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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】電気化学式免疫センサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240913BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20240913BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
G01N27/416 336B
G01N27/327 357
G01N33/543 521
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024108487
(22)【出願日】2024-07-04
【審査請求日】2024-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519450891
【氏名又は名称】株式会社イムノセンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】井手 明日香
(72)【発明者】
【氏名】山村 航太郎
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特許第7470461(JP,B1)
【文献】特許第6714256(JP,B1)
【文献】特開2020-190550(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117562(WO,A1)
【文献】特開2011-137816(JP,A)
【文献】特表2002-522748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327
G01N 27/416
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質を含む試料溶液が移動可能な流路を備えるケースと、
前記試料溶液と接触可能に前記流路内に配置された電極と、
前記被験物質に特異的に結合する第1の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体を含む標識部と、
を備え、
前記電極は、電極部を備え、
前記電極部は、
前記第1の結合物質とは異なる前記被験物質上の部位に特異的に結合する第2の結合物質と、
前記標識部と、
を備えた、
電気化学式免疫センサー。
【請求項2】
前記電極は、作用電極と対極と参照電極とを備え、
前記第2の結合物質と標識部は、前記作用電極の表面に少なくとも備わる、
請求項1に記載の電気化学式免疫センサー。
【請求項3】
前記流路は、
上流流路と、
前記上流流路よりも下流側に位置する下流流路と、
を備え、
前記上流流路は、電極区画を備え、
前記電極区画は、前記電極部が配置されている、
請求項1に記載の電気化学式免疫センサー。
【請求項4】
前記下流流路は、前記試料溶液を吸収する吸収体を備える、請求項3に記載の電気化学式免疫センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的手法における被検物質を測定するための電気化学式免疫センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
試験溶液中の微量物質を簡便且つ高感度に測定する方法の1つとして、抗原抗体反応を利用した免疫測定法が知られている。免疫測定法としては、酵素で標識した抗体を用い、酵素反応に由来する発色や発光等の信号を得ることにより被検物質の検知や濃度測定を行うELISA法が、幅広い分野で採用されている。しかしながら、ELISA法では、発色や発光等の信号検出時に光学系を必要とするため、大型の測定機が必要となる。また、正確な定量を行う場合には、発色等の測定結果を電気的な信号に変換する作業が必要となる等、複雑な処理を行う必要がある。
【0003】
そこで、発色標識や蛍光標識のような汎用の標識物質を用いた免疫測定法等において、検出に際して電気化学的測定法を利用する方法が提案されている。電気化学的測定に用いる装置はELISA等に用いられる機器に比べて小型化が可能であることから、測定機器の小型化と検出感度の向上との両立が期待される。
【0004】
特許文献1は、樹脂製シートの支持体に、電極部と、電極部からの電流を伝える導電部と、この電流値を測定する電気測定器に接続する接続部とを配するとともに、前記支持体上に複数のパッド類を一部分積層配置して、試料溶液を複数のパッド類に渡って流れさせて行き、前記電極部5の位置で流れを制御して電気化学的検出を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6714256号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1が開示する測定方法は、パッド類を使うと測定結果にばらつきがあった。特に、特許文献1が開示する技術は、金コロイド標識抗体を担持したコンジュケーションパッドが必須であり、製造工程および組立工程において工数が多く、原価に対して支配的であった。
【0007】
本発明者らは、コンジュケーションパッドを使用せず、金コロイド標識抗体を流路内に固定して電気化学式免疫法を実行した。
【0008】
しかしながら、コンジュケーションパッドを除いただけでは測定が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、被験物質に特異的に結合する第1の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体を含む標識部と被験物質に特異的に結合する第2の結合物質の両方を備える電極部を使用することによってコンジュケーションパッドを使用せず、金コロイド標識抗体を流路内に固定して電気化学式免疫法を実行することができることを明らかにし、本発明は完成した。
【0010】
[1]
本発明の目的は、
被験物質を含む試料溶液が移動可能な流路を備えるケースと、
上記試料溶液と接触可能に上記流路内に配置された電極と、
上記被験物質に特異的に結合する第1の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体を含む標識部と、
を備え、
上記電極は、電極部を備え、
上記電極部は、
上記第1の結合物質とは異なる上記被験物質上の部位に特異的に結合する第2の結合物質と、
上記標識部と、
を備えた、
電気化学式免疫センサー
を提供することである。
【0011】
本発明にかかる電気化学式免疫センサーを用いることによって、コンジュケーションパッドを使用せず、金コロイド標識抗体を流路内に固定して電気化学式免疫法を実行することができる。
【0012】
[2]
[1]に記載の電気化学式免疫センサーにおいて、上記電極は、作用電極と対極と参照電極とを備えていてもよく、上記第2の結合物質と標識部は、上記作用電極の表面に少なくとも備わっていてもよい。
【0013】
[3]
[1]に記載の電気化学式免疫センサーにおいて、上記流路は、
上流流路と、
上記上流流路よりも下流側に位置する下流流路と、
を備えていてもよく、
上記上流流路は、電極区画を備えていてもよく、
上記電極区画は、上記電極部が配置されていてもよい。
【0014】
[4]
[3]に記載の電気化学式免疫センサーにおいて、上記下流流路は、上記試料溶液を吸収する吸収体を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A図1Aは、本実施形態にかかる電気化学式免疫センサー1に関する平面斜視図を示している。
図1B図1Bは、蓋50を備えた電気化学式免疫センサー1に関する平面斜視図を示している。
図2A図2A(a)は、本実施形態にかかる電気化学式免疫センサー1の平面図を示し、図2A(b)は、図2A(a)のA-A線における電気化学式免疫センサー1の断面図を示している。
図2B図2B(a)は、蓋50を備えた電気化学式免疫センサー1の平面図を示し、図2B(b)は、図2B(a)のA-A線における蓋50を備えた電気化学式免疫センサー1の断面図を示している。
図3図3は、本実施形態にかかる電気化学式免疫センサー1に関する展開図を示している。
図4A図4Aは、電極20の詳細とその配置並びに標識部41の位置を示している。
図4B図4Bは、図4Aに示す標識部41とは異なる位置に配置された標識部41’を示している。
図5図5は、実施例1並びに比較例1及び2の平均(ave)ピーク値に関するグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0017】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、摘示説明を省略する。
【0019】
実施形態
図1Aは、本実施形態にかかる電気化学式免疫センサー1に関する平面斜視図を示している。図1Aは、蓋50を備える電気化学式免疫センサー1に関する平面斜視図を示している。図2A(a)は、本実施形態にかかる電気化学式免疫センサー1の平面図を示し、図2A(b)は、図2A(a)のA-A線における電気化学式免疫センサー1の断面図を示している。図2B(a)は、蓋50を備えた電気化学式免疫センサー1の平面図を示し、図2B(b)は、図2B(a)のA-A線における蓋50を備えた電気化学式免疫センサー1の断面図を示している。図3は、本実施形態にかかる電気化学式免疫センサー1に関する展開図を示している。図4Aは、電極20の詳細とその配置並びに標識部41の位置を示している。図4Bは、図4Aに示す標識部41とは異なる位置に配置された標識部41’を示している。図4A及びBにおける破線は、標識部(41及び41’)によって隠れる電極部21を便宜的に示している。
【0020】
電気化学式免疫センサー1
本実施形態にかかる電気化学式免疫センサー1は、被験物質を含む試料溶液(第一溶液)が移動可能な流路100を備えるケース10と、試料溶液と接触可能に流路100内に配置された電極20と、被験物質に特異的に結合する第1の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体を含む標識部41と、を備える。
【0021】
ケース10
ある実施形態において、流路100は、ケース10に形成された凹部である。ある実施形態において、ケース10は、流路100の形状(流路の長さ、幅及び深さなど)を規定する型プレート11と型プレート11を収容する容器部12を備えている。型プレート11は、容器部12から取り外し可能であってもよく、任意の結合手段(接着剤及び溶接など)を介して容器部12に結合していてもよい。電気化学式免疫センサー1は、流路100を少なくとも覆う形状を有するカバー50を備えていてもよい。
【0022】
電極20
電極20は、第1の結合物質とは異なる被験物質上の部位に特異的に結合する第2の結合物質と標識部41の両方を備える電極部21を備える。
【0023】
ある実施形態において、電極20は、電極部21からの電流の電流値を測定する電気測定器に接続する接続部22と、電極部21と接続部22の間に位置し電極部21から接続部22へ電流を伝える導電部23と、を更に備える。
【0024】
ある実施形態において、電極部21は、作用電極21aと対極21bと参照電極21cとを備える。作用電極21aは、作用電極用導電部23aと接続し、対極21bは、対極用導電部23bと接続し、参照電極21cは、参照電極用導電部23cと接続する。ある実施形態において、第1の結合物質は、作用電極21aの表面に備わる。
【0025】
電極20の接続部22は、ケース10の下流D側において突出するように構成されているが、このような構成は必須ではなく、接続部22は、ケース10内に配置されていてもよい。
【0026】
流路100
流路100は、上流流路110と、上流流路110よりも下流D側に位置する下流流路120と、を備える。ある実施形態において、下流流路120は、第一下流流路130と第一下流流路130よりも下流D側に位置する第二下流流路140とを備える。ある実施形態において、流路100は、撥水性を有する。別の実施形態において、第一下流流路130は、撥水領域を備える。ある実施形態において、流路100は、親水性を有する。別の実施形態において、第一下流流路130は、親水性領域を備える。本実施形態にかかる流路100は、流路幅が一定であるが、第一下流流路130は、上流Uから下流Dにかけて幅が広がっている形状(テーパー形状)を有していてもよい。ある実施形態において、第二下流流路140の幅は、上流流路110の幅よりも広い。ある実施形態において、第二下流流路140の幅は、一定であってもよい。ある実施形態において、第一下流流路130の上流側幅は、上流流路110の下流側幅と同じであり、第一下流流路130の下流側幅は、第二下流流路140の幅と同じである。
【0027】
上流流路110
上流流路110は、上流区画111と電極区画112と下流区画113を備える。電極区画112は、上流区画111よりも下流D側に位置し、電極部21が配置される。下流区画113は、電極区画112よりも下流D側に位置し、下流流路120と接続する。
【0028】
ある実施形態において、上流区画111は、試料溶液が導入される導入区画114と、導入区画114よりも下流D側に位置し且つ電極区画112よりも上流U側に位置する移行区画116を備える。
【0029】
下流区画113は、電極部21から下流流路120へ流れた試料溶液を分断する区画であり、試料溶液が分断されることにより、電極部21に滞留した試料溶液を第二溶液(洗浄液や電気化学的測定用の溶液などの)により十分に置換することができる。
【0030】
標識部41
標識部41は、電極部21に備わる(と接している)。ある実施形態において、標識部41は、作用電極21aに少なくとも備わる。ある実施形態において、標識部41は、電極部21において作用電極21aにのみ備わる。言い換えれば、標識部41は、作用電極21aに備わり、対極21bと参照電極21cには備わらない。標識部41は、標識体を含む溶液を電極部21上で乾燥させることで電極部21に標識体を固定することができる。
【0031】
下流流路120
ある実施形態において、下流流路120は、試料溶液を吸収する吸収体30を備える。別の実施形態において、第二下流流路140は、試料溶液を吸収する吸収体30を備える。吸収体30は、例えば、ニトロセルロースからできていてもよい。吸収体30は、下流流路1
20の内壁とは接していないことが好ましい。
【0032】
カバー50
カバー50は、ケース10を覆う又は部分的に覆うことができる。カバー50は、流路100を少なくとも覆う形状を有する。ある実施形態において、カバー50は、型プレート11を覆う又は部分的に覆う形状を有する。別の実施形態において、カバー50は、容器12を覆う又は部分的に覆う形状を有する。カバー50が流路100を覆うことによって、流路100がトンネル構造となり、流路100が外部環境から保護される。カバー50は、外部環境と上流区画113が流体連通することを可能にするサンプル孔51を備え、サンプル孔51を通じて試料溶液を上流区画113に導入することができる。カバー50の表面52は、フラット形状であってもよく、カバー50の裏面(不図示)は、フラット形状であってもよい。
【0033】
電気化学的処理
先ず、電気化学的測定において用いる電極20の未処理の作用電極21aの表面に、被検物質に対する第2の結合物質(例えば、一次抗体)を固定しておく。未処理の作用電極21aは、第2の結合物質が固定されていない作用電極21aであり、第2の結合物質と作用電極21aとの固定を容易にする要素を備えていてもよい。次に、作用電極21aの表面は非特異吸着を防ぐためにブロッキングする。
【0034】
また、第2の結合物質(例えば、一次抗体)とは異なる被検物質上の部位を認識する第1の結合物質(例えば、二次抗体)に金属微粒子を標識することにより標識体を作成する。次に、標識体を含む溶液を電極部21上で乾燥させることで電極部21に標識体を塗布(固定)する
【0035】
ケース10に電極20をセットし、アッセンブルされた電気化学式免疫センサー1を電気測定器にセットする。
【0036】
導入区画114に試料溶液を導入する。導入区画114に導入された試料溶液は、毛細管現象や重力によって下流D側に流れ、電極区画112の標識部41に到達する。
【0037】
第1の結合物質と結合する被験物質が試料溶液中に含まれる場合、被験物質-第1の結合物質-金属微粒子複合体が形成される。次に、試料溶液中の当該複合体は、電極20の作用電極21aと接触する。
【0038】
上記複合体中の被検物質が作用電極21a上の第2の結合物質と接触すると、作用電極21a上で抗原抗体反応が起きる。標識体が被検物質を介して第2の結合物質に結合することにより、被検物質の濃度に対応した量の金属微粒子が作用電極21aの近傍に集められた状態となる。操作時間を短くする目的で、抗原抗体反応は、試料溶液が作用電極21a上を通過しながら行われることが好ましいが、試料溶液の流れを止めた状態で抗原抗体反応を行うことを排除するものではない。
【0039】
試料溶液は、下流区画113を通過して下流流路120に流入し、下流流路120に配置された吸収体30に吸収される。試料溶液は、第一下流流路130によって、上流流路110から下流流路120へ速やかに排出され、洗浄液や電気化学的測定用の溶液などの第二溶液を迅速に導入することができるようになる。なお、作用電極21aは第二溶液で洗浄されるため、作用電極21a上を覆う程度に試料溶液が作用電極21a上に残っていてもよい。
【0040】
本発明においては、生体物質、合成物質等のあらゆる物質を被検物質とすることができる。被検物質に特異的に結合する結合物質(第1の結合物質、第2の結合物質)には、被験物質に応じて適切なものを選択する。被検物質に応じた量の金属微粒子を集めるために、本実施形態では抗原と抗体との特異的結合を利用しているが、物質間で特異的に結合するものであればこの組合せに限らず、例えば、核酸-核酸、核酸-核酸結合タンパク質、レクチン-糖鎖、又はレセプター-リガンドの特異的結合を利用してもよい。被検物質-特異的結合物質の関係の順序は、上記と逆でもよい。
【0041】
標識物質として用いられる金属微粒子としては特に制限されないが、例えば金、白金、銀、銅、ロジウム、パラジウム等の微粒子やそれらのコロイド粒子、量子ドット等を用いることができる。なかでも粒径10nm~100nmの金微粒子、特に粒径40nm程度の金微粒子を用いることが好ましい。
【0042】
試料溶液が下流流路120へ排出された後、導入区画114に第二溶液を導入し、作用電極21aの表面を洗浄する。更に、導入区画114に第二溶液を導入してもよく、異なる種類の第二溶液を導入してもよい。電気化学的測定のために、作用電極21aと対極21bと参照電極21c上を覆う程度に第二溶液が作用電極21aと対極21bと参照電極21c上に残った状態にさせる。
【0043】
金属微粒子を電気化学的に酸化させる。例えば、参照電極21cに対する作用電極21aの電位を、金属微粒子が電気化学的に酸化する電位に所定時間保持する。このことにより、作用電極21aの表面近傍に集めた金属微粒子を完全に酸化する。
【0044】
金属微粒子を電気化学的に酸化させた後、酸化した金属を還元する際に生じるピーク電流値に基づいて、被検物質の有無又は濃度を測定する。具体的には、例えば、作用電極21aの電位を負方向に変化させていき、電位変化に伴う電流変化を測定する。電極電位を負方向に変化させていくと、前述の電位制御により酸化溶出した金属が還元されることにより還元電流が流れるので、これを測定する。試験溶液中の被検物質が多く、作用電極21aの近傍に集められた金属微粒子が多いほど還元電流強度も大きくなることから、これに基づいて被検物質の定量又は検出が実現される。例えば、還元電流値と既知濃度の被検物質と関係を予め求めておき、測定された還元電流値と比較することにより、被検物質濃度を求めることができる。また、得られる還元電流値から試験溶液中の被検物質の有無を知ることができる。
【0045】
作用電極21aの電位制御及び電気化学測定の際に用いる溶液としては、金属微粒子を容易に電気化学的に酸化させることができることから、酸性溶液を用いることが好ましい。酸性溶液としては、金属微粒子の種類等に応じて適宜選択すればよいが、例えば塩酸、硝酸、酢酸、リン酸、クエン酸、硫酸等を含む水溶液を用いることができる。金属微粒子の電気化学的酸化のし易さを考慮すると、0.05規定~2規定の塩酸水溶液を用いることが好ましく、0.1規定~0.5規定の塩酸水溶液を用いることがより好ましい。
【0046】
一方、作用電極21aの電位制御及び電気化学測定の際に用いる溶液としては、酸性溶液の他、塩素を含む中性溶液を用いることも可能である。塩素を含む中性溶液を用いることにより、酸性溶液を用いる場合に比べて大きな電流変化量が得られ、結果として、より高感度な測定が達成される。また、酸性溶液を用いる場合、例えば低電位側における還元ピークの裾が上昇する等のようにピーク形状が非対称となったり、例えば0.1V付近においてノイズが発生することがある。これに対して、塩素を含む中性溶液を用いることで、還元ピークの裾が平坦となるとともに、上記ノイズ発生が抑えられるので、還元ピーク強度検出が簡便となる。さらに、酸性溶液やアルカリ溶液のような取扱いの難しい溶液の使用を回避することができ、測定操作を安全且つ簡便に実施することができる。塩素を含む中性溶液としては、例えばKCl、NaCl、LiCl等を用いたときに上記の効果を得られるが、特にKClを用いたときに効果が大きい。
【0047】
金属微粒子を酸化させるに際して、作用電極21aの電位は、金属微粒子が酸化可能な電位とする。具体的には、作用電極21aの電位は、使用する金属微粒子の種類に応じて適宜最適な値に設定する必要があるが、例えば、銀塩化銀参照電極21cに対して+1~+2Vとすることが好ましい。作用電極21aの電位を上記範囲内にすることにより、作用電極21aの表面近傍に集めた金属微粒子を完全に酸化溶出させることができ、被検物質の検出感度を確実に向上させることができる。作用電極21aの電位を上記範囲未満とした場合、測定時に還元電流のピークが現れないおそれがあり、逆に上記範囲を超えた場合、酸化させた金属微粒子の泳動による拡散が起こり、作用電極21a近傍における酸化物の濃度が低下してしまい、これにより還元電流のピークが小さくなるおそれがある。より好ましい範囲は、+1.2V~+1.6Vである。
【0048】
金属微粒子を電気化学的に酸化させる具体的な手段としては、作用電極21aの電位を金属微粒子が酸化する電位に所定時間保持することが挙げられる。上記電位を所定時間保持する操作は、金属微粒子を十分に酸化させられるため、好ましい方法である。また、作用電極21aに金属微粒子が電気化学的に酸化する電位を印加するに際しては、前述したように作用電極21aの電位を所定の電位に保持する方法の他、例えばサイクリックボルタンメトリー等によって、作用電極21aの電位を時間経過に伴い変化させてもよい。作用電極21aの電位を時間経過に伴って変化させる場合には、金属微粒子が酸化する電位の範囲内(例えば、銀塩化銀参照電極21cに対し+1~+2V)において、作用電極21aの電位を変化させることが好ましい。さらに、金属微粒子を酸化させるに際しては、金属微粒子が電気化学的に酸化する電位を作用電極21aに複数回印加してもよい。
【0049】
なお、金属微粒子として粒径10nm~60nmの金微粒子を使用する場合、金微粒子を電気化学的に酸化させるに際して、0.1規定~0.5規定の塩酸溶液中で、銀塩化銀参照電極21cに対する上記作用電極21aの電位を+1.2V~+1.6Vとすることが好ましい。
【0050】
ここで、金属微粒子を十分に酸化させるに際しては、金属微粒子の量に応じて最適な電荷量を与えるように注意する必要がある。電荷量は電流を積分した値であるため、作用電極21aに印加する電位が比較的低い電位であれば、金属微粒子を十分に酸化させるためには当該電位を長時間印加する必要がある。一方、作用電極21aに印加する電位が比較的高い電位であれば、金属微粒子を十分に酸化させるために必要な時間は短時間でよい。
【0051】
金属微粒子が電気化学的に酸化する電位に作用電極21aの電位を保持する時間を1秒以上とすることで、金属微粒子を十分に酸化させることができ、検出感度を確実に向上させることができる。一方、印加時間を100秒以上としても得られる電流値は殆ど変わらない。したがって、1秒以上100秒以下が好ましい。上記電位の保持時間のさらに好ましい範囲は、40秒以上100秒以下である。
【0052】
酸化した金属を電気化学的に還元する際に生じる電流を測定する方法としては、例えば、微分パルスボルタンメトリー、サイクリックボルタンメトリー等のボルタンメトリー、アンペロメトリー、クロノメトリー等が挙げられる。
【0053】
以上のような実施形態においては、作用電極21a上で抗原抗体反応等を行って作用電極21aの表面近傍に金属微粒子を集め、標識体に含まれる金属微粒子に由来する還元ピーク電流を測定するので、簡便且つ高感度に試験溶液中の被検物質を測定することができる。
【0054】
別の実施形態においては、被検物質に応じた量の金属微粒子を作用電極21aの表面近傍に集めるために、被検物質に対する2種類の結合物質を用意し、一方(第1の結合物質)を磁性微粒子の表面に固定化しておくとともに、他方(第2の結合物質)を金属微粒子で標識して標識体を形成しておき、標識体と反応させた後の磁性微粒子を作用電極21aの表面に集めてもよい。
【0055】
なお、以上の説明においては、被検物質量に対応する量の金属微粒子を集める方法として、非競合反応を利用して被検物質量に対応する量の金属微粒子を集める方法を例に挙げたが、競合反応を利用して被検物質量に対応する量の金属微粒子を集める方法を採用しても構わない。
【実施例
【0056】
以下、本発明の実施例について、実験結果を参照して説明する(実験装置、方法、条件及び試薬の詳細は、WO2007/116811を参照)。
【0057】
(実験1)
1.作用電極への抗体の固定化
本実験では、作用電極の表面に一次抗体(抗hCG抗体)を固定化した印刷電極を用いて、PBS(リン酸緩衝液)で希釈したヒトゴナドトロピン(hCG)の測定を試みた。hCGは妊娠診断用マーカーの一種である。金コロイド標識二次抗体(標識体)としては、金コロイド標識抗hαS抗体を用いた。
【0058】
被検物質測定用の電極デバイスとしては、図1A及び1Bに示す電気化学式免疫センサー1及び図4Aに示す電極20(印刷電極)を用いた。電極の電極部は、カーボンペーストで形成した作用電極及び対極と、カーボンペーストで形成したリードと、銀/塩化銀で形成した参照電極とを絶縁支持体上に有するものであり、作用電極、対極及び参照電極の表面の一部が絶縁層で被覆されることにより、有効な電極面積が規定されている。
【0059】
濃度100μg/mLに調製した抗hCG抗体(一次抗体)溶液を作用電極上に2μL滴下し、4℃の冷暗所で12時間以上静置することにより抗hCG抗体を作用電極の表面に固定した。PBSを用いて印刷電極デバイスを洗浄後、0.1%の牛血清アルブミンでブロッキングを行った。
【0060】
2.電極上への金コロイド標識二次抗体の乾燥担持
金コロイド標識二次抗体として金コロイド標識抗hαS抗体を以下に示す電極上の位置に乾燥により担持させた。
実施例1(作用電極直上):作用電極上の位置
比較例1(作用電極上流):作用電極よりも上流の位置
比較例2(作用電極下流):作用電極よりも下流の位置
【0061】
3.被検物質の測定
被検物質としてのhCGをPBS(リン酸緩衝液)で希釈することにより、hCG濃度が0ng/mL又は100ng/mLとなるように溶液を調製した。その溶液をサンプル孔を通じて印刷電極デバイスに4.5μL滴下した。溶液が電極部を通過した後、PBSを用いて電極部を洗浄した。
【0062】
洗浄後、0.1M塩酸水溶液の30μLを、作用電極、参照電極及び対極の全面が完全に覆われるように上述処理した印刷電極デバイスに導入し、銀塩化銀参照電極に対する作用電極の電位を+1.2Vに保持した。保持時間は40秒間とした。
【0063】
次に、微分パルスボルタンメトリーにより、作用電極の電位を0.8Vから-0.1Vへ変化させていき、電位変化に対する電流変化を測定した。ボルタンメトリーの条件は電位増加0.004V、パルス振幅0.05V、パルス幅0.05S、パルス期間0.2Sとした。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
図5は、実施例1並びに比較例1及び2の平均(ave)ピーク値に関するグラフを示している。図5に示す通り、作用電極の直上に金コロイド標識体を乾燥担持させても還元ピーク電流を計測することができた。
【符号の説明】
【0066】
1 電気化学式免疫センサー
10 ケース
11 型プレート
12 容器部
20 電極
21 電極部
21a 作用電極
21b 対極
21c 参照電極
22 接続部
23 導電部
23a 作用電極用導電部
23b 対極用導電部
23c 参照電極用導電部
30 吸収体
41、41’ 標識部
50 カバー
51 サンプル孔
52 表面
100 流路
110 上流流路
111 上流区画
112 電極区画
113 下流区画
114 導入区画
116 移行区画
120 下流流路
130 第一下流流路
140 第二下流流路
U 上流
D 下流
【要約】
【課題】従来技術は、金コロイド標識抗体を担持したコンジュケーションパッドが必須であり、製造工程および組立工程において工数が多く、原価に対して支配的であった。
【解決手段】本発明の目的は、被験物質を含む試料溶液が移動可能な流路を備えるケースと、上記試料溶液と接触可能に上記流路内に配置された電極と、上記被験物質に特異的に結合する第1の結合物質が結合した金属微粒子を有する標識体を含む標識部と、を備え、上記電極は、電極部を備え、上記電極部は、上記第1の結合物質とは異なる上記被験物質上の部位に特異的に結合する第2の結合物質と、上記標識部と、を備えた、電気化学式免疫センサーを提供することである。
【選択図】図1A
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5