(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】車両用クッションパッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20240913BHJP
A47C 7/20 20060101ALI20240913BHJP
A47C 27/15 20060101ALI20240913BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20240913BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B60N2/90
A47C7/20
A47C27/15 A
B29C39/10
B29C44/00 A
(21)【出願番号】P 2019003393
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-10-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】松本 真人
【合議体】
【審判長】草野 顕子
【審判官】横溝 顕範
【審判官】澤崎 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-22292(JP,A)
【文献】特開2017-217411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N2/00-2/90
A47C7/00-7/74
A47C27/00-27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着座乗員が当接する側の当たり面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した車両用クッションパッドにおいて、
発泡性樹脂粒子の発泡成形体であって、天面に凹溝が設けられた芯パッドと、
該芯パッドとは別体にして、前記凹溝に入り込んで前記芯パッドに配置された軸状フレームと、
軟質ポリウレタン発泡成形体であって、意匠面となる前記当たり面部分を形成すると共に、該当たり面部分と反対側の内面が前記天面に当接し、且つ前記フレーム入り前記凹溝内を埋めるように凹溝充填部を形成して
前記芯パッドと一体発泡成形されている表層パッドと、を具備することを特徴とする車両用クッションパッド。
【請求項2】
前記凹溝の一又は複数箇所で、前記フレームを該凹溝の溝口側から押さえて、前記芯パッドに係止した
前記芯パッドとは別体の押さえ具をさらに具備し、前記表層パッドが該押さえ具、前記芯パッド、及び前記フレームと一体発泡成形されている請求項1記載の車両用クッションパッド。
【請求項3】
少なくとも着座乗員が当接する側の当たり面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した車両用クッションパッドの製造方法において、
発泡性樹脂粒子の発泡成形体からなる芯パッドの天面に設けた凹溝へ軸状フレームを差し入れ、該フレームを凹溝内に配置した該芯パッドを、その天面側を下向きにして上型キャビティ面にセットし、
次いで、下型キャビティ面上に軟質ポリウレタン発泡成形体用発泡原料を注入すると共に型閉じし、
その後、下型キャビティ面で前記当たり面部分を形成すると共に、前記当たり面部分と反対側の内面を前記芯パッドの天面に当接させ、且つ前記フレーム入り前記凹溝内を埋めるように凹溝充填部を形成した軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドを前記芯パッドと一体発泡成形したことを特徴とする車両用クッションパッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用座席シートを構成する車両用クッションパッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用座席シートで、座部を構成するクッションパッドは快適なクッション性が得られるよう軟質ポリウレタン発泡成形体で造られてきたが、近年、軽量化等の目的で、裏面側下部を発泡性樹脂粒子の発泡成形体(以下、「発泡樹脂成形体」ともいう。)に置き換える動きが進んでいる。ただ、クッションパッドには、通常、平面視で外周縁に沿って補強等のため軸状フレームが装着される。フレームの一部が突出して車体への取付け部にもなっている。
上記フレームは、インサート成形で発泡樹脂成形体に一体化させた後、クッションパッドを造る一製法がある。しかし、この製法だと、発泡樹脂成形体の成形収縮で、フレームに大きな応力がかかるため反りやひねり等が発生する。所定精度が得られず、その後のクッションパッドの成形が難しくなったり車体への取付けが困難になったりする。
こうしたことから精度向上を図る発明がいくつか提案されている(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-139820号公報
【文献】特開2018-23634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1,2は、フレームを型にセットした後、インサート成形によって発泡樹脂成形体を製造する方法にとどまっている。スリットや空隙形成工程を設けても、フレームの一部が発泡樹脂成形体(本発明の芯パッド)に埋設されて結合一体化している限り、発泡樹脂成形体が脱型後に収縮する性質から、フレーム付き発泡樹脂成形体のフレームは該収縮の影響を少なからず受ける。所定精度を安定して得るのが難しいと考えられる。フレームが製品寸法の許容誤差内に入っていても、両者が一体のフレーム付き発泡樹脂成形体になると、成形収縮によって、発泡樹脂成形体自身だけでなく、フレームも反りやひねり等を伴って変形し、寸法公差内におさまらない虞がある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、フレームが出来上がり製品中に精度良く安定して配設されるようにして、品質向上,歩留まり向上に貢献する車両用クッションパッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、少なくとも着座乗員が当接する側の当たり面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した車両用クッションパッドにおいて、発泡性樹脂粒子の発泡成形体であって、天面に凹溝が設けられた芯パッドと、該芯パッドとは別体にして、前記凹溝に入り込んで前記芯パッドに配置された軸状フレームと、軟質ポリウレタン発泡成形体であって、意匠面となる前記当たり面部分を形成すると共に、該当たり面部分と反対側の内面が前記天面に当接し、且つ前記フレーム入り前記凹溝内を埋めるように凹溝充填部を形成して発泡成形されている表層パッドと、を具備することを特徴とする車両用クッションパッドにある。請求項2に記載の発明たる車両用クッションパッドは、請求項1で、凹溝の一又は複数箇所で、前記フレームを該凹溝の溝口側から押さえて、前記芯パッドに係止した押さえ具をさらに具備し、前記表層パッドが該押さえ具、前記芯パッド、及び前記フレームと一体発泡成形されていることを特徴とする。請求項3に記載の発明たる車両用クッションパッドは、請求項1又は2で、凹溝の溝幅が前記フレームの軸径よりも大であることを特徴とする。請求項4に記載の発明たる車両用クッションパッドは、請求項2又は3で、押さえ具には、前記フレームとの当接面側にクッション性を有する弾性片が貼着されていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明の要旨は、少なくとも着座乗員が当接する側の当たり面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した車両用クッションパッドの製造方法において、発泡性樹脂粒子の発泡成形体からなる芯パッドの天面に設けた凹溝へ軸状フレームを差し入れ、該フレームを凹溝内に配置した該芯パッドを、その天面側を下向きにして上型キャビティ面にセットし、次いで、下型キャビティ面上に軟質ポリウレタン発泡成形体用発泡原料を注入すると共に型閉じし、その後、下型キャビティ面で前記当たり面部分を形成すると共に、前記当たり面部分と反対側の内面を前記芯パッドの天面に当接させ、且つ前記フレーム入り前記凹溝内を埋めるように凹溝充填部を形成した軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドを発泡成形したことを特徴とする車両用クッションパッドの製造方法にある。請求項6に記載の発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、請求項5で、
凹溝へ前記フレームを差し入れた後、該凹溝の一又は複数箇所で、該凹溝の溝口側から押さえ具で前記フレームを押さえて、前記芯パッドに該押さえ具を係止し、その後、該芯パッドと前記フレームと共に該押さえ具を埋設して前記表層パッドを一体発泡成形したことを特徴とする。請求項7に記載の発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、請求項6で、凹溝の溝幅を前記フレームの軸径よりも大にし、且つ前記押さえ具には、前記フレームとの当たり面側にクッション性を有する弾性片が貼着されて、該弾性片を弾性圧縮して該押さえ具で前記フレームを押さえて、前記芯パッドに該押さえ具を係止したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両用クッションパッドの製造方法は、発泡性樹脂粒子の発泡成形体で造られた芯パッドを組み込んだクッションパッドであっても、予め成形したフレームをその初期状態の寸法精度を維持して安定生産でき、品質向上,歩留まり向上に優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のクッションパッドの一形態で、クッションパッドの全体斜視図である。
【
図2】
図1の表層パッドを取除いたクッションパッドの内側下部の斜視図である。
【
図3】
図1のIII-III線断面図で、上方図が円内拡大図である。
【
図4】
図2のクッションパッド内側下部の分解斜視図である。
【
図5】芯パッドにフレームを嵌め入れた斜視図である。
【
図6】上型へのフレーム入り芯パッドのセット後、発泡原料を注入する断面図である。
【
図8】
図7に続いて、表層パッドを発泡成形した説明断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両用クッションパッド(以下、単に「クッションパッド」ともいう。)の製造方法について詳述する。
図1~
図9は本発明のクッションパッドの製造方法の一形態で、
図1はクッションパッドの斜視図、
図2は
図1の表層パッドを取除いたクッションパッドの内側下部の斜視図、
図3は
図1のIII-III線断面図、
図4はクッションパッド内側下部の分解斜視図、
図5は芯パッドにフレームを嵌め入れた斜視図、
図6はフレーム入り芯パッドを上型にセットし、発泡原料を注入する断面図、
図7は型閉じした断面図、
図8は表層パッドを発泡成形した断面図、
図9は
図2に代わる他態様図である。各図は図面を判り易くするため発明要部を強調図示し、また本発明と直接関係しない部分を簡略化又は省略する。
【0010】
(1)車両用クッションパッド
車両用クッションパッド1は、着座した乗員の下半身を受け支えるクッションパッドである。車両後部座席のクッションパッド1に適用する(
図1~
図5)。クッションパッド1に表皮を被せてシートクッションの形にすれば、公知のバックパッドに表皮を被せたシートバックとで、車幅方向に補助席部3Cが在る後部座席を形成する。
図3は車両設置の姿態にしたクッションパッド1で、紙面左方が車両前方、紙面上方が車両上方になる。
クッションパッド1は、芯パッド2とフレーム4と押さえ具5と表層パッド3とを具備する。
【0011】
芯パッド2は、クッションパッド1の下半内部を占める大きさにして、ブロック状に成形された発泡性樹脂粒子の発泡成形体である(
図3)。具体的には、表層パッド3の見掛け密度よりも見掛け密度が小のビーズ発泡成形体で構成し、クッションパッドの内側に配される。芯パッド2と表層パッド3との密度比較は、発泡前の素材密度でなく、発泡後の見掛け密度で比較する。発泡性樹脂粒子は、例えばポリスチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂をカプセル壁とする中空粒子に揮発性膨張剤が内包されていて、加熱によって膨張する樹脂粒子である。本発明でいう「発泡性樹脂粒子の発泡成形体」とは、多数の発泡性樹脂粒子を型内に注入して発泡成形されたものである。例えば、いわゆるビーズ発泡法によって得られた発泡成形体で、原料ビーズを予備発泡成形させた後、型内発泡成形によって成形されているブロック状発泡成形体をいう。ビーズ発泡法は単にビーズ法ともいう。ビーズ発泡成形体は、発泡スチロール、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン、又はこれらのうち一つを少なくとも含む成形体であるのが好ましい。気泡が内部に密閉されたビーズ発泡成形体となっており、体積の大部分が気体で軽量にして、保形性がある。
【0012】
車両設置時に上面側になる芯パッド2の天面2aには、その外周縁21に沿って
図4のような環状の凹溝22が形成される。天面2aを凹ませてなる横断面コ字状の凹溝22が走る。車両後方側の溝ラインに比べ、車両前方側の溝ラインの方が車幅方向に長く、天面2aの平面視外周形状よりも一回り小さな環状凹溝22になっている。本実施形態の凹溝22は、図示のごとく平面視で連続する環状の溝であるが、クッションパッド1の製造過程中、凹溝22に入り込んで配置されるフレーム4が所望の形状に維持できるのであれば、該凹溝は断続的であってもよい(詳細後述)。
凹溝22の溝幅W22は、フレーム4が余裕をもって該凹溝に入り込めるよう、フレーム4の軸径t4より大きく設定する(
図3)。凹溝22の溝の深さもフレーム4の軸径t4より大に設定している。尚、環状凹溝22にフレーム4が収められるが、該フレーム主部41は凹溝22内に収めても、フレーム突出部42が水平横方向に突き出すように切込み23を設ける。ここでは、凹溝22の溝幅W22及び溝の深さに略等しくした横断面コ字状の切込み23が、車両後方側の凹溝22の四カ所の部位から芯パッド側壁面27へ貫通する。
本実施形態は横断面略コ字状の凹溝22とするが、アリ溝状や横断面が逆台形状等の凹溝22とすることができる。符号24は芯パッド2の天面2aから下面2bに貫通する透孔、符号25は芯パッド下面2b側で、透孔24の孔径を大きくした窪み、符号272は芯パッド2の側壁面27に設けた段差面、符号275は天面2a側に向けて外方傾斜する傾斜面を示す。尚、本芯パッド2は一の発泡成形体からなるが、分割構成されたものでもよい。
【0013】
フレーム4は芯パッド2と別体にして、前記凹溝22に入り込んで前記芯パッド2の外周縁21に沿って環状又は湾曲状に配置された軸状体である。
本実施形態のフレーム4は、天面2aの外周縁21に沿って形成された環状の凹溝22に遊嵌される環状(リング状)の金属製ワイヤからなる。凹溝22内へ該フレーム4を差し入れることによって凹溝22内に収まるフレーム主部41と、切込み23から芯パッド2の外方へ突き出すU字形突出部42と、を備える。凹溝22内へ入り込んでそこに置かれたフレーム4は、凹溝22に遊嵌された状態にあり、環状に予め成形された該フレーム4は、その形状を保持して位置調整できる融通性を有する。したがって、寸法公差内に入ったワイヤは、その寸法品質を保った状態で凹溝22内に配置しセットできる構成になっている。
尚、凹溝22内でのフレーム4の配置調整ができるよう、溝幅W22は凹溝全域に亘ってフレーム4の軸径t4より大に設定されるのが好ましい。しかし、フレーム4の形状を保ったまま凹溝22内で位置調整できる融通性が確保できれば、天面外周縁21に沿って設けられる全ての凹溝22の領域で、溝幅W22がフレーム4の軸径t4より大であることを要しない。また、フレーム4は軸状のワイヤのみで環状形成したが、例えば一部に金属板片を組込むことができ、両者を組合わせ、或いは湾状ワイヤを継ぎ足し等をして環状フレーム4にすることもできる。
【0014】
押さえ具5は、前記凹溝22の一又は複数箇所で、該凹溝22の溝口側から凹溝22内に載置された前記フレーム4を押さえ止める手段である。押さえ具5は、凹溝22内に載置セットしたフレーム4を、その状態で維持するのが必要な場合に用いる部材で、例えば載置セットされた凹溝22内のフレーム4に中央部分を貼着して押さえ、且つその両端部分を凹溝22脇の芯パッド2の部位に貼着,係止する粘着テープ等であってもよい。
本実施形態は、
図5のごとく、天板部52の中央から延在する四角状柱部51の先端部分の両側に爪部511が突出した樹脂成形体で、該柱部51の先端面に厚板状の弾性片55を貼着した押さえ具5とする。押さえ具5にはフレーム4との当接面側にクッション性を有する弾性片55が貼着される。凹溝22の溝深さがフレーム4の軸径t4より大にして、フレーム4が凹溝22内へ入り込んで設置されることから、凹溝22内に柱部51の一部が入り込み、該凹溝22の溝口側から弾性片55でフレーム4を押さえて止め、且つ押さえ具5自身を芯パッド2に係止できる。凹溝22内に遊嵌,載置されたフレーム4に対し、押さえ具5を用いて、該フレーム4の横ずれ等の動きを止めたい箇所(ここでは四カ所)を押さえ付ける。フレーム4に当接した弾性片55の略中央が凹んで溝底面221に該フレーム4を押さえ付け、且つ
図3のようにビーズ発泡成形体からなる溝側壁222に爪部511が食い込んでフレーム4の動きを簡便に止める。と同時に、該爪部511によって、押さえ具5も芯パッド2に係止される。凹溝22を跨ぐ天板部52に小孔520を設け、該小孔520に通したビスVSを芯パッド天面2aの部分に止め、芯パッド2への押さえ具5の係止をより強固にしてもよい。
尚、押さえ具5のフレーム4当接面に、フレーム4の形状に合わせた凹形状を設ければ、弾性片55が無くてもフレーム4の横ずれを防止することができる。また、押さえ具5を芯パッド2と同じ素材の発泡性樹脂粒子の発泡成形体で形成してもよい。この場合、押さえ具5の芯パッド2への係止は、ビスVSの使用が好ましい。
【0015】
表層パッド3は、少なくとも着座乗員が当接する側の当たり面部分311を形成すると共に、該当たり面部分311と反対側の内面3bが芯パッド2の天面2aに当接し、且つフレーム4入り凹溝22内を埋めるように充填された凹溝充填部33を形成して、発泡成形されている軟質ポリウレタン発泡成形体である。着座乗員はクッションパッド1に被せる図示しない表皮を介して当たり面部分311に当接する。
表層パッド3の発泡成形では、その内面3bを芯パッド2に接触させても、表層パッド3のポリウレタン発泡成形体と芯パッド2のビーズ発泡成形体とは接着性に乏しいため両者の結合力が弱く、不安定になる。しかるに、本発明は、表皮パッド3の発泡成形過程で、フレーム4入り凹溝22内へ表層パッド3の発泡原料gが入り込んで、フレーム4と一緒に該凹溝22を埋める凹溝充填部33が形成される。したがって、表層パッド3が芯パッド2及びフレーム4と一体発泡成形されるクッションパッド1になっている。凹溝22が既述のアリ溝状であれば、一体化がより強固になる。
【0016】
図3で、表層パッド3は上層31が芯パッド天面2aを覆い、側周層32が芯パッド2の側壁面27を覆う。表層パッド3に係る上層31の上面は着座乗員が当接する当たり面部分311側の意匠面3aとなり、側周層32の外面が表層パッド3の側面側意匠面3dになる。表層パッド3は、クッションパッド裏面1bにもなる芯パッド下面2bを除いて、芯パッド2に覆い被さって一体化している。
表層パッド3の内面3bと芯パッド2の凹溝22が存在する芯パッド2の天面2aとが接し、且つ凹溝22に載置セットされたフレーム4に表層パッド3の内面3b側が接触し、該フレーム主部41を包み込む。表層パッド3が発泡成形されると、フレーム主部41がクッションパッド1内部に埋設され、フレーム4が脱落や外れることなく、クッションパッド1の補強部材として威力を発揮する。
ここでは、さらに表層パッド3の成形で前記透孔24,窪み25を埋める透孔充填部34,窪み充填部35を備えて、芯パッド2及びフレーム4と強固に一体発泡成形された表層パッド3になっている。また、表層パッド3の側周層32で、傾斜面275の外側を埋める下方部分37や、段差面272から天面2a側へ延在する後退側壁面271の外側を埋める下方部分37が芯パッド2の離脱阻止部となり、芯パッド2,フレーム4との一体強化が一層図られた表層パッド3になっている。
【0017】
本実施形態のクッションパッド1は、既述のごとく、フレーム4を凹溝22の溝口側から押さえて、芯パッド2に係止した押さえ具5をさらに具備する。フレーム4との当接面側に弾性片55が貼着された押さえ具5であり、凹溝22内に収められたフレーム4の動きを止めるべく、押さえ具5は凹溝22の一又は複数箇所に取着される。フレーム4の横断面視で、その上部に押さえ具5のスポンジ状弾性片55の略中央が当たり、弾性変形で凹ませて該フレーム4を押さえて、押さえ具5が芯パッド2に取付けられる(
図3)。
かくして、表層パッド3は、当たり面部分311と反対側の内面3bが天面2aに当接し、且つ天面2a側に在るフレーム4入り凹溝22内を埋める凹溝充填部33を形成して、芯パッド2、フレーム4、及び押さえ具5と一体発泡成形されており、所望のクッションパッド1に仕上げている。
符号3Aは乗員座席のメイン部、符号3Bはサイド部、符号3Dは斜面、符号3Eはバックレストとの合わせ部、符号391は吊溝39の縦溝で、符号392は横溝を示す。
【0018】
図9は
図2に代わる他態様図で、車両前方側で且つ車幅方向中央部にて、芯パッド天面2aに一段低い低位域部29を形成した芯パッド2を示す。低位域部29が形成されることによって凹溝22が断続的になり、該低位域部29を通るフレーム主部41は凹溝22内に収容されずに露出する。しかし、他のフレーム主部41が凹溝22に収まることで、芯パッド2に寸法公差内にあるフレーム4を所定精度に保って配置セットできる。また、低位域部29の略中央にすり鉢状凹み241,透孔24を形成し、次に説明するクッションパッドの製造方法で、表層パッド3の発泡成形中に発生する余剰のガス抜きを効率良くなし得るようにしている。
【0019】
(2)車両用クッションパッドの製造方法
前記クッションパッド1は例えば次のような製法によって造られる。発泡成形型7を用い、少なくとも乗員が当接する側の当たり面部分311を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した表層パッド3を発泡成形し、その発泡成形で芯パッド2との間に配したフレーム4(詳しくはフレーム主部41)を埋設一体化する車両用クッションパッドの製造方法である。
【0020】
芯パッド2とフレーム4と押さえ具5は、(1)クッションパッドで述べたものと同様で、説明を省く。
発泡成形型7は
図6ごとくの分割型で、下型8と上型9が開閉可能に接続されている。
図7のごとく型閉じすると、全体が椀状に凹んで当たり面部分311の意匠面3aを形成する下型キャビティ面81と、全体が略平坦な芯パッド2の下面2bに合わせた上型キャビティ面91とで、クッションパッド用キャビティCをつくる。上型キャビティ面91の略中央には陥没穴95が形成され、上型キャビティ面91への芯パッド2のセットで、陥没穴95の穴口に窪み25の窪み口が対向する。陥没穴95の穴底には棒状にして先細りの突状部96が起立し、芯パッド2の上型キャビティ面91へのセットで、窪み25との間に僅かの隙が確保される。凹溝22内にフレーム4を配置した芯パッド2を上型キャビティ面91にセットし、発泡原料gの注入後、型閉じし、表層パッド3を発泡成形すると、
図3のクッションパッド1を造ることのできる発泡成形型7になっている。尚、
図6~
図8の発泡成形型7は
図3のクッションパッド1を上下が逆になった形で成形する。
【0021】
前記芯パッド2とフレーム4と押さえ具5と発泡成形型7とを用いて、クッションパッド1が例えば次のように製造される。
まず、発泡性樹脂粒子の発泡成形体からなる芯パッド2に係る天面2aの外周縁21に沿って設けた凹溝22へ軸状フレーム4を差し入れ、該フレーム4を凹溝22内で位置調整して配置する。そして、凹溝22内にフレーム4を配置した芯パッド2を上型キャビティ面91に係止,セットする(
図6)。
ここで、上型9にセットされた芯パッド2からフレーム4が脱落する虞がある場合は、上型9への芯パッド2のセットに先立ち、凹溝22へフレーム4を差し入れた後、凹溝22の溝口側から押さえ具5でフレーム4を押さえて芯パッド2に係止する。凹溝22の一又は複数箇所で、押さえ具5がフレーム4を押さえる。本実施形態は凹溝22の全ての溝幅W22をフレーム4の軸径t4よりも大にしており、環状凹溝22の四カ所で、
図2ごとくの押さえ具5でフレーム4を押さえるようにしている。押さえ具5には、フレーム4との当たり面側に既述のごとく弾性片55が貼着されていて、弾性片55を弾性圧縮してフレーム4を押さえ止め、また該押さえ具5は爪部511で芯パッド2に係止する。
【0022】
こうして、押さえ具5,フレーム4付き芯パッド2を、天面2a側を下向きにして上型キャビティ面91にセットした後、下型キャビティ面81上に、注入ノズルNL等を使用して軟質ポリウレタン発泡成形体用発泡原料gを注入する。
続いて、上型9を作動させ型閉じする(
図7)。上型9と下型8との型閉じで、押さえ具5,フレーム4付き芯パッド2がインサートセットされたクッションパッド1用キャビティCができる。尚、本実施形態は発泡原料gの注入後に型閉じしたが、型閉じ後に発泡原料gを注入することもできる。
【0023】
型閉じ後、表層パッド3の発泡成形に移る。意匠面3a側に当たり面部分311を有する、軟質ポリウレタン発泡成形体からなる表層パッド3を発泡成形する。
図7の型閉じ状態を所定時間維持し、軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッド3を発泡成形する(
図8)。下型キャビティ面81で当たり面部分311を形成すると共に、当たり面部分311と反対側の内面3bを芯パッド2の天面2aに当接させ、且つフレーム4入り凹溝22内を埋めるように凹溝充填部33を形成した表層パッド3を発泡成形する。
本実施形態は、押さえ具5,フレーム4付き芯パッド2を上型キャビティ面91にセットしており、芯パッド2とフレーム4と共に押さえ具5を埋設して表層パッド3を一体発泡成形する。
【0024】
表層パッド3の発泡成形に伴い、発泡原料gが型閉じ下のキャビティC内を上昇し、キャビティCに存在していた空気や余剰の発泡ガスは透孔24を通り抜け、型外に放出される。上下を逆にしたクッションパッド1を成形するキャビティCでは、芯パッド天面2aに設けたすり鉢状凹み241,透孔24へ余剰の発泡ガスが集まり型外へ円滑排出される。
一方、液状発泡原料gは、発泡上昇し表層パッド3を形成するキャビティCを埋め、さらに一部が凹溝22内へ浸入し、フレーム4,押さえ具5を埋設し、且つ該凹溝22内を埋めて凹溝充填部33を形成する。また窪み25,透孔24を埋めて窪み充填部35,透孔充填部34を形成し、芯パッド2を上層31及び側周層32で覆う表層パッド3が発泡成形される。
【0025】
表層パッド3の発泡成形を完了させ脱型すれば、フレーム4が所望の寸法精度を保って、且つ芯パッド2の組み込みによる軽量化を実現したクッションパッド1を得る(
図3)。さらに芯パッド2と表層パッド3とが凹溝充填部33、また透孔充填部34,窪み充填部35や側周層32の下方部分37等によって、芯パッド2と表層パッド3との結合力を高めた所望のクッションパッドが出来上がる。
符号89,99は下型側,上型側の型合せ面を示す。
【0026】
(3)効果
このように構成した車両用クッションパッド及びその製造方法は、凹溝22を設けて発泡成形を終えている芯パッド2に、別体のフレーム4が該凹溝22に入り込んで芯パッド2に配置されるので、発泡性樹脂粒子の発泡成形時に収縮が起こる芯パッド2であっても、フレーム4は該成形収縮の影響を受けない。芯パッド2の外周縁21に沿うように予め成形されたフレーム4はその寸法精度を保って凹溝22に載置セットできる。そして、フレーム4入り凹溝22内を埋めるように凹溝充填部33を形成して表層パッド3が発泡成形されるため、フレーム4が前記寸法精度を維持したまま所望のクッションパッド1を安定生産できる。
【0027】
特許文献1,2によれば、一定範囲で改善されるものの、依然としてフレーム4を埋設したフレーム4付き芯パッド2を成形するので、成形収縮による反りやひねり等の変形によって、フレーム4付き芯パッド2を
図6の上型9にセットするのが困難になる虞がある。また、上型9にセットができたとしても、上型9と芯パッド下面2bとの間に隙間ができ、続く表層パッド3の発泡成形で、発泡原料gが該隙間に入り込む問題がある。芯パッド下面2b側にはクッションパッド1を被う表皮の端縁に設けたクリップを止める溝穴が在り、該隙間があると、表層パッド3の成形でこれを埋めてしまう不具合を招く。さらに、フレーム4にひねり等が発生していることで、クッションパッド1を完成させた後の車両との組付けに支障をきたす虞がある。
これに対し、本発明は、フレーム4が環状に成形された形状のまま、外力が加わることなく芯パッド2の凹溝22内に配置セットされ、且つフレーム4入り凹溝22内を埋めるように表層パッド3が発泡成形されるクッションパッド1であるので、フレーム4は初期形状をそのまま保つことができる。許容誤差内に精度良くフレーム4を造っておけば、芯パッド2成形時の成形収縮の影響を受けない。したがって、表層パッド3の発泡成形で、上型9へのセットが難しくなったり、クリップを止める溝穴を埋めてしまったりする不具合を引き起こさない。また、クッションパッド1が出来上がった後、車両へのフレーム突出部42の取付けも何ら支障なく円滑に進めることができる。クッションパッド1中にフレーム4が精度良く配設され、品質質向上,歩留まり向上に貢献する。
【0028】
しかも、本発明は芯パッド2の天面2a側に凹溝22を設け、当たり面部分311と反対側の表層パッド内面3bが該天面2aに当接し、且つフレーム4入り凹溝22内を埋める凹溝充填部33を形成するので、フレーム4は表層パッド3と芯パッド2とに挟まれる。芯パッド2の一部に一体化させたり、芯パッド2の下面2b沿い又は下面2b近くに組付けたりしたフレーム4は、外力が加わった時に、芯パッド2から脱落する虞があるが、本クッションパッド1はフレーム主部41がクッションパッド1の内部に埋設されるので、車両への取付け固定も確実なものになる。
【0029】
そして、凹溝22の溝幅W22がフレーム4の軸径t4よりも大であると、芯パッド2が成形収縮で凹溝22が多少変形していても、フレーム4はその形状を保ったまま凹溝22内で位置修正させて配置セットできる。芯パッド2を受け入れ、その凹溝22内にフレーム4を配置セットできる許容範囲が広がり、歩留り向上に貢献する。
【0030】
また、凹溝22の一又は複数箇所で、フレーム4を凹溝22の溝口側から押さえて、芯パッド2に係止した押さえ具5を備えると、凹溝22内に配置セットしたフレーム4の状態を表層パッド3の成形時まで保持できる。
図6のようにフレーム4付き芯パッド2を上型9へセットして、クッションパッド1を上下逆になった形で成形する場合でも、フレーム4が脱落しなくなる。
【0031】
加えて、フレーム4との当接面側の押さえ具5に、クッション性を有する弾性片55が貼着されていると、溝幅W22がフレーム4の軸径t4よりも大になっていても、特に問題にならず、配置されたフレーム4の溝幅W22方向の横ずれを抑えることができる。押さえ具5の弾性片55が、
図3でいえば、弾性圧縮で凹んでフレーム4の上部周囲に密着し、且つその弾性復元力でフレーム4の溝幅W22方向の動きを止めるので、凹溝22内に配置セットされたフレーム4はその状態のまま、表層パッド3の発泡成形へ進行させることができる。品質良好なクッションパッド1が安定生産される。
【0032】
さらに、本クッションパッド1は、芯パッド2を構成する発泡性樹脂粒子の発泡成形体と、表層パッド3の軟質ポリウレタン発泡成形体との接合力が弱いという問題を抱えるが、本表層パッド3が、内面3b側を芯パッド天面2aに当接させ、フレーム4入り凹溝22内を埋めるように凹溝充填部33を形成して発泡成形されるので、該凹溝充填部33の形成によって両者の一体化が図れる。
さらにいえば、前記透孔24,窪み25を設け、表層パッド3の成形で透孔充填部34,窪み充填部35を形成して、芯パッド2と表層パッド3の一体強化をより高めることができる。また、芯パッド2の側壁面27に段差面272や傾斜面275を設けると、表層パッド3からの芯パッド2の脱落を防ぐ側周層32の下方部分37を、表層パッド3の成形で簡便につくることができるので、両者の結合力を一段と高めたクッションパッドを得ることができる。
かくのごとく、本車両用クッションパッド及びその製造方法は、上述した種々の優れた効果を発揮し極めて有益である。
【0033】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。例えば、本実施形態の凹溝22は芯パッド2の天面2aの外周縁に沿って設けられ、フレーム4もそれに合わせて芯パッド2の外周縁に沿った環状に形成されているが、クッションパッド1の補強等に問題なければ芯パッド2の外周縁に沿った形状にしなくてもよいし、フレーム4が環状でなくてもよい。また、凹溝22の一又は複数箇所において、その断面形状の溝幅W22をフレーム4の軸径t4に合わせ、溝口側の溝幅寸法をフレームt4より小さくすることで該フレーム4が抜けないようなアンダー形状とすれば、押さえ具5を使用しなくてもよい。クッションパッド1,芯パッド2,表層パッド3,フレーム4,押さえ具5,発泡成形型7等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。
【符号の説明】
【0034】
1 クッションパッド
2 芯パッド
2a 天面
22 凹溝
3 表層パッド
3b 内面
311 当たり面部分
33 凹溝充填部
4 フレーム
5 押さえ具
55 弾性片
81 下型キャビティ面
91 上型キャビティ面
g 発泡原料