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特許7555124神経芽腫の微小残存病変マーカーを用いた生体試料の分析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】神経芽腫の微小残存病変マーカーを用いた生体試料の分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20240913BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021530741
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020027110
(87)【国際公開番号】W WO2021006345
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2019129601
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】西村 範行
【審査官】坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第18/123764(WO,A1)
【文献】特開2012-205590(JP,A)
【文献】特開2017-049213(JP,A)
【文献】Oncol. Lett.,2016年,Vol.12,p.1119-1123
【文献】Oncol. Rep.,2013年,Vol.29,p.1629-1636
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経芽腫の微小残存病変の病勢、治療効果又は再発を評価すべき生体試料から、CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTHからなる神経芽腫の微小残存病変の7遺伝子マーカー各々の発現量A1~A7をデジタルPCRにより測定する工程1と、
前記発現量A1~A7の各々に対し、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRによる発現量の統計学的数値B1~B7を加味した重み付けを行うことで、重み付き発現量AB1~AB7を取得し、前記重み付き発現量AB1~AB7の幾何平均又は総和を評価値として得る工程2と、
前記評価値を、神経芽腫の微小残存病変の有無に関するカットオフ値と比較し、前記評価値が前記カットオフ値を上回れば、前記生体試料について前記神経芽腫の微小残存病変陽性と判断する工程3と、
を含む、神経芽腫の微小残存病変マーカーを用いる生体試料の分析方法。
【請求項2】
前記重み付き発現量AB1~AB7が、前記発現量A1~A7各々から統計学的数値B1~B7各々を差し引いて得られ(但し、差し引いた結果1未満の数値となる場合の前記重み付き発現量は1とする)、前記重み付き発現量AB~AB7の幾何平均を前記評価値として得る、請求項1に記載の生体試料の分析方法。
【請求項3】
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の1パーセンタイル以上の共通する特定のパーセンタイルにおける発現量であり、
前記特定のパーセンタイルにおいて、前記7遺伝子マーカーの少なくともいずれかが検出される、請求項2に記載の生体試料の分析方法。
【請求項4】
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の6~92パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、請求項3に記載の生体試料の分析方法。
【請求項5】
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、コントロールにおける、
CRMP1の38~44パーセンタイル、DBHの53~66パーセンタイル、DDCの55~63パーセンタイル、GAP43の49~65パーセンタイル、ISL1の40~56パーセンタイル、PHOX2Bの51~71パーセンタイル、THの51~71パーセンタイル;
CRMP1の38~44パーセンタイル、DBHの1~52パーセンタイル、DDCの1~54パーセンタイル、GAP43の85~86パーセンタイル、ISL1の92~94パーセンタイル、PHOX2Bの1~50パーセンタイル、THの51~71パーセンタイル:又は、
CRMP1の83パーセンタイル、DBHの1~52パーセンタイル、DDCの1~54パーセンタイル、GAP43の85~86パーセンタイル、ISL1の92~94パーセンタイル、PHOX2Bの1~50パーセンタイル、及びTHの1~50パーセンタイル
における発現量である、請求項2に記載の生体試料の分析方法。
【請求項6】
前記生体試料が末梢血試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の65~99パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、請求項2に記載の生体試料の分析方法。
【請求項7】
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の21~99パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、請求項3に記載の生体試料の分析方法。
【請求項8】
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、末梢血試料のコントロールにおける、
CRMP1の91~99パーセンタイル、DBHの91~92パーセンタイル、DDCの92~95パーセンタイル、GAP43の91~92パーセンタイル、ISL1の98~99パーセンタイル、PHOX2Bの87~92パーセンタイル、THの82~93パーセンタイル
における発現量である、請求項2に記載の生体試料の分析方法。
【請求項9】
前記重み付き発現量AB1~AB7が、前記発現量A1~A7各々から統計学的数値B1~B7各々を差し引いて得られ(但し、差し引いた結果負の数値となる場合の前記重み付き発現量は0とする)、前記重み付き発現量AB~AB7の総和を前記評価値として得る、請求項1に記載の生体試料の分析方法。
【請求項10】
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の1パーセンタイル以上の共通する特定のパーセンタイルにおける発現量であり、
前記特定のパーセンタイルにおいて、前記7遺伝子マーカーの少なくともいずれかが検出される、請求項9に記載の生体試料の分析方法。
【請求項11】
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の6~93パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、請求項10に記載の生体試料の分析方法。
【請求項12】
前記生体試料が末梢血試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の21~99パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、請求項10に記載の生体試料の分析方法。
【請求項13】
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の21~99パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、請求項10に記載の生体試料の分析方法。
【請求項14】
前記生体試料が骨髄試料、末梢血試料又は末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、コントロールにおける前記7遺伝子マーカーの各パーセンタイルにおける発現量のうち、前記7遺伝子マーカー各々の前記微小残存病変の有無に関するカットオフ値に最も近い発現量である、請求項9に記載の生体試料の分析方法。
【請求項15】
前記重み付き発現量AB1~AB7が、前記発現量A1~A7各々を統計学的数値B1~B7(但し、B1~B7はいずれも0でない)各々で除して得られ、前記重み付き発現量AB~AB7の総和を前記評価値として得る、請求項1に記載の生体試料の分析方法。
【請求項16】
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の54パーセンタイル以上のうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、請求項15に記載の生体試料の分析方法。
【請求項17】
前記生体試料が末梢血試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の90パーセンタイル以上のうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、請求項15に記載の生体試料の分析方法。
【請求項18】
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の90パーセンタイル以上のうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、請求項15に記載の生体試料の分析方法。
【請求項19】
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、コントロールにおける、
CRMP1の38~44パーセンタイル、DBHの77~83パーセンタイル、DDCの74~79パーセンタイル、GAP43の38~48パーセンタイル、ISL1の57~68パーセンタイル、PHOX2Bの72~77パーセンタイル、THの78~83パーセンタイル;又は、
CRMP1の92パーセンタイル、DBHの91~92パーセンタイル、DDCの99パーセンタイル、GAP43の93パーセンタイル、ISL1の96パーセンタイル、PHOX2Bの92~93パーセンタイル、及びTHの84~87パーセンタイル
における発現量である、請求項15に記載の生体試料の分析方法。
【請求項20】
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、末梢血試料のコントロールにおける、
CRMP1の98~99パーセンタイル、DBHの90パーセンタイル、DDCの98~99パーセンタイル、GAP43の92~93パーセンタイル、ISL1の99パーセンタイル、PHOX2Bの90パーセンタイル、THの90~92パーセンタイル
における発現量である、請求項15に記載の生体試料の分析方法。
【請求項21】
前記生体試料における前記7遺伝子マーカー各々の発現量A1~A7と、前記コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRによる発現量とが、いずれも、少なくともレファレンス遺伝子の発現量で除した値であり、前記レファレンス遺伝子が、HPRT1、HMBS、GUSB、及びTBPからなる群より選択される、請求項1~20のいずれかに記載の生体試料の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経芽腫の微小残存病変マーカーを用いた生体試料の分析方法に関する。より具体的には、本発明は、神経芽腫の微小残存病変の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経芽腫は、神経堤細胞由来の難治性小児がんであり、小児がんの約10%を占める。これは、脳腫瘍に次いで高い頻度である。また神経芽腫は、小児がん死亡原因の約15%を占める。
神経芽腫は、5つの予後因子(病期、病理、年齢、MYCN増幅、DNAプロイディー)を用いて、低・中間・高リスク群に分類されるが、50%を超える患者が高リスク群に分類される。そして、高リスク群患者の50%超で再発する。
【0003】
したがって、神経芽腫の予後改善、特に高リスク群患者の予後改善には、再発の起源と考えられる微小残存病変(MRD)を正しく評価することが不可欠である。腫瘍細胞にのみに検出される遺伝子が同定されていない神経芽腫では、正常細胞に比して腫瘍細胞で高発現するいくつかの遺伝子をマーカーとすることで、MRDの検出が試みられてきた。
【0004】
神経芽腫のMRDの遺伝子マーカーとして、非特許文献1で最初にTHが報告され、その後、非特許文献2でPHOX2Bが報告された。さらに、非特許文献3では、CHGA、DCX、DDC、PHOX2B、およびTHの5種の遺伝子マーカーが報告されている。非特許文献4では、B4GALNT(GD2 synthase)、CCND1、ISL1、PHOX2Bの4種の遺伝子マーカーが報告されている。非特許文献5では、CHRNA3、DDC、GAP43、PHOX2B、およびTHの5種の遺伝子マーカーが報告されている。
【0005】
一方、非特許文献6では、それまでの遺伝子マーカー探索において通常に用いられてきた接着培養したパレンタル神経芽腫細胞ではなく、生体内でMRDを構成するがん幹細胞が濃縮されるように浮遊培養したスフェアー神経芽腫細胞を検証し、CHRNA3、CRMP1、DBH、DCX、DDC、GABRB3、GAP43、ISL1、KIF1A、PHOX2B、およびTHの11種の遺伝子マーカーのうちいずれかが正常範囲を超えて発現している場合にMRD陽性とスコアするMRD検出プロトコールが提唱されている。非特許文献7では、2症例において、再発/再増殖の臨床診断よりも早期に、当該11種の遺伝子マーカーによりMRD陽性と評価することが報告されている。上述の非特許文献6および非特許文献7では、遺伝子マーカーの測定にリアルタイムPCRが用いられている。
【0006】
さらに、特許文献1では、神経芽腫のMRDの検出能力が特に高い特定の7種の遺伝子マーカーとして、CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTHを見出している。この7種の遺伝子マーカーは、わずか7個の組み合わせでありながら、それぞれの遺伝子マーカーが神経芽腫のMRDにおける検出能力に優れている。さらに、それぞれの遺伝子に対応するプライマーペア全てのアニーリング温度が揃い易いため、7種の遺伝子マーカーのいずれであっても同様に効率良く増幅させることができる。したがって、特許文献1では、同様に効率良く増幅されるこれら7種の遺伝子マーカーのうち1種以上の発現量が閾値以上であれば、神経芽腫のMRDを陽性と判断する手法が開示されている。さらに、特許文献1では、神経芽腫のMRDの正確な評価には、極めて微量な遺伝子マーカーの発現を検出する手段であるデジタルPCRを用いることが望ましいことが開示されている。
【0007】
また、非特許文献8では、神経芽腫関連遺伝子としてCHGA、DCX、DDC、PHOX2B、及びTHの5種を用い、これら5種の遺伝子から転写されたmRNA量の幾何平均値と、再発性/難治性神経芽細胞腫における無増悪生存期間とが相関することが開示されている。また、幾何平均値を用いた予後予測のAUCが0.622であったことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2018/123764号
【非特許文献】
【0009】
【文献】International Journal of Cancer (1994) 57: 671-675.
【文献】Journal of Clinical Oncology (2008) 26: 5443-5449.
【文献】Lancet Oncology (2013) 14: 999-1008.
【文献】Journal of Clinical Oncology (2015) 33:755-763.
【文献】European Journal of Cancer (2016) 54: 149-158.
【文献】Oncology Reports (2013) 29: 1629-1636.
【文献】Oncology Letters (2016) 12: 1119-1123.
【文献】Clinical Cancer Research; (2017) 23 5374-5383.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTHからなる7個の神経芽腫のMRDマーカー(以下において、「7遺伝子マーカー」とも記載する。)を用いたデジタルPCRによって、健常コントロール検体および高リスク神経芽腫患者の保存検体を検証した。
【0011】
通常、マーカーを用いた分析において、疾患検体については数多く分析されるが、コントロールとして用いられる検体については数多く分析されることはない。しかしながら、本発明者がデジタルPCRによって多数の健常コントロール検体を検証した結果、健常コントロール検体における7遺伝子マーカーの発現量の変動(バラツキ)が大きいという問題に直面した。これに付随して、神経芽腫診断時の検体と健常コントロール検体との間にさえ、7遺伝子マーカーの発現量に重なりがあることが明らかになった。
【0012】
これらの問題は、7遺伝子マーカーが低発現であることと、定量手段が、汎用されているqPCRではなく極めて高感度であるデジタルPCRであることとに起因している。つまり、上記の問題は、当該7遺伝子マーカーの定量にデジタルPCR測定を用いる方法に特有のものとして見出された。従って、7遺伝子マーカーを用いた神経芽腫のMRD分析においては、通常のカットオフ値の設定方法では高感度且つ高特異度での分析を行うことができない。
【0013】
上記の点に鑑み、本発明は、CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTHからなる7遺伝子マーカーの定量にデジタルPCR測定を用いる神経芽腫のMRD分析法であって、分析の感度及び特異度を総合的に向上できる新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、健常コントロール検体における7遺伝子マーカーを統計的に調べたところ、各7遺伝子マーカーの発現態様がそれぞれに異なることを見出した。例えば、CRMP1のように低いパーセンタイルから比較的多く発現するマーカーもあれば、DBHのように高いパーセンタイルに至るまで比較的発現量が低いままのマーカーもあることが判明した。当該7遺伝子マーカーは、多様性が著しい神経芽腫のMRDにおいて特に検出能力に優れているとして厳選された精鋭マーカーであるが、この7遺伝子マーカーの間でも、さらに、重要度の低いもの(例えば、CRMP1のように健常コントロール検体においても比較的検出されやすいもの)、及び重要度の高いもの(例えば、DBHのように健常コントロール検体においても比較的検出されにくいもの)といった、重要度の違いが存在することが判明した。
【0015】
そこで、本発明者は、7遺伝子マーカー各々について、コントロールにおけるデジタルPCRによる発現量の統計学的数値(例えば、特定のパーセンタイルにおける発現量)を、マーカーの非重要度を示す量として使用することを着想し、分析すべき検体における7遺伝子マーカーのデジタルPCRによる発現量それぞれを、コントロールにおける当該統計学的数値(非重要度)を加味した重み付けを行うことで補正するという斬新な手法に思い至った。更に、重み付けにより補正した7遺伝子マーカーの発現量を幾何平均した値又は総計した値を評価値として用い、当該評価値をMRD有無のカットオフ値と比較することで、分析の感度及び特異度を総合的に向上できることを見出した。本発明は、この知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0016】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
<項1>
神経芽腫の微小残存病変の病勢、治療効果又は再発を評価すべき生体試料から、CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTHからなる神経芽腫の微小残存病変の7遺伝子マーカー各々の発現量A1~A7をデジタルPCRにより測定する工程1と、
前記発現量A1~A7の各々に対し、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRによる発現量の統計学的数値B1~B7を加味した重み付けを行うことで、重み付き発現量AB1~AB7を取得し、前記重み付き発現量AB1~AB7の幾何平均又は総和を評価値として得る工程2と、
前記評価値を、神経芽腫の微小残存病変の有無に関するカットオフ値と比較する工程3と、
を含む、神経芽腫の微小残存病変マーカーを用いる生体試料の分析方法。
<項2>
[減法による重み付き発現量の幾何平均](項目2-3-1)
前記重み付き発現量AB1~AB7が、前記発現量A1~A7各々から統計学的数値B1~B7各々を差し引いて得られ(但し、差し引いた結果1未満の数値となる場合の前記重み付き発現量は1とする)、前記重み付き発現量AB~AB7の幾何平均を前記評価値として得る、項1に記載の生体試料の分析方法。
<項3>
[減法による重み付き発現量の幾何平均-固定パーセンタイル使用](項目2-3-1)
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の1パーセンタイル以上の共通する特定のパーセンタイルにおける発現量であり、
前記特定のパーセンタイルにおいて、前記7遺伝子マーカーの少なくともいずれかが検出される、項2に記載の生体試料の分析方法。
<項4>
[減法による重み付き発現量の幾何平均-固定パーセンタイル使用](項目2-3-1)
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の6~92パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、項3に記載の生体試料の分析方法。
<項5>
[減法による重み付き発現量の幾何平均-可変パーセンタイル使用](項目2-3-1)
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、コントロールにおける、
CRMP1の38~44パーセンタイル、DBHの53~66パーセンタイル、DDCの55~63パーセンタイル、GAP43の49~65パーセンタイル、ISL1の40~56パーセンタイル、PHOX2Bの51~71パーセンタイル、THの51~71パーセンタイル;
CRMP1の38~44パーセンタイル、DBHの1~52パーセンタイル、DDCの1~54パーセンタイル、GAP43の85~86パーセンタイル、ISL1の92~94パーセンタイル、PHOX2Bの1~50パーセンタイル、THの51~71パーセンタイル:又は、
CRMP1の83パーセンタイル、DBHの1~52パーセンタイル、DDCの1~54パーセンタイル、GAP43の85~86パーセンタイル、ISL1の92~94パーセンタイル、PHOX2Bの1~50パーセンタイル、及びTHの1~50パーセンタイル
における発現量である、項2に記載の生体試料の分析方法。
<項6>
[減法による重み付き発現量の幾何平均-固定パーセンタイル使用](項目2-3-1)
前記生体試料が末梢血試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の65~99パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、項2に記載の生体試料の分析方法。
<項7>
[減法による重み付き発現量の幾何平均-固定パーセンタイル使用](項目2-3-1)
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の21~99パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、項3に記載の生体試料の分析方法。
<項8>
[減法による重み付き発現量の幾何平均-可変パーセンタイル使用](項目2-3-1)
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、末梢血試料のコントロールにおける、
CRMP1の91~99パーセンタイル、DBHの91~92パーセンタイル、DDCの92~95パーセンタイル、GAP43の91~92パーセンタイル、ISL1の98~99パーセンタイル、PHOX2Bの87~92パーセンタイル、THの82~93パーセンタイル
における発現量である、項2に記載の生体試料の分析方法。
<項9>
[減法による重み付き発現量の総和](項目2-3-2-1)
前記重み付き発現量AB1~AB7が、前記発現量A1~A7各々から統計学的数値B1~B7各々を差し引いて得られ(但し、差し引いた結果負の数値となる場合の前記重み付き発現量は0とする)、前記重み付き発現量AB~AB7の総和を前記評価値として得る、項1に記載の生体試料の分析方法。
<項10>
[減法による重み付き発現量の総和-固定パーセンタイル使用](項目2-3-2-1)
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の1パーセンタイル以上の共通する特定のパーセンタイルにおける発現量であり、
前記特定のパーセンタイルにおいて、前記7遺伝子マーカーの少なくともいずれかが検出される、項9に記載の生体試料の分析方法。
<項11>
[減法による重み付き発現量の総和-固定パーセンタイル使用](項目2-3-2-1)
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の6~93パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、項10に記載の生体試料の分析方法。
<項12>
[減法による重み付き発現量の総和-固定パーセンタイル使用](項目2-3-2-1)
前記生体試料が末梢血試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の21~99パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、項10に記載の生体試料の分析方法。
<項13>
[減法による重み付き発現量の総和-固定パーセンタイル使用](項目2-3-2-1)
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の21~99パーセンタイルのうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、項10に記載の生体試料の分析方法。
<項14>
[減法による重み付き発現量の総和-可変パーセンタイル使用](項目2-3-2-1)
前記生体試料が骨髄試料、末梢血試料又は末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、コントロールにおける前記7遺伝子マーカーの各パーセンタイルにおける発現量のうち、前記7遺伝子マーカー各々の前記微小残存病変の有無に関するカットオフ値に最も近い発現量である、項9に記載の生体試料の分析方法。
<項15>
[除法による重み付き発現量の総和](項目2-3-2-2)
前記重み付き発現量AB1~AB7が、前記発現量A1~A7各々を統計学的数値B1~B7(但し、B1~B7はいずれも0でない)各々で除して得られ、前記重み付き発現量AB~AB7の総和を前記評価値として得る、項1に記載の生体試料の分析方法。
<項16>
[除法による重み付き発現量の総和-固定パーセンタイル使用](項目2-3-2-2)
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の54パーセンタイル以上のうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、項15に記載の生体試料の分析方法。
<項17>
[除法による重み付き発現量の総和-固定パーセンタイル使用](項目2-3-2-2)
前記生体試料が末梢血試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の90パーセンタイル以上のうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、項15に記載の生体試料の分析方法。
<項18>
[除法による重み付き発現量の総和-固定パーセンタイル使用](項目2-3-2-2)
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、いずれも、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々の90パーセンタイル以上のうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量である、項15に記載の生体試料の分析方法。
<項19>
[除法による重み付き発現量の総和-可変パーセンタイル使用](項目2-3-2-2)
前記生体試料が骨髄試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、コントロールにおける、
CRMP1の38~44パーセンタイル、DBHの77~83パーセンタイル、DDCの74~79パーセンタイル、GAP43の38~48パーセンタイル、ISL1の57~68パーセンタイル、PHOX2Bの72~77パーセンタイル、THの78~83パーセンタイル;又は、
CRMP1の92パーセンタイル、DBHの91~92パーセンタイル、DDCの99パーセンタイル、GAP43の93パーセンタイル、ISL1の96パーセンタイル、PHOX2Bの92~93パーセンタイル、及びTHの84~87パーセンタイル
における発現量である、項15に記載の生体試料の分析方法。
<項20>
[除法による重み付き発現量の総和-可変パーセンタイル使用](項目2-3-2-2)
前記生体試料が末梢血幹細胞試料であり、
前記統計学的数値B1~B7が、それぞれ、末梢血試料のコントロールにおける、
CRMP1の98~99パーセンタイル、DBHの90パーセンタイル、DDCの98~99パーセンタイル、GAP43の92~93パーセンタイル、ISL1の99パーセンタイル、PHOX2Bの90パーセンタイル、THの90~92パーセンタイル
における発現量である、項15に記載の生体試料の分析方法。
<項21>
前記生体試料における前記7遺伝子マーカー各々の発現量A1~A7と、前記コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRによる発現量とが、いずれも、少なくともレファレンス遺伝子の発現量で除した値であり、前記レファレンス遺伝子が、HPRT1、HMBS、GUSB、及びTBPからなる群より選択される、項1~20のいずれかに記載の生体試料の分析方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTHからなる7遺伝子マーカーの定量にデジタルPCR測定を用いる神経芽腫のMRD分析法であって、分析の感度及び特異度を総合的に向上できる新たな手法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】コントロール(Control)及び診断時(Diagnosis)の神経芽腫患者の、骨髄検体(BM)における7遺伝子マーカー(CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTH)それぞれの発現量(relative copy number)を表す。
図2】コントロール(Control)及び診断時(Diagnosis)の神経芽腫患者の、末梢血検体(PB)における7遺伝子マーカー(CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTH)それぞれの発現量(relative copy number)を表す。
図3A】成人コントロールの骨髄103検体におけるデジタルPCRによる7遺伝子マーカー(CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTH)の発現量を、小さい方から並べ100等分した値(1~50パーセンタイルにおける値)を示す。
図3B】成人コントロールの骨髄103検体におけるデジタルPCRによる7遺伝子マーカー(CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTH)の発現量を、小さい方から並べ100等分した値(51~100パーセンタイルにおける値)を示す。
図4A】成人コントロールの末梢血107検体におけるデジタルPCRによる7遺伝子マーカー(CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTH)の発現量を、小さい方から並べ100等分した値(1~50パーセンタイルにおける値)を示す。
図4B】成人コントロールの末梢血107検体におけるデジタルPCRによる7遺伝子マーカー(CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2B、及びTH)の発現量を、小さい方から並べ100等分した値(51~100パーセンタイルにおける値)を示す。
図5A】神経芽腫患者の各病期における骨髄検体(BM)の7遺伝子マーカーの発現量を、図3Bにおける90パーセンタイルでの発現量を用いて重み付けし、更に総和(7NB-mRNAs)として導出した評価値の、各病期における分布を示す。
図5B】神経芽腫患者の各病期における末梢血検体(PB)の7遺伝子マーカーの発現量を、図4Bにおける90パーセンタイルでの発現量を用いて重み付けし、更に総和(7NB-mRNAs)として導出した評価値の、各病期における分布を示す。
図6A】神経芽腫患者の各採取時期における骨髄検体(BM)の7遺伝子マーカーの発現量を、図3Bにおける90パーセンタイルでの発現量を用いて重み付けし、更に総和(7NB-mRNAs)として導出した評価値の、各採取時期における分布を示す。
図6B】神経芽腫患者の各採取時期における末梢血検体(PB)の7遺伝子マーカーの発現量を、図4Bにおける90パーセンタイルでの発現量を用いて重み付けし、更に総和(7NB-mRNAs)として導出した評価値の、各採取時期における分布を示す。
図7】高リスク神経芽腫患者の診断時(Diagnosis)及び治療後のフォローアップ中(Post-treatment)に採取した骨髄検体の7遺伝子マーカーの発現量を、図3Bにおける90パーセンタイルでの発現量を用いて重み付けし、更に総和(7NB-mRNAs)として導出した評価値の、再発患者(Relapse)-非再発患者(Non-relapse)間での比較を示す。
図8】治療後のフォローアップ中に採取した骨髄73(再発17、非再発56)検体の7遺伝子マーカーの発現量の総和(non-weighted sum)と、当該発現量を、図3Bにおける90パーセンタイルでの発現量を用いて重み付けし、更に総和(90 percentile weighted sum)として導出した評価値について、再発予測に関するROC解析を行った結果を示す。
図9】治療後のフォローアップ中に採取した骨髄73(再発17、非再発56)検体について、図3A及び図3Bに示す6パーセンタイル以上のそれぞれのパーセンタイルにおける発現量を用いて、減法による重み付けを行った7遺伝子マーカーの発現量の幾何平均(ddPCR_geometric mean (subtraction-weighted))を評価値とし、予後予測(再発予測)についてのAUCを最大化させる固定パーセンタイルを調べた結果を示す。
図10】治療後のフォローアップ中に採取した骨髄73(再発17、非再発56)検体について、図3A及び図3Bに示す6パーセンタイル以上のそれぞれのパーセンタイルにおける発現量を用いて、減法による重み付けを行った7遺伝子マーカーの発現量の総和(ddPCR_sum (subtraction-weighted))を評価値とし、予後予測(再発予測)についてのAUCを最大化させる固定パーセンタイルを調べた結果を示す。
図11】治療後のフォローアップ中に採取した骨髄73(再発17、非再発56)検体について、図3A及び図3Bに示す54パーセンタイル以上のそれぞれのパーセンタイルにおける発現量を用いて、除法による重み付けを行った7遺伝子マーカーの発現量の総和(ddPCR_sub (division-weighted))を評価値とし、予後予測(再発予測)についてのAUCを最大化させる固定パーセンタイルを調べた結果を示す。
図12】治療後のフォローアップ中に採取した末梢血21(再発4、非再発17)検体について、図4A及び図4Bに示す52パーセンタイル以上のそれぞれのパーセンタイルにおける発現量を用いて、減法による重み付けを行った7遺伝子マーカーの発現量の幾何平均(ddPCR_geometric mean (subtraction-weighted))を評価値とし、予後予測(再発予測)についてのAUCを最大化させる固定パーセンタイルを調べた結果を示す。
図13】治療後のフォローアップ中に採取した末梢血21(再発4、非再発17)検体について、図4A及び図4Bに示す21パーセンタイル以上のそれぞれのパーセンタイルにおける発現量を用いて、減法による重み付けを行った7遺伝子マーカーの発現量の総和(ddPCR_sum (subtraction-weighted))を評価値とし、予後予測(再発予測)についてのAUCを最大化させる固定パーセンタイルを調べた結果を示す。
図14】治療後のフォローアップ中に採取した末梢血21(再発4、非再発17)検体について、図4A及び図4Bに示す91パーセンタイル以上のそれぞれのパーセンタイルにおける発現量を用いて、除法による重み付けを行った7遺伝子マーカーの発現量の総和(ddPCR_sub (division-weighted))を評価値とし、予後予測(再発予測)についてのAUCを最大化させる固定パーセンタイルを調べた結果を示す。
図15】治療中に採取した末梢血幹細胞20(再発11、非再発9)検体について、図4A及び図4Bに示す21パーセンタイル以上のそれぞれのパーセンタイルにおける発現量を用いて、減法による重み付けを行った7遺伝子マーカーの発現量の幾何平均(ddPCR_geometric mean (subtraction-weighted))を評価値とし、予後予測(再発予測)についてのAUCを最大化させる固定パーセンタイルを調べた結果を示す。
図16】治療中に採取した末梢血幹細胞20(再発11、非再発9)検体について、図4A及び図4Bに示す21パーセンタイル以上のそれぞれのパーセンタイルにおける発現量を用いて、減法による重み付けを行った7遺伝子マーカーの発現量の総和(ddPCR_sum (subtraction-weighted))を評価値とし、予後予測(再発予測)についてのAUCを最大化させる固定パーセンタイルを調べた結果を示す。
図17】治療中に採取した末梢血幹細胞20(再発11、非再発9)検体について、図4Bに示す90パーセンタイル以上のそれぞれのパーセンタイルにおける発現量を用いて、除法による重み付けを行った7遺伝子マーカーの発現量の総和(ddPCR_sub (division-weighted))を評価値とし、予後予測(再発予測)についてのAUCを最大化させる固定パーセンタイルを調べた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の神経芽腫の微小残存病変マーカーを用いる生体試料の分析方法は、神経芽腫の微小残存病変の病勢、治療効果又は再発を評価すべき生体試料から、特定の7遺伝子マーカー各々の発現量A1~A7をデジタルPCRで測定する工程1と;前記発現量A1~A7の各々に対し、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRでの発現量の統計学的数値B1~B7を加味した重み付けを行うことで、重み付き発現量AB1~AB7を取得し、前記重み付き発現量AB1~AB7の幾何平均又は総和を評価値として得る工程2と;前記評価値を、神経芽腫の微小残存病変の有無のカットオフ値と比較する工程3と、を含む。以下、本発明の神経芽腫の微小残存病変マーカーを用いる生体試料の分析方法について詳述する。
【0020】
[1.工程1]
工程1では、神経芽腫の微小残存病変の再発を評価すべき生体試料から、特定の7遺伝子マーカー各々の発現量A1~A7をデジタルPCRで測定する。
【0021】
[1-1.生体試料]
神経芽腫の微小残存病変の病勢、治療効果又は再発を評価すべき生体試料は、被験者である神経芽腫患者に由来する試料である。神経芽腫患者としては、病勢、治療効果又は再発を評価すべき患者であれば特に限定されない。具体的には、病勢を評価(具体的には、病勢の進行をモニター、又は1回目の治療介入が必要なレベルの病勢を診断)すべき患者としては、初診から治療介入までの経過観察中の患者が挙げられ、治療効果を評価すべき患者としては治療中の患者が挙げられ、再発を評価(具体的には、再増殖をモニター、又は再度の治療加入が必要なレベルの再発を診断)すべき患者としては治療後(経過観察時、及び再発診断時)の患者が挙げられる。当該治療としては特に限定されず、化学療法、手術、及び放射線治療が挙げられる。なお、化学療法としては、寛解導入療法(大量化学療法を行うまでの化学療法)、自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法、大量MIBG治療、並びに、大量化学療法後に行われる分化誘導療法及び免疫療法(抗GD2抗体)等が挙げられる。これらの神経芽腫患者のうち、好ましくは、治療効果を評価すべき患者、及び再発を評価すべき患者が挙げられ、より好ましくは、再発を評価すべき患者が挙げられる。再発を評価すべき患者の中でも、特に好ましくは、国際神経芽腫リスク分類(INRGリスク分類)における高リスク群患者が挙げられる。
【0022】
生体試料としては、被験者の核酸を含む試料であれば特に限定されない。核酸としては、例えばDNA又はRNA、好ましくはRNAが挙げられる。また、生体試料としては、好ましくは。被験者から採取された骨髄液から調製された骨髄試料(以下において、骨髄検体とも記載する)、及び被験者から採取された末梢血から調製された末梢血試料(以下において、末梢血検体とも記載する)、被験者から採取された末梢血幹細胞から調製された末梢血幹細胞試料(以下において、末梢血幹細胞検体とも記載する)等が挙げられる。末梢血幹細胞試料については、自家移植(患者自身の末梢血幹細胞を事前に採取しておき、大量化学療法の後に体内に戻す処置)のために採取しておいた検体から調製することができる。これら骨髄試料、末梢血試料、及び末梢血幹細胞試料の調製は、核酸の取得が可能な常法、例えばtotal RNA又はmRNAなどに従って行えばよい。
【0023】
[1-2.神経芽腫の微小残存病変の7遺伝子マーカー]
本発明で用いる遺伝子マーカーは、CRMP1として記載される遺伝子、DBHとして記載される遺伝子、DDCとして記載される遺伝子、GAP43として記載される遺伝子、ISL1として記載される遺伝子、PHOX2Bとして記載される遺伝子およびTHとして記載される遺伝子(以下、それぞれ単に、CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2BおよびTHと記載する。)の7種で構成される。これら7遺伝子マーカーそれぞれは、神経芽腫の微小残存病変が存在する場合に発現量が増加し、遺伝子マーカーの発現量は、神経芽腫の微小残存病変の発生レベルと相関(正の相関)する。
【0024】
これら7遺伝子マーカーの組み合わせは、神経芽腫の微小残存病変の検出感度が高く、神経芽腫の微小残存病変の偽陰性が少ない。このため、神経芽腫の微小残存病変の指標として有用である。したがって、これら7遺伝子マーカーの発現量をデジタルPCRで測定することにより、神経芽腫の微小残存病変を感度よく検出することができる。
【0025】
これら7遺伝子マーカーは、それぞれが単一マーカーでも神経芽腫の微小残存病変を検出する性能を有し、わずか7個の組み合わせでありながら、神経芽腫特有の著しい多様性(ヘテロジェナイティー)に対応するスクリーニング感度を有する。この7個という遺伝子マーカー数は、レファレンス遺伝子の数を含めても、多くの核酸増幅装置において同時に遺伝子増幅できる数であるため、臨床への適用が容易である。
【0026】
CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2BおよびTHの7遺伝子マーカーの組み合わせは、検出対象である生体試料が末梢血試料及び骨髄試料のいずれであっても有用である。
【0027】
本発明における遺伝子マーカーそれぞれの配列情報の詳細は、公知のデータベースにおいて取得することができる。たとえば;
・CRMP1(collapsin response mediator protein 1)として、アメリカ合衆国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)のRefSeqデータベースにおけるアクセッション番号NM_001014809に相当するもの、
・DBH(dopamine β-hydroxylase)として、同アクセッション番号NM_000787に相当するもの、
・DDC(dopa decarboxylase)として、同アクセッション番号NM_000790に相当するもの、
・GAP43(growth-associated protein 43)として、同アクセッション番号NM_001130064に相当するもの、
・ISL1(ISL LIM homeobox 1)として、同アクセッション番号NM_002202に相当するもの、
・PHOX2B(paired-like homeobox 2b)として、同アクセッション番号NM_003924に相当するもの、
・TH(tyrosine hydroxylase)として、同アクセッション番号NM_199292に相当するものが挙げられる。
【0028】
本発明における遺伝子マーカーをコードする具体的なヌクレオチド配列としては、以下の配列が挙げられる。すなわち;
・CRMP1としては配列番号1で表されるものが挙げられ、
・DBHとしては配列番号2で表されるものが挙げられ、
・DDCとしては配列番号3で表されるものが挙げられ、
・GAP43としては配列番号4で表されるものが挙げられ、
・ISL1としては配列番号5で表されるものが挙げられ、
・PHOX2Bとしては配列番号6で表されるものが挙げられ、
・THとしては配列番号7で表されるものが挙げられる。
【0029】
本発明における遺伝子マーカーをコードするヌクレオチド配列は、神経芽腫の微小残存病変の指標となる限り、上記の各配列と相同性を有するものであってもよい。好ましくは、上述の配列番号1から配列番号7でそれぞれ表されるヌクレオチド配列と少なくとも70%の相同性を有し、かつ機能的に同等なポリヌクレオチド(ポリヌクレオチドは、DNA、RNA、およびPNA(peptide nucleic acid)を含む意味で用いられる。ポリヌクレオチドは、好ましはDNA又はRNAである。以下においても同様。)からなってよい。このようなポリヌクレオチドの配列相同性は、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0030】
なお、7遺伝子マーカーそれぞれに関して機能的に同等とは、上述の配列番号1から配列番号7でそれぞれ表されるヌクレオチド配列を有する特定のポリヌクレオチドと同等に、神経芽腫の微小残存病変が存在する場合に発現量が増加するものである。具体的には、機能同等性は、神経芽腫の微小残存病変が存在する場合及び存在しない場合において、ポリヌクレオチドの発現量に有意差があり、当該発現量がいずれの場合においても上記特定のポリヌクレオチドの発現量の80~120%、好ましくは90~110%であることをいう。
【0031】
また、上述のヌクレオチド配列の相同性は、公知の手法によって決定されるものである(以下においても同様)。このような手法の具体例としては、例えば、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873-5877(1993)〕等が挙げられる。また、このアルゴリズムに基づいて、BLASTNまたはBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されており〔Altschul et al.J.Mol.Biol.,215,403-410(1990)〕、本発明においても利用することができる。さらに、他の好ましい手法としては、遺伝情報処理ソフトウェア GENETYX(ゼネティックス社製)を用いる手法が挙げられる。GENETYXを用いる場合には、BLASTによる解析のほかにLipman-Pearson法によるホモロジー解析を行うことができ、本発明における相同性決定において有利に利用することができる。
【0032】
上述の7遺伝子マーカーは、神経芽腫の微小残存病変の検出感度が高く、神経芽腫の微小残存病変のレベルが増加する場合に発現量が増加する。つまり、当該発現量と神経芽腫の微小残存病変の発生レベルとが相関する。したがって、これら7遺伝子マーカー全ての発現量を測定することで、得られた発現量から神経芽腫の微小残存病変を評価することができる。
【0033】
[1-3.レファレンス遺伝子]
上記7遺伝子マーカーのレファレンス遺伝子としては、たとえば、HPRT1として記載される遺伝子、HMBSとして記載される遺伝子、GUSBとして記載される遺伝子、及びTBPとして記載される遺伝子(以下、それぞれ単に、HPRT1、HMBS、GUSB、及びTBPと記載する。)が挙げられる。これらの中から少なくとも1のレファレンス遺伝子を選択することができる。
【0034】
これらのレファレンス遺伝子は、その発現量が適度に低度であることで遺伝子マーカー発現量が少ない検体であってもより感度よいMRD検出を可能とする。さらにこの中でも、レファレンス遺伝子としては、骨髄検体および末梢血検体における発現量の変動(ばらつき)が小さいことで骨髄に由来する生体試料に対しても末梢血に由来する生体試料に対しても有用性が高い点で、HPRT1遺伝子であることが最も好ましい。
【0035】
レファレンス遺伝子の配列情報の詳細は、公知のデータベースにおいて取得することができる。たとえば;
・HPRT1(hypoxanthine phosphoribosyltransferase 1)として、アメリカ合衆国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)のRefSeqデータベースにおけるアクセッション番号NM_000194に相当するもの、
・HMBS(Hydroxymethylbilane synthase)として、同データベースにおけるアクセッション番号NM_000190に相当するもの、
・GUSB(Glucuronidase Beta)として、同データベースにおけるアクセッション番号NM_000181に相当するもの、
・TBP(TATA-binding protein)として、同データベースにおけるアクセッション番号NM_003194に相当するもの、が挙げられる。
【0036】
レファレンス遺伝子をコードする具体的なヌクレオチド配列としては、以下の配列が挙げられる。すなわち;
・HPRT1としては配列番号8で表されるものが挙げられ、
・HMBSとしては配列番号9で表されるものが挙げられ、
・GUSBとしては配列番号10で表されるものが挙げられ、
・TBPとしては配列番号11で表されるものが挙げられる。
【0037】
レファレンス遺伝子をコードするヌクレオチド配列は、内在性コントロールとなる限り、上記の配列と相同性を有するものであってもよい。好ましくは、上述のヌクレオチド配列と少なくとも70%の相同性を有し、かつ上述の遺伝子それぞれと機能的に同等なポリヌクレオチドからなってよい。このようなポリヌクレオチドの配列相同性は、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0038】
なお、レファレンス遺伝子それぞれに関して機能的に同等とは、上述の配列番号8から配列番号11で表されるヌクレオチド配列を有する特定のポリヌクレオチドと同等に検体間で測定値のばらつきが少なく発現量が適度に低度であり、HPRT1にあっては、さらに骨髄検体および末梢血検体の間で測定値のばらつきが少ないものである。具体的には、機能同等性は、同数の母集団における標準偏差が上記特定のポリヌクレオチドの標準偏差の80~120%、好ましくは90~110%であり、ポリヌクレオチドの発現量が上記特定のポリヌクレオチドの発現量の80~120%、好ましくは90~110%であることをいう。
【0039】
[1-4.デジタルPCR]
工程1では、デジタルPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって、上記の7遺伝子マーカー各々の発現量A1~A7を取得する。7遺伝子マーカーそれぞれの発現量A1~A7は、絶対量であってもよいし、レファレンス遺伝子の発現量に対する相対量(つまり、7遺伝子マーカーそれぞれの発現量を少なくともレファレンス遺伝子の発現量で除した値)であってもよい。より正確な分析を行う観点からは、マーカーそれぞれの発現量A1~A7は、レファレンス遺伝子の発現量に対する相対量であることが好ましい。
【0040】
デジタルPCRは、遺伝子マーカーの発現量が少ない検体であっても感度よく検出することができる点で神経芽腫の微小残存病変の検出に特に適している。それだけでなく、デジタルPCRは、分析主体、分析時期、分析機器、プロトコル(反応時間、反応温度等)等が異なっても測定結果のばらつきが少なく、正確に神経芽腫の微小残存病変を検出することもできる点でも有効である。従って、デジタルPCRは、神経芽腫の微小残存病変の評価における汎用性の高さおよび信頼性の高さ等の点でも優れた手法である。デジタルPCRにおいて、以下のプライマーペアを用いることにより、若しくは更に以下のプローブを用いることにより、7遺伝子マーカーの発現量A1~A7を取得することができる。
【0041】
[1-4-1.プライマーペア]
本発明で用いられるプライマーペアは、上述の遺伝子マーカーをコードするヌクレオチド配列を増幅しうる一対のポリヌクレオチド分子である。つまり、本発明においては7遺伝子マーカーCRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2BおよびTHそれぞれに対する合計7対のプライマーペアが用いられる。
【0042】
このようなプライマーペアは、上述の遺伝子マーカーをコードするヌクレオチド配列を増幅できるようにそれぞれ設計されたセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む。アンチセンスプライマーは、増幅対象のポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド分子であり、センスプライマーは、増幅対象のポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド分子である。具体的なプライマーペアの設計は、増幅対象となる領域のヌクレオチド配列に基づいて当業者が適宜行うことができる。例えば、プライマーペアの一方のプライマーを、増幅対象領域のヌクレオチド配列中における5’末端部分の配列を有するものとし、他方のプライマーを、増幅対象領域の相補鎖のヌクレオチド配列中における5’末端部分の配列を有するものとすることができる。
【0043】
本発明では、上述の7遺伝子マーカーを選択することにより、7遺伝子マーカーそれぞれに対応するプライマーペア全てのアニーリング温度を良好に揃えることができる。このため、7遺伝子マーカーを同一熱源で同時測定する場合に増幅対象領域の増幅効率を良好に揃えることができる。7遺伝子マーカーのいずれであっても効率良く増幅されることで、遺伝子発現量が少ない検体であっても微小残存病変測定感度を向上させることができる。
【0044】
プライマーの長さおよび具体的配列は特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。たとえば、7遺伝子マーカー全部の同時測定のために、アニーリング温度条件が揃うTm値となるよう設計することができる。
【0045】
プライマーの長さは、たとえば18ヌクレオチド以上30ヌクレオチド以下、好ましくは18ヌクレオチド以上26ヌクレオチド以下であってよい。
【0046】
プライマーの具体的配列としては、たとえば以下が挙げられる。
・CRMP1に対するプライマー
5'-ccaatccctttatgctgacg-3' (sense) (配列番号13)
5'-ggaacgattaagttctctcctatttg-3' (antisense) (配列番号14)
・DBHに対するプライマー
5'-tggggacactgcctattttg-3' (sense) (配列番号15)
5'-ttctggggtcctctgcac-3' (antisense) (配列番号16)
・DDCに対するプライマー
5'-ctggagaagggggaggagt-3' (sense) (配列番号17)
5'-gccgatggatcactttggt-3' (antisense) (配列番号18)
・GAP43に対するプライマー
5'-gaggatgctgctgccaag-3' (sense) (配列番号19)
5'-ggcactttccttaggtttggt-3' (antisense) (配列番号20)
・ISL1に対するプライマー
5'-aaggacaagaagcgaagcat-3' (sense) (配列番号21)
5'-ttcctgtcatcccctggata-3' (antisense) (配列番号22)
・PHOX2Bに対するプライマー
5'-ctaccccgacatctacactcg-3' (sense) (配列番号23)
5'-ctcctgcttgcgaaacttg-3' (antisense) (配列番号24)
・THに対するプライマー
5'-tcagtgacgccaaggaca-3' (sense) (配列番号25)
5'-gtacgggtcgaacttcacg-3' (antisense) (配列番号26)
【0047】
本発明では、上述の7遺伝子マーカーを増幅しうるプライマーペアに加え、上述のレファレンス遺伝子を増幅しうるプライマーペアを含んでよい。
【0048】
レファレンス遺伝子を増幅しうるプライマーの長さおよび具体的配列も特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。たとえば、7種の遺伝子マーカーのうち複数、好ましくは全部の同時測定のために、上記の7種の遺伝子マーカーとアニーリング温度条件が揃うTm値となるよう設計してよい。
【0049】
プライマーの長さは、たとえば18ヌクレオチド以上30ヌクレオチド以下、好ましくは18ヌクレオチド以上26ヌクレオチド以下であってよい。
【0050】
レファレンス遺伝子用のプライマーの具体的配列としてはたとえば以下が挙げられる。
・HPRT1に対するプライマー
5'-tgaccttgatttattttgcatacc-3' (sense) (配列番号27)
5'-cgagcaagacgttcagtcct-3' (antisense) (配列番号28)
・HMBSに対するプライマー
5'-ctgaaagggccttcctgag-3' (sense) (配列番号29)
5'-cagactcctccagtcaggtaca-3' (antisense) (配列番号30)
・GUSBに対するプライマー
5'-cgccctgcctatctgtattc-3' (sense) (配列番号31)
5'-tccccacagggagtgtgtag-3' (antisense) (配列番号32)
・TBPに対するプライマー
5'-gaacatcatggatcagaacaaca-3' (sense) (配列番号33)
5'-atagggattccgggagtcat-3' (antisense) (配列番号34)
【0051】
プライマーは、増幅対象の検出に適した付加的配列(具体的にはゲノムDNAと相補的でない配列)、例えばリンカー配列をさらに含んでいてもよい。
また、プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(たとえば、125I、131I、3H、14Cなど)、酵素(たとえば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素など)、蛍光物質(たとえば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート、Cy3、Cy5など)、発光物質(たとえば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなど)などで標識されていてもよい。さらに、プライマーは、各々別個に、または各々の機能を損なわなければ混合した状態で、水または適当な緩衝液(たとえば、TEバッファー、Tris-HClバッファーなど)中に適当な濃度(たとえば、2×以上20×以下の濃度で1μM以上50μM以下など)となるように溶解し、約-20℃で保存することができる。
【0052】
[1-4-2.プローブ]
プローブは、本発明で用いる遺伝子マーカーを指標として神経芽腫の微小残存病変を検出するための、上述の遺伝子マーカーをコードする配列又はその相補鎖配列を検出しうるポリヌクレオチド分子である。具体的には、プローブとして、上述の遺伝子マーカーを構成するポリヌクレオチド又はその相補鎖なポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズうるポリヌクレオチド分子が挙げられる。
【0053】
プローブとしては、更に、レファレンス遺伝子をコードする配列又はその相補鎖配列を検出しうるポリヌクレオチド分子が挙げられる。具体的には、プローブとして、上述のレファレンス遺伝子を構成するポリヌクレオチド又はその相補鎖なポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズうるポリヌクレオチド分子が挙げられる。
【0054】
相補的とは、2つのヌクレオチドがハイブリダイゼーション条件下において、対合しうるものであることを意味し、例えば、アデニン(A)とチミン(T)またはウラシル(U)との関係、シトシン(C)とグアニン(G)との関係をいう。
【0055】
ハイブリダイズするとは、ポリヌクレオチド分子が通常のハイブリダイゼーション条件下(つまり通常のPCRにおけるアニーリング条件下)、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で遺伝子マーカーまたはレファレンス遺伝子にハイブリダイズし、遺伝子マーカーまたはレファレンス遺伝子以外のポリヌクレオチド分子にはハイブリダイズしないことを意味する。
【0056】
ストリンジェントな条件とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1%SDS/50~65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
【0057】
また、本発明で用いる遺伝子マーカーまたはレファレンス遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチド分子は、遺伝子特異的なハイブリダイズが可能であれば、その遺伝子マーカーまたはそのレファレンス遺伝子に対して完全に相補的である必要はないが、好ましくは、その遺伝子マーカーまたはそのレファレンス遺伝子に相補的なポリヌクレオチド分子の全部または一部の配列を含んで構成されるものとする。
【0058】
プローブは、市販のオリゴヌクレオチド合成機等を用いて合成オリゴヌクレオチドとして作製してもよいし、あるいは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製してもよい。
【0059】
プローブの鎖長は、たとえば18ヌクレオチド以上30ヌクレオチド以下、好ましくは18ヌクレオチド以上26ヌクレオチド以下であってよい。
【0060】
プローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(たとえば、125I、131I、3H、14Cなど)、酵素(たとえば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素など)、蛍光物質(たとえば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート、Cy3、Cy5など)、発光物質(たとえば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなど)などで標識されていてもよい。あるいは、プローブは、蛍光物質(たとえば、FAM、VICなど)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(たとえば、MGB、TAMRAなど)がさらに結合されていてもよい。より具体的には、蛍光物質が5’末端に付され、クエンチャーが3’末端に付され、さらに3’末端がリン酸化されて構成されるプローブ(TaqManプローブ)として構成されてもよい。この場合、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0061】
[1-4-3.デジタルPCR操作]
デジタルPCRでは、まず、大きな容量の開始試料が複数のより小さな部分容量の試料(分割試料)に分割される。当該分割試料は、平均で単一コピーの標的を含むように調製される。このように分割試料中に存在するポリヌクレオチド分子が0分子(陰性)または1分子(陽性)となることにより、デジタル性が達成される。分割試料における陽性を計数することにより、開始試料中の標的の開始コピー数を推定することができる。従って、デジタルPCRでは、生体試料中の標的が低い濃度であっても、標的の定量が可能となる。なお、分割試料をデジタル性が達成される適正濃度とするためには、開始試料の複数連続希釈法を用いることができ、その容量は用いるPCR装置に応じて決定することができる。このようにして、増幅対象(標的)である遺伝子マーカーの発現量A1~A7を定量することができる。
【0062】
デジタルPCRとしては、好ましくは、液滴ベースのデジタルドロップレットPCR(ddPCR)が挙げられる。ddPCR法は、具体的には、液滴生成工程、PCR増幅工程、検出工程、及び分析工程を含む。液滴生成工程では、核酸増幅に必要な試薬を含む複数の液滴を生成する。PCR増幅工程ではそれらの液滴(または当該液滴が入っているより大きな反応体積を有する試料)を標的の増幅に適切な熱サイクリング条件に付す。検出工程では、PCR産物を含む液滴(又は当該液滴が入っているより大きな反応体積を有する試料)と含まない液滴(又は当該液滴が入っているより大きな反応体積を有する試料)との特定を行う。分析工程では、標的の発現量A1~A7を導出する。
【0063】
さらにデジタルPCRでは、上述のプローブを生体試料中の核酸にハイブリダイズさせる工程を含んでもよい。たとえば、増幅産物の検出を標識に基づいて行う場合に、上述の標識されたプローブを用いてよい。一例としてTaqManプローブを用いる場合、遺伝子マーカーにTaqManプローブがハイブリダイズし、プライマーからの伸長反応がそのハイブリダイゼーション領域に到達した際にTaqDNAポリメラーゼの作用によって蛍光標識物質が遊離する。遊離した蛍光標識物質はクエンチャーの消光作用から開放されることで蛍光を発する。
【0064】
7遺伝子マーカーそれぞれの発現量A1~A7は、好ましくはmRNAへの転写量(つまりコピー数)として定量化することができる。7遺伝子マーカーそれぞれの発現量A1~A7は、絶対コピー数であってもよいし、レファレンス遺伝子のコピー数に対する相対量(つまり、7遺伝子マーカーそれぞれのコピー数をレファレンス遺伝子のコピー数で除した値)であってもよい。より正確な分析を行う観点からは、マーカーそれぞれの発現量A1~A7は、レファレンス遺伝子のコピー数に対する相対量であることが好ましい。更に分析値の取扱いを容易にする観点から、当該相対量は、7遺伝子マーカーそれぞれのコピー数をレファレンス遺伝子のコピー数で除し且つ10,000を乗じて得た値であることが好ましい。
【0065】
[2.工程2]
工程2では、工程1で得られた発現量A1~A7の各々に対し、コントロールにおける前記7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRによる発現量の統計学的数値B1~B7を加味した重み付けを行うことで、重み付き発現量AB1~AB7を取得し、前記重み付き発現量AB1~AB7の幾何平均又は総和を評価値として得る。
【0066】
[2-1.コントロールにおける7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRによる発現量の統計学的数値B1~B7]
7遺伝子マーカーは、健常コントロールにおける発現態様がそれぞれに異なる。具体的には、健常コントロール(n>100)における7遺伝子マーカーのデジタルPCRによる発現量の統計において、発現量を小さい方からで並べて100等分すると、遺伝子マーカーが初めて検出されるパーセンタイル及び遺伝子マーカーの発現量が、それぞれのマーカーで様々に異なっている。図3A及び図3B、並びに、図4A及び図4Bに、当該統計の例を示す。
【0067】
図3A及び図3Bは、成人コントロールの骨髄103検体における、デジタルPCRによる発現量の統計結果を表している。なお、デジタルPCRの方法としては、上述の生体試料から7遺伝子マーカーの発現量A1~A7を得る方法と同様である。各発現量は、7遺伝子マーカーそれぞれの発現量をレファレンス遺伝子の発現量で除し且つ10,000を乗じて得た値として示している。図3A及び図3Bに示すように、例えば、7遺伝子マーカーのうちCRMP1とDBHとを挙げると、CRMP1は比較的低い6パーセンタイルから検出される一方でDBHは52パーセンタイルから検出され、90パーセンタイルにおける発現量を比較するとDBHよりCRMP1の方ではるかに発現量が高い。
【0068】
つまり、上記のコントロールにおける7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRによる発現量の統計に鑑みると、7遺伝子マーカーはそれぞれに重みつまり重要度が異なっている(さらに言い換えると非重要度が異なっている)といえる。例えば、CRMP1とDBHとを比較すると、コントロールにおいて比較的検出されやすく検出量も比較的大きいCRMP1の方で重要度がより低い(非重要度がより高い)といえる。このような重要度の違い(非重要度の違い)は、7遺伝子マーカーそれぞれの間で存在する。
【0069】
図4A及び図4Bは、成人コントロールの末梢血107検体における、デジタルPCRによる発現量の統計結果を表している。図4A及び図4Bにおいても同様に、7遺伝子マーカーそれぞれの間で重要度の違い(非重要度の違い)が存在する。
【0070】
本発明では、7遺伝子マーカーそれぞれの非重要度を意味する数値として、コントロールにおける7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRによる発現量の統計学的数値B1~B7を用いる。
【0071】
なお、発現量A1~A7が絶対量である場合は、コントロールにおける7遺伝子マーカーのデジタルPCRによる発現量も絶対量であることが好ましく、発現量A1~A7が特定のレファレンス遺伝子の発現量に対する相対量である場合は、コントロールにおける7遺伝子マーカーのデジタルPCRによる発現量も当該特定のレファレンス遺伝子の発現量に対する相対量であることが好ましい。図3A及び図3B並びに図4A及び図4Bで示される発現量は、レファレンス遺伝子の発現量に対する相対量である。
【0072】
本発明で用いられるコントロールにおける統計学的数値B1~B7としては、以下に述べるとおり、固定パーセンタイルにおける発現量と、可変パーセンタイルにおける発現量とが挙げられる。
【0073】
[2-1-1.固定パーセンタイルにおける発現量の統計学的数値B1~B7]
固定パーセンタイルを用いる場合、コントロールにおける7遺伝子マーカーの少なくともいずれか(好ましくは2マーカー以上、より好ましくは3マーカー以上、さらに好ましくは4マーカー以上、一層好ましくは5マーカー以上、特に好ましくは6マーカー以上、最も好ましくは7マーカー全て)が検出される特定のパーセンタイルであれば、コントロールにおける7遺伝子マーカー各々の1パーセンタイル以上の共通する特定のパーセンタイルにおける発現量を、7遺伝子マーカーの非重要度を表すコントロールにおける統計学的数値B1~B7として用いることができる。
【0074】
図3A及び図3Bの統計に示されるとおり、骨髄検体の場合、コントロールの6パーセンタイル以上で7遺伝子マーカーのうち少なくともいずれかが検出され、37パーセンタイル以上で2マーカー以上が検出され、39パーセンタイル以上で3マーカー以上が検出され、51パーセンタイル以上で5マーカー以上が検出され、52パーセンタイル以上で6マーカー以上が検出され、54パータイル以上で7遺伝子マーカー全てが検出される。従って、骨髄検体の場合、コントロールにおける7遺伝子マーカー各々の6パーセンタイル以上、好ましくは37パーセンタイル以上、より好ましくは39パーセンタイル以上、一層好ましくは51パーセンタイル以上、特に好ましくは52パーセンタイル以上、最も好ましくは54パーセンタイル以上のうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量を、7遺伝子マーカーの非重要度を表すコントロールにおける統計学的数値B1~B7として用いることができる。
【0075】
また、図4A及び図4Bの統計に示されるとおり、末梢血検体の場合、コントロールの21パーセンタイル以上で7遺伝子マーカーのうち少なくともいずれかが検出され、33パーセンタイル以上で2マーカー以上が検出され、66パーセンタイル以上で3マーカー以上が検出され、76パーセンタイル以上で4マーカー以上が検出され、79パーセンタイル以上で5マーカー以上が検出され、83パーセンタイル以上で6マーカー以上が検出され、90パーセンタイル以上で7遺伝子マーカー全てが検出される。従って、末梢血検体の場合、コントロールにおける7遺伝子マーカー各々の21パーセンタイル以上、好ましくは33パーセンタイル以上、より好ましくは66パーセンタイル以上、さらに好ましくは76パーセンタイル以上、一層好ましくは79パーセンタイル以上、特に好ましくは83パーセンタイル以上、最も好ましくは90パーセンタイル以上のうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量を、7遺伝子マーカーの非重要度を表すコントロールにおける統計学的数値B1~B7として用いることができる。
【0076】
なお、末梢血幹細胞検体の場合、骨髄検体及び末梢血検体と同様に健常コントロールにおける7遺伝子マーカー各々のデジタルPCRによる発現量の統計を取って、当該末梢血幹細胞検体のコントロールにおける発現量を統計学的数値B1~B7として用いてもよい。一方で、末梢血幹細胞検体については健常コントロールの取得が倫理的観点から困難であるため、末梢血検体のコントロールにおける発現量を統計学的数値B1~B7として用いることもできる。本発明の方法はMRD分析の感度及び特異度に優れるため、生体試料として末梢血幹細胞検体を用いる場合に、統計学的数値B1~B7として末梢血検体のコントロールにおける発現量を用いても、優れた感度及び特異度でMRD分析を行うことができる。従って、末梢血幹細胞検体の場合、コントロールにおける7遺伝子マーカー各々の21パーセンタイル以上、好ましくは33パーセンタイル以上、より好ましくは66パーセンタイル以上、さらに好ましくは76パーセンタイル以上、一層好ましくは79パーセンタイル以上、特に好ましくは83パーセンタイル以上、最も好ましくは90パーセンタイル以上のうちの共通する特定のパーセンタイルにおける発現量を、7遺伝子マーカーの非重要度を表すコントロールにおける統計学的数値B1~B7として用いることができる。
【0077】
これらの場合、7遺伝子マーカー間で選択されるパーセンタイルが共通しているため、選択されるパーセンタイルを「固定パーセンタイル」とも記載する。
【0078】
一例として、図3Bにおいて、90パーセンタイル(共通する特定のパーセンタイルの例)における発現量をコントロールにおける統計学的数値B1~B7として用いる場合を挙げると、CRMP1については統計学的数値B1として66.2、DBHについては統計学的数値B2として7.1、DDCについては統計学的数値B3として10.0、GAP43については統計学的数値B4として8.6、ISL1については統計学的数値B5として7.9、PHOX2Bについては統計学的数値B6として7.4、THについては統計学的数値B7として6.1が用いられる。
【0079】
神経芽腫の微小残存病変の病勢、治療効果又は再発の判別の正確性を向上させる観点からの好ましい固定パーセンタイルは、重み付けの手法として、後述する除法による重み付けを行うか減法による重み付けを行うか、並びに、評価値として、重み付き発現量の幾何平均を採用するか重み付き発現量の総和を採用するか、によって異なり得る。具体的な好ましい固定パーセンタイルについては、後述する項目2-3の評価値の欄において詳述する。
【0080】
固定パーセンタイルは、後述の可変パーセンタイルのように7遺伝子マーカーについてそれぞれ個別に最適なパーセンタイルの探索を行わなくとも、容易に、正確な神経芽腫の微小残存病変の有無の判別を行うことができる点で好ましい。
【0081】
[2-1-2.可変パーセンタイルにおける発現量の統計学的数値B1~B7]
また、コントロールにおける7遺伝子マーカーの各パーセンタイルにおける発現量のうち、任意のパーセンタイルにおける発現量を、非重要度を表す統計学的数値B1~B7として用いることができる。7遺伝子マーカー間で選択されるパーセンタイルが異なりうるため、選択されるパーセンタイルを「可変パーセンタイル」とも記載する。
【0082】
神経芽腫の微小残存病変の病勢、治療効果又は再発の判別の正確性を向上させる観点からの好ましい可変パーセンタイルは、重み付けの手法として、後述する除法による重み付けを行うか減法による重み付けを行うか、並びに、評価値として、重み付き発現量の幾何平均を採用するか重み付き発現量の総和を採用するかによって異なり得る。具体的な好ましい可変パーセンタイルについては、後述する項目2-3の評価値の欄において詳述する。
【0083】
可変パーセンタイルの決定方法の例としては、例えば、コントロールにおける前記7遺伝子マーカーの各パーセンタイルにおける発現量のうち、前記7遺伝子マーカー各々の前記微小残存病変の有無に関するカットオフ値に最も近い発現量を示すパーセンタイルを選択する方法が挙げられる。本発明において、神経芽腫の微小残存病変の有無とは、具体的には、進行(Progression)病期の微小残存病変の有無(つまり、微小残存病変の病勢の進行又は再増殖の有無)、1回目の治療介入をすべきレベルの神経芽腫の微小残存病変の有無(つまり、初めての治療介入をすべきレベルの神経芽腫の微小残存病変における病勢(有)とコントロールにおける病勢(無))、神経芽腫の微小残存病変に対する治療効果の有無、又は神経芽腫の微小残存病変の再発の有無(つまり、治療により寛解した後、微小残存病変が再発した場合の病勢(有)と再発しない場合の病勢(無))等をいう。カットオフ値は、有無を判断すべき病態(つまり、診断の目的)に応じて得ることができる。つまり、カットオフ値は、有無の対象となる病態によって異なりうる。7遺伝子マーカー各々の微小残存病変の有無に関するカットオフ値は、当業者に公知の方法によって取得することができる。好ましくは、7遺伝子マーカーのそれぞれについて、微小残存病変の有無のROC(receiver operating characteristic)解析を行い、AUC(area under the curve)を最大化する発現量をカットオフ値として取得することができる。
【0084】
一例として、骨髄試料において、CRMP1について83パーセンタイル、DBHについて79パーセンタイル、DDCについて67パーセンタイル、GAP43について90パーセンタイル、ISL1について51パーセンタイル、PHOX2Bについて76パーセンタイル、THについて81パーセンタイルにおける発現量をコントロールにおける統計学的数値B1~B7として用いる場合を挙げると、CRMP1については統計学的数値B1として42.2、DBHについては統計学的数値B2として3.7、DDCについては統計学的数値B3として2.7、GAP43については統計学的数値B4として8.6、ISL1については統計学的数値B5として2.3、PHOX2Bについては統計学的数値B6として3.1、THについては統計学的数値B7として4.2が用いられる。
【0085】
可変パーセンタイルの決定方法の他の例としては、本発明の方法による神経芽腫の微小残存病変の有無についてのAUCを最大化する発現量を示す固定パーセンタイルを導出し、当該固定パーセンタイルから各遺伝子マーカーのパーセンタイルを個別に変化させることで、当該固定パーセンタイルによるAUCを超える最適なパーセンタイルの組み合わせを見出す方法が挙げられる。
【0086】
可変パーセンタイルは、7遺伝子マーカーについて個別に最適なパーセンタイルの探索が必要となるものの、固定パーセンタイルを用いる場合の本発明によるAUCを超える最適なパーセンタイルの組み合わせを見出すことで、固定パーセンタイルよりも正確に神経芽腫の微小残存病変の有無の判別を行うことが可能な場合がある点で好ましい。
【0087】
[2-2.重み付き発現量AB1~AB7]
本発明においては、工程1で得られた発現量A1~A7の各々に対して、上述のコントロールにおける統計学的数値B1~B7(非重要度)を加味した重み付けを行うことで補正し、重み付き発現量AB1~AB7を得る。言い換えると、工程1で得られた発現量A1~A7の各々を、コントロールにおける統計学的数値B1~B7(非重要度)に基づく補正量で相殺することによって重み付けを行うことで、重み付き発現量AB1~AB7を得る。例えば、発現量A1をCRMP1の発現量とすると、CRMP1がコントロールにおいて比較的検出されやすく検出量も比較的大きいことを加味して、発現量A1から、非重要度に基づくより大きい補正量を減じるように補正する。また、発現量A2をDBHの発現量とすると、DBHがコントロールにおいて比較的検出されにくく検出量も比較的小さいことを加味して、発現量A2から、非重要度に基づくより小さい補正量を減じるように補正する。
【0088】
非重要度に基づく補正量を減じる重み付けの方法としては、以下に述べるとおり、除法により重み付けを行う方法と、減法により重み付けを行う方法とが挙げられる。
【0089】
[2-2-1.除法による重み付け]
除法により重み付けを行う場合、具体的には、発現量A1~A7各々を統計学的数値B1~B7で除して、重み付き発現量AB1~AB7を得る。例えば、重み付き発現量AB1は{A1/B1}、重み付き発現量AB2は{A2/B2}、・・・、重み付き発現量AB7は{A7/B7}として得られる。統計学的数値B1~B7は、いずれも0でないことを条件として、上記の固定パーセンタイルにおける発現量及び可変パーセンタイルにおける発現量のいずれも用いることができる。
【0090】
本発明においては、神経芽腫の有無の判別の正確性をより一層向上させる観点から、重み付けの方法として、除法により重み付けを行うことがより好ましい場合がある。例えば、後述の評価値として、重み付き発現量AB1~AB7の総和をとる場合は、神経芽腫の有無の判別の正確性をより一層向上させる観点から、除法により重み付けを行うことがより好ましい。
【0091】
[2-2-2.減法による重み付け]
減法により重み付けを行う場合、具体的には、発現量A1~A7各々から統計学的数値B1~B7を差し引いて、重み付き発現量AB1~AB7を得る。例えば、重み付き発現量AB1は{A1-B1}、重み付き発現量AB2は{A2-B2}、・・・、重み付き発現量AB7は{A7-B7}として得られる。統計学的数値B1~B7は、上記の固定パーセンタイルにおける発現量及び可変パーセンタイルにおける発現量のいずれも用いることができる。
【0092】
減法による重み付けの具体的な取扱いとしては、後述の評価値を、重み付き発現量AB1~AB7の幾何平均として得るか、重み付き発現量AB1~AB7の総和として得るかで異なる。
【0093】
後述の評価値を、重み付き発現量AB1~AB7の幾何平均として得る場合については、発現量A1~A7各々から統計学的数値B1~B7を差し引いた結果1未満となるものがある場合、その重み付き発現量は1とする。例えば、{A1-B1}>1、{A2-B2}<1、・・・、{A7-B7}>1である場合、重み付き発現量AB1は{A1-B1}、重み付き発現量AB2は1、・・・重み付き発現量AB7は{A7-B7}となる。
【0094】
後述の評価値を、重み付き発現量AB1~AB7の総和として得る場合については、発現量A1~A7各々から統計学的数値B1~B7を差し引いた結果負の数値となるものがある場合、その重み付き発現量は0とする。例えば、{A1-B1}>0、{A2-B2}<0、・・・、{A7-B7}>0である場合、重み付き発現量AB1は{A1-B1}、重み付き発現量AB2は0、・・・重み付き発現量AB7は{A7-B7}となる。
【0095】
[2-3.評価値]
本発明では、7遺伝子マーカーの発現量A1~A7に、コントロールにおける統計学的数値B1~B7(非重要度)を加味した重み付けを行うことで補正して得られた重み付き発現量AB1~AB7の幾何平均又は総和を、評価値として得る。
【0096】
[2-3-1.重み付き発現量の幾何平均]
発現量AB1~AB7の幾何平均である評価値は、減法により重み付けを行った場合では、{Π[i=1→7](Ai-Bi)}1/7(但し、Ai-Bi<1の場合、Ai-Bi=1とする。)で表される。以下、減法による重み付き発現量の幾何平均を評価値として用いる場合において、重み付けに用いられる統計学的数値B1~B7を与えるパーセンタイルの例を述べる。
【0097】
骨髄試料において、統計学的数値B1~B7として図3A及び図3Bの統計に基づいた固定パーセンタイル(1パーセンタイル以上のいずれかにおける共通するパーセンタイル)における発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい固定パーセンタイルとしては、6~92パーセンタイルが挙げられ、より好ましくは6~55パーセンタイル、さらに好ましくは30~55パーセンタイルが挙げられる(図9参照)。
【0098】
また、骨髄試料において、統計学的数値B1~B7として図3A及び図3Bの統計に基づいた可変パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましいパーセンタイルの組み合わせの例としては、CRMP1については38~44パーセンタイル、DBHについては53~66パーセンタイル、DDCについては55~63パーセンタイル、GAP43については49~65パーセンタイル、ISL1については40~56パーセンタイル、PHOX2Bについては51~71パーセンタイル、THについては51~71パーセンタイル;又は、CRMP1については38~44パーセンタイル、DBHについては1~52パーセンタイル、DDCについては1~54パーセンタイル、GAP43については85~86パーセンタイル、ISL1については92~94パーセンタイル、PHOX2Bについては1~50パーセンタイル、THについては51~71パーセンタイルが挙げられる。より好ましい可変パーセンタイルの組み合わせの例としては、CRMP1については83パーセンタイル、DBHについては1~52パーセンタイル、DDCについては1~54パーセンタイル、GAP43については85~86パーセンタイル、ISL1については92~94パーセンタイル、PHOX2Bについては1~50パーセンタイル、THについては1~50パーセンタイルが挙げられる(実施例の表9(d12)参照)。
【0099】
末梢血試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた固定パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい固定パーセンタイルとしては、52~99パーセンタイル、より好ましくは68~99パーセンタイルが挙げられる(図12参照)。
【0100】
末梢血幹細胞試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた固定パーセンタイル(21パーセンタイル以上のいずれかにおける共通するパーセンタイル)における発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい固定パーセンタイルとしては、21~99パーセンタイル、より好ましくは79~95パーセンタイルが挙げられる(図15参照)。
【0101】
また、末梢血幹細胞試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた可変パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましいパーセンタイルの組み合わせの例としては、CRMP1については91~99パーセンタイル、DBHについては91~92パーセンタイル、DDCについては92~95パーセンタイル、GAP43については91~92パーセンタイル、ISL1については98~99パーセンタイル、PHOX2Bについては87~92パーセンタイル、THについては82~93パーセンタイルが挙げられる(実施例の表12(d12)参照)。
【0102】
[2-3-2.重み付き発現量の総和]
[2-3-2-1.減法により重み付けを行った場合]
発現量AB1~AB7の総和である評価値は、減法により重み付けを行った場合では、Σ[k=1→7](Ak-Bk)(但し、Ak-Bk<0の場合、Ak-Bk=0とする。)で表される。以下、減法による重み付き発現量の総和を評価値として用いる場合において、重み付けに用いられる統計学的数値B1~B7を与えるパーセンタイルの例を述べる。
【0103】
骨髄試料において、統計学的数値B1~B7として図3A及び図3Bの統計に基づいた固定パーセンタイル(6パーセンタイル以上のいずれかにおける共通するパーセンタイル)における発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい固定パーセンタイルとしては、6~93パーセンタイル、より好ましくは66~80パーセンタイル、さらに好ましくは75パーセンタイルが挙げられる(図10参照)。
【0104】
また、骨髄試料において、統計学的数値B1~B7として図3A及び図3Bの統計に基づいた可変パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい可変パーセンタイルとしては、上記項目の2-1-2で述べた、カットオフ値に最も近い発現量を示すコントロールでの可変パーセンタイル(実施例の表9(d22)参照)が挙げられる。
【0105】
末梢血試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた固定パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい固定パーセンタイルとしては、21~99パーセンタイル、より好ましくは93~99パーセンタイルが挙げられる(図13参照)。
【0106】
また、末梢血試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた固定パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい可変パーセンタイルとしては、上記項目の2-1-2で述べた、カットオフ値に最も近い発現量を示すコントロールでの可変パーセンタイルが挙げられる。
【0107】
末梢血幹細胞試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた固定パーセンタイル(21パーセンタイル以上のいずれかにおける共通するパーセンタイル)における発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい固定パーセンタイルとしては、21~99パーセンタイル、より好ましくは69~93パーセンタイル、さらに好ましくは92パーセンタイルが挙げられる(図16参照)。
【0108】
また、末梢血幹細胞試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた可変パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい可変パーセンタイルの組み合わせとしては、CRMP1については91~99パーセンタイル、DBHについては91パーセンタイル、DDCについては95パーセンタイル、GAP43については88~99パーセンタイル、ISL1については98~99パーセンタイル、PHOX2Bについては79パーセンタイル、THについては89~93パーセンタイルが挙げられる(実施例の表12(d22)参照)。
【0109】
[2-3-2-2.除法により重み付けを行った場合]
発現量AB1~AB7の総和である評価値は、除法により重み付けを行った場合では、Σ[k=1→7]Ak/Bkで表される。以下、除法による重み付き発現量の総和を評価値として用いる場合において、重み付けに用いられる統計学的数値B1~B7を与えるパーセンタイルの例を述べる。
【0110】
骨髄試料において、統計学的数値B1~B7として図3A及び図3Bの統計に基づいた固定パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、コントロールにおける7遺伝子マーカー全ての発現量が0でない、54パーセンタイル以上の固定パーセンタイルにおける発現量を用いる。神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい固定パーセンタイルとしては、54~99パーセンタイル、より好ましくは55~99パーセンタイルが挙げられる(図11参照)。
【0111】
また、骨髄試料において、統計学的数値B1~B7として図3A及び図3Bの統計に基づいた可変パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい可変パーセンタイルの組み合わせとしては、CRMP1については38~44パーセンタイル、DBHについては77~83パーセンタイル、DDCについては974~79パーセンタイル、GAP43については38~48パーセンタイル、ISL1については57~68パーセンタイル、PHOX2Bについては72~77パーセンタイル、THについては78~83パーセンタイルが挙げられる。より好ましい可変パーセンタイルの組み合わせとしては、CRMP1については92パーセンタイル、DBHについては91~92パーセンタイル、DDCについては99パーセンタイル、GAP43については93パーセンタイル、ISL1については96パーセンタイル、PHOX2Bについては92~93パーセンタイル、THについては84~87パーセンタイルが挙げられる(実施例の表9(d32)参照)。
【0112】
末梢血試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた固定パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、コントロールにおける7遺伝子マーカー全ての発現量が0でない、90パーセンタイル以上の固定パーセンタイルにおける発現量を用いる。神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい固定パーセンタイルとしては、91~99パーセンタイル、より好ましくは94~97パーセンタイルが挙げられる(図14参照)。
【0113】
末梢血幹細胞試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた固定パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、コントロールにおける7遺伝子マーカー全ての発現量が0でない、90パーセンタイル以上の固定パーセンタイルにおける発現量を用いる。神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい固定パーセンタイルとしては、90~99パーセンタイルが挙げられる(図17参照)。
【0114】
また、末梢血幹細胞試料において、統計学的数値B1~B7として図4A及び図4Bの統計に基づいた可変パーセンタイルにおける発現量を用いる場合、神経芽腫の微小残存病変の有無に関する判別の正確性を向上させる観点から、好ましい可変パーセンタイルの組み合わせとしては、CRMP1については98~99パーセンタイル、DBHについては90パーセンタイル、DDCについては98~99パーセンタイル、GAP43については92~93パーセンタイル、ISL1については99パーセンタイル、PHOX2Bについては90パーセンタイル、THについては90~92パーセンタイルが挙げられる(実施例の表12(d32)参照)。
【0115】
[2-3-3.評価値と病状との関係]
評価値は、神経芽腫患者の病期、つまり寛解(Remission)、安定(Stable)、及び進行(Progression)を有意に区別することができる。また、評価値は、神経芽腫患者の検体採取時期、つまり診断(Diagnosis)、治療中(Treatment)、治療後フォローアップ中(Post-treatment)、及び再発(Relapse)による腫瘍量の違いを有意に反映する。このため、評価値は、神経芽腫に対する病勢の評価、治療効果の有無、又は再発の有無の判断に効果的に利用することができる。
【0116】
[3.工程3]
神経芽腫の微小残存病変の評価は、評価値を、神経芽腫の微小残存病変の有無に関するカットオフ値と比較することにより行う。神経芽腫の微小残存病変の有無とは、上述のとおり、進行(Progression)病期の微小残存病変の有無、神経芽腫の微小残存病変に対する治療効果の有無、又は神経芽腫の微小残存病変の再発の有無をいう。評価値がカットオフ値以上の場合、病勢が進行段階にある、治療効果が無い、又は再発が有ると判断することができる。従って、評価値がカットオフ値以上の場合、生体試料の由来元となる患者について、神経芽腫の微小残存病変について、病勢が進行段階にある、治療効果が無い、又は再発が有ると診断することができる。
【0117】
カットオフ値は、上述の手法により予め測定することで経験的に収集した評価値を参照し、公知の統計手法により設定することができる。カットオフ値の具体的な設定手法としては、たとえば、ROC(Receiver Operating Characteristic)分析法などが挙げられる。
【0118】
本発明においては、高感度であるデジタルPCRの特有の課題に鑑みて、7遺伝子マーカーの発現量A1~A7に、コントロールにおける統計学的数値B1~B7(非重要度)を加味した重み付けを行う独自の補正を行って幾何平均又は総和をとることにより、いずれか1個のマーカーが陽性であることにより神経芽腫の微小残存病変を陽性とする手法、それぞれのマーカー発現量の幾何平均がカットオフ値以上であることにより神経芽腫の微小残存病変を陽性とする手法、それぞれのマーカー発現量の総和がカットオフ値以上であることにより神経芽腫の微小残存病変を陽性とする手法のいずれに比べても、神経芽腫の微小残存病変の有無をより正確に判別することができる。
【0119】
本発明によって、神経芽腫の微小残存病変を検出する正確性(神経芽腫の微小残存病変の有無に関するAUC)を総合的に向上させることができるため、病勢・治療効果のモニター又は再発予測の信頼性を向上させることができる。例えば、病勢・治療効果のモニターにおいては、病勢の悪化・治療効果が無い、又は病勢の改善・治療効果が有るを正確に判断することにより、治療方法についてより的確な臨床判断を行い、予後改善を図ることができる。また、再発予測においては、再発が有る(つまり治療介入の必要があること)又は無い(引き続き経過観察を行ってよいこと)を正確に判断することにより、治療介入についてより的確な臨床判断を行い、予後改善を図ることができる。特に、再発率の高い高リスク群患者に対してこのような的確な臨床判断を行うことは、これまで発見出来なかった段階で治療介入することが可能となるため、生存率の改善が期待できる。
【実施例
【0120】
以下に実施例を示し本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。以下の実施例では、MRD遺伝子マーカーとして、CRMP1(配列番号1)、DBH(配列番号2)、DDC(配列番号3)、GAP43(配列番号4)、ISL1(配列番号5)、PHOX2B(配列番号6)およびTH(配列番号7)を用い、レファレンス遺伝子としてHPRT1(配列番号8)を用いた。
【0121】
[1]検体背景
[1-1]コントロール検体
コントロール(non-NB control)検体として、健常成人からの骨髄103検体をコマーシャルソースから入手し、健常成人からの末梢血107検体を日本赤十字社から入手した。献血の使用は神戸大学医学部附属病院および日本赤十字社検討委員会により承認された。
【0122】
[1-2]神経芽腫患者検体
神経芽腫患者(NB patient)検体として、国際神経芽腫リスク分類(INRGリスク分類)における高リスク神経芽腫患者20名から、神戸大学病院小児科及び兵庫県立こども病院血液腫瘍科において診断及び/又は治療のために採取した検体残余として、骨髄(BM)208検体、末梢血(PB)67検体、及び末梢血幹細胞(PBSC)20検体を入手した。これらの検体は、高リスク神経芽腫患者それぞれについて神経芽腫治療の全過程(診断時(Diagnosis)、治療介入時(Treatment)、治療介入後(Post-treatment)、及び再発時(Relapse))を通じてできるだけ頻繁に採取したものである。検体は、書面によるインフォームドコンセントを得て採取した。本研究は、神戸大学大学院医学研究科および兵庫県立こども病院の倫理委員会の承認を得て、神戸大学医学研究科臨床研究ガイドラインに沿って実施した。
【0123】
全ての骨髄検体、末梢血検体及び末梢血幹細胞検体を採取した時点での患者の疾患状態に関しては、J Clin Oncol 1993, 11:1466-1477.及びCancer 2017, 123:1095-1105.を参照し、国際神経芽腫反応基準(INRC反応基準)に従って、完全寛解(CR)または非常に良好な部分寛解(VGPR)に対応する「寛解(remission)」、部分寛解(PR)、混合反応(MR)、又は無反応(NR)に対応する「安定(stable)」、及び進行性疾患(PD)に対応する「進行(progression)」のいずれの病期に相当するかを評価した。全ての検体の背景(病期(Disease status)及び採取時期(Collection time point))を下記表に示す。下記表における数値は、当該病期又は採取時期に該当する検体数/患者数を表している。
【0124】
【表1】
【0125】
[2]7遺伝子マーカーの測定
以下の手法で、遺伝子マーカー(CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2BおよびTH)の測定を行った。
1)抗凝固剤(EDTAまたはヘパリン)を含む検体2 ml~5 mlから、モノ・ポリ分離溶液(DSファーマバイオメディカル社製)を用いて有核細胞を遠心分離した。
2)得られた有核細胞から、TRIZOL PLUS RNA Purification kit(ライフテクノロジー社製)を用いてtotal RNAを抽出し、使用するまで-80℃で保存した。
3)Nanodrop 2000分光光度計(ThermoFisher Scientific社)によってRNA濃度を測定し、Total RNAの品質について、2100 Bioanalyzer(アジレントテクノロジー社製)を用いてその完全性を評価した。
4)品質を評価したtotal RNA 1.0 μgからQuantiTect Reverse Transcription kit(キアジェン社製)を用いてcDNAを合成し、total 80μlとなるようにTE bufferで希釈した。
【0126】
5)QX200 Droplet Digital PCR System(バイオラッド社製)を用いて、7種の遺伝子マーカー全てを1回の操作で同時にddPCR(デジタルPCR)反応に供し、それぞれの遺伝子マーカーの発現量の解析を行った。
具体的には、各遺伝子マーカー(CRMP1、DBH、DDC、GAP43、ISL1、PHOX2BおよびTH)およびレファレンス遺伝子(HPRT1)のプライマーとしては、それぞれ、配列番号13から配列番号26および配列番号27から28に示す配列を有するものを使用し、プローブとしては、 Universal Probe Library(ロッシュ社製)#65 (CRMP1マーカー用)、#3 (DBHマーカー用)、#49(DDCマーカー用)、 #26 (GAP43マーカー用)、#66 (ISL1マーカー用)、#17 (PHOX2Bマーカー用)、#42 (THマーカー用)、#73 (HPRT1マーカー用)を使用した。
鋳型cDNA 1.0 μl(total RNA 12.5 ng相当)、2 x ddPCR Supermix for Probes(バイオラッド)10μl、Sense primer (それぞれfinal 500 nM)、Antisense primer (それぞれfinal 500 nM)、Universal Probe Library(ロッシュ社製)(それぞれfinal 250 nM)を含む全量20 μlの反応液を調製した。
QX200 Droplet Generator (バイオラッド社製)を用いて反応液のドロップレットを作製し、各cDNAをC1000 Touch Thermal Cycler(バイオラッド社製)で増幅した。熱サイクル条件は、95℃で10分間の予備サイクル、94℃で30秒及び56℃1分30秒を1サイクルとして40サイクル、及び98℃で10分間のポストサイクリングであった。温度上昇速度は2℃/秒であった。
ddPCR増幅後、液滴をQX200 Droplet Reader(バイオラッド社製)で測定し、標的コピー数をQuantaSoft(バージョン1.6.6、バイオラッド社製)によって分析した。非テンプレート対照(NTC)反応を用い、陽性および陰性液滴集団の閾値を手動で設定した。全RNAの量およびcDNA合成効率の違いを補正するために、標的コピー数を、レファレンス遺伝子HPRT1を用いて標準化した。
なお、再現性のあるddPCR反応を確実にするために、1滴あたり最低0.045コピーのHPRT1 mRNAが得られたcDNAのみを選択し、選択したcDNAをさらに2~8倍希釈して1滴あたり最大0.45コピーとなるように調整した。結果として、ddPCR反応は、神経芽腫患者およびコントロールからのすべての試料について2~3回繰り返された。この研究は、デジタルMIQEガイドラインに従って実施された。
【0127】
6)サンプルの各MRD遺伝子マーカーの発現量として、MRD遺伝子マーカーのコピー数(copies per well)とレファレンス遺伝子のコピー数(copies per well)とから以下の式によりコピー数(Copies per sample)を算出した。つまり、サンプルの各MRD遺伝子マーカーの発現量を、レファレンス遺伝子に対する相対発現量(相対コピー数;relative copy number)として得た。
【0128】
【数1】
【0129】
[3]コントロールにおける7遺伝子マーカーの発現量
[3-1]コントロールと神経芽腫患者の診断時検体における7遺伝子マーカーの発現量
コントロール(Control)及び診断時(Diagnosis)の神経芽腫患者の、骨髄検体(BM)における7遺伝子マーカーの発現量(relative copy number)を図1に、末梢血検体(PB)おける7遺伝子マーカーの発現量(relative copy number)を図2に示す。図1及び図2に示すように、神経芽腫患者の診断時検体とコントロール検体との間で、7遺伝子マーカーのデジタルPCRによる発現量に重なりが存在することを確認した。このような重なりは、デジタルPCRよりも感度の低いqPCRで測定した場合には見られない。つまり、神経芽腫患者の診断時検体とコントロール検体との間で確認される発現量の重なりは、感度の優れたデジタルPCRを用いることに特有の現象であることが分かった。
【0130】
[3-2]コントロール検体における7遺伝子マーカーの検出率
全コントロール検体中でデジタルPCRにより7遺伝子マーカーそれぞれが検出された検体数(Detectable)及びその確率(%)を下記表に示す。
【0131】
【表2】
【0132】
上記表が示すとおり、デジタルPCRによって解析される7遺伝子マーカーを多数のコントロール検体で統計すると、qPCRで解析される場合とは大きく異なり、高い確率で7遺伝子が検出された。
【0133】
[3-3]コントロール検体における7遺伝子マーカー発現量のパーセンタイル統計
コントロール骨髄103検体における、デジタルPCRによる7遺伝子マーカーの発現量の統計結果を図3A及び図3Bに示す。図3A及び図3Bに示すとおり、デジタルPCRによる7遺伝子マーカーの発現量を小さい方からで並べて100等分すると、遺伝子マーカーが初めて検出されるパーセンタイル及び遺伝子マーカーの発現量はそれぞれのマーカーで様々に異なり、同じパーセンタイルで比較しても、7遺伝子マーカーの発現量は様々に異なる。つまり、7遺伝子マーカーはそれぞれ重要度にばらつきがある(非重要度にばらつきがある)ことが判った。
【0134】
コントロール末梢107検体における、デジタルPCRによる7遺伝子マーカーの発現量の統計結果を同様に図4A及び図4Bに示す。図4A及び図4B図3A及び図3Bと同様に、7遺伝子マーカーはそれぞれ重要度にばらつきがある(非重要度にばらつきがある)ことが判った。
【0135】
[試験例1:除法による7マーカー重み付き発現量の総和による診断能と単一マーカー陽性による診断能との対比]
コントロール骨髄(BM)検体群及び診断時に採取した神経芽腫患者の骨髄(BM)検体群と、コントロール末梢血(PB)検体群及び診断時に採取した神経芽腫患者の末梢血(PB)検体群とについて、上記[2]の方法で7遺伝子マーカーそれぞれの発現量を測定した。7遺伝子マーカーそれぞれ(Each NB-mRNA)の発現量と、図3Bにおける90パーセンタイルでの発現量(BMの場合)、又は図4Bにおける90パーセンタイルでの発現量(PBの場合)を統計学的数値(非重要度)として用い、7遺伝子マーカーそれぞれの発現量を統計学数値で除することで重み付き発現量に補正し、重み付き発現量の総和(7NB-mRNAs)として得た評価値と、について、コントロール骨髄検体群と診断時に採取した神経芽腫患者の骨髄検体群との間のカットオフ値(閾値:TV)、感度(sensitivity)、特異度(specificity)、及びROC曲線下面積(AUC)を解析した。結果を下記表に示す。
【0136】
【表3】
【0137】
【表4】
【0138】
上記表3及び表4に示されるとおり、7遺伝子マーカーそれぞれにカットオフを設定して、カットオフを超えるマーカーを少なくとも1つ認めると陽性と判断する手法(単一マーカー陽性による診断)では、それぞれのマーカーのAUC値のばらつきが大きく、AUC値が低いマーカーも散見される。この傾向は、末梢血において特に顕著である。このため、単一マーカー陽性による診断よりも、7遺伝子マーカーの発現量にコントロールでの発現量(統計学的数値)を加味して重み付けをした評価値(7NB-mRNAs)を用いる手法の方が、骨髄及び末梢血に関わらず常にAUC値が大きい(感度及び特異度が総合的に優れている)ため、より正確な診断が可能であることが示された。
【0139】
[試験例2:除法による7マーカー重み付き発現量の総和と病勢との関係]
神経芽腫患者の各病期における骨髄検体(BM)及び末梢血検体(PB)について、上記[2]の方法で測定した7遺伝子マーカー発現量(relative copy number)それぞれに、図3B及び図4Bにおける90パーセンタイルでの発現量を統計学的数値(非重要度)として用い、除法による重み付き発現量に補正し、重み付き発現量の総和(7NB-mRNAs)を評価値として導出した。各病期における当該評価値の分布を、それぞれ、図5A及び図5Bに示す。また、病期間での評価値の有意差を解析した結果を下記表に示す。
【0140】
【表5】
【0141】
上記表に示されるとおり、7遺伝子マーカーの重み付き発現量の総和(7NB-mRNAs)として得られる評価値は、神経芽腫患者の各病期間で有意差を認めた。すなわち、当該評価値は、神経芽腫患者の病期、つまり寛解(Remission)、安定(Stable)、進行(Progression)の違いを反映しており、特に、進行(Progression)と他の病期との違いを良好に反映していることが分かった。つまり、7遺伝子マーカーの重み付け発現量の総和(7NB-mRNAs)によって、病勢の診断、特に治療介入が必要な病態の診断と、治療中における寛解の診断とが可能であることが示された。
【0142】
[試験例3:除法による7マーカー重み付き発現量の総和と検体採取時期(診断・治療中・フォローアップ中・再発)との関係]
神経芽腫患者の各採取時期における骨髄検体(BM)について、上記[2]の方法で測定した7遺伝子マーカー発現量それぞれに、図3Bにおける90パーセンタイルでの発現量を統計学的数値(非重要度)として用い、除法による重み付き発現量に補正し、重み付き発現量の総和(7NB-mRNAs)を評価値として導出した。各採取時期における当該評価値の分布を図6Aに示す。また、採取時期間(Collection time point)での評価値の有意差を解析した結果を下記表に示す。
【0143】
【表6】
【0144】
神経芽腫患者の各採取時期における末梢血検体(PB)について、上記[2]の方法で測定した7遺伝子マーカー発現量それぞれに、図4Bにおける90パーセンタイルでの発現量を統計学的数値(非重要度)として用い、除法による重み付き発現量に補正し、重み付き発現量の総和(7NB-mRNAs)を評価値として導出した。各採取時期における当該評価値の分布を図6Bに示す。また、採取時期間(Collection time point)での評価値の有意差を解析した結果を下記表に示す。
【0145】
【表7】
【0146】
上記表6及び図6A並びに上記表7及び図6Bに示されるとおり、7遺伝子マーカーの重み付き発現量の総和(7NB-mRNAs)として得られる評価値は、神経芽腫患者の各検体採取時期間で有意差を認めた。すなわち、当該評価値は、神経芽腫患者の検体採取時期、つまり診断(Diagnosis)、治療中(Treatment)、治療後フォローアップ中(Post-treatment)、再発(Relapse)による腫瘍量の違いを忠実に反映していた。特に再発(Relapse)と他の期間との腫瘍量の違いを好ましく反映していることから、7遺伝子マーカーの重み付け発現量の総和(7NB-mRNAs)によって、再発の予後予測が可能であることが示された。
【0147】
[試験例4:除法による7マーカー重み付き発現量の総和による予後診断]
高リスク神経芽腫患者の診断時(Diagnosis)及び治療後のフォローアップ中(Post-treatment)に採取した骨髄検体について、上記[2]の方法で測定した7遺伝子マーカー発現量それぞれに、図3Bにおける90パーセンタイルでの発現量を統計学的数値(非重要度)として用い、除法による重み付き発現量に補正し、重み付き発現量の総和(90 percentile weighted sum)を評価値として導出した。当該評価値を、再発患者(Relapse)と非再発患者(Non-relapse)との間で比較した。結果を図7に示す。また、本試験例で対象となった検体の背景を下記表に示す。
【0148】
【表8】
【0149】
図7及び表8より、診断時に採取した骨髄24(再発17、非再発7)検体では、再発患者と非再発患者の間では、評価値である7遺伝子マーカーの重み付け発現量の総和(7NB-mRNAs)に有意差を認めなかった。一方、治療中に採取した骨髄89(再発55、非再発34)検体及び治療後のフォローアップ中に採取した骨髄73(再発17、非再発56)検体では、再発患者と非再発患者の間に7マーカー重み付け総和(7NB-mRNAs)の有意差を認めた。つまり、7遺伝子マーカーの重み付け発現量の総和(7NB-mRNAs)によって、再発の予後予測が可能であることが示された。
【0150】
[試験例5:除法による7マーカー重み付き発現量の総和による診断能と7マーカーの単純総和による診断能との対比]
治療後のフォローアップ中に採取した骨髄73(再発17、非再発56)検体について、上記[2]の方法で測定した7遺伝子マーカー発現量それぞれに、図3Bにおける90パーセンタイルでの7遺伝子マーカー発現量を統計学的数値(非重要度)として用い、除法による重み付き発現量に補正し、重み付き発現量の総和(7NB-mRNAs(90 percentile weighted sum))を評価値として導出した。また、重み付けを行わず7遺伝子マーカーの発現量の単純総和(non-weighted sum)を導出した。重み付けを行った評価値(7NB-mRNAs(90 percentile weighted sum))及び重み付けを行わなかった評価値(7NB-mRNAs(non-weighted sum))について、神経芽腫患者の予後予測つまり再発予測に関するROC解析を行った。結果を図8に示す。
【0151】
図8に示されるとおり、7遺伝子マーカーの発現量の単純総和(7NB-mRNAs(non-weighted sum))を用いる場合は重み付けを行わず各遺伝子マーカーを等価に扱うため、7遺伝子マーカーの発現量にコントロールでの発現量(統計学的数値)を加味して重み付けをした評価値(7NB-mRNAs(90 percentile weighted sum))を用いる場合の方が、よりAUC値が大きく、つまりより正確な予後予測(再発予測)が可能であることが示された。
【0152】
また、7遺伝子マーカーの発現量にコントロールでの発現量(統計学的数値)を加味して重み付けをした評価値(7NB-mRNAs(90 percentile weighted sum))を用いた予後予測のAUCは、非特許文献8で報告されている、神経芽腫診断のための5遺伝子マーカーを用いた予後予測のAUCである0.622を上回っていた。つまり、本発明の方法は、現時点で世界で最も正確に神経芽腫患者の予後予測(再発予測)を可能にする方法であると考えられる。それだけでなく、本試験例によるAUCは、Moderate accuracyの基準とされる0.7をも上回っている点でも優れていた。
【0153】
[試験例6:再発予測のAUCを最大化させる固定パーセンタイルの探索(骨髄)]
治療後のフォローアップ中に採取した骨髄73(再発17、非再発56)検体について、上記[2]のddPCR測定による方法で7遺伝子マーカーの発現量を測定した。図3A及び図3Bから選択される固定パーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、以下の(i)、(ii)、及び(iii)の手法に基づいて、再発予測に関するROC曲線下面積(AUC)を解析した。
【0154】
(i)7遺伝子マーカーの減法による重み付け幾何平均
図3A及び図3Bから選択される固定パーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量それぞれから、当該統計学的数値(非重要度)を差し引くことにより減法による重み付き発現量に補正し(但し、差し引いた結果重み付け発現量が1未満となる場合は、当該重み付け発現量は「1」とした。)、得られた重み付き発現量の幾何平均を評価値として導出した。導出された評価値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの当該評価値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。固定パーセンタイルとAUCとの関係を図9に示す。
【0155】
図9に示すように、固定パーセンタイルとして6~92パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCが非特許文献8で報告されている0.622を上回り、固定パーセンタイルとして6~55パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCがModerate accuracyの基準とされる0.7を上回り、さらに固定パーセンタイルとして30~55パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCが一層良好であった。また、固定パーセンタイルとして50パーセンタイルを用いた場合にAUCが最大(0.729)となった。
【0156】
(ii)7遺伝子マーカーの減法による重み付け総和
図3A及び図3Bから選択される固定パーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量それぞれから、当該統計学的数値(非重要度)を差し引くことにより減法による重み付き発現量に補正し(但し、差し引いた結果重み付け発現量が0未満となる場合は、当該重み付け発現量は「0」とした。)、得られた重み付き発現量の総和を評価値として導出した。導出された評価値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの当該評価値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。固定パーセンタイルとAUCとの関係を図10に示す。
【0157】
図10に示すように、固定パーセンタイルとして6~93パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCが非特許文献8で報告されている0.622を上回り、さらに固定パーセンタイルとして66~80パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCが一層良好であった。また、固定パーセンタイルとして75パーセンタイルを用いた場合にAUCが最大(0.688)となった。
【0158】
(iii)7遺伝子マーカーの除法による重み付け総和
図3A及び図3Bから選択される固定パーセンタイル(54パーセンタイル以上)における発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量それぞれを、当該統計学的数値(非重要度)で除することにより除法による重み付き発現量に補正し、得られた重み付き発現量の総和を評価値として導出した。導出された評価値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの当該評価値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。固定パーセンタイルとAUCとの関係を図11に示す。
【0159】
図11に示すように、固定パーセンタイルとして54~100パーセンタイルをそれぞれ用いた場合に、非特許文献8で報告されている0.622及びModerate accuracyの基準とされるAUC0.7を上回った。また、固定パーセンタイルとして99パーセンタイルを用いた場合にAUCが最大(0.728)となった。
【0160】
[試験例7:様々な重み付け手法による再発予測(骨髄)]
治療後のフォローアップ中に採取した骨髄73(再発17、非再発56)検体について、上記[2]のddPCR測定による方法で7遺伝子マーカーの発現量を測定した。また、同検体について、qPCR測定による方法で7遺伝子マーカーの発現量を測定した。以下の(a)、(b)、(c)、(d11)、(d12)、(d21)、(d22)、(d31)及び(d32)の手法に基づいて再発予測に関するROC曲線下面積(AUC)及びカットオフ値(閾値:TV)を解析した。
【0161】
(a)qPCR測定による7遺伝子マーカーの単純幾何平均
qPCR測定によって7遺伝子マーカーのコピー数を測定した。qPCR測定においては、7遺伝子マーカーについてのプライマーとしては上記[2]のddPCR測定において用いられたものと同じプライマーを用い、レファレンス遺伝子としてはB2M、GAPDH、PGK1を用い、B2Mのプライマーとしては配列番号35、36に示す配列を有するもの、GAPDHとしては配列番号37(sense)、配列番号38(anti-sense)に示す配列を有するもの、PGK1としては配列番号39(sense)、配列番号40(anti-sense)に示す配列を有するものを用いた。7遺伝子マーカーそれぞれのCt値の幾何平均から、3つのレファレンス遺伝子それぞれのCt値の幾何平均を減じた値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの発現量の幾何平均値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。
【0162】
(b)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの単純幾何平均
測定された7遺伝子マーカーの発現量の幾何平均を導出し、導出された幾何平均値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの発現量の幾何平均値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。
【0163】
(c)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの単純総和
測定された7遺伝子マーカーの発現量の総和を導出し、導出された総和について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの発現量の総和がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。
【0164】
(d11)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの減法(固定パーセンタイル使用)による重み付け幾何平均
図3Aから、表9に示す固定パーセンタイル(試験例6で見出した、再発予測のAUCを最大化させるパーセンタイル)における発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量それぞれから、当該統計学的数値(非重要度)を差し引くことにより減法による重み付き発現量に補正し(但し、差し引いた結果重み付け発現量が1未満となる場合は、当該重み付け発現量は「1」とした。)、得られた重み付き発現量の幾何平均を評価値として導出した。導出された評価値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの当該評価値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。
【0165】
(d12)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの減法(可変パーセンタイル使用)による重み付け幾何平均
図3A及び図3Bから、表9に示す可変パーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量それぞれから、当該統計学的数値(非重要度)を差し引くことにより減法による重み付き発現量に補正し(但し、差し引いた結果重み付け発現量が1未満となる場合は、当該重み付け発現量は「1」とした。)、得られた重み付き発現量の幾何平均を評価値として導出した。導出された評価値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの当該評価値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。なお、表9に示す可変パーセンタイルにおける発現量は、(d11)で用いられた固定パーセンタイルから各遺伝子マーカーのパーセンタイルを任意に変化させて、(d11)よりも高いAUCを探索して見出された。
【0166】
(d21)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの減法(固定パーセンタイル使用)による重み付け総和
図3Bから、表9に示す固定パーセンタイル(試験例6で見出した、再発予測のAUCを最大化させるパーセンタイル)における発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量それぞれから、当該統計学的数値(非重要度)を差し引くことにより減法による重み付き発現量に補正し(但し、差し引いた結果重み付け発現量が0未満となる場合は、当該重み付け発現量は「0」とした。)、得られた重み付き発現量の総和を評価値として導出した。導出された評価値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの当該評価値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。
【0167】
(d22)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの減法(可変パーセンタイル使用)による重み付け総和
図3A及び図3Bから、表9に示す可変パーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量それぞれから、当該統計学的数値(非重要度)を差し引くことにより減法による重み付き発現量に補正し(但し、差し引いた結果重み付け発現量が0未満となる場合は、当該重み付け発現量は「0」とした。)、得られた重み付き発現量の総和を評価値として導出した。導出された評価値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの当該評価値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。なお、表9に示す可変パーセンタイルにおける発現量は、図3A及び図3Bに示す7遺伝子マーカーの各パーセンタイルにおける発現量のうち、7遺伝子マーカー各々の微小残存病変の有無に関するカットオフ値に最も近い発現量として選択された。
【0168】
(d31)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの除法(固定パーセンタイル使用)による重み付け総和
図3Bから、表9に示す固定パーセンタイル(試験例6で見出した、再発予測のAUCを最大化させるパーセンタイル)における発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量それぞれを、当該統計学的数値(非重要度)で除することにより除法による重み付き発現量に補正し、得られた重み付き発現量の総和(7NB-mRNAs)を評価値として導出した。導出された評価値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの当該評価値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。
【0169】
(d32)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの除法(可変パーセンタイル使用)による重み付け総和
図3A及び図3Bから、表9に示す可変パーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量それぞれを、当該統計学的数値(非重要度)で除することにより除法による重み付き発現量に補正し、得られた重み付き発現量の総和(7NB-mRNAs)を評価値として導出した。導出された評価値について、再発の有無でROC解析を行ってカットオフ値を設定した。測定された7遺伝子マーカーの当該評価値がカットオフ値を上回れば陽性と判断した。なお、表9に示す可変パーセンタイルにおける発現量は、(d31)で用いられた固定パーセンタイルから各遺伝子マーカーのパーセンタイルを任意に変化させて、(d31)よりも高いAUCを探索して見出された。
【0170】
【表9】
【0171】
(a)、(b)、(c)、(d11)、(d12)、(d21)、(d22)、(d31)、及び(d32)の方法に基づいた再発予測についてのROC曲線下面積(AUC)及びカットオフ値(閾値:TV)を下記表に示す。
【0172】
【表10】
【0173】
表10の結果に示されるとおり、qPCR測定による発現量を単純に幾何平均した(a)と比べて、ddPCR測定による発現量を単純に幾何平均した(b)では、AUCが向上したため、より正確に再発の予後予測ができることが分かった。更に、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量にコントロールでの発現量(統計学的数値)を加味して幾何平均した(d11)及び(d12)においては、AUCがより一層向上したため、より一層正確に再発の予後予測ができることが分かった。
【0174】
また、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量を単純に総和した(c)と比べて、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量にコントロールでの発現量(統計学的数値)を加味して総和した(d21)、(d22)、(d31)及び(d32)においては、AUCがより一層向上したため、より一層正確に再発の予後予測ができることが分かった。
【0175】
さらに、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量にコントロールでの発現量(統計学的数値)を加味して総和した(d21)、(d22)、(d31)及び(d32)の中でも、減法による重み付けを行った(d21)及び(d22)に比べて、除法による重み付けを行った(d31)及び(d32)の方が、AUCをより一層向上できることが分かった。
【0176】
[試験例8:再発予測のAUCを最大化させる固定パーセンタイルの探索(末梢血)]
治療後のフォローアップ中に採取した末梢血21(再発4、非再発17)検体について、上記[2]のddPCR測定による方法で7遺伝子マーカーの発現量を測定した。図4A及び図4Bから選択される固定パーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択したことを除いて、試験例6の(i)(7遺伝子マーカーの減法による重み付け幾何平均)、(ii)(7遺伝子マーカーの減法による重み付け総和)及び(iii)(7遺伝子マーカーの除法による重み付け総和)と同様にして、再発予測に関するROC曲線下面積(AUC)を解析した。それぞれの結果を図12図14に示す。
【0177】
図12(減法による重み付け幾何平均)に示されるとおり、7遺伝子マーカーの減法による重み付け幾何平均によれば、固定パーセンタイルとして52パーセンタイル以上をそれぞれ用いた場合にAUCが非特許文献8で報告されている0.622を上回り、固定パーセンタイルとして68パーセンタイル以上をそれぞれ用いた場合にAUCがModerate accuracyの基準とされる0.7以上となった。また、100パーセンタイルを除く固定パーセンタイルのうち、99パーセンタイルを用いた場合にAUCが最大(0.824)となった。
【0178】
図13(減法による重み付け総和)に示されるとおり、7遺伝子マーカーの減法による重み付け総和によれば、すべての固定パーセンタイルを用いた場合に、AUCが非特許文献8で報告されている0.622及びModerate accuracyの基準とされる0.7を上回り、さらに固定パーセンタイルとして93~99パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCが一層良好であった。また、99パーセンタイルを用いた場合にAUCが最大(0.838)となった。
【0179】
図14(除法による重み付け総和)に示されるとおり、7遺伝子マーカーの除法による重み付け総和によれば、固定パーセンタイルとして91パーセンタイル以上をそれぞれ用いた場合に、AUCが非特許文献8で報告されている0.622を上回り、固定パーセンタイルとして94~97パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCがModerate accuracyの基準とされる0.7以上となった。また、固定パーセンタイルのうち、97パーセンタイルを用いた場合にAUCが最大(0.706)となった。
【0180】
[試験例9:様々な重み付け手法による再発予測(末梢血)]
治療後のフォローアップ中に採取した末梢血21(再発4、非再発17)検体について、上記[2]のddPCR測定による方法で7遺伝子マーカーの発現量を測定した。試験例8で導出したAUCを最大化させるパーセンタイルをそれぞれ用いたことを除いて試験例7の(d11)、(d21)、及び(d31)と同様にして行った各重み付け手法による、再発予測に関するAUC及びカットオフ値(閾値:TV)を下記表に示す。
【0181】
【表11】
【0182】
[試験例10:再発予測のAUCを最大化させる固定パーセンタイルの探索(末梢血幹細胞)
治療中に採取した末梢血幹細胞検体20(再発11、非再発9)検体について、上記[2]のddPCR測定による方法で7遺伝子マーカーの発現量を測定した。図4A及び図4Bから選択されるパーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択したことを除いて試験例6の(i)、(ii)及び(iii)と同様にして、再発予測に関するROC曲線下面積(AUC)を解析した。固定パーセンタイルとAUCとの関係をそれぞれ図15(減法による重み付け幾何平均)、図16(減法による重み付け総和)、図17(除法による重み付け総和)に示す。
【0183】
図15(減法による重み付け幾何平均)に示すように、固定パーセンタイルとして21~99パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCが非特許文献8で報告されている0.622を上回り(0.626~0.808)、固定パーセンタイルとして44~55パーセンタイル及び69~95パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCがModerate accuracyの基準とされる0.7とほぼ同等(0.697)またはそれを上回り、さらに、固定パーセンタイルとして79~95パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCが一層良好であった。また、固定パーセンタイルとして92パーセンタイルを用いた場合にAUCが最大(0.808)となった。
【0184】
図16(減法による重み付け総和)に示すように、固定パーセンタイルとして21~99パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCが非特許文献8で報告されている0.622を上回り(0.667~0.788)、固定パーセンタイルとして34~95パーセンタイル及び98パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCがModerate accuracyの基準とされる0.7を上回り、さらに、固定パーセンタイルとして69~93パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCが一層良好であった。また、固定パーセンタイルとして92パーセンタイルを用いた場合にAUCが最大(0.788)となった。
【0185】
図17(除法による重み付け総和)に示すように、固定パーセンタイルとし90~99パーセンタイルをそれぞれ用いた場合にAUCがModerate accuracyの基準とされる0.7を上回った(0.707~0.768)。また、固定パーセンタイルとして90パーセンタイルを用いた場合にAUCが最大(0.768)となった。
【0186】
[試験例11:様々な重み付け手法による再発予測(末梢血幹細胞)]
治療中に採取した末梢血幹細胞検体20(再発11、非再発9)検体について、上記[2]のddPCR測定による方法で7遺伝子マーカーの発現量を測定した。以下の(b)、(c)、(d11-1)、(d11-2)、(d12)、(d21-1)、(d21-2)、(d22)、(d31-1)、(d31-2)及び(d32)の手法に基づいて再発予測に関するROC曲線下面積(AUC)及びカットオフ値(閾値:TV)を解析した。
【0187】
(b)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの単純幾何平均
試験例7の(b)と同様の手法で分析した。
【0188】
(c)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの単純総和
試験例7の(c)と同様の手法で分析した。
【0189】
(d11-1)及び(d11-2)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの減法(固定パーセンタイル使用)による重み付け幾何平均
図4A及び図4Bから、表12に示す固定パーセンタイル(試験例10で見出した、再発予測のAUCを最大化させるパーセンタイル、又は適宜選択した50パーセンタイル)における発現量を統計学的数値(非重要度)として選択したことを除いて、試験例7の(d11)と同様の手法で分析した。
【0190】
(d12)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの減法(可変パーセンタイル使用)による重み付け幾何平均
図4Bから、表12に示す可変パーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、試験例7の(d12)と同様の手法で分析した。なお、表12に示す可変パーセンタイルにおける発現量は、(d11-1)で用いられた再発予測のAUCを最大化させる固定パーセンタイルから各遺伝子マーカーのパーセンタイルを任意に変化させて、(d11-1)よりも高いAUCを探索して見出された。
【0191】
(d21-1)及び(d21-2)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの減法(固定パーセンタイル使用)による重み付け総和
図4A及び図4Bから、表12に示す固定パーセンタイル(試験例10で見出した、再発予測のAUCを最大化させるパーセンタイル、又は適宜選択した50パーセンタイル)における発現量を統計学的数値(非重要度)として選択したことを除いて、試験例7の(d21)と同様の手法で分析した。
【0192】
(d22)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの減法(可変パーセンタイル使用)による重み付け総和
図4Bから、表12に示す可変パーセンタイルにおける発現量を統計学的数値(非重要度)として選択し、試験例7の(d22)と同様の手法で分析した。なお、表12に示す可変パーセンタイルにおける発現量は、(d21-1)で用いられた再発予測のAUCを最大化させる固定パーセンタイルから各遺伝子マーカーのパーセンタイルを任意に変化させて、(d21-1)よりも高いAUCを探索して見出された。
【0193】
(d31-1)及び(d31-2)ddPCR測定による7遺伝子マーカーの除法(固定パーセンタイル使用)による重み付け総和
図4Bから、表12に示す固定パーセンタイル(試験例10で見出した、再発予測のAUCを最大化させるパーセンタイル、又は適宜選択した50パーセンタイル)における発現量を統計学的数値(非重要度)として選択したことを除いて、試験例7の(d31)と同様の手法で分析した。なお、表12に示す可変パーセンタイルにおける発現量は、(d31-1)で用いられた再発予測のAUCを最大化させる固定パーセンタイルから各遺伝子マーカーのパーセンタイルを任意に変化させて、(d31-1)よりも高いAUCを探索して見出された。
【0194】
【表12】
【0195】
(b)、(c)、(d11-1)、(d11-2)、(d12)、(d21-1)、(d21-2)、(d22)、(d31-1)、(d31-2)及び(d32)の方法に基づいた再発予測についてのROC曲線下面積(AUC)及びカットオフ値(閾値:TV)を下記表に示す。
【0196】
【表13】
【0197】
【表14】
【0198】
表13の結果に示されるとおり、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量を単純に幾何平均した(b)と比べて、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量にコントロールでの発現量(統計学的数値)を加味して幾何平均した(d11-1)、(d11-2)及び(d12)においては、AUCがより一層向上したため、より一層正確に再発の予後予測ができることが分かった。
【0199】
また、表14の結果に示されるとおり、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量を単純に総和した(c)と比べて、ddPCR測定による7遺伝子マーカーの発現量にコントロールでの発現量(統計学的数値)を加味して総和した(d21-1)、(d21-2)、(d22)、(d31-1)、(d31-2)及び(d32)においては、AUCがより一層向上したため、より一層正確に再発の予後予測ができることが分かった。
【配列表フリーテキスト】
【0200】
配列番号13から配列番号40はプライマーである。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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