(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】硬化剤、防滑コーティング剤、防滑コーティング被膜の形成方法および防滑被覆材
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20240913BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240913BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2020534990
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014707
(87)【国際公開番号】W WO2020204011
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019069316
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510273798
【氏名又は名称】首都高メンテナンス神奈川株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515282669
【氏名又は名称】日本エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515281651
【氏名又は名称】株式会社ITWパフォーマンスポリマーズ&フルイズジャパン
(73)【特許権者】
【識別番号】393013618
【氏名又は名称】光海陸産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】磯部 龍太朗
(72)【発明者】
【氏名】半澤 功祐
(72)【発明者】
【氏名】首藤 幸人
(72)【発明者】
【氏名】渡部 裕斗
(72)【発明者】
【氏名】政門 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 健太
(72)【発明者】
【氏名】大西 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和男
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065929(JP,A)
【文献】特開2003-040977(JP,A)
【文献】特開2003-096266(JP,A)
【文献】特開平02-274722(JP,A)
【文献】特開昭49-114699(JP,A)
【文献】特表2009-508992(JP,A)
【文献】特開2003-073454(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109233566(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103627140(CN,A)
【文献】米国特許第09988308(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
E01C 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化剤(A)および主剤(B)を有する防滑コーティング剤であって、
前記硬化剤(A)が、
N-H結合を有するポリアミン(A1)と、
N-H結合を有しない3級アミン(A2)と、
非反応性希釈剤(A3)と、
を含有し、
前記主剤(B)が、
エポキシ樹脂(B1)と、
シランカップリング剤(B2)と、
骨材(B3)と、
を含有し、
前記ポリアミン(A1)100質量部に対し、前記3級アミン(A2)の含有量が5質量部~30質量部であり、
前記ポリアミン(A1)が、炭素環を有するポリアミン又はその変性物からなる第一ポリアミン類(a1-1)と、ピペラジンもしくはその誘導体、またはそれらの一方もしくは両方の変性物からなる第二ポリアミン類(a1-2)とを含有
し、
前記ポリアミン(A1)の合計含有量を100質量%としたとき、前記第一ポリアミン類(a1-1)の含有量が70質量%~95質量%、前記第二ポリアミン類(a1-2)の含有量が5質量%~30質量%である、防滑コーティング剤。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(B1)100質量部に対し、前記シランカップリング剤(B2)の含有量が2質量部~7質量部、前記骨材(B3)の含有量が300質量部~1200質量部である、請求項1に記載の防滑コーティング剤。
【請求項3】
前記骨材(B3)は、珪砂(b3-1)およびアルミナ(b3-2)を含有する、請求項1または2に記載の防滑コーティング剤。
【請求項4】
前記アルミナ(b3-2)は、第1ピークと第2ピークの2つのピークをもつ粒度分布を有し、前記第1ピークが、63μm超150μm以下の範囲内にあり、前記第2ピークが、355μm超1700μm以下の範囲内にある、請求項3に記載の防滑コーティング剤。
【請求項5】
N-H結合を有するポリアミン(A1)と、
N-H結合を有しない3級アミン(A2)と、
非反応性希釈剤(A3)と
を含有し、
前記ポリアミン(A1)100質量部に対し、前記3級アミン(A2)の含有量が5質量部~30質量部であり、
前記ポリアミン(A1)が、炭素環を有するポリアミン又はその変性物からなる第一ポリアミン類(a1-1)と、ピペラジンもしくはその誘導体、またはそれらの一方もしくは両方の変性物からなる第二ポリアミン類(a1-2)とを含有
し、
前記ポリアミン(A1)の合計含有量を100質量%としたとき、前記第一ポリアミン類(a1-1)の含有量が70質量%~95質量%、前記第二ポリアミン類(a1-2)の含有量が5質量%~30質量%である、防滑コーティング剤用硬化剤。
【請求項6】
前記ポリアミン(A1)は、脂肪族ポリアミンを含有する、請求項5に記載の硬化剤。
【請求項7】
前記ポリアミン(A1)100質量部に対し、前記非反応性希釈剤(A3)の含有量が5質量部~60質量部である、請求項5
または6に記載の硬化剤。
【請求項8】
請求項5から
7のいずれか
1項に記載の硬化剤(A)と、
エポキシ樹脂(B1)、シランカップリング剤(B2)および骨材(B3)を含有する主剤(B)とを混合して防滑コーティング剤を作製する混合工程と、
前記防滑コーティング剤を基材の表面に塗布した後に、常温乾燥にて4時間以内の短時間放置によって硬化させて防滑コーティング被膜を形成する塗布・乾燥工程と、
を有する、防滑コーティング被膜の形成方法。
【請求項9】
前記基材の表面の少なくとも一部が金属からなる、請求項
8に記載の防滑コーティング被膜の形成方法。
【請求項10】
前記混合工程は、前記硬化剤(A)と前記主剤(B)とを、1:5~1:15の質量比で混合して前記防滑コーティング剤を作製する、請求項
8または
9に記載の防滑コーティング被膜の形成方法。
【請求項11】
基材と、前記基材の表面に防滑コーティング被膜とを有する防滑被覆材であって、
前記防滑コーティング被膜が、
N-H結合を有するポリアミン(A1)、N-H結合を有しない3級アミン(A2)、および非反応性希釈剤(A3)を含有し、前記ポリアミン(A1)100質量部に対し、前記3級アミン(A2)の含有量が5質量部~30質量部であり、前記ポリアミン(A1)が、炭素環を有するポリアミン又はその変性物からなる第一ポリアミン類(a1-1)と、ピペラジンもしくはその誘導体、またはそれらの一方もしくは両方の変性物からなる第二ポリアミン類(a1-2)とを含有
し、前記ポリアミン(A1)の合計含有量を100質量%としたとき、前記第一ポリアミン類(a1-1)の含有量が70質量%~95質量%、前記第二ポリアミン類(a1-2)の含有量が5質量%~30質量%である硬化剤(A)と、
エポキシ樹脂(B1)、シランカップリング剤(B2)および骨材(B3)を含有する主剤(B)と、
を混合して得られた防滑コーティング剤の硬化物である、防滑被覆材。
【請求項12】
前記基材の表面の少なくとも一部が金属からなる、請求項
11に記載の防滑被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂の硬化に用いられる硬化剤、前記硬化剤を有する防滑コーティング剤、防滑コーティング被膜の形成方法および防滑被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
道路橋や高架道路では、橋桁同士の連結部や、橋桁と築堤との連結部における振動や膨張収縮に対処するとともに、連結部における段差を解消するため、フィンガージョイントが用いられている。フィンガージョイントは、橋桁の継ぎ目や、橋桁と築堤の継ぎ目などに設けられる部材であって、自動車やオートバイなどの車両が走行する走行面で、継ぎ目の双方に設けられた1対のフィンガーの櫛歯が互い違いに噛み合うように、鋼板などからなるフェイスプレートが配設されてなる部材である。
【0003】
このようなフィンガージョイントは、雨天時などで走行面が湿潤状態にあるときに車両が滑り易くなるため、走行面が湿潤状態に変化した場合であっても、走行面を構成するフェイスプレートの表面に対して、走行車両が滑り難い特性(いわゆる防滑特性)を付与することが、車両の走行安全性を確保する上で必要である。例えば、特許文献1には、フィンガージョイントなどの橋梁用伸縮装置の表面に、リン酸(メタ)アクリレートを含有する反応硬化型アクリル樹脂をプライマーとして塗布した後、反応硬化型アクリル樹脂と骨材とを混合してなる樹脂モルタルを塗布し、硬化して表面層を形成する防滑方法が記載されている。また、非特許文献1には、フェイスプレートの表面に対してブラスト加工およびアーク溶射加工を行うことでアモルファス(非晶質系皮膜)の皮膜で覆う防滑方法が記載されている。また、非特許文献2には、2種類のプライマーを塗布した後で、接着剤を塗布した上に摩擦素子を散布する工程を2回繰り返す防滑方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
【文献】“鋼製伸縮装置フェースプレート滑り止め加工 アモルファス合金溶射”、 [online] 、橋梁付属物・関連製品検索サービス、[2019年2月15日検索]、インターネット〈URL:http://www.e-bridge.jp/eb/introacs/pro_120004/summary.php〉
【文献】“NETISプラス 摩擦素子コート工法”、 [online] 、一般財団法人 先端建設技術センター、[2019年2月15日検索]、インターネット〈URL:http://www.netisplus.net/NETISPLUSDB/NETISPLUSDB/detail?TECHID=125439〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、プライマーと樹脂モルタルを塗布してから硬化するまで、24時間程度の長時間にわたって硬化養生することが必要であったため、そのような長時間にわたって道路を封鎖することが可能な場所の走行面への防滑処理だけに使用範囲が限定されていた。
【0007】
また、非特許文献1に記載の方法では、アモルファスの皮膜を形成するために、フェイスプレートに対してブラスト加工およびアーク溶射加工を行う必要があり、防滑処理の工程は煩雑であった。また、非特許文献2に記載の方法でも、プライマーや摩擦素子を施工面に塗布した後、専用の加熱器を用いて加熱し、摩擦素子をフェイスプレートに接着させる必要があり、防滑処理の工程は煩雑であった。したがって、より簡便に防滑処理を行うことが可能な材料や方法が求められていた。
【0008】
本発明の目的は、高い防滑性能を有する防滑コーティング被膜を、より短時間で簡便に硬化させて形成するのに適した防滑コーティング剤、この防滑コーティング剤に用いるのに適した硬化剤、防滑コーティング被膜の形成方法および防滑被覆材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、N-H結合を有するポリアミンと、N-H結合を有しない3級アミンと、非反応性希釈剤(A3)とを含む硬化剤を用いることにより、エポキシ樹脂を含有する防滑コーティング剤の主剤を、より短時間で硬化させて、高い防滑性能を有する防滑コーティング被膜を形成することが可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1)本発明は、硬化剤(A)および主剤(B)を有する防滑コーティング剤であって、前記硬化剤(A)が、N-H結合を有するポリアミン(A1)と、N-H結合を有しない3級アミン(A2)と、非反応性希釈剤(A3)と、を含有し、前記主剤(B)が、エポキシ樹脂(B1)と、シランカップリング剤(B2)と、骨材(B3)と、を含有し、前記ポリアミン(A1)100質量部に対し、前記3級アミン(A2)の含有量が5質量部~30質量部であり、前記ポリアミン(A1)が、炭素環を有するポリアミン又はその変性物からなる第一ポリアミン類(a1-1)と、ピペラジンもしくはその誘導体、またはそれらの一方もしくは両方の変性物からなる第二ポリアミン類(a1-2)とを含有する、防滑コーティング剤である。
【0011】
(2)また、本発明は、前記エポキシ樹脂(B1)100質量部に対し、前記シランカップリング剤(B2)の含有量が2質量部~7質量部、前記骨材(B3)の含有量が300質量部~1200質量部である、(1)に記載の防滑コーティング剤である。
【0012】
(3)また、本発明は、前記骨材(B3)は、珪砂(b3-1)およびアルミナ(b3-2)を含有する、(1)または(2)に記載の防滑コーティング剤である。
【0013】
(4)また、本発明は、前記アルミナ(b3-2)は、第1ピークと第2ピークの2つのピークをもつ粒度分布を有し、前記第1ピークが、63μm超150μm以下の範囲内にあり、前記第2ピークが、355μm超1700μm以下の範囲内にある、(3)に記載の防滑コーティング剤である。
【0014】
(5)また、本発明は、N-H結合を有するポリアミン(A1)と、N-H結合を有しない3級アミン(A2)と、非反応性希釈剤(A3)とを含有し、前記ポリアミン(A1)100質量部に対し、前記3級アミン(A2)の含有量が5質量部~30質量部であり、前記ポリアミン(A1)が、炭素環を有するポリアミン又はその変性物からなる第一ポリアミン類(a1-1)と、ピペラジンもしくはその誘導体、またはそれらの一方もしくは両方の変性物からなる第二ポリアミン類(a1-2)とを含有する、防滑コーティング剤用硬化剤である。
【0015】
(6)また、本発明は、前記ポリアミン(A1)は、脂肪族ポリアミンを含有する、(5)に記載の硬化剤である。
【0016】
(7)また、本発明は、前記ポリアミン(A1)の合計含有量を100質量%としたとき、前記第一ポリアミン類(a1-1)の含有量が70質量%~95質量%、前記第二ポリアミン類(a1-2)の含有量が5質量%~30質量%である、(5)または(6)に記載の硬化剤である。
【0017】
(8)また、本発明は、前記ポリアミン(A1)100質量部に対し、前記非反応性希釈剤(A3)の含有量が5質量部~60質量部である、(5)から(7)までのいずれかに記載の硬化剤である。
【0018】
(9)また、本発明は、(5)から(8)のいずれかに記載の硬化剤(A)と、エポキシ樹脂(B1)、シランカップリング剤(B2)および骨材(B3)を含有する主剤(B)とを混合して防滑コーティング剤を作製する混合工程と、前記防滑コーティング剤を基材の表面に塗布した後に、常温乾燥にて4時間以内の短時間放置によって硬化させて防滑コーティング被膜を形成する塗布・乾燥工程と、を有する、防滑コーティング被膜の形成方法である。
【0019】
(10)また、本発明は、前記基材の表面の少なくとも一部が金属からなる、(9)に記載の防滑コーティング被膜の形成方法である。
【0020】
(11)また、本発明は、前記混合工程は、前記硬化剤(A)と前記主剤(B)とを、1:5~1:15の質量比で混合して前記防滑コーティング剤を作製する、(9)または(10)に記載の防滑コーティング被膜の形成方法である。
【0021】
(12)また、本発明は、基材と、前記基材の表面に防滑コーティング被膜とを有する防滑被覆材であって、前記防滑コーティング被膜が、N-H結合を有するポリアミン(A1)、N-H結合を有しない3級アミン(A2)、および非反応性希釈剤(A3)を含有し、前記ポリアミン(A1)100質量部に対し、前記3級アミン(A2)の含有量が5質量部~30質量部であり、前記ポリアミン(A1)が、炭素環を有するポリアミン又はその変性物からなる第一ポリアミン類(a1-1)と、ピペラジンもしくはその誘導体、またはそれらの一方もしくは両方の変性物からなる第二ポリアミン類(a1-2)とを含有する硬化剤(A)と、エポキシ樹脂(B1)、シランカップリング剤(B2)および骨材(B3)を含有する主剤(B)と、を混合して得られた防滑コーティング剤の硬化物である、防滑被覆材である。
【0022】
(13)また、本発明は、前記基材の表面の少なくとも一部が金属からなる、(12)に記載の防滑被覆材である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高い防滑性能を有する防滑コーティング被膜を、より短時間で簡便に硬化させて形成するのに適した防滑コーティング剤、この防滑コーティング剤に用いるのに適した硬化剤、防滑コーティング被膜の形成方法および防滑被覆材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0025】
<硬化剤>
本実施形態に係る硬化剤(A)は、防滑コーティング剤に用いる硬化剤であって、N-H結合を有するポリアミン(A1)と、N-H結合を有しない3級アミン(A2)と、非反応性希釈剤(A3)とを含有し、ポリアミン(A1)100質量部に対し、3級アミン(A2)の含有量が5質量部~30質量部、より好ましくは5~20質量部である。
【0026】
本実施形態に係る硬化剤(A)によることで、エポキシ樹脂(B1)を含有する主剤(B)をより短時間で硬化して防滑コーティング被膜を形成することができるとともに、硬化剤(A)と主剤(B)を混合して基材に塗布するだけで、簡便に防滑コーティング被膜を形成することができる。
【0027】
[ポリアミン(A1)]
ポリアミン(A1)としては、N-H結合を有するポリアミンやその変性物を用いることができ、エポキシ樹脂(B1)に含まれるエポキシ基と反応して硬化させることができる。このようなポリアミンとしては、炭素環を有するポリアミン又はその変性物からなる第一ポリアミン類(a1-1)と、ピペラジンもしくはその誘導体、またはそれらの一方もしくは両方の変性物からなる第二ポリアミン類(a1-2)と、を含有することが好ましい。ポリアミン(A1)として、炭素環を有する第一ポリアミン類(a1-1)を用いることで、硬化物の機械的および熱的な耐久性を高めるとともに、炭素環の立体障害によって主剤(B)との混合時における発熱を抑え、塗工を行い易くすることができる。それとともに、環状化合物の中で比較的反応性の高いピペラジンなどの第二ポリアミン類(a1-2)を用いることで、エポキシ樹脂(B1)を含有する主剤(B)をより短時間で硬化することができる。
【0028】
このうち、第一ポリアミン類(a1-1)の具体例としては、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4-アミノ3-メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノシクロヘキシルメタンなどの脂環式ポリアミン、m-キシリレンジアミンなどの芳香環を含む脂肪族ポリアミン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ポリアミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのポリアミンの変性物、例えば、マンニッヒ化合物、エポキシ化合物とのアミンアダクト物、ケチミン化物、ポリアミドアミン類、マイケル付加化合物、アルジミン化物、イソシアネート化合物との尿素アダクトなどを用いてもよい。
【0029】
特に、第一ポリアミン類(a1-1)としては、硬化反応を穏やかにして主剤(B)との混合や塗工を行いやすくする観点から、ジアミンを用いることが好ましく、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンやm-キシリレンジアミンを用いることが特に好ましい。
【0030】
第一ポリアミン類(a1-1)としては、これらの化合物のうち1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0031】
第一ポリアミン類(a1-1)の配合割合は、ポリアミン(A1)の合計含有量を100質量%としたとき、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、
85質量%以上がさらに好ましい。他方で、第一ポリアミン類(a1-1)の配合割合は、ポリアミン(A1)の合計含有量を100質量%としたとき、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
【0032】
また、第二ポリアミン類(a1-2)の具体例としては、N-2-アミノエチルピペラジン、ピペラジン、N-メチルピペラジン、1,4-ビス-(8-アミノプロピル)-ピペラジン、ピペラジン-1,4-ジアザシクロヘプタン、1-(2’-アミノエチルピペラジン)、1-[2’-(2”-アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジンなどなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。第二ポリアミン類(a1-2)についても、ポリアミンの変性物を用いてもよい。
【0033】
第二ポリアミン類(a1-2)としても、これらの化合物のうち1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0034】
第二ポリアミン類(a1-2)の配合割合は、ポリアミン(A1)の合計含有量を100質量%としたとき、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。他方で、第二ポリアミン類(a1-2)の配合割合は、ポリアミン(A1)の合計含有量を100質量%としたとき、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
【0035】
なお、ポリアミン(A1)としては、第一ポリアミン類(a1-1)および第二ポリアミン類(a1-2)に含まれないポリアミン、例えば鎖状脂肪族ポリアミンを用いてもよい。しかしながら、鎖状脂肪族ポリアミンの配合割合は、ポリアミン(A1)の合計含有量を100質量%としたとき、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0036】
[3級アミン(A2)]
3級アミン(A2)としては、N-H結合を有しないものを用いることができ、上述のポリアミン(A1)とエポキシ基との反応を促進するため、エポキシ樹脂(B1)を含有する主剤(B)の硬化時間を短くすることができる。なお、N-H結合を有する3級アミンは、窒素原子を複数有するものであり、エポキシ樹脂(B1)に含まれるエポキシ基との反応性を有するため、本発明ではポリアミン(A1)に含まれる。
【0037】
3級アミン(A2)の具体例としては、具体的には、2,4,6-トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエタノールアミン、ジアルキルアミノエタノール、トリエチレンジアミン[1,4-ジアザシクロ(2,2,2)オクタン]、などが挙げられる。
【0038】
3級アミン(A2)の配合割合は、ポリアミン(A1)100質量部に対し、0質量%超が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。他方で、3級アミン(A2)の配合割合は、ポリアミン(A1)100質量部に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。
【0039】
[非反応性希釈剤(A3)]
非反応性希釈剤(A3)は、硬化剤(A)と主剤(B)との混合物における粘度等の物性を調整し、作業性を改善する目的で硬化剤に含有させることが必要である。非反応性希釈剤(A3)の具体例としては、ベンジルアルコール、フェノール、フェネチルアルコール、ノニルフェノール、ジノニルフェノールなどの芳香族アルコールや、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂、イソパラフィン混合物、高沸点芳香族炭化水素化合物、ホワイトタールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
非反応性希釈剤(A3)の配合割合は、ポリアミン(A1)100質量部に対し、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。他方で、非反応性希釈剤(A3)の配合割合は、防滑コーティング被膜の実用上の硬さを確保する観点から、ポリアミン(A1)100質量部に対し、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0041】
[その他の成分]
本実施形態に係る硬化剤(A)には、必要に応じて、可塑剤、水分吸収剤、物性調整剤、着色剤、タレ防止剤、酸化防止剤、老化防止剤、溶剤、顔料、染料、蛍光体等の各種の添加剤を加えてもよい。
【0042】
<防滑コーティング剤>
本実施形態に係る防滑コーティング剤は、上述の硬化剤(A)と、主剤(B)とを有するものであり、このうち主剤(B)は、エポキシ樹脂(B1)と、シランカップリング剤(B2)と、骨材(B3)と、を含有する。
【0043】
本実施形態に係る防滑コーティング剤は、エポキシ樹脂(B1)がより短時間で硬化するとともに、骨材(B3)とエポキシ樹脂(B1)が強固に結合するため、高い防滑性能を有する防滑コーティング被膜を、より短時間で簡便に形成することができる。
【0044】
[エポキシ樹脂(B1)]
エポキシ樹脂(B1)は、1分子中にエポキシ基を2個以上有し、アミン系硬化剤と反応して架橋することが可能なポリマーまたはオリゴマーである。エポキシ樹脂(B1)としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応により得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、高分子型エポキシ樹脂、その他の変性エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂(B1)としては、これらの樹脂のうち1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0045】
エポキシ樹脂(B1)の粘度(25℃)は、好ましくは20Pa・s以下であり、より好ましくは15Pa・s以下である。また、エポキシ樹脂(B1)の質量平均分子量は、好ましくは200~4000であり、より好ましくは300~2000である。また、エポキシ樹脂(B1)のエポキシ当量(JIS K7236に準拠)は、好ましく150~1000g/eqであり、より好ましくは150~700g/eqである。
【0046】
なお、エポキシ樹脂を2種以上組み合わせて用いる場合のエポキシ樹脂(B1)の質量平均分子量およびエポキシ当量は、2種以上のエポキシ樹脂全体としての質量平均分子量およびエポキシ当量である。
【0047】
[シランカップリング剤(B2)]
シランカップリング剤(B2)としては、有機材料に結合する官能基と、無機材料と結合する官能基と、を一分子内に有する化合物を用いることができる。その中でも、エポキシ樹脂(B1)などの有機材料と反応性を有し、かつ、無機材料である後述の骨材(B3)や基材と反応性を有する化合物を用いることが好ましい。これにより、エポキシ樹脂(B1)およびポリアミン(A1)の反応物と、骨材(B3)や基材とが化学結合するため、防滑コーティング被膜をより頑丈なものにすることができる。
【0048】
シランカップリング剤(B2)は、例えば一般式X-Si(OR)3で表される。ここで、Xは、有機材料と反応し得る官能基であり、より具体的にはアミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン基およびこれらの基を有する炭化水素基などが挙げられる。また、ORは、加水分解性基であり、より具体的にはメトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。
【0049】
シランカップリング剤(B2)の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシシラン類や、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジエトキシシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノシラン類、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
シランカップリング剤(B2)の配合割合は、防滑コーティング被膜の基材への付着性を高めるとともに、より硬い被膜にするため、エポキシ樹脂(B1)100質量部に対し、2質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましい。他方で、シランカップリング剤(B2)の配合割合は、塗工時の粘度を下げて作業性をより向上させるため、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0051】
[骨材(B3)]
本発明の防滑コーティング剤は、骨材(B3)を含有する。これにより、防滑コーティング剤の硬化物からなるコーティング被膜に防滑性能を付与し、コーティング被膜に強靱性を与えることができる。
【0052】
骨材(B3)としては、通常用いられる骨材であればよく、特に限定はしないが、例えば、珪砂、アルミナ、シリコンカーバイド、ガラスバルーン、フライアッシュバルーン、シラスバルーンなどが挙げられる。
【0053】
防滑コーティング剤における骨材(B3)の含有量は、コーティング被膜に防滑性能を付与する観点から、エポキシ樹脂(B1))の質量100質量部に対して、好ましくは300質量部以上、より好ましくは500質量部以上、さらに好ましくは600質量部以上である。他方で、防滑コーティング剤における骨材(B3)の含有量は、コーティング被膜の引張特性を高め、また基材への塗布を行い易くする観点から、エポキシ樹脂(B1)の100質量部に対して、好ましくは1200質量部以下、より好ましくは1000質量部以下、さらに好ましくは800質量部以下としてもよい。
【0054】
骨材(B3)の中でも、珪砂(b3-1)およびアルミナ(b3-2)を含有することが好ましく、特にアルミナ(b3-2)としては、第1ピークと第2ピークの2つのピークをもつ粒度分布を有することが好ましい。
【0055】
(珪砂(b3-1))
このうち、珪砂(b3-1)としては、質量基準の粒度分布において、300μm以上850μm以下の範囲内にピークがあることが好ましく、425μm以上600μm以下の範囲内にピークがあることがより好ましい。また、珪砂(b3-1)としては、JIS Z2601(鋳物砂の試験方法)に基づいて珪砂について粒度試験を行ったときに、呼び寸法で300μm、425μmまたは600μmのふるいに最も多い珪砂が残るものであることが好ましく、呼び寸法425μmのふるいに最も多い珪砂が残るものであることがより好ましい。
【0056】
防滑コーティング剤における珪砂(b3-1)の含有量は、コーティング被膜に防滑性能を付与する観点から、エポキシ樹脂(B1)の100質量部に対して、好ましくは80質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは130質量部以上である。他方で、防滑コーティング剤における珪砂(b3-1)の含有量は、エポキシ樹脂(B1)の100質量部に対して、好ましくは300質量部以下、より好ましくは250質量部以下、さらに好ましくは200質量部以下としてもよい。
【0057】
(アルミナ(b3-2))
アルミナ(b3-2)としては、質量基準の粒度分布において、第1ピークと第2ピークの2つのピークを有することが好ましい。このうち、第1ピークは、63μm超150μm以下の範囲内にあることが好ましく、75μm超125μm以下の範囲内にあることがより好ましい。また、第2ピークは、355μm超1700μm以下の範囲内にあることが好ましく、425μm超1000μm以下の範囲内にあることがより好ましく、500μm超600μm以下の範囲内にあることがさらに好ましい。粒度分布にこのような2つのピークを有する粒状のアルミナ(b3-2)を用いることで、コーティング被膜における防滑性能をより高めることができる。
【0058】
また、アルミナ(b3-2)は、JIS R6001(研削といし用研削材の粒度)に基づいてアルミナについて粒度試験を行ったときに、F150、F120、F100およびF90から選択される1種以上と、F46、F40、F36、F30、F24、F22、F20、F16およびF14から選択される1種以上との混合物であることが好ましく、F120およびF100の一方または両方と、F40、F36、F30、F24およびF22から選択される1種以上との混合物であることがより好ましい。
【0059】
防滑コーティング剤におけるアルミナ(b3-2)の含有量は、コーティング被膜に防滑性能を付与する観点から、エポキシ樹脂(B1)の100質量部に対して、好ましくは300質量部以上、より好ましくは400質量部以上、さらに好ましくは500質量部以上である。他方で、防滑コーティング剤におけるアルミナ(b3-2)の含有量は、エポキシ樹脂(B1)の100質量部に対して、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは800質量部以下、さらに好ましくは700質量部以下としてもよい。
【0060】
[その他の成分(B4)]
本実施形態で用いられる主剤(B)は、作業性を改善するなどの目的で、その他の成分(B4)として、エポキシ系の反応性希釈剤、非反応性希釈剤、有機溶剤、可塑剤などを含有してもよい。
【0061】
このうち、エポキシ系反応性希釈剤としては、一般に市販されているモノ、ジ、トリエポキサイドであれば特に限定されるものではない。例えば、o-クレシルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、グリシジルエステル、α-オレフィンエポキサイド、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル、アルキルフェノールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0062】
また、非反応性希釈剤としては、ベンジルアルコール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂、イソパラフィン混合物、高沸点芳香族炭化水素化合物、ホワイトタール等が挙げられる。また、可塑剤としては、フタル酸系、燐酸系、脂肪酸系の各種エステルが挙げられる。また、有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、セロソルブ、メチルセロソルブ、n-プロパノール、イソプロパノールなどが挙げられる。
【0063】
また、本実施形態で用いられる主剤(B)は、塗布時の液だれを防止するなどの目的で、増粘剤を含有してもよい。増粘剤としては、ヒュームドシリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、カオリン、ベントナイト、有機ベントナイトが挙げられる。
【0064】
また、本実施形態で用いられる主剤(B)は、防滑コーティング被膜の視認性を調整するなどの目的で、顔料、染料、蛍光体などの着色剤を含有してもよい。着色剤としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化第二鉄および活性亜鉛華が挙げられる。
【0065】
<防滑コーティング被膜の形成方法>
本実施形態に係る防滑コーティング被膜の形成方法は、上述の硬化剤(A)および主剤(B)とを混合して防滑コーティング剤を作製する混合工程と、防滑コーティング剤を基材の表面に塗布した後に、防滑コーティング剤を、例えば常温乾燥にて4時間以内の短時間放置によって硬化させて防滑コーティング被膜を形成する塗布・乾燥工程と、を有する。
【0066】
[混合工程]
混合工程では、上述の硬化剤(A)および主剤(B)を混合して、防滑コーティング剤を作製する。上述の硬化剤(A)は液状であり、主剤(B)はペースト状であることが多い。混合手段は、ペースト状の主剤(B)に液状の硬化剤(A)を混合できる手段であれば、特に限定されない。
【0067】
硬化剤(A)および主剤(B)の混合比率(硬化剤(A):主剤(B)の比)が、質量比で1:5~1:15の比であることが好ましい。硬化剤(A)および主剤(B)の比をこの範囲内にすることで、後述する塗布・乾燥工程における塗膜の硬化を促進することができる。
【0068】
混合工程における硬化剤(A)および主剤(B)の混合時間は、均質な防滑コーティング剤を得るため、1分間以上であることが好ましく、2分間以上であることがより好ましい。他方で、混合時間の上限は、可使時間に応じて定めることができるが、10分間未満であることが好ましく、5分間以下であることがより好ましい。なお、ここでいう「可使時間」とは、硬化剤(A)と主剤(B)の混合を開始してから、基材に対して、防滑コーティング剤を塗り広げることが可能である(最長)時間をいう。
【0069】
防滑コーティング剤の可使時間は、使用温度等の環境条件によって変動するが、可使時間の目安を例示しておくと、以下のとおりである。例えば、0℃以上10℃未満の温度条件下で35分~45分、10℃以上20℃未満の温度条件下で25分~35分、常温(20℃以上30℃未満)の温度条件下で17分~20分、そして、30℃以上40℃未満の温度条件下で10分~12分である。
【0070】
[塗布・乾燥工程]
塗布・乾燥工程では、硬化剤(A)および主剤(B)の混合物からなる防滑コーティング剤を基材に塗布した後、塗布膜を乾燥および硬化させて防滑コーティング被膜を形成する。
【0071】
防滑コーティング剤を塗布する基材としては、特に限定されず、表面の少なくとも一部が金属からなるものに塗布することもできる。得られる防滑コーティング被膜は、基材表面の金属表面に強固に結合して防滑性能を発揮できるため、金属表面に形成される防滑コーティング被膜上に車両を走行させたときに、車両を滑り難くすることができる。
【0072】
基材には、必要に応じて素地調整を行ってもよい。本発明の防滑コーティング剤は、3級ケレンのような比較的軽度な素地調整(錆びている部分を取り除く程度の素地調整)しか行っていない基材に塗布する場合であっても、所望の特性の防滑コーティング被膜を得ることが可能である。
【0073】
基材に防滑コーティング剤を塗布する手段は、従来公知の手段を用いることができ、例えば刷毛やローラーなどを用いることができる。本発明の防滑コーティング剤は、防滑コーティング被膜の形成に特殊な装置や技能を要さず、また一度の塗布で所望の防滑性能を付与することができるため、より広範囲の防滑加工を一度に行うことができる。
【0074】
防滑コーティング剤を塗布する厚さは、骨材(B3)の粒径に応じて定められるが、例えば0.5mm~5.0mmとすることができる。本発明の防滑コーティング剤は、エポキシ樹脂(B1)の硬化と、エポキシ樹脂(B1)と骨材(B3)や基材との結合によって防滑コーティング被膜が形成されるため、塗布される防滑コーティング剤の厚みが大きいほど、高い防滑性能を得ることができる。
【0075】
塗布膜に対する乾燥および硬化に要する時間は、使用温度等の環境条件によって変動するが、例えば、0℃以上10℃未満の温度条件下で5時間~10時間、10℃以上20℃未満の温度条件下で3時間~6時間、常温(20℃以上30℃未満)の温度条件下で2時間~4時間、30℃以上40℃未満の温度条件下で1時間~3時間を目安にすることができる。特に、道路の連結部に、防滑コーティング剤を塗布して常温で乾燥させる場合、従来の防滑コーティング剤を用いた場合には、24時間程度の長時間にわたって硬化養生することが必要であったが、本発明の防滑コーティング剤を用いた場合、常温で4時間以内の短時間で、塗布した防滑コーティング剤を乾燥・硬化させて、防滑コーティング被膜を形成することが可能になる。
【0076】
また、本発明の防滑コーティング剤は、従来のエポキシ系樹脂では硬化が困難であった5℃以下の低温環境下であっても、特殊な機材を用いて加熱しなくても、乾燥および硬化によって防滑コーティング被膜を得ることができる。
【0077】
また、本発明の防滑コーティング剤は、特に温暖な条件下では、上述のように短い時間で塗布膜を硬化させて基材に防滑性能を付与することができる。そのため、例えば高速道路の夜間工事のように限られた時間内であっても、より広い範囲の基材に対して防滑加工を行うことができる。
【0078】
このように、本発明の防滑コーティング剤は、高い防滑性能を有するコーティング被膜を、広い温度範囲で短時間に簡便に形成させることが可能なため、車道や歩道、駐車場、公園等の路面や床面の滑り易い箇所への防滑性能の付与に、好適に用いることできる。
【0079】
<防滑被覆材>
本発明の防滑被覆材は、表面に防滑コーティング被膜を有する基材を有し、防滑コーティング被膜が、N-H結合を有するポリアミン(A1)およびN-H結合を有しない3級アミン(A2)を含有する硬化剤(A)と、エポキシ樹脂(B1)と、シランカップリング剤(B2)および骨材(B3)を含有する主剤(B)と、を含有する。ここで、ポリアミン(A1)、3級アミン(A2)、エポキシ樹脂(B1)、シランカップリング剤(B2)および骨材(B3)については、上述したとおりである。また、防滑被覆材には、上述の非反応性希釈剤(A3)を含んでもよい。
【0080】
このような防滑被覆材としては、道路橋や高架道路などの橋桁同士の連結部や、橋桁と築堤との連結部に設けられるフィンガージョイントを挙げることができ、フィンガージョイントのうち少なくとも車両が走行する走行面に、防滑コーティング被膜を有することが好ましい。このほか、防滑被覆材としては、湿潤状態で滑り易くなる部材を挙げることができ、例えば、排水口やマンホールの蓋、歩行者用通路、階段、スロープ、点検通路、足場を挙げることができる。
【実施例】
【0081】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
<硬化剤および防滑コーティング剤の調製>
表1および表2に示す配合割合にて、硬化剤(A)および主剤(B)をそれぞれ調製した後、硬化剤(A)および主剤(B)を混合して、防滑コーティング剤を得た。
【0083】
【0084】
【0085】
表1に記載される硬化剤(A)および主剤(B)の調製に用いた各成分の詳細は、以下のとおりである。なお、ポリアミン(A1)および3級アミン(A2)については、表1に記載の成分を含む組成物を用いている場合があるが、組成物の含有量ではなく、表1に記載されている成分の含有量が、表1に記載の値になるように硬化剤(A)を調製した。
【0086】
〔硬化剤(A)〕
[ポリアミン(A1)]
(第一ポリアミン類(a1-1))
・m-キシリレンジアミンのマンニッヒ変性物(蝶理GLEX株式会社製、型番:KA-861、m-キシリレンジアミン含有量:10質量%、アミン価:375)
・m-キシリレンジアミン(アミン価:825)
・1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(Yun Teh Industries社製、型番:JOINTMINE989、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン含有量:40~50質量%、アミン価:380)
(第二ポリアミン類(a1-2))
・N-2-アミノエチルピペラジン(蝶理GLEX株式会社製、型番:PH-770、N-2-アミノエチルピペラジン含有量:50~60質量%、アミン価:580)
[3級アミン(A2)]
・2,4,6-トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール(Sigma-Aldrich社製、型番:DMP-30)
[非反応性希釈剤(A3)]
・ベンジルアルコール(LANXESS社製)
【0087】
〔主剤(B)〕
[エポキシ樹脂(B1)]
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三井石油化学工業(株)製、型番:エポミックR140、質量平均分子量:350~400、エポキシ当量:189g/eq、粘度:13Pa・s/25℃)
[シランカップリング剤(B2)]
・γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、型番:KBM-403)
[骨材(B3)]
(珪砂(b3-1))
・珪砂5号(JFEミネラル株式会社製、型番:シリカサンド飯豊珪砂5号、質量基準の粒度分布のピーク:500μm)
(アルミナ(b3-2))
・アルミナ#120(日本カーリット株式会社製、型番:サクランダムWA F120、質量基準の粒度分布ピーク:100μm)
・アルミナ#36(日本カーリット株式会社製、型番:サクランダムWA F36、質量基準の粒度分布ピーク:500μm)
・アルミナ#14(日本カーリット株式会社製、型番:サクランダムWA F14、質量基準の粒度分布ピーク:1400μm)
[その他の成分(B4)]
(反応性希釈剤)
・o-クレシルグリシジルエーテル
・トリメチルプロパントリグリシジルエーテル
(増粘剤)
・疎水性ヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、型番:RY200S)
(着色剤)
・カーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製、型番:MA100)
【0088】
得られた防滑コーティング剤は、縦300mm×横300mm×厚さ4.5mmの鋼鉄(JIS G 3101に規定される一般構造用圧延鋼材SS400)製の板材からなる基材に、縮毛ローラーを用いて3mmの厚さで均一になるように塗布した後、気温20℃の条件下で4時間にわたって静置し、塗布膜を乾燥および硬化させることで、防滑コーティング被膜を得た。
【0089】
このとき、作業性について、防滑コーティング剤を基材に塗布する際の粘りの有無と、塗布膜からのダレの有無を、目視によって評価した。コーティング剤を木板に盛り付けた際に形状を保持することができ、かつ塗布時に塗り広げ易いものを、作業性が良好であるとして「○」とした。また、コーティング剤を木板に盛り付けた際に形状を保持し難いものや、塗布時に塗り広げ難いものを、作業性が劣る(不可)として「×」とした。
【0090】
また、塗布膜を乾燥および硬化させる際の膜の硬化について、塗布から30分後、1時間後、2時間後、3時間後および4時間後に、JIS K7215に基づき、D型デュロメータ(ゴム硬度計、アスカー社製)によって評価した。このとき、膜の表面の硬さを測定でき、かつその値が60以上であるものを、良好に膜が硬化しているとして「〇」とした。また、膜の表面の硬さを測定でき、かつその値が60未満と測定できるものを、膜の硬化が良好ではないものの合格レベル(可)であると判断して「△」とした。また、膜の表面の硬さを測定できないものを、膜の硬化が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0091】
得られた防滑コーティング被膜について、JIS K 5600-5に基づいて基材への付着力[MPa]を測定した。また、ASTM E 303に基づいて防滑コーティング被膜の滑り抵抗値(BPN)を測定した。基材への付着力の測定と、滑り抵抗値の測定は、同じ防滑コーティング被膜の異なる5ヶ所について行い、その平均値を測定結果とした。これらの測定結果を表1に示す。
【0092】
表1の評価結果から、本発明例1~13では、防滑コーティング被膜の形成を、より短時間で簡便に行えることが分かった。
【0093】
また、本発明例1~13で得られた防滑コーティング被膜は、基材への付着力が12MPa以上と高く、また、防滑コーティング被膜の滑り抵抗値(BPN)も60以上と高いことが分かった。
【0094】
上記結果より、本発明例1~13で用いた硬化剤と、それを用いた防滑コーティング剤は、高い防滑性能を有する防滑コーティング被膜の形成を、より短時間で簡便に行うことができた。
【0095】
これに対し、比較例1の硬化剤を用いて形成した防滑コーティング被膜は、第二ポリアミン類(a1-2)および3級アミン(A2)いずれも含有しないものであったため、作業性の面で劣っており、また、塗布から4時間経過しても膜の表面の硬さを測定できず、膜の硬化の面でも劣っていた。
【0096】
また、比較例2の硬化剤を用いて形成した防滑コーティング被膜は、第二ポリアミン類(a1-2)を含有しておらず、また、3級アミン(A2)の含有量が少ないものであったため、作業性の面で劣っており、また、塗布から4時間経過しても膜の表面の硬さを測定できず、膜の硬化の面でも劣っていた。
【0097】
また、比較例3~5の硬化剤を用いて形成した防滑コーティング被膜は、第二ポリアミン類(a1-2)を含有していないものであったため、作業性の面で劣っており、また、塗布から4時間経過しても膜の表面の硬さを測定できず、膜の硬化の面でも劣っていた。
【0098】
また、比較例6の硬化剤を用いて形成した防滑コーティング被膜は、非反応性希釈剤(A3)を含有しないものであったため、作業性の面で劣っており、また、滑り抵抗値が60未満と低いものであった。
【0099】
以上、本発明の実施の形態および実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態および実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態および実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。