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特許7555094cAMPまたはcGMPの分解剤、および、その利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】cAMPまたはcGMPの分解剤、および、その利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/16 20060101AFI20240913BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALI20240913BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240913BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20240913BHJP
【FI】
C12N9/16 Z ZNA
C12Q1/44
C12Q1/68
C12N15/55
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020077450
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021170992
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-24
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】523021896
【氏名又は名称】飯田 礼子
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】飯田 礼子
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】D. LOTTAZ et al.,FEBS Letters,1992年11月30日,Vol. 313, No. 3,p.270-276,DOI: 10.1016/0014-5793(92)81207-3
【文献】Reiko IIDA et al.,Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Cell Research,2020年10月,Vol. 1867, No. 10,p.118792,DOI: 10.1016/j.bbamcr.2020.118792
【文献】Reiko IIDA et al.,Oxidative Medicine and Cellular Longevity,2018年09月17日,Vol. 2018,p.1-14,DOI: 10.1155/2018/6956414
【文献】Ilaria DALLA ROSA et al.,PLOS Genetics,2016年01月13日,Vol. 12, No. 1,p.e1005779,DOI: 10.1371/journal.pgen.1005779
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00-9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M-LPHタンパク質を含み、
上記M-LPHタンパク質は、以下の(1)~(3)の何れかである、cAMPまたはcGMPの分解剤:
(1)配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号1にて示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1にて示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
M-LPHタンパク質と、cAMPまたはcGMPと、薬剤の候補物質とを接触させた後、cAMPまたはcGMPの量αを測定する工程、および、
上記量αと、M-LPHタンパク質とcAMPまたはcGMPとを接触させた後のcAMPまたはcGMPの量βと、を比較する工程を含み、
上記M-LPHタンパク質は、以下の(1)~(3)の何れかである、M-LPHタンパク質の活性調節剤のスクリーニング方法:
(1)配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号1にて示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1にて示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現を検出する工程を含み、
上記M-LPHタンパク質は、以下の(1)~(3)の何れかであり、上記M-LPH遺伝子は、以下の(4)~(7)の何れかである、cAMPまたはcGMPに関連する疾患の検出を補助するためのデータの取得方法:
(1)配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号1にて示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1にて示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド;
(4)配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(5)配列番号1にて示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(6)配列番号1にて示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(7)配列番号2にて示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項4】
M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現を検出するための物品を備えており、
上記M-LPHタンパク質は、以下の(1)~(3)の何れかであり、上記M-LPH遺伝子は、以下の(4)~(7)の何れかである、cAMPまたはcGMPに関連する疾患の診断キットであって、上記疾患は糖尿病である、診断キット
(1)配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号1にて示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1にて示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド;
(4)配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(5)配列番号1にて示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(6)配列番号1にて示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(7)配列番号2にて示される塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、cAMPまたはcGMPの分解剤、および、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
M-LPH(Mpv17-like protein)は、主としてミトコンドリアに局在するタンパク質であって、主要なヒト器官のほとんどで発現していることが知られている。
【0003】
例えば、ヒト肝臓癌細胞においてM-LPHをノックアウトすると、複数種類の特定のタンパク質の発現量が低下し、その結果、ミトコンドリアDNAの安定性が低下することが知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Iida R et al., “Knockout of Mpv17-Like Protein (M-LPH) Gene in Human Hepatoma Cells Results in Impairment of mtDNA Integrity through Reduction of TFAM, OGG1, and LIG3 at the Protein Levels“ Oxidative Medicine and Cellular Longevity Volume 2018, Article ID 6956414
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、M-LPHをノックアウトした場合の表現型についての理解は進みつつあるが、M-LPHが有する機能(例えば、M-LPHが有する酵素活性)については不明であった。M-LPHが有する機能を解明できれば、当該機能を利用した新たな技術を提供することができる。
【0006】
本発明の一態様は、M-LPHが有する機能に基づいた、cAMPまたはcGMPの分解剤、および、その利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)は、細胞内のセカンドメッセンジャーであるcAMPおよび/またはcGMPを分解する活性を有しており、シグナル伝達を調節する働きを有する。PDEの阻害活性を有する物質は、現在、様々な疾患の治療薬として注目されている。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、PDEの共通ドメインを有さないM-LPHが、cAMPおよびcGMPを分解できるという新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成を含む。
【0010】
<1>M-LPHタンパク質を含む、cAMPまたはcGMPの分解剤。
【0011】
<2>M-LPH遺伝子の発現調節剤、または、M-LPHタンパク質の活性調節剤を含む、cAMPまたはcGMPの分解調節剤。
【0012】
<3>M-LPHタンパク質と、cAMPまたはcGMPと、薬剤の候補物質とを接触させた後、cAMPまたはcGMPの量αを測定する工程、および、
上記量αと、M-LPHタンパク質とcAMPまたはcGMPとを接触させた後のcAMPまたはcGMPの量βと、を比較する工程を含む、M-LPHタンパク質の活性調節剤のスクリーニング方法。
【0013】
<4>M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現を検出する工程を含む、cAMPまたはcGMPに関連する疾患を診断するためのデータの取得方法。
【0014】
<5>M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現を検出するための物品を備えている、cAMPまたはcGMPに関連する疾患の診断キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、新規なcAMPまたはcGMP分解剤、およびその利用を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】M-LPHタンパク質の細胞内局在を示した像である。
図2】M-LPHノックアウト細胞におけるcAMP量を示したグラフである。
図3】M-LPHノックアウト細胞と、M-LPH過剰発現細胞とにおける、細胞内PDE総活性を示したグラフである。
図4】無細胞系にて作製されたM-LPHタンパク質のPDE活性を示したグラフである。
図5】M-LPHノックアウトマウスの血糖値を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0018】
本明細書中「PDE活性」とは、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)ファミリーが有する、cAMPおよびcGMPを分解する活性を意味する。また、本明細書では、単に「M-LPH」と記載した場合は遺伝子および/またはタンパク質を意図し、「M-LPHタンパク質」と記載した場合はタンパク質を意図し、「M-LPH遺伝子」と記載した場合は遺伝子を意図する。
【0019】
〔1.cAMPまたはcGMPの分解剤〕
本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMPの分解剤は、M-LPHタンパク質を含む。本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMPの分解剤は、M-LPHタンパク質の代わりに、M-LPHタンパク質の発現ベクターを含んでいてもよい。
【0020】
後述する実施例に示すように、M-LPHタンパク質はcAMPおよびcGMPの分解活性を有する。本発明であれば、cAMPまたはcGMPを分解することができる。
【0021】
cAMPのシグナル伝達経路の下流にはプロテインキナーゼAおよびEPAC(exchange proteins directly activated by cAMP)が存在し、cAMPによって、プロテインキナーゼAおよびEPACが活性化する。したがって、本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMPの分解剤は、プロテインキナーゼAおよびEPACの不活性化剤でもある。
【0022】
M-LPHタンパク質は、ヒトのM-LPHタンパク質であってもよいし、ヒト以外の生物種のM-LPHタンパク質であってもよいし、これらの変異タンパク質であってもよい。
【0023】
より具体的に、M-LPHタンパク質は、以下の構成であってもよい:
(1)配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号1にて示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号1にて示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチド。
【0024】
より具体的に、M-LPHタンパク質の発現ベクターに挿入されるポリヌクレオチドは、以下の構成であってもよい:
(4)配列番号1にて示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(5)配列番号1にて示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(6)配列番号1にて示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(7)配列番号2にて示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(8)上記(4)~(7)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、cAMPまたはcGMPの分解活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0025】
上記配列番号1は、ヒトのM-LPHタンパク質の全長アミノ酸配列に相当する。一方、上記配列番号2は、ヒトのM-LPH遺伝子のcDNAの全長塩基配列に相当する。
【0026】
上記(2)および(5)に関して、「1または数個のアミノ酸残基が、置換、欠失、挿入および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異蛋白質作製法により、置換、欠失、挿入、および/または付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは9個以下、より好ましくは8個以下、より好ましくは7個以下、より好ましくは6個以下、より好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下、より好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、最も好ましくは1個以下)のアミノ酸が、置換、欠失、挿入および/または付加されることを意図する。なお、アミノ酸配列中、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加される位置は、限定されない。
【0027】
上記(3)および(6)に関して、アミノ酸配列の同一性は、例えば、BLASTXのプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993)に基づいている。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。比較対象の塩基配列またはアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。
【0028】
上記(3)および(6)に関して、アミノ酸配列の同一性は、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、最も好ましくは100%である。
【0029】
上記(8)に関して、「ストリンジェントな条件」は、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。換言すれば、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、更に好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件ともいえる。
【0030】
一例を示すと、0.25M NaHPO、pH7.2、7%SDS、1mM EDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16~24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mM NaHPO、pH7.2、1%SDS、1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。
【0031】
他の例としては、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。ただし、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間等)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。このことは、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)等に記載されている。
【0032】
上記(2)、(3)、(5)、(6)および(8)に関して、ポリペプチドがcAMPまたはcGMPの分解活性を有するか否かは、公知の方法にしたがって判定することができる。例えば、所望のポリペプチドと、cAMPまたはcGMPとを接触させる。次いで、(i)未分解のcAMPまたはcGMPを検出することによって、(ii)cAMPまたはcGMPの分解物を検出することによって、または、(iii)cAMPまたはcGMPの分解反応から生じる副産物(例えば、リン酸)を検出することによって、ポリペプチドがcAMPまたはcGMPの分解活性を有するか否かを判定すればよい。
【0033】
具体的に、ポリペプチドがcAMPまたはcGMPの分解活性を有するか否かは、Cyclic Nucleotide Phosphodiesterase Assay Kit(Enzo Life Sciences製)等によって測定できる。
【0034】
cAMPまたはcGMPの分解活性の判定方法の一例を説明する。cAMPの分解反応は、「cAMP+HO→5’AMP+H」および「5’AMP+HO→アデノシン+リン酸」の2段階の反応にて進む。このとき、リン酸を比色によって定量することにより、ポリペプチドがcAMPまたはcGMPの分解活性を有するか否かを判定することができる。
【0035】
cAMPまたはcGMPの分解活性の判定方法の別の例を説明する。ポリペプチドがcAMPまたはcGMPの分解活性を有するか否かは、(i)ポリペプチドと、トリチウムまたは蛍光色素にてラベルされたcAMPまたはcGMPとを反応させ、(ii)次いで反応産物を遠心分離に供して分解物を沈殿させるとともに、上清を回収し、(iii)最後に上清に残った、未分解のトリチウムまたは蛍光色素にてラベルされたcAMPまたはcGMPを定量する、ことによっても判定することができる。
【0036】
本発明の一実施形態に係る分解剤に含まれる有効成分(具体的に、M-LPHタンパク質、M-LPHタンパク質の発現ベクター)の量は、特に限定されないが、分解剤全体を100重量%とした場合に、0.001重量%~100重量%であってもよく、0.01重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~95重量%であってもよく、0.1重量%~90重量%であってもよく、0.1重量%~80重量%であってもよく、0.1重量%~70重量%であってもよく、0.1重量%~60重量%であってもよく、0.1重量%~50重量%であってもよく、0.1重量%~40重量%であってもよく、0.1重量%~30重量%であってもよく、0.1重量%~20重量%であってもよく、0.1重量%~10重量%であってもよい。
【0037】
本発明の一実施形態に係る分解剤は、有効成分以外の成分を含んでいてもよい。当該有効成分以外の成分は、薬学的に許容される成分であればよく、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、賦形剤、担体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、安定剤、抗酸化剤、高分子量重合体、充填剤、結合剤、界面活性剤、および、安定化剤などを挙げることができる。
【0038】
上記緩衝剤としては、リン酸、リン酸塩、ホウ酸、ホウ酸塩、クエン酸、クエン酸塩、酢酸、酢酸塩、炭酸、炭酸塩、酒石酸、酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、および、トロメタモールなどが挙げられる。上記リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、およびリン酸水素二カリウムなどが挙げられる。上記ホウ酸塩としては、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、および、ホウ酸カリウムなどが挙げられる。上記クエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、およびクエン酸三ナトリウムなどが挙げられる。上記酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、および、酢酸カリウムなどが挙げられる。上記炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、および、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。上記酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、および、酒石酸カリウムなどが挙げられる。
【0039】
上記pH調整剤としては、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、および、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0040】
上記等張化剤としては、イオン性等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど)、および、非イオン性等張化剤(グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトールなど)が挙げられる。
【0041】
上記防腐剤としては、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、および、クロロブタノールなどが挙げられる。
【0042】
上記抗酸化剤としては、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、および、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0043】
上記高分子量重合体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、および、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0044】
上記担体、賦形剤および希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱物油等が挙げられる。
【0045】
上記溶媒、および可溶化剤としては、グリセリン、DMSO、DMA、N-メチルピロリドン、エタノール、ベンジルアルコール、イソプロピルアルコール、各種分子量のポリエチレングリコール(PEG300およびPEG400等)、およびプロピレングリコール等が挙げられる。
【0046】
上記界面活性剤としては、非イオン性、アニオン性、カチオン性、双性イオン性、ポリマー性、および両性の界面活性剤が挙げられる。
【0047】
上記安定化剤としては、脂肪酸、脂肪アルコール、アルコール、長鎖脂肪酸エステル、長鎖エーテル、脂肪酸の親水性の誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、炭化水素、疎水性のポリマー、吸湿性のポリマー、およびアミド類似物が挙げられる。
【0048】
本発明の一実施形態に係る分解剤に含まれる有効成分以外の成分の量は、特に限定されないが、好ましくは、分解剤全体を100重量%とした場合に、0重量%~99.999重量%であってもよく、0重量%~99.99重量%であってもよく、0重量%~99.9重量%であってもよく、5重量%~99.9重量%であってもよく、10重量%~99.9重量%であってもよく、20重量%~99.9重量%であってもよく、30重量%~99.9重量%であってもよく、40重量%~99.9重量%であってもよく、50重量%~99.9重量%であってもよく、60重量%~99.9重量%であってもよく、70重量%~99.9重量%であってもよく、80重量%~99.9重量%であってもよく、90重量%~99.9重量%であってもよい。
【0049】
本発明の一実施形態に係る分解剤は、生物に対して投与されるものであってもよく、非生物(例えば、人工的に構築されたcAMPまたはcGMPの分解システム)に対して投与されるものであってもよい。それ故に、分解剤の剤形は、限定されない。本発明の一実施形態に係る分解剤は、固体状、液体状、または、気体状であってもよい。本発明の一実施形態に係る分解剤は、経口剤、非経口剤、または、塗布剤であってもよい。
【0050】
本発明の一実施形態に係る分解剤は、cAMPまたはcGMPの増加に関連する様々な疾患の予防または治療に有効に用いることができる。本明細書において「予防」とは、疾病、疾患又は障害に罹患することを防ぐことを指す。また、「治療」とは、すでに罹患している疾病、疾患若しくは障害、又はそれに伴う症状を、緩和又は除去することを指す。
【0051】
上記疾患としては、例えば、糖尿病、癌、心不全、気管支喘息、および、炎症性腸疾患を挙げることができる。
【0052】
〔2.cAMPまたはcGMPの分解調節剤〕
本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMP分解調節剤は、M-LPH遺伝子の発現調節剤、または、M-LPHタンパク質の活性調節剤を含む。
【0053】
後述する実施例に示すように、M-LPHタンパク質はcAMPおよびcGMPの分解活性を有する。本発明であれば、M-LPH遺伝子の発現、または、M-LPHタンパク質の活性を調節することによって、cAMPまたはcGMPの分解を調節することができる。
【0054】
cAMPのシグナル伝達経路の下流にはプロテインキナーゼAおよびEPACが存在し、cAMPによって、プロテインキナーゼAおよびEPACが活性化する。したがって、本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMPの分解調節剤は、プロテインキナーゼAおよびEPACの活性調節剤(より具体的にプロテインキナーゼAおよびEPACの不活性化剤、または、プロテインキナーゼAおよびEPACの活性化剤)でもある。
【0055】
より具体的に、本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMP分解調節剤は、「cAMPまたはcGMP分解促進剤」または「cAMPまたはcGMP分解抑制剤」であり得る。例えば、(i)M-LPH遺伝子の発現調節剤がM-LPH遺伝子の発現促進剤である場合、および、(ii)M-LPHタンパク質の活性調節剤がM-LPHタンパク質の活性化剤である場合には、本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMP分解調節剤は、「cAMPまたはcGMP分解促進剤」であり得る。一方、(iii)M-LPH遺伝子の発現調節剤がM-LPH遺伝子の発現抑制剤である場合、および、(iv)M-LPHタンパク質の活性調節剤がM-LPHタンパク質の不活性化剤である場合には、本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMP分解調節剤は、「cAMPまたはcGMP分解抑制剤」であり得る。
【0056】
M-LPH遺伝子の発現促進剤としては、例えば、M-LPH遺伝子の発現ベクター、M-LPH遺伝子の転写抑制因子(例えば、human regulator of heat-induced transcription:RhitH)のsiRNA、および、M-LPH遺伝子の転写抑制因子(例えば、RhitH)のノックアウトベクターが挙げられる。
【0057】
M-LPH遺伝子の発現抑制剤としては、例えば、M-LPH遺伝子のsiRNA、M-LPH遺伝子のノックアウトベクター、および、M-LPH遺伝子の転写抑制因子(例えば、RhitH)の発現ベクターが挙げられる。
【0058】
M-LPHタンパク質の不活性化剤としては、例えば、M-LPHタンパク質の中和抗体、IBMX(Isobutylmethylxanthine)が挙げられる。
【0059】
本発明の一実施形態に係る分解調節剤に含まれる有効成分(具体的に、M-LPH遺伝子の発現調節剤、M-LPHタンパク質の活性調節剤)の量は、特に限定されないが、分解調節剤全体を100重量%とした場合に、0.001重量%~100重量%であってもよく、0.01重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~95重量%であってもよく、0.1重量%~90重量%であってもよく、0.1重量%~80重量%であってもよく、0.1重量%~70重量%であってもよく、0.1重量%~60重量%であってもよく、0.1重量%~50重量%であってもよく、0.1重量%~40重量%であってもよく、0.1重量%~30重量%であってもよく、0.1重量%~20重量%であってもよく、0.1重量%~10重量%であってもよい。
【0060】
本発明の一実施形態に係る分解調節剤は、有効成分以外の成分を含んでいてもよい。当該成分としては、上述した〔1.cAMPまたはcGMPの分解剤〕欄にて説明したものと同じものを用いることができる。
【0061】
本発明の一実施形態に係る分解調節剤に含まれる有効成分以外の成分の量は、特に限定されないが、好ましくは、分解調節剤全体を100重量%とした場合に、0重量%~99.999重量%であってもよく、0重量%~99.99重量%であってもよく、0重量%~99.9重量%であってもよく、5重量%~99.9重量%であってもよく、10重量%~99.9重量%であってもよく、20重量%~99.9重量%であってもよく、30重量%~99.9重量%であってもよく、40重量%~99.9重量%であってもよく、50重量%~99.9重量%であってもよく、60重量%~99.9重量%であってもよく、70重量%~99.9重量%であってもよく、80重量%~99.9重量%であってもよく、90重量%~99.9重量%であってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態に係る分解調節剤は、生物に対して投与されるものであってもよく、非生物(例えば、人工的に構築されたcAMPまたはcGMPの分解システム)に対して投与されるものであってもよい。それ故に、分解調節剤の剤形は、限定されない。本発明の一実施形態に係る分解調節剤は、固体状、液体状、または、気体状であってもよい。本発明の一実施形態に係る分解調節剤は、経口剤、非経口剤、または、塗布剤であってもよい。
【0063】
本発明の一実施形態に係る分解調節剤は、cAMPまたはcGMPの増加に関連する様々な疾患の予防または治療に有効に用いることができる。当該疾患としては、例えば、糖尿病、癌、心不全、気管支喘息、および、炎症性腸疾患を挙げることができる。
【0064】
〔3.スクリーニング方法〕
本発明の一実施形態に係るM-LPHタンパク質の活性調節剤のスクリーニング方法は、M-LPHタンパク質と、cAMPまたはcGMPと、薬剤の候補物質とを接触させた後、cAMPまたはcGMPの量αを測定する工程、および、上記量αと、M-LPHタンパク質とcAMPまたはcGMPとを接触させた後のcAMPまたはcGMPの量βと、を比較する工程を含む。なお、量βは、(i)予め試験を行ってデータベース化されていてもよいし、(ii)量αを測定する工程、および、比較する工程とは別の工程にて測定されてもよい。
【0065】
つまり、本発明の一実施形態に係るM-LPHタンパク質の活性調節剤のスクリーニング方法は、M-LPHタンパク質と、cAMPまたはcGMPとを接触させた後、cAMPまたはcGMPの量βを測定する工程、M-LPHタンパク質と、cAMPまたはcGMPと、薬剤の候補物質とを接触させた後、cAMPまたはcGMPの量αを測定する工程、および、上記量αと上記量βとを比較する工程を含むスクリーニング方法、であってもよい。
【0066】
上記スクリーニング方法を用いれば、M-LPHタンパク質の活性調節剤(具体的に、M-LPHタンパク質の活性化剤または不活性化剤)のスクリーニングが可能である。すなわち、本発明の一実施形態に係るスクリーニング方法を用いれば、M-LPHタンパク質の活性を調節することによってcAMPまたはcGMPの量を調節できる物質のスクリーニングが可能である。当該M-LPHタンパク質の活性調節剤は、cAMPまたはcGMPの増加に関連する様々な疾患の予防剤または治療剤の成分として有用である。
【0067】
M-LPHタンパク質と、cAMPまたはcGMPと、薬剤の候補物質とを接触させる方法は、限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、各物質を溶解させた溶液同士を混合してもよいし、各物質を任意の生体内に導入してもよい。
【0068】
上記任意の生体としては、限定されず、例えば、細胞、採取された組織、非ヒト哺乳類、および、ヒトなどが挙げられる。細胞の例としては、HepG2細胞等が挙げられる。非ヒト哺乳動物の例としては、霊長類(サル、類人猿など)、偶蹄類(ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、奇蹄類(ウマなど)、齧歯類(マウス、ラット、ハムスター、リスなど)、ウサギ目(ウサギなど)、食肉類(イヌ、ネコ、フェレットなど)などが挙げられる。上述の非ヒト哺乳動物は、家畜またはコンパニオンアニマルであってもよく、野生動物であってもよい。
【0069】
cAMPまたはcGMPの量の測定は、公知の方法によって行ってもよく、例えば、Cyclic Nucleotide Phosphodiesterase Assay Kit(Enzo Life Sciences製)等によって測定できる。
【0070】
cAMPまたはcGMPの量の測定方法の一例を説明する。cAMPの分解反応は、「cAMP+HO→5’AMP+H」および「5’AMP+HO→アデノシン+リン酸」の2段階の反応にて進む。このとき、リン酸を比色によって定量することにより、cAMPまたはcGMPの量を測定してもよい。
【0071】
cAMPまたはcGMPの量の測定方法の別の例を説明する。(i)薬剤の候補物質の存在下または非存在下にて、M-LPHタンパク質と、トリチウムまたは蛍光色素にてラベルされたcAMPまたはcGMPとを反応させ、(ii)次いで反応産物を遠心分離に供して分解物を沈殿させるとともに、上清を回収し、(iii)最後に上清に残った、未分解のトリチウムまたは蛍光色素にてラベルされたcAMPまたはcGMPを定量する、ことによって、cAMPまたはcGMPの量を測定してもよい。
【0072】
薬剤の候補物質は、限定されず、所望の化合物であり得る。当該候補物質は、例えば、低分子化合物、高分子化合物、薬剤スクリーニング用のライブラリーに属する化合物(化合物群)であってもよい。
【0073】
上記量αと上記量βとを比較することにより、上記薬剤の候補物質が、M-LPHタンパク質の活性調節剤(具体的に、M-LPHタンパク質の活性化剤または不活性化剤)であるか否かを判定することができる。
【0074】
例えば、「α>β」、好ましくは「α>1.5×β」、よりこのましくは「α>2.0×β」、より好ましくは「α>5.0×β」、最も好ましくは「α>10×β」のときに、薬剤の候補物質を、M-LPHタンパク質の不活性化剤と判定することができる。
【0075】
例えば、「β>α」、好ましくは「β>1.5×α」、よりこのましくは「β>2.0×α」、より好ましくは「β>5.0×α」、最も好ましくは「β>10×α」のときに、薬剤の候補物質を、M-LPHタンパク質の活性化剤と判定することができる。
【0076】
〔4.データ取得方法〕
本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMPに関連する疾患を診断するためのデータ取得方法は、M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現を検出する工程を含む。cAMPまたはcGMPに関連する疾患は、より具体的に、プロテインキナーゼAに関連する疾患、またはEPACに関連する疾患であってもよい。
【0077】
cAMPまたはcGMPは、様々な疾患と関係があることが知られている。また、cAMPのシグナル伝達経路の下流に存在するプロテインキナーゼAおよびEPACも、cAMPまたはcGMPと同様に、様々な疾患と関係があることが知られている。それ故に、cAMPまたはcGMPの量を調節するM-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現を検出すれば、当該検出結果に基づいて、cAMPまたはcGMPに関連する疾患、プロテインキナーゼAに関連する疾患、および/またはEPACに関連する疾患を診断することができる。
【0078】
例えば、上記工程にて、M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現の増加が検出されれば、cAMPまたはcGMPの減少に関連する疾患、プロテインキナーゼAの不活性化に関連する疾患、および/またはEPACの不活性化に関連する疾患の診断に有用なデータを取得することができる。
【0079】
一方、上記工程にて、M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現の減少が検出されれば、cAMPまたはcGMPの増加に関連する疾患、および/または、プロテインキナーゼAの活性化に関連する疾患、および/またはEPACの活性化に関連する疾患の診断に有用なデータを取得することができる。
【0080】
M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現を検出する工程では、公知の方法にしたがって、M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現を検出すればよい。当該方法としては、限定されず、例えば、ウエスタンブロット法、マイクロアレイ法、ノザンブロット法、PCR法などを用いればよい。
【0081】
診断対象となる疾患としては、(1)cAMPまたはcGMPに関連する疾患、(2)プロテインキナーゼAに関連する疾患、および、(3)EPACに関連する疾患が挙げられる。診断対象となる疾患としては、より具体的に、(4)cAMPまたはcGMPの増加または減少に関連する疾患、(5)プロテインキナーゼAの活性化または不活性化に関連する疾患、および、(6)EPACの活性化または不活性化に関連する疾患が挙げられる。当該疾患としては、より具体的に、糖尿病、癌、心不全、気管支喘息、および、炎症性腸疾患を挙げることができる。
【0082】
〔5.診断キット〕
本発明の一実施形態に係るcAMPまたはcGMPに関連する疾患の診断キットは、M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子の発現を検出するための物品を備えている。cAMPまたはcGMPに関連する疾患は、より具体的に、プロテインキナーゼAに関連する疾患、またはEPACに関連する疾患であってもよい。本明細書において「キット」とは、任意の用途に用いられる、任意の試薬などの組み合わせを意味する。この用途は、医学用途であってもよいし、実験用途であってもよい。当該用途は、具体的に、診断用途であってもよい。
【0083】
M-LPHタンパク質の発現を検出するための物品としては、例えば、抗M-LPH抗体を挙げることができる。
【0084】
M-LPH遺伝子の発現を検出するための物品としては、PCR法にてM-LPH遺伝子の発現を検出するためのプライマー、M-LPHのmRNAにハイブリダイズするプローブを挙げることができる。
【0085】
一実施形態において、キットは、診断に用いられる試薬および/または補助的な物質を備えていてもよい。一実施形態において、キットは、試薬および/または補助的な物質を格納する、1つ以上の格納容器(ボックス、ボトル、ディッシュなど)を備えていてもよい。
【0086】
診断対象となる疾患としては、(1)cAMPまたはcGMPに関連する疾患、(2)プロテインキナーゼAに関連する疾患、および、(3)EPACに関連する疾患が挙げられる。診断対象となる疾患としては、より具体的に、(4)cAMPまたはcGMPの増加または減少に関連する疾患、(5)プロテインキナーゼAの活性化または不活性化に関連する疾患、および、(6)EPACの活性化または不活性化に関連する疾患が挙げられる。当該疾患としては、より具体的に、糖尿病、癌、心不全、気管支喘息、および、炎症性腸疾患を挙げることができる。
【実施例
【0087】
〔材料および方法〕
特に記載がない限り、実験に使用した材料および方法は以下の通りである。
【0088】
[実験動物]
M-LPHノックアウトC57BL/6Nマウス (Macrogen社に作製委託)
[抗体]
抗M-LPH抗体(Sigma製)
[M-LPHノックアウト細胞の作製]
CRISPRデザインツールによって、ヒトM-LPH遺伝子のエクソン1をターゲットとして設計したCRISPR配列と、相補的なオリゴヌクレオチドを合成した。20塩基対のガイド配列をエンコードした上記オリゴヌクレオチドを、プラスミドpX459(Addgene社)のBbsI領域に導入した。その後、リポフェクタミン3000(Invitrogen社)を用いて、HepG2細胞に上記プラスミドを導入した。形質転換細胞は1.5μg/mLピューロマイシン下で選択培養して得た。
【0089】
[M-LPHノックアウトマウスの作製]
CRISPR/Cas9システムを使用して、M-LPH遺伝子エクソン内の23塩基をターゲットとして設計したsgRNA、およびCas9タンパク質を、C57BL/6Nマウスの受精卵にマイクロインジェクションした。当該受精卵を仮親に移植することにより、ファウンダーマウス(F0)を得た。続いて、塩基配列分析を用いて、塩基配列に大きな欠失と、フレームシフトとが起こったファウンダーマウスを選択した。選択したファウンダーマウスと、野生型C57BL/6Nとを交配させて、F1ヘテロマウスを作製した。さらに、F1ヘテロマウス同士を交配させて、F2マウスを得た。F2マウスのDNAを鋳型として、遺伝子欠損部位の両側に設定した2つのプライマーを用いたPCRを実施して、ヘテロ接合型およびホモ接合型のM-LPHノックアウトマウスを同定した。さらに、ホモ接合型のマウスの腎臓からタンパク質を抽出し、当該タンパク質溶液を抗M-LPH抗体を用いたウェスタンブロッティング解析に供し、M-LPHタンパク質が欠損していることを確認した。
【0090】
〔試験1.M-LPHタンパク質の細胞内局在〕
抗M-LPH抗体を用いた細胞染色によって、M-LPHタンパク質の細胞内局在を確認した。細胞としては、HepG2細胞を用いた。一次抗体(抗M-LPH抗体)としては、Sigma製の市販の抗体を用い、二次抗体としては、Molecular Probes社製のAlexa Fluor 488 plus ヤギ抗ウサギ抗体を用いた。また、DAPIを用いて核を染色し、かつ、MitoTrackerを用いてミトコンドリアを染色した。また、細胞染色の方法としては、一般的な細胞染色の方法にしたがった。
【0091】
図1に結果を示す。図1上図より、主にミトコンドリアにM-LPHタンパク質が存在していることがわかる。また、図1下図より、特にミトコンドリア内に多くM-LPHが発現していることがわかる。なお、図1下図にて、「CE」は細胞質基質抽出物を示し、「ME」は膜抽出物を示し、「NE」は可溶性核抽出物を示す。したがって、HepG2細胞では、M-LPHタンパク質、主としてミトコンドリアに局在し、細胞質基質や核にもわずかに局在していることが示された。
【0092】
〔試験2.ミトコンドリア内のcAMP量の解析〕
野生型HepG2細胞、および、M-LPHノックアウトHepG2細胞の各々から、ミトコンドリアを分離した。なお、ミトコンドリアの分離はMitochondoria Isolation Kit(thermo fisher scientific社)を用いて行った。
【0093】
分離されたミトコンドリアに含まれるcAMPの量を、Direct cAMP ELISA Kit(Enzo Life Sciences製)を用いて測定した。
【0094】
図2に結果を示す。図2より、M-LPHノックアウトHepG2細胞では、野生型HepG2細胞と比較して、cAMPが増加していることがわかった。このことから、M-LPHタンパク質は、cAMPを分解する活性を有していることが示された。
【0095】
〔試験3.M-LPH過剰発現細胞のPDE活性〕
まず、野生型HepG2細胞、および、M-LPHノックアウトHepG2細胞を用いて、M-LPHタンパク質の機能を解析した。
【0096】
野生型HepG2細胞内のPDE総活性量、および、M-LPHノックアウトHepG2細胞内のPDE総活性量を測定し、両者を比較した。なお、PDE総活性は、Total Phosphodiesterase Activity Assay Kit(BioVision製)を用いて測定した。なお、測定の方法は、当該キットに添付のプロトコルにしたがった。
【0097】
図3左側に示すように、野生型HepG2細胞内のPDE総活性量(図3左側の「野生型細胞」参照)、および、M-LPHノックアウトHepG2細胞内のPDE総活性量(図3左側の「M-LPH-KO細胞」参照)を比較すると、野生型HepG2細胞内のPDE総活性量よりも、M-LPHノックアウトHepG2細胞のPDE総活性量が少ないことが明らかになった。このことは、M-LPHタンパク質はcAMPおよび/またはcGMPを分解する活性を有していることを示している。
【0098】
次いで、M-LPHの過剰発現細胞を用いて、M-LPHタンパク質の機能を解析した。
【0099】
M-LPHの過剰発現細胞の作製方法を説明する。pcDNA3.1(Invitrogen社製)のクローニングサイトに、ヒトのM-LPH遺伝子(配列番号2に相当)を挿入した。なお、当該操作は、公知の方法にしたがって行った。次いで、リポフェクタミン3000(Invitrogen社)を用いて、当該ベクターを、HepG2細胞に導入した。また、対照試験として、リポフェクタミン3000(Invitrogen社)を用いて、ヒトのM-LPH遺伝子が挿入されていないpcDNA3.1を、HepG2細胞に導入した。なお、当該操作は、上記試薬に添付のプロトコルにしたがって行った。トランスフェクションされた細胞を培地中で培養し、(i)ヒトのM-LPH遺伝子が挿入されているベクターを一過性に保持するM-LPH過剰発現細胞、および、(ii)ヒトのM-LPH遺伝子が挿入されていないベクターを一過性に保持する野生型細胞を取得した。
【0100】
ヒトのM-LPH遺伝子が挿入されているベクターを保持するM-LPH過剰発現細胞内のPDE総活性量、および、ヒトのM-LPH遺伝子が挿入されていないベクターを保持する野生型細胞内のPDE総活性量を測定し、両者を比較した。なお、PDE総活性は、Total Phosphodiesterase Activity Assay Kit(Bio Vision製)を用いて測定した。なお、測定の方法は、当該キットに添付のプロトコルにしたがった。
【0101】
図3右側に示すように、ヒトのM-LPH遺伝子が挿入されていないベクターを保持する野生型細胞内のPDE総活性量(図3右側の「野生型細胞」参照)、および、ヒトのM-LPH遺伝子が挿入されているベクターを保持するM-LPH過剰発現細胞内のPDE総活性量(図3右側の「M-LPH過剰発現細胞」参照)を比較すると、野生型細胞内のPDE総活性量よりも、M-LPH過剰発現細胞内のPDE総活性量が多いことが明らかになった。このことは、M-LPHタンパク質はcAMPおよび/またはcGMPを分解する活性を有していることを示している。
【0102】
〔試験4.無細胞系にて作製されたM-LPHタンパク質のPDE活性〕
pT7-IRES vector(Takara Bio製)のクローニングサイトに、ヒトのM-LPH遺伝子(配列番号2に相当)を挿入し、M-LPH/pT7-IRESベクターを作製した。
【0103】
作製したベクターと、Human Cell-Free Protein Expression System(Takara Bio製)とを使用して、無細胞系にてM-LPHタンパク質を作製した。対照試験には、ヒトのM-LPH遺伝子が挿入されていないpT7-IRESベクターを用いた。
【0104】
M-LPHタンパク質を含む溶液に、抗M-LPH抗体を結合させた磁気ビーズを混合し、当該磁気ビーズにM-LPHタンパク質を結合させた。免疫沈降法にしたがって、M-LPHタンパク質を精製した。精製したM-LPHタンパク質を脱塩カラムに通し、遊離リン酸を除去し、その後、限外濾過スピンカラムによる濃縮を行って、測定用のM-LPHタンパク質を得た。
【0105】
Cyclic Nucleotide Phosphodiesterase Assay Kit(Enzo Life Sciences製)のプロトコルに従い、M-LPHタンパク質のcAMP分解能を測定した。また、QuantiPro BCAアッセイキットを使用して、当該キットのプロトコル通りに、M-LPHのタンパク質の濃度を測定した。
【0106】
なお、M-LPHタンパク質のcAMP分解能の測定は、PDEの非選択的阻害剤であるIBMX(Isobutyl-methylxanthine)の非存在下および存在下にて行った。
【0107】
図4に結果を示す。なお、cAMP分解能は、30℃、pH7.5で、1分間に1.0μmolの3’,5’-cAMPを、5’-AMPに加水分解した量によって評価される。
【0108】
図4より、無細胞系にて作製されたM-LPHタンパク質はcAMP分解能を有することが示された。また、IBMXの存在下および非存在下の試験結果から、M-LPHタンパク質は、PDE活性を有することが示された。
【0109】
〔試験5.M-LPHタンパク質のcGMPの分解活性〕
M-LPHタンパク質がcGMPの分解活性を有するか否か、試験した。
【0110】
Cyclic Nucleotide Phosphodiesterase Assay Kit(Enzo Life Sciences製)のプロトコルに従い、cGMPを基質として、M-LPHタンパク質のcGMP分解能を測定した。また、QuantiPro BCAアッセイキットを使用して、当該キットのプロトコル通りに、M-LPHのタンパク質の濃度を測定した。
【0111】
M-LPHタンパク質のcGMPの分解活性は、66.6±3.33mU/mgであった。
【0112】
〔試験6.M-LPHマウスの血糖値〕
10~11週齢の野生型マウス(n=6)、ヘテロ接合型ノックアウトマウス(n=4)、ホモ接合型ノックアウトマウス(n=6)の尾静脈より採取した血液中のグルコース濃度(血糖値)を、血糖測定器(ニプロ製)を用いて測定した。
【0113】
図5に結果を示す。図5より、M-LPHのホモ接合型ノックアウトマウスは血糖値が低下することがわかった。したがって、血糖値に関連する疾患(例えば、糖尿病)の指標として、M-LPHタンパク質および/またはM-LPH遺伝子を用いることができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、cAMPおよびcGMPの分解剤として利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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