(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】代謝物センサ及び酵素活性のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240913BHJP
C12N 15/61 20060101ALI20240913BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20240913BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240913BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20240913BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20240913BHJP
C12N 9/90 20060101ALI20240913BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20240913BHJP
C12Q 1/533 20060101ALI20240913BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240913BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12N15/61 ZNA
C12N15/53
C12N15/62 Z
C12N9/02
C12N9/04
C12N9/90
C12Q1/26
C12Q1/533
C12Q1/02
G01N33/53 G
(21)【出願番号】P 2020034548
(22)【出願日】2020-02-29
【審査請求日】2022-11-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】梅野 太輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 友紀
(72)【発明者】
【氏名】野々下 芽以
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/182156(WO,A1)
【文献】Yohei Tashiro,Directed evolution of the autoinducer selectivity of Vibrio fischeri LuxR,J. Gen. Appl. Microbiol.,2016年,62,240-7
【文献】Yuki Kimura,Directed Evolution of the Stringency of the LuxR Vibrio fischeri Quorum Sensor without OFF-State Selection,ACS Synthetic Biology,2020年,9,567-75
【文献】Yuki Kimura,Fusing enzymes to transcription activator LuxR for the rapid creation of metabolite sensors,Enzyme Engineering,2019年,XXV,1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K
C12Q
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)~(3)を含む、野生型酵素よりも酵素活性又は基質親和性が高い酵素のスクリーニング方法であって、
(1)酵素Eの全部又は一部をコードする遺伝子配列及びアクチュエーターAをコードする遺伝子配列を担持する遺伝子構築物に変異、挿入、及び/又は欠失を導入して得られた酵素EとアクチュエーターAの融合変異体の核酸ライブラリ、並びに、アクチュエーターAによって制御されるプロモータPをコードする遺伝子配列及び該プロモータPと機能的に連結されたレポーターRをコードする遺伝子配列を担持したレポーター用発現ベクターを、細胞に導入する又は無細胞タンパク質合成系に添加する工程、
(2)代謝物Mを(1)の細胞又は無細胞タンパク質合成系に添加する工程、及び
(3)前記アクチュエーターAの制御下にあるレポーターRの発現量を指標として、酵素E変異体を選抜する工程、
かつ、前記融合変異体中のアクチュエーターAが、以下の(a)~(d)のいずれか1のLuxR変異体であることを特徴とする、前記スクリーニング方法:
(a)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加し、転写亢進活性を有するLuxR変異体において、さらにN86K、C245W 、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有するLuxR変異体、
(b)配列番号11に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、転写亢進活性を有するLuxR変異体において、さらにN86K、C245W、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有するLuxR変異体、
(c)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加し、転写亢進活性を有するLuxR変異体において、さらにN86K、C245W、T33A、S57T、並びにL42S、N93K、N99D及びN100Sのアミノ酸置換を有するLuxR変異体、
(d)配列番号11に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、転写亢進活性を有するLuxR変異体において、さらにN86K、C245W、T33A、S57T、並びにL42S、N93K、N99D及びN100Sのアミノ酸置換を有するLuxR変異体。
【請求項2】
さらに、上記(3)で選抜した酵素E変異体の変異箇所を同定する工程を含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記(3)において、前記酵素E変異体のレポーターRのM濃度依存的な変化量が野生型酵素EのレポーターRのM濃度依存的な変化量と比較して高い場合には、酵素E変異体は野生型酵素Eよりも酵素活性又は基質親和性が高いと判定する工程を含む、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(バイオセンサの現状)
代謝物や環境監視物質など、任意の物質の細胞内濃度をリアルタイムに検定できれば、生命科学の発展に大きく寄与できる。しかし、代謝物センサとしての性能(感度)を調整することが困難である。
【0002】
(代謝物センサ)
代謝物センサのニーズは非常に高いながら,特定の代謝物に対するオンデマンドなセンサ制作は非常に困難である。生理的に枢要な代謝物(ATP, ピルビン酸,アミノ酸の一部)などに対しては,生物(細胞)自身がセンサを保持している。これらの自然界センサを改良すれば、それらの代謝物のモニタリングは可能である。しかし,新しい代謝物に対するセンサを作るのには,大変手間のかかる技術が必要であった。
【0003】
(先行技術)
本発明者らは、すでに、従来のセンサの作製方法とは異なる「多入力・多出力型遺伝子スイッチ及びその製造方法(特許文献1)」を開示している。しかし、特許文献1では、本発明の代謝物センサ及び酵素活性のスクリーニング方法を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規な代謝物センサ、並びに、新規な酵素活性のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、本発明者らが開発した「多入力・多出力型遺伝子スイッチの製造方法」により新規な代謝物センサを完成し、さらに、新規な酵素活性のスクリーニング方法を構築して、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.以下の(1)~(7)のいずれか1のアミノ酸配列又は遺伝子で特定されるCODM変異体:
(1)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、121位及び346位にアミノ酸置換を有する、
(2)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、Q121LおよびR346Hのアミノ酸置換を有する、
(3)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、Q121L又はR346Hのアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有する、
(4)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、Q121L及びR346Hのアミノ酸置換を有し、さらに、121位及び346位以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有する、
(5)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、Q121L及びR346H のアミノ酸置換を有し、配列番号51に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有する、
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、及び
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
2.デバイン及び/又はコデイン検出用である、前項1に記載のCODM変異体。
3.以下の(1)~(11)のいずれか1のアミノ酸配列又は遺伝子で特定されるLuxR変異体:
(1)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K及びC245Wのアミノ酸置換を有し、さらに、33位及び57位にアミノ酸置換を有する、
(2)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K及びC245Wのアミノ酸置換を有し、さらに、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有する、
(3)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tから選択される3又は4のアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等の転写亢進活性又はAHL検出感度を有する、
(4)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有し、さらに、86位、245位、33位及び57位以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性又はAHL検出感度を有する、
(5)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有し、配列番号11に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性又はAHL検出感度を有する、
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性又はAHL検出感度を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性又はAHL検出感度を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(8)配列番号77に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(9)配列番号77に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性又はAHL検出感度を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(10)配列番号77に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加されているDNAからなる遺伝子、及び
(11)配列番号77に記載の塩基配列からなるDNAと相同性が90%以上のDNAからなる遺伝子。
4.前記LuxR変異体は、野生型LuxRと比較して、転写亢進活性又はAHL検出感度が高いことを特徴とする前項3に記載のLuxR変異体。
5.以下の(1)~(11)のいずれか1のアミノ酸配列又は遺伝子で特定されるLuxR変異体:
(1)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有し、さらに、42位、93位、99位及び100位にアミノ酸置換を有する、
(2)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有し、さらに、L42S、N93K、N99D及びN100Sのアミノ酸置換を有する、
(3)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A、S57T及び L42S、N93K、N99D及びN100Sから選択される5、6、7又は8のアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有する、
(4)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、86K、C245W 、T33A、S57T及び L42S、N93K、N99D及びN100Sのアミノ酸置換を有し、さらに、86位、245位、33位、57位、42位、93位、99位及び100位以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有する、
(5)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、86K、C245W 、T33A、S57T及び L42S、N93K、N99D及びN100Sのアミノ酸置換を有し、配列番号11に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有する、
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(8)配列番号78に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(9)配列番号78に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(10)配列番号78に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加されているDNAからなる遺伝子、及び
(11)配列番号78に記載の塩基配列からなるDNAと相同性が90%以上のDNAからなる遺伝子。
6.前記LuxR変異体は、AHL非添加条件下で転写亢進活性を有することを特徴とする前項5に記載のLuxR変異体。
7.以下の(1)~(7)のいずれか1のアミノ酸配列又は遺伝子で特定されるCOR変異体:
(1)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、11位及び276位にアミノ酸置換を有する、
(2)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、S11G及びF276Y のアミノ酸置換を有する、
(3)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、S11G又はF276Yのアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有する、
(4)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、S11G及びF276Yのアミノ酸置換を有し、さらに、11位及び276位以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有する、
(5)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、S11G及びF276Y のアミノ酸置換を有し、配列番号50に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有する、
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、及び
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
8.レチクリン検出用である、前項7に記載のCOR変異体。
9.以下の(1)~(7)のいずれか1のアミノ酸配列又は遺伝子で特定されるIDI変異体:
(1)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表される位置でアミノ酸置換を有する、
〇19
〇28、19
〇66、82、28、19
〇85、82、28、19
(2)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有する、
〇L19P
〇D28H、L19P
〇V66A、G82C、D28H、L19P
〇R85C、G82C、D28H、L19P
(3)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、R85C、V66A、G82C、D28H及びL19Pから選ばれる2、3、4又は5のアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有する、
(4)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有し、さらに、85、66、82、28及び19以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有する、
〇L19P
〇D28H、L19P
〇V66A、G82C、D28H、L19P
〇R85C、G82C、D28H、L19P
(5)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有し、配列番号76に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有する、
〇L19P
〇D28H、L19P
〇V66A、G82C、D28H、L19P
〇R85C、G82C、D28H、L19P
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、及び
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
10.ジメチル2リン酸(DMAOH)又はイソペンテニル2リン酸(IOH)検出用である、前項9に記載のIDI変異体変異体。
11.以下の(1)~(7)のいずれか1のアミノ酸配列又は遺伝子で特定されるDXR変異体:
(1)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表される位置でアミノ酸置換を有する、
〇111、297
〇120、144、283、295
〇362
〇58、118、279
〇15、254、362
〇279
〇362
(2)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有する、
〇L111F、L297P
〇I120T、A144E、T283S、K295R
〇S362T
〇D58H、K118R、P279T
〇C15R、S254T、S362T
〇P279T
〇S362T
(3)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、C15R、D58H、L111F、I120T、K118R、A144E、P279T、L297P、T283S、K295R、S362T及びS254Tから選ばれる2、3、4,5,6,7,8,9、10、11又は12のアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有する、
(4)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有し、さらに、15、58、111、120、118、144、279、297、283、295、362及び254以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有する、
〇L111F、L297P
〇I120T、A144E、T283S、K295R
〇S362T
〇D58H、K118R、P279T
〇C15R、S254T、S362T
〇P279T
〇S362T
(5)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有し、配列番号75に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有する、
〇L111F、L297P
〇I120T、A144E、T283S、K295R
〇S362T
〇D58H、K118R、P279T
〇C15R、S254T、S362T
〇P279T
〇S362T
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、及び
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子
12.DOXP検出用である、前項11に記載のDXR変異体。
13.以下の工程を含む酵素活性のスクリーニング方法:
(1)酵素Eの全部又は一部をコードする遺伝子配列及びアクチュエーターAをコードする遺伝子配列を担持する遺伝子構築物に変異、挿入、及び/又は欠失を導入して得られた酵素EとアクチュエーターAの融合変異体の核酸ライブラリ、並びに、アクチュエーターAによって制御されるプロモータPをコードする遺伝子配列及び該プロモータPと機能的に連結されたレポーターRをコードする遺伝子配列を担持したレポーター用発現ベクターを、細胞に導入する又は無細胞タンパク質合成系に添加する工程、
(2)代謝物Mを(1)の細胞又は無細胞タンパク質合成系に添加する工程、及び
(3)前記アクチュエータAの制御下にあるレポーターRの発現量を指標として、酵素E変異体を選抜する工程。
14.さらに、上記(3)で選抜した酵素E変異体の変異箇所を同定する工程を含む、前項13に記載の酵素活性のスクリーニング方法。
15.前記(3)において、前記酵素E変異体のレポーターRのM濃度依存的な変化量が野生型酵素EのレポーターRのM濃度依存的な変化量と比較して高い場合には、酵素E変異体は野生型酵素Eよりも酵素活性又は基質親和性が高いと判定する工程を含む、前項13又は14に記載の酵素活性のスクリーニング方法。
16.前記アクチュエーターAは、請求項3~6のいずれか1に記載のLuxR変異体である前項13~15のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
17.以下の工程を含む野生型酵素Eよりも酵素活性又は基質親和性が高い酵素E変異体の構造の決定方法;
(1)酵素Eの全部又は一部をコードする遺伝子配列及びアクチュエータAをコードする遺伝子配列を担持する遺伝子構築物に変異、挿入、及び/又は欠失を導入して得られた酵素EとアクチュエーターAの融合変異体の核酸ライブラリ、並びに、アクチュエーターAによって制御されるプロモータPをコードする遺伝子配列及び該プロモータPと機能的に連結されたレポーターRをコードする遺伝子配列を担持したレポーター用発現ベクターを、細胞に導入する又は無細胞タンパク質合成系に添加する工程、
(2)代謝物Mを(1)の細胞又は無細胞タンパク質合成系に添加する工程、
(3)前記アクチュエーターAの制御下にあるレポーターRの発現量を指標として、酵素E変異体を選抜する工程、
(4)前記(3)において、前記酵素E変異体のレポーターRの濃度依存的な変化量が野生型酵素EのレポーターRの濃度依存的な変化量と比較して高い場合には、酵素E変異体は野生型酵素Eよりも酵素活性が高いと判定する工程、及び
(5)上記(4)で酵素活性が高いと判定した酵素E変異体の変異箇所を同定する工程。
18.前項17(5)で同定した酵素E変異体の配列を基にして、酵素E変異体の作製方法。
19.前項18の作製方法で得られた酵素E変異体の使用方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、新規な代謝物センサ、並びに、新規な酵素活性のスクリーニング方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】標的遺伝子(センサ素子E:酵素)をLuxRと融合したプラスミドの作製の概要。
【
図2】pHRA-TetR-LuxRv2のプラスミド構造の概要。
【
図3】AHL不在下における、TetR-LuxR変異体のaTc(100 ng/mL)あり・なしでの機能分布。矢印で示した変異体が回収された。青はライブラリ、黒は親であるTetR-Lv2、および白はネガティブコントロールであるLacZである。点線はon/off比(傾き)が1に相当する。
【
図5】LuxRv3の機能の確認確認(T-curveを得るための実験手順)。実験は(1)から(7)の手順で行われた。化合物の番号について、(1)はaTc(anhydro-tetracycline)および(2)はAHL(N-(β-ketocaproyl)-DL-homoserine lactone)である。
【
図6】TetR-LuxRのaTc(a)およびAHL(b)に対する用量応答曲線。薄い青はTetR-Lv1、青はTetR-Lv2、濃い青はTetR-Lv3、および灰はLacZa(ネガティブコントロール)である。各プロットは並列に行った3回の実験の平均値であり、エラーバーはその標準偏差を示す。また、TetR-LuxRsの曲線は、各プロットをもとにHill式にフィッティングして得られた曲線である。
【
図7】LuxR変異体の安定性変化予測結果。MODELLERを用いて作製したLuxRの構造を鋳型に、変異導入した際の安定性変化をFoldXによって計算した。
【
図9】レポータープラスミド(Plux-GFP-hsvTK/aph)の概要。
【
図10】プロトタイプセンサのプラスミドの作製ワークフロー図。
【
図11】CODM-LuxRセンサプラスミドの概要。
【
図12】各種酵素-LuxRのLuxプロモータ亢進活性の評価結果。
【
図13】各種酵素-LuxRのコデイン応答性の評価結果。
【
図14】各種酵素-LuxRのモルヒネ応答性の評価結果。
【
図15】各種酵素-LuxRのレチクリン応答性の評価結果。
【
図16】COR-LuxRv3のライブラリ作製のワークフロー図。
【
図17】COR-LuxRライブラリのレチクリン応答結果(ピンク色:レチクリン100μM存在下、青:その不在下の蛍光分布)。
【
図18】ライブラリーから取得したCOR-LuxRv3変異体のレチクリン応答結果(AHL非添加条件で実験を行なった。それぞれのデータはN=3でおこなった実験の平均値であり、エラーバーはその標準偏差を示している。)。
【
図19】COR-LuxRv3変異体(mut5/mut6)の変異箇所。
【
図20】CODM-LuxRv3変異体の取得ワークフロー。
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図21】CODM-LuxRv3変異体の特異性の確認結果。
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図22】CODM-LuxRv3変異体に見出された変異部位。
【
図25】トリプトファンセンサおよびチロシンセンサ。(A)反応の概要、(B) TrpR-LuxRのトリプトファン応答性の結果、(C) TyrR-LuxRのチロシン応答性の結果。
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図27】酵素を分子認識素子として使ったチロシンセンサ。(A) 使用したリガンド★、(B) TrpR-LuxRのトリプトファン応答性。対照として、TrpB-LuxR不在のもの(かわりにlacZaを発現するplasmidを導入したもの)を用いた。灰色=チロシン不在のときの細胞あたりの蛍光強度分布、青=チロシン(500 μM)添加した培地での蛍光強度分布解析。
【
図28】IDI-LuxRv3のプラスミドの概要。
【
図29】DXR-LuxRv3のプラスミドの概要。
【
図30】BFP-MEVbottomのプラスミドの概要。
【
図32】酵素とLuxRのタンデム融合による代謝物センサの構築。細胞集団のデータにおいて、灰色は基質を供給していない条件で培養したときの分布、青色は基質供給するための化合物を添加した条件で培養したときの分布である。培養液の写真は、培養終了後の培養液を200 μL分だけ遠心集菌して培地を除去したのち、同容量の生理食塩水に再懸濁して撮影された。Lowは基質非供給条件、Highは基質供給条件で培養したときの様子である。培地に添加した化合物は(7)isopentenyl pyrophosphate、(8)dimethylallyl pyrophosphate、(9)mevalonic acid、および(10)1-deoxy-D-xylulose 5-phosphate(DOXP)である。
【
図33】LuxRv3に導入されたV162I変異がセンサ機能に与える影響の確認。濃いはIDI-Lv3V162I、青はG1P2D4、薄い青はIDI-Lv3、および白はIDIを発現する細胞のセンサである。各プロットは並列に行なった3回の実験の平均値であり、エラーバーはその標準偏差を示す。
【
図34】IDI-Lv3 G2P3D9変異体及びG1P2D4変異体のメバロン酸に対する用量応答曲線。青はG2P3D9、灰はG1P2D4、および白はIDI発現細胞の機能である。各プロットは並列に行なった3回の実験平均値であり、エラーバーはその標準偏差を示す。
【
図35】IDI-LuxRv3変異体(第3世代)のメバロン酸に対する用量応答曲線。青は変異体(a、 G3P1D3; b、 G3P1F4)、灰はG2P3D9、および白はIDI発現細胞の機能である。各プロットは並列に行なった3回の実験平均値であり、エラーバーはその標準偏差を示す。
【
図36】DXR-Lv3の1世代目変異体の転写亢進活性。各棒は並列に行なった4回の実験平均値であり、エラーバーはその標準偏差を示す。
【
図37】DXR-Lv3の2世代目変異体の転写亢進活性の確認。各棒は並列に行なった1回の実験平均値である。比較のために行なった1世代目の変異体およびネガティブコントロールのデータは、並列に行なった3回の実験値であり、エラーバーはその標準偏差を示す。
【
図38】DXR-Lv3の2世代目変異体のON/OFF性能の確認。各棒は並列に行なった3回の実験値であり、エラーバーはその標準偏差を示す。
【
図39】酵素の基質認識特性を非破壊・リアルタイム・ハイスループットに確認することができる概念図。上段から中段:酵素とLuxRを融合し、適度に不安定化させることによって、酵素基質がないときのLuxR出力値を下げれば、メタボライト(代謝産物)センサとしての振る舞いが創出できる。中段から下段へ:基質添加条件での出力値の高い変異体を探索することによって、基質と強く結合する(Kmの低い)変異体が取得できる。
【
図40】DXR-Lv3変異体の転写亢進活性変化およびDXR変異体のリコペン合成量の対比結果。横軸は「DXS過剰発現条件で示した細胞密度あたりの蛍光強度の平均値」から「DXSE370A変異体過剰発現条件で示した細胞密度あたりの蛍光強度の平均値」を減算した値である。縦軸はLuxRv3の切り離されたDXR変異体を発現する細胞のリコペン合成量である。青は変異体、黒は親であるDXR-Lv3またはDXR、および白はネガティブコントロールであるLacZa発現細胞である。矢印で示した3つのプロットは、野生型よりも10%以上リコペン合成量が増えた変異体である。それぞれの実験は並列に3回行われ、平均値がプロットされた。縦軸のエラーバーは、その標準偏差である。
【
図41】「多入力・多出力型遺伝子スイッチの製造方法」の概要。ランダム変異を導入して「ちょうどよく不安定化」させて標的分子に依存的にフォールドするタンパク質をシステマチックに作り出す。この「addictionモジュール」と融合したタンパク質の細胞機能は,その標的分子の細胞濃度を反映するようになる.この工法では,アロステリック効果のような複雑な分子ダイナミクスの設計は不要となる。Step-1:異なる生体分子に対する「結合モチーフ」を2つ用意,遺伝子レベルでin-frame融合し,一つのタンパク質とする.Step-2:この融合タンパク質の遺伝子全体にランダム変異を導入する。それぞれの標的分子との相互作用がなければ安定構造を保持できないよう「適度に」不安定化したものを,機能選抜する.Step-3:得られた変異型の融合タンパク質を細胞に定常発現させる。標的分子があるときだけ細胞に存在できるので,標的分子の濃度に応じた蛍光シグナルが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、「代謝物センサ」、並びに、「酵素活性のスクリーニング方法」に関する。
【0011】
(代謝物センサの作製方法)
本発明の代謝物センサは、本発明者らが開発した「多入力・多出力型遺伝子スイッチの製造方法」を基にして作製する。該方法は、特許文献1を参照することができるが、以下で概要を説明する。
【0012】
任意の代謝物の細胞内濃度をリアルタイムに検定できれば,細胞工学,発酵生産や育種技術の発展に大きく寄与できる。従来、主に2つの動作原理でバイオセンサは構成されてきた。ひとつは「遺伝子誘導型」センサである.このタイプでは,その標的化合物を誘導剤としてon/ offする転写制御機構の下流に,蛍光タンパク質などのレポータを配置するものである.自然界には様々な分子に応答する転写因子が存在するが,代謝物の大多数について,それらに対するセンサモチーフは知られていない。
本発明者らは、センサやレセプタなどの分子が標的分子と結合するときに必ず起こる現象,「安定化する」ということに着目した。その安定化現象を統一規格で「読み出す」センサ方式を提案し,超高速に任意のセンサ制作できる技術を完成させた(参照:
図41)。
本方法の原理(安定化を測定)を使えば,何万と知られる酵素が,その反応の種類にかかわらす,センサの分子認識素子として使える。
【0013】
(本発明の代謝物センサの作製方法の概要)
本発明の代謝物センサの作製方法の概要を
図42に示す。
代謝物Mに対するセンサ素子Sを作製する。
[Step-1] 代謝物Mを基質とする酵素をデータベースなどで検索し,その遺伝子を合成する。必要に応じて、酵素の触媒活性基を除いたものにしても良い。
[Step-2] あらかじめアミノ酸変異によって安定性をおとした転写因子(本実施例ではLuxRの変異体を利用している)と遺伝子レベルでin-frameで融合する。場合によっては,この段階ですでにセンサとして振る舞うものもある。
[Step-3] 融合タンパク質全体の安定性を,ランダム変異によってうまく下方修正する作業を行う。具体的には,エラープローンPCR法によって融合タンパク質全体の遺伝子にランダム変異を導入したり,又は、計算によって導かれたいくつかの不安定化変異を導入してもよい。
[Step-4] 基質の存在下,LuxR機能(Plux下流のレポータ遺伝子を発現する)がみられるものを選抜し,それらの中から,基質の不在下にLuxR機能を失うものを選抜する。
【0014】
(リガンドと代謝物)
本発明での「リガンドL」は、転写因子に結合することにより遺伝子スイッチの機能を変化させ、その結果、遺伝子または多数の遺伝子の直接的または間接的な発現の調節を誘導する物質、例えばそのような化合物を意味する。「リガンド」は、「遺伝子スイッチを活性化する化合物」と言うこともできる。活性化物質は、遺伝子スイッチにより異なる。
本発明の代謝物Mは、センサ素子Eの素材となる酵素Eの基質又は細胞内で代謝酵素によってEの基質になる物質である.
【0015】
(アクチュエーター)
本発明での「アクチュエーターA」は、転写因子、酵素、抗体、ヒストン、シャペロン又はリボゾームから選択されるが、好ましくは、転写因子であり、本実施例では、LuxRを使用した。しかし、LuxRに限定されず、例えば、AraC、XylR、TetR、ArsR、LacI等を使用することができる。
【0016】
(センサ素子)
本発明での「センサ素子E」は、代謝物センサにおいて、代謝物Mを検出する素子を意味する。具体的には、代謝物センサの作製方法によって得られた従来の酵素由来の変異体である。
【0017】
(プロモータ)
本発明での「プロモータP」は、転写因子(アクチュエータA)によって制御されるプロモータ活性を有する核酸配列を意味する。プロモータは、レポーターR遺伝子をコードする遺伝子またはその活性部分の翻訳開始の5'上流に位置する核酸配列であって、レポーターRの転写を制御する核酸配列を意味する。
プロモータは、使用する宿主細胞の種によって適宜選択して使用される。細菌を宿主として使用する場合、プロモータとして、大腸菌などの宿主細胞中で発現できるものであれば特に限定されず、いずれを使用してもよい。例えば、λPRプロモータ、PLプロモータ、trpプロモータ、およびlacプロモータなどの、大腸菌やファージに由来するプロモータを例示できる。tacプロモータなどの人為的に設計改変されたプロモータを使用してもよい。酵母を宿主とする場合、プロモータとして、酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、いずれを使用してもよい。例えば、gal1プロモータ、gal10プロモータ、ヒートショックタンパク質プロモータ、MFα1プロモータ、PHO5プロモータ、PGKプロモータ、GAPプロモータ、ADHプロモータ、およびAOX1プロモータなどを例示できる。動物細胞を宿主とする場合は、組換えベクターが該細胞中で自律複製可能であると同時に、プロモータ、RNAスプライス部位、目的遺伝子、ポリアデニル化部位、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、所望により複製起点が含まれていてもよい。プロモータとして、SRαプロモータ、SV40プロモータ、LTRプロモータ、およびCMVプロモータなどを使用することができ、また、サイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモータなどを使用してもよい。
【0018】
(リガンドL、転写因子T(アクチュエータA)及びプロモータPの組合せ)
リガンドL、該リガンドLに応答する転写因子T及び該転写因子Tによって制御されるプロモータPの組合せは以下を例示することができる。
〇アクチベータ型のプロモータ
Arabinose、AraC、PBAD(アラビノースオペロン)
オペレーター DNA にアクチベータータンパク質が結合していないと転写が起こらない。環境中にArabinoseが存在すると、アラビノース・アクチベーターのコンフォメーションが変化する。コンフォメーションが変化したアラビノース・アクチベーターがオペレーターに結合する。これにより、RNA ポリメラーゼはオペロンを転写できるようになり、PBAD下流のレポーターR遺伝子が発現する。
AHL、LuxR、Plux
環境中にAHLが存在すると、転写因子(転写調節因子)であるLuxRと結合する。そして、AHL-LUxR複合体がpluXプロモーターを活性化させることにより、下流の遺伝子であるレポーター遺伝子Rが発現する。
Xylose、XylR、Pxyl
〇リプレッサー型のプロモータ
aTc、TetR、Ptet
ヒ素、ArsR、Pars
IPTG、LacI、Plac
本実施例では、上記の「AHL、LuxR、Plux」を使用した。
【0019】
(融合変異体の核酸のライブラリ)
本発明での「融合変異体の核酸のライブラリ」は、リガンドLに応答する転写因子T又はアクチュエータAをコードする遺伝子配列及び代謝物Mに応答する酵素Eをコードする遺伝子配列を担持する遺伝子構築物(発現用ベクターを含む)に自体公知の変異(例、ランダム変異、Fold-X等の安定性予測ソフトウエアを使用した部位特異的変異)を導入して、得られた複数の種類の変異を有する転写因子T又はアクチュエータAと酵素Eの融合変異体である。
なお、転写因子Tと酵素Eの融合方法は、特に限定されず、タンデムなin-frame融合、Tのループ部分にEの遺伝子を挿入する融合(あるいはEのループ部分にTの遺伝子を挿入する融合)方式でも良い。
加えて、本発明の変異の好ましい例として、タンパク質(融合変異体)の不安定化を起すことである。まず、タンパク質の安定性とは、フォールディング状態の安定性、すなわち、そのタンパク質をなすポリペプチド鎖が、機能構造を形成するとき(フォールディングするとき)に生じる自由エネルギー変化(ΔGfold)である。そして、「不安定化」とは、フォールディングエネルギーに伴う自由エネルギー変化(ΔGfold)を減らし、そして最終的にはキャンセルしてしまうことを意味する。例えば、あるアミノ酸置換によって、機能構造(フォールド)の安定性が低下する場合、そのアミノ酸置換は「不安定化をもたらす変異(不安定化変異)」である。詳しくは、変異により適度な不安定化を誘導できれば、酵素Eの基質,あるいはそれに変換可能な代謝物Mが存在する時のみ、融合変異体のフォールド状態を保持できる(つまりΔGfold<0となる)。
【0020】
(レポーター)
本発明での「レポーターR」は、融合変異体を選抜するための指標となれば特に限定されないが、例えば、蛍光タンパク質(GFP)や色素タンパク質(amilCP),ルシフェラーゼ,チミジンキナーゼ(参照:特開2013-17473)、アルキルアデニンDNAグリコシダーゼ(参照:国際公報WO2012/060407)、色素生合成遺伝子オペロン(参照:特開2014-223038号公報)、等を例示することができる。
詳しくは、蛍光タンパク質や色素タンパク質を用いた場合は、代謝物Mを培地中へ添加・非添加したときの培養液の呈色をもとに融合変異体を選択する。チミジンキナーゼやアルキルアデニンDNAグリコシラーゼ、各種薬剤トランスポータや薬剤耐性マーカー、トキシン・アンチトキシンペアなどを用いた場合は、細胞の生死や増殖の可否を指標として、融合変異体を選択する。
さらに、レポーターRは、各プロモータPと機能的に連結されていれば特に限定されないが、プロモータP毎にレポーターRの種類を変えることができる。例えば、プロモータP1-レポーターR1、プロモータP2-レポーターR2、プロモータP3-レポーターR3等の組合せを例示することができる。
【0021】
(レポーター用発現ベクター)
本発明での「レポーター用発現ベクター」は、転写因子Tによって制御されるプロモータPをコードする遺伝子配列並びにプロモータP配列と機能的に連結されたレポーターRをコードする遺伝子配列を担持する。なお、レポーターRは、複数種類存在しても良いし、各プロモータの下流に1又は複数個存在しても良い。
【0022】
発現ベクターは、宿主細胞に外部遺伝子を運搬するDNA、言い換えればベクターDNAであって、宿主細胞中で目的遺伝子を発現させ得るDNAをいう。ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するDNAを抽出して得られたベクターDNAの他、複製に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているベクターDNAでもよい。代表的なベクターDNAとして例えば、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAを挙げることができる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどを例示できる。バクテリオファージDNAとして、λファージなどが挙げられる。ウイルス由来のベクターDNAとして、例えばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルスなどの動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルスなどの昆虫ウイルス由来のベクターを挙げることができる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNAなどを例示できる。あるいは、これらを組み合わせて作成したベクターDNA、例えばプラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組み合わせて作成したベクターDNA(コスミドやファージミドなど)を例示できる。ベクターDNAには、目的遺伝子が発現されるように目的遺伝子を組み込むことが必要であり、少なくとも目的遺伝子と調節DNAエレメント、例えばプロモータとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列を組み合わせて自体公知の方法によりベクターDNAに組み込むことができる。このような遺伝子配列として、例えば、リボソーム結合配列、ターミネータ、シグナル配列、エンハンサなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー(セレクタ:ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子など)を例示できる。これらから選択した1種類または複数種類の遺伝子配列をベクターDNAに組み込むことができる。
ベクターDNAに目的遺伝子を組み込む方法は、自体公知の遺伝子工学的技術を適用できる。例えば、目的遺伝子を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼにより再結合する方法が用いられる。あるいは、目的遺伝子に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても所望のベクターDNAが得られる。
宿主細胞への発現ベクターの導入方法は、宿主細胞にベクターDNAを導入して宿主細胞中で目的遺伝子を発現させ得る導入方法であれば特に限定されず、宿主細胞の種により適宜選択した公知の方法のいずれを使用してもよい。例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などを例示できる。
【0023】
(細胞又は無細胞タンパク質合成系)
本発明での「細胞又は無細胞タンパク質合成系」は、転写因子T(N)、プロモータP及びレポーターRXがタンパク質発現できる環境であれば特に限定されない。例えば、細胞は、原核細胞および単離された真核細胞のいずれであってもよいが、細胞周期が短く増殖速度の速い原核細胞が好ましい。このような性質を有する細胞は、遺伝子スイッチの迅速な製造方法に有用である。例えば、無細胞タンパク質合成系は、タンパク質合成に必須な成分を含む公知の無細胞タンパク質合成系(コムギ、大腸菌等)を例示することができる。
なお、「リガンドL及び/又は代謝物Mを細胞又は無細胞タンパク質合成系に添加する工程」とは、リガンドL及び/又は代謝物Mの細胞又は無細胞タンパク質合成系への添加は、融合変異体の核酸のライブラリ及び/又はレポーター用発現ベクターを細胞に添加した前、後又は実質的に同時でも良い。
【0024】
(センサ素子Sを選抜する)
本発明では、レポーターRの発現量を指標として、目的とするセンサの機能を有する融合変異体を選抜する。
なお、選抜した融合体の遺伝子配列及び/又はアミノ酸配列を自体公知の方法により解析する。これにより、多入力・多出力型遺伝子スイッチ又は転写因子の情報(塩基配列、アミノ酸配列)を得ることができる。
さらに、該情報により、自体公知のタンパク質合成システムを使用すれば、容易に、多入力・多出力型遺伝子スイッチ又は転写因子を得ることができる。
【0025】
(リンカー)
本発明では、センサ素子EとアクチュエータAの間には、好ましくはリンカーLを導入する。リンカーLの配列は、自体公知の配列を利用することができる。
【0026】
(タグ)
本発明では、センサ素子Sに、自体公知のタグTを導入しても良い。タグは、センサ素子をカラム等により精製するときの結合標識であっても良い。
【0027】
(代謝物センサの構成)
本実施例で得られた代謝物センサを以下に例示するが、下記の特性・性質を維持している変異体・誘導体は、本発明の範囲に含まれる。
センサ素子S、アクチュエータA及び代謝物M(検出対象)は、以下の通りである。
(1)SalAT、LuxRv2(又はLuxRv3)、コデイン
(2)THS、LuxRv2(又はLuxRv3)、コデイン
(3)T6ODM、LuxRv2(又はLuxRv3)、コデイン
(4)CODM、LuxRv2(又はLuxRv3)、コデイン
(5)SalR、LuxRv2(又はLuxRv3)、モルヒネ
(6)COR、LuxRv2(又はLuxRv3)、モルヒネ
(7)T6ODM、LuxRv2(又はLuxRv3)、レクチリン
(8)COR、LuxRv2(又はLuxRv3)、レクチリン
(9)COR{mut5(S11G、 F276Y)}変異体、LuxRv3、レクチリン
(10)COR{mut5(S11G、 F276Y)}変異体、LuxRv3((K16R))変異体、レクチリン
(11)CODM(Q121L、R346H)変異体、LuxRv3、デバイン及び/又はコデイン
(12)TrpR、LuxRv3、トリプトファン
(13)TyrR、LuxRv3、トリプトファン
(14)TyrB、LuxRv3、チロシン
(15)IDI、LuxRLv3、メバロン酸,その代謝物であるジメチルアリル二リン酸(DMAOH)、イソペンテニル二リン酸(IOH)
(16)IDI-LuxRLv3(V162I)変異体、メバロン酸、DMAOH/IOH
(17)IDI(L19Pに変異)変異体-LuxRv3(V162I)変異体{G1P2D4}、メバロン酸、DMAOH/IOH
(18)IDI(D28H、L19Pに変異)変異体-LuxRv3(V162I)変異体{G2P3D9}、メバロン酸、DMAOH/IOH
(19)IDI(V66A、G82C、D28H、L19Pに変異)変異体-LuxRv3(V162I)変異体{G3P1D3}、メバロン酸、DMAOH/IOH
(20)IDI(R85C、G82C、D28H、L19Pに変異)変異体-LuxRv3(V162I)変異体{G3P1F4}、メバロン酸、DMAOH/IOH
(21)DXR(L111F、L297Pに変異)変異体、LuxRv3{G1P1A2}、DOXP
(22)DXR(I120T、A144E、T283S、K295Rに変異)変異体、LuxRv3{G1P1B3}、DOXP
(23)DXR(S362Tに変異)変異体、LuxRv3{G1P1E2}、DOXP
(24)DXR(D58H、K118R、P279Tに変異)変異体、LuxRv3{G1P1F2}、DOXP
(25)DXR(C15R、S254T、S362Tに変異)変異体、LuxRv3{G2P1F4}、DOXP
(26)DXR(P279Tに変異)変異体、LuxRv3{G2P1C11}、DOXP
(27)DXR(S362Tに変異)変異体、LuxRv3{G2P1D7}、DOXP
【0028】
(本発明のアクチュエータAであるLuxR変異体)
本実施例では、従来のLuxR及び発明者らが開発したLuxRv1(LuxR(N86K、C245Wの変異あり:Kimura et al., J.Gen. Appl. Microbiol., 62, 240-247 (2016))と比較して、すぐれたLuxR変異体を作製した。
【0029】
(LuxRv2)
LuxRv2は、LuxRv1と比較して、AHLを高感度で検出することができる。
LuxRv2のアミノ酸構造は以下で特定できる。
(1)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K及びC245Wのアミノ酸置換を有し、さらに、33位及び57位にアミノ酸置換を有する。
(2)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K及びC245Wのアミノ酸置換を有し、さらに、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有する。
(3)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tから選択される3又は4のアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等のAHL検出感度を有する。
(4)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有し、さらに、86位、245位、33位及び57位以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のAHL検出感度を有する。
(5)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有し、配列番号11に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のAHL検出感度を有する。
LuxRv2の塩基配列構造は以下で特定できる。
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のAHL検出感度を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のAHL検出感度を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(8)配列番号77に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(9)配列番号77に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記(2)と実質的同等のAHL検出感度を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(10)配列番号77に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加されているDNAからなる遺伝子。
(11)配列番号77に記載の塩基配列からなるDNAと相同性が90%以上のDNAからなる遺伝子。
【0030】
(LuxRv3)
LuxRv3は、AHL等のリガンドLを添加しなくても転写亢進活性を示す。
LuxRv3のアミノ酸構造は以下で特定できる。
(1)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有し、さらに、42位、93位、99位及び100位にアミノ酸置換を有する。
(2)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A及びS57Tのアミノ酸置換を有し、さらに、L42S、N93K、N99D及びN100Sのアミノ酸置換を有する。
(3)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、N86K、C245W 、T33A、S57T及び L42S、N93K、N99D及びN100Sから選択される5、6、7又は8のアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有する。
(4)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、86K、C245W 、T33A、S57T及び L42S、N93K、N99D及びN100Sのアミノ酸置換を有し、さらに、86位、245位、33位、57位、42位、93位、99位及び100位以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有する。
(5)配列番号11で示されるアミノ酸配列において、86K、C245W 、T33A、S57T及び L42S、N93K、N99D及びN100Sのアミノ酸置換を有し、配列番号11に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有する。
LuxRv3の塩基配列構造は以下で特定できる。
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(8)配列番号78に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(9)配列番号78に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記(2)と実質的同等の転写亢進活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(10)配列番号78に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加されているDNAからなる遺伝子。
(11)配列番号78に記載の塩基配列からなるDNAと相同性が90%以上のDNAからなる遺伝子。
【0031】
(モルフィナンアルカロイドセンサ)
本実施例により、以下のモルフィナンアルカロイドセンサで使用するセンサ素子SとアクチュエータAを含むセンサを得た。
【0032】
(コデイン検出センサ)
SalAT-LuxRv2(又はLuxRv3)
THS-LuxRv2(又はLuxRv3)
T6ODM-LuxRv2(又はLuxRv3)
CODM-LuxRv2(又はLuxRv3)
【0033】
(モルヒネ検出センサ)
SalR-LuxRv2(又はLuxRv3)
COR-LuxRv2(又はLuxRv3)
なお、各酵素とLuxRv3(又はLuxRv2)の間にはリンカー配列Lが、各酵素の開始コドンの後ろにはタグT配列が挿入されていても良い。
【0034】
(レチクリン検出センサ)
T6ODM-LuxRv2(又はLuxRv3)
COR -LuxRv2(又はLuxRv3)
COR{mut5(S11G、 F276Y)}変異体-LuxRv3
COR{mut5(S11G、 F276Y)}変異体-LuxRv3{(K16R)に変異}変異体
なお、各酵素とLuxRv3(又はLuxRv2)の間にはリンカー配列Lが、各酵素の開始コドンの後ろにはタグT配列が挿入されていても良い。
なお、CORの変異体(mut5)のアミノ酸構造は以下で特定できる。
(1)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、11位及び276位にアミノ酸置換を有する。
(2)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、S11G及びF276Y のアミノ酸置換を有する。
(3)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、S11G又はF276Yのアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有する。
(4)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、S11G及びF276Yのアミノ酸置換を有し、さらに、11位及び276位以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有する。
(5)配列番号50で示されるアミノ酸配列において、S11G及びF276Y のアミノ酸置換を有し、配列番号50に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有する。
なお、CORの変異体(mut5)の塩基配列構造は以下で特定できる。
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のレチクリン検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【0035】
(デバイン及び/又はコデイン検出センサ)
CODM(Q121L、R346Hに変異)変異体-LuxRv3
なお、CODM変異体とLuxRv3の間にはリンカー配列Lが、各酵素の開始コドンの後ろにはタグT配列が挿入されていても良い。
CODM変異体のアミノ酸構造は以下で特定できる。
(1)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、121位及び346位にアミノ酸置換を有する。
(2)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、Q121LおよびR346Hのアミノ酸置換を有する。
(3)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、Q121L又はR346Hのアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有する。
(4)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、Q121L及びR346Hのアミノ酸置換を有し、さらに、121位及び346位以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有する。
(5)配列番号51で示されるアミノ酸配列において、Q121L及びR346H のアミノ酸置換を有し、配列番号51に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有する。
CODM変異体の塩基配列構造は以下で特定できる。
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のデバイン及び/又はコデイン検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【0036】
(トリプトファン及び/又はチロシンセンサ)
本実施例により、トリプトファン及び/又はチロシンセンサで使用するセンサ素子SとアクチュエータAを含むセンサを得た。
TrpR-LuxRv3
上記センサは、トリプトファン濃度の増加を検出可能なトリプトファンセンサである。
TyrR-LuxRv3
TyrB-LuxRv3
上記センサは、チロシン濃度の増加を検出可能なチロシンセンサである。
なお、TrpR、TyrR又はTyrBとLuxRv3の間にはリンカー配列Lが、TrpR、TyrR又はTyrBの開始コドンの後ろにはタグ配列Tが挿入されていても良い。
【0037】
(イソプレノイド前駆体センサ)
本実施例により、以下のイソプレノイド前駆体センサで使用するセンサ素子SとアクチュエータAを含むセンサを得た。
【0038】
(メバロン酸センサ)
IDI-LuxRLv3
IDI-LuxRLv3(V162I)変異体
IDI(L19Pに変異)変異体-LuxRv3(V162I)変異体{G1P2D4}
IDI(D28H、L19Pに変異)変異体-LuxRv3(V162I)変異体{G2P3D9}
IDI(V66A、G82C、D28H、L19Pに変異)変異体-LuxRv3(V162I)変異体{G3P1D3}
IDI(R85C、G82C、D28H、L19Pに変異)変異体-LuxRv3(V162I)変異体{G3P1F4}
IDI変異体のアミノ酸構造は以下で特定できる。
なお、IDI又はIDI変異体とLuxRLv3又はLuxRv3(V162I)変異体の間にはリンカー配列Lが、IDI又はIDI変異体の開始コドンの後ろにはタグ配列Tが挿入されていても良い。
IDI変異体の構造は以下のアミノ酸配列で特定される。
(1)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表される位置でアミノ酸置換を有する。
〇19
〇28、19
〇66、82、28、19
〇85、82、28、19
(2)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有する。
〇L19P
〇D28H、L19P
〇V66A、G82C、D28H、L19P
〇R85C、G82C、D28H、L19P
(3)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、R85C、V66A、G82C、D28H及びL19Pから選ばれる2、3、4又は5のアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有する。
(4)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有し、さらに、85、66、82、28及び19以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有する。
〇L19P
〇D28H、L19P
〇V66A、G82C、D28H、L19P
〇R85C、G82C、D28H、L19P
(5)配列番号76で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有し、配列番号76に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有する。
〇L19P
〇D28H、L19P
〇V66A、G82C、D28H、L19P
〇R85C、G82C、D28H、L19P
IDI変異体の塩基配列構造は以下で特定できる。
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のメバロン酸検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【0039】
(DOXPセンサ)
DXR(L111F、L297Pに変異)変異体-LuxRv3{G1P1A2}
DXR(I120T、A144E、T283S、K295Rに変異)変異体-LuxRv3{G1P1B3}
DXR(S362Tに変異)変異体-LuxRv3{G1P1E2}
DXR(D58H、K118R、P279Tに変異)変異体-LuxRv3{G1P1F2}
DXR(C15R、S254T、S362Tに変異)変異体-LuxRv3{G2P1F4}
DXR(P279Tに変異)変異体-LuxRv3{G2P1C11}
DXR(S362Tに変異)変異体-LuxRv3{G2P1D7}
なお、DXR変異体とLuxRLv3の間にはリンカー配列Lが、DXR変異体の開始コドンの後ろにはタグ配列Tが挿入されていても良い。
DXR変異体の構造は以下のアミノ酸配列で特定される。
(1)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表される位置でアミノ酸置換を有する。
〇111、297
〇120、144、283、295
〇362
〇58、118、279
〇15、254、362
〇279
〇362
(2)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有する。
〇L111F、L297P
〇I120T、A144E、T283S、K295R
〇S362T
〇D58H、K118R、P279T
〇C15R、S254T、S362T
〇P279T
〇S362T
(3)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、C15R、D58H、L111F、I120T、K118R、A144E、P279T、L297P、T283S、K295R、S362T及びS254Tから選ばれる2、3、4,5,6,7,8,9、10、11又は12のアミノ酸置換を有し、かつ、上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有する。
(4)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有し、さらに、15、58、111、120、118、144、279、297、283、295、362及び254以外の箇所において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有する。
〇L111F、L297P
〇I120T、A144E、T283S、K295R
〇S362T
〇D58H、K118R、P279T
〇C15R、S254T、S362T
〇P279T
〇S362T
(5)配列番号75で示されるアミノ酸配列において、以下のいずれか1で表されるアミノ酸置換を有し、配列番号75に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有する。
〇L111F、L297P
〇I120T、A144E、T283S、K295R
〇S362T
〇D58H、K118R、P279T
〇C15R、S254T、S362T
〇P279T
〇S362T
DXR変異体の塩基配列構造は以下で特定できる。
(6)上記(2)のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(7)上記(2)のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつ上記(2)と実質的同等のDOXP検出活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【0040】
(酵素活性のスクリーニング方法)
本発明の酵素活性のスクリーニング方法では、実際の酵素活性をスクリーニングすることなく、野生型酵素と比較して、優れた酵素活性を有する酵素変異体を取得することができる。本方法は、以下の工程を含む。
(1)代謝物M又はその代謝産物を基質とする酵素Eの全部又は一部をコードする遺伝子配列及びリガンドLに応答するアクチュエーターAをコードする遺伝子配列を担持する遺伝子構築物に変異を導入して得られた酵素EとアクチュエーターAの融合変異体の核酸ライブラリ、並びに、アクチュエーターAによって制御されるプロモータPをコードする遺伝子配列及び該プロモータ配列P1と機能的に連結されたレポーターRをコードする遺伝子配列を担持したレポーター用発現ベクターを、細胞に導入する又は無細胞タンパク質合成系に添加する工程。
(2)代謝物Mを(1)の細胞又は無細胞タンパク質合成系に添加する工程、
(3)レポーターの発現量を指標として、酵素EとアクチュエータAの融合変異体を選抜する工程。
加えて、選抜工程では、代謝物Mの共存下あるいは代謝物M濃度の高い条件下で酵素EとアクチュエータAの融合変異体のレポーター発現量が、野生型酵素EとアクチュエータAの融合体のレポーター発現量よりも高い場合には、酵素E変異体は野生型酵素Eよりも酵素活性(とくに親和性,基質選択生)が高いと判定することができる。
加えて、アクチュエータAは、LuxRv1、LuxRv2又はLuxRv3を使用することが好ましいが特に限定されない。
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
(アクチュエーターAとしてのLuxR変異体の作製)
センサ素子である酵素EをアクチュエーターAであるLuxRに融合するとき、酵素の基質結合に伴う安定化がセンサタンパク質の細胞内での実効濃度が高まれば、それに連動するかたちでLuxRの細胞機能が上昇し、それが亢進するプロモータPであるプロモータ(Plux)下流のレポータRであるレポータ遺伝子(GFPなど)の発現量が高まる。
遺伝子変異によって後に不安定化させることも可能であるが、基質と結合していない状態での安定性が可能な限り低く設定することによって、酵素をLuxRと融合しただけで、ある程度のセンサ挙動が見られることが期待される。また、実用上、リガンドであるAHLを添加せずにLuxRが動作することが望ましく、LuxRのAHL結合キャビティへの代謝物の結合も望ましくない。AHLと結合しなくても転写亢進を行える、いわゆる「super activator」として振る舞うアクチュエーターAであるLuxR変異体を作製した。
【0043】
(発現系)
融合した状態でsuper activatorとして振る舞い、かつ適度に不安定化した変異体を探索するために、aTc(anhydrotetracycline)に応答する抑制型転写因子TetRをLuxRと融合したプラスミドを作製した(
図1)。このプラスミドを構築するうえで、塩基配列には以下の工夫を施した。
(1)制限酵素認識配列の挿入:酵素とLuxR(N86K、C245Wの変異あり:Kimura et al., J.Gen. Appl. Microbiol., 62, 240-247 (2016)、LuxRv1)を遺伝的に融合するクローニングや、ランダム変異ライブラリの作製を容易にするために、酵素のN末端側、酵素とLuxRの間、およびLuxRのC末端側に、別個の制限酵素が認識する配列を挿入した。
(2)ヒスチジン6量体の挿入:翻訳開始効率は、転写開始点からORF内の35塩基程度からなるmRNAの高次構造が影響する。RBSデザインを省略してさまざまな代謝物センサを開発できるようにするために、開始コドンと酵素のORFの間にヒスチジン6量体をコードする塩基配列(18塩基)を挿入した。開始コドン(3塩基)、制限酵素認識配列(6塩基)と合わせて27塩基がすべてのモチーフで共通となるため、どのモチーフも翻訳開始効率がほぼ類似することになる。
RBS下流にヒスチジン6量体を配置することによって、gene of interestの配列が変わっても、翻訳開始効率は大きく変化しないと考えられる。Gene of interestの上流、gene of interestとluxRの間、luxRの下流にはユニークな制限酵素認識配列であるBamHI、SpeI、およびHindIII認識配列をそれぞれに挿入したため、制限酵素処理によって任意の領域を容易に除去できた。
より詳しくは、酵素とLuxRの間には、リンカーLである制限酵素SpeIの認識配列由来に由来するTS(スレオニンとセリン)を挿入した。また、酵素のN末端側は、開始コドンと酵素の間に、タグTであるヒスタグと制限酵素BamHIの認識配列に由来するポリペプチドHHHHHHGSを付与した。なお、この配列デザインは、以下の実施例でも同様である。
【0044】
(TetR-LuxRの作製)
図1に記載の発現コンストラクトを参照して、大腸菌由来のテトラサイクリン応答型の転写因子TetRを既知のLuxRv1変異体(WO2019182156)と融合した。詳しくは、大腸菌株XL10GのゲノムDNAからtetR遺伝子に含まれる制限酵素HindIIIの認識する配列を書き換えながらtetR遺伝子を増幅するために、HindIIIサイトの上流側(プライマー配列1(配列番号1)/配列2(配列番号2))と下流側(プライマー配列3(配列番号3)/配列4(配列番号4))に分けてPCR増幅した。さらに、tetR遺伝子上流側へ制限酵素認識配列を付与するために、上流側のPCR産物をさらにPCR増幅した(プライマー配列5(配列番号5)/配列2(配列番号2))。これらを制限酵素ApaI、BsaI、およびSpeIによって処理した。一方で、プライマー配列6(配列番号6)および配列7(配列番号7)を使用してPCR増幅されたLuxR変異体(WO2019182156)を制限酵素SpeIおよびHindIIIで処理した。これら3断片を、ApaIおよびHindIIIで処理されたpHRAベクターへ閉じることによって、pHRA-TetR-LuxRv2(配列番号77)を得た(
図2、参考:配列番号8)。
【0045】
(LuxR進化)
aTc結合によって転写亢進活性が高まるLuxR変異体を得るために、以下の操作を行なった。
TetR-[LuxRv2]の作製:
TetR- LuxRv1を鋳型に、luxR遺伝子部分のみにランダム変異を導入したライブラリを作製した。その条件は以下のとおりであった。
テンプレート:プライマー配列8(配列番号9)/配列9(配列番号10)でPCR増幅された断片5 ng
反応体積50 μL
PCRバッファNEB 10×Thermo Pol Reaction Buffer
dNTP濃度0.2 mM each、Mg濃度0.2 mM、Mn濃度50 μM
NEB Taq DNA Polymerase、5 units
最終的な収量5000 ng、増幅率1000倍。
得られたDNAをゲル抽出、さらに精製して、ベクターにライゲーションした。
vector:100 ng、insert:72 ng、反応体積10 μL、
反応時間16時間、反応温度16℃、NEB T4 DNA Ligase、400 units
得られたLigation液を脱塩し、大腸菌株BW25113にエレクトポレーションした。コンピテントセル60 μLにSOC 3 mL加えて37度で1hキュレーション培養した。うち1 μL(3000分の1)をAgar Plateにまいた。残り2999 μLは40 mLのLBに希釈して一晩(12h)37度で震盪培養した。得られた菌体懸濁液のうち2 mLをミニプレップした。
こうして、TetR-[LuxRv2]ライブラリ([LuxR Rv1]部分のみにランダム変異導入されている)を得た(ライブラリサイズ:2.3 × 105)。
セレクション1:TetR-[LuxRv2]ライブラリの中から、TetRのリガンドである無水テトラサイクリン(aTc)の存在下、AHLを入れずとも、より高い転写亢進活性を示す変異体の単離を行った。具体的には、上記プラスミドライブラリをレポータプラスミド(Plux-sfGFP-hsvTK/aph、参照:WO2019182156)とともに大腸菌株BW25113に形質転換し、aTc(100 ng/mL)を添加したLB培地で37℃、1 h培養したのち、0-120 μg/mLのkanamycinを添加して3時間培養した(ポジティブセレクション)。レポータプラスミドには、Plux下、GFPとともにhsvTK/aphが配置されているため、このaph(カナマイシン耐性遺伝子)の発現レベルが高いものが優先的に増殖・濃縮されてきた。
機能選抜1:上記セレクション1後のライブラリを100 ng/mL aTcを含む(そしてAHLを含まない)固体培地上に植菌し、全コロニー数に対する蛍光を示すコロニー数の割合から、セレクションによる濃縮効率を比較した(表1)。
【0046】
【表1】
TetR-[LuxRv2]ライブラリの1回目のポジティブセレクションで濃縮された変異体。
a) セレクション終了後、100 ng/mL aTcを含む固体培地上に形成されたコロニーの数。
b) 形成されたコロニーのうち、蛍光を示したコロニー数。括弧内の数値は、全コロニーのうち、蛍光を示したコロニーの割合を表す。
【0047】
セレクションを行っていないライブラリでは、aTc添加培地で蛍光を示すコロニーが含まれなかった。つまり、 TetRのリガンド(aTc)の存在下でも、AHLのない条件ではLuxRの機能を示すものはほとんど含まれていなかった。しかし、Kanamycinを加えた、すなわちセレクション操作を行ったBatchesには、高い蛍光を示すコロニーが見出された。
【0048】
(機能選抜2)
上記結果は、10%未満であったため、望ましい変異体の更なる濃縮を行なった。一度濃縮したライブラリを回収し、再びkanamycin(120 μg/mL)の存在下培養し、AHLの不在下でもPluxを亢進するクローンを濃縮した。今度は、71%がaTCプレートで蛍光をしめした。
ポジティブセレクションを2回行うことによって、aTcを含む固体培地上で蛍光を示すコロニーの割合は十分高まった。この細胞混合液を回収し、さらにプラスミドを回収した。
【0049】
(5)機能分布解析:あらかじめレポータプラスミドを導入した大腸菌株BW25113を、上で得たプラスミド(混合)溶液で形質転換し、固体培地上に植菌した。それぞれの形質転換体群から、コロニーを無作為に44個ずつ選択し、100 ng/mL aTcを含む培地・aTcを含まないLB培地に分けて培養した。37℃で12h培養したのち、それぞれの細胞密度あたりの蛍光強度を調べた(
図3)。
図3の結果により、濃縮された殆どの変異体は、親(黒点)よりもX、 Y値ともに右側にプロットされた。つまり、AHL不在下でもはっきりとした蛍光を示したものが濃縮されている。しかし殆どはaTcあり(On値、 Y-axis)、aTcなし(Off値、X-axis)での出力値に大きな差がみられなかった。aTc依存性が優れた変異体であるプラスミド(
図3の矢印)をLuxRv3(配列番号78)として回収した。
【0050】
(6)遺伝型:本実施例で得たLuxRv3の遺伝型を調べた(参照:
図4)。LuxRv3は、LuxRv1及びLuxRv2と比較して、新たにL42S-N93K-N99D-N100Sのアミノ酸変異が追加されていた。なお、
LuxR N86K-C245W(LuxRv1:LuxR(配列番号:11)の変異)は、AHLのない条件でも高い漏出発現がある。つまりそれ単独ではsuper activatorとして振る舞う。
LuxR N86K-C245W-T33A-S57T(LuxRv2)は複数の転写因子が融合された状態でも高い転写亢進活性を示す。
【0051】
(LuxRv3の機能の確認)
LuxRv3の機能の確認のために、TetR-Lv3のaTcおよびAHLに対する用量応答性を評価した(参照:
図5)。詳しくは、Plux-sfGFP-HSVtk-aph(参照:WO2019182156)を導入した大腸菌株BW25113を、各種TetR-LuxRの発現プラスミドによって形質転換した。単離されたコロニーを無作為に3個ずつ選択し、さまざまな濃度のaTcまたはAHLを含む培地で液体培養したときの細胞密度あたりの蛍光強度を調べた(
図6)。LuxRの代わりにLacZのαペプチドをコードしたプラスミドも使用して、同様に実験を行った。
【0052】
(LuxRv3の機能の確認結果)
TetR-LuxRv1およびTetR-LuxRv2は、AHLのないところではaTcに対して有意な応答を示さなかったが(
図6a)、AHLに対しては添加濃度が高くなるにつれて高い蛍光強度を示した(
図6b)。LuxRv1はAHL不在でも出力するスーパーアクチベータタイプとして報告されているが、高濃度のAHL添加時にしか、転写亢進活性が高まらなかった。LuxRv1はTetRと融合されたことによってその特徴は失われたと考えられる。
TetR-LuxRv2は、AHL不在下ではほとんど出力しないが、10 μM AHL添加条件ではLuxRv1よりもはるかに高い蛍光強度を示した。LuxRv2に導入された2つのアミノ酸変異(T33A、 S57T)がfusion toleranceを高め、AHL結合時には高い転写亢進活性を示せるようになったと考えられる。
TetR-LuxRv3は、どちらのリガンドを添加しなくても転写亢進活性を示した。すなわち、TetRの融合によって失われた「スーパーアクチベータ」としての性質を回復している。一方、100 ng/mL aTc添加で2.4倍、10 μM AHL添加で2.2倍、転写亢進活性は高まった。AHLだけでなくaTc結合によっても転写亢進活性を高められることから、センサタンパク質の実効濃度変動が転写亢進レベルに反映されやすい程度に安定性が低下した。LuxRv3に追加された4個のアミノ酸変異は、いずれも、LuxRリガンドであるAHL結合サイトの近傍に位置していた。これはAHLに対する親和性を下げている可能性がある。その変曲点(AHL応答感度)は、3190 nMであり、親(TetR-LuxRv2)のそれ(317 nM)よりも10倍高い値であった。また、AHL添加によるシグナル強度も、低い段階で上がり止まった。
【0053】
(安定性変化の確認)
LuxRv3に新たに追加された4個のアミノ酸変異による安定性変化をFoldX 13によって計算した。これらの変異導入によって、LuxRv2よりも3.4 kcal/mol不安定化することが予測された(
図7)。LuxRv3は、LuxRv1やLuxRv2と比較して、fusion toleranceの向上および適度に不安定な状態にあると考えられる。したがって、代謝物センサを作製する際に、酵素を融合するだけである程度のon/offが見られると考えられる。
よって、LuxRv3は、AHL等のリガンドLを添加しなくても転写亢進活性を示すアクチュエーターAであることを確認した。
【実施例2】
【0054】
(モルフィナンアルカロイドセンサの作製)
二次代謝産物であるモルフィナン型アルカロイドには、鎮痛薬(モルヒネ)や咳鎮薬(コデイン)など高価値な医薬品になる化合物が含まれている。これらは化学構造が極めて複雑であり、その化学合成は困難である。ゆえに植物からの成分抽出という方法で供給されている。また、テバインなど、その中間体の中には、化学修飾によって様々な生理活性物質に導ける有価アルカロイドが存在するが、これらはケシなどからの抽出物にはほとんど含まれていないのが現状である。
モルヒネ生合成経路(
図8)には、異種発現が困難なものもおおく、多くの酵素工学、代謝工学的努力が必要とされている。中間体の分析もHPLCなどスループットの低いものに限られるため、ライブラリベースの育種が困難なこともあり、多大な努力にもかかわらず、効率的な生合成経路の確立には至ってない。
【0055】
一般に、二次代謝物(天然物)の生合成経路の中間体の検出は困難である。構造の複雑さ、不安定さに加え、その希少な構造に対する受容体の不在であることが、ATPや中央代謝経路の枢要な代謝物(自然界に天然の受容体が知られる)にくらべて、それらへのバイオセンサを用いた検出系の開発を難しくしている。
しかし、二次代謝中間体とて、それらの受容体が不在であっても、代謝物である以上、それらを基質とする酵素は存在する。これらは、その触媒作用に先立ち、それらの代謝中間体を特異的に結合する。これら生合成酵素がセンサ素子(受容体)として使えるならば、それらにとって、生合成中間体は、特異的な認識標的となる。
センサを構成する受容体タンパク質は、標的との結合に伴って構造変化を起こし、その構造変化が読み出される仕組みを持つ。酵素の中には基質結合によって大きく構造変化するものも存在するが、多くは構造変化をほとんどしないか、あるいは、構造変化をしたとしても、それを読み出すことは困難である。これが、モルフィナンアルカロイドなどのセンサ開発を困難にしてきた。
本実施例では、構造変化ではなく、「安定化」という、基質結合によって必ず引き起こされる変化を「読み出す」形式をつかって、生合成中間体の複数のセンサを作製した。特に、モルフィナンアルカロイドとその生合成中間体のセンサを開発するために、以下の作業を実施した。
(1)モルフィナンアルカロイドの生合成酵素群と転写因子タンパク質LuxRとの融合化
(2)得られた融合タンパク質の進化工学(ランダム変異と機能選抜)
上記の作業によって得られたモルヒネ生合成の中間体(レチクリン、テバイン、コデイン)に対するセンサを制作した。
【0056】
(プロトタイプセンサの構築)
-1 センサユニットとして、既報(WO2019182156)に従い、Plux-GFPをコードするプラスミド(参照:
図9)を使用した。アクチベータ型転写因子LuxRの作用によって、このプラスミドからsfGFPが発現し、細胞は蛍光を示すようになった。
-2 モルヒネ生合成酵素11種類(表2)を選択した。
-3 2種類のLuxR変異体(v2、v3)とを遺伝子レベルでin-frame融合し、合計22種の「酵素-LuxR融合体」を発現するプラスミドを作製した。そのひとつ、CODM-LuxR(v3)発現プラスミドを
図11に示す。
上記の作製手順は
図10に示す。
【0057】
-1 PCRによって表2に示すそれぞれの「酵素側」断片(配列3~配列13)に制限酵素BamHI、 SpeIサイトを付した。ここで使ったプライマーセットを表2に示す。
-2 得られたDNA断片を制限酵素BamHI、SpeIによって処理し、カラム精製した(inserts)。
-3 pHRA-idi-LuxR(WO2019182156)のidi部分を制限酵素BamHI、 SpeI によって切り出し、カラム精製した(vector)。
-4 上記の(-2)、(-3)で作製したInsert/ Vectorを混合し、T4DNA Ligaseを加えてライゲーションした。得られたライゲーション産物を、大腸菌株XL10-Gold(KanR)に導入し、コロニー形成させてクローン化し、それらのコロニーからプラスミドを回収した。
-5 いずれも、シーケンス解析して変異がないことを確認した。
【0058】
【表2】
作製されたモルヒナン生合成酵素-LuxR融合タンパク質。
※1:STORR(全長901アミノ酸)のうち、CYP80Y2をコードする部分のN末端部分(1-32 aa)を除去した33-580 aa部分を用いた。
※2:SalS(全長505アミノ酸)のうち、N末端部分(1-90 aa)を除去した91-1515 aa部分を用いた。
【0059】
【0060】
(センサとしての機能評価)
上記で作成した各センサの機能の(1)AHL(アシルホモセリンラクトン)への応答性、(2)モルヒネ/コデイン応答性、及び(3)レチクリン応答性を調べた。
【0061】
(AHL応答性(transfer curve))
最初に、生合成酵素との融合によって、LuxRのレポーターとしての(Plux亢進機能)を失っていないことを確認する必要がある。作製した各酵素-LuxR融合体の発現プラスミドを、Plux-sfGFP(参照:WO2019182156)とともに大腸菌株BW25113に導入した。それぞれの形質転換体を、LB培地(0.5 mL、100 μg/mL Amp、 30 μg/mL Cm)にて一晩(12時間)震盪培養した(プレカルチャー)。このプレカルチャーから100倍希釈されるように、96 deep well plate内のフレッシュな0.5 mLの培地(0-10 μMのAHL)にイノキュレートし、37℃で12時間震盪培養した。得られた菌液をプレートリーダー(FilterMax F5、 Molecular Devices)によって、OD595および蛍光(Ex:485 nm /Em:535 nm フィルター構成)を測定した(
図12)。
LuxRは、MorA以外のどの酵素と融合させても、LuxP亢進活性を保持していた。つまり、培地に添加したAHLの濃度が高まるにつれ、GFP蛍光が高くなった。ただし、その応答曲線のかたちは、それぞれがユニークなものであった。多くのモチーフにおいて、LuxRv2は、LuxRv3よりもAHL依存性が大きく、その応答感度も高かった。LuxRv3シリーズは、AHLへの応答感度がLuxRv2よりも一桁ほど低いが、AHL不在でもGFP蛍光がある(LuxR機能が見えている)点で優れていた。
【0062】
(コデイン・モルヒネセンサの確認)
各形質転換体を、LB培地(0.5 mL、100 μg/mL Amp、 30 μg/mL Cm)にて一晩(12時間)震盪培養した(プレカルチャー)。このプレカルチャーから100倍希釈されるように、96 deep well plate内のフレッシュな0.5 mLの培地(0~1 mMのモルヒネ、あるいはコデインを含む)にイノキュレートし、37℃で12時間震盪培養した。このとき、培地に添加するAHL濃度は、1 μM or 0 (Ver-3)、 0.1 μM(Ver-2)に固定とした。
得られた菌液をプレートリーダー(FilterMax F5、 Molecular Devices)によって、OD595および蛍光(Ex:485 nm /Em:535 nm フィルター構成)を測定した(
図13、
図14)。
図13のコデイン応答に関し、SalAT、THS、T6ODM、CODMの4つのLuxR融合体が応答していることを確認した。すなわち、SalAT-LuxRv2(又はLuxRv3)、THS-LuxRv2(又はLuxRv3)、T6ODM-LuxRv2(又はLuxRv3)及びCODM-LuxRv2(又はLuxRv3)はコデインセンサであることを確認した。
図14のモルヒネ応答に関し、SalAT、CODM、SalR及びCORのLuxR融合体が応答していることを確認した。すなわち、SalR-LuxRv2(又はLuxRv3)及びCOR -LuxRv2(又はLuxRv3)はモルヒネセンサであることを確認した。
なお、各酵素とLuxRv3(又はLuxRv2)の間にはTS配列が、各酵素の開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
【0063】
(レチクリンセンサの確認)
モルヒネ生合成の重要な中間体である、S-レチクリンへの応答を調べた。各形質転換体を、LB培地(0.5 mL、100 μg/mL Amp、 30 μg/mL Cm)にて一晩(12時間)震盪培養した(プレカルチャー)。このプレカルチャーから100倍希釈されるように、96 deep well plate内のフレッシュな0.5 mLの培地(0~50 μMの(S)-reticuline)にイノキュレートし、37℃で12時間震盪培養した。
得られた菌液をプレートリーダー(FilterMax F5、 Molecular Devices)によって、OD595および蛍光(Ex:485 nm /Em:535 nm フィルター構成)を測定した(
図15)。
図15のレチクリン応答に関し、T6ODM及びCORのLuxR融合体が応答していることを確認した。すなわち、T6ODM-LuxRv2(又はLuxRv3)及びCOR -LuxRv2(又はLuxRv3)はレチクリンセンサであることを確認した。
なお、各酵素とLuxRv3(又はLuxRv2)の間にはTS配列が、各酵素の開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
【0064】
(進化工学によるレクチリンセンサ)
良好な(S)-retuiculine応答性を示したCOR-LuxRv3(COR:コデイノンをコデインに還元する酵素[UniPlot: Q9SQ68])にランダム変異を導入してライブラリ化し、より良いレチクリンセンサ特性を持つ変異体を取得した。
ライブラリは、
図16の記載を基にして、以下のように作製した。
-1 pHRA-PN25-his-optCOR-LuxRv3を鋳型とし、ベクター部分をKOD plusを用いたFidelity PCRによって増幅した。その反応条件は以下のとおりであった:
テンプレートplasmid 量:5 ng/ 反応体積50 μL
PCRバッファTOYOBO 10×KOD plus Buffer
dNTP濃度2 mM each、Mg濃度25 mM
KOD plus Polymerase、1 units
プライマーセット(ベクター側)
5’-TTTTACTAGTGAAAACATAAATGCCGACGACACA -3’(配列番号53)
5’-TTTTGGATCCGTGGTGATGGTGATG -3’ ’(配列番号54)
プライマーセット(インサート側)
5’-TTTTGGTCTCtCCAGGCATCAAATAAAACGAAAGG -3’ (配列番号55)
5’-CACCAGCGTTTCTGGGTGAG -3’ (配列番号56)
サーマルサイクル:94℃ (2min)→{94℃(15 sec)/ 52℃(30sec)/68℃ (3.5min)}x25 →68℃ (4min)
PCR産物は、どちらもDpnI処理をおこなった後にゲル抽出によって精製した。
-2 上記「-1」で得たPCR断片(COR-LuxR、2271 base pairs)を鋳型とし、COR-LuxRv3部分の遺伝子をepPCR法によって増幅した。その反応条件は以下のとおりであった:
テンプレートplasmid 量:5 ng/ 反応体積50 μL
PCRバッファNEB 10×Thermo Pol Reaction Buffer
dNTP濃度2 mM each、Mg濃度25 mM、Mn濃度10および50 μM
NEB Taq DNA Polymerase、1.25 units
最終的な収量5000 ng、増幅率1000倍。
プライマー:
5’-TTTTGGTCTCtCCAGGCATCAAATAAAACGAAAGG -3’ (配列番号57)
5’-CACCAGCGTTTCTGGGTGAG -3’ (配列番号58)
-3 精製したPCR産物を、VectorはBamHI-HF、HindIII-HF、およびrSAPを用いて、InsertはBamHI-HFおよびHindIII-HFを用いてdigestion反応を3時間37℃、熱失活30分80℃でおこない、精製した。これらを以下の条件でLigationした。
vector:100 ng、insert:217 ng、反応体積10 μL、
反応時間16時間、反応温度16℃、NEB T4 DNA Ligase、200 units
-4 得られたLigation産物で大腸菌BW25113を形質転換し、その形質転換液をLB液体培地60 mL中に植菌し300 mLバッフル付き三角フラスコで37℃12h培養し、プラスミドライブラリを回収した。ライブラリサイズは以下のようであった。
[COR-LuxRv3] 10 :2.8×10
4
[COR-LuxRv3] 50 :5.4×10
4
-5 作製したライブラリの(S)-reticuline 100 μM添加条件下・非添加条件下での群の動きを確認した(
図17)。
レポータ遺伝子(pPlux-sfgfp)を導入した大腸菌株BW25113を[COR-LuxR]
10、 [COR-LuxR]
50で形質転換し、LB固体培地に植菌してコロニーを形成させた。また、遠沈管中にLB液体培地10 mL入れ、そこに形質転換液を1/100量植菌し、37℃で一晩培養した(プレ培養)。プレ培養液をLB液体培地500 μLに1/100量植菌し、37℃で12h培養したのち、FCM (FCS:Trig log3 320V、 SSC:Trig log3 230V、 B1:Trig log5 490V、 Trigger 2.00) によって各(S)-reticuline濃度におけるON-selection後の蛍光強度の分布を測定した。
ランダムする前では、わずかにreticuline応答しているように見える。そしてその「差」は、ライブラリ化(ランダム化)したことによって拡大した。On時の蛍光分布がわずかに低下気味であるが、Off時のそれは低シグナル側に大きくシフトしている。この変化は、変異体の多く(あるいは全て)がS-reticulineに有意な強さで結合しており、ランダム変異の導入によって、reticuline不在でのfusion proteinsの安定性が下方に広く再分布した。
【0065】
(進化工学によるレクチリンセンサの取得)
レポータ遺伝子(pPlux-sfgfp)を導入した大腸菌株BW25113を[COR-LuxR]
10、[COR-LuxR]
50で形質転換し、(S)-レチクリン100 μM入りのLB固体培地に植菌してコロニーを形成させた。そこで高い蛍光出力を示したものを91個選び、LB液体培地500 μLにて37℃で12h振盪培養して、プレ培養液を得た。
該プレ培養液を、レチクリン(100 μM)を含むLB培地、ふくまないLB培地(96 deep well Plate、 500 μL)に5μLずつ植え継ぎ、蛍光強度の分布を測定した。レチクリンを含む培地のほうがレチクリンを含まない培地より細胞あたりの蛍光値が有意に高いと判断されたクローンを6つ選び、プラスミドを回収した。
これらを再形質転換したところ、2つ(mut-5、 mut6)が、レチクリン有無による蛍光値の違いを再現した(
図18)。不在時に漏出発現が認められるものの、明らかなレチクリン応答が確認できた。
さらに、2つの変異体のシーケンス解析を行った結果、mut5は、酵素側にアミノ酸変異が2箇所(S11G、 F276Y)導入されており、mut6は酵素側にアミノ酸変異が2箇所(S11G、 F276Y)、LuxRv3に1箇所(K16R)導入されていた(
図19)。
以上により、mut5(S11G、 F276Y)-LuxRv3及びmut6(S11G、 F276Y)-LuxRv3(K16R)はレチクリンセンサであることを確認した。
なお、mut5又はmut6とLuxRv3の間にはTS配列が、mut5又はmut6の開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
【0066】
(進化工学によるデバイン・コデインセンサの作製)
良好なコデイン応答性を示したCODM-LuxRv3は、モルヒネ合成のキー物質であるテバインをも基質とする酵素である。このCODM-LuxRv3のランダム変異ライブラリの中から、より良い応答性を持つ変異体の取得を試みた。
【0067】
10又は50 μMのMn2+を用いたEP-PCRによりCODM-LuxRの全域にランダムな遺伝子変異を導入しながら増幅率を103倍として増幅した。得られたPCR産物をベクターと連結し、大腸菌株BW25113内で複製し、プラスミドライブラリを回収した。
【0068】
図20のワークフローに従い、レポータプラスミド(pPlux-sfgfp)を有した大腸菌株BW25113を、CODM-LuxRライブラリで形質転換した。pCODM-LuxRライブラリを様々なコデイン濃度を含むLB固体培地上に植菌してコロニーを形成させた。形成したコロニーの中から, 光っているコロニーをピックし, LB(Amp/Cm)液体培地500 μL中で37℃12hプレ培養をおこなった。プレ培養液をコデイン 0/100 μM含むLB液体培地中に1/100量植菌して、37℃12h培養した。本培養液を、生理食塩水を用いて10倍希釈し、FilterMax F5を用いて細胞密度(OD595)および緑色蛍光強度(Ex:485 nm /Em:535 nm)を測定した。
【0069】
(変異体の特異性解析)
形質転換体コロニーを無作為に3つ選択し、LB液体培地500 μLで37℃12時間振盪培養した(プレ培養)。プレ培養液をLB液体培地に1/100量植菌し、AHL無添加条件で、 様々な濃度のテバイン、コデイン、(S)-レチクリン、およびモルヒネを含む液体培地で、37℃12時間振盪培養した(本培養)。本培養液を、生理食塩水を用いて10倍希釈し、FilterMax F5を用いて細胞密度(OD
595)および緑色蛍光強度(Ex:485 nm/Em:535 nm)を測定した。
図21及び22の結果より、酵素であるCODM側に2箇所アミノ酸変異(Q121LおよびR346H)が導入されたCODM(Q121LおよびR346H)-LuxRv3変異体は、デバイン・コデインセンサになることを確認した。
なお、CODM(Q121LおよびR346H)とLuxRv3の間にはTS配列が、CODM(Q121LおよびR346H)の開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
【実施例3】
【0070】
(トリプトファンセンサとチロシンセンサの作製)
多くの微生物が、トリプトファンやチロシンに応答する転写因子を保有しており、芳香族アミノ酸の生合成経路の精密かつダイナミックな調節を実現している。たとえば大腸菌は、TyrR、 TrpRというリプレッサを保有しており、アミノ酸を誘導剤とする遺伝子発現系などに古くから使われてきた。TyrR、TrpRともに、いわゆる「コリプレッサ型」の転写調節タンパク質である。つまり、リガンドであるチロシン、トリプトファンと結合することによって、TyrO、 TrpO(それぞれの結合サイト)への親和性を高める仕組みを持つ。そのため、培地へのトリプトファンやチロシンの添加によって、TyrP、 TrpP下流の遺伝子発現は、誘導ではなく、抑制を受けることになる(ON→OFF型の応答)。このため、これらを遺伝子発現の誘導系として使うためには、培地中にTrpR、TyrRのアンタゴニスト(インドール酢酸など)を添加する方式などが開発されてきた。
一方で、本発明者らが報告した方法(参照:WO2019182156)では、リガンド結合による安定性を感知する形式のセンサを作製した。つまり、アゴニストもアンタゴニストもなく、十分な安定性(親和性)をもって結合する分子には、OFF→ON応答させることができた。本実施例では、トリプトファン、チロシンなどによってOFF→ON型の応答をするセンサを以下の方法で作製した。
【0071】
(TrpR-LuxR)
Escherichia coli由来のTrpR(EG11029:108アミノ酸、計333-bases:配列番号59)の遺伝子を大腸菌株MG1655のゲノムDNAからPCR増幅した(配列番号60、61)。これを、制限酵素BamHI、SpeIによって処理し、pHRA-TetR-LuxRのtetR部分(同じくBamHI、 SpeIによって処理したもの)とライゲーションし、pHRA-TrpR-LuxR(
図23:配列番号62)を得た。このコンストラクトでは、TrpR-LuxR(全長367アミノ酸)がN25プロモータの制御下で発現した(RBSスコア
4は9537、設定)。
配列番号60:TTTTGGATCCGCCCAACAATCACCCTATTCAG
配列番号61:TTTTACTAGTATCGCTTTTCAGCAACACCTCTTC
TyrR-LuxR:Escherichia coli由来のTyrR(EG11042:513アミノ酸、計1548-bases:配列番号63)の遺伝子を大腸菌株MG1655のゲノムDNAからPCR増幅した(配列番号64、65)。これを、制限酵素BamHI、 SpeIによって処理し、pHRA-TetR-LuxRのTetR部分(同じくBamHI、 SpeIによって処理したもの)とライゲーションし、pHRA-TyrR-LuxR(
図24、配列番号66)を得た。このコンストラクトでは、TyrR-LuxR(全長772アミノ酸)がN25プロモータの制御下で発現した(RBSスコアは13670、設定)。
配列番号64:TTTTGGATCCCGTCTGGAAGTCTTTTGTGAAG
配列番号65:TTTTACTAGTCTCTTCGTTCTTCTTCTGACTC
【0072】
(機能解析(transfer curve))
TrpR-LuxRv3、TyrR-LuxRv3をPlux-GFP(WO2019182156)とともに大腸菌株BW25113に導入した。形質転換体を、それぞれ、LB培地(0.5 mL、100 μg/mL Amp、 30 μg/mL Cm)にて一晩(12時間)震盪培養した(プレカルチャー)。このプレカルチャーから100倍希釈されるように、96 deep well plate内のフレッシュな0.5mLの培地(0-10
3 μMのL-トリプトファンあるいはL-チロシンを含む)にイノキュレートし、37℃で12時間震盪培養した。得られた菌液をプレートリーダー(FilterMax F5、Molecular Devices)によって、OD595および蛍光(485 nm/535 nmフィルタ構成)を測定した(
図25)。
図25の結果により、チロシンセンサ、トリプトファンセンサともに、培地に添加したトリプトファン濃度が高まるにつれ、より高い蛍光シグナルを発したことにより、Off→ON型のセンサを開発することができた。センサのEC50値はそれぞれ61 μM (TyrR-LuxR)、 32 μM (TrpR-LuxR)であり、おおむね、各々に報告されているKd値(24?330 μM (TyrR)、 16 μM (TrpR) を反映したものであった。
以上により、TrpR-LuxRv3、TyrR-LuxR v3は、従来とは異なり、トリプトファン濃度の増加を検出可能なトリプトファンセンサであることを確認した。
なお、TrpR又はTyrRとLuxRv3の間にはTS配列が、TrpR又はTyrRの開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
【0073】
(TyrBを使用したチロシンセンサの作製)
本実施例のバイオセンサは、リガンド(小分子結合)による安定化を読み出す方式であるため、その分子認識素子として、酵素も採用できる利点がある。そこで、チロシン生合成に関わるTyrB(2.6.1.57:チロシンのアミノ基をケトグルタル酸へ転移する酵素)をLuxRと結合したチロシンセンサを作製した。
【0074】
(TyrB-LuxR)
Escherichia coli由来のTyrB(EG11040:397アミノ酸、計1200-bases:配列番号67)の遺伝子を大腸菌株MG1655のゲノムDNAからPCR増幅した(配列番号68、69)。これを、制限酵素BamHI、SpeIによって処理し、pHRA-TetR-LuxRのTetR部分(同じくBamHI、SpeIによって処理したもの)とライゲーションし、pHRA-TyrB-LuxR(配列番号70、
図26)を得た。このコンストラクトでは、TyrB-LuxR(全長656アミノ酸)がN25プロモータの制御下で発現した(RBSスコアは10916、設定)。
配列番号68:TAAAGGATCCTTTCAAAAAGTTGACGCCTACGC
配列番号69:TTTTACTAGTCATCACCGCAGCAAACGCC
【0075】
(機能解析(flow cytometer解析))
このセンサ(TyrB-LuxRv3)をPlux-GFP(参照:WO2019182156)とともに大腸菌株BW25113に導入した。形質転換体を、それぞれ、LB培地(0.5 mL、100 μg/mL Amp、 30 μg/mL Cm)にて一晩(12時間)震盪培養した(プレカルチャー)。このプレカルチャーから細胞100倍希釈されるように、を96 deep well plate内のフレッシュな0.5 mLの培地(0/ 500 μMのL-チロシンを含む)にイノキュレートし、37℃で12時間震盪培養し、フローサイトメータ解析した(FSC、320 V(trigger、2.00);SSC、230 V(secondary trigger、2.00);B1、400 V)(
図27)。
図27の結果により、チロシンセンサ、トリプトファンセンサともに、培地に添加したチロシン濃度が高まるにつれ、より高い蛍光シグナルを発したことにより、Off→ON型のセンサを開発することができた。センサのEC50値は115 μMであり、おおむね、報告されているKd値(42?625 μM)Kd値を反映したものであった。
以上により、TyrB-LuxRv3は、従来とは異なり、チロシン濃度の増加を検出可能なチロシンセンサであることを確認した。
なお、TyrBとLuxRv3の間にはTS配列が、TyrBの開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
【実施例4】
【0076】
(イソプレノイド前駆体センサの作製)
IPPおよびDMAPPは、大腸菌ではMEP経路、酵母ではMEV経路と呼ばれる代謝経路の最終生合成産物であり、膜合成のほか、イソプレノイドを合成するためのビルディングブロックとしても使用される。本実施例では、IDI、DMAPP、そして大腸菌MEP経路の律速酵素といわれるDXSの生産物DOXPを検出するために、これらを基質とする酵素(IDI、 DXR)をLuxRと融合したセンサを作製した。
【0077】
(IDI-LuxRの作製)
IDI(isopentenyl-diphosphate isomerase:配列番号76)は、IPP、isopentenyl pyrophosphate、およびDMAPP、dimethylallyl pyrophosphate(8)を可逆的に異性化することが知られている。LuxRv3変異体と遺伝的に融合し、定常的に発現するプラスミドを構築した(
図28、配列番号71)。
(DXR-LuxRの作製)
DXR(1-deoxy-D-xylulose 5-phosphate reductoisomerase、ispC)は、MEP経路の2番目に位置する酵素であり、NADPHを補酵素としてDOXP(1-deoxy-D-xylulose 5-phosphate)からMEP(2-methyl-D-erythritol 4-phosphate)を合成する。LuxRv3変異体と遺伝的に融合し、定常的に発現するプラスミドを構築した(
図29、配列番号72)。
(基質(IPP)供給プラスミドの作製)
酵母内在の遺伝子群mk、pmk、およびpmdを大腸菌内で発現させることによって、培地にMVA、mevalonate、を添加すると細胞内のIPP蓄積レベルが高まることがわかっている。そこでmk、pmk、およびpmd遺伝子を定常的に発現し、かつ発現量の内標準として青色蛍光タンパク質mTagBFPを定常発現するプラスミドを構築した(
図29、配列番号73)。
(基質(DOXP)供給プラスミドの作製)
MEP経路の第1段階を担うDXS(1-deoxy-D-xylulose-5-phosphate synthase)を大腸菌内で過剰発現させるとイソプレノイドの合成量が増えることから、DXRの基質となるDOXP量はDXSの追加発現によって細胞内で有意に増加させられると考えた。細胞内のDOXP量を高めるために、dxs遺伝子を定常的に発現するプラスミド(
図30、配列番号74)を構築した。
【0078】
(IDI-LuxR、 DXR-LuxRの基質レベル応答)
大腸菌内におけるこれらの代謝物の濃度変動を検出するために、上記で作製した2つのベクターを、Plux-sfGFPプラスミドとともに大腸菌へ導入し、細胞内の標的代謝物濃度を変化させたときの蛍光強度を、フローサイトメータを用いて調べた(
図32)。
図32の結果により、IDI-LuxRv3は、メバロン酸の添加によって、やや高い蛍を示す細胞が含まれたが、培養液全体の蛍光強度は弱く、センサとしての振る舞いは観察されなかった。DXR-LuxRv3も同様に、DXSの追加発現によってDOXP量を増やしても、センサ挙動は確認されなかった。
【0079】
(IDI-LuxRの進化工学(第一世代))
IPP/DMAPPセンサの性能を高めるために、idi-luxRv3の進化工学を実施した。詳しくは、遺伝子全域にランダム変異を導入したライブラリを作製した(参照:下記表4)。
【0080】
【表4】
IDI-Lv3の進化工学で作製したライブラリ。
【0081】
作製したライブラリの中からIPPに応答する変異体を単離した。具体的には、あらかじめレポータプラスミドおよびIPP供給プラスミドを有した大腸菌株BW25113を、作製したプラスミドライブラリで形質転換し、480 μMメバロン酸を含む固体培地上に植菌してコロニーを形成させた。37oCで12時間培養した時点では、有意な蛍光を示すコロニーは含まれなかったため、追加で4oCで12時間静置培養した時点でスクリーニングを行なった。このとき、蛍光を示したコロニーは3,000個中1,500個であり、そのうち45個は親よりも強い蛍光を示した。
これら45個のコロニーと、1,500個の光るコロニーの中から135個を無作為に選択し(合計180クローン)、480 μMメバロン酸を含む培地と含まない培地に分けて培養したときの蛍光強度を評価した。
スクリーニングした変異体のなかで、ひとつの変異体(G1P2D4)は高濃度のメバロン酸を添加したときに高い蛍光を示した。4800 μMメバロン酸を含む培地と含まない培地で培養したときの蛍光強度の比は、IDI-Lv3が2.8倍であるのに対し、G1P2D4は9.5倍であった。
この変異体のDNA配列を解析したところ、IDI領域にL19P変異、LuxR領域にV162I変異が導入されていた(参照:下記表5)。
G1P2D4-LuxRv3(V162I)変異体は、メバロン酸センサになることを確認した。
なお、G1P2D4とLuxRv3(V162I)の間にはTS配列が、G1P2D4の開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
さらに、G1P2D4変異体に導入された変異の効果を調べるために、 IDI-LuxRv3のLuxRドメインに、V162I変異を導入したIDI-LuxRv3V162Iを作製した。
【0082】
【表5】
IDI-Lv3の進化工学(第1位世代)で獲得した変異体の遺伝型。
a)LuxRに導入された塩基変異およびアミノ酸変異は、LuxR以降で番号を振り直した。b)すべての変異体は、上に挙げた新たな変異に加え、親であるIDI-LuxRv3のLuxR側に導入されていた9つの変異(A97G(T33A)、T125C(L42S)、T169A(S57T)、C258A(N86K)、T279A(N93K)、A295G(N99D)、A299G(N100S)、T624C(G208G)、およびC735G(C245W))を保持している。
【0083】
IDI-LuxRLv3、IDI-LuxRLv3V162I、およびIDI-LuxRLv3{G1P2D4}のメバロン酸に対する用量応答性を並列に調べた結果を
図33に示す。IDI-Lv3にV162I変異が足されることによって、全体的に転写亢進活性は高まり、最大出力は向上したものの緊縮性は低下した。このIDI-Lv3V162IのIDIドメインにL19P変異が導入されたG1P2D4変異体は、最大出力はIDI-Lv3V162Iと同程度でありながら、緊縮性が向上した。
これにより、IDI-LuxRLv3、IDI-LuxRLv3V162I、およびIDI-LuxRLv3{G1P2D4}はメバロン酸センサとなることを確認した。
なお、IDIと各LuxRの間にはTS配列が、IDIの開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
また、上記結果により、LuxRに導入されたV162I変異はfusion toleranceを高め、IDIに導入されたL19Pはセンサタンパク質の安定性を適度に低下させたものと考えられる。
【0084】
(IDI-LuxRの進化工学(第2世代))
第1世代よりも高ダイナミックレンジのIPP/DMAPPセンサを作製するために、IDI-LuxR G1P2D4を親としてIDI領域のみにランダム変異を導入した第二世代のライブラリを作製した。高感度応答する変異体を探索しやすくするために、480 μMメバロン酸添加条件で培養し、さまざまな濃度のカナマイシン添加によってポジティブスクリーニングを行った。カナマイシン濃度30 μg/mL条件で3時間培養して濃縮したクローン株を、メバロン酸を含まない固体培地に植菌し、700個中600個の暗いコロニーの中から88個の機能分布を評価した。
スクリーニングの結果、1つの興味深い変異体を得た(参照:下記表6)。G2P3D9変異体は親であるG1P2D4と最大出力は同程度でありながらも緊縮性が高まることによって、ダイナミックレンジが向上した(
図34)。
これにより、IDI-LuxRLv3{G2P3D9}はメバロン酸センサとなることを確認した。なお、IDIと各LuxRの間にはTS配列が、IDIの開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
加えて、この変異体にはIDI領域にD28H変異が導入されていた。センサの緊縮性が向上したことから、D28Hはセンサタンパク質の構造安定性を低下させつつも、IPP/DMAPPとの結合性を失わせない変異であると考えられる。
【0085】
【表6】
IDI-Lv3の進化工学(第2世代)で獲得した変異体の遺伝型。
a)変異体は、上に挙げた新たな変異に加え、LuxRv3のLuxR側に導入されていた9つの変異(A97G(T33A)、T125C(L42S)、T169A(S57T)、C258A(N86K)、T279A(N93K)、A295G(N99D)、A299G(N100S)、T624C(G208G)、およびC735G(C245W))を保持している。
【0086】
(IDI-LuxRの進化工学(第3世代))
第2世代よりも高ダイナミックレンジのIPP/DMAPPセンサを作製するために、IDI-LuxR G2P3D9を親としてIDI領域のみにランダム変異を導入した第三世代のライブラリを作製した。高感度応答する変異体を探索しやすくするために、4800 μMメバロン酸添加条件で培養し、さまざまな濃度のカナマイシン添加によってポジティブスクリーニングを行った。カナマイシン濃度60 μg/mL条件で6時間培養して濃縮したクローン株を、メバロン酸を含まない固体培地に植菌し、2000個中2000個の暗いコロニーの中からランダムに80個の機能分布を評価した。
スクリーニングの結果、2つの興味深い変異体を得た。G3P1D3変異体(参照:下記表7)は親であるG2P3D9と最大出力は同程度でありながらも緊縮性が高まることによって、ダイナミックレンジが向上した(
図35a)。一方、G3P1F4変異体(参照:下記表7)は親であるG2P3D9よりも最大出力が高く、かつ緊縮性が高まることによって、ダイナミックレンジが拡張した(
図35b)。また、この変異体は応答し始めるメバロン酸濃度が高濃度側に変化したことに伴い、高いHill係数を示した(親は3.7であるのに対し、変異体は5.9)。
以上により、IDI-LuxRv3{G3P1F4}及びIDI-LuxRv3{G3P1D3}はメバロン酸センサとなることを確認した。なお、IDIと各LuxRの間にはTS配列が、IDIの開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
【0087】
【表7】
IDI-Lv3の進化工学(第3世代)で獲得した変異体の遺伝型。
a)変異体は、上に挙げた新たな変異に加え、LuxRv3のLuxR側に導入されていた9つの変異(A97G(T33A)、T125C(L42S)、T169A(S57T)、C258A(N86K)、T279A(N93K)、A295G(N99D)、A299G(N100S)、T624C(G208G)、およびC735G(C245W))を保持している。
【0088】
(DXR-LuxRの進化工学)
図32の結果から明らかなように、DXR-LuxRv3のセンサ性能は極めて低いことから、fusion toleranceの低さおよびそもそもの安定性の低さが疑われる。そこで、DXR-LuxRv3のセンサ性能を高める過程で、酵素活性を高める変異体を2世代の進化工学を行った。
【0089】
(ライブラリ(第一世代)の作製)
dxr遺伝子のみにランダム変異を導入した[dxr]-luxRv3ライブラリを作製した(下記:表8)。
【0090】
【表8】
DXR-Lv3の進化工学で作製したライブラリ。
【0091】
(1世代目)
レポータプラスミド(Plux-GFP-hsvTK/aph)、基質Feederプラスミド(pDXS、
図31)を導入したBW25113株を用意し、これを、上で作製した[DXR]lib-LuxRv3ライブラリプラスミドで形質転換した。
基質結合性の改良されたものは、基質存在下で親よりも高いシグナルを与えるはずである。そこで、DXSの発現を誘導し、その条件でカナマイシン選抜(ポジティブセレクション)を行なった。こうして濃縮された変異体集団をさらに寒天培地に撒き、GFP蛍光の高いコロニーを形成する変異体を選抜した(ポジティブスクリーニング)。およそ1650コロニーの中に、親よりも高い出力を示した32個のクローンがみつかった。これらを96-deep wellで液体培養して蛍光強度を定量した。さらに、シーケンス解析を行なって、ユニークな変異体4個を得た。
(機能評価(センサ機能))
これらの変異体を発現する細胞の転写亢進活性は、親よりも4倍以上高かった(
図36)。つまり、DXSのプロダクトであるDOXPに応答するセンサを得ることができた(表9)。
すなわち、DXR{G1P1A2}-LuxRv3、DXR{G1P1B3}-LuxRv3、DXR{G1P1E2}-LuxRv3及びDXR{G1P1F2}-LuxRv3はDOXPに応答するセンサであることを確認した。なお、各DXRとLuxRv3の間にはTS配列が、各DXRの開始コドンの後ろにはHHHHHHGS配列が挿入されている。
なお、単離されたDXR-Lv3変異体集団には、いずれも多くのアミノ酸変異を有していた(表9)。これらがどのようにセンサ性能の向上に寄与したかは分からないが、DXS過剰発現時の出力を高めるアミノ酸置換およびその組み合わせが多数あることを示している。
【0092】
【0093】
(2世代目)
1世代目に単離した4個の変異体を等濃度ずつ混ぜ合わせたPlasmid混合液を鋳型とし、DXR領域のみにランダム変異を導入した2世代目ライブラリを作製した(参照:表8)。
(機能選抜)
レポータプラスミド(Plux-GFP-hsvTK/aph)、基質Feederプラスミド(pDXS)を導入したBW25113株を用意し、これを、上で作製した[DXR]lib-LuxRv3ライブラリプラスミドで形質転換した。高い蛍光強度を示す変異体を濃縮するために、DXSの発現を誘導し、カナマイシン選抜(ポジティブセレクション)を行なったのち、濃縮された変異体集団をさらに寒天培地に撒いてGFP蛍光の高いコロニーを形成する変異体を選抜した(ポジティブスクリーニング)。こうして濃縮された変異体集団をさらに寒天培地に撒き、GFP蛍光のさまざまなコロニーを選抜した(
図37)。
(機能評価(センサ機能))
コロニー中で、dxsあり・なしでの蛍光強度比が最も高い変異体はG2P1C11であることを確認した。その比は2.5倍であった(
図38)。
以上により、G2P1C11は、DOXPに応答するセンサであることを確認した。さらに、G2P1F4及びG2P1D7もDOXPに応答するセンサであることを確認した。
【0094】
【表10】
2世代目のDXR-Lv3変異体に導入された変異。
【実施例5】
【0095】
(酵素活性のスクリーニング方法)
上記実施例では、酵素EをアクチュエーターAであるLuxRと結合させて、安定性を下方調節するのみでだけで、センサを作製することができることを複数のセンサ素子E(酵素)で示した。LuxRと結合させることにより、酵素をセンサの分子認識素子とすることができるならば、代謝マップ上のほとんどの代謝物・代謝中間体に対するセンサの構築が可能である。
一方、酵素をセンサ素子Eとするセンサの出力特性は、正しく酵素の基質結合特性(そして厳密には、その後の活性化・プロダクトリリースにおける特性)を反映したものになる。すなわち、酵素をセンサの部材として使うということは、センサの出力をもってその酵素の振る舞いを「見える」化することに等しい。つまり、酵素の基質結合イベントを、センサの出力の程度によって検出していることになる。
この検出を測定すれば、(1)化合物ライブラリの中から、その酵素の基質になり得るものスクリーニング、(2)酵素の基質に対するKm (基質親和性の指標)の推定、(3)ある代謝物に対して作用する酵素活性のスクリーニング等が可能である。などが可能となる。
特に、基質供給を一定に設定すれば(細胞の中では高度にホメオスタシスが効いているため、代謝物濃度については、定常状態近似できる)、素子としてのセンサ性能を評価することによって、酵素の基質結合特性を評価できる。すなわち、反応の種類に関わらず、あらゆる酵素の活性改良を、LuxRに融合することによって実現できる(参照:
図39)。
【0096】
通常、酵素活性のスクリーニングは、細胞の中で起こっている何千もの酵素反応と区別できるかたちで、細胞に発現したその酵素反応だけを可視化する工夫が必要である。色素などの例外を除き、多くの酵素反応は、基質も生産物も不可視であるため、プロダクトの蓄積、あるいは基質の減少を選択的に可視化する新たな化学・酵素化学系を開発するか、宿主細胞の生育速度に共役させる工夫を開発する必要がある。本実施例で示すように、酵素の基質結合イベントを転写因子の活性に変換できれば、その酵素反応そのものを追跡する方法がなくとも、酵素反応の基質認識性能を、GFP蛍光、ルシフェラーゼ化学発光、LacZ色素合成などの比色・可視化ができる。さらには、融合する転写因子の制御プロモータ下に資化性遺伝子や抗生物質耐性遺伝子を置くことによって、基質認識能と宿主の増殖速度と共役させることも可能である。つまり、細胞内の任意の酵素反応に対して、基質の減少や生産物生成を直接検出する工夫なしに、その活性スクリーニングが可能となる。
【0097】
(2nd Screening)
2nd Screeningで得られた産物をボイルプレップしてプラスミドを回収し、レポータプラスミドに加えてDXS発現株(BW25113にpDXSを導入したもの)とDXSの不活性変異体発現株(BW25113にpDXSdeadを導入したもの)を、それぞれのプラスミドで形質転換した。
これらDXS-LuxRv3変異体群を、2つの評価軸でスコア化した。
[1] センサのSignal増加比
レポータプラスミド(Plux-GFP-hsvTK/aph)を保持するBW25113株に、(1) 基質Feederプラスミド(pDXS)、あるいは対照プラスミド(pDXSdead)とともに導入し、DXS過剰発現のあり/なしによる蛍光出力を測定した。
[2] 単独フレームでの細胞活性
それぞれのDXS-LuxRv3変異体から、それぞれLuxRドメインを切除し、DXR変異体だけを発現するコンストラクトとした。これらを、リコペン合成経路(CrtE、CrtB、およびCrtI)を定常発現するプラスミド1とともに大腸菌BW25113に導入し、得られた形質転換体のリコペン蓄積量を測定した。
X軸にセンサのdxs発現によって得られたシグナルゲインを、Y軸に酵素活性(リコペン蓄積量)をプロットした図を
図40に示す。
【0098】
図40の結果から明らかなように、LuxRLv3と融合した状態でのセンサ素子としての性能(dxs +/-における蛍光強度比)を、LuxRLv3を切除した単独フレームの状態で示した酵素性能(リコペン合成量)の対比を取ったところ、センサのON/OFF性能が親より有意に向上したと判定できた8個の変異体のうち(ON/OFF比>1.5倍)、野生型よりも10%以上高いリコペン合成量を示した変異体3個(G2P1C11、G2P1D7、G2P1F4)を得ることができた。特に、G2P1C11は20%の増産を示した。
これにより、本実施例の方法により、センサ素子の検出感度を指標にしたスクリーニングによって、酵素活性の高い変異体を取得することができた。
さらに、これらの変異体のDXR部分をシーケンス解析し、導入された変異を下記の表に示す。
【0099】
【表11】
a)野生型に対する変異体のfluorescence per ODの平均値比。
b)野生型に対する変異体のlycopene production の平均値比。
【0100】
本実施例の酵素活性のスクリーニング方法では、 (1) センサ素子EとアクチュエーターAを融合し、(2)センサとしての性能(センサの検出感度)をスクリーニングすることによって、実際の酵素活性(プロダクト形成や基質消費)をスクリーニングすることなく、優れた酵素活性をもつ酵素を得ることができた。
【配列表】