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  • 特許-ノロウイルスの検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】ノロウイルスの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20240913BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20240913BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20240913BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALN20240913BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/48 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6888 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018224895
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020080807
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-03-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【弁理士】
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
(72)【発明者】
【氏名】二宮 健二
(72)【発明者】
【氏名】高岡 直子
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】名和 大輔
【審判官】荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-131164(JP,A)
【文献】特開2017-209036(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198682(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を、検体処理液と1ステップRT-PCR反応液との混合液であって、ジメチルスルホキシド(DMSO)をさらに含む前記混合液と混合し、前記DMSOが、前記検体処理液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合液に、1~5%(v/v)の濃度で含まれ、RT-PCR反応により、検体中のノロウイルスを検出する方法。
【請求項2】
前記ノロウイルス遺伝子型が、ジェノグループI(GI)またはジェノグループII(GII)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検体が、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記検体が、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物および嘔吐物由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記検体が、請求項4に記載の試料を、水、生理食塩水または緩衝液に懸濁した懸濁液である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記検体が、請求項5に記載の懸濁液を遠心分離することにより得られた遠心上清である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記1ステップRT-PCR反応液が、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む反応液である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記検体処理液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合比が、体積比として3:4~6である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記検体と、DMSOをさらに含む前記混合液との混合比が、体積比として1:20~30である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記逆転写酵素が、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼおよびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記RT-PCR反応が、リアルタイム測定によりモニターされる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記リアルタイム測定が、蛍光フィルターを用いてRT-PCR産物の増幅曲線を測定することにより、検体におけるノロウイルスの存在が陽性であること、または陰性であることを判定する結果を与える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
検体処理液ならびに逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を含み、前記検体処理液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合液に、1~5%(v/v)のDMSOを含むように構成された、ノウイルスの検出キット。
【請求項15】
ノロウイルス遺伝子型が、ジェノグループI(GI)であること、またはジェノグループII(GII)であることを判定する、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
さらにキットの操作手順書を含む、請求項14または15に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription-polymerase chain reaction、RT-PCR)によるノロウイルスを検出する方法、および該方法を実行するためのキットに関する。より具体的には、検体を、検体処理液とRT-PCR反応液との混合液であって、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)をさらに含む前記混合液と混合することにより、ノロウイルスを検出する方法、および該方法を実行するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスはヒトカリシウイルス科に属するRNAウイルスであり、約7000塩基の1本鎖RNAをゲノムにもつ。このウイルスは、電子顕微鏡で観察される形態学的分類により小型球形ウイルス(Small Round Structured Virus, SRSV)とも呼ばれ、またノーウォーク様ウイルス(Norwalk-like virus)という属名で呼ばれてきたウイルスである。ノロウイルスに属するウイルスは、ジェノグループ(Genogroup)(GI)およびジェノグループII(GII)の2種の遺伝子群に分類され、さらにそれぞれ14および17またはそれ以上の遺伝子型(genotype)に分類される。
【0003】
ノロウイルスがヒトに感染すると、嘔吐、下痢などの急性胃腸炎症状を起こす。本邦における年間の食中毒患者の約半数はノロウイルスに起因し、このうち約7割は11月~2月に発生しており、ノロウイルスは冬型の胃腸炎および食中毒の原因ウイルスとして知られている。ノロウイルスによる食中毒は、主に、調理者を通じた食品の汚染により発生する。ノロウイルスは感染力が強く、大規模な食中毒など集団発生を起こしやすい。ヒトへの感染経路は、主に経口感染である。感染者の糞便または吐物およびこれらに直接的または間接的に汚染された物品類、また、ノロウイルスにより汚染されたカキまたはその他の二枚貝類などの食品類が感染源の代表的なものとして挙げられる。このため、ノロウイルス感染患者や該ウイルスによる汚染物を特定することは、ウイルス感染の拡大を防止するために重要である。
【0004】
ウイルスによる感染や汚染を検出するためのウイルス検査としては、ウイルス抗原を検出する免疫学的測定法やウイルス遺伝子増幅法が用いられる(特許文献1~3、非特許文献1)。ノロウイルスを高感度に測定する手段としては、ノロウイルスのRNAをRT-PCRで増幅し、増幅産物量を測定する方法があげられる。例えば、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課による通知(非特許文献2および3)に準拠して、RT-PCR法によるノロウイルスの検出およびリアルタイムPCR法によるノロウイルスの定量的検出が広く行われている。
【0005】
RNAウイルス粒子は、RNAゲノムとタンパク質からなるコアが、カプシドと呼ばれるタンパク質の殻に封入された基本構造を持つ。このため、遺伝子増幅法によりウイルスRNAを検出するためには、ウイルス粒子よりRNAを抽出する必要がある。検体として糞便中のノロウイルスを検出するには、例えば、糞便検体を蒸留水または生理食塩水に5~10%(w/v)の濃度で懸濁し、その遠心上清から、市販のウイルスRNA抽出キット(例えば、QIAamp(登録商標) Viral RNA Mini、QIAGEN社)を用いてRNAを抽出・精製する(非特許文献2)。しかしながら、多段階のRNAの抽出・精製操作の後にRT-PCRを行う検出過程は煩雑である。このため、糞便懸濁液を検体処理液と混合し、短時間熱処理することにより殻タンパク質を除去し、内部のRNAを遊離させて、遊離させたRNAを直接RT-PCRに供する簡易な検出法が提案されている(非特許文献4)。一方、糞便懸濁液と検体処理液との混合物を熱処理するためには、該混合物の突沸や蒸散を防ぐために反応容器を蓋により密閉し、熱処理後に蓋を外してRT-PCR反応液を添加する手間を要する。この点を改善するため、検体をグアニジン塩などのカオトロピック剤と混合することにより、熱処理を行うことなくRT-PCRによりウイルスを検出する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2002/029119
【文献】WO2002/029120
【文献】特開2004-301684
【文献】特開2017-209036
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kageyama T, et al. Broadly reactive and highly sensitive assay for Norwalk-like viruses based on real-time quantitative reverse transcription-PCR. J Clin Microbiol. 2003 Apr;41(4):1548-57.
【文献】厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 食安監発第1105001号(平成15年11月5日)別添「ノロウイルスの検出法について」、最終改正:食安監発0514004号(平成19年5月14日)
【文献】厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 食安監発第1105001号(平成15年11月5日)別添「ノロウイルスの検出法について」、最終改正:食安監発1022第1号(平成25年10月22日)
【文献】Nishimura N, et al. Detection of noroviruses in fecal specimens by direct RT-PCR without RNA purification. J Virol Methods. 2010 Feb;163(2):282-286.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、簡便なノロウイルスの検出方法を提供することにある。具体的には、検体を、検体処理液とRT-PCR反応液との混合液であって、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)をさらに含む前記混合液と混合することにより、簡便にノロウイルスを検出する方法、および該方法を実行するためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、以下の発明により達成される。
〔1〕
検体を、検体処理液と1ステップRT-PCR反応液との混合液であって、ジメチルスルホキシド(DMSO)をさらに含む前記混合液と混合し、RT-PCR反応により検体中のノロウイルスを検出する方法。
〔2〕
前記ノロウイルス遺伝子型が、ジェノグループI(GI)またはジェノグループII(GII)である、〔1〕に記載の方法。
〔3〕
前記検体が、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕
前記検体が、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物および嘔吐物由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔5〕
前記検体が、〔4〕に記載の試料を、水、生理食塩水または緩衝液に懸濁した懸濁液である、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔6〕
前記検体が、〔5〕に記載の懸濁液を遠心分離することにより得られた遠心上清である、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔7〕
前記検体処理液が、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ)に含まれるSample Treatment Reagentであり、前記1ステップRT-PCR反応液が、前記キットに含まれるNoV Reagent A、BおよびCの混合物であって、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む反応液である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕
前記検体処理液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合比が、体積比として3:4~6である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕
前記DMSOが、前記検体処理液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合液に、1~5%(v/v)の濃度で含まれる、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕
前記検体と、DMSOをさらに含む前記混合液との混合比が、体積比として1:20~30である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕
前記逆転写酵素が、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選ばれる、〔7〕に記載の方法。
〔12〕
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼおよびこれらの変異体からなる群より選ばれる、〔7〕に記載の方法。
〔13〕
前記RT-PCR反応が、リアルタイム測定によりモニターされる、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の方法。
〔14〕
前記リアルタイム測定が、蛍光フィルターを用いてRT-PCR産物の増幅曲線を測定することにより、検体におけるノロウイルスの存在が陽性であること、または陰性であることを判定する結果を与える、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載の方法。
〔15〕
検体処理液ならびに逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を含み、前記検体処理液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合液に1~5%(v/v)のDMSOを含むように構成された、ノルウイルスの検出キット。
〔16〕
ノロウイルス遺伝子型が、ジェノグループI(GI)であること、またはジェノグループII(GII)であることを判定する、〔15〕に記載のキット。
〔17〕
さらにキットの操作手順書を含む、〔15〕または〔16〕に記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノロウイルスを含む糞便などの検体を、検体処理液と1ステップRT-PCR反応液との混合液であって、ジメチルスルホキシド(DMSO)をさらに含む混合液に直接添加することにより、ノロウイルスからのRNA遊離、RT-PCR反応およびRT-PCR産物の検出を同一容器内で連続的に行うことができるので、簡便にウイルス検出を行うことができる。さらに本発明の方法では、ノロウイルス粒子からRNAを遊離させるために、従来必要であった熱処理が不要であり、より簡便性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ノロウイルスを含む糞便の懸濁液の遠心上清を検体とし、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所)を用いて、反応系に添加するDMSO濃度を変えて行ったリアルタイムPCRにおける増幅曲線を示す図である。
図2】ノロウイルスを含む4種類の糞便について、糞便の懸濁液の遠心上清を検体とし、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所)を用いて、反応系に2%DMSOを添加または無添加で行ったリアルタイムPCRにおける増幅曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、検体中のノロウイルスを検出する方法を提供する。該方法は、検体を、検体処理液と1ステップRT-PCR反応液との混合液であって、ジメチルスルホキシド(DMSO)をさらに含む前記混合液と混合し、RT-PCR反応により検体中のノロウイルスを検出する方法である。
【0013】
本発明において、検体中の検出対象となるノロウイルスは、ゲノムとしてRNAを持つRNAウイルスであり、脂質二重層からなる膜であるエンベロープを持たないウイルスである。エンベロープは主成分が脂質であるため、アルコールなどの有機溶媒や界面活性剤により容易に破壊されるが、このようなエンベロープを持たないノロウイルスなどのRNAウイルスは、一般的に有機溶媒や界面活性剤に対して抵抗性を示す。
【0014】
本発明における検体としては、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料などが挙げられる。生物試料としては、貝類の中腸腺などを含む動植物組織および血液、唾液、鼻汁、組織分泌液などの体液が含まれる。特に貝類は、ノロウイルスによる食中毒の原因食品として最も重要視されている。生物由来試料としては、前記生体試料に対して、例えばソニケーションなどの処理をしたものが含まれる。環境試料としては、大気、土壌、塵埃、水などを含むあらゆる試料が挙げられる。環境由来試料としては、前記環境試料に対して、例えばソニケーションなどの処理をしたものが含まれる。
【0015】
本発明の別の実施態様として、検体としては、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物試料および嘔吐物由来試料などが挙げられる。排泄物試料および嘔吐物試料は、蒸留水、生理食塩水または緩衝液に、5~10%(w/v)で懸濁して乳剤とし、この乳剤を検体としてもよい。前記緩衝液としては、特に限定されないが、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPESなどのグッド(Good)緩衝液が挙げられる。前記乳剤は、例えば10000~12000 rpmで2~20分間遠心分離を行い、得られた遠心上清を検体として用いることもできる。
【0016】
排泄物由来試料および嘔吐物由来試料には、拭き取り試料が含まれる。拭き取り試料とは、ウイルス汚染の確認を目的として、手指、食器、まな板、包丁、調理設備、トイレ設備、住宅設備などを綿棒、カット綿などで拭き取ったものをリン酸緩衝液などに溶出させたものである。得られた溶出液は超遠心分離し、遠心沈渣を懸濁または溶解したものを検体として使用することができる(宗村佳子ら、食品衛生学雑誌、2017 年 58 巻 4 号 p.201-204)。
【0017】
本発明において使用される検体処理液および1ステップRT-PCR反応液は、市販されるノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ、241-09325-91または241-09325-92)に含まれる試薬を組み合わせることが好ましい。検体処理液としては、本キットに含まれるSample Treatment Reagentを用いることができる。1ステップRT-PCR反応液としては、本キットに含まれるNoV Reagent A、BおよびCの混合物を用いることができる。NoV Reagent Aは、マグネシウムイオン、カリウムイオンおよびトリスを含有する。NoV Reagent Bは、逆転写反応プライマーおよびPCRプライマーを含む。NoV Reagent Cは、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む。1ステップRT-PCR反応においては、逆転写酵素とDNAポリメラーゼがあらかじめ混合されていることより、逆転写反応(1本鎖cDNA合成)およびPCRを同一容器内で行うことができる。前記検体処理液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合比は、体積比として3:4~6が好ましく、3:5~5.2がより好ましい。
【0018】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれる逆転写酵素は、ウイルスRNAを鋳型として、1本鎖の相補的DNA(cDNA)を生成する酵素であり、逆転写反応を触媒する限り特に限定されないが、トリ骨髄芽球症ウイルス(Avian Myeloblastosis Virus、AMV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney Murine Leukemia Virus、M-MLV)およびヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus、HIV)などのRNAウイルス由来のRNA依存性DNAポリメラーゼならびにこれらの変異体を使用することができる。
【0019】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるDNAポリメラーゼは、好熱性細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼであり、Taq、Tth、KOD、Pfuおよびこれらの変異体を使用することができるが、これらに限定されない。DNAポリメラーゼによる非特異的増幅を避けるため、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用してもよい。ホットスタートDNAポリメラーゼは、例えば抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼまたは酵素活性部位を熱感受性化学修飾したDNAポリメラーゼであり、PCRにおいて、最初の変性ステップ(90℃以上)を経た後にDNAポリメラーゼが活性化される酵素である。
【0020】
前記1ステップRT-PCR反応液には、逆転写反応およびPCRが適切な条件で遂行されるためのすべての成分が含まれる。該成分として、少なくとも前記逆転写酵素、逆転写反応プライマー、前記耐熱性DNAポリメラーゼ、PCRプライマー、dNTPミックス(deoxyribonucleotide 5’-triphosphate;dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)および緩衝液が含まれる。前記反応液には、RNA分解酵素阻害剤を添加することもできる。逆転写反応プライマーとしては、標的RNAの配列に特異的なプライマー、オリゴ(dT)プライマーまたはランダムプライマーを使用することができる。PCRプライマーとしては、逆転写反応により生成したcDNAの配列に特異的なプライマー対(フォワードおよびリバース)が使用される。PCRプライマーは、標的RNAの配列に特異的な前記逆転写反応プライマーと同一であってもよい。また、前記1ステップRT-PCR反応液には、増幅するDNA領域、すなわち標的配列の数に応じて2種類以上のPCRプライマーを添加してもよい。前記成分を含んだ組成物として、市販のノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ、241-09325-91または241-09325-92)に含まれるNoV Reagent A、BおよびCを、キット取扱説明書にしたがって混合した混合物を、1ステップRT-PCR反応液として使用することができる。
【0021】
ノロウイルスRNAを検出する場合、例えば、特許文献1および2、非特許文献3ならびに特開2018-78806に記載のPCRプライマーを使用することにより、ノロウイルス遺伝子型におけるジェノグループI(GI)およびジェノグループII(GII)を検出することができるが、これらに限定されない。前記ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)には、非特許文献3に記載のPCRプライマーが含まれる。
【0022】
本発明では、ノロウイルスからRNAを遊離させるために、従来必要であった、例えば90℃の熱処理を行う工程は必要ではない。本発明では、検体を、前記検体処理液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合液に直接添加して、RT-PCR反応によりノロウイルスを検出することができる。これは、前記混合液に、好ましくは1~5%(v/v)の終濃度でDMSOを添加することにより可能となる。DMSOは、終濃度が1~5%(v/v)になる限りは、前記検体処理液もしくは前記1ステップRT-PCR反応液に添加してもよく、または前記混合液に添加してもよい。前記混合液におけるDMSOのより好ましい終濃度は、2%(v/v)である。
【0023】
ノロウイルスからのRNA遊離を効率よく行い、また1ステップRT-PCR反応によるノロウイルス検出を感度良く行うために、前記検体と、DMSOを含む前記混合液との混合比は、体積比として1:20~30が好ましく、1:25がより好ましい。
【0024】
RT-PCRにおける逆転写反応の反応温度条件、およびPCR条件(温度、時間およびサイクル数)の設定は、当業者であれば容易に行うことができる。
【0025】
本発明では、RT-PCR反応において、PCR産物はリアルタイム測定によりモニターされる。該リアルタイム測定を行う場合、RT-PCRおよび該RT-PCR産物を検出する工程は同一容器内で行われる。
【0026】
PCR産物のリアルタイム測定は、リアルタイムPCRとも呼ばれる。リアルタイムPCR では、通常PCR増幅産物を蛍光により検出する。蛍光検出方法には、インターカレーター性蛍光色素を用いる方法および蛍光標識プローブを用いる方法がある。インターカレーター性蛍光色素としては、SYBR(登録商標)Green Iが使用されるが、これに限定されるわけではない。インターカレーター性蛍光色素は、PCRによって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、PCR増幅産物の生成量を測定することができる。
【0027】
蛍光標識プローブとしては、TaqManプローブ、Molecular Beacon、サイクリングプローブなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。TaqManプローブは、5’末端が蛍光色素で、また3’末端がクエンチャー物質で修飾されたオリゴヌクレオチドである。TaqManプローブは、PCRのアニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。その後の伸長反応ステップで、Taq DNAポリメラーゼのもつ5‘→3’エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型DNAにハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる蛍光の発生の抑制が解除されて蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、増幅産物の生成量を測定することができる。前記蛍光色素としては、FAM、ROX、Cy5が挙げられるが、これらに限定されない。前記クエンチャーとしては、TAMRA(登録商標)およびMGBが挙げられるが、これらに限定されない。2種類以上のDNA標的配列を区別して検出するためには、それぞれ異なる蛍光色素を結合させた2種類以上のオリゴヌクレオチドプローブ(例えばTaqManプローブ)を用いてPCRを行う。
【0028】
PCR産物のリアルタイム測定において、使用する蛍光色素に対応した蛍光フィルターを用いてRT-PCR産物の増幅曲線をモニターする。PCRサイクル数に応じて蛍光強度が増加する場合には、検体における分析対象のRNAウイルスの存在が陽性であると判定され、一方、PCRにおいて蛍光強度が増加しない場合は陰性であると判定される。
【0029】
本発明の一実施態様において、検体処理液ならびに逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を含み、前記検体処理液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合液に、1~5%(v/v)のDMSOを含むように構成された、ノロウイルスの検出キットが提供される。
【実施例
【0030】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらよって限定されない。
【実施例1】
【0031】
〔ノロウイルスの検出におけるDMSOの効果〕
(1)検体
ノロウイルス感染患者の糞便を100mg採取し、1mLの蒸留水に懸濁して、約10%(w/v)の糞便乳剤とした。該糞便乳剤を、微量遠心分離機により10000rpmで5分間遠心分離し、得られた遠心上清を検体とした。
(2)反応混合液の調製
反応混合液は、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ)に含まれる試薬を混合することにより調整した。1ステップRT-PCR反応液は、本キットのNoV Reagent A、NoV Reagent BおよびNoV Reagent Cから、それぞれ12.5μL、2.5μLおよび0.25μLを採取し、これらを混合することにより調製した。この1ステップRT-PCR反応液に、検体処理液として本キットのSample Treatment Reagentから9μLを採取し、添加した。得られた検体処理液と1ステップRT-PCR反応液との混合液に、DMSOを終濃度が1、2、5または10%(v/v)になるように添加し、混合して、反応混合液を調製した。
(3)検体と反応液との混合
(2)で調製した反応混合液25μLをPCR反応チューブに加え、ここに(1)で得られた検体を1μL添加し、リアルタイムPCR装置(GVP-9600、島津製作所)を用いて、直ちにRT-PCR反応をモニターした。反応混合液は、PCRプライマーとしてCOG1F/COG1RおよびCOG2F/COG2Rを、また蛍光標識プローブとしてG1A、G1BおよびG2を含んだ。
(4)RT-PCR条件
45℃/5分間の逆転写反応後、95℃/3分間の初期変性を行い、次いで95℃/1秒間-56℃/10秒間のPCRを45サイクル行った。PCRにおける測光は、56℃/10秒間のステップで行った。
(5)結果と考察
測光結果を図1に示した。DMSO濃度により、Ct値および蛍光強度が影響を受けることが示された。Ct値は、リアルタイムPCRにおいて、増幅曲線と閾値(Threshold)が交差するサイクル数のことである。DMSO無添加の場合(0%DMSO)と比較し、1、2および5%(v/v)DMSOを添加した場合は、Ct値が小さく、また強い蛍光強度が得られた。この作用は、2%DMSOの場合で最も強く認められた。反応混合液に1~5%(v/v)DMSOを添加することにより、DMSO無添加の場合と比較して、初発DNA量が多いことが示され、ノロウイルスが検出されたことが分かる。
【実施例2】
【0032】
〔異なる糞便検体におけるDMSOの効果〕
(1)検体
ノロウイルス感染患者の糞便4種類について、実施例1と同様にして、それぞれの遠心上清を得て検体とした。
(2)反応混合液の調製
DMSO濃度を2%(v/v)および0%とした以外は、実施例1と同様にして行った。
(3)検体と反応液との混合およびRT-PCR
実施例1と同様にして行った。
(4)結果と考察
測光結果を図2に示した。測定したすべての糞便において、反応混合液に2%(v/v)DMSOを添加することにより、DMSO無添加の場合と比較して、Ct値が小さく、また強い蛍光強度が得られることが示された。したがって、本発明の方法により、簡便にノロウイルスを検出することができ、ノロウイルス感染患者を特定できることが分かる。


図1
図2