御部4は、本実施形態では、ベクトル制御を利用して、モータ15の制御を行う。ベクトル制御は、モータ電流を、トルク(回転力)を発生する電流成分(トルク電流)と磁束を発生する電流成分(励磁電流)とに分解し、それぞれの電流成分を独立に制御するモータ制御方式の一種である。
【0040】
図3は、ベクトル制御におけるモータ15の解析モデル図である。
図3には、U相、V相、W相の電機子巻線固定軸が示されている。ベクトル制御では、モータ15の回転子13に設けられた永久磁石131が作る磁束の回転速度と同じ速度で回転する回転座標系が考慮される。回転座標系において、永久磁石131が作る磁束の方向をd軸にとり、d軸に対応する制御上の回転軸をγ軸とする。また、d軸から電気角で90度進んだ位相にq軸をとり、γ軸から電気角で90度進んだ位相にδ軸をとる。実軸に対応する回転座標系はd軸とq軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をdq軸と呼ぶ。制御上の回転座標系はγ軸とδ軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をγδ軸と呼ぶ。
【0041】
dq軸は回転しており、その回転速度をωで表す。γδ軸も回転しており、その回転速度をωeで表す。また、dq軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たd軸の角度(位相)をθで表す。同様に、γδ軸において、U相の電機子巻線固定軸から見たγ軸の角度(位相)をθeで表す。θ及びθeにて表される角度は、電気角における角度であり、それらは一般的に回転子位置又は磁極位置とも呼ばれる。ω及びωeにて表される回転速度は、電気角における角速度である。以下、必要に応じて、θ又はθeを、回転子位置と呼び、ω又はωeを単に速度と呼ぶことがある。
【0042】
制御部4は、基本的に、θとθeとが一致するようにベクトル制御を行う。θとθeとが一致しているとき、d軸及びq軸は夫々γ軸及びδ軸と一致することになる。なお、以下の説明では、必要に応じて、駆動電圧Vaのγ軸成分及びδ軸成分を、それぞれγ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδで表し、駆動電流のγ軸成分及びδ軸成分を、それぞれγ軸電流iγ及びδ軸電流iδで表す。
【0043】
また、γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδの目標値を表す電圧指令値を、それぞれγ軸電圧指令値vγ
*及びδ軸電圧指令値vδ
*により表す。γ軸電流iγ及びδ軸電流iδの目標値を表す電流指令値を、それぞれγ軸電流指令値iγ
*及びδ軸電流指令値iδ
*により表す。
【0044】
制御部4は、γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδの値がそれぞれγ軸電圧指令値vγ
*及びδ軸電圧指令値vδ
*に追従しかつγ軸電流iγ及びδ軸電流iδの値がそれぞれγ軸電流指令値iγ
*及びδ軸電流指令値iδ
*に追従するように、ベクトル制御を行う。
【0045】
制御部4は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部4の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0046】
図1に示すように、制御部4は、座標変換器411,412と、減算器421,422,423と、電流制御部43と、磁束制御部44と、速度制御部45と、位置・速度推定部46と、脱調検出部47と、指令値生成部48と、移動検出部49と、を備える。なお、座標変換器411、減算器421,422,423、電流制御部43、磁束制御部44、速度制御部45、位置・速度推定部46、脱調検出部47、指令値生成部48及び移動検出部49は、必ずしも実体のある構成を示しているわけではない。これらは、制御部4によって実現される機能を示している。よって、制御部4の各要素は、制御部4内で生成された各値を自由に利用可能となっている。また、電動工具1は、複数(
図1では2つ)の電流センサ61,62を備えている。
【0047】
複数の電流センサ61,62の各々は、例えば、ホール素子電流センサ又はシャント抵抗素子を含んでいる。複数の電流センサ61,62は、電源部32からインバータ回路部51を介してモータ15に供給される電流を測定する。複数の電流センサ61,62は、少なくとも2相の電流を測定する。
図1では、電流センサ61がU相電流i
uを測定し、電流センサ62がV相電流i
vを測定する。なお、W相電流i
wは、U相電流i
u及びV相電流i
vから求めることができる。
【0048】
座標変換器(第1の座標変換器)411は、回転子位置θeに基づいてU相電流iu及びV相電流ivをγδ軸上に座標変換することにより、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδを算出して出力する。ここで、γ軸電流iγは、d軸電流に対応し、励磁的な電流であり、トルクには殆ど寄与しない電流である。δ軸電流iδは、q軸電流に対応し、トルクに大きく寄与する電流である。回転子位置θeは、位置・速度推定部46にて算出される。
【0049】
減算器423は、速度ωeと指令値ω2
*とを参照し、両者間の速度偏差(ω2
*-ωe)を算出する。速度ωeは、位置・速度推定部46にて算出される。
【0050】
速度制御部45は、比例積分制御などを用いることによって、速度偏差(ω2
*-ωe)がゼロに収束するようにδ軸電流指令値iδ
*を算出して出力する。
【0051】
磁束制御部44は、γ軸電流指令値iγ
*を決定して減算器421に出力する。γ軸電流指令値iγ
*は、制御部4にて実行されるベクトル制御の種類やモータ15の速度ωに応じて、様々な値をとりうる。例えば、d軸電流をゼロとして最大トルク制御を行う場合は、γ軸電流指令値iγ
*が0とされる。また、d軸電流を流して弱め磁束制御を行う場合は、γ軸電流指令値iγ
*が速度ωeに応じた負の値とされる。以下の説明では、γ軸電流指令値iγ
*が0である場合を取り扱う。
【0052】
減算器421は、磁束制御部44から出力されるγ軸電流指令値iγ
*より座標変換器411から出力されるγ軸電流iγを減算し、電流誤差(iγ
*-iγ)を算出する。減算器422は、速度制御部45から出力される値iδ
*より座標変換器411から出力されるδ軸電流iδを減算し、電流誤差(iδ
*-iδ)を算出する。
【0053】
電流制御部43は、電流誤差(iγ
*-iγ)及び(iδ
*-iδ)が共にゼロに収束するように、比例積分制御などを用いた電流フィードバック制御を行う。この際、γ軸とδ軸との間の干渉を排除するための非干渉制御を利用し、(iγ
*-iγ)及び(iδ
*-iδ)が共にゼロに収束するようにγ軸電圧指令値vγ
*及びδ軸電圧指令値vδ
*を算出する。
【0054】
座標変換器(第2の座標変換器)412は、位置・速度推定部46から出力される回転子位置θeに基づいて電流制御部43から与えられたγ軸電圧指令値vγ
*及びδ軸電圧指令値vδ
*を三相の固定座標軸上に座標変換することにより、電圧指令値(vu
*、vv
*及びvw
*)を算出して出力する。
【0055】
位置・速度推定部46は、回転子位置θe及び速度ωeを推定する。より詳細には、位置・速度推定部46は、座標変換器411からのiγ及びiδ並びに電流制御部43からのvγ
*及びvδ
*の内の全部又は一部を用いて、比例積分制御等を行う。位置・速度推定部46は、d軸とγ軸との間の軸誤差(θe-θ)がゼロに収束するように回転子位置θe及び速度ωeを推定する。なお、回転子位置θe及び速度ωeの推定手法として従来から様々な手法が提案されており、位置・速度推定部46は公知の何れの手法をも採用可能である。
【0056】
脱調検出部47は、モータ15が脱調しているか否かを判定する。より詳細には、脱調検出部47は、モータ15の磁束に基づいて、モータ15が脱調しているか否かを判定する。モータ15の磁束は、d軸電流及びq軸電流及びγ軸電圧指令値vγ
*及びδ軸電圧指令値vδ
*から求められる。脱調検出部47は、モータ15の磁束の振幅が閾値未満であれば、モータ15が脱調していると判断してよい。なお、閾値は、モータ15の永久磁石が作る磁束の振幅に基づいて適宜定められる。なお、脱調検出手法として従来から様々な手法が提案されており、脱調検出部47は公知の何れの手法をも採用可能である。
【0057】
指令値生成部48は、制御部4において、モータ15の速度の指令値ω2
*を求める部分である。ここでは、指令値生成部48は、指令値ω2
*として、操作部29から受け取った目標値ω1
*を設定する。
【0058】
移動検出部49は、上述の検出機能の実行主体である。検出機能において、移動検出部49は、モータ15に供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。移動検出部49は、検出機能において、モータ15に供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、ハウジング9に加わる加速度の急激な増加を検出することで、作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。なお、本開示では、これから作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動が起きることが予測されるとき、作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動の予兆がある、という。
【0059】
移動検出部49は、座標変換器411で算出したγ軸電流iγを励磁電流の測定値、δ軸電流iδをトルク電流の測定値としてそれぞれ用いて、検出機能を実行する。
【0060】
移動検出部49が検出対象とするハウジング9の急峻な移動は、ここでは、作業対象100からの反力によるハウジング9の移動を含む。移動検出部49が検出対象とするハウジング9の急峻な移動の予兆は、ここでは、作業対象100からの反力に起因してハウジング9に加わる加速度の急激な増加を含む。
【0061】
例えば、電動工具1としてのインパクトドライバ(
図2参照)を用いて、木材(作業対象100)にねじ(締付部材30)を締めている途中において、ねじの先端が木材の硬い部分に接触する場合がある。この場合、木材から受ける負荷が急激に増加することで出力軸21の回転速度が低下するが、その一方、モータ15は、出力軸21の速度を維持しようとして回転軸16の速度を維持しようとする。そのため、モータ15の本体(固定子14を収容する部分)ひいてはモータ15を保持するハウジング9には、出力軸21の回転速度の低下にともなうモータ15の回転力が、木材(作業対象100)からの反力として作用する。そのため、電動工具1のハウジング9は、出力軸21の回転方向と反対方向に回転しようとする(ハウジング9の急峻な移動)。
【0062】
本実施形態の電動工具1の制御部4の移動検出部49は、トルク電流と励磁電流との少なくとも一方、ここでは両方に基づいて、このようなハウジング9の急峻な移動(出力軸21周りの回転)又はその予兆を検出する。
【0063】
図4に、電動工具1(インパクトドライバ)によってねじを作業対象100に締め付ける際の、モータ15の速度ω、δ軸電流i
δ(トルク電流)及びγ軸電流i
γ(励磁電流)の概略の一例を示す。
【0064】
図4では、時点t0にモータ15への電流の供給が開始し、時点t1でインパクト機構17が打撃動作を開始する。また、時点t2で、出力軸21にかかる負荷が増大している。なお、以下では、便宜上、時点t0~t1の間の期間を第1期間T1、時点t1~t2の間の期間を第2期間T2、時点t2以降の期間を第3期間T3ということがある。
【0065】
第1期間T1では、トリガスイッチの引込み量の増加(モータ15の指令値ω2
*の増加)に追従して、モータ15の速度ωが増加している。そして、トリガスイッチの引込み量が上限値で一定となった時点t4以降は、モータ15の速度ωも一定値に収束している。第1期間T1では、出力軸21にかかる負荷が、インパクト機構17が打撃動作を開始する閾値を超えていない。そのため、インパクト機構17は打撃動作を行わず、出力軸21は駆動軸22と一体に回転する。なお、実際には、モータ15の速度ωが増加する状態から一定値に維持される状態に転じる際(時点t4)に、モータ15の速度ωが指令値ω2
*を所定量以上超える状態であるオーバーシュートが発生することがあるが、ここでは無視している。
【0066】
時点t1において、出力軸21にかかる負荷が、インパクト機構17が打撃動作を開始する閾値に達する。そして、時点t1以降の第2期間T2では、インパクト機構17が打撃動作を行う。第2期間T2では、モータ15の速度ωは、インパクト機構17の打撃動作に応じて、指令値ω2
*の周りで振動する。
【0067】
第2期間T2において、δ軸電流i
δ(トルク電流)は、インパクト機構17の打撃動作に応じて、所定値Ip
δ1周りで振動する。具体的には、インパクト機構17の打撃動作において、ハンマ19が後退する間は、モータ15の回転軸16にかかる負荷は徐々に増加する。そして、ハンマ19とアンビル20との結合が外れると、モータ15の回転軸16にかかる負荷が減少する。上述のように、制御部4は、dq軸における回転子位置θとγδ軸における回転子位置θ
eとが一致するように制御を行う。そのため、制御部4は、モータ15の回転軸16にかかる負荷が増加又は減少すると、これにより生じるθとθ
eとの差分を補償するように制御を行うので、δ軸電流i
δの測定値が増加又は減少する。具体的には、モータ15にかかる負荷が小さくなった直後は、δ軸電流i
δの測定値が減少し、モータ15にかかる負荷が大きくなった瞬間は、δ軸電流i
δの測定値が増加する。なお、
図4におけるδ軸電流i
δの振動の一往復が、インパクト機構17による1回の打撃動作に相当している。
【0068】
また、第2期間T2において、γ軸電流i
γ(励磁電流)は、インパクト機構17の打撃動作に応じて、電流値ゼロの周りで振動する。すなわち、制御部4が、モータ15の回転軸16にかかる負荷の増加又は減少に応じてθとθ
eとの差分を補償するように制御を行うことで、δ軸電流i
δと同様(詳細にはδ軸電流i
δと逆位相で)、γ軸電流i
γが振動する。
図4におけるγ軸電流i
γの振動の一往復が、インパクト機構17による1回の打撃動作に相当している。
【0069】
このように、制御部4は、δ軸電流iδ(トルク電流)又はγ軸電流iγ(励磁電流)の振動の有無を検出することで、インパクト機構17の打撃動作の有無(打撃動作の開始及び終了)を検出できる。制御部4は、例えば、δ軸電流iδ又はγ軸電流iγの振幅を所定の閾値と比較することで、δ軸電流iδ又はγ軸電流iγの振動の有無を検出する。なお、電流の振幅は、例えば、単位時間あたりの電流の最大値と最小値との差分の1/2として定義される。
【0070】
時点t2において、ねじにかかる負荷が急増することで、出力軸21にかかる負荷が増加する。
図4に示すように、時点t2以降の第3期間T3において、ねじにかかる負荷が増加した時点(時点t2)の直後は、インパクト機構17が打撃動作を継続している。
【0071】
ここで、第3期間T3では、第2期間T2に比べて出力軸21にかかる負荷が増加し、ひいてはモータ15の回転軸16にかかる負荷が増加する。第3期間T3においては、制御部4は、回転軸16にかかる負荷の増加に応じて、モータ15に供給するトルク電流(δ軸電流iδ)を増加させる。そのため、第3期間T3において、δ軸電流iδ(トルク電流)は、インパクト機構17の打撃動作に応じて、所定値Ipδ2(>Ipδ1)周りで振動する。
【0072】
移動検出部49は、このδ軸電流iδ(トルク電流)の増加を検出することで、回転軸16にかかる負荷の増加に起因したハウジング9の急峻な移動又はその予兆を、検出している。具体的には、移動検出部49は、トルク電流(δ軸電流iδ)の最大値、最小値及び平均値のうちのいずれか一つが増加したことを検出することで、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。例えば、移動検出部49は、単位時間あたりのトルク電流の最大値(又は最小値又は平均値)が、打撃動作の開始直後の値よりも所定の閾値以上増加していることを検出すると、ハウジング9に急峻な移動が起こった又はその予兆があると判定する。
【0073】
要するに、制御部4(移動検出部49)は、検出機能において、トルク電流に基づいて求めた回転軸16にかかる負荷が、所定値以上となると、ハウジング9の急峻な移動があると判定する。ここでの所定値は、例えば、検出対象がトルク電流の平均値の場合、上記の所定値Ipδ1に設定され得る。
【0074】
また、第3期間T3では、上述のように、第2期間T2に比べて出力軸21にかかる負荷が増加し、モータ15の回転軸16にかかる負荷が増加する。そのため、第3期間T3では、インパクト機構17の打撃動作において、ハンマ19が後退する間に生じるθとθ
eとの差分が、第2期間T2に比べて大きくなる。制御部4はθとθ
eとの差分を補償するように制御を行うので、θとθ
eとの差分の増加は、γ軸電流i
γの最小値の低下(負の方向の最大値の絶対値の増加)として現れる(
図4参照)。
【0075】
移動検出部49は、このγ軸電流iγ(励磁電流)の最小値の低下を検出することで、回転軸16にかかる負荷の増加に起因したハウジング9の急峻な移動又はその予兆を、検出している。具体的には、移動検出部49は、打撃動作の開始直後の値よりも、励磁電流(γ軸電流iγ)の最小値が減少したこと(絶対値で見た場合、増加したこと)を検出することで、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。例えば、移動検出部49は、単位時間あたりの励磁電流の最小値が、所定の閾値以下となったことを検出すると、ハウジング9に急峻な移動が起こった又はその予兆があると判定してもよい。
【0076】
このように、移動検出部49は、モータ15に供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。移動検出部49は、励磁電流に基づく検出結果とトルク電流に基づく検出結果との論理和に基づいて、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出してもよいし、論理積に基づいてハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出してもよい。
【0077】
制御部4は、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出すると、保護動作を実行する。ここでは、制御部4は、保護動作として、モータ15を停止させる。制御部4は、例えば、インバータ回路部51に与えられる駆動電圧Vaの目標値(電圧指令値)vu
*,vv
*,vw
*を0とすることで、モータ15を停止させる。これにより、ハウジング9に急峻な移動又はその予兆があった場合に、その原因となるモータ15の回転が停止されるので、電動工具1から使用者にかかる負荷が低減される。そのため、本実施形態の電動工具1によれば、使い勝手を向上させることが可能となる。
【0078】
(3)変形例
本開示の実施形態は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下に、上記実施形態の変形例を列挙する。
【0079】
電動工具1の制御部4と同様の機能は、電動工具1の制御方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。
【0080】
一態様に係る電動工具1の制御方法は、ベクトル制御を利用して、操作部29への操作に応じてモータ15の回転動作を制御することを含む。また、制御方法は、モータ15に供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出することを含む。
【0081】
具体的には、
図5に示すように、制御部4は、操作部29が操作されると、操作部29への操作量に応じて設定した指令値ω
2
*を用いて、モータ15をベクトル制御する(ST1)。また、制御部4は、モータ15をベクトル制御している間、トルク電流に基づいてハウジング9の急峻な移動又はその予兆の存否を判定し(ST2)、励磁電流に基づいてハウジング9の急峻な移動の存否又はその予兆を判定する(ST3)。制御部4は、トルク電流及び励磁電流のうちの一方又は両方に基づいてハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出すると(ST4:Yes)、保護動作としてモータ15を停止させる(ST5)。
【0082】
なお、
図5は、本実施形態の制御方法の一例であり、必ずしも
図5のフローチャートの通りに処理が実行される必要はない。例えば、ステップST2とステップST3とが逆の順序で実行されてもよいし、同時に実行されてもよい。
【0083】
一態様に係るプログラムは、1以上のプロセッサに、上記の電動工具1の制御方法を実行させるためのプログラムである。
【0084】
以上述べた制御部4の実行主体は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における制御部4としての機能の一部が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1ないし複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なっており、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスについても、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。ここでいうコンピュータシステムは、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを含む。したがって、マイクロコントローラについても、半導体集積回路又は大規模集積回路を含む1ないし複数の電子回路で構成される。
【0085】
また、制御部4における複数の機能が、1つのハウジング内に集約されていることは必須の構成ではない。制御部4の構成要素は、複数のハウジングに分散して設けられていてもよい。反対に、制御部4における複数の機能が、基本例のように、1つのハウジング内に集約されてもよい。さらに、制御部4の少なくとも一部の機能、例えば、制御部4の一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0086】
(3-1)変形例1
以下、変形例1に係る電動工具1について説明する。本変形例の電動工具1において、実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0087】
本変形例の電動工具1は、例えばハンマドリルである。本変形例の電動工具1では、移動検出部49が検出対象とするハウジング9の急峻な移動は、作業対象100から先端工具28(出力軸21)にかかる負荷の急激な減少(負荷の喪失)に起因するハウジング9の移動を含む。移動検出部49が検出対象とするハウジング9の急峻な移動の予兆は、作業対象100から出力軸21にかかる負荷の急激な減少(負荷の喪失)に起因してハウジング9に加わる加速度の急激な増加を含む。
【0088】
例えば、先端工具28としてドリルビットを用いて、木材(作業対象100)に穴開け作業を行っているときに、ビットが木材を貫通する場合がある。この場合、木材から受ける負荷が急激に減少することで、ハウジング9が先端工具28とともに前方へ急激に移動する可能性がある(ハウジング9の急峻な移動)。
【0089】
本変形例の電動工具1の制御部4の移動検出部49は、トルク電流と励磁電流との少なくとも一方、ここでは両方に基づいて、このようなハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。
【0090】
以下、本変形例の電動工具1の動作について、簡単に説明する。
【0091】
本変形例の電動工具1によって木材(作業対象100)に穴開け作業を行う場合、ドリルビットが木材を貫通する前におけるモータ15の速度ω、δ軸電流iδ(トルク電流)、及びγ軸電流iγ(励磁電流)の概略は、実施形態の第1期間T1及び第2期間T2のそれらと同様である。
【0092】
一方、ドリルビットが木材を貫通すると、貫通する前に比べて出力軸21にかかる負荷が減少し、モータ15の回転軸16にかかる負荷が減少する。
【0093】
そのため、ドリルビットが木材を貫通した後の期間(以下、「貫通後期間」という)では、回転軸16にかかる負荷の減少に応じて、δ軸電流iδ(トルク電流)が減少する。つまり、作業対象100の穴開けの完了に伴うハウジング9の急峻な移動は、作業対象100からの反力によるハウジング9の急峻な移動の場合(実施形態参照)とは反対に、トルク電流の電流値の最大値、最小値、及び平均値の減少として現れる。移動検出部49は、このδ軸電流iδ(トルク電流)の減少を検出することで、出力軸21にかかる負荷の減少に起因したハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。
【0094】
また、貫通後期間においては、ハンマ19が後退する間に生じるθとθeとの差分は、ドリルビットが木材を貫通する前に比べて小さくなる。そのため、貫通後期間においては、γ軸電流iγの測定値の最小値が増加する(負の方向の最大値の絶対値が減少する;ゼロに近づく)。移動検出部49は、このγ軸電流iγ(励磁電流)の最小値の増加を検出することで、出力軸21にかかる負荷の減少に起因したハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。
【0095】
このように、移動検出部49は、モータ15に供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する。移動検出部49は、励磁電流に基づく検出結果とトルク電流に基づく検出結果との論理和に基づいて、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出してもよいし、論理積に基づいてハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出してもよい。
【0096】
本変形例の電動工具1でも、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆の検出に応じて、モータ15を停止させる等の対処を行うことが可能となり、電動工具1の使い勝手を向上できる。
【0097】
電動工具1は、本変形例の検出機能と上記実施形態の検出機能との両方を兼ね備えていてもよい。
【0098】
(3-2)変形例2
以下、変形例2に係る電動工具1について説明する。本変形例の電動工具1において、実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0099】
本変形例の電動工具1では、伝達機構18がインパクト機構17を備えておらず、例えば駆動軸22と出力軸21とが一体に結合されている点で、実施形態の電動工具1と相違する。本変形例の電動工具1は、例えばドリルドライバである。
【0100】
以下、本変形例の電動工具1の動作について、簡単に説明する。
【0101】
ドリルドライバとしての本変形例の電動工具1を用いて、ねじ締め作業を行う場合、モータ15の速度ω、δ軸電流iδ(トルク電流)、及びγ軸電流iγ(励磁電流)の概略は、実施形態の第1期間T1のそれらと同様である。また、出力軸21にかかる負荷が増加した後の、モータ15の速度ω、δ軸電流iδ、及びγ軸電流iγの概略は、実施形態の第3期間T3のそれらと同様である。つまり、本変形例の電動工具1(ドリルドライバ)を用いてねじ締め作業を行う場合、モータ15の速度ω、δ軸電流iδ、及びγ軸電流iγの概略は、第2期間T2が無い以外は、実施形態のそれらと同様である。
【0102】
また、本変形例の電動工具1を用いて、穴開け作業を行う場合、モータ15の速度ω、δ軸電流iδ、及びγ軸電流iγの概略は、第2期間T2が無い以外は、変形例1で説明したのと同様である。
【0103】
したがって、本変形例の電動工具1でも、制御部4(移動検出部49)は、モータ15に供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、作業対象100に対するハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出できる。
【0104】
なお、作業対象100によっては、第3期間T3(或いは貫通後期間)において、δ軸電流iδの電流値及びγ軸電流iγの電流値が振動しない場合もあり得る。
【0105】
(3-3)その他の変形例
一変形例において、制御部4は、保護動作として、指令値生成部48で生成する指令値ω2
*を0とすることでモータ15を停止させてもよい。
【0106】
一変形例において、電動工具1の制御部4は、保護動作として、モータ15の回転速度を低下させてもよい。
【0107】
一変形例において、制御部4は、保護動作として、モータ15の回転軸16の回転力の、先端工具28への伝達を遮断させてもよい。例えば、伝達機構18がクラッチ機構を含んでいる場合、クラッチ機構により、モータ15の回転軸16の回転力の先端工具28への伝達を遮断させてもよい。クラッチ機構は、例えば電子クラッチにより実現されてもよい。
【0108】
一変形例において、伝達機構18(例えば遊星歯車機構25)が変速機構を含んでいる場合、制御部4は、保護動作として、モータ15の回転軸16の速度に対する先端工具28の速度の比(減速比)を低下させてもよい。
【0109】
一変形例において、電動工具1は、先端工具28としての丸鋸刃を備える電動のソーであってもよい。
【0110】
一変形例において、電動工具1は、電動の油圧式工具(オイルパルスインパクト工具等)であってもよい。
【0111】
一変形例において、電動工具1は、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出する加速度センサ又はジャイロセンサを備えてもよい。制御部4は、センサの検出結果を更に参照して、ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出してもよい。
【0112】
一変形例において、電動工具1は、検出機能の有効と無効とを切り換える切換部を備えていてもよい。切換部は、例えば、ユーザの操作を受け付けるスイッチ等を備え得る。スイッチへの操作に応じて、検出機能の有効と無効とが切り換えられる。
【0113】
一変形例において、制御部4は、モータ15の速度ωが所定の速度閾値以下の場合、検出機能と保護動作とのうちの少なくとも一方を無効としてもよい。
【0114】
一変形例において、制御部4は、保護動作の履歴を記憶する記憶部を備えていてもよい。制御部4は、例えば、保護動作を実行してから所定時間内にハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出した場合、保護動作を行わないように構成されていてもよい。例えば、一旦ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出してモータ15を停止(保護動作を実行)した後、所定時間内に再度ハウジング9の急峻な移動又はその予兆を検出した場合、制御部4は、モータ15を停止させずにモータ15の回転動作を維持する。これにより、作業効率の向上を図ることができる。
【0115】
(4)態様
以上説明した実施形態及び変形例等から以下の態様が開示されている。
【0116】
第1の態様の電動工具(1)は、モータ(15)と、操作部(29)と、制御部(4)と、伝達機構(18)と、ハウジング(9)と、を備える。操作部(29)は、ユーザからの操作を受け付ける。制御部(4)は、ベクトル制御を利用して、操作部(29)への操作に応じてモータ(15)の回転動作を制御する。伝達機構(18)は、モータ(15)の回転軸(16)の回転力を、作業対象(100)に対して作業を行う先端工具(28)へと伝達する。ハウジング(9)は、モータ(15)及び伝達機構(18)を少なくとも収容する。制御部(4)は、モータ(15)に供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、作業対象(100)に対するハウジング(9)の急峻な移動又はその予兆を検出する検出機能を有する。
【0117】
この態様によれば、ハウジング(9)の急峻な移動又はその予兆の検出に応じて、モータ(15)を停止させる等の対処を行うことが可能となり、電動工具(1)の使い勝手を向上できる。
【0118】
第2の態様の電動工具(1)では、第1の態様において、制御部(4)は、検出機能において、トルク電流に基づいて求めた回転軸(16)にかかる負荷が、所定値以上となると、ハウジング(9)の急峻な移動又はその予兆があると判定する。
【0119】
この態様によれば、回転軸(16)にかかる負荷の増加に起因するハウジング(9)の急峻な移動又はその予兆を、検出可能となる。
【0120】
第3の態様の電動工具(1)では、第1又は第2の態様において、ハウジング(9)の急峻な移動は、作業対象(100)からの反力によるハウジング(9)の移動を含む。
【0121】
この態様によれば、作業対象(100)からの反力に起因するハウジング(9)の急峻な移動を、検出可能となる。
【0122】
第4の態様の電動工具(1)では、第1~第3のいずれか1つの態様において、制御部(4)は、ハウジング(9)の急峻な移動又はその予兆を検出すると、モータ(15)の速度を低下させる又はモータ(15)を停止させる。
【0123】
この態様によれば、ハウジング(9)に急峻な移動又はその予兆があった場合に、その原因となるモータ(15)が停止又は減速されるので、電動工具(1)からその使用者にかかる負荷が低減される。そのため、電動工具(1)の使い勝手が向上する。
【0124】
第5の態様の電動工具(1)では、第1~第4のいずれか1つの態様において、制御部(4)は、ハウジング(9)の急峻な移動又はその予兆を検出すると、モータ(15)の回転軸(16)の回転力の先端工具(28)への伝達を遮断させる。
【0125】
この態様によれば、ハウジング(9)に急峻な移動又はその予兆があった場合に、その原因となる出力軸(21)の回転が停止されるので、電動工具(1)からその使用者にかかる負荷が低減される。そのため、電動工具(1)の使い勝手が向上する。
【0126】
第6の態様の電動工具(1)は、第1~第5のいずれか1つの態様において、先端工具(28)が連結される出力軸(21)を備える。伝達機構(18)は、出力軸(21)に加えられるトルクの大きさに応じて出力軸(21)に打撃力を加える打撃動作を行うインパクト機構(17)を有する。
【0127】
この態様によれば、インパクト機構(17)を備えたいわゆるインパクト工具の使い勝手を向上できる。
【0128】
第7の態様の電動工具(1)は、第1~第6のいずれか1つの態様において、検出機能の有効と無効とを切り換える切換部を備える。
【0129】
この態様によれば、検出機能が不要な場合に、機能を無効にすることができ、電動工具(1)の使い勝手を向上できる。
【0130】
第9の態様の制御方法は、電動工具の制御方法である。電動工具(1)は、モータ(15)と、操作部(29)と、伝達機構(18)と、ハウジング(9)と、を備える。操作部(29)は、ユーザからの操作を受け付ける。伝達機構(18)は、モータ(15)の回転軸(16)の回転力を、作業対象(100)に対して作業を行う先端工具(28)へと伝達する。ハウジング(9)は、モータ(15)及び伝達機構(18)を少なくとも収容する。制御方法は、ベクトル制御を利用して、操作部(29)への操作に応じてモータ(15)の回転動作を制御することを含む。制御方法は、モータ(15)に供給されるトルク電流と励磁電流との少なくとも一方に基づいて、作業対象(100)に対するハウジング(9)の急峻な移動又はその予兆を検出することを含む。
【0131】
この態様によれば、ハウジング(9)の急峻な移動又はその予兆の検出に応じて、モータ(15)を停止させる等の対処を行うことが可能となり、電動工具(1)の使い勝手を向上できる。
【0132】
第9の態様のプログラムは、1以上のプロセッサに、第8の態様の制御方法を実行させるためのプログラムである。
【0133】
この態様によれば、ハウジング(9)の急峻な移動の検出又はその予兆に応じて、モータ(15)を停止させる等の対処を行うことが可能となり、電動工具(1)の使い勝手を向上できる。
【符号の説明】
【0134】
1 電動工具
4 制御部
9 ハウジング
15 モータ
16 回転軸
17 インパクト機構
18 伝達機構
21 出力軸
28 先端工具
29 操作部
100 作業対象