IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社TBKの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】ハイブリッドシステム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20240913BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20240913BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20240913BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20240913BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20240913BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/485 ZHV
B60K6/547
B60W20/00
B60L50/16
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022581104
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005157
(87)【国際公開番号】W WO2022172388
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000220712
【氏名又は名称】株式会社TBK
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【弁理士】
【氏名又は名称】並木 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100218095
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 正登
(72)【発明者】
【氏名】三好 章洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 伸
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-504492(JP,A)
【文献】特開2004-285908(JP,A)
【文献】特開2005-048630(JP,A)
【文献】特開平07-071350(JP,A)
【文献】特開2000-283010(JP,A)
【文献】特開2009-018719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力源としてエンジンを備えた車両において、
前記エンジンに連結されて、力行駆動及び回生発電が可能なモータジェネレータと、
前記モータジェネレータを制御するアシスト制御装置とを備え、
前記アシスト制御装置は、前記車両に設けられた他の制御装置との間で信号の送受信を行わず、前記車両に設けられた所定のセンサ類から受信する検出信号に基づき前記モータジェネレータを制御し、
シフトレバーの操作により変速段が切り替えられる手動変速機と、
前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達経路中に介装されて、クラッチペダルの踏み込み操作に応じて前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達の接続及び切断を行うクラッチと、
前記クラッチペダルの踏み込み量を検出するクラッチセンサとを備え、
前記アシスト制御装置は、前記車両の発進時において、前記クラッチペダルが踏み込まれた状態から踏み戻されるときの当該踏み戻し速度の変化に基づき前記モータジェネレータの駆動タイミングを判定し、当該踏み戻し速度が減少から増加に転じるタイミングで前記モータジェネレータの力行駆動を開始することを特徴とするハイブリッドシステム。
【請求項2】
前記モータジェネレータとの間で電力を授受するバッテリと、
前記バッテリの残容量を検出するバッテリセンサと、
前記車両の車速を検出する車速センサとを備え、
前記アシスト制御装置は、前記クラッチセンサにより前記クラッチペダルが踏み込まれていないことが検出され、且つ、前記車速センサにより車速が0であることが検出されたときに前記エンジンがアイドル回転するアイドリング状態であると判定し、
前記アシスト制御装置は、前記エンジンのアイドリング状態において前記バッテリセンサにより前記バッテリの残容量が所定量未満であることが検出された場合に前記アイドル回転中の前記エンジンの動力により前記モータジェネレータの回生発電を行うことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドシステム。
【請求項3】
アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサと、
前記エンジンの回転数を検出する回転センサとを備え、
前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルの踏み込み操作に応じて前記モータジェネレータを力行駆動しているときに、前記エンジンの回転加速度が予め設定された限界回転加速度を超過した場合に、前記モータジェネレータの力行駆動を停止し、
前記アシスト制御装置は、前記モータジェネレータの力行駆動を停止してから所定時間を経過しても前記アクセルペダルが踏み戻されない場合に、前記モータジェネレータの回生発電を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッドシステム。
【請求項4】
アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサを備え、
前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルが踏み込まれたときの当該踏み込み量が規定量を超過したときに前記モータジェネレータの力行駆動を開始し、前記アクセルペダルが踏み戻されたときに前記モータジェネレータの力行駆動を停止することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のハイブリッドシステム。
【請求項5】
アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサと、
前記車両の車速を検出する車速センサとを備え、
前記アシスト制御装置は、前記車両の車速が所定速度範囲内であるときに、前記アクセルペダルの踏み込み量と予め設定された第1判定値とを比較するとともに、前記車両の車速から演算される前記車両の加速度と予め設定された第2判定値とを比較して、前記アクセルペダルの踏み込み量が第1判定値未満であり且つ前記車両の加速度が第2判定値以上である場合に前記車両が軽負荷状態であると判定し、前記アクセルペダルの踏み込み量が第1判定値以上であり且つ前記車両の加速度が第2判定値未満である場合に前記車両が高負荷状態であると判定することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のハイブリッドシステム。
【請求項6】
アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサを備え、
前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルが踏み込まれた状態から踏み戻されるときの当該踏み戻し速度が予め設定された基準戻し速度よりも小さく、且つ、前記アクセルペダルが予め設定された所定位置まで踏み戻されたときに、前記車両が定速走行に移行したことを判定し、
アシスト制御装置は、前記車両が定速走行に移行したことを判定した場合には、前記アクセルペダルが踏み込まれると前記モータジェネレータを力行駆動し、前記アクセルペダルが踏み戻されると前記モータジェネレータの力行駆動を停止することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のハイブリッドシステム。
【請求項7】
アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサを備え、
前記アシスト制御装置は、前記モータジェネレータの力行駆動中に、前記アクセルペダルが踏み込まれた状態から踏み戻されるときの当該踏み戻し速度と予め設定された所定速度とを比較して、当該踏み戻し速度が所定速度未満である場合には前記モータジェネレータの力行駆動を停止し、当該踏み戻し速度が所定速度以上である場合には前記モータジェネレータの力行駆動を停止するとともに前記アクセルペダルの踏み込み量が0になったときに前記モータジェネレータの回生発電を開始することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のハイブリッドシステム。
【請求項8】
アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサと、
前記車両の車速を検出する車速センサとを備え、
前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルが踏み込まれた状態から踏み戻され始めるときの前記車両の車速を基準車速として記憶し、前記アクセルペダルが踏み戻されることで当該踏み込み量が0となった状態において、前記車両の車速が前記基準車速よりも所定値以上大きくなった場合に前記モータジェネレータの回生発電を開始することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のハイブリッドシステム。
【請求項9】
アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサと、
ブレーキペダルの踏み込みを検出するブレーキセンサとを備え、
前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルが踏み込まれた状態から踏み戻されるときの当該踏み戻し速度が予め設定された所定戻し速度よりも大きい場合に前記モータジェネレータの回生出力を低出力に設定して回生発電を開始し、前記ブレーキペダルが踏み込まれたときに前記モータジェネレータの回生出力を低出力から高出力に切り替えることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のハイブリッドシステム。
【請求項10】
ブレーキペダルの踏み込みを検出するブレーキセンサ備え、
前記アシスト制御装置は、前記ブレーキペダルが踏み込まれ、且つ、前記クラッチペダルが所定量以上踏み込まれている間、前記モータジェネレータの力行駆動を行うことを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のハイブリッドシステム。
【請求項11】
前記車両の車速を検出する車速センサと、
前記エンジンの回転数を検出する回転センサとを備え、
前記アシスト制御装置は、前記クラッチペダルが踏み込まれていない状態において、前記車両の車速が減少傾向であるときに前記エンジンの回転数が所定回転数以上増加した場合に、前記手動変速機がニュートラル状態であると判定し、前記モータジェネレータの力行駆動を制限することを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載のハイブリッドシステム。
【請求項12】
前記アシスト制御装置は、前記クラッチペダルが踏み込まれていない状態において、前記車両の車速が減少傾向ではない場合には、前記車両の車速が所定速度以上であるときに前記エンジンの回転数が予め設定された所定のアイドル回転数まで低下している場合に、前記手動変速機がニュートラル状態であると判定し、前記モータジェネレータの力行駆動または回生発電を制限することを特徴とする請求項11に記載のハイブリッドシステム。
【請求項13】
前記アシスト制御装置は、前記エンジンの再始動時に、前記モータジェネレータを逆転駆動させて当該エンジンのクランクシャフトを一旦逆転方向に回転させた後に、前記モータジェネレータを正転駆動させて前記クランクシャフトを正転方向に回転させることを特徴とする請求項1~12のいずれかに記載のハイブリッドシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のハイブリッドシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費向上及び環境保護の観点から、エンジン及びモータジェネレータを駆動源として備えるハイブリッド車両が注目されている。ハイブリッド車両は、大別的には、マイルドハイブリッド車両とストロングハイブリッド車両とに区分される。マイルドハイブリッド車両は、エンジンを主要駆動源としており、主に減速時などにモータジェネレータを発電機として機能させてエネルギーを回生し、発進時や加速時などのエンジンの出力が不足する場面において、エンジンの出力をモータジェネレータの出力で補助するものである(例えば、特許文献1を参照)。このマイルドハイブリッド車両は、ストロングハイブリッド車両と比べて、部品やバッテリの搭載数が少なくて済み、機構がシンプルであるため、低コストという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-017987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、既存車両(既存の非ハイブリッド車両)をマイルドハイブリッド化する場合、モータジェネレータを制御するためのアシスト制御装置を既存車両に搭載された他の制御装置(エンジン制御装置等)と連携させるため、既存車両に対する大規模な改修が必要となるという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、既存の非ハイブリッド車両に対して大規模な改修を必要とすることなくハイブリッド車両に転用することのできるハイブリッドシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係るハイブリッドシステムは、走行用の動力源としてエンジンを備えた車両において、前記エンジンに連結されて、力行駆動及び回生発電が可能なモータジェネレータと、前記モータジェネレータを制御するアシスト制御装置とを備え、前記アシスト制御装置は、前記車両に設けられた他の制御装置との間で信号の送受信を行わず、前記車両に設けられた所定のセンサ類から受信する検出信号に基づき前記モータジェネレータを制御し、シフトレバーの操作により変速段が切り替えられる手動変速機と、前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達経路中に介装されて、クラッチペダルの踏み込み操作に応じて前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達の接続及び切断を行うクラッチと、前記クラッチペダルの踏み込み量を検出するクラッチセンサとを備え、前記アシスト制御装置は、前記車両の発進時において、前記クラッチペダルが踏み込まれた状態から踏み戻されるときの当該踏み戻し速度の変化に基づき前記モータジェネレータの駆動タイミングを判定し、当該踏み戻し速度が減少から増加に転じるタイミングで前記モータジェネレータの力行駆動を開始することを特徴とする。
【0007】
なお、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、前記モータジェネレータとの間で電力を授受するバッテリと、前記バッテリの残容量を検出するバッテリセンサと、前記車両の車速を検出する車速センサとを備え、前記アシスト制御装置は、前記クラッチセンサにより前記クラッチペダルが踏み込まれていないことが検出され、且つ、前記車速センサにより車速が0であることが検出されたときに前記エンジンがアイドル回転するアイドリング状態であると判定し、前記アシスト制御装置は、前記エンジンのアイドリング状態において前記バッテリセンサにより前記バッテリの残容量が所定量未満であることが検出された場合に前記アイドル回転中の前記エンジンの動力により前記モータジェネレータの回生発電を行うことが好ましい。
【0009】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサと、前記エンジンの回転数を検出する回転センサとを備え、前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルの踏み込み操作に応じて前記モータジェネレータを力行駆動しているときに、前記エンジンの回転加速度が予め設定された限界回転加速度を超過した場合に、前記モータジェネレータの力行駆動を停止し、前記アシスト制御装置は、前記モータジェネレータの力行駆動を停止してから所定時間を経過しても前記アクセルペダルが踏み戻されない場合に、前記モータジェネレータの回生発電を行うことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサを備え、前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルが踏み込まれたときの当該踏み込み量が規定量を超過したときに前記モータジェネレータの力行駆動を開始し、前記アクセルペダルが踏み戻されたときに前記モータジェネレータの力行駆動を停止することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサと、前記車両の車速を検出する車速センサとを備え、前記アシスト制御装置は、前記車両の車速が所定速度範囲内であるときに、前記アクセルペダルの踏み込み量と予め設定された第1判定値とを比較するとともに、前記車両の車速から演算される前記車両の加速度と予め設定された第2判定値とを比較して、前記アクセルペダルの踏み込み量が第1判定値未満であり且つ前記車両の加速度が第2判定値以上である場合に前記車両が軽負荷状態であると判定し、前記アクセルペダルの踏み込み量が第1判定値以上であり且つ前記車両の加速度が第2判定値未満である場合に前記車両が高負荷状態であると判定することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサを備え、前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルが踏み込まれた状態から踏み戻されるときの当該踏み戻し速度が予め設定された基準戻し速度よりも小さく、且つ、前記アクセルペダルが予め設定された所定位置まで踏み戻されたときに、前記車両が定速走行に移行したことを判定し、アシスト制御装置は、前記車両が定速走行に移行したことを判定した場合には、前記アクセルペダルが踏み込まれると前記モータジェネレータを力行駆動し、前記アクセルペダルが踏み戻されると前記モータジェネレータの力行駆動を停止することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサを備え、前記アシスト制御装置は、前記モータジェネレータの力行駆動中に、前記アクセルペダルが踏み込まれた状態から踏み戻されるときの当該踏み戻し速度と予め設定された所定速度とを比較して、当該踏み戻し速度が所定速度未満である場合には前記モータジェネレータの力行駆動を停止し、当該踏み戻し速度が所定速度以上である場合には前記モータジェネレータの力行駆動を停止するとともに前記アクセルペダルの踏み込み量が0になったときに前記モータジェネレータの回生発電を開始することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサと、前記車両の車速を検出する車速センサとを備え、前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルが踏み込まれた状態から踏み戻され始めるときの前記車両の車速を基準車速として記憶し、前記アクセルペダルが踏み戻されることで当該踏み込み量が0となった状態において、前記車両の車速が前記基準車速よりも所定値以上大きくなった場合に前記モータジェネレータの回生発電を開始することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサと、ブレーキペダルの踏み込みを検出するブレーキセンサとを備え、前記アシスト制御装置は、前記アクセルペダルが踏み込まれた状態から踏み戻されるときの当該踏み戻し速度が予め設定された所定戻し速度よりも大きい場合に前記モータジェネレータの回生出力を低出力に設定して回生発電を開始し、前記ブレーキペダルが踏み込まれたときに前記モータジェネレータの回生出力を低出力から高出力に切り替えることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、ブレーキペダルの踏み込みを検出するブレーキセンサ備え、前記アシスト制御装置は、前記ブレーキペダルが踏み込まれ、且つ、前記クラッチペダルが所定量以上踏み込まれている間、前記モータジェネレータの力行駆動を行うことが好ましい。
【0017】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、前記車両の車速を検出する車速センサと、前記エンジンの回転数を検出する回転センサとを備え、前記アシスト制御装置は、前記クラッチペダルが踏み込まれていない状態において、前記車両の車速が減少傾向であるときに前記エンジンの回転数が所定回転数以上増加した場合に、前記手動変速機がニュートラル状態であると判定し、前記モータジェネレータの力行駆動を制限することが好ましい。
【0018】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、前記アシスト制御装置は、前記クラッチペダルが踏み込まれていない状態において、前記車両の車速が減少傾向ではない場合には、前記車両の車速が所定速度以上であるときに前記エンジンの回転数が予め設定された所定のアイドル回転数まで低下している場合に、前記手動変速機がニュートラル状態であると判定し、前記モータジェネレータの力行駆動または回生発電を制限することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係るハイブリッドシステムにおいて、前記アシスト制御装置は、前記エンジンの再始動時に、前記モータジェネレータを逆転駆動させて当該エンジンのクランクシャフトを一旦逆転方向に回転させた後に、前記モータジェネレータを正転駆動させて前記クランクシャフトを正転方向に回転させることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るハイブリッドシステムによれば、他の制御装置との連携を要することなく(制御系統の改修を必要とせず)、アシスト制御装置独自の判断により、所定のセンサ類から入力される車両情報に基づき、車両の動作を判定してモータジェネレータの制御を実行することができるため、既存の車両に対して大規模な設計変更や改修等を必要とすることなく、マイルドハイブリッドシステムを後付けで搭載することができ、その結果、既存の車両をハイブリッド車両に容易に転用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態のマイルドハイブリッドシステムを備えた車両の構成図である。
図2】アイドリング回生制御のフローチャートである。
図3】アイドリング回生制御の具体例を示すタイムチャートである。
図4】発進制御のフローチャートである。
図5】発進制御の具体例を示すタイムチャートである。
図6】スリップ制御のフローチャートである。
図7】スリップ制御の具体例を示すタイムチャートである。
図8】加速アシスト制御のフローチャートである。
図9】加速アシスト制御の具体例を示すタイムチャートである。
図10】負荷判定制御のフローチャートである。
図11】負荷判定制御の第1の具体例を示すタイムチャートである。
図12】負荷判定制御の第2の具体例を示すタイムチャートである。
図13】定速走行制御のフローチャートである。
図14】定速走行制御の具体例を示すタイムチャートである。
図15】減速移行制御のフローチャートである。
図16】減速移行制御の第1の具体例を示すタイムチャートである。
図17】減速移行制御の第2の具体例を示すタイムチャートである。
図18】速度維持制御のフローチャートである。
図19】速度維持制御の具体例を示すタイムチャートである。
図20】減速回生制御のフローチャートである。
図21】減速回生制御の具体例を示すタイムチャートである。
図22】変速アシスト制御のフローチャートである。
図23】変速アシスト制御の具体例を示すタイムチャートである。
図24】ニュートラル判定制御のフローチャートである。
図25】ニュートラル判定制御の第1の具体例を示すタイムチャートである。
図26】ニュートラル判定制御の第2の具体例を示すタイムチャートである。
図27】エンジンの再始動時のクランクシャフトの正転動作を示す図である。
図28】エンジンの再始動時のクランクシャフトの逆転動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明の一実施形態に係るハイブリッドシステム(マイルドハイブリッドシステム)を備えた車両1を図1に示しており、まず、この図1を参照して本実施形態に係る車両1の概要構成を説明する。
【0023】
車両1は、マイルドハイブリッド車両であり、エンジン10のみを動力源とする走行と、エンジン10とモータ20の2つを動力源とする走行とを実行可能である。つまり、車両1は、モータ20の動力のみで走行を行うことはなく、発進時や加速時等のエンジン10の動力が不足する場面或いは巡航時にアシストを行うことで燃費向上が期待できる場面において、エンジン10の動力をモータ20の動力でアシストして走行するものである。この車両1は、例えば、トラックやバスなどの大型車両である。
【0024】
車両1は、エンジン10と、モータ20と、クラッチ装置30と、トランスミッション40と、ブレーキ装置50と、車両制御装置60と、検出部70とを備えている。
【0025】
エンジン10は、例えば軽油等の燃料を燃焼させることにより車両1を走行させるための駆動力を生成する多気筒のディーゼルエンジンである。このエンジン10の出力軸(クランクシャフト)には、モータ20の回転軸が直結されている。
【0026】
モータ20は、供給される電力を回転動力に変換して出力する電動機としての機能(力行機能)と、入力される回転動力を電力に変換して出力する発電機としての機能(回生機能)とを備えるモータジェネレータである。モータ20は、後述のインバータ21を介してバッテリ22と電力の授受を行う。モータ20は、電動機として機能する場合には、バッテリ22から供給される電力を変換して回転動力を生成し、該回転動力をエンジン10から入力される回転動力に付加して、トランスミッション40側へ出力する(エンジン10の出力をアシストする)。モータ20は、発電機として機能する場合には、駆動輪43からトランスミッション40に伝達された回転動力またはエンジン10から出力された回転動力を回生して発電を行い、該発電された電力がバッテリ22に充電される。本実施形態では、所定の回生トルク(最大回生トルク)の値を上限として、モータ20の回生トルクを任意の値に制御することができる。なお、モータ20の最大回生トルク(最大回生制動力)は、エンジン10の回転数毎に変化する。
【0027】
モータ20とバッテリ22とを繋ぐ電気回路上には、インバータ21が接続されている。インバータ21は、バッテリ22側の直流電力とモータ20側の交流電力とを相互に変換する変換器である。インバータ21には、後述のアシストECU64が電気的に接続されており、このアシストECU64からの制御信号に基づき、バッテリ22からモータ20に駆動電流(電力)を供給したり、モータ20の回生電力をバッテリ22に蓄電したりする。このモータ20の回転軸には、クラッチ装置30を介して、トランスミッション40の入力軸が接続されている。
【0028】
クラッチ装置30は、モータ20の回転軸とトランスミッション40の入力軸との間に介装され、運転者によるクラッチペダル83の踏み込み操作及び踏み戻し操作に応じて、駆動力を伝達または遮断する。本実施形態のクラッチ装置30は、例えば、摩擦係合式の多板クラッチである。
【0029】
トランスミッション40は、複数の変速段(例えば、前進5段、後進1段)を有して、運転者によるシフトレバー(図示せず)の操作に応じて変速する手動式の多段変速機(マニュアルトランスミッション)であり、エンジン10からの動力を複数の変速段のうちのいずれか1つにより変速して出力する。このトランスミッション40の出力軸には、プロペラシャフト41が接続されている。トランスミッション40にて変速された駆動力は、プロペラシャフト41を介してデファレンシャル42に伝達されて、一対の車輪(駆動輪)43にそれぞれ分配される。なお、本実施形態では、後輪駆動のハイブリッド車両を例示しているが、前輪駆動のハイブリッド車両とすることも勿論可能である。また、四輪駆動(全輪駆動)のハイブリッド車両とすることも可能であり、その場合には前輪および後輪のそれぞれに対してエンジン動力とモータ動力とを伝達可能である(モータアシスト可能である)。
【0030】
ブレーキ装置50は、運転者によりブレーキペダル82が踏み込まれたときに各車輪(駆動輪、従動輪)43に制動力を付与する。このブレーキ装置50としては、圧縮空気で作動するエアブレーキや、油圧で作動する油圧ブレーキが例示される。
【0031】
車両制御装置60は、エンジン10を制御するエンジンECU61と、クラッチ装置30およびトランスミッション40を制御するトランスミッションECU62と、ブレーキ装置50を制御するブレーキECU63と、モータジェネレータ20を制御するアシストECU64とを備えて構成される。各ECU61~64は、CPU、ROM、RAM、及び入出力等のインターフェースを含むマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。本実施形態では、車両制御装置60による制御によって、エンジン10の出力のみで車両を走行するエンジン走行モードと、エンジン10の出力をモータ20の出力によりアシストして、エンジン10およびモータ20の双方の出力にて車両を走行するモータアシスト走行モードとの間で、走行モードの切り替えが可能となっている。この車両制御装置60には、検出部(各種のセンサ類)70が電気的に接続されている。
【0032】
検出部70は、アクセルペダル81の操作量(踏み込み量、踏み戻し量)を検出するアクセルセンサ71、ブレーキペダル82の操作(踏み込み、踏み戻し)を検出するブレーキセンサ72、クラッチペダル83の操作量(踏み込み量、踏み戻し量)を検出するクラッチセンサ73、車両1の走行速度(車速)を検出する車速センサ74、エンジン10もしくはモータ20の回転数(回転速度)を検出する回転センサ75、及びバッテリ22の残充電量等を検出するバッテリセンサ76等を有して構成されている。ブレーキセンサ72は、ブレーキペダル82の操作量(踏み込み量、踏み戻し量)を検出するものでもよい。なお、本実施形態では、エンジン10の出力軸とモータ20の回転軸とが直結されているため、エンジン10の回転数(回転速度)とモータ20の回転数(回転速度)とが一致する。各センサ71~76の検出情報は、エンジンECU61、トランスミッションECU62、ブレーキECU63、アシストECU64のうちの必要なECUに適宜入力されるようになっている。
【0033】
ここで、アシストECU64は、車両1の発進時や加速時等にはモータ20の力行駆動を制御してエンジン10の出力をアシストし、車両1の減速時や制動時等にはモータ20の回生駆動(回生発電)を制御してバッテリ22を充電する。このアシストECU64は、他のECU61~63と電気的に接続されておらず、他のECU61~63との間で信号の送受信を行わない。そのため、本実施形態のアシストECU64は、検出部70(各センサ71~76)から入力される検出信号に基づき、独自の判断でモータ20の力行駆動および回生駆動を制御する。なお、本実施形態では、アシストECU64、モータ20、インバータ21およびバッテリ22等を主体として、マイルドハイブリッドシステムが構成されており、このマイルドハイブリッドシステムを既存の車両(非ハイブリッド車両)に後付けで搭載することにより、既存の車両(非ハイブリッド車両)をハイブリッド化している。
【0034】
次に、アシストECU64による車両1の制御方法について説明する。
【0035】
<1.アイドリング回生制御>
まず、本実施形態のアイドリング回生制御について説明する。従来技術の問題点として、モータ20の回生駆動を車両の減速時(制動時)にのみ行うと、モータ20による発電量が不十分となり、バッテリ22の残充電量(残容量)が低下して、エンジン10の出力をモータ20の出力で十分にアシストすることができなくなるおそれがあるという問題があった。
【0036】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、車両1のアイドリング状態(停車状態)を判定し、バッテリ22の残充電量が低下している場合には、当該アイドリング状態のエンジン10の動力(アイドル回転)を利用してモータ20の回生発電を行うアイドリング回生制御を実行する。
【0037】
本実施形態のアイドリング回生制御の手順について、図2を参照して説明する。図2は、アイドリング回生制御のフローチャートである。
【0038】
アシストECU64は、クラッチセンサ73からの検出情報に基づき、クラッチペダル83が踏み込まれているか否かを判定する(ステップS101)。アシストECU64は、クラッチペダル83が踏み込まれていないと判定した場合(ステップS101:NO)、すなわち、クラッチ装置30が接続状態であると判定した場合、車速センサ74からの検出情報に基づき、車速が0(0km/h)であるか否かを判定する(ステップS102)。つまり、アシストECU63は、クラッチペダル83が踏み込まれていないとき(クラッチ装置30が接続状態であるとき)に車速が0であることを条件に、車両1がアイドル状態(停止状態)に移行したことを判定する。
【0039】
アシストECU64は、車速が0であると判定した場合(ステップS102:YES)、バッテリセンサ76からの検出情報に基づき、バッテリ22のSOC(State Of Charge)が所定値未満であるか否かを判定する(ステップS103)。SOCとは、バッテリ22の満充電量に対する現在の充電量(残充電量)を百分率で表現した充電率である。SOCは、バッテリ22からの出力電圧もしくは出力電流に基づき算出される。アシストECU64は、バッテリ22のSOCが所定値未満であると判定した場合(ステップS103:YES)、アイドル状態のエンジン10から出力される動力(アイドル回転)を利用してモータ20の回生駆動(回生発電)を開始する(ステップS104)。それにより、バッテリ22がモータ20により発電される電力によって充電される。
【0040】
続いて、アシストECU64は、バッテリ22のSOCが所定値以上まで回復したか否かを判定する(ステップS105)。アシストECU64は、SOCが所定値以上まで回復したことを判定した場合(ステップS105:YES)、モータ20の回生駆動を停止する(ステップS107)。一方、アシストECU64は、SOCが所定値未満であることを判定した場合(ステップS105:NO)、クラッチペダル83が踏み込まれたか否かを判定する(ステップS106)。アシストECU64は、クラッチペダル83が踏み込まれていないと判定した場合(ステップS106:NO)、ステップS105に戻る。一方、アシストECU64は、クラッチペダル83が踏み込まれたことを判定した場合(ステップS106:YES)、すなわち、クラッチ装置30が切断状態であると判定した場合、モータ20の回生駆動を停止する(ステップS107)。なお、ステップS101、ステップS102もしくはステップS103でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0041】
次に、アシストECU64によるアイドリング回生制御の作用について説明する。図3は、アイドリング回生制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0042】
図3に示すように、時点t11において、運転者によりクラッチペダル83が踏み戻されており(踏み込まれておらず)、且つ、車速が0となっていることで、車両1がアイドリング状態に移行したことが判定される。このとき、バッテリ22のSOCが所定値S1未満である場合(バッテリ22の残容量が低下している場合)、モータ20から出力される動力(アイドル回転)を利用してモータ20を回生駆動し、バッテリ22を充電する(時点t11~t13)。そして、時点t13において、バッテリ22のSOCが所定値S1以上まで回復すると、モータ20の回生駆動を停止する。なお、バッテリ22のSOCが所定値S1まで回復する前であっても、クラッチペダル83が操作された場合(踏み込まれた場合)には、車両1が停車状態から発進することが予測されるため、モータ20の回生駆動を停止する(時点t12)。
【0043】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、エンジン10がアイドリング状態となったことを判定して、当該エンジン10のアイドル回転(余剰の運動エネルギー)を利用してモータ20を回生駆動させることで、モータ20による発電量を十分に確保して、バッテリ22の残充電量(電力)が不足する事態を未然に回避することが可能となる。
【0044】
<2.発進制御>
次に、本実施形態の発進制御について説明する。従来技術の問題点として、車両1の発進時にエンジン10の出力をモータ20の出力によりアシストする場合、車両1の走行開始に合わせてモータ20を駆動させる必要があるが、その駆動タイミングが早すぎるとモータ20の駆動力を無駄に消費することになり、逆に、駆動タイミングが遅すぎると車両1の発進時に要する駆動力が不足するという問題がある。
【0045】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、クラッチペダル83の操作速度(踏み戻し速度)の変化点から車両1の発進タイミングを検出して、この発進タイミングに合わせてモータ20を力行駆動する発進制御を実行する。
【0046】
本実施形態の発進制御の手順について、図4を参照して説明する。図4は、発進制御のフローチャートである。
【0047】
アシストECU64は、車速が0であるか否かを判定する(ステップS201)。アシストECU64は、車速が0であることを判定した場合(ステップS201:YES)、クラッチセンサ73からの検出情報に基づき、クラッチペダル83が規定量以上踏み込まれているか否かを判定する(ステップS202)。規定量は、クラッチ装置30が切断状態となる範囲(例えば、クラッチペダル83が半クラッチ領域の境界位置から完全に踏み込まれる位置までの範囲)内に設定されている。つまり、アシストECU64は、運転者がクラッチペダル83を操作して、クラッチ装置30を接続及び切断したか否かを判定する。
【0048】
アシストECU64は、クラッチペダル83が規定量以上踏み込まれていることを判定した場合(ステップS202:YES)、クラッチペダル83が踏み戻され始めたか否かを判定する(ステップS203)。アシストECU64は、クラッチペダル83の踏み戻しが開始されたことを判定した場合(ステップS203:YES)、当該クラッチペダル83が予め設定された半クラッチ領域(半クラッチ領域の開始点)まで踏み戻されたか否かを判定する(ステップS204)。半クラッチ領域とは、クラッチ装置30が完全接続状態(完全係合状態)と完全切断状態(完全解放状態)との間でエンジン10の動力を部分的に伝達する半クラッチ状態となる領域である。アシストECU64の内部メモリには、半クラッチ領域に対応するクラッチペダル83のストローク量(踏み込み量、踏み戻し量)が記憶されている。なお、変形例として、クラッチペダル83の踏み戻し速度(単位時間当たりの踏み戻し量)が減少したときに、クラッチペダル83が半クラッチ領域まで踏み戻されたことを判定するように構成してもよい。すなわち、運転者は、始めはクラッチペダル83を素早く踏み戻していくが、クラッチ装置30の接続(係合)が開始すると、クラッチペダル83をゆっくりと踏み戻し始めるため、運転者によるクラッチペダル83の踏み戻し速度が減少したことに伴い、クラッチペダル83が半クラッチ領域に達したことを推定することができる。
【0049】
アシストECU64は、クラッチペダル83が半クラッチ領域まで踏み戻されたことを判定した場合(ステップS204:YES)、クラッチペダル83の踏み戻し速度が減少から増加に転じたか否かを判定する(ステップS205)。ここで、クラッチペダル83の踏み戻し速度が半クラッチ領域内で減少から増加に転じるタイミングは、運転者が車両1を発進させようとする意図を反映したタイミングである。つまり、クラッチペダル83の踏み戻し操作(踏み戻し速度)は、運転者の発進意図を顕著に表した指標であると言える。そのため、クラッチペダル83の踏み戻し速度の変化点を検出することで、モータ20の駆動トルク(アシストトルク)を必要とする車両1の発進タイミングを正確に検出することが可能となる。
【0050】
アシストECU64は、クラッチペダル83の踏み戻し速度が半クラッチ領域内で増加したと判定した場合(ステップS205:YES)、モータ20の力行駆動(モータアシスト)を開始する(ステップS206)。続いて、アシストECU64は、クラッチペダル83が予め定められた所定量まで踏み戻されたか否かを判定する(ステップS207)。この所定量は、半クラッチ領域の終了点の近傍に設定されている。つまり、アシストECU64は、クラッチペダル83が所定量まで踏み戻されたことにより、クラッチ装置30が完全継合状態(完全係合状態)に移行したことを推定する。アシストECU64は、クラッチペダル83が所定量まで踏み戻されたことを判定した場合(ステップS207:YES)、モータ20の力行駆動(モータアシスト)を停止する(ステップS208)。なお、ステップS201もしくはステップS202でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0051】
次に、アシストECU64による発進制御の作用について説明する。図5は、発進制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0052】
図5に示すように、時点t21において、車両1を発進させるため、運転者がクラッチペダル83を完全に踏み込んだ状態から踏み戻し始める。なお、図示省略しているが、クラッチペダル83の踏み戻しと同時に、アクセルペダル81の踏み込みが開始されている。時点t22において、運転者がクラッチペダル83を徐々に踏み戻すと、クラッチペダル83の踏み込み量が半クラッチ領域に到達する。それにより、クラッチ装置30が部分的に接続(係合)を開始することで、運転者がクラッチペダル83の踏み戻し速度を減少させる。時点t23において、運転者が車両1を発進させようとしてクラッチペダル83の踏み戻し速度を増加させたときに、モータ20の力行駆動(モータアシスト)を開始する。それにより、車速が0から上昇を始める(車両1が加速を開始する)。時点t24において、クラッチペダル83の踏み込み量が所定量(半クラッチ領域の終了点)まで戻されると、クラッチ装置30が完全接続状態に移行することで、モータ20の力行駆動(モータアシスト)を停止する。
【0053】
このように本実施形態によれば、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、運転者によるクラッチペダル83の操作速度(踏み戻し速度)の変化点に基づき運転者の発進意図を正確に検出することで、クラッチ装置30の摩耗量等の影響を受けることなく、運転者の感覚に合った発進タイミングでモータアシストを実行することができ、車両1をスムーズに発進させることが可能となる。
【0054】
<3.スリップ制御>
次に、本実施形態のスリップ制御について説明する。従来技術の問題点として、走行路面の摩擦係数が低い場合に、車両1の発進時あるいは加速時等にモータアシストを行うと、車輪43がスリップ(空転)して車両1の安定性が損なわれるおそれがあるという問題がある。
【0055】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU46が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、モータ20の力行駆動中にエンジン10の回転加速度が予め設定された限界加速度を超過した場合に、車輪43にスリップが発生したことを判定し、モータ20の力行駆動を停止するとともに、それから所定時間以内に運転者がアクセルペダル81を踏み戻さなかった場合には、スリップが継続していると判定し、モータ20の回生駆動を開始して車輪43に回生制動力を付与するスリップ制御を実行する。
【0056】
アシストECU64のスリップ制御の手順について、図6を参照して説明する。図6は、スリップ制御のフローチャートである。
【0057】
アシストECU64は、アクセルペダル81が所定量以上踏み込まれたか否かを判定する(ステップS301)。すなわち、アシストECU64は、車両1を発進又は加速させるため、モータ20の力行駆動(モータアシスト)を必要とする状態であるか否かを判定する。アシストECU64は、アクセルペダル81が所定量以上踏み込まれたことを判定した場合(ステップS301:YES)、モータ20の力行駆動を開始する(ステップS302)。
【0058】
アシストECU64は、回転センサ75からの検出情報に基づき、エンジン10の回転加速度(モータ20の回転加速度)が予め設定された限界加速度を超過したか否かを判定する(ステップS303)。エンジン10の回転加速度は、回転センサ75にて検出されたエンジン10の回転速度(回転数)を微分することにより得られる。アシストECU64は、エンジン10の回転加速度が限界加速度を超過していることを判定した場合(ステップS303:YES)、車両1にスリップが発生していることを推定し、モータ20の力行駆動を停止する(ステップS304)。
【0059】
アシストECU64は、モータ20の力行駆動を停止した時点から起算して所定時間以内にアクセルペダル81が踏み戻されたか否かを判定する(ステップS305)。すなわち、アシストECU64は、所定時間以内にアクセルペダル81の踏み込み量が減少したか否かを判定する。アシストECU64は、所定時間以内にアクセルペダル81が踏み戻されていないことを判定した場合(ステップS305:NO)、モータ20の回生駆動を開始して回生制動トルクを発生させることで、エンジン10の回転を抑制する(ステップS306)。
【0060】
アシストECU64は、モータ20の回生駆動中に、アクセルペダル81が踏み戻されたか否かを判定する(ステップS307)。アシストECU64は、アクセルペダル81が踏み戻されたことを判定した場合(ステップS307:YES)、モータ20の回生駆動を停止する(ステップS308)。なお、ステップS301、ステップS303もしくはステップS305でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0061】
次に、アシストECU64によるスリップ制御の作用について説明する。図7は、スリップ制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0062】
図7に示すように、時点t31において、運転者によるアクセルペダル81の踏み込みにより、モータ20の力行駆動が開始される。時点t32において、エンジン10の回転加速度が限界加速度を超過することで(エンジン10の回転数が急激に立ち上がることで)、アシストECU64が車両1のスリップを検出して、モータ20の力行駆動を停止する。時点t33において、モータ20の力行駆動が停止されたとき(車両1のスリップが検出されたとき)から所定時間が経過するまでに、アクセルペダル81が踏み戻されないと、モータ20の回生駆動が開始され、その回生制動力によりエンジン10の回転数が低下する。時点t34において、モータ20の回生駆動中にアクセルペダル81が踏み戻されると、モータ20の回生駆動が停止される。
【0063】
このように本実施形態によれば、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、エンジン10の回転数(回転加速度)の変化によりスリップが発生したことを判定して、モータ20の力行駆動(モータアシスト)の停止により車輪43に付与する駆動トルクを低下させるとともに、モータ20の回生駆動により車輪43に回生制動トルクを付与することで、車輪43のスリップを効果的に抑制することができ、その結果、車両1の安定性を向上させることが可能となる。
【0064】
<4.加速アシスト制御>
次に、本実施形態の加速アシスト制御について説明する。従来技術の問題点として、車両1の発進時等に、エンジン10の出力をモータ20の出力によりアシストする場合、運転者の加速要求に合った適切なタイミングでモータアシストが行われないと、加速フィーリングが悪化し、燃費改善効果も十分に得られないという問題があった。
【0065】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、運転者の加速要求を判定して、該加速要求に応じたタイミングにてモータ20を力行駆動する加速アシスト制御を実行する。
【0066】
本実施形態の加速アシスト制御の手順について、図8を参照して説明する。図8は、加速アシスト制御のフローチャートである。なお、図8のフローチャートに示す制御は、運転者の加速要求(運転者によるアクセルペダル81の踏み込み操作)に基づいて車両1を加速させる場面にて実行される。
【0067】
アシストECU64は、アクセルペダル81が踏み込まれたか否かを判定する(ステップS401)。アシストECU64は、アクセルペダル81が踏み込まれたことを判定した場合(ステップS401:YES)、当該アクセルペダル81の踏み込み量が予め設定された規定量を超過したか否かを判定する(ステップS402)。つまり、アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み込み量に基づき、運転者の加速要求があるか否かを判定する。
【0068】
アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み込み量が規定量を超過したことを判定した場合(ステップS402:YES)、モータ20の力行駆動を開始する(ステップS403)。続いて、アシストECU64は、モータ20の力行駆動中に、アクセルペダル81が踏み戻されたか否か(アクセルペダル81の踏み込み量が減少したか否か)を判定する(ステップS404)。アシストECU64は、アクセルペダル81が踏み戻されたことを判定した場合(ステップS403:YES)、運転者の加速要求が終了したと判断して、モータ20の力行駆動を停止する(ステップS405)。なお、ステップS401もしくはステップS402でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0069】
次に、アシストECU64による加速アシスト制御の作用について説明する。図9は、加速アシスト制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0070】
図9に示すように、時点t41において、運転者がアクセルペダル81を踏み込み始める。時点t42において、アクセルペダル81の踏み込み量が規定量AP1を超過することで、アシストECU64が運転者の加速要求があることを判定して、モータ20の力行駆動を開始する。時点t42において、運転者がアクセルペダル81を踏み戻すことで、アシストECU64が運転者の加速要求が終了したことを判定して、モータ20の力行駆動を停止する。
【0071】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、運転者によるアクセルペダル81の操作量から運転者の加速要求を判定して、この加速要求に適応したタイミングでモータアシストを実行することで、運転者に与える加速フィーリングを向上させることができるとともに、燃費改善効果を高めることが可能となる。
【0072】
<5.負荷判定制御>
次に、本実施形態の負荷判定制御について説明する。従来技術の問題点として、例えば積載荷重の小さい空車時や下り坂などの車両の負荷が低い状態での走行では、モータアシストを行ったとしても、加速フィーリングの向上や燃費改善効果は低いため、エネルギーを無駄に消費してしまうという問題があった。
【0073】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、車両1の負荷状態(軽負荷状態/高負荷状態)を推定する負荷判定制御を実行する。
【0074】
本実施形態の負荷判定制御の手順について、図10を参照して説明する。図10は、負荷判定制御のフローチャートである。
【0075】
アシストECU64は、車速センサ74からの検出情報に基づき、車速が予め設定された所定速度範囲内にあるか否かを判定する(ステップS501)。所定速度範囲は、例えば20~40km/hの範囲である。アシストECU64は、車速が所定速度範囲内であることを判定した場合(ステップS501:YES)、アクセルセンサ71からの検出情報に基づき、アクセルペダル81の踏み込み量が予め設定された閾値操作量以上であるか否かを判定する(ステップS502)。アシストECUは、アクセルペダル81の踏み込み量が閾値操作量以上であることを判定した場合(ステップS502:YES)、車両1の加速度が閾値加速度未満であるか否かを判定する(ステップS503)。車両1の加速度は、車速センサ74にて検出される車速を微分することで求められる。なお、変形例として、車速センサ74とは別に、車両1の加速度を検出する加速度センサを設けてもよい。
【0076】
アシストECU64は、車両1の加速度が閾値加速度未満である場合(ステップS503:YES)、車両1が高負荷状態であることを判定する(ステップS504)。つまり、アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み込み量が閾値操作量以上であるにも関わらず、車両1の加速度が閾値加速度に達していない場合に、車両1が高負荷状態であると判定する。高負荷状態とは、例えば車両1に荷物等が積載された(積載重量が所定重量よりも大きい)積車状態や、走行路面が上り坂である状態などをいう。このとき、アシストECU64により車両が高負荷状態であると判定されると、モータ20の力行駆動(モータアシスト)が許容される。
【0077】
一方、アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み込み量が閾値操作量未満であることを判定した場合(ステップ502:NO)、車両1の加速度が閾値加速度以上であるか否かを判定する(ステップS505)。アシストECU64は、車両1の加速度が閾値加速度以上であることを判定した場合(ステップS505:YES)、車両1が軽負荷状態であると判定する(ステップS506)。つまり、アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み込み量が閾値操作量未満であるにも関わらず、車両1の加速度が閾値加速度に達している場合に、車両1が軽負荷状態であると判定する。軽負荷状態とは、例えば車両1に荷物等が積載されていない(積載重量が所定重量よりも小さい)空車状態や、走行路面が下り坂である状態などをいう。このとき、アシストECU64により車両1が軽負荷状態であると判定されると、モータ20の力行駆動(モータアシスト)が制限される。なお、ステップS501、ステップS503もしくはステップS505でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0078】
次に、アシストECU64による負荷判定制御の作用について説明する。図11及び図12は、負荷判定制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0079】
まず、図11に示すように、時点t51において、走行中の車両1の車速が所定速度範囲ΔV内にあることを条件に、アクセルペダル81の踏み込み量と車両10の加速度とに基づき、車両1の負荷判定が行われる。この時点t51では、アクセルペダル81の踏み込み量が閾値操作量APth未満であり、且つ、車両1の加速度が閾値加速度Gth以上であるため、アシストECU64は車両1が軽負荷状態であると判定する。
【0080】
一方、図12に示すように、時点t52において、走行中の車両1の車速が所定速度範囲ΔV内にあることを条件に、アクセルペダル81の踏み込み量と車両1の加速度とに基づき、車両1の負荷判定が行われる。この時点t52では、アクセルペダル81の踏み込み量が閾値操作量APth以上であり、且つ、車両1の加速度が閾値加速度Gth未満であるため、アシストECU64は車両1が高負荷状態であると判定する。
【0081】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、車両1の負荷状態(軽負荷状態/高負荷状態)を推定することができるため、不要なエネルギーの消費を抑えて、燃費を向上させることが可能となる。また、本実施形態では、車両1の積載重量(乗員や積載物などの重量)を検出するための重量センサを追加することなく、既存の車両情報に基づき車両1の負荷状態を判定することができるため、車両全体のコストダウンを図ることが可能となる。
【0082】
<6.定速走行制御>
次に、本実施形態の定速走行制御について説明する。従来技術の問題点として、車両1が定速走行している状態では、モータ20の出力を絞った低出力によるモータアシストを行うことで、燃費向上を図ることができるのであるが、車両1が定速走行に移行したか否かを判定することが困難であるという問題があった。
【0083】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、運転者によるアクセルペダル操作の変化量(アクセル開度の変化量)から車両1が定速走行に移行したことを判定して、低出力によるモータアシストによって車速を維持する定速走行制御を実行する。
【0084】
本実施形態の定速走行制御の手順について、図13を参照して説明する。図13は、定速走行制御のフローチャートである。
【0085】
アシストECU64は、アクセルセンサ71からの検出情報に基づき、アクセルペダル81が所定量(第1所定量)以上踏み込まれている否かを判定する(ステップS601)。アシストECU64は、アクセルペダル81が所定量以上踏み込まれていると判定した場合(S601:YES)、アクセルペダル81の踏み戻しが開始されたか否か(踏み込み量が減少しているか否か)を判定する(ステップS602)。アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み戻しが開始されたことを判定した場合(ステップS602:YES)、当該アクセルペダル81の踏み戻し速度(アクセルペダル81の踏み込み量を減少させている間の操作速度)が所定速度以下であるか否かを判定する(ステップS603)。
【0086】
アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み戻し速度が所定速度以下であることを判定した場合(ステップS603:YES)、アクセルペダル81の踏み込み量が所定の判定操作量まで減少したか否かを判定する(ステップS604)。アクセルペダル81の踏み込み量が所定の判定操作量まで減少したことを判定した場合(ステップS604:YES)、車両1が定速走行に移行したと判断する(ステップS605)。アシストECU64は、車両1が定速走行に移行したと判断すると、アクセルペダル81の踏み込み量が一定量以上増加したか否かを判定する(ステップS606)。つまり、車速を一定に維持するため、アクセルペダル81が踏み増しされたか否かを判定する。
【0087】
アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み込み量が一定量以上増加したことを判定した場合(ステップS606:YES)、モータ20を力行駆動する(ステップS607)。このとき、アシストECU64は、モータ20の駆動トルクを低トルクに制御する。続いて、アシストECU64は、モータ20の力行駆動中にアクセルペダル81が踏み戻されたか否かを判定する(ステップS608)。アシストECU64は、アクセルペダル81が踏み戻されたことを判定した場合(ステップS608:YES)、モータ20の力行駆動を停止する(ステップS609)。なお、ステップS601、ステップS602、ステップS603、ステップS604もしくはステップS606でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0088】
次に、アシストECU64による定速走行制御の作用について説明する。図14は、定速走行制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0089】
図14に示すように、時点t61において、加速中の車両1の加速を終了させるために、運転者がアクセルペダル81を踏み戻し始める。時点t62において、アクセルペダル81がゆっくりと踏み戻されて(アクセルペダル81の踏み戻し速度が所定速度以下であり)、当該アクセルペダル81の踏み込み量が所定の判定操作量AP2まで減少すると、車両1が定速走行に移行したことが判定される。時点t63において、車両1の定速走行中に、アクセルペダル81が踏み増しされると(アクセルペダル81の踏み込み量が一定量以上増加すると)、モータ20の力行駆動が開始される。時点t64において、車両1の定速走行中に、アクセルペダル81が踏み戻されると(アクセルペダル81の踏み込み量が一定量以上減少すると)、モータ20の力行駆動が停止される。
【0090】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、運転者によるアクセルペダル操作の変化量から車両1が定速走行に移行したことを判定し、車速維持のためのアクセル操作が行われているときに低出力でのモータアシストを行うことで、定速走行時の燃費の向上を図ることが可能となる。
【0091】
<7.減速移行制御>
次に、本実施形態の減速移行制御について説明する。従来技術の問題点として、運転者がアクセルペダル81から足を離した際に、車両1を惰行走行(惰性走行)させる場合は、モータ20の力行駆動、回生駆動のいずれも必要とされない一方で、車両1を減速走行させる場合は、モータ20を回生駆動させて余剰の運動エネルギー(制動エネルギー)を電気エネルギーに変換することで燃費向上を図ることができるが、実際には運転者の要求が惰行走行なのか減速走行なのかを判別することが困難であるという問題があった。
【0092】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、運転者によるアクセル操作の変化量から運転者の意図する走行状態(惰行走行/減速走行)を判別して、該運転者の意図する走行状態に応じたモータ20の駆動を行う減速移行制御を実行する。
【0093】
本実施形態の減速移行制御の手順について、図15を参照して説明する。図15、減速移行制御のフローチャートである。
【0094】
アシストECU64は、モータ20が力行駆動中であるか否かを判定する(ステップS701)。アシストECU64は、モータ20が力行駆動中であると判定した場合(ステップS701:YES)、アクセルセンサ71からの検出情報に基づき、アクセルペダル81の踏み込み量が所定量(第2所定量)以上であるか否かを判定する(ステップS702)。アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み込み量が所定量以上であることを判定した場合(ステップS702:YES)、アクセルペダル81の踏み戻しが開始されたか否かを判定する(ステップS703)。アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み戻しが開始されたことを判定した場合(ステップS703:YES)、モータ20の力行駆動を停止する(ステップS704)。
【0095】
続いて、アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み戻し速度が所定値未満であるか否かを判定する(ステップS705)。アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み戻し速度が所定値未満であると判定した場合(ステップS705:YES)、アクセルペダル81が完全に踏み戻されたか否か(踏み込み量が0に戻されたか否か)を判定する(ステップS706)。アシストECU64は、アクセルペダル81が完全に踏み戻されたことを判定した場合(ステップS706:YES)、運転者に惰行走行意思があることを判定する(ステップS707)。
【0096】
一方、アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み戻し速度が所定値以上であることを判定した場合(ステップS707:YES)、アクセルペダル81が完全に踏み戻されたか否か(踏み込み量が0に戻されたか否か)を判定する(ステップS708)。アシストECU64は、アクセルペダル81が完全に踏み戻されたことを判定した場合(ステップS708:YES)、運転者に減速意思があることを判定する(ステップS709)。
【0097】
続いて、アシストECU64は、モータ20の回生駆動を開始して、その回生制動力により車両1を減速させる(ステップS710)。アシストECU64は、モータ20の回生駆動中に、アクセルペダル81が踏み込まれたか否かを判定する(ステップS711)。アシストECU64は、アクセルペダル81が踏み込まれたことを判定した場合(ステップS711:YES)、モータ20の回生駆動を停止する(ステップS712)。なお、ステップS701、ステップS702、ステップS703、ステップS706もしくはステップS708でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0098】
次に、アシストECU64による減速移行制御の作用について説明する。図16および図17は、減速移行制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0099】
まず、図16に示すように、時点t71において、モータ20は力行駆動しており、車両1は一定速度で走行している。時点t72において、運転者がアクセルペダル81を踏み込んだ状態から踏み戻し始めると、モータ20の力行駆動が停止される。このとき、アクセルペダル81がゆっくり踏み戻された場合(アクセルペダル81の踏み戻し速度が所定値未満である場合)には、アクセルペダル81が完全に踏み戻されたときに、アシストECU64が運転者に惰性走行意思があると判定する(時点t73)。
【0100】
一方、図17に示すように、時点t74において、モータ20は力行駆動しており、車両1は一定速度で走行している。時点t75において、運転者がアクセルペダル81を踏み込んだ状態から踏み戻し始めると、モータ20の力行駆動が停止される。このとき、アクセルペダル81が急に踏み戻された場合(アクセルペダル81の踏み戻し速度が所定値以上である場合)には、アクセルペダル81が完全に踏み戻されたときに、アシストECU64が運転者に減速意思があると判定する(時点t76)。また、この時点t76において、モータ20の回生駆動が開始される。そして、時点t77において、運転者がアクセルペダル81を踏み込むと、モータ20の回生駆動が停止される。
【0101】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、運転者の感覚に合った走行制御を行うことで無駄な操作回数を削減して疲労軽減を図ることができるとともに、運転者の減速意思を的確に判断してモータ20による減速回生を行うことでエネルギーの回収効率を向上させることが可能となる。
【0102】
<8.速度維持制御>
次に、本実施形態の速度維持制御について説明する。従来技術の問題点として、車両1を一定速度で走行中に下り坂に差し掛かると、運転者の意思とは関係なく車両1が加速することで、車両1の速度を維持するための減速操作が必要となり、運転者の操作負担となるという問題があった。
【0103】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、運転者がアクセルペダル81を離したときの車速を記憶しておき、アクセルペダル81が完全に踏み戻されているにも関わらず、現在の車速が当該記憶した車速から所定の閾値を超えて上昇した場合に、モータ20を回生駆動させて車速の上昇を抑制する速度維持制御を実行する。
【0104】
本実施形態の速度維持制御の手順について、図18を参照して説明する。図18は、速度維持制御のフローチャートである。
【0105】
アシストECU64は、アクセルセンサ71からの検出情報に基づき、アクセルペダル81の踏み込み量が所定量(第3所定量)以上であるか否かを判定する(ステップS801)。アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み込み量が所定量以上であることを判定した場合(ステップS801:YES)、アクセルペダル81の踏み戻しが開始された否かを判定する(ステップS802)。アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み戻しが開始されたことを判定した場合(ステップS802:YES)、アクセルペダル81の踏み戻しが開始されたときの車速を基準速度として一時記憶する(ステップS803)。アシストECU64は、アクセルペダル81が完全に踏み戻されたか否か(踏み込み量が0に戻されたか否か)を判定する(ステップS804)。アシストECU64は、アクセルペダル81が完全に踏み戻されたことを判定した場合(ステップS804:YES)、現在の車速が基準速度よりも所定値以上大きくなったか否かを判定する(S805)。本実施形態では、所定値として3kmが設定されている。アシストECU64は、現在の車速が基準速度よりも所定値以上大きくなったことを判定した場合(ステップS805:YES)、モータ20の回生駆動を開始する(ステップS806)。アシストECU64は、モータ20の回生制動力により、現在の車速が基準速度まで減少したか否かを判定する(ステップS807)。アシストECU64は、現在の車速が基準速度まで減少したことを判定した場合(ステップS807:YES)、モータ20の回生駆動を停止する(ステップS808)。なお、ステップS801、ステップS802、ステップS804もしくはステップS805でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0106】
次に、アシストECU64による速度維持制御の作用について説明する。図19は、速度維持制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0107】
図19に示すように、時点t81において、走行中の車両1が下り坂に差し掛かることで、運転者がアクセルペダル81を踏み戻し始める。このとき、アシストECU64は、アクセルペダル81を踏み戻し始めたときの車速を基準車速Vaとして一時記憶する。時点t82において、アクセルペダル81の踏み込み量が0まで戻される。時点t83において、車両1が下り坂により加速することで、アクセルペダル81が踏み込まれていない状態であるにも関わらず、現在の車速が基準速度Vaよりも所定値ΔVth以上大きくなると、モータ20の回生駆動を開始する。それにより、車両1にはモータ20の回生制動力が働き、車速が減速する。時点t84において、車両1が基準速度Vaまで減速すると、モータ20の回生駆動を停止する。
【0108】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、車両1の降坂走行時(下り坂の走行時)などの運転者の意思とは関係なく車両1が加速する状況においては、モータ20を回生駆動させてその回生制動力により車速の上昇を抑制することで、運転者のブレーキ操作の負担を軽減することができるとともに、ブレーキ装置50による車両の減速頻度を低減させることで、ブレーキパッドの摩耗を抑制することが可能となる。
【0109】
<9.減速回生制御>
次に、本実施形態の減速回生制御について説明する。従来技術の問題点として、車両1の減速時にはモータ20を回生駆動することで、出来る限り多くのエネルギーを回収したいが、アクセル操作が解除された直後にモータ20の回生駆動を全出力で行うと、車両1に減速ショックが発生して運転者に違和感を与えてしまうという問題があった。
【0110】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、運転者によるアクセルペダル81およびブレーキペダル82の操作状態を監視して、車両1を減速させる際に、アクセル操作が解除されたときは出力を絞って回生を行い、ブレーキ操作がされた時点で最大出力の回生を行う減速回生制御を実行する。
【0111】
本実施形態の減速回生制御の手順について、図20を参照して説明する。図20は、減速回生制御のフローチャートである。
【0112】
アシストECU64は、アクセルセンサ71からの検出情報に基づき、アクセルペダル81が所定量(第4所定量)以上踏み込まれているか否かを判定する(ステップS901)。アシストECU64は、アクセルペダル81が所定量以上踏み込まれていることを判定した場合(ステップS901:YES)、アクセルペダル81の踏み戻しが開始されたか否かを判定する(ステップS902)。アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み戻しが開始されたことを判定した場合(ステップS902:YES)、当該アクセルペダル81の踏み戻し速度が規定値以上であるか否かを判定する(ステップS903)。アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み戻し速度が規定値以上であることを判定した場合(ステップS903:YES)、モータ20の回生出力を低出力(低回生トルク)に設定してモータ20を回生駆動する(ステップS904)。
【0113】
続いて、アシストECU64は、ブレーキセンサ72からの検出情報に基づき、ブレーキペダル82が踏み込まれたか否かを判定する(ステップS905)。アシストECU64は、ブレーキペダル82が踏み込まれたことを判定した場合(ステップS905:YES)、モータ20の回生出力を最大出力となる高出力(高回生トルク)に設定してモータ20を回生駆動する(ステップS906)。つまり、アシストECU64は、ブレーキペダル82が踏み込まれると、モータ20の回生出力を低出力(低回生トルク)から高出力(高回生トルク)に切り替える。なお、ステップS901、ステップS902もしくはステップS903でNO判定の場合には、ステップS905に移行する。また、ステップS905でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0114】
次に、アシストECU64による減速回生制御の作用について説明する。図21は、減速回生制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0115】
図21に示すように、時点t91において、走行中の車両1を減速させるために、運転者がアクセルペダル81を踏み込んだ状態から踏み戻し始める。このとき、アクセルペダル81が急に踏み戻されることで(アクセルペダル81の踏み戻し速度が規定値以上となることで)、モータ20を低出力(低回生トルク)で回生駆動する。時点t92において、運転者がブレーキペダル82を踏み込むことで、モータ20の回生出力を最大出力となる高出力(高回生トルク)に切り替えてモータ20を回生駆動する。そして、時点t93において、車速が所定の速度Vsを下回ることで、モータ20の回生駆動を停止する。
【0116】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、運転者によるアクセルペダル81とブレーキペダル82の操作状態を監視して、運転者のアクセル操作及びブレーキ操作に応じて、モータ20の回生出力を段階的に増大させることで、モータ20の回生制動力(回生トルク)に起因する減速ショックを軽減させることができるとともに、回生エネルギーの回収を効率よく行うことが可能となる。
【0117】
<10.変速アシスト制御>
次に、本実施形態の変速アシスト制御について説明する。従来技術の問題点として、不慣れな運転者がトランスミッション40の変速段を低速段側に切り替えるシフトダウン操作を行う場合、エンジン出力軸の回転とトランスミッション入力軸の回転との間に大きな乖離が生じて、クラッチ装置30の接続時(再接続時)にシフトショックが発生するという問題があった。
【0118】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、運転者によるブレーキ操作とクラッチ操作とからシフトダウンの要求を判定し、クラッチ装置30が切断状態であるときにモータアシストによりエンジン回転を一時的に上昇させて、エンジン出力軸とトランスミッション入力軸との回転差を低減させる変速アシスト制御を実行する。
【0119】
本実施形態の変速アシスト制御の手順について、図22を参照して説明する。図22は、変速アシスト制御のフローチャートである。
【0120】
アシストECU64は、車速センサ74からの検出情報に基づき、車両1が走行中であるか否かを判定する(ステップS1001)。アシストECU64は、車両1が走行中であることを判定した場合(ステップS1001:YES)、アクセルセンサ71からの検出情報に基づき、アクセルペダル81の踏み込み量が0であるか否かを判定する(ステップS1002)。アシストECU64は、アクセルペダル81の踏み込み量が0であることを判定した場合(ステップS1002:YES)、ブレーキセンサ72からの検出情報に基づき、ブレーキペダル82が踏み込まれたか否かを判定する(ステップS1003)。アシストECU64は、ブレーキペダル82が踏み込まれていることを判定した場合(ステップS1003:YES)、クラッチセンサ73からの検出情報に基づき、当該ブレーキペダル82が踏み込まれた状態でクラッチペダル83が規定量以上踏み込まれたか否かを判定する(ステップS1004)。すなわち、アシストECU64は、運転者によりシフトダウン操作(変速操作)が行われているか否かを判定する。なお、規定量は、クラッチ装置30が切断状態となる範囲(例えば、クラッチペダル83が半クラッチ領域の境界位置から完全に踏み込まれる位置までの範囲)内に設定されている。つまり、アシストECU64は、運転者がクラッチペダル83を操作して、クラッチ装置30を切断したか否かを判定する。アシストECU64は、クラッチペダル83が規定量以上踏み込まれたことを判定した場合(ステップS1004:YES)、モータ20の力行駆動を開始する(ステップS1005)。つまり、本実施形態では、クラッチペダル83の踏み込み量が規定量を超過している間、モータ20を力行駆動する。これにより、クラッチ装置30の切断中にエンジン10の回転数が上昇して、エンジン10の出力軸とトランスミッション40の入力軸との回転差が抑制されることで、クラッチ装置30を接続(再接続)するときのショックを低減させることができる。アシストECU64は、クラッチペダル83の踏み込み量が規定量未満まで戻されたか否かを判定する(ステップS1006)。アシストECU64は、クラッチペダル83の踏み込み量が規定量未満となったことを判定した場合(ステップS1006:YES)、モータ20の力行駆動を停止する(ステップS1007)。なお、ステップS1001、ステップS1002、ステップS1003もしくはステップS1004でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0121】
次に、アシストECU64による変速アシスト制御の作用について説明する。図23は、変速アシスト制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0122】
図23に示すように、時点t101において、車両1の走行中に、運転者がアクセルペダル81を踏み込んだ状態からアクセルペダル81を踏み戻し始める。時点t102において、アクセルペダル81が完全に踏み戻される(アクセルペダル81の踏み込み量が0まで戻される)。時点t103において、運転者がブレーキペダル82を踏み込む。時点t104において、運転者がブレーキペダル82を踏み込んだ状態で、クラッチペダル83を踏み込み始める。時点t105において、クラッチペダル83の踏み込み量が規定量CL1以上となることで、モータ20の力行駆動を開始する。時点t106において、クラッチペダル83が完全に踏み込まれた状態(クラッチペダル83の踏み込み量が最大となった状態)で、運転者がシフトレバーを操作してトランスミッション40の変速段を「第4速」から「第3速」へシフトダウンする。時点t107において、クラッチペダル83の踏み込み量が規定量CL1まで踏み戻されると、モータ20の力行駆動を停止する。
【0123】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、運転者によるブレーキ操作とクラッチ操作とからシフトダウンの要求を判定し、クラッチ装置30が切断状態であるときにモータアシストによりエンジン回転数を一時的に上昇させて、エンジン出力軸とトランスミッション入力軸との回転差を低減させる(変速の前後でエンジン10の回転数の変化を低減させる)ことで、シフトショックの発生を抑制することができ、不慣れな運転者であっても違和感や不快感を覚えることなくシフトチェンジ(シフトダウン)をスムーズに行うことが可能となる。
【0124】
<11.ニュートラル判定制御>
次に、本実施形態のニュートラル判定制御について説明する。従来技術の問題点として、車両1の走行中においてトランスミッション40の変速段がニュートラル状態であるときにモータ10を力行または回生駆動させると、不要なエネルギーを消費することとなり、燃費が悪化するという問題があった。
【0125】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU64が、独自の判断で、検出部70から入力される情報に基づき、クラッチ装置30が接続状態(係合状態)であるときの車速とエンジン回転数との相対的な関係に応じて、トランスミッション40の変速段がニュートラル状態であることを判定し、当該ニュートラル状態におけるモータ20の力行駆動を制限するニュートラル判定制御を実行する。
【0126】
本実施形態のニュートラル判定制御の手順について、図24を参照して説明する。図24は、ニュートラル判定制御のフローチャートである。
【0127】
アシストECU64は、クラッチセンサ73の検出情報に基づき、クラッチ装置30が接続状態であるか否かを判定する(ステップS1101)。アシストECU64は、クラッチ装置30が接続状態であることを判定した場合(ステップS1101:YES)、車速センサ74からの検出情報に基づき、車速が減少傾向にあるか否かを判定する(ステップS1102)。アシストECU64は、例えば、車速の変化量が負の場合に減少傾向であり、車速の変化量が正の場合に増加傾向であると判定する。
【0128】
アシストECU64は、車速が減少傾向にあることを判定した場合(ステップS1102:YES)、回転センサ75からの検出情報に基づき、当該車速の減少中にエンジン10の回転数が上昇したか否かを判定する(ステップS1103)。アシストECU64は、エンジン10の回転数が上昇したことを判定した場合(ステップS1103:YES)、当該エンジン10の回転数の上昇量が所定値以上であるか否かを判定する(ステップS1104)。アシストECU64は、エンジン10の回転数の上昇量が所定値以上であることを判定した場合(ステップS1104:YES)、トランスミッション40の変速段がニュートラル状態であることを判定する(ステップS1107)。
【0129】
一方、アシストECU64は、車速が減少傾向ではないことを判定した場合(ステップS1102:NO)、車速が所定速度以上であるか否かを判定する(ステップS1105)。所定速度としては、例えば15km/mが設定される。アシストECU64は、車速が所定速度以上であることを判定した場合(ステップS1105:YES)、エンジン10の回転数がアイドル回転数以下であるか否かを判定する(ステップS1106)。アシストECU64は、エンジン10の回転数がアイドル回転数以下であることを判定した場合(ステップS1106:YES)、トランスミッション40の変速段がニュートラル状態であることを判定する(ステップS1107)。
【0130】
アシストECU64は、トランスミッション40の変速段がニュートラル状態であることを判定すると、モータ20の力行駆動(モータアシスト)を禁止する。続いて、アシストECU64は、クラッチペダル83が踏み込まれたか否かを判定する(ステップS1108)。アシストECU64は、クラッチペダル83が踏み込まれたことを判定した場合(ステップS1108:YES)、ニュートラル状態が解除されたことを判断する(ステップS1109)。アシストECU64は、ニュートラル状態が解除されたことを判断した場合、モータ20の力行駆動(モータアシスト)を許容する。なお、ステップS1101、ステップS1103、ステップS1104、ステップS1105もしくはステップS1106でNO判定の場合には、そのまま本処理を終了する。
【0131】
次に、アシストECU64によるニュートラル判定制御の作用について説明する。図25および図26は、ニュートラル判定制御の具体例を示すタイムチャートである。
【0132】
まず、図25に示すように、時点t111において、車両1の走行中に、運転者はクラッチペダル83を踏み込んでいない状態(クラッチ装置40の接続状態)である。このとき、車速が減少傾向であるにも関わらず、エンジン10の回転数が急上昇すると(エンジン10の回転数の上昇量が所定値ΔN以上となると)、アシストECU64はトランスミッション40の変速段がニュートラル状態であると判定する。このようにアシストECU64がニュートラル状態であることを判定している期間(時点t111~t112)、モータ20の力行駆動が禁止される。なお、車速が減少傾向であるときにエンジン10の回転数が急上昇する状況とは、ニュートラル状態でエアコンが駆動された場合や、ニュートラル状態でアクセルペダル81が踏み込まれた場合などが例示される。そして、時点t112において、運転者がシフト操作を行うため、クラッチペダル83が踏み込まれると、ニュートラル状態の判定が解除される。それにより、モータ20の力行駆動が許容される。
【0133】
また、図26に示すように、時点t113において、車両1の走行中に、運転者がクラッチペダル83を踏み込む。その後、運転者はシフトレバーを操作する。時点t114において、クラッチペダル83が完全に踏み戻された状態(クラッチ装置30の接続状態)となる。このとき、車速が所定速度Vb以上であるにも関わらず、エンジン10がアイドル状態に移行すると(エンジン10の回転数がアイドル回転数以下まで低下すると)、アシストECU64はトランスミッション40の変速段がニュートラル状態であると判定する。アシストECU64がニュートラル状態を判定している期間(t114~t115)、モータ20の力行または回生駆動が禁止される。そして、時点t115において、運転者がシフト操作を行うため、クラッチペダル83が踏み込まれると、ニュートラル状態の判定が解除される。それにより、モータ20の力行駆動が許容される。
【0134】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、クラッチ装置30が接続状態であるときの車速とエンジン回転数との相対的な関係に応じて、トランスミッション40の変速段がニュートラル状態に移行したことを判定することで、モータ20の不要な駆動による電力消費を抑制して、車両1の燃費を向上させることが可能となる。
【0135】
<12.エンジン再始動制御>
次に、本実施形態のエンジン再始動制御について説明する。図27及び図28は、エンジンの再始動時の動作例を示す図である。
【0136】
本実施形態のエンジン10は、図27に示すように、ピストン11と、コネクティングロッド12と、クランクシャフト13とを備えている。ピストン11は、不図示のシリンダ内に往復移動自在に配設されている。コネクティングロッド12は、ピストン11とクランクシャフト13とを接続しており、ピストン11の往復運動をクランクシャフト13に伝達する。クランクシャフト13は、不図示のクランクケースに回転自在に支持されている。このクランクシャフト13の一端には、モータ20の回転軸が直結されている。
【0137】
ここで、従来技術の問題点として、本実施形態のマイルドハイブリッドシステムでは、エンジン10のクランクシャフト13とモータ20とが直結されているが、エンジン10をアイドリングストップ状態(停止状態)から再始動する際、エンジン10の始動をモータ20により行うことで、スタータモータを使用する場合よりもエンジン10を静かに再始動することができるが、モータ10の起動トルクに余裕がない状況では、エンジン10の始動性が低下するという問題があった。特に、図27に示すように、ピストン11が圧縮行程途中で停止しているシリンダがある場合には、その位置から再始動を行うと、マイルドハイブリッドシステムで採用されるような低出力のモータ20の起動トルクではクランクシャフト13を回転させることができない場合がある。
【0138】
本実施形態では、かかる問題を是正するため、アシストECU63が、図28に示すように、エンジン10の再始動時に、モータ20を逆転駆動させてクランクシャフト13を所定角度(遊び分)だけ逆転方向に一旦回転させた後に、モータ20を逆転駆動から正転駆動に切り替えてクランクシャフト13を正転方向に回転させるエンジン再始動制御を実行する。
【0139】
このように本実施形態では、他のECU61~63との連携を要することなく、アシストECU64の独自の判断により、検出部70から入力される情報に基づき、エンジン10の再始動時に、モータ20の回転駆動方向を切り替えて、クランクシャフト13を所定角度だけ逆転方向に一旦回転させた後に正転方向に回転させることで、クランクシャフト13の助走距離を延ばして勢いを付けやすくすることができ、エンジン10の始動性を向上させることが可能となる。
【0140】
以上、本実施形態によれば、他のECU61~63との連携を要することなく(制御系統の改修を必要とせず)、アシストECU64独自の判断により、検出部70から入力される車両情報に基づき、車両の動作を判定してモータ20の制御を実行することができるため、既存の車両に対して大規模な設計変更や改修等を必要とすることなく、マイルドハイブリッドシステムを後付けで搭載することができ、その結果、既存の車両をハイブリッド車両に容易に転用することが可能となる。
【0141】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば適宜改良可能である。
【符号の説明】
【0142】
1 車両
10 エンジン
20 モータ(モータジェネレータ)
21 インバータ
22 バッテリ
30 クラッチ装置
40 トランスミッション
50 ブレーキ装置
60 車両制御装置
61 エンジンECU
62 トランスミッションECU
63 ブレーキECU
64 アシストECU
70 検出部
71 アクセルセンサ
72 ブレーキセンサ
73 クラッチセンサ
74 車速センサ
75 回転センサ
76 バッテリセンサ
81 アクセルペダル
82 ブレーキペダル
83 クラッチペダル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28