IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ビック・ツールの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】医療用中空ドリル
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/16 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
A61B17/16
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022522508
(86)(22)【出願日】2020-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2020049048
(87)【国際公開番号】W WO2021229854
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2020085351
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591128305
【氏名又は名称】株式会社ビック・ツール
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 高一
(72)【発明者】
【氏名】新井 義一
(72)【発明者】
【氏名】木村 勝世
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 智
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-536507(JP,A)
【文献】中国実用新案第204260785(CN,U)
【文献】特開2018-108223(JP,A)
【文献】特開2016-155178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から遠位端に亘り軸心に軸方向に貫通する中空部を備え、先端の部位に4枚の切刃を有し、円筒状の外周部に円弧状の外周溝が螺旋状に形成されてなる医療用の中空ドリルであって、
前記中空ドリルの使用中に切刃によって発生した切屑を排出するための切屑排出溝が、当該中空ドリルの先端部から遠位端方向に捻転されて伸び、
前記切屑排出溝が前記4枚の切刃と前記外周溝を横断し、
前記外周溝の螺旋方向は、前記切屑排出溝の捻転方向と同一の方向とされてなる、医療用中空ドリル。
【請求項2】
前記4枚の切刃は、当該中空ドリルの外周部から中心部に向かって傾斜した直線形状にされ、
前記4枚の切刃のうち、中心を外して形成する2枚の切刃を主刃とし、前記主刃から90°以上後方の位置に中心を通って一直線上に形成する2枚の切刃を副刃とし、
前記副刃にはギャッシュポケットが設けられ、
前記外周溝の螺旋方向は正方向である、請求項1に記載の医療用中空ドリル。
【請求項3】
先端から遠位端に亘り軸心に軸方向に貫通する中空部を備え、先端の部位に4枚の切刃を有し、円筒状の外周部に円弧状の外周溝が螺旋状に形成されてなる医療用の中空ドリルであって、
前記4枚の切刃は、当該中空ドリルの外周部から中心部に向かって傾斜した直線形状にされ、
前記4枚の切刃のうち、中心を外して形成する2枚の切刃を主刃とし、前記主刃から90°以上後方の位置に中心を通って一直線上に形成する2枚の切刃を副刃とし、
前記副刃にはギャッシュポケットが設けられ、
前記外周溝の螺旋方向は正方向である、医療用中空ドリル。
【請求項4】
2枚の前記主刃が、主刃1及び主刃2からなり、
前記主刃1及び前記主刃2は点対称で同様に形成され、
前記主刃1は前記外周部の円筒状の部分より形成され、
前記主刃2は前記外周溝より形成され、前記主刃1より短く形成されてなる、
請求項に記載の医療用中空ドリル。
【請求項5】
2枚の前記副刃は副刃1及び副刃2からなり、前記中空ドリルの回転方向に対し、前記主刃1及び前記主刃2の90°以上後方に位置しており、前記副刃1と前記副刃2は前記円筒状の部分の半径方向の同一直線上に形成されてなる、請求項4に記載の医療用中空ドリル。
【請求項6】
前記主刃の中心部に向かって傾斜した角度α1と前記副刃の中心部に向かって傾斜した角度α2は、
0°<α1<α2の関係を満たす
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の医療用中空ドリル。
【請求項7】
前記主刃1及び前記主刃2に付された傾斜角(Θ)が、前記中空ドリルの回転によって切屑が外周側に排出される方向に形成され、その結果、前記主刃1の切削により生じる切屑が前記主刃1の掬い側から前記外周溝を経て切屑排出溝1に排出され、前記切屑排出溝が、前記副刃の掬い側に設けられた前記切屑排出溝1と、ヒール側の側面に設けられた切屑排出溝2から構成され、
前記切屑排出溝1は、前記中空ドリルの先端部の前記主刃のヒール側から前記中空ドリルの遠位端方向に緩やかに繋がっており、かつ前記中空ドリルの遠位端であるシャンク側に向かって捻転され、前記主刃の掬い側から連なる前記螺旋状の外周溝と繋がり、
前記切屑排出溝2は、前記切屑排出溝1と捩れ方向及び捩れ角は同じである、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の医療用中空ドリル。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の中空ドリルの前記中空部に細径ドリルが嵌入されてなる複合ドリル。
【請求項9】
先端から遠位端に亘り軸心に軸方向に貫通する中空部を備え、先端の部位に4枚の切刃を有し、円筒状の外周部に円弧状の外周溝が螺旋状に形成されてなる医療用の中空ドリルであって、
深さが前記外周溝の深さと同等以下の外周切刃形成溝が、当該中空ドリルの先端部から遠位端方向に捻転されて伸び、
前記外周切刃形成溝は前記4枚の切刃と前記外周溝を横断し、
前記外周溝の螺旋方向は、前記外周切刃形成溝の捻転方向と同一の方向とされてなる、
医療用中空ドリル。
【請求項10】
前記4枚の切刃のうち、中心を外して形成する2枚の切刃を主刃とし、前記主刃から90°以上後方の位置に中心を通って一直線上に形成する2枚の切刃を副刃とし、
前記主刃の中心部に向かって傾斜した角度α1と前記副刃の中心部に向かって傾斜した角度α2は、α1=α2=0の関係を満たし、
前記副刃にはギャッシュポケットが設けられ、
前記外周溝の螺旋方向は正方向である、請求項9に記載の医療用中空ドリル。
【請求項11】
2枚の前記主刃が、主刃1及び主刃2からなり、
前記主刃1及び前記主刃2は点対称で同様に形成され、
前記主刃1は前記外周部の円筒状の部分より形成され、
前記主刃2は前記外周溝より形成され、前記主刃1より短く形成されてなる、
請求項10に記載の医療用中空ドリル。
【請求項12】
2枚の前記副刃は副刃1及び副刃2からなり、前記中空ドリルの回転方向に対し、前記主刃1及び前記主刃2の90°以上後方に位置しており、前記副刃1と前記副刃2は前記円筒状の部分の半径方向の同一直線上に形成されてなる、請求項11に記載の医療用中空ドリル。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれか1項に記載の中空ドリルの前記中空部に細径ドリルが嵌入されてなる複合ドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用中空ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用中空ドリル(以下、単に「中空ドリル」という)は、人体の骨、関節、靭帯再建など整形外科医を中心に使用されており、骨穿孔を対象としたドリルである(図11乃至14参照)。使用方法としては、最初に中空部よりやや細いガイドピン、ガイドワイヤーと呼ばれる、先端にドリル状の切刃を配した細長い棒状の長尺ドリル(以下、「細径ドリル」と称す)を穿孔対象の骨・関節などに穿孔の上、固定し、これをガイドとして中空ドリル中心(中空)部に挿入して回転穿孔し、目的とする穴径(中空ドリルの外径)に拡径するドリルである。
【0003】
本出願人は、中空の医療用ドリルに於いては、切刃一刃当りの形状を定め、その形状を基に、2刃以上の切刃を円周上に配し、先端部内終端から外周に掛けて創成する切刃の切削能力を向上させることによって摩耗し難く、且つ切削力に優れた医療用ドリルを提供することを課題として、中空ドリルの先端部の切れ味を良くするために、先端形状に特徴をもつものを提案している(特許文献1参照)。しかし、中空ドリル(D1)については医療業界より、細径ドリル(D2)を中空ドリル(D1)の回転中心となる様に固定させて、中空ドリル(D1)を回転して、骨(T)に穿孔を行うと、切屑に相当する骨組織が中空ドリル(D1)の外側から綺麗に排出されず、細径ドリル(D2)と中空ドリル(D1)との間のわずかな隙間(GA)に入り込んでしまう可能性があるという問題点がある、との指摘がある(図11乃至14参照)。
【0004】
この隙間(GA)に骨組織が入り込んだ場合、
‐中空ドリル(D1)の回転が妨げられる。
‐固定していた細径ドリル(D2)が共回りして、予期せぬ切削を開始する。
‐気づかずにそのまま骨(T)への穿孔を続けると、細径ドリル(D2)が骨(T)を通し、周囲の神経などを傷つけるなど思わぬ事故を発生させる虞がある、という問題がある。
【0005】
施術する医師は、中空ドリル(D1)の中空部(H)(図13参照)に嵌入される細径ドリル(D2)が回転しない様に注意深く骨の穿孔を行なわなければならない。場合によっては、細径ドリル(D2)を手で抑えて、回転を抑止しながら施術を行う場合もあると言われている。
【0006】
本発明者らは、細径ドリルを固定させて、中空ドリルを回転させる場合、適正な隙間が無いと回転がスムースに行われないため、従来通りの隙間を確保した上で切屑として排出される骨組織を中空ドリルの外側から排出させるような刃型形状を考案し、問題解決を図ることで鋭意検討した。
【0007】
従来型のドリル形状を検討した結果、先端部の切刃は内周中空部より切削が開始される構造となっており、刃先切刃の切れ味が悪いと外周側に排出されず、細径ドリルとの間の隙間に入り込む可能性があることが分かった(図12乃至13参照)。
【0008】
又、特許文献1に記載の発明に於いて(図14参照)、図14の(a)は先端部の正面よりも若干左方向から見た図、(b)は上面図である。図14の(a)において、切刃(15P)は、その背面に逃げ角(β)を有している。逃げ角(β)は1°<β<20°を満たすように設定される。先端部(13P)は、内径端(18P)から外周部(19P)に掛けて切屑排出溝(21P)を備えている。切屑排出溝(21P)は、軸方向に対して捩れている。切屑排出溝(21P)の捩れの角度(捩れ角(δ))は、5°<δ<45°を満たすように設定される。切屑排出溝(21P)は、円筒部(16P)に繋がっているため、切削時に外周部(19P)より切屑が排出される。切刃(15P)はその背面に逃げ角(β)を有し、切屑排出溝(21P)に捩れを持たせることで、切刃前面すべてにすくい角(θ)が形成される。切刃前面のすくい角(θ)は、2°<θ<20°を満たすように設定される。切刃(15P)の内径端(18P)側には、ギャッシュポケット(22P)が設けられる。ギャッシュポケット(22P)を設けて、明確なすくいと切屑の排出を促している。要するに、特許文献1の発明では、先端部の切刃は内周中空部より切削が開始される構造となっているため、この問題を解決する構造とはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-108223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このため本発明は、中空ドリルと、該中空ドリルの中空部に嵌入される細径ドリルとの隙間に切屑が入り込まない様、主に切削を行う先端形状について新たな形状を案出すると共に、外周部の構造についても、切屑の排出が外周に向けてなされ、隙間部分に入り込まない様な構造とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は、先端から遠位端に亘り軸心に軸方向に貫通する中空部を備え、先端の部位に4枚の切刃を有し、円筒状の外周部に円弧状の外周溝が螺旋状に形成されてなる中空の医療用の中空ドリルに関する。
【0012】
本発明の請求項2は、前記中空ドリルの使用中に切刃によって発生した切屑を排出するための切屑排出溝が、当該中空ドリルの先端部から遠位端方向に捻転されて伸び、前記切屑排出溝が前記4枚の切刃と前記外周溝を横断し、前記外周溝の螺旋方向は、前記切屑排出溝の捻転方向と同一の方向とされてなる、ことを特徴とする請求項1に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0013】
本発明の請求項3は、前記4枚の切刃は、当該中空ドリルの外周部から中心部に向かって傾斜した直線形状にされ、前記4枚の切刃のうち、中心を外して形成する2枚の切刃を主刃とし、前記主刃から90°以上後方の位置に中心を通って一直線上に形成する2枚の切刃を副刃とし、前記副刃にはギャッシュポケットが設けられ、前記外周溝の螺旋方向は正方向である、請求項1又は2に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0014】
本発明の請求項4は、前記2枚の主刃が、主刃1及び主刃2からなり、前記主刃1及び前記主刃2は点対称で同様に形成され、前記主刃1は前記外周部の円筒状の部分より形成され、前記主刃2は前記外周溝より形成され、前記主刃1より短く形成されてなる、請求項1、2又は3に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0015】
本発明の請求項5は、前記2枚の副刃は副刃1及び副刃2からなり、前記中空ドリルの回転方向に対し、前記主刃1及び前記主刃2の90°以上後方に位置しており、前記副刃1と前記副刃2は前記円筒状の部分の半径方向の同一直線上に形成されてなる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0016】
本発明の請求項6は、前記主刃の中心部に向かって傾斜した角度α1と前記副刃の中心部に向かって傾斜した角度α2は、0°<α1<α2の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0017】
本発明の請求項7は、主刃1及び主刃2に付された傾斜角(Θ)が、前記中空ドリルの回転によって切屑が外周側に排出される方向に形成され、その結果、主刃1の切削により生じる切屑が主刃1の掬い側から外周溝を経て切屑排出溝1に排出され、前記切屑排出溝が、前記副刃の掬い側に設けられた切屑排出溝1と、ヒール側の側面に設けられた切屑排出溝2から構成され、切屑排出溝1は、前記中空ドリルの先端部の主刃のヒール側から前記中空ドリルの遠位端方向に緩やかに繋がっており、かつ前記中空ドリルの遠位端であるシャンク側に向かって捻転され、前記主刃の掬い側から連なる前記螺旋状の外周溝と繋がり、前記切屑排出溝2は、前記切屑排出溝1と捩れ方向及び捩れ角は同じである、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0018】
本発明の請求項8は、請求項1乃至7に記載の中空ドリルの中空部に細径ドリルが嵌入されてなる複合ドリルに関する。
【0019】
本発明の請求項9は、深さが前記外周溝の深さと同等以下の外周切刃形成溝が、当該中空ドリルの先端部から遠位端方向に捻転されて伸び、前記外周切刃形成溝は前記4枚の切刃と前記外周溝を横断し、前記外周溝の螺旋方向は、前記外周切刃形成溝の捻転方向と同一の方向とされてなる、ことを特徴とする請求項1に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0020】
本発明の請求項10は、前記4枚の切刃のうち、中心を外して形成する2枚の切刃を主刃とし、前記主刃から90°以上後方の位置に中心を通って一直線上に形成する2枚の切刃を副刃とし、前記主刃の中心部に向かって傾斜した角度α1と前記副刃の中心部に向かって傾斜した角度α2は、α1=α2=0の関係を満たし、前記副刃にはギャッシュポケットが設けられ、前記外周溝の螺旋方向は正方向である、請求項9に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0021】
本発明の請求項11は、前記2枚の主刃が、主刃1及び主刃2からなり、前記主刃1及び前記主刃2は点対称で同様に形成され、前記主刃1は前記外周部の円筒状の部分より形成され、前記主刃2は前記外周溝より形成され、前記主刃1より短く形成されてなる、請求項9又は10に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0022】
本発明の請求項12は、前記2枚の副刃は副刃1及び副刃2からなり、前記中空ドリルの回転方向に対し、前記主刃1及び前記主刃2の90°以上後方に位置しており、前記副刃1と前記副刃2は前記円筒状の部分の半径方向の同一直線上に形成されてなる、請求項9乃至12のいずれか1項に記載の医療用中空ドリルに関する。
【0023】
本発明の請求項13は、請求項8乃至12のいずれか1項に記載の中空ドリルの中空部に細径ドリルが嵌入されてなる複合ドリルに関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1は、先端から遠位端に亘り軸心に軸方向に貫通する中空部を備え、先端の部位に4枚の切刃を有し、円筒状の外周部に円弧状の外周溝が螺旋状に形成されてなる中空の医療用のドリルであることを構成上の特徴としているので、切屑の排出が外周に向けて排出され、隙間部分に入り込まないという有利な効果を奏する。
【0025】
本発明の請求項2は、前記中空ドリルの使用中に切刃によって発生した切屑を排出するための切屑排出溝が、当該中空ドリルの先端部から遠位端方向に捻転されて伸び、前記切屑排出溝が前記4枚の切刃と前記外周溝を横断し、前記外周溝の螺旋方向は、前記切屑排出溝の捻転方向と同一の方向とされてなる、ことを特徴とするので、切屑の排出が外周に向けて排出され、隙間部分に入り込まないという有利な効果を奏する。
【0026】
本発明の請求項3は、前記4枚の切刃は、当該中空ドリルの外周部から中心部に向かって傾斜した直線形状にされ、前記4枚の切刃のうち、中心を外して形成する2枚の切刃を主刃とし、前記主刃から90°以上後方の位置に中心を通って一直線上に形成する2枚の切刃を副刃とし、前記副刃にはギャッシュポケットが設けられ、前記外周溝の螺旋方向は正方向である、ことを構成上の特徴としているので、中空ドリルを回転させた際に、穿孔時の切屑が主刃の内周方向に向かわずに、遠心力による効果も加わって外周方向に向かう構造となり、切屑が中空部の方に移動し難い、という有利な効果を奏する。また、副刃には、ギャッシュポケットが設けられているので、切屑が溜まった場合、このギャッシュポケットに溜まり、隙間に入り込まない、という有利な効果を奏する。
【0027】
本発明の請求項4は、前記2枚の主刃が、主刃1及び主刃2からなり、前記主刃1及び前記主刃2は点対称で同様に形成され、前記主刃1は前記外周部の円筒状の部分より形成され、前記主刃2は前記外周溝より形成され、前記主刃1より短く形成されてなる、ことを構成上の特徴としている。また、本発明の請求項5は、前記2枚の副刃は副刃1及び副刃2からなり、前記中空ドリルの回転方向に対し、前記主刃1及び前記主刃2の90°以上後方に位置しており、前記副刃1と前記副刃2は前記円筒状の部分の半径方向の同一直線上に形成される、ことを構成上の特徴としている。
したがって、内周部の切削は主刃1、主刃2による切削で、副刃は関与しない。主刃1、主刃2に付した主刃傾斜角によって中空部への切屑の流入が防止されるという有利な効果を奏する。
【0028】
本発明の請求項6は、主刃の中心部に向かって傾斜した角度α1と副刃の中心部に向かって傾斜した角度α2は、
0°<α1<α2の関係を満たしているため、副刃の外周先端部以外は切削に関与しない構成となり、切屑が隙間部分に入り込まないという有利な効果を奏する。
【0029】
本発明の請求項7は、主刃1及び主刃2に付された傾斜角(Θ)が、前記中空ドリルの回転によって切屑が外周側に排出される方向に形成され、その結果、主刃1の切削により生じる切屑が主刃1の掬い側から外周溝を経て切屑排出溝1に排出され、
切屑排出溝1は、前記中空ドリルの先端部の主刃のヒール側から前記中空ドリルの遠位端方向に緩やかに繋がっており、かつ前記中空ドリルの遠位端であるシャンク側に向かって捻転され、前記主刃の掬い側から連なる前記螺旋状の外周溝と繋がり、
前記切屑排出溝2は、前記切屑排出溝1と捩れ方向及び捩れ角は同じである、ことを特徴としているので、切屑が確実に切屑排出溝より排出されると共に前記中空ドリル外周部の摩擦を軽減し、穿孔がスムースになされ得るという、有利な効果を奏する。
【0030】
本発明の請求項8に係る複合ドリルは、請求項1乃至6に記載の中空ドリルの中空部に細径ドリルが嵌入されてなる構成を備えているので、当該複合ドリルを使用する施術する医師は、中空ドリルの中空部に嵌入される細径ドリルが回転しない様に注意深く骨穿孔を行なう必要がなく、細径ドリルを手で抑えて、回転を抑止しながら施術を行う必要もない。
【0031】
本発明の請求項9に係る複合ドリルは、深さが前記外周溝の深さと同等以下の外周切刃形成溝が、当該中空ドリルの先端部から遠位端方向に捻転されて伸び、前記外周切刃形成溝は前記4枚の切刃と前記外周溝を横断し、前記外周溝の螺旋方向は、前記外周切刃形成溝の捻転方向と同一の方向とされてなる、ことを特徴とするので、切屑の排出が外周に向けて排出され、隙間部分に入り込まないという有利な効果を奏する。
【0032】
本発明の請求項10は、前記4枚の切刃のうち、中心を外して形成する2枚の切刃を主刃とし、前記主刃から90°以上後方の位置に中心を通って一直線上に形成する2枚の切刃を副刃とし、前記主刃の中心部に向かって傾斜した角度α1と前記副刃の中心部に向かって傾斜した角度α2は、α1=α2=0の関係を満たし、前記副刃にはギャッシュポケットが設けられ、前記外周溝の螺旋方向は正方向である、ことを構成上の特徴としているので、中空ドリルを回転させた際に、穿孔時の切屑が主刃の内周方向に向かわずに、遠心力による効果も加わって外周方向に向かう構造となり、切屑が中空部の方に移動し難い、という有利な効果を奏する。また、副刃には、ギャッシュポケットが設けられているので、切屑が溜まった場合、このギャッシュポケットに溜まり、隙間に入り込まない、という有利な効果を奏する。
【0033】
本発明の請求項11は、前記2枚の主刃が、主刃1及び主刃2からなり、前記主刃1及び前記主刃2は点対称で同様に形成され、前記主刃1は前記外周部の円筒状の部分より形成され、前記主刃2は前記外周溝より形成され、前記主刃1より短く形成されてなる、ことを構成上の特徴としている。また本発明の請求項12は、前記2枚の副刃は副刃1及び副刃2からなり、前記中空ドリルの回転方向に対し、前記主刃1及び前記主刃2の90°以上後方に位置しており、前記副刃1と前記副刃2は前記円筒状の部分の半径方向の同一直線上に形成されてなる、ことを構成上の特徴としている。
上記は、骨部への侵入を主刃1(ドリル径の穿孔を確保)で、主な切削は副刃1,2で行ない、主刃4で侵入時に主刃1の補完を行う構造が成立する。主刃1、主刃2に付した主刃傾斜角によって中空部への切屑の流入が防止されるという有利な効果を奏する。
【0034】
本発明の請求項13は、請求項8乃至12のいずれか1項に記載の中空ドリルの中空部に細径ドリルが嵌入されてなる構成を備えているので、当該複合ドリルを使用する施術する医師は、中空ドリルの中空部に嵌入される細径ドリルが回転しない様に注意深く骨穿孔を行なう必要がなく、細径ドリルを手で抑えて、回転を抑止しながら施術を行う必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は本発明の実施形態1に係る医療用中空ドリルの先端の正面図である。
図2図2図1の実施形態1のドリルの下面図である。
図2-1】図2-1は、図1の実施形態1のドリルの下面図であって、ドリルの先端部の説明図である。
図3図3図1の実施形態1のドリルの右側面図である。
図3-1】図3-1は、図1の実施形態1のドリルの右側側面図であって、ドリルの先端部の説明図である。
図4図4図1の実施形態1のドリルの主刃を垂直方向かつ斜め方向から見た上面図である。
図5図5図1の実施形態1のドリルの斜視図である。
図6図6図5の斜視図とは異なる実施形態1の部位を示す斜視図である。
図7図7図1のドリルの先端から遠位端までの実施形態1の全体を示す斜視図である。
図7-1】図7-1は、図1のドリルの中空部に細径ドリルを嵌入してなる更なる実施形態の説明図である。
図8図8は本発明の他の実施形態2に係る医療用中空ドリルの一例を示す側面図である。
図9図9図8の実施形態2のドリルの斜視図である。
図10図10図9の斜視図とは異なる部位を示す斜視図である。
図11】従来技術の中空ドリルと、その中空部に嵌入された細径ドリルを組み合わせた複合ドリルを用いて骨に穿孔している模様を示す説明図である。
図12図11の従来の複合ドリルの先端部を示す部分拡大図である。
図13】従来の中空ドリルの先端部を示す説明図である。
図14図14は特許文献1に係る中空ドリルを示す図であって、a)は先端部の正面よりも若干左方向から見た図、(b)は上面図である。
図15図15は本発明の実施形態4に係る医療用中空ドリルの先端の正面図である。
図16図16図15の実施形態4のドリルの下面図である。
図17図17図15のA方向から見た実施形態4に係る医療用中空ドリルの先端の斜視図である。
図18図18図15のB方向から見た実施形態4に係る医療用中空ドリルの先端の斜視図である。
図19図19図15のB方向から見た実施形態4に係る医療用中空ドリルの参考図であり、深穴を想定した構造を示している。
図20図20図15のB方向から見た実施形態4に係る医療用中空ドリルの先端の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の中空ドリルの実施形態について添付図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【0037】
[実施形態1]
図1は本発明の一実施形態に係る医療用中空ドリルの先端の正面図である。図2図1のドリルの下面図である。図2-1は、図1のドリルの下面図であって、ドリルの先端部の説明図である。図3図1のドリルの右側面図である。図3-1は、図1のドリルの下面図であって、ドリルの先端部の説明図である。図4図1のドリルの主刃を垂直方向かつ斜め方向から見た上面図である。図5図1のドリルの斜視図である。図6図5の斜視図とは異なる部位を示す斜視図である。図7図1のドリルの先端から遠位端までの全体を示す斜視図である。
【0038】
図7を参照すると、本実施形態の中空ドリル(11)は、先端(TE)から遠位端(DE)に亘り軸心(AX)に軸方向に貫通する中空部(H)を備えている。
【0039】
図1及び図7を参照すると、本実施形態の中空ドリル(11)は、先端(TE)の部位に4枚の切刃(即ち、主刃1(12)、主刃2(13)、副刃1(14)及び副刃2(15))を有し、円筒状の外周部(OP)に円弧状の外周溝(G3)が螺旋状に形成されている。
【0040】
更に、本実施形態の中空ドリル(11)の使用中(骨の穿孔施術中)に前述の切刃(即ち、主刃1(12)、主刃2(13)、副刃1(14)及び副刃2(15))によって発生した切屑を排出するための切屑排出溝(即ち、切屑排出溝1(G1)及び切屑排出溝2(G2))が、当該中空ドリル(11)の先端部(TE)から遠位端(DE)方向に(即ち、遠位端(DE)に向かって)捻転されて伸びている。
【0041】
図2及び図3を参照すると、前記切屑排出溝(即ち、切屑排出溝1(G1)及び切屑排出溝2(G2))は、前記4枚の切刃(即ち、主刃1(12)、主刃2(13)、副刃1(14)及び副刃2(15))と前記外周溝(G3)を横断している。
【0042】
本実施形態の中空ドリル(11)においては、前記外周溝(G3)の螺旋方向は、前記切屑排出溝(即ち、切屑排出溝1(G1)及び切屑排出溝2(G2))の捻転方向と同一の方向であり、螺旋方向は正方向である(言い換えれば、本実施形態の中空ドリル(11)の先端(TE)を上に見てZの字を描くように捻れている)とされている。
【0043】
ここで図1を参照すると、前記4枚の切刃((即ち、主刃1(12)、主刃2(13)、副刃1(14)及び副刃2(15)))は、当該中空ドリル(11)の外周部(OP)から中心部に向かって傾斜した直線形状にされ、前記4枚の切刃(即ち、主刃1(12)、主刃2(13)、副刃1(14)及び副刃2(15))のうち、中心を外して形成する2枚の切刃を主刃(主刃1(12)及び主刃2(13))とし、主刃(主刃1(12)及び主刃2(13))から90°以上後方の位置に中心を通って一直線上に形成する2枚の切刃を副刃(副刃1(14)及び副刃2(15))としている。
【0044】
更に、図1及び図2を参照すると、副刃(副刃1(14)及び副刃2(15))の掬い側には、ギャッシュポケット(GP)と称する凹所が設けられている。このギャッシュポケット(GP)は切削の用に供しないが、穿孔施術中に万が一中空ドリル(11)の切削力の低下などの理由で、切屑が溜まった場合に、ギャッシュポケット(GP)に切屑が溜まり、中空ドリル(11)と該中空ドリル(11)の中空部に嵌入される細径ドリル(D2)(図11図12参照)との間の隙間(GA)(図7-1の他、従来図12、13参照)に入り込まないという効果を奏し、この構成により、穿孔時の発熱を防止し、ひいては切れ味の向上が得られるという有利な効果を奏する。本実施形態において、ギャッシュポケット(GP)は中空ドリル(11)内周から切屑出溝1(G1)に掛けて設けられているが、図13及び図14の(a)、(b)のように、内周部に掛けての大きな空間は設けず、内周部の稜線から外周部に掛けて徐々に広がる構成をとっている。それゆえ、隙間(GA)への切屑の侵入を防止することができる。
【0045】
そして、本実施形態においては、前述の2枚の主刃は、主刃1(12)及び主刃2(13)から構成されており、主刃1(12)及び主刃2(13)は点対称で同様に形成されている。
【0046】
主刃1(12)は外周部(OP)の円筒状の部分より形成されている。一方、主刃2(13)は外周溝(G3)より形成されており、主刃1(12)より短く形成されている。図1に例証されているとおり、主刃1(12)及び主刃2(13)の切刃の直線部は傾斜角(Θ)をもって傾斜して中心部を遠ざけるようにされている。この傾斜角(Θ)を有することにより、本実施形態の中空ドリル(11)を回転させたとき、骨の穿孔時に発生した切屑が当該中空ドリル(11)の内周方向に向かわずに、遠心力による効果も加わって外周方向に向かう構成となっているので、切屑が中空ドリル(11)の中空部(H)の方に移動し難いという有利な効果を奏する。更に、本実施形態に係る中空ドリル(11)の主刃1(12)及び主刃2(13)においては、主刃1(12)及び主刃2(13)の掬い側は切屑排出溝1(G1)及び切屑排出溝2(G2)とならない構成にされている。
【0047】
前述の2枚の副刃は、副刃1(14)及び副刃2(15)から構成されており、当該中空ドリル(11)の回転方向に対し、主刃1(12)及び前記主刃2(13)の90°以上後方に位置しており、副刃1(14)と副刃2(15)は円筒状の部分の半径方向の同一直線上に形成されている。
【0048】
本実施形態の中空ドリル(11)の副刃1(14)及び副刃2(15)は、外周先端部側以外は、切削の役割を担っていない。しかしながら、主刃1(12)から螺旋状に切削する方式においては、安定した穿孔を実現するための必要な要素である。
【0049】
図1図2図2-1、図3及び図3-1を参照すると、主刃(主刃1(12)及び主刃2(13))の中心部に向かって傾斜した角度α1と前記副刃の中心部に向かって傾斜した角度α2は、0°<α1<α2の関係を満たす。α1の角度は、0°<α1<5°の範囲で設定し、α2の角度は、α1の角度以上10°未満で設定する。好ましくは、1°<α1<3°かつ5°<α2<7°の関係を満たすように設定する。
【0050】
つぎに、本実施形態の中空ドリル(11)の切屑排出溝(即ち、切屑排出溝1(G1)及び切屑排出溝2(G2))について詳述する。切屑排出溝は、図1に示されるように、副刃(副刃1(14)及び副刃2(15))の掬い側に設けられた切屑排出溝1(G1)と、ヒール側の側面に設けられた切屑排出溝2(G2)から構成される。切屑排出溝1(G1)は、中空ドリル(11)の先端(TE)の主刃(主刃1(12)及び主刃2(13))のヒール側から中空ドリル(11)の遠位端(DE)方向に緩やかに繋がっており、かつ前記ドリルの遠位端(DE)であるシャンク側に向かって捻転され、主刃(主刃1(12)及び主刃2(13))の掬い側から連なる前記螺旋状の外周溝(G3)と繋がっている。切屑排出溝2(G2)は、前記切屑排出溝1(G1)と捩れ方向及び捩れ角は同じである。
【0051】
本実施形態では、主刃(主刃1(12)及び主刃2(13))は、当該主刃の掬い側に連設された螺旋状の外周溝(G3)と繋がっているので、切屑の排出がスムーズに行われるという有利な効果を奏する。また、外周溝(G3)を螺旋状に形成し、主刃1(12)の掬い側と連接したことによって、主に主刃1(12)で行われる切削によって発生する切屑は、主刃1(12)の掬い側に連設された螺旋状の外周溝(G3)を通って、切屑排出溝(G1)に至り、排出される。従って、切屑は主に主刃1(12)の掬い側から連接された外周溝(G3)を介して、副刃1(14)の掬い側に連接された切屑排出溝1(G1)より排出される。主刃(主刃1(12)及び主刃2(13))の掬い側に切屑排出溝を設けていないが、切刃の外周側では螺旋状の外周溝(G3)が切屑排出溝の役割を担っている。
【0052】
また、副刃(副刃1(14)及び副刃2(15))のヒール側の側面より、切屑排出溝1(G1)より浅くて小さい切屑排出溝2(G2)を設けている。切屑排出溝2(G2)は前述のとおり切屑排出溝1(G1)と捻れ方向・捻れ角は同様であり、補完用の切屑排出溝として設けている。切屑排出溝2(G2)は、副刃(副刃1(14)及び副刃2(15))のヒール側の側面ではあるが、主刃(主刃1(12)及び主刃2(13))の前方に設け、主刃(主刃1(12)及び主刃2(13))の内周部の切削における切屑排出と同期する位置に配している。
【0053】
本実施形態の中空ドリル(11)の外周部の特徴である、螺旋状の外周溝(G3)、切屑排出溝1(G1)、切屑排出溝2(G2)は、4枚切刃(即ち、主刃1(12)、主刃2(13)、副刃1(14)及び副刃2(15))の構成としたため、外周部の骨との接触面積を少なくするために設けた。これにより、接触による摩擦を軽減して温度上昇を抑えることができるという優れた効果を奏する。
【0054】
本実施形態の中空ドリル(11)は、上記の構成を備えており、骨の穿孔施術の際、穿孔は主刃1(12)の外周部から始まり、副刃1(14)、主刃2(13)、副刃2(15)の順で各々の外周先端部が骨と接触し、以降は、主刃1(12)及び主刃2(13)による穿孔となる。中空ドリル(11)の径相当の穴径は主刃1(12)による穿孔で得られる。図1の参照符号(SP)は穿孔開始点である。
【0055】
本実施形態に係る中空ドリル(11)の先端部から切屑排出溝1(G1)及び切屑排出溝2(G2)までの構造は、図1乃至図6に例証したとおりであり、遠位端(DE)側のシャンク部に掛けて図7に示されるように中空ドリル(11)のドリル径と同径のパイプ状(或は管状)、又はドリル径より細いパイプ状(或は管状)となっており、全長は施術の内容によって設定される。
【0056】
[実施形態2]
図8は実施形態2に係る医療用中空ドリルの一例を示す側面図である。図9図8のドリルの斜視図である。図10図9の斜視図とは異なる部位を示す斜視図である。
【0057】
実施形態2に係る中空ドリル(11)は、図8乃至図10に例証されるとおり、ドリル穿孔後のバリ除去や面取りを同時に行うため、切屑排出溝1(G1)後端部付近より、カウンターシンク部(CS)を設けている。なお、本実施形態に係る中空ドリル(11)は、カウンターシンク部(CS)以外の構造については、叙上の実施形態1と同一の構成が採用される。
【0058】
[実施形態3]
図7及び図7-1を参照すると、実施形態3に係る医療用複合ドリル(CD)の中空ドリル(11)としては、叙上の実施形態1或は実施形態2に記載された構成を採用し、中空ドリル(11)の中空部(H)(図7参照)に共回り不能に嵌入された細径ドリル(10)から構成され、細径ドリル(10)としては、叙上の従来技術において説明したもの、或はその他公知の細径ドリルを採用することができる。
【0059】
[実施形態4]
図15は本発明の一実施形態に係る医療用中空ドリルの先端の正面図である。図16図15のドリルの下面図である。図17図15のドリルの先端を主刃に略平行な方向からかつ斜め方向から見た斜視図である。図18図15のドリルの先端を副刃に略平行な方向からかつ斜め方向から見た斜視図である。図19図15のドリルの左側面図である。
【0060】
前述の[実施形態1]に係る中空ドリルの構造については、ある程度の肉厚が確保できることを前提としていた。したがって、大きな切屑排出溝1(G1)を(回転方向に対して)主刃1(12)及び主刃2(13)の後方(副刃の前方)に配し、切屑排出溝2(G2)を補完的にドリル外周部に設けていた。
【0061】
しかし、肉厚が薄くなった場合に同様の構造で製作すること、及び、切屑排出効果や切削能力等が想定通りにいかない場合を考慮して、[実施形態1]の様な切屑排出溝からの切屑排出ではなく外周に螺旋状に設けた外周溝(G3)によって排出される構造と、主刃1(112)及び主刃2(113)と、副刃1(114)及び副刃2(115)の角度を水平に設定することで、4枚の切刃全てを切削可能な構造とした上で、副刃1、2に掬い角を設定し、主たる切削を行なうための形状とした。
従来の切屑排出溝は外周切刃(116)を形成するために、外周切刃形成溝(G1A、G1B、G2A、G2B)として設け、溝の深さは外周溝(G3)と同等、又は外周溝(G3)より浅く設定することで、切屑は外周溝(G3)により螺旋状の軌跡を経てドリル後端部に導かれ排出される。
【0062】
図15図17及び図18を参照すると、本実施形態の中空ドリル(111)は、先端(TE)の部位に4枚の切刃(即ち、主刃1(112)、主刃2(113)、副刃1(114)及び副刃2(115))を有し、円筒状の外周部(OP)に円弧状の外周溝(G3)が螺旋状に形成されている。
【0063】
更に、本実施形態の中空ドリル(111)の使用中(骨の穿孔施術中)に前述の切刃(即ち、主刃1(112)、主刃2(113)、副刃1(114)及び副刃2(115))によって発生した切屑を外周溝(G3)に導くと同時に外周切刃を形成のために設けた外周切刃形成溝(即ち、外周切刃形成溝1A(G1A)、外周切刃形成溝1B(G1B)、外周切刃形成溝2A(G2A)、及び外周切刃形成溝2B(G2B))が、当該中空ドリル(111)の先端部(TE)から遠位端(DE)方向に(即ち、遠位端(DE)に向かって)捻転されて伸びている。
【0064】
図16を参照すると、前記外周切刃形成溝(即ち、外周切刃形成溝1A(G1A)、外周切刃形成溝1B(G1B)、外周切刃形成溝2A(G2A)、及び外周切刃形成溝2B(G2B))は、前記4枚の切刃(即ち、主刃1(112)、主刃2(113)、副刃1(114)及び副刃2(115))と前記外周溝(G3)を横断している。
【0065】
本実施形態の中空ドリル(111)においては、前記外周溝(G3)の螺旋方向は、前記外周切刃形成溝(即ち、外周切刃形成溝1A(G1A)、外周切刃形成溝1B(G1B)、外周切刃形成溝2A(G2A)、及び外周切刃形成溝2B(G2B))の捻転方向と同一の方向であり、螺旋方向は正方向である(言い換えれば、本実施形態の中空ドリル(111)の先端(TE)を上に見てZの字を描くように捻れている)とされている。
【0066】
ここで図16を参照すると、前記4枚の切刃(即ち、主刃1(112)、主刃2(113)、副刃1(114)及び副刃2(115))は、当該中空ドリル(111)の外周部(OP)から中心部に向かって水平な直線形状である。主刃(主刃1(112)、主刃2(113))の中心部に向かって傾斜した角度α1と前記副刃1(114)及び副刃2(115))の中心部に向かって傾斜した角度α2は、α1=α2=0の関係を満たす。前記4枚の切刃(即ち、主刃1(112)、主刃2(113)、副刃1(114)及び副刃2(115))のうち、中心を外して形成する2枚の切刃を主刃(主刃1(112)及び主刃2(113))とし、主刃1(112)と副刃1(114)のなす角度、及び主刃2(113)と副刃2(115)のなす角度は、それぞれ90°から100°であってもよい。
【0067】
更に、図15図17及び図18を参照すると、副刃(副刃1(114)及び副刃2(115))の掬い側には、ギャッシュポケット(GP)と称する凹所が設けられている。このギャッシュポケット(GP)は副刃1(114)及び副刃2(115)の切削排出と切削性の向上を図るために設けられ、ギャッシュポケット(GP)より副刃1(114)及び副刃2(115)のエッジ部に掛けて掬いを形成している。切屑はギャッシュポケット(GP)から直下の外周切刃形成溝を介し近傍の外周溝に向かって排出されるため、中空ドリル(111)と該中空ドリル(111)の中空部に嵌入される細径ドリル(D2)(図11図12参照)との間の隙間(GA)(図7-1の他、従来図12、13参照)に入り込まないという効果を奏し、この構成により、穿孔時の発熱を防止し、ひいては切れ味の向上が得られるという有利な効果を奏する。本実施形態において、ギャッシュポケット(GP)は中空ドリル(111)内周から外周切刃形成溝1A(G1A)及び2A(G2A)に掛けて設けられているが、図13及び図14の(a)、(b)のように、内周部に掛けての大きな空間は設けず、内周部の稜線から外周部に掛けて徐々に広がる構成をとっている。それゆえ、隙間(GA)への切屑の侵入を防止することができる。
【0068】
そして、本実施形態においては、前述の2枚の主刃は、主刃1(112)及び主刃2(113)から構成されており、主刃1(112)及び主刃2(113)は点対称で同様に形成されている。
【0069】
主刃1(112)は外周部(OP)の円筒状の部分より形成されている。一方、主刃2(113)は外周溝(G3)より形成されており、主刃1(112)より短く形成されている。主刃1(112)には、中空ドリルの切削に於いて先端部が骨部へ侵入し、穿孔する軌跡が円筒形状を形成する役割を持たせている。
これにより穿孔後の穴が螺子状になるのを防いでいる。
【0070】
図15に例証されているとおり、主刃1(112)及び主刃2(113)の切刃の直線部は傾斜角(Θ)をもって傾斜して中心部を遠ざけるようにされている。この傾斜角(Θ)を有することにより、本実施形態の中空ドリル(111)を回転させたとき、骨の穿孔時に発生した切屑が当該中空ドリル(111)の内周方向に向かわずに、遠心力による効果も加わって外周方向に向かう構成となっているので、切屑が中空ドリル(111)の中空部(H)の方に移動し難いという有利な効果を奏する。
【0071】
前述の2枚の副刃は、副刃1(114)及び副刃2(115)から構成されており、当該中空ドリル(111)の回転方向に対し、それぞれ主刃1(112)及び前記主刃2(113)の90°以上後方に位置しており、副刃1(114)と副刃2(115)は円筒状の部分の半径方向の同一直線上に形成されている。主刃、副刃、計4箇所の切刃の配置は、90°等配としても良いが、ギャッシュポケットの形成を考慮して、主刃と副刃間の角度を、90°≦100°に設定しても良い。
【0072】
図20に示すように、主刃1(112)及び主刃2(113)、副刃1(114)及び副刃2(115)の掬い角の角度は特に限定しないが、何れにしても負の掬い角とした場合、切れ味を大きく毀損するため、0°≦主刃の掬い角<副刃の掬い角、に設定する。
【0073】
本実施形態の中空ドリル(111)の主刃(112)及び(113)と副刃(114)及び(115)の角度を水平に設定することで、4枚の切刃全てを切削可能な構造とした上で、副刃1、2に掬い角を設定し、主たる切削を行なうための形状としている。
【0074】
つぎに、本実施形態の中空ドリル(111)の外周切刃形成溝(即ち、外周切刃形成溝1A(G1A)、外周切刃形成溝1B(G1B)、外周切刃形成溝2A(G2A)、及び外周切刃形成溝2B(G2B))について詳述する。外周切刃形成溝は、図17に示されるように、副刃(副刃1(114)及び副刃2(115))の掬い側に設けられた外周切刃形成溝1A(G1A)及び外周切刃形成溝1B(G1B)と、ヒール側の側面に設けられた外周切刃形成溝2A(G2A)及び外周切刃形成溝2B(G2B)から構成される。外周切刃形成溝1A(G1A)及び外周切刃形成溝1B(G1B)は、中空ドリル(111)の先端(TE)の主刃(主刃1(112)及び主刃2(113))のヒール側から中空ドリル(111)の遠位端(DE)方向に緩やかに繋がっており、かつ前記ドリルの遠位端(DE)であるシャンク側に向かって捻転され、主刃(主刃1(112)及び主刃2(113))の掬い側から連なる前記螺旋状の外周溝(G3)と繋がっている。外周切刃形成溝2A及び2B((G2A)及び(G2B))は、前記外周切刃形成溝1A及び1B((G1A)及び(G2A))と捩れ方向及び捩れ角は同じである。
【0075】
外周切刃形成溝は外周溝(G3)の深さと同等或は外周溝(G3)の深さより浅く設定する。溝部の底面は大きく取らず、極小さな半径で形成し、外周切刃後方に掛けて緩やかに形成し、溝の容量は切屑排出を行わないため、少なくても良く、捩れ角も5°から30°程度に緩やかに設けている。
【0076】
本実施形態では、主な切削は副刃1(114)副刃2(115)によって行われ、切刃にドリル径相当の外周部(OP)を備えた主刃1(112)によって、円筒形状が形成される。主刃2(113)は切削には殆ど関わらないが、切削時に4枚刃として安定した切削が行われるためには不可欠な要素として存在する。副刃1(114)副刃2(115)、主刃1(112)による切削によって発生する切屑はギャッシュポケット(GP)、外周切刃形成溝1A(G1A)外周切刃形成溝1B(G1B)外周切刃形成溝2A(G2A)を介して直下に連設された螺旋状の外周溝(G3)と繋がっているので、切屑の排出が外周溝(G3)よりスムーズに行われるという有利な効果を奏する。
中空ドリルの径が細い場合や肉厚が薄い場合には、[実施形態1]の様な切屑排出溝(G1)が設けられない場合があるため、本実施形態によって解消される。
【0077】
本実施形態の中空ドリル(111)の外周部の特徴である、螺旋状の外周溝(G3)、外周切刃形成溝1A(G1A)及び外周切刃形成溝1B(G1B)、外周切刃形成溝2A(G2A)及び外周切刃形成溝2B(G2B)は、4枚切刃(即ち、主刃1(112)、主刃2(113)、副刃1(114)及び副刃2(115))の構成としたため、外周切刃(116)と骨との接触機会が増えるので、外周部と骨との接触面積を少なくするために設けた。これにより、接触による摩擦を軽減して温度上昇を抑えることができるという優れた効果を奏する。
【0078】
本実施形態の中空ドリル(111)は、上記の構成を備えており、骨の穿孔施術の際、骨部への侵入を主刃1(112)(ドリル径の穿孔を確保)で、主な切削は副刃1,2(副刃1(114)、副刃2(115))で行ない、主刃2(113)で侵入時に主刃1(112)の補完を行う。
【0079】
本実施形態に係る中空ドリル(111)の先端部から外周切刃形成溝1A(G1A)、外周切刃形成溝1B(G1B)、外周切刃形成溝2A(G2A)及び外周切刃形成溝2B(G2B)までの構造は、図15乃至図20に例証したとおりであり、遠位端(DE)側のシャンク部に掛けて図7に示されるように中空ドリル(111)のドリル径と同径のパイプ状(或は管状)、又はドリル径より細いパイプ状(或は管状)となっており、全長は施術の内容によって設定される。例えば、図19は、深穴を想定した構造を示している。穴を深く穿孔する場合、長い全長にわたって外周切刃形成溝が設けられると同時に、螺旋状の外周溝は先端部よりのピッチを詰めて配置し、後端部寄りでは切削に殆ど関与しないため、ピッチを粗くすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の医療用中空ドリルは、中空ドリルと、該中空ドリルの中空部に嵌入される細径ドリルとの隙間に切屑が入り込まない様、主に切削を行う先端形状について新たな形状を案出すると共に、外周部の構造についても、切屑の排出が外周に向けてなされ、隙間部分に入り込まない様な構造を好適に提供する。
【符号の説明】
【0081】
10 細径ドリル
11 中空ドリル
12 主刃1
13 主刃2
14 副刃1
15 副刃2
16 外周切刃
111 中空ドリル
112 主刃1
113 主刃2
114 副刃1
115 副刃2
116 外周切刃
AX 軸心
CD 複合ドリル
D1 従来の中空ドリル
D2 従来の細径ドリル
DD1 穿孔方向
DE 遠位端
G1 切屑排出溝1
G2 切屑排出溝2
G1A 外周切刃形成溝1A
G1B 外周切刃形成溝1B
G2A 外周切刃形成溝2A
G2B 外周切刃形成溝2B
G3 螺旋状の外周溝
GA 隙間
GP ギャッシュポケット
H 中空部
OP 外周部
RD 回転方向
SP 穿孔開始点
TE 先端
Θ 主刃の傾斜角
α1 主刃の中心部に向かって傾斜した角度
α2 副刃の中心部に向かって傾斜した角度
CS カウンターシンク部
図1
図2
図2-1】
図3
図3-1】
図4
図5
図6
図7
図7-1】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20