(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】大型中空状多孔質石英ガラス母材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
C03B8/04 C
(21)【出願番号】P 2020121187
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】角 児太郎
(72)【発明者】
【氏名】桑原 ひかり
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-505809(JP,A)
【文献】特表2013-530920(JP,A)
【文献】特開2016-003162(JP,A)
【文献】特開2002-167228(JP,A)
【文献】特表2001-504426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス微粒子合成用バーナーを所定の間隔で配置し、該バーナーを往復移動させ、回転するターゲット上にガラス微粒子を堆積させてスート体を成長させる工程と、
該スート体から該ターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を製造する工程と、
を含む、中空状多孔質石英ガラス母材を製造する方法であって、
成長時に変動する該スート体の外径に基づき該スート体の回転数を変動させることにより該スート体の回転周速を実際上一定となるように制御し、且つ該スート体の外径が250mmを超える範囲において下記式(1)により算出される頻度係数γが下記式(2)の範囲となるように設定することを特徴とする中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法。
γ=S/(L・N
m)・・・(1)
0.13≦γ<1.0 ・・・(2)
[前記式(1)において、Sは前記バーナーの移動速度(mm/分)、Lは前記バーナーの移動距離(mm)、N
mは前記スート体の変動する回転数の最低値(rpm)である。]
【請求項2】
前記バーナーの往復移動における折り返し位置を所定の距離ずつ移動させ、前記バーナーの1回の往復における折り返し位置の移動量が前記スート体に照射される前記バーナーの火炎径の1/3以下であることを特徴とする請求項1記載の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法。
【請求項3】
前記頻度係数γが0.13以上0.3以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の方法により得られる中空状多孔質石英ガラス母材を用いることを特徴とする合成石英ガラスシリンダの製造方法。
【請求項5】
外径が300mmを超え且つ長さ2m以上の円筒形の大型中空状多孔質石英ガラス母材であって、該母材全体の平均密度が、0.55g/cm
3以上で、且つ円筒断面の90°毎の4方向
の垂線で、径方向において内表面から等距離
(Xmm)の4点の
それぞれ1cm
3
当たりの密度の最大値と最小値の差を密度変動量と規定した時の、前記内表面から距離(Xmm)位置での単位長さあたりの密度変動量が4点の平均値に対して10%/cm以下であり、かつ、クラックを含まないことを特徴とする大型中空状多孔質石英ガラス母材。
【請求項6】
外径が500mm以上であり且つ長さ1.0m以上の円筒形の大型中空状多孔質石英ガラス母材であって、該母材全体の平均密度が、0.55g/cm
3以上で、且つ円筒断面の90°毎の4方向
の垂線で、径方向において内表面から等距離
(Xmm)の4点の
それぞれ1cm
3
当たりの密度の最大値と最小値の差を密度変動量と規定した時の、前記内表面から距離(Xmm)位置での単位長さあたりの密度変動量が4点の平均値に対して10%/cm以下であり、かつ、クラックを含まないことを特徴とする大型中空状多孔質石英ガラス母材。
【請求項7】
円筒断面の90°毎の4方向
の垂線で、径方向において内表面から等距離
(Xmm)の4点の
それぞれ1cm
3
当たりの密度の最大値と最小値の差を密度変動量と規定した時の、前記内表面から距離(Xmm)位置での単位長さあたりの密度変動量が4点の平均値に対して2%/cm以下である、
請求項5又は6記載の中空状多孔質石英ガラス母材。
【請求項8】
請求項5~
7のいずれか1項記載の中空状多孔質石英ガラス母材
がガラス化
された中空状合成石英ガラスシリンダであって、
外径200~500mm、長さ0.7m~3.5m、OH基濃度5ppm未満、含有塩素濃度500ppm以上3000ppm以下であり
、外観不良部を含まないことを特徴とする中空状合成石英ガラスシリンダ。
【請求項9】
前記中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置の塩素濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して15%以内であることを特徴とする請求項
8記載の中空状合成石英ガラスシリンダ。
【請求項10】
請求項5~
7のいずれか1項記載の中空状多孔質石英ガラス母材
がガラス化
された中空状合成石英ガラスシリンダであって、
外径200~500mm、長さ0.7m~3.5m、OH基濃度50ppm以上500ppm以下であり
、外観不良部を含まないことを特徴とする中空状合成石英ガラスシリンダ。
【請求項11】
前記中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置のOH基濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して15%以内であることを特徴とする請求項
10記載の中空状合成石英ガラスシリンダ。
【請求項12】
請求項
7記載の中空状多孔質石英ガラス母材
がガラス化
された中空状合成石英ガラスシリンダであって、
該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置の塩素濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して10%以下であることを特徴とする中空状合成石英ガラスシリンダ。
【請求項13】
請求項
7記載の中空状多孔質石英ガラス母材
がガラス化
された中空状合成石英ガラスシリンダであって、
該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置のOH基濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して10%以下であることを特徴とする中空状合成石英ガラスシリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型中空状多孔質石英ガラス母材及びその製造方法並びにそれを使用した中空状合成石英ガラスシリンダ及びその製造方法に関し、特に、外径300mmを超える大重量の大型中空状多孔質石英ガラス母材及び該大型中空状多孔質石英ガラス母材を好適に製造できる中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法並びにそれを使用した中空状合成石英ガラスシリンダ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成石英ガラスは光学、半導体、化学産業において広く用いられ、特にマイクロリソグラフィーにおける投影や露光システム用レンズ材としてや半導体製造冶具や光ファイバー用材料として多く用いられる。
【0003】
中空状合成石英ガラスシリンダの製造は中空状多孔質合成石英ガラス母材(スート体)を製造し、それを焼結透明化することが一般的である。スート体の製造ではOVD法(Outside Vapor Deposition)が知られており、長軸を中心に回転するターゲット外表面に珪素含有原料を火炎加水分解、又は熱分解によって微細なSiO2粒子に変換し堆積することによりスート体を製造する。
【0004】
中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)は焼結前にターゲットを抜き出す作業が必要であり、抜き出す作業はターゲットと中空状スート体を相対的に回転させたり長軸方向に動かし行う。スート体とターゲットが固着している場合のこの作業は困難を極める。更に、大きな力を加えることで抜き出す事ができたとしてもその際にスート体内面に傷が発生し、発生した傷は焼結後の石英シリンダにも局所的な欠陥として残り不良部となる。
【0005】
近年、半導体ウエハの大径化や光ファイバー母材の大型化によって石英シリンダは大型化の需要が高まっている。大型石英シリンダを製造するためには製造の中間体である中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)も大型化及び大重量化が必要である。しかしながら、スート体の大重量化大径化により、スート体からターゲットを抜き出す作業が困難になるという問題があった。これは、スート体成長中はターゲットとスート体が一体となりターゲットに追従しスート体が回転し、且つスート成長後にはスート体からターゲットを抜き出す事ができるという両方を実現するのが困難であったという事である。
【0006】
また、OVD法では複数のガラス微粒子合成用バーナーを一定間隔で配置し、回転する出発部材(ターゲット)にバーナーの列を相対的に往復移動(スイング)させターゲットの上に層状にガラス微粒子を堆積させてスート体を得ることができる。スイングの折り返し点ではスイング速度が瞬間的に零になるために定常速度でスイングしている部分に比べ実際に火炎が照射されている時間は長い。その為、折り返し点ではガラス微粒子の堆積量が多く長軸方向に凹凸が発生する。その為、特許文献1では長軸方向に堆積を分散させる為にスイングの折り返し位置を所定の距離ずつ移動させることにより長軸方向に均一な外径のスート体を得るトラバース法を記載しており、堆積量や密度分布を分散する方法としてこのようなトラバース法が公知である。
【0007】
また、OVD法では長軸を中心に回転させながらターゲット外表面に堆積させるため、スート体の回転数を一定とするとスート体外径の成長に伴い、スート体外表面の周速は早くなり単位面積当たりの照射時間が短くなる事で径方向に均質なスート体を得ることができない。昨今、生産性の効率化とコスト低減の為に大径肉厚化が進む中で特に外径が300mmを超える大径スート体に対してはその影響は顕著であり、周速を一定となるようにスート体外径の成長に伴い回転数を低くする制御が必要となる。更に周速が一定であってもその速度が一定以上速い場合は成長後期に外径が大きくなった際に僅かな径方向重心の偏芯により振動が発生したり、それに伴う回転装置への負荷が増え安定した製造が不可能となる。更に、周速が一定以上早い場合はターゲットの回転にスート体が追従せずスート体とターゲットの界面で空回りしスート体が安定して一定速度で回転できなくなるという問題が発生する。この問題に対してはターゲットに対するスート体の固着を強固にする事で回避できるがその場合前述したターゲットの抜き出し作業が極めて困難となりターゲットの抜き出しが可能であっても局所的欠陥が発生する。その為、低回転数での周速一定条件が不可欠となる。
【0008】
しかし、大型化し且つ周速度を一定とする為に低回転条件にした場合、成長中や成長終了後にクラックが発生したり破裂する事が多発した。更にそこまで至らない場合でも塩素化剤による処理を実施する場合は焼結後の合成石英ガラスシリンダの塩素含有濃度分布が不均一になり、塩素化剤による処理を行わない場合はOH基含有濃度分布が不均一となる為、光学的に均質な物性の石英ガラスシリンダを得ることができない。
【0009】
光ファイバーの製造において、径方向や周方向の塩素濃度の差が重要であり、特に、周方向の塩素濃度分布の差を小さくすることにより、ファイバー・カールが向上することが、近年の研究で明らかになってきた。大口径のプリフォームを線引きする場合に、単位長さ辺りの線引き量が長くなると共に、線引き炉内での変形時間が長くなることにより、よりクラッド部のローカルな均質性がファイバーの性質に影響を与える為、クラッド用ガラス母材のサイズが大きくなると、より小規模な範囲での塩素濃度の安定性が重要となる。
【0010】
塩素化処理せずに製造した石英ガラスシリンダは半導体製造装置内に使用する石英ガラス冶具やランプ向け材料の素材として使用する場合が多い。そのような石英ガラス素材を得るために所望のサイズに成型や熱加工するが、その際にOH基濃度差が大きいとシリンダ内に粘度分布が発生し、偏肉、サイディング、そしてオーバルといった形状不安定問題が発生する。これも前述の光ファイバー同様にガラスサイズが大きくなるとより顕著に出現するため、小規模な範囲でのOH基濃度の安定が重要となる。
【0011】
OVD法のバーナーの往復運動と支持体の回転に関して、特許文献2は、表面の基礎温度を1050℃と1350℃の間に維持され、平均周速は8m/分から15m/分に維持され且つバーナー列の並進速度(スイング速度)は300mm/分から800mm/分との間に維持される事により局部的に軸方向密度変動がほとんど生じない母材製造を可能にすることを記載している。しかしながら、特許文献2記載の方法では、例えばスイング距離を100mm、スイング速度を800mm/分とし平均周速を9m/分とした場合は、堆積体の外径(以下、外径をODとも表す)を100mmから300mmに成長させると回転数は19.1rpmから6.4rpmにする必要がある。しかし、この条件で製造を行った場合、成長中にクラックが入り成長を継続できない。
【0012】
また、特許文献3は、往復運動の折り返し位置を所定の距離ずつ一定方向に移動させ所定の位置で折り返し位置を逆方向に移動させる方法において、回転速度を一定とし、以下の関係になるように条件設定することで外形変動(スートの軸方向の凹凸)を抑制することを記載している。
A=(r/v)×Lで表される値が40≧A≧8
[r=回転数(rpm)、v=往復移動速度(mm/分)、L=バーナー間隔]
【0013】
特許文献3記載の方法では、例えばスイング速度850mm/分、スイング幅100mmの場合、Aを指定範囲にする為には回転数r(rpm)を68≦r≦320にする必要がある。しかしながら、堆積体の外形が大きい、例えばOD300mmでは表面周速p(m/分)は64≦p≦301と速く、強い遠心力が生じる。大重量、大径化が進むほどその力は大きくなる為、振動が発生したり、その遠心力に耐えうる剛性の装置及びターゲットにする必要があり高価となってしまい、さらに、成長中にクラックが発生する問題があった。さらに、特許文献3は、出発ロッドの表面に石英ガラス微粒子を堆積させ、中実の光ファイバプリフォームを製造する方法であり、中空状の多孔質石英ガラス母材を製造するものではない。特許文献3記載の方法では、外径300mm以上のスート体をターゲットの界面との間で空回りする事なく製造するにはターゲットとスート体を強固に固着させる必要があるが、そうした場合ターゲットを抜き出す作業が困難であるといった問題もあった。
【0014】
また、特許文献4は、出発ロッドとバーナーの相対的往復移動(スイング)が一往復してもとの位置に戻る際に出発ロッドの回転位置がもとの位置から半周期ずれるように往復移動速度(スイング速度)と回転速度を設定することで長手方向の径の変動を抑制することを記載し、下記条件を記載している。
(L/V)×N(rpm)=n+0.5±0.1
[L=移動距離(mm)、V=往復移動速度(mm/分)、N=ロッドの回転数(rpm)、n:任意の整数]
【0015】
特許文献4記載の方法では、1往復したときに0.5回転周期(180°)ずらすため、2往復した際には回転位置は1回転(360°)ずれる事となる。例えばスイング速度850mm/分,スイング幅100mmの場合、回転数が12.75rpmとなった場合上記式を満たす(100mm/850mm/分×12.75rpm=1.5)。しかしながら、この12.75rpmの場合、3回転毎に1回スイングの折り返し位置と回転1回転とのタイミングが一致してしまい長軸方向、径方向共にスート体に密度分布が形成されてしまう。さらに、特許文献4も、出発ロッドの表面にガラス微粒子を堆積させ、中実のガラス微粒子堆積体を製造する方法であり、中空状の多孔質石英ガラス母材を製造するものではない。
【0016】
前述した如く、いずれの特許文献も大径化された外径300mmを超えるスート体からのターゲットの抜き出し可能とする低回転数条件下でのスート体の局所的密度分布を示し更にそれを解決する事でクラックの発生を抑制する発明ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開平3-228845号公報
【文献】特表2001-504426号公報
【文献】特開2002-167228号公報
【文献】特開2013-43810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は外径300mmを超えるスート体であっても成長中に発生する遠心力などの装置への負荷を大きく増大させる事なくスート体を作成でき、更に外径300mmを超えるスート体大径化に伴う周速一定低回転数条件下でのスート体の局所的密度分布を解消し、低速回転で製造した場合でもスート体へのクラックや破裂がなく、且つ大径化されたスート体からのターゲットの抜き取りが容易な大型中空状合成石英ガラス多孔質母材及びその製造方法並びに中空状合成石英ガラスシリンダ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記問題を解決すべくスート体を調査したところ、スート体におけるバーナーの往復移動の折り返し位置では堆積量のみではなく堆積した層の密度にも差があることが分かった。本発明において、バーナーの往復移動をスイングと称する。
図4は、バーナーの往復移動(スイング)の折り返し位置とスート体の長軸方向における堆積した層の密度分布を示すグラフである。
図4に示した如く、バーナーの折り返し位置ではスイング速度が定常速度で移動しているときよりも高密度になり、それをくり返し堆積する事でスート体に軸方向密度分布が発生する。
【0020】
更に調査を進めると、軸方向だけではなく径方向にも局所的に密度差が強く形成されている事が分かった。この径方向の局所的な密度変動を詳細に分析した結果、スイングの折り返し点と回転の1回転が一致するタイミングが発生していた。
図5はスート体の径方向における密度分布を示すグラフである。
図5に示した如く、通常であれば密度の高くなるスイング折り返し位置は周方向に分散しているが、スイングの折り返しと1回転のタイミングが一致した状態で一定時間以上成長した場合、高密度域が分散せず周方向で密度が高い部位と低密度域が重なり、密度が極端に低くなっている部位があることがわかった。
図5において、γは下記式(1)により算出される頻度係数である。
γ=S/(L・N
m)・・・(1)
[前記式(1)において、Sはバーナーの移動速度(mm/分)、Lはバーナーの移動距離(mm)、N
mはスート体の変動する回転数の最低値(rpm)である。]
【0021】
つまり、スート体において軸方向の堆積量及び密度分布だけでなく径方向においても局所的な密度分布が発生しており、その影響でクラック、塩素含有濃度分布そしてOH基含有濃度分布などの諸問題が発生していることが判明した。さらに、成長時のスート体の回転周速を実際上一定となるように制御し、且つ頻度係数γを所定の範囲となるように設定することにより、外径300mmを超えるスート体であっても成長中に発生する遠心力などの装置への負荷を大きく増大させる事なくスート体を作成でき、更にクラックの発生を抑制し、塩素含有濃度及びOH基含有濃度の不均一を抑制することができることを見出した。さらに、上記設定とすることにより、大径化されたスート体からターゲットを容易に抜き取ることができることを見出した。
【0022】
即ち、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法は、複数のガラス微粒子合成用バーナーを所定の間隔で配置し、該バーナーを往復移動させ、回転するターゲット上にガラス微粒子を堆積させてスート体を成長させる工程と、該スート体から該ターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を製造する工程と、を含む、中空状多孔質石英ガラス母材を製造する方法であって、成長時に変動する該スート体の外径に基づき該スート体の回転数を変動させることにより該スート体の回転周速を実際上一定となるように制御し、且つ該スート体の外径が250mmを超える範囲において下記式(1)により算出される頻度係数γが下記式(2)の範囲となるように設定することを特徴とする。
γ=S/(L・Nm)・・・(1)
0.13≦γ<1.0 ・・・(2)
[前記式(1)において、Sは前記バーナーの移動速度(mm/分)、Lは前記バーナーの移動距離(mm)、Nmは前記スート体の変動する回転数の最低値(rpm)である。]
【0023】
前記バーナーの往復移動における折り返し位置を所定の距離ずつ移動させるワブリング条件下で行う場合は、前記バーナーの1回の往復における折り返し位置の移動量が前記スート体に照射される前記バーナーの火炎径の1/3以下である場合においては上記式(2)の範囲となるように設定することが好適である。本発明において、バーナーの往復移動における折り返し位置を所定の距離ずつ移動させることをワブリングと称する。本発明方法において、前述の条件でワブリングを行うことにより、密度変動量が極めて小さく、均質な中空状多孔質石英ガラス母材を得ることができる。なお、ワブリング条件下では折り返し位置の移動量が火炎径の1/3を超える場合は折り返し位置が分散されるので熱も分散しクラックや物性の不均一といった問題は比較的起こりにくい。
【0024】
前記頻度係数γが0.13以上0.3以下であることが好適である。前記頻度係数γを0.3以下とすることにより、スート体のクラックや破裂が無く且つ塩素含有濃度の分布やOH基含有濃度の分布が均一であり、光学的に且つ熱物性的に極めて均質な中空状の合成石英ガラスシリンダを得ることができる。
【0025】
本発明の合成石英ガラスシリンダの製造方法は、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法により得られる中空状多孔質石英ガラス母材を用いることを特徴とする。
【0026】
本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の第一の態様は、外径が300mmを超え且つ長さ2m以上の円筒形の大型中空状多孔質石英ガラス母材であって、該母材全体の平均密度が、0.55g/cm3以上で、且つ円筒断面の90°毎の4方向で、径方向において内表面から等距離の4点の単位長さあたりの密度変動量が4点の平均値に対して10%/cm以下で有り、かつ、クラックを含まないことを特徴とする。
【0027】
本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の第二の態様は、外径が500mm以上であり且つ長さ1.0m以上の円筒形の大型中空状多孔質石英ガラス母材であって、該母材全体の平均密度が、0.55g/cm3以上で、且つ円筒断面の90°毎の4方向で、径方向において内表面から等距離の4点の単位長さあたりの密度変動量が4点の平均値に対して10%/cm以下で有り、かつ、クラックを含まないことを特徴とする。
【0028】
前記大型中空状多孔質石英ガラス母材は、前記中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法により好適に得られる。
【0029】
本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の第三の態様は、前記中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法により得られる中空状多孔質石英ガラス母材であって、前述のワブリング条件下で且つ前記バーナーの1回の往復における折り返し位置の移動量が前記スート体に照射される前記バーナーの火炎径の1/3以下の条件下で製造され、円筒断面の90°毎の4方向で、径方向において内表面から等距離の4点の単位長さあたりの密度変動量が4点の平均値に対して2%/cm以下であることを特徴とする。
【0030】
本発明の中空状合成石英ガラスシリンダの第一の態様は、前記中空状多孔質石英ガラス母材を、脱水及びガラス化して得られる、外径200~500mm、長さ0.7m~3.5m、OH基濃度5ppm未満、含有塩素濃度500ppm以上3000ppm以下であり、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まないことを特徴とする。
【0031】
前記中空状合成石英ガラスシリンダの第一の態様において、該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置の塩素濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して15%以内であることが好適である。
【0032】
本発明の中空状合成石英ガラスシリンダの第二の態様は、前記中空状多孔質石英ガラス母材を、予備焼結及びガラス化して得られる、外径200~500mm、長さ0.7m~3.5m、OH基濃度50ppm以上500ppm以下であり、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まないことを特徴とする。
【0033】
前記中空状合成石英ガラスシリンダの第二の態様において、該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置のOH基濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して15%以内であることが好適である。
【0034】
本発明の中空状合成石英ガラスシリンダの第三の態様は、前記中空状多孔質石英ガラス母材の第三の態様をガラス化して得られる中空状合成石英ガラスシリンダであって、該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置の塩素濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して10%以下であることを特徴とする。
【0035】
本発明の中空状合成石英ガラスシリンダの第四の態様は、前記中空状多孔質石英ガラス母材の第三の態様をガラス化して得られる中空状合成石英ガラスシリンダであって、該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置のOH基濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して10%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、外径300mmを超えるスート体であっても成長中に発生する遠心力などの装置への負荷を大きく増大させる事なくスート体を作成でき、更に外径300mmを超えるスート体大径化に伴う周速一定低回転数条件下でのスート体の局所的密度分布を解消し、低速回転で製造した場合でもスート体へのクラックや破裂がなく、且つ大径化されたスート体からのターゲットの抜き取りが容易な大型中空状合成石英ガラス多孔質母材及びその製造方法並びに中空状合成石英ガラスシリンダ及びその製造方法を提供することができるという著大な効果を奏する。
さらに、本発明によれば、塩素含有濃度又はOH基含有濃度が均一で、光学的に且つ熱物性的に極めて均質な物性を有する中空状の大型合成石英ガラスシリンダを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法におけるバーナーの移動を示す概略説明図であり、(a)は非ワブリング条件下であり、(b)はワブリング条件下を示す。
【
図3】本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法におけるバーナーの照射を示す概略説明図である。
【
図4】バーナーの往復移動の折り返し位置とスート体の長軸方向における堆積した層の密度分布を示すグラフである。
【
図5】スート体の径方向における密度分布を示すグラフである。
【
図6】本発明の中空状多孔質石英ガラス母材における密度の測定方法を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。図示において、同一部材は同一符号であらわされる。
【0039】
図1は、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法を示す概略説明図である。本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法は、複数のガラス微粒子合成用バーナー16aを配置し、該バーナー16aを往復移動させ、回転するターゲット14上にガラス微粒子を堆積させてスート体12を成長させ、中空状多孔質石英ガラス母材を製造する方法であって、成長時に変動する該スート体12の外径に基づき該スート体12の回転数を変動させることにより該スート体12の回転周速を実際上一定となるように制御し、且つ該スート体の外径が250mmを超える範囲において下記式(1)により算出される頻度係数γが下記式(2)の範囲となるように設定するものである。なお、実際上一定とは、±5%を意味する。
γ=S/(L・N
m)・・・(1)
0.13≦γ<1.0 ・・・(2)
[前記式(1)において、Sは前記バーナー16aの移動速度(mm/分)、Lは前記バーナー16aの移動距離(mm)、N
mは前記スート体12の変動する回転数の最低値(rpm)である。]
【0040】
図1において、符号10は中空状多孔質石英ガラス母材を製造する製造装置であり、ターゲット14を回転保持し且つ回転速度(rpm)を制御するターゲット保持回転機構20と、複数のガラス微粒子合成用バーナー16aが所定の間隔で配置されたガラス微粒子合成用バーナー群16と、該バーナー群16のスイング及び上下動の移動を制御するバーナー群移動制御装置18とを含む。
【0041】
図1に示した如く、ターゲット14の回転数を制御するターゲット保持回転機構20及びバーナー群移動制御装置18によりスイング(往復移動)及び上下動移動が制御されたガラス微粒子合成用バーナー群16を用いて、成長時に変動するスート体12の外径に基づき該スート体12の回転数を変動させることにより該スート体12の回転周速を実際上一定となるように制御し、且つ前記式(1)により算出される頻度係数γが0.13以上1.0未満となるように設定した条件にて、ターゲット保持回転機構20により回転数が制御され回転保持されたロッド状のターゲット14の外表面に、ガラス原料(SiCl
4等)を供給されたガラス微粒子合成用バーナー16aの火炎による加水分解反応で生成されるガラス微粒子を堆積させてスート体12を成長させた後、スート体12からターゲット14を抜き取ることにより、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材を製造することができる。
【0042】
クラックが発生する原因はスート体内に生じる局所的な密度差であり、それはスート体の1回転のタイミングとバーナーのスイングの折り返しのタイミングが一致する事で発生している。ここでX回スイング(X/2往復)する間にY回転するときを考える。X回スイングするのに必要な時間はX(L/S)であり、逆にY回転するのに必要な時間はY/Nとなる。ここでLはバーナーの移動距離(mm)、Sはバーナーの移動速度(mm/分)、Nはスート体の回転数(rpm)である。スイングと回転のタイミングが一致すると言うことはX(L/S)=Y/Nとなり、X/Y=S/(LN)となる。このX/Yを頻度係数γと称する。
図5に示されるγは該頻度係数である。
【0043】
例えば2回スイングする間に2回転する場合はγ=X/Y=2/2=1となる。この場合折り返しの1回転でスイングの左端側で回転とスイングのタイミングが一致し、次の1回転では右端側でタイミングが一致する事となる。バーナーは複数本等間隔で配置される為、隣のバーナーも考慮すると毎回転、回転とスイングが一致する事となる。一致する付近は高密度となり、そうでない部位は逆に極めて低密度となる。そしてこの密度差が大きい事により成長中や成長終了後にクラックが入る。
本発明において、スート体の表面周速を実際上一定となるように制御し、且つスート体の外径が250mmを超える範囲においてγを1.0未満とすることにより、クラックや破裂の無い大型中空状多孔質石英ガラス母材を得ることができる。本発明において、スート体の表面周速は5~50m/分が好ましく、5~10m/分がより好ましい。
【0044】
さらに、同様の考え方で毎回でなくても数回に1回、回転と折り返しが一致する場合もその影響を受ける。表1に、スイングX=2で回転Yが偶数の場合の回転とスイングが一致する頻度を示し、表2に、スイングX=2で回転Yが奇数の場合の回転とスイングが一致する頻度をそれぞれ示す。
【0045】
【0046】
【0047】
スイング2回(1往復)の間に3回転するγ=2/3=0.667の場合は、3回転に1回スイングの折り返し位置と回転1回転の位置が一致し毎回一致する時に比べると軽度ではあるが密度に差が生まれる。スイング2回(1往復)の間に4回転するγ=2/4=0.5の場合は、4回転に2回スイングの折り返し位置と回転1回転の位置が一致し密度差が生まれる。これらは毎回一致する時ほどの密度差はない為クラックの発生には至りにくいが、密度差により塩素含有濃度の分布やOH基含有濃度の分布が不均一となり、光学的に均質な石英ガラスを得ることができない。
【0048】
そこでX/Y=S/(LN)で表す頻度係数γにおいて、Nが最低値Nmの時の頻度係数γの値がγ≦0.3となるようにスイング距離とスイング速度と回転数を設定することで回転とスイングのタイミングが一致しない条件とすることが出来、結果クラックがなく更に塩素含有濃度分布、OH基含有濃度分布の小さい石英ガラスシリンダを得ることができる。本発明は、スート体の回転周速を実際上一定となるように制御する為、スート体の回転数はスート体の成長に従い低下する。よって、本発明では、回転数Nが最低値Nmの時の頻度係数γにより定義する。
【0049】
また、頻度係数γを0.13以上とすることにより、外径250mmを超える堆積を行っても成長中のスート体の振動や装置の振動を発生させずにスート体を製造することができる。
本発明において、頻度係数γは0.13以上1.0未満であり、0.13以上0.3以下がより好ましい。γを1.0未満とすることにより、スート体のクラックや破裂を無くし、さらにγを0.3以下とすることにより、スート体のクラックや破裂が無く且つ塩素含有濃度の分布やOH基含有濃度の分布が均一で、光学的に且つ熱物性的に均質な石英ガラスシリンダを得ることができる。
【0050】
本発明方法において、スイングの折り返し位置を所定の距離(α)ずつ一定方向に移動させ、所定の位置で折り返し位置を逆方向に移動させるようにするいわゆるワブリング条件を用いてもよく、非ワブリング条件で行ってもよい。
図2は、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法におけるバーナーの移動を示す概略説明図であり、(a)は非ワブリング条件下であり、(b)はワブリング条件下を示す。
図2において、Lはスイング距離、bはバーナー間隔、αはワブリングシフト量である。なお、
図2はスイング距離とバーナー間隔が同一の条件の場合を示したが、本発明においてスイング距離とバーナー間隔は同一でも異なっていてもよいものである。
【0051】
ワブリング条件で行う場合は、バーナーの1回の往復における折り返し位置の移動量αがスート体に照射される前記バーナーの火炎径の1/3以下の場合においては上記式(2)の範囲となるように設定することが好適である。本発明方法において、前述の条件でワブリングを行うことにより、密度変動量が極めて小さく、均質な中空状多孔質石英ガラス母材を得ることができる。なお、ワブリング条件下では折り返し位置の移動量が火炎径の1/3を超える場合は折り返し位置が分散されるので熱も分散しクラックや物性の不均一といった問題は比較的起こりにくい。
【0052】
図3は、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法におけるバーナーの照射を示す概略説明図であり、dは火炎照射径である。ワブリングを用いる場合においても各スイングにおける折り返す位置を移動させる量αがバーナーから堆積体に照射され広がった火炎照射径dの1/3以下の場合は層間の重なりが大きい為、本発明の方法が有効である。火炎照射径dはスート体成長中の火炎の画像解析により測定することができる。
【0053】
本発明方法により、密度変動が小さく且つクラックや破裂がない、外径300mmを超える大型中空状多孔質石英ガラス母材を得ることができる。具体的には、外径が300mmを超え且つ軸方向の長さ2m以上の円筒形の大型中空状多孔質石英ガラス母材や、外径が500mm以上であり且つ軸方向の長さ1.0m以上の円筒形の大型中空状多孔質石英ガラス母材を得ることができる。また、本発明方法により、重量100kg以上の大重量の大型中空状多孔質石英ガラス母材を得ることができる。さらに、本発明方法により、スート体が大径化され且つ大重量化されていても、ターゲットの抜き取りを極めて容易に行うことができる。
【0054】
本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の第一の態様は、母材全体の平均密度が0.55g/cm3以上であり、密度変動が小さく且つクラックを含まない、外径が300mmを超え、長さ2m以上の大型中空状多孔質石英ガラス母材である。
本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の第二の態様は、母材全体の平均密度が0.55g/cm3以上であり、密度変動が小さく且つクラックを含まない、外径が500mm以上であり且つ長さ1.0m以上の大型中空状多孔質石英ガラス母材である。
【0055】
前記中空状多孔質石英ガラス母材の第一及び第二の態様において、母材全体の平均密度は、0.55g/cm3以上であり、0.56g/cm3以上0.77g/cm3以下が好ましく、0.59g/cm3以上0.68g/cm3以下がより好ましい。
【0056】
図6は、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材における密度の変動の測定方法を示す概略説明図である。
図6に示した如く、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材12の円筒断面の90°毎の4方向の垂線(A~D)で、径方向において内表面から等距離(Xmm)の4点(a~d)のそれぞれ1cm
3当たりの密度を測定し、4点(a~d)の密度の最大値と最小値との差から密度変動量を規定する。本発明の中空状多孔質石英ガラス母材12の単位長さ当たりの密度変動量は、該4方向(A~D)の4点(a~d)の平均値に対して10%/cm以下であり、5%/cm以下が好ましく、2%/cm以下がより好ましい。
【0057】
本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の第三の態様は、円筒断面の90°毎の4方向で、径方向において内表面から等距離の4点の単位長さあたりの密度変動量が4点の平均値に対して2%/cm以下である中空状多孔質石英ガラス母材である。前記中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法において、バーナーの1回の往復における折り返し位置の移動量がスート体に照射されるバーナーの火炎径の1/3以下であるワブリング条件下で中空状多孔質石英ガラス母材を製造することにより、前述の密度変動量が2%/cm以下と極めて小さく、均質な中空状多孔質石英ガラス母材を得ることができる。
【0058】
本発明の合成石英ガラスシリンダの製造方法は、本発明方法により得られる中空状多孔質石英ガラス母材を用いるものである。該合成石英ガラスシリンダの製造方法としては該中空状多孔質石英ガラス母材を用い、公知の方法により合成石英ガラスシリンダを製造すればよく、特に制限はないが、脱水処理及び焼結ガラス化し、合成石英ガラスシリンダを得る方法や、予備焼結及びガラス化し、合成石英ガラスシリンダを得る方法が好適である。本発明方法により、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、クラックや破裂が無く、外径200mm以上の大型の合成石英ガラスシリンダが好適に得られる。
【0059】
該大型の合成石英ガラスシリンダとしては、具体的には、外径が300mmを超える円筒形の大型中空状多孔質石英ガラス母材を用いることにより、外径200mm以上の中空状合成石英ガラスシリンダを得ることができ、また、外径が500mm以上の円筒形の大型中空状多孔質石英ガラス母材を用いることにより、外径300mm以上の中空状合成石英ガラスシリンダを得ることができる。特に、外径200mm以上300mm未満で且つ軸方向の長さ2.3mm以上の中空状合成石英ガラスシリンダや、外径300mm以上で且つ軸方向の長さ0.7mm以上の中空状合成石英ガラスシリンダがより好適である。
【0060】
本発明において、スート体の外径が250mmを超える範囲において前記γを1.0未満に設定した条件により得られる中空状多孔質石英ガラス母材を用いることにより、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、クラックや破裂のない大型の石英ガラスシリンダを容易に得ることができる。該石英ガラスシリンダは、特に大型が所望される半導体製造冶具用材料として好適である。さらに前記γを0.3以下に設定した条件により得られる中空状多孔質石英ガラス母材を用いることにより、クラックや破裂が無く且つ塩素含有濃度の分布やOH基含有濃度の分布が均一で、光学的に且つ熱物性的に極めて均質な石英ガラスシリンダを容易に得ることができる。
【0061】
本発明の中空状合成石英ガラスシリンダの第一の態様は、前記大型中空状多孔質石英ガラス母材を、塩素処理による脱水及びガラス化して得られる、外径200~500mm、長さ0.7m~3.5mの中空状合成石英ガラスシリンダであって、OH基濃度5ppm未満、含有塩素濃度500ppm以上3000ppm以下、好ましくは1000ppm以上2500ppm以下であり、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まないことを特徴とする。
【0062】
前記中空状合成石英ガラスシリンダの第一の態様において、該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置の塩素濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して15%以内であることが好ましく、10%以内であることがより好ましい。
【0063】
本発明の合成石英ガラスシリンダの第二の態様は、前記大型中空状多孔質石英ガラス母材を、塩素処理を行わずに、予備焼結及びガラス化して得られる、外径200~500mm、長さ0.7m~3.5mの中空状合成石英ガラスシリンダであって、OH基濃度50ppm以上500ppm以下、好ましくは100ppm以上300ppm以下であり、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まないことを特徴とする。
【0064】
前記中空状合成石英ガラスシリンダの第二の態様において、該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置のOH基濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して15%以内であることが好ましく、10%以内であることがより好ましい。
【0065】
本発明の合成石英ガラスシリンダの第三の態様は、前記中空状多孔質石英ガラス母材の第三の態様をガラス化して得られる中空状合成石英ガラスシリンダであって、該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置の塩素濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して10%以下であることを特徴とする。前記合成石英ガラスシリンダのOH基濃度は、5ppm未満が好ましく、実質的にOH基を含有しないことがより好ましい。なお、「実質的にOH基を含有しない」とは、合成石英ガラスシリンダ中のOH基の含有量が0ppm以上1ppm未満であることを意味する。
前記中空状多孔質石英ガラス母材をガラス化する方法は特に制限はなく、公知の方法を用いることができるが、脱水処理及び焼結ガラス化し、合成石英ガラスシリンダを得る方法が好適であり、塩素雰囲気下で脱水処理を行った後、焼結ガラス化し、合成石英ガラスシリンダを得る方法がより好適である。
【0066】
本発明の合成石英ガラスシリンダの第四の態様は、前記中空状多孔質石英ガラス母材の第三の態様をガラス化して得られる中空状合成石英ガラスシリンダであって、該中空状合成石英ガラスシリンダの円筒断面の内面から等距離にある、周方向の90°毎の4位置のOH基濃度の「最大値-最小値の差」が、4位置の平均値に対して10%以下であることを特徴とする。前記合成石英ガラスシリンダは、実質的に塩素を含有しないことが好ましい。なお、「実質的に塩素を含有しない」とは、合成石英ガラスシリンダ中の塩素の含有量が0ppm以上20ppm未満であることを意味する。
前記中空状多孔質石英ガラス母材をガラス化する方法は特に制限はなく、公知の方法を用いることができるが、脱水処理及び焼結ガラス化し、合成石英ガラスシリンダを得る方法や、予備焼結及びガラス化し、合成石英ガラスシリンダを得る方法が好適であり、塩素処理を行わずに加熱により脱水処理を行った後、焼結ガラス化し、合成石英ガラスシリンダを得る方法がより好適である。
【0067】
従来、大型化し且つスート体成長時の周速度を一定とする為に低回転条件にした場合は、合成石英ガラスシリンダの製造時において塩素雰囲気下で脱水処理を行うと、合成石英ガラスシリンダの周方向の塩素含有濃度分布が不均一になり、また、塩素処理を行わずに加熱により脱水した場合は合成石英ガラスシリンダの周方向のOH基含有濃度分布が不均一になる問題があった。しかしながら、本発明方法において、前記γを0.3以下に設定した条件により得られる中空状多孔質石英ガラス母材を用いることにより、塩素雰囲気下で脱水処理を行っても塩素含有濃度分布が小さく、且つ塩素処理を行わずに加熱により脱水した場合においてもOH基含有濃度分布の差が小さい極めて均質な合成石英ガラスシリンダを得ることができる。
【0068】
このような極めて均質な合成石英ガラスシリンダは、光学用材料や光ファイバー用材料、並びに半導体製造装置内に使用する石英ガラス冶具やランプ向け材料の素材として特に好適である。特に、シリンダ断面内部で周方向の4方向各点の塩素濃度分布の最大値と最小値の差が、4点の平均値に対して15%以内であると、ファイバー・カールを始めとする、光ファイバーの特性に影響を与えないことを見出した。
【0069】
塩素雰囲気下で脱水処理及び焼結透明化した合成石英ガラスシリンダの塩素含有濃度分布は、シリンダの周方向の4方向の高濃度と低濃度の差が300ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましい。
【0070】
塩素処理を行わずに加熱により脱水した合成石英ガラスシリンダのOH基含有濃度分布は、シリンダの周方向の4方向のOH基含有濃度の高濃度と低濃度の差が50ppm以下であることが好ましく、25ppm以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
複数のガラス微粒子合成用バーナーを一定間隔で配置し、回転するターゲット[外径(OD)50mmのセラミックス管]にバーナーの列を相対的に往復移動(スイング)させ、ターゲットの上に層状にガラス微粒子を堆積させ、ガラス微粒子堆積体を製造する、いわゆるOVD法において、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを140mm/分(一定)、表面周速11m/分(一定)の条件にてスート体を製造し、該スート体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を得た。製造条件を表3に、得られた中空状多孔質石英ガラス母材の結果を表4に、合成石英ガラスシリンダの測定結果を表5及び6にそれぞれ示す。
【0072】
【0073】
ターゲットOD50mmからスート体を外径(OD)400mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、70.1rpmから8.8rpmに回転数を遅くしていく事となる。その時の最低回転数Nmは8.8rpmでありγ=S/(L・Nm)=0.16となる。
その結果、装置の成長中の振動等はわずかに振動があったが問題はなく成長することができ、スート体へのクラックもなく、外径400mm、軸方向の全長3500mm、重量247kgの大型中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)を作成できた。
【0074】
得られたスート体全体の平均密度及び密度の変動を測定した。密度の変動は
図6においてX=105mmの4点(a~d)における単位長さ当たりの密度を算出し、4点(a~d)の密度の最大値と最小値との差を密度変動量と規定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
【0075】
【0076】
スート体全体の平均密度は0.57g/cm3であり、4方向における内面から105mm位置での4点の単位長さ当たりの密度変動量はその4点の平均値に対して4.4%/cmであり、密度変動量が極めて小さい中空状多孔質石英ガラス母材が得られた。
【0077】
得られた中空状多孔質石英ガラス母材を塩素雰囲気下で脱水処理及び焼結透明化し、外径210mm、内径45mm以下、長さ3.4mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。塩素含有濃度の測定は4方向それぞれを蛍光X線分析により行った。塩素濃度測定の分析装置としては、スペクトロ社製蛍光X線分析装置SPECTRO MIDEXを使用した(装置の検出下限値:塩素濃度20ppm)。OH基含有濃度(OH基)の測定はFT-IR分析により行った。OH基含有濃度測定の分析装置としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製フーリエ変換赤外分光装置Nicolet iS10 FT-IRを使用した(装置の検出下限値:OH基濃度1ppm)。塩素濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置の塩素濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。結果を表5に示した。
【0078】
【0079】
シリンダの周方向4方向の塩素含有濃度を測定した結果、塩素含有濃度は1540~1720ppmであった。4方向の差は最大180ppmと小さく、4方向の平均値に対する変動量は10.9%と均質なものが得られた。また、OH基含有濃度(OH基)は1ppm未満であった。
【0080】
更に同一条件で作成したスート体を、塩素処理を行わずに加熱により脱水した後、焼結透明化し、外径210mm、内径45mm以下、長さ3.4mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。OH基濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置のOH基濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。結果を表6に示した。
【0081】
【0082】
シリンダ周方向の4方向のOH基含有濃度を測定したところ、OH基含有濃度は230~255ppmであり、こちらも4方向間の差は最大25ppmと小さく、4方向の平均値に対する変動量も10.2%と均質であることが分かった。また、塩素含有濃度は20ppm未満であった。
【0083】
(実施例2)
製造条件を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により中空状多孔質石英ガラス母材を得た。即ち、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを200mm/分(一定)、表面周速9m/分(一定)の条件にてスート体を製造し、該スート体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を得た。得られた中空状多孔質石英ガラス母材の結果を表4に、合成石英ガラスシリンダの測定結果を表5及び6にそれぞれ示す。
【0084】
ターゲットOD50mmからスート体OD400mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、57.3rpmから7.2rpmに回転数を遅くしていく事となる。その時の最低回転数Nmは7.2rpmでありγ=0.28となる。
その結果、装置の成長中の振動等はなく成長することができ、スート体へのクラックもなく、外径400mm、全長3500mm、重量247kgの大型中空状多孔質石英ガラス母材を作成できた。
【0085】
得られたスート体全体の平均密度及び密度の変動を測定した。密度の変動は
図6においてX=105mmの4点における単位長さ当たりの密度を算出した。スート体全体の平均密度は0.57g/cm
3であり、4方向における内面から105mm位置での単位長さ当たりの密度変動はその4点の平均値に対して3.8%/cmであり、密度変動量が極めて小さい中空状多孔質石英ガラス母材が得られた。
【0086】
得られた中空状多孔質石英ガラス母材を塩素雰囲気下で脱水処理及び焼結透明化し、外径210mm、内径45mm以下、長さ3.4mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。塩素濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置の塩素濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダの周方向4方向の塩素含有濃度を測定した結果、塩素含有濃度は1740~1960ppmであった。4方向間の差は最大220ppmと小さく、4方向の平均値に対する変動量は11.7%と均質なものが得られた。また、OH基含有濃度(OH基)は1ppm未満であった。
【0087】
更に同一条件で作成したスート体を、塩素処理を行わずに加熱により脱水した後、焼結透明化し、外径210mm、内径45mm以下、長さ3.4mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。OH基濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置のOH基濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダ周方向の4方向のOH基含有濃度を測定したところ、OH基含有濃度は225~255ppmであり、こちらも4方向間の差は最大30ppmと小さく、4方向の平均値に対する変動量も12.4%と均質であることが分かった。また、塩素含有濃度は20ppm未満であった。
【0088】
(実施例3)
製造条件を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により中空状多孔質石英ガラス母材を得た。即ち、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを600mm/分(一定)、表面周速9m/分(一定)の条件にてスート体を製造し、該スート体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を得た。得られた中空状多孔質石英ガラス母材の結果を表4に、合成石英ガラスシリンダの測定結果を表5にそれぞれ示す。
【0089】
ターゲットOD50mmからスート体OD400mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、57.3rpmから7.2rpmに回転数を遅くしていく事となる。その時の最低回転数Nmは7.2rpmでありγ=0.84となる。
その結果、装置の成長中の振動等はなく成長することができ、スート体へのクラックもなく、外径400mm、全長3500mm、重量247kgの大型中空状多孔質石英ガラス母材を作成できた。
【0090】
得られたスート体全体の平均密度及び密度の変動を測定した。密度の変動は
図6においてX=105mmの4点における単位長さ当たりの密度を算出した。スート体全体の平均密度は0.57g/cm
3であり、4方向における内面から105mm位置での単位長さ当たりの密度変動はその4点の平均値に対して9.5%/cmであった。
【0091】
得られた中空状多孔質石英ガラス母材を塩素雰囲気下で脱水処理及び焼結透明化し、外径210mm、内径45mm以下、長さ3.4mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。塩素濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置の塩素濃度の最大値と最小値の差を測定し、平均値に対する比率を算出した。
シリンダの周方向4方向の塩素含有濃度を測定した結果、塩素含有濃度は1640~2330ppmであった。4方向間の差は最大690ppmと大きく、4方向の平均値に対する変動量は34.9%であり、実施例1及び2に比べて均質性が低下していた。また、OH基含有濃度(OH基)は1ppm未満であった。
【0092】
更に同一条件で作成したスート体を、塩素処理を行わずに加熱により脱水した後、焼結透明化し、外径210mm、内径45mm以下、長さ3.4mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。OH基濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置のOH基濃度の最大値と最小値の差を測定し、平均値に対する比率を算出した。
シリンダ周方向の4方向のOH基含有濃度を測定したところ、OH基含有濃度は195~255ppmであり、こちらも4方向間の差は最大60ppmと大きく、4方向の平均値に対する変動量も26.7%であり、実施例1及び2に比べて均質性が低下していることが分かった。また、塩素含有濃度は20ppm未満であった。
【0093】
(実施例4)
製造条件を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により中空状多孔質石英ガラス母材を得た。即ち、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを200mm/分(一定)、表面周速9m/分(一定)の条件で、且つスイング1回のワブリングシフト量α4mm(このときの火炎の照射径は28mmであった為ワブリングシフト量は火炎の照射径の1/7。火炎径の測定方法は、スート体成長中の火炎の画像解析で行った。)の条件でスート体を製造し、該スート体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を得た。得られた中空状多孔質石英ガラス母材の結果を表4に、合成石英ガラスシリンダの測定結果を表5にそれぞれ示す。
【0094】
ターゲットOD50mmからスート体OD400mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、57.3rpmから7.2rpmに回転数を遅くしていく事となる。その時の最低回転数N
mは7.2rpmでありγ=0.28となる。
その結果、装置の成長中の振動等はなく成長することができ、スート体へのクラックもなく、外径400mm、全長3500mm、重量247kgの大型中空状多孔質石英ガラス母材を作成できた。
得られたスート体全体の平均密度及び密度の変動を測定した。密度の変動は
図6においてX=105mmの4点における単位長さ当たりの密度を算出した。スート体全体の平均密度は0.57g/cm
3であり、4方向における内面から105mm位置での単位長さ当たりの密度変動はその4点の平均値に対して1.6%/cmであり、密度変動量が極めて小さい中空状多孔質石英ガラス母材が得られた。
【0095】
得られた中空状多孔質石英ガラス母材を塩素雰囲気下で脱水処理及び焼結透明化し、外径210mm、内径45mm以下、長さ3.4mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。塩素濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置の塩素濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダの周方向4方向の塩素含有濃度を測定した結果、塩素含有濃度は1860~1995ppmであった。4方向間の差は最大135ppmと極めて小さく、4方向の平均値に対する変動量は6.9%と均質なものが得られた。また、OH基含有濃度(OH基)は1ppm未満であった。
【0096】
更に同一条件で作成したスート体を、塩素処理を行わずに加熱により脱水した後、焼結透明化し、外径210mm、内径45mm以下、長さ3.4mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。OH基濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置のOH基濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダ周方向の4方向のOH基含有濃度を測定したところ、OH基含有濃度は200~215ppmであり、こちらも4方向間の差は最大15ppmと小さく、4方向の平均値に対する変動量も7.1%と均質であることが分かった。また、塩素含有濃度は20ppm未満であった。
【0097】
(実施例5)
製造条件を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により中空状多孔質石英ガラス母材を得た。即ち、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを200mm/分(一定)、表面周速13m/分(一定)の条件にてスート体を製造し、該スート体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を得た。得られた中空状多孔質石英ガラス母材の結果を表4に、合成石英ガラスシリンダの測定結果を表5にそれぞれ示す。
【0098】
ターゲットOD50mmからスート体OD600mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、82.8rpmから6.9rpmに回転数を遅くしていく事となる。その時の最低回転数N
mは6.9rpmでありγ=0.29となる。
その結果、装置の成長中の振動等はなく成長することができ、スート体へのクラックもなく、外径600mm、全長2500mm、重量402kgの大型中空状多孔質石英ガラス母材を作成できた。
得られたスート体全体の平均密度及び密度の変動を測定した。密度の変動は
図6においてX=200mmの4点における単位長さ当たりの密度を算出した。スート体全体の平均密度は0.57g/cm
3であり、4方向における内面から200mm位置での単位長さ当たりの密度変動量はその4点の平均値に対して3.7%/cmであり、密度変動量が極めて小さい中空状多孔質石英ガラス母材が得られた。
【0099】
得られた中空状多孔質石英ガラス母材を塩素雰囲気下で脱水処理及び焼結透明化し、外径350mm、内径45mm以下、長さ1.9mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。塩素濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から100mmの4位置の塩素濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダの周方向4方向の塩素含有濃度を測定した結果、塩素含有濃度は1890~2170ppmであった。4方向間の差は最大280ppmと小さく、4方向の平均値に対する変動量は14.1%と均質なものが得られた。また、OH基含有濃度(OH基)は1ppm未満であった。
【0100】
更に同一条件で作成したスート体を、塩素処理を行わずに加熱により脱水した後、焼結透明化し、外径350mm、内径45mm以下、長さ1.9mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。OH基濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置のOH基濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダ周方向の4方向のOH基含有濃度を測定したところ、OH基含有濃度は225~245ppmであり、こちらも4方向間の差は最大25ppmと小さく、4方向の平均値に対する変動量も10.5%と均質であることが分かった。また、塩素含有濃度は20ppm未満であった。
【0101】
(実施例6)
製造条件を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により中空状多孔質石英ガラス母材を得た。即ち、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを400mm/分(一定)、表面周速9m/分(一定)の条件にてスート体を製造し、該スート体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を得た。得られた中空状多孔質石英ガラス母材の結果を表4に、合成石英ガラスシリンダの測定結果を表5にそれぞれ示す。
【0102】
ターゲットOD50mmからスート体OD600mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、57.3rpmから4.8rpmに回転数を遅くしていく事となる。その時の最低回転数N
mは4.8rpmでありγ=0.84となる。
その結果、装置の成長中の振動等はなく成長することができ、スート体へのクラックもなく、外径600mm、全長2500mm、重量402kgの大型中空状多孔質石英ガラス母材を作成できた。
得られたスート体全体の平均密度及び密度の変動を測定した。密度の変動は
図6においてX=200mmの4点における単位長さ当たりの密度を算出した。スート体全体の平均密度は0.57g/cm
3であり、4方向における内面から200mm位置での単位長さ当たりの密度変動はその4点の平均値に対して8.3%/cmであった。
【0103】
得られた中空状多孔質石英ガラス母材を塩素雰囲気下で脱水処理及び焼結透明化し、外径350mm、内径45mm以下、長さ1.9mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。塩素濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から100mmの4位置の塩素濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダの周方向4方向の塩素含有濃度を測定した結果、塩素含有濃度は1725~2340ppmであった。4方向に差は最大615ppmと大きく、4方向の平均値に対する変動量は29.1%であり、実施例4及び5に比べて均質性が低下していていた。また、OH基含有濃度(OH基)は1ppm未満であった。
【0104】
更に同一条件で作成したスート体を、塩素処理を行わずに加熱により脱水した後、焼結透明化し、外径350mm、内径45mm以下、長さ1.9mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。OH基濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置のOH基濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダ周方向の4方向のOH基含有濃度を測定したところ、OH基含有濃度は200~250ppmであり、こちらも4方向間の差は最大50ppmと比較的大きく、4方向の平均値に対する変動量も21.7%あり、実施例4及び5に比べて均質性が低下していることが分かった。また、塩素含有濃度は20ppm未満であった。
【0105】
(実施例7)
製造条件を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により中空状多孔質石英ガラス母材を得た。即ち、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを200mm/分(一定)、表面周速13m/分(一定)の条件で、且つスイング1回のワブリングシフト量α4mm(このときの火炎の照射径は28mmであった為ワブリングシフト量は火炎の照射径の1/7)の条件でスート体を製造し、該スート体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を得た。得られた中空状多孔質石英ガラス母材の結果を表4に、合成石英ガラスシリンダの測定結果を表5にそれぞれ示す。
【0106】
ターゲットOD50mmからスート体OD600mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、82.8rpmから6.9rpmに回転数を遅くしていく事となる。その時の最低回転数N
mは6.9rpmであり
γ=0.29となる。
その結果、装置の成長中の振動等はなく成長することができ、スート体へのクラックもなく、外径600mm、全長2500mm、重量402kgの大型中空状多孔質石英ガラス母材を作成できた。
得られたスート体全体の平均密度及び密度の変動を測定した。密度の変動は
図6においてX=200mmの4点における単位長さ当たりの密度を算出した。スート体全体の平均密度は0.57g/cm
3であり、4方向における内面から200mm位置での単位長さ当たりの密度変動はその4点の平均値に対して1.8%/cmであり、密度変動量が極めて小さい中空状多孔質石英ガラス母材が得られた。
【0107】
得られた中空状多孔質石英ガラス母材を塩素雰囲気下で脱水処理及び焼結透明化し、外径350mm、内径45mm以下、長さ1.9mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。塩素濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から100mmの4位置の塩素濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダの周方向4方向の塩素含有濃度を測定した結果、塩素含有濃度は1770~1935ppmであった。4方向の差は最大165ppmと小さく、4方向の平均値に対する変動量は8.8%と均質なものが得られた。また、OH基含有濃度(OH基)は1ppm未満であった。
【0108】
更に同一条件で作成したスート体を、塩素処理を行わずに加熱により脱水した後、焼結透明化し、外径350mm、内径45mm以下、長さ1.9mの合成石英ガラスシリンダを得た。得られた合成石英ガラスシリンダは、多孔質部材のクラック起因の外観不良部を含まず、良好な外観であった。
得られた石英ガラスシリンダの塩素濃度及びOH基濃度を測定した。OH基濃度の変動は、周方向の90°毎の円筒断面の内面から50mmの4位置のOH基濃度の最大値と最小値の差を測定し、4点の平均値に対する比率を算出した。
シリンダ周方向の4方向のOH基含有濃度を測定したところ、OH基含有濃度は205~225ppmであり、こちらも4方向の差は最大20ppmと小さく、4方向の平均値に対する変動量も9.4%と均質であることが分かった。また、塩素含有濃度は20ppm未満であった。
【0109】
(比較例1)
製造条件を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により中空状多孔質石英ガラス母材の製造を行った。即ち、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを140mm/分(一定)、表面周速18m/分(一定)の条件にてスート体を製造しようとした。
【0110】
ターゲットOD50mmからスート体OD400mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、114.6rpmから14.3rpmに回転数を遅くしていく事となる。しかし、スート体ODが200mmを超えたあたりで装置の振動が始まり、その後250mmを超えた時点で振動が大きかったため、途中で製造を中止しOD400まで製造を継続することができなかった。
【0111】
(比較例2)
製造条件を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により中空状多孔質石英ガラス母材の製造を行った。即ち、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを800mm/分(一定)、表面周速9m/分(一定)の条件にてスート体を製造し、該スート体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を得た。得られた中空状多孔質石英ガラス母材の結果を表4に示す。
【0112】
ターゲットOD50mmからスート体OD400mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、57.3rpmから7.2rpmに回転数を遅くしていく事となる。その時の最低回転数Nmは7.2rpmでありγ=1.12となる。その結果、装置の成長中の振動等はなく成長することができたが、スート体ODが300mm付近になった時にスート体にクラックが入り製造を継続することができなかった。
【0113】
(比較例3)
製造条件を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により中空状多孔質石英ガラス母材の製造を行った。即ち、バーナー間隔を100mm、スイング距離Lを100mm、スイング速度Sを800mm/分(一定)、表面周速9m/分(一定)の条件で、且つスイング1回のワブリングシフト量α4mm(このときの火炎の照射径は28mmであった為ワブリングシフト量は火炎の照射径の1/7。火炎径の測定方法は、スート体成長中の火炎の画像解析でおこなった。)の条件にてスート体を製造し、該スート体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を得た。得られた中空状多孔質石英ガラス母材の結果を表4に示す。
【0114】
ターゲットOD50mmからスート体OD400mmまで成長させるとした場合は、上記条件では、57.3rpmから7.2rpmに回転数を遅くしていく事となる。その時の最低回転数Nmは7.2rpmでありγ=1.12となる。その結果、装置の成長中の振動等はなく成長することができたが、こちらもスート体ODが350mm付近になった時にスート体にクラックが入り製造を継続することができなかった。
【符号の説明】
【0115】
10:製造装置、12:スート体、14:ターゲット、16:ガラス微粒子合成用バーナー群、16a:ガラス微粒子合成用バーナー、18:ガラス微粒子合成用バーナー群のスイング及び上下動装置、20:ターゲット保持回転機構、22:バーナー火炎、d:火炎照射径、L:スイング距離、b:バーナー間隔、α:ワブリングシフト量。