(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】セルロース繊維組成物及びその製造方法、並びにセルロース繊維複合組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/00 20060101AFI20240913BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240913BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240913BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20240913BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C08L1/00
C08L21/00
C08L101/00
C08K5/06
C08J3/20 Z CEP
(21)【出願番号】P 2020116417
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】宮森 良
(72)【発明者】
【氏名】河端 崇
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178291(JP,A)
【文献】特開2019-172891(JP,A)
【文献】特開2017-115023(JP,A)
【文献】特開2020-007492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維(A)80~98質量%、有機溶剤(B)1~20000ppm、その他成分(C)を残分とするセルロース繊維組成物であって、有機溶剤(B)が下記(1)~(4)の条件を満足
し、(ポリ)エチレングリコールジアルキルエーテル及び(ポリ)プロピレングリコールジアルキルエーテルの群から選ばれる少なくとも1種であり、アルキルエーテルを構成するアルキル基の炭素数が1~4であることを特徴とするセルロース繊維組成物。
(1)沸点が125~300℃である。
(2)25℃における水100gに対する溶解度が5g以上である。
(3)25℃における表面張力が20~36mN/mである。
(4)活性プロトンを有しない。
【請求項2】
セルロース繊維(A)が、カルボン酸無水物(D)でアシル化されたセルロース繊維であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース繊維組成物。
【請求項3】
セルロース繊維(A)80~98質量%、有機溶剤(B)1~20000ppm、その他成分(C)を残分とするセルロース繊維組成物の製造方法であって、有機溶剤(B)が下記(1)~(4)の条件を満足
し、(ポリ)エチレングリコールジアルキルエーテル及び(ポリ)プロピレングリコールジアルキルエーテルの群から選ばれる少なくとも1種であり、アルキルエーテルを構成するアルキル基の炭素数が1~4であることを特徴とするセルロース繊維組成物の製造方法。
(1)沸点が125~300℃である。
(2)25℃における水100gに対する溶解度が5g以上である。
(3)25℃における表面張力が20~36mN/mである。
(4)活性プロトンを有しない。
【請求項4】
請求項1~
2のいずれか一項に記載のセルロース繊維組成物と、熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)とをセルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)=0.05~60:40~99.95質量%となる割合で混練することを特徴とするセルロース繊維複合組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂やゴムに対する高い分散性と補強効果を示すセルロース繊維組成物とその製造方法に関する。また本発明は、該セルロース繊維組成物を用いた、機械的物性に優れるセルロース繊維複合組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維は安価で力学特性やリサイクル性に優れているため、成形材料である熱可塑性樹脂やゴムの補強材として活用する技術の開発が検討されている。
セルロース繊維は保管時の吸湿や前処理等の加工工程で水を使う等の理由により、通常、水を含んだ状態で取り扱われている。そのため、セルロース繊維を疎水性の成形材料と複合化する際には水を除去する必要が有る。しかしながら、水を除去する過程でセルロース繊維の水酸基が水素結合を形成し、繊維同士で強く凝集してしまう問題が有った。強く凝集したセルロース繊維は成形材料へ均一に分散せず、寧ろ成形体の機械的物性を悪化させる原因となる。
所望の機械的物性を達成するため、セルロース繊維の凝集を防ぐことで成形材料中へのセルロース繊維の分散性を改善する方法が開示されている。
【0003】
特許文献1においては、繊維を含む複合材料に90から40,000の平均分子量を有するポリエチレングリコール及び/又は多価アルコールから選択される湿潤剤を加えることで、繊維の凝集を防ぎ繊維の分散性向上を図っている。しかしながら、繊維の分散性が不十分であると共に、可塑剤として働く湿潤剤の除去が困難であるために機械的物性の向上効果が不十分であった。
【0004】
特許文献2ではセルロースの水懸濁体を過剰の有機溶剤に浸漬・ろ過し、水を除去して有機溶剤で膨潤したセルロースとした上で、有機溶剤を除去することで凝集固化することのない、分散性が高い形態のセルロースを得ている。しかしながら、セルロースに対して数十倍~数百倍の有機溶剤が必要になると共に、作業工程が多いことから、より効率的な処理方法が求められていた。
【0005】
特許文献3では熱可塑性樹脂、セルロースナノファイバー、特定の表面改質剤、沸点が100℃以上の非プロトン性溶媒を一定量含む樹脂組成物とすることにより、樹脂成形体の所望の機械的特性を発現するために充分な量のセルロースを樹脂組成物中で微分散させて、高い機械的特性及び熱特性を得ることができる旨、開示されている。しかしながら、この方法では、熱可塑性樹脂中にセルロースナノファイバー、表面改質剤及び非プロトン性溶媒が希釈された状態となるため、セルロースナノファイバーの凝集抑制効果は不十分であり、結果として、得られる樹脂成形体の物性向上効果は十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-532344号公報
【文献】特開2011-6551号公報
【文献】特開2020-7492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、成形材料である熱可塑性樹脂やゴムへの分散性が高く、成形体の補強効果に優れるセルロース繊維組成物とその製造方法、及び成形体が優れた機械的物性となるようなセルロース繊維複合組成物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、セルロ-ス繊維へ特定の有機溶剤を少量含有させたセルロース繊維組成物とすることで、熱可塑性樹脂やゴムへの分散性が向上し、その結果、成形体の補強効果に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
<1> セルロース繊維(A)80~98質量%、有機溶剤(B)1~20000ppm、その他成分(C)を残分とするセルロース繊維組成物であって、有機溶剤(B)が下記(1)~(4)の条件を満足することを特徴とするセルロース繊維組成物、
(1)沸点が125~300℃である。
(2)25℃における水100gに対する溶解度が5g以上である。
(3)25℃における表面張力が20~36mN/mである。
(4)活性プロトンを有しない。
<2> 有機溶剤(B)が、(ポリ)エチレングリコールジアルキルエーテル及び(ポリ)プロピレングリコールジアルキルエーテルの群から選ばれる少なくとも1種であり、
アルキルエーテルを構成するアルキル基の炭素数が1~4であることを特徴とする、<1>に記載のセルロース繊維組成物、
<3> セルロース繊維(A)が、カルボン酸無水物(D)でアシル化されたセルロース繊維であることを特徴とする<1>に記載のセルロース繊維組成物、
<4> セルロース繊維(A)80~98質量%、有機溶剤(B)1~20000ppm、その他成分(C)を残分とするセルロース繊維組成物の製造方法であって、有機溶剤(B)が下記(1)~(4)の条件を満足することを特徴とするセルロース繊維組成物の製造方法、
(1)沸点が125~300℃である。
(2)25℃における水100gに対する溶解度が5g以上である。
(3)25℃における表面張力が20~36mN/mである。
(4)活性プロトンを有しない。
<5> <1>~<3>のいずれか一項に記載のセルロース繊維組成物と、熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)とをセルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)=0.05~60:40~99.95質量%となる割合で混練して得られることを特徴とするセルロース繊維複合組成物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱可塑性樹脂及び/又はゴムの補強効果に優れるセルロース繊維組成物を得ることができ、該セルロース繊維組成物を用いたセルロース繊維複合組成物を成形体としたものは、機械的物性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の記載は本発明の実施形態の一例であり、本記載に限定されるものではない。
【0012】
<セルロース繊維組成物>
本発明のセルロース繊維組成物は、セルロース繊維(A)、有機溶剤(B)、その他成分(C)から成る。
【0013】
<セルロース繊維(A)>
セルロース繊維(A)は、セルロースを含有する繊維であればよく、セルロースが生成される由来等には特に限定されないが、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビートなどの植物に由来する繊維、マーセル化を施したセルロース繊維、レーヨンやリヨセル等の再生セルロース繊維、微生物やホヤなどの生物が産生するセルロース繊維などが挙げられる。これらの中でも、好ましくは木材が挙げられ、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、マツ、ユーカリ、アカシアなどが挙げられる。加えて、これらを原料として得られる紙や古紙を解繊したものもセルロース繊維として好適に用いられる。セルロース繊維は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
前記植物に由来する繊維から得られるセルロース繊維のひとつであるパルプは、セルロース繊維を化学的、若しくは機械的に、又は両者を併用してパルプ化することで得ることができ、例えば、ケミカルパルプ(未晒クラフトパルプ(UKP)、漂白クラフトパルプ(BKP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等が挙げられる。これらのパルプの中でも、繊維強度が高い針葉樹由来の未晒クラフトパルプ(NUKP)又は漂白クラフトパルプ(NBKP)が特に好ましい。
【0015】
セルロース繊維(A)は、セルロース繊維表面にある水酸基に対して反応性のある化合物により変性したセルロース繊維であってもよい。セルロース繊維表面にある水酸基に対して反応性のある化合物としては、カルボン酸無水物やイソシアネート基を有する化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。それら化合物により変性されたセルロース繊維のなかでも、未変性のセルロース繊維に比べて熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)への分散性や親和性に優れ、セルロース繊維複合組成物を成形体としたときの機械的物性を更に向上させることができることから、カルボン酸無水物(D)でアシル化されたセルロース繊維が好ましい。
【0016】
カルボン酸無水物(D)は、セルロース繊維(A)をアシル化可能な化合物であれば特に限定されないが、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、炭素数6~50の多塩基酸無水物、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ジエン系重合体の群から選ばれる少なくとも一種が好ましく、無水酢酸、炭素数6~50の多塩基酸無水物、無水マレイン酸変性ジエン系重合体の群から選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
【0017】
炭素数6~50の多塩基酸無水物としては特に限定されないが、炭素数8~40のものが好ましく、炭素数12~30のものがより好ましく、炭素数15~24のものが最も好ましい。
【0018】
無水マレイン酸変性ジエン系重合体の主成分であるジエン系重合体は特に限定されないが、具体例としては例えば、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリクロロプレン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸(エステル)-ブタジエン共重合体、イソブテン-イソプレン共重合体、ビニルピリジン-ブタジエン共重合体、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体、ポリノルボルネンが挙げられ、これらに他のモノマーを併用したものもジエン系重合体に含まれるものであり、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ポリイソプレン、ポリブタジエンが好ましく、ポリブタジエンがより好ましい。また、ジエン系重合体の重合方法は特に限定されず、ジエンモノマーが重合時に1,4-付加した成分のほかに、1,2-付加した成分が含まれた結果、側鎖にビニル基が存在していても良い。
【0019】
セルロース繊維組成物のセルロース繊維(A)含有量は、80~98質量%である必要がある。セルロース繊維複合組成物を製造する際には、熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)に対して十分な量のセルロース繊維(A)を効率よく混練するために、90~98質量%であることが好ましい。また、セルロース繊維組成物に用いるセルロース繊維(A)は、予め微細化されているものであっても構わない。
【0020】
<有機溶剤(B)>
有機溶剤(B)は下記(1)~(4)の条件を満足する必要がある。
(1)沸点が125~300℃である。
(2)25℃における水100gに対する溶解度が5g以上である。
(3)25℃における表面張力が20~36mN/mである。
(4)活性プロトンを有しない。
【0021】
通常、水を含んだセルロース繊維の乾燥工程においては、水の表面張力によりセルロース繊維間に引力が発生し(Campbell効果)、乾燥過程でセルロース繊維が相互に接近し、水酸基同士が水素結合を形成するため、セルロース繊維が凝集する。
本発明においては、セルロース繊維(A)を熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)と混練する前に予め、セルロース繊維に含まれる水を前記(1)~(4)の条件を満足する有機溶剤(B)により置換したセルロース繊維組成物とすることで、セルロース繊維(A)の凝集が効果的に低減され、熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)への分散性を向上することができる。有機溶剤(B)を添加することによる本発明の効果発現のメカニズムは定かではないが、有機溶剤(B)は水溶性を示すため、表面張力の高い水と置き換わってCampbell効果を低減させる効果が有ると共に、水よりも沸点が高いために脱水後にも有機溶剤(B)が残留することでセルロース繊維(A)の持つ水酸基同士の水素結合を緩和していると推察する。
【0022】
有機溶剤(B)の常圧における沸点は125~300℃である必要がある。有機溶剤(B)の沸点が125℃未満である場合、水を加えて解したセルロース繊維(A)と有機溶剤(B)を混合した後に水を除去する工程において、有機溶剤(B)が水と共に除去されてしまう。結果、セルロース繊維(A)間に存在する水が有機溶剤(B)へ十分に入れ替わらず、かつ有機溶剤(B)が残存しないため、セルロース繊維(A)の凝集を防ぐことができない。有機溶剤(B)の沸点は140~260℃が好ましく、150~240℃がより好ましい。
【0023】
有機溶剤(B)は、25℃における水100gに対する溶解度が5g以上である必要がある。溶解度が5g以上でないと、水を含んだセルロース繊維(A)に取り込まれないためセルロース繊維(A)の凝集を防ぐことができない。有機溶剤(B)は、25℃における水100gに対する溶解度が10g以上であることが好ましく、より好ましくは20g以上である。
【0024】
有機溶剤(B)の25℃における表面張力は、20~36mN/mである必要がある。表面張力が36mN/mを上回る場合、セルロース繊維(A)間に介在する水を有機溶剤(B)へ置き換えても、有機溶剤(B)がCampbell効果を発現して水酸基同士が水素結合を形成するため、セルロース繊維(A)は強く凝集してしまう。結果として熱可塑性樹脂及び/又はゴムへの良好な分散性や補強性を得ることが出来ない。有機溶剤(B)の25℃における表面張力は20~35mN/mが好ましく、20~34mN/mがより好ましい。
【0025】
有機溶剤(B)は、活性プロトンを有しない。有機溶剤(B)が活性プロトンを有する場合、セルロース繊維(A)の水酸基同士で生じる水素結合を緩和することができないため、セルロール繊維(A)の凝集抑制が不十分となる。
【0026】
有機溶剤(B)は、前記(1)~(4)の条件を満足したうえで、セルロース繊維(A)との親和性や表面張力の観点から、エーテル結合を有していることが好ましく、窒素原子や硫黄原子を有していないことがより好ましい。セルロース繊維(A)の凝集を防ぐ観点から、水への溶解度や沸点を考慮すると、特に好ましい有機溶剤(B)は、(ポリ)エチレングリコールジアルキルエーテル及び(ポリ)プロピレングリコールジアルキルエーテルの群から選ばれる少なくとも1種であり、アルキルエーテルを構成するアルキル基の炭素数が1~4である。
【0027】
好ましい有機溶剤(B)としては、(ポリ)エチレングリコールジアルキルエーテルとしては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。また、(ポリ)プロピレングリコールジアルキルエーテルとしては、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
【0028】
セルロース繊維組成物が有機溶剤(B)を含有することにより、セルロース繊維複合組成物を製造する際に熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)へのセルロース繊維(A)の分散性が向上するため、結果としてセルロース繊維(A)は高い補強効果を発現することができる。セルロース繊維組成物の有機溶剤(B)含有量は、1~20000ppmである必要がある。セルロース繊維組成物に含まれる有機溶剤(B)の量は(株)島津製作所製ガスクロマトグラフGC-2014を用いて測定する。
セルロース繊維組成物の有機溶剤(B)含有量が1ppmを下回ると、前記のようなセルロース繊維(A)の分散性向上効果が期待できない。また、セルロース繊維組成物の有機溶剤(B)含有量が20000ppmを上回ると、熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)との混練の際に、過剰な有機溶剤(B)が可塑剤として機能し、セルロース繊維複合組成物の機械的物性を低下させてしまう。好ましくは、5~19000ppmであり、25~18000ppmが更に好ましく、50~16000ppmが最も好ましい。なお、過剰な有機溶剤(B)の存在は発火や爆発の危険性を伴うため、できる限り本発明の効果が十分に得られる最小限の含有量にとどめることが好ましい。
【0029】
セルロース繊維組成物の熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)への分散性を把握する上で、セルロース繊維組成物に含まれる繊維凝集物の量が目安となり、これが少ないほど分散性が良い傾向に有る。
セルロース繊維組成物中の繊維凝集物はセルロース繊維組成物に対して30質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは25質量%以下である。繊維凝集物が30質量%を超えるセルロース繊維(A)を機械的に粉砕し、繊維凝集物を30質量%以下とすることは可能である。しかしながら、このような過程で得たセルロース繊維(A)は適切な分散性を示さず、熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)の補強効果は劣ったものとなる。
なお、本発明における繊維凝集物とは、目開き600μmで金属線の直径が400μmである金属製ふるい網を通過できないセルロース繊維組成物の凝集物である。
【0030】
<その他成分(C)>
その他成分(C)はセルロース繊維組成物の製造において除去しきれず残存した水などのセルロース繊維(A)及び有機溶剤(B)以外の留去可能な成分である。セルロース繊維組成物のその他成分(C)の含有量は、(A)~(C)の合計を100質量%として、100質量%から(A)、(B)の合計を際し引いた残分である。その他成分(C)の含有量は、セルロース繊維複合組成物を製造する際の熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)へのセルロース繊維(A)の分散性や、セルロース繊維(A)の機械的物性向上に対する寄与の観点から、できる限り少ないことが好ましい。
【0031】
本発明のセルロース繊維組成物は、例えば、水を含んだ湿潤状態のセルロース繊維(A)に有機溶剤(B)を添加し、撹拌しながら減圧下で加熱することにより水と有機溶剤(B)をセルロース繊維組成物中のセルロース繊維(A)含有量が80質量%以上となるまで留去することで製造することができる。使用する有機溶剤(B)の量は特に限定されないが、作業効率やエネルギー効率の観点から、セルロース繊維(A)100質量部に対して有機溶剤(B)を7~50000質量部使用することが好ましく、10~10000質量部使用することがより好ましく、12~1000質量部使用することが更に好ましく、15~500質量部使用することが最も好ましい。
【0032】
<セルロース繊維複合組成物の製造方法>
セルロース繊維複合組成物は、セルロース繊維組成物と熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)とを混練することで得られる。
【0033】
<熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)>
熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)は、成形材料として用いることができるものであれば特に限定されない。なお、本発明において熱可塑性樹脂とは、加熱により軟化する樹脂をいい、熱可塑性プラスチックや熱可塑性エラストマー(ゴム状弾性を示す高分子をエラストマーという)を意味する。また、ゴムとは、熱硬化性樹脂(熱を加えることで化学反応を起こし硬化する特性を持った樹脂)のうち、エラストマーに分類されるものを意味する。さらに、本発明において「熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)」は、「熱可塑性樹脂」、「ゴム」、又は「熱可塑性樹脂とゴムの混合物」のいずれかである。熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの各種ポリオレフィン;ポリアミド11やポリアミド12などの各種ポリアミド;ポリブチレンサクシネートやポリ乳酸などの各種ポリエステル;ポリメチルメタクリレートやポリエチルメタクリレートなどの各種ポリ(メタ)アクリレート;ポリオキシメチレンなどの各種ポリエーテル;ポリプロピレンカーボネート、ポリカーボネートジオールなどの各種ポリカーボネート;ポリスチレン;石油樹脂、クマロン樹脂;テルペン樹脂;ロジン樹脂;ポリビニルアルコール;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリウレタン;ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、ポリブチレンテレフタレートとポリブチレングリコールのブロックコポリマーをはじめとするエステル系エラストマー;ポリウレタンエラストマー;ポリアミドエラストマーが挙げられる。これらのなかでも、ポリオレフィン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマーが好ましく、ポリオレフィンが特に好ましい。
【0035】
ゴムとしては、例えば、原料モノマーにジエン化合物を含むゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、及びそれらの変性物から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。これらのなかでも、原料モノマーにジエン化合物を含むゴム及びそれらの変性物が好ましい。原料モノマーにジエン化合物を含むゴムとしては、例えば、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、エチレン-ヘキセン-ジエン共重合体、エチレン-オクテン-ジエン共重合体、及びそれらの変性物から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせである。特に、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体が好ましい。
【0036】
セルロース繊維複合組成物は、成形性や機械的物性の観点から、セルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)=0.05~60:40~99.95質量%となる割合で含むことが好ましい。セルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)=0.1~55:45~99.9質量%となる割合で含むことがより好ましく、セルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)=0.5~51:49~99.5質量%となる割合で含むことが更に好ましい。
【0037】
混練方法としては公知の混練装置を用いることができ、例えば東洋精機(株)製のラボプラストミルや(株)安田精機製作所製のロールミル、(株)テクノベル製の二軸押出機等が挙げられる。混練時の温度は特に限定されないが、セルロース繊維(A)の繊維径が微細化して熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)へより均一に分散し、より高い補強効果を発現することから、用いる熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)の融点以上で溶融させて混練することが好ましい。
【0038】
溶融混練によりセルロース繊維(A)が微細化していることは、セルロース繊維複合組成物を厚さ0.1mmの薄膜とし、薄膜を目視観察することで確認することができる。本発明では、薄膜中にセルロース繊維(A)が視認できなくなっている状態を微細化しているものとする。
【0039】
本発明のセルロース繊維複合組成物には、本発明の効果に支障のない限りにおいて、その他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、安定剤、相溶化剤、発泡助剤、無機充填剤、顔料などが挙げられる。なお、安定剤とは、セルロース繊維(A)の保管時や加工時の品質を劣化させないために用いるものであり、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、クエンチャー、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤が挙げられる。
【0040】
本発明のセルロース繊維複合組成物は、軽量化、断熱性、防音性、絶縁性、及び衝撃吸収性等の機能が要求される分野において好適に用いることができ、例えば、輸送用機器、電化製品、シール・パッキン材、印刷機器、楽器、複写機器、医療用品、履物、スポーツ用品、建築材、事務用品、保温材、吸音材、雑貨、容器、衣料用品等の用途に合わせた部品として成形することで、有効に使用することが出来る。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例で用いる有機溶剤の沸点や水100gに対する溶解度(25℃)、表面張力(25℃)、活性プロトンの有無を表1に示す。
【0043】
【0044】
なお、表中の「任意」とは、水と任意の割合で混合することを示す。
以下、表1、及び表2中の略号は以下の溶剤を表す。
DEGDM:ジエチレングリコールジメチルエーテル
DEGDE:ジエチレングリコールジエチルエーテル
DEGBM:ジエチレングリコールブチルメチルエーテル
DPGDM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル
EGMAc:エチレングリコールメチルエーテルアセテート
PEGDM:ポリエチレングリコールジメチルエーテル・・・東邦化学工業株式会社製、ハイソルブ(登録商標。以下、略することがある)MPM、グリコールユニットの平均繰り返し単位数:4.4
AC:アセトン
EG:エチレングリコール
PGDM:プロピレングリコールジメチルエーテル
DEGDB:ジエチレングリコールジブチルエーテル
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DEGB:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
【0045】
評価方法は、以下の通りである。
(1)変性反応進行の確認
変性反応の進行はPerkin Elmer社製フーリエ変換赤外分光分析装置「Spectrum one」を用いて観察した。具体的には1650~1750cm-1に生じるエステル結合のカルボニル炭素と酸素の伸縮振動に由来するピーク強度が変性反応の進行に伴い増強することを確認した。
(2)不揮発分の測定
不揮発分の測定には赤外線水分計((株)ケット科学研究所製:「FD-620」)を用いた。なお、設定温度は150℃とした。
(3)セルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量の測定
セルロース繊維組成物4.0gを目開き600μmで金属線の直径が400μmである金属製ふるい網に置き、下から掃除機で吸った後に、ふるい網を通過せずに残ったセルロース繊維組成物の質量を4.0gで除し、セルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量測定した。セルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量は30質量%以下を実用レベルとする。
(4)曲げ弾性率の測定
セルロース繊維複合組成物は射出成形機を用いてJIS規格 K7171に記載のバー型試験片とし、JIS K7171に準拠して、オリエンテック株式会社製万能材料試験機「テンシロン(登録商標)RTM-50」で曲げ弾性率を測定した。曲げ弾性率は材料の硬さを表す機械的物性であり、2.5GPa以上を実用レベルとする。
(5)50%モジュラスの測定
シート化したセルロース繊維複合組成物を過酸化物架橋した上で打ち抜き、長さ:70mm、幅:5mm、厚さ:1mmの試験片を作製した。得られた試験片からオリエンテック株式会社製万能材料試験機「テンシロン(登録商標)RTM-50」を用いた引張試験により50%モジュラスを測定した。50%モジュラスは材料の硬さを表す機械的物性であり、1.0MPa以上を実用レベルとする。
(6)セルロース繊維複合組成物中のセルロース繊維(A)の繊維径評価
セルロース繊維複合組成物1.0gを厚さ0.1mmの薄膜とし、薄膜の目視観察によってセルロース繊維(A)の繊維径が微細化しているか否か評価した。薄膜中にセルロース繊維(A)が視認できなくなる程度に繊維径が細くなっている場合を微細化している(良)とし、セルロース繊維(A)が視認できる場合を微細化していない(可)とした。
(7)有機溶剤(B)の含有量測定
セルロース繊維組成物に含まれる有機溶剤(B)の量は(株)島津製作所製ガスクロマトグラフGC-2014を用いて測定した。
【0046】
[セルロース繊維組成物の製造]
(製造例1)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだ針葉樹晒クラフトパルプ(以下、NBKPと記載する)500.0質量部(不揮発分100.0質量部、ここで、不揮発分は全てセルロース繊維(A)とする。以下同じ。)とジエチレングリコールジメチルエーテル100.0質量部を混合し、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で120℃、3時間加熱することで、水と有機溶剤を留去してセルロース繊維組成物(X-1)を得た。セルロース繊維組成物(X-1)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0047】
(製造例2)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とジエチレングリコールジエチルエーテル100.0質量部を混合し、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、6時間加熱することで、水と有機溶剤を留去してセルロース繊維組成物(X-2)を得た。セルロース繊維組成物(X-2)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0048】
(製造例3~5、7)
有機溶剤(B)を表1に示すものに代えたほかは、製造例2と同様にしてセルロース繊維組成物X-3~X-5、X-7を得た。セルロース繊維組成物(X-3~X-5、X-7)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0049】
(製造例6)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだ針葉樹晒クラフトパルプ(以下、NBKPと記載する)500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とポリエチレングリコールジメチルエーテル(東邦化学工業株式会社製ハイソルブMPM)100.0質量部を混合し、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、46時間加熱することで、水と有機溶剤を留去してセルロース繊維組成物(X-6)を得た。セルロース繊維組成物(X-6)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0050】
(製造例8)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とジエチレングリコールジメチルエーテル100.0質量部を混合し、系内を-0.090MPa以下の真空度で40℃、3時間保持した後、無水酢酸600.0質量部を投入して常圧下100℃で14時間反応させた後に、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、12時間加熱することで、水と有機溶剤を留去してセルロース繊維組成物(X-8)を得た。セルロース繊維組成物(X-8)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0051】
(製造例9)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とジエチレングリコールジエチルエーテル100.0質量部を混合し、系内を-0.090MPa以下の真空度で40℃、3時間保持した後、ヘキサデセニルコハク酸無水物25.0質量部を投入して常圧下90℃で2時間反応させてセルロース繊維と共有結合させ、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、6時間加熱することで、水と有機溶剤を留去した。その後、水を10質量部加えてセルロース繊維組成物(X-9)を得た。セルロース繊維組成物(X-9)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0052】
(製造例10)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とジエチレングリコールジエチルエーテル100.0質量部を混合し、系内を-0.090MPa以下の真空度で40℃、3時間保持した後、無水マレイン酸変性ポリブタジエン(Total Cray Valley社製、Ricon(登録商標。以下、略することがある)130MA8)を40.0質量部投入して常圧下100℃で2時間反応させてセルロース繊維と共有結合させ、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、6時間加熱することで、水と有機溶剤を留去してセルロース繊維組成物(X-10)を得た。セルロース繊維組成物(X-10)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0053】
(製造例11)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とジエチレングリコールジエチルエーテル15.0質量部と無水マレイン酸変性ポリブタジエン(Ricon130MA8)40.0質量部を混合し、系内を-0.090MPa以下の真空度で40℃、3時間保持した後、常圧下100℃で2時間反応させて無水マレイン酸変性ポリブタジエンをセルロース繊維と共有結合させ、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、6時間加熱することで、水と溶剤を留去してセルロース繊維組成物(X-11)を得た。セルロース繊維組成物(X-11)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0054】
(比較製造例1)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)を攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、6時間加熱することで、水を留去し、セルロース繊維組成物(x-1)を得た。セルロース繊維組成物(x-1)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0055】
(比較製造例2)
セルロース繊維(x-1)をフードプロセッサーにて粉砕し、繊維凝集物の含有量を5質量%にすることでセルロース繊維組成物(x-2)を得た。セルロース繊維組成物(x-2)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0056】
(比較製造例3、4、6、8)
有機溶剤(B)を表2に示すものに代えたほかは、製造例2と同様にしてセルロース繊維組成物x-3、x-4、x-6、x-8を得た。セルロース繊維組成物(x-3、x-4、x-6、x-8)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0057】
(比較製造例5)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とエチレングリコール100.0質量部を混合し、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、24時間加熱することで、水と有機溶剤を留去してセルロース繊維組成物(x-5)を得た。セルロース繊維組成物(x-5)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0058】
(比較製造例7)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とジエチレングリコールジブチルエーテル100.0質量部を混合し、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、20時間加熱することで、水と有機溶剤を留去してセルロース繊維組成物(x-7)を得た。セルロース繊維組成物(x-7)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0059】
(比較製造例9)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とジエチレングリコールジエチルエーテル100.0質量部を混合し、系内を-0.090MPa以下の真空度で40℃、3時間保持した後、ヘキサデセニルコハク酸無水物25.0質量部を投入して常圧下90℃で2時間反応させてセルロース繊維と共有結合させ、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、6時間加熱することで、水と溶剤を留去し、水を25質量部投入してセルロース繊維組成物(x-9)を得た。セルロース繊維組成物(x-9)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0060】
(比較製造例10)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とN-メチルピロリドン100.0質量部を混合し、系内を-0.090MPa以下の真空度で40℃、3時間保持した後、無水マレイン酸変性ポリブタジエン(Ricon130MA8)を40.0質量部投入して常圧下100℃で2時間反応させてセルロース繊維と共有結合させ、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、6時間加熱することで、水と溶剤を留去してセルロース繊維組成物(x-10)を得た。セルロース繊維組成物(x-10)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0061】
(比較製造例11)
攪拌機、温度計、蒸留器を備えた反応容器に、水を含んだNBKP500.0質量部(不揮発分100.0質量部)とジエチレングリコールモノブチルエーテル100.0質量部を混合し、系内を-0.090MPa以下の真空度で40℃、3時間保持した後、無水マレイン酸変性ポリブタジエン(Ricon130MA8)を40.0質量部投入して100℃で常圧下2時間反応させてセルロース繊維と共有結合させ、攪拌しながら-0.090MPa以下の真空度で130℃、6時間加熱することで、水と溶剤を留去してセルロース繊維組成物(x-11)を得た。セルロース繊維組成物(x-11)の組成及びセルロース繊維組成物中の繊維凝集物の含有量を表2に示す。
【0062】
【0063】
[セルロース繊維複合組成物の製造と評価]
<熱可塑樹脂及び/又はゴム(E)にポリプロピレンを用いたセルロース繊維複合組成物>
(実施例1)
セルロース繊維組成物(X-1)52質量部(セルロース繊維(A)として50質量部)とマレイン化ポリプロピレン(東洋紡株式会社製、トーヨータック(登録商標。以下、略することがある) PMA H-1000P)50質量部をラボプラストミル(東洋精機(株)製)にて170℃で溶融混練し、更にポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、プライムポリプロ(登録商標。以下、略することがある)J108M)150質量部を加えて190℃で溶融混練し、セルロース繊維を20質量%含むセルロース繊維複合組成物を得た。セルロース繊維複合組成物の原料仕込み組成比、セルロース繊維(A):熱可塑樹脂及び/又はゴム(E)比、及び試験片としたときの曲げ弾性率を表3に示す。
【0064】
(実施例2~9、比較例1~8)
セルロース繊維組成物の種類と仕込み量(セルロース繊維(A)として50質量部)を表3の通りに代えたほかは、実施例1と同様にして、セルロース繊維を20質量%含むセルロース繊維複合組成物を得た。各セルロース繊維複合組成物の原料仕込み組成比、セルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)比、及び試験片としたときの曲げ弾性率を表3に示す。
【0065】
(参考例)
ポリプロピレン(プライムポリプロJ108M)をそのまま用い、参考例とした。セルロース繊維(A)を含有しない参考例の試験片の曲げ弾性率を表3に示す。
【0066】
【0067】
表3中のMPPはマレイン化ポリプロピレン(東洋紡株式会社製、トーヨータック PMA H-1000P)を示す。
【0068】
<熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)にゴムを用いたセルロース繊維複合組成物>
(実施例10)
セルロース繊維組成物(X-2)10質量部(セルロース繊維(A)として10.0質量部)、酸化亜鉛5.0質量部、ステアリン酸1.0質量部、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(JSR株式会社製、EP24) 100.0質量部、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(三井化学株式会社製、X-3012P)10.0質量部、ジクミルパーオキサイド2.0質量部をロールミルにて25℃で混練し、得られたゴムシートを170℃で20分間架橋成形することで、セルロース繊維(A)を7.8質量%含む過酸化物架橋ゴムを得た。セルロース繊維複合組成物の原料仕込み組成比、セルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)比、及び試験片としたときの50%モジュラスを表4に示す。
【0069】
(実施例11~13)
セルロース繊維組成物の種類と仕込み量(セルロース繊維(A)として10.0質量部)を表4の通りに代えたほかは、実施例10と同様にして、セルロース繊維(A)を7.8質量%含む過酸化物架橋ゴムを得た。セルロース繊維複合組成物の原料仕込み組成比、セルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)比、及び試験片としたときの50%モジュラスを表4に示す。
【0070】
(実施例14)
セルロース繊維(X-10)12質量部(セルロース繊維(A)として10.0質量部)とエチレン-プロピレン-ジエン共重合体(X-3012P)10.0質量部をラボプラストミルにて100℃で溶融混練し、一次混練物とした。この一次混練物へ更に酸化亜鉛5.0質量部、ステアリン酸1.0質量部、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EP24)100.0質量部、ジクミルパーオキサイド2.0質量部を加えてロールミルにて25℃で混練し、得られたゴムシートを170℃で20分間架橋成形することで、セルロース繊維(A)を7.8質量%含む過酸化物架橋ゴムを得た。セルロース繊維複合組成物の原料仕込み組成比、セルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)比、及び試験片としたときの50%モジュラスを表4に示す。
【0071】
(比較例9)
セルロース繊維組成物(x-1)10質量部(セルロース繊維(A)として10.0質量部)、酸化亜鉛5.0質量部、ステアリン酸1.0質量部、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EP24)100.0質量部、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(X-3012P)10.0質量部、ジクミルパーオキサイド2.0質量部をロールミルにて25℃で混練し、得られたゴムシートを170℃で20分間架橋成形することで、セルロース繊維(A)を7.8質量%含む過酸化物架橋ゴムを得た。セルロース繊維複合組成物の原料仕込み組成比、セルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)比、及び試験片としたときの50%モジュラスを表4に示す。
【0072】
(比較例10~12)
セルロース繊維組成物の種類と仕込み量(セルロース繊維(A)として10.0質量部)を表4の通りに代えたほかは、比較例9と同様に、セルロース繊維(A)を7.8質量%含む過酸化物架橋ゴムを得た。セルロース繊維複合組成物の原料仕込み組成比、セルロース繊維(A):熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)比、及び試験片としたときの50%モジュラスを表4に示す。
【0073】
(参考例)
エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EP24)100.0質量部とエチレン-プロピレン-ジエン共重合体(X-3012P)10.0質量部の混練物を参考例とした。セルロース繊維(A)を含有しない参考例の試験片の50%モジュラスを表4に示す。
【0074】
【0075】
ロールミルにより混練した実施例12のセルロース繊維複合組成物と、一次混練物においてラボプラストミルにより溶融混練した実施例14のセルロース繊維複合組成物とに含まれるセルロース繊維(A)の繊維径の評価結果を表5に示す。
【0076】
【0077】
実施例1~9と比較例1~8の対比、及び実施例10~14と比較例9~12との対比により、本発明の条件を満足するセルロース繊維組成物は熱可塑性樹脂やゴムを効率的に補強し、優れた機械的物性を示すことがわかる。
【0078】
実施例3と比較例7より、有機溶剤(B)は25℃における水100gに対する溶解度が5g以上である必要が有ることがわかる。
【0079】
実施例1と比較例3及び6より、有機溶剤(B)の沸点が高いとセルロース繊維(A)の分散性が上がり、機械的物性も向上することがわかる。
【0080】
実施例2と実施例8~9、実施例10と実施例11~13より、セルロース繊維(A)が、カルボン酸無水物(D)でアシル化されたセルロース繊維であると、そうでない場合に比べて、機械的物性がより優れることがわかる。
【0081】
実施例12と比較例12より、有機溶剤(B)は活性プロトンを有してはならないことがわかる。
【0082】
実施例12と実施例14より、セルロース繊維複合組成物の製造において、セルロース繊維組成物と熱可塑性樹脂及び/又はゴム(E)とを溶融混練することにより、セルロース繊維複合組成物に含まれるセルロース繊維(A)の繊維径は十分に微細化されるため、機械的物性により優れることがわかる。