(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】医用画像処理装置及び医用画像処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/46 20240101AFI20240913BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20240913BHJP
A61B 6/50 20240101ALI20240913BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20240913BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20240913BHJP
G06T 5/00 20240101ALI20240913BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240913BHJP
【FI】
A61B6/46 536Q
A61B6/03 560T
A61B6/50 500D
A61B5/055 380
G06T1/00 290
G06T5/00
G06T7/00 350B
(21)【出願番号】P 2020158943
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】518134231
【氏名又は名称】PSP株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512082680
【氏名又は名称】イーグロース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【氏名又は名称】中辻 史郎
(72)【発明者】
【氏名】大藤 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 雅一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 睦久
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】今西 勁峰
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-014712(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0063655(US,A1)
【文献】特開平10-171910(JP,A)
【文献】特表2017-529110(JP,A)
【文献】特開2013-138800(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104851123(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1757642(KR,B1)
【文献】特開2003-044873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/58
A61B 5/055
G06T 1/00 , 7/00
G16H 30/00 -30/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭頚部抽出学習済モデルを用いて、2次元医用画像情報を変換した3次元ボリュームデータから頭頚部を抽出した頭頚部3次元ボリュームデータを生成する頭頚部抽出部と、
教師データである頭頚部3次元ボリュームデータの頭部骨部
から頭部前面までの軟組織部を用いた教師有り学習により、前記頭頚部3次元ボリュームデータから前記軟組織部を抽出する変形対象領域抽出学習済モデルを用いて、前記頭頚部3次元ボリュームデータから前記軟組織部を抽出する変形対象領域抽出部と、
変形対象領域抽出部によって抽出された軟組織部の体表側を変形した変形軟組織部を生成する変形部と、
前記軟組織部を、前記変形部によって生成された変形軟組織部に置換した変形済頭頚部3次元ボリュームデータを生成する置換処理部と
を備えたことを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
前記変形部は、
前記軟組織部の3次元ボリュームデータをもとに前記軟組織部の3次元メッシュデータを生成するメッシュデータ生成部と、
前記軟組織部の3次元メッシュデータの体表側を変形した変形3次元メッシュデータを生成するメッシュデータ変形部と、
前記変形3次元メッシュデータに前記軟組織部のボリュームデータを補完した3次元ボリュームデータを前記変形軟組織部として生成する補完処理部と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記変形部は、前記軟組織部の体表の一部又は全てを滑らかにする処理を行うことを特徴とする請求項
1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記変形部は、前記軟組織部の体表の一部又は全てを特定キャラクターの既定マスクに変形する処理を行うことを特徴とする請求項
1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記変形部は、前記軟組織部の体表の一部又は全てを特定キャラクターの既定マスクに所定割合近づけるモーフィング処理を行うことを特徴とする請求項
1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記変形部は、軟組織部の一部又は全てを削除する処理を行うことを特徴とする請求項
1又は2に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記変形部は、予め設定された複数の変形処理パターンの1以上の組み合わせによる変形処理を行うことを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
頭頚部抽出学習済モデルを用いて、2次元医用画像情報を変換した3次元ボリュームデータから頭頚部を抽出した頭頚部3次元ボリュームデータを生成する頭頚部抽出ステップと、
教師データである頭頚部3次元ボリュームデータの頭部骨部
から頭部前面までの軟組織部を用いた教師有り学習により、前記頭頚部3次元ボリュームデータから前記軟組織部を抽出する変形対象領域抽出学習済モデルを用いて、前記頭頚部3次元ボリュームデータから前記軟組織部を抽出する変形対象領域抽出ステップと、
変形対象領域抽出ステップによって抽出された軟組織部の体表側を変形した変形軟組織部を生成する変形ステップと、
前記軟組織部を、前記変形ステップによって生成された変形軟組織部に置換した変形済頭頚部3次元ボリュームデータを生成する置換処理ステップと
を含むことを特徴とする医用画像処理方法。
【請求項9】
前記変形ステップは、
前記軟組織部の3次元ボリュームデータをもとに前記軟組織部の3次元メッシュデータを生成するメッシュデータ生成ステップと、
前記軟組織部の3次元メッシュデータの体表側を変形した変形3次元メッシュデータを生成するメッシュデータ変形ステップと、
前記変形3次元メッシュデータに前記軟組織部のボリュームデータを補完した3次元ボリュームデータを前記変形軟組織部として生成する補完処理ステップと
を含むことを特徴とする請求項
8に記載の医用画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人特定もしくは個人識別につながりうる頭部前面の軟組織を簡易かつ迅速に抽出して、匿名化のための変形処理を行うことができる医用画像処理装置及び医用画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置やX線CT(Computed Tomography)装置により取得される被検体の医用画像は、被検体個人の疾患の診断等に用いられるに留まらず、疾患の基礎研究にも利用される。医用画像の表層領域には個人特定もしくは個人識別につながり得る情報である顔や容貌等が含まれ、氏名等を含まなくても医用画像単体(画素データ)が個人特定もしくは個人識別につながり得る情報を含むことになる。個人情報もしくはプライバシー保護の観点から、医用画像を基礎研究等に用いる場合には、個人特定もしくは個人識別につながり得る情報を削除して匿名化する必要がある。
【0003】
特許文献1には、医用画像から被検体の個人特定もしくは個人識別につながり得る目、鼻、口、耳のいずれかを含む表層領域を抽出する表層領域抽出部と、医用画像の表層領域を変形する表層領域変形部とを備え、表層領域抽出部は、医用画像で指定された目、鼻、口、耳の情報を取得する条件取得部が取得する情報に基づいて表層領域を抽出するものが開示されている。
【0004】
特許文献2には、表示画像が変わるごとに、予め、「目」、「口」、「鼻」、及び「耳」などの解剖学的部位を含む教師画像で学習させた学習済みモデルに対して表示画像を適用することにより、解剖学的部位が表示画像の中に存在するか否かを判定し、その表示状態における表示画像から個人を特定できると判定された場合、個人が特定できないようにする匿名化処理、例えば、解剖学的部位の上皮領域に対する、マスキング処理、透明化処理、平滑化処理、変形処理、脱毛処理、及び、増毛処理の少なくとも1つの処理を行うものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-14712号公報
【文献】特開2020-62215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、 上記の表層領域や解剖学的部位の抽出は、「目」、「口」、「鼻」、及び「耳」などの各部位の照合や検出を行っているため、変形対象領域の抽出が複雑であるとともに、時間がかかるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものであって、個人特定もしくは個人識別につながりうる頭部前面の軟組織を簡易かつ迅速に抽出して、匿名化のための変形処理を行うことができる医用画像処理装置及び医用画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、頭頚部抽出学習済モデルを用いて、2次元医用画像情報を変換した3次元ボリュームデータから頭頚部を抽出した頭頚部3次元ボリュームデータを生成する頭頚部抽出部と、教師データである頭頚部3次元ボリュームデータの頭部骨部から頭部前面までの軟組織部を用いた教師有り学習により、前記頭頚部3次元ボリュームデータから前記軟組織部を抽出する変形対象領域抽出学習済モデルを用いて、前記頭頚部3次元ボリュームデータから前記軟組織部を抽出する変形対象領域抽出部と、変形対象領域抽出部によって抽出された軟組織部の体表側を変形した変形軟組織部を生成する変形部と、前記軟組織部を、前記変形部によって生成された変形軟組織部に置換した変形済頭頚部3次元ボリュームデータを生成する置換処理部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の発明において、前記変形部は、前記軟組織部の3次元ボリュームデータをもとに前記軟組織部の3次元メッシュデータを生成するメッシュデータ生成部と、前記軟組織部の3次元メッシュデータの体表側を変形した変形3次元メッシュデータを生成するメッシュデータ変形部と、前記変形3次元メッシュデータに前記軟組織部のボリュームデータを補完した3次元ボリュームデータを前記変形軟組織部として生成する補完処理部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、前記変形部は、前記軟組織部の体表の一部又は全てを滑らかにする処理を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記変形部は、前記軟組織部の体表の一部又は全てを特定キャラクターの既定マスクに変形する処理を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記変形部は、前記軟組織部の体表の一部又は全てを特定キャラクターの既定マスクに所定割合近づけるモーフィング処理を行うことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記変形部は、軟組織部の一部又は全てを削除する処理を行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記の発明において、前記変形部は、予め設定された複数の変形処理パターンの1以上の組み合わせによる変形処理を行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、頭頚部抽出学習済モデルを用いて、2次元医用画像情報を変換した3次元ボリュームデータから頭頚部を抽出した頭頚部3次元ボリュームデータを生成する頭頚部抽出ステップと、教師データである頭頚部3次元ボリュームデータの頭部骨部から頭部前面までの軟組織部を用いた教師有り学習により、前記頭頚部3次元ボリュームデータから前記軟組織部を抽出する変形対象領域抽出学習済モデルを用いて、前記頭頚部3次元ボリュームデータから前記軟組織部を抽出する変形対象領域抽出ステップと、変形対象領域抽出ステップによって抽出された軟組織部の体表側を変形した変形軟組織部を生成する変形ステップと、前記軟組織部を、前記変形ステップによって生成された変形軟組織部に置換した変形済頭頚部3次元ボリュームデータを生成する置換処理ステップとを含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記の発明において、前記変形ステップは、前記軟組織部の3次元ボリュームデータをもとに前記軟組織部の3次元メッシュデータを生成するメッシュデータ生成ステップと、前記軟組織部の3次元メッシュデータの体表側を変形した変形3次元メッシュデータを生成するメッシュデータ変形ステップと、前記変形3次元メッシュデータに前記軟組織部のボリュームデータを補完した3次元ボリュームデータを前記変形軟組織部として生成する補完処理ステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、個人特定もしくは個人識別につながりうる頭部前面の軟組織を簡易かつ迅速に抽出して、匿名化のための変形処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施の形態に係る医用画像処理装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態に係る医用画像処理装置の概要処理を説明する説明図である。
【
図3】
図3は、軟組織部の抽出及び変形を説明するためのサジタル画像の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態による匿名化処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、固定マスクを用いた変形処理を説明する説明図である。
【
図6】
図6は、変形例2による変形処理を行うための変形処理パターン設定画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る医用画像処理装置及び医用画像処理方法の実施の形態について説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る医用画像処理装置10の構成を示す機能ブロック図である。また、
図2は、本実施の形態に係る医用画像処理装置10の概要処理を説明する説明図である。医用画像処理装置10は、例えばDICOM規格の2次元医用画像情報D1を3次元ボリュームデータに変換した後、個人特定もしくは個人識別につながる顔や容貌を形成する、頭部骨部から頭部前面までの軟組織部を抽出し、この軟組織部の体表側を変形する匿名化処理を行い、この匿名化処理が施された3次元ボリュームデータを変形済2次元医用画像情報D2に変換して出力するものである。
【0022】
2次元医用画像情報D1は、例えば、例えばMRI装置やX線CT装置、レントゲン装置、超音波診断装置、超音波CT装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、光CT装置などのモダリティによって取得された2次元医用画像を含む情報である。
【0023】
<装置構成及び医用画像処理>
図1に示すように、医用画像処理装置10は、入力部11、表示部12、制御部13及び記憶部14を有する。
【0024】
入力部11は、キーボードやマウス等の入力デバイスであり、表示部12は、液晶パネ
ルやディスプレイ装置等の表示デバイスである。
【0025】
制御部13は、医用画像処理装置10を全体制御する制御装置であり、3次元データ生成部15、体表領域抽出部16、頭頚部抽出部17、変形対象領域抽出部18、変形部19、置換処理部20及び変換部21を有する。また、変形部19は、メッシュデータ生成部22、メッシュデータ変形部23及び補完処理部24を有する。実際には、制御部13が、これらの機能部に対応するプログラムを不揮発性メモリ等などの記憶装置に記憶しておき、これらのプログラムをメモリにロードして、CPUで実行することで、対応するプロセスを実行させることになる。
【0026】
3次元データ生成部15は、入力された2次元医用画像情報D1をもとに3次元ボリュームデータD10を生成する(
図2(a))。体表領域抽出部16は、体表領域抽出学習済モデルM1を用いて3次元ボリュームデータD10から被検体の体表領域を抽出し、ベッド30などを除去する(
図2(b))。頭頚部抽出部17は、頭頚部抽出学習済モデルM2を用いて、ベッド30などが除去された3次元ボリュームデータD10から頭頚部31を抽出した頭頚部3次元ボリュームデータD20を生成する(
図2(c))。
【0027】
変形対象領域抽出部18は、頭頚部3次元ボリュームデータD20の頭部骨部から頭部前面までの軟組織部32を有する教師データによる教師有り学習などの機械学習を行って頭頚部3次元ボリュームデータD20から軟組織部32を抽出する変形対象領域抽出学習済モデルM3を用いて頭頚部3次元ボリュームデータD20から軟組織部32を抽出する(
図2(d))。なお、機械学習は深層学習を含む。また、機械学習は、教師有り学習に限らず、半教師有り学習などの各種機械学習方式を採用することができる。
【0028】
変形部19は、変形対象領域抽出部18によって抽出された軟組織部32の体表側を変形した変形軟組織部32´を生成する(
図2(e),(f)))。具体的には、メッシュデータ生成部22は、軟組織部32の3次元ボリュームデータD21をもとに軟組織部32の3次元メッシュデータD22を生成する。この3次元メッシュデータD22は、ポリゴンメッシュデータである。そして、メッシュデータ変形部23は、軟組織部32の3次元メッシュデータD22の体表SF1を体表SF11に変形した変形3次元メッシュデータD23を生成する。なお、3次元メッシュデータD22の裏面SRは変形しない。補完処理部24は、変形3次元メッシュデータD23に軟組織部32のボリュームデータを補完した3次元ボリュームデータD24を変形軟組織部32´として生成する。なお、補完されるボリュームデータは、位置データ以外、軟組織部32と同じデータである。
【0029】
なお、変形部19による体表SF1の変形は、体表SF1面を滑らかにする処理である。この面を滑らかにする処理を行うことによって、面の起伏が小さくなり、顔や容貌の特徴がぼかされ、個人特定もしくは個人識別が困難なものとする匿名化処理が施されることになる。この滑らかにする処理は、3次元メッシュデータのメッシュ交点の位置データを滑らかにする処理を行うが、この位置データに対して各種平滑化フィルタを施したり、積分処理などを行うことによって実現される。
【0030】
置換処理部20は、軟組織部32を、変形部19によって生成された変形軟組織部32´に置換した変形済頭頚部3次元ボリュームデータD30を生成する(
図2(f))。変換部21は、頭頚部3次元ボリュームデータD20を、変形済頭頚部3次元ボリュームデータD30に変換して変形済2次元医用画像情報D2を生成する(
図2(g))。この変形済2次元医用画像情報D2は、外部出力される。
【0031】
記憶部14は、ハードディスク装置又はSSD等の二次記憶媒体であり、体表領域抽出学習済モデルM1、頭頚部抽出学習済モデルM2、変形対象領域抽出学習済モデルM3等を記憶する。なお、体表領域抽出学習済モデルM1、頭頚部抽出学習済モデルM2、変形対象領域抽出学習済モデルM3は、ソフトウエアにより形成されている。このため、医用画像処理装置10が、体表領域抽出学習済モデルM1、頭頚部抽出学習済モデルM2、変形対象領域抽出学習済モデルM3を利用する場合には、体表領域抽出学習済モデルM1、頭頚部抽出学習済モデルM2、変形対象領域抽出学習済モデルM3を記憶部14から読み出して主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)上に展開して動作実行させることになる。
【0032】
<軟組織部の抽出及び変形>
ここで、軟組織部32の抽出及び変形について説明する。
図3は、軟組織部32の抽出及び変形を説明するためのサジタル画像の一例を示す図である。
図3(a)は、変形前の頭頚部のサジタル画像であり、
図3(b)は、変形後の頭頚部のサジタル画像である。
【0033】
図3(a)に示すように、頭頚部31のサジタル画像、例えばX線CT画像は、頭部骨部40のボクセル値が高く、グレースケールでは白色となるため、識別が容易である。軟組織部33は、頭部骨部40から頭部前面(図上左方向)の体表SF1までの領域として特定できる。なお、頭部骨部40が離れている場合には、その間を補完した裏面SRが形成される。本実施の形態では、頭部骨部40を基準に軟組織部32を抽出しており、軟組織部32の体表は、頭部骨部40の表面形状に近い形状であるため、頭部骨部40から頭部前面(体表)までの距離が急激に変化しない軟組織部32のみのなめらかな変形対象領域を短時間で確実に得ることができる。
【0034】
図3(b)に示したサジタル画像は、変形後の変形軟組織部32´が軟組織部32に対して置換したものである。軟組織部32の変形は、上記のように、変換された3次元メッシュデータD22の体表SF1を、体表SF11のように滑らかにした変形3次元メッシュデータD23としている。3次元メッシュデータは、ボリュームデータと異なり、位置データのみを取り扱うことができるため、変形処理が容易である。なお、3次元ボリュームデータに対して直接、変形処理を行ってもよい。
【0035】
<匿名化処理>
図4は、本実施の形態による匿名化処理手順を示すフローチャートである。
図4に示すように、まず、3次元データ生成部15は、2次元医用画像情報入力された2次元医用画像情報D1をもとに3次元ボリュームデータD10を生成する(ステップS101)。その後、体表領域抽出部16は、体表領域抽出学習済モデルM1を用いて3次元ボリュームデータD10から被検体の体表領域を抽出し、ベッド30などの不要画像を除去する(ステップS102)。その後、頭頚部抽出部17は、頭頚部抽出学習済モデルM2を用いて、ベッド30などが除去された3次元ボリュームデータD10から頭頚部31を抽出した頭頚部3次元ボリュームデータD20を生成する(ステップS103)。
【0036】
その後、変形対象領域抽出学習済モデルM3を用いて頭頚部3次元ボリュームデータD20から軟組織部32を抽出する(ステップS104)。そして、メッシュデータ生成部22は、軟組織部32の3次元ボリュームデータD21をもとに軟組織部32の3次元メッシュデータD22を生成する。(ステップS105)。さらに、メッシュデータ変形部23は、軟組織部32の3次元メッシュデータD22の体表SF1を体表SF11変形した変形3次元メッシュデータD23を生成する(ステップS106)。その後、補完処理部24は、変形3次元メッシュデータD23に軟組織部32のボリュームデータを補完した3次元ボリュームデータD24を変形軟組織部32´として生成する(ステップS107)。
【0037】
その後、置換処理部20は、軟組織部32を、変形部19によって生成された変形軟組織部32´に置換した変形済頭頚部3次元ボリュームデータD30を生成する(ステップS108)。そいて、変換部21は、頭頚部3次元ボリュームデータD20を、変形済頭頚部3次元ボリュームデータD30に変換して変形済2次元医用画像情報D2を生成し(ステップS109)、変形済2次元医用画像情報D2を外部出力して本処理を終了する。
【0038】
<変形例1>
上記の実施の形態では、変形部19が軟組織部32の体表SF1を滑らかにする処理を行っていたが、変形部19による変形処理はこれに限らず、各種の変形処理を行うことができる。
【0039】
例えば、上記の滑らかにする処理(平滑処理)以外に、体表SF1の中心を基準に、左右の拡幅、上下の拡幅、前後の拡幅を行う変形処理であってもよい。また、体表SF1の中心を基準とした特定位置を削除し、あるいはすべてを削除するようにしてもよい。
【0040】
また、
図5に示すように、体表SF1が体表SF11となる既定マスク50を用いて変形してもよい。既定マスク50は、小説、漫画、映画、アニメ、コンピュータゲーム、広告などのフィクションに登場する人物や動物などのキャラクターのマスクが好適である。また、既定マスク50を用いた変形では、体表SF1が既定マスク50に所定割合近づけるモーフィング処理を行うようにしてもよい。
【0041】
<変形例2>
上記の実施の形態及び変形例1では、1つの変形処理を行うものであったが、本変形例2では、予め設定された複数の変形処理パターンの1以上の組み合わせによる変形処理を行う行うようにしている。
【0042】
図6は、変形例2による変形処理を行うための変形処理パターン設定画面の一例を示す図である。
図6に示すように、変形処理パターン設定画面Eでは、変形処理として、平滑処理、左右変形、上下変形、既定マスク、削除を選択設定するチェック欄B1~B5が設けられている。平滑処理、左右変形、上下変形、既定マスク、削除の変形については、重複した変形が設可能であり、
図6では、平滑処理と左右変形とが組み合わされて設定されている。
【0043】
また、左右変形及び上下変形では、拡大か縮小かを択一的に選択するチェックボタンB11~B14が設けられ、既定マスクでは、キャラクター「A」、「B」、「C」を択一的に選択するチェックボタンB15~B17が設けられている。
【0044】
さらに、各変形処理には、変形の割合を設定する入力欄E1~E6が設けられている。なお、既定マスクも同様に、既定マスクに近づけるモーフィング処理の割合を設定できるようにしてもよい。なお、
図6に示した選択あるいは数値は、デフォルト値である。
【0045】
変形部19は、この変形処理パターン設定画面Eによって設定された内容で変形処理を行うことになる。なお、変形結果を確認しつつ、変形処理を行う場合には、繰り返しを指示する繰り返しボタンを設けるようにしてもよい。この繰り返しボタンが押下されると、繰り返しボタンが押下される前の変形状態に対する変形処理が行われる。繰り返しボタンが押下されずに、変形を行う場合、デフォルトの軟組織部32に対する変形処理が行われる。
【0046】
上記の実施の形態及び変形例では、頭頚部3次元ボリュームデータD20に含まれる頭部骨部40を基準に頭部前面までの軟組織部32を抽出しており、この頭部骨部40は、頭頚部3次元ボリュームデータD20内での検出が容易であるため、顔や容貌を形成する軟組織部32を容易かつ迅速に抽出することができる。
【0047】
なお、本実施の形態及び変形例では、頭部骨部40によって変形領域の奥行きが制限されるため、軟組織部32の変形を行っても、その奥にある脳などの部分まで変形されず、病変部を元画素のまま維持することができる。
【0048】
また、上記の実施の形態及び変形例では、変形部19が裏面SRを変形しないように変形処理を行っているが、軟組織部32を一体とした変形処理によっては裏面SRが変形してしまう場合がある。この場合、置換処理部20は、変形軟組織部32´の一部が頭部骨部40に重複するため、この重複部分の置換を行わないようにする。これにより、変形後も患者の骨格を維持することができ、骨部を重視する整形外科向けや頭蓋骨の3D印刷向けにデータ提供を行うことができる。
【0049】
なお、上記の実施の形態及び変形例では、3次元メッシュデータに対して変形処理を行っているので、変形処理にかかる負荷を低減し、迅速な変形処理を行うことができる。なお、3次元メッシュデータを生成せず、3次元ボリュームデータに対して直接、変形処理を行ってもよい。
【0050】
さらに、上記の変形例では、予め設定された複数の変形処理パターンの1以上の組み合わせによる変形処理や変形割合を設定した変形処理を行うことができるので、多種多様な変形処理を簡易に行うことができる。また、既定マスク50を用いた変形処理を行うと確実な匿名化処理を行うことができる。
【0051】
なお、医用画像処理装置10は、ネットワーク上のサーバであってもよいし、クラウド上の処理機構であってもよいし、エッジサーバであってもよい。
【0052】
また、上記の変形処理は、体表SF1の全てに限らず一部のみの変形であってもよい。さらに、変形処理は、平滑処理とは逆に、起伏を大きくして尖らせる変形処理を行うようにしてもよい。
【0053】
なお、上記の実施の形態及び変形例で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る医用画像処理装置及び医用画像処理方法は、個人特定もしくは個人識別につながりうる頭部前面の軟組織を簡易かつ迅速に抽出して、匿名化のための変形処理を行う場合に有用である。
【符号の説明】
【0055】
10 医用画像処理装置
11 入力部
12 表示部
13 制御部
14 記憶部
15 3次元データ生成部
16 体表領域抽出部
17 頭頚部抽出部
18 変形対象領域抽出部
19 変形部
20 置換処理部
21 変換部
22 メッシュデータ生成部
23 メッシュデータ変形部
24 補完処理部
30 ベッド
31 頭頚部
32,33 軟組織部
32´ 変形軟組織部
40 頭部骨部
50 既定マスク
B1~B5 チェック欄
B11~B17 チェックボタン
D1 2次元医用画像情報
D2 変形済2次元医用画像情報
D10,D21,D24 3次元ボリュームデータ
D20 頭頚部3次元ボリュームデータ
D22 3次元メッシュデータ
D23 変形3次元メッシュデータ
D30 変形済頭頚部3次元ボリュームデータ
E 変形処理パターン設定画面
E1~E6 入力欄
M1 体表領域抽出学習済モデル
M2 頭頚部抽出学習済モデル
M3 変形対象領域抽出学習済モデル
SF1,SF11 体表
SR 裏面