(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】マリンギヤ装置
(51)【国際特許分類】
B63H 23/30 20060101AFI20240913BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B63H23/30
F16D48/02 640X
(21)【出願番号】P 2018146264
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-04-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡西 俊明
【合議体】
【審判長】一ノ瀬 覚
【審判官】澤崎 雅彦
【審判官】横溝 顕範
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-64148(JP,A)
【文献】特開平10-278890(JP,A)
【文献】特開昭64-12135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 1/00 - 25/52
F16D25/00 - 39/00 , 48/00 - 48/12
F16H57/00 - 57/12
F15B11/00 - 11/22 , 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載したエンジンの動力で駆動する可変容量形の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの作動油圧の給排によって前記エンジンからプロペラへの動力伝達を継断する油圧クラッチと、
前記油圧ポンプに設けられた吐出調整部を変更調節する調整装置と、
任意のエンジン回転数において、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節して、前記油圧クラッチに向かう作動油圧を変更するコントローラと、
前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと
を備えており、
前記コントローラは、前記回転数センサで検出したエンジン回転数に基づき
スリップ防止に必要な分のクラッチ接続トルク及びエンジントルクを
求め、前記クラッチ接続トルクと前記エンジントルクとの差分を一定に保った状態で、前記クラッチ接続トルクが前記エンジントルクよりも所定値以上大きくなるように、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節する、
マリンギヤ装置。
【請求項2】
船舶に搭載したエンジンの動力で駆動する可変容量形の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの作動油圧の給排によって前記エンジンからプロペラへの動力伝達を継断する油圧クラッチと、
前記油圧ポンプに設けられた吐出調整部を変更調節する調整装置と、
任意のエンジン回転数において、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節して、前記油圧クラッチに向かう作動油圧を変更するコントローラと、
前記エンジンの回転数を検出する回転数センサと
を備えており、
前記コントローラは、前記回転数センサで検出したエンジン回転数に基づき
スリップ防止に必要な分のクラッチ接続トルク及びエンジントルクを
求め、前記エンジン回転数が設定値以下であれば、前記油圧ポンプからの作動油圧を増大させて、前記クラッチ接続トルクが前記エンジントルクよりも所定値以上大きくなるように、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節する、
マリンギヤ装置。
【請求項3】
船舶に搭載したエンジンの動力で駆動する可変容量形の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの作動油圧の給排によって前記エンジンからプロペラへの動力伝達を継断する油圧クラッチと、
前記油圧ポンプに設けられた吐出調整部を変更調節する調整装置と、
任意のエンジン回転数において、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節して、前記油圧クラッチに向かう作動油圧を変更するコントローラと、
前記油圧クラッチに向かう作動油圧を検出する油圧センサと
を備えており、
前記油圧センサで検出した作動油圧から得られるクラッチ接続トルクを一定に保った状態で、前記クラッチ接続トルクがエンジントルクよりも所定値以上大きくなるように、前記コントローラが前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節する、
マリンギヤ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、マリンギヤ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、漁船やプレジャーボートといった船舶用のマリンギヤ装置(減速逆転機)は、船舶に搭載したエンジンの動力で駆動する固定容量形油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油圧の給排によって前記エンジンからプロペラへの動力伝達を継断する油圧クラッチとを備えている(例えば特許文献1及び2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-17486号公報
【文献】実開平6-78637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の通り、固定容量形油圧ポンプは、エンジンの動力で駆動するものである。このため、調圧弁で作動油圧を調圧していても、エンジンの低回転域では、固定容量形油圧ポンプの作動油量が少なくて油圧クラッチに向かう作動油圧が低く、クラッチ接続トルクが小さくなりがちである。
【0005】
特に
図9に示すように、最大エンジントルクTmaxが低回転域に存在する低回転型エンジンを船舶に搭載した場合は、最大エンジントルクTmaxと、これに対応したエンジン回転数Nmでのクラッチ接続トルクTcmとが極めて近い値になり易い。そうすると、例えば急発進や急加速をして低回転域でエンジンに生じた過負荷と、このときのエンジン回転数でのクラッチ接続トルクとの関係によっては、油圧クラッチが予想外にスリップしてしまうおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、上記のような現状を検討して改善を施したマリンギヤ装置を提供することを技術的課題としている。
【0007】
請求項1の発明に係るマリンギヤ装置は、船舶に搭載したエンジンの動力で駆動する可変容量形の油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油圧の給排によって前記エンジンからプロペラへの動力伝達を継断する油圧クラッチと、前記油圧ポンプに設けられた吐出調整部を変更調節する調整装置と、任意のエンジン回転数において、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節して、前記油圧クラッチに向かう作動油圧を変更するコントローラと、前記エンジンの回転数を検出する回転数センサとを備えている。
【0008】
そして、前記コントローラは、前記回転数センサで検出したエンジン回転数に基づきスリップ防止に必要な分のクラッチ接続トルク及びエンジントルクを求め、前記クラッチ接続トルクと前記エンジントルクとの差分を一定に保った状態で、前記クラッチ接続トルクが前記エンジントルクよりも所定値以上大きくなるように、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節するという構成になっている。
【0009】
請求項2の発明に係るマリンギヤ装置は、船舶に搭載したエンジンの動力で駆動する可変容量形の油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油圧の給排によって前記エンジンからプロペラへの動力伝達を継断する油圧クラッチと、前記油圧ポンプに設けられた吐出調整部を変更調節する調整装置と、任意のエンジン回転数において、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節して、前記油圧クラッチに向かう作動油圧を変更するコントローラと、前記エンジンの回転数を検出する回転数センサとを備えており、前記コントローラは、前記回転数センサで検出したエンジン回転数に基づきスリップ防止に必要な分のクラッチ接続トルク及びエンジントルクを求め、前記エンジン回転数が設定値以下であれば、前記油圧ポンプからの作動油圧を増大させて、前記クラッチ接続トルクが前記エンジントルクよりも所定値以上大きくなるように、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節するというものである。
【0010】
請求項3の発明に係るマリンギヤ装置は、船舶に搭載したエンジンの動力で駆動する可変容量形の油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油圧の給排によって前記エンジンからプロペラへの動力伝達を継断する油圧クラッチと、前記油圧ポンプに設けられた吐出調整部を変更調節する調整装置と、任意のエンジン回転数において、前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節して、前記油圧クラッチに向かう作動油圧を変更するコントローラと、前記油圧クラッチに向かう作動油圧を検出する油圧センサとを備えており、前記油圧センサで検出した作動油圧から得られるクラッチ接続トルクを一定に保った状態で、前記クラッチ接続トルクがエンジントルクよりも所定値以上大きくなるように、前記コントローラが前記調整装置を介して前記吐出調整部を調節するというものである。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によると、エンジン回転数の高低に拘らず、前記油圧クラッチに向かう作動油圧を充分に確保できる。このため、例えば急発進や急加速をして低回転域でエンジンに過負荷が生じたりしても、このときのエンジン回転数でのクラッチ接続トルクを適切に維持でき、急発進時や急加速時における前記油圧クラッチのスリップを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】マリンギヤ装置を搭載した船舶の概略側面図である。
【
図4】マリンギヤ装置のギヤ配置を模式的に示した背面図である。
【
図6】第1実施例における出力特性マップの説明図である。
【
図7】第2実施例における出力特性マップの説明図である。
【
図8】第3実施例における出力特性マップの説明図である。
【
図9】従来における出力特性マップの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、実施形態の船舶1は、船体2と、船体2の上面中央側に配置したキャビン3と、船体2の船底後尾側に設けた舵4と、船体2の船底後尾側のうち舵4の前方に配置したプロペラ5とを備えている。キャビン3内は操縦部になっている。図示は省略するが、キャビン3内には、例えば操舵によって船体2の進行方向を左右に変更させる操舵ハンドルや、船体2の進行方向を前進と後進とに切り替える前後進レバー等を設けている。船体2の船底後尾側には、プロペラ5を回転させる推進軸6を軸支している。推進軸6の突出端側にプロペラ5を取り付けている。
【0015】
船体2内には、プロペラ5の駆動源である主機関としてのエンジン7と、エンジン7の回転動力を推進軸6経由でプロペラ5に伝達するマリンギヤ装置8とを配置している。エンジン7からマリンギヤ装置8を介して推進軸6に伝達した回転動力によって、プロペラ5は回転する。
【0016】
図2~
図5に示すように、マリンギヤ装置8は、エンジン7のフライホイル(図示省略)に連結される入力軸11と、カップリング12を介して推進軸6に連結される出力軸13と、入力軸11から出力軸13に向けての正転方向の駆動力を継断する正転クラッチ14と、入力軸11から出力軸13に向けての逆転方向の駆動力を継断する逆転クラッチ15とを備えている。
図3に示すように、入力軸11と出力軸13とは、マリンギヤ装置8のハウジング9から突き出すように設けている。正転クラッチ14及び逆転クラッチ15は、マリンギヤ装置8のハウジング9内に収容している。正転クラッチ14と逆転クラッチ15とで前後進切換機構16を構成している。エンジン7のフライホイルには、エンジン7の回転数を検出する回転数検出器としての回転数センサ71(
図5参照)が近接配置されている。回転数センサ71は、例えばフライホイルの回転を検出する電磁ピックアップ形の回転数ピックアップセンサで構成され、コントローラ60に電気的に接続されている。
【0017】
正転クラッチ14並びに逆転クラッチ15は、湿式多板形で油圧式の摩擦クラッチである。正転クラッチ14は、入力軸11上にあり、且つ、スチールプレート14cと摩擦板14dとを交互に配置した構造になっている。正転クラッチ14は、スチールプレート14c付きの正転外ケース14aと、スチールプレート14cに圧接可能な摩擦板14d付きの正転内ハブ14bと、作動油圧で圧接力(クラッチ圧)を発生させる正転クラッチシリンダ14eとを備えている。正転外ケース14аは入力軸11に固着している。正転内ハブ14bは入力軸11に回転可能に被嵌している。正転内ハブ14bの一端側を正転外ケース14аの内周側に差し入れている。正転外ケース14аの外周側に正転ギヤ92を一体形成している。正転内ハブ14bの他端側に正転減速ギヤ93を一体形成している。
【0018】
逆転クラッチ15は、入力軸11と平行状に延びる逆転クラッチ軸91上にあり、且つ、正転クラッチ14と同様にスチールプレート15cと摩擦板15dとを交互に配置した構造になっている。逆転クラッチ15は、スチールプレート15c付きの逆転外ケース15аと、スチールプレート15cに圧接可能な摩擦板15d付きの逆転内ハブ15bと、作動油圧で圧接力を発生させる逆転クラッチシリンダ15eとを備えている。逆転外ケース15аは逆転クラッチ軸91に固着している。逆転内ハブ15bは逆転クラッチ軸91に回転可能に被嵌している。逆転内ハブ15bの一端側を逆転外ケース15аの内周側に差し入れている。逆転外ケース15аの外周側に中継ギヤ94を一体形成している。逆転内ハブ15bの他端側に逆転減速ギヤ95を一体形成している。
【0019】
図4に示すように、中継ギヤ94は、正転クラッチ14の正転ギヤ92と常時噛み合っている。正転減速ギヤ93及び逆転減速ギヤ95は、出力軸13のうちマリンギヤ装置8のハウジング内の部位に固着した減速出力ギヤ96に常時噛み合っている。正転減速ギヤ93、逆転減速ギヤ95及び減速出力ギヤ96は、固定減速比の減速ギヤ機構を構成している。出力軸13の回転動力は、各減速ギヤ93,95と減速出力ギヤ96との間で固定減速比に減速される。
【0020】
キャビン3内にある正逆転レバー32(
図5参照)を正逆転又は中立操作すると、作動油の供給先が正転クラッチ14(正転クラッチシリンダ14e)、逆転クラッチ15(逆転クラッチシリンダ15e)又は中立のいずれかに切り替えられる。
【0021】
正逆転レバー32を正転操作して正転クラッチ14を動力接続状態にした場合(作動油圧で正転外ケース14аのスチールプレート14c及び正転内ハブ14bの摩擦板14dを互いに圧接させた場合)、逆転クラッチ15は動力遮断状態であるから、エンジン7の回転動力が、入力軸11から正転クラッチ14及び正転減速ギヤ93を介して減速出力ギヤ96に伝達される。その結果、船舶1は、エンジン7の回転動力を正転方向の出力として出力軸13に伝達する前進状態となる。航行時における船舶1の前進航行速度の調節はキャビン3内のスロットルレバー61(
図5参照)によって行われる。
【0022】
正逆転レバー32を逆転操作して逆転クラッチ15を動力接続状態にした場合(作動油圧で逆転外ケース15аのスチールプレート15c及び逆転内ハブ15bの摩擦板15dを互いに圧接させた場合)、正転クラッチ14は動力遮断状態であるから、エンジン7の回転動力が、入力軸11の正転ギヤ92から中継ギヤ94、逆転クラッチ15及び逆転減速ギヤ95を介して減速出力ギヤ96に伝達される。その結果、船舶1は、エンジン7の回転動力を逆転方向の出力として出力軸13に伝達する後進状態となる。航行時における船舶1の後進航行速度の調節もキャビン3内のスロットルレバー61によって行われる。
【0023】
正逆転レバー32を中立操作して正転クラッチ14及び逆転クラッチ15の両方を動力遮断状態にすれば、エンジン7の回転動力を出力軸13に伝達しない中立状態となる。作動油圧で各クラッチ14,15のスチールプレート14c,15cと摩擦板14d,15dの圧接程度を加減させてスリップ係合(半クラッチ係合)させれば、入力軸11の回転動力の一部が出力軸13に伝達され、出力軸13ひいてはプロペラ5が低回転する微速走行の状態になる。
【0024】
次に、
図5を参照しながら、マリンギヤ装置8の油圧回路構造を説明する。マリンギヤ装置8の油圧回路20は、エンジン7の回転動力にて駆動する作動油ポンプ21を備えている。作動油ポンプ21は、エンジン7の動力(実施形態では、逆転クラッチ軸91からの回転動力、
図3参照)で駆動して正転クラッチ14及び逆転クラッチ15に作動油を供給する可変容量形のものである。作動油ポンプ21の吸入側は、作動油こし器23を介して作動油タンク22に接続している。作動油ポンプ21の吐出側から延びる作動油路24は、後述するトローリング装置25の減圧弁80及び正逆転切換弁26を介して、正転クラッチ14と逆転クラッチ15とに接続している。実施形態の作動油路24は、作動油ポンプ21から減圧弁80までをつなぐ作動元油路27と、減圧弁80から正逆転切換弁26までをつなぐ中間油路28と、正逆転切換弁26から正転クラッチ14に延びる正転油路29と、正逆転切換弁26から逆転クラッチ15に延びる逆転油路30とに分かれている。
【0025】
作動油ポンプ21には、逆転クラッチ軸91の軸線に対して傾斜角度を変更可能して吐出する作動油圧(作動油量)を調節する吐出量調整部としての可動斜板72が設けられている。可動斜板72には、逆転クラッチ軸91の軸線に対する可動斜板72の傾斜角度を変更調節する調整装置としての電動シリンダ73を関連させている。電動シリンダ73の駆動で可動斜板72の傾斜角度を変更することによって、作動油ポンプ21から正転又は逆転クラッチ14,15に向かう作動油圧(作動油量)が変更調節される。電動シリンダ73は、コントローラ60に電気的に接続されている。
【0026】
正逆転切換弁26は合計6個のポートを備えていて、正逆転レバー32の切換え操作によって、正転油路29に作動油を供給する正転位置と、逆転油路30に作動油を供給する逆転位置と、両油路29,30への作動油の供給を停止する中立位置との3位置に切換可能に構成している。正逆転切換弁26の6個のポートのうち2個は、正転油路29と逆転油路30とに接続している。正転及び逆転用の油路29,30と反対側にある2個のポートは、中間油路28接続している。残る2個のポートのうち正転及び逆転油路29,30側にあるポートは、後述する緩嵌入弁53に至る背圧油路36に接続している。中間油路28側にある残り1個のポートは、直接作動油タンク22にあたるドレン油路40に接続している。正転油路29中には、正転クラッチ14に向かう作動油圧を検出する油圧検出器としての正転油圧センサ74が設けられている。また、逆転油路30中には、逆転クラッチ15に向かう作動油圧を検出する油圧検出器としての逆転油圧センサ75が設けられている。正転及び逆転油圧センサ74,75は、それぞれコントローラに電気的に接続されている。
【0027】
作動元油路27において、作動油ポンプ21と減圧弁80との間から潤滑元油路42が分岐されている。潤滑元油路42は、正転及び逆転クラッチ14,15に作動油を潤滑油として注油するためのものである。潤滑元油路42の下流側は正転潤滑油路43と逆転潤滑油路44とに分かれている。正転潤滑油路43を正転クラッチ14に接続し、逆転潤滑油路44を逆転クラッチ15に接続している。潤滑元油路42ならびに正転及び逆転潤滑油路43,44の組合せが潤滑油路に相当する。
【0028】
潤滑元油路42には、上流側から順に、作動元油路27の油圧保持用のリリーフ弁である作動油圧調整弁49と、潤滑油こし器50と、作動油(潤滑油)を冷却する潤滑油クーラ51と、潤滑油圧調整弁52とを設けている。作動油圧調整弁49を通過した後の作動油は、潤滑油こし器50及び潤滑油クーラ51を通過し、潤滑油圧調整弁52で低圧にした状態で、正転クラッチ14及び逆転クラッチ15に潤滑油として供給される。所定圧以上の不要な作動油は潤滑油圧調整弁52から作動油タンク22に戻される。
【0029】
作動油圧調整弁49には、これを用いて正転切換時又は逆転切換時のクラッチ接続によるショックを緩和させる緩嵌入弁53を設けている。緩嵌入弁53は、中間油路28及び正逆転切換弁26から背圧油路36を介して導入される背圧によって正転クラッチ14や逆転クラッチ15への作動油圧を徐々に上昇させ、正転又は逆転切換時のクラッチ接続によるショックを緩和させるものである。なお、作動油ポンプ21と潤滑元油路42の上流側端との間の作動下油路27から分岐する油路に安全弁59が設けられている。
【0030】
また、油圧回路20では、作動油ポンプ21と減圧弁80との間で、作動元油路27からパイロット圧供給油路81が分岐されている。パイロット圧供給油路81には、その上流側から順に、直結電磁弁82と比例電磁弁83が設けられている。これらの電磁弁82,83は、コントローラ60に電気的に接続されている。コントローラ60は、スロットルレバー61の操作量に応じて電磁弁82,83を制御する。直結電磁弁82は、パイロット圧供給油路81を遮断するオフ位置と、パイロット圧供給油路81内のパイロット圧を比例電磁弁83側に供給する位置と、減圧弁80のパイロット室80bに油路84を通じてパイロット圧を供給する位置の3位置を備えている。比例電磁弁83は、スロットルレバー61の操作位置に応じて油路81のパイロット圧を比例制御しながら減圧弁80のパイロット室80aに供給する位置と、パイロット室80aを作動油タンク22に接続するオフ位置を備えている。
【0031】
減圧弁80は、大径の摺動部とそれよりも小径の摺動部、及びそれら摺動部間を連結するより小径の連結部とからなるスプール80cを摺動自在に挿入している。スプール80cの小径摺動部側のパイロット室80aには、比例電磁弁83からのパイロット圧がパイロット圧供給油路81を通じて供給される。スプール80cの大径摺動部側のパイロット室80b内には、直結電磁弁82を切り換えて比例電磁弁83側への通路を遮断した状態において、直結電磁弁82から油路84を通じてパイロット圧が供給される構成になっている。また、減圧弁80には、スプール80cのパイロット室80b側に調整ばね80dが設けられている。作動油ポンプ21側からの作動元油路27は、スプール80cの連結部周囲の作動油室80eに通じている。そして、作動油室80eから中間油路28が導かれている。作動油室80eには、作動油室80e内の作動油をドレン側に連通するドレン油路80fが設けられる。ドレン油路80fは、スプール80cの大径摺動部が摺動することによって開閉される構成になっている。
【0032】
上記において、減圧弁80の両パイロット室80a,80b内にパイロット圧が供給されていない状態では、作動油室80e内に供給される作動油ポンプ21側からの作動油圧が、スプール80cの小径摺動部と大径摺動部の受圧面に作用する。このとき、大径摺動部側の作動油圧の方が大きいから、その作動油圧の差の分だけスプール80cを
図5の右方向に移動させようとする。また、これに抵抗するように調整ばね80dが作用しているため、調整ばね80dと作動油圧との釣り合いによって、スプール80cが所定の位置に保持される。
【0033】
このような状態で、スロットルレバー61がアイドル位置とトローリング位置の間に操作されると、コントローラ60は、直結電磁弁82を比例電磁弁83側にパイロット圧を供給する位置に切り換える一方で、比例電磁弁83の開度をスロットルレバー61の操作位置に応じて制御する。これにより、パイロット室80a内にパイロット圧が供給されるから、相対的に、調整ばね80dの力に抗してスプール80cを
図5の右方向に作動させてドレン油路80fを開く。このために、中間油路28の作動油圧が低下し、正転又は逆転クラッチ14,15のスリップを大きくして出力軸13の回転数を低下させる。比例電磁弁83がオフとなると、減圧弁80のパイロット室80a内にパイロット圧が供給されず、スプール80cが左方向へ摺動して制御圧が高くなり、正転又は逆転クラッチ14,15のスリップ量を少なくして出力軸13の回転数を上昇させる。これらを繰り返すことによって、スロットルレバー61の操作位置に応じて出力軸13が一定の回転数に維持される。
【0034】
また、スロットルレバー61がトローリング位置とフルスロットル位置の間に操作されると、コントローラ60は、直結電磁弁82への通電を遮断する。これにより、直結電磁弁82は、減圧弁80のパイロット室80bに油路84を通じてパイロット圧を供給する一方で、比例電磁弁83への作動油の供給をオフする。このとき、減圧弁80のスプール80cが
図5の左方向に摺動してドレン油路80fが閉じられる。このため、作動元油路27側からの作動油圧はドレン側へ逃げることなく全量が正転又は逆転クラッチ14,15側へ供給されて、正転又は逆転クラッチ14,15が完全嵌入状態となる。このようにして、トローリング航走と通常航走が切り換えられる。
【0035】
次に、
図5~
図8を参照しながら、調節機構の構成について説明する。コントローラ60は、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるための記憶部(ROM)、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるためのRAM、及び入出力インターフェイス等を備えている。実施形態のコントローラ60は、任意のエンジン回転数Nにおいてクラッチ接続トルクTcがエンジントルクTよりも所定値以上大きくなるように、電動シリンダ73の駆動にて作動油ポンプ21の吐出部を調節して(可動斜板72の傾斜角度を変更調節して)、正転及び逆転クラッチ14,15に向かう作動油量を変更調節するように構成されている。コントローラ60及び電動シリンダ73の組合せが調節機構を構成している。可動斜板72を作動させるものは、電動シリンダ73に限らず、油圧シリンダその他のアクチュエータでも差し支えない。
【0036】
コントローラ60の記憶部(ROM)には、エンジン回転数NとエンジントルクT及びクラッチ接続トルクTcとの関係を示す出力特性マップM(
図6~
図8参照)を予め記憶させている。なお、出力特性マップMは、実験等で求められる。エンジン回転数NとエンジントルクT又はクラッチ接続トルクTcとの関係は、マップ形式で表すに限らず、例えば関数表形式で表してもよい。
【0037】
図6~
図8に示す出力特性マップMでは、エンジン回転数Nを横軸に、エンジントルクT及びクラッチ接続トルクTcを縦軸に採っている。上向き凸に描かれた細線TLは、任意のエンジン回転数Nに対する最高トルク点Tを結んでなるエンジン7固有の最高トルク線(トルクカーブ)である。エンジントルクTは、エンジン回転数Nmのときの最高トルク点Tmで最も大きな値(最大エンジントルク)になる。なお、エンジン出力は、エンジン回転数Neのときの最高トルク点Teで最も大きな値(最大エンジン出力)になる。
【0038】
図6~
図8の出力特性マップMを採用した以下の実施例(第1~第3実施例)では、任意のエンジン回転数Nに対してスリップ防止に必要な分のクラッチ接続トルクTcを示す接続トルク線TCLを利用することによって、正転及び逆転クラッチ14,15に向かう作動油圧が変更調節される。
図6の第1実施例では、接続トルク線TCLを上向き凸の太線で示している。接続トルク線TCLは、エンジン固有の最高トルク線TLよりも上側に位置していて、任意のエンジン回転数Nにおいて、クラッチ接続トルクTcがこのときのエンジントルクTよりも所定値ΔTだけ常時大きな値になるように設定されている。換言すると、任意のエンジン回転数Nにおいて、クラッチ接続トルクTcとエンジントルクTとの差分ΔTは常時一定に保たれている。
【0039】
この場合、コントローラ60は、回転数センサ71で検出したエンジン回転数Nと出力特性マップMとに基づき、エンジン回転数Nのときのクラッチ接続トルクTcを求め、当該求められたクラッチ接続トルクTcになるだけの作動油圧を作動油ポンプ21から正転又は逆転クラッチ14,15に向けて供給するように、電動シリンダ73を駆動させて作動油ポンプ21における可動斜板72の傾斜角度を変更調節する。例えばエンジン回転数Nmのときは、エンジントルクがTm、クラッチ接続トルクがエンジントルクTmよりもΔTだけ大きいTcmとなる。従って、クラッチ接続トルクTcmに対応する作動油圧を作動油ポンプ21から正転又は逆転クラッチ14,15に向けて供給するように、電動シリンダ73を駆動させて作動油ポンプ21における可動斜板72の傾斜角度を変更調節するのである。
【0040】
図7の第2実施例では、接続トルク線TCLを略N字状の太線で示している。換言すると、第2実施例の接続トルク線TCLは、傾きの同じ二つの一次関数を左右に二本並べて設定値Ntの箇所でつないだ形になっている。略N字状の接続トルク線TCLは、エンジン固有の最高トルク線TLよりも上側に位置している。接続トルク線TCLのうち設定値Ntより右側の直線部分を低回転側に延長すると、エンジン回転数Nmのときは、仮想上のクラッチ接続トルクが最高トルク点Tmに極めて近い値となる。このため、接続トルク線TCLのうち設定値Ntより左側の直線部分を最高トルク線TLから離れる上方(クラッチ接続トルクTcが大きくなる方向、換言すると、作動油ポンプ21からの作動油圧が増大する方向)に移動させている。
【0041】
この場合、コントローラ60は、回転数センサ71で検出したエンジン回転数Nと出力特性マップMとに基づき、エンジン回転数Nのときのクラッチ接続トルクTcを求め、当該求められたクラッチ接続トルクTcになるだけの作動油圧を作動油ポンプ21から正転又は逆転クラッチ14,15に向けて供給するように、電動シリンダ73を駆動させて作動油ポンプ21における可動斜板72の傾斜角度を変更調節する。例えばエンジン回転数Nt(設定値)のときは、エンジントルクがTt、クラッチ接続トルクがエンジントルクTtよりも大きいTctとなる。従って、クラッチ接続トルクTctに対応する作動油圧を作動油ポンプ21から正転又は逆転クラッチ14,15に向けて供給するように、電動シリンダ73を駆動させて作動油ポンプ21における可動斜板72の傾斜角度を変更調節するのである。
【0042】
なお、エンジン回転数が設定値Ntより大きいときは、作動油ポンプ21における可動斜板72の傾斜角度を基準になる傾斜角度に戻して、固定容量形の油圧ポンプのように作動油ポンプ21を作動させればよい。また、第2実施例において、接続トルク線TCLのうち設定値Ntより左側の直線部分は連続的に増加させる必要はなく、一定値に設定してもよい。設定値Ntを挟んだ前後で二段階に制御すれば足りる。
【0043】
図8の第3実施例では、接続トルク線TCLを水平状の太線で示している。換言すると、第2実施例の接続トルク線TCLは、傾きの同じ二つの一次関数を左右に二本並べて設定値Ntの箇所でつないだ形になっている。水平状の接続トルク線TCLは、エンジン固有の最高トルク線TLよりも上側に位置している。つまり、第3実施例のクラッチ接続トルクTcは、エンジン回転数Nの高低に拘らず、常時一定の値となっている。
【0044】
この場合、コントローラ60は、正転又は逆転油圧センサ74,75で検出した作動油圧に基づき現時点のクラッチ接続トルクTcrを求め、現時点のクラッチ接続トルクTcrが目標となるクラッチ接続トルクTcと合致しなければ、当該クラッチ接続トルクTcになるだけの作動油圧を作動油ポンプ21から正転又は逆転クラッチ14,15に向けて供給するように、電動シリンダ73を駆動させて作動油ポンプ21における可動斜板72の傾斜角度を変更調節する。すなわち、最高トルク点Tmよりも大きい水平上で示した接続トルク線TCLを伝達できる作動油圧を目標値として設定し、正転又は逆転油圧センサ74,75で作動油圧を検出しながら、エンジン回転数Nの変化に対して作動油圧が常に目標値になるように、作動油ポンプ21の吐出量を調整するのである。
【0045】
以上の実施例のいずれによっても、エンジン回転数Nの高低に拘らず、正転又は逆転クラッチ14,15に向かう作動油圧を充分に確保できる。このため、例えば急発進や急加速をして低回転域でエンジン7に過負荷が生じたりしても、このときのエンジン回転数Nでのクラッチ接続トルクTcを適切に維持でき、急発進時や急加速時における正転又は逆転クラッチ14,15のスリップを防止できるのである。
【0046】
なお、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。例えば可変容量形の油圧ポンプとしては、アキシャルピストン形、ラジアルピストン形、ベーン形のほか、可変速タイプの電動ポンプを用いることもできる。
【符号の説明】
【0047】
1 船舶
7 エンジン
8 マリンギヤ装置
14 正転クラッチ
15 逆転クラッチ
20 油圧回路
21 作動油ポンプ
60 コントローラ
61 スロットルレバー
71 回転数センサ
72 可動斜板(吐出量調整部)
73 電動シリンダ
74 正転油圧センサ
75 逆転油圧センサ