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特許7555087研磨具、研磨ヘッド、研磨装置、研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】研磨具、研磨ヘッド、研磨装置、研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/00 20120101AFI20240913BHJP
   B24B 47/20 20060101ALI20240913BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B24B37/00 Z
B24B47/20
B24B49/10
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2024083446
(22)【出願日】2024-05-22
【審査請求日】2024-05-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510253608
【氏名又は名称】イネイブル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】ブカン アントニー
(72)【発明者】
【氏名】小川 秀樹
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/167445(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/201731(WO,A1)
【文献】特開平09-323252(JP,A)
【文献】特開平04-046755(JP,A)
【文献】特開昭60-263663(JP,A)
【文献】特開昭60-263662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00
B24B 27/00
B24B 41/00
B24B 47/00
B24B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨材を自身の研磨面とワークの間で保持して前記ワークを研磨するための研磨具であって、
前記ワークに対して前記研磨面の中心が接近・離反する方向を仮想的な研磨軸と定義する際に、
先端に前記ワークに対向する前記研磨面を有し、前記研磨軸に沿って延在する主軸部と、
前記主軸部から連続して前記研磨軸から径方向の外側に向かって延びる複数の弾性部と、
複数の前記弾性部の径方向外側に連続する複数の座部と、を備え、
前記弾性部における前記主軸部に連続する位置と、前記弾性部における前記座部と連続する位置が前記研磨軸の方向に異なっており、
工具駆動機構によって、複数の前記座部のそれぞれに対して、前記径方向の外側又は内側のいずれかとなる同一側に向かう同一量の変位を作用させると、複数の前記弾性部が弾性変形して、前記主軸部が前記研磨軸の軸方向成分を含むように変位し、
工具駆動機構によって、複数の前記座部のそれぞれに対して、前記径方向の外側又は内側のいずれかとなる同一側に向かう互いに異なる量の変位、又は、前記径方向の外側又は内側のいずれかで互いに異なる側の変位を作用させると、前記主軸部が前記研磨軸の径方向成分を含むように変位することを特徴とする、
研磨具。
【請求項2】
複数の前記弾性部及び前記座部が、前記研磨軸の周方向に等間隔で配置されることを特徴とする、
請求項1に記載の研磨具。
【請求項3】
3つの前記弾性部及び前記座部を備えることを特徴とする、
請求項2に記載の研磨具。
【請求項4】
請求項1の研磨具を有する研磨ヘッドであって、
工具ベースと、
前記工具ベースに配置されて前記研磨具を変位又は弾性変形させる工具駆動機構と、を備え、
前記工具駆動機構は、
複数の前記座部に配置されて、前記径方向に前記座部を変位させる複数の駆動部を備えることを特徴とする、
研磨ヘッド。
【請求項5】
前記工具駆動機構を制御する工具制御装置を備え、
前記制御装置は、
変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第一周波信号を生成する第一周波信号生成
を有することを特徴とする、
請求項4に記載の研磨ヘッド。
【請求項6】
前記制御装置は、更に、
変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第二周波信号を生成する第二周波信号生成部と、
複数の前記第一周波信号と、複数の前記第二周波信号を重畳させることで、複数の前記駆動部の各々の駆動信号を生成する信号重畳部と、を有し、
前記第一周波信号生成部が生成する複数の前記第一周波信号は、増減位相が一致し、
前記第二周波信号生成部が生成する複数の前記第二周波信号は、増減位相が異なることを特徴とする、
請求項5に記載の研磨ヘッド。
【請求項7】
前記制御装置は、更に、
変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第二周波信号を生成する第二周波信号生成部と、
複数の前記第一周波信号と、複数の前記第二周波信号を重畳させることで、複数の前記駆動部の各々の駆動信号を生成する信号重畳部と、を有し、
前記第一周波信号の周波数が、前記第二周波信号の周波数よりも大きいことを特徴とする、
請求項5に記載の研磨ヘッド。
【請求項8】
複数の前記第一周波信号の少なくともいずれかに重畳させるためのバイアス信号を生成するバイアス信号生成部を備えることを特徴とする、
請求項5または6に記載の研磨ヘッド。
【請求項9】
前記ワークに対する前記研磨ヘッドの走査経路情報及び/又は前記ワークの形状情報を参照して、前記バイアス信号生成部によって生成される前記バイアス信号を変化させる研磨ヘッド設定計算部を備えることを特徴とする、
請求項8に記載の研磨ヘッド。
【請求項10】
前記工具駆動機構によって、前記研磨面を、螺旋状の移動軌跡に沿って振動させることを特徴とする、
請求項1に記載の研磨ヘッド。
【請求項11】
前記工具駆動機構によって、前記研磨面における前記螺旋状の移動軌跡の螺旋軸を変位させることを特徴とする、
請求項10に記載の研磨ヘッド。
【請求項12】
研磨材を自身の研磨面とワークの間で保持して前記ワークを研磨するための研磨具と、
工具ベースと、
前記工具ベースに配置されて前記研磨具を変位させる工具駆動機構と、
前記工具駆動機構を制御する制御装置と、を備え、
前記ワークに対して前記研磨面の中心が接近・離反する方向を仮想的な研磨軸と定義する際に、
前記工具駆動機構は、前記研磨軸の周方向に複数配置されて、各々が前記研磨具を前記研磨軸の径方向に変位させる駆動部を有しており、
前記制御装置は、
変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第一周波信号を生成する第一周波信号生成部と、
変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第二周波信号を生成する第二周波信号生成部と、
複数の前記第一周波信号と、複数の前記第二周波信号を重畳させることで、複数の前記駆動部の各々の駆動信号を生成する信号重畳部と、
を有し、
前記制御装置は、
前記第一周波信号生成部が生成する複数の前記第一周波信号は増減位相が一致し、かつ、前記第二周波信号生成部が生成する複数の前記第二周波信号は増減位相が異なる制御態様、
又は、
前記第一周波信号の周波数が前記第二周波信号の周波数よりも大きい制御態様、
のいずれかを含むことを特徴とする、
研磨ヘッド。
【請求項13】
前記第一周波信号生成部が生成する複数の前記第一周波信号は、増減位相が一致し、
前記第二周波信号生成部が生成する複数の前記第二周波信号は、増減位相が異なることを特徴とする、
請求項1の研磨ヘッド。
【請求項14】
前記第一周波信号の周波数が、前記第二周波信号の周波数よりも大きいことを特徴とする、
請求項1または1に記載の研磨ヘッド。
【請求項15】
基台と、
請求項4の研磨ヘッドと、
前記基台に設けられて、前記研磨ヘッドを保持する研磨ヘッド保持機構と、
前記基台に設けられて、前記ワークを保持するワーク保持機構と、
前記ワークと前記研磨ヘッドを、前記研磨軸の軸方向及び前記研磨軸の径方向に相対移動させる相対移動機構と、
を備えることを特徴とする研磨装置。
【請求項16】
流体に砥粒を分散させた研磨材を、研磨具の研磨面とワークの間で保持して前記ワークを研磨するための研磨方法であって、
前記ワークに対して前記研磨面の中心が接近・離反する方向を仮想的な研磨軸と定義する際に、
前記研磨軸の周方向に複数の駆動部を配置して、各々の前記駆動部によって前記研磨具との接点を前記研磨軸の径方向に変位させるようにし、
変位量の増減周期及び増減位相が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための同期周波信号を生成し、
変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第一周波信号を生成し、
変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第二周波信号を生成し、
複数の前記第一周波信号と、複数の前記第二周波信号を重畳させることで、複数の前記駆動部の各々の駆動信号を生成し、
複数の前記第一周波信号は、増減位相が一致し、かつ、複数の前記第二周波信号は、増減位相が異なるようになっており、
複数の前記駆動信号によって複数の前記駆動部を変位させることで、前記研磨具の前記研磨面を、前記研磨軸の軸方向及び径方向に変位させることを特徴とする、
研磨方法。
【請求項17】
流体に砥粒を分散させた研磨材を、研磨具の研磨面とワークの間で保持して前記ワークを研磨するための研磨方法であって、
前記ワークに対して前記研磨面の中心が接近・離反する方向を仮想的な研磨軸と定義する際に、
前記研磨軸の周方向に複数の駆動部を配置して、各々の前記駆動部によって前記研磨具との接点を前記研磨軸の径方向に変位させるようにし、
変位量の増減周期及び増減位相が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための同期周波信号を生成し、
変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第一周波信号を生成し、
複数の前記第一周波信号の少なくともいずれかに重畳させるためのバイアス信号を生成し、
複数の前記第一周波信号と、前記バイアス信号を重畳させることで、複数の前記駆動部の各々の駆動信号を生成し、
複数の前記駆動信号によって複数の前記駆動部を変位させることで、前記研磨具の前記研磨面を、前記研磨軸の軸方向及び径方向に変位させることを特徴とする、
研磨方法。
【請求項18】
前記ワークに対する前記研磨面の走査経路情報及び/又は前記ワークの形状情報を参照して、前記バイアス信号を変化させることを特徴とする、
請求項1に記載の研磨方法。
【請求項19】
前記研磨面を、螺旋状の移動軌跡に沿って振動させることを特徴とする、
請求項16又は17に記載の研磨方法。
【請求項20】
前記研磨面における前記螺旋状の移動軌跡の螺旋軸を変位させることを特徴とする、
請求項19に記載の研磨方法。
【請求項21】
流体に砥粒を分散させた研磨材を、研磨具の研磨面とワークの間で保持して前記ワークを研磨するための研磨方法であって、
前記ワークに対して前記研磨面の中心が接近・離反する方向を仮想的な研磨軸と定義する際に、
前記研磨軸の周方向に複数の駆動部を配置して、各々の前記駆動部によって前記研磨具との接点を前記研磨軸の径方向に変位させるようにし、
複数の前記駆動部の数に対して、少なくとも2倍の数となる周波信号を生成し、
前記駆動部の各々に対して、少なくとも2個の前記周波信号を重畳させた駆動信号を入力し、
複数の前記駆動信号によって複数の前記駆動部を変位させることで、前記研磨具の前記研磨面を、前記研磨軸の軸方向及び径方向に変位させることを特徴とする、
研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズや光学素子等のワークの表面を精密に研磨する研磨具や研磨方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や光学機器に組み込まれて使用される非球面レンズ等の光学素子等は、成型加工、研削加工、研磨加工等によって製造される。この光学素子は、高度な形状精度が要求される。
【0003】
光学素子の研磨方法としては、例えば、ポリッシング加工やラッピング加工、磁気研磨方法等が採用される。例えば、磁気研磨方法では、特許文献1に示すように、磁性研磨流体として、磁性流体単体またはこれに微粒状の研磨材を懸濁分散させたものを利用し、研磨具の先端の研磨面とワークの間に、磁性研磨流体を供給して研磨する。この際、研磨面とワークを、電歪素子からなるZ方向アクチュエータによって、Z軸方向に研磨面とワークを微小運動(微小の接近・離反)させる。同時に、電歪(ピエゾ)素子からなるX方向アクチュエータとY方向アクチュエータを利用して、Z軸に対して垂直平面となるXY平面方向に微小運動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2682260号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の研磨装置の場合、Z軸アクチュエータよりも先端側(研磨面側)に、X方向アクチュエータとY方向アクチュエータを含む研磨工具のブロック(研磨ブロック)が垂下される。結果、研磨ブロックが大きくなって慣性が増大し、また、その構造が複雑となるため、研磨面を高精度に制御しようとすると、様々な調整が必要となるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、構造を簡素化しつつ、高精度な研磨を実現可能な研磨具等を提供することを目的としている。
【0007】
上記目的を達成する本発明は、研磨材を自身の研磨面とワークの間で保持して前記ワークを研磨するための研磨具であって、前記ワークに対して前記研磨面の中心が接近・離反する方向を仮想的な研磨軸と定義する際に、先端に前記ワークに対向する前記研磨面を有し、前記研磨軸に沿って延在する主軸部と、前記主軸部から連続して前記研磨軸から径方向の外側に向かって延びる複数の弾性部と、複数の前記弾性部の径方向外側に連続する複数の座部と、を備え、前記弾性部における前記主軸部に連続する位置と、前記弾性部における前記座部と連続する位置が前記研磨軸の方向に異なっており、工具駆動機構によって、複数の前記座部のそれぞれに対して、前記径方向に向かう同一量の変位を作用させると、複数の前記弾性部が弾性変形して、前記主軸部が前記研磨軸の軸方向成分を含むように変位し、工具駆動機構によって、複数の前記座部のそれぞれに対して、前記径方向に向かう異なる量の変位を作用させると、前記主軸部が前記研磨軸の径方向成分を含むように変位することを特徴とする、研磨具である。
【0008】
上記研磨具に関連して、複数の前記弾性部及び前記座部が、前記研磨軸の周方向に等間隔で配置されることを特徴としてもよい。
【0009】
上記研磨具に関連して、3つの前記弾性部及び前記座部を備えることを特徴としてもよい。
【0010】
上記目的を達成する本発明は、上記研磨具を有する研磨ヘッドであって、工具ベースと、前記工具ベースに配置されて前記研磨具を変位又は弾性変形させる工具駆動機構と、を備え、前記工具駆動機構は、複数の前記座部に配置されて、前記径方向に前記座部を変位させる複数の駆動部を備えることを特徴とする、研磨ヘッドである。
【0011】
上記研磨ヘッドは、前記工具駆動機構を制御する工具制御装置を備え、前記制御装置は、変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第一周波信号を生成する第一周波信号生成部と、変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第二周波信号を生成する第二周波信号生成部と、複数の前記第一周波信号と、複数の前記第二周波信号を重畳させることで、複数の前記駆動部の各々の駆動信号を生成する信号重畳部と、を有することを特徴としてもよい。
【0012】
上記研磨ヘッドに関連して、前記第一周波信号生成部が生成する複数の前記第一周波信号は、増減位相が一致し、前記第二周波信号生成部が生成する複数の前記第二周波信号は、増減位相が異なることを特徴としてもよい。
【0013】
上記研磨ヘッドに関連して、前記第一周波信号の周波数が、前記第二周波信号の周波数よりも大きいことを特徴としてもよい。
【0014】
上記研磨ヘッドは、複数の前記駆動信号の少なくともいずれかに重畳させるためのバイアス信号を生成するバイアス信号生成部を備えることを特徴としてもよい。
【0015】
上記研磨ヘッドは、前記ワークに対する前記研磨ヘッドの走査経路情報及び/又は前記ワークの形状情報を参照して、前記バイアス信号生成部によって生成される前記バイアス信号を変化させる研磨ヘッド設定計算部を備えることを特徴としてもよい。
【0016】
上記研磨ヘッドに関連して、前記工具駆動機構によって、前記研磨面を、螺旋状の移動軌跡に沿って振動させることを特徴としてもよい。
【0017】
上記研磨ヘッドに関連して、前記工具駆動機構によって、前記研磨面における前記螺旋状の移動軌跡の螺旋軸を変位させることを特徴としてもよい。
【0018】
上記目的を達成する本発明は、研磨材を自身の研磨面とワークの間で保持して前記ワークを研磨するための研磨具と、工具ベースと、前記工具ベースに配置されて前記研磨具を変位させる工具駆動機構と、前記工具駆動機構を制御する制御装置と、を備え、前記ワークに対して前記研磨面の中心が接近・離反する方向を仮想的な研磨軸と定義する際に、前記工具駆動機構は、前記研磨軸の周方向に複数配置されて、各々が前記研磨具を前記研磨軸の径方向に変位させる駆動部を有しており、前記制御装置は、変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第一周波信号を生成する第一周波信号生成部と、変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第二周波信号を生成する第二周波信号生成部と、複数の前記第一周波信号と、複数の前記第二周波信号を重畳させることで、複数の前記駆動部の各々の駆動信号を生成する信号重畳部と、を有することを特徴とする、研磨ヘッドである。
【0019】
上記研磨ヘッドに関連して、前記第一周波信号生成部が生成する複数の前記第一周波信号は、増減位相が一致し、前記第二周波信号生成部が生成する複数の前記第二周波信号は、増減位相が異なることを特徴としてもよい、
【0020】
上記研磨ヘッドに関連して、前記第一周波信号の周波数が、前記第二周波信号の周波数よりも大きいことを特徴としてもよい。
【0021】
上記目的を達成する本発明は、基台と、上記の研磨ヘッドと、前記基台に設けられて、前記研磨ヘッドを保持する研磨ヘッド保持機構と、前記基台に設けられて、前記ワークを保持するワーク保持機構と、前記ワークと前記研磨ヘッドを、前記研磨軸の軸方向及び前記研磨軸の径方向に相対移動させる相対移動機構と、を備えることを特徴とする研磨装置である。
【0022】
上記目的を達成する本発明は、流体に砥粒を分散させた研磨材を、研磨具の研磨面とワークの間で保持して前記ワークを研磨するための研磨方法であって、前記ワークに対して前記研磨面の中心が接近・離反する方向を仮想的な研磨軸と定義する際に、前記研磨軸の周方向に複数の駆動部を配置して、各々の前記駆動部によって前記研磨具との接点を前記研磨軸の径方向に変位させるようにし、変位量の増減周期及び増減位相が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための同期周波信号を生成し、変位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第一周波信号を生成し、位量の増減周期が互いに一致するように複数の前記駆動部を周期的に往復変位させるための複数の第二周波信号を生成し、複数の前記第一周波信号と、複数の前記第二周波信号を重畳させることで、複数の前記駆動部の各々の駆動信号を生成し、複数の前記駆動信号によって複数の前記駆動部を変位させることで、前記研磨具の前記研磨面を、前記研磨軸の軸方向及び径方向に変位させることを特徴とする、研磨方法である。
【0023】
上記研磨方法に関連して、複数の前記第一周波信号は、増減位相が一致し、複数の前記第二周波信号は、増減位相が異なることを特徴としてもよい。
【0024】
上記研磨方法に関連して、複数の前記駆動信号の少なくともいずれかにバイアス信号を重畳させることで、前記研磨面を前記研磨軸の径方向及び/又は軸方向に変位させることを特徴としてもよい。
【0025】
上記研磨方法に関連して、前記ワークに対する前記研磨面の走査経路情報及び/又は前記ワークの形状情報を参照して、前記バイアス信号を変化させることを特徴としてもよい。
【0026】
上記研磨方法に関連して、前記研磨面を、螺旋状の移動軌跡に沿って振動させることを特徴としてもよい。
【0027】
上記研磨方法に関連して、前記研磨面における前記螺旋状の移動軌跡の螺旋軸を変位させることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡便な構造でワーク表面を高精度に研磨できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態にかかる研磨装置の側面図である。
図2】同研磨装置に適用される研磨ヘッドの(A)正面図、(B)側面図である。
図3】同研磨ヘッドにおける図2(A)の矢視III-III部分断面図である。
図4】(A)は同研磨ヘッドに適用される研磨具の斜視図であり、(B)は研磨面の変形例を示す斜視図である。
図5】同研磨具の(A)正面図、(B)側面図である。
図6】同研磨具の(A)正面図、(B)側面図、(C)各変位ベクトルの合成ベクトルを示す図である。
図7】(A)及び(B)は、同研磨具を製作する工程を示す斜視図である。
図8】(A)は同研磨装置の移動制御装置の機能を示すブロック図、(B)は同研磨装置の工具制御装置の機能を示すブロック図である。
図9】(A)は同工具制御装置の第一~第三同期周波信号DA,DB,DCを示す図であり、(B)は第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCを示す図であり、(C)は第一~第三駆動信号KA,KB,KCを示す図であり、(D)は第一~第三駆動信号KA,KB,KCによる研磨面230の動作を示す正面図である。
図10】第一~第三駆動信号KA,KB,KCによる研磨面230の動作を示す(A)側面図、(B)正面図である。
図11】(A)は同工具制御装置の第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを示す図であり、(B)は第一~第三駆動信号KA(t1),KB(t1),KC(t1)を示す図であり、(C)は経過時間t1における研磨面の動作を示す正面図であり、(D)は経過時間t2における研磨面の動作を示す正面図であり、(E)は経過時間t3における研磨面の動作を示す正面図である。
図12】(A)は同工具制御装置の第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを示す図であり、(B)は第一~第三駆動信号KA(t1),KB(t1),KC(t1)を示す図であり、(C)は経過時間t1における研磨面の動作を示す側面図であり、(D)は経過時間t2における研磨面の動作を示す側面図であり、(E)は経過時間t3における研磨面の動作を示す側面図である。
図13】(A)~(C)は、同研磨具によるワークの研磨工程を示す断面図である。
図14】(A)は、同研磨具のZ軸方向の振動波形であり、(B)は同研磨具の径方向の振動波形である。
図15】検証用ワークの初期状態における(A)顕微鏡写真、(B)三次元プロファイルである。
図16】本研磨装置で検証用ワークを研磨した後の(A)顕微鏡写真、(B)三次元プロファイルである。
図17】比較例となる研磨装置で検証用ワークを研磨した後の(A)顕微鏡写真、(B)三次元プロファイルである。
図18】同工具制御装置の第一~第三同期周波信号DA,DB,DC、第一~第三位相差周波信号QA,QB,QC、第一~第三駆動信号KA,KB,KCの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0031】
図1に、本実施形態にかかる研磨装置1の全体構成を示す。研磨装置1は、基台10と、研磨ヘッド100と、基台10に設けられて研磨ヘッド100を保持する研磨ヘッド保持機構20と、基台10に設けられて、ワークWを保持するワーク保持機構30と、ワークWと研磨ヘッド100を相対回転させる相対回転機構33と、ワークWと研磨ヘッド100を、研磨軸Jの軸方向及び径方向Rに相対移動させる相対移動機構40と、ワークWを研磨ヘッド100の間に流体状の研磨材を供給する研磨材供給装置35を有する。更に研磨装置1は、研磨ヘッド100における工具駆動機構140を制御する工具制御装置50と、相対移動機構40を制御する移動制御装置60を有する。なお、工具制御装置50と移動制御装置60は連動するようになっている。
【0032】
なお、説明の便宜上、ワークWに対して研磨ヘッド100の研磨面の中心が接近・離反する方向(図1の紙面左右方向)をZ軸方向と定義する。なお、図1では、研磨ヘッド100の研磨面230の中心を通り、Z軸方向と平行となる線を仮想的な研磨軸Jと定義する。また、Z軸方向と直交する鉛直方向(図1の紙面上下方向)をY軸方向、Z軸方向とY軸方向の双方と直行する方向(図1の紙面垂直方向)をX軸方向と定義する。また、研磨軸J(またはZ軸)と直交する方向を研磨軸径方向Rと定義し、研磨軸J(またはZ軸)を中心とした周方向を研磨軸周方向Sと定義する。
【0033】
<ワーク保持機構>
ワーク保持機構30は、被研磨対象となるワークWを保持する。特に図示しないが、ワーク保持機構30は、ワークWにおける被研磨面がZ軸方向を向くようにワークWを保持するチャックを備える。
【0034】
<研磨ヘッド保持機構>
研磨ヘッド保持機構20は、研磨ヘッド100を保持する台座となる。研磨ヘッド保持機構20は、研磨ヘッド100の研磨軸Jが、Z軸方向と平行となるように研磨ヘッド100を保持する。特に図示しないが、研磨ヘッド保持機構20は、研磨面がZ軸方向を向くように研磨ヘッド100を着脱自在に保持するチャックを備えることが好ましい。チャックを利用して、研磨ヘッド保持機構20によって保持される研磨ヘッド100を通常の切削工具に交換すれば、この研磨装置1全体が、汎用の切削装置に切り替わる。
【0035】
<相対回転機構>
相対回転機構33は、ワークWと研磨面230をZ軸中心で相対回転させる回転機構となる。ここでは、基台10に対して固定される回転主軸となっており、ワーク保持機構30をZ軸中心に回転させる。
【0036】
<相対移動機構>
相対移動機構40は、ワークWと研磨ヘッド100を、X軸・Y軸・Z軸方向に相対移動させる機構となる。本実施形態では、基台10に対して、研磨ヘッド保持機構20をY軸方向に移動させるY軸直動装置42と、Y軸直動装置42をZ軸方向に移動させるZ軸直動装置44と、Z軸直動装置44をX軸方向に移動させるX軸直動装置46と、研磨ヘッド保持機構20の研磨軸Jを、Z軸方向を基準として傾斜(チルト)させるチルト機構48を備える。なお、本実施形態では、基台10に対して研磨ヘッド100側をX軸・Y軸・Z軸方向及びチルト方向に移動させる構造を例示したが、本発明はこれに限定されず、X軸・Y軸・Z軸方向及びチルト方向の一部または全部の機能を、ワーク保持機構30側に設けるようにしてもよい。なお、ワークWの被研磨面が平面の場合は、チルト機構48を省略できる。一方、ワークWの被研磨面が三次元形状の場合は、被研磨面の面垂直方向に研磨軸Jを一致させるべく、チルト機構48によって研磨ヘッド100を傾斜させることが好ましい。
【0037】
<研磨材供給装置>
研磨材供給装置35は、ワークWと研磨ヘッド100の研磨面の間に、流体状の研磨材を連続的に供給する。具体的には、ポンプ(図示省略)と、ポンプから吐出される研磨材を案内する配管36と、配管36の先端に装着されて研磨材を吐出するノズル37と、ノズル37を所定位置に保持するノズル保持機構38を有する。
【0038】
<研磨ヘッド>
図2に拡大して示すように、研磨ヘッド100は、工具ベース110と、工具ベース110に配置される工具駆動機構140と、工具駆動機構140によって保持される研磨具200と、工具駆動機構140を制御する工具制御装置50を備える。
【0039】
(工具ベース)
工具ベース110は、X軸及びY軸方向に広がるプレート状の部材となる。
【0040】
(研磨具)
研磨具200は、研磨材を自身の研磨面230とワークWの間で保持してワークWを研磨する工具となる。なお、説明の便宜上、研磨具200において、研磨軸J(またはZ軸)に沿ってワークWに接近する側を先端側、ワークWから離反する側を基端側と称する。研磨具200は、図4図6に拡大して示すように、主軸部210、第一弾性部310、第二弾性部320、第三弾性部330、第一座部410、第二座部420、第三座部430を有する。
【0041】
主軸部210は、研磨軸J(またはZ軸)に沿って延在する棒状の部材となっており、先端側に、ワークWと対向する研磨面230を有する。より詳細に、主軸部210は、研磨軸Jに沿って延在する中心軸210Aと、中心軸210Aから第一径方向R1に拡張して研磨軸Jに延びる第一リブ211と、中心軸210Aから第二径方向R2に拡張して研磨軸Jに延びる第二リブ212と、中心軸210Aから第三径方向R3に拡張して研磨軸Jに延びる第三リブ213を有する。この第一~第三リブ211~213によって、主軸部210の剛性が高められている。中心軸210Aの先端に、研磨面230が設けられる。なお、研磨面230は平面に限られず、図4(B)に示すように、研磨面230は三次元形状の平面(例えば球面の一部等の凸面)であってもよい。
【0042】
第一弾性部310は、主軸部210の基端側から連続して研磨軸Jから第一径方向(R1方向)の外側に向かって延びる部材となる。第一弾性部310は、外力によって、研磨軸J方向及び/又は第一径方向R1に弾性変形する。第一座部410は、第一弾性部310の径方向外側に設けられる部位となっており、後述する工具駆動機構140によって支持されるための面等の構造部(ここでは座面410A)を提供する。
【0043】
ここで図5に示すように、第一弾性部310における主軸部210(研磨軸J)に連続する位置を主軸側連続点310A、第一弾性部310における第一座部410(座面410A)の部位を座部側連続点310Bと定義する。主軸側連続点310Aに対して、座部側連続点310Bは、研磨軸Jに沿ってずれた位置、具体的には基端側に位置する。第一弾性部310の部材が伸びる方向の中心軸を第一アーム軸310Jと定義すると、この第一アーム軸310Jは、研磨軸Jの径方向R1の内側から外側に向かうにつれて、研磨軸Jの先端から基端側に変位する傾斜部材となる。なお、この第一アーム軸310Jは、主軸側連続点310Aと座部側連続点310Bを結ぶ直線成分と定義してもよい。図5(B)に示すように、第一弾性部310において、主軸側連続点310Aに近位側にはくびれ部310Kが形成される。このくびれ部310Kにおける第一アーム軸310Jに直交する方向の寸法310Kwは、これよりの遠位側の任意の点の寸法310Ewと比較して小さくなる。結果、第一弾性部310におけるくびれ部310Kの剛性が低くなり、このくびれ部310Kが積極的に弾性変形する。第一座部410の径方向R1の内側は、第一逃がし空間410Kが形成される。
【0044】
なお、本実施形態では、主軸側連続点310Aが先端側に位置し、座部側連続点310Bが基端側に位置する場合を例示しているが、本発明はこれに限定されず、主軸側連続点310Aが後端側に位置し、座部側連続点310Bが先端側に位置する構造を採用してもよい。
【0045】
第一座部410は、第一径方向R1の外側に対向する面を提供する。第一座部410は、第一径方向R1の外側から内側に向かう第一外力F1を受け止める。この第一座部410に設けられる第一座面410Aは、ここでは部分球状に凹む凹部となっている。この第一座面410Aに、後述する工具駆動機構140が係合することで、第一座部410が第一径方向R1の外側から内側に向かって支持・押圧される。第一座部410に提供される初期状態の圧力は、研磨具200の保持姿勢を維持するための保持圧(与圧)となる。
【0046】
第二弾性部320は、主軸部210の基端側から連続して研磨軸Jから第二径方向(R2方向)の外側に向かって延びる部材となる。第二弾性部320は、外力によって、研磨軸J方向及び/又は第二径方向に弾性変形する。第二座部420は、第二弾性部320の径方向外側に設けられる部位となっており、後述する工具駆動機構140によって支持されるための面等の構造部(ここでは座面420A)を提供する。
【0047】
ここで図5に示すように、第二弾性部320における主軸部210(研磨軸J)に連続する位置を主軸側連続点320A、第二弾性部320における第二座部420(座面420A)の部位を座部側連続点320Bと定義する。主軸側連続点320Aに対して、座部側連続点320Bは、研磨軸Jの後端側に位置する。つまり、主軸側連続点320Aと座部側連続点320Bは、研磨軸Jに沿って互いに異なる位置となる。第二弾性部320の部材が伸びる方向の中心軸を第二アーム軸320Jと定義すると、この第二アーム軸320Jは、研磨軸Jの第二径方向R2の内側から外側に向かうにつれて、研磨軸Jの先端から基端側に変位する傾斜部材となる。第二弾性部320において、主軸側連続点320Aに近位側にはくびれ部320Kが形成される。結果、くびれ部320Kの剛性が低くなり、このくびれ部320Kが積極的に弾性変形する。第二座部420の第二径方向R2の内側は、第二逃がし空間420Kが形成される。
【0048】
なお、本実施形態では、主軸側連続点320Aが先端側に位置し、座部側連続点320Bが基端側に位置する場合を例示しているが、本発明はこれに限定されず、主軸側連続点320Aが後端側に位置し、座部側連続点320Bが先端側に位置する構造を採用してもよい。
【0049】
第二座部420は、第二径方向R2の外側に対向する面を提供する。第二座部420によって、第二径方向R2の外側から内側に向かう第二外力F2を受け止める。この第二座部420に設けられる第二座面420Aは、ここでは部分球状に凹む凹部となっている。この第二座面420Aに、後述する工具駆動機構140が係合することで、第二座部420が第二径方向R2の外側から内側に向かって支持・押圧される。第二座部420に提供される初期状態の圧力は、研磨具200の保持姿勢を維持するための保持圧(与圧)となる。
【0050】
第三弾性部330は、主軸部210の基端側から連続して研磨軸Jから第三径方向(R3方向)の外側に向かって延びる部材となる。第三弾性部330は、外力によって、研磨軸J方向及び/又は第三径方向に弾性変形する。第三座部430は、第三弾性部330の径方向外側に設けられる部位となっており、後述する工具駆動機構140によって支持されるための面等の構造部(ここでは座面430A)を提供する。
【0051】
ここで図5に示すように、第三弾性部330における主軸部210(研磨軸J)に連続する位置を主軸側連続点330A、第三弾性部330における第三座部430(座面430A)の部位を座部側連続点330Bと定義する。主軸側連続点330Aに対して、座部側連続点330Bが、研磨軸Jの後端側に位置する。つまり、主軸側連続点330Aと座部側連続点330Bは、研磨軸Jに沿って互いに異なる位置となる。第三弾性部330の部材が伸びる方向の中心軸を第三アーム軸330Jと定義すると、この第三アーム軸330Jは、研磨軸Jの第三径方向R3の内側から外側に向かうにつれて、研磨軸Jの先端から基端側に変位する傾斜部材となる。第三弾性部330において、主軸側連続点330Aに近位側にはくびれ部330Kが形成される。結果、くびれ部330Kの剛性が低くなり、このくびれ部330Kが積極的に弾性変形する。第三座部430の第三径方向R3の内側は、第三逃がし空間430Kが形成される。
【0052】
なお、本実施形態では、主軸側連続点330Aが先端側に位置し、座部側連続点330Bが基端側に位置する場合を例示しているが、本発明はこれに限定されず、主軸側連続点330Aが後端側に位置し、座部側連続点330Bが先端側に位置する構造を採用してもよい。
【0053】
第三座部430は、第三径方向R3の外側に対向する面を提供する。第三座部430によって、第三径方向R3の外側から内側に向かう第三外力F3を受け止める。この第三座部430に設けられる第三座面430Aは、ここでは部分球状に凹む凹部となっている。この第三座面430Aに、後述する工具駆動機構140が係合することで、第三座部430が第三径方向R3の外側から内側に向かって支持・押圧される。第三座部430に提供される初期状態の圧力は、研磨具200の保持姿勢を維持するための保持圧(与圧)となる。
【0054】
さらに本実施形態では、第一径方向R1と第二径方向R2と第三径方向R3が、周方向Sに沿って120度の角度差を有している。すなわち、第一弾性部310、第二弾性部320、第三弾性部330が周方向Sに等間隔で配置される。同様に第一座部410、第二座部420、第三座部430が周方向Sに等間隔で配置される。第一弾性部310、第二弾性部320、第三弾性部330は、研磨軸Jを中心とした回転対称構造となっている。同様に第一座部410、第二座部420、第三座部430は研磨軸Jを中心とした回転対称構造となっている。
【0055】
(研磨具の製造方法)
図7に研磨具200の製造方法を示す。図7(A)に示すように、柱状(円柱状)の母材Bを、例えばワイヤカット装置等によって加工することで、図7(B)に示すように、中心軸Cに対して放射状に広がる第一~第三平面B1、B2、B3を有する前駆体Zを形成する。前駆体Zにおける第一平面B1、第二平面B2、第三平面B3の各々を、更に、ワイヤカット装置等によって加工することで、第一平面B1から第一リブ211・第一弾性部310・第一座部410を切り出し、第二平面B2から第二リブ212・第二弾性部320・第二座部420を切り出し、第三平面B3から第三リブ213・第三弾性部330・第三座部430を切り出す。これらの工程によって、精密な研磨具200を製作できる。
【0056】
(工具駆動機構)
図2及び図3に示すように、工具駆動機構140は、第一駆動部510、第二駆動部520、第三駆動部530を備える。
【0057】
第一駆動部510は、第一径方向R1の外側から内側に向かって、第一座部410を支持・変位させる部材となる。第一駆動部510は、第一接触体510Aと、第一接触体510Aを保持して第一径方向R1に変位させる第一変位軸510Bと、第一変位軸510Bを軸方向(第一径方向R1)に往復移動させる第一駆動源510Cと、工具ベース110に固定されて、第一駆動源510Cを第一径方向R1に移動自在に保持する第一ブラケット510Dと、第一駆動源510Cにおける第一径方向R1の位置を調整する第一位置調整部510Eを有する。
【0058】
第一位置調整部510Eは、工具ベース110に固定される第一雌ねじ台座510E1と、第一雌ねじ台座510E1の雌ねじと螺合して第一調整雄ねじ510E2を有する。第一雌ねじ台座510E1に対する第一調整雄ねじ510E2のねじ込み量を調整することで、第一調整雄ねじ510E2は第一径方向R1に移動自在となっている。この第一調整雄ねじ510E2の先端と、第一駆動源510Cを係合させることで、第一駆動源510Cの第一径方向R1の位置を調整する。
【0059】
第一接触体510Aは、第一座面410Aの球状凹部の同一径の球状凸部となる。結果、第一接触体510Aが、第一座面410Aと係合することで、いわゆる球面座として機能する。第一接触体510Aは、第一座部410を、研磨軸J方向・周方向S・第一径方向R1の全方向に支持する。なお、ここでは第一接触体510Aが球状凸部、第一座面410Aが球状凹部となる場合を例示したが、これらの構造を反対にしてもよい。また、球面座構造に限られず、他の構造によって互いに係合してもよい。
【0060】
第一駆動源510Cは、ここでは積層型ピエゾアクチュエータであり、第一径方向R1が自身の変位軸となるように第一ブラケット510Dに保持される。積層型ピエゾアクチュエータは、工具制御装置50から供給される電圧によって、自身(アクチュエータ本体)に対する第一変位軸510B(第一接触体510A)の位置を高精度かつ高速に制御できる。
【0061】
第一駆動源510Cによって、第一接触体510Aを第一径方向R1の外側から内側に向かって変位させると、第一座部410が同方向に移動する。この際、第一弾性部310が第一径方向R1に弾性変形するので、第一接触体510Aと第一座面410Aの間に第一外力F1が作用する。第一外力F1は、第一接触体510Aを第一径方向R1の外側から内側に向かって変位させる程、大きくなる。なお、第一位置調整部510Eは第一接触体510Aと第一座面410Aの間に与圧を与える役割を担っている。
【0062】
第二駆動部520は、第二径方向R2の外側から内側に向かって、第二座部420を支持・変位させる部材となる。第二駆動部520は、第二接触体520Aと、第二接触体520Aを保持して第二径方向R2に変位させる第二変位軸520Bと、第二変位軸520Bを軸方向(第二径方向R2)に往復移動させる第二駆動源520Cと、工具ベース110に固定されて、第二駆動源520Cを第二径方向R2に移動自在に保持する第二ブラケット520Dと、第二駆動源520Cにおける第二径方向R2の位置を調整する第二位置調整部520Eを有する。
【0063】
第二位置調整部520Eは、工具ベース110に固定される第二雌ねじ台座520E1と、第二雌ねじ台座520E1の雌ねじと螺合して第二調整雄ねじ520E2を有する。第二雌ねじ台座520E1に対する第二調整雄ねじ520E2のねじ込み量を調整することで、第二調整雄ねじ520E2は第二径方向R2に移動自在となっている。この第二調整雄ねじ520E2の先端と、第二駆動源520Cを係合させることで、第二駆動源520Cの第二径方向R2の位置を調整する。
【0064】
第二接触体520Aは、第二座面420Aの球状凹部の同一径の球状凸部となる。結果、第二接触体520Aが、第二座面420Aと係合することで、いわゆる球面座として機能する。第二接触体520Aは、第二座部420を、研磨軸J方向・周方向S・第二径方向R2の全方向に支持する。なお、ここでは第二接触体520Aが球状凸部、第二座面420Aが球状凹部となる場合を例示したが、これらの構造を反対にしてもよい。また、球面座構造に限られず、他の構造によって互いに係合してもよい。
【0065】
第二駆動源520Cは、ここでは積層型ピエゾアクチュエータであり、第二径方向R2が自身の変位軸となるように第二ブラケット520Dに保持される。積層型ピエゾアクチュエータは、工具制御装置50から供給される電圧によって、自身(アクチュエータ本体)に対する第二変位軸520B(第二接触体520A)の位置を高精度かつ高速に制御できる。
【0066】
第二駆動源520Cによって、第二接触体520Aを第二径方向R2の外側から内側に向かって変位させると、第二座部420が同方向に移動する。この際、第二弾性部320が第二径方向R2に弾性変形するので、第二接触体520Aと第二座面420Aの間に第二外力F2が作用する。第二外力F2は、第二接触体520Aを第二径方向R2の外側から内側に向かって変位させる程、大きくなる。なお、第二位置調整部520Eは第二接触体520Aと第二座面420Aの間に与圧を与える役割を担っている。
【0067】
第三駆動部530は、第三径方向R3の外側から内側に向かって、第三座部430を支持・変位させる部材となる。第三駆動部530は、第三接触体530Aと、第三接触体530Aを保持して第三径方向R3に変位させる第三変位軸530Bと、第三変位軸530Bを軸方向(第三径方向R3)に往復移動させる第三駆動源530Cと、工具ベース110に固定されて、第三駆動源530Cを第三径方向R3に移動自在に保持する第三ブラケット530Dと、第三駆動源530Cにおける第三径方向R3の位置を調整する第三位置調整部530Eを有する。
【0068】
第三位置調整部530Eは、工具ベース110に固定される第三雌ねじ台座530E1と、第三雌ねじ台座530E1の雌ねじと螺合して第三調整雄ねじ530E2を有する。第三雌ねじ台座530E1に対する第三調整雄ねじ530E2のねじ込み量を調整することで、第三調整雄ねじ530E2は第三径方向R3に移動自在となっている。この第三調整雄ねじ530E2の先端と、第三駆動源530Cを係合させることで、第三駆動源530Cの第三径方向R3の位置を調整する。
【0069】
第三接触体530Aは、第三座面430Aの球状凹部の同一径の球状凸部となる。結果、第三接触体530Aが、第三座面430Aと係合することで、いわゆる球面座として機能する。第三接触体530Aは、第三座部430を、研磨軸J方向・周方向S・第三径方向R3の全方向に支持する。なお、ここでは第三接触体530Aが球状凸部、第三座面430Aが球状凹部となる場合を例示したが、これらの構造を反対にしてもよい。また、球面座構造に限られず、他の構造によって互いに係合してもよい。
【0070】
第三駆動源530Cは、ここでは積層型ピエゾアクチュエータであり、第三径方向R3が自身の変位軸となるように第三ブラケット530Dに保持される。積層型ピエゾアクチュエータは、工具制御装置50から供給される電圧によって、自身(アクチュエータ本体)に対する第三変位軸530B(第三接触体530A)の位置を高精度かつ高速に制御できる。
【0071】
第三駆動源530Cによって、第三接触体530Aを第三径方向R3の外側から内側に向かって変位させると、第三座部430が同方向に移動する。この際、第三弾性部330が第三径方向R3に弾性変形するので、第三接触体530Aと第三座面430Aの間に第三外力F3が作用する。第三外力F3は、第三接触体530Aを第三径方向R3の外側から内側に向かって変位させる程、大きくなる。なお、第三位置調整部530Eは第三接触体530Aと第三座面430Aの間に与圧を与える役割を担っている。
【0072】
<研磨ヘッドの作用説明>
次に研磨ヘッドの作用について説明する。なお、ここでは図示説明の便宜上、変位量U1,U2,U3を誇張して示している。図5に示すように、工具駆動機構140によって、第一座部410、第二座部420、第三座部430のそれぞれに対して、径方向R1,R2,R3の内側に向かう互いに同じ大きさの第一変位量(移動量)U1,第二変位量U2,第三変位量U3を生じさせる場合を考える。例えば、図5(B)に示すように、第一弾性部310の座部側連続点310Bには、第一変位量(移動量)U1に基づいて第一外力F1が作用し、主軸側連続点310Aには、第二変位量U2及び第三変位量U3に基づく第二外力F2及び第三外力F3の第一径方向R1の合力FGが作用する。第一外力F1と合力FGは、大きさは同じでベクトルが平行するため、第一弾性部310が弾性ヒンジのように弾性変形して、研磨軸Jに対する傾斜角度θが減少する。第一座面410は研磨軸J方向に係合しているため、鎖線から点線の遷移状態のように、主軸側連続点310Aが、研磨軸Jの先端側に変位する。上記の第一弾性部310の弾性変形は、第二弾性部320、第三弾性部330でも全く同様に生じするため、主軸部210が研磨軸Jに沿って先端側に変位して、研磨面230がワークWに接近する。研磨面230の変位量(距離)は、第一座部410、第二座部420、第三座部430の押し込み量で調整できる。換言すると、研磨面230の変位量(距離)は、第一外力F1,第二外力F2,第三外力F3の大きさで調整できる。例えば、第一変位量(移動量)U1,第二変位量U2,第三変位量U3を、その増減振幅(変位幅)・増減周期・増減位相のすべてが互いに一致するように作用させれば、研磨面230が研磨軸Jに沿って往復振動する。なお、変位量U1,U2,U3を不均衡(非同一)にすることによって、研磨面230の振動方向(振動軸)を、Z軸に対して傾斜(チルト)させることもできる。
【0073】
次に図6に示すように、工具駆動機構140によって、第一座部410、第二座部420、第三座部430に対して、互いに異なる大きさの第一変位量U1、第二変位量U2、第三変位量U3を生じさせる場合を考える。ここでは、第一変位量U1が大きく、第二変位量U2と第三変位量U3は互いに同じであって、第一変位量U1よりも小さい場合を想定する。この場合、これらの変位量の相違によって、図6(C)に示すように、第一変位量U1・第二変位量U2・第三変位量U3の変位ベクトルの合成ベクトルUFが、第一径方向R1に残存する。結果、図6(B)に示すように、各第一弾性部310・第二弾性部320・第三弾性部330の弾性変形を伴いつつも、研磨具200の全体が第一径方向R1(合成ベクトルUF方向)にオフセットする。その結果、主軸部210および研磨面230が第一径方向R1に移動する。研磨面230の径方向の変位量は、第一変位量U1、第二変位量U2、第三変位量U3の全体バランスによって適宜調整できる。例えば、第一変位量(移動量)U1,第二変位量U2,第三変位量U3について、その増減振幅(変位幅)・増減周期を一致させつつ、増減位相について等間隔(ここでは120度位相間隔)で互いにずらすようにすると、研磨面230が、所定の旋回中心軸(Z軸)周りを周方向Sに旋回する。この旋回半径は、第一変位量U1,第二変位量U2,第三変位量U3の振幅(最大変位量)によって制御できる。
【0074】
<移動制御装置>
移動制御装置60は、相対回転機構33と相対移動機構40の駆動ドライバ及び計算機を内在する。図8(A)に示すように、移動制御装置60は、移動制御部62と走査経路設定部64と研磨ヘッド設定計算部65を有する。動制御装置60には、ワークWの表面(被研磨面)の三次元形状データとなるワーク形状情報300がロードされる。なお、移動制御装置60の全部または一部は、研磨ヘッド100側に組み込まれてもよい。
【0075】
走査経路設定部64は、ワークWの表面(被研磨面)に対する研磨ヘッド100の研磨面230の走査経路情報を設定する。この走査経路情報は、ワークWを基準とした三次元上の相対座標(Xw,Yw,Xw)の時間(t)変化であり、ここではN(t)と定義する。つまり、走査経路情報N(t)は、相対座標における位置情報(Xw(t),Yw(t),Xw(t))で表現できる。走査経路設定部64は、走査経路情報N(t)を設定する際に、ワーク形状情報300を参照する。例えば、ワークWの被研磨面が、凹凸や溝等を含むような三次元形状となる場合は、走査経路情報N(t)も、凹凸等に沿った情報となる。なお、相対回転機構33を回転させながら研磨する場合、走査経路設定部64は、ワークWの表面に対して螺旋状の走査経路情報N(t)を設定することが好ましい。
【0076】
移動制御部62は、走査経路設定部64で設定された走査経路情報N(t)に基づいて、相対回転機構33と相対移動機構40を制御する。結果、相対移動機構40よって位置制御される研磨面230が、相対回転機構33によって回転するワークWの被研磨面に対して、走査経路情報N(t)に沿って移動する。この際、ワークWと研磨面230の離反距離が一定(この「一定」とは、工具駆動機構140による研磨面230の微小振動/微小変位を除いた概念)となるように制御することが望ましい。また、移動制御部62は、相対移動機構40を利用して、ワークWの被研磨面に対して、研磨軸Jが垂直となるように、研磨ヘッド100をチルトさせることもできる。
【0077】
研磨ヘッド設定計算部65は、走査経路情報N(t)に連動させて、研磨面230の微小振動及び/又は微小変位に関する目標値となる研磨ヘッド設定情報Vを生成する。この研磨ヘッド設定情報Vは、研磨ヘッド設定情報保持部66に保存する。例えば研磨ヘッド設定情報Vとしては、研磨面230のZ軸方向の振幅値と、研磨面230のZ軸方向周りの旋回半径、バイアス電圧を利用した研磨面230の振動基準位置の微小変位量に関する指示情報等を保持することが好ましい。これにより、ワークWに対する研磨面230の場所(走査経路)に連動させて、研磨面230の振動量や振動周期、振動基準位置を変化させることができる。
【0078】
例えば、研磨ヘッド設定情報Vは、ワークWの被研磨面上における研磨面230の相対座標(Xw,Yw,Xw)上の位置に応じて、研磨ヘッド100の研磨面230を、どのように微小振動及び/又は微小変位させるかに関する情報とすることが望ましい。この場合、研磨ヘッド設定情報Vは、相対座標(Xw,Yw,Xw)に依拠する位置関数情報V(Xw,Yw,Xw)となる。
【0079】
一方、例えば、研磨ヘッド設定情報Vは、走査経路情報N(t)の経過時間(t)に応じて、研磨ヘッド100の研磨面230を、どのように微小振動及び/又は微小変位させるかに関する情報とすることが望ましい。この場合、研磨ヘッド設定情報Vは、経過時間(t)に依拠する時間関数情報V(t)となる。
【0080】
具体的に研磨ヘッド設定情報Vは、詳細は後述する第一周波信号生成部53、第二周波信号生成部55、バイアス信号生成部56が生成する各信号に対する、周波数、位相、電圧(振幅)に関する指示情報とすることができる。つまり、研磨ヘッド設定情報66は、第一同期周波信号DA、第二同期周波信号DB、第三同期周波信号DC、第一位相差周波信号QA、第二位相差周波信号QB、第三位相差周波信号QC、第一バイアス信号EA、第二バイアス信号EB、第三バイアス信号ECのそれぞれに対する周波数、位相、電圧(振幅)に関する指示情報となる。これにより、全ての信号DA,DB,DC,QA,QB,QC,EA,EB,ECは、相対座標(Xw,Yw,Xw)に依拠する位置関数信号DA(Xw,Yw,Xw),DB(Xw,Yw,Xw),DC(Xw,Yw,Xw),QA(Xw,Yw,Xw),QB(Xw,Yw,Xw),QC(Xw,Yw,Xw),EA(Xw,Yw,Xw),EB(Xw,Yw,Xw),EC(Xw,Yw,Xw)、または、経過時間に依拠する時間関数信号DA(t),DB(t),DC(t),QA(t),QB(t),QC(t),EA(t),EB(t),EC(t)となる。ここでは相対座標(Xw,Yw,Xw)を用いる場合を例示しているが、絶対座標(X,Y,X)に変換することもできる。
【0081】
なお、研磨ヘッド設定計算部65は、移動制御装置60の移動制御部62による研磨ヘッド100のリアルタイムの位置情報を受け取って、研磨ヘッド設定情報Vをリアルタイムで計算してもよい。研磨ヘッド設定情報Vは、リアルタイムで工具制御装置50に送信されて、研磨ヘッド100を微小振動させる。
【0082】
<工具制御装置>
図8(B)に示すように、工具制御装置50は、第一駆動源510C、第二駆動源520C、第三駆動源530Cとなる積層型ピエゾアクチュエータの変位量・振動量を制御するためのアンプ型電源(ドライバ)と、計算機を内在する。詳細に工具駆動機構140は、第一駆動源510Cを制御する第一ドライバ51A、第二駆動源520Cを制御する第二ドライバ51B、第三駆動源530Cを制御する第三ドライバ51Cを有する。さらに工具制御装置50は、第一周波信号生成部53、第二周波信号生成部55、バイアス信号生成部56、信号重畳部57を有する。
【0083】
第一周波信号生成部53は、研磨ヘッド設定保持部66を参照して複数の周波信号を生成する。特に本実施形態では、第一周波信号生成部53が、互いに増減周期及び増減位相が一致する複数の同期周波信号を生成するようになっている。詳細に、第一周波信号生成部53は、第一駆動源510C用の第一同期周波信号DAを生成する第一の第一周波信号生成部53Aと、第二駆動源520C用の第二同期周波信号DBを生成する第一の第二周波信号生成部53Bと、第三駆動源530C用の第三同期周波信号DCを生成する第一の第二周波信号生成部53Cを有する。第一~第三同期周波信号DA,DB,DCは、増減振幅・増減周期・増減位相の全てが同じ信号となる。
【0084】
第二周波信号生成部55は、研磨ヘッド設定保持部66を参照して複数の周波信号を生成する。特に本実施形態では、第二周波信号生成部55が、互いに増減周期が一致し、互いに増減位相が異なる複数の同期周波信号を生成するようになっている。詳細に、第二周波信号生成部55は、第一駆動源510C用の第一位相差周波信号QAを生成する第二の第一周波信号生成部55Aと、第二駆動源520C用の第二位相差周波信号QBを生成する第二の第二位周波信号生成部55Bと、第三駆動源530C用の第三位相差周波信号QCを生成する第二の第三位周波信号生成部55Cを有する。第一位相差周波信号QAと第二位相差周波信号QBと第三位相差周波信号QCは、増減振幅及び増減周期は互いに一致するが、増減位相が互いに120度の位相差となっている。これらの信号の振幅及び周期は、研磨ヘッド設定保持部66における研磨面230の旋回半径及び旋回周期情報に基づいて決定される。なお、第一位相差周波信号QAと第二位相差周波信号QBと第三位相差周波信号QCの周波数は、第一~第三同期周波信号DA,DB,DCよりも小さくなるように設定されることが好ましい。また、第一位相差周波信号QAと第二位相差周波信号QBと第三位相差周波信号QCの振幅は、第一~第三同期周波信号DA,DB,DCよりも大きくなるように設定されることが好ましい。
【0085】
バイアス信号生成部56は、研磨ヘッド設定保持部66を参照して複数のバイアス信号を生成する。詳細に、バイアス信号生成部56は、第一駆動源510C用の第一バイアス信号EAを生成する第一バイアス信号生成部56Aと、第二駆動源520C用の第二バイアス信号EBを生成する第二バイアス信号生成部56Bと、第三駆動源530C用の第三バイアス信号ECを生成する第三バイアス信号生成部56Cを有する。図11(A)に示すように、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECは、パルス状(直線状)の波形でもよく、また、正弦波等の周期的な波形であってもよい。図11(A)の第一~第三バイアス信号EA,EB,ECの横軸(時間)の単位(例えば秒)は、図9(A)(B)の横軸の単位(例えばミリ秒)よりも大幅に大きいことに留意されたい。周期的な波形を採用する場合、その周波数は、第一~第三同期周波信号DA,DB,DC及び第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCよりも小さいことが好ましい。
【0086】
信号重畳部57は、第一信号重畳部57Aと、第二信号重畳部57Bと、第三信号重畳部57Cを有する。第一信号重畳部57Aは、第一同期周波信号DAと第一位相差周波信号QAと第一バイアス信号EAを重畳させた第一駆動信号KAを生成する。第一信号重畳部57Aは、第一駆動信号KAを第一ドライバ51Aに送信する。結果、第一ドライバ51Aは、この第一駆動信号KAに基づいて第一駆動源510Cを変位させる。
【0087】
第二信号重畳部57Bは、第二同期周波信号DBと第二位相差周波信号QBと第二バイアス信号EBを重畳させた第二駆動信号KBを生成する。第二信号重畳部57Bは、第二駆動信号KBを第二ドライバ51Bに送信する。結果、第二ドライバ51Bは、この第二駆動信号KBに基づいて第二駆動源520Cを変位させる。
【0088】
第三信号重畳部57Cは、第三同期周波信号DCと第三位相差周波信号QCと第三バイアス信号ECを重畳させた第三駆動信号KCを生成する。第三信号重畳部57Cは、第三駆動信号KCを第三ドライバ51Cに送信する。結果、第三ドライバ51Cは、この第三駆動信号KCに基づいて第三駆動源530Cを変位させる。
【0089】
(工具制御装置の作用)
図9(C)に、図9(A)の第一~第三同期周波信号DA~DC及び図9(B)の第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCを重畳させた第一~第三駆動信号KA,KB,KCを模式的に示す。なお、図9(A)の第一~第三同期周波信号DA~DCの周波数を200Hzとしている。また、図9(B)の第一位相差周波信号QAと第二位相差周波信号QBと第三位相差周波信号QCは、その周波数を99Hzに設定し、互いの基準位相が120度の位相差を有するように設定している。
【0090】
図9(C)の第一~第三駆動信号KA,KB,KCに内在する第一~第三同期周波信号DA,DB,DCは、振幅及び周期が互いに一致する。結果、図5(B)に示すように、研磨面230が研磨軸Jに沿って200Hzで往復振動する。同時に、図9(C)の第一~第三駆動信号KA,KB,KCに内在する第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCは、120度の位相差を有している。結果、図6(B)に示す態様が周方向に周期的に変化し、図9(D)に示すように、研磨面230が99Hz(5960rpm)で、振動基準位置となる旋回中心Lに対して、Z軸周りに微小旋回する。第一~第三同期周波信号DA,DB,DCの振幅に差を設けると、例えば、楕円軌道で旋回させることも可能となる。これにより、研磨面230は、Z軸方向を螺旋軸とした螺旋状の移動軌跡に沿って往復振動させることができる。
【0091】
なお、図9では、第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCによって、研磨面230を微小旋回させる場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCの振幅(電圧)、位相差を適宜設定することで、図10に示すように、第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCによって、旋回させることなくY軸方向(又はX-Y平面)において直線的に往復振動(矢印QM参照)させることもできる。この往復振動(矢印QM参照)と第一~第三同期周波信号DA,DB,DCによるZ軸方向の往復振動(矢印KM参照)の振動周期を一致させると、研磨面230を、Z軸に対して傾斜する方向に往復振動させることができる(矢印RM参照)。これにより、例えば、ワークW表面の法線方向が、Z軸に対して傾斜している場合に、研磨面230の振動方向(矢印RM参照)を、ワークWの法線方向に一致させることができる。
【0092】
図11(B)の第一~第三駆動信号KA(t1),KB(t1),KC(t1)は、図9(A)の第一~第三同期周波信号DA~DCと、図9(B)の第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCと、図11(A)の第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを重畳させたものであり、図11(A)の経過時間t1近傍の状態を模式的に示している。経過時間t1では、第一バイアス信号EAのバイアス値Ba1が存在する。結果、第一駆動信号KA(t1)は、第二及び第三駆動信号KB(t1),KC(t1)よりもバイアス値Ba1分だけ高い値(高電圧)となる。図11(C)に示すように、このバイアス値Ba1相当分だけ、第一外力F1(KA(t1))の力が増大するため、無バイアス時の振動基準位置(旋回中心)L0と比較して、振動基準位置(旋回中心)L1が距離O1だけオフセットする。図11(A)の経過時間t2では、第二バイアス信号EBのバイアス値Bb2が存在するため、図11(D)に示すように、第二外力F2(KB(t2))の力が増大し、無バイアス時の旋回中心Lと比較して、振動基準位置(旋回中心)L2が距離O2だけオフセットする。図11(A)の経過時間t3では、第三バイアス信号ECのバイアス値Bc3が存在するため、図11(E)に示すように、第三外力F3(KC(t3))の力が増大し、無バイアス時の旋回中心Lと比較して、振動基準位置(旋回中心)L3が距離O3だけオフセットする。
【0093】
これらの事例からわかるように、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを、互いに120度の位相差を有する正弦波信号(周波信号)にすると、研磨面230の振動基準位置(旋回中心)L自体を、Z軸周りに旋回させることができる。同様に、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを適宜組み合わせれば、旋回中心Lを、任意方向及び任意量、オフセットさせることができる。つまり、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを制御することで、研磨面230の螺旋状の移動軌跡における螺旋軸自体を、Z軸周りに旋回させたり、XY平面内で任意の方向に移動させたりできる。
【0094】
図12(B)の第一~第三駆動信号KA(t1),KB(t1),KC(t1)は、図9(A)の第一~第三同期周波信号DA~DCと、図9(B)の第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCと、図12(A)の第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを重畳させたものであり、図12(A)の経過時間t1近傍の状態を模式的に示している。
【0095】
図12(A)に示すように、経過時間t1では、第一バイアス信号EAのバイアス値Ba1、第二バイアス信号EBのバイアス値Bb1、第三バイアス信号ECのバイアス値Bc1が同時に存在し、これらが互いに同じ値となる。結果、第一駆動信号KA(t1)、第二及び第三駆動信号KB(t1)は、それぞれ、バイアス値Ba1,Bb1,Bc1分だけ高い値(高電圧)となり、図12(C)に示すように、無バイアス時の研磨面230の振動基準位置L0のZ軸座標Z(0)と比較して、研磨面230の振動基準位置L1のZ軸座標Z(t1)がZ軸方向に変位する。図12(A)の経過時間t2では、第一バイアス信号EAのバイアス値Ba2、第二バイアス信号EBのバイアス値Bb2、第三バイアス信号ECのバイアス値Bc2が存在し、これらが互いに同じ値となり、かつ、経過時間t1のバイアス値より大きい。結果、図12(D)に示すように、このバイアス値に相当分だけ、無バイアス時の研磨面230の振動基準位置L0のZ軸座標Z(0)と比較して、研磨面230の振動基準位置L2のZ軸座標Z(t2)がZ軸方向に変位し、その変位量は、Z軸座標Z(t1)よりも大きくなる。図12(A)の経過時間t3では、第一バイアス信号EAのバイアス値Ba3、第二バイアス信号EBのバイアス値Bb3、第三バイアス信号ECのバイアス値Bc3が存在し、これらが互いに同じ値となり、かつ、経過時間t2のバイアス値より大きい。結果、図12(E)に示すように、無バイアス時の研磨面230の振動基準位置L0のZ軸座標Z(0)と比較して、研磨面230の振動基準位置L3のZ軸座標Z(t3)がZ軸方向に変位し、その変位量は、Z軸座標Z(t2)よりも大きくなる。
【0096】
これらの事例からわかるように、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを同時に印加すると、研磨面230の振動基準位置Lを、Z軸方向に変位させることができる。図11図12の技術思想を組み合わせれば、この第一~第三バイアス信号EA,EB,ECによって、研磨面230の振動基準位置Lを、軸方向及び径方向の双方に自在に位置制御できる。
【0097】
第一~第三同期周波信号DA,DB,DC、第一~第三位相差周波信号QA,QB,QC、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECのそれぞれの振幅(Amplitude)又は電圧、周波数(Frequency)、基準位相(Phase)等の設定値は、工具制御装置50の研磨ヘッド設定保持部66によって、走査経路に沿って自動的に変更することができる。
【0098】
例えば図13(A)に示すように、走査経路上のワークWの被研磨面の一部が、平坦または凸形状の場合は、研磨面230の旋回半径r1を大きく設定することができる。これにより研磨効率が向上する。一方、図13(B)に示すように、走査経路上のワークWの被研磨面の一部が溝又は凹形状の場合は、研磨面230の旋回半径r2を小さく設定して、研磨面230と被研磨面の干渉を抑制する。例えば、ワークWが、回折光学系を採用したDiffractive Opticsレンズである場合や、マイクロレンズアレイ等の場合は、表面に凹凸が形成されるため、走査経路に応じて旋回半径を制御することが好ましい。更に、図13(C)に示すように、ワークWが凸曲面や凹曲面の場合、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECによって、研磨面230の振動基準位置Lを軸方向及び径方向の双方に移動させることで、ワークWの曲面と研磨面230の距離(研磨ギャップ)を高精度かつ高速に制御できる。例えば、相対回転機構33でワークWを高速回転させる場合、相対移動機構40の応答速度限界によって、ワークWの被研磨面の凹凸形状に対して研磨ギャップを一定に維持できない場合がある。このような場合、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECによって研磨ギャップを一定に維持することができる。この制御を実現するために、図8(A)の研磨ヘッド設定計算部65は、走査経路情報N(t)やワーク形状情報300に基づいて、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを制御する。
【0099】
(変形例紹介)
図9及び図10において、工具制御装置50の第一周波信号生成部53は、互いに増減周期及び増減位相が一致する第一~第三同期周波信号DA,DB,DCを生成する場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、増減位相が異なる第一~第三位相差周波信号GA,GB,GCを生成してもよい。第一周波信号生成部53によって生成される第一~第三位相差周波信号GA,GB,GCと、第二周波信号生成部55によって生成される第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCの合計6信号について、位相・周波数・振幅を自在に制御することで、研磨面230を任意の方向に微小振動させたり、微小旋回させたりすることができる。
【0100】
<実証実験1:研磨ヘッドの動作検証>
研磨ヘッド100単体において、研磨面230がどのように変位するか検証した。具体的に、第一~第三同期周波信号DA~DCを、周波数を200Hz、基準位相を全て0に設定した。第一位相差周波信号QAと第二位相差周波信号QBと第三位相差周波信号QCの周波数を99Hzに設定し、互いの基準位相が120度の位相差を有するようにした。これらの信号の振幅は0~4(V)の範囲内で適宜設定した。第一~第三バイアス信号EA,EB,ECの入力は省略した。この設定条件で、工具駆動機構140によって研磨具200を振動させ、研磨面230のZ軸方向の変位と、径方向R方向の変位を共焦点クロマティックセンサで測定した。この結果を図14に示す。
【0101】
図14(A)に示すように、研磨面230を、Z軸方向に移動距離0.025mm以下(例えば0.015mm)で往復振動させることができた。この往復振動波形は、200Hzの滑らかな正弦波となっており、駆動信号の電圧で規格化した変位量は4μm/Vとなった。
【0102】
上記Z軸方向の振動と重畳するようにして、図14(B)に示すように、研磨面230は、径方向R(X-Y平面方向)に、移動距離0.025mm以下(例えば0.015mm)で旋回振動させることができた。この往復振動波形は、99Hzのシーソー関数形状に近似しており、規格化した変位量は5μm/Vとなった。特徴的な点は、Z軸方向の微小振動と、径方向Rの微小振動の間のクロストークがほとんど発生しないことにある。つまり、工具駆動機構140を利用して、第一駆動信号KA、第二駆動信号KB、第三駆動信号KCによって重畳的に研磨具200を変位させても、研磨面230のZ軸方向の微小振動と、径方向Rの微小振動を独立制御できることがわかる。
【0103】
なお、本検証手順は、研磨ヘッド100単体のキャリブレーション方法として利用することができる。つまり、所望のZ軸方向の微小振動と、所望の径方向Rの微小振動が得られるまで、第一~第三同期周波信号DA~DCと、第一位相差周波信号QAと第二位相差周波信号QBと第三位相差周波信号QCの設定値を調整すればよい。
【0104】
<実証実験2:研磨装置による研磨検証>
次に、図1の研磨装置1を利用して、ワークWを研磨する検証を行った。例えば、金型を用いた成型加工の場合、金属金型の表面には、金型製作時の加工工具の移動軌跡となるヘアライン状の切削痕(ツールマーク)が形成されるため、このツールマークが光学素子に転写される。同様に、光学素子を切削加工によって直接加工する場合においても、切削工具の移動軌跡となるヘアライン状の切削痕(ツールマークが)光学素子に残存する。研磨装置1が、ワークWの表面を研磨することで、このツールマークを消去できるか否かについて検証した。
【0105】
(研磨材の準備)
研磨材として、水とデンプンの調合比率を50:50~50:30の範囲内で所望の粘度に調整した非ニュートン流体に対して、#30000(粒径0.3~0.39μm)のアルミナ粒子を、40g/Lの濃度で混合した。
【0106】
(ワークの準備)
無電解ニッケルめっきを行った円板状(円柱状)のワークWを用意し、その円形表面(被研磨面)をダイヤモンド旋削でヘアライン状の移動経路で切削した。その表面状態を図15に示す。図15(A)の光学顕微鏡写真の通り、被研磨面には、ヘアライン状の凹凸(溝又は峰)が形成されていることを確認した。また、図15(B)の三次元スキャナで測定した三次元プロファイルの通り、被研磨面には、ヘアライン状の凹凸(溝又は峰)が形成されていることを確認した。三次元プロファイルを利用して表面粗さを測定したところ、0.24nmRaとなった。また、ヘアライン状の凹凸(溝又は峰)のラインピッチ(距離)は、平均約20μmとなった。
【0107】
(研磨装置の設定)
研磨装置1において、研磨面230は、直径2mmの円形平面とした。第一~第三同期周波信号DA~DCの周波数を1000Hz、基準位相を全て0に設定した。第一位相差周波信号QAと第二位相差周波信号QBと第三位相差周波信号QCの周波数を100Hzに設定し、互いの基準位相が120度の位相差を有するように設定した。キャリブレーションにより、研磨面230が、1000HzでZ軸方向に振幅10μmで微小振動することを確認した。また、研磨面230が、100HzでZ軸周りに旋回半径20μmで旋回運動(振幅40μmによる径方向Rの微小振動)することを確認した。この研磨装置1を用いて、上記研磨材を供給しながら、ワークWを100rpmで回転させた状態で、ワークWの被研磨面を研磨面230で走査し、約10nmの材料除去深さで研磨した。なお、研磨時において、ワークWと研磨面230のギャップ距離は50~100μm距離となるように制御した。このギャップ距離の範囲内であれば、1000HzでZ軸方向に振幅10μmで微小振動(圧力)によって、研磨材が局所的に高粘度化することが、発明者らの実験によって明らかとなっている。
【0108】
研磨完了後の表面状態を図16に示す。図16(A)の光学顕微鏡写真、及び、図16(B)の三次元プロファイルの通り、被研磨面において、ヘアライン状の凹凸(溝又は峰)がほとんど消去されていることを確認した。これにより、被研磨面の面精度(PV値)を100nm以下にすることが可能になることが分かった。また、図16(B)の三次元プロファイルを利用して表面粗さを測定したところ、0.37nmRaとなっており、研磨工程における表面粗さの増加も抑制できることを確認した。つまり、本実施形態の研磨装置1によれば、表面粗さの増加を例えば0.50nmRa以下に抑制しつつも、ヘアライン状の凹凸を、PV値100nm以下となるまで平坦化できることがわかる。
【0109】
<比較実験:研磨装置による研磨検証>
次に、研磨装置1において、研磨面230のZ軸周りに旋回運動(径方向Rの微小振動)を停止させたことを除いて、その他の条件を実証実験2と完全に一致させて、ワークWを研磨した。研磨完了後の表面状態を図17に示す。図17(A)の光学顕微鏡写真、及び、図17(B)の三次元プロファイルの通り、被研磨面において、ヘアライン状の凹凸(溝又は峰)が多少残存することを確認した。同時に、被研磨面に局所的なピット(凹み)が形成されることを確認した。図17(B)の三次元プロファイルを利用して表面粗さを測定したところ、0.51nmRaとなっており、研磨工程によって、表面粗さが増加することを確認した。
【0110】
以上の通り、本実施形態の研磨装置1によれば、単一の研磨具200の複数の座面410,420,430を変位させることで、これを弾性変形させつつ、研磨面230を研磨軸J方向と径方向Rに同時に微小振動させることができる。また、研磨軸J方向と径方向Rに微小振動にクロストークが発生しにくいので、研磨面230の研磨軸J方向の微小振動と、研磨面230の径方向Rの微小振動を独立して制御できる。同様に、工具駆動機構140の複数の駆動部510,520,530が協働することにより、研磨面230の研磨軸J方向と径方向Rの微小振動を同時に実現できるので、研磨ヘッド100の構造を簡素化することが可能となる。
【0111】
なお、上記研磨装置1では、研磨具200が、120度の位相差を有する第一~第三径方向R1~R3に沿って、合計3つの第一弾性部310、第二弾性部320、第三弾性部330を備える場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、合計2つの弾性部を180度の位相差で備えるようにしてもよく、合計4つ以上の弾性部を周方向に等間隔の位相差で備えるようにしてもよい。なお、研磨面230の旋回運動を実現するためには、少なくとも3つの弾性部を備えることが好ましい。
【0112】
また、本研磨具200では、図5(B)に示すように、第一弾性部310の第一アーム軸310Jと研磨軸Jとの傾斜角度θが鋭角となる場合を例示したが、傾斜角度θが鈍角となるようにしてもよい。傾斜角度θが鈍角の場合、第一座部410を第一径方向R1の内側に変位させることで、研磨面230がワークWから離れる方向に変位させることができる。
【0113】
更に、工具駆動機構140は、図2に示すように、第一~第三座部410,420,430を、径方向の内側の研磨軸Jに向かって変位させる場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第一~第三座部410,420,430径方向の内側に変位させつつも、その変位ベクトルが研磨軸Jからオフセットする方向に変位させてもよい。また工具駆動機構140は、第一~第三座部410,420,430を、径方向の外側に向って変位させてもよい。
【0114】
また更に、工具制御装置50では、第一位相差周波信号QAと第二位相差周波信号QBと第三位相差周波信号QCの振幅は、同期周波信号Dよりも大きくなる場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図18に示すように、第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCの振幅を、第一~第三同期周波信号DA,DB,DCよりも小さくなるようにして、第一~第三駆動信号KA,KB,KCを生成してもよい。
【0115】
更にまた、本実施形態では、説明の便宜上、第一~第三同期周波信号DA,DB,DCと、第一~第三位相差周波信号QA,QB,QCと、第一~第三バイアス信号EA,EB,ECを、互いに独立波形として生成する場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第一同期周波信号DAの電圧平均値を、第二及び第三同期周波信号DB,DCの電圧平均値よりも高く設定すれば、実質的に、第一バイアス信号EAを重畳させた状態と同義となる。同様に、第一位相差周波信号QAの電圧平均値を、第二及び第三位相差周波信号QB,QCの電圧平均値よりも高く設定すれば、実質的に、第一バイアス信号EAを重畳させた状態と同義となる。
【0116】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0117】
1 研磨装置
10 基台
20 研磨ヘッド保持機構
30 ワーク保持機構
33 相対回転機構
35 研磨材供給装置
40 相対移動機構
50 工具制御装置
60 移動制御装置
62 移動制御部
64 走査経路設定部
66 研磨ヘッド設定保持部
100 研磨ヘッド
110 工具ベース
140 工具駆動機構
200 研磨具
210 主軸部
210A 中心軸
211 第一リブ
212 第二リブ
213 第三リブ
230 研磨面
310 第一弾性部
320 第二弾性部
330 第三弾性部
410 第一座部
420 第二座部
430 第三座部
510 第一駆動部
520 第二駆動部
530 第三駆動部
B 母材
C 中心軸
DA 第一同期周波信号
DB 第二同期周波信号
DC 第三同期周波信号
IF 設定インタフェース
J 研磨軸
KA 第一駆動信号
KB 第二駆動信号
KC 第三駆動信号
KC 第二駆動信号
QA 第一位相差周波信号
QB 第二位相差周波信号
QC 第三位相差周波信号
R 径方向
S 研磨軸周方向
U1 第一変位量
U2 第二変位量
U3 第三変位量
W ワーク
【要約】      (修正有)
【課題】簡易な構造で高精度な研磨を実現する。
【解決手段】研磨材を自身の研磨面とワークの間で保持してワークを研磨するための研磨具200であって、先端に研磨面230を有し、研磨軸Jに沿って延在する主軸部210と、主軸部から連続して径方向の外側に向かって延びる複数の弾性部310,320,330と、複数の弾性部の径方向外側に連続する複数の座部410,420,430を備える。更に弾性部では、主軸部に連続する位置と、座部と連続する位置が研磨軸Jの軸方向に異なるようにする。これにより、外部の工具駆動機構によって、座部を径方向に同一量の変位を作用させると、複数の弾性部が弾性変形して、主軸部が研磨軸に沿って変位する。また、外部の工具駆動機構によって、座部のそれぞれに対して、径方向に向かう異なる量の変位を作用させると、主軸部が研磨軸Jの径方向に沿って変位する。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18