(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】磁化制御デバイス及び磁気メモリ装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/82 20060101AFI20240913BHJP
H10B 61/00 20230101ALI20240913BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240913BHJP
H10N 50/20 20230101ALI20240913BHJP
H01F 10/12 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H10B61/00
H10N50/10 Z
H10N50/20
H01F10/12
(21)【出願番号】P 2021063691
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】本多 周太
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0145575(US,A1)
【文献】特開2020-053509(JP,A)
【文献】特開2017-112358(JP,A)
【文献】特開2018-088507(JP,A)
【文献】特開2020-194927(JP,A)
【文献】国際公開第2020/208674(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/104428(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/82
H10B 61/00
H10N 50/10
H10N 50/20
H01F 10/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に磁化された第1の強磁性体と、
前記第1方向に交差する第2方向に延伸する第1の非磁性金属と、
を備え、
前記第1の非磁性金属は、前記第1方向において、前記第1の強磁性体よりも短い長さを有する第1の注入領域を有し、
前記第1の非磁性金属は、前記第1の注入領域において前記第1の強磁性体の一部分と対向して
おり、
前記第1の注入領域は、前記第1の強磁性体の前記第2方向に沿って形成された一方の端部と対向しており、
上面視において、前記第1の注入領域の面積は、前記第1の強磁性体の面積の5%以上、45%以下である磁化制御デバイス。
【請求項2】
上面視において、前記第1の注入領域の面積は、前記第1の強磁性体の面積の5%以上、20%以下である請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項3】
第1方向に磁化された第1の強磁性体と、
前記第1方向に交差する第2方向に延伸する第1の非磁性金属と、
前記第2方向に延伸する第2の非磁性金属と、
を備え、
前記第1の非磁性金属は、前記第1方向において、前記第1の強磁性体よりも短い長さを有する第1の注入領域を有し、
前記第1の非磁性金属は、前記第1の注入領域において前記第1の強磁性体の一部分と対向しており、
前記第2の非磁性金属は、前記第1方向において、前記第1の強磁性体よりも短い長さを有する第2の注入領域を有し、
前記第1の注入領域は、前記第1の強磁性体の前記第2方向に沿って形成された一方の端部と対向しており、
前記第2の注入領域は、前記第1の強磁性体の前記第2方向に沿った他方の端部と対向しており、
上面視において、前記第1の注入領域の面積と、前記第2の注入領域の面積との和が、前記第1の強磁性体の面積未満である磁化制御デバイス。
【請求項4】
上面視において、前記第1の注入領域の面積と、前記第2の注入領域の面積との和が、前記第1の強磁性体の面積の10%以上、40%以下である請求項3に記載の磁化制御デバイス。
【請求項5】
前記第1の非磁性金属と、前記第2の非磁性金属は、少なくとも一部において連結している請求項3に記載の磁化制御デバイス。
【請求項6】
前記第1の非磁性金属は、その前記第1方向の長さが一様な態様で前記第2方向に延伸する請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項7】
前記第1の強磁性体の他の一部分及び前記第1の非磁性金属と接合する接合体をさらに備え、
前記接合体が絶縁体又は半導体である請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項8】
前記第1の強磁性体が、前記第1の非磁性金属の側面を覆うように形成される請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項9】
前記第1の非磁性金属が、前記第1の強磁性体の前記一部分と対向する幅狭部と、前記幅狭部に接続されて前記第1方向の長さが前記幅狭部よりも長い幅広部とを有する請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項10】
前記第1の非磁性金属が重金属を含む請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項11】
前記第1の強磁性体が、前記第1の非磁性金属の第1面に形成され、
前記第1の非磁性金属の第1面の反対側の第2面の一部分に形成されたスピン拡散領域をさらに備え、
前記スピン拡散領域の少なくとも一部が、前記第1の強磁性体と上面視で重複する位置に配置されている請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項12】
前記第1の強磁性体の磁化を反転させるための反転スピン流が、前記第1の非磁性金属から前記第1の強磁性体に注入され、
前記第1の強磁性体の磁化の反転を補助するための補助スピン流を前記第1の強磁性体に注入するために、前記第1の強磁性体と対向して前記第1方向に延伸する他の非磁性金属をさらに備える請求項1に記載の磁化制御デバイス。
【請求項13】
第1方向に磁化された第1の強磁性体と、
前記第1方向に交差する第2方向に延伸する第1の非磁性金属と、
前記第1の強磁性体の、前記第1の非磁性金属と接する面の反対側の面に形成された絶縁体と、
前記絶縁体の、前記第1の強磁性体と接する面の反対側の面に形成された第2の強磁性体と、
を備え、
前記第1の非磁性金属は、前記第1方向において、前記第1の強磁性体よりも短い長さを有する第1の注入領域を備え、
前記第1の非磁性金属は、前記第1の注入領域において前記第1の強磁性体の一部分と対向しており、
前記第1の注入領域は、前記第1の強磁性体の前記第2方向に沿って形成された一方の端部と対向しており、
上面視において、前記第1の注入領域の面積は、前記第1の強磁性体の面積の5%以上、45%以下である磁気メモリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン軌道トルク(SOT、Spin orbit torque)磁化反転に基づく磁化制御デバイス及び磁気メモリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピン軌道トルクにより磁化の向きを制御させる方法に基づく磁化制御デバイスが知られている(特許文献1及び2)。
【0003】
特許文献1及び2に記載の磁化制御デバイスは、磁化の向きが可変な強磁性金属層と強磁性金属層にスピン軌道トルクを与える金属配線を備える。また、SOT型の磁気メモリ装置SOT-MRAM(Spin Orbit Torque-Magnetic Random Accesses Memory)は、これらに加え、強磁性金属層の金属配線と逆側に非磁性絶縁層とその先に磁化の向きが固定された第2の強磁性金属層とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-31234号公報
【文献】国際公開第2017/090739号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のSOT-MRAMのようなスピン軌道トルク磁化反転や磁化制御に基づく磁化制御デバイスは、より少ない電流で強磁性体の磁化の反転や磁化の向きの制御を高速化、省エネルギー化することが求められる。ここで、「磁化の向きの制御」とは、磁化の向きを一定方向に変更することも含まれる。
【0006】
本発明の一態様は、強磁性体の磁化の向きを高速に反転、制御することができる磁化制御デバイス及び磁気メモリ装置を実現することを目的とする。また、ここで「反転」とは、180度回転することに限らず、ある程度角度を変えること(転向すること)も含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、第1方向に磁化された第1の強磁性体と、前記第1方向に交差する第2方向に延伸する第1の非磁性金属と、を備え、前記第1の非磁性金属は、前記第1方向において、前記第1の強磁性体よりも短い長さを有する第1の注入領域を有し、前記第1の非磁性金属は、前記第1の注入領域において前記第1の強磁性体の一部分と対向している。
【0008】
この特徴によれば、第1の非磁性金属に電流を流すと、第1方向を向いたスピンが第1の非磁性金属の第1の強磁性体側の面に蓄積され、第1方向の反対方向を向いたスピンが第1の非磁性金属の第1の強磁性体と反対側の面に蓄積される。そして、第1の非磁性金属の第1の強磁性体側の面に蓄積された第1方向のスピンが第1の非磁性金属の第1の注入領域から第1の強磁性体の一部分を通って第1の強磁性体に注入される。第1の強磁性体の一部分を通って注入されたスピンが第1の強磁性体で拡散されることで、第1の強磁性体の全面を通って第1方向のスピンが注入される場合よりも高速に第1の強磁性体の磁化が反転する。この結果、第1の強磁性体の磁化を高速に反転、制御することができる磁化制御デバイスを実現することができる。
【0009】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の注入領域は、前記第1の強磁性体の前記第2方向に沿って形成された一方の端部と対向していることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、第1の非磁性金属の第1の強磁性体側の面に蓄積された第1方向のスピンが第1の非磁性金属から第1の強磁性体の一方の端部を通って第1の強磁性体に注入される。このため、第1の強磁性体の一方の端部を通って注入されたスピンが第1の強磁性体2で拡散されることで、第1の強磁性体の全面を通って第1方向のスピンが注入される場合よりも高速に第1の強磁性体の磁化が反転する。
【0011】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の注入領域の面積は、前記第1の強磁性体の面積の45%以下であることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、第1の注入領域の面積が第1の強磁性体の面積と等しい従来の構成よりも、第1の強磁性体の磁化の反転時間が短縮される。
【0013】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の注入領域の面積は、前記第1の強磁性体の面積の20%以下であることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、第1の注入領域の面積が第1の強磁性体の面積と等しい従来の構成よりも、第1の強磁性体の磁化の反転時間がより一層短縮される。
【0015】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1方向に交差する第2方向に延伸する第2の非磁性金属を、さらに備え、前記第2の非磁性金属は、前記第1方向において、前記第1の強磁性体よりも短い長さを有する第2の注入領域を有し、前記第2の非磁性金属は、前記第2の注入領域において前記第1の強磁性体の一部分と対向していることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、第1の非磁性金属と第2の非磁性金属とのそれぞれを第1方向に沿った幅寸法が一様な態様で構成できるので、第1及び第2非磁性金属の構造が簡素になり、第1及び第2非磁性金属の形成が容易になる。
【0017】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の注入領域は、前記第1の強磁性体の前記第2方向に沿って形成された一方の端部と対向しており、前記第2の注入領域は、前記第1の強磁性体の前記第2方向に沿った他方の端部と対向していることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、第1の非磁性金属の第1の強磁性体側の面に蓄積された第1方向のスピンが第1の非磁性金属から第1の強磁性体の一方の端部と他方の端部とを通って第1の強磁性体に注入される。このため、第1の強磁性体の両端部を通って注入されたスピンが第1の強磁性体2で拡散されることで、第1の強磁性体の全面を通って第1方向のスピンが注入される場合よりも高速に第1の強磁性体2の磁化が反転する。
【0019】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の注入領域の面積と、前記第2の注入領域の面積との和が、前記第1の強磁性体の面積の40%以下であることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、第1の注入領域の面積と第2の注入領域の面積との和が第1の強磁性体の面積と等しい従来の構成よりも、第1の強磁性体の磁化の反転時間が短縮される。
【0021】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の非磁性金属と、前記第2の非磁性金属は、少なくとも一部において連結していることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、第1の強磁性体の第1方向に沿った中央部に対向するように第2方向に延伸して形成された非磁性金属の孔の第1方向に沿った両側から、第1の強磁性体の両端部を通ってスピンを注入することができる。
【0023】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の注入領域は、前記第1の強磁性体の前記第2方向に沿って形成された中央部と対向していることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、第1の非磁性金属の第1の強磁性体側の面に蓄積された第1方向のスピンが第1の非磁性金属から第1の強磁性体の第1方向に沿った中央部を通って第1の強磁性体に注入される。このため、第1の強磁性体の第1方向に沿った中央部を通って注入されたスピンが第1の強磁性体2で拡散されることで、第1の強磁性体の全面を通って第1方向のスピンが注入される場合よりも高速に第1の強磁性体の磁化が反転する。
【0025】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の注入領域の面積は、前記第1の強磁性体の面積の30%以下であることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、第1の注入領域の面積が第1の強磁性体の面積と等しい従来の構成よりも、第1の強磁性体の磁化の反転時間が短縮される。
【0027】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の非磁性金属は、その前記第1方向の長さが一様な態様で前記第2方向に延伸することが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、第1の非磁性金属の構造が簡素になり、第1の非磁性金属の形成が容易になる。
【0029】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の強磁性体の他の一部分及び前記第1の非磁性金属と接合する接合体をさらに備え、前記接合体が絶縁体又は半導体であることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、絶縁体又は半導体である接合体が、第1の強磁性体の他の一部分及び第1の非磁性金属と接合し、第1の非磁性金属と協働して第1の強磁性体を支持することができる。
【0031】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の強磁性体が、前記第1の非磁性金属の側面を覆うように形成されることが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、第1の強磁性体を支持する接合体が不要になり、磁化制御デバイスの構成が簡素になる。
【0033】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の非磁性金属が、前記第1の強磁性体の前記一部分と対向する幅狭部と、前記幅狭部に接続されて前記第1方向の長さが前記幅狭部よりも長い幅広部とを有することが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、幅広部を流れる電流が幅狭部に集まるので、第1の強磁性体の一部分を通って注入されるスピンの注入密度が増加し、第1の強磁性体の磁化反転が高速化する。
【0035】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の非磁性金属が重金属を含むことが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、重金属に電流を流すと、重金属の第1の強磁性体側の面に蓄積された第1方向のスピンが重金属から第1の強磁性体の一部分を通って第1の強磁性体に注入される。第1の強磁性体の一部分を通って注入されたスピンが第1の強磁性体で拡散されることで、第1の強磁性体の全面を通って第1方向のスピンが注入される場合よりも高速に第1の強磁性体2の磁化が反転する。
【0037】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の強磁性体が、前記第1の非磁性金属の第1面に形成され、前記第1の非磁性金属の第1面の反対側の第2面の一部分に形成されたスピン拡散領域をさらに備えることが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、第1の非磁性金属を流れる電流の伝導電子に作用するスピン軌道相互作用により第1方向スピンが第1の非磁性金属の第1面の側に蓄積される(スピンホール効果)。第1面の側に蓄積された第1方向スピンが、第1の強磁性体の磁化の向きを変更させるために第1の強磁性体の一部分を通って注入される。すると、第1の強磁性体から第1方向スピンと逆向きのスピンが第1の非磁性金属へ戻ってくる。第1の強磁性体から戻ってくるスピンや、第1の強磁性体から戻ってくるスピンと同じスピンの流れのスピンを逆流スピンと呼ぶことにする。
【0039】
一方、第1方向スピンと逆方向を向いた第2方向スピンがスピン軌道相互作用により第1の非磁性金属の第2面の側に蓄積され、第2面の側に蓄積された第2方向スピンが、第2面からスピン拡散領域に移動する。これに伴い、逆流スピンが第1の非磁性金属の第1面から第2面に移動するので、第1の非磁性金属の第1面の第1方向スピンの割合を増加させることができる。この結果、第1の強磁性体へ注入されるスピンの偏りや第1方向スピンの量を増大させて、第1の強磁性体の磁化の反転や磁化の向きの制御をより一層高速化、省エネルギー化することができる。
【0040】
本発明の一態様に係る磁化制御デバイスは、前記第1の強磁性体の磁化を反転させるための反転スピン流が、前記第1の非磁性金属から前記第1の強磁性体に注入され、前記第1の強磁性体の磁化の反転を補助するための補助スピン流を前記第1の強磁性体に注入するために、前記第1の強磁性体と対向して前記第1方向に延伸する他の非磁性金属をさらに備えることが好ましい。
【0041】
上記構成によれば、第1の強磁性体の磁化の向き(第1方向)に交差する交差方向に磁化された補助スピン流が第1の強磁性体に注入される。このため、第1方向と反対の方向に磁化された反転スピン流による第1の強磁性体の磁化方向の反転行程が、第1方向に交差する交差方向に磁化された補助スピン流を注入する行程により補助される。この結果、第1の強磁性体の磁化をより一層高速に反転させることができる。
【0042】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁気メモリ装置は、第1方向に磁化された第1の強磁性体と、前記第1方向に交差する第2方向に延伸する第1の非磁性金属と、前記第1の強磁性体の、前記第1の非磁性金属と接する面の反対側の面に形成された絶縁体と、前記絶縁体の、前記第1の強磁性体と接する面の反対側の面に形成された第2の強磁性体と、を備え、前記第1の非磁性金属は、前記第1方向において、前記第1の強磁性体よりも短い長さを有する第1の注入領域を備え、前記第1の非磁性金属は、前記第1の注入領域において前記第1の強磁性体の一部分と対向している。
【発明の効果】
【0043】
本発明の一態様によれば、強磁性体の磁化の向きを高速もしくは低消費電力で反転、制御することができる磁化制御デバイス及び磁気メモリ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】実施形態1に係る磁化制御デバイスの斜視図である。
【
図2】上記磁化制御デバイスに設けられた第1の強磁性体と非磁性金属との間の関係を示す平面図である。
【
図3】上記磁化制御デバイスを有する磁気メモリ装置の側面図である。
【
図5】
図4に示される線AAに沿った断面図である。
【
図6】比較例に係る磁化制御デバイスに設けられた第1の強磁性体と非磁性金属との間の関係を示す平面図である。
【
図7】上記磁化制御デバイスの反転時間のシミュレーションの条件を説明するための図である。
【
図8】上記磁化制御デバイスの反転時間のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図9】上記磁化制御デバイスの断面の変形例を示す断面図である。
【
図10】上記磁化制御デバイスの非磁性金属の形状の変形例を示す平面図である。
【
図11】上記磁化制御デバイスの非磁性金属の形状の他の変形例を示す平面図である。
【
図12】上記磁化制御デバイスの第1の強磁性体の変形例を示す斜視図である。
【
図13】実施形態2に係る磁化制御デバイスに設けられた第1の強磁性体と第1の非磁性金属と第2の非磁性金属との間の関係を示す平面図である。
【
図17】上記磁化制御デバイスの反転時間のシミュレーションの条件を説明するための図である。
【
図18】上記磁化制御デバイスの反転時間のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図19】上記磁化制御デバイスの断面の変形例を示す断面図である。
【
図20】上記磁化制御デバイスの非磁性金属の形状の変形例を示す平面図である。
【
図21】実施形態3に係る磁化制御デバイスの反転時間のシミュレーションの条件を説明するための図である。
【
図22】上記磁化制御デバイスの反転時間のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図23】実施形態4に係る磁化制御デバイスの反転時間のシミュレーションの条件を説明するための図である。
【
図24】上記磁化制御デバイスの反転時間のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図25】実施形態5に係る磁化制御デバイスの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0046】
〔実施形態1〕
(磁化制御デバイス1の構成)
図1は実施形態1に係る磁化制御デバイス1の斜視図である。
図2は磁化制御デバイス1に設けられた第1の強磁性体2と第1の非磁性金属3との間の関係を示す平面図である。
図3は磁化制御デバイス1を有する磁気メモリ装置12の側面図である。
図4は磁化制御デバイス1の平面図である。
図5は
図4に示される線AAに沿った断面図である。
【0047】
磁化制御デバイス1は、y方向(第1方向)に磁化された直方体形状の第1の強磁性体2と、x方向(第2方向)に延伸する第1の非磁性金属3とを備える。第1の非磁性金属3は、第1の強磁性体2の一部分と対向してx方向に延伸する。第1の非磁性金属3は、第1の強磁性体2のy方向側の端部5と対向してx方向に延伸する。
【0048】
言い換えれば、第1の非磁性金属3は、y方向(第1方向)において、第1の強磁性体2よりも短い長さ30を有する第1の注入領域35を有している。そして、第1の非磁性金属3は、第1の注入領域35において第1の強磁性体2の一部分と対向している。第1の注入領域35において、スピンが第1の非磁性金属3から第1の強磁性体2に注入する。
【0049】
磁化制御デバイス1は、第1の強磁性体2の他の一部分及び第1の非磁性金属3の側面と接合してz方向から見て台形状に形成された接合体4をさらに備えていてもよい。この接合体4は絶縁体又は半導体により形成される。
【0050】
第1の非磁性金属3は、第1の強磁性体2の端部5と対向してy方向の幅寸法(長さ)が短い幅狭部7と、幅狭部7に接続されてy方向に沿った幅寸法(長さ)が幅狭部7よりも長い幅広部8・9とを有する。
【0051】
第1の注入領域35は、第1の非磁性金属3の幅狭部7の第1の強磁性体2側の面に配置される。
【0052】
第1の非磁性金属3は重金属を含むことが好ましい。この重金属は例えばPt、Ph、W、及びTaを使用することができる。また、第1の非磁性金属3は、トポロジカル絶縁体でもよい。トポロジカル絶縁体は、物質の内部は絶縁体で表面は電気を通す物質である。例えば、トポロジカル絶縁体は、半金属ビスマス及びビスマス化合物がある。特にBiTeSbまたはBiSbがトポロジカル絶縁体として好適である。また、トポロジカル絶縁体は、組成変化により内部が導電性を有するようにしてもよい。
【0053】
第1の強磁性体2は、例えば、Co/Ni多層膜、CoNi系合金、Co/Pd多層膜、CoPd合金、Co/Pt多層膜、CoPt合金、Tb/FeCo多層膜、TbFeCo合金、CoFe合金、CoFeB合金、Fe/Ni多層膜、及びFeNi合金のうちの少なくとも一つで構成されることが好適である。
【0054】
図3に示すように、第1の強磁性体2の、第1の非磁性金属3と接する面の反対側の面に絶縁体10が形成される。絶縁体10の、第1の強磁性体2と接する面の反対側の面に第2の強磁性体11が形成される。第1の非磁性金属3と第1の強磁性体2と絶縁体10と第2の強磁性体11とは、SOT(Spin Orbit Torque)型の磁気メモリ装置12を構成する。第2の強磁性体11は、磁化の向きが固定された固定層を構成する。第1の強磁性体2は磁化の向きを一定方向に変更可能な自由層を構成する。磁気メモリ装置12は、磁気抵抗メモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)等に利用することができる。
【0055】
なお、理解の容易化のために、
図1、
図2、
図4、及び
図5では絶縁体10及び第2の強磁性体11を省略して示している。それ以降の対応する図面も同様である。
【0056】
第2の強磁性体11は、例えば、Co/Ni多層膜、CoNi系合金、Co/Pd多層膜、CoPd合金、Co/Pt多層膜、CoPt合金、Tb/FeCo多層膜、TbFeCo合金、CoFe合金、CoFeB合金、Fe/Ni多層膜、及びFeNi合金のうちの少なくとも一つで構成されることが好適である。第2の強磁性体11は、第1の強磁性体2と同じ素材で構成される必要はない。
【0057】
絶縁体10は、絶縁物質を主成分とする。絶縁体10は、MgO等の絶縁膜から構成されている。なお、絶縁体10を構成する材料としては、NaCl構造を有する酸化物が好ましく、前述したMgOの他、CaO、SrO、TiO、VO、NbO等が挙げられるが、絶縁体10としての機能に支障をきたさない限り、特に限定されるものではない。当該材料として、たとえば、Al2O4、スピネル型MgAl2O4などを用いてもよい。本実施形態では、第1の強磁性体2、絶縁体10、及び第2の強磁性体11でTMR(Tunnel Magneto Resistance)素子を構成している。しかし、絶縁体10の代わりにCuなどの金属を用いてGMR(Giant Magnetic Resistance)素子を構成してもよい。
【0058】
特許文献1に記載の磁化制御デバイスは、強磁性金属層がSOT生成部よりも長い箇所を有し、SOT生成部が強磁性金属層の一部分と対向して延伸する構成を開示している。しかしながら、電流が流れる方向に垂直な方向(幅方向)ではSOT生成部の方が強磁性金属層よりも長くなっており、本願発明を示唆するものではない。
【0059】
特許文献2に記載の磁化制御デバイスは、SOT生成部の寸法が厚さ方向に沿って変化しており、SOT生成部の寸法が強磁性金属層の寸法よりも短い箇所が存在し、SOT生成部が強磁性金属層の一部分と対向して延伸する構成を開示している。しかしながら、電流が流れる方向に垂直な方向(幅方向)ではSOT生成部と強磁性金属層とは等しい寸法を有しており、本願発明を示唆するものではない。
【0060】
(磁化制御デバイス1の動作)
このように構成された磁化制御デバイス1の第1の非磁性金属3に電流を-x方向に沿って流すと、伝導電子はx方向に沿って幅広部8から幅狭部7を通って幅広部9に移動する。伝導電子は、スピン軌道相互作用によって、スピンに依存した方向に曲がる。例えば、y方向を向いたスピンは、第1の非磁性金属3の幅広部8の第1の強磁性体2側の面13に蓄積される。そして、-y方向を向いたスピンは、幅広部8の第1の強磁性体2とは反対側の面14に蓄積される。面13に蓄積されたy方向のスピンは、第1の非磁性金属3の幅狭部7の第1の注入領域35から第1の強磁性体2の端部5へ注入される。注入されたy方向のスピンが第1の強磁性体2で拡散されることで、第1の強磁性体2の磁化がy方向から-y方向へ高速に反転する。
【0061】
また、x方向に沿って第1の非磁性金属3に電流を流すと、伝導電子は-x方向に沿って幅広部9から幅狭部7を通って幅広部8に移動する。y方向のスピンは、第1の非磁性金属3の幅広部9の面14に蓄積される。-y方向のスピンは、幅広部9の面13に蓄積される。面13に蓄積された-y方向のスピンは、第1の非磁性金属3の幅狭部7の第1の注入領域35から第1の強磁性体2の端部5へ注入される。注入された-y方向のスピンが第1の強磁性体2で拡散されることで、第1の強磁性体2の磁化が-y方向からy方向へ高速に反転する。
【0062】
ただし,電流の流れる向き(x、-x方向)と蓄積されるスピンの向き(y、-y方向)は、第1の非磁性金属3のスピンホール角の符号に依存し、スピンホール角が逆符号の物質においては、蓄積される向きが逆になる。つまり、電流を-x方向に沿って流すと、-y方向を向いたスピンは、第1の非磁性金属3の幅広部8の第1の強磁性体2側の面13に蓄積される。また、x方向に沿って第1の非磁性金属3に電流を流すと、y方向のスピンは、幅広部9の面13に蓄積される。
【0063】
図6は比較例に係る磁化制御デバイスに設けられた第1の強磁性体2と非磁性金属93との間の関係を示す平面図である。第1の強磁性体2と非磁性金属93とはy方向の長さ(幅寸法)が一致している。このため、y方向のスピンは、非磁性金属93から第1の強磁性体2のy方向の長さ(幅寸法)に相当する領域の全面に注入される。
【0064】
本実施形態に係る磁化制御デバイス1の第1の非磁性金属3は、第1の強磁性体2の近傍でy方向の幅寸法が細くなっている。このため、比較例に係る構造と比較して、スピンが注入される領域は狭いが、その分、同一電流あたりの注入領域(第1の注入領域35)での電流密度が大きくなる。
【0065】
(反転時間のシミュレーション結果)
図7は磁化制御デバイス1の反転時間のシミュレーションの条件を説明するための図である。
図8は磁化制御デバイス1の反転時間のシミュレーションの結果を示すグラフである。シミュレーションとして、Landau-Lifshitz-Gilbert(LLG)方程式に基づいたマイクロマグネティクスシミュレーションを用いた。
【0066】
第1の強磁性体2のy方向の寸法50nm、x方向の寸法25nmとし、第1の強磁性体2の注入領域(第1の注入領域35)のy方向に沿った長さLyを変えたときの第1の強磁性体2の磁化の反転時間をシミュレーションした。
図8の横軸は注入領域(第1の注入領域35)の長さLy(nm)、及び、スピン注入密度増加比を示し、縦軸は同一電流量(同一スピン注入量)における磁化の反転時間(ns)及び反転時間減少比を示す。長さLy=50nmは、第1の強磁性体2の底面の全体にスピンが注入される場合であり、比較例の構成に相当する。すなわち、
図8は、第1の注入領域35の面積を変化させた場合の磁化の反転時間を示している。
【0067】
長さLyを50nmから減少させると、25nmまで、磁化の反転時間は、長さLy=50nmの時よりも増大して低速化した。そして、長さLyが22.5nm以下になると、反転時間は、長さLy=50nmの時よりも低減した。すなわち、第1の非磁性金属3の第1方向(y方向)の長さを、第1の強磁性体2の第1方向(y方向)の長さの45%以下にすることにより、反転時間が低減した。言い換えれば、第1の注入領域35の面積を、第1の強磁性体2の面積の45%以下にすることにより、反転時間が低減した。第1の強磁性体2の面積とは、
図1において第1の強磁性体2の上面(+z方向)から見た第1の強磁性体2の面積である。
【0068】
また、長さLy=10nmでは、比較例のLy=50nmの場合と比較して、同一電流値(同一消費電力)で、注入領域の電流密度は5倍になり、磁化の反転時間は2.8/12.7=0.22で、約1/5に減少した。すなわち、第1の非磁性金属3の第1方向(y方向)の長さを、第1の強磁性体2の第1方向(y方向)の長さの20%以下にすることにより、反転時間は約1/5に低減した。言い換えれば、第1の注入領域35の面積を、第1の強磁性体2の面積の20%以下にすることにより、反転時間は約1/5に低減した。
【0069】
このように、第1の強磁性体2の一部(ここでは端部5)のみにスピンを注入する方が第1の強磁性体2の底面の全体にスピンを注入するよりも磁化の反転時間が短くなるのは、第1の強磁性体2の端部5の方が中央部よりも磁化がスピンにより動きやすいため、端部5に注入されたスピンの方が中央部に注入されたスピンよりも磁化反転に対する寄与が大きいためであると考えられる。
【0070】
このように、第1の強磁性体2の端部5と対向する第1の非磁性金属3の幅狭部7のy方向に沿った長さLy(非磁性金属幅寸法)は、第1の強磁性体2のy方向に沿った強磁性体幅寸法よりも短いことが好ましい。シミュレーション結果の
図8においては、Lyが第1の強磁性体2のy方向に沿った強磁性体幅寸法の45%より短いと反転時間が減少したが、第1の強磁性体2のサイズがy方向の寸法100nm、x方向の寸法12.5nmのシミュレーションにおいては、Lyが第1の強磁性体2のy方向に沿った強磁性体幅寸法の95%より短ければ反転時間が減少する結果が得られた。すなわち、反転時間が減少する効果が得られるLyの寸法は第1の強磁性体2のサイズや材料にも依存する。
【0071】
要するに、上記のような構造の場合、第1の注入領域35の面積は第1の強磁性体2の面積より小さい方がよく、第1の注入領域35の面積が第1の強磁性体2の面積より45%以下であることがより好ましく、第1の注入領域35の面積が第1の強磁性体2の面積より20%以下であることがより一層好ましい。
【0072】
(変形例)
図9は磁化制御デバイス1の断面の変形例を示す断面図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0073】
接合体4を設ける代わりに、第1の強磁性体2Aが、
図9に示すように、第1の非磁性金属3の側面を覆うように形成されてもよい。
【0074】
図10は磁化制御デバイス1の非磁性金属の形状の変形例を示す平面図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0075】
図10に示すように、x方向に沿った幅寸法が一様な態様で、第1の強磁性体2のx方向に沿って形成された端部5と対向してx方向に延伸する第1の非磁性金属3Aを第1の非磁性金属3に代えて設けてもよい。
【0076】
図11は磁化制御デバイス1の非磁性金属の形状の他の変形例を示す平面図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0077】
y方向の長さがx方向に沿って曲線状に変化する幅広部8Bを有する第1の非磁性金属3Bを設けてもよい。この場合、上記幅広部8Bの形状に整合する接合体4Bを設けてもよい。
【0078】
図12は磁化制御デバイスの第1の強磁性体の変形例を示す斜視図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0079】
楕円柱形状の第1の強磁性体2Cを設けてもよい。この場合、第1の非磁性金属3は第1の強磁性体2Cのy方向に沿った端部5Cに対向してx方向に延伸する。第1の非磁性金属3の幅狭部7の第1の強磁性体2Cに対応する領域に第1の注入領域35Cが配置される。
【0080】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0081】
(磁化制御デバイス1Dの構成)
図13は実施形態2に係る磁化制御デバイス1Dに設けられた第1の強磁性体2と第1の非磁性金属3Aと第2の非磁性金属33との間の関係を示す平面図である。
図14は磁化制御デバイス1Dの側面図である。
図15は磁化制御デバイス1Dの平面図である。
図16は
図15に示される線BBに沿った断面図である。
【0082】
図13~16において、磁化制御デバイス1Dは、y方向(第1方向)に磁化された第1の強磁性体2と、x方向(第2方向)に延伸する第1の非磁性金属3Aと、を有している。第1の非磁性金属3Aは、y方向(第1方向)において、第1の強磁性体2よりも短い長さ30を有する第1の注入領域35を有している。第1の非磁性金属3Aは、第1の注入領域35において第1の強磁性体2の一部分と対向している。
【0083】
さらに、磁化制御デバイス1Dは、x方向(第2方向)に延伸する第2の非磁性金属33を有している。第2の非磁性金属33は、y方向(第1方向)において、第1の強磁性体2よりも短い長さ31を有する第2の注入領域37を有している。第2の非磁性金属33は、第2の注入領域37において第1の強磁性体2の他の一部分と対向している。第1の注入領域35において、スピンが第1の非磁性金属3Aから第1の強磁性体2に注入される。そして、第2の注入領域37において、スピンが第2の非磁性金属33から第1の強磁性体2に注入される。
【0084】
言い換えれば、磁化制御デバイス1Dは、第1の強磁性体2のy方向に沿った一方の端部5と対向してx方向に延伸する第1の非磁性金属3Aと、第1の強磁性体2のy方向に沿った他方の端部6と対向してx方向に延伸する第2の非磁性金属33とを有する。この場合、第1の非磁性金属3Aの側面、第2の非磁性金属33の側面、及び第1の強磁性体2の中央部と接合する接合体4Dを形成してもよい。
【0085】
このように、第1の非磁性金属3A及び第2の非磁性金属33は、第1の強磁性体2のy方向に沿った両端と対向してx方向に延伸する。
【0086】
(反転時間のシミュレーション結果)
図17は磁化制御デバイス1Dの反転時間のシミュレーションの条件を説明するための図である。
図18は磁化制御デバイス1Dの反転時間のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【0087】
第1の強磁性体2のy方向の寸法50nm、x方向の寸法25nmとし、第1の強磁性体2の端部5からの第1の注入領域35の長さ((1/2)×Ly)、及び、端部6からの第2の注入領域37の長さ((1/2)×Ly)を変えたときの第1の強磁性体2の磁化の反転時間をシミュレーションした。
【0088】
長さLyを50nmから減少させると、5nmまで全体的に、磁化の反転時間は、長さLy=50nmの時よりも低減した。例えば、両端から10nmの領域に注入する長さLy=20nmでは、比較例のLy=50nmの場合と比較して、磁化の反転時間は約30%に減少した。すなわち、第1の非磁性金属3A及び第2の非磁性金属33が第1の強磁性体2の両端に対向する場合、その対向する箇所において、第1の非磁性金属3A及び第2の非磁性金属33の第1方向(y方向)の長さの和を、第1の強磁性体2の第1方向(y方向)の長さの40%以下にすることにより、反転時間は約30%に低減した。言い換えれば、第1の注入領域35及び第2の注入領域37の面積を、第1の強磁性体2の面積の40%以下にすることにより、反転時間は約30%に低減した。
【0089】
このように、第1の強磁性体2の両端に注入領域を設けると、第1の強磁性体2の磁化の反転速度は全体的に高速化した。
【0090】
一方の端部5と対向する第1の非磁性金属3Aの長さ((1/2)×Ly)(非磁性金属第1幅寸法)と、他方の端部6と対向する第2の非磁性金属33の長さ((1/2)×Ly)(非磁性金属第2幅寸法)との和が、第1の強磁性体2のy方向に沿った寸法(強磁性体幅寸法)よりも短いことで、同一電流量あたりの磁化反転時間が短縮される。非磁性金属第1幅寸法と非磁性金属第2幅寸法とは異なる長さでも良い。また、非磁性金属第1幅寸法と非磁性金属第2幅寸法との長さが強磁性体幅寸法の40%よりも短いことが一層好ましい。言い換えれば、第1の注入領域35及び第2の注入領域37の面積の和は第1の強磁性体2の面積より小さい方がよく、第1の注入領域35及び第2の注入領域37の面積の和を第1の強磁性体2の面積の40%以下にすることがより好ましい。
【0091】
(変形例)
図19は磁化制御デバイス1Dの断面の変形例を示す断面図である。
【0092】
図15、
図16における接合体4Dを設ける代わりに、第1の強磁性体2Eが、
図19に示すように、第1の非磁性金属3A及び第2の非磁性金属33の側面を覆うように形成されてもよい。
【0093】
図20は磁化制御デバイス1Dの非磁性金属の形状の変形例を示す平面図である。
図20に示すように、第1の非磁性金属3Aと、第2の非磁性金属33とは、少なくとも一部において連結して非磁性金属3Fを構成していてもよい。
【0094】
言い換えれば、非磁性金属3Fは、第1の強磁性体2のy方向に沿った中央部18に対向する孔17を有してもよい。この場合、非磁性金属3Fは、第1の強磁性体2の端部5と対向する幅狭部19と、端部6と対向する幅狭部20と、幅狭部19・20に接続されてy方向に沿った幅寸法が幅狭部19・20よりも長い幅広部8F・9Fとを有する。孔17は、
図20に示すようにx方向に延伸して形成された長孔であってもよいし、丸孔でもよく、多角形の孔であってもよい。
【0095】
〔実施形態3〕
本発明のさらに他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0096】
図21は実施形態3に係る磁化制御デバイス1Gの反転時間のシミュレーションの条件を説明するための図である。
図22は磁化制御デバイス1Gの反転時間のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【0097】
第1の強磁性体2のy方向の寸法50nm、x方向の寸法25nmとし、第1の強磁性体2の中央部18に対応する注入領域の長さLyを変えたときの第1の強磁性体2の磁化の反転時間をシミュレーションした。
【0098】
長さLyを50nmから減少させると、20nmまで、反転時間は、長さLy=50nmの時よりも著しく増大して超低速化した。長さLyが15nm以下になると、反転時間は、長さLy=50nmの時よりも低減した。すなわち、中央部18と対向する第1の非磁性金属3Gのy方向(第1方向)における長さを、第1の強磁性体2のy方向(第1方向)における長さの30%以下にすると、反転時間は低減する。言い換えれば、第1の注入領域35の面積を、第1の強磁性体2の面積の30%以下にすることにより、反転時間は低減する。
【0099】
また、長さLy=10nmでは、比較例のLy=50nmの場合と比較して、同一電流値(同一消費電力)で、反転時間は、約1/2に減少した。すなわち、中央部18と対向する第1の非磁性金属3Gの第1方向における長さを、第1の強磁性体2のy方向(第1方向)における長さの20%以下にすると、反転時間は約1/2に低減する。言い換えれば、第1の注入領域35の面積を、第1の強磁性体2の面積の20%以下にすることにより、反転時間は約1/2に低減する。
【0100】
〔実施形態4〕
本発明のさらに他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0101】
図23は実施形態4に係る磁化制御デバイス1Hの反転時間のシミュレーションの条件を説明するための図である。
図24は磁化制御デバイス1Hの反転時間のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【0102】
第1の非磁性金属3Hの注入領域21のy方向の長さLyを10nmに固定して、注入位置をy方向に沿って変えたときの第1の強磁性体2の磁化の反転時間をシミュレーションした。
【0103】
注入位置の下端の第1の強磁性体2のエッジからの距離ryを20nmから減少させると、5nmまで、反転時間は、長さLy=50nmの時よりも著しく増大して低速化した。距離ryが5nm以下になると、反転時間は、長さLy=50nmの時よりも低減した。以上を考察すると、第1の強磁性体2の端部6での注入が効率がよいといえる。
【0104】
〔実施形態5〕
本発明のさらに他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0105】
図25は実施形態5に係る磁化制御デバイス1Iの側面図である。
図26は磁化制御デバイス1Iの平面図である。
【0106】
磁化制御デバイス1Iの第1の強磁性体2には、第1の強磁性体2の磁化を反転させるための反転スピン流が第1の非磁性金属3Aから注入される。そして、磁化制御デバイス1Iは、第1の強磁性体2の磁化の反転を補助するための補助スピン流を第1の強磁性体2に注入するために、第1の強磁性体2と対向してy方向に延伸する他の非磁性金属23をさらに備える。非磁性金属23は、第1の非磁性金属3Aと交差するように形成される。
【0107】
第1の強磁性体2は、第1の非磁性金属3A及び非磁性金属23の第1面24に形成される。そして、磁化制御デバイス1Iは、第1の非磁性金属3A及び非磁性金属23の第1面24の反対側の第2面25の一部分に、第1の非磁性金属3Aに沿ってx方向に延伸した後、非磁性金属23に沿って-y方向に延伸して形成されたスピン拡散領域22をさらに備える。
【0108】
第1の強磁性体の2の端部5と対向してx方向に延伸する第1の非磁性金属3Aにより第1の強磁性体2の磁化の反転時間が従来の1/5に短縮される。そして、第1の非磁性金属3A及び非磁性金属23の第2面25の一部分に形成されたスピン拡散領域22により反転時間は従来の1/2に短縮される。さらに、補助スピン流を第1の強磁性体2に注入する非磁性金属23により反転時間は従来の1/10に短縮される。このため、磁化制御デバイス1Iは、第1の強磁性体2の磁化の反転時間を従来の1/100に短縮することができる。
【0109】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0110】
1 磁化制御デバイス
2 第1の強磁性体
3 第1の非磁性金属
4 接合体
5 端部
10 絶縁体
11 第2の強磁性体
12 磁気メモリ装置
18 中央部
23 非磁性金属
24 第1面
25 第2面
33 第2の非磁性金属
35 第1の注入領域
37 第2の注入領域