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特許7555158ワーク保持システムおよびワーク保持装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】ワーク保持システムおよびワーク保持装置
(51)【国際特許分類】
   B25B 11/00 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
B25B11/00 A
B25B11/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023574893
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2022001560
(87)【国際公開番号】W WO2023139633
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000146722
【氏名又は名称】ヤマハロボティクスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】歌野 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】村松 啓且
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】実開平5-64784(JP,U)
【文献】特開2015-205365(JP,A)
【文献】特開2018-67603(JP,A)
【文献】実開平5-66989(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 11/00
B23Q 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に載置された載置物を吸引するための吸引孔が1以上形成された吸引ステージと、
前記吸引ステージの上に載置され、ワークを保持するワーク保持装置と、
を備え、前記ワーク保持装置は、
前記吸引ステージの上に載置されるベースと、
前記ワークが載置される保持ステージであって、前記ベースに対して姿勢を変更可能な保持ステージと、
前記吸引孔と連通する吸引通路と、
前記吸引通路を介してエアが吸引または供給されることで生じる空圧で駆動するアクチュエータであって、前記保持ステージの姿勢を変更するアクチュエータと、
を有することを特徴とするワーク保持システム。
【請求項2】
請求項1に記載のワーク保持システムであって、
前記保持ステージは、上下方向軸回りに回転可能に設けられており、
前記アクチュエータは、前記空圧を受けて、前記保持ステージを回転させる、
ことを特徴とするワーク保持システム。
【請求項3】
請求項2に記載のワーク保持システムであって、
前記アクチュエータは、前記空圧を受けて伸長または収縮するエアシリンダを含む、ことを特徴とするワーク保持システム。
【請求項4】
請求項3に記載のワーク保持システムであって、
前記アクチュエータは、前記エアシリンダの伸縮に伴い一方向にのみ回転するラチェット歯車を含み、
前記保持ステージは、前記ラチェット歯車とともに回転する、
ことを特徴とするワーク保持システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のワーク保持システムであって、さらに、
前記保持ステージを、前記ベースに対して傾斜させる傾斜機構を有する、ことを特徴とするワーク保持システム。
【請求項6】
請求項5に記載のワーク保持システムであって、さらに、
前記吸引ステージの上側に設けられ、前記ワークに対して所定の処理を施すために前記吸引ステージに対して昇降可能なツールヘッドを備え、
前記傾斜機構は、水平軸回りに揺動可能なレバーであって、前記ツールヘッドで押圧可能な力点部と、前記水平軸を挟んで前記力点部の反対側に位置し、前記力点部が押圧されることで前記保持ステージを押し上げる作用点部と、を有している、
ことを特徴とするワーク保持システム。
【請求項7】
請求項6に記載のワーク保持システムであって、
前記保持ステージの底面は、第一角度で傾斜する第一底面部と、前記第一角度と異なる第二角度で傾斜する第二底面部と、を有し、
前記第一底面部を押し上げた場合と、前記第二底面部を押し上げた場合とで、前記吸引ステージの上面の傾きが変化する、
ことを特徴とするワーク保持システム。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載のワーク保持システムであって、
前記保持ステージとともに回転する一方で、前記保持ステージの傾斜が変更しても傾斜しない基準面を備え、
前記保持ステージの底面および前記基準面のそれぞれに、互いに磁気吸引することで前記保持ステージの傾斜状態を維持する1以上の磁気要素が設けられている、
ことを特徴とするワーク保持システム。
【請求項9】
吸引ステージの上に載置され、ワークを保持するワーク保持装置であって、
前記吸引ステージの上に載置されるベースと、
前記ワークが載置される保持ステージであって、前記ベースに対して姿勢を変更可能な保持ステージと、
前記吸引ステージに形成された吸引孔と連通する吸引通路と、
前記吸引通路を介してエアが吸引または供給されることで生じる空圧で駆動するアクチュエータであって、前記保持ステージの姿勢を変更するアクチュエータと、
を備えることを特徴とするワーク保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ワークを回転可能に保持するワーク保持装置、および、これを有するワーク保持システムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来からワークを吸引保持する吸引ステージが広く知られている。かかる吸引ステージには、1以上の吸引孔が形成されている。吸引孔には、吸引ポンプが接続されている。そして、この吸引孔を塞ぐように、吸引ステージにワークを載置した状態で吸引ポンプを駆動することで、ワークが吸引保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-110558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ワークに施す処理の内容によっては、処理の過程で、ワークの姿勢を変更したい場合がある。例えば、ワークの姿勢を変更しながら、ワークを複数回、撮像し、得られた複数の画像に基づいてワークの検査をしたい場合がある。一般的な吸引ステージを用いて、かかる検査を行おうとした場合、撮像の度に、吸引を一時的に解除して、ワークの姿勢を変更する必要があり、非常に手間であった。
【0005】
そこで、専用の動力源(例えばモータや電磁シリンダ等)を追加し、これにより、ワークの姿勢を変更することも考えられる。しかし、こうした動力源の追加は、コストの増加を招く。
【0006】
なお、特許文献1には、スライドテーブルを有する検査システムが開示されている。この検査システムによれば、ワークの位置を変更することはできる。しかし、特許文献1においてスライドテーブルは、手動でスライドされる。したがって、スライドテーブルに載置されたワークの位置を変更するためには、オペレータの手動操作が必要であり、やはり、手間であった。
【0007】
そこで、本明細書では、専用の動力源を追加することなく、ワークの姿勢を変更可能なワーク保持システムおよびワーク保持装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示するワーク保持システムは、上面に載置された載置物を吸引するための吸引孔が1以上形成された吸引ステージと、前記吸引ステージの上に載置され、ワークを保持するワーク保持装置と、を備え、前記ワーク保持装置は、前記吸引ステージの上に載置されるベースと、前記ワークが載置される保持ステージであって、前記ベースに対して姿勢を変更可能な保持ステージと、前記吸引孔と連通する吸引通路と、前記吸引通路を介してエアを吸引または供給することで生じる空圧で駆動するアクチュエータであって、前記保持ステージの姿勢を変更するアクチュエータと、を有することを特徴とする。
【0009】
この場合、前記保持ステージは、上下方向軸回りに回転可能に設けられており、前記アクチュエータは、前記空圧を受けて、前記保持ステージを回転させてもよい。
【0010】
また、前記アクチュエータは、前記空圧を受けて伸長または収縮するエアシリンダを含んでもよい。
【0011】
また、前記アクチュエータは、前記エアシリンダの伸縮に伴い一方向にのみ回転するラチェット歯車を含み、前記保持ステージは、前記ラチェット歯車とともに回転してもよい。
【0012】
また、さらに、前記保持ステージを、前記ベースに対して傾斜させる傾斜機構を有してもよい。
【0013】
この場合、さらに、前記吸引ステージの上側に設けられ、前記ワークに対して所定の処理を施すために前記吸引ステージに対して昇降可能なツールヘッドを備え、前記傾斜機構は、水平軸回りに揺動可能なレバーであって、前記ツールヘッドで押圧可能な力点部と、前記水平軸を挟んで前記力点部の反対側に位置し、前記力点部が押圧されることで前記保持ステージを押し上げる作用点部と、を有してもよい。
【0014】
また、前記保持ステージの底面は、第一角度で傾斜する第一底面部と、前記第一角度と異なる第二角度で傾斜する第二底面部と、を有し、前記第一底面部を押し上げた場合と、前記第二底面部を押し上げた場合とで、前記吸引ステージの上面の傾きが変化してもよい。
【0015】
また、前記保持ステージとともに回転する一方で、前記保持ステージの傾斜が変更しても傾斜しない基準面を備え、前記保持ステージの底面および前記基準面のそれぞれに、互いに磁気吸引することで前記保持ステージの傾斜状態を維持する1以上の磁気要素が設けられていてもよい。
【0016】
本明細書で開示するワーク保持装置は、吸引ステージの上に載置され、ワークを保持するワーク保持装置であって、前記吸引ステージの上に載置されるベースと、前記ワークが載置される保持ステージであって、前記ベースに対して姿勢を変更可能な保持ステージと、前記吸引ステージに形成された吸引孔と連通する吸引通路と、前記吸引通路を介してエアを吸引または供給することで生じる空圧で駆動するアクチュエータであって、前記保持ステージの姿勢を変更するアクチュエータと、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本明細書で開示する技術によれば、専用の動力源を追加することなく、ワークの姿勢を変更可能に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、ワーク保持システム10の概略的な構成を示す図である。
図2】また、図2は、ワーク保持装置16の平面図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4図2のB-B断面図である。
図5図2のB-B断面図である。
図6】エアシリンダの模式図である。
図7】揺動ブロックとラチェット歯車を抜き出した図である。
図8】揺動ブロックとラチェット歯車の動きを説明する図である。
図9】傾斜レバーを図2のC方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照してワーク保持システム10について説明する。図1は、ワーク保持システム10の概略的な構成を示す図である。また、図2は、ワーク保持装置16の平面図である。
【0020】
ワーク保持システム10は、ワーク100を保持しつつ、当該ワーク100の姿勢を変更できるシステムである。本例のワーク保持システム10は、ワーク100の撮像画像に基づいて、ワーク100の品質を検査する検査装置に組み込まれている。そのため、ワーク保持システム10の一部の構成要素は、後述するように、検査装置の構成要素を、そのまま流用している。
【0021】
ワーク保持システム10は、吸引ステージ12と、検査ヘッド14と、ワーク保持装置16と、コントローラ18と、を備えている。吸引ステージ12は、その上面に載置された対象物を吸引保持するステージである。吸引ステージ12には、1以上の吸引孔20が、形成されている。吸引孔20は、吸引ポンプ22に接続されている。吸引ポンプ22を駆動することで、吸引孔20に真空吸引力が作用し、これにより、吸引ステージ12の上面に載置された対象物を吸引保持できる。また、吸引孔20と吸引ポンプ22との間には、大気圧開放弁23が設けられている。吸引ポンプ22の駆動を停止したうえで、大気圧開放弁23を開放することで、対象物の吸引を解除できる。かかる吸引ステージ12は、検査装置にもともと設けられていたものである。検査装置では、通常、吸引ステージ12に、検査対象のワーク100を載置するが、本例では、吸引ステージ12の上に、ワーク保持装置16を載置し、このワーク保持装置16でワーク100を保持している。かかる構成とする理由は後述する。
【0022】
検査ヘッド14は、吸引ステージ12の上側に設けられている。検査ヘッド14は、ワーク100に対して処理を施すツールを有するツールヘッドとして機能する。本例の場合、検査ヘッド14は、ツールとして、ワーク100を撮像する検査カメラ24を有している。検査カメラ24は、下向きの光軸を有しており、ワーク保持装置16で保持されたワーク100を撮像する。
【0023】
検査ヘッド14は、図示しない移動機構により、水平方向および鉛直方向に移動できる。この検査ヘッド14も、検査装置にもともと設けられていたものである。ただし、本例では、検査ヘッド14に、さらに、押圧体26が設けられている。この押圧体26は、下方に大きく突出した棒状部材であり、当該押圧体26の下端は、検査カメラ24の下端より下側に位置している。押圧体26は、後述する傾斜レバー90(図2参照)の力点部94を押圧するために設けられている。
【0024】
ワーク保持装置16は、ワーク100を保持しつつ、当該ワーク100の姿勢を変更する装置である。ワーク保持装置16は、吸引ステージ12に対して、回転および揺動できる保持ステージ32を有している。検査対象のワーク100は、この保持ステージ32に載置される。保持ステージ32を回転および揺動させる機構については、後述する。
【0025】
コントローラ18は、吸引ポンプ22や検査ヘッド14、検査カメラ24の駆動を制御するとともに、検査カメラ24で得られた画像を解析し、ワーク100の品質を判断する。かかるコントローラ18は、物理的には、プロセッサ18aとメモリ18bとを有するコンピュータである。このコントローラ18も、検査装置にもともと設けられていたものである。
【0026】
次に、ワーク保持装置16の構成について詳説していく。ワーク保持装置16を使用する際、当該ワーク保持装置16は、吸引ステージ12に載置される。ワーク保持装置16は、ベースプレート30と、保持ステージ32と、保持ステージ32を回転させる回転アクチュエータ34と、保持ステージ32を揺動させる傾斜機構と、を有する。
【0027】
ベースプレート30は、吸引ステージ12の上面に載置される板材である。図2に示すように、ベースプレート30の外形は、吸引ステージ12の外形より大きく、ベースプレート30は、吸引ステージ12を上側から完全に覆う。ベースプレート30は、固定ボルト40により、吸引ステージ12に固定される。なお、本例では、ベースプレート30を吸引ステージ12より大きくしているが、ベースプレート30は、少なくとも一つの吸引孔20を覆えるのであれば、その形状およびサイズは、適宜、変更されてもよい。例えば、吸引ステージ12に2つの吸引孔20が形成されている場合において、ベースプレート30は、一つの吸引孔20のみを覆い、他方の吸引孔20は覆わない形状としてもよい。この場合、覆われない吸引孔20には、エアのリークを防止するために、何らかの閉塞部材(例えば吸引孔20を塞ぐ接着テープ等)を配しておけばよい。
【0028】
また、図1に示すように、ベースプレート30には、厚み方向に貫通する連通孔38aが、形成されている。この連通孔38aは、ベースプレート30を吸引ステージ12に固定した際、吸引孔20と連通する位置に形成されている。連通孔38aの上端開口には、中継ポート38bが挿し込まれており、中継ポート38bには、さらに、接続配管38cが、接続されている。中継ポート38bの内部には、連通孔38aと接続配管38cとを連通させる通路が形成されている。以下では、連通孔38a、中継ポート38b、および、接続配管38cで構成される通路を、吸引通路38と呼ぶ。
【0029】
保持ステージ32は、ワーク100が、載置されるステージである。本例では、ワーク100は、保持ステージ32の上面(以下「載置面46」と呼ぶ)に接着される。保持ステージ32は、図2に示すように、円板を径方向に3分割した際の真ん中部分のような形状をしている。別の言い方をすると、保持ステージ32は、平面視で、上縁および下縁が円弧状の略長方形である。
【0030】
この保持ステージ32は、鉛直軸回りに回転可能であり、また、水平軸周りに揺動可能となっている。これについて、図2図3を参照して説明する。図3は、図2のA-A断面図である。図2図3に示すように、保持ステージ32の下側には、ラチェット歯車84が配置されている。ラチェット歯車84の上面(以下「基準面84a」と呼ぶ)からは、二つの支持部材88が、立脚している。二つの支持部材88は、保持ステージ32の水平方向両側に配置されている。換言すれば、保持ステージ32は、平面視で、一対の支持部材88に挟まれた状態となっている。各支持部材88は、水平方向に突出するステージ揺動軸48を有している。保持ステージ32は、このステージ揺動軸48により、支持部材88に対して揺動可能に支持されている。
【0031】
また、上述した通り支持部材88は、ラチェット歯車84の基準面84aに固定されている。そのため、ラチェット歯車84が、鉛直方向に延びる回転軸42回りに回転した場合、支持部材88、および、支持部材88により支持された保持ステージ32も、回転軸42回りに回転する。
【0032】
次に、回転アクチュエータ34について説明する。回転アクチュエータ34は、保持ステージ32を、回転軸42回りに回転させるためのアクチュエータである。かかる回転アクチュエータ34は、エアシリンダ60と、進退バー78と、揺動ブロック80(図1では図示せず)と、ラチェット歯車84と、を有している。ラチェット歯車84は、上述した通り、また、図3等に示すとおり、保持ステージ32の下側に配されている。ラチェット歯車84は、ワンウェイクラッチ43を介して、回転軸42に取り付けられている。ワンウェイクラッチ43は、上面視で、ラチェット歯車84が、時計回り方向に回転することを許容し、反時計回り方向に回転することを阻害する。以下では、ワンウェイクラッチ43により許容されている回転方向を「正回転方向」と呼ぶ。
【0033】
エアシリンダ60は、ピストンロッド66を進退させることで、ラチェット歯車84を正回転方向に回転させる。本例において、このエアシリンダ60を進退させる動力源は、吸引通路38を介してエアを吸引することで生じる負圧の空圧であり、吸引ステージ12に供給される吸引力である。これについて図6を参照して説明する。図6は、エアシリンダ60の模式図である。エアシリンダ60は、シリンダチューブ62と、ピストン64と、ピストンロッド66と、を有している。ピストン64は、シリンダチューブ62の内部空間を、二つに分割する。以下では、ピストン64より紙面右側の空間を第一圧力室68fと呼び、ピストン64より紙面左側の空間を第二圧力室68sと呼ぶ。ピストン64は、シリンダチューブ62の内部で進退可能である。ピストン64が、進退することで、第一圧力室68fおよび第二圧力室68sの体積が変動する。ピストン64からは、ピストンロッド66が突出している。ピストンロッド66は、シリンダチューブ62の外側まで突出している。ピストンロッド66の先端は、連結プレート76に固定されており、連結プレート76には、さらに、進退バー78が固定されている。連結プレート76とシリンダチューブ62との間には、両者を互いに離れる方向に付勢する補助スプリング74が、設けられている。
【0034】
第一圧力室68fおよび第二圧力室68sには、それぞれ外部に繋がるポート70,72が、形成されている。第二圧力室68sに形成された開放ポート72に、配管は接続されておらず、第二圧力室68sは、大気圧開放されている。一方、第一圧力室68fに形成された吸引ポート70には、接続配管38cが接続されている。換言すれば、第一圧力室68fは、吸引通路38(接続配管38c、中継ポート38b、連通孔38a)を介して、吸引孔20に連通している。そのため、吸引ポンプ22を駆動することで、第一圧力室68fに、負圧の空圧、すなわち、吸引力を付与することができる。
【0035】
かかる構成におけるエアシリンダ60の動きについて説明する。吸引ポンプ22を駆動すると、第一圧力室68fの圧力が低下し、ピストン64が、紙面右側(以下「退避方向S-」と呼ぶ)に移動する。これに伴い、ピストンロッド66およびピストンロッド66に連結された進退バー78も、退避方向S-に移動する。その後、吸引ポンプ22の駆動を停止し、大気圧開放弁23を開放したとする。この場合、ピストン64に作用する吸引力が消失するため、補助スプリング74の付勢力により、進退バー78およびこれに連結されるピストンロッド66とピストン64は、紙面左側(以下「進出方向S+」と呼ぶ)に移動する。つまり、本例によれば、吸引ポンプ22の駆動と、大気圧開放と、を交互に切り替えることでエアシリンダ60、ひいては進退バー78を、進退させることができる。なお、本例では、ピストンロッド66を進出させるために、大気圧開放弁23を開放しているが、こうした処理に替えて、吸引ポンプ22を逆駆動させ、吸引通路38を介して、第一圧力室68fにエアを供給するようにしてもよい。また、本例では、吸引力、すなわち、負圧の空圧でエアシリンダ60を動かしているが、正圧の空圧でエアシリンダ60を動かしてもよい。すなわち、吸引ポンプ22を逆駆動して、吸引通路38を介して第一圧力室68fにエアを供給することで、エアシリンダ60を伸長させ、補助スプリング74の付勢力でエアシリンダ60を収縮させてもよい。また、別の形態として、補助スプリング74を利用せず、空圧のみで、エアシリンダ60を進退させてもよい。例えば、負圧の空圧でエアシリンダ60を収縮させ、正圧の空圧でエアシリンダ60を伸長させてもよい。
【0036】
図2に示すように、進退バー78には、揺動ブロック80が取り付けられている。揺動ブロック80は、鉛直方向の軸であるブロック揺動軸81を中心として水平面内で揺動可能な部材である。揺動ブロック80の先端近傍には、鉛直方向に延びるラチェットピン82(図2では符号を省略)が、設けられている。ラチェットピン82は、ラチェット歯車84の周縁近傍に位置し、ラチェット歯車84の歯に係合している。
【0037】
こうした揺動ブロック80とラチェット歯車84の構成について図7を参照して説明する。図7は、ラチェット歯車84および揺動ブロック80を抜き出した模式図である。上述した通り、ラチェット歯車84は、ワンウェイクラッチ43を介して回転軸42に取り付けられており、紙面時計回り方向、すなわち正回転方向R+への回転のみが許容されている。図7に示す通り、ラチェット歯車84の周縁には、ノコギリ状の歯85が形成されている。各歯85は、径方向とほぼ平行な第一辺86aと、径方向に対して大きく傾いた第二辺86bと、で囲まれた略三角形状である。なお、第二辺86bは、同じ歯85に属する第一辺86aより正回転方向R+下流側に位置している。
【0038】
ラチェットピン82は、通常、ラチェット歯車84の歯85と歯85の間、すなわち、谷部に入り込んでいる。進退バー78は、この谷部におけるラチェット歯車84の接線方向とほぼ平行な方向に進退する。揺動ブロック80は、スプリング83により、ラチェットピン82が、ラチェット歯車84に密着する方向に付勢されている。
【0039】
次に、ラチェット歯車84および揺動ブロック80の動きについて図8を参照して説明する。図8の一段目において、ラチェットピン82は、第一歯85fと第二歯85sとの間の谷部に位置している。このとき、エアシリンダ60は、収縮状態である。この状態で、エアシリンダ60が、伸長し、進退バー78が、進出方向S+に移動したとする。その場合、図8の二段目に示すように、ラチェットピン82も進出方向に移動する。このとき歯85の形状の関係上、ラチェットピン82は、進出方向S+への移動に伴い、第二歯85sを容易に乗り越えることができる。ラチェットピン82は、スプリング83により、ラチェット歯車84に密着する方向に付勢されている。そのため、ラチェットピン82が、第二歯85sを乗り越えると、図8の三段目に示すように、ラチェットピン82は、第二歯85sと第三歯85tとの間の谷部に入り込む。
【0040】
続いて、エアシリンダ60を収縮させる。エアシリンダ60が収縮すると、揺動ブロック80およびラチェットピン82も、退避方向S-に移動する。このとき、歯85の形状の関係上、ラチェットピン82は、第二歯85sを乗り越えることはできない。その結果、ラチェットピン82が退避方向S-に移動するに伴い、ラチェット歯車84が、ラチェットピン82に押圧されて、正回転方向R+に、一歯分だけ回転する。
【0041】
以上の説明で明らかな通り、エアシリンダ60の進退を1回行うたびに、ラチェット歯車84が、一歯分だけ回転する。そして、ラチェット歯車84が回転することで、当該ラチェット歯車84の上側に設けられた保持ステージ32も回転する。
【0042】
次に、傾斜機構の構成について説明する。上述した通り、また、図3に示す通り、保持ステージ32は、ステージ揺動軸48で支持されており、当該ステージ揺動軸48を中心として揺動可能となっている。この保持ステージ32を揺動させて保持ステージ32を傾斜させるために、ワーク保持装置16には、傾斜レバー90が、設けられている。傾斜レバー90は、図2に示す通り、その先端(すなわち、後述する作用点部96の近傍部分)が、保持ステージ32の真下に位置するような場所に配置されている。図9は、傾斜レバー90を図2の矢印C方向からみた図である。
【0043】
図9に示すように、傾斜レバー90は、水平方向に延びるレバー揺動軸92で支持されており、当該レバー揺動軸92を中心として揺動可能となっている。傾斜レバー90のうち、保持ステージ32から離れる方向の端部近傍には、力点部94が設けられている。力点部94は、検査ヘッド14の押圧体26で上側から押圧される部分である。また、レバー揺動軸92を挟んで力点部94の反対側には、作用点部96が設けられている。作用点部96は、保持ステージ32の真下に位置している。力点部94の下側には、スプリング98が設けられている。スプリング98は、力点部94を上方に付勢する。従って、力点部94が、押圧体26で押圧されていない場合、力点部94が上方に持ち上がり、作用点部96は、その底面部がベースプレート30に当接する位置まで下降している。一方、スプリング98の付勢力に抗して、力点部94が押圧体26で押圧されると、作用点部96が上方に持ち上がり、保持ステージ32を上側に押し上げる。これにより、保持ステージ32が、揺動する。
【0044】
ここで、本例では、保持ステージ32の揺動に伴い、載置面46の傾斜が変更されるように、保持ステージ32の底面に、互いに異なる傾きを持つ第一底面部50fおよび第二底面部50sを設けている。これについて、図4図5を参照して説明する。図4図5は、図2のB-B断面図である。
【0045】
第一底面部50fおよび第二底面部50sは、ステージ揺動軸48を挟んで180度対称の位置に設けられている。第一底面部50fは、図4に示すように、ラチェット歯車84の上面(すなわち基準面84a)に当接した場合、載置面46が、ほぼ水平になるような傾きを有している。また、第二底面部50sは、図5に示すように、基準面84aに当接した場合、載置面46が、基準面84aに対して傾斜するような傾きを有している。
【0046】
また、第一底面部50fには、第一磁石52fが、第二底面部50sには第二磁石52sが固着されている。基準面84aの少なくとも一部には、この第一磁石52fおよび第二磁石52sとの間に磁気吸引力を発生させる磁気要素が設けられている。例えば、ラチェット歯車84全体を、強磁性体(例えば鋼材等)で形成してもよい。また、基準面84aの一部に、強磁性体または磁石を固着してもよい。また、別の形態として、底面部50f,50sに強磁性体を配置し、基準面84aに磁石を配置してもよい。いずれにしても、第一磁石52fまたは第二磁石52sが、基準面84aに当接することで、磁石52f,52sと基準面84aとの間に磁気吸引力が発生し、保持ステージ32の傾き状態が維持される。
【0047】
ここで、図4の状態で、傾斜レバー90の力点部94を押圧し、作用点部96を持ち上げたとする。この場合、作用点部96は、保持ステージ32の第一底面部50fを押し上げる。これに伴い、保持ステージ32は、図5に示すように、ステージ揺動軸48を中心として揺動し、第二底面部50sが基準面84aに当接する。そして、これにより、載置面46が基準面84aに対して傾斜した状態に変更される。
【0048】
傾斜状態から水平状態に戻したい場合は、ラチェット歯車84を180°回転させて、第二底面部50sを、作用点部96の近くに移動させる。そして、その状態で、傾斜レバー90を揺動し、第二底面部50sを上方に持ち上げればよい。
【0049】
以上の説明で明らかな通り、本例によれば、検査装置にもともと設けられている検査ヘッド14を利用して、保持ステージ32を揺動させることができる。また、上述した通り、本例では、検査装置にもともと設けられている吸引ポンプ22を利用して、保持ステージ32を回転させている。その結果、本例によれば、ワーク100の位置および姿勢を変更するために、専用の動力源や、当該動力源を駆動するための専用のドライバ等を、別途、用意する必要がない。結果として、コストを抑えつつ、簡易な構成で、ワーク100の位置および姿勢を変更することができる。
【0050】
なお、上述した構成は、一例であり、吸引ステージ12の吸引孔20を介して供給される吸引力を利用して、ワーク100の姿勢を変更できるのであれば、その他の構成は、変更してもよい。例えば、上述の説明では、エアシリンダ60とラチェット歯車84を利用して、保持ステージ32を回転させている。しかし、他の機構(例えば、ピストン-クランク機構等)を用いて保持ステージ32を回転させてもよい。また、本例では、保持ステージ32の回転に空圧を利用しているが、保持ステージ32の揺動に空圧を利用してもよい。例えば、伸縮に伴い、傾斜レバー90の力点部94を、エアシリンダ60で押圧する構成としてもよい。また、本例では、保持ステージ32を回転および揺動させているが、いずれか一方の動きは省略されてもよい。また、上述したワーク保持システム10は、吸引ステージ12を有する装置であれば、検査装置に限らず、他の装置に組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 ワーク保持システム、12 吸引ステージ、14 検査ヘッド、16 ワーク保持装置、18 コントローラ、18a プロセッサ、18b メモリ、20 吸引孔、22 吸引ポンプ、23 大気圧開放弁、24 検査カメラ、26 押圧体、30 ベースプレート、32 保持ステージ、34 回転アクチュエータ、38 吸引通路、40 固定ボルト、42 回転軸、43 ワンウェイクラッチ、46 載置面、48 ステージ揺動軸、50f 第一底面部、50s 第二底面部、60 エアシリンダ、62 シリンダチューブ、64 ピストン、66 ピストンロッド、70 吸引ポート、72 開放ポート、74 補助スプリング、76 連結プレート、78 進退バー、80 揺動ブロック、81 ブロック揺動軸、82 ラチェットピン、83,98 スプリング、83a 基準面、84 ラチェット歯車、88 支持部材、90 傾斜レバー、92 レバー揺動軸、94 力点部、96 作用点部、100 ワーク。
図1
図2
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図4
図5
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図7
図8
図9