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特許7555047紫外線硬化性樹脂組成物、光学部品、光学部品の製造方法、発光装置、及び発光装置の製造方法
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  • 特許-紫外線硬化性樹脂組成物、光学部品、光学部品の製造方法、発光装置、及び発光装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】紫外線硬化性樹脂組成物、光学部品、光学部品の製造方法、発光装置、及び発光装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/56 20060101AFI20240913BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20240913BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20240913BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20240913BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240913BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20240913BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C08F20/56
C08F2/50
H05B33/04
H05B33/12 E
H05B33/14 A
H05B33/10
G02B1/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020020121
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021123693
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦岡 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 広志
(72)【発明者】
【氏名】池上 裕基
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/160079(WO,A1)
【文献】特開2018-127522(JP,A)
【文献】特開2019-179222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00-20/70
C08F 2/00- 2/60
H05B 33/04
H05B 33/12
H10K 50/10
H05B 33/10
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子を有する多官能アクリル化合物(Y1)と、前記多官能アクリル化合物(Y1)以外の一分子中に(メタ)アクリロイル基を含む二つ以上のラジカル重合性官能基を有する多官能アクリル化合物(Y21)とを含む、アクリル化合物(Y)と、光重合開始剤(B)とを含有し、
前記多官能アクリル化合物(Y1)が一分子中に二以上の(メタ)アクリルアミド基を有する多官能アクリルアミド化合物(Y11)を含有し、
前記多官能アクリルアミド化合物(Y11)が、下記式(51)に示す化合物、下記式(52)に示す化合物、下記式(53)、及び下記(54)に示す化合物からなる群のうち少なくとも一種を含有し、
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
前記アクリル化合物(Y)全体に対する前記多官能アクリル化合物(Y1)の割合は3質量%以上40質量%以下であり、
前記多官能アクリル化合物(Y21)が、下記式(200)に示す構造を有する化合物(Y211)を含有し、
CH 2 =CR -COO-(R -O) n -CO-CR =CH 2 …(200)
式(200)において、R 及びR の各々は水素又はメチル基、nは1以上の整数、R は炭素数1以上のアルキレン基であり、nが2以上の場合は一分子中の複数のR は互いに同一であっても異なっていてもよく、
前記アクリル化合物(Y)全体92質量部に対して前記多官能アクリル化合物(Y21)の量は20質量部以上、かつ前記アクリル化合物(Y)全体に対する前記多官能アクリル化合物(Y21)の割合は70質量%以下であり、
前記アクリル化合物(Y)全体に対する前記多官能アクリルアミド化合物(Y1)と前記多官能アクリル化合物(Y21)との合計の割合は50質量%以上である、
紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
大気雰囲気下での紫外線硬化性を有する、
請求項1に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
光源が発する光を透過させる光学部品を作製するための、
請求項1又は2に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
インクジェット法で成形される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
溶剤を含有せず又は溶剤の含有量が1質量%以下である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
25℃における粘度と40℃における粘度とのうち少なくとも一方が30mPa・s以下である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
硬化物のガラス転移温度が80℃以上である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
硬化物を80℃で30分間加熱した場合に生じるアウトガスの割合が60ppm以下である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記多官能アクリル化合物(Y1)は一分子中に少なくとも一つのアミド基を有する化合物を含有する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
窒素原子を有する単官能アクリル化合物(Y222)を更に含有する、
請求項1から9のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
前記光重合開始剤(B)は、フォトブリーチング性を有する光重合開始剤を含有する、
請求項1から10のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む、
光学部品。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法で成形してから、前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して硬化させることを含む、光学部品の製造方法。
【請求項14】
大気雰囲気下で前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射する、
請求項13に記載の光学部品の製造方法。
【請求項15】
光源と、前記光源が発する光を透過させる光学部品とを備え、前記光学部品は、請求項1から11のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む、
発光装置。
【請求項16】
光源と、前記光源が発する光を透過させる光学部品とを備える発光装置を製造する方法であり、
前記光学部品を、請求項13又は14に記載の方法で製造することを含む、
発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化性樹脂組成物、光学部品、光学部品の製造方法、発光装置、及び発光装置の製造方法に関し、詳しくはインクジェト法で成形可能な紫外線硬化性樹脂組成物、前記紫外線硬化性樹脂組成物から作製される光学部品、前記紫外線硬化性樹脂組成物を用いる光学部品の製造方法、前記光学部品を備える発光装置、及び前記紫外線硬化性樹脂組成物を用いる発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材上に蒸着した無機化合物のバリア層(機能層)で水蒸気から発光素子を保護し、かつバリア層を保護する有機層を設けるにあたり、有機層を、アクリロイルモルフォリンなどの環状アミドモノマー、多官能(メタ)アクリレート化合物、及び光重合開始剤を含む光硬化性組成物から作製することが開示されている。これにより、機能層と有機層との密着性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-127597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者の研究によると、アクリロイルモルフォリンなどの環状アミドモノマーを含有する組成物の紫外線硬化性を高めることは難しく、そのため組成物の硬化物からアウトガスが発生しやすい。特に大気雰囲気下で組成物を十分に硬化させることは非常に難しい。
【0005】
本発明の課題は、硬化物と無機材料との密着性を高めやすく、かつ良好な紫外線硬化性を有しやすい紫外線硬化性樹脂組成物、前記紫外線硬化性樹脂組成物から作製される光学部品、前記紫外線硬化性樹脂組成物を用いる光学部品の製造方法、前記光学部品を備える発光装置、及び前記紫外線硬化性樹脂組成物を用いる発光装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、窒素原子を有する多官能アクリル化合物(Y1)と、光重合開始剤(B)とを含有する。
【0007】
本発明の一態様に係る光学部品は、前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。
【0008】
本発明の一態様に係る光学部品の製造方法は、前記紫外線硬化性樹脂組成物をインクジェット法で成形してから、前記紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して硬化させることを含む。
【0009】
本発明の一態様に係る発光装置は、光源と、前記光源が発する光を透過させる光学部品とを備える。前記光学部品は、前記紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。
【0010】
本発明の一態様に係る発光装置の製造方法は、光源と、前記光源が発する光を透過させる光学部品とを備える発光装置を製造する方法である。本方法は、前記光学部品を、前記光学部品の製造方法で製造することを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によると、硬化物と無機材料との密着性を高めやすく、かつ良好な紫外線硬化性を有しやすい紫外線硬化性樹脂組成物、前記紫外線硬化性樹脂組成物の製造方法、前記紫外線硬化性樹脂組成物から作製される光学部品、前記紫外線硬化性樹脂組成物を用いる光学部品の製造方法、前記光学部品を備える発光装置、及び前記紫外線硬化性樹脂組成物を用いる発光装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における発光装置の第一例を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物(以下、組成物(X)ともいう)は、窒素原子を有する多官能アクリル化合物(Y1)と、光重合開始剤(B)とを含有する。
【0015】
本実施形態によると、窒素原子を有する多官能アクリル化合物(Y1)によって、組成物(X)の硬化物と無機材料との密着性が向上しやすい。また、窒素原子を有する多官能アクリル化合物(Y1)は、多官能であることから、組成物(X)の反応性を高めやすく、そのため、組成物(X)は良好な紫外線硬化性を有しやすい。
【0016】
組成物(X)は、大気雰囲気下での紫外線硬化性を有することが好ましい。大気雰囲気下での紫外線硬化性は、組成物(X)の反応性を高めることで実現できる。なお、大気雰囲気下での紫外線硬化性を有するとは、大気雰囲気下で組成物(X)を硬化させて得られた硬化物の鉛筆硬度が4B以上、好ましくは2B以上であることを意味する。大気雰囲気下での紫外線硬化性を確認する場合の試験条件は、後掲の実施例の欄において詳しく説明する。
【0017】
本実施形態では、組成物(X)の溶存酸素の割合は、組成物(X)に対して50mg/L以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)から特に光学部品を作製する場合、この光学部品を備える発光装置内の光源に光学部品に由来する酸素を到達させにくい。そのため、組成物(X)を発光装置における光学部品を作製するために適用しても、酸素による光源の劣化を引き起こし難い。また、溶存酸素の割合が50mg/L以下であることで、組成物(X)を光硬化させる場合に酸素阻害が生じにくい。このため、組成物(X)の大気雰囲気下での紫外線硬化性が、より実現されやすい。
【0018】
70mg/L以下であれば好ましく、50mg/Lであればより好ましい。溶存酸素の割合は、低いほど好ましく、理想的には0mg/Lである。溶存酸素の割合は実質的には5mg/L以上であり、これよりも溶存酸素の割合を低くすることは非常に困難である。なお、溶存酸素の割合の測定方法は、後掲の実施例の欄において詳しく説明する。
【0019】
組成物(X)から上記のように光学部品を製造することができ、また光学部品を備える発光装置を製造することもできる。なお、組成物(X)の用途は、光学部品の製造のみには制限されず、組成物(X)の特質を利用した種々の用途に適用可能である。
【0020】
組成物(X)は、インクジェット法で成形されることが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物を位置精度良く作製しやすい。また、スクリーン印刷法などの接触を伴う印刷法で成形する場合と比べて、組成物(X)をインクジェット法で成形する場合は、組成物(X)及びその硬化物に異物が混入しにくく、そのため、光学部品を作製するに当たっての歩留まりが悪化しにくい。
【0021】
組成物(X)の25℃での粘度は、30mPa・s以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)を常温下で成形しやすくでき、特にインクジェット法で成形しやすくできる。この粘度が25mPa・s以下であればより好ましく、20mPa・s以下であれば更に好ましく、15mPa・s以下であれば特に好ましい。この粘度が1mPa・s以上であることも好ましく、5mPa・s以上であることも好ましい。
【0022】
組成物(X)の40℃における粘度が30mPa・s以下であることも好ましい。この場合、常温における組成物(X)の粘度がいかなる値であっても、組成物(X)を僅かに加熱すれば低粘度化させることが可能である。このため、加熱すれば、組成物(X)を成形しやすくでき、特にインクジェット法で成形しやすくできる。また、組成物(X)を大きく加熱することなく低粘度化させることができるので、組成物(X)中の成分が揮発することによる組成物(X)の組成の変化を生じにくくできる。この粘度が25mPa・s以下であればより好ましく、20mPa・s以下であれば更に好ましく、15mPa・s以下であれば特に好ましい。この粘度が1mPa・s以上であることも好ましく、5mPa・s以上であることも好ましい。
【0023】
このような組成物(X)の25℃又は40℃における低い粘度は、下記で詳細に説明される組成物(X)の組成によって達成可能である。なお、組成物(X)の25℃及び40℃の各々の場合の粘度の測定方法及び条件は、後掲の実施例の欄において詳しく説明する。
【0024】
溶存酸素の割合が50mg/L以下である場合は、インクジェット法で組成物(X)を作製する場合に成形不良が生じ難い。これは、組成物(X)の溶存酸素の割合が50mg/L以下であることで、インクジェット法で吐出される組成物(X)の液滴内に気泡が生じ難く、そのためサテライト、ミストといった不良な液滴が生じ難いためであると推察される。なお、サテライトとは、インクジェット法で液滴を吐出する場合に、本来の液滴から分離する液滴である。ミストとは本来の液滴から分離する複数の小さな液滴である。サテライト及びミストは塗布対象における本来の液滴の付着位置とは異なる位置に付着しやすく、そのため組成物(X)から作製される硬化物の寸法精度が悪化しやすい。
【0025】
組成物(X)の硬化物を80℃で30分間加熱した場合に生じるアウトガスの割合が60ppm以下であることが好ましい。この場合、硬化物からアウトガスが生じにくい。このため、例えば硬化物からなる光学部品を備える発光装置内にアウトガスに起因する空隙を生じにくくできる。このため空隙を通じて発光素子に水及び酸素が到達するようなことを起こりにくくして、発光素子が水及び酸素により劣化しにくくできる。なお、アウトガスの割合の測定方法及び条件は、後掲の実施例の欄において詳しく説明する。
【0026】
また、組成物(X)を窒素雰囲気下、60℃の温度で2か月間放置する試験を行った場合の、試験の前の組成物(X)の粘度μ0と試験後の組成物(X)の粘度μ1とから下記の式(M1)により算出される粘度変化率Rμが、20%未満であることが好ましい。
Rμ={(μ1-μ0)/μ0}×100(%) …(M1)
この場合、組成物(X)は特に良好な保存安定性を有することができる。この粘度変化率Rμは10%以下であればより好ましい。粘度変化率Rμは低いほど好ましく、理想的には0%である。
【0027】
組成物(X)は、溶剤を含有せず又は溶剤の含有量が1質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)及び組成物(X)の硬化物からは、溶剤に由来するアウトガスが発生しにくい。また、光学部品及び発光装置の製造時に組成物(X)及び硬化物から溶剤を除去するための乾燥工程を不要にできる。組成物(X)及び硬化物の少なくとも一方から溶剤を除去するための乾燥工程があってもよいが、この場合は乾燥工程における加熱温度の低減と加熱時間の短縮化との、少なくとも一方を可能とできる。このため、光学部品及び発光装置の製造効率を低下させることなく、光学部品からアウトガスを生じにくくできる。さらに、組成物(X)を特にインクジェト法で成形する場合に、成形後の組成物(X)から溶剤が揮発することによる厚みの減少が生じにくく、そのため光学部品の厚みの減少が生じにくい。そのため、インクジェット法で成形しながら、光学部品の厚みをできるだけ大きく確保できる。溶剤の含有量は、0.5質量%以下であればより好ましく、0.3質量%以下であれば更に好ましく、0.1質量%以下であれば特に好ましい。組成物(X)は、溶剤を含有せず、又は不可避的に混入する溶剤のみを含有することが、特に好ましい。
【0028】
組成物(X)の硬化物のガラス転移温度は80℃以上であることが好ましい。すなわち、組成物(X)は、硬化することでガラス転移温度が80℃以上の硬化物になる性質を有することが好ましい。この場合、硬化物は良好な耐熱性を有することができる。そのため、例えば硬化物に温度上昇を伴う処理が施された場合に、硬化物が劣化しにくい。このため、例えば光学部品に重なる無機質材料の層(例えばパッシベーション層6)をプラズマCVD法といった蒸着法で作製する場合、光学部品が加熱されても、光学部品が劣化しにくい。また、耐熱性を高めることで、光学部品を、耐熱性に対する要求が厳しい車載用途に適合させることもできる。硬化物のガラス転移温度は90℃以上であればより好ましく、100℃以上であれば更に好ましい。この硬化物のガラス転移温度は、下記で詳細に説明される組成物(X)の組成によって達成可能である。
【0029】
組成物(X)20mgを、熱重量分析計を用いて100℃30分の条件で加熱する処理をした場合の揮発性は、40%以下であることが好ましい。組成物(X)の揮発性は、処理前の組成物(X)の重量に対する、処理後の組成物(X)の重量減少量(組成物(X)の、処理前の重量と処理後の重量との差)の百分比で規定される。この場合、組成物(X)の揮発性が低いことで、組成物(X)の保存安定性を高めることができる。また、組成物(X)の硬化物及び光学部品からアウトガスが生じにくくなる。そのため、発光装置内にアウトガスに起因する空隙が更に生じにくくなる。組成物(X)の揮発性は、組成物(X)20mgを熱重量分析計を用いて100℃30分の条件で加熱する処理をし、処理前の重量に対する処理後の重量の重量減少量を算出することで求めることができる。組成物(X)20mgを、熱重量分析計を用いて100℃30分の条件で加熱する処理をした場合の揮発性は、30%以下であることがより好ましく、20%以下であれば更に好ましい。組成物(X)の揮発性の下限は特に限定されないが、例えば、0.1%以上であってよい。
【0030】
組成物(X)が含有する成分について、更に詳しく説明する。
【0031】
組成物(X)は、一分子中に少なくとも一つの(メタ)アクリル基を有するアクリル化合物(Y)を含有する。アクリル化合物(Y)は、例えばモノマー、オリゴマー及びプレポリマーからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0032】
アクリル化合物(Y)全体の25℃での粘度は50mPa・s以下であることが好ましい。この場合、アクリル化合物(Y)は組成物(X)を特に低粘度化させることができる。アクリル化合物(Y)全体の粘度は30mPa・s以下であれば更に好ましく、20mPa・s以下であれば特に好ましい。また、アクリル化合物(Y)全体の粘度は例えば3mPa・s以上である。
【0033】
アクリル化合物(Y)全体の40℃での粘度が50mPa・s以下であることも好ましい。この場合、アクリル化合物(Y)は、加熱された場合の組成物(X)を特に低粘度化させることができる。アクリル化合物(Y)全体の粘度は30mPa・s以下であれば更に好ましく、20mPa・s以下であれば特に好ましい。また、アクリル化合物(Y)全体の粘度は、例えば3mPa・s以上である。
【0034】
アクリル化合物(Y)中の、沸点が270℃以上である成分の百分比は、80質量%以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)の保存安定性が特に損なわれにくく、かつ硬化物からアウトガスが特に生じにくい。アクリル化合物(Y)中の、沸点が280℃以上である成分の百分比が80質量%以上であれば、更に好ましい。
【0035】
アクリル化合物(Y)は、25℃での粘度が20mPa・s以下である成分を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)を低粘度化できる。
【0036】
アクリル化合物(Y)全量に対する、25℃での粘度が20mPa・s以下である成分の割合は、50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)を特に低粘度化でき、組成物(X)をインクジェット法で特に塗布しやすくなる。この割合は、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。また、この割合は、95質量%以下であることもより好ましく、90質量%以下であることも更に好ましい。
【0037】
25℃での粘度が20mPa・s以下である成分は、80℃以上のガラス転移温度を有する化合物を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)を低粘度化しながら、硬化物のガラス転移温度を高めることができる。この成分は、90℃以上のガラス転移温度を有する化合物を含有すればよりこの好ましく、100℃以上のガラス転移温度を有する化合物を含有すれば更に好ましい。この成分に含まれる化合物のガラス転移温度の上限に制限はないが、例えば150℃以下である。
【0038】
アクリル化合物(Y)が含みうる化合物について説明する。
【0039】
本実施形態では、アクリル化合物(Y)は、窒素原子を有する多官能アクリル化合物(Y1)を含有する。すなわち、上述のとおり、組成物(X)は多官能アクリル化合物(Y1)を含有する。多官能アクリル化合物(Y1)は、分子骨格中に少なくとも一つの窒素原子を有し、かつ一分子中に二以上の(メタ)アクリロイル基を有する。多官能アクリル化合物(Y1)は窒素原子を有することから、組成物(X)硬化物と無機材料との間の密着性を高めやすい。さらに、多官能アクリル化合物(Y1)は、一分子中に二以上の(メタ)アクリロイル基を有するため、良好な反応性を有し、このため組成物(X)の紫外線硬化性を高めやすい。
【0040】
多官能アクリル化合物(Y1)は、一分子中に少なくとも一つのアミド基を有することで窒素原子を有することが好ましい。この場合、硬化物と無機材料との間の密着性を特に高めやすい。アクリル化合物(Y1)は、一分子中に複数のアミド基を有してもよい。その場合、硬化物と無機材料との間の密着性を特に高めやすい。アミド基は、二級アミド基と三級アミド基とのうち少なくとも一方を含んでよい。多官能アクリル化合物(Y1)は、例えば一分子中に二つのアミド基を有する化合物と、一分子中に三つのアミド基を有する化合物と、一分子中に四つのアミド基を有する化合物とのうち、少なくとも一種を含有する。なお、多官能アクリル化合物(Y1)は、一分子中に五つ以上のアミド基を有する化合物を含有してもよい。
【0041】
多官能アクリル化合物(Y1)は、一分子中に二以上の(メタ)アクリルアミド基、すなわちN-CO-CR=CH2基(RはH又はCH3)を有する多官能アクリルアミド化合物(Y11)を含有することが好ましい。この場合、硬化物と無機材料との間の密着性を特に高めやすく、かつ組成物(X)の反応性を特に高めやすい。多官能アクリルアミド化合物(Y11)は、例えば一分子中に二つの(メタ)アクリルアミド基を有する二官能の化合物、一分子中に三つの(メタ)アクリルアミド基を有する三官能の化合物、及び一分子中に四つの(メタ)アクリルアミド基を有する四官能の化合物からなる群のうち少なくとも一種を含有する。
【0042】
二官能の化合物は、例えば下記式(51)で示される化合物を含有する。
【0043】
【化1】
【0044】
三官能の化合物は、例えば下記式(52)で示される化合物を含有する。
【0045】
【化2】
【0046】
四官能の化合物は、例えば下記式(53)で示される化合物及び式(54)で示される化合物のうち少なくとも一方を含有する。
【0047】
【化3】
【0048】
【化4】
【0049】
なお、多官能アクリルアミド化合物(Y11)が含有しうる化合物は上記のみには限られない。また、多官能アクリルアミド化合物(Y11)は、五官能以上の化合物を含有してもよい。
【0050】
アクリル化合物(Y)全体に対する多官能アクリル化合物(Y1)の割合は、3質量%以上40質量%以下であることが好ましい。多官能アクリル化合物(Y1)の割合が3質量%以上であることで硬化物と無機材料との密着性及び組成物(X)の反応性が特に高まりやすい。また、多官能アクリル化合物(Y1)の割合が40質量%以下であると、析出が発生せず、保管性が向上する。この割合は35質量%以下であればより好ましく、30質量%以下であれば更に好ましく、25質量%以下であれば更に好ましい。またこの割合は5質量%以上であればより好ましく、10質量%以上であれば更に好ましい。
【0051】
アクリル化合物(Y)は、多官能アクリル化合物(Y1)以外のアクリル化合物(Y2)を更に含有してもよい。
【0052】
アクリル化合物(Y2)は、一分子中に(メタ)アクリロイル基を含む二つ以上のラジカル重合性官能基を有する多官能アクリル化合物(Y21)を含有することが好ましい。この場合、多官能アクリル化合物(Y21)は、硬化物のガラス転移温度を高めることができ、このため、硬化物の耐熱性を高めることができる。多官能アクリルアミド化合物(Y1)と多官能アクリル化合物(Y21)の合計の割合は、アクリル化合物(Y)全体に対して50質量%以上100質量%以下であることが好ましい。アクリル化合物(Y)は、多官能アクリル化合物(Y1)のみを含有してもよく、多官能アクリル化合物(Y1)と多官能アクリル化合物(Y21)のみを含有してもよい。
【0053】
多官能アクリル化合物(Y21)は、例えば1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールオリゴアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールオリゴアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ビスフェノールAポリエトキシジアクリレート、ビスフェノールFポリエトキシジアクリレート、ペンタトリエストールテトラアクリレート、プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(3)グリセリルトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化(4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル、ヘキサジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールトリアクリレート、ビスペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、エトキシ化1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化リン酸トリアクリレート、エトキシ化トリプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジアクリレート、テトラメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシレートグリセリルトリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、ネオペンチルグリコールオリゴアクリレート、トリメチロールプロパンオリゴアクリレート、ペンタエリスリトールオリゴアクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、及びアクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0054】
多官能アクリル化合物(Y21)のアクリル当量は、150g/eq以下であることが好ましく、90g/eq以上150g/eq以下であることがより好ましい。多官能アクリル化合物(Y21)の重量平均分子量は、例えば100以上1000以下であり、200以上800以下がより好ましい。
【0055】
多官能アクリル化合物(Y21)が、下記式(200)に示す構造を有する化合物(Y211)を含有することが好ましい。
【0056】
CH2=CR-COO-(R-O)n-CO-CR=CH2 …(200)
式(200)において、R及びRの各々は水素又はメチル基、nは1以上の整数、Rは炭素数1以上のアルキレン基であり、nが2以上の場合は一分子中の複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0057】
化合物(Y211)は、式(200)に示す構造を有すること、特に式(200)のRの炭素数が3以上であることにより、硬化物の水との親和性を高めにくい。Rの炭素数は、例えば1以上15以下であり、好ましくは3以上15以下である。また、化合物(Y211)は、式(200)に示す構造を有すること、特に一分子中に二つの(メタ)アクリロイル基を有することにより、硬化物のガラス転移温度を高めることができ、このため、硬化物の耐熱性を高めることができる。また、式(200)のnは、例えば1以上12以下の整数である。
【0058】
アクリル化合物(Y)に対する化合物(Y211)の百分比は50質量%以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)の保存安定性が効果的に高められ、かつ硬化物からのアウトガス発生が効果的に低減され、更に硬化物の水に対する親和性が特に高められにくい。アクリル化合物(Y)に対する化合物(Y211)の百分比は、例えば70質量%以下であり、又は60質量%以下であり、好ましくは50質量%以下である。
【0059】
化合物(Y211)は、特に沸点が270℃以上である成分を含有することが好ましい。すなわち、アクリル化合物(Y)は、式(200)に示す構造を有し、かつ沸点が270℃以上である成分を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)の保存中及び組成物(X)が加熱された場合に、組成物(X)からアクリル化合物(Y)が揮発しにくい。そのため、組成物(X)の保存安定性が損なわれにくい。また、組成物(X)の硬化物中に化合物(Y211)が未反応で残留していても、硬化物から化合物(Y211)に起因するアウトガスが生じにくい。そのため、発光装置1内に、アウトガスによる空隙が生じにくい。発光装置1中に空隙があると空隙を通じて発光素子4に水分が侵入してしまうおそれがあるが、空隙が生じにくいと、発光素子4に水分が侵入しにくい。なお、沸点は、減圧下の沸点を換算して得られる常圧下の沸点であり、例えばScience of Petroleum, Vol.II. P.1281(1938)に示される方法で求められる。化合物(Y211)が沸点が280℃以上である成分を含有すればより好ましい。
【0060】
化合物(Y211)の25℃での粘度は25mPa・s以下であることが好ましい。この場合、化合物(Y211)は組成物(X)の粘度を低めることができる。化合物(Y211)の25℃での粘度は、25mPa・s以下であればより好ましく、20mPa・s以下であれば更に好ましく、15mPa・s以下であれば特に好ましい。また、化合物(Y211)の25℃での粘度は、例えば1mPa・s以上であり、3mPa・s以上であれば好ましく、5mPa・s以上であれば更に好ましい。
【0061】
化合物(Y211)は、例えばアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートと、ポリアルキレングルコールジ(メタ)アクリレートと、アルキレンオキサイド変性アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0062】
アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、式(200)においてnが1である化合物である。この場合、式(200)におけるRの炭素数は4~12であることが好ましい。Rは、直鎖状でもよく、分岐を有していてもよい。特にアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、1,12-ドデカンジオールジメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。また、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、サートマー社製の品番SR213、大阪有機化学工業社製の品番V195、サートマー社製の品番SR212、サートマー社製の品番SR247、共栄化学工業社製の品名ライトアクリレートNP-A、サートマー社製の品番SR238NS、大阪有機化学工業社製の品番V230、ダイセル社製の品番HDDA、共栄化学工業社製の品番1,6HX-A、大阪有機化学工業社製の品番V260、共栄化学工業社製の品番1,9-ND-A、新中村化学工業社製の品番A-NOD-A、サートマー社製の品番CD595、サートマー社製の品番SR214NS、新中村化学工業社製の品番BD、サートマー社製の品番SR297、サートマー社製の品番SR248、共栄化学工業社製の品名ライトエステルNP、サートマー社製の品番SR239NS、共栄化学工業社製の品名ライトエステル1,6HX、新中村化学工業社製の品番HD-N、共栄化学工業社製の品名ライトエステル1,9ND、新中村化学工業社製の品番NOD-N、共栄化学工業社製の品名ライトエステル1,10DC、新中村化学工業社製の品番DOD-N、及びサートマー社製の品番SR262からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。
【0063】
ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、例えば式(200)においてnが2以上である化合物である。nは例えば2~10であり、2~7であることが好ましく、2~6であることも好ましく、2~3であることも好ましい。Rの炭素数は例えば2~7であり、好ましくは2~5である。炭素数が多いほど、硬化物の疎水性が高くなり、硬化物が水分を透過させにくい。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、特にジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、トリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジメタクリレート及びポリエチレングリコール200ジアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。また、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、特にサートマー社製の品番SR230、サートマー社製の品番SR508NS、ダイセル社製の品番DPGDA、サートマー社製の品番SR306NS、ダイセル社製の品番TPGDA、大阪有機化学工業社製の品番V310HP、新中村化学工業社製の品番APG200、共栄化学工業株式会社製の品名ライトアクリレートPTMGA-250、サートマー社製の品番SR231NS、共栄化学工業社製の品名ライトエステル2EG、サートマー社製の品番SR205NS、共栄化学工業社製の品名ライトエステル3EG、サートマー社製の品番SR210NS、共栄化学工業社製の品名ライトエステル4EG、三菱化学社製の品名アクリエステルHX及び新中村化学工業社製の品番3PGからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。
【0064】
アルキレンオキサイド変性アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、例えばプロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールを含有する。また、アルキレンオキサイド変性アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、例えばダイセル社製の品番EBECRYL145を含有する。
【0065】
アクリル化合物(Y)が式(200)に示す構造を有する化合物(Y211)を含有する場合、化合物(Y211)は、式(200)中のnの値が5以上の化合物を含まないことが好ましい。(R-O)がポリエチレングリコール骨格である場合に、式(200)中のnの値が5より大きい化合物を含まないことが特に好ましい。化合物(Y211)が式(200)中のnの値が5より大きい化合物を含む場合でも、アクリル化合物(Y)に対する、式(200)中のnの値が5より大きい化合物の百分比は、20質量%以下であることが好ましい。また、化合物(Y211)が式(200)中のnの値が5より大きい化合物を含む場合でも、化合物(Y211)は、nの値が9よりも大きい化合物を含まないことが好ましく、nの値が7よりも大きい化合物を含まないことが更に好ましい。これらの場合、組成物(X)の粘度上昇が特に生じにくくなる。
【0066】
多官能アクリル化合物(Y21)がポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを含有すれば、特に好ましい。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、粘度が低く、かつ揮発しにくいため、組成物(X)の低粘度化に寄与でき、かつ組成物(X)の保存安定性の向上及び硬化物からのアウトガスの低減に寄与できる。
【0067】
多官能アクリル化合物(Y21)がポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを含有する場合、アクリル化合物(Y)に対するポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの割合は、40質量%以上80質量%以下であることが好ましい。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの割合が40質量%以上であると、組成物(X)の粘度を効果的に低下できる。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの割合が80質量%以下であると、分子中に三つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の割合が増加し、組成物(X)の反応性、及び硬化物のガラス転移温度を高めることができる。この割合は42質量%以上75質量%以下であればより好ましく、45質量%以上70質量%以下であれば更に好ましい。
【0068】
多官能アクリル化合物(Y21)は、一分子中に(メタ)アクリロイル基を含む三つ以上のラジカル重合性官能基を有する化合物を含有してもよい。この場合、多官能アクリル化合物(Y21)は、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を含有できる。この場合、硬化物のガラス転移温度を特に高めることができ、このため、硬化物の耐熱性を特に高めることができる。
【0069】
多官能アクリル化合物(Y21)は、特にペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。この場合、硬化物のガラス転移温度を特に高めることができ、かつ組成物(X)の反応性を向上させることができる。組成物(X)の反応性が向上すると、大気雰囲気等の酸素を含む環境下であっても組成物(X)を容易に硬化させることができる。
【0070】
多官能アクリル化合物(Y21)がペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートを含有する場合、アクリル化合物(Y)に対するペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートの割合は、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の高い反応性と低粘度とを両立可能である。この割合は1質量%以上9質量%以下であればより好ましく、2質量%以上8質量%以下であれば更に好ましい。
【0071】
多官能アクリル化合物(Y21)は、ベンゼン環、脂環及び極性基のうち少なくとも一つを有してもよい。極性基は、例えばOH基である。この場合、組成物(X)が硬化する際の収縮を特に低減できる。さらに、硬化物と、窒化ケイ素、酸化ケイ素といった無機化合物との間の密着性を高めることもできる。多官能アクリル化合物(Y21)は、特にトリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ビスフェノールAポリエトキシジアクリレート、ビスフェノールFポリエトキシジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート及びペンタエリスリトールトリアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することが好ましい。これらの化合物は、組成物(X)が硬化する際の収縮を特に低減できる。さらに、これらの化合物は、硬化物と、窒化ケイ素、酸化ケイ素といった無機化合物との間の密着性を高めることもできる。
【0072】
硬化物と無機材料との密着性が高まると、光学部品がSiN膜などの無機材料製の膜(無機質膜)と重ねられる場合には、光学部品と無機質膜との間の高い密着性が得られやすい。
【0073】
多官能アクリル化合物(Y21)がポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートとを含有すれば特に好ましい。この場合、組成物(X)は低粘度でかつ反応性に優れる。このため、大気雰囲気等の酸素を含む環境下であっても、組成物(X)を容易に硬化させることができる。
【0074】
アクリル化合物(Y2)は、一分子中のラジカル重合性官能基が一つの(メタ)アクリロイル基のみである単官能アクリル化合物(Y22)を含有することも好ましい。単官能アクリル化合物(Y22)は、組成物(X)の硬化時の収縮を抑制できる。
【0075】
アクリル化合物(Y2)が単官能アクリル化合物(Y22)を含有する場合、アクリル化合物(Y)全量に対する単官能アクリル化合物(Y22)の量は、0質量%より多く50質量%以下であることが好ましい。単官能アクリル化合物(Y22)の量が0質量%より多ければ、組成物(X)の硬化時の収縮を抑制できる。また、単官能アクリル化合物(Y22)の量が50質量%以下であれば、多官能アクリル化合物(Y1)及び多官能アクリル化合物(Y21)の合計量が50質量%以上になりうることで、硬化物の耐熱性を特に向上できる。単官能アクリル化合物(Y22)の量が5質量%以上であれば更に好ましく、30質量%以下であることも更に好ましく、20質量%以下であれば特に好ましい。
【0076】
単官能アクリル化合物(Y22)は、例えば、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシジキシルエチルアクリレート、エチルジグリコールアクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルモノアクリレート、イミドアクリレート、イソアミルアクリレート、エトキシ化コハク酸アクリレート、トリフルオロエチルアクリレート、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、ステアリルアクリレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソデシルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノールアクリレート、イソオクチルアクリレート、オクチル/デシルアクリレート、トリデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、エトキシ化(4)のニルフェノールアクリレート、メトキシポリエチレングリコール(350)モノアクリレート、メトキシポリエチレングリコール(550)モノアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジルアクリレート、メチルフェノキシエチルアクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリブロモフェニルアクリレート、エトキシ化トリブロモフェニルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレートのエチレンオキサイド付加物、2-フェノキシエチルアクリレートのプロピレンオキサイド付加物、アクリロイルモルフォリン、アクリル酸モルフォリン4-イル、ジシクロペンタニルアクリレ-ト、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、3-メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド及び3-アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイドからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0077】
単官能アクリル化合物(Y22)は、脂環式構造を有する化合物及び環状エーテル構造を有する化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有してもよい。
【0078】
脂環式構造を有する化合物は、例えばフェノキシエチルアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジルアクリレート、メチルフェノキシエチルアクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリブロモフェニルアクリレート、エトキシ化トリブロモフェニルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレートのエチレンオキサイド付加物、2-フェノキシエチルアクリレートのプロピレンオキサイド付加物、アクリロイルモルフォリン、アクリル酸モルフォリン4-イル、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレ-ト、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、及び1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0079】
環状エーテル構造を有する化合物における環状エーテル構造の環員数は3以上が好ましく、3以上4以下がより好ましい。環状エーテル構造に含まれる炭素原子数は、2以上9以下が好ましく、2以上6以下がより好ましい。環状エーテル構造を有する化合物は、例えば3-メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド及び3-アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイドからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0080】
アクリル化合物(Y2)は、分子骨格中にケイ素を有する化合物を含有してもよい。この場合、硬化物と無機材料との間の密着性が向上する。分子骨格中にケイ素を有する化合物は、例えばアクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(例えば信越化学工業社製の品番KBM5103)及び(メタ)アクリル基含有アルコキシシランオリゴマー(例えば信越化学工業社製の品番KR-513)からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0081】
アクリル化合物(Y2)は、分子骨格中にリンを有する化合物を含有してもよい。この場合、硬化物と無機材料との間の密着性が向上する。分子骨格中にリンを有する化合物は、例えばアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートといった、アシッドホスホキシ(メタ)アクリレートを含む。
【0082】
単官能アクリル化合物(Y22)は、窒素原子を有する単官能アクリル化合物(Y222)を含有してもよい。すなわち、組成物(X)は、窒素原子を有する単官能アクリル化合物(Y222)を含有してもよい。この場合、単官能アクリル化合物(Y222)は、多官能アクリル化合物(Y1)と同様、硬化物と無機材料との間の密着性が向上しうる。また、密着性が向上することで組成物(X)が基板の凹凸へと追従しやすくなり、組成物(X)から作製される膜の平坦性を十分に高めることができる。さらに、組成物(X)の粘度を十分に低くすることができ、インクジェット性を向上することができる。単官能アクリル化合物(Y222)は、例えばアクリロイルモルフォリン、アクリル酸モルフォリン4-イルといったモルフォリン骨格を有する化合物、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及びペンタメチルピペリジルメタクリレ-トからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む。
【0083】
アクリル化合物(Y)全体に対する単官能アクリル化合物(Y222)の割合は、5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。この割合が5質量%以上であれば、組成物(X)が大気中で十分に硬化しやすい。この割合が50質量%以下であると、アウトガスが少なく、組成物(X)を使用して作製される発光装置等の装置の信頼性が向上する。この割合は10質量%以上55質量%以下であればより好ましく、20質量%以上50質量%以下であればより好ましい。
【0084】
また、アクリル化合物(Y)全体に対する、アクリル化合物(Y)中の窒素原子を有する化合物の割合は、5質量%以上80質量%以下であることが好ましい。この割合が5質量%以上であることで硬化物と無機材料との間の密着性が特に向上しやすい。この割合が80質量%以下であることで、分子骨格中に窒素を有する化合物が組成物(X)の保存安定性を阻害しにくく、組成物(X)をインクジェット法で噴射する場合のサテライトを生じさせにくい。このため組成物(X)のインクジェット性が阻害されにくい。さらに、分子骨格中に窒素を有する化合物に起因するアウトガスを生じにくくできる。この割合は10質量%以上70質量%以下であればより好ましく、20質量%以上60質量%以下であれば更に好ましく、25質量%以上50質量%以下が特に望ましい。なお、窒素原子を有する化合物には、多官能アクリル化合物(Y1)が含まれる。アクリル化合物(Y)が単官能アクリル化合物(Y222)を含有する場合には、窒素原子を有する化合物には、単官能アクリル化合物(Y222)も含まれる。
【0085】
アクリル化合物(Y2)が、イソボルニル骨格を有する化合物を含有してもよい。イソボルニル骨格を有する化合物は、例えば、イソボルニルアクリレート及びイソボルニルメタクリレートからなる群から選択される一種以上の化合物を含有できる。
【0086】
アクリル化合物(Y2)は、ジシクロペンタジエン骨格、ジシクロペンタニル骨格、ジシクロペンテニル骨格、及びビスフェノール骨格からなる群から選択される少なくとも一種の骨格を有する化合物からなる成分を含有してもよい。具体的には、アクリル化合物(Y)は、例えばトリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ビスフェノールAポリエトキシジアクリレート及びビスフェノールFポリエトキシジアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有してもよい。この場合、硬化物と無機材料との密着性を高めることができる。
【0087】
アクリル化合物(Y2)は、下記式(100)に示す化合物を含有してもよい。この場合、組成物(X)の反応性を高めることができ、かつ硬化物と無機材料との密着性を向上できる。
【0088】
【化5】
【0089】
式(100)において、RはH又はメチル基である。Xは単結合又は二価の炭化水素基である。RからR11の各々はH、アルキル基又は-R12-OH、R12はアルキレン基でありかつRからR11のうち少なくとも一つはアルキル基又は-R12-OHである。RからR11は互いに化学結合していない。
【0090】
具体的には、例えばアクリル化合物(Y2)は、下記式(110)に示す化合物、式(120)に示す化合物及び式(130)に示す化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有してもよい。
【0091】
【化6】
【0092】
組成物(X)は、アクリル化合物(Y)以外のラジカル重合性化合物(Z)を更に含有してもよい。アクリル化合物(Y)とラジカル重合性化合物(Z)との合計量に対するラジカル重合性化合物(Z)の量は、例えば10質量%以下である。ラジカル重合性化合物(Z)は、一分子に二つ以上のラジカル重合性官能基を有する多官能ラジカル重合性化合物(Z1)と、一分子に一つのみのラジカル重合性官能基を有する単官能ラジカル重合性化合物(Z2)とのうち、いずれか一方又は両方を含有できる。多官能ラジカル重合性化合物(Z1)は、例えば一分子中にエチレン性二重結合を2つ以上有する芳香族ウレタンオリゴマー、脂肪族ウレタンオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー及びその他特殊オリゴマーからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有してもよい。なお、多官能ラジカル重合性化合物(Z1)が含みうる成分は前記には限られない。単官能ラジカル重合性化合物(Z2)は、例えばN-ビニルホルムアミド、ビニルカプロラクタム、ビニルピロリドン、フェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2-ブチレンオキサイド、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2-エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3-ビニルシクロヘキセンオキサイド、4-ビニルシクロヘキセンオキサイド、N-ビニルピロリドン及びN-ビニルカプロラクタムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。なお、単官能ラジカル重合性化合物(Z2)が含みうる成分は前記には限られない。
【0093】
組成物(X)がラジカル重合性化合物(Z)を含有する場合、ラジカル重合性化合物(Z)が分子骨格中に窒素を有する化合物を含有してもよい。分子骨格中に窒素を有する化合物は、例えばN-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン及びN-ビニルカプロラクタムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む。この場合、硬化物と無機材料との間の密着性が向上する。
【0094】
アクリル化合物(Y)とラジカル重合性化合物(Z)との合計に対する、アクリル化合物(Y)中の分子骨格中に窒素を有する化合物とラジカル重合性化合物(Z)中の分子骨格中に窒素を有する化合物と合計の割合は、5質量%以上80質量%以下であることが好ましい。この割合が5質量%以上であることで硬化物と無機材料との間の密着性が特に向上しやすい。この割合が80質量%以下であることで、分子骨格中に窒素を有する化合物が組成物(X)の保存安定性を阻害しにくく、組成物(X)をインクジェット法で噴射する場合のサテライトを生じさせにくい。このため組成物(X)のインクジェット性が阻害されにくい。さらに、分子骨格中に窒素を有する化合物に起因するアウトガスを生じにくくできる。この割合は10質量%以上70質量%以下であればより好ましく、20質量%以上60質量%以下であれば更に好ましく、25質量%以上50質量%以下が特に望ましい。
【0095】
ラジカル重合性化合物(Z)に対する、ラジカル重合性化合物(Z)中の単官能化合物の合計(すなわち単官能アクリル化合物(Y22)と単官能ラジカル重合性化合物(Z2)との合計)の割合は、70質量%以下質量%以下であることが好ましい。この場合、単官能化合物に起因するアウトガスの発生が起こりにくくなる。この割合は60質量%以下 以下であればより好ましく、50質量%以下であれば更に好ましい
光重合開始剤(B)は、光ラジカル重合開始剤(B1)を含有することが好ましい。光ラジカル重合開始剤は、紫外線が照射されるとラジカル種を生じさせる化合物であれば、特に制限されない。光ラジカル重合開始剤(B1)は、例えば芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、オキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有する。
【0096】
アクリル化合物(Y)(組成物(X)がラジカル重合性化合物(Z)を含有する場合はアクリル化合物(Y)及びラジカル重合性化合物(Z)の合計)に対する光ラジカル重合開始剤(B1)の割合は、6質量%以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)は良好な紫外線硬化性を有することができ、良好な大気雰囲気下での紫外線硬化性も有しうる。この割合は7質量%以上であればより好ましく、8質量%以上であれば更に好ましい。またこの割合は例えば30質量%以下であり、20質量%以下であれば好ましく、18質量%以下であれば更に好ましい。
【0097】
光ラジカル重合開始剤(B1)は、フォトブリーチング性を有する成分を含むことが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物が良好な光透過性を有しやすい。ラジカル重合性化合物(A1)に対するフォトブリーチング性を有する成分の割合は、6質量%以上であることが好ましい。この割合は7質量%以上であればより好ましく、8質量%以上であれば更に好ましい。またこの割合は例えば30質量%以下であり、20質量%以下であれば好ましく、18質量%以下であれば更に好ましい。
【0098】
フォトブリーチング性を有する成分は、例えばアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤と、オキシムエステル系光開始剤のうちのフォトブリーチング性を有する化合物とのうち、少なくとも一方を含有する。
【0099】
光ラジカル重合開始剤(B1)は、分子中に増感剤骨格を有する成分を含むことも好ましい。増感剤骨格は、例えば9H-チオキサンテン-9-オン骨格とアントラセン骨格とのうち少なくとも一方を含む。すなわち、光ラジカル重合開始剤(B1)は、9H-チオキサンテン-9-オン骨格とアントラセン骨格とのうち少なくとも一方を有する成分を含むことが好ましい。
【0100】
光ラジカル重合開始剤(B1)は、フォトブリーチング性の有無にかかわらず、オキシムエステル系光開始剤を含むことも好ましい。オキシムエステル系光開始剤は、組成物(X)の硬化性を向上させることができる。そのため大気雰囲気等の酸素を含む環境下であっても組成物(X)を容易に硬化させることができ、かつ硬化物からアウトガスを生じにくくさせることができる。
【0101】
オキシムエステル系光開始剤は、組成物(X)から分解物が生じることによる組成物(X)及び製造装置の汚染を起こりにくくするため、並びに硬化物からアウトガスを更に生じにくくするために、芳香環を有する化合物を含むことが好ましく、芳香環を含む縮合環を有する化合物を含むことがより好ましく、ベンゼン環とヘテロ環とを含む縮合環を有する化合物を含むことが更に好ましい。
【0102】
オキシムエステル系光開始剤は、例えば1,2-オクタジオン-1-[4-(フェニルチオ)-、2-(o-ベンゾイルオキシム)]、及びエタノン,1-[9-エチル-6-
(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム)、並びに特開2000-80068号公報、特開2001-233842号公報、特表2010-527339、特表2010-527338、特開2013-041153号公報、及び特開2015-93842号公報等に記載されているオキシムエステル系光開始剤からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。オキシムエステル系光開始剤は、市販品であるカルバゾール骨格を有するイルガキュアOXE-02(BASF製)、アデカアークルズNCI-831、N-1919(ADEKA社製)及びTR-PBG-304(常州強力電子新材料社製)、ジフェニルスルフィド骨格を有するイルガキュアOXE-01、アデカアークルズNCI-930(ADEKA社製)、TR-PBG-345及びTR-PBG-3057(以上、常州強力電子新材料社製)、並びにフルオレン骨格を有するTR-PBG-365(常州強力電子新材料社製)及びSPI-04(三養製)からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有してもよい。特にオキシムエステル系光開始剤がジフェニルスルフィド骨格又はフルオレン骨格を有する化合物を含むと、フォトブリーチングによって硬化物が着色しにくい点で好ましい。オキシムエステル系光開始剤がカルバゾール骨格を有する化合物を含むことも、露光感度が高まりやすい点で好ましい。
【0103】
オキシムエステル系光開始剤が二種以上の化合物を含有することも好ましい。この場合、例えばオキシムエステル系光開始剤が露光感度の異なる二種以上の化合物を含有することで、良好な露光感度を維持しつつ、光ラジカル重合開始剤(B)の量を減らすことが可能なため、硬化物からアウトガスを更に生じにくくできる。
【0104】
フォトブリーチング性を有するオキシムエステル化合物は、例えば下記式(401)に示す化合物と、下記式(402)に示す化合物とのうち、少なくとも一方を含有する。このうち式(402)に示す化合物は特に高感度であるため、組成物(X)の光硬化性を特に高めやすく、そのため組成物(X)の大気雰囲気下での紫外線硬化性を実現しやすい。
【0105】
【化7】
【0106】
【化8】
【0107】
アシルフォスフィンオキサイド化合物は、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ジフェニルフォスフィンオキサイドからなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
【0108】
光ラジカル重合開始剤(B1)は、この光ラジカル重合開始剤(B1)の一部として増感剤を含有してもよい。増感剤は、光ラジカル重合開始剤(B1)のラジカル生成反応を促進させて、ラジカル重合の反応性を向上させ、かつ架橋密度を向上させうる。増感剤は、例えば9,10-ジブトキシアントラセン、9-ヒドロキシメチルアントラセン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、アントラキノン、1,2-ジヒドロキシアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1,4-ジエトキシナフタレン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジエチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノベンゾフェノン、p-ジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、及びp-ジエチルアミノベンズアルデヒドからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。なお、増感剤が含みうる成分は前記には限られない。
【0109】
組成物(X)中の増感剤の含有量は、例えば組成物(X)の固形分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であり、好ましくは0.1質量部以上3質量部以下である。増感剤の含有量がこのような範囲であれば、空気中で組成物(X)を硬化させることができ、組成物(X)の硬化を窒素雰囲気等の不活性雰囲気下で行う必要がなくなる。
【0110】
組成物(X)は、光ラジカル重合開始剤(B1)に加えて、重合促進剤を含有してもよい。重合促進剤は、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸-2-エチルヘキシル、p-ジメチルアミノ安息香酸メチル、安息香酸-2-ジメチルアミノエチル、p-ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチルといったアミン化合物を含有する。なお、重合促進剤が含有しうる成分は前記には限られない。
【0111】
組成物(X)は、カチオン重合性化合物(W)を更に含有してもよい。この場合、組成物(X)は、光カチオン重合開始剤(B2)を更に含有してもよい。
【0112】
組成物(X)は吸湿剤(C)を更に含有してもよい。組成物(X)が吸湿剤(C)を含有すると、組成物(X)の硬化物及び封止材5は吸湿性を有することができる。このため、封止材5は、発光装置1における発光素子4へ水分が更に侵入しにくくできる。吸湿剤(C)の平均粒径は200nm以下であることが好ましい。この場合、硬化物は高い透明性を有することができる。
【0113】
吸湿剤(C)は、吸湿性を有する無機粒子であることが好ましく、例えばゼオライト粒子、シリカゲル粒子、塩化カルシウム粒子、及び酸化チタンナノチューブ粒子からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。吸湿剤(C)がゼオライト粒子を含有することが特に好ましい。
【0114】
平均粒径200nm以下のゼオライト粒子は、例えば一般的な工業用ゼオライトを粉砕することで製造できる。ゼオライト粒子を製造するに当たって、ゼオライトを粉砕してから水熱合成などによって結晶化させてもよく、この場合、ゼオライト粒子は特に高い吸湿性を有することができる。このようなゼオライト粒子の製造方法の例は、特開2016-69266号公報、特開2013-049602号公報などに開示されている。
【0115】
ゼオライト粒子は、ナトリウムイオンを含有することが好ましい。このため、ゼオライト粒子は、A型ゼオライト、X型ゼオライト及びY型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも一種から作製されることが好ましい。ゼオライト粒子が、A型ゼオライトのうち4A型ゼオライトから作製されることが特に好ましい。これらの場合、ゼオライト粒子は、水分の吸着に好適な結晶構造を有する。
【0116】
ゼオライト粒子のpHは7以上10以下であることが好ましい。ゼオライト粒子のpHが7以上であると、ゼオライト粒子の結晶が破壊されにくくなり、そのためゼオライト粒子を含有する組成物(X)から作製された封止材が特に高い吸湿性を有することができる。また、ゼオライト粒子のpHが10以下であると、組成物(X)を硬化させる場合にゼオライト粒子が硬化を阻害しにくい。なお、ゼオライト粒子のpHは、イオン交換水99.95gにゼオライト粒子0.05gを入れて得られた分散液を、90℃で24時間加熱してから、分散液の上澄みのpHをpH測定器で測定することで得られる値である。pH測定器としては、例えば堀場製作所製のコンパクトpHメータ<LAQUAtwin>B-711を用いることができる。
【0117】
吸湿剤(C)の平均粒径は、10nm以上200nm以下であることが好ましい。この平均粒径が200nm以下であれば、硬化物は特に高い透明性を有することができる。また、この平均粒径が10nm以上であれば、吸湿剤(C)の良好な吸湿性を維持できる。なお、この平均粒径は、動的光散乱法による測定結果から算出されるメディアン径、すなわち累積50%径(D50)である。なお、測定装置としては、マイクロトラック・ベル株式会社のナノトラックNanotrac Waveシリーズを用いることができる。
【0118】
吸湿剤(C)の平均粒径は、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であれば更に好ましく、70nm以下であれば特に好ましい。また、吸湿剤(C)の平均粒径が20nm以上であることが好ましく、50nm以上であればより好ましい。この場合、硬化物は、特に良好な透明性と吸湿性とを有することができる。
【0119】
吸湿剤(C)の累積90%径(D90)が100nm以下であることも好ましい。この場合、硬化物は特に高い透明性を有することができる。
【0120】
組成物(X)が吸湿剤(C)を含有する場合、組成物(X)の全量に対する吸湿剤(C)の割合は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。吸湿剤(C)の割合が1質量%以上であれば硬化物は特に高い吸湿性を有することができる。また、吸湿剤(C)の割合が20質量%以下であれば組成物(X)の粘度を特に低減でき、組成物(X)がインクジェット法で塗布可能な程度の十分な低粘度を有することもできる。吸湿剤(C)の割合は、3質量%以上であれば更に好ましく、5質量%以上であれば特に好ましい。また、吸湿剤(C)の割合は、15質量%以下であればより好ましく、13質量%以下であれば特に好ましい。
【0121】
組成物(X)は、吸湿剤(C)以外の無機充填材を更に含有してもよい。特に、組成物(X)は、ナノサイズの高屈折率粒子を含有することが好ましい。高屈折率粒子の例はジルコニア粒子を含む。組成物(X)が高屈折率粒子を含有すると、硬化物の良好な透明性を維持しながら、硬化物を高屈折率化することができる。そのため、硬化物を発光装置1における封止材5に適用した場合に、封止材5を透過して外部へ出射する光の取り出し効率を向上することができる。高屈折率粒子の平均粒径は、5~30nmの範囲内であることが好ましく、10~20nmの範囲内であれば更に好ましい。
【0122】
組成物(X)中の高屈折率粒子の割合は、硬化物が所望の屈折率を有するように適宜設
計される。特に高屈折率粒子は、硬化物の屈折率が1.45以上、1.55未満の範囲内になるように組成物(X)に含有されることが好ましい。この場合、発光装置1の光の取り出し効率が特に向上する。
【0123】
組成物(X)が吸湿剤(C)を含有する場合、組成物(X)は更に分散剤(D)を含有することが好ましい。この場合、分散剤(D)は組成物(X)中での吸湿剤(C)の分散性を向上できる。このため、組成物(X)には、吸湿剤(C)による粘度の増大と保存安定性の低下とが生じにくい。
【0124】
なお、分散剤(D)は、粒子に吸着しうる界面活性剤である。分散剤(D)は、粒子に吸着されうる吸着基(一般にアンカーともいう)と、吸着基が粒子に吸着することでこの粒子に付着する分子骨格(一般にテールともいう)とを、有する。分散剤(D)は、例えばテールがアクリル系の分子鎖であるアクリル系分散剤と、テールがウレタン系の分子鎖であるウレタン系分散剤と、テールがポリエステル系の分子鎖であるポリエステル系分散剤とからなら群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。吸着基は、例えば塩基性の極性官能基と酸性の極性官能基とのうち少なくとも一方を含む。塩基性の極性官能基は、例えばアミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、及び含窒素複素環基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含む。酸性の極性官能基は、例えばカルボキシル基とリン酸基とからなる群から選択される少なくとも一種の基を含む。分散剤(D)は、例えば日本ルーブルリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ、ビックケミー・ジャパン株式会社製のDISPERBYKシリーズ及び味の素ファインテクノ株式会社製のアジスパーシリーズからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。
【0125】
組成物(X)が吸湿剤(C)を含有する場合、吸湿剤(C)に対する分散剤(D)の量は、5質量部以上60質量部以下であることが好ましい。分散剤(D)の量が5質量部以上であることで分散剤(D)の機能が効果的に発現でき、また60質量部以下であることで封止材5中の分散剤(D)の遊離の分子が封止材5と無機材料製の部材との間の密着性を阻害することを抑制できる。また、分散剤(D)の量は15質量部以上であればより好ましく、50質量部以下であることもより好ましく、40質量部以下であればより更に好ましく、30質量部以下であれば特に好ましい。
【0126】
組成物(X)の製造方法について説明する。
【0127】
まず、混合物(X1)を調製する。混合物(X1)は、組成物(X)の成分のうち、少なくともアクリル化合物(Y)と光重合開始剤(B)とを含有する。混合物(X1)は、アクリル化合物(Y)及び光重合開始剤(B)のみを含有してもよい。混合物(X1)は、アクリル化合物(Y)及び光重合開始剤(B)に加えて、組成物(X)の残りの成分のうちの一部又は全部を含有してもよい。すなわち、混合物(X1)は、後述の脱酸素処理が施されていないことを除き、組成物(X)と同じ組成を有してもよい。
【0128】
混合物(X1)に脱酸素処理を施すことが好ましい。これにより、組成物(X)の割合が50mg/L以下であることを実現しやすい。脱酸素処理は、混合物(X1)中の酸素を取り除いて混合物(X1)中の酸素含有量を低減する処理である。
【0129】
脱酸素処理の具体的な内容に特に制限はない。例えば混合物(X1)を、酸素濃度が大気よりも低い雰囲気(以下、低酸素雰囲気)に曝露することで混合物(Y)の脱酸素処理を行うことができる。この場合、低酸素雰囲気の酸素の体積濃度は100ppm以下であることが好ましい。すなわち、混合物(X1)を酸素の体積濃度が100ppm以下の雰囲気に曝露することが好ましい。この場合、組成物(X)の溶存酸素の割合を効率良く低減できる。低酸素雰囲気の酸素の体積濃度は1%以下であればより好ましく、0.1%以下であれば更に好ましい。低酸素雰囲気の酸素の体積濃度は低いほど好ましく、理想的には0ppmである。脱酸素処理において混合物(X1)を低酸素雰囲気に曝露する時間は、1時間以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)の溶存酸素の割合を特に低減しやすい。この時間は、例えば1時間以上72時間以下である。
【0130】
また、混合物(X1)中の溶存ガスを真空脱気装置を用いて低減することで、組成物(X)の溶存酸素の割合を低減することもできる。また、混合物(X1)を窒素ガスなどの不活性ガスの気流に曝すことで混合物(X1)から酸素を除去することもできる。また、混合物(X1)中に不活性ガスを吹き込むことで混合物中の酸素を不活性ガスと置換することで、混合物(X1)から酸素を除去することもできる。
【0131】
混合物(X1)の脱酸素処理の後、必要により混合物(X1)に組成物(X)の残りの成分を加えることで、組成物(X)を調製できる。混合物(X1)が組成物(X)の成分を全て含有する場合には、混合物(X1)を脱酸素処理することで組成物(X)が調製される。組成物(X)は、好ましくは密封容器に入れることで、組成物(X)が調製されてから使用されるまでの間に組成物(X)が酸素を吸収しにくくする。
【0132】
発光装置1の構造について説明する。発光装置1は、光源と、光源が発する光を透過させる光学部品とを備える。例えば、発光装置1は、発光素子4と、発光素子4を覆う封止材5及びパッシベーション層6とを備える。この場合、発光素子4が光源であり、封止材5が光学部品であり、パッシベーション層6が無機質層である。封止材5とパッシベーション層6とは重なっている。
【0133】
発光素子4は、例えば発光ダイオードを含む。発光ダイオードは、例えば有機EL素子(有機発光ダイオード)とマイクロ発光ダイオードとのうち少なくとも一方を含む。発光素子4が有機発光ダイオードを含む場合は、発光素子4を備える発光装置1は例えば有機ELディスプレイである。発光素子4がマイクロ発光ダイオードを含む場合は、発光素子4を備える発光装置1は例えばマイクロLEDディスプレイである。なお、ELとはエレクトロルミネッセンスの略である。
【0134】
発光装置1の構造の例を、図1を参照して説明する。この発光装置1は、トップエミッションタイプである。発光装置1は、支持基板2、支持基板2と間隔をあけて対向する透明基板3、支持基板2の透明基板3と対向する面の上にある発光素子4、並びに発光素子4を覆うパッシベーション層6及び封止材5を備える。
【0135】
支持基板2は、例えば樹脂材料から作製されるが、これに限定されない。透明基板3は透光性を有する材料から作製される。透明基板3は、例えば、ガラス製基板又は透明樹脂製基板である。発光素子4は、例えば一対の電極41、43と、電極41、43間にある有機発光層42とを備える。有機発光層42は、例えば正孔注入層421、正孔輸送層422、有機発光層423及び電子輸送層424を備え、これらの層は前記の順番に積層している。
【0136】
発光装置1は複数の発光素子4を備え、かつ複数の発光素子4が、支持基板2上でアレイ9(以下素子アレイ9という)を構成している。素子アレイ9は、隔壁7も備える。隔壁7は、支持基板2上にあり、隣合う二つの発光素子4の間を仕切っている。隔壁7は、例えば感光性の樹脂材料をフォトリソグラフィ法で成形することで作製される。素子アレイ9は、隣合う発光素子4の電極43及び電子輸送層424同士を電気的に接続する接続配線8も備える。接続配線8は、隔壁7上に設けられている。
【0137】
パッシベーション層6は窒化ケイ素又は酸化ケイ素から作製されることが好ましく、窒化ケイ素から作製されることが特に好ましい。図1に示す例では、パッシベーション層6は、第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62とを含む。第一パッシベーション層61は素子アレイ9に直接接触した状態で、素子アレイ9を覆うことで、発光素子4を覆っている。第二パッシベーション層62は、第一パッシベーション層61に対して、素子アレイ9とは反対側の位置に配置され、かつ第二パッシベーション層62と第一パッシベーション層61との間には間隔があけられている。第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62との間に、封止材5が充填されている。すなわち、発光素子4と、発光素子4を覆う封止材5との間に、第一パッシベーション層61が介在している。
【0138】
さらに、第二パッシベーション層62と透明基板3との間に、第二封止材52が充填されている。第二封止材52は、例えば透明な樹脂材料から作製される。第二封止材52の材質は特に制限されない。第二封止材52の材質は、封止材5と同じであっても、異なっていてもよい。
【0139】
組成物(X)を用いる封止材5の作製方法及び発光装置1の製造方法について説明する。
【0140】
本実施形態では、組成物(X)をインクジェット法で成形してから、組成物(X)に紫外線を照射して硬化することで、封止材5を作製することが好ましい。本実施形態では、インクジェット法で組成物(X)を塗布して成形することが可能である。本実施形態では、上述のとおり、組成物(X)の酸素割合が75質量%以下であるため、組成物(X)をインクジェット法で成形する場合の不良が生じ難い。
【0141】
組成物(X)をインクジェット法で塗布するに当たっては、組成物(X)が常温で十分に低い粘度を有する場合、例えば25℃における粘度が20mPa・s以下、特に15mPa・s以下である場合には、組成物(X)を加熱せずにインクジェット法で塗布することで成形できる。
【0142】
組成物(X)が加熱されることで低粘度化する性質を有する場合、組成物(X)を加熱してから組成物(X)をインクジェット法で塗布して成形してもよい。組成物(X)の40℃における粘度が20mPa・s以下、特に15mPa・s以下である場合、組成物(X)を僅かに加熱しただけで低粘度化させることができ、この低粘度化した組成物(X)をインクジェット法で吐出することができる。組成物(X)の加熱温度は、例えば20℃以上50℃以下である。
【0143】
より具体的には、例えばまず、支持基板2を準備する。この支持基板2の一面上に隔壁7を、例えば感光性の樹脂材料を用いてフォトリソグラフィ法で作製する。続いて、支持基板2の一面上に複数の発光素子4を設ける。発光素子4は、蒸着法、塗布法といった適宜の方法で作製できる。特に発光素子4を、インクジェット法といった塗布法で作製することが好ましい。これにより、支持基板2に素子アレイ9を作製する。
【0144】
次に、素子アレイ9の上に第一パッシベーション層61を設ける。第一パッシベーション層61は、例えばプラズマCVD法といった蒸着法で作製できる。
【0145】
次に、第一パッシベーション層61の上に組成物(X)を、例えばインクジェット法で成形して、塗膜を作製する。発光素子4の形成と組成物(X)の塗布のいずれにもインクジェット法を適用すれば、発光装置1の製造効率を特に向上できる。続いて、組成物(X)の塗膜に紫外線を照射することで硬化させて、封止材5を作製する。封止材5の厚みは例えば5μm以上50μm以下である。
【0146】
組成物(X)に紫外線を照射するに当たり、大気雰囲気等の酸素を含む雰囲気下で組成物(X)に紫外線を照射してもよく、窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で組成物(X)に紫外線を照射してもよい。本実施形態では、上述のとおり、組成物(X)の酸素割合が75質量%以下であるため、特に光重合性化合物(A)がラジカル重合性化合物(A1)を含有していても、酸素阻害が生じ難い。そのため、酸素を含む雰囲気下で組成物(X)に紫外線を照射しても、組成物(X)を硬化させやすい。
【0147】
次に、封止材5の上に第二パッシベーション層62を設ける。第二パッシベーション層62は、例えばプラズマCVD法といった蒸着法で作製できる。
【0148】
次に、支持基板2の一面上に、第二パッシベーション層62を覆うように、紫外線硬化性の樹脂材料を設けてから、この樹脂材料に透明基板3を重ねる。透明基板3は、例えばガラス製基板又は透明樹脂製基板である。
【0149】
次に外部から透明基板3へ向けて紫外線を照射する。紫外線は透明基板3を透過して紫外線硬化性の樹脂材料へ到達する。これにより、紫外線硬化性の樹脂材料が硬化し、第二封止材52が作製される。
【0150】
本実施形態では、上述のとおり、発光装置1におけるパッシベーション層6と封止材5とに起因する発光効率の低下を生じにくくできる。
【0151】
封止材5の厚みは、例えば1μm以上20μm以下である。封止材5の厚みは、15μm以下であってもよい。この場合、封止材5を薄型化することで、発光装置1を薄型化することができ、フレキシブル性を有する発光装置1を得ることも可能となる。また、封止材5の厚みが10μm以下であっても、本実施形態では、発光装置1におけるパッシベーション層6と封止材5とに起因する発光効率の低下を生じにく
くできる。封止材5の厚みが8μm以下であればより好ましい。また、封止材5によって発光素子4への水分を効果的に抑制するためには、封止材5の厚みは3μm以上であることが好ましく、5μm以上であればより好ましい。
【0152】
封止材5に重なっているパッシベーション層6の厚みは、例えば0.1μm以上2μm以下である。上記のようにパッシベーション層6が第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62とを含む場合、第一パッシベーション層61と第二パッシベーション層62との各々の厚みが0.1μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0153】
なお、本実施形態に係る組成物(X)の用途は、発光素子4のための封止材5の作製に限られない。組成物(X)は、光源が発する光を透過させる種々の光学部品を作製するために用いることができる。例えば、光学部品がカラーレジストであってもよい。すなわち、例えば組成物(X)に蛍光体を含有させ、この組成物(X)からカラーフィルタにおけるカラーレジストを作製してもよい。このカラーフィルタを、例えば発光装置である有機ELディスプレイ、マイクロLEDディスプレイといった表示装置に設けることができる。
【実施例
【0154】
1.組成物の調製
下記表1から表3に示す成分を混合することで、実施例及び比較例の組成物を調製した。
【0155】
なお、表1から表3中に示される成分の詳細は次のとおりである。また、下記の各成分の粘度はレオメータ(アントンパール・ジャパン社製、型番DHR-2)を使用し、温度25℃、せん断速度1000s-1の条件で測定された値である。
-ACMO:アクリロイルモルフォリン、沸点265℃、粘度12mPa・s、ガラス転移温度145℃。
-アクリル酸モルフォリン4-イル:沸点290℃、粘度16mPa・s、ガラス転移温度115℃。
-N-ビニル-ε-カプロラクタム:BASF製、沸点245℃、粘度6mPa・s、ガラス転移温度90℃。
-イソボルニルアクリレート:沸点245℃、粘度8mPa・s、ガラス転移温度97℃。
-フェノキシエチルアクリレート:沸点290℃、粘度13mPa・s、ガラス転移温度2℃。
-FAM201:富士フイルム製、式(51)に示す多官能アクリル化合物、沸点300℃以上、常温で固形。
-FAM301:富士フイルム製、式(52)に示す多官能アクリル化合物、沸点300℃以上、常温で固形。
-FAM401:富士フイルム製、式(53)に示す多官能アクリル化合物、沸点300℃以上、常温で固形。
-FAM402:富士フイルム製、式(54)に示す多官能アクリル化合物、沸点300℃以上、常温で固形。
-3G:トリエチレングリコールジメタクリレート、新中村化学工業社製、沸点290、粘度8mPa・s。
-BD:1,4-ブタンジオールジメタクリレート、新中村化学工業社製、沸点280、粘度7mPa・s。
-SR351S:トリメチロールプロパントリアクリレート、沸点300℃以上、粘度106mPa・s。
-IrgacureTPO:BASF製、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド。
【0156】
2.評価試験
実施例及び比較例について、次の評価試験を実施した。その結果を表1から表3に示す。
【0157】
(1)25℃粘度
組成物の粘度を、レオメータ(アントンパール・ジャパン社製、型番DHR-2)を使用して、温度25℃、せん断速度1000s-1の条件で測定した。
【0158】
(2)40℃粘度
組成物の粘度を、レオメータ(アントンパール・ジャパン社製、型番DHR-2)を使用して、温度40℃、せん断速度1000s-1の条件で測定した。
【0159】
(3)大気雰囲気下での紫外線硬化性(指触試験)
組成物を塗布して塗膜を作製した。この塗膜に、大気雰囲気下、ウシオ電機製の型番Unijet E075IIHD(ピーク波長395nm)を用いて、紫外線を照射強度5W/cm2、かつ積算光量1500mJ/cm2の条件で照射することで、塗膜を光硬化させ、厚み10μmのフィルムを作製した。紫外線の照射条件を、照射強度0.5W/cm2、かつ積算光量1500mJ/cm2に変更した場合も、同様にフィルムを作製した。
【0160】
フィルムの指触試験を行い、照射強度が5W/cm2の場合と0.5W/cm2の場合のいずれにおいてもタックが認められなかった場合を「A」、照射強度が5W/cm2の場合はタックが認められたが0.5W/cm2の場合にはタックが認められなかった場合を「B」、照射強度が5W/cm2の場合と0.5W/cm2の場合のいずれにおいてもタックが認められた場合を「C」と、評価した。
【0161】
(4)大気雰囲気下での紫外線硬化性(鉛筆強度)
組成物を塗布して塗膜を作製した。この塗膜に、大気雰囲気下、ウシオ電機製の型番Unijet E075IIHD(ピーク波長395nm)を用いて、紫外線を照射強度5W/cm2、かつ積算光量1500mJ/cm2の条件で照射することで、塗膜を光硬化させ、厚み10μmのフィルムを作製した。このフィルムの、JIS K5600-5-4:1999の引っかき硬度(鉛筆法)による鉛筆硬度を測定した。
【0162】
(5)ガラス転移温度
組成物を塗布して塗膜を作製し、この塗膜を、大気雰囲気下、ウシオ電機製の型番Unijet E075IIHD(ピーク波長395nm)を用いて、紫外線を5W/cm2、かつ積算光量1500mJ/cm2の条件で照射することで、塗膜を光硬化させ、厚み200μmのフィルムを作製した。このフィルムから切り出したサンプルのガラス転移温度を、粘弾性測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、型番DMA7100)を用いて測定した。
【0163】
(6)密着性
石英ガラス片(寸法50mm×25mm×1mm)上に組成物を塗布して厚み50μmの塗膜を作製した。この塗膜の上に、別の石英ガラス片を、両者が接触する領域の寸法が12.5mm×25mmとなるように重ねた。組成物を、大気雰囲気下、ウシオ電機製の型番Unijet E075IIHD(ピーク波長395nm)を用いて、紫外線を照射強度5W/cm2、かつ積算光量3000mJ/cm2の条件で照射して光硬化させた。
【0164】
次に、二つの石英ガラス片の間の密着強度を、JIS K6850に準じ、引張剪断(引張速度5mm/分)試験を行うことで測定した。その結果を次の基準で評価した。
A:15MPa以上。
B:15MPa未満。
【0165】
(7)アウトガス評価
組成物の硬化物を加熱した場合のアウトガスをヘッドスペース法でサンプリングしてガスクロマトグラフにより測定した。詳しくは、まず容積22mLのヘッドスペース用バイアルに組成物を100mg入れた。続いて、組成物に、大気雰囲気下、ウシオ電機製の型番Unijet E075IIHD(ピーク波長395nm)を用いて、紫外線を照射強度5W/cm2、かつ積算光量1500mJ/cm2の条件で照射することで組成物を硬化させた後、バイアルを封止した。続いて組成物を80℃で30分間加熱してから、バイアル中の気相部分をガスクロマトグラフに導入して分析した。その結果、得られたガスクロマトグラムのピーク面積に基づいて、組成物から発生したアウトガスの濃度を特定した。アウトガスの濃度とは、バイアルの容積(22mL)に対する、バイアルの気相中のアウトガスの体積分率である。
【0166】
なお、アウトガスの濃度は、トルエンを基準物質として特定した。具体的には、バイアル中でトルエンを揮発させることで、トルエン濃度が1000ppmと100ppmの二つの基準サンプルを用意した。各基準サンプルをガスクロマトグラフに導入して分析した。これにより得られた二つのクロマトグラムのピーク面積から、ピーク面積と濃度との関係を規定し、この結果に基づいて、上記のアウトガスの濃度を特定した。
【0167】
その結果、アウトガスの濃度(体積分率)が60ppm以下であった場合を「A」、60ppmを超え100ppm以下であった場合を「B」、100ppmを超え200ppm以下であった場合を「C」、200ppmを超える場合を「D」と、評価した。
【0168】
(8)インクジェット性
組成物をインクジェットプリンター(富士フイルム製、形式DMP2831)のカートリッジに入れ、温度30℃、周波数1kHz、の条件でインクジェットプリンターのノズルから組成物の液滴を吐出した。この液滴をハイスピードカメラで観察し、ミストとサテライトのいずれも認められなかった場合は「A」、ミストとサテライトとのうち少なくとも一方が認められる場合を「B」と、評価した。
【0169】
(9)保存安定性
組成物を、窒素雰囲気下、60℃の温度で2か月間放置する試験を行った。この場合の試験の前の組成物の粘度μ0と試験後の組成物の粘度μ1とから下記の式(M1)により粘度変化率Rμを算出した。この変化率が10%未満である場合を「A」、10%以上20%未満である場合を「B」、20%以上である場合を「C」と評価した。
Rμ={(μ1-μ0)/μ0}×100(%) …(M1)
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
図1