(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】幹細胞付着用シート
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240913BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20240913BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20240913BHJP
A61L 27/38 20060101ALN20240913BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
A61L27/14
C12N5/0775
A61L27/38
(21)【出願番号】P 2023216225
(22)【出願日】2023-12-21
【審査請求日】2024-01-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000163774
【氏名又は名称】金井重要工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】堀 秀生
(72)【発明者】
【氏名】藤田 順之
(72)【発明者】
【氏名】藪内 光
(72)【発明者】
【氏名】小畑 勉
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-034436(JP,A)
【文献】特開2003-048841(JP,A)
【文献】特開2016-087100(JP,A)
【文献】特表2011-509786(JP,A)
【文献】特開2011-056047(JP,A)
【文献】特開2020-048587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
A61L 27/00-27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布を具備する幹細胞付着用シートであって、
前記不織布は、
生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成された第1層と、
生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成され、且つ、前記第1層を構成する繊維より太い繊維径を有する繊維で構成された第2層と、
を含む積層構造であり、
前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマー(ただし、生体適合性ポリマーにシロキサンが含まれることを除く。)は、同じ種類のポリマー材料を含み、
前記第2層を構成する繊維の繊維径が、3.2μm~15μmであ
り(ただし、繊維径が、4.0μm以下であること、および、10μm以上であることを除く。)
、
前記ポリマー材料が、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、および、ポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体からなる群から選択した少なくとも1種である
幹細胞付着用シート。
【請求項2】
不織布を具備する幹細胞付着用シートであって、
前記不織布は、
生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成された第1層と、
生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成され、且つ、前記第1層を構成する繊維より太い繊維径を有する繊維で構成された第2層と、
を含む積層構造であり、
前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマー(ただし、生体適合性ポリマーにシロキサンが含まれることを除く。)は、同じ種類のポリマー材料を含み、
前記第1層を構成する繊維の繊維径は、200nm以上、5μm以下であり(ただし、繊維径が1.5μm以上であることを除く。)、
前記第2層を構成する繊維の繊維径が、3.2μm~15μmである(ただし、繊維径が、4.0μm以下であること、および、10μm以上であることを除く。)
幹細胞付着用シート。
【請求項3】
不織布を具備する幹細胞付着用シートであって、
前記不織布は、
生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成された第1層と、
生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成され、且つ、前記第1層を構成する繊維より太い繊維径を有する繊維で構成された第2層と、
を含む積層構造であり、
前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマー(ただし、生体適合性ポリマーにシロキサンが含まれることを除く。)は、同じ種類のポリマー材料を含み、
前記第1層の目付は、0.2g/m
2
以上、4g/m
2
以下、の範囲であり、
前記第2層を構成する繊維の繊維径が、3.2μm~15μmである(ただし、繊維径が、4.0μm以下であること、および、10μm以上であることを除く。)
幹細胞付着用シート。
【請求項4】
前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマーのポリマー材料が、少なくとも25%以上の割合で同じ種類のポリマー材料を含む
請求項1
~3の何れか一項に記載の幹細胞付着用シート。
【請求項5】
前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマーのポリマー材料が、100%同じ種類の材料である
請求項
4に記載の幹細胞付着用シート。
【請求項6】
前記第1層を構成する繊維の繊維径は、200nm以上、5μm以下の範囲である
請求項1
または3に記載の幹細胞付着用シート。
【請求項7】
前記第1層の目付は、0.2g/m
2以上、4g/m
2以下、
前記第2層の目付は、2g/m
2以上、30g/m
2以下、
の範囲である
請求項1
または2に記載の幹細胞付着用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、幹細胞付着用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療分野において、内部に細胞を保持でき、体内に埋設されることにより組織再生を促進する組織再生促進材の開発が進んでいる。例えば、特許文献1には、白血球及び血小板からなる群の少なくとも1つが表面に存在するシート状の組織再生促進材が開示されている。また、特許文献2には、高分子材料の粉と細胞とを混合して得られる液状の組織再生促進材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4847129号公報
【文献】特開2015-112262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に開示された組織再生促進材では、多孔質体や高分子材料の粉を用いているため、細胞の中でも組織再生能力が高い間葉系幹細胞を安定的に保持することが難しい、という問題がある。このような問題は、組織再生促進材で間葉系幹細胞を保持する場合に限られず、他の幹細胞を保持する場合にも存在している。
【0005】
本出願における開示は、このような背景に基づいてなされたものであり、幹細胞を安定的に保持することが可能な幹細胞付着用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願における開示は、以下に示す幹細胞付着用シートに関する。
(1)不織布を具備する幹細胞付着用シートであって、
前記不織布は、
生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成された第1層と、
生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成され、且つ、前記第1層を構成する繊維より太い繊維径を有する繊維で構成された第2層と、
を含む積層構造であり、
前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマーは、同じ種類のポリマー材料を含む
幹細胞付着用シート。
(2)前記ポリマー材料が、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、キチン、キトサン、ポリグリコール酸、および、それらの共重合体からなる群から選択した少なくとも1種である
上記(1)に記載の幹細胞付着用シート。
(3)前記ポリマー材料が、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、および、ポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体からなる群から選択した少なくとも1種である
上記(2)に記載の幹細胞付着用シート。
(4)前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマーのポリマー材料が、少なくとも25%以上の割合で同じ種類のポリマー材料を含む
上記(1)に記載の幹細胞付着用シート。
(5)前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマーのポリマー材料が、少なくとも25%以上の割合で同じ種類のポリマー材料を含む
上記(2)に記載の幹細胞付着用シート。
(6)前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマーのポリマー材料が、少なくとも25%以上の割合で同じ種類のポリマー材料を含む
上記(3)に記載の幹細胞付着用シート。
(7)前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマーのポリマー材料が、100%同じ種類の材料である
上記(4)~(6)のいずれか一つに記載の幹細胞付着用シート。
(8)前記第1層を構成する繊維の繊維径は、200nm以上、5μm以下、
前記第2層を構成する繊維の繊維径は、第1層を構成する繊維の繊維径より大きく、30μm以下、
の範囲である
上記(1)~(7)のいずれか一つに記載の幹細胞付着用シート。
(9)前記第1層の目付は、0.2g/m2以上、4g/m2以下、
前記第2層の目付は、2g/m2以上、30g/m2以下、
の範囲である
上記(1)~(8)のいずれか一つに記載の幹細胞付着用シート。
【発明の効果】
【0007】
本出願で開示する幹細胞付着用シートにより、幹細胞を安定的に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る幹細胞付着用シートの一例の構成を示す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る幹細胞付着用シートの一例の構成を示す斜視図である。
【
図3】実施形態に係る幹細胞付着用シートの一例の構成を示す斜視図である。
【
図4】実施形態に係る幹細胞付着用シートの一例の構成を示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係る幹細胞付着用シートを用いて、組織再生促進シートを作製する概略を示す正面図である。
【
図6】
図6は、実施例2で作製した組織再生促進シートを用いた場合、および、組織再生促進シートを用いなかった場合に、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞が産生する血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現量の差を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3で作製した組織再生促進シートを用いた場合、および、組織再生促進シートを用いなかった場合に、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞が産生する血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現量の差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本出願で開示する幹細胞付着用シートについて、図面を参照しながら説明する。なお、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願の開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0010】
また、本明細書において、
(1)「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、
(2)数値、数値範囲、及び定性的な表現(例えば、「同一」、「同じ」等の表現)については、当該技術分野において一般的に許容される誤差を含む数値、数値範囲及び性質を示している、
(3)「略〇〇」と記載した場合、正確な〇〇に加え、凡そ〇〇と把握される形状を含む、と解釈される。
【0011】
(幹細胞付着用シートの実施形態)
図1乃至
図4を参照して、実施形態に係る幹細胞付着用シート10の概略について説明する。
図1乃至
図4は、実施形態に係る幹細胞付着用シートの一例の構成を示す斜視図である。
【0012】
実施形態に係る幹細胞付着用シートは、幹細胞を付着するために使用される。幹細胞を付着した後のシート(以下、「組織再生促進シート」と記載することがある。)は、体内の損傷箇所に埋設されることにより損傷箇所での組織再生を促進するという効果を奏する。実施形態に係る幹細胞付着用シートは、幹細胞が付着する細径の繊維、例えば、マイクロファイバーで構成された不織布を備える。不織布は、細径の繊維を織らずに絡み合わせたシートである。不織布は、自由自在に変形させることができるため、損傷箇所の形状に合わせて埋め込んだり貼り付けたりするのに好適である。組織再生促進シートは、任意の臓器や器官、例えば、心臓、血管、肺、気管、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、腎臓、膀胱、骨、筋肉、皮膚に貼り付けたり埋め込んだりできる。組織再生促進シートは、体内において特定の細胞の増殖を促す足場(スキャフォールド)として機能させることができる。
【0013】
図1に示すように、幹細胞付着用シート10は、生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成された第1層12と、生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成された第2層14と、を含む。第2層14は、第1層12を構成する繊維より太い繊維径を有する繊維で構成されている。
【0014】
幹細胞は、特開2023-47494号公報の
図3に示すように、不織布を構成する繊維と繊維の隙間にトラップされるのではなく繊維に付着することで、幹細胞付着用シート10に捕捉される。幹細胞付着用シート10への幹細胞の付着手順については後述するが、幹細胞は、第1層12および第2層14の両方に付着することができる。また、第2層14は第1層12を構成する繊維の繊維径より太い繊維で構成されていることから、幹細胞を付着するとともに、第1層12を補強する補強シートとしても機能する。繊維径が細い第1層12のみで幹細胞付着用シートを形成した場合、細胞懸濁液に晒すと丸まりやすい。実施形態に係る幹細胞付着用シート10は、第1層12と、第2層14と、を積層することで、幹細胞付着用シート10のハンドリング性が向上する。第1層12および第2層14は、容易に分離しないように積層されていればよい。限定されるものではないが、不織布の製造時に繊維同士を絡み合わせることで接合してもよいし、別々に作製した第1層12および第2層14を接着剤や熱融合により互いに接合してもよい。
【0015】
図1には、第1層12および第2層14を、それぞれ1層積層した幹細胞付着用シート10の例が示されているが、第1層12および第2層14の数は、幹細胞を含む細胞懸濁液をろ過し、幹細胞付着用シート10に幹細胞を付着できる範囲であれば特に制限はない。
【0016】
例えば、
図2に示すように、上下2つの第2層14で第1層12を挟んでもよい。また、
図3に示すように、上下2つの第2層14の間に、複数層の第1層12(
図3に示す例では2層)を積層してもよい。また、
図4に示すように、第1層12および第2層14を交互に積層してもよい。
【0017】
第1層12および第2層14は、生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成されている。なお、本明細書において「生体適合性ポリマー」とは、生体組織や器官と親和性があり、生体に適用した際に異物反応や拒絶反応などを生じない性質を有するポリマーを意味する。
【0018】
生体適合性ポリマーを作製する際に用いられるポリマー材料は、生体適合性が高ければ特に制限はない。限定されるものではないが、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、キチン、キトサン、ポリグリコール酸(PGA)、それらの共重合体等が挙げられる。
【0019】
上記に例示したポリマー材料の中で、ポリカプロラクトンは、半結晶性で生分解性の熱可塑性ポリエステルであり、不織布の製造にも好適に使用できる。ポリカプロラクトンは、例えば、ポリ-ε-カプロラクトンであってもよい。ポリカプロラクトンの分子量は、射出成型に適した分子量であってもよく、例えば、70,000~200,000の範囲が挙げられる。また、ポリ乳酸の分子量は50,000~200,000、ポリグリコール酸の分子量は50,000~500,000が挙げられる。
【0020】
第1層12および第2層14を構成する繊維は、上記ポリマー材料で形成された生体適合性ポリマーのみで構成されてもよいし、他の物質を含んでもよい。他の物質としては、例えば、組織再生を促進する薬剤や他の生分解性ポリマーを用いてもよい。組織再生を促進する薬剤は、例えば、ハイドロキシアパタイト(水酸化リン酸カルシウム)、リン酸三カルシウム等が挙げられる。他の生分解性ポリマーは、例えば、ポリジオキサノン等が挙げられる。なお、繊維に占める生体適合性ポリマーの質量の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%等が挙げられる。
【0021】
ところで、日本では未承認であるものの、米国ではポリ乳酸(PLA)100%で作製した不織布は薬事承認されている。また、日本では、ポリカプロラクトン(PCL)50%およびポリ乳酸(PLA)50%の共重合体は合成人工硬膜(商品名:シームデュラ、グンゼ製)として、並びに、ポリカプロラクトン(PCL)25%およびポリ乳酸(PLA)75%の共重合体は吸収性縫合糸(商品名:P(LA/CL)縫合糸、グンゼ製)として、薬事承認されている。つまり、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンは、ヒトでの安全性が確認されているポリマー材料と言える。したがって、生体に適用された際の安全性試験を含む薬事承認申請の負担軽減の観点から、ポリマー材料としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、および、ポリ乳酸およびポリカプロラクトンの共重合体がより好ましい。
【0022】
第1層12および第2層14を構成する生体適合性ポリマーは、同じ種類のポリマー材料を含むことが好ましい。組織再生促進シートが生体内の損傷箇所に埋設されると、生体適合性ポリマーは生体内で分解される。その際に、第1層12と第2層14のポリマー材料が異なると、分解速度、分解生成物、pH等の埋設箇所における環境に差異が発生する可能性がある。第1層12および第2層14を構成する生体適合性ポリマーが同じ種類のポリマー材料を含む場合、埋設箇所における分解後の環境変化の差異が小さくなることが期待される。
【0023】
同じ種類のポリマー材料は、その割合が大きくなるほど、得られる効果も大きくなることが期待される。限定されるものではないが、第1層12および第2層を構成する生体適合性ポリマーのポリマー材料に占める同じ種類の割合は、5%以上、10%、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、100%等が挙げられる。
【0024】
なお、本明細書において、同じ種類のポリマー材料の割合は、第1層12のポリマー材料の質量を100とした時の成分の質量と、第2層14のポリマー材料の質量を100とした時の成分の質量と、を対比した際に、同じ種類の成分の少ない方の質量を意味する。また、ポリマー材料が共重合体の場合は、共重合体に含まれる同じ種類の成分を対比し、少ない方の成分の質量を同じ種類のポリマー材料の割合とすればよい。同じ種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。同じ種類のポリマー材料(成分)が2種類以上含まれる場合は、割合を合算すればよい。ポリマー材料をX、Y、Zとした場合のより具体的な例を以下に示す。なお、「X+Y」との記載は、XとYとの共重合体を意味する。
【0025】
第1層12を構成する繊維の繊維径および第2層14を構成する繊維の繊維径は、第1層12を構成する繊維径の方が第2層14を構成する繊維径より小さく、幹細胞を付着することができ、且つ、幹細胞付着用シートのハンドリングに問題が無ければ特に制限はない。限定されるものではないが、第1層12を構成する繊維の繊維径の下限値は、200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上、600nm以上、700nm以上、800nm以上、900nm以上、1μm以上等が挙げられる。一方、上限値は、5μm以下、4.75μm以下、4.5μm以下、4.25μm以下、4μm以下等が挙げられる。第2層14を構成する繊維の繊維径の下限値は第1層12を構成する繊維の繊維径より大きければよく、上限値は30μm以下、27.5μm以下、25μm以下、22.5μm以下、20μm以下、17.5μm以下、15μm以下等が挙げられる。また、第1層12を構成する繊維の繊維径を1とした場合、第2層14を構成する繊維の繊維径は、限定されるものではないが、1.2倍以上、1.4倍以上、1.6倍以上、1.8倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上等が挙げられる。
【0026】
第1層12は、目付が大きくなるほど付着する幹細胞の量を増やせるが、次第に細胞懸濁液のろ過が困難になる。第1層12の目付は、幹細胞の付着量と製造時の容易性とを考慮して決めればよい。限定されるものではないが、第1層12の目付の下限値は0.2g/m2以上、0.4g/m2以上、0.6g/m2以上、0.8g/m2以上、1g/m2以上等が挙げられ、上限値としては、4g/m2以下、3g/m2以下、2.8g/m2以下、2.6g/m2以下、2.4g/m2以下、2.2g/m2以下、2.0g/m2以下等が挙げられる。
【0027】
一方、第2層14は、上記のとおり、幹細胞を付着するとともに、第1層12を補強する補強シートとしても機能する。したがって、第2層14の目付は、幹細胞の付着と共に、ハンドリング性を考慮しながら目付の範囲を適宜決めればよい。限定されるものではないが、下限値は2g/m2以上、2.5g/m2以上、3/m2以上、3.5g/m2以上、4g/m2以上、4.5g/m2以上、5/m2以上、5.5g/m2以上、6g/m2以上、6.5g/m2以上、7g/m2以上、7.5/m2以上、8g/m2以上、8.5g/m2以上、9g/m2以上、9.5/m2以上、10/m2以上等が挙げられ、上限値は30g/m2以下、29g/m2以下、28g/m2以下、27g/m2以下、26g/m2以下、25g/m2以下、24g/m2以下、23g/m2以下、22g/m2以下、21g/m2以下、20g/m2以下等が挙げられる。なお、繊維径に関しては、第2層14を構成する繊維の繊維径は第1層12を構成する繊維の繊維径より太くする必要がある。一方、目付に関しては、ハンドリング性が良く、且つ、幹細胞のろ過を妨げなければ、第1層12の目付は、第2層14の目付より、小さくてもよいし、同じであってもよいし、大きくてもよい。
【0028】
第1層12および第2層14を積層した積層構造の厚みは、ピンセットによるハンドリング性を考慮しながら適宜決定すればよい。限定されるものではないが、積層構造の厚みは、例えば、200μm以上、300μm以上、400μm以上、500μm以上、600μm以上、700μm以上等が挙げられる。一方、積層構造の厚みの上限は、1700μm以下、1600μm以下、1500μm以下、1400μm以下等が挙げられる。また、第2層14が補強シートの機能が奏することから、第1層12は薄くてもハンドリング性の問題はない。上記積層構造における第1層12の厚みは、10μm以上、20μm以上、40μm以上、60μm以上、80μm以上、100μm以上等が挙げられ、上限値としては、200μm未満、180μm以下、160μm以下、140μm以下等が挙げられる。
【0029】
幹細胞付着用シート10に付着させる幹細胞は、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)又は間葉系幹細胞から分化した細胞、ES(Embryonic Stem)細胞、iPS(induced Pluripotent Stem)細胞等が挙げられる。間葉系幹細胞は、間葉系に属する細胞への分化能を有する体性幹細胞であり、脂肪由来、骨膜由来、滑膜由来、海綿骨由来、骨髄由来、羊膜由来、臍帯血由来、胎盤由来のいずれであってもよい。不織布に付着する幹細胞は、1種類であってもよいし、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0030】
幹細胞付着用シート10に付着させる幹細胞は、患者から採取したものであってもよいし、株化したものであってもよい。幹細胞をin vitroで培養するには、例えば、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS)若しくはヒト血清、好ましくは患者由来のヒト血清を含む培地、又は無血清培地を用いればよい。培地にて培養された幹細胞はそのまま不織布に付着させてもよいし、幹細胞を分化させて特定の細胞、例えば、骨芽細胞を発現させてから不織布に付着させてもよい。特定の細胞を発現させるには、例えば、幹細胞の培地に分化誘導因子を添加すればよい。
【0031】
また、本出願で開示する幹細胞付着用シート10には、必ずしも事前に幹細胞を付着させる必要はない。幹細胞付着用シート10を体内の損傷箇所に配置した後に、脈管系に幹細胞を含む細胞懸濁液を投与することで、体内で幹細胞付着用シートに幹細胞を付着させてもよい。
【0032】
次に、実施形態に係る幹細胞付着用シート10に幹細胞を付着させる具体的な手順を説明する。幹細胞付着用シート10に幹細胞を付着させるには、幹細胞を含む細胞混濁液をしばらくの間接触させればよいが、幹細胞培養時の成長因子産生能の低下を抑制するには以下の手順で行うことが好ましい。
【0033】
まず、
図5に示すように、ろ過装置を構成する一対のホルダー20の間に、実施形態に係る幹細胞付着用シート10をセットする。各ホルダー20は、細胞混濁液が流出または流入可能に構成され、
図5に示す例では、一方のホルダー20から他方のホルダー20に向けて細胞懸濁液を流す際に細胞混濁液が第1層12に接触する。
【0034】
次に、幹細胞を含む細胞混濁液を上から1滴ずつゆっくりと滴下させ、第1層12で細胞混濁液をろ過する。ろ過速度は、例えば、2分~3分かけて細胞混濁液1mlを滴下する速度が挙げられる。このとき滴下された細胞懸濁液に含まれる幹細胞が自ら第1層12の繊維に付着する。厳密なメカニズムは不明であるが、幹細胞を含む細胞混濁液を、少しずつ幹細胞付着用シートにろ過させると、各繊維に幹細胞が安定的に付着すると共に、付着した幹細胞が活性化して成長因子の産生が促進される。なお、第1層12に付着せずに通過した幹細胞は第2層14に付着し得るが、条件等を調整することで全ての幹細胞が第1層12に付着してもよい。つまり、第2層14は幹細胞の付着機能を有するが、組織再生促進シートとして使用する際に、第2層14への幹細胞の付着は必須ではない。
【0035】
上記実施形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施形態が可能である。実施の形態で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0036】
例えば、図示は省略するが、
図5に示す幹細胞付着用シート10は、
図2乃至
図4に示す幹細胞付着用シート10であってもよい。また、細胞懸濁液は、第2層14側から流してもよい。また、
図2乃至
図4に示す例では、3層以上の積層構造が示されているが、層の種類としては、第1層12および第2層14の2種類である。代替的に、第1層12および第2層14とは、構成するポリマー材料、繊維径のサイズ等が異なる第3層を積層してもよい。本出願で開示する第1層12および第2層14が含まれていれば、その他の層を含んでもよい。
【0037】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する技術的範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0038】
<実施例1>
[各種不織布の作製]
人工硬膜として臨床で既に用いられているポリカプロラクトン(PCL)とポリ乳酸(PLA)を、50:50の割合で共重合したものを、第1層12および第2層14のポリマー材料として用いた。市販の不織布作製装置を用いて、以下の表1に示す繊維径、目付、厚さの不織布を作製した。
【表1】
【0039】
[作製した不織布への幹細胞の吸着(捕捉)]
次に、作製した不織布を幹細胞付着用シートとして使用した。幹細胞付着用シートをろ過滅菌用ホルダーに挟んだ状態で、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC。Promocell社、製品コードC-12977。)を含む細胞懸濁液を通過させることで幹細胞付着用シートにヒト間葉系幹細胞を付着させ、付着率を評価した。ろ過滅菌用ホルダーには、スウィネクスフィルターホルダー(メルクミリポア)を用いた。また、細胞懸濁液は、1滴ずつ滴下した。それぞれ3つのサンプルに対して実験を行った。
【0040】
付着(捕捉)実験の結果も表1に示す。なお、捕捉率は、血球計算盤を用いてろ過前後の細胞数を計測し、(ろ過前細胞数-ろ過後細胞数)/ろ過前細胞数×100により求めた値である。表1に示す結果から明らかなように、実施例1で作製した不織布を具備する幹細胞付着用シートを用いることで、非常に高い効率で幹細胞を付着できることを確認した。
【0041】
<実施例2>
実施例1のポリマー材料に代え、ポリカプロラクトン100%を用いて不織布を作製した以外は、実施例1と同様の手順で不織布を作製した。作製した不織布の第1層および第2層のサイズは以下のとおりである。また、細胞捕捉率は100%であった。
・第1層:繊維径0.5μm、目付2g/m2、厚さ100μm。
・第2層:繊維径5μm、目付10g/m2、厚さ500μm。
【0042】
[成長因子産生能の確認]
次に、実施例2で作製した不織布を用い、実施例1と同様の手順で不織布に幹細胞を付着することで組織再生促進シートを作製した。培地を含むシャーレに作製した組織再生促進シートを移し4週間培養した。また、比較対象として、幹細胞(ADSC)を直接シャーレで4週間培養した。4週間培養後に、ELISAを用いて血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現量を測定した。結果を
図6に示す。
【0043】
<実施例3>
実施例1のポリマー材料を用いた以外は、実施例2と同様に作製した不織布を用いて成長因子産生能の確認を行った。作製した不織布の第1層および第2層のサイズは以下のとおりである。また、細胞捕捉率は99.7%であった。結果を
図7に示す。
・第1層:繊維径0.5μm、目付2g/m
2、厚さ100μm。
・第2層:繊維径4μm、目付10g/m
2、厚さ500μm。
【0044】
図6および
図7から明らかなように、本出願で開示する幹細胞付着用シートに幹細胞を付着した上で培養すると、幹細胞をそのまま培地で培養した時(
図6および7のADSC)と比較して、幹細胞が活性化することを確認した。また、本出願で開示する幹細胞付着用シートは、第1層および第1層より繊維径が太い第2層の積層構造であることから、一連の実験において、幹細胞付着用シートのハンドリング性に特段の問題が無いことを確認した。
【0045】
<実施例4>
実施例1のポリマー材料に代え、吸収性縫合糸として臨床で既に用いられているポリカプロラクトン(PCL)とポリ乳酸(PLA)を、25:75の割合で共重合したものを、第1層12および第2層14のポリマー材料として用いた以外は、実施例1と同様の手順で不織布を作製し、幹細胞の吸着(捕捉)を行った。表2に第1層と第2層の繊維径、目付および厚さ、並びに、積層枚数および幹細胞の捕捉率を示す。
【0046】
【0047】
表2に示す結果から明らかなように、実施例4で作製した不織布を具備する幹細胞付着用シートを用いることで、非常に高い効率で幹細胞を付着できることを確認した。
【0048】
<比較例1>
ポリマー材料としてポリカプロラクトンのみを用い、第1層のみの不織布を作製した。作製した不織布のサイズは以下のとおりである。
・第1層:繊維径0.5μm、目付2g/m2、厚さ100μm。
【0049】
作製した不織布をホルダーにセットしようと試みたが、ハンドリング性が悪く、ホルダーにセットできなかった。
【0050】
<比較例2>
実施例4に記載のポリマー材料を用い、以下の表3に示す繊維径、目付、厚さ、積層枚数を1とした以外は、実施例1と同様の手順で不織布を作製し、幹細胞の吸着(捕捉)を行った。捕捉率も以下の表3に示す。
【0051】
【0052】
表3に示すように、比較例2で作製した不織布を構成する繊維の繊維径は、実施例1~4の第2層の繊維径とかなり近い値であることから、目付は比較例1とほぼ同じ場合でもハンドリング性に特に問題は無かった。また、比較例2では、幹細胞の捕捉率は実施例1~4より低かったものの、所定量の幹細胞を捕捉できた。したがって、本出願で開示する幹細胞付着用シートの第2層は、幹細胞の付着(捕捉)機能および第1層を補強する補強機能を奏することを確認した。なお、表3に示す結果から、幹細胞の捕捉率が低くても問題なければ、繊維径を所定以上の太さとすることで、不織布は単層であっても幹細胞付着用シートとして機能することを確認した。
【0053】
以上の結果から、繊維径が細い第1層のみで幹細胞付着用シートを作製するより、第1層の繊維径より太い繊維径を有する繊維で構成された第2層との積層構造とすることで、幹細胞付着用シートに幹細胞を付着させる際のハンドリング性および幹細胞の捕捉効率が向上することを確認した。
【符号の説明】
【0054】
10 幹細胞付着用シート
12 第1層
14 第2層
20 ホルダー
【要約】 (修正有)
【課題】幹細胞を安定的に保持することが可能な幹細胞付着用シートを提供することを目的とする。
【解決手段】不織布を具備する幹細胞付着用シートであって、前記不織布は、生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成された第1層と、生体適合性ポリマーを主成分とする繊維で構成され、且つ、前記第1層を構成する繊維より太い繊維径を有する繊維で構成された第2層と、を含む積層構造であり、前記第1層および前記第2層を構成する生体適合性ポリマーは、同じ種類のポリマー材料を含む幹細胞付着用シート。
【選択図】
図1