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特許7555090細胞療法を調節するための分子スイッチとしての抗体化学誘導二量体形成化合物(AbCID)
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】細胞療法を調節するための分子スイッチとしての抗体化学誘導二量体形成化合物(AbCID)
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240913BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240913BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240913BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240913BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240913BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240913BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240913BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240913BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240913BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/00
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/62
A61P35/00
A61K31/519
A61K48/00
A61P37/02
A61K39/395 H
【請求項の数】 73
(21)【出願番号】P 2019563868
(86)(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 US2018033750
(87)【国際公開番号】W WO2018213848
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】62/508,809
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ エー.ウェルズ
(72)【発明者】
【氏名】ザカリー ビー.ヒル
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ジェイ.マーティンコ
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/070554(WO,A1)
【文献】特表2016-531567(JP,A)
【文献】国際公開第2016/168769(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/168773(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0082056(US,A1)
【文献】N Engl J Med,2011年,Vol.365, No.18,pp.1673-1683
【文献】Blood,2005年,Vol.105, No.11,pp.4247-4254
【文献】Nat Chem Biol,2018年,Vol.14, No.2,pp.112-117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 7/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)Bcl-xL のABT-737結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに
(b)(i)ABT-737と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含む系であって、
前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表1:
【表1】
(すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である)
の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含み、前記ABT-737結合ドメインが、配列番号314のアミノ酸配列を含む、系。
【請求項2】
(a)(i)Bcl-2 のABT-199結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに
(b)(i)ABT-199と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含む系であって、
前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表2:
【表2】
(すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である)
のFAB-AZ11~43から成る組み合わせの群から選択される重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)の組み合わせを含み、前記ABT-199結合ドメインが、配列番号315のアミノ酸配列を含む、系。
【請求項3】
(a)(i)Bcl-2のABT-263結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに
(b)(i)ABT-263と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含む系であって、
前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表3:
【表3】
(すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である)
のFAB-AZ44~58から成る組み合わせの群から選択される重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)の組み合わせを含み、前記ABT-263結合ドメインが、配列番号315のアミノ酸配列を含む、系。
【請求項4】
(a)(i)FKBPのラパマイシンの合成リガンド(SLF)結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド、ここで、前記SLFは式(I)の構造を有する;ならびに
(b)(i)SLFと前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含む系であって、
前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表4:
【表4】
(すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である)
の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含み、前記SLF結合ドメインが、配列番号316のアミノ酸配列を含む、系。
【請求項5】
(a)(i)cIAP1のGDC-0152結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに
(b)(i)GDC-0152と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、
前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表5:
【表5】
(すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である)
の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含み、前記GDC-0152結合ドメインが、配列番号317のアミノ酸配列を含む、系。
【請求項6】
(a)(i)cIAP1のLCL161結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに
(b)(i)LCL161と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含む系であって、
前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表6:
【表6】
(すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である)
の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含み、前記LCL-161結合ドメインが、配列番号317のアミノ酸配列を含む、系。
【請求項7】
(a)(i)cIAP1のAT406結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに
(b)(i)AT406と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、
前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表7:
【表7】
(すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である)
の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含み、前記AT406結合ドメインが、配列番号317のアミノ酸配列を含む、系。
【請求項8】
(a)(i)cIAP1のCUDC-427結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに
(b)(i)CUDC-427と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含む系であって、
前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表8:
【表8】
(すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である)
の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含み、前記CUDC-427結合ドメインが、配列番号317のアミノ酸配列を含む、系。
【請求項9】
(a)(i)メトトレキサート結合Fab、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド、ここで、前記メトトレキサート結合FabであるHC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、およびLC-CDR3は、配列番号318、319、320、321、322、および323のアミノ酸配列をそれぞれ含む;
(b)(i)メトトレキサートと前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含む系であって、
前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表9:
【表9】
(LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である)
の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【請求項10】
(a)前記第1のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、前記第2のアダプタ部分が転写調節ドメインを含むか;
(b)前記第2のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、前記第1のアダプタ部分が転写調節ドメインを含み、
前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素は、前記小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的遺伝子の転写を調節することができる、請求項1~9のいずれか1項に記載の系。
【請求項11】
(a)前記転写調節ドメインが転写活性化ドメインであり、前記CIDが前記標的遺伝子の転写を上方調節することができる;または
(b)前記転写調節ドメインが転写抑制ドメインであり、前記CIDが前記標的遺伝子の転写を下方調節することができる、請求項10に記載の系。
【請求項12】
前記DNA結合ドメインが天然の転写調節因子に由来する、請求項10または11に記載の系。
【請求項13】
前記DNA結合ドメインが、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼに由来する、請求項10または11に記載の系。
【請求項14】
前記RNA依存性エンドヌクレアーゼまたは前記DNA依存性エンドヌクレアーゼに触媒活性がない、請求項13に記載の系。
【請求項15】
前記DNA結合ドメインが、触媒活性のないCas9(dCas9)に由来する、請求項14に記載の系。
【請求項16】
前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が、前記小分子の存在下で二量体になるときに標的細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的細胞の死を誘導することができる、請求項1~9のいずれか1項に記載の系。
【請求項17】
前記第1のアダプタ部分と前記第2のアダプタ部分が合わさって前記標的細胞の中でアポトーシスを誘導することができる、請求項16に記載の系。
【請求項18】
前記第1のアダプタ部分および/または前記第2のアダプタ部分がカスパーゼタンパク質に由来する、請求項17に記載の系。
【請求項19】
前記第1のアダプタ部分と前記第2のアダプタ部分がカスパーゼ-9に由来する、請求項18に記載の系。
【請求項20】
前記標的細胞が、個体に養子移植された組み換え細胞である、請求項16~19のいずれか1項に記載の系。
【請求項21】
前記標的細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞である、請求項20に記載の系。
【請求項22】
前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が、前記小分子の存在下で二量体になるときにT細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDが、標的抗原に結合したときにT細胞を活性化できるヘテロ二量体CARである、請求項1~9のいずれか1項に記載の系。
【請求項23】
(a)前記第1のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み、前記第2のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含むか;
(b)前記第2のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み、前記第1のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含んでいて、
前記細胞外抗原結合部分が前記標的抗原に特異的に結合する、請求項22に記載の系。
【請求項24】
前記細胞外抗原結合部分を含む前記CID構成要素が分泌シグナルペプチドをさらに含む、請求項23に記載の系。
【請求項25】
(a)前記第1のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン;および(iii)細胞外抗原結合部分を含み、前記第2のアダプタ部分が、細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインを含むか;
(b)前記第2のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン;および(iii)細胞外抗原結合部分を含み、前記第1のアダプタ部分が、細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいて;
前記細胞外抗原結合部分が前記標的抗原に特異的に結合する、請求項22に記載の系。
【請求項26】
前記第1のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、および(ii)膜貫通ドメインを含み;前記第2のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、および(ii)膜貫通ドメインを含み;前記第1のCID構成要素または前記第2のCID構成要素が、前記CID構成要素の結合部分に連結された細胞外抗原結合部分をさらに含み;前記細胞外抗原結合部分が前記標的抗原に特異的に結合する、請求項22に記載の系。
【請求項27】
前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が一緒に、細胞質共刺激ドメインおよび細胞質シグナル伝達ドメインを含む、請求項25または26に記載の系。
【請求項28】
前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が、前記小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDが、T細胞を標的細胞へとリダイレクトさせることのできるヘテロ二量体二重特異性T細胞エンゲージャである、請求項1~9のいずれか1項に記載の系。
【請求項29】
(a)前記第1のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、前記第2のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含むか;
(b)前記第2のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、前記第1のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含む、請求項28に記載の系。
【請求項30】
前記T細胞抗原結合部分が、CD3に特異的に結合する抗体部分である、請求項29に記載の系。
【請求項31】
前記標的細胞抗原結合部分が、疾患状態の細胞に関係する細胞表面抗原に特異的に結合する抗体部分である、請求項29または30に記載の系。
【請求項32】
前記疾患状態の細胞が、がん細胞である、請求項31に記載の系。
【請求項33】
前記標的細胞抗原結合部分が、CD19に特異的に結合する抗体部分である、請求項31または32に記載の系。
【請求項34】
前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が、前記小分子の存在下で二量体になるときに免疫細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDが、前記免疫細胞の活性化を調節できるヘテロ二量体シグナル伝達分子である、請求項1~9のいずれか1項に記載の系。
【請求項35】
前記第1のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含み、そして、前記第2のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含む、請求項34に記載の系。
【請求項36】
前記第1のアダプタ部分が細胞質シグナル伝達ドメインをさらに含み、および/または前記第2のアダプタ部分が細胞質シグナル伝達ドメインをさらに含む、請求項35に記載の系。
【請求項37】
前記免疫細胞がT細胞である、請求項34~36のいずれか1項に記載の系。
【請求項38】
前記T細胞がCAR T細胞である、請求項37に記載の系。
【請求項39】
細胞内の標的分子の発現を調節するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、請求項10~15のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をその細胞の中で発現する核酸又は細胞を含み、その細胞内の前記小分子の量を変化させることによって前記標的遺伝子の発現を調節する、医薬組成物。
【請求項40】
個体の疾患を処置するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項10~15のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を個体内の標的細胞の中で発現する核酸又は細胞、ここで、前記標的細胞内の前記標的遺伝子の発現レベルが前記疾患と関係している;および
(B)前記疾患を処置するために有効な治療計画において前記個体に投与される小分子、
を含む医薬組成物。
【請求項41】
請求項10~15のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【請求項42】
請求項10~15のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を含む細胞。
【請求項43】
個体内の標的細胞の生存を制御するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項16~21のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をその標的細胞の中で発現する核酸又は細胞;および
(B)(I)前記標的細胞を所定量殺す、または(II)前記標的細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において前記個体に投与される小分子、
を含む医薬組成物。
【請求項44】
前記標的細胞が、前記個体における養子細胞療法の一部である、請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項45】
前記標的細胞がCAR T細胞である、請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項46】
個体の疾患を処置するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項16~21のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変細胞;および
(B)(I)前記養子移植された細胞を所定量殺す、または(II)前記養子移植された細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において前記個体に投与される小分子、を含む医薬組成物。
【請求項47】
前記固体に養子細胞療法が適用され、前記養子細胞療法がCAR T細胞療法である、請求項46に記載の医薬組成物。
【請求項48】
請求項16~21のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【請求項49】
請求項16~21のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を含む細胞。
【請求項50】
養子細胞療法の一部である、請求項49に記載の細胞。
【請求項51】
CAR T細胞である、請求項50に記載の細胞。
【請求項52】
個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項22~27のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変T細胞、ここで前記標的抗原は、前記標的細胞の表面に発現している;および
(B)前記標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において前記個体に投与される小分子、
を含む医薬組成物。
【請求項53】
個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項23に記載の系のCID構成要素であって細胞質シグナル伝達ドメインを含むCID構成要素を発現する改変T細胞;
(B)請求項23に記載の系のCID構成要素であって細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素、ここで前記標的細胞の表面に標的抗原が発現している;および
(C)前記標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において前記個体に投与される小分子、
を含む医薬組成物。
【請求項54】
前記治療計画が、前記標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、請求項52または53に記載の医薬組成物。
【請求項55】
個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項22~27のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変T細胞、ここで前記標的細胞の表面に標的抗原が発現している;
(B)前記疾患を処置するのに有効な治療計画において前記個体に投与される前記小分子、
を含む医薬組成物。
【請求項56】
個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項23に記載の系のCID構成要素であって細胞質シグナル伝達ドメインを含むCID構成要素を発現する改変T細胞;
(B)請求項23に記載の系のCID構成要素であって細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素、ここで前記標的細胞の表面に標的抗原が発現している;および
(C)前記疾患を処置するのに有効な治療計画において前記個体に投与される前記小分子、
を含む医薬組成物。
【請求項57】
前記治療計画が前記疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、請求項55または56に記載の医薬組成物。
【請求項58】
請求項22~27のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【請求項59】
請求項22~27のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を含むT細胞。
【請求項60】
請求項23の系のCID構成要素であって細胞質シグナル伝達ドメインを含むCID構成要素を含むT細胞。
【請求項61】
個体の標的細胞に対する免疫反応を調節するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項28~33のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素;および
(B)前記標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において前記個体に投与される前記小分子、
を含む医薬組成物。
【請求項62】
前記治療計画が前記標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応する二重特異性T細胞エンゲージャドメインを含む従来の二重特異性T細胞エンゲージャの投与を含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、請求項61に記載の医薬組成物。
【請求項63】
個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項28~33いずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素;および
(B)前記疾患を処置するのに有効な治療計画において前記個体に投与される前記小分子を含む医薬組成物。
【請求項64】
前記治療計画が前記疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応する二重特異性T細胞エンゲージャドメインを含む従来の二重特異性T細胞エンゲージャの投与を含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、請求項63に記載の医薬組成物。
【請求項65】
請求項28~33のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【請求項66】
個体でT細胞が媒介する免疫反応を調節するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項34~38のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を発現する核酸又は細胞;および
(B)前記T細胞が媒介する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において前記個体に投与される前記小分子、
を含む医薬組成物。
【請求項67】
前記治療計画が、前記T細胞が媒介する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するシグナル伝達ドメインを含む従来の単量体シグナル伝達分子をT細胞の中で発現させることを含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、請求項66に記載の医薬組成物。
【請求項68】
個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、
(A)請求項34~38のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を発現する核酸又は細胞であって、前記個体内にあって前記標的細胞を認識して殺すことのできるT細胞の中で発現する、第1と第2のCID構成要素; および
(B)前記疾患を処置するのに有効な治療計画において前記個体に投与される前記小分子、
を含む医薬組成物。
【請求項69】
前記治療計画が前記疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するシグナル伝達ドメインを含む単量体シグナル伝達分子をT細胞の中で発現させることを含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項70】
前記T細胞がCAR T細胞である、請求項66~69のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項71】
請求項34~38のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【請求項72】
請求項34~38のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を含むT細胞。
【請求項73】
前記T細胞がCAR T細胞である、請求項72に記載のT細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2017年5月19日に出願されたアメリカ合衆国仮特許出願第62/508,809号の優先権の恩恵を主張するものであり、その全内容があらゆる目的で参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、細胞療法を調節するための組成物と方法に関する。特に組成物は、分子スイッチとしての機能がある、生理学的に機能する合成された抗体化学誘導二量体形成化合物(AbCID)複合体を作製するための一般的なアーキテクチャを含んでいる。さらに、そのような組成物を利用して例えばさまざまな疾患と病状を処置する方法も提供される。
連邦が資金提供する研究または開発に関する宣言
【0003】
本発明は、政府のサポートを得て、国立衛生研究所から資金提供されたR01 CA191018とR01GM097316のもとでなされた。政府は本発明において所定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
化学的に誘導される二量体形成化合物(CID)は、タンパク質-タンパク質相互作用の用量制御と時間的制御のための強力なツールである(Spencer他、Science、第262巻:1019~1024ページ(1993年);Clackson, T.、Chemical Biology、227~249ページ(2008年);Fegan他、Chem. Rev.、第110巻:3315~-3336ページ(2010年);Putyrski他、FEBS Lett.、第586巻:2097~2105ページ(2012年))。CIDは、人工的細胞回路の開発(Lienert他、Nat. Rev. Mol. Cell Biol.、第15巻:95-107ページ(2014年))、分解酵素活性の活性化(Shekhawat他、Curr. Opin. Chem. Biol.、第15巻:789~797ページ(2011年);Nguyen他、Nat. Commun.、第7巻:12009ページ(2016年);Zetsche他、Nat. Biotechnol.、第33巻:139~142ページ(2015年);Pelletier他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第95巻:12141~12146ページ(1998年))に応用されており、より最近では、次世代T細胞療法のための安全スイッチとして臨床で用いられている(Straathof他、Blood、第105巻:4247~4254ページ(2005年);Di Stasi他、N. Engl. J. Med.、第365巻:1673~1683ページ(2011年))。多数のホモCDとヘテロCDが開発されているが、その大半は、小分子誘導剤に結合することが知られている天然タンパク質の断片に限定されており、その例は、プロトタイプのラパマイシン-FKBP12-FRB系(Spencer他、Science、第262巻:1019~1024ページ(1993年);Ho他、Nature、第382巻:822~826ページ(1996年);Belshaw他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻:4604~4607ページ(1996年);Rivera他、Nat. Med.、第2巻:1028~1032ページ(1996年);Farrar他、Nature、第383巻:178~181ページ(1996年);Miyamoto他、Nat. Chem. Biol.、第8巻:465~470ページ(2012年);Erhart他、Chem. Biol.、第20巻:549~557ページ(2013年);Kopytek他、Chem. Biol.、第7巻:313~321ページ(2000年);Liang他、Sci. Signal.、第4巻、rs2ページ(2011年);Czlapinski他、J. Am. Chem. Soc.、第130巻:13186~13187ページ(2008年))である。現在、これらのツールを設計または同定する一般的な方法は存在していない。しかし細胞内と動物内における生物学的事象の多重化制御に向けてのCIDの利用拡大とCIDへの関心から、より多くの小分子誘導系を発明することが必要とされている。さらに、CIDはヒトの治療において有望だが、免疫原性のリスクを減らすかなくすためにヒト由来の部分に基づくCIDを生成させる系統的な手段は存在していない。
【0005】
これまでの研究者は、小分子の結合によって「トラップされた」タンパク質立体構造に特異的に結合できると考えられる抗体を生成させるのにファージ提示を利用できることを示している(Gao他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第106巻:3071~3076ページ(2009年);Rizk他、Nat. Struct. Mol. Biol.、第18巻:437~442ページ(2011年);Staus他、Nature、第535巻:448~452ページ(2016年);Thomsen他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第110巻:8477~8482ページ(2013年))。これらの場合には、抗体は、CIDと同様、タンパク質の小分子結合形に対して増大した親和性を示す。しかし抗体は、小分子とは独立に、トラップされた立体構造のタンパク質に結合できることがしばしばある。それが理由で、立体構造選択的な抗体がアポ型よりも結合型を選択することは制限されるため、選択的CIDとしての有用性が低下する。したがって本分野では、改良されたCIDが必要とされている。さらに、ヒトを治療するため組み換えタンパク質または組み換え細胞の調節にCID技術を応用することは、ヒト由来のタンパク質足場を用いて免疫原性を低下させることに大きく依存する。現時点では、完全なヒト部分を含有する唯一のCID系はFKBP-FRB CIDであり、その活性化に用いられる小分子は、毒性であるか、それ自身が薬様特性を欠いている。したがってヒト由来のタンパク質または抗体を用いたCIDの開発を進展させる必要がある。
【発明の概要】
【0006】
本明細書に記載されているいくつかの側面は、抗体化学誘導二量体形成化合物(AbCID)を含む組成物と方法に関する。
【0007】
1つの側面では、本明細書において、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用して前記第1のCID構成要素と前記小分子の間に複合体を形成することができる第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1の核酸と;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2の結合部分が、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位に特異的に結合する系が提供される。いくつかの実施態様では、この系はさらに小分子を含んでいて、第2のCID構成要素が、前記小分子と第1のCID構成要素間の複合体に、前記小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位の位置で結合する。いくつかの実施態様では、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位は、前記小分子と、第1の結合部分のうちで前記小分子が結合する部位の間の接合部分であり、前記小分子の少なくとも1個の原子と、第1の結合部分の1個の原子を含んでいる。
【0008】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、小分子に特異的に結合する第1の抗体部分である。いくつかの実施態様では、小分子はメトトレキサートである。
【0009】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、小分子の天然の結合パートナー、またはその小分子結合バリアントに由来する。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーは、Bcl-2、Bcl-xL、FK506結合タンパク質(FKBP)、アポトーシスタンパク質1の細胞阻害剤(cIAP1)のいずれかである。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーはBcl-2であり、小分子は、ABT-199とABT-263のいずれか、またはこれらの類似体である。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーはBcl-xLであり、小分子は、ABT-737またはその類似体である。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーはFKBPであり、小分子は、式(I)の構造を有するラパマイシンの合成リガンド(SLF)またはその類似体である。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーはcIAP1であり、小分子は、GDC-0152、LCL161、AT406、CUDC-427、ビリナパントのいずれか、またはこれらの類似体である。
【0010】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、第2の結合部分は、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む化学エピトープに特異的に結合する抗体部分である。
【0011】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、第2のCID構成要素は、第1のCID構成要素と小分子の複合体に、遊離した第1のCID構成要素と遊離した小分子のそれぞれに対する結合に関するKdの約1/500以下の解離定数(Kd)で結合する。
【0012】
別の1つの側面では、本明細書において、(a)Bcl-xL のABT-737結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)ABT-737と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表1の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系が提供される。いくつかの実施態様では、ABT-737結合ドメインは、配列番号314のアミノ酸配列を含んでいる。
【0013】
別の1つの側面では、本明細書において、(a)Bcl-2 のABT-199結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)ABT-199と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表2の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系が提供される。いくつかの実施態様では、ABT-199結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列を含んでいる。
【0014】
別の1つの側面では、本明細書において、(a)Bcl-2のABT-263結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)ABT-263と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表3の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系が提供される。いくつかの実施態様では、ABT-263結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列を含んでいる。
【0015】
別の1つの側面では、本明細書において、(a)FKBPのラパマイシンの合成リガンド(SLF)結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド、ここで前記SLFは式(I)の構造を有する;ならびに(b)SLFと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表4の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系が提供される。いくつかの実施態様では、SLF結合ドメインは、配列番号316のアミノ酸配列を含んでいる。
【0016】
別の1つの側面では、本明細書において、(a)cIAP1のGDC-0152結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)GDC-0152と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表5の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系が提供される。いくつかの実施態様では、GDC-0152結合ドメインは配列番号317のアミノ酸配列を含んでいる。
【0017】
別の1つの側面では、本明細書において、(a)cIAP1のLCL161結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)LCL161と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表6の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系が提供される。いくつかの実施態様では、LCL-161結合ドメインは配列番号317のアミノ酸配列を含んでいる。
【0018】
別の一実施態様では、本明細書において、(a)cIAP1のAT406結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)AT406と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表7の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系が提供される。いくつかの実施態様では、AT406結合ドメインは配列番号317のアミノ酸配列を含んでいる。
【0019】
別の一実施態様では、本明細書において、(a)cIAP1のCUDC-427結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)CUDC-427と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表8の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系が提供される。いくつかの実施態様では、CUDC-427結合ドメインは配列番号317のアミノ酸配列を含んでいる。
【0020】
別の1つの側面では、本明細書において、(a)メトトレキサート結合Fab(このメトトレキサート結合FabであるHC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3は、配列番号318、319、320、321、322、323をそれぞれ含んでいる)を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)メトトレキサートと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表9の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系が提供される。
【0021】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、(a)第1のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第2のアダプタ部分が転写調節ドメインを含むか;(b)第2のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第1のアダプタ部分が転写調節ドメインを含み、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的遺伝子の転写を調節することができる。いくつかの実施態様では、(a)転写調節ドメインは転写活性化ドメインであり、CIDは標的遺伝子の転写を上方調節することができる;または(b)転写調節ドメインは転写抑制ドメインであり、CIDは標的遺伝子の転写を下方調節することができる。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは天然の転写調節因子に由来する。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼに由来する。いくつかの実施態様では、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼに触媒活性がない。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは、触媒活性のないCas9(dCas9)に由来する。
【0022】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときに標的細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDは標的細胞の死を誘導することができる。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分と第2のアダプタ部分が合わさって標的細胞の中でアポトーシスを誘導することができる。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分および/または第2のアダプタ部分はカスパーゼタンパク質に由来する。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分と第2のアダプタ部分はカスパーゼ-9に由来する。いくつかの実施態様では、標的細胞は、個体に養子移植された組み換え細胞である。いくつかの実施態様では、標的細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞である。
【0023】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときにT細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDは、標的抗原に結合したときにT細胞を活性化できるヘテロ二量体CARである。いくつかの実施態様では、(a)第1のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み、第2のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含むか;(b)第2のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み、第1のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含んでいて、細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する。いくつかの実施態様では、細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素は、分泌シグナルペプチドをさらに含んでいる。いくつかの実施態様では、(a)第1のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン;および(iii)細胞外抗原結合部分を含み、第2のアダプタ部分が、細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインを含むか;(b)第2のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン;および(iii)細胞外抗原結合部分を含み、第1のアダプタ部分が、細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいて;細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、および(ii)膜貫通ドメインを含み;第2のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、および(ii)膜貫通ドメインを含み;第1のCID構成要素または第2のCID構成要素が、前記CID構成要素の結合部分に連結された細胞外抗原結合部分をさらに含み;前記細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素が合わさって、細胞質共刺激ドメインおよび細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいる。
【0024】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDは、T細胞を標的細胞へとリダイレクトさせることのできるヘテロ二量体二重特異性T細胞エンゲージャである。いくつかの実施態様では、(a)第1のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、第2のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含むか;(b)第2のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、第1のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、T細胞抗原結合部分は、CD3に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、疾患状態の細胞に関係する細胞表面抗原に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、疾患状態の細胞は、がん細胞である。いくつかの実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、CD19に特異的に結合する抗体部分である。
【0025】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときに免疫細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDは、前記免疫細胞の活性化を調節できるヘテロ二量体シグナル伝達分子である。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含み;第2のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含んでいる。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分は細胞質シグナル伝達ドメインをさらに含む、および/または第2のアダプタ部分は細胞質シグナル伝達ドメインをさらに含む。いくつかの実施態様では、免疫細胞はT細胞である。いくつかの実施態様では、T細胞はCAR T細胞である。
【0026】
別の1つの側面では、本明細書において、小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合する結合部分を結合分子ライブラリから選択する方法が提供され、この方法は、(a)結合部分の入力セットをスクリーニングして、小分子の不在下ではコグネイト結合部分に結合しない結合部分を探すことにより、負の選択がされた(counter selected)結合部分のセットを生成させ;(b)結合部分の入力セットをスクリーニングして、小分子とコグネイト結合部分の複合体に結合する結合部分を探すことにより、正の選択がされた結合部分のセットを生成させ;(c)工程(a)のスクリーニングと工程(b)のスクリーニングを含むスクリーニングを1回以上実施して、小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合する結合部分のセットを生成させることを含んでいる。いくつかの実施態様では、この方法は2または複数ラウンドのスクリーニングを含んでいて、(1)第1回目のスクリーニングのための工程(a)の結合部分の入力セットが結合分子ライブラリであり、(2)各回のスクリーニングのための工程(b)の結合部分の入力セットが、所与の回のスクリーニングからの工程(a)の負の選択がされた結合部分のセットであり、(3)第1回目のスクリーニングの後の各回のスクリーニングのための工程(a)の結合部分の入力セットが、直前の回のスクリーニングからの工程(b)の正の選択がされた結合部分のセットであり、(4)小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合する結合部分のセットが、最終回のスクリーニングのための工程(b)の正の選択がされた結合部分のセットである。いくつかの実施態様では、この方法は、少なくとも2回の選択を含んでいる。
【0027】
結合部分を選択する上記の任意の方法に従ういくつかの実施態様では、結合部分のセットに含まれる結合部分であって小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合するものの少なくとも1つは、前記複合体に、遊離した第1のCID構成要素と遊離した小分子のそれぞれに対する結合に関する解離定数(Kd)の約1/500以下のKdで結合する。いくつかの実施態様では、結合部分のセットに含まれる結合部分であって小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合するもののそれぞれは、前記複合体に、遊離した第1のCID構成要素と遊離した小分子のそれぞれに対する結合に関する解離定数(Kd)の約1/500以下のKdで結合する。
【0028】
結合部分を選択する上記の任意の方法に従ういくつかの実施態様では、結合分子ライブラリは、抗体ライブラリ、DARPinライブラリ、ナノボディライブラリ、アプタマーライブラリのいずれかである。いくつかの実施態様では、結合分子ライブラリは抗体ライブラリである。いくつかの実施態様では、抗体ライブラリはファージ提示Fabライブラリである。
【0029】
別の1つの側面では、本明細書において、小分子と結合部分間の複合体に特異的に結合する抗体部分を含んでいて、(A)結合部分を選択するための上記の任意の方法に従って抗体ライブラリから抗体部分を選択する工程と;(B)(A)の抗体部分の1つを含むコンストラクトを用意する工程を含む方法によって調製されるコンストラクトが提供される。
【0030】
上記の任意の系に従ういくつかの実施態様では、第2の結合部分は、(A)結合部分を選択するための上記の任意の方法に従って抗体ライブラリから抗体部分を選択する工程と;(B)(A)の抗体部分の1つになる第2の結合部分を選択する工程を含む方法によって選択された抗体部分である。
【0031】
別の1つの側面では、本明細書において、細胞内の標的分子の発現を調節する方法として、標的遺伝子の転写を調節することのできるCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素をその細胞の中で発現させ、その細胞内の小分子の量を変化させることによって標的遺伝子の発現を調節することを含む方法が提供される。
【0032】
別の1つの側面では、本明細書において、個体の疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)標的遺伝子の転写を調節することのできるCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を個体内の標的細胞の中で発現させ(その標的細胞内の標的遺伝子の発現レベルが疾患と関係している);(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。
【0033】
別の1つの側面では、本明細書において、標的遺伝子の転写を調節することのできるCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸が提供される。
【0034】
別の1つの側面では、本明細書において、標的遺伝子の転写を調節することのできるCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を含む細胞が提供される。
【0035】
別の1つの側面では、本明細書において、個体内の標的細胞の生存を制御する方法として、(I)標的細胞を所定量殺す、または(II)標的細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において、(A)標的細胞の死を誘導することのできるCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素をその標的細胞の中で発現させること;(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、標的細胞は、個体における養子細胞療法の一部である。いくつかの実施態様では、標的細胞はCAR T細胞である。
【0036】
別の1つの側面では、本明細書において、個体の疾患を処置する方法として、(I)養子移植された細胞を所定量殺す、または(II)養子移植された細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において、(A)その疾患のため、標的細胞の死を誘導することのできるCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変細胞を含む養子細胞療法を前記個体に適用し;(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供されている。いくつかの実施態様では、養子細胞療法はCAR T細胞療法である。
【0037】
別の1つの側面では、本明細書において、標的細胞の死を誘導することのできるCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸が提供される。
【0038】
別の1つの側面では、本明細書において、標的細胞の死を誘導することのできるCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を含む細胞が提供される。いくつかの実施態様では、細胞は養子細胞療法の一部である。いくつかの実施態様では、細胞はCAR T細胞である。
【0039】
別の1つの側面では、本明細書において、個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法として、標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)ヘテロ二量体CARを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変T細胞を前記個体に投与し(そのとき標的抗原が標的細胞の表面に発現している);(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0040】
別の1つの側面では、本明細書において、個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法として、標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)細胞質シグナル伝達ドメインを含むヘテロ二量体CARを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系のCID構成要素を発現する改変T細胞を前記個体に投与すること;(B)細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素を前記個体に投与し(そのとき標的細胞の表面に標的抗原が発現している);(C)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0041】
標的細胞に対する免疫反応を調節する上記の任意の方法のいくつかの実施態様では、治療計画は、標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0042】
別の1つの側面では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)ヘテロ二量体CARを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変T細胞を前記個体に投与し(そのとき標的細胞の表面に標的抗原が発現している);(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0043】
別の1つの側面では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)細胞質シグナル伝達ドメインを含むヘテロ二量体CARを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系のCID構成要素を発現する改変T細胞を前記個体に投与すること;(B)細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素を前記個体に投与し(そのとき標的細胞の表面に標的抗原が発現している);(C)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0044】
上記の標的細胞を特徴とする疾患を処置するための任意の方法に従ういくつかの実施態様では、治療計画は疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0045】
別の1つの側面では、本明細書において、ヘテロ二量体CARを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸が提供される。
【0046】
別の1つの側面では、本明細書において、ヘテロ二量体CARを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を含むT細胞が提供される。
【0047】
別の1つの側面では、本明細書において、細胞質シグナル伝達ドメインを含むヘテロ二量体CARを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系のCID構成要素を含むT細胞が提供される。
【0048】
別の1つの側面では、本明細書において、個体の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法として、標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)ヘテロ二量体T細胞エンゲージャを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を前記個体に投与すること;(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療計画は標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応する二重特異性T細胞エンゲージャドメインを含む従来の二重特異性T細胞エンゲージャの投与を含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0049】
別の1つの側面では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法であって、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)ヘテロ二量体T細胞エンゲージャを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を前記個体に投与すること;(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療計画は疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応する二重特異性T細胞エンゲージャドメインを含む従来の二重特異性T細胞エンゲージャの投与を含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0050】
別の1つの側面では、本明細書において、ヘテロ二量体T細胞エンゲージャを形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸が提供される。
【0051】
別の1つの側面では、本明細書において、個体でT細胞が媒介する免疫反応を調節する方法として、T細胞が媒介する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)ヘテロ二量体シグナル伝達分子を形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素をT細胞の中で発現させること;(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療計画は、T細胞が媒介する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するシグナル伝達ドメインを含む従来の単量体シグナル伝達分子をT細胞の中で発現させることを含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0052】
別の1つの側面では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)ヘテロ二量体シグナル伝達分子を形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を、個体内にあって標的細胞を認識して殺すことのできるT細胞の中で発現させること;(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療計画が疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するシグナル伝達ドメインを含む単量体シグナル伝達分子をT細胞の中で発現させることを含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0053】
ヘテロ二量体シグナル伝達分子を形成するCIDを用いる上記の任意の方法に従ういくつかの実施態様では、T細胞はCAR T細胞である。
【0054】
別の1つの側面では、本明細書において、ヘテロ二量体シグナル伝達分子を形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸が提供される。
【0055】
別の1つの側面では、本明細書において、ヘテロ二量体シグナル伝達分子を形成するCIDの構成要素を含む上記の任意の系の第1と第2のCID構成要素を含むT細胞が提供される。いくつかの実施態様では、T細胞はCAR T細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1A図1Aは、代表的な抗体化学誘導二量体形成化合物(AbCID)の設計、作製、特徴づけをまとめた模式図を示している。
【0057】
図1B図1Bは、BCL-xLのABT-737誘導性Fab結合剤を選択するために利用するファージ選択戦略のダイヤグラムを示している。
【0058】
図1C図1Cはバイオレイヤー干渉法の結果を示しており、AZ2というFabは、ABT-737の存在下ではBCL-xLへの強力かつ可逆的な結合を示す(左)が、ABT-737の不在下では顕著な結合がないこと(右)が示されている。青色の曲線は、測定されたデータ点を表わし、赤色の点線は、分析に用いた全体フィットの線を表わす。
【0059】
図2A図2Cは、化学エピトープがAZ1、AZ2、AZ3というFabに対する選択性を有する証拠を示している。
【0060】
図2A図2Aは、結合リガンドABT-737、ABT-263の化学構造と、結合リガンドBakペプチドのアミノ酸配列を示している。
【0061】
図2B図2Bは、BCL-xL に結合したABT-737、ABT-263、Bakペプチドの結晶構造(タンパク質データバンク登録コード:2YXJ、4QNQ、5FMK)を示しており、各リガンドがBCL-xLのほぼ同じ立体位置に結合することを明らかにしている。
【0062】
図2C図2Cはバイオレイヤー干渉法の結果を示しており、AZ1~AZ3というFabは、ABT-737の存在下ではBCL-xLに強力に結合し、ABT-263の存在下では効力が大きく低下し、Bakペプチドの存在下では結合が弱いか検出不能であることが示されている。データは、これらのFabを同じ分子内のわずかな構造差から容易に識別できることを示しており、AZ1、AZ2、AZ3というFabが化学エピトープ選択的であることを支持している。アイソタイプ対照はCD55に対して選択されたFabであり、AZ1、AZ2、AZ3への足場は同じだが、CDR配列が異なっている。
【0063】
図3A図3Cは、AZ1の一本鎖Fabバージョンを示しており、このAZ1は、CRISPRが媒介する遺伝子活性化を調節するための細胞内AbCIDとして用いられる。
【0064】
図3A図3Aは、AbCIDによって調節される遺伝子活性化系の模式図を示している。dCas9へのVPR転写活性化ドメインの誘導性リクルートによってルシフェラーゼレポータが発現する。
【0065】
図3B図3Bは、ABT-737(20 nM)をAbCID依存性(gated)システムに添加してから48時間後のルシフェラーゼの活性を、従来のCIDにラパマイシン(100 nM)を添加した場合と比較した定量結果を示している。数値は陽性対照(VPRに遺伝子融合させたdCas9)に規格化し、陰性対照(陰性sgRNAを有するdCas9-VPR)でのバックグラウンドを差し引く。各データ点は、4回の独立な実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【0066】
図3C図3Cは、ABT-737をAbCID依存性システムに添加して48時間誘導した後の用量-反応関係を示している。各データ点は、3回の独立な実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【0067】
図4図4は、CAR T細胞の活性化を調節するのに用いる細胞外AbCIDを示している。
【0068】
図4A図4Aは、典型的にはCARコンストラクトの外部部分として機能するscFvが誘導性二量体の単量体1で置き換えられている場合の模式図を示している。この二量体の単量体2は今やscFvに融合し、がん細胞を認識するとともに、リガンドの存在下で二量体を形成する二機能性タンパク質を生み出している。リガンドが添加されると、CAR T細胞はがん細胞へとリクルートされて活性化される。
【0069】
図4B図4Bは、CARコンストラクトの内部部分に典型的に見いだされる刺激ドメインと共刺激ドメインが分割されて、誘導性二量体の単量体1または単量体2に融合している場合の模式図を示している。リガンドが添加されると、CARコンストラクトの内部部分が合わさり、CAR T細胞が活性化される。
【0070】
図4C図4Cは、CARコンストラクトの内部部分に典型的に見いだされる刺激ドメインと共刺激ドメインが分割されて、誘導性二量体の単量体1または単量体2に膜ドメインを介して融合しているため、二量体形成ドメインは細胞外に留まっている場合の模式図を示している。リガンドが添加されると、CARコンストラクトの内部部分が合わさり、CAR T細胞が活性化される。
【0071】
図4D図4Dは、T細胞受容体複合体のCD3部分を認識する抗体が誘導性二量体の単量体1に融合した後、抗原認識抗体が単量体2に融合している場合の模式図を示している。リガンドが添加されると、CAR T細胞ががん細胞へとリクルートされて活性化される。要するに、この系は、誘導性二重特異性T細胞架橋(engaging)抗体として機能する。
【0072】
図4E図4Eは、分割されたヒト転写因子の転写活性化ドメインが誘導性二量体の単量体1に融合した後、分割されたヒト転写因子のDNA結合ドメインが単量体2に融合している場合の模式図を示している。リガンドが添加されると、転写活性化ドメインはDNA結合ドメインの部位へとリクルートされ、興味ある遺伝子の転写が活性化される。要するに、この系は誘導性遺伝子発現回路として機能する。この系を利用すると、CAR T細胞の中でCARを誘導的に発現させることや、生物治療剤を誘導的に発現させて産生することができる。
【0073】
図4F図4Fは、AbCIDによって調節されるCAR T細胞の活性化の模式図を示している(CARは、典型的なscFvの代わりに細胞外BCL-xLドメインを含有している)。AZ1-αCD19二重特異性抗体とさまざまな濃度のABT-737を添加すると、CD19+がん細胞へとリクルートされ、CAR T細胞の調節可能な活性化が起こる。
【0074】
図4G図4Gは、CARの作製に用いる遺伝子コンストラクトの直線状ダイヤグラムと、この研究のための対応する抗体の模式図を示している。
【0075】
図4H図4Hは、CD19+ K562標的細胞またはCD19- K562標的細胞とともに培養を開始し、抗体(5 nM)とさまざまな濃度の小分子を添加してから20時間後にNFATに依存したGFPレポータの発現を定量した結果を示している。CD19+ K562細胞と二重特異性抗体の存在下でABT-737を添加すると、NFAT経路が用量に依存して活性化したが、ABT-737が存在していないとき、またはCD19- K562標的細胞とともに培養したときには、活性化は観察されなかった。抗体のCD19結合scFv部分を欠く欠陥AbCID CARは、あらゆる条件下で活性化しなかった。各データ点は、3回の独立な実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【0076】
図5図5は、AbCIDの活性化に必要なABT-737の濃度範囲が、細胞を殺すのに必要な濃度範囲よりも低いことを示している。ABT-737処理の24時間後にCellTiter-Gloアッセイを利用してJurkat細胞とK562細胞の生存率を測定し、DMSO処理だけの場合と比較した(右軸)。データを図4HからのCAR T細胞活性化データと並置した(左軸)。測定されたAbCID活性化濃度の範囲はより低く、毒性濃度の範囲外であった。各データ点は、3回の独立な実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【0077】
図6図6は、タンパク質データバンクからの866種類の小分子-タンパク質複合体の結晶構造で小分子に溶媒が近づけるかどうかを分析した結果を示している。われわれは、ABT-737がBCL-xLとの複合体になったときに溶媒に曝露される広い表面積(308Å2)が、抗体によって直接認識される化学エピトープを提供するであろうと仮定した。天然のCIDの一部であるFKBP12/ラパマイシン複合体(528Å2)がこの分析の大きな外れ値であることが、われわれの仮定を裏付けている。
【0078】
図7図7は、ABT-737に結合したBCL-xLに対する2回目から4回目までのFab-ファージ選択のファージライブラリの代表的な力価を示している。BCL-xLの結合を回収されたコロニー形成単位の定量によって求めると、1μMのABT-737の存在下ではDMSOと比べて10倍超のファージの富化が観察された。
【0079】
図8図8は、ABT-737が結合したBCL-xLの選択に由来する精製した独自配列FabのELISAを示している。すべてのFabが、ABT-737の存在下で結合の増大を示した。調べた10種類のFabのうちの4種類(AZ1~AZ4)が、ABT-737の存在下では大きな効力で用量に依存してBCL-xLに結合したが、ABT-737の不在下では結合が実質的に確認できなかった。各データ点は1回の測定を表わしている。
図8-1】図8の説明に同じ。
図8-2】図8の説明に同じ。
【0080】
図9A図9Cは、AZ1、AZ3、AZ4というFabのバイオレイヤー干渉法の結果を示している。実線の曲線は測定されたデータ点を表わし、点線は、分析に用いた全体フィットを表わしている。
【0081】
図9A図9Aは、AZ1というFab が、ABT-737の存在下ではBCL-xLに強力かつ可逆的に結合する(左)が、ABT-737の不在下では顕著な結合を示さないこと(右)を示している。
【0082】
図9B図9Bは、AZ3というFab が、ABT-737の存在下ではBCL-xLに強力に結合する(左)が、ABT-737の不在下では結合が無視できること(右)を示している。
【0083】
図9C図9Cは、AZ4というFab が、ABT-737の存在下ではAZ1とAZ3というFabよりもBCL-xLに弱く結合し(左)、DMSOだけの場合よりもABT-737結合型に対する選択性がより小さかったこと(右)を示している。AZ4の動態データは正確にフィットさせることができなかったため、全体フィットのデータは報告しない。
【0084】
図10図10は、C末端にAviをタグとして有するscAZ1をトランスフェクトした細胞からのHEK293細胞ライセートの抗AviTagイムノブロッティングを示している。
【0085】
図11図11は、ABT-737(20 nM)をscAZ1 AbCID遺伝子回路に添加してから48時間後、またはラパマイシン(100 nM)を従来のFKBP-FRB CID遺伝子回路に添加してから48時間後のルシフェラーゼ活性化の定量結果を示している。この生データを用いて規格化し、図3Bを作成した。各データ点は、4回の独立な実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【0086】
図12A図12Bは、AbCIDを用量に依存して活性化させたときの古典的マーカーCD69とIL-2分泌によってCAR T細胞の活性化を独立に確認したことを示している。
【0087】
図12A図12Aは、CD19+ K562標的細胞またはCD19- K562標的細胞とともに培養を開始し、抗体(5 nM)とさまざまな濃度の小分子を添加してから20時間後に免疫蛍光フローサイトメトリーによって測定したCD69の発現の定量結果を示している。CD19+ K562細胞と二重特異性抗体の存在下でABT-737を添加すると、CD69は用量に依存して発現したが、ABT-737が存在していないとき、またはCD19- K562標的細胞とともに培養したときには、発現が観察されなかった。抗体のCD19結合scFv部分を欠く欠陥AbCID CARは、あらゆる条件下でCD69の発現を示さなかった。各データ点は、3回の独立な実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【0088】
図12B図12Bは、CD19+ K562標的細胞またはCD19- K562標的細胞とともに培養を開始し、抗体(5 nM)とさまざまな濃度の小分子を添加してから20時間後にELISAによって測定したIL-2分泌の定量結果を示している。CD19+ K562細胞と二重特異性抗体の存在下でABT-737を添加すると、IL-2は用量に依存して分泌されたが、ABT-737が存在していないとき、またはCD19- K562標的細胞とともに培養したときには、分泌は観察されなかった。抗体のCD19結合scFv部分を欠く欠陥AbCID CARは、あらゆる条件下でIL-2を分泌しなかった。各データ点は、3回の独立な実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【0089】
図13図13は、AbCIDの活性化に必要なABT-737の濃度範囲が細胞を殺すのに必要な濃度範囲よりも低いことを示している。ABT-737処理の24時間後にCellTiter-Gloアッセイを利用してHEK293T細胞の生存率を測定し、DMSO処理だけの場合と比較した(右軸)。データを図3Cからのルシフェラーゼ活性データと並置した(左軸)。測定されたAbCID活性化濃度範囲はより低く、毒性濃度の範囲外であった。各データ点は、3回の独立な実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【0090】
図14図14は、CAR T細胞と、二重特異性抗体で標識された腫瘍が二量体を形成する図を示しており、その二重特異性抗体は、この抗体とCAR T細胞の両方に結合する代表的な小分子二量体形成化合物に特異的に結合する。
【0091】
図15図15は、BCL-2/ABT-199に対して選択されたFab-ファージの競合ELISAの結果を示している。上位のヒット(薄い灰色)をシークエンシングして独自の配列を持つクローンを同定した。
【0092】
図16図16は、メトトレキサート結合Fab/メトトレキサートに対して選択されたFab-ファージの競合ELISAの結果を示している。上位のヒット(薄い灰色)をシークエンシングして独自の配列を持つクローンを同定した。
【0093】
図17図17は、FKBP/SLFに対して選択されたFab-ファージの競合ELISAの結果を示している。上位のヒット(薄い灰色)をシークエンシングして独自の配列を持つクローンを同定した。
【0094】
図18図18は、cIAP1/GDC-0152、cIAP1/LCL161、cIAP1/AT406、cIAP1/CUDC-427に対して選択されたFab-ファージの競合ELISAの結果を示している。上位のヒット(薄い灰色)をシークエンシングして独自の配列を持つクローンを同定した。
図18-1】図18の説明に同じ。
【0095】
図19A図19Aは、AbCIDによって調節される誘導性二重特異性T細胞エンゲージャの模式図であり、AbCID構成要素は、CD3を認識する抗体と、腫瘍特異的抗原に特異的に結合する抗体に連結されている。小分子二量体形成化合物を投与するとCID複合体の生成が可能になり、その結果としてT細胞が、腫瘍特異的抗原を発現するがん細胞にリクルートされる。
【0096】
図19B図19Bは、抗CD3抗体に結合するBcl-2と、抗CD19抗体に結合するAZ21、AZ34、AZ35いずれかの抗体とを有する二重特異性T細胞エンゲージャによって媒介されるT細胞活性化のフローサイトメトリー分析の結果を示している。CD19+ K562細胞とともに培養すると、ABT-199の添加により、上記3種類の二重特異性T細胞エンゲージャのそれぞれについてT細胞が活性化することが、NFAT活性化とCD69発現によって判明した。
図19B-1】図19Bの説明に同じ。
図19B-2】図19Bの説明に同じ。
図19B-3】図19Bの説明に同じ。
【0097】
図19C図19Cは、抗CD3抗体に結合するBcl-2と、抗CD19抗体に結合する抗体AZ21とを有する二重特異性T細胞エンゲージャについて、T細胞の活性化がABT-199の用量に依存することを示している。T細胞の活性化は、NFATの活性化を表わすGFP陽性T細胞の割合によって評価した。
【発明を実施するための形態】
【0098】
タンパク質-タンパク質相互作用の時間的制御が生物のシグナル伝達では非常に重要である。さまざまな実施態様では、本発明により、小分子(SM)化学誘導二量体形成化合物を通じてヘテロマータンパク質a-タンパク質b相互作用を促進する化学誘導二量体形成化合物が提供される。本明細書に記載されている代表的な系では、2つの部分からなるタンパク質a-タンパク質b二量体のタンパク質aは、抗体または抗体フラグメント(Ab)を含み、タンパク質bは、小分子(SM)リガンドに強力に結合する能力に基づいて選択される。当業者であればわかるように、本発明の組成物と方法において、抗体を、SMに特異的に結合する任意のタンパク質で置き換えることができる。
【0099】
Abは実用的な任意の方法によって生成されるが、代表的な一実施態様では、Abは、タンパク質bのSM結合形に対して選択されるとともにタンパク質bの非結合形に対して逆選択されたAb-ファージライブラリから生成される。このようにして、選択されたAbがSM-タンパク質b複合体により強く結合すること、またはSM-タンパク質b複合体にだけ結合することを保証できる。さらに別の一実施態様では、Abが詳細に特徴づけられ、SMリガンドを結合接合部分の一部として利用するAbが選択される。
【0100】
したがって代表的な一実施態様では、本発明によりさらに、タンパク質b-SM複合体に特異的に結合する抗体が提供される。これら抗体の代表的な1つの種類は、特異的結合がSMとタンパク質bの両方の少なくとも一部を包含する抗体である。さらに別の代表的な一実施態様では、SMのその部分とタンパク質bのその部分は、SMへのタンパク質bの特異的結合に関与する部分である。これらの特性を有するタンパク質b-SM-タンパク質a二量体も提供される。
【0101】
代表的なAbは、タンパク質BCL-XL(タンパク質b)のABT-737(SM)結合形に、BCL-XLとABT-737の両方に接触することによって選択的に結合する。
【0102】
代表的な一実施態様では、興味ある生物系を活性化させるのに必要なAbCIDの量またはその構成要素の1つの量は、AbCIDのそのような系における毒性閾値よりも少ない。したがって本発明のAbCIDを治療剤として利用するとき、AbCIDは許容可能な治療指数を有する。同様に、AbCIDは、診断システムまたは実験システムで使用されるとき、そのAbCIDが使用されるシステムの中で顕著に毒性であることはない。
【0103】
本発明は、本明細書では、既知の小分子-タンパク質複合体と合成抗体ライブラリを用いて化学誘導二量体形成化合物を迅速に生成させる新規な方法に代表される。この方法は、BCL-xL/ABT-737複合体からAbCIDを生成させることに代表される。これらAbCIDは、生きている細胞内のさまざまな生物プロセス(CRISPRが媒介する遺伝子発現とCAR T細胞活性化が含まれる)を調節するのに応用できる。最後に、AbCIDの活性化に用いられるABT-737の濃度範囲は、細胞内で毒性が観察された濃度よりもはるかに低いことがわかった。
【0104】
本発明により、溶媒が小分子のかなり広い部分に近づくことのできるさまざまな小分子-タンパク質ペアから新規なCID(例えばAbCID)を迅速に生成させる能力を持つ方法が提供される。本発明のさまざまな実施態様の基礎となるこの戦略と、この戦略によって生成されるAbCIDは、細胞生物学、合成生物学、治療用途で使用される次世代CIDツールを開発するための新規かつ有望な1つのアプローチである。
【0105】
定義
特に断わらない限り、本明細書で用いられているあらゆる科学技術用語は、本開示に関係する分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を持つ。本明細書で言及されているあらゆる特許、出願、公開されている出願、その他の刊行物は、特に断わらない限り、その全体が参照によって明示的に本明細書に組み込まれている。本明細書の1つの用語に複数の定義が存在している場合には、特に断わらない限り、本項の定義が優先する。
【0106】
本明細書では、「1つの」は、1つ、または2つ以上を意味することができる。
【0107】
「約」は、本明細書に照らして読まれるときには平明かつ通常の意味を持っており、例えば測定可能な値に言及するときに使用できて、記載されている値から±20%、または±10%、より好ましくは±5%、より一層好ましくは±1%、さらに好ましくは±0.1%の変動を含むことを意味することができる。
【0108】
「抗体化学誘導二量体形成化合物」または「AbCID」は、第1のタンパク質(タンパク質b)の表面にある相補的結合モチーフによって認識される少なくとも第1のSM結合モチーフを有する小さな有機化合物または有機金属化合物(「SM」)と、第2のタンパク質(タンパク質a)の表面にある相補的結合モチーフを認識する第2のSM結合モチーフ(抗体)との間に形成される複合体を意味する。第1と第2のタンパク質がともにAbCIDの中に取り込まれると、その第1と第2のタンパク質は、それぞれの結合ドメインを通じたSMへの結合によって二量体になる。代表的な一実施態様では、第1のタンパク質と第2のタンパク質の一方または両方が、それぞれ第1のSM結合モチーフと第2のSM結合モチーフを通じてSMに特異的に結合する。SMは、異なる結合モチーフを通じて同じタンパク質の2つの分子を結合させることができる(すなわち第1と第2のタンパク質は同じタンパク質である)。あるいはSMは、異なるタンパク質を、それぞれのタンパク質の異なる結合モチーフを通じて結合させることができる(すなわち第1と第2のタンパク質は異なるタンパク質である)。第1のタンパク質および/または第2のタンパク質が抗体である実施態様では、SMは、本明細書では代わりに「抗原」または「エピトープ」とも呼ばれ、抗体配列またはSMに結合する領域は「パラトープ」とも呼ばれる。
【0109】
本発明では、化学誘導二量体形成化合物の構成要素として広い範囲の小分子を利用する。SMの例に含まれるのは、ABT-263、ABT-199、ABT-737である。例えば以下の文献を参照されたい:Spencer, D.M.、Wandless, T.J.、Schreiber, S.L.、Crabtree, G.R.「合成リガンドでシグナル伝達を制御する」Science第262巻、1019~1024ページ(1993年);Ho, S.N.、Biggar, S.R.、Spencer, D.M.、Schreiber, S.L.、Crabtree, G.R.「二量体リガンドが再初期化において転写活性化ドメインのための役割を規定する」Nature 第382巻、822~826ページ(1996年);Belshaw, P.J.、Ho, S.N.、Crabtree, G.R.、Schreiber, S.L.「タンパク質のヘテロ二量体形成を誘導する合成リガンドを用いたタンパク質の連結と細胞内局在化の制御」Proc. Natl. Acad. Sci. USA 第93巻、4604~4607ページ(1996年);Rivera, V.M.他「遺伝子発現の薬理学的制御のためのヒト化系」Nat. Med. 第2巻、1028~1032ページ(1996年);Farrar, M.A.、Alberol-Ila, J.、Perlmutter, R.M.「クーママイシンによって誘導される二量体形成による Raf-1キナーゼカスケードの活性化」Nature 第383巻、178~181ページ(1996年);Miyamoto, T. 他「ジベレリンによって誘導される二量体形成系を用いた迅速かつ直交した論理ゲーティング」Nat. Chem. Biol. 第8巻、465~470ページ(2012年);Erhart, D. 他「細胞内タンパク質ヘテロ二量体形成の化学的開発」Chem. Biol. 第20巻、549~557ページ(2013年);Kopytek, S.J.、Standaert, R.F.、Dyer, J.C.、Hu, J.C.「メトトレキサートのホモ二機能性二量体によるジヒドロ葉酸レダクターゼの化学誘導二量体形成」Chem. Biol. 第7巻、313~321ページ(2000年);Liang, F.S.、Ho, W.Q.、Crabtree, G.R.「誘導された近接性を調節するためのABA植物ストレス経路の操作」Sci. Signal. 第4巻、rs2ページ(2011年);Czlapinski, J.L. 他「生体適合性のある化学誘導二量体形成化合物を用いた真核細胞内の条件的グリコシル化」J. Am. Chem. Soc. 第130巻、13186~13187ページ(2008年)。
【0110】
「小分子」は、分子量が約2 kDa未満の有機化合物を意味し、その中には有機金属化合物が含まれる。代表的な一実施態様では、小分子は、天然のポリヌクレオチド、ポリペプチド、多糖、複数の反復単位で構成された合成ポリマーからなるグループのメンバーではない。小分子の一例に含まれるのは、1箇所以上が置換されたアリール部分、置換されていないアリール部分、置換されたヘテロアリール部分、置換されていないヘテロアリール部分、置換されたヘテロシクロアルキル部分、置換されていないヘテロシクロアルキル部分が、直接的に連結されるか、融合するか、置換されたアルキルリンカー、置換されていないアルキルリンカー、置換されたヘテロアルキルリンカー、置換されていないヘテロアルキルリンカーのいずれかを介して連結されたものである。AbCIDの代表的なSM構成要素は、ABTファミリーのメンバーと、メトトレキサート、誘導体、類似体である。さまざまな実施態様では、小分子は、疾患状態および/または疾患進行に関係する細胞表面タンパク質(例えば細胞表面受容体)にかなり強く結合する。代表的な1つの疾患は増殖性障害(例えばがん)である。代表的な標的細胞タンパク質結合化合物の非限定的な例に含まれるのは、EGFR、Bcl-2、Bcl-xL、Bcl-w、MCL1に強く結合する化合物である。代表的な小分子AbCID構成要素を図2Aに示してある。他の代表的な小分子にBH3模倣体が含まれる。Billard、Mol. Cancer Ther.、2013年:第12巻(9);1691~1700ページ。
【0111】
「アミノ酸」と「アミノ酸の素性」は、本明細書では、特定の規定された位置に存在できる20種類の天然アミノ酸または非天然の任意の類似体のうちの1つを意味する。「タンパク質」は、本明細書では、共有結合した少なくとも2個のアミノ酸を意味し、その中にはタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチドが含まれる。タンパク質は、天然アミノ酸とペプチド結合から作り出すことや、特にペプチドを患者に投与するときには、合成ペプチド模倣構造、すなわち「類似体」(ペプトイドなど)から作り出すことができる(Simon他、PNAS USA 第89巻(20):9367ページ(1992年)を参照されたい)。したがって「アミノ酸」または「ペプチド残基」は、本明細書では、天然アミノ酸と合成アミノ酸の両方を意味する。例えばホモフェニルアラニン、シトルリン、ノルロイシンは、本発明の目的のためのアミノ酸と見なされる。「アミノ酸」にはプロリンやヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含まれる。側鎖は(R)配置または(S)配置が可能である。好ましい実施態様では、アミノ酸は(R)配置または(S)配置である。非天然側鎖を用いる場合には、例えば生体内分解を阻止または遅延させるため、非アミノ酸置換基を用いることができる。
【0112】
「アミノ酸の修飾」は、本明細書では、ポリペプチド配列の中のアミノ酸の置換および/または挿入および/または欠失、またはタンパク質に化学的に結合している部分の変化を意味する。例えば修飾として、タンパク質に結合した変化した炭化水素構造またはPEG構造が可能である。「アミノ酸の修飾」は、本明細書では、ポリペプチド配列の中のアミノ酸の置換および/または挿入および/または欠失を意味する。明確にするため、特に断わらない限り、アミノ酸の修飾は、常に、DNAによってコードされるアミノ酸である(例えばDNAとRNAの中にコドンを有する20種類のアミノ酸)。好ましいアミノ酸の修飾は、本明細書では置換である。
【0113】
「アミノ酸の置換」または「置換」は、本明細書では、親ポリペプチド配列の中の特定の位置にあるアミノ酸を異なるアミノ酸で置き換えることを意味する。特にいくつかの実施態様では、置換は、その生物で、またはどの生物でも自然には起こらない特定の位置の非天然アミノ酸への置換である。例えば置換E272Yは、位置272のグルタミン酸がチロシンで置き換えられたバリアントポリペプチド(この場合にはFcバリアント)を意味する(番号付けは、KabatにおけるようにEUシステムによる)。明確にするため、核酸コード配列は変わるが元のアミノ酸は変わらないように組み換えたタンパク質(例えば宿主生物の発現レベルを上昇させるため、(アルギニンをコードする)CGGを(やはりアルギニンをコードする)CGAに変える)は、「アミノ酸の置換」ではない。すなわち同じタンパク質をコードする新たな遺伝子を作り出したにもかかわらず、タンパク質が、元の特定の位置に同じアミノ酸を有する場合には、それはアミノ酸の置換ではない。
【0114】
「アミノ酸の挿入」または「挿入」は、本明細書では、親ポリペプチド配列の中の特定の位置にアミノ酸配列を付加することを意味する。例えば-233Eまたは233Eは、位置233の後かつ位置234の前にグルタミン酸を挿入することを示している。それに加え、-233ADEまたはA233ADEは、位置233の後かつ位置234の前にAlaAspGluを挿入することを示している。
【0115】
「アミノ酸の欠失」または「欠失」は、本明細書では、親ポリペプチド配列の中の特定の位置でアミノ酸配列を除去することを意味する。例えばE233-、E233#、E233()、E233delは、位置233のグルタミン酸の欠失を示している。それに加え、EDA233-またはEDA233#は、位置233から始まる配列GluAspAlaの欠失を示している。
【0116】
本明細書では、「ポリペプチド」は、共有結合した少なくとも2個のアミノ酸を意味し、その中にはタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチドが含まれる。ペプチジル基に含めることができるのは、天然アミノ酸とペプチド結合、または合成ペプチド模倣構造、すなわち「類似体」(ペプトイドなど)である(Simon他、PNAS USA 第89巻(20):9367ページ(1992年)を参照されたい。その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。アミノ酸は、当業者であればわかるように、天然アミノ酸または合成アミノ酸(DNAによってコードされているのではないアミノ酸)が可能である。例えばホモ-フェニルアラニン、シトルリン、オルニチン、ノルロイシンは、本発明の目的のための合成アミノ酸であると見なされ、D配置とL配置(R配置とS配置)のアミノ酸を用いることができる。本発明のバリアントはさまざまな改変を含むことができ、改変には、例えばSchultzとその共同研究者が開発した技術を利用して組み込まれた合成アミノ酸の使用が含まれる。そのような技術の非限定的な例に含まれるのは、CroppとShultz、2004年、Trends Genet. 第20巻(12):625~630ページ、Anderson他、2004年、Proc Natl Acad Sci USA 第101巻(2):7566~7571ページ、Zhang他、2004年、Science第303巻(5656):371~373ページ、Chin他、2003年、Science 第301巻(5635):964~967ページに記載されている方法であり、そのすべてが参照によって本明細書に組み込まれている。それに加え、ポリペプチドは、1つ以上の側鎖または末端の合成誘導体化、グリコシル化、PEG化、循環置換、環化、他の分子への連結、タンパク質またはタンパク質ドメインへの融合、ペプチドタグまたは標識の付加を含むことができる。
【0117】
本発明の代表的なポリペプチドは、本明細書に概説されているように、標的細胞の表面に提示されるタンパク質に特異的に結合する。「特異的に結合する」とは、本明細書では、ポリペプチドが少なくとも10-4~10-6 M-1の範囲の結合定数を有することを意味し、好ましい範囲は10-7~10-9 M-1である。
【0118】
「ポリペプチド」の定義に特に含まれるのは、アグリコシル化されたポリペプチドである。「アグリコシル化されたポリペプチド」とは、本明細書では、Fc領域の位置297に結合した炭化水素を欠くポリペプチドを意味する(番号付けは、KabatにおけるようにEUシステムによる)。アグリコシル化されたポリペプチドとして、デグリコシル化されたポリペプチド、すなわちFc炭化水素が例えば化学的に、または酵素によって除去された抗体または抗体フラグメントが可能である。あるいはアグリコシル化されたポリペプチドとして、例えばグリコシル化パターンをコードする1個以上の残基が変異することによって、または炭化水素をタンパク質に結合させない生物(例えば細菌)で発現することによって、Fc炭化水素なしで発現する無グリコシル化または非グリコシル化された抗体またはその抗体フラグメントが可能である。
【0119】
「親ポリペプチド」または「前駆ポリペプチド」(Fc親またはFc前駆体を含む)は、本明細書では、その後改変されてバリアントを生成させるポリペプチドを意味する。親ポリペプチドとして、天然ポリペプチド、または天然ポリペプチドのバリアントまたは組み換えバージョンが可能である。親ポリペプチドは、そのポリペプチドそのもの、親ポリペプチドを含む組成物、親ポリペプチドをコードするアミノ酸配列のいずれかを意味することができる。したがって「親Fcポリペプチド」とは、本明細書では、改変されていなくて、改変されることでバリアントを生成させるFcポリペプチドを意味し、「親抗体」とは、本明細書では、改変されていなくて、改変されることでバリアント抗体を生成させる抗体を意味する。
【0120】
「位置」とは、本明細書では、タンパク質の配列内の位置を意味する。位置は、順番に番号付けすること、または確立された形式(例えば抗体番号付けに関するEU指数)に従うことが可能である。
【0121】
「ADCC」または「抗体依存性細胞媒介細胞傷害性」は、本明細書では、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞の表面に結合した抗体を認識し、その後その標的細胞の溶解を引き起こすという、細胞が媒介する反応を意味する。ADCCは、FcγRIIIaへの結合と相関していて、FcγRIIIaへの結合が増加するとADCC活性が増加する。
【0122】
「ADCP」または抗体依存性細胞媒介ファゴサイトーシスは、本明細書では、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞の表面に結合した抗体を認識し、その後その標的細胞のファゴサイトーシスを引き起こすという、細胞が媒介する反応を意味する。
【0123】
本発明のAbCIDが示す細胞傷害性の別の様式は、T細胞媒介細胞傷害性(例えばCAR T細胞媒介細胞傷害性)である。
【0124】
さまざまな実施態様では、これらの機構の一方または両方が、CID(例えば本発明のAbCID)の治療効果の基礎である。
【0125】
「標的抗原」とは、本明細書では、所与の抗体の可変領域によって特異的に結合する分子を意味する。標的抗原として、タンパク質、炭水化物、脂質や、これら以外の化合物が可能である。代表的な標的抗原として適切なものの範囲は本明細書に記載されている。
【0126】
「標的細胞」とは、本明細書では、標的抗原を発現する細胞を意味する。
【0127】
「Ab」は抗体を意味する。「抗体」とは、本明細書では、公認の免疫グロブリン遺伝子の全体または一部によって実質的にコードされる1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質を意味する。例えばヒトにおける公認の免疫グロブリン遺伝子に含まれるのは、カッパ(κ)、ラムダ(λ)、重鎖の遺伝子座(これらを合わせた中に多数の可変領域遺伝子が含まれる)と、定常領域遺伝子であるミュー(μ)、デルタ(δ)、ガンマ(γ)、シグマ(σ)、アルファ(α)(これらはそれぞれIgM、IgD、IgG、IgE、IgAというアイソタイプをコードしている)である。抗体は、本明細書では、完全長抗体と抗体フラグメントを含むことが想定されていて、任意の生物からの天然抗体、または組み換え抗体、または実験、治療や、あとでより詳しく示す他の目的のために組み換えによって作製された抗体を意味することができる。したがって「抗体」には、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体(mAb)が含まれる。モノクローナル抗体とポリクローナル抗体を調製して精製する方法は本分野で知られており、例えばHarlowとLane、『Antibodies: A Laboratory Manual』(ニューヨーク州:Cold Spring Harbor Laboratory Press、1988年)に記載されている。本明細書に概説されているように、「抗体」に特に含まれるのは、本明細書に記載されているFcバリアント、本明細書に記載されているFcバリアントを含む「完全長」抗体、本明細書に記載されているような他のタンパク質へのFcバリアント融合体である。
【0128】
「抗体」という用語には、本分野で知られているように、抗体フラグメントが含まれる。その例は、Fab、Fab'、F(ab')2、Fcsや、抗体の他の抗原結合部分配列(一本鎖抗体(例えばscFab、scFv)、キメラ抗体など)などであり、抗体全体の改変によって生成されるか、組み換えDNA技術を利用して新たに合成される。「抗体」という用語にはさらに、ポリクローナル抗体とmAbが含まれ、それらはアゴニスト抗体またはアンタゴニスト抗体の可能性がある。
【0129】
「抗体」の定義に特に含まれるのは、Fcバリアント部分を含有する完全長抗体である。「完全長抗体」とは、本明細書では、抗体の天然の生物学的形態(可変領域と定常領域が含まれる)を構成する構造を意味する。例えばヒトやマウスを含む大半の哺乳動物では、IgGクラスの完全長抗体は四量体であり、2本の免疫グロブリン鎖からなる2つの同じペアからなり、各ペアは1本の軽鎖と1本の重鎖を持ち、各軽鎖は、免疫グロブリンドメインVLとCLを含み、各重鎖は免疫グロブリンドメインVH、Cγ1、Cγ2、Cγ3を含んでいる。いくつかの哺乳動物、例えばラクダとラマでは、IgG抗体は2本の重鎖だけで構成することができ、各重鎖はFc領域に結合した可変ドメインを含んでいる。「IgG」とは、本明細書では、公認の免疫グロブリンγ遺伝子によって実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。ヒトでは、このクラスにIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれる。マウスでは、このクラスにIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3が含まれる。
【0130】
好ましい一実施態様では、本発明の抗体はヒト化されている。現在のモノクローナル抗体技術を利用して、同定が可能な実質的にあらゆる標的抗原に対するヒト化抗体を作製することができる[Stein、Trends Biotechnol. 第15巻:88~90ページ(1997年)]。非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化形態は、免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、そのフラグメント(Fv、Fc、Fab、Fab'、F(ab')2のいずれか、または抗体のそれ以外の抗原結合部分配列)いずれかのキメラ分子で、非ヒト免疫グロブリンに由来する最少配列を含有するものである。ヒト化抗体はヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)を含んでいて、その中ではレシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、非ヒト種(望む特異性、親和性、性能を有するマウス、ラット、ウサギなど)のCDR(ドナー抗体)からの残基で置き換えられている。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が、対応する非ヒト残基で置き換えられる。ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、輸入されたCDRまたはフレームワーク配列にも見られない残基も含むことができる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインのすべてを実質的に含むことになり、その可変ドメインの中では、CDR領域のすべて、または実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのCDRに対応していて、FR領域のすべて、または実質的にすべてがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である。ヒト化抗体は、場合によっては、免疫グロブリン、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部も含むことになろう[Jones他、Nature 第321巻:522~525ページ(1986年);Riechmann他、Nature第332巻:323~329ページ(1988年);Presta、Curr. Op. Struct. Biol. 第2巻:593~596ページ(1992年)]。非ヒト抗体をヒト化する方法は本分野で周知である。
【0131】
一般に、ヒト化抗体は、ヒト以外の供給源からの1個以上のアミノ酸残基を有する。これら非ヒトアミノ酸残基は、輸入(import)残基と呼ばれ、典型的には輸入可変ドメインから取られる。ヒト化は、本質的に、Winterとその共同研究者の方法[Jones他、上記文献;Riechmann他、上記文献;Verhoeyen他、Science、第239巻:1534~1536ページ(1988年)]に従い、齧歯類のCDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列で置き換えることによって実施できる。ヒト化マウスモノクローナル抗体の追加例も本分野で知られており、例えば、抗体結合ヒトプロテインC[O'Connor他、Protein Eng. 第11巻:321~328ページ(1998年)]、インターロイキン2受容体[Queen他、Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A. 第86巻:10029~10033ページ(1989年)]、ヒト上皮増殖因子受容体2[Carter他、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 第89巻:4285~4289ページ(1992年)]がある。したがってそのようなヒト化抗体はキメラ抗体であり(アメリカ合衆国特許第4,816,567号)、そのキメラ抗体では、実質的に1つ以下のインタクトなヒト可変ドメインが非ヒト種からの対応する配列で置き換えられている。実際上は、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基と、おそらくはいくつかのFR残基が、齧歯類抗体の類似した部位からの残基で置き換えられたヒト抗体である。
【0132】
好ましい一実施態様では、本発明の抗体はヒト配列に基づいているため、ヒト配列が「基礎」配列として用いられ、その配列と他の配列(ラット、マウス、サルの配列など)が比較される。一次配列または構造との相同性を明確にするため、前駆抗体または親抗体またはscFvのアミノ酸配列を、対応するヒト配列と直接比較する。本明細書に記載されている相同性アラインメントプログラムの1つ以上を用いて(例えば種の間で保存されている残基を利用して)配列をアラインメントすることで、アラインメントの維持に必要な挿入と欠失が可能になる(すなわち意図的な欠失と挿入により、保存されている残基が排除されることが回避される)ようにした後、ヒトポリペプチドの一次配列の中の特定のアミノ酸と同等な残基を特定する。保存されている残基のアラインメントによってそのような残基が100%保存されることが好ましい。しかし同等な残基(本明細書では「対応する残基」と呼ぶこともある)を特定するには、保存されている残基の75%超、または少なければ50%のアラインメントであっても十分である。
【0133】
「残基」とは、本明細書では、タンパク質内の位置と、それに関連するアミノ酸の素性を意味し、番号付けはKabatにおけるようにEUシステムに従う。例えばアスパラギン297(Asn297またはN297とも呼ばれる)は、ヒト抗体IgG1の中の位置297にある残基である。
【0134】
同等な残基は、三次構造がX線結晶学により決定されたscFvフラグメントに関して三次構造のレベルでの相同性を明らかにすることによって定義することもできる。同等な残基は、アラインメントの後に親または前駆体の特定のアミノ酸残基の2個以上の主鎖原子(N上のN、CA上のCA、C上のCとO上のO)の原子座標が0.13 nm以内、好ましくは0.1 nm以内であるものと定義される。アラインメントは、最良のモデルがscFvバリアントフラグメントのタンパク質の非水素原子の原子座標と最もよく重なる方向と位置になったときに実現される。
【0135】
「Fv」または「Fvフラグメント」または「Fv領域」とは、本明細書では、単一の抗体のVLドメインとVHドメインを含むポリペプチドを意味する。当業者であればわかるように、これらは一般に、2本の鎖からなるか、(一般に、後述するリンカーを用いて)組み合わせてscFvを形成することができる。
【0136】
「一本鎖Fv」または「scFv」とは、本明細書では、本明細書で議論されているscFvリンカーを一般に用いて可変軽鎖(VL)ドメインに共有結合させてscFvまたはscFvドメインを形成した可変重鎖(VH)ドメインを意味する。scFvドメインは、N末端からC末端に向かってどちらかの向きにすることができる(VH-リンカーVL、またはVL-リンカー-VH)。
【0137】
「一本鎖Fab」または「scFab」とは、本明細書では、一般にscFabリンカーを使用して、可変重鎖(VH)ドメインを定常重鎖(CH)ドメインに共有結合させ、その定常重鎖(CH)ドメインを今度は、可変軽鎖(VL)ドメインに結合させた定常軽鎖(CL)ドメインに結合させることで形成されたscFabまたはscFabドメインを意味する。
【0138】
「可変領域」とは、本明細書では、カッパ、ラムダ、重鎖、および軽鎖の免疫グロブリン遺伝子座をそれぞれ構成するVic遺伝子、および/またはVλ遺伝子、および/またはVL遺伝子、および/またはVH遺伝子のいずれかによって実質的にコードされる1つ以上のIgドメインを含む免疫グロブリンの領域を意味する。
【0139】
「CD-x」は、分化(CD)タンパク質のクラスターを意味する。代表的な実施態様では、CD-xは、本発明のポリペプチドコンストラクトが投与された対象の体内でT細胞のリクルートまたは活性化に役割を果たすCDタンパク質から選択される。代表的な一実施態様では、CD-xは、CD-19とCD-3から選択される。代表的な一実施態様では、CD-xは、CAR T細胞の標的である。
【0140】
「抗原結合ドメイン」または「ABD」は、本明細書では、ポリペプチド配列の一部として存在しているとき、本明細書で議論されている標的抗原に特異的に結合する6つの相補性決定領域(CDR)のセットを意味する。例えば「チェックポイント抗原結合ドメイン」は、本明細書に概説されているように標的チェックポイント抗原に結合する。本分野で知られているように、これらのCDRは、一般に、可変重鎖CDR(vhCDRまたはVHCDR)の第1のセットおよび可変軽鎖CDR(vlCDRまたはVLCDR)の第2のセットとして存在し、そのそれぞれには、重鎖に関してはvhCDR 1、vhCDR 2、vhCDR 3という3つのCDRが、軽鎖に関してはvlCDR1、vlCDR2、vlCDR3という3つのCDRが含まれる。CDRは、それぞれ可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインの中に存在し、合わさってFv領域を形成する。したがっていくつかの場合には、抗原結合ドメインの6つのCDRには、可変重鎖と可変軽鎖による寄与がある。「Fab」フォーマットでは、6つのCDRからなるセットには2つの異なるポリペプチド配列、すなわち可変重鎖ドメイン(vhまたはVH;vhCDR1、vhCDR2、vhCDR3を含有する)と可変軽鎖ドメイン(vlまたはVL;vlCDR1、vlCDR2、vlCDR3を含有する)による寄与があり、vhドメインのC末端は重鎖のCH1ドメインのN末端に結合し、vlドメインのC末端は定常軽鎖ドメインのN末端に結合(して軽鎖を形成)する。scFvフォーマットまたはscFabフォーマットでは、vhドメインとvlドメインは、一般に、本明細書に概説されているリンカーを利用した共有結合によって単一のポリペプチド配列になる。このポリペプチド配列は、(N末端から始まって)vh-リンカー-vlまたはvl-リンカー-vhが可能であり、前者が一般に好ましい(利用するフォーマットに応じてそれぞれの側にオプションのドメインリンカーが含まれる)。代表的な抗原結合ドメインは、タンパク質b-SM複合体を認識してこの複合体に特異的に結合する。本発明の代表的なタンパク質b分子の代表的なCDRは表1~表9に示されており、代表的な重鎖可変ドメイン足場と軽鎖可変ドメイン足場は、それぞれ配列番号312、313に示されている。
【0141】
「Fc」、「Fc領域」、「FCポリペプチド」などは、本明細書では、本明細書に定義されているように、第1の定常領域免疫グロブリンドメインを除く抗体の定常領域を含むポリペプチドを含む抗体を意味する。したがってFcは、IgA、IgD、IgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメインと、IgE、IgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメインと、これらドメインへの可撓性ヒンジN末端を意味する。IgAとIgMに関しては、Fcは、J鎖を含むことができる。IgGに関しては、Fcは、免疫グロブリンドメインCγ2およびCγ3と、Cγ1とCγ2の間のヒンジを含んでいる。Fc領域の境界は変化する可能性があるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常は、残基C226またはP230をカルボキシル末端に含むように定義される。なお番号付けは、KabatにおけるようにEUインデックスに従う。Fcは、単離状態のこの領域、または抗体、抗体フラグメント、Fc融合体いずれかの文脈でのこの領域を意味することができる。Fcとして、抗体、Fc融合体、Fcを含むタンパク質またはタンパク質ドメインが可能である。特に好ましいのは、Fcの非天然バリアントであるFcバリアントである。
【0142】
「IgG」とは、本明細書では、公認の免疫グロブリンγ遺伝子によって実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。ヒトでは、このクラスにIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれる。マウスでは、このクラスにIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3が含まれる。「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、本明細書では、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質を意味する。免疫グロブリンの非限定的な例に抗体が含まれる。免疫グロブリンは多数の構造形態を持つことができ、その非限定的な例に含まれるのは、完全長抗体、抗体フラグメント、個々の免疫グロブリンドメインである。「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、本明細書では、タンパク質構造の当業者によって確認された構造体として存在する免疫グロブリンの領域を意味する。Igドメインは、典型的には、特徴的なサンドイッチ折り畳み構造を有する。IgGクラスの抗体の中の既知のIgドメインは、VH、Cγ1、Cγ2、Cγ3、VL、CLである。
【0143】
「野生型」または「WT」とは、本明細書では、自然界に見られるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味し、その中にはアレル変異が含まれる。WTタンパク質は、意図的な改変のないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0144】
「バリアントポリペプチド」とは、本明細書では、少なくとも1個のアミノ酸修飾が理由で親ポリペプチド配列とは異なっているポリペプチド配列を意味する。修飾には、置換、欠失、付加を含めることができる。バリアントポリペプチドは、そのポリペプチドそのもの、そのポリペプチドを含む組成物、そのポリペプチドをコードするアミノ酸配列のいずれかを意味することができる。バリアントポリペプチドは、親ポリペプチドと比べて少なくとも1個(例えば約1個~約10個)のアミノ酸修飾を有することが好ましく、親と比べて約1個~約5個のアミノ酸修飾を有することが好ましい。バリアントポリペプチド配列は、本明細書では、親ポリペプチド配列と少なくとも約80%の相同性を有することが好ましく、少なくとも約90%の相同性を有することがさらに好ましく、少なくとも約95%の相同性を有することがさらに好ましかろう。したがって「Fcバリアント」とは、本明細書では、少なくとも1個のアミノ酸修飾が理由で親Fc配列とは異なっているFc配列を意味する。同様に、代表的な「不活性なVLドメイン」または「不活性なVHドメイン」は、親VLポリペプチドまたは親VHポリペプチドのバリアントである。
【0145】
いくつかの実施態様では、本発明のAbCIDおよび/またはポリペプチド構成要素は、「単離された」ポリペプチド、または「実質的に純粋な」ポリペプチドである。「単離された」または「実質的に純粋な」は、本明細書に開示されているポリペプチドの記述に用いるときには、産生環境の構成要素から同定、および/または分離、および/または回収されたポリペプチドを意味する。ポリペプチドは、産生環境からの他のどの構成要素とも関係がないか、実質的にないことが好ましい。産生環境の汚染要素(例えばトランスフェクトされた組み換え細胞から生じるもの)は、典型的には診断または治療でのそのポリペプチドの利用を妨げると考えられる材料である。そのような汚染要素には、酵素、ホルモンや、それ以外のタンパク質性または非タンパク質性の溶質が含まれる可能性がある。産生媒体中の望ましいポリペプチドは、媒体中の全ポリペプチドの少なくとも約5重量%、または約25重量%、または約50重量%を占めることができる。
【0146】
代表的な単離されたポリペプチドとAbCIDは、材料の製造に用いられる構成要素から実質的または本質的に遊離している。本発明のペプチドに関しては、「単離された」という用語は、通常はペプチドの調製に用いる混合物の中の材料に付随する構成要素から実質的または本質的に遊離している材料を意味する。「単離された」と「純粋な」は、交換可能に用いられる。典型的には、本発明の単離されたポリペプチドは、好ましくは範囲として表現された純度レベルを有する。ポリペプチドコンストラクトの純度範囲の下端は、約60%、または約70%、または約80%であり、純度範囲の上端は、約70%、または約80%、または約90%、または約90%超である。
【0147】
ポリペプチドが約90%超の純度であるとき、その純度は範囲としても表現される。純度の範囲の下端は、約90%、約92%、約94%、約96%、約98%のいずれかである。純度の範囲の上端は、約92%、約94%、約96%、約98%、約100%のいずれかである。
【0148】
純度は、本分野で認められている任意の分析法(例えば銀染色ゲル上のバンド強度、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLCや、同様の手段)によって求められる。
【0149】
さまざまな実施態様では、タンパク質bは1つ以上の結合ドメインを介してSMに結合する。本発明によれば、結合ドメインは、1つ以上のポリペプチドの構成要素である。そのようなポリペプチドは、タンパク質性部分と非タンパク質性部分(例えば化学リンカーまたは化学架橋剤(グルタルアルデヒドなど))を含むことができる。ポリペプチド(そのフラグメント(好ましくは生物活性のあるフラグメント)と、通常は30個超のアミノ酸を有するペプチドが含まれる)は、共有ペプチド結合を介して互いにカップルした2個以上のアミノ酸を含んでい(て、アミノ酸の鎖にな)る。
【0150】
特定の抗原またはエピトープへの「特異的な結合」、または特定の抗原またはエピトープに「特異的に結合する」、または特定の抗原またはエピトープ「に対して特異的な」は、非特異的な相互作用との違いを測定することのできる結合を意味する。特異的な結合は、例えばある分子の結合を、一般に結合活性を持たない似た構造の分子である対照分子の結合と比較して求めることによって測定できる。例えば特異的結合は、標的と似た対照分子との競合によって求めることができる。
【0151】
特定の抗原またはエピトープへの特異的な結合は、例えば抗原またはエピトープに対するKDが少なくとも約10-4 M、少なくとも約10-5 M、少なくとも約10-6 M、少なくとも約10-7 M、少なくとも約10-8 M、少なくとも約10-9 M、少なくとも約10-10 M、少なくとも約10-11 M、少なくとも約10-12 Mのいずれかであるか、それよりも大きい抗体によって実現することができる。ここでKDは、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を意味する。典型的には、抗原に特異的に結合する抗体は、その抗原またはエピトープよりも対照分子に対して20倍、50倍、100倍、500倍、1,000倍、5,000倍、10,000倍のいずれか、またはそれよりも大きいKDを持つであろう。
【0152】
また、特定の抗原またはエピトープへの特異的な結合は、例えば抗原またはエピトープに対する会合定数またはKaが、対照よりもエピトープに対して少なくとも20倍、50倍、100倍、500倍、1,000倍、5,000倍、10,000倍のいずれか、またはそれよりも大きい抗体によって実現することができる。ここで会合定数またはKaは、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を意味する。結合親和性は一般に、Biacore(登録商標)アッセイを利用して測定される。
【0153】
「本質的に特異的に結合しない」、または「実質的に特異的に結合しない」、または「特異的に結合することができない」という表現は交換可能に用いられ、本発明の結合ドメインが、標的抗原以外のタンパク質または抗原に結合しないこと、すなわち標的抗原以外のタンパク質または抗原との反応性が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下のいずれかであることを意味する。この表現は、本発明の抗体がタンパク質b-SM複合体に結合しないとき、本発明の抗体がタンパク質bおよびSMとの相互作用を欠くことに関係している。
【0154】
「二重特異性」という用語は、本明細書では、「少なくとも二重特異性」である抗体を意味する。すなわちこの抗体は、少なくとも第1の結合ドメイン(例えば標的抗原、例えばBcl-xL、EGFR)と第2の結合ドメイン(例えばCD-x、例えばCD-19、CD-3)を含んでいて、第1の結合ドメインは1つの抗原または標的に結合し、第2の結合ドメインは別の抗原または標的に結合する。したがって本発明のポリペプチドコンストラクトは、少なくとも2つの抗原または標的に対する特異性を有する。本発明の「二重特異性ポリペプチドコンストラクト」という用語は、3つの結合ドメインを含む三重特異性ポリペプチドコンストラクトや、4つ以上(例えば4つ、5つなど)の特異性を有するコンストラクトなどの多重特異性ポリペプチドコンストラクトも包含する。
【0155】
本発明の代表的な実施態様では、自然に生じることがなくて天然産物とは顕著に異なっている二重特異性抗体を用いる。したがって「二重特異性」抗体は、特異性が異なる少なくとも2つの別々の結合部位を有する人工ハイブリッドポリペプチドである。二重特異性ポリペプチドコンストラクトは多彩な方法で作製することができる。例えばSongsivilaiとLachmann、Clin. Exp. Immunol. 第79巻:315~321ページ(1990年)を参照されたい。
【0156】
本発明の抗体がscFv抗体またはscFab抗体であるとき、これらの抗体はペプチドリンカー(スペーサペプチド)を含んでいても含んでいなくてもよい。本発明によれば、「ペプチドリンカー」という用語に、本発明の抗体の1つの(可変および/または結合)ドメインのアミノ酸配列と別の(可変および/または結合)ドメインのアミノ酸配列を互いに連結するアミノ酸配列が含まれる。このようなペプチドリンカーの1つの本質的な技術的特徴は、重合化活性をまったく持たないことである。適切なペプチドリンカーとして、アメリカ合衆国特許第4,751,180号と第4,935,233号、またはWO 88/09344に記載されているものがある。ペプチドリンカーは、他のドメインまたは分子または領域(半減期延長ドメインなど)を本発明の抗体コンストラクトに結合させるのにも使用できる。
【0157】
リンカーが使用されるこれら実施態様では、このリンカーは、標的抗原とCD-3結合ドメインのそれぞれが互いに独立に異なる結合特異性を保持することのできる十分な長さと配列であることが好ましい。本発明の抗体コンストラクトの中で少なくとも2つの結合ドメイン(または2つの可変ドメイン)を接続するペプチドリンカーに関しては、最適化された数のアミノ酸残基を含むペプチドリンカーが好ましい。scFv抗体コンストラクトに関しては、代表的なリンカーは例えば12個以下のアミノ酸残基である。したがって12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個いずれかのアミノ酸残基からなるペプチドリンカーが役に立つ。本発明のscFab抗体コンストラクトに関しては、代表的なリンカーは、約80個までのアミノ酸、例えば約70個、60個、50個、40個、30個、20個のアミノ酸を含んでいる。
【0158】
アミノ酸が5個未満の想定されるペプチドリンカーは、4個、3個、2個、1個いずれかのアミノ酸を含んでいてグリシンが豊富なリンカーであることが好ましい。「ペプチドリンカー」の文脈で特に好ましい「単一種の」アミノ酸はグリシンである。したがってペプチドリンカーはグリシンという単一種のアミノ酸で構成することができる。ペプチドリンカーの別の好ましい実施態様は、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわちGly4Ser(配列番号325)またはそのポリマー、すなわち(Gly4Ser)xを特徴とする(ここでxは1以上の整数である(例えば2または3))。このペプチドリンカーの特徴は二次構造を促進しないであることが本分野で知られており、例えばDall'Acqua他(Biochem.(1998年)第37巻、9266~9273ページ)、Cheadle他(Mol Immunol(1992年)第29巻、21~30ページ)、RaagとWhitlow(FASEB(1995年)第9巻(1)、73~80ページ)に記載されている。いかなる二次構造もさらに促進することがないペプチドリンカーも有用である。そのようなドメインを互いに連結することも、実施例に記載されているように例えば遺伝子操作によって可能である。融合していて機能可能に連結された二重特異性一本鎖コンストラクトを調製し、それを哺乳動物の細胞または細菌の中で発現させる方法は本分野で周知である(例えばWO 99/54440またはSambrook他、『Molecular Cloning: A Laboratory Manual』、Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク州、2001年)。
【0159】
本発明の代表的な実施態様は、少なくとも1つのscFvドメインを含んでいる。このscFvドメインは、自然に生じることはないが、一般に、scFvリンカーによって互いに連結された可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインを含んでいる。本明細書に概説されているように、scFvドメインは、VH-scFvリンカー-VLのように一般にN末端からC末端に向かうが、これを任意のscFvドメイン(またはFabからのVH配列とVL配列を用いて構成されたもの)について逆転させてVL-scFvリンカー-VHにし、フォーマットによっては一端または両端にオプションのリンカーが存在するようにできる。scFabが1つの構成要素である実施態様も含まれる。
【0160】
本明細書に示されているように、使用可能な多数の適切なscFabリンカーとscFvリンカーが存在していて、その中には組み換え技術によって生成させた伝統的なペプチド結合が含まれる。リンカーペプチドは、主にグリシン、セリン、アラニンというアミノ酸を含むことができる。リンカーペプチドは、2個の分子を連結するのに十分な長さを持っていて、それらの分子が互いに正しい立体配座を取ることで望む活性が保持されるようにせねばならない。一実施態様では、リンカーは、長さが約1~80個のアミノ酸、好ましくは長さが約1~50個のアミノ酸である。一実施態様では、長さが約1~20個のアミノ酸からなるリンカーを用いることができ、いくつかの実施態様では、アミノ酸が約5個~約10個のリンカーに用途がある。有用なリンカーには、グリシン-セリンポリマー(その中には例えば(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、(GGGS)nが含まれる(ここでnは整数であって、少なくとも1である(一般に3~4))、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマーや、他の可撓性リンカーが含まれる。あるいは多彩な非タンパク質性ポリマーにリンカーとしての用途を見いだすことができる。非タンパク質性ポリマーの非限定的な例に含まれるのは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのコポリマーである。
【0161】
他のリンカー配列は、任意の長さのCL/CH1ドメインの任意の配列で、CL/CH1ドメインの全残基ではないもの(例えばCL/CH1ドメインの最初の5~12個のアミノ酸残基)を含むことができる。リンカーは、免疫グロブリン軽鎖(例えばCKまたはCA)に由来するものが可能である。リンカーは、任意のアイソタイプの免疫グロブリン重鎖(例えばCy1、Cy2、Cy3、Cy4、Ca1、Ca2、C・、Cc、Cji)に由来するものが可能である。リンカー配列は、Ig様タンパク質(例えばTCR、FcR、KIR)などの他のタンパク質、ヒンジ領域由来の配列、他のタンパク質からの他の天然配列に由来するものも可能である。
【0162】
いくつかの実施態様では、リンカーは「ドメインリンカー」であり、本明細書に概説さえているように任意の2つのドメインを互いに連結するのに使用される。適切な任意のリンカーを使用できるが、多くの実施態様では、グリシン-セリンポリマー(その中には例えば(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、(GGGS)nが含まれる(ここでnは整数で、少なくとも1である(一般には3、4、5))のほか、2つのドメインを、各ドメインがその生物学的機能を保持できるようにするため十分な長さと可撓性で結合させることのできる任意のペプチド配列が用いられる。
【0163】
「コンピュータ式スクリーニング法」とは、本明細書では、本発明の1つ以上のポリペプチドコンストラクトであって、そのコンストラクトの構成要素(例えばVH、VL)の中に変異を含むものを設計する任意の方法を意味し、この方法では、可能性のある複数のアミノ酸側鎖置換相互の間の相互作用のエネルギー、および/または可能性のある複数のアミノ酸側鎖置換とタンパク質の残部の相互作用のエネルギーを評価するのにコンピュータを使用する。当業者であればわかるように、エネルギー計算と呼ばれるエネルギーの評価は、1つ以上のアミノ酸修飾をスコア化する何らかの方法に頼っている。この方法には、物理的または化学的なエネルギー、または知識、統計、配列に基づくエネルギー項などが関与する可能性がある。コンピュータによるスクリーニング法を構成する計算を本明細書では「コンピュータ式スクリーニング計算」と呼ぶ。
【0164】
本明細書では、「腫瘍」という用語は、悪性であるか良性であるかに関係なくあらゆる新生細胞の成長および増殖と、あらゆるがん性と前がん性の細胞と組織を意味する。
【0165】
「浸潤性血管新生」は、病態(悪性と非悪性の腫瘍のほか、黄斑変性における新たな血管の異常な形成が含まれる)をサポートするための血管の形成を意味する。
【0166】
「がん」と「がん性」という用語は、調節されていない細胞増殖を典型的な特徴とする哺乳動物の生理学的状態を意味するか、記述している。がんの非限定的な例に含まれるのは、癌腫、リンパ腫、白血病である。
【0167】
本明細書では、「処置する」または「処置」という用語は、治療的処置と予防的処置の両方を意味し、その目的は、望ましくない生理学的な変化または障害(多発性硬化症、関節炎、がんの進行など)を阻止したり減速(減少)させたりすることである。有利な、または望ましい臨床結果の非限定的な例に含まれるのは、検出可能であるかないかに関係なく、症状の緩和、疾患の程度の減少、疾患が安定化した(すなわち悪化していない)状態、疾患進行の遅延または減速、疾患状態の改善または緩和、(部分的または完全な)寛解である。「処置」は、処置を受けなかった場合に予測される生存期間と比べて延長した生存期間も意味することができる。処置を必要とする人には、病気または障害がすでにある人のほか、病気または障害になりやすい人や、病気または障害を予防すべき人が含まれる。
【0168】
「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳動物」は、診断、予後予測、治療をすることが望ましい任意の対象、特に哺乳動物対象を意味する。哺乳動物対象に含まれるのは、ヒト、家畜、畜類、動物園の動物、スポーツ用の動物、ペットの動物(イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、雌ウシなど)である。
【0169】
「AZx」(例えばAZ1、AZ2、AZ3)は、BCL-xL、BCL-2、BCL-Wいずれかとの複合体になったABT-737と特異的に結合する本発明の抗体と、前記複合体を意味する。
「標的部分」と「標的剤」という用語は、本明細書では、身体の特定の組織または領域の中に選択的に局在することになる化学種を意味する。局在化は、分子決定基の特異的認識、標的剤または複合体の分子サイズ、イオン性相互作用、疎水性相互作用などによって媒介される。ある薬剤を特定の組織または領域に向かわせる別の機構は当業者に知られている。
【0170】
本明細書では、「治療作用部分」は、治療に役立つ任意の薬剤(その非限定的な例に含まれるのは、抗生剤、抗炎症剤、抗腫瘍薬、細胞毒素、放射性薬剤)を意味する。「治療作用部分」には、生物活性剤のプロドラッグ、2つ以上の治療作用部分が担体に連結されたコンストラクト(例えば多価の薬剤)が含まれる。治療作用部分には、ペプチドと、ペプチドを含むコンストラクトも含まれる。したがって「治療作用部分」は、治療に役立つ任意の薬剤(その非限定的な例に含まれるのは、抗生剤、抗炎症剤、抗腫瘍薬、細胞毒素、放射性薬剤)を意味する。「治療作用部分」には、生物活性剤のプロドラッグ、2つ以上の治療作用部分が担体に連結されたコンストラクト(例えば多価の薬剤)が含まれる。
【0171】
本明細書では、「抗腫瘍薬」は、がんと闘うのに役立つ任意の薬剤を意味し、その非限定的な例に含まれるのは、細胞毒素と、抗代謝剤、アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生剤、抗有糸分裂剤、プロカルバジン、ヒドロキシウレア、アスパラギナーゼ、コルチコステロイド、インターフェロン、放射性薬剤などの薬剤である。「抗腫瘍薬」という用語の範囲には、抗腫瘍を持つペプチド(例えばTNF-α)の複合体も包含される。複合体の非限定的な例に含まれるのは、本発明の治療用タンパク質と糖タンパク質の間に形成されるものである。代表的な複合体は、PSGL-1とTNF-αの間に形成されるものである。
【0172】
本明細書では、「細胞毒素」または「細胞傷害剤」は、細胞にとって有害な任意の薬剤を意味する。その例に含まれるのは、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシネジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、ピューロマイシンと、これらの類似体または同族体である。他の毒素に含まれるのは、例えばリシン、CC-1065と類似体、デュオカルマイシンである。さらに別の毒素に含まれるのは、ジフテリア毒素とヘビ毒(例えばコブラ毒)である。
【0173】
本明細書では、「放射性薬剤」には、腫瘍の診断または破壊に有効な任意の放射性同位体が含まれる。その非限定的な例に含まれるのは、インジウム-111、コバルト-60、テクネチウムである。それに加え、天然の放射性元素(ウラニウム、ラジウム、トリウムなどであり、典型的には放射性同位体の混合物となる)が、放射性薬剤の適切な例である。
【0174】
本明細書では、「医薬として許容可能な基剤」に、複合体と組み合わされたときに前記複合体の活性を保持していて、対象の免疫系と反応しない任意の材料が含まれる。その非限定的な例に含まれるのは、標準的な医薬用基剤であるリン酸塩緩衝化生理食塩溶液、水、エマルジョン(油/水エマルジョンなど)、さまざまなタイプの湿潤剤などのうちの任意のものである。他の基剤として、減菌溶液、錠剤(コーティング錠を含む)、カプセルも含めることができる。典型的には、このような基剤は、賦形剤として、デンプン、ミルク、糖、ある種の粘土、ゼラチン、ステアリン酸またはその塩であるステアリン酸マグネシウムやステアリン酸カルシウム、タルク、植物油脂または植物油、ガム、グリコール、他の既知の賦形剤などを含有している。このような基剤は、風味添加剤、着色添加剤や、他の諸成分も含むことができる。このような基剤を含む組成物は、周知の従来法によって製剤化することができる。
【0175】
「半減期」または「t1/2」という用語は、本明細書でSMまたはSM-タンパク質複合体を患者に投与する文脈では、患者に投与される物質の血漿濃度が半分に低下するまでに必要な時間と定義される。多数あるクリアランス機構、再分布、本分野で周知のこれら以外の機構に応じ、投与される化学種に関連する2つ以上の半減期が存在する可能性がある。通常は、α半減期とβ半減期が定義され、α相は再分布に関係していて、β相はクリアランスに関係している。しかし大半が血流に限定されるタンパク質薬だと、少なくとも2つのクリアランス半減期が存在する可能性がある。グリコシル化されたいくつかのペプチドでは、速いβ相クリアランスは、マクロファージ上の受容体を通じて起こるか、末端ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、マンノース、フコースのいずれかを認識する内皮細胞を通じて起こる可能性がある。より遅いβ相クリアランスは、有効半径が2 nm未満(約68 kD)である分子の腎糸球体濾過を通じて、および/または組織での特異的または非特異的な取り込みと代謝を通じて起こる可能性がある。PEG化は、端部の糖(例えばガラクトースまたはN-アセチルガラクトサミン)にキャップを被せることで、これらの糖を認識する受容体を通じた速いα相クリアランスを阻止することができる。PEG化は、より大きな有効半径を与えることもできるため、そのことによって分布容積と組織への取り込みを減らし、後期β相を延長する。したがってα相とβ相の半減期に対するPEG化の正確な影響は、本分野で周知のように、サイズ、グリコシル化の状態や、それ以外のパラメータに依存して変化することになろう。「半減期」に関するさらなる説明は、『Pharmaceutical Biotechnology』(1997年、DFA CrommelinとRD Sindelar編、Harwood Publishers社、アムステルダム、101~120ページ)に見いだされる。
【0176】
特に断わらない限り、「アルキル」という用語は、単独で、または別の置換基の一部として、指定された数の炭素原子(すなわちC1- C 10は1~10個の炭素を意味する)を持ち、完全飽和、または一飽和、または多飽和が可能であって、1価、2価、多価の基を含むことのできる直鎖または分岐鎖または環状の炭化水素基、またはその組み合わせを意味する。飽和アルキル基の非限定的な例に含まれるのは、メチル、メチレン、エチル、エチレン、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、s-ブチル、シクロヘキシル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチルと、例えばn-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルの同族体と異性体などである。不飽和アルキル基は、1つ以上の二重結合または三重結合を持つアルキル基である。不飽和アルキル基の非限定的な例に含まれるのは、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、エチニル、1-プロピニル、3-プロピニル、3-ブチニルと、より高次の同族体と異性体である。「アルキル」という用語には、特に断わらない限り、「アルキレン」と、場合によっては以下により詳しく規定するアルキルの誘導体(「ヘテロアルキル」など)が含まれる。
【0177】
特に断わらない限り、「ヘテロアルキル」という用語は、単独で、または別の用語と組み合わさって、指定された数の炭素原子と、O、N、Si、P、Sからなるグループから選択された少なくとも1個のヘテロ原子(窒素原子とイオウ原子は場合によっては酸化することができ、窒素へテロ原子は場合によっては四級化することができる)とからなる安定な直鎖または分岐鎖または環状の炭化水素基、またはその組み合わせを意味する。へテロ原子O、N、S、P、Siは、ヘテロアルキル基の任意の内部位置に配置すること、またはアルキル基が分子の残部に結合する位置に配置することができる。ヘテロアルキルの非限定的な例に含まれるのは、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、-CH2-S-CH2-CH3、-CH2-CH2、-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O)2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3、-CH=CH-N(CH3)-CH3である。例えば-CH2-NH-OCH3や-CH2-O-Si(CH3)3のように、ヘテロ原子は2個まで連続することができる。同様に、「ヘテロアルキレン」という用語は、単独で、または別の置換基の一部として、ヘテロアルキルに由来する2価の基を意味し、その非限定的な例は、-CH2-CH2-S-CH2-CH2-と-CH2-S-CH2-CH2-NH-CH2-である。ヘテロアルキレン基に関しては、ヘテロ原子は、鎖の一方または両方の端部を占めることもできる(例えばアルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノなど)。さらにアルキレン連結基とヘテロアルキレン連結基に関しては、連結基の式は、連結基の式が書かれている向きとは関係しない。例えば式-C(O)2R’-は、-C(O)2R’と-R’C(O)2-の両方を表わす。
【0178】
特に断わらない限り、「シクロアルキル」と「ヘテロシクロアルキル」という用語は、単独で、または他の用語と組み合わさって、それぞれ「アルキル」と「ヘテロアルキル」の環式バージョンを表わす。これらの用語には、2価と多価の化学種(「シクロアルキレン」など)も含まれる。それに加え、ヘテロシクロアルキルに関しては、ヘテロ原子は、そのヘテロ原子が分子の残部に結合している位置を占めることができる。シクロアルキルの非限定的な例に含まれるのは、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、シクロへプチルなどである。ヘテロシクロアルキルの非限定的な例に含まれるのは、1-(1,2,5,6-テトラヒドロピリジル)、1-ピペリジニル、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-モルホリニル、3-モルホリニル、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチエン-2-イル、テトラヒドロチエン-3-イル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニルなどである。
【0179】
特に断わらない限り、「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、単独で、または別の置換基の一部として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかを意味する。それに加え、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキルとポリハロアルキルを含むことを意味する。例えば「ハロ(C1-C4)アルキル」という用語の非限定的な例には、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどの化学種が含まれることが想定されている。
【0180】
特に断わらない限り、「アリール」という用語は、多飽和芳香族炭化水素置換基を意味し、単環であること、または互いに融合するか共有結合した多環であることが可能である(1~3個の環が好ましい)。「ヘテロアリール」という用語は、N、O、Sから選択された1~4個のヘテロ原子(窒素原子とイオウ原子は場合によっては酸化され、窒素原子は場合によっては四級化されている)を含有するアリール基(または環)を意味する。ヘテロアリール基はヘテロ原子を介して分子の残部に結合させることができる。アリール基とヘテロアリール基の非限定的な例に含まれるのは、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソオキサゾリル、4-イソオキサゾリル、5-イソオキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンズイミダゾリル、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル、6-キノリルである。2価と多価のリンカー種(「アリーレン」など)も含まれる。上記のアリール環系とヘテロアリール環系のそれぞれに関する置換基は、下記の許容できる置換基のグループから選択される。
【0181】
簡単にするため、「アリール」という用語は、他の用語と組み合わせて用いられるとき(例えばアリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)には、上に定義したアリール環とヘテロアリール環の両方を含んでいる。したがって「アリールアルキル」という用語は、アリール基がアルキル基に結合した基(例えばベンジル、フェネチル、ピリジルメチルなど)を含むことを意味し、その中には、炭素原子(例えばメチレン基)が例えば酸素原子で置き換えられたアルキル基(例えばフェノキシメチル、2-ピリジルオキシメチル、3-(1-ナフチルオキシ)プロピルなど)が含まれる。
【0182】
上記の用語(例えば「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」、「ヘテロアリール」)のそれぞれには、記載されている基の置換形と非置換形の両方が含まれる。それぞれのタイプの基に関する代表的な置換基を下に示す。
【0183】
アルキル基とヘテロアルキル基(アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルケニルとしばしば呼ばれる基を含む)の置換基として多彩な基の1つ以上が可能であり、選択される基の非限定的な例は、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R”、-SR’、-ハロゲン、-SiR’R”R”’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-CONR’R”、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、SO3R’、-NR’-C(O)NR”R”’、-NR”C(O)2R’、-NR-C(NR’R”R’”)=NR””、-NR-C(NR’R”)=NR’”、-S(O)R’、-S(O)2R’、-S(O)2NR’R”、-NRSO2R’、-CN、-NO2であり、その数は0~(2m'+1)個の範囲(ここでm'はこのような基R'、R"、R"'、R""の中にある炭素原子の総数である)である。R'、R"、R"'、R""のそれぞれは、独立に、水素、置換されたヘテロアルキル基、置換されていないヘテロアルキル基、置換されたアリール基(例えば1~3個のハロゲンで置換されたアリール基)、置換されていないアリール基、置換されたアルキル基、置換されていないアルキル基、置換されたアルコキシ基、置換されていないアルコキシ基、置換されたチオアルコキシ基、置換されていないチオアルコキシ基、アリールアルキル基を意味することが好ましい。本発明の化合物が例えば2つ以上のR基を含んでいるときには、それぞれのR基は独立に、R'、R"、R"'、R""の2つ以上が存在するときのこれらの基のそれぞれのように選択される。R'とR"が同じ窒素原子に結合しているときには、これらの基が窒素原子と合わさって5員、または6員、または7員の環を形成することができる。例えば-NR’R”は、非限定的な例として1-ピロリジニル、4-モルホリニルを含むことを意味する。したがって置換基に関する上記の考察から、当業者は、「置換されたアルキル」と「ヘテロアルキル」という用語は、水素原子以外の基に結合した炭素を有する基(ハロアルキル(例えば-CF3や-CH2CF3)、アシル(-C(O)CH3、-C(O)CF3、-C(O)CH2OCH3など)など)を含むことが想定されていると理解するであろう。
【0184】
すぐ上の段落に記載されている置換基を本明細書では「アルキル基置換基」と呼ぶ。
【0185】
アルキル基に関して記載されている置換基と同様、アリール基とヘテロアリール基に関する置換基はさまざまであり、その選択は、例えばハロゲン、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R”、-SR’、-ハロゲン、-SiR’R”R”’、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’, -CONR’R”、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-NR’-C(O)NR”R”’、-NR”C(O)2R’、-NR-C(NR’R”)=NR’”、-S(O)R’、-S(O)2R’、SO3R’、-S(O)2NR’R”、-NRSO2R’、-CNと-NO2、-R’、-N3、-CH(Ph)2、フルオロ(C1-C4)アルコキシ、フルオロ(C1-C4)アルキルからなされ、その数は0から芳香族環系の空いている価の数の合計の範囲である。R'、R"、R"'、R""は、水素、(C1-C8)アルキル、ヘテロアルキル、置換されていないアリール、置換されていないヘテロアリール、(置換されていないアリール)- (C1-C4)アルキル、(置換されていないアリール)-オキシ-(C1-C4)アルキルから独立に選択されることが好ましい。例えば本発明の化合物が2つ以上のR基を含んでいるときには、R基のそれぞれは、独立に、R'、R"、R"'、R""の2つ以上が存在するときのこれらの基のそれぞれのように選択される。
【0186】
アリール環またはヘテロアリール環の隣接した原子上の置換基のうちの2つは、場合によっては式-T-C(O)-(CRR’)q-U-の置換基(ここでTとUは独立に、-NR-, -O-, -CRR’-、単結合のいずれかであり、qは0~3の整数である)で置換することができる。あるいはアリール環またはヘテロアリール環の隣接した原子上の置換基のうちの2つは、場合によっては式-A-(CH2)r-B-の置換基(ここでAとBは独立に、-CRR’-、-O-、-NR-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR’-、単結合のいずれかであり、rは1~4の整数である)で置換することができる。このようにして形成された新たな環の単結合の1つは、場合によっては二重結合で置き換えることができる。あるいはアリール環またはヘテロアリール環の隣接した原子上の置換基のうちの2つは、場合によっては式-(CRR’)s-X-(CR”R’”)d-の置換基(ここでsとdは独立に0~3の整数であり、Xは-O-、-NR’-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR’-のいずれかである)で置換することができる。置換基R'、R"、R"'、R""は、独立に、水素、置換された(C1-C6)アルキル、置換されていない(C1-C6)アルキルから選択されることが好ましい。
【0187】
上の2つの段落に記載されている置換基を本明細書では「アリール基置換基」と呼ぶ。
【0188】
本発明のタンパク質aおよび/またはタンパク質bの複合体を形成するとき、本発明のこれら複合体のタンパク質前駆体構成要素は、1つ以上の「反応性官能基」を含んでいる。代表的な化学種に、タンパク質に直接結合する反応性官能基、またはタンパク質に結合するリンカーが含まれる。代表的な反応性官能基は、タンパク質の表面のアルキルリンカーまたはヘテロアルキルリンカーに結合する。反応性官能基が、置換されたアルキルリンカー部分、置換されていないアルキルリンカー部分、置換されたヘテロアルキルリンカー部分、置換されていないヘテロアルキルリンカー部分のいずれかに結合するとき、反応性官能基は、アルキル鎖またはヘテロアルキル鎖の末端位置に位置することが好ましい。本発明を実施するのに有用な反応性官能基と反応のクラスは、一般に、生体共役化学の分野で周知のものである。本発明のタンパク質複合体で利用できる反応のクラスで現在好まれているものは、比較的穏やかな条件で進む反応である。その非限定的な例に含まれるのは、求核置換(例えばアミンおよびアルコールとハロゲン化アシル、活性なエステルの反応)、求電子置換(例えばエナミン反応)、炭素-炭素多重結合と炭素-ヘテロ原子多重結合への付加(例えばマイケル反応、ディールス-アルダー付加)である。条件が十分に穏やかであるため、共役反応において反応性官能基を配置するのに用いる反応条件下でタンパク質前駆体と望むタンパク質複合体が顕著に分解することはない。有用な反応は、例えばMarch、『Advance Organic Chemistry』、第3版、John Wiley & Sons社、ニューヨーク、1985年;Hermanson、『Bioconjugate Techniques』、Academic Press社、サン・ディエゴ、1996年;Feeney他、『Modification of Proteins』;Advances in Chemistry Series、第198巻、American Chemical Society、ワシントンD.C.、1982年に解説されている。
【0189】
有用な反応性官能基に含まれるのは、例えば(a)カルボキシル基とその誘導体(その非限定的な例に含まれるのは、活性化されたエステル、例えばN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、N-ヒドロキフタルイミド、N-ヒドロキシベンズトリアゾールエステル、p-ニトロフェニルエステル;酸ハロゲン化物;アシルイミダゾール;チオエステル;アルキルエステル、アルケニルエステル、アルキニルエステル、芳香族エステル;ペプチド合成に用いられる活性化基である);(b)ヒドロキシル基とヒドロキシルアミン(これらは、エステル、スルホン酸塩、ホスホロアミデート、エーテル、アルデヒドなどに変換することができる);(c)ハロアルキル基(この基においてハロゲン化物を求核基(例えばアミン、カルボキシレートアニオン、チオールアニオン、カルバニオン、アルコキシドイオン)と置き換えることができ、そのことによってハロゲン原子の部位に新たな基が共有結合する);(d)ジエノフィル基(例えばマレイミド基であり、ディールス-アルダー反応に参加することができる);(e)アルデヒド基またはケトン基(カルボニル誘導体(例えばイミン、ヒドラゾン、セミカルバゾン、オキシム)の形成を通じて、またはグリニャール付加またはアルキルリチウム付加などの機構を通じて誘導体化できる);(f)ハロゲン化スルホニル基(例えばアミンと反応させてスルホンアミドを形成する);(g)チオール基(ジスルフィドに変換すること、またはハロゲン化アシルと反応させることが可能);(h)アミン基、ヒドラジン基、スルフヒドリル基(例えばアシル化、アルキル化、酸化のいずれかが可能);(i)アルケン(例えば環付加、アシル化、マイケル付加などが可能);(j)エポキシド(例えばアミンやヒドロキシル化合物との反応が可能);(k)ホスホロアミダイトと、核酸合成に有用なそれ以外の標準的な官能基である。
【0190】
さまざまな実施態様では、反応性官能基は、
【化1】
から選択されたメンバーである。ここでrは独立に1~10の整数から選択され;Gはハロゲンであり;R30とR31は、Hとハロゲンから独立に選択されたメンバーであり、R30とR31の少なくとも1つはハロゲンである。
【0191】
反応性官能基は、ポリペプチド複合体を組み立てたり利用したりするのに必要な反応に参加したり干渉したりすることがないように選択することができる。あるいは反応性官能基は保護基を存在させて保護し、反応に参加しないようにすることができる。当業者は、特定の官能基をどのようにして保護すれば選択された一群の反応条件に干渉しないかを理解している。有用な保護基の例に関しては、例えばGreene他、『PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS』、John Wiley & Sons社、ニューヨーク、1991年を参照されたい。
【0192】
「分析物」、「標的」、「調べる物質」、「標的化学種」は、本明細書では、アッセイ混合物中の興味ある化学種を意味する。これらの用語は、本発明の材料、方法、装置のいずれかを用いて定性的または定量的に検出される物質を意味する。このような物質の例に含まれるのは、細胞とその部分、酵素、「分析物」、「標的」、「調べる物質」、「標的化学種」であり、本明細書で用いられるときには、アッセイ混合物の中の興味ある化学種と呼ぶ。これらの用語は、本発明の材料、方法、装置のいずれかを用いて定性的または定量的に検出される物質を意味する。このような物質の例に含まれるのは、細胞とその部分、酵素である。
【0193】
「CRISPR」は、クラスター化されて規則的な間隔で配置された短い回文反復を意味し、石野によって大腸菌で初めて発見された原核生物の免疫系である(Ishino他、Journal of Bacteriology 第169巻(12):5429~5433ページ(1987年))。この系は、ウイルスとプラスミドの核酸を配列特異的に標的とすることにより、細菌と古細菌でそのウイルスとプラスミドに対する免疫を提供する。
【0194】
この免疫系には2つの主要な段階があって、第1段階は獲得であり、第2段階は干渉である。第1段階は、侵入してくるウイルスとプラスミドのゲノムを切断し、そのセグメントを細菌と古細菌のCRISPR遺伝子座に統合することを含んでいる。ゲノムに統合されるセグメントはプロトスペーサとして知られており、生物を同じウイルスまたはプラスミドによるその後の攻撃から保護するのを助ける。第2段階は、侵入してくるウイルスまたはプラスミドを攻撃することを含んでいる。この段階は、スペーサと呼ばれる統合された配列に頼る。このスペーサはRNAに転写されてこのRNAが何らかの処理を受けた後、侵入してきたポリヌクレオチド(例えばウイルスまたはプラスミド)のDNAまたはRNAの中の相補的な配列にハイブリダイズする一方で、そのDNAまたはRNAと効果的に結合するタンパク質またはタンパク質複合体、および/またはそのDNAまたはRNAを効果的に切断するタンパク質またはタンパク質複合体と会合もする。
【0195】
いくつかの異なるCRISPR-Cas系が存在していて、その名称と分類は、それらの系がさらに特徴づけられるにつれて変化してきた。クラス2タイプIIの系には、CRISPR-Cas系の一部であるRNAの2本の鎖が存在している。すなわちCRISPR RNA(crRNA)と交差活性化CRISPR RNA(tracrRNA)である。tracrRNAはプレ-crRNAの相補的領域にハイブリダイズしてRNアーゼIII酵素によるプレ-crRNAからcrRNAへの成熟を容易にする。tracrRNAとcrRNAによって形成される二本鎖はタンパク質Cas9によって認識され、このCas9と会合する。このCas9が、標的核酸内の配列と相補的なcrRNAの配列によって標的核酸に向かい、標的核酸内のその配列にハイブリダイズする。単一のタンパク質と、2つのRNAガイド配列または単一のRNA分子を用いることにより、RNAに基づく免疫系のこれら最低限の構成要素を再プログラムして部位特異的なやり方でDNAに向かわせることが可能であることが明らかにされている。
【0196】
AbCID
さまざまな実施態様では、本発明により、タンパク質a-タンパク質b二量体の形成に対する時間的SM制御を実現するための化合物と方法へのアクセスが提供される。代表的な実施態様では、AbCIDによって誘導されるこの相互作用は分子スイッチとして機能し、細胞シグナルが伝達される。治療上の必要性と用途に応じて生存を促進するか死を促進するため、これらのシグナルをプログラムすることができる。代表的な1つのシグナルはT細胞を活性化する。
【0197】
本発明は、例えばCRISPRを用いた多数の用途(例えば組み換えT細胞を用いた療法、遺伝子発現の制御)に応用することができる。
【0198】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法が数多くのがんの治療で大いに有望になっている。残念なことに、過剰に活性化されたT細胞は負の副作用を有することがしばしばあるため、この療法の利用が制限される。本発明を、CAR T細胞への2通りの応用例によって示す。例えばCAR T細胞で重要な問題の1つは、体内の半減期が長いことである。したがってCAR T細胞に治療効果があった場合には、それを除去することに興味が持たれる。本発明は、SMが誘導する死スイッチの確立に役立つため、CAR T細胞を用いて処置している対象からそのCAR T細胞を望むときに除去することができる。例えば本発明を利用して化学的に誘導できる死スイッチをCAR T系に組み込むことができる。するとT細胞が患者にとって毒性になった場合には、SMを投与してそのスイッチを選択的に作動させ、組み換えT細胞を殺すことができる。
【0199】
本発明により、CAR T細胞のための活性化と抗原リクルートを担う化合物も提供される。代表的な一実施態様では、CARのscFv部分がBCL-xL(タンパク質b)で置き換えられており、タンパク質a(Ab)は、腫瘍の表面にあるがん特異的抗原も標的とする二重特異性抗体の一部である。ABT-737を添加するとタンパク質aとタンパク質bが二量体を形成し、T細胞が活性化されると同時に、T細胞が対応するがん標的へとリクルートされる(図2)。前記小分子は滴定可能で可逆的であるため、T細胞の活性化とこの効果の持続期間を変えることができる。すると治療指数が大きく改善されるため、この治療法の安全性が大きく改善される。
【0200】
本開示の1つの側面により、AbCIDを通じて形成される二量体が提供される。AbCIDには、少なくとも1つの核局在シグナルを含むRNA依存性エンドヌクレアーゼが組み込まれているため、その核局在シグナルにより、そのエンドヌクレアーゼが真核細胞と胚(例えば非ヒト細胞の胚)の核に入れるようになる。RNA依存性エンドヌクレアーゼは、少なくとも1つのヌクレアーゼドメインと、ガイドRNAと相互作用する少なくとも1つのドメインも含んでいる。RNA依存性エンドヌクレアーゼは、ガイドRNAによって特定の核酸配列(または標的部位)に向かう。ガイドRNAは、RNA依存性エンドヌクレアーゼのほか、標的部位とも相互作用するため、標的部位に向かうとRNA依存性エンドヌクレアーゼは標的部位核酸配列に二本鎖になった切断を導入することができる。ガイドRNAは標的となる切断部に対して特異的であり、RNA依存性エンドヌクレアーゼのエンドヌクレアーゼは普遍的であるため、RNA依存性エンドヌクレアーゼを異なるさまざまなガイドRNAとともに用いて異なるさまざまな標的核酸配列を切断することができる。本明細書では、単離されたRNA依存性エンドヌクレアーゼと、RNA依存性エンドヌクレアーゼをコードする単離された核酸(すなわちRNAまたはDNA)と、RNA依存性エンドヌクレアーゼをコードする核酸を含むベクターと、RNA依存性エンドヌクレアーゼに加えてガイドRNAを含むタンパク質-RNA複合体が提供される。本発明の方法では、触媒活性のないCas-9のバリアントも有用である。
【0201】
RNA依存性エンドヌクレアーゼは、クラスター化されて規則的な間隔で配置された短い回文反復(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)系から導出することができる。CRISPR/Cas系として、I型系、II型系、III型系が可能である。適切なCRISPR/Casタンパク質の非限定的な例に含まれるのは、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(またはCasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8a1、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9、Cas10、Cas10d、CasF、CasG、CasH、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1(またはCasA)、Cse2(またはCasB)、Cse3(またはCasE)、Cse4(またはCasC)、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14帯電、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csz1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、Cu1966である。
【0202】
一実施態様では、RNA依存性エンドヌクレアーゼはII型CRISPR/Cas系に由来する。特別な実施態様では、RNA依存性エンドヌクレアーゼはCas9タンパク質に由来する。Cas9タンパク質は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、Streptococcus thermophilus、レンサ球菌属の種、Nocardiopsis dassonvillei、Streptomyces pristinaespiralis、Streptomyces viridochromogenes、Streptomyces viridochromogenes、Streptosporangium roseum、Alicyclobacillus acidocaldarius、Bacillus pseudomycoides、Bacillus selenitireducens、Exiguobacterium sibiricum、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus salivarius、Microscilla marina、バークホルデリア目の細菌、Polaromonas naphthalenivorans、Polaromonas属の種、Crocosphaera watsonii、Cyanothece属の種、Microcystis aeruginosa、Synechococcus属の種、Acetohalobium arabaticum、Ammonifex degensii、Caldicelulosiruptor becscii、Candidatus Desulforudis、Clostridium botulinum、Clostridium difficile、Finegoldia magna、Natranaerobius thermophilus、Pelotomaculum the rmopropionicum、Acidithiobacillus caldus、Acidithiobacillus ferrooxidans、Allochromatium vinosum、Marinobacter属の種、Nitrosococcus halophilus、Nitrosococcus watsoni、Pseudoalteromonas haloplanktis、Ktedonobacter racemifer、Methanohalobium evestigatum、Anabaena variabilis、Nodularia spumigena、Nostoc属の種、Arthrospira maxima、Arthrospira platensis、Arthrospira属の種、Lyngbya属の種、Microcoleus chthonoplastes、Oscillatoria属の種、Petrotoga mobilis、Thermosipho africanus、Acaryochloris marinaのいずれかに由来するものが可能である。
【0203】
一般に、CRISPR/Casタンパク質は、少なくとも1つのRNA認識ドメインおよび/またはRNA結合ドメインを含んでいる。RNA認識ドメインおよび/またはRNA結合ドメインは、ガイドRNAと相互作用する。CRISPR/Casタンパク質は、ヌクレアーゼドメイン(すなわちDNアーゼドメインまたはRNアーゼドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、RNアーゼドメイン、タンパク質-タンパク質相互作用ドメイン、二量体形成ドメインのほか、他のドメインも含むことができる。
【0204】
CRISPR/Cas様タンパク質として可能なものは、野生型CRISPR/Casタンパク質、修飾されたCRISPR/Casタンパク質、野生型のCRISPR/Casタンパク質のフラグメント、修飾されたCRISPR/Casタンパク質のフラグメントである。CRISPR/Cas様タンパク質を修飾して核酸結合の親和性および/または特異性を増大させること、および/または酵素活性を変えること、および/またはタンパク質の別の特性を変化させることができる。例えばCRISPR/Cas様タンパク質のヌクレアーゼ(すなわちDNアーゼ、RNアーゼ)ドメインは、修飾すること、または削除すること、または不活性化することができる。あるいはCRISPR/Cas様タンパク質を切断して融合タンパク質の機能にとって重要でないドメインを除去することができる。CRISPR/Cas様タンパク質を切断または修飾して融合タンパク質のエフェクタドメインの活性を最適化することもできる。当業者であればわかるように、タンパク質aまたはタンパク質bを、Cas9以外の別のDNA結合タンパク質(例えばジンクフィンガータンパク質)に融合させることができる。
【0205】
いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas様タンパク質は、野生型Cas9タンパク質またはその断片に由来するものが可能である。別の実施態様では、CRISPR/Cas様タンパク質は、修飾されたCas9タンパク質に由来するものが可能である。例えばCas9タンパク質のアミノ酸配列を改変してそのタンパク質の1つ以上の特性(例えばヌクレアーゼ活性、親和性、安定性など)を変えることができる。あるいはCas9タンパク質中でRNA依存性切断に関与しないドメインをそのタンパク質から除去し、その改変されたCas9タンパク質を野生型Cas9タンパク質よりも小さくすることができる。
【0206】
一般に、Cas9タンパク質は少なくとも2つのヌクレアーゼ(すなわちDNアーゼ)ドメインを含んでいる。例えばCas9タンパク質は、RuvC様ヌクレアーゼドメインとHNH様ヌクレアーゼドメインを含むことができる。RuvC様ドメインとHNH様ドメインは合わさって機能し、一本鎖を切断してDNAに二本鎖になった切断を作る(Jinek他、Science、2012年、第337巻:816~821ページ)。いくつかの実施態様では、Cas9由来タンパク質を改変して1つの機能的ヌクレアーゼドメイン(RuvC様ドメインまたはHNH様ドメイン)だけが含有されるようにできる。例えばCas9由来タンパク質を改変してヌクレアーゼドメインの1つを削除するか変異させることで、それがもはや機能しない(すなわちヌクレアーゼ活性がない)ようにできる。ヌクレアーゼドメインの1つが不活性であるいくつかの実施態様では、Cas9由来のタンパク質は、二本鎖核酸にニック(切れ目)を導入することができる(そのようなタンパク質を「ニッカーゼ」と呼ぶ)が、その二本鎖DNAを切断することはない。例えばRuvC様ドメイン内のアスパラギン酸からアラニンへの(D10A)変換によってそのCas9由来のタンパク質がニッカーゼに変換される。同様に、HNHドメイン内のヒスチジンからアラニンへの(H840AまたはH839A)変換によってそのCas9由来のタンパク質がニッカーゼに変換される。周知の方法(部位特異的突然変異誘発、PCRを媒介とした突然変異誘発、全遺伝子合成のほか、本分野で知られている他の方法)を利用して各ヌクレアーゼドメインを改変することができる。本発明の化合物と方法は、CRISPR由来のタンパク質以外のタンパク質(例えばTALEN、ジンクフィンガータンパク質など)を用いた遺伝子回路の調節にも応用することができる。
【0207】
代表的な一実施態様では、AbCIDは、対象に投与されたとき、そのAbCIDの構成要素のどのサブセットよりも長い生体内半減期を有する二量体を形成する。
【0208】
さまざまな実施態様では、AbCIDは、第1の治療作用部分、第1の標的部分、第1の検出可能部分、これらの第1の組み合わせから選択されたメンバーを含む第1のタンパク質複合体と、第2の治療作用部分、第2の標的部分、第2の検出可能部分、これらの第2の組み合わせから選択されたメンバーを含む第2のタンパク質複合体の間に二量体を形成する。代表的な一実施態様では、この二量体は、SMまたはタンパク質b-SM複合体の投与による治療的介入を必要とする患者にそのSMまたはタンパク質b-SM複合体を投与した後に生体内で形成される。
【0209】
本発明の代表的な実施態様では、タンパク質aとタンパク質bの一方または両方として抗体を利用する。本明細書で議論されているように、「抗体」という用語はその最も一般的な意味で用いられる。本発明で使用される抗体は、本明細書に記載されているように多数のフォーマットのものが可能であり、その中には、本明細書に記載され、図面に示され、一般に本分野で報告されている伝統的な完全抗体のほか、抗体誘導体、フラグメント、模倣体が含まれる。
【0210】
したがって代表的な一実施態様では、本発明により、タンパク質bとそのコグネイトSM結合パートナーの間に形成される複合体に特異的に結合することのできる抗体が提供される。さまざまな実施態様では、この抗体は、複合体化したSMの少なくとも一部に特異的に結合する。さまざまな実施態様では、この抗体は、SMとの複合体になったタンパク質bの少なくとも一部に結合する。代表的な一実施態様では、この抗体は、複合体化したSMの少なくとも一部と、SMに結合したタンパク質bの少なくとも一部の両方に同時に結合する。さまざまな実施態様では、これらの結合様式の一方または両方が、タンパク質b-SM複合体への抗体の特異的結合の1つの構成要素である。代表的な一実施態様では、タンパク質aは、溶媒が実質的にアクセスできる位置または表面でタンパク質b-SM複合体に結合する。タンパク質b-SM複合体の中のSMの表面へのアクセス可能性を明確にするのに役立ついくつかのアプローチが存在している。例えばタンパク質b-SM複合体の結晶構造を利用してこの複合体内のSMへの溶媒のアクセス可能性を計算することができる。図6は一例であり、複合体の既知の構造に基づいてタンパク質bに結合したときのさまざまなSMについて、表面へのアクセス可能性の計算が示されている。結合したSMへの溶媒のアクセス可能性を推定する別の方法にはNMR法が含まれていて、構造が明らかになるか、SMと溶媒の相互作用が明らかになる。表面へのアクセス可能性の別の指標は、溶媒に曝露されるタンパク質b-SM複合体の表面積の大きさである。溶媒に曝露される表面積の代表的な範囲は、約1000Å2未満、例えば約500Å2未満、約100Å2未満、約50Å2未満である。代表的な一実施態様では、溶媒がアクセスできる表面積は、約1~約20Å2、例えば約1~約10Å2、または約10~約20Å2である。
【0211】
伝統的な完全な抗体構造単位は、典型的には四量体を含んでいる。各四量体は、典型的には、ポリペプチド鎖からなる2つの同じペアで構成されていて、各ペアは1本の「軽鎖」(典型的には約25 kDaの分子量を持つ)と1本の「重鎖」(典型的には約50~70 kDaの分子量を持つ)を有する。ヒト軽鎖は、カッパ軽鎖およびラムダ軽鎖として分類される。本発明により、一般にIgGクラスに基づく二重特異性抗体が組み込まれた二量体が提供される。IgGクラスはいくつかのサブクラスを持ち、その非限定的な例に含まれるのは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4である。一般にIgG1、IgG2、IgG4がIgG3よりも頻繁に用いられる。IgG1には異なるアロタイプがあり、356(DまたはE)と358(LまたはM)の位置が多型である。代表的な一実施態様では、タンパク質aおよび/またはタンパク質bはヒト化Abであり、二重特異性抗体の一部にされると、Abが媒介する細胞-細胞相互作用(例えば、表面にBCL-XLを発現するように組み換えたT細胞と、腫瘍特異的抗原を有するがん細胞)をSMが誘導して実現することが可能になると考えられる。
【0212】
「アイソタイプ」は、本明細書では、定常領域の化学的特徴と抗原的特徴によって規定される免疫グロブリンの任意のサブクラスを意味する。治療用抗体は、アイソタイプおよび/またはサブクラスのハイブリッドも含むことができることを理解すべきである。例えばアメリカ合衆国出願公開第2009/0163699号(その内容は参照によって本明細書に組み込まれている)に示されているように、本発明は、IgG1/G2ハイブリッドのpI操作をカバーしている。
【0213】
各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原の認識を担う約100~110個またはそれよりも多い数のアミノ酸からなる可変領域を含んでいて、本分野と本明細書では一般に「Fvドメイン」または「Fv領域」と呼ばれている。可変領域では、重鎖と軽鎖のVドメインのそれぞれについて3つのループが集まって抗原結合部位を形成する。ループのそれぞれは相補性決定領域(今後は「CDR」と呼ぶ)と呼ばれ、その領域内ではアミノ酸配列の変化が非常に顕著である。「可変」は、可変領域のいくつかのセグメントの配列が抗体間で大きく異なるという事実を意味する。可変領域内の可変性は均等には分布していない。そうではなく、V領域は、アミノ酸が15~30個のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的変動のない複数のストレッチが、可変性が極めて大きくてより短い「超可変領域」と呼ばれる複数の領域(それぞれの領域は長さがアミノ酸9個~15個超)によって隔てられた構成になっている。
【0214】
それぞれのVHとVLは3つの超可変領域(「相補性決定領域」、「CDR」)と4つのFRからなり、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順番で配置されている。
【0215】
超可変領域は一般に、軽鎖可変領域の中のほぼ24~34(LCDR1;「L」は軽鎖を表わす)、50~56(LCDR2)、89~97(LCDR3)のアミノ酸残基と、重鎖可変領域の中のほぼ31~35B(HCDR1;「H」は重鎖を表わす)、50~65(HCDR2)、95~102(HCDR3)からのアミノ酸残基を包含している(Kabat他、『SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST』、第5版、Public Health Service、国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州(1991年))、および/または超可変ループを形成する残基(例えば軽鎖可変領域の中の残基26~32(LCDR1)、50~52(LCDR2)、91~96(LCDR3)と、重鎖可変領域の中の26~32(HCDR1)、53~55(HCDR2)、96~101(HCDR3))を包含している(ChothiaとLesk(1987年)J. Mol. Biol. 第196巻:901~917ページ)。本発明の具体的なCDRは下に記載する。
【0216】
当業者であればわかるように、CDRの正確な番号付けと位置は、番号付けシステムによって異なる可能性がある。しかし可変重鎖および/または可変軽鎖の配列の開示には、関連する(固有の)CDRの開示が含まれることを理解すべきである。したがって各可変重鎖領域の開示はvhCDR(例えばvhCDR1、vhCDR2、vhCDR3)の開示であり、各可変軽鎖領域の開示はvlCDR(例えばvlCDR1、vlCDR2、vlCDR3)の開示である。
【0217】
本明細書全体を通じ、可変ドメイン(大まかに、軽鎖可変領域の残基1~107と、重鎖可変領域の残基1~113)の中の残基に言及するときにはKabat番号付けシステムを一般に使用し、Fc領域に関してはEU番号付けシステムを使用する(例えばKabat他、上記文献(1991年))。
【0218】
本発明により、多数の異なるCDRセットが提供される。この場合、「完全なCDRセット」は、3つの可変軽鎖CDRと3つの可変重鎖CDRを含んでいる(例えばvlCDR1、vlCDR2、vlCDR3、vhCDR1、vhCDR2、vhCDR3)。これらは、それぞれがより大きな可変軽鎖ドメインまたは可変重鎖ドメインの一部である可能がある。それに加え、本明細書でより十分に概説されているように、可変重鎖ドメインと可変軽鎖ドメインは、重鎖と軽鎖を用いるとき(例えばFabを用いるとき)には別々のポリペプチド鎖の上に存在することができ、scFv配列の場合には単一のポリペプチド鎖の上に存在することができる。
【0219】
CDRは、抗原結合の形成、より具体的には抗体のエピトープ結合部位の形成に寄与する。「エピトープ」は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域内の特定の抗原結合部位と相互作用する決定基を意味する。エピトープはアミノ酸や糖側鎖などの分子の集まりであり、通常は特別な構造特性と特別な電荷特性を有する。1つの抗原が2つ以上のエピトープを持つことができる。代表的なエピトープの一例は、SMがタンパク質bに結合して形成された複合体によって形成されるものである。ABT-737をエピトープの一部として用いる代表的な一実施態様では、関連する類似体であるABT-263は二量体を形成しないことが明らかにされているため、SMの少なくとも一部はタンパク質aにとっての結合部位の1つの構成要素であることがわかる。
【0220】
エピトープは、結合に直接関係するアミノ酸残基(エピトープの免疫優性構成要素とも呼ばれる)と、結合に直接は関係しない他のアミノ酸残基(特異的抗原結合ペプチドによって効果的にブロックされるアミノ酸残基など;言い換えると、そのアミノ酸残基は特異的抗原結合ペプチドのフットプリントの中にある)を含むことができる。本発明の化合物と方法で使用される代表的なエピトープには、SMがタンパク質bに結合することによって形成される構造が含まれる。
【0221】
エピトープは、立体的なもの、または直線状のものが可能である。立体的なエピトープは、直線状のポリペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に隣接したアミノ酸によって作り出される。直線状のエピトープは、1本のポリペプチド鎖の中の隣接したアミノ酸残基によって作り出されるエピトープである。立体的なエピトープと立体的でないエピトープは、後者ではなくて前者への結合が変性溶媒の存在下では失われることによって識別できる。
【0222】
エピトープは、典型的には少なくとも3個のアミノ酸、通常はそれよりも多くて少なくとも5個、または8~10個のアミノ酸を独自の三次元的な立体的配座の中に含んでいる。同じエピトープを認識する抗体は、1つの抗体が、標的抗原に別の抗体が結合するのを阻止する能力を示す単純なイムノアッセイで確認することができる。下に概説するように、本発明には、本明細書に列挙されている抗原結合ドメインと抗体が含まれるだけでなく、列挙されている抗原結合ドメインが結合するエピトープと結合が競合するものも含まれる。
【0223】
それぞれの鎖のカルボキシ末端部分は、エフェクタ機能を主に担う定常領域を規定している。Kabatらは、重鎖と軽鎖の可変領域の一次配列を多数集めた。彼らは配列の保存の程度に基づいて個々の一次配列をCDRとフレームワークに分類し、そのリストを作成した(『SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST』、第5版、NIH publication、第91-3242号、E.A. Kabat他を参照されたい。この文献の内容全体が、参照によって本明細書に組み込まれている)。
【0224】
代表的なAbCID
本明細書に記載されている任意のAbCIDに従ういくつかの実施態様では、AbCIDは、(a)Bcl-xLのABT-737結合ドメインを含む第1のCID構成要素と、(b)ABT-737と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素を含んでいて、第2のCID構成要素の抗体部分は、表1に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-737結合ドメインは、配列番号314のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号314のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【表1】

すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である。
【0225】
本明細書に記載されている任意のAbCIDに従ういくつかの実施態様では、AbCIDは、(a)Bcl-2のABT-199結合ドメインを含む第1のCID構成要素と、(b)ABT-199と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素を含んでいて、第2のCID構成要素の抗体部分は、表2に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-199結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【表2】

すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である。
【0226】
本明細書に記載されている任意のAbCIDに従ういくつかの実施態様では、AbCIDは、(a)Bcl-2のABT-263結合ドメインを含む第1のCID構成要素と、(b)ABT-263と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素を含んでいる。ここで第2のCID構成要素の抗体部分は、表3に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-263結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【表3】

すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である。
【0227】
本明細書に記載されている任意のAbCIDに従ういくつかの実施態様では、AbCIDは、(a)cIAP1のLCL-161結合ドメインを含む第1のCID構成要素と、(b)LCL-161と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素を含んでいて、第2のCID構成要素の抗体部分は、表4に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、LCL-161結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【表4】

すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である。
【0228】
本明細書に記載されている任意のAbCIDに従ういくつかの実施態様では、AbCIDは、(a)cIAP1のGDC-0152結合ドメインを含む第1のCID構成要素と、(b)GDC-0152と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素を含んでいて、第2のCID構成要素の抗体部分は、表5に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、GDC-0152結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【表5】

すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である。
【0229】
本明細書に記載されている任意のAbCIDに従ういくつかの実施態様では、AbCIDは、(a)cIAP1のAT-406結合ドメインを含む第1のCID構成要素と、(b)AT-406と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素を含んでいて、第2のCID構成要素の抗体部分は、表6に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、AT-406結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【表6】

すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である。
【0230】
本明細書に記載されている任意のAbCIDに従ういくつかの実施態様では、AbCIDは、(a)cIAP1のCUDC-427結合ドメインを含む第1のCID構成要素と、(b)CUDC-427と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素を含んでいて、第2のCID構成要素の抗体部分は、表7に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、CUDC-427結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【表7】

すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である。
【0231】
本明細書に記載されている任意のAbCIDに従ういくつかの実施態様では、AbCIDは、(a)FKBPのラパマイシンの合成リガンド(SLF)結合ドメインを含む第1のCID構成要素(ここでSLFは、式(I)の構造を有する:
【化2】
)と、(b)SLFと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素を含んでいて、第2のCID構成要素の抗体部分は、表8に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、SLF結合ドメインは、配列番号316のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号316のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【表8】

すべてのクローンについて、LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である。
【0232】
本明細書に記載されている任意のAbCIDに従ういくつかの実施態様では、AbCIDは、(a)メトトレキサート結合Fab(このメトトレキサート結合Fab HC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3は、それぞれ配列番号318、319、320、321、322、323のアミノ酸配列、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる)を含む第1のCID構成要素と、(b)メトトレキサートと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素を含んでいて、第2のCID構成要素の抗体部分は、表9に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、メトトレキサート結合Fabは、Gayda他、Biochemistry 2014年 第53巻(23)、3719~3726ページに記載されているメトトレキサート結合Fabである。
【表9】

LC-CDR1は配列番号310、LC-CDR2は配列番号311である。
【0233】

いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分(このような第1の結合部分を本明細書ではタンパク質bとも呼ぶ)と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1の核酸と;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分(このような第2の結合部分を本明細書ではタンパク質aとも呼ぶ)と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2の結合部分が、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位に特異的に結合する系が提供される。いくつかの実施態様では、この系は小分子をさらに含んでいて、第2のCID構成要素は、前記小分子と第1のCID構成要素間の複合体に、前記小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位の位置で結合する。いくつかの実施態様では、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位は、前記小分子と、第1の結合部分のうちで前記小分子が結合する部位の間の接合部分であり、前記小分子の少なくとも1個の原子と、第1の結合部分の1個の原子を含んでいる。
【0234】
本明細書に記載されている系において、第2の結合部位が、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位に特異的に結合する任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、小分子に特異的に結合する第1の抗体部分である。いくつかの実施態様では、小分子はメトトレキサートである。いくつかの実施態様では、メトトレキサートに特異的に結合する第1の抗体部分は、メトトレキサート結合Fabである。例えばいくつかの実施態様では、第1の抗体部分は、Gayda他、Biochemistry 2014年 第53巻(23)、3719~3726ページに記載されているメトトレキサート結合Fabである。いくつかの実施態様では、第1の抗体部分は、Gaydaらが記載しているメトトレキサート結合Fabからの1つ以上のCDRを含むメトトレキサート結合Fabである。いくつかの実施態様では、第1の抗体部分は、Gaydaらが記載しているメトトレキサート結合FabからのそれぞれのCDRを含むメトトレキサート結合Fabである。いくつかの実施態様では、メトトレキサート結合Fabは、それぞれ配列番号318、319、320、321、322、323のアミノ酸配列を含むHC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0235】
本明細書に記載されている系において、第2の結合部位が、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位に特異的に結合する任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、小分子の天然の結合パートナー、またはその小分子結合バリアントに由来する。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーは、Bcl-2、Bcl-xL、FK506結合タンパク質(FKBP)、アポトーシスタンパク質1の細胞阻害剤(cIAP1)のいずれかである。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーはBcl-2であり、小分子はABT-199、またはABT-263、またはこれらの類似体である。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーはBcl-xLであり、小分子はABT-737またはその類似体である。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーはFKBPであり、小分子は、式(I)の構造を有するラパマイシンの合成リガンド(SLF)またはその類似体である。いくつかの実施態様では、天然の結合パートナーはcIAP1であり、小分子は、GDC-0152、LCL161、AT406、CUDC-427、ビリナパントのいずれか、またはこれらの類似体である。
【0236】
本明細書に記載されている系において、第2の結合部位が、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位に特異的に結合する任意の系に従ういくつかの実施態様では、第2の結合部分は、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む化学エピトープに特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位は、前記小分子と、第1の結合部分のうちで前記小分子が結合する部位の間の接合部分であり、前記小分子の少なくとも1個の原子と第1の結合部分の1個の原子を含んでいる。
【0237】
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、第2のCID構成要素は、第1のCID構成要素と小分子の複合体に、遊離した第1のCID構成要素と遊離した小分子のそれぞれに対する結合に関するKdの約1/250以下(例えばほぼ1/300以下、1/350以下、1/400以下、1/450以下、1/500以下、1/600以下、1/700以下、1/800以下、1/900以下、1/1000以下、1/1100以下、1/1200以下、1/1300以下、1/1400以下、1/1500以下のいずれか)の解離定数(Kd)で結合する。
【0238】
いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)(i)Bcl-xL のABT-737結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)(i)ABT-737と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表1の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含む系が提供される。いくつかの実施態様では、ABT-737結合ドメインは、配列番号314のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号314のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0239】
いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)(i)Bcl-2 のABT-199結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)(i)ABT-199と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表2の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含む系が提供される。いくつかの実施態様では、ABT-199結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0240】
いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)(i)Bcl-2のABT-263結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)(i)ABT-263と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表3の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含む系が提供される。いくつかの実施態様では、ABT-263結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0241】
いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)(i)FKBPのラパマイシンの合成リガンド(SLF)結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)(i)SLFと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表4の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含む系が提供される。いくつかの実施態様では、SLF結合ドメインは、配列番号316のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号316のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0242】
いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)(i)cIAP1のGDC-0152結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)(i)GDC-0152と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表5の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含む系が提供される。いくつかの実施態様では、GDC-0152結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0243】
いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)(i)cIAP1のLCL161結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)(i)LCL161と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表6の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含む系が提供される。いくつかの実施態様では、LCL-161結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0244】
いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)(i)cIAP1のAT406結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)(i)AT406と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表7の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含む系が提供される。いくつかの実施態様では、AT-406結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0245】
いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)(i)cIAP1のCUDC-427結合ドメイン、および(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)(i)CUDC-427と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表8の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含む系が提供される。いくつかの実施態様では、CUDC-427結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0246】
いくつかの実施態様では、本明細書において、(a)(i)メトトレキサート結合Fabと、(ii)第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)(i)メトトレキサートと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分、および(ii)第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、第2のCID構成要素の抗体部分が、表9の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含む系が提供される。いくつかの実施態様では、メトトレキサート結合Fab HC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3は、配列番号318、319、320、321、322、323をそれぞれ含んでいる。いくつかの実施態様では、メトトレキサート結合Fabは、Gayda他、Biochemistry 2014年 第53巻(23)、3719~3726ページに記載されているメトトレキサート結合Fabである。
【0247】
転写調節因子
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、(a)第1のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第2のアダプタ部分が転写調節ドメインを含むか;(b)第2のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第1のアダプタ部分が転写調節ドメインを含み、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的遺伝子の転写を調節することができる。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素はさらに核局在シグナルを含み、第2のCID構成要素はさらに核局在シグナルを含む。いくつかの実施態様では、(i)転写調節ドメインは転写活性化ドメインであり、CIDは標的遺伝子の転写を上方調節することができる;または(ii)転写調節ドメインは転写抑制ドメインであり、CIDは標的遺伝子の転写を下方調節することができる。いくつかの実施態様では、転写調節ドメインはVPR転写活性化ドメインである(例えばChavez他、Nat. Methods、第12巻:326~328ページ(2015年)を参照されたい)。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは天然の転写調節因子に由来する。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼに由来する。いくつかの実施態様では、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼは触媒活性がない。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは、触媒活性のないCas9(dCas9)に由来する。遺伝子転写を調節できるCIDで使用できるアダプタ部分(dCas9など)の例は、例えばアメリカ合衆国特許第8,993,233号に見いだすことができる。
【0248】
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、(a)第1のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第2のアダプタ部分が転写調節ドメインを含むか;(b)第2のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第1のアダプタ部分が転写調節ドメインを含み、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的遺伝子の転写を調節でき、転写調節ドメインはVPR転写活性化ドメインであり、DNA結合ドメインはdCas9に由来する。
【0249】
殺すスイッチ
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときに標的細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的細胞の死を誘導することができる。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分と第2のアダプタ部分が合わさって、標的細胞の中でアポトーシスを誘導することができる。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分および/または第2のアダプタ部分はカスパーゼタンパク質に由来する。いくつかの実施態様では、標的細胞は、個体に養子移植された組み換え細胞である。いくつかの実施態様では、標的細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞である。細胞死を誘導できるCIDで使用可能なアダプタ部分の例は、例えばアメリカ合衆国特許公開第2016/0175359号と第2016/0166613号に見いだすことができる。
【0250】
広く入手できる小分子を用いたアポトーシス促進タンパク質の二量体形成によるアポトーシスの制御により、実験者または臨床医師が望まない効果を示す細胞ベースのインプラントの生存を確実かつ迅速に制御することが可能になるはずである。そうした効果の非限定的な例に含まれるのは、標的外組織に対する移植片対宿主(GvH)免疫反応、インプラントの過剰で制御されない増殖または転移、CAR T細胞が媒介するサイトカイン放出症候群である。アポトーシスの迅速な誘導により、望まない細胞の機能を大きく減衰させ、過度な炎症なしに食細胞(マクロファージなど)による死んだ細胞の自然な除去を可能にする。アポトーシスは厳格に制御されており、足場(Apaf-1、CRADD/RAIDD、FADD/Mort1など)を自然に利用して、最終的に細胞を殺すことのできるカスパーゼのオリゴマー化とて活性化を実現する。Apaf-1はアポトーシス性プロテアーゼであるカスパーゼ-9を招集して潜在的な複合体にすることができ、シトクロムCが足場にリクルートされたときにこの潜在的な複合体が活性なオリゴマー性アポトソームを形成する。重要な事象は、複数の足場単位をオリゴマー化してカスパーゼの二量体形成と活性化を起こさせることである。同様のアダプタ(CRADDなど)がカスパーゼ-2をオリゴマー化してアポトーシスへと至らせることができる。本明細書に提示されている組成物と方法は、例えば、小分子とともにリクルートされたとき、アダプタ部分として存在するカスパーゼユニットの自発的な二量体形成と活性化を可能にするAbCIDを利用している。
【0251】
本明細書に提示されているいくつかの組成物と方法を利用すると、カスパーゼの活性化は小分子が存在するときにだけ起こり、AbCIDのカスパーゼ融合CID構成要素の二量体形成が可能になる。これらの方法では、カスパーゼ(例えばカスパーゼ-9)の二量体形成を駆動するのに2つのAbCID構成要素が単量体としてではなく二量体ユニットとして存在せねばならない。CID構成要素は、標的化シグナルを通じ、細胞質ゾルの中に可溶性物質として局在することや、特定の細胞内位置(形質膜など)に存在することができる。アポトーシスの活性化に用いられる構成要素と、細胞を分解する下流構成要素は、すべての細胞と、さまざまな種の間で共有されている。カスパーゼ-9の活性化に関しては、これらの方法を、細胞系や、正常な一次細胞(その非限定的な例はT細胞)や、細胞インプラントで広く利用することができる。カスパーゼ-9ポリペプチドは、完全長であっても切断されていてもよい。
【0252】
カスパーゼ-9以外のカスパーゼポリペプチドで本明細書に記載されているAbCIDのアダプタ部分として使用できるものの例に含まれるのは、カスパーゼ-1、カスパーゼ-3、カスパーゼ-8である。これらカスパーゼポリペプチドに関する解説は、例えばMacCorkle, R. A.他、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.(1998年)第95巻:3655~3660ページ;Fan, L.他、(1999年)Human Gene Therapy 第10巻:2273~2285ページに見いだすことができる。
【0253】
キメラ抗原受容体(CAR)
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときにT細胞に関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDは、標的抗原に結合したときT細胞を活性化できるヘテロ二量体CARである。
【0254】
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、(a)第1のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み、第2のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含むか;(b)第2のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み、第1のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含んでいて;細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する。例えば図4Aを参照されたい。いくつかの実施態様では、細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素は分泌シグナルペプチドをさらに含んでいる。
【0255】
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、(a)第1のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン;および(iii)細胞外抗原結合部分を含み、第2のアダプタ部分が、細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインを含むか;(b)第2のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン;および(iii)細胞外抗原結合部分を含み、前記第1のアダプタ部分が、細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいて;細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する。例えば図4Bを参照されたい。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素が合わさって、細胞質共刺激ドメインおよび細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいる。
【0256】
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、および(ii)膜貫通ドメインを含み;第2のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、および(ii)膜貫通ドメインを含み;第1のCID構成要素または第2のCID構成要素が、前記CID構成要素の結合部分に連結された細胞外抗原結合部分をさらに含み;前記細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する。例えば図4Cを参照されたい。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素が合わさって、細胞質共刺激ドメインおよび細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいる。
【0257】
ヘテロ二量体CARを形成するためにCIDで使用できるアダプタ部分の例は、アメリカ合衆国特許第9,587,020号に見いだすことができる。
【0258】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されているAbCIDは、真核細胞の形質膜に存在することができる。真核細胞は例えば哺乳動物の細胞であり、適切な哺乳動物の細胞の非限定的な例に含まれるのは、細胞傷害性細胞、Tリンパ球、幹細胞、幹細胞の子孫、子孫細胞、子孫細胞の子孫、NK細胞である。AbCIDは、真核細胞の形質膜に存在しているとき、1)第1のCID構成要素と第2のCID構成要素の二量体形成を可能にする小分子と、2)細胞外抗原結合部分に結合する因子の存在下で活性である。細胞外抗原結合部分に結合する因子として、可溶性(例えば細胞に結合していない)因子、細胞(標的細胞など)の表面に存在する因子、固体表面に提示された因子、脂質二層の中に存在する因子などが可能である。
【0259】
いくつかの実施態様では、本開示のAbCIDは、真核細胞の形質膜に存在するとき、そして小分子によって活性化されるとき、細胞外抗原結合ドメインが結合する抗原を細胞表面に発現する標的細胞に対する細胞傷害活性を示す。例えば真核細胞が細胞傷害性細胞(例えばNK細胞や細胞傷害性Tリンパ球)である場合には、本開示のAbCIDは、細胞の形質膜に存在するとき、そして小分子によって活性化されるとき、細胞外抗原結合ドメインが結合する抗原を細胞表面に発現する標的細胞に対するその細胞の細胞傷害活性を増大させる。例えば真核細胞がNK細胞または細胞傷害性Tリンパ球である場合には、本開示のAbCIDは、細胞の形質膜に存在するとき、そして小分子によって活性化されるとき、その細胞の細胞傷害活性を、小分子の不在下でのその細胞の細胞傷害活性と比べて少なくとも約10%、または少なくとも約15%、または少なくとも約20%、または少なくとも約25%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約75%、または少なくとも約2倍、または少なくとも約2.5倍、または少なくとも約5倍、または少なくとも約10倍、または10倍超増大させる。
【0260】
いくつかの実施態様では、本開示のAbCIDは、真核細胞の形質膜に存在するとき、そして細胞外抗原結合ドメインに結合する抗原と小分子によって活性化されるとき、他のCAR活性化関連事象(増殖、拡大、細胞内シグナル伝達の改変、細胞分化、細胞死など)が起こる可能性がある。
【0261】
本開示のAbCIDで用いるのに適した細胞外抗原結合ドメインとして、任意の抗原結合ポリペプチドが可能であり、多彩なものが本分野で知られている。いくつかの場合には、細胞外抗原結合ドメインは一本鎖Fv(scFv)である。抗体をベースとした他の認識ドメイン(cAb VHH(ラクダ抗体可変ドメイン))とヒト化バージョン、IgNAR VH(サメ抗体可変ドメイン)とヒト化バージョン、sdAb VH(単一ドメイン抗体可変ドメイン)と「ラクダ化」抗体可変ドメインが、使用に適している。いくつかの場合には、T細胞受容体(TCR)をベースとした認識ドメインである一本鎖TCR(scTv、VαVβを含有する一本鎖二ドメインTCR)なども使用に適している。
【0262】
本開示のAbCIDで用いるのに適した細胞外抗原結合ドメインは、多彩な抗原結合特異性を持つことができる。いくつかの場合には、細胞外抗原結合ドメインは、がん細胞が発現(合成)する抗原(すなわち、がん細胞関連抗原)の中に存在するエピトープに対して特異的である。がん細胞関連抗原として、例えば乳がん細胞、B細胞リンパ腫細胞、ホジキンリンパ腫細胞、卵巣がん細胞、前立腺がん細胞、中皮腫細胞、肺がん細胞(例えば小細胞肺がん細胞)、非ホジキンB細胞リンパ腫(B-NHL)細胞、黒色腫細胞、慢性リンパ性白血病細胞、急性リンパ性白血病細胞、神経芽腫細胞、グリオーマ細胞、膠芽腫細胞、髄芽腫細胞、大腸がん細胞などに関連する抗原が可能である。がん細胞関連抗原は、非がん性細胞が発現する可能性もある。
【0263】
二重特異性T細胞エンゲージャ
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDは、T細胞を標的細胞へとリダイレクトさせることのできるヘテロ二量体二重特異性T細胞エンゲージャである。いくつかの実施態様では、(a)第1のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、第2のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含むか;(b)第2のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、第1のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含む。いくつかの実施態様では、T細胞抗原結合部分は、CD3に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、疾患状態の細胞に関係する細胞表面抗原に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、疾患状態の細胞は、がん細胞である。いくつかの実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、CD19に特異的に結合する抗体部分である。ヘテロ二量体二重特異性T細胞エンゲージャを形成するためにCIDで使用できるアダプタ部分の例は、例えばアメリカ合衆国特許出願公開第2014/0050660号に見いだすことができる。
【0264】
T細胞の調節
【0265】
本明細書に記載されている任意の系に従ういくつかの実施態様では、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときに免疫細胞と関係するCIDを形成する構成されていて、前記CIDは、免疫細胞の活性化を調節できるヘテロ二量体シグナル伝達分子である。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含み、第2のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含む。いくつかの実施態様では、免疫細胞はT細胞である。いくつかの実施態様では、T細胞はCAR T細胞である。免疫細胞の活性化を調節できるヘテロ二量体シグナル伝達分子を形成するためにCIDで使用できるアダプタ分子の例は、例えばアメリカ合衆国特許出願公開第2014/0286987号に見いだすことができる。
【0266】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されているAbCIDのアダプタ部分は、AbCIDに依存した増殖と共刺激を可能にするため、CD3ζ鎖ありとCD3ζ鎖なしの1つ以上の共刺激ポリペプチド(例えばCD28と4-1BB)を含んでいる。AbCIDを単独で用いて共刺激を提供し、T細胞の免疫反応を増大させることができる。このようなAbCIDを用いると、T細胞の集団(例えば非特異的な標的を有する集団)に、AbCIDをコードするDNAをトランスフェクトするか、その集団をそのDNAで形質転換した後に対象に投与することで、一般的な免疫反応を増大させることができる。これらのAbCIDは細胞内でCARとともに発現させることもできる。そのような方法では、誘導性AbCIDをCARと組み合わせて用いることで、CARシグナル伝達を2つの別々の機能に分離する。CARによって提供される前記第2の機能が、組み換えT細胞に抗原特異的な細胞傷害性を提供する。
【0267】
共刺激ポリペプチド分子は、細胞の生存と増殖に関与するシグナル伝達経路の活性化を通じて細胞を媒介とした免疫反応を増幅することができる。考慮する共刺激タンパク質の例に含まれるのは、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)ファミリーのメンバー(すなわちCD40、RANK/TRANCE-R、OX40、4-1BB)とCD28ファミリーのメンバー(CD28、ICOS)である。共刺激タンパク質には、例えばCD28、4-1BB、OX40を含めることができる。共刺激タンパク質には、例えばCD3ζ鎖を含めることができる。2つ以上の共刺激ポリペプチドまたは共刺激ポリペプチド細胞質領域を本明細書に記載されている誘導性AbCIDで用いることができる。AbCIDは、例えばCD28細胞質ポリペプチドと4-1BB細胞質ポリペプチドを含むことができる。あるいはAbCIDは、例えばCD28細胞質ポリペプチドとOX40細胞質ポリペプチドを含むことができる。あるいはAbCIDは、例えばCD3ζドメインポリペプチドをさらに含むことができる。
【0268】
AbCIDを生成させる方法
いくつかの実施態様では、本明細書において、小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合する結合部分を結合分子ライブラリから選択する方法として、(a)結合部分の入力セットをスクリーニングして、小分子の不在下ではコグネイト結合部分に結合しない結合部分を探すことにより、負の選択がされた結合部分のセットを生成させ;(b)結合部分の入力セットをスクリーニングして、小分子とコグネイト結合部分の複合体に結合する結合部分を探すことにより、正の選択がされた結合部分のセットを生成させ;(c)工程(a)のスクリーニングと工程(b)のスクリーニングを含むスクリーニングを1回以上実施して、小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合する結合部分のセットを生成させることを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、この方法は、2または複数ラウンドのスクリーニングを含んでいて、(1)第1回目のスクリーニングのための工程(a)の結合部分の入力セットは結合分子ライブラリであり、(2)各回のスクリーニングのための工程(b)の結合部分の入力セットは、所与の回のスクリーニングからの工程(a)の負の選択がされた結合部分のセットであり、(3)第1回目のスクリーニングの後の各回のスクリーニングのための工程(a)の結合部分の入力セットは、直前の回のスクリーニングからの工程(b)の正の選択がされた結合部分のセットであり、(4)小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合する結合部分のセットは、最終回のスクリーニングのための工程(b)の正の選択がされた結合部分のセットである。いくつかの実施態様では、この方法は、少なくとも2回(例えば少なくとも2回、3回、4回、5回、6回のいずれか、またはそれ以上の回数)の選択を含んでいる。いくつかの実施態様では、結合部分のセットに含まれる結合部分であって小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合するものの少なくとも1つは、前記複合体に、遊離した小分子と遊離したコグネイト結合部分のそれぞれに対する結合に関する解離定数(Kd)の約1/250以下(1/300以下、1/350以下、1/400以下、1/450以下、1/500以下、1/600以下、1/700以下、1/800以下、1/900以下、1/1000以下、1/1100以下、1/1200以下、1/1300以下、1/1400以下、1/1500以下のいずれか、またはそれ以下)のKdで結合する。いくつかの実施態様では、結合部分のセットに含まれる結合部分であって小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合するもののそれぞれは、前記複合体に、遊離した小分子と遊離したコグネイト結合部分のそれぞれに対する結合に関する解離定数(Kd)の約1/250以下(1/300以下、1/350以下、1/400以下、1/450以下、1/500以下、1/600以下、1/700以下、1/800以下、1/900以下、1/1000以下、1/1100以下、1/1200以下、1/1300以下、1/1400以下、1/1500以下のいずれか、またはそれ以下)のKdで結合する。いくつかの実施態様では、結合分子ライブラリは、抗体ライブラリ、DARPinライブラリ、ナノボディライブラリ、アプタマーライブラリのいずれかである。いくつかの実施態様では、結合分子ライブラリは抗体ライブラリである。いくつかの実施態様では、結合分子ライブラリは、ファージ提示Fabライブラリである。
【0269】
いくつかの実施態様では、本明細書において、小分子と結合部分間の複合体に特異的に結合する抗体部分を含んでいて、(A)本明細書に記載されている任意の方法に従って、小分子と結合部分間の複合体に特異的に結合する抗体部分を抗体ライブラリから選択する工程と;(B)(A)の抗体部分の1つを含むコンストラクトを用意する工程を含む方法によって調製されるコンストラクトが提供される。いくつかの実施態様では、このコンストラクトは、本明細書に記載されている任意の実施態様に従うAbCIDの第2のCID構成要素であり、AbCIDの第1のCID構成要素は結合部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、抗体部分は、小分子の少なくとも一部と結合部分の一部を含む複合体の部位に特異的に結合する。いくつかの実施態様では、小分子の少なくとも一部と結合部分の一部を含む複合体の部位は、前記小分子と、結合部分のうちで前記小分子が結合する部位の間の接合部分であり、前記小分子の少なくとも1個の原子と、結合部分の1個の原子を含んでいる。
【0270】
いくつかの実施態様では、本明細書において、第2の結合部分が、(A)本明細書に記載されている任意の方法に従って、小分子と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合する抗体部分を抗体ライブラリから選択する工程と;(B)(A)の抗体部分の1つになる第2の結合部分を選択する工程を含む方法によって選択された抗体部分である、本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系が提供される。いくつかの実施態様では、抗体部分は、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位に特異的に結合する。いくつかの実施態様では、抗体部分は、小分子の少なくとも一部と第1の結合部分の一部を含む複合体の部位は、前記小分子と、第1の結合部分のうちで前記小分子が結合する部位の間の接合部分であり、前記小分子の少なくとも1個の原子と、第1の結合部分の1個の原子を含んでいる。
【0271】
AbCIDを用いる方法
転写の調節
いくつかの実施態様では、本明細書において、細胞内の標的分子の発現を調節する方法として、本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系の第1と第2のCID構成要素をその細胞の中で発現させ、その細胞内の小分子の量を変化させることによって標的遺伝子の発現を調節することを含む方法が提供される。
【0272】
いくつかの実施態様では、本明細書において、細胞内の標的分子の発現を調節する方法として、(A)細胞内で、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を発現させるとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を発現させ(ここで、(1)第1のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第2のアダプタ部分が転写調節ドメインを含むか、(2)第2のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第1のアダプタ部分が転写調節ドメインを含み、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的遺伝子の転写を調節することができる)、(B)細胞内の小分子の量を変化させることによって標的遺伝子の発現を調節することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素は核局在シグナルをさらに含み、第2のCID構成要素は核局在シグナルをさらに含んでいる。いくつかの実施態様では、(i)転写調節ドメインは転写活性化ドメインであり、CIDは標的遺伝子の転写を上方調節することができる;または(ii)転写調節ドメインは転写抑制ドメインであり、CIDは標的遺伝子の転写を下方調節することができる。いくつかの実施態様では、転写調節ドメインはVPR転写活性化ドメインである。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは天然の転写調節因子に由来する。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼに由来する。いくつかの実施態様では、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼに触媒活性がない。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは、触媒活性がないCas9(dCas9)に由来する。
【0273】
細胞の中で標的遺伝子の発現を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-xLのABT-737結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-737と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表1に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-737結合ドメインは、配列番号314のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号314のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0274】
細胞の中で標的遺伝子の発現を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-2のABT-199結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-199と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表2に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-199結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0275】
細胞の中で標的遺伝子の発現を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-2のABT-263結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-263と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表3に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-263結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0276】
細胞の中で標的遺伝子の発現を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のLCL161結合ドメインを含み、第2の結合部分は、LCL161と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表4に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、LCL161結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0277】
細胞の中で標的遺伝子の発現を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のGDC-0152結合ドメインを含み、第2の結合部分は、GDC-0152と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表5に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、GDC-0152結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0278】
細胞の中で標的遺伝子の発現を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のAT406結合ドメインを含み、第2の結合部分は、AT406と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表6に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、AT406結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0279】
細胞の中で標的遺伝子の発現を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のCUDC-427結合ドメインを含み、第2の結合部分は、CUDC-427と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表7に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、CUDC-427結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0280】
細胞の中で標的遺伝子の発現を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、FKBPのSLF結合ドメインを含み、第2の結合部分は、SLFと第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表8に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、SLF結合ドメインは、配列番号316のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号316のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0281】
細胞の中で標的遺伝子の発現を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、メトトレキサート結合Fab(このメトトレキサート結合Fab HC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3は、それぞれ配列番号318、319、320、321、322、323のアミノ酸配列、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる)を含み、第2のCID構成要素は、メトトレキサートと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表9に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、メトトレキサート結合Fabは、Gayda他、Biochemistry 2014年 第53巻(23)、3719~3726ページに記載されているメトトレキサート結合Fabである。
【0282】
細胞の生存
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞の生存を制御する方法として、(I)標的細胞を所定量殺す、または(II)標的細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において、(A)本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系の第1と第2のCID構成要素を標的細胞の中で発現させること;(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。
【0283】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞の生存を制御する方法として、(I)標的細胞を所定量殺す、または(II)標的細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において、(A)標的細胞内で、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を発現させるとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を発現させ(ここで第1のアダプタ部分と第2のアダプタ部分が合わさって標的細胞の中でアポトーシスを誘導することができる)、(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分および/または第2のアダプタ部分は、カスパーゼタンパク質に由来する。いくつかの実施態様では、標的細胞は、個体に養子移植された組み換え細胞である。いくつかの実施態様では、標的細胞は、個体における養子細胞療法の一部である。いくつかの実施態様では、標的細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞である。
【0284】
個体で標的細胞の生存を制御するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-xLのABT-737結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-737と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表1に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-737結合ドメインは、配列番号314のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号314のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0285】
個体で標的細胞の生存を制御するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-2のABT-199結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-199と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表2に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-199結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0286】
個体で標的細胞の生存を制御するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-2のABT-263結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-263と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表3に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-263結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0287】
個体で標的細胞の生存を制御するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のLCL161結合ドメインを含み、第2の結合部分は、LCL161と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表4に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、LCL161結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0288】
個体で標的細胞の生存を制御するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のGDC-0152結合ドメインを含み、第2の結合部分は、GDC-0152と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表5に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、GDC-0152結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0289】
個体で標的細胞の生存を制御するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のAT406結合ドメインを含み、第2の結合部分は、AT406と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表6に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、AT406結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0290】
個体で標的細胞の生存を制御するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のCUDC-427結合ドメインを含み、第2の結合部分は、CUDC-427と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表7に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、CUDC-427結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0291】
個体で標的細胞の生存を制御するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、FKBPのSLF結合ドメインを含み、第2の結合部分は、SLFと第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表8に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、SLF結合ドメインは、配列番号316のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号316のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0292】
個体で標的細胞の生存を制御するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、メトトレキサート結合Fab(このメトトレキサート結合Fab HC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3は、それぞれ配列番号318、319、320、321、322、323のアミノ酸配列、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる)を含み、第2のCID構成要素は、メトトレキサートと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表9に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、メトトレキサート結合Fabは、Gayda他、Biochemistry 2014年 第53巻(23)、3719~3726ページに記載されているメトトレキサート結合Fabである。
【0293】
免疫の調節
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法として、標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系の第1と第2のCID構成要素として、標的抗原に対して特異的なヘテロ二量体CARである第1と第2のCID構成要素を発現する改変T細胞を前記個体に投与し(そのとき標的抗原が標的細胞の表面に発現している);(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0294】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法として、標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を発現するとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を発現する改変T細胞を投与し(ここで(1)第1のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み;第2のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含むか、(2)第2のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み;第1のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含み、細胞外抗原結合部分は標的抗原に特異的に結合する)、(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素は分泌シグナルペプチドをさらに含んでいる。いくつかの実施態様では、治療計画は、標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて個体における有害効果がより少ない。
【0295】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法として、標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分(前記第1のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいる)を含む第1のCID構成要素を発現する改変T細胞を投与すること;(B)前記個体に、(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分(前記第2のアダプタ部分は細胞外抗原結合部分を含んでいて、この細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する)を含む第2のCID構成要素を投与すること;(C)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療計画は、標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて個体における有害効果がより少ない。
【0296】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法として、標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分(前記第1のアダプタ部分は細胞外抗原結合部分を含んでいて、この細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する)を含む第1のCID構成要素を投与すること;(B)前記個体に、(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分(前記第2のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいる)を含む第2のCID構成要素を発現する改変T細胞を投与すること;(C)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療計画は、標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて個体における有害効果がより少ない。
【0297】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法として、標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系の第1と第2のCID構成要素を投与し(ここでこのCIDは、T細胞を標的細胞へとリダイレクトさせることのできるヘテロ二量体二重特異性T細胞エンゲージャである);(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。
【0298】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法として、標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を投与するとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を投与し(ここで、第1のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、第2のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含むか、(2)第2のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、第1のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含む);(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、T細胞抗原結合部分は、CD3に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、疾患状態の細胞に関係する細胞表面抗原に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、疾患状態の細胞は、がん細胞である。いくつかの実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、CD19に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、治療計画は、標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応する二重特異性T細胞エンゲージャドメインを含む従来の二重特異性T細胞エンゲージャ(例えばBiTE(登録商標))の投与を含む対応する方法と比べて個体における有害効果がより少ない。
【0299】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体でT細胞が媒介する免疫反応を調節する方法として、T細胞が媒介する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系の第1と第2のCID構成要素をT細胞の中で発現させ(ここでこのCIDは、免疫細胞の活性化を調節することのできるヘテロ二量体シグナル伝達分子である);(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0300】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体でT細胞が媒介する免疫反応を調節する方法として、T細胞が媒介する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)T細胞の中で、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を発現させるとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を発現させ(ここで第1のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含み;第2のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含む);(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療計画は、T細胞が媒介する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するシグナル伝達ドメインを含む単量体シグナル伝達分子をT細胞の中で発現させることを含む対応する方法と比べて個体における有害効果がより少ない。いくつかの実施態様では、T細胞はCAR T細胞である。
【0301】
個体で標的細胞の免疫反応を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-xLのABT-737結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-737と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、この抗体部分は、表1に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-737結合ドメインは、配列番号314のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号314のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0302】
個体で標的細胞の免疫反応を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-2のABT-199結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-199と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、この抗体部分は、表2に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-199結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0303】
個体で標的細胞の免疫反応を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-2のABT-263結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-263と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、この抗体部分は、表3に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-263結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0304】
個体で標的細胞の免疫反応を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のLCL161結合ドメインを含み、第2の結合部分は、LCL161と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、この抗体部分は、表4に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、LCL161結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0305】
個体で標的細胞の免疫反応を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のGDC-0152結合ドメインを含み、第2の結合部分は、GDC-0152と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、この抗体部分は、表5に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、GDC-0152結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0306】
個体で標的細胞の免疫反応を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のAT406結合ドメインを含み、第2の結合部分は、AT406と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、この抗体部分は、表6に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、AT406結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0307】
個体で標的細胞の免疫反応を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のCUDC-427結合ドメインを含み、第2の結合部分は、CUDC-427と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、この抗体部分は、表7に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、CUDC-427結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0308】
個体で標的細胞の免疫反応を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、FKBPのSLF結合ドメインを含み、第2の結合部分は、SLFと第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、この抗体部分は、表8に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、SLF結合ドメインは、配列番号316のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号316のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0309】
個体で標的細胞の免疫反応を調節するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、メトトレキサート結合Fab(このメトトレキサート結合Fab HC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3は、それぞれ配列番号318、319、320、321、322、323のアミノ酸配列、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる)を含み、第2のCID構成要素は、メトトレキサートと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、この抗体部分は、表9に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、メトトレキサート結合Fabは、Gayda他、Biochemistry 2014年 第53巻(23)、3719~3726ページに記載されているメトトレキサート結合Fabである。
【0310】
細胞
いくつかの側面では、本明細書において、本明細書に提示されて記述されているAbCIDの1つ以上の構成要素を含む組み換え細胞(哺乳動物の組み換え細胞(例えばT細胞))が提供される。いくつかの実施態様では、AbCIDは、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、第1のCID構成要素および/または第1のCID構成要素をコードする核酸を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、第2のCID構成要素、および/または第2のCID構成要素をコードする核酸を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、i)第1のCID構成要素、および/または第1のCID構成要素をコードする核酸と、ii)第2のCID構成要素、および/または第2のCID構成要素をコードする核酸を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、組み換えT細胞である。いくつかの実施態様では、組み換えT細胞はヒトのものである。
【0311】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されている組み換え細胞は、AbCIDの第1のCID構成要素を含んでいる。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素は、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と前記小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と、(ii)第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞はさらに、AbCIDの第2のCID構成要素を含んでいる。いくつかの実施態様では、第2のCID構成要素は、(i)第1のCID構成要素と前記小分子の間に複合体を形成することのできる第2の結合部分と、(ii)第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、AbCIDの第2のCID構成要素を含んでいない。
【0312】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されている組み換え細胞は、AbCIDの第2のCID構成要素を含んでいる。いくつかの実施態様では、第2のCID構成要素は、(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と、(ii)第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞はさらに、AbCIDの第1のCID構成要素を含んでいる。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素は、(i)小分子と相互作用して前記第1のCID構成要素と前記小分子の間に複合体を形成することのできる第1の結合部分と、(ii)第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、AbCIDの第1のCID構成要素を含んでいない。
【0313】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されている組み換え細胞は、AbCIDの第1のCID構成要素をコードする核酸を含んでいる。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素は、(i)小分子と相互作用して前記第1のCID構成要素と前記小分子の間に複合体を形成することのできる第1の結合部分と、(ii)第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞はさらに、第1のCID構成要素を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞はさらに、AbCIDの第2のCID構成要素をコードする核酸を含んでいる。いくつかの実施態様では、第2のCID構成要素は、(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と、(ii)第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞はさらに、第2のCID構成要素を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、AbCIDの第2のCID構成要素をコードする核酸を含んでいない。
【0314】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されている組み換え細胞は、AbCIDの第2のCID構成要素をコードする核酸を含んでいる。いくつかの実施態様では、第2のCID構成要素は、(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と、(ii)第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞はさらに、第2のCID構成要素を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞はさらに、AbCIDの第1のCID構成要素をコードする核酸を含んでいる。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素は、(i)小分子と相互作用して前記第1のCID構成要素と前記小分子の間に複合体を形成することのできる第1の結合部分と、(ii)第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞はさらに、第1のCID構成要素を含んでいる。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、AbCIDの第1のCID構成要素をコードする核酸を含んでいない。
【0315】
いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、T細胞であるか、T細胞へと分化できる前駆細胞である。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、CD3+ Tリンパ球、および/またはCD8+ Tリンパ球、および/またはCD4+ Tリンパ球である。いくつかの実施態様では、組み換え細胞は、CD8+ T細胞傷害性リンパ細胞であり、その中には、ナイーブCD8+ T細胞、中央記憶CD8+ T細胞、エフェクタ記憶CD8+ T細胞、バルクCD8+ T細胞を含めることができる。
【0316】
リンパ球(Tリンパ球)は公知の技術に従って回収することができ、公知の技術(フローサイトメトリーおよび/または免疫磁性選択など、抗体への親和性結合)によって富化または欠乏させることができる。富化工程または欠乏工程の後、望むTリンパ球のインビトロでの増殖を当業者には明らかであろう公知の技術またはそのバリエーションに従って実施することができる。いくつかの実施態様では、T細胞は患者から得られた自家T細胞である。
【0317】
例えば望むT細胞の集団または部分集団は、インビトロで初期Tリンパ球集団を培地に添加した後、その培地に培地フィーダー細胞(分裂しない末梢血単球細胞(PBMC)など)を添加し(て、例えば得られる細胞集団が、増やす初期集団の中の各Tリンパ球当たり少なくとも5個、10個、20個、40個、またはそれよりも多い個数のPBMCフィーダー細胞を含有するようにし)、(例えばT細胞の数を増やすのに十分な時間にわたって)その培地をインキュベートすることによって増やすことができる。分裂しないフィーダー細胞は、ガンマ線を照射したPBMCフィーダー細胞を含むことができる。いくつかの実施態様では、3000~3600ラドの範囲のガンマ線をPBMCに照射して細胞分裂を阻止する。いくつかの実施態様では、PBMCに3000ラド、3100ラド、3200ラド、3300ラド、3400ラド、3500ラド、3600ラドのいずれか、または列挙した値の任意の2つの値を端点とするその間の任意の数値のラドのガンマ線を照射して細胞分裂を阻止する。T細胞とフィーダー細胞を培地に添加する順序は、望むのであれば逆にすることができる。培地は、典型的には、Tリンパ球の増殖に適した温度などの条件下でインキュベートすることができる。例えばヒトTリンパ球を増殖させるには、温度は一般に少なくとも25℃、好ましくは少なくとも30℃、より好ましくは37℃になろう。いくつかの実施態様では、ヒトTリンパ球を増殖させるための温度は、22℃、24℃、26℃、28℃、30℃、32℃、34℃、36℃、37℃のいずれか、または列挙した値の任意の2つの値を端点とするその間の任意の他の温度である。
【0318】
Tリンパ球を単離した後、増やす前または増やした後に細胞傷害性Tリンパ球とヘルパーTリンパ球の両方を、ナイーブT細胞部分集団、記憶T細胞部分集団、エフェクタT細胞部分集団に分類する。
【0319】
CD8+ 細胞は、標準的な方法で取得することができる。いくつかの実施態様では、CD8+ 細胞をさらにナイーブ細胞、中央記憶細胞、エフェクタ記憶細胞に分類する操作を、CD8+ 細胞の各タイプに関係する細胞表面抗原を同定することによって実施する。いくつかの実施態様では、記憶T細胞は、CD8+ 末梢血リンパ球のCD62L+サブセットとCD62L-サブセットの両方に存在する。PBMCは、抗CD8抗体と抗体CD62L抗体で染色された後、ソーティングによってCD62L-CD8+分画とCD62L+CD8+分画に分類される。いくつかの実施態様では、中央記憶TCMの表現型マーカーの発現には、CD45RO、および/またはCD62L、および/またはCCR7、および/またはCD28、および/またはCD3、および/またはCD127の発現が含まれ、グランザイムBに関しては発現が陰性であるか、少ない。いくつかの実施態様では、中央記憶T細胞は、CD45RO+ T細胞、および/またはCD62L+ T細胞、および/またはCD8+ T細胞である。いくつかの実施態様では、エフェクタTEは、CD62L、および/またはCCR7、および/またはCD28、および/またはCD127に関して陰性であり、グランザイムBおよび/またはパーフォリンに関して陽性である。いくつかの実施態様では、ナイーブCD8+ Tリンパ球は、ナイーブT細胞の表現型マーカー(CD62L、および/またはCCR7、および/またはCD28、および/またはCD3、および/またはCD127、および/またはCD45RAが含まれる)の発現を特徴とする。
【0320】
キメラ抗体とヒト化抗体
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、異なる種からの混合物に由来する(例えばキメラ抗体および/またはヒト化抗体)。一般に、「キメラ抗体」と「ヒト化抗体」の両方とも、2つ以上の種からの領域が組み合わされた抗体を意味する。例えば「キメラ抗体」は、伝統的に、マウス(または、いくつかの場合にはラット)からの可変領域と、ヒトからの定常領域を含んでいる。「ヒト化抗体」は一般に、ヒト抗体に見られる配列で置き換えられた可変ドメインフレームワーク領域を持つ非ヒト抗体を意味する。一般に、ヒト化抗体では、CDRを除くその抗体全体が、ヒト起源のポリペプチドによってコードされている。すなわちCDRの中以外はそのような抗体と同じである。それらCDRのいくつかまたはすべては非ヒト生物に由来する核酸によってコードされており、それらCDRがヒト抗体可変領域のβシートフレームワークの中にグラフトされて抗体が作り出される。この抗体の特異性は、グラフトされたCDRによって決まる。このような抗体の作製は、例えばWO 92/11018;Jones、1986年、Nature 第321巻:522~525ページ;Verhoeyen他、1988年、Science 第239巻:1534~1536ページに記載されている(これらはすべて、その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。グラフトされた初期コンストラクトで失われた親和性を再度獲得するには、選択されたアクセプタフレームワーク残基から対応するドナー残基への「逆変異」がしばしば必要とされる(アメリカ合衆国特許第5,530,101号、第5,585,089号、第5,693,761号、第5,693,762号、第6,180,370号、第5,859,205号、第5,821,337号、第6,054,297号、第6,407,213号。これらはすべて、その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。最適なヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部も含むことになるため、典型的にはヒトFc領域を含むことになる。ヒト化抗体は、遺伝子組み換えされた免疫系を持つマウスを用いて作製することもできる。Roque他、2004年、Biotechnol. Prog. 第20巻:639~654ページ(その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。非ヒト抗体のヒト化と改変(reshaping)のための多彩な技術と方法が本分野でよく知られている(TsurushitaとVasquez、2004年、『Humanization of Monoclonal Antibodies, Molecular Biology of B Cells』、533~545ページ、Elsevier Science社(アメリカ合衆国)と、その中で引用されている参考文献を参照されたい。その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。ヒト化する方法の非限定的な例に含まれるのは、Jones他、1986年、Nature第321: 522~525ページ;Riechmann他、1988年、Nature第332巻:323~329ページ;Verhoeyen他、1988年、Science, 第239巻:1534~1536ページ;Queen他、1989年、Proc Natl Acad Sci, USA第86巻:10029~10033ページ;He他、1998年、J. Immunol. 第160巻:1029~1035ページ;Carter他、1992年、Proc Natl Acad Sci USA第89巻:4285~4289ページ;Presta他、1997年、Cancer Res. 第57巻(20):4593~4599ページ;Gorman他、1991年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA第88巻:4181~4185ページ;O’Connor他、1998年、Protein Eng第11巻:321~328ページに記載されている方法である(これらはすべて、その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。非ヒト抗体可変領域の免疫原性を低下させるヒト化その他の方法には、表面改変(resurfacing)法を含めることができる。この方法は例えばRoguska他、1994年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA第91巻:969~973ページに記載されている(その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。
【0321】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、特定の生殖細胞系列重鎖免疫グロブリン遺伝子からの重鎖可変領域、および/または特定の生殖細胞系列軽鎖免疫グロブリン遺伝子からの軽鎖可変領域を含んでいる。例えばそのような抗体は、特定の生殖細胞系列の配列「の産物である」軽鎖可変領域か、特定の生殖細胞系列の配列「に由来する」軽鎖可変領域を含むヒト抗体を含むこと、またはそのようなヒト抗体で構成することができる。ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列「の産物である」か、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列「に由来する」ヒト抗体の同定は、ヒト抗体のアミノ酸配列をヒト生殖細胞系列の免疫グロブリンのアミノ酸配列と比較し、ヒト抗体の配列に最も近い(すなわち%一致が最大の)配列を持つヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列を選択することによって可能である。特定のヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列「の産物である」か、特定のヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列「に由来する」ヒト抗体は、例えば天然の体細胞変異または意図的な部位特異的変異の導入が理由で生殖細胞系列の配列と比べて異なるアミノ酸を含有している可能性がある。しかしヒト化抗体は、典型的には、アミノ酸配列がヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%一致していて、他の種の生殖細胞系列の免疫グロブリンアミノ酸配列(マウス生殖細胞系列の配列)と比べたときにこの抗体がヒト配列に由来する抗体であることがわかるアミノ酸残基を含んでいる。いくつかの場合には、ヒト化抗体は、生殖細胞系列の免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%いずれかの割合で一致する、それどころか少なくとも96%、97%、98%、99%いずれかの割合で一致する可能性がある。典型的には、特定のヒト生殖細胞系列の配列に由来するヒト化抗体は、生殖細胞系列の免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と10~20個以下のアミノ酸の違いを示すであろう(本明細書の何らかのスキューバリアント、pIバリアント、除去バリアントを導入する前、すなわち本発明のバリアントを導入する前にはバリアントの数は一般に少ない)。いくつかの場合には、ヒト化抗体は、生殖細胞系列の免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と5個以下、それどころか4個以下、または3個以下、または2個以下、または1個以下のアミノ酸の違いを示す可能性がある(ここでも何らかのスキューバリアント、pIバリアント、除去バリアントを導入する前、すなわち本発明のバリアントを導入する前にはバリアントの数が一般に少ない)。
【0322】
一実施態様では、本分野で知られているように、親抗体は親和性が成熟している。アメリカ合衆国特許出願シリアル番号第11/004,590号に記載されているように、構造に基づく方法を利用してヒト化と親和性成熟を実現することが可能である。選択に基づく方法を利用した抗体可変領域のヒト化および/または親和性成熟が可能であり、この方法の非限定的な例に含まれるのは、Wu他、1999年、J. Mol. Biol. 第294巻:151~162ページ;Baca他、1997年、J. Biol. Chem. 第272巻(16):10678~10684ページ;Rosok他、1996年、J. Biol. Chem. 第271巻(37):22611~22618ページ;Rader他、1998年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA第95巻:8910~8915ページ;Krauss他、2003年、Protein Engineering第16巻(10):753~759ページに記載されている方法である(これらはすべて、その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。他のヒト化法は、CDRの一部だけをグラフトする操作を含むことができ、この方法の非限定的な例に含まれるのは、アメリカ合衆国特許出願シリアル番号第09/810,510号;Tan他、2002年、J. Immunol. 第169巻:1119~1125ページ;De Pascalis他、2002年、J. Immunol. 第169巻:3076~3084ページに記載されている方法である(これらはすべて、その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。
【0323】
処置の方法
本発明の代表的な方法は、本明細書で論じられているAbCIDを通じて形成されたタンパク質aとタンパク質bの間の二量体を含む治療剤によって処置できる疾患を有する患者を処置するための、AbCIDの利用に向けられている。代表的な疾患の非限定的な例に含まれるのは、がん、浸潤性血管新生、自己免疫疾患である。
【0324】
以下の議論では、本発明のAbCIDを用いたさまざまな疾患と障害の処置に言及し、本明細書に記載されている方法は、複合体にも適用できる。この議論が、タンパク質a、タンパク質b、抗体、抗原結合フラグメント、バリアント、これらのAbCIDを通じて形成された二量体のタンパク質構成要素の誘導体に適用されることは、当業者にとって明らかであろう。
【0325】
一実施態様では、処置を必要とする対象の処置には、疾患を有する患者、疾患の症状を有する患者、疾患になりやすい傾向を有する患者から単離された組織、細胞、細胞系(例えばT細胞、CAR T細胞)に本発明のAbCIDを適用または投与することが含まれる。別の一実施態様では、処置に、疾患を有する患者、疾患の症状を有する患者、疾患になりやすい傾向を有する患者から単離された組織、細胞、細胞系に本発明のAbCIDを含む医薬組成物を適用または投与することが含まれることも想定している。代表的な医薬組成物には、AbCIDまたはそのタンパク質複合体を医薬として許容可能な基剤、賦形剤などと混合したものが含まれる。
【0326】
本発明の代表的なAbCIDは、さまざまな悪性腫瘍と非悪性腫瘍の処置に役立つ。「抗腫瘍活性」とは、悪性細胞が増殖または蓄積する速度の低下を意味し、したがって存在している腫瘍の増殖速度の低下、および/または治療中に発生する腫瘍の減少、および/または存在している新生物(腫瘍)細胞または新たに形成される新生物細胞の破壊を意味し、したがって治療中の腫瘍の全体的なサイズの縮小を意味する。例えば少なくとも1つのAbCIDを用いた治療により、ヒトの疾患状態の処置に関して有益な生理学的な反応(例えば血管新生の減少)が引き起こされる。
【0327】
一実施態様では、本発明は、薬として用いるための、特にがんの治療または予防に用いるための、または前がん性状態または病巣に用いるための本発明によるAbCID分子(例えば抗体、またはその結合フラグメントと前記複合体)に関する。いくつかの実施態様では、本発明のAbCIDは、リンパ腫または白血病の処置に用いられる。
【0328】
さらに、本発明のAbCIDは、新たな血管の形成(腫瘍の発達と黄斑変性が含まれる)に依存する病態を処置するために血管新生を抑制するのにも使用できる。血管新生は複雑な多段階の形態形成事象であり、この事象が起こっているとき、内皮細胞が血管リモデリングの主要な決定因子によって刺激されて、細胞と細胞の接触と、細胞とマトリックスの接触をダイナミックに変化させ、成熟した血管ツリーへと再編成される方向に移動する(Bussolino他、Trends Biochem Sci. 第22巻:251~256 (1997年);Risau、Nature第386巻:671~674ページ(1997年);Jain、Nat. Med. 第9巻:685~693ページ(2003年))。新たな血管の形成は胚発生の間の重要な1つの工程だが、生理学的、病理学的な状態(網膜症、関節リウマチ、虚血など)にある成人でも起こる(Carmeliet、Nat. Med. 第9巻:653~660ページ(2003年))。新たな血管のこの病的形成を本明細書では「浸潤性血管新生」と呼ぶ(Basile他、PNAS第103巻(24):9017~9022ページ(2006年))。血管新生は頻繁に利用されている戦略であり、この戦略によって多彩な癌腫が血管新生を促進することができる。
【0329】
本発明の方法によれば、本明細書の別の箇所で定義した少なくとも1つのAbCIDを用いて悪性のヒト細胞でプラスの治療反応を促進する。がんの処置に関する「プラスの治療反応」とは、これら結合分子(例えば抗体またはそのフラグメント)の抗腫瘍活性に伴う疾患の改善、および/またはその疾患に関係する症状の改善を意味する。すなわち、抗増殖効果、および/または腫瘍のさらなる増殖の阻止、および/または腫瘍のサイズ縮小、および/または腫瘍の血管系の減少、および/または腫瘍細胞の数の減少、および/または疾患に関係する1つ以上の症状の減少を観察することができる。したがって例えば疾患の改善は、完全奏効を特徴とすることができる。「完全奏効」とは、臨床的に検出可能な疾患が存在せず、以前のあらゆる異常なX線撮影検査、骨髄、脳脊髄液(CSF)が正常化していることを意味する。このような反応が、本発明による処置後の少なくとも1ヶ月継続する必要がある。あるいは疾患の改善は、部分奏効として分類することができる。「部分奏効」とは、新たな病巣がなくて、あらゆる測定可能な腫瘍負荷(すなわち対象に存在する腫瘍細胞の数)の少なくとも約50%の減少が少なくとも1ヶ月継続することを意味する。このような反応は、測定可能な腫瘍にだけ適用できる。
【0330】
腫瘍の反応は、スクリーニング技術(生物発光イメージング(例えばルシフェラーゼイメージング)、骨走査イメージング、腫瘍生検サンプリング(骨髄吸引(BMA)を含む)など)を利用して腫瘍の形態(すなわち全腫瘍負荷、腫瘍細胞カウント数など)の変化に関して評価することができる。抗CD100結合分子(例えば抗体またはその抗体結合フラグメント)を用いた治療を受けている患者は、これらのプラスの治療反応に加え、疾患に付随する症状の改善という有利な効果を経験する可能性がある。例えば対象は、いわゆるB症状(例えば寝汗、発熱、体重減少、蕁麻疹)の減少を経験する可能性がある。
【0331】
本明細書に記載されているAbCIDは、炎症性疾患と免疫系の不全または障害の処置にも用途を見いだすことができる。炎症性疾患は、炎症と組織破壊、またはその組み合わせを特徴とする。「抗炎症活性」とは、炎症の減少または防止を意味する。「炎症性疾患」には、炎症性の免疫媒介プロセスが含まれ、このプロセスには免疫反応を開始させる事象または免疫反応の標的に非自己(例えば同種抗原、異種抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、未知の抗原、アレルゲンが含まれる)が関与している。一実施態様では、炎症性疾患は、末梢神経系または中枢神経系の炎症性障害である。別の一実施態様では、炎症性疾患は、関節の炎症性障害である。
【0332】
さらに、本発明の目的では、「炎症性疾患」という用語に「自己免疫疾患」が含まれる。本明細書では、「自己免疫」という用語は一般に、「自己」抗原が関与する炎症性の免疫媒介プロセスが含まれる。自己免疫疾患では、自己抗原が宿主の免疫反応の引き金を引く。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切な免疫反応の結果、すなわち正常状態の自己寛容からずれた結果である可能性がある。一般に、抗体(特にIgG抗体だが、それに限定されない)が、さまざまな自己免疫疾患の主要なメディエータであり、自己免疫疾患の多くが、心身を衰弱させたり生命を脅かしたりする。
【0333】
臨床反応は、スクリーニング技術(磁気共鳴イメージング(MRI)スキャン、X線イメージング、コンピュータトモグラフィ(CT)スキャン、フローサイトメトリー、蛍光活性化セルソーター(FACS)分析、組織学、肉眼所見、血液化学など)を利用して評価することができ、臨床反応の非限定的な例に含まれるのは、ELISA、RIA、クロマトグラフィなどによって検出できる変化である。AbCIDを用いた治療を受けている対象は、これらのプラスの治療反応に加え、疾患に付随する症状の改善という有利な効果を経験する可能性がある。
【0334】
AbCIDは、少なくとも1つの他のがん療法(その非限定的な例に含まれるのは、外科手術または外科的手続き(例えば脾臓摘出、肝臓摘出、リンパ節切除、白血球分離、骨髄移植など)、放射線療法、化学療法(場合によっては自家骨髄移植または他のがん療法と組み合わされる))と組み合わせて使用することができ、その追加のがん療法は、AbCID分子(例えば抗体またはその抗原結合フラグメント)療法の投与前、または投与中、または投与後に適用される。したがってこの併用療法が、本発明のAbCIDの投与を、化学療法、放射線療法、他の抗がん抗体療法、小分子に基づくがん療法、ワクチン免疫療法に基づくがん療法のいずれかで用いられる別の治療剤の投与と組み合わせて含んでいる場合には、本発明の方法は、複数の別々の製剤または単一の医薬製剤を用いた同時投与と、いずれかの順番での逐次的投与を包含する。
【0335】
本発明のAbCID分子は、がん、自己免疫疾患、炎症性疾患のための既知の任意の治療剤と組み合わせて使用することができる(自己免疫疾患と炎症性疾患の治療に有用であることが知られている、または使用されてきた、または現在使用されている任意の薬剤または薬剤の組み合わせが含まれる)。したがって併用療法がAbCID分子の投与を別の治療剤の投与と組み合わせて含んでいる場合には、本発明の方法は、複数の別々の製剤または単一の医薬製剤を用いた同時投与と、いずれかの順番での逐次的投与を包含する。本発明のいくつかの実施態様では、本明細書に記載されているAbCIDは免疫抑制薬または抗炎症薬と組み合わせて投与され、その抗体と治療剤は、いずれかの順番で逐次的に、または同時に(すなわち合わせて、または同じ時間枠の中で)投与することができる。
【0336】
本発明のさらに別の一実施態様は、例えば所与の治療計画の効果を明らかにすることを目的とした臨床検査手続きの一環として診断用に組織内のタンパク質レベルをモニタするためのAbCIDの利用である。例えばAbCIDを検出可能な物質にカップルさせることで検出を容易にすることができる。検出可能な物質の例に含まれるのは、さまざまな酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、放射性材料である。適切な酵素の例に含まれるのは、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼであり、適切な補欠分子族複合体の例に含まれるのは、ストレプトアビジン/ビオチン、アビジン/ビオチンであり、適切な蛍光材料の例に含まれるのは、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、フィコエリトリンであり、発光材料の例に含まれるのはルミノールであり、生物発光材料の例に含まれるのは、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリンであり、適切な放射性材料の例に含まれるのは、125I、131I、35S、3Hである。
【0337】
転写の調節
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体の疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、本明細書に記載されている任意の実施態様による系の第1と第2のCID構成要素を前記個体の標的細胞の中で発現させ(前記CIDは標的遺伝子の転写を調節することができ、標的細胞の中でのその標的遺伝子の発現レベルが疾患と関係している)、前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。
【0338】
いくつかの実施態様では、本明細書において、標的細胞の中の標的遺伝子の発現レベルが疾患と関係している場合の個体の疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)前記個体の標的細胞内で、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を発現させるとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を発現させ(ここで、(1)第1のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第2のアダプタ部分が転写調節ドメインを含むか、(2)第2のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、第1のアダプタ部分が転写調節ドメインを含み、第1のCID構成要素と第2のCID構成要素は、小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的遺伝子の転写を調節することができる)、(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、第1のCID構成要素は核局在シグナルをさらに含み、第2のCID構成要素は核局在シグナルをさらに含んでいる。いくつかの実施態様では、(i)転写調節ドメインは転写活性化ドメインであり、CIDは標的遺伝子の転写を上方調節することができる;または(ii)転写調節ドメインは転写抑制ドメインであり、CIDは標的遺伝子の転写を下方調節することができる。いくつかの実施態様では、転写調節ドメインはVPR転写活性化ドメインである。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは天然の転写調節因子に由来する。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼに由来する。いくつかの実施態様では、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼに触媒活性がない。いくつかの実施態様では、DNA結合ドメインは、触媒活性がないCas9(dCas9)に由来する。
【0339】
細胞の生存
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞の生存を制御する方法であって、(I)養子移植された細胞を所定量殺す、または(II)養子移植された細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において、(A)その疾患のため、CIDの本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変細胞を含む養子細胞療法を前記個体に適用し(ここで前記CIDは標的細胞の死を誘導することができる);(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0340】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体の疾患を処置する方法として、(I)養子移植された細胞を所定量殺す、または(II)養子移植された細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において、(A)疾患のため、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を発現するとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を発現する改変細胞を含む養子細胞療法を前記個体に適用し(ここで第1のアダプタ部分と第2のアダプタ部分が合わさって標的細胞の中でアポトーシスを誘導することができる)、(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、第1のアダプタ部分および/または第2のアダプタ部分はカスパーゼタンパク質に由来する。いくつかの実施態様では、養子細胞療法はCAR T細胞療法である。
【0341】
免疫の調節
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変T細胞(ここで前記CIDは標的抗原に対して特異的なヘテロ二量体CARである)を前記個体に投与し(そのとき標的細胞の表面に標的抗原が発現している);(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0342】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を発現するとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を発現する改変T細胞を投与し(ここで(1)第1のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み;第2のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含むか、(2)第2のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み;第1のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含み、細胞外抗原結合部分は標的抗原に特異的に結合する)、(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素は分泌シグナルペプチドをさらに含んでいる。いくつかの実施態様では、治療計画は疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0343】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分(前記第1のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいる)を含む第1のCID構成要素を発現する改変T細胞を投与すること;(B)前記個体に、(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分(前記第2のアダプタ部分は細胞外抗原結合部分を含んでいて、この細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する)を含む第2のCID構成要素を投与すること;(C)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療計画は疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0344】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分(前記第1のアダプタ部分は細胞外抗原結合部分を含んでいて、この細胞外抗原結合部分が標的抗原に特異的に結合する)を含む第1のCID構成要素を投与すること;(B)前記個体に、(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分(前記第2のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいる)を含む第2のCID構成要素を発現する改変T細胞を投与すること;(C)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、治療計画は疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0345】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系の第1と第2のCID構成要素を投与し(ここでこのCIDは、T細胞を標的細胞へとリダイレクトさせることのできるヘテロ二量体二重特異性T細胞エンゲージャである);(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。
【0346】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)前記個体に、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を投与するとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を投与し(ここで、第1のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、第2のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含むか、(2)第2のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、第1のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含む);(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、T細胞結合部分はCD3に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、疾患状態の細胞に関係する細胞表面抗原に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、疾患状態の細胞は、がん細胞である。いくつかの実施態様では、標的細胞抗原結合部分は、CD19に特異的に結合する抗体部分である。いくつかの実施態様では、治療計画は疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応する二重特異性T細胞エンゲージャドメインを含む従来の二重特異性T細胞エンゲージャの投与を含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0347】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)本明細書に記載されている任意の実施態様に従う系の第1と第2のCID構成要素を(ここで前記CIDはT細胞の活性化を調節することのできるヘテロ二量体シグナル伝達分子である)、前記個体内にあって標的細胞を認識して殺すことのできるT細胞の中で発現させること;(B)小分子を前記個体に投与することを含む方法が提供される。
【0348】
いくつかの実施態様では、本明細書において、個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法として、疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)前記個体内にあって標的細胞を認識して殺すことのできるT細胞の中で、(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素を発現させるとともに;(b)(i)小分子と第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素を発現させ(ここで第1のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含み;第2のアダプタ部分は、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含む);(B)前記個体に小分子を投与することを含む方法が提供される。いくつかの実施態様では、T細胞はCAR T細胞である。いくつかの実施態様では、治療計画は疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するシグナル伝達ドメインを含む従来の単量体シグナル伝達分子をT細胞の中で発現させることを含む対応する方法と比べて個体での有害な効果がより少ない。
【0349】
個体の疾患を処置するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分はBcl-xLのABT-737結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-737結合と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含み、この抗体部分は、表1に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-737結合ドメインは、配列番号314のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号314のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0350】
個体の疾患を処置するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-2のABT-199結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-199と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、抗体部分は、表2に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-199結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0351】
個体の疾患を処置するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、Bcl-2のABT-263結合ドメインを含み、第2の結合部分は、ABT-263と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、抗体部分は、表3に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、ABT-263結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号315のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0352】
個体の疾患を処置するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のLCL161結合ドメインを含み、第2の結合部分は、LCL161と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、抗体部分は、表4に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、LCL161結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0353】
個体の疾患を処置するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のGDC-0152結合ドメインを含み、第2の結合部分は、GDC-0152と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、抗体部分は、表5に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、GDC-0152結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0354】
個体の疾患を処置するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のAT406結合ドメインを含み、第2の結合部分は、AT406と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、抗体部分は、表6に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、AT406結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0355】
個体の疾患を処置するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、cIAP1のCUDC-427結合ドメインを含み、第2の結合部分は、CUDC-427と第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、抗体部分は、表7に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、CUDC-427結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号317のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0356】
個体の疾患を処置するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、FKBPのSLF結合ドメインを含み、第2の結合部分は、SLFと第1の結合部分間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、抗体部分は、表8に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、SLF結合ドメインは、配列番号316のアミノ酸配列、またはそのバリアントで配列番号316のアミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。
【0357】
個体の疾患を処置するための本明細書に記載されている任意の方法に従ういくつかの実施態様では、第1の結合部分は、メトトレキサート結合Fab(このメトトレキサート結合Fab HC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3は、それぞれ配列番号318、319、320、321、322、323のアミノ酸配列、またはそのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる)を含み、第2のCID構成要素は、メトトレキサートと第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含んでいて、抗体部分は、表9に示されているHC-CDRとLC-CDRを含む重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むか、そのバリアントで少なくとも85%の相同性を持つものを含んでいる。いくつかの実施態様では、メトトレキサート結合Fabは、Gayda他、Biochemistry 2014年 第53巻(23)、3719~3726ページに記載されているメトトレキサート結合Fabである。
【0358】
医薬組成物と投与法
本発明のAbCIDを必要とする対象にそのAbCIDを調製して投与する方法は、当業者に周知であるか、当業者によって容易に決定される。AbCIDの投与経路として、例えば経口、非経口、吸入、局所が可能である。本明細書では、非経口という用語に、例えば静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸投与、膣投与が含まれる。これら投与形態はどれもが明らかに本明細書の範囲に入ると考えられるが、投与形態の一例として、注射用の溶液、特に静脈内注射または動脈内注射または点滴のための溶液が考えられる。通常は、注射のための適切な医薬組成物は、バッファー(例えば酢酸塩バッファー、リン酸塩バッファー、クエン酸塩バッファー)と、界面活性剤(例えばポリソルベート)と、場合によっては安定剤(例えばヒトアルブミン)などを含むことができる。しかし本明細書の教示に合致する別の方法では、本発明のAbCIDを有害な細胞集団の部位に直接送達することにより、治療剤に曝露する疾患状態の組織を多くすることができる。
【0359】
本明細書で議論されているように、本発明のAbCIDは、細胞が媒介するさまざまな疾患(ある種のがん、自己免疫疾患、炎症性疾患(中枢神経系(CNS)と末梢神経系(PNS)の炎症性疾患が含まれる)、浸潤性血管新生)の生体内処置のため、医薬として有効な量で投与することができる。この点に関し、開示されている本発明の結合分子は、投与しやすくするとともに活性剤の安定性を増大させるように製剤化されることがわかるであろう。本発明による医薬組成物は、医薬として許容可能な非毒性の減菌基剤(生理食塩水、非毒性のバッファー、保存剤など)を含んでいることが好ましい。本発明の用途の目的では、複合体になったAbCID、または複合体になっていないAbCIDの医薬として有効な量は、標的への有効な結合を実現するのに十分な量と、有益な効果を実現する(例えば疾患または障害の症状を改善したり、分室または細胞を検出したりする)のに十分な量を意味すると理解されるべきである。
【0360】
本発明で用いられる医薬組成物は、医薬として許容可能な基剤を含んでいる。それは例えば、イオン交換物質、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(ヒト血清アルブミンなど)、バッファー物質(リン酸塩など)、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物飽和脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩または電解質(硫酸プロタミンなど)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、蝋、ポリエチレン-ポリプロピレン-ブロックポリマー、脂肪である。
【0361】
非経口投与のための調製物に含まれるのは、減菌された水溶液または非水性溶液、懸濁液、エマルジョンである。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油など)、注射可能な有機エステル(オレイン酸エチルなど)である。水性基剤に含まれるのは、例えば水、アルコール性/水性の溶液、エマルジョン、懸濁液であり、その中には生理食塩水と緩衝化媒体が含まれる。本発明では、医薬として許容可能な基剤の非限定的な例に含まれるのは、0.01~0.1 M、好ましくは0.05 Mのリン酸塩バッファー、または0.8%生理食塩水である。他の一般的な非経口ビヒクルに含まれるのは、リン酸ナトリウム溶液、デキストロースリンゲル液、デキストロース、塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、不揮発性油である。静脈内ビヒクルに含まれるのは、体液補給剤、栄養補給剤、電解質補給剤(デキストロースリンゲル液をベースとした補給剤)などである。保存剤とそれ以外の添加剤も存在することができ、その例は、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート化剤、不活性ガスなどである。
【0362】
より具体的には、注射での利用に適した医薬組成物は、減菌された注射可能な溶液または分散液を即席で調製するための減菌水溶性(水溶性である場合)または減菌分散液と、減菌粉末である。そのような場合には、組成物は減菌されている必要があるとともに、注射器に容易に充填できる程度の流動性がなければならない。組成物は、製造と保管の条件下で安定でなければならず、微生物(細菌、真菌など)の汚染作用から保護されていることが好ましい。基剤として、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)を含有する溶媒または分散媒体と、これらの適切な混合物が可能である。適切な流動性を維持することは、例えばレシチンなどの被覆を用いることによって可能であり、分散液の場合には必要な粒径を維持することによって可能であり、界面活性剤を用いることによって可能である。本明細書に開示されている治療法で用いるのに適した製剤は、『Remington's Pharmaceutical Sciences』(Mack Publishing Co.社)第16版(1980年)に記載されている。
【0363】
微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌剤と抗真菌剤(例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって実現できる。多くの場合に組成物の中に等張剤(例えば糖、ポリアルコール(マンニトールなど)、ソルビトール、塩化ナトリウム)を含めることが好ましかろう。注射可能な組成物の長期吸収は、組成物の中に吸収を遅延させる薬剤(例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチン)を含めることによって実現できる。
【0364】
どの場合にも、減菌注射溶液は、活性な化合物(例えばAbCIDそのもの、または他の活性剤との組み合わせ)を、必要に応じて本明細書に列挙されている成分の1つまたは組み合わせとともに必要な量で適切な溶媒の中に組み込んだ後、減菌濾過することによって調製できる。一般に、分散液は、活性化合物を減菌ビヒクルに組み込むことによって調製されたものであり、基本的な分散媒体と、上に列挙されているものの中から選択された他の必要な成分を含有する。減菌注射溶液を調製するための減菌粉末の場合には、好ましい調製法は、真空乾燥と凍結乾燥であり、活性成分と、以前に減菌濾過した溶液からの追加の望む任意の成分からなる粉末が得られる。注射液の調製は、本分野で知られている方法に従って処理し、容器(アンプル、袋、瓶、注射器、バイアルなど)に充填し、無菌条件下で密封することによってなされる。さらに、これらの調製物は、キットの形態(例えばアメリカ合衆国特許出願シリアル番号第09/259,337号に記載されているもの)で包装して販売することができる。このような製品は、対象とする組成物が、疾患または障害を患っている対象の処置、または疾患や障害になりやすい対象の処置に役立つことを示すラベルまたはパッケージ挿入物を有することが好ましかろう。
【0365】
非経口製剤として、単回ボーラス用量、または輸液、または装填ボーラス用量の後の維持用量が可能である。これらの組成物は、決められた特定の間隔、または変動する間隔で投与することができる(例えば1日に1回、または「必要に応じて」)。
【0366】
本発明で用いられるいくつかの医薬組成物は、許容可能な剤形(例えばカプセル、錠剤、水性懸濁液、水溶液)で経口投与することができる。いくつかの医薬組成物は、鼻腔アエロゾルまたは鼻腔吸入によって投与することもできる。このような組成物は、生理食塩水中の溶液として調製することや、ベンジルアルコールまたは他の適切な保存剤、および/または生物学的利用能を高めるための吸収促進剤、および/または従来からある他の可溶剤や分散剤を用いて調製することができる。
【0367】
単回用量剤形を製造するために基剤材料と組み合わせることのできるAbCIDの量は、処置する宿主と、具体的な投与様式によって異なるであろう。組成物は、単回用量、多数回用量として投与すること、または輸液の形で決められた期間にわたって投与することができる。投与計画も、望む最適な反応(例えば治療反応または予防反応)が得られるように調節することができる。
【0368】
本開示の範囲の中で、本発明のAbCIDは、ヒトその他の動物に、上記の処置法に従い、治療効果を生じさせるのに十分な量で投与することができる。本発明のAbCIDは、既知の技術に従って本発明の抗体に医薬として許容可能な従来の基剤または希釈剤を組み合わせることによって調製した従来の剤形で、そのようなヒトその他の動物に投与することができる。医薬として許容可能な基剤または希釈剤の形態と特徴は、組み合わされる活性成分の量、投与経路、他のよく知られている変数によって決まることが当業者にはわかるであろう。さらに、本発明の1種類以上のAbCIDを含むカクテルが特に有効であることが当業者にはわかるであろう。
【0369】
「治療に有効な用量または量」または「有効な量」とは、投与されたとき、処置すべき疾患を持つ患者の処置に関してプラスの治療反応をもたらすAbCIDの量を意味する。
【0370】
本発明の組成物の治療に有効な用量は、細胞が媒介する疾患(ある種のがん(例えば白血病、リンパ腫);自己免疫疾患(例えば関節炎、多発性硬化症)、炎症性疾患(中枢神経系(CNS)と末梢神経系(PNS)の炎症性疾患が含まれる);浸潤性血管新生など)の処置に関しては、多くの異なる因子(投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトであるか動物であるか、投与されている他の薬、処置が予防あるか治療であるかが含まれる)に依存してさまざまに異なっている。通常は、患者はヒトだが、非ヒト哺乳動物(トランスジェニック哺乳動物を含む)も処置することができる。処置のための用量は、安全性と効果を最適化するため当業者が定型的な方法を利用して滴定することができる。
【0371】
投与する少なくとも1つのAbCIDの量は、本発明の開示内容が与えられているため、当業者によって面倒な実験なしに容易に決定される。投与様式と、少なくとも1つのAbCIDのそれぞれの量に影響を与える因子の非限定的な例に含まれるのは、治療を受けている個体の疾患の重症度、疾患歴、年齢、身長、体重、健康、身体状態である。同様に、投与されるAbCIDの量は、投与様式と、対象がその薬剤の単回用量を投与されているか多数回用量を投与されているかに依存するであろう。
【0372】
さらに別の代表的な一実施態様では、対象の細胞に、タンパク質a、タンパク質b、融合体、その誘導体、これら要素の2つ以上の組み合わせのいずれかをコードする核酸がトランスフェクトされて、細胞がタンパク質を産生する。さまざまな実施態様では、対象に1つ以上のSMを投与することによって二量体が形成される。このようにして、SMは、タンパク質aとの二量体、タンパク質bとの二量体、これらタンパク質の一方または両方の融合体または誘導体との二量体になる。
【0373】
診断
本発明によりさらに、細胞が媒介する疾患(ある種のがん、自己免疫疾患、炎症性疾患などであり、例えば関節炎、多発性硬化症、中枢神経系(CNS)と末梢神経系(PNS)の炎症性疾患、浸潤性血管新生が含まれる)を診断しているときに有用な診断法が提供される。この診断法は、個体からの組織や他の細胞または体液に含まれる疾患関連タンパク質または疾患関連転写産物の発現レベルを測定し、測定されたレベルを、正常な組織または体液の中の基準発現レベルと比較することを含んでいて、基準と比べたときの発現レベルの上昇が、障害であることを示している。
【0374】
本発明のAbCIDは、当業者に知られている古典的な免疫組織学的方法を利用して生物サンプル中のタンパク質のレベルを調べるのに使用できる(例えばJalkanen他、J. Cell. Biol. 第101巻:976~985ページ(1985年);Jalkanen他、J. Cell Biol. 第105巻:3087~3096ページ(1987年)を参照されたい)。タンパク質の発現の検出に有用な抗体をベースとした他の方法に含まれるのは、イムノアッセイ(酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)など)、免疫沈降、ウエスタンブロッティングである。適切なアッセイは、本明細書の別の箇所により詳しく記載されている。
【0375】
「タンパク質のレベルを調べる」とは、第1の生物サンプルの中の疾患関連タンパク質のレベルを直接的なやり方で(例えばタンパク質の絶対レベルを求めるか推定することによって)または間接的なやり方で(例えば第2の生物サンプルの中の疾患関連ポリペプチドのレベルと比較することによって)定性的または定量的に測定または推定することを意味する。第1の生物サンプルの中のタンパク質発現レベルを測定または推定し、基準となるタンパク質レベルと比較することが好ましい。基準は、障害を持たない個体から得られた第2の生物サンプルから取得するか、障害を持たない個体の集団からのレベルを平均することによって求める。本分野で知られているように、「基準」となるタンパク質レベルが一旦わかると、それを比較用の基準として繰り返して使用できる。
【0376】
「生物サンプル」とは、個体、細胞系、組織培養物や、疾患関連タンパク質を発現する可能性のある他の供給源から得られる任意の生物サンプルを意味する。哺乳動物から組織生検と体液を取得する方法は本分野で周知である。
【0377】
イムノアッセイ
本発明のAbCIDは、イムノアッセイで用いることができる。例えば本分野で知られている任意の方法によって本発明のAbCIDの免疫特異的結合を調べることができる。利用できるイムノアッセイの非限定的な例に含まれるのは、いくつか列挙するならば、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素固定免疫吸着アッセイ)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散プレシピチン反応、免疫拡散アッセイ、アグルチン化アッセイ、補体固定アッセイ、免疫放射線測定アッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイなどの技術を利用した競合アッセイ系と非競合アッセイ系である。このようなアッセイは日常的に利用されており、本分野で周知である(例えばAusubel他編、(1994年)『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons, Inc.社、ニューヨーク)、第1巻を参照されたい。その全体が参照によって本明細書に組み込まれている)。代表的なイムノアッセイは、下に簡単に説明されている(が、それらに限定されることは意図していない)。
【0378】
免疫沈降のプロトコルは、一般に、タンパク質ホスファターゼおよび/またはプロテアーゼ阻害剤(例えばEDTA、PMSF、アプロチニン、バナジン酸ナトリウム)を補足したRIPAバッファー(1%NP-40またはTriton X-100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、0.15 MのNaCl、0.01 Mリン酸ナトリウム(pH 7.2)、1%トラシロール)などの溶解用溶液の中で細胞の集団を溶解させ、興味ある抗体をその細胞ライセートに添加し、4℃で所定の時間(例えば1~4時間)インキュベートし、プロテインAおよび/またはプロテインGセファロースビーズをその細胞ライセートに添加し、4℃で約1時間以上インキュベートし、溶解用バッファーの中でビーズを洗浄し、SDS/サンプルバッファーの中にビーズを再懸濁させることを含んでいる。興味ある抗体が特定の抗原を免疫沈降させる能力は、例えばウエスタンブロット分析によって評価することができる。当業者であれば、抗原への抗体の結合を増やしてバックグラウンドを減らすために変化させることのできるパラメータに関する知識を有すると考えられる(例えば細胞ライセートをセファロースビーズでプレクリア処理する)。免疫沈降のプロトコルに関するさらなる解説については、例えばAusubel他編、(1994年)『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons, Inc.社、ニューヨーク)、第1巻の10.16.1を参照されたい。
【0379】
ウエスタンブロット分析に一般に含まれるのは、タンパク質サンプルを用意し、そのタンパク質サンプルをポリアクリルアミドゲル(抗原の分子量に応じて例えば8%~20%SDS-PAGE)の中で電気泳動し、そのタンパク質サンプルをポリアクリルアミドゲルから膜(ニトロセルロース、PVDF、ナイロンなど)に移し、その膜をブロッキング溶液(例えば3%BSAまたは無脂乳を含むPBS)の中でブロックし、その膜を洗浄用バッファー(例えばPBS-Tween 20)の中で洗浄し、その膜をブロッキング溶液の中で希釈した一次抗体(興味ある抗体)でブロックし、その膜を洗浄用バッファーの中で洗浄し、その膜を、酵素基質(例えばセイヨウワサビのペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)または放射性分子(例えば32Pまたは125I)に結合した二次抗体(一次抗体を認識する例えば抗ヒト抗体)をブロッキング溶液の中で希釈したものでブロックし、その膜を洗浄用バッファーの中で洗浄し、抗原の存在を検出することである。当業者であれば、検出される信号を増やしてバックグラウンド雑音を減らすために変化させることのできるパラメータに関する知識を有すると考えられる。ウエスタンブロットのプロトコルに関するさらなる解説については、例えばAusubel他編、(1994年)『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons, Inc.社、ニューヨーク)、第1巻の10.8.1を参照されたい。
【0380】
ELISAに含まれるのは、抗原を用意し、96ウエルの微量滴定プレートをその抗原で被覆し、検出可能な化合物(酵素基質(例えばセイヨウワサビのペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)など)に結合させた興味ある抗体をウエルに添加して所定の期間インキュベートし、抗原の存在を検出することである。ELISAでは、興味ある抗体は検出可能な化合物に結合している必要がなく、その代わりに検出可能な化合物に結合させた(興味ある抗体を認識する)二次抗体をウエルに添加することができる。さらに、ウエルを抗原で被覆する代わりに、抗体でウエルを被覆することができる。この場合には、興味ある抗原を被覆されたウエルに添加した後、検出可能な化合物に結合させた二次抗体を添加することができる。当業者であれば、検出される信号を増やすために変化させることのできるパラメータに関する知識のほか、本分野で知られているELISAの別のバリエーションに関する知識を有すると考えられる。ELISAに関するさらなる解説については、例えばAusubel他編、(1994年)『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons, Inc.社、ニューヨーク)、第1巻の11.2.1を参照されたい。
【0381】
タンパク質aとそのコグネイト結合パートナーの結合親和性(例えば抗原に対する抗体の親和性)と、抗体-抗原相互作用の解離速度は、競合結合アッセイによって求めることができる。競合結合アッセイの一例はラジオイムノアッセイであり、このアッセイは、標識された抗原(例えば3Hまたは125I)を興味ある抗体とともに、増加していく量の無標識抗原の存在下でインキュベートし、標識された抗原に結合した抗体を検出することを含んでいる。特定の抗原に対する興味ある抗体の親和性と解離速度は、データからスキャッチャードプロット分析によって求めることができる。二次抗体との競合も、ラジオイムノアッセイを利用して明らかにすることができる。この場合には、抗原を、標識された化合物(例えば3Hまたは125I)に結合させた興味ある抗体とともに、増加していく量の無標識抗原の存在下でインキュベートする。
【0382】
それに加え、AbCIDは、免疫蛍光、免疫電子顕微鏡法、非免疫学的アッセイにおけるように組織学的に用いることで、選択されたタンパク質をその場で検出することができる。その場での検出は、患者から組織学的試料を取り出し、それに標識されたAbCIDを適用することによって実現できる。好ましいのは、標識されたAbCIDを生物サンプルの上に重ねることによる適用である。このような手続きを利用することで、選択されたタンパク質、または保存されたバリアントやペプチド断片の存在だけでなく、調べている組織内のその分布も明らかにすることが可能になる。本発明を利用すると、多彩な組織学的方法(染色手続きなど)のうちの任意の方法を改変してそのようなその場での検出を実現できることが当業者には容易にわかるであろう。
【0383】
AbCIDを用いたイムノアッセイと非イムノアッセイは、典型的には、サンプル(細胞培地の中でインキュベートした体液、組織抽出物、回収された新鮮な細胞、細胞のライセートなど)を、検出可能な標識をされたAbCIDの存在下でインキュベートし、結合した抗体を本分野で周知の多数ある技術のうちの任意の技術で検出することを含むことになろう。
【0384】
生物サンプルは、固相の支持体または担体(ニトロセルロースなど)と接触させるか、細胞、細胞粒子、可溶性タンパク質を固定化できる他の固体支持体と接触させて固定化することができる。次いで支持体を適切なバッファーで洗浄した後、検出可能な標識をされたAbCIDで処理することができる。次いで固相支持体をバッファーで2回目の洗浄をし、結合しなかった抗体を除去することができる。場合によってはその後、抗体に標識する。すると固体支持体の表面に結合した標識の量を、従来からある手段で検出することができる。
【0385】
「固相の支持体または担体」とは、抗原または抗体を結合させることのできる任意の支持体を意味する。よく知られている支持体または担体に含まれるのは、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然セルロース、変性セルロース、ポリアクリルアミド、斑れい岩、マグネタイトである。担体の性質は、本発明の目的では、ある程度可溶性であるか不溶性であることが可能である。支持材料は、カップルした分子が抗原または抗体に結合できる限り、実質的に任意の構造的形状を持つことができる。そのため支持体の形状は、ビーズのような球形、または試験管の内面や棒の外面のような円筒形が可能である。あるいは表面は、シートや試験紙などのように平坦にすることができる。好ましい支持体にはポリスチレンビーズが含まれる。当業者は、抗体または抗原を結合させるための他の多くの適切な担体を知っているか、定型的な実験を利用して適切な担体を確認することができるであろう。
【0386】
所与の一群のAbCIDの結合活性は、周知の方法に従って求めることができる。当業者は、定型的な実験を利用して各測定に関する機能的かつ最適なアッセイ条件を決定することができよう。
【0387】
抗体-抗原相互作用の親和性の測定に利用できる方法は多数存在しているが、速度定数を求める方法は比較的少ない。方法の大半は、抗体または抗原に標識することに頼っているため、定型的な測定が必然的に複雑になり、測定された量に不確実さが入り込む。
【0388】
BIACORE(登録商標)上で実施する表面プラズモン共鳴(SPR)は、抗体-抗原相互作用の親和性を測定する従来法と比べて多数の利点を提供する。すなわち、(i)抗体または抗原に標識する必要がない;(ii)抗体をあらかじめ精製する必要がなく、細胞培養物の上清をそのまま使用できる;(iii)異なるモノクローナル抗体の相互作用を迅速に半定量的に比較できるリアルタイム測定が可能になるため、評価のための多くの目的にとって十分である;(iv)生体特異的表面を再生させることができるため、一連の異なるモノクローナル抗体を同じ条件で容易に比較することができる;(v)分析手続きが完全に自動化されているため、ユーザーの介入なしに広範囲の測定を実施できる。『BIAapplications Handbook』、バージョンAB(再版1998年)、BIACORE(登録商標)コード番号BR-1001- 86;『BIAtechnology Handbook』、バージョンAB(再版1998年)、BIACORE(登録商標)コード番号BR-1001-84。SPRに基づく結合研究では、結合ペアの1つのメンバーがセンサー表面に固定化される必要がある。固定化された結合パートナーはリガンドと呼ばれる。溶液中の結合パートナーは分析物と呼ばれる。いくつかの場合には、リガンドは、固定化された別の分子(捕獲分子と呼ばれる)への結合を介して表面に間接的に付着する。SPRの反応は、分析物が結合または解離したときの検出器の表面での質量濃度の変化を反映している。
【0389】
SPRに基づき、リアルタイムBIACORE(登録商標)測定により、相互作用が起こるときにそれを直接モニタする。この技術は動力学パラメータを求めるのによく適している。比較親和性ランキングは実施が容易であり、結合定数と親和性定数の両方をセンサーグラムのデータから導出することができる。
【0390】
リガンド表面全体に分析物を1つの明確なパルスにして注入すると、得られるセンサーグラムは3つの主要な相に分割することができる。すなわち、(i)サンプルを注入している間の、リガンドへの分析物の会合;(ii)サンプルを注入している間の平衡状態または安定状態(分析物の結合速度は複合体からの解離と平衡する);(iii)バッファーを流している間の、表面からの分析物の解離である。
【0391】
会合相と解離相は、分析物-リガンド相互作用の動力学に関する情報(kaとkd、複合体の形成速度と解離速度)を提供する。平衡相は、分析物-リガンド相互作用の親和性に関する情報(KD)を提供する。
【0392】
BIAevaluationソフトウエアは、数値積分と全体的フィッティング両方のアルゴリズムを利用した曲線フィッティングのための包括的な手段を提供する。データを適切に分析すると、簡単なBIACORE(登録商標)測定から相互作用に関する速度定数と親和性定数を別々に得ることができる。この技術によって測定できる親和性の範囲は非常に広く、mMからpMまでである。
【0393】
エピトープの特異性はモノクローナル抗体の重要な1つの特徴である。BIACORE(登録商標)を用いたエピトープのマッピングは、ラジオイムノアッセイ、ELISAや、それ以外の表面吸着法を利用した従来の技術とは異なり、標識や精製した抗体を必要としないため、一連のいくつかのモノクローナル抗体を用いた多部位特異性試験が可能になる。それに加え、多数の分析物を自動的に処理することができる。
【0394】
ペア式結合実験で2つのAbが同じ抗原に同時に結合する能力を調べる。別々のエピトープに向かうAbは独立に結合することになる一方で、同じエピトープ、または密接に関係しているエピトープに向かうMAbは、互いの結合に干渉する。BIACORE(登録商標)を用いたこれら結合実験は実施が容易である。
【0395】
さまざまな実施態様では、バイオレイヤー干渉測定(BLI)(例えばOctet BLI)を利用して結合を評価する。
【0396】
ペプチド抑制は、エピトープのマッピングに利用される別の技術である。この方法は、ペア式抗体結合研究を補足することができ、抗原の一次配列がわかっているときには機能性エピトープを構造的特徴と関係させることができる。ペプチドまたは抗原フラグメントについて、固定化された抗原への異なるAbの結合の抑制を調べる。所与のAbの結合に干渉するペプチドは、そのAbによって規定されるエピトープと構造的に関係があると見なす。
【0397】
本発明を実施するには、特に断わらない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組み換えDNA、免疫学に関する従来からの技術を利用することになるであろうが、これらの技術は当業者の知識の範囲である。そのような技術は文献に十分に説明されている。例えばSambrook他編(1989年)『Molecular Cloning A Laboratory Manual』(第2版;Cold Spring Harbor Laboratory Press);Sambrook他編(1992年)『Molecular Cloning: A Laboratory Manual』(Cold Springs Harbor Laboratory、ニューヨーク州);D. N. Glover編(1985年)『DNA Cloning』、第I巻と第II巻;Gait編(1984年)『Oligonucleotide Synthesis』; Mullis他、アメリカ合衆国特許第4,683,195号;HamesとHiggins編(1984年)『Nucleic Acid Hybridization』;HamesとHiggins編(1984年)『Transcription And Translation』;Freshney(1987年)『Culture Of Animal Cells』(Alan R. Liss, Inc.社);『Immobilized Cells And Enzymes』(IRL Press社)(1986年);Perbal(1984年)『A Practical Guide To Molecular Cloning; the treatise. Methods In Enzymology』(Academic Press, Inc.社、ニューヨーク);MillerとCalos編(1987年)『Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells』(Cold Spring Harbor Laboratory);Wu他編『Methods In Enzymology』、第154巻と第155巻;MayerとWalker編(1987年)『Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology』(Academic Press社、ロンドン);WeirとBlackwell編(1986年)『Handbook Of Experimental Immunology』、第I巻~第IV巻;『Manipulating the Mouse Embryo』、Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク(1986年);Ausubel編(1989年)『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley and Sons社、ボルチモア、メリーランド州)を参照されたい。
【0398】
抗体操作の一般的な原理は、Borrebaeck編(1995年)『Antibody Engineering』(第2版;Oxford Univ. Press)に記載されている。タンパク質操作の一般原理は、Rickwood他編(1995年)『Protein Engineering, A Practical Approach』(Oxford Univ. PressのIRL Press社、オックスフォード、イギリス国)に記載されている。抗体と抗体-ハプテン結合の一般原理は、Nisonoff(1984年)『Molecular Immunology』(第2版; Sinauer Associates社、サンダーランド、マサチューセッツ州);Steward(1984年)『Antibodies, Their Structure and Function』(ChapmanとHall、ニューヨーク、ニューヨーク州)に記載されている。それに加え、本分野で知られているが具体的には記載していない免疫学における標準的な方法は、一般に、『Current Protocols in Immunology』、John Wiley & Sons社、ニューヨーク;Stites他編(1994年)『Basic and Clinical Immunology』(第8版;Appleton & Lange社、ノーウォーク、コネティカット州);MishellとShiigi(編)(1980年)『Selected Methods in Cellular Immunology』(W.H. Freeman and Co.社、ニューヨーク州)でフォローされる。
【0399】
免疫学の一般的な原理が記載されている標準的な参考文献に含まれるのは、『Current Protocols in Immunology』、John Wiley & Sons社、ニューヨーク州;Klein J.(1982年)『Immunology: The Science of Self-Nonself Discrimination』(John Wiley & Sons社、ニューヨーク州);Kennett他編(1980年)『Monoclonal Antibodies, Hybridoma: A New Dimension in Biological Analyses』(Plenum Press社、ニューヨーク州);Campbell(1984年)『Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology』、Burden他編(Elsevier社、アムステルダム)の中の「Monoclonal Antibody Technology」;Goldsby他編(2000年)『Kuby Immunnology』(第4版;H. Freemand & Co.社);Roitt他(2001年)『Immunology』(第6版;ロンドン:モーズビー);Abbas他(2005年)『Cellular and Molecular Immunology』(第5版;Elsevier Health Sciences Division);KontermannとDubel(2001年)『Antibody Engineering』(Springer Verlag社);Sambrook とRussell(2001年)『Molecular Cloning: A Laboratory Manual』(Cold Spring Harbor Press);Lewin(2003年)『Genes VIII』(Prentice Hall 2003年);HarlowとLane(1988年)『Antibodies: A Laboratory Manual』(Cold Spring Harbor Press);DieffenbachとDveksler(2003年)『PCR Primer』(Cold Spring Harbor Press)である。
【0400】
核酸の送達
いくつかの実施態様では、本明細書に提示されている方法で用いられる任意の核酸分子が送達用ビヒクルの中または表面に包装されて細胞へと送達される。考慮する送達用ビヒクルの非限定的な例に含まれるのは、ナノスフェア、リポソーム、量子ドット、ナノ粒子、ポリエチレングリコール粒子、ヒドロゲル、ミセルである。本分野で知られているように、多彩な標的部分を利用してこのようなビヒクルと望むタイプの細胞または望む位置の優先的な相互作用を増大させることができる。
【0401】
本開示の複合体、ポリペプチド、核酸を細胞に導入するには、ウイルスまたはバクテリオファージの感染、トランスフェクション、複合体化、プロトプラスト融合、リポフェクション、電気穿孔、ニュクレオフェクション(nucleofection)、リン酸カルシウム沈降、ポリエチレンイミン(PEI)を媒介としたトランスフェクション、DEAE-デキストランを媒介としたトランスフェクション、リポソームを媒介としたトランスフェクション、粒子銃技術、直接的微量注入、ナノ粒子を媒介とした核酸送達などによることが可能である。
【0402】
代表的な送達法と試薬は、WO 2018/002719に記載されている。
【0403】
代表的な実施態様
実施態様1。(a)第1の化学誘導二量体(CID)構成要素として、(i)小分子と相互作用することができて前記第1のCID構成要素と前記小分子の間に複合体を形成する第1の結合部分と;(ii)前記第1の結合部分に連結された第1のアダプタ部分を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1の核酸と;(b)(i)前記小分子と前記第1のCID構成要素の間の前記複合体に特異的に結合する第2の結合部分と;(ii)前記第2の結合部分に連結された第2のアダプタ部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2の結合部分が、前記小分子の少なくとも一部と前記第1の結合部分の一部を含む前記複合体の部位に特異的に結合する系。
【0404】
実施態様2。前記小分子をさらに含んでいて、前記第2のCID構成要素が、前記小分子と前記第1のCID構成要素間の複合体に、前記小分子の少なくとも一部と前記第1の結合部分の一部を含む前記複合体の部位の位置で結合する、実施態様1に記載の系。
【0405】
実施態様3。前記小分子の少なくとも一部と前記第1の結合部分の一部を含む前記複合体の部位が、前記小分子と、第1の結合部分のうちで前記小分子が結合する部位の間の接合部分であり、前記小分子の少なくとも1個の原子と、前記第1の結合部分の1個の原子を含んでいる、実施態様1または2に記載の系。
【0406】
実施態様4。前記第1の結合部分が、前記小分子に特異的に結合する第1の抗体部分である、実施態様1~3のいずれか1項に記載の系。
【0407】
実施態様5。前記小分子がメトトレキサートである、実施態様4に記載の系。
【0408】
実施態様6。前記第1の結合部分が、前記小分子の天然の結合パートナー、またはその小分子結合バリアントに由来する、実施態様1~5のいずれか1項に記載の系。
【0409】
実施態様7。前記天然の結合パートナーが、Bcl-2、Bcl-xL、FK506結合タンパク質(FKBP)、アポトーシスタンパク質1の細胞阻害剤(cIAP1)のいずれかである、実施態様6に記載の系。
【0410】
実施態様8。前記天然の結合パートナーがBcl-2であり、前記小分子が、ABT-199とABT-263のいずれか、またはこれらの類似体である、実施態様7に記載の系。
【0411】
実施態様9。前記天然の結合パートナーがBcl-xLであり、前記小分子が、ABT-737またはその類似体である、実施態様7に記載の系。
【0412】
実施態様10。前記天然の結合パートナーがFKBPであり、前記小分子が、式(I)の構造を有するラパマイシンの合成リガンド(SLF)またはその類似体である、実施態様7に記載の系。
【0413】
実施態様11。前記天然の結合パートナーがcIAP1であり、前記小分子が、GDC-0152、LCL161、AT406、CUDC-427、ビリナパントのいずれか、またはこれらの類似体である、実施態様7に記載の系。
【0414】
実施態様12。前記第2の結合部分が、前記小分子の少なくとも一部と前記第1の結合部分の一部を含む化学エピトープに特異的に結合する抗体部分である、実施態様1~11のいずれか1項に記載の系。
【0415】
実施態様13。前記第2のCID構成要素が、前記第1のCID構成要素と前記小分子の前記複合体に、遊離した第1のCID構成要素と遊離した小分子のそれぞれに対する結合に関するKdの約1/500以下の解離定数(Kd)で結合する、実施態様1~12のいずれか1項に記載の系。
【0416】
実施態様14。(a)Bcl-xL のABT-737結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)ABT-737と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表1の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【0417】
実施態様15。前記ABT-737結合ドメインが、配列番号314のアミノ酸配列を含む、実施態様14に記載の系。
【0418】
実施態様16。(a)Bcl-2 のABT-199結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)ABT-199と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表2の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【0419】
実施態様17。前記ABT-199結合ドメインが、配列番号315のアミノ酸配列を含む、実施態様16に記載の系。
【0420】
実施態様18。(a)Bcl-2のABT-263結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)ABT-263と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表3の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【0421】
実施態様19。前記ABT-263結合ドメインが、配列番号315のアミノ酸配列を含む、実施態様18に記載の系。
【0422】
実施態様20。(a)FKBPのラパマイシンの合成リガンド(SLF)結合ドメイン(ここでSLFは式(I)の構造を有する)を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)SLFと前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表4の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【0423】
実施態様21。前記SLF結合ドメインが、配列番号316のアミノ酸配列を含む、実施態様20に記載の系。
【0424】
実施態様22。(a)cIAP1のGDC-0152結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)GDC-0152と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表5の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【0425】
実施態様23。前記GDC-0152結合ドメインが、配列番号317のアミノ酸配列を含む、実施態様22に記載の系。
【0426】
実施態様24。(a)cIAP1のLCL161結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)LCL161と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表6の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【0427】
実施態様25。前記LCL-161結合ドメインが、配列番号317のアミノ酸配列を含む、実施態様24に記載の系。
【0428】
実施態様26。(a)cIAP1のAT406結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)AT406と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表7の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【0429】
実施態様27。前記AT406結合ドメインが、配列番号317のアミノ酸配列を含む、実施態様26に記載の系。
【0430】
実施態様28。(a)cIAP1のCUDC-427結合ドメインを含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)CUDC-427と前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表8の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【0431】
実施態様29。前記CUDC-427結合ドメインが、配列番号317のアミノ酸配列を含む、実施態様28に記載の系。
【0432】
実施態様30。(a)メトトレキサート結合Fab(このメトトレキサート結合FabであるHC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3は、配列番号318、319、320、321、322、323をそれぞれ含んでいる)を含む第1のCID構成要素、または前記第1のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第1のヌクレオチド;ならびに(b)メトトレキサートと前記第1のCID構成要素間の複合体に特異的に結合することのできる抗体部分を含む第2のCID構成要素、または前記第2のCID構成要素のポリペプチド構成要素をコードする第2の核酸を含み、前記第2のCID構成要素の抗体部分が、表9の重鎖と軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む系。
【0433】
実施態様31。(a)前記第1のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、前記第2のアダプタ部分が転写調節ドメインを含むか;(b)前記第2のアダプタ部分がDNA結合ドメインを含み、前記第1のアダプタ部分が転写調節ドメインを含み、前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素は、前記小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的遺伝子の転写を調節することができる、実施態様1~30のいずれか1項に記載の系。
【0434】
実施態様32。(a)前記転写調節ドメインが転写活性化ドメインであり、前記CIDが前記標的遺伝子の転写を上方調節することができる;または(b)前記転写調節ドメインが転写抑制ドメインであり、前記CIDが前記標的遺伝子の転写を下方調節することができる、実施態様31に記載の系。
【0435】
実施態様33。前記DNA結合ドメインが天然の転写調節因子に由来する、実施態様31または32に記載の系。
【0436】
実施態様34。前記DNA結合ドメインが、RNA依存性エンドヌクレアーゼまたはDNA依存性エンドヌクレアーゼに由来する、実施態様31または32に記載の系。
【0437】
実施態様35。前記RNA依存性エンドヌクレアーゼまたは前記DNA依存性エンドヌクレアーゼに触媒活性がない、実施態様34に記載の系。
【0438】
実施態様36。前記DNA結合ドメインが、触媒活性のないCas9(dCas9)に由来する、実施態様35に記載の系。
【0439】
実施態様37。前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が、前記小分子の存在下で二量体になるときに標的細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDが標的細胞の死を誘導することができる、実施態様1~30のいずれか1項に記載の系。
【0440】
実施態様38。前記第1のアダプタ部分と前記第2のアダプタ部分が合わさって前記標的細胞の中でアポトーシスを誘導することができる、実施態様37に記載の系。
【0441】
実施態様39。前記第1のアダプタ部分および/または前記第2のアダプタ部分がカスパーゼタンパク質に由来する、実施態様38に記載の系。
【0442】
実施態様40。前記第1のアダプタ部分と前記第2のアダプタ部分がカスパーゼ-9に由来する、実施態様39に記載の系。
【0443】
実施態様41。前記標的細胞が、個体に養子移植された組み換え細胞である、実施態様37~40のいずれか1項に記載の系。
【0444】
実施態様42。前記標的細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞である、実施態様41に記載の系。
【0445】
実施態様43。前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が、前記小分子の存在下で二量体になるときにT細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDが、標的抗原に結合したときにT細胞を活性化できるヘテロ二量体CARである、実施態様1~30のいずれか1項に記載の系。
【0446】
実施態様44。(a)前記第1のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み、前記第2のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含むか;(b)前記第2のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、(ii)細胞質共刺激ドメイン;および(iii)細胞質シグナル伝達ドメインを含み、前記第1のアダプタ部分が細胞外抗原結合部分を含んでいて、前記細胞外抗原結合部分が前記標的抗原に特異的に結合する、実施態様43に記載の系。
【0447】
実施態様45。前記細胞外抗原結合部分を含む前記CID構成要素が分泌シグナルペプチドをさらに含む、実施態様44に記載の系。
【0448】
実施態様46。(a)前記第1のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン;および(iii)細胞外抗原結合部分を含み、前記第2のアダプタ部分が、細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインを含むか;(b)前記第2のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン;および(iii)細胞外抗原結合部分を含み、前記第1のアダプタ部分が、細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメインを含んでいて;前記細胞外抗原結合部分が前記標的抗原に特異的に結合する、実施態様43に記載の系。
【0449】
実施態様47。前記第1のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、および(ii)膜貫通ドメインを含み;前記第2のアダプタ部分が、(i)細胞質共刺激ドメインまたは細胞質シグナル伝達ドメイン、および(ii)膜貫通ドメインを含み;前記第1のCID構成要素または前記第2のCID構成要素が、前記CID構成要素の結合部分に連結された細胞外抗原結合部分をさらに含み;前記細胞外抗原結合部分が前記標的抗原に特異的に結合する、実施態様43に記載の系。
【0450】
実施態様48。前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が一緒に、細胞質共刺激ドメインおよび細胞質シグナル伝達ドメインを含む、実施態様46または47に記載の系。
【0451】
実施態様49。前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が、前記小分子の存在下で二量体になるときにCIDを形成するように構成されており、前記CIDが、T細胞を標的細胞へとリダイレクトさせることのできるヘテロ二量体二重特異性T細胞エンゲージャである、実施態様1~30のいずれか1項に記載の系。
【0452】
実施態様50。(a)前記第1のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、前記第2のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含むか;(b)前記第2のアダプタ部分がT細胞抗原結合部分を含み、前記第1のアダプタ部分が標的細胞抗原結合部分を含む、実施態様49に記載の系。
【0453】
実施態様51。前記T細胞抗原結合部分が、CD3に特異的に結合する抗体部分である、実施態様50に記載の系。
【0454】
実施態様52。前記標的細胞抗原結合部分が、疾患状態の細胞に関係する細胞表面抗原に特異的に結合する抗体部分である、実施態様50または51に記載の系。
【0455】
実施態様53。前記疾患状態の細胞が、がん細胞である、実施態様52に記載の系。
【0456】
実施態様54。前記標的細胞抗原結合部分が、CD19に特異的に結合する抗体部分である、実施態様52または53に記載の系。
【0457】
実施態様55。前記第1のCID構成要素および前記第2のCID構成要素が、前記小分子の存在下で二量体になるときに免疫細胞と関係するCIDを形成するように構成されており、前記CIDが、前記免疫細胞の活性化を調節できるヘテロ二量体シグナル伝達分子である、実施態様1~30のいずれか1項に記載の系。
【0458】
実施態様56。前記第1のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含み;前記第2のアダプタ部分が、(i)膜貫通ドメイン、および(ii)細胞質共刺激ドメインを含む、実施態様55に記載の系。
【0459】
実施態様57。前記第1のアダプタ部分が細胞質シグナル伝達ドメインをさらに含む、および/または前記第2のアダプタ部分が細胞質シグナル伝達ドメインをさらに含む、実施態様56に記載の系。
【0460】
実施態様58。前記免疫細胞がT細胞である、実施態様55~57のいずれか1項に記載の系。
【0461】
実施態様59。前記T細胞がCAR T細胞である、実施態様58に記載の系。
【0462】
実施態様60。小分子とコグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合する結合部分を結合分子ライブラリから選択する方法であって、(a)結合部分の入力セットをスクリーニングして、前記小分子の不在下では前記コグネイト結合部分に結合しない結合部分を探すことにより、負の選択がされた結合部分のセットを生成させ;(b)結合部分の入力セットをスクリーニングして、前記小分子と前記コグネイト結合部分の複合体に結合する結合部分を探すことにより、正の選択がされた結合部分のセットを生成させ;(c)工程(a)のスクリーニングと工程(b)のスクリーニングを含むスクリーニングを1回以上実施して、前記小分子と前記コグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合する結合部分のセットを生成させることを含む方法。
【0463】
実施態様61。2または複数ラウンドのスクリーニングを含んでいて、(1)第1回目のスクリーニングのための工程(a)の結合部分の入力セットが前記結合分子ライブラリであり、(2)各回のスクリーニングのための工程(b)の結合部分の入力セットが、所与の回のスクリーニングからの工程(a)の負の選択がされた結合部分のセットであり、(3)第1回目のスクリーニングの後の各回のスクリーニングのための工程(a)の結合部分の入力セットが、直前の回のスクリーニングからの工程(b)の正の選択がされた結合部分のセットであり、(4)前記小分子と前記コグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合する結合部分のセットが、最終回のスクリーニングのための工程(b)の正の選択がされた結合部分のセットである、実施態様60に記載の方法。
【0464】
実施態様62。少なくとも2回の選択を含む、実施態様61に記載の方法。
【0465】
実施態様63。前記結合部分のセットに含まれる結合部分であって前記小分子と前記コグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合するものの少なくとも1つが、前記複合体に、遊離した第1のCID構成要素と遊離した小分子のそれぞれに対する結合に関する解離定数(Kd)の約1/500以下のKdで結合する、実施態様60~62のいずれか1項に記載の方法。
【0466】
実施態様64。前記結合部分のセットに含まれる結合部分であって前記小分子と前記コグネイト結合部分間の複合体に特異的に結合するもののそれぞれが、前記複合体に、遊離した第1のCID構成要素と遊離した小分子のそれぞれに対する結合に関する解離定数(Kd)の約1/500以下のKdで結合する、実施態様63に記載の方法。
【0467】
実施態様65。前記結合分子ライブラリが、抗体ライブラリ、DARPinライブラリ、ナノボディライブラリ、アプタマーライブラリのいずれかである、実施態様60~64のいずれか1項に記載の方法。
【0468】
実施態様66。前記結合分子ライブラリが抗体ライブラリである、実施態様65に記載の方法。
【0469】
実施態様67。前記抗体ライブラリがファージ提示Fabライブラリである、実施態様66に記載の方法。
【0470】
実施態様68。小分子と結合部分間の複合体に特異的に結合する抗体部分を含んでいて、
(A)実施態様60~67のいずれか1項に記載の方法に従って抗体ライブラリから抗体部分を選択する工程と;
(B)(A)の抗体部分の1つを含むコンストラクトを用意する工程を含む方法によって調製されるコンストラクト。
【0471】
実施態様69。前記第2の結合部分が、(A)実施態様60~67のいずれか1項に記載の方法に従って抗体ライブラリから抗体部分を選択する工程と;(B)(A)の抗体部分の1つになる第2の結合部分を選択する工程を含む方法によって選択された抗体部分である、実施態様1~59のいずれか1項に記載の系。
【0472】
実施態様70。細胞内の標的分子の発現を調節する方法であって、実施態様31~36のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をその細胞の中で発現させ、その細胞内の前記小分子の量を変化させることによって前記標的遺伝子の発現を調節することを含む方法。
【0473】
実施態様71。個体の疾患を処置する方法であって、前記疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)実施態様31~36のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を個体内の標的細胞の中で発現させ(その標的細胞内の前記標的遺伝子の発現レベルが前記疾患と関係している);(B)前記個体に前記小分子を投与することを含む方法。
【0474】
実施態様72。実施態様31~36のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【0475】
実施態様73。実施態様31~36のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を含む細胞。
【0476】
実施態様74。個体内の標的細胞の生存を制御する方法であって、(I)前記標的細胞を所定量殺す、または(II)前記標的細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において、(A)実施態様37~42のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をその標的細胞の中で発現させること;(B)前記個体に前記小分子を投与することを含む方法。
【0477】
実施態様75。前記標的細胞が、前記個体における養子細胞療法の一部である、実施態様74に記載の方法。
【0478】
実施態様76。前記標的細胞がCAR T細胞である、実施態様75に記載の方法。
【0479】
実施態様77。個体の疾患を処置する方法であって、(I)前記養子移植された細胞を所定量殺す、または(II)前記養子移植された細胞を所定量維持するのに有効な治療計画において、(A)前記疾患のため、実施態様37~42のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変細胞を含む養子細胞療法を前記個体に適用し;(B)前記小分子を前記個体に投与することを含む方法。
【0480】
実施態様78。前記養子細胞療法がCAR T細胞療法である、実施態様77に記載の方法。
【0481】
実施態様79。実施態様37~42のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【0482】
実施態様80。実施態様37~42のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を含む細胞。
【0483】
実施態様81。養子細胞療法の一部である、実施態様80に記載の細胞。
【0484】
実施態様82。CAR T細胞である、実施態様81に記載の細胞。
【0485】
実施態様83。個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法であって、前記標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)実施態様43~48のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変T細胞を前記個体に投与し(そのとき標的抗原が前記標的細胞の表面に発現している);(B)前記小分子を前記個体に投与することを含む方法。
【0486】
実施態様84。個体内の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法であって、前記標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)実施態様44に記載の系のCID構成要素であって細胞質シグナル伝達ドメインを含むCID構成要素を発現する改変T細胞を前記個体に投与すること;(B)実施態様44に記載の系のCID構成要素であって細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素を前記個体に投与すること、ここで前記標的細胞の表面に標的抗原が発現している;(C)前記小分子を前記個体に投与することを含む方法。
【0487】
実施態様85。前記治療計画が、前記標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、実施態様83または84に記載の方法。
【0488】
実施態様86。個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法であって、前記疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)実施態様43~48のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を発現する改変T細胞を前記個体に投与すること、ここで前記標的細胞の表面に標的抗原が発現している;(B)前記小分子を前記個体に投与することを含む方法。
【0489】
実施態様87。個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法であって、前記疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)実施態様44に記載の系のCID構成要素であって細胞質シグナル伝達ドメインを含むCID構成要素を発現する改変T細胞を前記個体に投与すること;(B)実施態様44に記載の系のCID構成要素であって細胞外抗原結合部分を含むCID構成要素を前記個体に投与すること、ここで前記標的細胞の表面に標的抗原が発現している;(C)前記小分子を前記個体に投与することを含む方法。
【0490】
実施態様88。前記治療計画が前記疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するCARドメインを含む従来のCARを発現するCAR T細胞の投与を含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、実施態様86または87に記載の方法。
【0491】
実施態様89。実施態様43~48のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【0492】
実施態様90。実施態様43~48のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を含むT細胞。
【0493】
実施態様91。実施態様44の系のCID構成要素であって細胞質シグナル伝達ドメインを含むCID構成要素を含むT細胞。
【0494】
実施態様92。個体の標的細胞に対する免疫反応を調節する方法であって、前記標的細胞に対する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)実施態様49~54のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を前記個体に投与すること;(B)前記小分子を前記個体に投与することを含む方法。
【0495】
実施態様93。前記治療計画が前記標的細胞に対する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応する二重特異性T細胞エンゲージャドメインを含む従来の二重特異性T細胞エンゲージャの投与を含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、実施態様92に記載の方法。
【0496】
実施態様94。個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法であって、前記疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)実施態様49~54のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を前記個体に投与すること;(B)前記小分子を前記個体に投与することを含む方法。
【0497】
実施態様95。前記治療計画が前記疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応する二重特異性T細胞エンゲージャドメインを含む従来の二重特異性T細胞エンゲージャの投与を含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、実施態様94に記載の方法。
【0498】
実施態様96。実施態様49~54のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【0499】
実施態様97。個体でT細胞が媒介する免疫反応を調節する方法であって、前記T細胞が媒介する免疫反応を調節するのに有効な治療計画において、(A)実施態様55~59のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を前記T細胞の中で発現させること;(B)前記小分子を前記個体に投与することを含む方法。
【0500】
実施態様98。前記治療計画が、前記T細胞が媒介する免疫反応を維持するのに有効であり、CIDの対応するシグナル伝達ドメインを含む従来の単量体シグナル伝達分子をT細胞の中で発現させることを含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、実施態様97に記載の方法。
【0501】
実施態様99。個体内の標的細胞を特徴とする疾患を処置する方法であって、前記疾患を処置するのに有効な治療計画において、(A)実施態様55~59のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を、前記個体内にあって前記標的細胞を認識して殺すことのできるT細胞の中で発現させること;(B)前記小分子を前記個体に投与することを含む方法。
【0502】
実施態様100。前記治療計画が前記疾患を処置するのに有効であり、CIDの対応するシグナル伝達ドメインを含む単量体シグナル伝達分子をT細胞の中で発現させることを含む対応する方法と比べて前記個体での有害な効果がより少ない、実施態様99に記載の方法。
【0503】
実施態様101。前記T細胞がCAR T細胞である、実施態様97~100のいずれか1項に記載の方法。
【0504】
実施態様102。実施態様55~59のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素をコードする核酸。
【0505】
実施態様103。実施態様55~59のいずれか1項に記載の系の第1と第2のCID構成要素を含むT細胞。
【0506】
実施態様104。CAR T細胞である、実施態様103に記載のT細胞。
【0507】
本開示を具体的な代替例を参照して上に説明してきた。しかし上に記載したのとは別の代替例も本開示の範囲内で同じように可能である。上に記載したのとは異なる方法の工程を本開示の範囲で提供することができる。本明細書に記載されているさまざまな特徴と工程をここに記載されているのとは別の組み合わせで組み合わせることができる。
【0508】
本明細書での複数形および/または単数形の使用について、当業者は、文脈および/または用途にとって適切になるよう、複数形から単数形へ、および/または単数形から複数形へ翻訳することができる。明確にするため、さまざまな単数形/複数形の順序を本明細書では明示的に表現することができる。
【0509】
当業者は、一般に、本明細書、特に添付の請求項(例えば添付の請求項の本文)で用いられている用語が、一般に「開かれた」用語を意味すると理解するであろう(例えば「含んでいる」という用語は、「含んでいるが、それらに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する」という用語は、「少なくとも有する」と解釈すべきであり、「含む」という用語は、「含むが、それらに限定されない」と解釈されるべきである、など)。
【0510】
それに加え、本開示の特徴または側面がマーカッシュ群の用語で記載されている場合には、当業者は、マーカッシュ群の個々の任意のメンバーの用語で、またはメンバーの下位群の用語で記載されていると認識するであろう。
【0511】
第1~第11の側面の1つの代替例の任意の特徴を、本明細書で同定されるあらゆる側面と代替例に適用することができる。さらに、第1~第11の側面の1つの代替例の任意の特徴は、一部または全体を、本明細書に記載されている他の代替例と、任意のやり方で独立に組み合わせることができる(例えば1つ、2つ、3つ、またはそれよりも多い数の代替例の全体または一部を組み合わせることができる)。さらに、第1~第11の側面の1つの代替例の任意の特徴は、他の側面または代替例に対するオプションにすることができる。例となるさまざまな代替例と実施例に関して上に記載したが、1つ以上の個々の代替例に記載されているさまざまな特徴、側面、機能は、それが記載されている特定の代替例にだけ適用できるのではなく、単独で、またはさまざまな組み合わせで本出願の1つ以上の他の代替例に適用でき、しかもそれは、そのような代替例が記載されているかどうかや、そのような特徴が、記載されている代替例の一部として提示されているかどうかには関係がないことを理解すべきである。したがって本出願の幅と範囲が上に例示したどれかの代替例によって限定されることがあってはならない。
【0512】
本明細書で引用されているあらゆる参考文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれている。参照によって組み込まれている刊行物と、特許または特許出願が、本明細書に含まれている開示内容と矛盾する場合には、本明細書が、そのように矛盾するいかなる材料よりも優先および/または先行するものとする。参照によって本明細書に組み込まれている刊行物と、特許または特許出願が、本明細書に含まれる開示内容と矛盾する場合には、本明細書が、そのように矛盾するいかなる材料よりも優先および/または先行するものとする。
【0513】
本開示の1つ以上の実施態様の詳細は、付随する以下の説明に示されている。本明細書に記載されているのと類似しているか同等なあらゆる材料と方法を、本開示の実施または試験に利用することができる。本開示の他の特徴、目的、利点は、この説明から明らかであろう。この説明では、文脈から明らかに異なるのでなければ、単数形に複数形も含まれる。特に断わらない限り、本明細書で用いられているあらゆる科学技術用語は、本開示が属する分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を持つ。矛盾している場合には、本明細書の説明が優先する。
【0514】
本明細書に記載されている実施例と実施態様は説明だけを目的としていて、その説明に照らしたさまざまな改変や変更が、当業者に示唆されることと、本出願の精神と範囲ならびに添付の請求項の範囲に含まれることが理解される。本明細書で引用されているあらゆる刊行物、特許、特許出願は、その全体が、あらゆる目的で参照によって本明細書に組み込まれている。
【0515】
本明細書に提示した開示内容のいくつかの実施態様を以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例
【0516】
材料と方法
小分子試薬とペプチド試薬
ABT-737(ChemieTek社のCT-A737)、ABT-263(Selleckchem社のS1001)、ABT-199(LC-Laboratories社のV-3579)、メトトレキサート(Sigma-Aldrich社のA6770)、Bakペプチド(Anaspec社のAS-61616)をそれ以上精製せずに使用した。使用するにあたり、ABT-737、ABT-263、ABT-199、メトトレキサート、Bakペプチド(配列番号324)のそれぞれをDMSOに溶かして10 mM貯蔵溶液にした。貯蔵溶液は、使用するまで-80℃で保管した。
【0517】
溶媒に曝露されるリガンドの分析
小分子-タンパク質複合体は、タンパク質データバンク(http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do)の中で、彼らの自家製の先進的検索機能を利用して同定した。使用した検索パラメータは、分子量検索:最小分子量=100.0、最大分子量=50000.0であり、結合親和性:結合親和性最小=0.001、結合親和性最大=1000であり、親和性のタイプはKiであり、TAXONOMYはホモ・サピエンス(ヒト)だけ、TAXONOMYは単にホモ・サピエンス(ヒト)だけであった。生成されたリストを次に手作業で検証し、リガンドが有機小分子ではなかった複合体を除去することで、866個の構造からなる最終リストが得られた。結合したリガンドに溶媒がアクセスできる表面積は、Naccess V2.1.1をデフォルトパラメータで利用し、水素とヘテロ原子を考慮して計算した。溶媒に曝露された表面積のプロットは、R-studioの中のggplot2パッケージを利用して生成させた。
【0518】
BCL-xLの発現とビオチニル化
C末端が切断されたBCL-xL(残基2~215)をコードする遺伝子にN末端のAviTagがついたものをgBlockTM(IDT社)として購入した。ギブソンクローニングを利用してこの遺伝子をpMCSG7ベクター(Kong他、Biomol. Ther.、第21巻:423~434ページ(2013年))の中に入れてクローニングした。次に、部位特異的突然変異誘発を利用してタバコエッチウイルス(TEV)切断部位をAviTagドメインとBCL-xLドメインの間に導入した。最終コンストラクトの配列は、この遺伝子全体をシークエンシングすることによって確認した。プラスミドでBL21(DE3)大腸菌細胞を形質転換し、カルベニシリン(100μg/ml)を含有する1.5lの2xYT培地に単一のコロニーを接種した。培養物を37℃でOD600が1~1.2になるまで増殖させ、1時間かけて18℃まで冷却した後、0.5 mMのIPTGを用いて18℃で一晩誘導した。細胞を遠心分離によって回収し、ペレットを-80℃で保管した。
【0519】
タンパク質を精製するため、ペレットを0℃で解凍した後、PMSF(100μg/ml)を補足した10 mlの溶解用バッファー(50 mMのトリス、pH 8.0、200 mMのNaCl、20 mMのイミダゾール)の中に再懸濁させた。マイクロフルイダーザーを用いて細胞を溶解させ、4℃での遠心分離によってライセートのクリア処理をした。クリア処理されたライセートを400μlのNi-NTA Superflow樹脂(Qiagen社)に添加し、4℃で1時間回転させた。樹脂を溶解用バッファーで(3回)洗浄した後、スピンカラムに移した。精製されたタンパク質を溶離用バッファー(50 mMのトリス、pH 8.0、200 mMのNaCl、600 mMのイミダゾール)で溶離させた。分画をSDS-PAGEによって分析し、純度が95%超であることがわかったものをプールし、交換して保管用バッファー(25 mMのトリス、pH 8.0、150 mMのNaCl、1 mMのDTT)の中に入れ、濃縮した。
【0520】
Avidity社が提供している標準的なプロトコルを利用して、精製されたBCL-xLタンパク質のAviTagをビオチニル化した。ビオチニル化をXevo G2-XS質量分析器(Waters社)でのインタクトなタンパク質の質量分析によってモニタしたところ、定量的であることがわかった。次に、ビオチニル化したBCL-xLを上記のようにしてNi-NTAで精製し、複数のアリコートに分離し、瞬間凍結させ、あとで使用するために-80℃で保管した。
【0521】
ファージ提示選択とファージ滴定
すべてのファージ選択を、以前に確立されているプロトコル(Seiler他、Nucleic Acids Res.、第42巻:D1253~-1260ページ(2014年))に従って実施した。簡単に述べると、抗体ファージライブラリFを用いた選択を、ストレプトアビジンで被覆した磁性ビーズ(Promega社)に捕獲されたビオチニル化BCL-xLを用いて実施した。各選択の前に、ファージプールを、ストレプトアビジンビーズに固定化された1μMのBCL-xLとともにABT-737の不在下でインキュベートし、アポ型のBCL-xLに結合するあらゆる結合剤のライブラリを欠乏させた。その後、ビーズを除去し、ABT-737を1μMの濃度でファージプールに添加した。BCL-xL抗原の量を減らしながら(100 nM、50 nM、10 nM、10 nM)、合計で4回の選択を実施した。非特異的結合をするファージの有害な効果を減らすため、「捕獲と放出」戦略を採用した。この戦略では、2μg/mlのTEVプロテアーゼを添加することによって特異的BCL-xL結合Fab-ファージが磁性ビーズから選択的に溶離された。4回目の選択に由来する個々のファージクローンをシークエンシングして分析した。
【0522】
ファージの滴定を標準的なプロトコルに従って実施した。簡単に述べると、TEVで溶離したファージを対数相のXL1-Blue大腸菌細胞(Stratagene社)に感染させた。感染した細胞をオービタルシェイカー上で室温にて20分間インキュベートした。次に細胞を段階希釈し、カルベニシリン(50μg/ml)を含むLB寒天-プレートの上にスポット状にし、37℃で一晩インキュベートした。各回に選択されたBCL-xL/ABT-737複合体とアポ型BCL-xLの両方に対するファージの力価を測定した。
【0523】
Fabの発現
Fabを、以前に報告されているプロトコル(Seiler他、Nucleic Acids Res.、第42巻:D1253~1260ページ(2014年))に従って発現させた、簡単に述べると、発現プラスミドを含有するC43 (DE3) Pro+大腸菌を2xYTの中で37℃にてOD600が0.6~0.8になるまで増殖させた後、1 mMのIPTGを添加することによってFabの発現を誘導した。インキュベーションの温度をその後30℃まで下げ、培養物を16~18時間振盪した。細胞を遠心分離によって回収し、FabをプロテインA親和性クロマトグラフィによって精製した。SDS-PAGEによってFabの純度と完全性を評価し、Xevo G2-XS質量分析器(Waters社)を用いてインタクトなタンパク質を評価した。
【0524】
FabのELISA
ELISAを標準的なプロトコルに従って実施した。簡単に述べると、96ウエルのMaxisorpプレートを4℃にてNeutrAvidin(10μg/ml)で一晩被覆した後、20℃でBSA(2%w/v)を1時間用いてブロックした。20 nMのビオチニル化BCL-xLを、NeutrAvidinで被覆したウエル上で30分間捕獲させた後、さまざまな濃度のFabを1μMのABT-737または0.05%DMSOとともに30分間かけて添加した。次に、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ(HRP)が結合した抗Fabモノクローナル抗体(Jackson ImmunoResearch社の109-036-097)を用い、結合したFabを検出した。
【0525】
結合の動力学の分析
Octet RED384装置(ForteBio社)を使用してバイオレイヤー干渉法のデータを取得した。ビオチニル化BCL-xLを、200 nMの溶液を用いてストレプトアビジン(SA)バイオセンサーの上に固定化した。小分子(1μM)、ペプチド(5μM)、ビヒクル(0.05%DMSO)のいずれかを含む動力学バッファー(PBS、pH 7.4、0.05%Tween-20、0.2%BSA、10μMのビオチン)の中でのFabの段階希釈物を分析物として使用した。Octet RED384ソフトウエアを利用して親和性(KD)と動力学パラメータ(kオンとkオフ)をデータの全体フィット(1:1)から計算した。
【0526】
細胞アッセイのためのベクターの作製
ギブソンクローニングを利用して、Fab AZ1を、以前に報告されている一本鎖Fabコンストラクトに変換した(Hornsby他、Mol. Cell. Proteomics、第14巻:2833~2847ページ(2015年))。
【0527】
従来のCARコンストラクト(CD8シグナル配列-Mycタグ-αCD19scFv-CD8ヒンジドメイン-CD8膜貫通ドメイン-4IBB共刺激領域-CD3ζドメイン)をコードする遺伝子をgBlockTM(IDT社)として購入した。この遺伝子をPCRによって増幅した後、ギブソンクローニングを利用してpLX302ベクター(Addgene社のプラスミド#25896)に入れてクローニングした。最終コンストラクトの配列は、この遺伝子全体のシークエンシングによって確認した。AbCID CARコンストラクトは、従来のCARベクターのαCD19scFv部分をギブソンクローニングによってBCL-xL遺伝子(残基2~215)で置き換えた後、部位特異的突然変異誘発によってBCL-xLをBCL-xL(M159P)に変換することによって作製した。M159P変異は、BCL-xLがドメイン交換二量体を形成するのを阻止することが以前に示されている(Koerber他、J. Mol. Biol.、第427巻:576~586ページ(2015年))。AbCID CARが細胞膜上の二次元に限定されるとBCL-xL(野生型)の中での二量体形成が促進されて、抗原とは独立にCAR T細胞が活性化することにつながるのではないかとわれわれは恐れていた。M159P変異は、ABT-737またはAZ1の結合には影響を及ぼさなかった(データは示さない)。最終コンストラクトの配列は、この遺伝子全体のシークエンシングによって確認した。
【0528】
CD19のための遺伝子をORFeomeから取得し(Rajan他、Sci. Rep.、第5巻:10609ページ(2015年))、重複伸長(overlap extension)PCRによって遺伝子に融合させた。ギブソンクローニングを利用し、この遺伝子をpLX302ベクターに入れてクローニングした。最終コンストラクトの配列は、この遺伝子全体のシークエンシングによって確認した。
【0529】
細胞系の培養
使用したNFATレポータJurkat細胞は、Arthur Weiss氏からの寛大なる贈り物であった。使用したK562細胞とHEK293T細胞は、Wells研究室が維持していた凍結貯蔵物に由来するものであった。これらの細胞系は、使用前には信頼性が確認されていなかった。マイコプラズマによる汚染の検査は実施しなかった。特に断わらない限り、すべてのJurkat細胞系とK562細胞系を、10%FBSと1×ペニシリン/ストレプトマイシンを補足したRPMIの中で培養した。すべてのJurkat NFATレポータ細胞をG418(2 mg/ml)の中に維持した。すべてのCAR含有Jurkat細胞系を、G418に加えてピューロマイシン(2μg/ml)の中に維持した。CD19+ K562細胞はピューロマイシン(2μg/ml)の中に維持した。Gal4-UAS-Flucオペロンを含有するHEK293T細胞は、10%FBSと、1×ペニシリン/ストレプトマイシンと、ピューロマイシン(2μg/ml)を補足したDMEMの中に維持した。すべての細胞系を5%CO2のもとで37℃にて培養した。
【0530】
イムノブロッティング
HEK293T細胞を6ウエルのプレートに約0.5×106細胞/ウエルの割合で播種し、トランスフェクションの前に5%CO2のもとで37℃にて一晩培養した。TransIT-293(Mirus Bio社)を製造者の手続きに従って用い、scAZ1-avitagをコードするプラスミドを細胞にトランスフェクトした。細胞を37℃でさらに48時間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、Complete(商標)プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社)を補足したM-PER哺乳動物タンパク質抽出試薬(Thermo Scientific社)を用いて4℃で10分間溶解させた。抗AviTag抗体(GenScript社のマウスmAb、A01738)を用いてイムノブロッティングを実施した。
【0531】
CRISPRaを媒介としたルシフェラーゼアッセイ
CRISPRaを媒介とした転写活性化のため、Gal4-UAS-Flucオペロン(Collaboration, O.R、Nat. Methods、第13巻:191~192ページ(2016年))を含有するレポータHEK293T細胞系を約0.5×106細胞/ウエルの割合で6ウエルのプレートに播種し、5%CO2環境のもとで37℃にて一晩培養した。細胞に、scAZ1-VPRをコードするプラスミドと、dCas9-BCL-xLとGal4 sgRNAをコードする別のプラスミドを1:1の比でトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、トランスフェクトされた細胞をトリプシンで処理し、10%FBSを補足した新鮮なDMEMの中に再懸濁した。次に細胞をアリコートに分け、ポリ-D-リシンで被覆した96ウエルのプレート(Corning社)に入れて24時間放置して接着させた後、20 nMのABT-737を添加してCRISPRaの活性を誘導した。次に細胞をさらに48時間インキュベートした後、ルシフェラーゼ遺伝子の発現を評価した。ルシフェラーゼの活性を求めるため、Bright-Gloルシフェラーゼアッセイ基質(Promega社)を用いて細胞を溶解させ、Infinite M200 PROプレートリーダー(Tecan社)を用いて分析した。ルシフェラーゼの活性は、陰性対照(完全長dCas9-VPR とPHOX2B陰性sgRNAを発現する細胞)を用いてバックグラウンドを差し引き、陽性対照(完全長dCas9-VPR とGal4 sgRNAを発現する細胞)に対して規格化した。細胞の用量-反応を調べるため、細胞にトランスフェクトし、アリコートに分けて96ウエルのプレートに入れた後、異なる濃度のABT-737(0.014 nM、0.041 nM、0.12 nM、0.37 nM、1.1 nM、3.3 nM、10 nM、30 nM、90 nM、270 nM)を細胞に添加した。
【0532】
二重特異性抗体の発現
遺伝子操作でαCD19 scFvに1:1の比で融合したAZ1重鎖とAZ1軽鎖を含む2つのpFUSE(InvivoGen社)ベクターをExpi293(Life Technologies社)細胞に一過性に同時トランスフェクトした。ExpiFectamine 293トランスフェクションキット(Life Technologies社)を製造者の支持に従って用いてトランスフェクションを実施した。細胞を5%CO2環境の中で37℃にて7日間インキュベートした後、上清を遠心分離によって回収した。タンパク質をプロテインA親和性クロマトグラフィによって精製し、SDS-PAGEによって品質と完全さを評価した。
【0533】
細胞系の生成
T細胞活性化実験のために作製したすべてのCAR含有Jurkat細胞とCAR含有CD19+ K562細胞は、レンチウイルスを用いた形質導入によって作製した。ウイルスを生成させるため、HEK293T細胞に第二世代レンチウイルスパッケージングプラスミドの混合物を約80%の集密度でトランスフェクトした。プラスミドのトランスフェクションにはFuGene HD(Promega社)を使用し、6ウエルのプレートのウエルごとに3 jigのDNA(1.35 jigのpCMVデルタ8.91、0.15 jigのpMD2-G、1.5 jigのpLX302)と7.5 jilのFuGene HDを用いた。培地をトランスフェクション混合物とともに6時間インキュベートした後、培地を完全DMEMに変えた。トランスフェクションの72時間後に上清を回収し、0.2 jimのフィルタを通過させるクリア処理を実施した。クリア処理した上清を8 jig/mlのポリブレンとともに標的であるJurkat NFATレポータ細胞とK562細胞(約100万細胞/ml)に添加した後、細胞を33℃にて1000 gで2時間遠心分離した。次に細胞をウイルス上清混合物とともに一晩インキュベートした後、培地を新鮮な完全RPMIに変えた。細胞を少なくとも48時間にわたって増やした後、薬選択培地の中で増殖させた。安定な細胞系を探すための薬選択は、2 jig/mlのピューロマイシンを添加することにによって開始した。ピューロマイシン含有培地の中で少なくとも72時間インキュベートした後、細胞をフローサイトメトリーによって分析し、CARまたはCD19の発現を探した。P2A配列によってCD19に遺伝子操作で連結された細胞内mCherryマーカーの発現に関するゲーティングにより、CD19+ K562細胞の高発現集団をフローサイトメトリーによって富化した。Myc-タグマウスmAb Alexa Fluor647複合体(Cell Signaling社の2233S)を用いたMycタグ抗体染色に関するゲーティングにより、CARを高レベルで発現するJurkat細胞をフローサイトメトリーによって富化した。AriaII(BD Biosciences社)を利用してすべてのフローサイトメトリーセルソーティングを実施した。
【0534】
CAR T細胞活性化の定量
CARを発現するJurkat細胞を、抗原陽性(CD19+)または抗原陰性(CD19-)であるK562標的細胞と1:2の比で混合した。二重特異性抗体(AZ1-αCD19)またはFab(AZ1)と、ABT-737またはDMSOを培地の中で希釈し、細胞混合物に添加した。細胞を37℃で一晩インキュベートした後、遠心分離によってペレットにした。NFAT依存性GFPレポータの発現を、FACSCanto II(BD Biosciences社)を利用したフローサイトメトリーによって定量した。CD69の発現を、APC抗ヒトCD69抗体(Biolegend社の310910)を利用して、FACSCanto II(BD Biosciences社)での免疫蛍光フローサイトメトリーによって定量した。上清を回収した後、BDヒトIL-2 ELISAセットを製造者のプロトコルに従って用いてELISAで分析することにより、IL-2の分泌を定量した。フローサイトメトリーの全データの分析はFlowJoソフトウエアを利用して実施し、Prismソフトウエア(GraphPad社)を利用してすべてのプロットを生成させた。
【0535】
ABT-737の細胞毒性のアッセイ
野生型Jurkat細胞、AbCID CAR Jurkat細胞、従来のCAR Jurkat細胞、野生型K562細胞、CD19+ K562細胞、HEK293T細胞を96ウエルのプレートに約5000細胞/ウエルの割合で播種した。各細胞系を、変化していく濃度のABT-737(最初は10μM、3倍段階希釈、8回)、または単独のDMSO(0.1%)とともにインキュベートした。24時間後、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega社)を製造者の標準的なプロトコルに従って用いて細胞の生存率を測定した。Prismソフトウエア(GraphPad社)を利用することにより、各細胞系についてDMSO処理と比べた生存率をプロットして分析した。
【0536】
実施例1:AbCIDを生成させるためのBCL-xL/ABT-737複合体の同定
複合体に対する選択性のある抗体を生成させるための理想的な複合体は、小分子が結合したときにその小分子の大部分が溶媒に曝露されたままになるものであろうと推論した。自然はラパマイシン-FKBP12-FRB AbCID系において同様の原理を採用していて、ラパマイシンが最初にFKBP12に結合して新たな結合表面を生み出し、その結合表面が今度はFRBによって認識される。他のいくつかの天然産物が、人工的なタンパク質をリクルートするために同様のアプローチを利用している(Fegan他、Chem. Rev.、第110巻:3315~3336ページ(2010年))。追加の設計原理には、標的タンパク質が小さな単量体ドメインであることと、誘導因子である小分子が、望ましい薬物動態特性と低い毒性を有する市販品であることが含まれていた。毒性が低いことは、動物モデルにとって有用である可能性がある。
【0537】
小分子が結合した構造をタンパク質データバンク(http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do)で検索した後、ヒトBCL-xL/ABT-737複合体(PDB:2YXJ)(Lee他、Cell Death Differ.、第14巻:1711~1713ページ(2007年))に注意を向けた。BCL-xLは抗アポトーシスBCL-2ファミリーのタンパク質の一員である(Czabotar他、Nat. Rev. Mol. Cell Biol.、第15巻:49~63ページ(2014年))。この小さな単量体タンパク質(約26 kDa)はミトコンドリアの外膜の上に位置していて、BCL-2ファミリーのアポトーシス促進メンバーを封鎖する。BCL-xLは抗アポトーシスの役割を有するため、がんの処置を目的として、多数の動物と臨床においてBCL-xLに対して活性な小分子阻害剤が開発されてきた(Besbes他、Oncotarget 第6巻:12862~12871ページ(2015年))。われわれの候補リガンドであるABT-737の結晶構造(Oltersdorf他、Nature、第435巻:677~681ページ(2005年))は、BCL-xLに結合するとABT-737の大部分が溶媒に曝露されることを示している(308Å2)ため、抗体が結合するための潜在的な化学エピトープを提供する。比較のため、タンパク質データバンク(PDB)内の866種類の小分子結合構造を分析すると(図6)、平均露出表面積が125Å2であることが明らかになり、FKBP12に結合したラパマイシンは外れ値で528Å2であった(PDB:1FKB)(Van Duyne他、J. Mol. Biol.、第229巻:105~124ページ(1993年))。したがってBCL-xL/ABT-737複合体は、AbCIDを開発するための理想的な第1の標的であるように思われる。
【0538】
実施例2:化学エピトープ選択的抗体の選択
独自の化学エピトープ選択的抗体を同定するため、ミトコンドリア膜貫通ドメインが欠けていてC末端が切断された形態のBCL-xL(残基2~215)を使用した。ビオチニル化したBCL-xLをストレプトアビジン樹脂の表面に固定化し、以前に開発された合成抗体-フラグメントライブラリと選択戦略(Hornsby他、Mol. Cell. Proteomics、第14巻:2833~2847ページ(2015年))を利用したファージ選択に使用した。各回の選択の間、ファージライブラリで小分子の不在下にてBCL-xLに対する厳しい負の選択(counter selection)を最初に実施することで、ABT-737結合型に対して選択的でなかったあらゆるFab-ファージを除去した。次に飽和量のABT-737(1μM)の存在下で正の選択を実施し、大半のBCL-xLがABT-737に結合することを確認した(図1B)。合計で4回の選択を実施した。勇気づけられることに、ABT-737の存在下でのBCL-xLに対する選択のためのファージの顕著な増加が観察された(図7)。4回目の選択の後、個々のFab-ファージクローンを単離してシークエンシングした。Fabの相補性決定領域(CDR)に独自の配列を持つ合計で10種類のFab-ファージが同定された(表1)。
【0539】
実施例3:組み換え抗体は、BCL-xLのABT-737結合型に対して非常に特異的である
独自のFabを細菌発現ベクターに入れてサブクローニングし、発現させ、精製した(Hornsby他、Mol. Cell. Proteomics、第14巻:2833~2847ページ(2015年))。満足すべきことに、ABT-737の存在下または不在下でのBCL-xLを用いた酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)から、薬の存在下では10種類のFabすべてで結合が増大することがわかった。4種類のFabは、ABT-737の存在下で結合に関して優れた効力と極めて強い選択性を示した(図8)。これら4種類のFabのプロファイルをさらに明確にするため、ABT-737の存在下または不在下でのBCL-xLの結合の動態をバイオレイヤー干渉法によって特徴づけた(図1C図9)(Shah他、J. Vis. Exp.、e51383ページ(2014年))。4種類のFabのうちの3種類(AZ1、AZ2、AZ3)は、ABT-737の存在下でBCL-xLの非常に強力な結合剤であり(KD<10 nM)、ABT-737の不在下では、Fabの濃度が5000 nMまでは検出可能な結合を示さなかった(表10)。われわれの最良のFab(AZ2)は、BCL-xLのABT-737結合型に対してアポ型の2000倍超の選択性を示した。
【表10】
N.D.は、検出可能な結合が存在していなかったため数値を求めることができなかったことを示す。
【0540】
実施例4:化学エピトープ選択性は、抗体とABT-737が直接接触していることを示唆する
われわれのFabのすばらしい選択性は、Fab CDRがABT-737のいろいろな部分と直接に相互作用した結果であると仮定した。そうであるなら、Fabは他のBCL-xL-リガンド複合体に対してはより弱く結合すると考えられると推論した。ABT-263は、同じ立体配置になったBCL-xLにABT-737と同様の強度で結合する類似体である(RMSD=0.8)(図2A図2B)(Tse他、Cancer Res.、第68巻、3421~3428ページ(2008年))。われわれの仮説を検証するため、AZ1、AZ2、AZ3が、ABT-737が結合したBCL-xLと、ABT-263が結合したBCL-xLと、天然リガンド由来のBakペプチド(Sattler他、Science、第275巻:983~-986ページ(1997年))が結合したBCL-xLを識別する能力を測定した(図2C)。予想通り、BCL-xL/ABT-263複合体へのこれらFabの結合は圧倒的により弱いことが観察され、Bakペプチド複合体へのこれらFabの結合は検出できなかった。AbCID複合体の結晶構造をわれわれは持っていないが、これらのデータは、これら3つの抗体が小分子結合部位の上でないにしてもその近くに結合することを強く示唆している。
【0541】
実施例5:AZ1 AbCIDは、生きている細胞の中でCRISPRを媒介とした遺伝子発現を誘導する
現在のAbCID技術は、細胞内シグナル伝達経路の制御にしばしば利用されている(Clackson, T.、Chemical Biology、227~249ページ(2008年);Fegan他、Chem. Rev.、第110巻:3315~3336ページ(2010年);Putyrski他、FEBS Lett.、第586巻:2097~2105ページ(2012年))。Fabの重鎖と軽鎖を連結するジスルフィド結合と細胞内の還元性環境が理由で、哺乳動物細胞の中でFabが細胞内発現すると不活性な種になると一般に考えられている。最近われわれは、軽鎖と重鎖を遺伝子操作によって融合して単一のポリペプチドにした一本鎖Fab(scFab)コンストラクト(Koerber他、J. Mol. Biol.、第427巻:576~586ページ(2015年))を報告した。scFab足場は非常に高い融点(Tm=約81℃)を持つため、一旦形成されると非常に安定である(Koerber他、J. Mol. Biol.、第427巻:576~586ページ(2015年))。われわれのABT-737誘導性FabをscFabフォーマットに変換すると、生きている細胞の中での使用が可能になると仮定した。実際、scFabフォーマットのAZ1遺伝子(scAZ1)をHEK293細胞にトランスフェクトすると、イムノブロッティングによる測定で強い発現が見られた(図10)。scAZ1が生きている細胞の中で活性であるどうかを検証するため、scAZ1をVPR転写活性化ドメインに融合させた遺伝子回路(Chavez他、Nat. Methods、第12巻:326~328ページ(2015年))と、BCL-xLをdCas9に融合させた遺伝子回路(Qi他、Cell、第152巻:1173~1183ページ(2013年))を構成した(図3A)。どちらのコンストラクトも核局在配列を含有しているため、内在性BCL-xLと相互作用する可能性が小さくなると同時に、核内で系の活性化が開始される。ルシフェラーゼレポータを駆動するプロモータに特異的sgRNAを付加することにより、dCas9-BCL-xL融合体を標的とすることが可能になる。AbCIDが細胞内で機能する場合には、ABT-737の添加によってAZ1-VPRがルシフェラーゼレポータに局在してルシフェラーゼの発現を促進するようになるはずであるため、その発現を容易に検出することができる。比較のため、Qiとその共同研究者(Gao他、Nat. Methods、第13巻:1043~1049ページ(2016年))が最近報告しているように、同じ回路だが、ラパマイシン-FKBP12-FRB系に基づく従来のAbCID(Rivera他、Nat. Med.、第2巻:1028~1032ページ(1996年))を利用した回路を作製した。実際、ABT-737をわれわれの組み換え細胞に添加すると、ルシフェラーゼの強い発現が見られた。これは、AZ1とBCL-xLが生きている細胞の中でABT-737誘導性AbCIDとして機能したことを支持している(図3B)。AbCIDを用いて観察された活性化のレベルは、従来のAbCIDで観察されたのと同等であった。誘導されるルシフェラーゼの発現は用量に依存しており、EC50は8.9±1.0 nMであった(図3C)。重要なことだが、陰性sgRNAを有するAbCIDゲーテッド系にABT-737を添加すると、ルシフェラーゼの発現は増加しなかった(図11)。これらの結果は、合わせると、われわれのAbCIDを生きている細胞の中で用いて生物系を調節可能に制御できることを支持している。
【0542】
実施例6:AZ1 AbCIDは、CAR T細胞の活性化を用量に依存して誘導する
組み換えT細胞を悪性腫瘍の治療に用いることが、最近はがん治療における重要なパラダイムになっている(Fesnak他、Nat. Rev. Cancer、第16巻:566~581ページ(2016年))。われわれのこのようなアプローチはキメラ抗原受容体T細胞(CAR T細胞)として知られており、T細胞の遺伝子工学により、細胞内T細胞活性化ドメインに連結された表面露出scFv抗体フラグメントを発現させることを含んでいる。scFvは腫瘍抗原に対して特異的であるため、T細胞が腫瘍にリクルートされて、抗原に依存したT細胞の活性化が起こる。この技術は、CD19抗原を標的とすることによって白血病の治療で非常に奏効することがわかっている。しかしCAR T細胞の超活性化によって本来の目的を外れた細胞傷害効果が生じ、いくつかの場合には死に至ったため、この有望な方式の有用性は限定される(Fesnak他、Nat. Rev. Cancer、第16巻:566~581ページ(2016年);Brudno他、Blood、第127巻:3321~3330ページ(2016年))。それが理由で、これら細胞の活性の遠隔制御法を開発し、活性化のレベルを調節することや、活性化を終わらせて不都合な毒性が発達しないようにすることが非常に注目されている(Wu他、Science、第350巻、aab4077ページ(2015年);Cao他、Angew. Chem. Int. Ed.、第55巻:7520~7524ページ(2016年);Rodgers他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第113巻:E459~468ページ(2016年);Ma他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第113巻:E450~458ページ(2016年))。
【0543】
われわれのAbCID技術は、小分子を用いたCAR T細胞活性の調節に適用できる独自の技術であると仮定した。それを検証するため、Jurkat T細胞を操作し、scFv部分がBCL-xLで置き換えられたCARを発現するようにした(図4A図4B)。こうすることで、活性化に必要な機構を含有するが、抗原提示細胞にはもはや結合しないT細胞が得られる。それと並行して、臨床で用いられているαCD19 scFv(June他、「キメラ抗原受容体-改変T細胞を利用したがんの処置」(2012年))をFab AZ1に連結することによって二重特異性抗体を作製した。ABT-737を添加すると、この二重特異性抗体はCAR T細胞にリクルートされると同時に、CD19+細胞に結合する。このような設計によって誘導性かつ抗原依存性のCAR T細胞活性化が可能になる。T細胞活性化の迅速な定量を容易にするため、NFAT経路が活性化されるとGFPを発現するように操作したJurkat T細胞系を使用した(Wei他、Nature、第488巻:384~388ページ(2012年))。CD19+ K562細胞とわれわれの二重特異性抗体(AZ1-αCD19)の存在下では、ABT-737の添加によって用量に依存したCAR T細胞の活性化が起こり、それがGFPの発現によって測定された(図4C)。T細胞の活性化はさらに、古典的T細胞活性化マーカーであるCD69と、分泌されたインターロイキン-2の発現によって確認された(図12)(Ziegler他、Stem Cells、第12巻:456~465ページ(1994年);Smith-Garvin他、Annu. Rev. Immunol.、第27巻:591~619ページ(2009年))。重要なことだが、T細胞の活性化は、CD19を欠くK562細胞や、αCD19 scFvを含有していないAbCIDを用いた場合には観察されなかった(図4C)。それに加え、ABT-737それ自体はT細胞活性化を誘導できなかった。われわれのT細胞系は従来のCAR対照の活性化レベルの約65%であったが、この低下した活性は、従来のCARで観察された超活性化と毒性が理由で実際には有益である可能性がある。これらのデータから、AbCIDを用いて細胞シグナル伝達経路の細胞外調節が可能であることと、AbCID がCAR T細胞の活性化を小分子で制御するための新たなパラダイムを表わしていることが証明される。
【0544】
ABT-737は、非毒性濃度の治療計画においてAbCIDを二量体にする。
ABT-737は、可溶性で、細胞浸透性があり、生体利用可能であり、強力な市販の化合物であるため、細胞とおそらくは動物の両方のAbCIDの中で用いるための優れた分子である。しかしABT-737は、いくつかのタイプの細胞において、特にBCL-2ファミリーのメンバーの発現レベルが高い造血細胞において、アポトーシスを誘導することが知られている(Oltersdorf他、Nature、第435巻:677~681ページ(2005年))。そこでわれわれは、Jurkat細胞、K562細胞、HEKT293細胞でアポトーシスを誘導するのに必要なABT-737の濃度を調べた。重要なことだが、AbCID CAR活性を誘導するのに用いた濃度範囲(<100 nM)とCRISPRa活性を誘導するのに用いた濃度範囲(<270 nM)は、細胞死が観察された濃度よりも低かった(Jurkat IC50は約2μM、K562 IC50は10μM超、HEK293T IC50は約10μM)(図5図13)。ABT-737はマウスがんモデルで広く使われてきており、血小板毒性を除いて一般にマウスによく忍容される(Oltersdorf他、Nature、第435巻:677~681ページ(2005年))。しかしわれわれの細胞アッセイでAbCIDを活性化するのに用いる濃度(<100 nM)は、血小板にとって毒性であることが観察された濃度よりもはるかに低い(Zhang他、Cell Death Differ.、第14巻:943~951ページ(2007年))。それに加え、ABT-737は、生きている細胞の実験において、細胞毒性がほとんど観察されることなく、組み換えタンパク質の活性化に応用できることも別の研究者が示している(Goreshnik他、J. Am. Chem. Soc.、第132巻:938~940ページ(2010年))。これらのデータを合わせると、細胞と動物の用途において、これらモデル生物の生存に対する効果が最低限である状態で、ABT-737によって活性化されるAbCIDを利用できる可能性があることが支持される。さらに、生体ABT-737に直交性が欠けていることが研究に応用する際の注意点となる可能性があるとはいえ、本明細書に記載されているAbCID CARというアプローチをABT-737感受性B細胞悪性腫瘍の治療に適用するのであれば、治療の将来像という観点からは実際に有益である可能性がある。
【0545】
実施例7:メトトレキサート結合Fab/メトトレキサートFab二量体
BCL-2ファミリーのメンバーのFabの二量体に加え、メトトレキサート結合Fab(Gayda他、Biochemistry 2014年、第53巻(23)、3719~3726ページ)とメトトレキサートを用いた二量体を作製した。選択の後、メトトレキサートの存在下または不在下でわれわれの選択から単離されたFab-ファージを用いてファージ競合ELISAを実施し(図16)、メトトレキサートの存在下でメトトレキサートに選択的に結合したFabを同定した。最高のヒット(明るい灰色)をシークエンシングして独自の配列を持つクローンを同定した。
【0546】
実施例8:Bcl-2/ABT-199二量体
上に記載したのと同じ方法だが、タンパク質Bcl-2と小分子ABT-199を用いて二量体を作製した。選択後、ABT-199の存在下または不在下でわれわれの選択から単離されたFab-ファージを用いてファージ競合ELISAを実施し(図15)、ABT-199の存在下でBCL-2に選択的に結合したFabを同定した。最高のヒット(明るい灰色)をシークエンシングして独自の配列を持つクローンを同定した。すべてのクローンのKdが20 nM未満であった。
【0547】
実施例9:FKBP/SLF Fab二量体
上に記載したのと同じ方法だが、タンパク質FKBPと小分子SLFを用いて二量体を作製した。選択後、SLFの存在下または不在下でわれわれの選択から単離されたFab-ファージを用いてファージ競合ELISAを実施し(図17)、SLFの存在下でFKBPに選択的に結合したFabを同定した。最高のヒット(明るい灰色)をシークエンシングして独自の配列を持つクローンを同定した。すべてのクローンのKdが20 nM未満であった。
【0548】
実施例10:cIAP1/小分子Fab二量体
上に記載したのと同じ方法だが、タンパク質cIAP1と小分子GDC-0152、LCL-161、AT-406、CUDC-427のそれぞれを用いて二量体を作製した。選択後、それぞれの小分子の存在下または不在下でわれわれの選択から単離されたFab-ファージを用いてファージ競合ELISAを実施し(図17)、GDC-0152、LCL-161、AT-406、CUDC-427の存在下でcIAP1に選択的に結合したFabを同定した。最高のヒット(明るい灰色)をシークエンシングして独自の配列を持つクローンを同定した。すべてのクローンのKdが20 nM未満であった。
【0549】
実施例11:二重特異性T細胞エンゲージャ
AbCIDによって調節される誘導二重特異性T細胞エンゲージャの代表的な一次配列が図19Aに示されており、このT細胞エンゲージャは、抗CD3抗体に結合した第1のAbCID構成要素と、腫瘍特異的抗原を認識する抗体に結合した第2のAbCID構成要素を有する。小分子二量体形成化合物を投与するとこのCID複合体の生成が可能になり、その結果として腫瘍特異的抗原を発現するがん細胞にT細胞がリクルートされる。CD19+ K562細胞とともに培養すると、ABT-199を添加したとき、抗CD3抗体に結合したBcl-2と、抗CD19抗体に結合した抗体AZ21、AZ34、AZ35のいずれかとを有する二重特異性T細胞エンゲージャが二量体を形成し、T細胞の活性化(NFATシグナル伝達の活性化(の結果としてGFPの発現)によって測定される)が起こり、CD69の発現が増加した(図19B)。図19Cに示されているように、抗CD19抗体に結合した抗体AZ21と、抗CD3抗体に結合したBcl-2とを有する二重特異性T細胞エンゲージャを媒介としたT細胞活性化(NFAT活性化によって測定される)のレベルは、ABT-199の濃度滴定によって調節可能であった。
【表11-1】
【表11-2】
【表11-3】
【表11-4】
【表11-5】
【表11-6】
【表11-7】
【表11-8】
【表11-9】
【表11-10】
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5
図6
図7
図8
図8-1】
図8-2】
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図18-1】
図19A
図19B
図19B-1】
図19B-2】
図19B-3】
図19C
【配列表】
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