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特許7555193炭素質粒体の熱処理装置及びその組み立て方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】炭素質粒体の熱処理装置及びその組み立て方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/00 20170101AFI20240913BHJP
   F27B 1/14 20060101ALI20240913BHJP
   F27B 1/09 20060101ALI20240913BHJP
   F27D 11/04 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C01B32/00
F27B1/14
F27B1/09
F27D11/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020046859
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021147259
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591098798
【氏名又は名称】日本電極株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】戸田 晋次郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓永
(72)【発明者】
【氏名】蒲 雄一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 信元
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-001923(JP,A)
【文献】特開平09-095676(JP,A)
【文献】実開昭58-135700(JP,U)
【文献】特開昭61-134582(JP,A)
【文献】特開平08-089924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
F27B 1/14
F27B 1/09
F27D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体内部に投入した炭素質粒体に熱処理を行う炭素質粒体の熱処理装置であって、
前記炉体内部を降下する炭素質粒体に熱処理を行う管状構造体を備え、
前記管状構造体は、円筒状であり、
円筒状の前記管状構造体は、当該管状構造体の中心軸に沿って3~6に等分割してなる3~6の部分円筒部を、その周方向に接合してなる、
炭素質粒体の熱処理装置。
【請求項2】
前記炉体の中心軸上に上下に配置される円柱状の上部電極及び円筒状の下部電極と、前記下部電極の上端を囲うように設けられるツバブロックとを更に備え、
前記管状構造体は、前記上部電極を囲うように前記ツバブロック上に載置され、前記ツバブロックを介して前記下部電極と電気的に接続され、
前記上部電極及び下部電極が前記管状構造体内部の前記炭素質粒体に直接通電することにより熱処理を行う、
請求項1に記載の炭素質粒体の熱処理装置。
【請求項3】
前記部分円筒部の内周面にはスロープが設けられ、
前記スロープの下端は、前記下部電極の上端と接続され、前記スロープの内周面によって前記部分円筒部の内周面及び前記下部電極の内周面は連続している、
請求項2に記載の炭素質粒体の熱処理装置。
【請求項4】
前記上部電極は、当該上部電極の先端に向けてテーパーがかかっており、
前記上部電極及び前記管状構造体を前記炉体の中心軸に沿って切断した切断面において、前記中心軸に対する前記スロープの傾斜角度と、前記中心軸に対する前記テーパーの角度が同一である、
請求項3に記載の炭素質粒体の熱処理装置。
【請求項5】
前記上部電極を側面から支持する一対のバスバーを更に備え、
前記バスバーは、可撓部を有する、
請求項3または4に記載の炭素質粒体の熱処理装置。
【請求項6】
炭素質粒体の熱処理装置の組み立て方法であって、
円筒状の下部電極の上端を囲うようにツバブロックを設けるステップと、
前記ツバブロック上に、内周面にスロープが設けられた3~6の部分円筒部を載置するステップと、
前記3~6の部分円筒部をその周方向に接合して管状構造体を形成するステップと、
を備える炭素質粒体の熱処理装置の組み立て方法。
【請求項7】
前記管状構造体の外周面を締め付けるステップを更に備える請求項6に記載の炭素質粒体の熱処理装置の組み立て方法。
【請求項8】
前記下部電極に対向し、前記管状構造体に囲われるように上部電極を設けるステップと、
平面視において、前記上部電極と前記管状構造体とが同心円状になるように、前記上部電極を平面方向に移動させるステップと、
を更に備える請求項6または7に記載の炭素質粒体の熱処理装置の組み立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質粒体の熱処理装置及びその組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無煙炭粒、コークス粒、炭素質造粒体、金属酸化物と炭素の混合造粒体等の炭素質粒体の物理特性は熱処理温度によって著しく変化するので、電極用原料や炭素質耐火物用の原料、電子材料あるいは電池材料などとして使用する場合には、均一な熱処理が必要である。また、金属酸化物と炭素の混合品を熱処理により還元反応させて各種金属の炭化物を得る場合においても、狙った反応を確実にするためには均一に熱処理することが不可欠である。
【0003】
そこで従来から、無煙炭粒などの炭素質粒体を縦型電気熱処理炉内に投入し、炭素質粒体に直接通電することにより連続的に1500℃~2000℃程度で熱処理する方法が、電気焙焼技術として広く使用されている。また、3000℃程度で均一に連続黒鉛化する方法が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-167208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱処理装置での炭素質粒体の熱処理においては、炉内における炭素質粒体の充填度を均一にするとともに炭素質粒体の単位時間当たりの流量を均一にする必要がある。炭素質粒体の充填度が不均一であると、炭素質粒体に対する熱処理が不均一となるばかりか、炭素質粒体の流動が阻害され、最悪の場合は静止層を形成し炉内閉塞を引き起こす虞がある。また、部分的に炭素質粒体の流動が乱れ、炉内を降下する炭素質粒体の単位時間当たりの流量がその降下位置によって異なることによっても、同様の問題が生じ得る。
【0006】
特に、炭素質粒体に直接通電することにより当該炭素質粒体を連続的に熱処理する縦型電気熱処理炉においては、充填度の変化に伴う電気比抵抗の変化が電流経路に影響を与えることになり、その結果、炭素質粒体が充填されている炉体内に電流が局所的に流れる現象、すなわち偏流が発生する可能性がある。また、管状構造体内部には円柱形状の上部電極が伸びているが、管状構造体の内周面と上部電極の外周面との距離が不均一である場合も、偏流が発生する可能性がある。
【0007】
縦型電気熱処理炉内において偏流が発生した場合、炭素質粒体を均一に熱処理することができなくなるだけでなく、偏流箇所が著しく高温となることがある。このように局所的に著しい高温部が生じると、炉内の炭素質粒体において、炭素の昇華が起こる。その結果、電極の局所的な消耗を引き起こす虞や、昇華したガスが冷えて凝結し、いわゆるブリッジ部ができてしまい、炉内閉塞を引き起こす虞があった。炉内に炭素質粒体の閉塞が発生すると、連続操業を継続することは困難となり、生産性が低下した。
【0008】
このような炭素質粒体の充填度が不均一となる原因の一つに、当該炭素質粒体に熱処理を行う管状構造体の形状がある。一般に、管状構造体は、一本の管状材料で成り立っている。この場合は、完全な円筒形状とすることができるため、炭素質粒体の充填度も均一となり易い。ところが、工業的生産を目的とする規模の装置とすると、管状構造体の内径を少なくとも400mm以上、より生産性を高めるためには800mm以上とすることが好ましいため、管状構造体に適する所望の大きさの素材が無い、または確保が困難という課題があった。具体的には、管状構造体は、工業的に製造されている炭素質や黒鉛質(人造黒鉛)のブロック素材や丸電極素材から切り出されるが、これらの素材サイズの限界から、切り出される管状構造体の管径にも限界があった。
【0009】
そのため、工業的生産を目的とする規模の装置に使用する管状構造体は、複数枚の人造黒鉛からなる板の長辺同士を接合してなる多角柱状の中空構造体であった。例えば、従来の管状構造体44の平面図である図10に示すように、16枚の板の長辺同士を接合してなる正十六角柱状の中空構造体であった。しかしながら、板の長辺同士を接合して正多角柱を形成する場合、接合面でのズレが生じやすく、如何に精度良く接合を行ったとしても、接合面が多いため、僅かなズレが積み重なって正確な正多角形とすることは困難であった。すなわち、管状構造体の形状に歪みが残るために、炭素質粒体の充填度が不均一となってしまっていた。
【0010】
特に、熱処理装置が縦型電気熱処理炉である場合においては、仮に管状構造体を正十六角柱状に形成できたとしても問題が残る。すなわち、平面視において、上部電極の外周から管状構造体44の正十六角形の辺までの距離と、正十六角形の角までの距離とは、異なることが分かる。このような距離の差は、通電時の電気抵抗の差に繋がるため、偏流が発生するおそれがある。特に、接合面でのズレが積み重なることを避けるために、正十六角形状から正八角柱形状として多角柱の角を減ずると、上部電極の外周から管状構造体の辺までの距離と管状構造体の角までの距離との差がさらに大きくなってしまう。
【0011】
さらに、図10に示すように、管状構造体44内部の側面には炭素質粒体の降下をスムーズにするためのスロープ444が設けられ、当該スロープ444の下端が下部電極45の開口部451上端と接続されている。このスロープ444においても組み立て時の接合面のズレが生じやすいため、管状構造体44内部の側面及び下部電極45の上端に精度良く接合を行うことは困難であった。
【0012】
また、下部電極および管状構造体の外側には断熱層を設けて炉外への放熱を防止することが望ましいが、管状構造体の接合面数が多いと、施工時の歪みや操業時の熱膨張などにより、接合面にすき間が生じ易い。これにより、外側の断熱層を形成する断熱材料が炉内に混入し、炭素質粒体の流動や伝熱、熱処理時の電流経路に悪影響を及ぼす。また、熱処理後の熱処理品への異物混入という事態に陥る。
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべく、炭素質粒体の充填度の変化や流動性の乱れ、これらによる炉内閉塞が発生することなく、炭素質粒体の熱処理を均一且つ長期にわたり継続することができ、生産性の向上を図った炭素質粒体の熱処理装置及びその組み立て方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の炭素質粒体の熱処理装置は、次のような構成を備える。
(1)炉体内部に投入した炭素質粒体に熱処理を行う炭素質粒体の熱処理装置である。
(2)前記炉体内部を降下する炭素質粒体に熱処理を行う管状構造体を備える。
(3)前記管状構造体は、円筒状である。
(4)円筒状の前記管状構造体は、当該管状構造体の中心軸に沿って3~6に等分割してなる3~6の部分円筒部を、その周方向に接合してなる。
【0015】
本発明の炭素質粒体の熱処理装置は、更に次のような構成を備えても良い。
(1)前記部分円筒部の内周面にはスロープが設けられ、前記スロープの下端は、前記下部電極の上端と接続され、前記スロープの内周面によって前記部分円筒部の内周面及び前記下部電極の内周面は連続している。
【0016】
(2)前記炉体の中心軸上に上下に配置される円柱状の上部電極及び円筒状の下部電極と、前記下部電極の上端を囲うように設けられるツバブロックとを更に備え、前記管状構造体は、前記上部電極を囲うように前記ツバブロック上に載置され、前記ツバブロックを介して前記下部電極と電気的に接続され、前記上部電極及び下部電極が前記管状構造体内部の前記炭素質粒体に直接通電することにより熱処理を行う。
【0017】
(3)前記上部電極は、当該上部電極の先端に向けてテーパーがかかっており、前記上部電極及び前記管状構造体を前記炉体の中心軸に沿って切断した切断面において、前記中心軸に対する前記スロープの傾斜角度と、前記中心軸に対する前記テーパーの角度が同一である。
【0018】
(4)前記上部電極を側面から支持する一対のバスバーをさらに備え、前記バスバーは、可撓部を有する。
【0019】
本発明の炭素質粒体の熱処理装置の組み立て方法は、次のような構成を備える。
(1)円筒状の下部電極の上端を囲うようにツバブロックを設けるステップ。
(2)前記ツバブロック上に3~6の部分円筒部を載置するステップ。
(3)前記3~6の部分円筒部をその周方向に接合して管状構造体を形成するステップ。
【0020】
本発明の炭素質粒体の熱処理装置の組み立て方法は、更に次のような構成を備えてもよい。
(1)前記管状構造体の外周面を締め付けるステップ。
(2)前記下部電極に対向し、前記管状構造体に囲われるように上部電極を設けるステップと、平面視において、前記上部電極と前記管状構造体とが同心円状になるように、前記上部電極を平面方向に移動させるステップ。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、炭素質粒体の充填度の変化や流動性の乱れ、これらによる炉内閉塞が発生することなく、炭素質粒体の熱処理を均一且つ長期にわたり継続することができ、生産性の向上を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施形態に係る炭素質粒体の熱処理装置を示す側面図。
図2】第1の実施形態に係る投入部を示す平面図。
図3】第1の実施形態に係る投入部を示す側面図。
図4】第1の実施形態に係るチャージングホッパー及びスカートを示す側面図。
図5】第1の実施形態に係る管状構造体を示す平面図。
図6】第1の実施形態に係るスロープを示す斜視図。
図7】第1の実施形態に係るスロープを示す側面図。
図8】第1の実施形態に係るツバブロックを示す平面図。
図9】第1の実施形態に係る炭素質粒体の熱処理装置の動作を示すフローチャート。
図10】従来の管状構造体を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[1.第1の実施形態]
[1-1.構成]
[炭素質粒体]
まず、第1の実施形態に係る炭素質粒体の熱処理装置に用いる炭素質粒体Aについて説明する。炭素質粒体Aは、無煙炭粒、コークス粒、及びこれらの混合物からなる造粒体、金属酸化物と炭素の混合物の造粒体などの粒体を使用することが可能である。また、無煙炭やコークスとしては、カルサイン(仮焼)していないものを含んでも良く、コークスには石油コークス、石炭コークス、フルードコークス、ニードルコークスなどがある。無煙炭粒、コークス粒は、塊状の無煙炭やコークスを粉砕してなる例えば10mm~20mm程度の粒体である。造粒体は、例えば無煙炭やコークス由来の炭素粉、人造黒鉛粉、金属酸化物などの原料にバインダーや水を混合し、例えばディスクペレッタなどの造粒機によって形成され、さらに乾燥処理を経て硬化した粒体である。バインダーは、例えばでんぷん粉末、特にαコーンスターチ粉を使用することが出来る。硬化、炭化処理できるものであれば、バインダーには、ピッチやフェノール樹脂、他の合成高分子化合物、水溶性多糖類などを使用することも出来る。本実施形態の炭素質粒体Aは、表面が滑らかな円柱状で、直径は10mm程度、高さは10mm~15mmの造粒体である。本実施形態では、炭素質粒体Aが直接通電されることによりジュール熱を発生し、熱処理される。
【0024】
[熱処理装置]
次に、第1の実施形態に係る炭素質粒体の熱処理装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る熱処理装置1の構成を示す側面図である。熱処理装置1は、炭素質粒体Aの熱処理を行う炉体21を備える。本実施形態の炉体21としては、直接通電することにより加熱処理を行う直接通電加熱方式や、外周部に熱源を備え、外側から炉芯管や加熱容器を加熱し熱処理する間接加熱方式などを用いることができる。以下では、炉体21は直接通電加熱方式の縦型電気熱処理炉であるものとして説明する。熱処理装置1は、炉体21の上方から投入された炭素質粒体Aが炉体21内部を徐々に降下する間に通電することにより、炭素質粒体Aの熱処理を連続的に行う。この熱処理装置1は、炭素質粒体Aを炉体21に投入する投入部10と、投入された炭素質粒体Aを熱処理する熱処理部20と、熱処理した炭素質粒体Aを冷却するための冷却部30と、を備える。投入部10、熱処理部20及び冷却部30は、炉体21の上方から下方に向けて順次設けられる。また、炉体21は熱処理部20の一部を構成する。炭素質粒体Aは、炉体21内部、及び投入部10と冷却部30内部の少なくとも一部を満たしているものとする。なお、本明細書において、上方とは重力に逆らう方向を指し、下方とは重力に従う方向を指すものとする。
【0025】
[投入部]
図2乃至4を参照しつつ、投入部10について説明する。投入部10は、炭素質粒体Aを炉体21内部に上方から投入するものであって、炭素質粒体Aの投入経路に従って、架台11、分配ホッパー12、フィーダー13、原料ビン14、チャージングホッパー15、スカート16を備える。
【0026】
架台11は、投入部10の上部に設けられ、クレーンなどによって持ち上げられたフレコンバッグを載置するための台である。このフレコンバッグには熱処理対象となる炭素質粒体Aが入っており、このフレコンバッグから炭素質粒体Aが分配ホッパー12へと投入される。分配ホッパー12は、投入された炭素質粒体Aを底面に設けられた孔から分配する容器である。本実施形態の分配ホッパー12は、例えば、概略矩形の底面の四隅にそれぞれ1つの孔が設けられている。これら4つの孔には、当該孔の縁から下方へと漏斗状に伸びてなるコーン部121がそれぞれ設けられている。各コーン部121の下端は、いずれも開口している。分配ホッパー12に投入された炭素質粒体Aは、これら4つの孔からコーン部121内部を降下し、当該コーン部121の下端の開口直下にそれぞれ設けられたフィーダー13上に吐き出される。
【0027】
フィーダー13は、分配ホッパー12から原料ビン14へと炭素質粒体Aを送り出す機構及び経路である。フィーダー13は、炭素質粒体Aに含まれる微粉末を除去する機能を具備する。本実施形態では、フィーダー13の経路上には、例えば目開き4mm以上の篩が設けられている。篩は、例えば金属製のメッシュやパンチングメタルである。すなわち、フィーダー13は、炭素質粒体Aを送り出す過程において、当該炭素質粒体Aに含まれる微粉末を除去することが出来る。さらに、フィーダー13は、例えば電磁振動方式などによる振動機能を具備する振動フィーダーであってもよい。フィーダー13が振動フィーダーである場合、当該フィーダー13上で炭素質粒体Aを振動させながら送り出すことが出来るので、経路上に設けられた篩からより効果的に微粉末を除去することが出来る。また、フィーダー13と原料ビン14は、例えばゴム管やゴム板、磁製板などからなる絶縁体13aを介して互いに対向している。熱処理装置1の稼働時には、フィーダー13と原料ビン14がこの絶縁体13aを介して接続され、外部からの埃などの侵入を防ぐ構造とすることが好ましい。
【0028】
原料ビン14は、炭素質粒体Aを収容する容器である。原料ビン14の材質は、耐久性、耐食性に優れた材質であることが好ましい。特に、原料ビン14の材質が鋼材である場合、鋼材の錆などが炉内に混入する虞がある。そのため、原料ビン14の材質は、例えば耐熱ステンレス、特にSUS310Sが好適である。原料ビン14は、フィーダー13から炭素質粒体Aを受け取る円筒状の円筒部141と、その下部に設けられ、下方へ向けて窄まるコーン部142とからなる。円筒部141とコーン部142は内部で繋がっており、コーン部142の下部は開口しているので、フィーダー13から送り出された炭素質粒体Aは、原料ビン14内部を降下することが出来る。原料ビン14内部には、図示しない満量計や流量計、または同様の機能を有するセンサ類が設置されており、原料ビン14内部における炭素質粒体Aの量や流量と、フィーダー13の稼働、停止を連動させてフィーダー13から送り出す量を調整することで、原料ビン14内部における炭素質粒体Aを任意の量あるいは流量に保つことができる。コーン部142の下部には、開口を開閉する図示しない開閉ダンパーが設けられており、炭素質粒体Aの種類を切り替える時やトラブルの際などは炭素質粒体Aの降下をここで一時停止することが出来る。コーン部142のコーン角は、例えば30°以下であり、特に好ましくは15°以下である。
【0029】
本実施形態の原料ビン14は、分配ホッパー12が炭素質粒体Aを分配する分配数すなわち4つの孔に対応して4つ設けられている。4つの原料ビン14は、その下方に設けられる炉体21の中心軸の概略同心円上に等間隔に配置されている。すなわち、4つの原料ビン14は、この中心軸を中心とした円周上に90°の円周角ごとに設けられている。なお、概略同心円上とは、各構成の寸法誤差及び組み立てに係る誤差程度であれば、同心円上とするという意味である。
【0030】
図2及び3に示すように、本実施形態の分配ホッパー12は、4つの原料ビン14の真上には配置されていない。換言すると、分配ホッパー12は、その下方に設けられる炉体21の中心軸から、前記炉体21の外周方向に離間した位置に設けられている。これに伴い、複数のフィーダー13は、分配ホッパー12と原料ビン14とを繋ぐ方向、本実施形態では概略水平方向に延伸して設けられている。すなわち、分配ホッパー12が4つの原料ビン14の真上から離間するほど、フィーダー13はその経路長が長くなる。なお、図2に示すように、各フィーダー13の経路長は互いに異なるが、最も短いものであっても十分に微粉末を除去することができる。最も短いフィーダー13の長さは、例えば70cmである。
【0031】
図4に示すように、原料ビン14の下方に設けられるチャージングホッパー15は、その上下端にそれぞれ開口部151、152が設けられた円錐台状の容器であり、下方へ向けて内径が窄まっている。チャージングホッパー15の下部に設けられるスカート16は、その上下端にそれぞれ開口部161、162が設けられた下方へ向けて内径の窄まった円錐台状または円筒状の容器である。チャージングホッパー15の開口部152とスカート16の開口部161は連続して設けられている。また、チャージングホッパー15及びスカート16は、いずれも炉体21の中心軸と同軸上に設けられている。
【0032】
チャージングホッパー15及びスカート16は、断熱性を有する二重構造の容器であることが好ましい。断熱性を有する二重構造とすることによって、熱処理部20からの輻射熱や伝熱を緩和することが出来る。チャージングホッパー15及びスカート16の材質は、耐久性、耐食性に優れた材質であることが好ましい。特に、チャージングホッパー15及びスカート16の材質が鋼材である場合、鋼材の錆などが炉内に混入する虞がある。そのため、チャージングホッパー15及びスカート16の材質は、例えば耐熱ステンレス、特にSUS310Sが好適である。また、当該二重構造の内部空間は、そのまま空洞として空気層としても良いが、空気や冷却ガスを吹き入れても良く、さらに断熱材を埋め込んでも良い。
【0033】
チャージングホッパー15及びスカート16は、原料ビン14から吐き出された炭素質粒体Aを一時的に貯留し、熱処理部20へと投入するが、図1に示すように、チャージングホッパー15及びスカート16内部には、後述の上部電極22が貫通している。
【0034】
[熱処理部]
熱処理部20は、炉体21と、上部電極22と、スカート16から投入された炭素質粒体Aを一時的に貯蔵する燃焼室23と、燃焼室23の下部に設けられ、炭素質粒体Aにその内部を降下させる管状構造体24と、管状構造体24の下部に設けられ、炭素質粒体Aにその内部を降下させる下部電極25と、炉体21の内周面と管状構造体24及び下部電極25の外周面との間に存在する断熱層26と、を備える。すなわち、熱処理部20における炭素質粒体Aは、燃焼室23、管状構造体24、下部電極25の順に降下する。
【0035】
炉体21は、図示しない耐火物で内張りされた円筒状の炉殻である。耐火物は、例えば耐火レンガである。炉体21の中心軸上には、炭素質粒体Aに直接通電する円柱状の上部電極22が設けられる。上部電極22は、炉体21の上方に設けられているチャージングホッパー15及びスカート16内部、さらに燃焼室23内部を貫通し、管状構造体24の内部にまで伸びている。上部電極22は、その側面を図示しない一対のバスバーによって支持されている。このバスバーは、可撓性(flexibility)を備える可撓部を有する。可撓部は、例えば導電性を有する金属製の可撓線を編み込んでなり、上部電極22が平面方向に移動することを可能にする。すなわち、平面視で管状構造体24に対して同心円状となるように上部電極22を平面方向に移動させると、この可撓部が変形することにより、管状構造体24に対する上部電極22の相対位置が維持される。さらに、この相対位置をより確実なものとするために、管状構造体24に対して同心円状となるように移動した後の上部電極22を図示しない固定部で固定してもよい。なお、平面方向とは、上部電極22の長手方向に直交する方向である。
【0036】
炉体21の内部には、上部電極22を囲うように燃焼室23が設けられている。燃焼室23は、上述の投入部10のスカート16から投入された炭素質粒体Aを一時的に貯蔵する円筒状の空間である。燃焼室23の内部空間は、その側面を炉体21の内周面によって、その上面をスカート16の外周と炉体21の内周上部とを繋いでなる炉蓋211によって、その底面を管状構造体24の外周面に存在する断熱層26の上面によって、画成されている。炉蓋211は、例えば、耐熱ボードで構成されているが、キャスターや耐火物で内張りされた鋼材で構成しても良い。断熱ボードは、例えば耐熱繊維からなる成形体を用いても良い。また、図4に示すように、スカート16は、燃焼室23の上面を貫通して当該燃焼室23内部に突出し、スカート16の下端に設けられた開口部162は、燃焼室23の底面と所定の距離だけ上下方向に離間している。この所定の距離は、例えば30~100cmであり、好ましくは50~80cmである。この所定の距離とスカート16の開口部162の径を調整することによって、炭素質粒体Aは、開口部162から燃焼室23の底部まで錘状に連続して存在するように堆積する。
【0037】
煙突231は、燃焼室23に設けられる。特に、円筒状の燃焼室23の周方向に等間隔に複数設けられることが好ましい。周方向に等間隔に複数設けるとは、例えば2つ設けるのであれば180°ごとに、3つ設けるのであれば120°ごとに、4つ設けるのであれば90°ごとに、燃焼室23の中心軸を中心として複数の煙突231を設けるという意味である。本実施形態では、煙突231は180°ごとに2つ設けられている。
【0038】
燃焼室23の下部には、上部電極22の少なくとも一部を囲うようにして導電性の管状構造体24が設けられている。管状構造体24は、例えば人造黒鉛からなる。管状構造体24は、その上下端にそれぞれ開口部241、242を備え、開口部241によって燃焼室23と、開口部242によって管状構造体24の下部に設けられる下部電極25内部と、それぞれ連通している。下部電極25は、管状構造体24の下部に、上部電極22に対向し且つ所定の距離だけ下方に離間して設けられる円筒状の電極である。下部電極25は、その上下端にそれぞれ開口部251、252を備える。下部電極25の上端に設けられた開口部251は、管状構造体24の下端に設けられた開口部242と後述のツバブロック253を介して電気的に接続されている。従って、上部電極22及び下部電極25が通電されると、管状構造体24の開口部241から下部電極25の開口部251にかけて加熱帯が形成されることになる。換言すると、炭素質粒体Aは、上部電極22及び下部電極25が通電されることによって管状構造体24内部で熱処理される。なお、熱処理部20の上部電極22、燃焼室23、管状構造体24、開口部241、242、下部電極25、開口部251、252は、全て炉体21の中心軸と同軸上に設けられることが好ましい。
【0039】
管状構造体24及び下部電極25の外周面と炉体21の内周面との間には、例えばカーボンブラックからなる断熱層26が設けられている。この断熱層26は、管状構造体24及び下部電極25周辺に発生する熱を外部と遮断している。
【0040】
本実施形態の管状構造体24について、図5及び図6を参照しつつ説明する。管状構造体24は、例えば人造黒鉛からなる円筒状の中空構造体である。管状構造体24は、3~6の部分円筒部をその周方向に接合してなる。本実施形態の部分円筒部は、円筒状の管状構造体24の中心軸に沿って円周角が90°となるように4つに切り分けた四分円筒部243とする。さらに、四分円筒部243の内周面、すなわち4つの四分円筒部243をその周方向に接合して管状構造体24とした場合に当該管状構造体24の内周面となる面には、スロープ244の外周面が接合している。この接合は、例えばモルタルによる接着や、粘着物による貼り合わせによってなる。以降の説明では、モルタルによる接着を例に説明する。ここで言うモルタルとは、無煙炭や人造黒鉛、コークスなどの炭素質の粉を骨材とし、フェノール樹脂などのバインダーを加えて練った、モルタル状の目地材、充填剤や接着剤のことを指す。バインダーの種類に特に制限はなく、ピッチ、タールや樹脂類、水溶性の多糖類などが使用でき、施工性などを勘案し、任意のバインダー量とすることができる。
【0041】
スロープ244は、図6に示すように、直角三角柱を、その2つの底面を結ぶ方向に扇形に引き延ばした形状である。すなわち、スロープ244の外周面、内周面及び底面は、引き延ばされる前の直角三角柱における3つの側面であり、4つのスロープ244を互いに接着する面は、引き延ばされる前の直角三角柱における上面及び底面である。
【0042】
また、図7に示すように、本実施形態の上部電極22の先端は、その中心軸に沿って切断した切断面において、管状構造体24のスロープ244の傾斜角度と略平行になるようにテーパーをかけることが好ましい。なお、上部電極22の先端を尖らせる必要はなく、図7に示すように、テーパーの途中で先端を丸めても良い。
【0043】
以上のように、管状構造体24は、上述の四分円筒部243の内周面とスロープ244の外周面とを接着したものを、さらに四分円筒部243の周方向に接着することによって形成される。従って、管状構造体24と下部電極25の接続においては、四分円筒部243の下端及びスロープ244の底面が下部電極25の上端と接続され、スロープ244の内周面によって四分円筒部243の内周面と下部電極25の内周面が連続している。
【0044】
また、管状構造体24を形成するための接着においては、4つの四分円筒部243の外周面、すなわち形成される管状構造体24の外周面を、外側から管状構造体24の中心に向けて締め付けて固定されることが好ましい。このような外周面からの締め付けによって、管状構造体24は平面視で略円形となった状態で固定される。
【0045】
さらに、本実施形態の管状構造体24は、下部電極25の上端を囲うように設けられたツバブロック253上に設けられ、下部電極25と電気的に接続されている。ツバブロック253は、下部電極25の側面に接着などにより設けられ、その上面が下部電極25の上面(開口部251を形成する面)と同一平面になるように設けられている板状のブロックである。本実施形態のツバブロック253は、図8に示すように、4枚の板状のブロックから構成され、正十六角形の中心が円形に空洞となった形状となっている。
【0046】
ツバブロック253の上面は、水平面との平行度を確保することが重要で、平行度1mm以下が好ましいが、0.1mm以下がさらに好ましい。この水平面との平行度を確保したツバブロック253の上面に管状構造体24を設置する。管状構造体24は、ツバブロック253の上に載置しても良いが、管状構造体24の下面にセメントを塗布し、ツバブロック253と接着しても良い。なお、ツバブロック253は、下部電極25の外周面に支持されているだけでなく、下部電極25の外周面と炉体21の内周面との間に介在する断熱層26により下側からも支持されている。
【0047】
組み立て方法としては、まず下部電極25の上端を囲うようにツバブロック253を設け、このツバブロック253の上面に四分円筒部243を載置する。次に、ツバブロック253上で、四分円筒部243を周方向に接合して管状構造体24を形成する。ツバブロック253上に載置された管状構造体24は、その自重により安定した静置状態となる。なお、四分円筒部243を接合した後、管状構造体24を外周面から締め付けてもよい。続いて、下部電極25に対向するように、かつ先端が管状構造体24に囲われるように、上部電極22が設けられる。上部電極22は、先端を管状構造体24に囲われた状態で、管状構造体24と同心円状になるように、平面方向に移動させられる。この時、上部電極22を側面から支持するバスバーの可撓部が変形することで、同心円状となる位置関係が維持される。
【0048】
[冷却部]
冷却部30には、円筒形の水冷ジャケット31と、排出部32と、弁33が設けられている。水冷ジャケット31及び排出部32には冷却水が流れる図示しない配管が設けられている。熱処理部20から排出された炭素質粒体Aは、この水冷ジャケット31内部を通過することによって冷却される。また、水冷ジャケット31の上端部付近には下部電極25及び管状構造体24内部へとアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込むガス吹込み孔311が設けられている。ガス吹込み孔311は、水冷ジャケット31の周方向に等間隔に複数設けられることが好ましい。周方向に等間隔に複数設けるとは、例えば2つ設けるのであれば180°ごとに、3つ設けるのであれば120°ごとに、4つ設けるのであれば90°ごとに、水冷ジャケット31の中心軸を中心として複数のガス吹込み孔311を設けるという意味である。本実施形態のガス吹込み孔311は、例えば90°ごとに4つ設けられている。
【0049】
排出部32は、水冷ジャケット31内部で冷却した炭素質粒体Aを気密性に優れた弁33へと送り出す。排出部32は、例えば、熱処理部20及び水冷ジャケット31における炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量及び排出量を調整する旋回翼式定量排出装置である。なお、この旋回翼式定量排出装置は、後述の弁33から排出された炭素質粒体Aの重量情報を、弁33の排出先に設けられた図示しない重量計(ロードセル)から受け取り、当該重量情報の変化に応じて旋回翼の回転速度を調整し、以て炭素質粒体Aの排出量を調整することが出来る。この調整は、任意の重量計測時間を設定すれば良く、例えば1分ごとに行われる。また、排出部32は、弁33へと炭素質粒体Aを排出するための排出口以外に開口がないような密閉構造となっており、圧力測定センサ321が設けられている。この圧力測定センサ321によって熱処理部20及び水冷ジャケット31内部の内圧を測定することが出来る。炉体21の内外における気圧差が-25~200Paであると、炉体21の外部から空気を炉内に吸い込む虞が低減する。
【0050】
弁33は、排出部32から排出された炭素質粒体Aを熱処理装置1から排出する。換言すると、冷却部30は排出部32及び弁33からなる二重の排出構造を備えている。なお、排出部32から弁33までの炭素質粒体Aの経路空間は密閉されている。
【0051】
弁33は、内部に密閉空間を備え、所謂エアロックとしての役割を果たすことができる。ここでいうところの密閉とは、弁33によって外部と圧力分離ができる程度の気密性を指し、完全な密閉でない場合も含む。弁33は、例えばロータリーバルブである。このように、排出部32以降に気密性に優れた弁33を配置することにより、熱処理部20及び冷却部30内部の気密性を高めている。
【0052】
[1-2.作用]
本実施形態の熱処理装置1の動作について、図9のフローチャートを参照しつつ説明する。最初に、クレーンなどによって炭素質粒体Aの入ったフレコンバッグを持ち上げ、投入部10の上部に設けられた架台11に載置する(ステップS01)。フレコンバッグに入った炭素質粒体Aは、分配ホッパー12に投入される。投入された炭素質粒体Aは、分配ホッパー12の四隅に設けられた4つの孔及び4つのコーン部121から下方へと降下し、これら4つのコーン部121の出口の直下にそれぞれ設けられたフィーダー13へと吐き出される。各フィーダー13上の炭素質粒体Aは、対応する原料ビン14へと送り出される。この時、フィーダー13が炭素質粒体Aを送り出す過程において、炭素質粒体Aに含まれる微粉末は、当該フィーダー13の経路上に設けられた篩を介して分級され、図示しない経路から除去される。この微粉末は、炭素質粒体Aを運搬する過程で生じるものであるが、熱処理する炭素質粒体Aからは可能な限り除去することが望ましい。この微粉末が炭素質粒体Aの隙間に入り込んだ状態で熱処理部20に入ると、炉体21内部の充填度や流動性が局所的に変化し、電気比抵抗を不均一にさせるため、本明細書の課題で述べたような炉内閉塞や通電時の偏流を惹起する虞があるためである。
【0053】
微粉末が除去された炭素質粒体Aは、原料ビン14内部を降下する。このように、炭素質粒体Aは、分配ホッパー12、フィーダー13、原料ビン14において、4つに分配されて降下する(ステップS02)。
【0054】
4つの原料ビン14から吐き出された炭素質粒体Aは、チャージングホッパー15及びスカート16内部を降下することにより、スカート16の開口部162から熱処理部20の燃焼室23へと投入される。より詳細には、チャージングホッパー15及びスカート16内部には、後述の上部電極22が貫通しているので、炭素質粒体Aは、チャージングホッパー15及びスカート16の内周面と上部電極22の外周面との間を縫って降下し、燃焼室23へと投入される(ステップS03)。
【0055】
スカート16の開口部162と燃焼室23の底面は所定の距離だけ上下方向に離間しているので、スカート16の開口部162から投入された炭素質粒体Aは、上部電極22を中心に据えて燃焼室23内部で例えば安息角を成して錘状に堆積し、その一部が管状構造体24内部へと降下する。より詳細には、上部電極22は管状構造体24内部を貫通しているので、炭素質粒体Aは上部電極22の外周面と管状構造体24の内周面との間を縫って降下する。(ステップS04)。
【0056】
ところで、燃焼室23内部と炉体21内部の上部は比較的高温になるため、炭素質粒体Aに含まれるバインダーから可燃性ガスが発生する。また、炭素質粒体Aの原料である炭素粉には揮発性物質を含有している場合があり、この揮発性物質が揮発して可燃性ガスとなる。これらの可燃性ガスは、高温の燃焼室23内部で燃焼する。この燃焼ガスが燃焼室23に設けられた煙突231から排気されることによって燃焼室23及び炉体21内部にはドラフト効果が生じて上昇気流が発生する。この上昇気流によって、可燃性ガスは炭素質粒体Aの錐体表面に誘引され、当該錐体表面で燃焼する。また、炉体21内部の炭素質粒体Aには、下方のガス吹込み孔311からアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスが注入されている。従って、可燃性ガスの燃焼は燃焼室23内部の炭素質粒体Aが形成する錐体表面に止まり、炭素質粒体Aの内側までは進行しない。換言すれば、炭素質粒体Aは錐体表面のみが酸化し、錐体内側は酸化しない。このように、炭素質粒体Aは錐体表面でのみ酸化することにより、錐体内側を通ってスカート16から管状構造体24内部へと降下する炭素質粒体Aの酸化を防ぐことが出来る。
【0057】
本実施形態では、煙突231は180°ごとに2つ設けられている。このように等間隔に配置すれば、燃焼室23内部におけるドラフトの発生に偏りが無くなり、炭素質粒体Aから発生する可燃性ガスが当該炭素質粒体A内側を上昇する経路にも偏りが無くなるので、炉体21内部における炭素質粒体Aの温度も均等になる。
【0058】
上部電極22及び下部電極25に通電することにより、管状構造体24内部を降下する炭素質粒体Aは直接通電され、当該炭素質粒体Aに発生するジュール熱により熱処理される(ステップS05)。この熱処理によって、炭素質粒体Aは黒鉛化する。熱処理された炭素質粒体Aは、下部電極25内部を降下し、開口部252から冷却部30へと排出され、冷却部30の水冷ジャケット31で冷却されて、排出部32及び弁33によって熱処理装置1から排出される(ステップS06)。
【0059】
[1-3.効果]
(1)本実施形態の熱処理装置1は、円筒状の管状構造体24を備える。これにより、従来の正十六角柱状の管状構造体に比して、管状構造体24内部を降下する炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量や充填度を均一化することが出来るので、伝熱性の不均一化や、炭素質粒体が静止層を形成して炉内閉塞を引き起こす虞を低減することが出来る。
【0060】
この円筒状の管状構造体24は、3~6の部分円筒部からなる。これにより、従来の正十六角柱状の管状構造体を組み立てるのに16枚の板を必要としたのに比して、はるかに少ない部材で組み立てることが出来る。従って、組み立てられた管状構造体24に歪みが少なく、管状構造体24内部を降下する炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量や充填度をさらに均一化することが出来る。また、管状構造体24の組み立てにかかる工数も減少する。
【0061】
(2)本実施形態の3~6の部分円筒部の内周面にはスロープ244が設けられ、このスロープ244の内周面によって管状構造体24の内周面と円筒状の下部電極25の内周面とが連続している。これにより、炭素質粒体Aが管状構造体24内部から下部電極25内部へと滑らかに降下するので、炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量や充填度をさらに均一化することが出来る。
【0062】
(3)本実施形態の熱処理装置1は、上部電極22と下部電極25によって管状構造体24内部の炭素質粒体Aに直接通電して熱処理を行う。このような直接通電加熱方式の縦型電気熱処理炉である場合、炭素質粒体Aの密度における偏析が少ないほど通電時の電流の流れが均一となり、すなわち偏流が減少するため、管状構造体24内部における炭素質粒体Aの熱処理温度を均一にすることが出来る。さらに、偏流による局所的な高温部が炭素の昇華を引き起こす虞も低減させることが出来るので、熱処理装置1を長期間に亘って連続運転させても内部で閉塞を起こす虞を低減させることが出来る。
【0063】
また、本実施形態の管状構造体24は、下部電極25の上端を囲うように設けられるツバブロック253上に載置され、ツバブロック253を介して下部電極25と電気的に接続される。これにより、管状構造体24は安定した静置状態となり、当該管状構造体24に生じる歪みが少なくなる。従って、管状構造体24内部を降下する炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量や充填度をさらに均一化することが出来る。さらに、ツバブロック253により、下部電極25から管状構造体24への電流経路が確保されるため、通電時の管状構造体24内部における炭素質粒体Aへの通電が安定し、熱処理温度を均一にすることが出来る。
【0064】
(4)本実施形態の上部電極22は、その先端に向けてテーパーがかかっており、さらに炉体の中心軸に沿って切断した切断面において、この中心軸に対するスロープ244の傾斜角度と上部電極22の先端にかかったテーパーの角度が同一である。これにより、スロープ244近傍を降下する炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量や充填度をさらに均一化することが出来る。
【0065】
(5)本実施形態の上部電極22は、可撓部を有する一対のバスバーにより側面から支持されている。一般的なバスバーは、電流を流すアルミニウム製や銅製の板状の導電体であるため、上部電極を電源と接続した状態で平面方向に移動させることは容易でない。しかしながら、本実施形態のバスバーは可撓部を有するため、上部電極22を図示しない電源と接続した状態であっても平面方向に自由移動させることができる。このため、下部電極25に対して上部電極を設ける際に、平面視での位置を微調整することができ、管状構造体24と同心円状に位置させることができる。これにより、上部電極22の外周面から管状構造体24の内周面までの距離を等距離とすることができるので、通電時の偏流が減少するため、管状構造体24内部における炭素質粒体Aの熱処理温度を均一にすることが出来る。さらに、偏流による局所的な高温部が炭素の昇華を引き起こす虞も低減させることが出来るので、熱処理装置1を長期間に亘って連続運転させても内部で閉塞を起こす虞を低減させることが出来る。なお、上部電極22の平面方向への移動及び位置調整は、熱処理装置1の操業中に行うことも出来る。
【0066】
(6)本実施形態の熱処理装置1の組み立て方法は、3~6の部分円筒部を接合する。接合面の数も3~6となるため、接合面のズレを最小化することができ、組み立てられた管状構造体24に歪みが少なく、管状構造体24内部を降下する炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量や充填度を均一化することが出来る。また、接合面のズレが最小化されるため、施工時の歪みや操業時の熱膨張などにより、接合面にすき間が生じ難い。このため、外側の断熱層26を形成する断熱材料が炉内に混入し、炭素質粒体Aの流動や伝熱、電流経路に対する悪影響を防ぐことができ、長期間に亘って連続運転させても内部で閉塞を起こす虞を低減させることが出来る。また、熱処理後の熱処理品に断熱材が異物として混入することも防ぐことができる。
【0067】
また、管状構造体24の組み立てにおいて、鉛直方向のズレは、部分円筒部の内周面に設けられたスロープの鉛直方向のズレとなる。スロープの鉛直方向のズレは炭素質粒体の流下の不均衡に直結することになるので、熱処理装置による長期安定操業への影響は大きい。本実施形態の熱処理装置1の組み立て方法は、水平面との平行度を確保したツバブロック253の上面に、スロープが設けられた3~6の部分円筒部を静置していく。このような状態から管状構造体24を組み立てることで、3~6分割された各部分円筒部を円周方向に接合した際、ツバブロック253の水平面に沿って部分円筒部の下面が水平に保たれ、管状構造体24を歪みなく組み立てることができる。これにより、管状構造体24内部を降下する炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量や充填度を均一化することが出来る。
【0068】
(7)本実施形態の熱処理装置1の組み立て方法は、管状構造体24を外周面から締め付けて固定するようにした。これにより、組み立てられた管状構造体24に歪みが少なく、特に平面視では略円形を維持することが出来る。これにより、炉内における炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量をさらに均一化することが出来る。
【0069】
(8)本実施形態の熱処理装置1の組み立て方法は、上部電極22を管状構造体24と同心円状になるように、平行移動させるようにした。これにより、上部電極22の外周面と管状構造体24の内周面との距離を等しくすることができるので、炉内における炭素質粒体Aの単位時間当たりの流量をさらに均一化することが出来る。
【0070】
[2.他の実施形態]
本明細書においては、本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。以上のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0071】
(1)上述の実施形態では、炉体21は直接通電加熱方式の縦型電気熱処理炉としたが、例えば、上述の実施形態の上部電極22及び下部電極25を用いるのではなく、外周部に熱源を備え、外側から炉芯管や加熱容器を加熱し熱処理する間接加熱方式の縦型熱処理炉であっても良い。なお、このような間接加熱方式の縦型熱処理炉である場合、また直接通電加熱方式の縦型電気熱処理炉であっても上部電極22の長さが比較的短い場合であれば、分配ホッパー12を炉体21の中心軸と同軸上に設け、原料ビン14の真上に配置することも出来る。
【0072】
(2)上述の実施形態では、管状構造体24を4つの四分円筒部243の接合によって形成されるものとしたが、管状構造体24の中心軸に沿って円周角が120°となるように3つに切り分けた部分円筒部の接合によって形成されるようにしてもよい。同様に、管状構造体24の中心軸に沿って円周角が72°となるように5つに切り分けた部分円筒部の接合によって形成されるようにしてもよいし、管状構造体24の中心軸に沿って円周角が60°となるように6つに切り分けた部分円筒部の接合によって形成されるようにしてもよい。
【0073】
(3)上述の実施形態では、スロープ244の断面は直角三角形であるものとしたが、直角三角形でなくともよい。例えば、直角三角形の斜辺を対角に向けて凹ませ、三角形の内角の和を180°未満としてもよい。これにより、管状構造体24の内周面とスロープ244の内周面との継ぎ目がより滑らかなものとなり、炭素質粒体Aの降下もまたスムーズになる。
【0074】
(4)上述の実施形態では、部分円筒部にスロープを接合したが、管状構造体の歪みやズレ、組み立て時の作業性の観点からは、部分円筒部とスロープが一体成型された部材を用いることが好ましい。
【0075】
(5)上述の実施形態では、ツバブロック253は4枚の板状のブロックから構成されるものとしたが、可能な限り少ない枚数から構成されることが好ましい。例えば、2枚の板状のブロックから構成されることが好ましい。
【符号の説明】
【0076】
1 熱処理装置
10 投入部
11 架台
12 分配ホッパー
121 コーン部
13 フィーダー
13a 絶縁体
14 原料ビン
141 円筒部
142 コーン部
15 チャージングホッパー
151、152 開口部
16 スカート
161、162 開口部
20 熱処理部
21 炉体
211 炉蓋
22 上部電極
23 燃焼室
231 煙突
24 管状構造体
241、242 開口部
243 四分円筒部
244 スロープ
25 下部電極
251、252 開口部
253 ツバブロック
26 断熱層
30 冷却部
31 水冷ジャケット
311 ガス吹込み孔
32 排出部
321 圧力測定センサ
33 弁
44 管状構造体
444 スロープ
45 下部電極
451 開口部
A 炭素質粒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10