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  • 特許-酢酸の製造方法および酢酸製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】酢酸の製造方法および酢酸製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/12 20060101AFI20240913BHJP
   C07C 53/08 20060101ALI20240913BHJP
   C07C 51/44 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C07C51/12
C07C53/08
C07C51/44
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019226491
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021095351
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】508364749
【氏名又は名称】ケロッグ ブラウン アンド ルート エルエルシー
【住所又は居所原語表記】601 Jefferson Street Houston TX 77002(US)
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 忠士
(72)【発明者】
【氏名】平井 寿英
(72)【発明者】
【氏名】小谷 唯
(72)【発明者】
【氏名】本田 大輔
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0116477(US,A1)
【文献】特許第3927237(JP,B2)
【文献】特表2009-501129(JP,A)
【文献】特表2007-526305(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173307(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸の製造方法であって、
メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応工程と、
前記反応工程から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離するフラッシュ蒸発工程と、
前記気相留分からさらに軽質分を蒸留により除く第1のライトエンド蒸留工程と、
前記第1のライトエンド蒸留工程で除かれた軽質分から水以外の成分を除去する第2のライトエンド蒸留工程と、を有し、
前記第2のライトエンド蒸留工程で濃縮された水が、前記フラッシュ蒸発工程または前記第1のライトエンド蒸留工程において添加される、
ことを特徴とする酢酸の製造方法。
【請求項2】
前記第2のライトエンド蒸留工程からの留出液に含まれる水をさらに濃縮するための1以上の水濃縮工程をさらに有し、
前記添加されるは前記水濃縮工程で濃縮された水である請求項に記載の酢酸の製造方法。
【請求項3】
酢酸の製造方法であって、
メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応工程と、
前記反応工程から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離するフラッシュ蒸発工程と、
前記気相留分からさらに軽質分を蒸留により除く第1のライトエンド蒸留工程と、を有し、
前記第1のライトエンド蒸留工程が、
よりも沸点の低い軽質分を除去する軽質留分工程と、
前記軽質留分工程からの留出液から水を除去する脱水工程とを互いに異なる工程として有し、
前記脱水工程で除去される水が、前記フラッシュ蒸発工程または前記第1のライトエンド蒸留工程において添加される、
酸の製造方法。
【請求項4】
前記添加される水の量は、前記フラッシュ蒸発工程に流入する前記反応生成液の流入量に対して、0.5重量%以上である請求項1又は3に記載の酢酸の製造方法。
【請求項5】
酢酸製造装置であって、
メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応器と、
前記反応器から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離するフラッシュ蒸発部と、
前記気相留分からさらに軽質分を蒸留により除く第1のライトエンド蒸留部と、
記フラッシュ蒸発部または前記第1のライトエンド蒸留部において水を添加する水添加部と、
前記第1のライトエンド蒸留部からの排出流から水以外の成分を除去する第2のライトエンド蒸留部と、
前記第2のライトエンド蒸留部で濃縮された水を含む留出液を、前記フラッシュ蒸発部または前記第1のライトエンド蒸留部に戻す還流部と、を有し、
前記水添加部が前記還流部である、
ことを特徴とする酢酸製造装置。
【請求項6】
前記添加される水の量は、前記フラッシュ蒸発部に流入する前記反応生成液の流入量に対して、水の添加量に換算したときに0.5重量%以上である請求項に記載の酢酸製造装置。
【請求項7】
前記第2のライトエンド蒸留部からの留出液に含まれる水をさらに濃縮するための1以上の水濃縮部をさらに有し、
記還流部が前記水濃縮部で濃縮された水の流路である請求項に記載の酢酸製造装置。
【請求項8】
酢酸製造装置であって、
メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応器と、
前記反応器から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離するフラッシュ蒸発部と、
前記気相留分からさらに軽質分を蒸留により除く第1のライトエンド蒸留部と、
前記フラッシュ蒸発部または前記第1のライトエンド蒸留部において水を添加する水添加部と、を有し、
前記第1のライトエンド蒸留部が、
水よりも沸点の低い軽質分を除去する軽質留分部と、
前記軽質留分部からの留出液から水を除去する脱水部と、を有し、
前記水添加部が、前記脱水部で除去された水を含む排出流を前記フラッシュ蒸発部または前記第1のライトエンド蒸留部に戻す還流部である、
酸製造装置。
【請求項9】
前記添加される水の量は、前記フラッシュ蒸発部に流入する前記反応生成液の流入量に対して、水の添加量に換算したときに0.5重量%以上である請求項8に記載の酢酸製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酢酸の製造方法および酢酸製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸は、ポリ酢酸ビニル、アセチルセルロースおよび酢酸エステル類の原料、並びにテレフタル酸製造プラントの溶媒等、幅広い用途を持つ基礎化学品である。酢酸の製造方法として、ロジウム触媒等の存在下にメタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するいわゆるモンサント法(あるいはメタノールカルボニル化法)が知られており、現在の主な酢酸の製造方法となっている。
【0003】
酢酸の製造においては、メタノールのカルボニル化を行う反応器からの反応生成液に副生成物(不純物)として、カルボニル化合物および不飽和カルボニル化合物が微量に含まれる。このような副生成物は、通常、過マンガン酸塩還元性化合物として過マンガン酸塩を用いた試験により定量される。過マンガン酸塩還元性化合物の製品酢酸への混入は、製品酢酸の品質を損なうので、製造プロセスでの過マンガン酸塩還元性化合物の除去効率の更なる向上が望まれる。
【0004】
上記副生成物を除去するために、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には酢酸生成物中の過マンガン酸塩還元性化合物を減圧条件下で操作する特定の蒸留塔によって除去する方法が開示されている。また、特許文献2には、過マンガン酸塩還元性化合物を蒸留によって分離した後、水やジメチルエーテルなどの抽出媒体を用いて除去・回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-59542号公報
【文献】特開2016-40305号公報
【文献】特開昭60-54334号公報
【文献】特開昭60-239434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メタノールのカルボニル化による酢酸の製造において副生する過マンガン酸塩還元性化合物の1つとしてクロトンアルデヒドがある。クロトンアルデヒドは、過マンガン酸塩還元性化合物の中でも酢酸と沸点が近いため、蒸留による分離が困難であるという課題がある。特許文献1に記載の方法では、酢酸が減圧条件下における蒸留で精製されるが、減圧によりクロトンアルデヒドの沸点および酢酸の沸点は共に下がるため、沸点が近いことにより分離が難しいという課題は依然として残されている。また、特許文献2に記載の方法は、蒸留後の抽出操作で過マンガン酸塩還元性化合物を除去・回収するものであり、コストがかさむという問題がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、蒸留のみでクロトンアルデヒドを高効率で除去可能な酢酸の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記方法を適用することでクロトンアルデヒドを高効率かつ低コストで除去可能な酢酸製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る酢酸の製造方法は、メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応工程と、該反応工程から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離するフラッシュ蒸発工程と、該気相留分からさらに軽質分を蒸留により除く第1のライトエンド蒸留工程と、を有する酢酸の製造方法であって、前記フラッシュ蒸発工程または前記第1のライトエンド蒸留工程において、水を添加する、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の別の態様に係る酢酸製造装置は、メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応器と、該反応器から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離するフラッシュ蒸発部と、該気相留分からさらに軽質分を蒸留により除く第1のライトエンド蒸留部と、を有し、さらに、前記フラッシュ蒸発部または前記第1のライトエンド蒸留部において水を添加する水添加部を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、クロトンアルデヒドを高効率かつ低コストで除去可能な酢酸の製造方法が提供される。また、本発明の別の態様によれば、本発明の一態様に係る酢酸の製造方法を適用することでクロトンアルデヒドを高効率かつ低コストで除去可能な酢酸製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る酢酸製造装置を示す模式図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る酢酸製造装置を示す模式図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る酢酸製造装置を示す模式図である。
図4】本発明の第4実施形態に係る酢酸製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
クロトンアルデヒドは、先に述べたように過マンガン酸塩還元性化合物の中でも酢酸と沸点が近く、蒸留による分離が難しい。具体的には、常圧環境下(100kPa)において、例えばアセトアルデヒドの沸点は20.2℃、アセトンの沸点は56℃、メチルエチルケトンの沸点は79.6℃、ブチルアルデヒドの沸点は74.8℃、2-エチルクロトンアルデヒドの沸点は59℃、といずれも100℃を大きく下回る。一方、酢酸の沸点は118.1℃、クロトンアルデヒドの沸点は104℃と、共に100℃以上で値が近く、蒸留による分離が難しいことがわかる。
【0013】
クロトンアルデヒドは、常圧環境下で水が存在すると、24.8重量%の水と共沸混合物を形成することが知られている。この共沸混合物の沸点は84℃と、クロトンアルデヒド単体よりもその沸点が低い。すなわち、クロトンアルデヒドを水と共沸混合物を形成させることで、蒸留による酢酸との分離の効率を大きく上昇させることができると期待される。
【0014】
酢酸の工業的な製造方法は種々知られているが、中でも、水の存在下、ロジウム触媒とヨウ化メチルを用いて、メタノールをカルボニル化することによって酢酸を生成する方法が工業的には最も優れた方法であり、現在の主要な酢酸の製造方法となっている。つまり、メタノールのカルボニル化によって酢酸を生成する反応器中には、反応溶液の構成成分として水が存在する。
【0015】
しかし既往の検討により、反応条件や触媒が改良され、ヨウ化物塩等の反応促進剤を添加して、低水分条件下で反応させることで生産性高く工業的に酢酸を製造する方法が開示され(特許文献3、特許文献4)、現在は主に低水分条件下で酢酸が製造されている。そのため、クロトンアルデヒドと共沸混合物を形成するためには水の量が不十分である。
【0016】
クロトンアルデヒドと水の共沸混合物を形成させるために、反応溶液中の水の含有量を増加させると、CO+HO→H+COで示される反応が促進される。結果として、酢酸の原料となる一酸化炭素が減ることによって酢酸の生産性が低下するという問題が生じる。また、反応溶液中のヨウ化メチルが加水分解して腐食性のヨウ化水素を発生するという問題が生じる。
【0017】
本発明者らは鋭意検討の結果、以下の本発明に係る酢酸の製造方法および本発明の別の態様に係る酢酸製造装置により、酢酸の生産性を低下させること無く、クロトンアルデヒドを高効率に除去できることを見出した。
【0018】
すなわち、本発明に係る酢酸の製造方法は、メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応工程と、該反応工程から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離するフラッシュ蒸発工程と、該気相留分からさらに軽質分を蒸留により除く第1のライトエンド蒸留工程と、を有し、前記フラッシュ蒸発工程または前記第1のライトエンド蒸留工程において、水を添加する、ことを特徴とする酢酸の製造方法である。
【0019】
また、本発明の別の態様に係る酢酸製造装置は、メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応器と、該反応器から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離するフラッシュ蒸発部と、該気相留分からさらに軽質分を蒸留により除く第1のライトエンド蒸留部と、を有し、さらに、前記フラッシュ蒸発部または前記第1のライトエンド蒸留部において水を添加する水添加部を有する、ことを特徴とする酢酸製造装置である。
【0020】
はじめに、本発明に係る酢酸の製造方法について、以下に詳しく説明する。
【0021】
まず、本発明に係る酢酸の製造方法は、メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応工程を有する。反応工程は、先に述べた低水分条件下で行うことにより酢酸の生産性を高くすることができ、また、本発明の効果をより高く得ることができる。具体的には、反応工程における反応溶液中の水の含有量は14重量%以下であることが好ましく、2.0重量%以上10重量%以下であることがより好ましく、4.2重量%以上8.0重量%以下であることがさらに好ましい。カルボニル化反応に用いる触媒の用い方は特に限定されない。例えば、ロジウムやイリジウム等の錯体を担持した固体触媒や、ヨウ化メチル等の助触媒を含む液相中で、メタノールと一酸化炭素を反応させる不均一系でもよい。また、固体触媒の代わりに、液相中に溶解するロジウムやイリジウムなどの貴金属触媒を用いる均一系でもよい。
【0022】
固体触媒としては、四級化窒素を含有する樹脂担体上に貴金属錯体を担持した固体触媒が挙げられる。四級化窒素を含有する樹脂担体とは、典型的にはピリジン樹脂、すなわち窒素原子が四級化されうるピリジン環を構造中に含む樹脂であり、たとえば4-ビニルピリジンとジビニルベンゼンの共重合体が代表的なものである。ただし、この特定の樹脂に限られるわけではなく、四級化されて貴金属錯体を吸着担持しうる塩基性窒素を含有する樹脂を包括的に含む趣旨である。したがって、上記4-ビニルピリジンに代えて、ビニル基の位置が異なる2-ビニルピリジンや、ビニルメチルピリジンなどの置換ビニルピリジン類、もしくはビニルキノリン類などの各種塩基性窒素含有モノマーを含むもの、あるいはジビニルベンゼンに代えて、エチレン性不飽和結合を含む基を2以上有する各種架橋性モノマーを含むものを用いることができる。さらに、上記塩基性窒素含有モノマーおよび架橋性モノマーに加えて、スチレンやアクリル酸メチルなどの他の重合性コモノマーを含むものを用いることもできる。
【0023】
樹脂担体に担持される貴金属錯体とは、当該カルボニル化反応に対する触媒作用を示す貴金属の錯体であって、上記樹脂担体の四級化窒素にイオン交換吸着されるものをいう。そのような貴金属としては、ロジウムやイリジウムが知られているが、一般にはロジウムが好適に用いられる。樹脂担体とロジウムのハロゲン化物や酢酸ロジウムなどのロジウム塩とヨウ化メチルを含む溶液中において、一酸化炭素加圧下(0.7~3MPa)で接触させると、その樹脂担体にロジウムを担持させることができる。このとき、樹脂担体中の窒素原子は四級化され、これにロジウムとヨウ化メチルと一酸化炭素との反応によって生成したロジウム錯イオン、すなわちロジウムカルボニルアイオダイド錯体[Rh(CO)がイオン交換的に結合し、固体触媒が得られる。
【0024】
このような固体触媒や金属触媒が充填された反応器内に、反応原料のメタノール、反応溶媒および助触媒からなる混合液を反応液として充填する。反応溶媒としては、従来公知の各種のものが用いられる。この反応は、通常、酢酸を反応溶媒として行なわれるが、この場合、酢酸は反応生成物であるとともに反応溶媒としても働くことになる。この反応では、副生物として酢酸メチル、ジメチルエーテル、水、アセトアルデヒドなどが生成し、これらは溶媒、反応促進剤および未反応原料とともに、酢酸を製品として分離回収した後の残液として反応工程に戻されるので、反応工程における液相はこれら成分すべての混合物からなる。反応工程は、固定床、膨張床、混合槽など各種形式の反応器を用いて実施することができ、また、回分式操作および連続式操作のいずれを採用してもよいが、工業的には反応条件をコントロールしやすい連続式混合槽が好ましい。
【0025】
次に、フラッシュ蒸発工程において、反応工程から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離する。フラッシュ蒸発工程では、反応工程から流入する反応生成液をフラッシュ蒸発させ、生成酢酸、ヨウ化メチル、アセトアルデヒド等の過マンガン酸塩還元性化合物、水などを含む蒸気成分と、触媒などを含む液体成分とに分離する。分離により得られた蒸気成分は気相留分として回収される。フラッシュ蒸発としては、反応混合物を加熱して減圧する恒温フラッシュ、反応混合物を加熱することなく減圧する断熱フラッシュ、若しくはこれらのフラッシュ条件を組み合わせたフラッシュ等公知の方法を用いることができる。
【0026】
フラッシュ蒸発としては、反応混合物を加熱して減圧する恒温フラッシュ、反応混合物を加熱することなく減圧する断熱フラッシュ、若しくはこれらのフラッシュ条件を組み合わせたフラッシュ等公知の方法を用いることができる。
【0027】
フラッシュ蒸発工程で回収された気相留分は、次に第1のライトエンド蒸留工程に供される。第1のライトエンド蒸留工程では、酢酸よりも揮発性の高い不純物が軽質分として蒸留により除かれる。第1のライトエンド蒸留工程で除去される揮発性の高い不純物としては、ヨウ化メチル、水および過マンガン酸塩還元性化合物等が挙げられる。
【0028】
なお、フラッシュ蒸発工程と第1のライトエンド蒸留工程は、一連の工程として行うこともできるし、別個の工程として行うこともできる。すなわち、例えば、フラッシュ蒸発工程のためのフラッシュ蒸発部と、第1のライトエンド蒸留工程のための蒸留塔は、単一の塔の底部とその上部に一体的に設けることもできるし、フラッシャーとライトエンド蒸留塔等に分けて別塔として構成することもできる。
【0029】
また、第1のライトエンド蒸留工程は、水よりも沸点の低い軽質分を除去する軽質留分工程と、軽質留分工程からの留出液から水を除去する脱水工程とを互いに異なる工程として有してもよい。
【0030】
本発明においては、上記フラッシュ蒸発工程または上記第1のライトエンド蒸留工程において、水を添加する。第1のライトエンド蒸留工程が、軽質留分工程と脱水工程の2つの工程を有する場合は、フラッシュ蒸発工程、軽質留分工程および脱水工程のいずれの工程で水を添加してもよい。この水の添加により、クロトンアルデヒドが第1のライトエンド蒸留工程で共沸するのに必要な水が供給される。クロトンアルデヒドが水と共沸混合物を形成することができれば、先にも述べたように沸点が低くなり、第1のライトエンド蒸留工程における酢酸との分離効率を上げることができる。
【0031】
水は、フラッシュ蒸発工程または第1のライトエンド蒸留工程のいずれ工程で添加しても、第1のライトエンド蒸留工程での共沸によりクロトンアルデヒドを除去する効果を得られるが、フラッシュ蒸発工程で添加することがより好ましい。フラッシュ蒸発工程で添加することで、フラッシュ蒸発工程における重質物のエントレイメント削減効果が期待できる。
【0032】
フラッシュ蒸発工程または第1のライトエンド蒸留工程において添加される水は、酢酸との分離が難しい化合物や、反応生成液に含まれる成分と反応して生産性や製品酢酸の品質の低下を招くような化合物が含まれていない限り、他の成分を共に含む溶液中の水でもよい。水と他の成分とを共に含む溶液中の水の含有率は高いほど好ましく、操作性の観点から、好ましくは80重量%以上である。水は、酢酸の製造プロセスの系外から調達して添加しても良いし、酢酸の精製過程で除去された水を循環させて添加しても良い。
【0033】
水を酢酸の製造プロセスの系外から調達する場合は、水として純水を用いることができ、酢酸の精製プロセスへの負荷を最小にできる利点がある。しかし一方で、添加された水は酢酸の精製過程で除去され、最終的には廃棄されるため、水を調達する工程と除去された水を廃棄する工程が必要となり、プロセス全体として工程が増え、負荷が大きくなるという欠点がある。
【0034】
水として、酢酸の精製過程で除去された水を循環させて用いる場合は、水を調達する工程および除去された水を廃棄する工程が必要なく、プロセス全体への負荷の増加を抑制できるため好ましい。具体的には、水が、第1のライトエンド蒸留工程で除かれた排出流中の水であることが好ましい。
【0035】
第1のライトエンド蒸留工程で除かれる軽質分には、水以外の成分も多く含まれる。そのため、上記水は、第1のライトエンド蒸留工程で除かれる軽質分から、水以外の成分を分離除去して濃縮された水であることが好ましい。
【0036】
具体的には、さらに第1のライトエンド蒸留工程で除かれた軽質分から水以外の成分を除去する第2のライトエンド蒸留工程を有し、上記水が、第2のライトエンド蒸留工程で濃縮された水であることが好ましい。または、第1のライトエンド蒸留工程が、水よりも沸点の低い軽質分を除去する軽質留分工程と、軽質留分工程からの留出液から水を除去する脱水工程とを互いに異なる工程として有し、上記水が、脱水工程で除去される水であることが好ましい。
【0037】
水が、他の成分と共に含まれる溶液中の水である場合は、溶液中の水の含有率は高いほど好ましいため、上記第2のライトエンド蒸留工程で濃縮された水をさらに濃縮して純度を高めて用いることがより好ましい。すなわち、第2のライトエンド蒸留工程からの留出液に含まれる水をさらに濃縮するための1以上の水濃縮工程をさらに有し、上記水が水濃縮工程で濃縮された水であることがさらに好ましい。同様に、上記脱水工程で除去された水をさらに濃縮する工程を有することも好ましい。
【0038】
水の添加量は、フラッシュ蒸発工程に流入する反応生成液の流入量に対して、0.5重量%以上となる量であることが好ましい。ここで、添加される水が他の成分を共に含む溶液中の水である場合は、水の添加量とは、添加される溶液中の水のみの量として換算された値である。
【0039】
0.5重量%以上であれば、第1のライトエンド蒸留工程においてクロトンアルデヒドを効果的に除去することができる。また、水の添加量は過剰であるとフラッシュ蒸発工程または第1のライトエンド蒸留工程における負荷が高くなりすぎるため、水の添加量はフラッシュ蒸発工程に流入する反応生成液の流入量に対して、5重量%以下であることが好ましい。
【0040】
本発明に係る酢酸の製造方法は、第1のライトエンド蒸留工程で除かれる軽質分を含む排出流または脱水工程で除かれる水を含む排出流を水相と油相に分離する分離工程をさらに有していてもよい。分離工程を有することで、上記排出流中の水の含有率を高めることができるため好ましい。分離工程としては、排出流を容器中で静置することにより水相と油相に分離する方法が挙げられる。
【0041】
また、反応工程で生じたオフガスをメタノールに接触させてヨウ化メチルを回収するヨウ化メチル回収工程をさらに有してもよい。オフガスとは、例えば反応工程で排出される未反応の一酸化炭素、メタノール、ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸、アセトアルデヒドなどを含むガスである。ヨウ化メチル回収工程では、このオフガスをメタノールに接触させて、オフガス中のヨウ化メチル、さらには酢酸メチルなどの有用成分を吸収させる。例えば、ヨウ化メチル吸収塔の下部からオフガスを導入し、上部から液体メタノールを降らしてオフガスと接触させればよい。ヨウ化メチル等を吸収したメタノール含有液は、反応工程に循環させてもよい。また、ヨウ化メチル回収工程でヨウ化メチルが除去されたオフガスは、必要に応じて活性炭等で精製された後、反応系外に排出される。
【0042】
さらに、第1のライトエンド蒸留工程で軽質分を除去した後の留出液から、酢酸よりも沸点の低いプロピオン酸等の不純物を除去する重質分除去工程を有してもよい。
【0043】
また、フラッシュ蒸発工程で分離された液体成分を反応工程に戻す経路の途中で、液体成分を酸性陽イオン交換樹脂と接触させることにより、ピリジン樹脂担体の熱分解等により生じる塩基性窒素含有化合物を除去する工程(塩基性窒素化合物除去工程)を有していてもよい。
【0044】
フラッシュ蒸発工程で分離された液体成分は主に酢酸からなるが、固体触媒を用いる場合、樹脂担体からピリジン環などの塩基性窒素含有分子が分解溶出した成分も含まれることがある。そのような塩基性窒素含有分子(これらは四級化されている)を含む液体成分をそのまま反応工程に戻すと、反応工程における液相中にそのような分子が蓄積し、固体触媒の樹脂担体中の塩基性窒素含有部位と貴金属錯体のイオンを奪う分配が生じる。すなわち、反応工程における液相中に貴金属錯体がより多く遊離して、触媒機能が低下することになる。塩基性窒素化合物除去工程を行うことにより、触媒機能の低下を抑制することができる。
【0045】
次に、本発明の別の態様に係る酢酸製造装置について、以下に詳しく説明する。
【0046】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る酢酸製造装置10について図1を用いて説明する。なお、本発明の第1実施形態では固体触媒を用いた不均一系を例として説明するが、これに限定されず、液相中に溶解する貴金属触媒を用いる均一系であってもよい。
【0047】
図1は、本発明の第1実施形態に係る酢酸製造装置を示す模式図である。
【0048】
図1に示すように、酢酸製造装置10は、メタノールを一酸化炭素でカルボニル化して酢酸を生成するカルボニル化反応を行う反応器11と、反応器11から流入する反応生成液から酢酸を含む気相留分を分離するフラッシャー等のフラッシュ蒸発部12と、フラッシュ蒸発部12で分離された気相留分からさらに軽質分を蒸留により除く第1のライトエンド蒸留部13と、フラッシュ蒸発部12または前記第1のライトエンド蒸留部において水を添加する水添加部14を有する。
【0049】
反応器11に、メタノールと一酸化炭素が導入され、これらが反応することにより酢酸が生成する。詳述すると、反応器11では、固体触媒が、液相中に分散して存在する。液相は、溶媒としての酢酸と、反応促進剤であるヨウ化メチルと、反応原料としてのメタノールと、各種反応副生物(酢酸メチル、アセトアルデヒド、水等)を含んでいる。固体触媒が分散した上記反応液中には一酸化炭素ガスが吹き込まれ、例えば、反応温度100~200℃、反応圧力1~5MPa程度の条件において、メタノールが一酸化炭素と反応して酢酸を生成する。
【0050】
反応器11の反応生成液は、スクリーンなどを通して取り出され、フラッシュ蒸発部12に導入される。そして反応生成液はフラッシュ蒸発により一部が気化して気相と液相となる。フラッシュ蒸発により生じた気相は、後段の第1のライトエンド蒸留部13に流入する。
【0051】
反応器11の頂部から排出されるオフガスは、ヨウ化メチル吸収部18aに下部から導入される。ヨウ化メチル吸収部18aに導入されたオフガスは、ヨウ化メチル吸収部18aの上部から降らせた液体メタノールに接触し、ヨウ化メチルが液体メタノールに吸収される。ヨウ化メチル等を吸収したメタノール含有液は、反応器11に戻される。また、ヨウ化メチル吸収部18aの頂部等から排出されるヨウ化メチル等が除去されたオフガスは、廃棄物処理部19で適宜処理を受けた後、反応系外に排出される。
【0052】
フラッシュ蒸発により生じた液相は、塩基性窒素化合物吸着カラム等の塩基性窒素化合物吸着部15に流入され、塩基性窒素化合物が吸着除去された後、反応器11に戻される。なお、液相中に溶解する貴金属触媒を用いる均一系の場合などは、塩基性窒素化合物吸着部15を設けず、液相を反応器11に単に還流する構成としてもよい。
【0053】
第1のライトエンド蒸留部13では、フラッシュ蒸発部12から流入した気相を蒸留により分離する。フラッシュ蒸発部12から流入した気相を構成する成分のうち最も揮発度が小さい酢酸の一部が排出流に含まれるようにすることで、水および過マンガン酸塩還元性化合物等の他の気相成分がすべて排出流に含まれるようにすることができる。そのような第1のライトエンド蒸留部13としては、例えば、圧力0.1MPa~0.5MPa、温度20℃~180℃、理論段数20段~60段という条件の下で操作される蒸留塔が挙げられる。フラッシュ蒸発部12で気相に含まれる酢酸の大部分は、第1のライトエンド蒸留部13下部より缶出液として取り出され、重質分除去工程を行う重質分留カラムなどの重質分留部16に導かれる。
【0054】
第1のライトエンド蒸留部13から排出流として排出されるヨウ化メチル等を含む気相は、ヨウ化メチル吸収部18bに下部から導入される。ヨウ化メチル吸収部18bに導入されたガスは、ヨウ化メチル吸収部18bの上部から降らせた液体メタノールに接触し、ヨウ化メチルが液体メタノールに吸収される。但し、ヨウ化メチル吸収部18bは、ヨウ化メチル吸収部18aよりも低圧で行うものである。ヨウ化メチル等を吸収したメタノール含有液は、反応器11に戻される。また、ヨウ化メチル吸収部18bの頂部等から排出されるヨウ化メチル等が除去されたオフガスは、廃棄物処理部19で適宜処理を受けた後、反応系外に排出される。
【0055】
重質分留部16では、酢酸よりも沸点の高いプロピオン酸等の不純物を蒸留により除去する。そのような重質分留部16としては、例えば、温度50℃~160℃、圧力0.01MPa~0.2MPa、理論段数40段~100段という条件の下で操作される蒸留塔が挙げられる。重質分留部16から排出流として取り出された酢酸は、製品酢酸精製部17で適宜精製処理を受けた後、製品として分離回収される。重質分留部16下部より缶出液として取り出された不純物は、廃棄物処理部19で適宜処理を受けた後、廃棄される。なお、重質分留部16下部より取り出された缶出液は反応器11に還流される構成としてもよい。
【0056】
酢酸製造装置10は、さらに水添加部14を有する。水添加部14では、フラッシュ蒸発部12に水を添加する。なお、ここではフラッシュ蒸発部12に水を添加する構成としているが、水添加部14は第1のライトエンド蒸留部13に水を添加する構成としてもよい。
【0057】
水添加部14でフラッシュ蒸発部12に添加する水の量は、フラッシュ蒸発部12に流入する反応生成液の流入量に対して、0.5重量%以上となる量であることが好ましい。ただし、水の添加量は過剰であるとフラッシュ蒸発部12または第1のライトエンド蒸留部13における負荷が高くなりすぎるため、水の添加量はフラッシュ蒸発部12に流入する反応生成液の流入量に対して、5重量%以下であることが好ましい。
【0058】
本実施形態では、水添加部14は酢酸製造プロセスの系外から水を調達する構成となっている。系外から調達される水が、他の成分と共に含まれる溶液中の水である場合は、溶液中の水の含有率は高いほど好ましく、操作性の観点から、好ましくは80重量%以上である。最も好ましくは、系外から調達される水は純水である。
【0059】
このようにフラッシュ蒸発部12(または第1のライトエンド蒸留部13)に水を添加することで、第1のライトエンド蒸留部13においてクロトンアルデヒドを水と共沸させて除去する効率を高めることができ、純度の高い高品質な製品酢酸を得ることが可能となる。
【0060】
なお、酢酸製造装置10は、第1のライトエンド蒸留部13からの排出流から水以外の成分を除去して水を濃縮する第2のライトエンド蒸留部や1つ以上の水濃縮部をさらに有してもよい。また、第1のライトエンド蒸留部13からの排出流を水相と油相に分離するデカンタ等の分離手段をさらに有してもよい。
【0061】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る酢酸製造装置20について図2を用いて説明する。なお、上記第1実施形態に係る酢酸製造装置10と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略する、あるいは簡略にする。
【0062】
図2に示すように、酢酸製造装置20は、第1実施形態に係る酢酸製造装置10における水添加部14の代わりに、第1のライトエンド蒸留部13からの排出流から水以外の成分を除去する第2のライトエンド蒸留部21と、第2のライトエンド蒸留部で濃縮された水を含む留出液を、フラッシュ蒸発部12に戻す還流部22とを有する。酢酸製造装置20においては、還流部22が水添加部となっている。なお、ここではフラッシュ蒸発部12に水を添加する構成としているが、還流部22は第1のライトエンド蒸留部13に水を添加する構成としてもよい。
【0063】
第2のライトエンド蒸留部21で濃縮された水を含む留出液は、フラッシュ蒸発部12(または第1のライトエンド蒸留部13)に添加される、水を含む溶液である。すなわち、留出液中の水の含有率は水の添加量に換算したときに80重量%以上となる量であることが好ましい。言い換えると、第2のライトエンド蒸留部21においては、第1のライトエンド蒸留部13からの排出流に含まれる水を80重量%以上にまで濃縮することが好ましい。そのような第2のライトエンド蒸留部21としては、例えば圧力0.1MPa~0.5MPa、温度40℃~160℃、理論段数20段~60段という条件の下で操作される蒸留塔が挙げられる。
【0064】
酢酸製造装置20では、第1のライトエンド蒸留部13から排出される気相の代わりに、第2のライトエンド蒸留部21から排出流として排出される気相が、ヨウ化メチル吸収部18bに導かれ、下部から導入される。ヨウ化メチル等を吸収したメタノール含有液は、反応器11に戻される。また、ヨウ化メチル吸収部18bの頂部等から排出されるヨウ化メチル等が除去されたオフガスは、廃棄物処理部19で適宜処理を受けた後、反応系外に排出される。
【0065】
なお、酢酸製造装置20は、第2のライトエンド蒸留部21からの留出液から水以外の成分を除去して水を濃縮する1つ以上の水濃縮部をさらに有してもよい。また、第2のライトエンド蒸留部21からの留出液を側流として抜き出し、第2のライトエンド蒸留部21の下部から排出される缶出液を反応器11に還流させる構成としてもよい。さらに、第1のライトエンド蒸留部13および/または第2のライトエンド蒸留部21からの排出流を水相と油相に分離するデカンタ等の分離手段を有してもよい。
【0066】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る酢酸製造装置30について図3を用いて説明する。なお、上記第2実施形態に係る酢酸製造装置20と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略する、あるいは簡略にする。
【0067】
図3に示すように、酢酸製造装置30は、第2実施形態に係る酢酸製造装置20で示す構成にさらに第2のライトエンド蒸留部21からの留出流から水以外の成分を除去する水濃縮部31と、水濃縮部31で濃縮された水を含む留出液をフラッシュ蒸発部12に戻す還流部32とを有する。酢酸製造装置30においては、第2実施形態に係る酢酸製造装置20における還流部22に代えて、第2のライトエンド蒸留部21からの留出流を水濃縮部31に導く流路33を設け、還流部32が水添加部となっている。なお、ここではフラッシュ蒸発部12に水を添加する構成としているが、還流部32は第1のライトエンド蒸留部13に水を添加する構成としてもよい。
【0068】
水濃縮部31で濃縮された水を含む留出液は、フラッシュ蒸発部12(または第1のライトエンド蒸留部13)に添加される、水を含む溶液である。すなわち、留出液中の水の含有率は水の添加量に換算したときに80重量%以上となる量であることが好ましい。言い換えると、第2のライトエンド蒸留部21および水濃縮部31を通して、水濃縮部31からの留出液に含まれる水を80重量%以上にまで濃縮することが好ましい。そのような第2のライトエンド蒸留部21と水濃縮部31の組み合わせとしては、例えば、圧力0.1MPa~0.5MPa、温度40℃~160℃、理論段数20段~60段という条件の下で操作される蒸留塔と圧力0.1MPa~0.3MPa、温度90℃~140℃、理論段数1段~10段という条件の下で操作される蒸留塔の組み合わせが挙げられる。
【0069】
酢酸製造装置30では、第2のライトエンド蒸留部21から排出流として排出される気相と、水濃縮部31から排出流として排出される気相とが、ヨウ化メチル吸収部18bに導かれ、下部から導入される。
【0070】
なお、酢酸製造装置30では、水濃縮部31が1つの場合を例に説明したが、水濃縮部31は2つ以上の複数の異なる構成としてもよい。水濃縮部31が2つ以上の複数の異なる構成を有する場合は、最も後段に位置する水濃縮部から排出される水を含む溶液が、フラッシュ蒸発部12または第1のライトエンド蒸留部13に導かれる構成とすればよい。また、水濃縮部31からの留出液を側流として抜き出し、水濃縮部31の下部から排出される缶出液を反応器11に還流させる構成としてもよい。さらに、第1のライトエンド蒸留部13、第2のライトエンド蒸留部21および/または水濃縮部31からの排出流を水相と油相に分離するデカンタ等の分離手段を有してもよい。
【0071】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る酢酸製造装置40について図4を用いて説明する。なお、上記第1実施形態に係る酢酸製造装置10と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略する、あるいは簡略にする。
【0072】
図4に示すように、酢酸製造装置40は、第1のライトエンド蒸留部13が、水よりも沸点の低い軽質分を除去する軽質留分部41と、軽質留分部41からの留出液から水を除去する脱水部42と、を互いに異なる工程として有する。酢酸製造装置40においては、水添加部が、脱水部42で除去された水を含む排出流を前記フラッシュ蒸発部または前記第1のライトエンド蒸留部に戻す還流部43である。なお、ここではフラッシュ蒸発部12に水を添加する構成としているが、還流部43は第1のライトエンド蒸留部13に水を添加する構成としてもよい。
【0073】
軽質留分部41では、フラッシュ蒸発部12から流入した気相から、水よりも沸点の低い軽質分を蒸留により除去する。そのような軽質留分部41としては、例えば圧力0.1MPa~0.3MPa、温度130℃~160℃、理論段数10段~30段という条件の下で操作される蒸留塔が挙げられる。水および酢酸を含む流出液は、軽質留分部41下部より缶出液として流路44により脱水部42に導かれる。
【0074】
脱水部42では、軽質留分部41からの留出液から水が除去され、除去された水を含む排出流は、還流部43によりフラッシュ蒸発部12(または第1のライトエンド蒸留部13)に添加される。脱水部42では、軽質留分部41からの留出液を酢酸の濃度が70重量%以上となるように濃縮することが好ましく、98重量%以上となるように濃縮することがより好ましい。そのような脱水部42としては、例えば、圧力0.1MPa~0.4MPa、温度100℃~180℃、理論段数40段~70段という条件の下で操作される蒸留塔が挙げられる。一方、フラッシュ蒸発部12(または第1のライトエンド蒸留部13)に添加される溶液中の水の含有率は、操作性の観点から80重量%以上であることが好ましい。そのため、脱水部42から排出される排出流中の水の含有率が80重量%以下である場合は、脱水部42から排出された排出流中の水を濃縮するための工程をさらに設けてもよい。
【0075】
酢酸製造装置40では、軽質留分部41から排出流として排出される気相が、ヨウ化メチル吸収部18bに導かれ、下部から導入される。
【0076】
なお、酢酸製造装置40は、脱水部42からの排出流から水以外の成分を除去して水を濃縮する第2のライトエンド蒸留部や1つ以上の水濃縮部をさらに有してもよい。また、軽質留分部41および/または脱水部42からの排出流を水相と油相に分離するデカンタ等の分離手段をさらに有してもよい。
【実施例
【0077】
以下の実施例では、図3に示す酢酸製造装置30と同様の構成の装置を用いた。また、反応器11におけるカルボニル化反応は、ロジウムの錯体を担持した固体触媒と、助触媒としてヨウ化メチルを含む液相中で、メタノールと一酸化炭素を反応させる不均一系で行った。
【0078】
反応器11としては連続式混合槽を用いた。まず、一酸化炭素分圧1.8MPa、液空塔速度は0.3m/s、固体触媒濃度は280kg/mの条件において定常運転をおこなった。このときkla値(疋田らの式で求められる液相容量係数)は塔頂部で約1000Hr-1、ガス導入部で約5000Hr-1となり、総合反応生産性(単位反応体積あたりの酢酸生成速度)10kmol/h/mで酢酸を生成する。
【0079】
反応器11の反応生成液を、スクリーンを通してフラッシュ蒸発部12に導入し、恒温フラッシュにより気相と液相を得た。フラッシュ蒸発により生じた気相は、後段の第1のライトエンド蒸留部13として圧力0.1MPa~0.5MPa、温度20℃~180℃、理論段数20段~60段という条件の下で操作される蒸留塔に導き、水を含む気相成分を分離した。
【0080】
続いて、第1のライトエンド蒸留部13としての蒸留塔からの水を含む塔頂流を、後段の第2のライトエンド蒸留部21として圧力0.1MPa~0.5MPa、温度70℃~160℃、理論段数20段~60段という条件の下で操作される蒸留塔に導き、水以外の成分を除去した。第2のライトエンド蒸留部21からの水を含む留出液は流路33を通して水濃縮部31に導いた。このとき、第2のライトエンド蒸留部21から排出された留出液中の水の含有率は約80重量%であった。
【0081】
続いて第2のライトエンド蒸留部21からの留出液を、水濃縮部31として圧力0.1MPa~0.3MPa、温度90℃~140℃、理論段数1~10段という条件の下で操作される蒸留塔でさらに精製し、水の含有率約80重量%の水を含む溶液を得た。この水を含む溶液を、還流部32を通してフラッシュ蒸発部12に添加した。
【0082】
水のフラッシュ蒸発部12への添加は、フラッシュ蒸発部12に流入する反応生成液の流入量に対する、添加される溶液中の水の割合(以下、水添加率とする)が、以下の条件となるようにして行った。
条件1:水添加率 0.8重量%
条件2:水添加率 0.5重量%
条件3:水添加率 0.3重量%
条件4:水添加率 0.1重量%
条件5:水添加率 0重量%(添加無し)
【0083】
また、上記各条件において、酢酸製造装置40で生産された製品酢酸中のクロトンアルデヒドの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、水を添加しない条件5と比べて条件1~4では製品中のクロトンアルデヒド濃度が低く、クロトンアルデヒドの除去効率を上げることができた。さらに、水添加率が0.5重量%以上である条件1および2では、条件3および条件4よりもさらに効果的にクロトンアルデヒドの除去効率を上げることができた。
【符号の説明】
【0086】
10、20、30、40 酢酸製造装置
11 反応器
12 フラッシュ蒸発部
13 第1のライトエンド蒸留部
14 水添加部
21 第2のライトエンド蒸留部
22、32 還流部
31 水濃縮部
41 軽質留分部
42 脱水部
図1
図2
図3
図4