(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】樹脂ナット
(51)【国際特許分類】
F16B 37/00 20060101AFI20240913BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240913BHJP
B29C 45/27 20060101ALI20240913BHJP
B29D 1/00 20060101ALI20240913BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
F16B37/00 C
B29C45/14
B29C45/27
B29D1/00
F16H25/24 B
(21)【出願番号】P 2020168959
(22)【出願日】2020-10-06
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019184620
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】古谷 七郎
(72)【発明者】
【氏名】赤井 洋
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-281132(JP,A)
【文献】特開2016-098910(JP,A)
【文献】特開2019-052542(JP,A)
【文献】特開2000-074172(JP,A)
【文献】特開2013-040626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/00
F16H 25/24
B29C 45/27
B29C 45/14
B29D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ孔が形成された本体としての射出成形品を備えた樹脂ナットであって、
前記本体のねじ孔開口部の近傍に射出ゲート跡が形成され
、前記射出ゲート跡は、前記本体のねじ孔開口部側の端面に凹み部として形成された段付きの面に設けられていることを特徴とする樹脂ナット。
【請求項2】
ねじ孔が形成された本体としての射出成形品を備えた樹脂ナットであって、
前記本体のねじ孔開口部側の端面に凹み部として形成された段付きの面を備え、この段付きの面にねじ孔端部を開口させ、かつ、この段付きの面に射出ゲート跡が形成されていることを特徴とする樹脂ナット。
【請求項3】
前記射出ゲート跡は、前記本体のほぼ端部であって、前記ねじ孔の軸方向に対してほぼ
直交する面に形成されていることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の樹脂ナット。
【請求項4】
複数個の前記射出ゲート跡を有することを特徴とする請求項1~
請求項3のいずれか1項に記載の樹脂ナット。
【請求項5】
前記射出ゲート跡は、0.8mm以下の円形形状であることを特徴とする請求項1~
請求項4のいずれか1項に記載の樹脂ナット。
【請求項6】
前記射出ゲート跡は、0.5mm以上の円形形状であることを特徴とする請求項1~
請求項5のいずれか1項に記載の樹脂ナット。
【請求項7】
前記本体のねじ孔開口部側の端面に凹み部として形成された段付きの面の深さを0.2mm以上0.8mm以下に設定したことを特徴とする請求項1~
請求項6のいずれか1項に記載の樹脂ナット。
【請求項8】
前記射出成形品を形成する樹脂組成物の主成分として、ポリアリーレンサルファイドが用いられたことを特徴とする請求項1~
請求項7のいずれか1項に記載の樹脂ナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ナットに関する。
【背景技術】
【0002】
送りねじには、特許文献1に記載のように、ナットが合成樹脂製のものがある。この特許文献1に記載の送りねじは、
図3に示すように、雄ねじ1を有するねじ軸2と、このねじ軸2の雄ねじ1に螺合するねじ穴3を有すナット4とからなる。また、ねじ軸2はステンレス鋼又は炭素鋼等が転造加工されてなるものであり、ナット4は、成形時の寸法安定性に優れたPPS(ポリフェニレンサルファイド)材料を素材とし、成形時にウィスカを混合させてなるものである。
【0003】
ウィスカが混合されたPPS組成物によってナット4が射出成形されることにより、寸法精度と剛性を向上させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のナット4(樹脂ナット4)にあっては、樹脂ナット4を射出成形した場合、ゲート跡の位置によっては、ねじ穴3の精度を高く維持できないという問題があった。ねじ穴3の精度が低いと、ねじ穴3に入る雄ねじ1の回転にむらが生じ、雄ねじ1の回転不良などの不具合が発生するおそれがある。
【0006】
このような問題点に対して、例えば射出成形後の樹脂ナット4に雄ねじ1を螺合させ、雄ねじ1の回転むらを検査し、回転むらに関する樹脂ナット4の合格品と不合格品とを全数選別させることも提案できるが、このような提案に対しては、検査、選別にかけられる費用がかさみ、樹脂ナット4の価格を低く抑えることが困難とされる。
【0007】
また、樹脂ナットを射出成形した場合、ゲート跡がいずれかの部位に形成されることになる。このため、通常、ゲート跡を人手によりカットするゲートカット処理を行うという工程が必要とされていた。しかしながら、このような人手によるゲートカット処理を行うと、ゲートカット処理に対するコストが発生し、樹脂ナットとしての価格を低く抑えることが困難とされていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、回転不良などの不具合の発生を回避させ、低コスト化を図ることが可能な樹脂ナットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の樹脂ナットは、ねじ孔が形成された本体としての射出成形品を備えた樹脂ナットであって、前記本体のねじ孔開口部の近傍に射出ゲート跡が形成されているものである。
【0010】
本体のねじ孔開口部の近傍に射出ゲート跡が形成されているので、射出成形時にねじ孔に生じる可能性のある例えばショートショット等の寸法がくずれる要因が排除され、ねじ孔の精度が高く維持される。ねじ孔の精度が高いので、ねじ孔に入る雄ねじの回転にむらが生じるということは回避され、回転精度が向上する。
【0011】
前記射出ゲート跡は、前記本体のねじ孔開口部側の端面に凹み部として形成された段付きの面に設けられているのが好ましい。本体のねじ孔開口部側の端面に凹み部として形成された段付きの面に、射出ゲート跡が形成されるものであるので、射出ゲート跡が本体の端面より後退した位置にあり、この射出ゲート跡が他の部材に接触するのを有効に防止できる。
【0012】
また、本発明の樹脂ナットは、ねじ孔が形成された本体としての射出成形品を備えた樹脂ナットであって、前記本体のねじ孔開口部側の端面に凹み部として形成された段付きの面を備え、この段付きの面にねじ孔端部を開口させ、かつ、この段付きの面に射出ゲート跡が形成されているものである。
【0013】
本体のねじ孔の開口部は、本体の端面よりも後退した部位に配置されることになるので、本体のねじ孔開口部側の端面に他の部材が接触等してこの端面に打痕が形成されたとしても、ねじ孔の開口部には打痕が生じない。また、段付きの面に射出ゲート跡が形成されるものであるので、射出ゲート跡が本体の端面より後退した位置にあり、この射出ゲート跡が他の部材に接触するのを有効に防止できる。
【0014】
前記射出ゲート跡は、前記本体のほぼ端部であって、前記ねじ孔の軸方向に対してほぼ直交する面に形成されているのが好ましい。射出金型から樹脂ナットが取り出される際に、射出金型は、ねじ孔の軸方向にほぼ沿って移動しつつ開く。射出ゲート跡が、本体のほぼ端部であって、ねじ孔の軸方向に対してほぼ直交する面に形成されるものであれば、射出金型から樹脂ナットが取り出される際に、ねじ孔の軸方向にほぼ沿って射出金型が移動しつつ開いた際に、同時にゲートカットが行われる。従って、人手によりゲートカット処理を行うという工程が省かれて、生産性が向上されるので、樹脂ナットの低コスト化が図られる。
【0015】
複数個の前記射出ゲート跡を有するのが好ましい。射出ゲート跡が1つだけの樹脂ナットであれば、樹脂ナットのねじ孔が例えば楕円となり、樹脂ナットのねじ孔を精度よく形成されない。これに対して、例えば多点ゲートを有する射出金型を用いて樹脂ナットを成形すれば、多点ゲートを有する射出金型のキャビティ内に合成樹脂が充填されるときに、合成樹脂は複数のゲートからほぼ同時に均一に射出金型のキャビティ内に充填される。従って、複数の射出ゲート跡を有する樹脂ナットのねじ孔は、精度よく形成されることとなる。
【0016】
前記射出ゲート跡は、0.8mm以下の円形形状であるのが好ましい。射出ゲートの直径がほぼ0.8mm以下の射出金型を用いて樹脂ナットを製作することにより、射出金型が開いて射出金型内から樹脂ナットが取り出されるときに、樹脂ナットと、樹脂ナットに続くスプルー乃至ランナーとは、容易に切り離される。その際に、射出ゲート跡の直径がほぼ0.8mm以下の樹脂ナットが製作される。樹脂ナットと、樹脂ナットに続くスプルー乃至ランナーとが、容易に切り離されるために、射出ゲート跡の直径は、0.7mm以下、さらには0.6mm以下であることが好ましい。
【0017】
また、前記射出ゲート跡は、0.5mm以上の円形形状であるのが好ましい。射出ゲート跡が0.5mm未満であれば、射出ゲートが0.5mm未満となるので、成形品への入り口である射出成形金型のゲート径が小さくなって、樹脂が成形品を形成させるキャビティ内に良好に流れ込まなくなるおそれがある。このため、射出ゲート跡の直径が0.5mm以上の円形形状であるのが好ましい。
【0018】
前記本体のねじ孔開口部側の端面に凹み部として形成された段付きの面(凹窪部)の深さを0.2mm以上0.8mm以下に設定するのが好ましい。深さが0.2mm未満であれば、浅過ぎて、本体のねじ孔開口部側の端面に他の部材が接触等してこの端面に打痕が形成された場合、ねじ孔開口部にこの打痕の影響を受ける場合があり、0.8mmを超えれば、ねじ孔の軸方向長さが短くなって、ねじ軸の螺合が安定しないものとなる。
【0019】
前記射出成形品を形成する樹脂組成物の主成分として、ポリアリーレンサルファイド(PAS)が用いられるのが好ましい。PASは、スーパーエンジニアリングプラスチックの1つである。PASは、耐熱性、耐寒性、耐ヒートショック性、耐クリープ性、疲労特性、難燃性、耐薬品性、ほぼ吸水しないことによる寸法安定性、物性などの変化が少ないことなどに優れている。そのため、射出成形品を形成する樹脂組成物の主成分としてPASが用いられることにより、例えば、水、オイル、各種溶剤などに接触する環境下で本体を備える樹脂ナットが使用されても、樹脂ナットの本体の寸法精度は、維持される。従って、本体の寸法精度の低下により、本体を備えた樹脂ナットに回転不良などの不具合が発生されるということは回避される。また、PASは、比較的低価格であるので、本体を備えた樹脂ナットの低価格化に寄与できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、本体のねじ孔開口部の近傍に射出ゲート跡が形成されているので、射出成形時にねじ孔に生じる可能性のある例えばショートショット等の寸法がくずれる要因を排除できる。そのため、例えば雄ねじを用いた回転むらの全数検査等を必要としない高精度なねじ孔を有する樹脂ナットを形成させることが可能となり、その結果、回転不良などの不具合の発生を回避させ、かつ、低コスト化が図られた樹脂ナットの提供が可能となる。
【0021】
また、本発明では、本体のねじ孔の開口部は、本体の端面よりも後退した部位に配置されることになるので、本体のねじ孔開口部側の端面に他の部材が接触等してこの端面に打痕が形成されたとしても、ねじ孔の開口部には打痕が生じない。このため、本樹脂ナットに雄ねじを螺合させる際に、雄ねじの回転不良などの不具合が発生するのを有効に防止できて、円滑な螺合が可能となる。
【0022】
また、射出ゲート跡が他の部材に接触するのを有効に防止でき、ゲートカット処理しなくても、樹脂ナットの回転動作が損なわれることがない。このため、生産性の向上を図ることができて、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】
従来の樹脂ナットを用いた送りねじを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を
図1~
図2に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る樹脂ナット10を用いた送りねじを示している。送りねじとは、回転の動きを直進運動に転化する機械部品である。すなわち、送りねじは、本発明に係る樹脂ナット10と、これに螺合する
雄ねじを有する
ねじ軸とからなる。
【0025】
樹脂ナット10は、
図1及び
図2に示すように、大径の短円筒形状の第1部13と、この第1部13の一方の開口を塞ぐ壁部13bから突設される小径の短円筒形状の第2部14とを有する本体15を備え
る。そして、壁部13bには、第2部14の貫通孔14aに連通される孔部15aが設けられている。貫通孔14aと孔部15aとで、第1部13の孔部13aと連通する孔部19が形成される。
【0026】
そして、貫通孔14aと孔部15aとで形成される孔部19は、内径面に雌ねじが設けられたねじ孔20に形成される。この雌ねじは、ねじの呼びが例えばM2以上、好ましくは、M2.3以上、例えばM5以下、具体的にはM3以下のメートルねじで、並目、細目のいずれでもよいが、ピッチは、例えば0.25以上、好ましくは0.35以上、さらには0.4以上、例えば0.8以下、具体的は0.6以下、さらには0.5以下の小さい雌ねじとされ、これに対応して、雄ねじのねじの呼び、ピッチ等も雌ねじと同じく小さいものとされる。このように、この樹脂ナット10においては、本体15に小さい雌ねじのねじ孔20を有するものとされていることから、ねじ孔20の雌ねじの精度を高く成形させる必要がある。なお、孔部15aの第1部13の孔部13a側には、大径部15a1が形成され、大径部15a1と貫通孔14aとの間にテーパ孔15a2が形成されている。
【0027】
また、本体15のねじ孔開口部20a側の端面15bに凹み部21を形成して段付きの面21aを設けている。そして、この凹み部21にねじ孔20が連通され、段付きの面21aにねじ孔20の端面15b側の開口部20aが設けられたものとされている。
【0028】
段付きの面21aは、
図1に示すように、円環部21a1と、この円環部21a1に連通される径方向突出部21a2とからなる。この場合、径方向突出部21a2は、周方向に沿って120°ピッチで3個設けられている。ところで、この樹脂ナット10は射出成形にて形成されるものであり、射出成形品には射出ゲート跡Gが形成される。そこで、本樹脂ナット10では、射出ゲート跡Gの径方向突出部21a2に形成されるように、図示省略の射出成形金型のゲート(図示省略)の位置を決定している。
【0029】
この樹脂ナット10は、ねじ孔20が形成された本体15としての射出成形品を備えた樹脂ナット10であって、本体15のねじ孔開口部20aの近傍に射出ゲート跡Gが形成されている。ここで、ねじ孔開口部20aの近傍について詳しく説明する
と、図1の樹脂ナット10の正面の要部拡大図に示すように、例えば、ねじ孔開口部20aのほぼ中心から半径5mm以内の範囲内、好ましくは半径4mm以内の範囲内、より好ましくは半径3mm以内の範囲内、さらには半径2.5mm以内の範囲内の位置に射出ゲート跡Gが形成されるとよい。
【0030】
本体15のねじ孔開口部20aの近傍に射出ゲート跡Gが形成されているので、射出成形時にねじ孔20に生じる可能性のある例えばショートショット等の寸法がくずれる要因を排除でき、樹脂ナット10の本体15が小さい雌ねじのねじ孔20を有するものとされていても、ねじ孔20の精度が高く維持される。ねじ孔20の精度が高いので、ねじ孔20に入る雄ねじの回転にむらが生じるということは回避され、回転精度が向上する。そのため、例えば雄ねじを用いた回転むらの全数検査等を必要としない高精度なねじ孔20を有する樹脂ナット10を形成させることが可能となり、その結果、回転不良などの不具合の発生を回避させ、かつ、低コスト化が図られた樹脂ナット10の提供が可能となる。
【0031】
なお、ねじ孔開口部20aの直径、射出ゲート跡Gの直径D等の関係上、射出ゲート跡Gは、ねじ孔開口部20aのほぼ中心から上記半径以内の範囲内であって、かつ、ねじ孔開口部20aのほぼ中心から半径1.5mm以上の離れた位置に設けられるのが好ましい。
【0032】
また、射出ゲート跡Gは、本体15のねじ孔開口部20a側の端面15bに凹み部21として形成された段付きの面21aに設けられている。本体15のねじ孔開口部20a側の端面15bに凹み部21として形成された段付きの面21aに、射出ゲート跡Gが形成されているものであるので、射出ゲート跡Gが本体15の端面15bより後退した位置にあり、この射出ゲート跡Gが他の部材に接触するのを有効に防止できる。
【0033】
射出成形時には、射出成形金型内に、樹脂ナット10の本体15の形状に対応したキャビティが形成される。溶融した樹脂組成物は、射出成形金型のゲートからキャビティに射出充填される。なお、射出成形法に基づいて製造された樹脂成形体には、ゲート跡G、突出しピン跡などの痕跡が残されているので、射出成形法に基づいて製造されたものか否かの判別は可能である。
【0034】
樹脂ナット10は、例えば耐薬品性に優れ吸水率が低いポリフェニレンサルファイド(PPS)等から構成される。また、射出ゲート跡Gは、その径寸法(直径)Dが0.8mm以下でかつ0.5mm以上の円形形状となるように、図示省略の射出成形金型のゲートの径が設定される。さらに、凹み部21の深さT(端面15bから段付きの面21aまでの寸法)としては、例えば0.2mm以上0.8mm以下、好ましくは0.3mm以上0.5mm以下程度に設定される。
【0035】
このように構成された樹脂ナット10のねじ孔20にねじ軸の雄ねじが嵌合することによって、送りねじが構成される。なお、ねじ軸としては、ステンレス鋼、炭素鋼、又は機械構造用鋼を用いることができる。
【0036】
詳しく説明すると、ねじ軸は、溶製金属製基材で形成される。溶製金属材質としては、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、または銅合金であることが好ましい。鉄としては一般構造用炭素鋼(SS400など)、軟鋼(SPCC、SPCEなど)、ステンレス鋼(SUS304、SUS316など)などが挙げられ、これら鉄に亜鉛、ニッケル、銅などのめっきを施してもよい。アルミニウムとしてはA1100、A1050、アルミニウム合金としてはA2017、A5052(アルマイト処理品も含む)、銅としてはC1100、銅合金としてはC2700、C2801などがそれぞれ挙げられる。
【0037】
また、上述した樹脂ナット10について詳しく説明すると、この樹脂ナット10は、ねじ孔20が形成された本体15としての射出成形品を備えた樹脂ナット10であって、本体15のねじ孔開口部20a側の端面15bに凹み部21を形成して段付きの面21aを設けるとともに、この段付きの面21aにねじ孔端部20bを開口させ、かつ、この段付きの面21aに射出ゲート跡Gが形成されている。
【0038】
前記のように構成された樹脂ナット10においては、本体15のねじ孔20の開口部20aは、本体15の端面15bよりも後退した部位に配置されることになるので、本体15のねじ孔開口部20a側の端面15bに他の部材が接触等してこの端面15bに打痕が形成されたとしても、ねじ孔20の開口部20aには打痕が生じない。このため、本樹脂ナット10とねじ軸とを螺合させる際に、ナット10の回転不良などの不具合が発生するのを有効に防止できて、円滑な螺合が可能となる。
【0039】
また、段付きの面21aに射出ゲート跡Gが形成されるものであるので、射出ゲート跡Gが本体15の端面15bより後退した位置にあり、この射出ゲート跡Gが他の部材に接触するのを有効に防止できる。従って、ゲートカット処理しなくても、樹脂ナット10の回転動作が損なわれることがない。このため、生産性の向上を図ることができて、低コスト化を図ることができる。
【0040】
射出ゲート跡Gは、本体15のほぼ端部15cであって、ねじ孔20の軸方向Aに対してほぼ直交する面21aに形成されている。射出金型から樹脂ナット10が取り出される際に、射出金型は、ねじ孔20の軸方向Aにほぼ沿って移動しつつ開く。射出ゲート跡Gが、本体15のほぼ端部15cであって、ねじ孔20の軸方向Aに対してほぼ直交する面21aに形成されるものであれば、射出金型から樹脂ナット10が取り出される際に、ねじ孔20の軸方向Aにほぼ沿って射出金型が移動しつつ開いた際に、同時にゲートカットが行われる。従って、人手によりゲートカット処理を行うという工程が省かれて、生産性が向上されるので、樹脂ナット10の低コスト化が図られる。
【0041】
複数個の射出ゲート跡Gを前記段付きの面21aに有している。射出ゲート跡が1つだけの樹脂ナットであれば、樹脂ナットのねじ孔が例えば楕円となり、樹脂ナットのねじ孔を精度よく形成されない。これに対して、例えば多点ゲートを有する射出金型を用いて樹脂ナット10を成形すれば、射出金型のキャビティ内に合成樹脂が充填されるときに、合成樹脂は複数のゲートからほぼ同時に均一に射出金型のキャビティ内に充填される。従って、複数の射出ゲート跡Gを有する樹脂ナット10のねじ孔20は、精度よく形成されることとなる。
【0042】
射出ゲート跡Gは、直径Dが0.8mm以下の円形形状であるのが好ましい。射出ゲートの直径がほぼ0.8mm以下の射出金型を用いて樹脂ナット10を製作することにより、射出金型が開いて射出金型内から樹脂ナット10が取り出されるときに、樹脂ナット10と、樹脂ナット20に続くスプルー乃至ランナーとは、容易に切り離される。その際に、射出ゲート跡Gの直径Dがほぼ0.8mm以下の樹脂ナット10が製作される。樹脂ナット10と、樹脂ナット10に続くスプルー乃至ランナーとが、容易に切り離されるために、射出ゲート跡Gの直径Dは、0.7mm以下、さらには0.6mm以下であることが好ましい。
【0043】
射出ゲート跡Gは、直径Dが0.5mm以上の円形形状であるのが好ましい。射出ゲート跡Gが0.5mm未満であれば、射出ゲートが0.5mm未満となるので、成形品への入り口である射出成形金型のゲート径が小さくなって、樹脂が成形品を形成させるキャビティ内に良好に流れ込まなくなるおそれがある。このため、射出ゲート跡Gの直径Dが0.5mm以上の円形形状であるのが好ましい。
【0044】
本体15のねじ孔開口部20a側の端面15bに凹み部21として形成された段付きの面21a(凹窪部)の深さTを例えば0.2mm以上0.8mm以下、好ましくは0.3mm以上0.5mm以下に設定するのが望ましい。深さが例えば0.2mm未満、具体的には0.3mm未満であれば、浅過ぎて、本体のねじ孔開口部側の端面に他の部材が接触等してこの端面に打痕が形成された場合、ねじ孔開口部にこの打痕の影響を受ける場合があり、深さが例えば0.8mmを超えれば、具体的には0.5mmを超えれば、ねじ孔の軸方向長さが短くなって、ねじ軸の螺合が安定しないものとなる。
【0045】
樹脂ナット10の本体15は、エンジニアリングプラスチック、又はスーパーエンジニアリングプラスチックのいずれかの射出成形が可能な熱可塑性樹脂と熱可塑性樹脂組成物との少なくともいずれかを含みこれを主成分として構成されている。
【0046】
上市されているエンジニアリングプラスチック、又はスーパーエンジニアリングプラスチックのいずれかの射出成形が可能な熱可塑性樹脂及び熱可塑性樹脂組成物は、射出成形性に優れるので、樹脂ナット10の本体15を効率よく射出成形することができ、樹脂ナット10の生産性の向上及び低コスト化を達成できる。
【0047】
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)として、例えば、ポリアミド(PA)等のアミド系樹脂,ポリアセタール(POM)等のオキシメチレン系樹脂等が挙げられる。また、スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)として、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のアリーレンサルファイド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のケトン系樹脂、液晶ポリマー(LCP)等の液晶性樹脂、ポリエーテルイミド(PEI),ポリアミドイミド(PAI),熱可塑性ポリイミド(TPI)等のイミド系樹脂等が挙げられる。
【0048】
射出成形品を形成する樹脂組成物の主成分として、ポリアリーレンサルファイド(PAS)が用いられている。PASは、スーパーエンジニアリングプラスチックの1つである。PASは、耐熱性、耐寒性、耐ヒートショック性、耐クリープ性、疲労特性、難燃性、耐薬品性、ほぼ吸水しないことによる寸法安定性、物性などの変化が少ないことなどに優れている。そのため、射出成形品を形成する樹脂組成物の主成分としてPASが用いられることにより、例えば、水、オイル、各種溶剤などに接触する環境下で本体15を備える樹脂ナット10が使用されても、樹脂ナット10の本体15の寸法精度は、維持される。従って、本体15の寸法精度の低下により、本体15を備えた樹脂ナット10に回転不良などの不具合が発生されるということは回避される。また、PASは、比較的低価格であるので、本体15を備えた樹脂ナット10の低価格化に寄与できる。
【0049】
PAS系樹脂は、一般的に次の化1の式(1)で示される合成樹脂である。下記式(1)中のArはアリーレン基を示し、Arとしては、例えば化2及び化3の式(2)~式(7)に示されるものが挙げられる。なお、下記式(5)において、XはF、ClおよびBrから選ばれるハロゲンまたはCH
3を示し、mは1~4の整数を示す。
【化1】
【0050】
【0051】
【0052】
PAS系樹脂としては、上記式(1)中のArが上記式(2)であるPPS樹脂を好適に用いることができる。PPS樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチックとして優れた各種特性を備えていることに加えて、スーパーエンジニアリングプラスチックの中でも価格が低く抑えられているので、樹脂ナット10の本体15の低価格化を一層図ることができる。
【0053】
PAS系樹脂は、繰り返し単位(-Ar-S-)の含有率が70モル%以上であることが好ましく、90モル%~100モル%であることがより好ましい。ここでいう繰り返し単位の含有率とは、PAS系樹脂を構成する全モノマー100%に占める繰り返し単位の割合をいう。繰り返し単位の含有率が70モル%未満のPAS系樹脂を用いた場合、PAS系樹脂の低い吸水性に基づいた寸法安定性の効果が得られにくい傾向にある。
【0054】
PAS系樹脂を得るためには公知の方法を用いることができる。例えば、ハロゲン置換芳香族化合物と硫化アルカリとの反応(特公昭44-27671号公報)や、ルイス酸触媒共存下における芳香族化合物と塩化硫黄との縮合反応(特公昭46-27255号公報)、または、アルカリ触媒もしくは銅塩などの共存下におけるチオフェノール類の縮合反応(米国特許第3274165号公報)などによって合成される。具体的な方法としては、硫化ナトリウムとp-ジクロロベンゼンとをN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒もしくはスルホランなどのスルホン系溶媒中で反応させることが挙げられる。
【0055】
また、PAS系樹脂の結晶性に影響を与えない範囲で、例えば、次の化4及び化5の式(8)~式(12)に示される成分を、共重合成分としてPAS系樹脂に含ませることができる。下記式(8)~式(12)に示される成分の添加量は、PAS系樹脂を構成する全モノマー100%に対して30モル%未満、好ましくは10モル%未満でかつ1モル%以上とすることができる。
【化4】
【0056】
【0057】
ここで、PPS樹脂は、例えば、硫化ナトリウムとp-ジクロロベンゼンをN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒もしくはスルホランなどのスルホン系溶媒中で反応させて得られ、この段階のPPS樹脂を重合上がりとしている。この重合上がりの低分子量PPS樹脂を熱処理などの工程にかけて、樹脂中に交差結合が全くないものから部分的交差結合(架橋)を有するものに至るまで各重合度のものを自由に製造することができる。これにより、目的の溶融ブレンドに適正な溶融粘度特性を有するものを任意に選択することができる。また、架橋構造をとらない直鎖状のPPS樹脂も使用できる。
【0058】
PAS系樹脂としては、架橋型のPAS系樹脂であるか、または部分的交差結合、すなわち、部分架橋を有するPAS系樹脂であることが好ましい。部分的交差結合を有するPAS系樹脂は、半架橋型またはセミリニア型とも呼ばれる。架橋型のPAS系樹脂は、例えば、製造工程中に酸素存在下で熱処理を行ない、分子量を必要な水準に高めることで得られる。架橋型のPAS系樹脂は、分子の一部がお互いに酸素を介して架橋された二次元または三次元の架橋構造を有する。そのため、後述する架橋のないリニア型のPAS系樹脂に比較して、高温環境下においても高い剛性を保持し、クリープ変形が少ない点や、応力緩和されにくい点で優れている。また、架橋型または半架橋型のPAS系樹脂は、架橋のないリニア型のPAS系樹脂に比べ、耐熱性、耐クリープ性などに優れており、射出成形した成形体にバリの発生が少なく、寸法精度に優れた本体15が得られやすい。
【0059】
一方、リニア型のPAS系樹脂は、製造工程において熱処理工程がないために分子中には架橋構造は含まれず、分子は一次元の直鎖状とされている。一般的にはリニア型のPAS系樹脂は架橋型のPAS系樹脂に比較して剛性が低く、靭性や伸びが多少高いのが特長とされている。また、リニア型のPAS系樹脂は、特定方向からの機械的強度に優れており、吸湿が少ないために高温多湿雰囲気でも寸法変化が少ないなどの利点がある。また、リニア型のPAS系樹脂は、例えば分子量を調整して溶融粘度を低くすることが可能となる。このため、リニア型のPAS系樹脂に、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカなどの繊維状無機物、炭酸カルシウム、マイカなどの粒状無機物、金属粉末などの充填材を所定量混合させた樹脂組成物であっても、射出成形性は著しく阻害されない。
【0060】
PAS系樹脂に架橋または部分的交差結合を形成する方法としては、例えば、低重合度のポリマーを重合した後、空気が存在する雰囲気で加熱する方法や、架橋剤や分岐剤を添加する方法がある。
【0061】
PAS系樹脂の見かけの溶融粘度は、1000ポアズ~10000ポアズの範囲とすることが好ましい。見かけの溶融粘度が1000ポアズ未満であると、樹脂成形体の強度が低下するおそれがある。一方、見かけの溶融粘度が10000ポアズを超えると、成形性が低下するおそれがある。架橋型のPAS系樹脂の溶融粘度は1000ポアズ~5000ポアズとすることができ、好ましくは2000ポアズ~4000ポアズである。溶融粘度が低くなると、150℃以上の高温域で耐クリープ特性などの機械的特性が低下するおそれがある。また、溶融粘度が高くなると成形性が低下するおそれがある。なお、溶融粘度の測定は、測定温度300℃、オリフィスが穴径1mm、長さ10mm、測定荷重20kg/cm2、予熱時間6分の条件下で、高化式フローテスタにて実施することができる。
【0062】
また、部分的交差結合を有するPAS系樹脂の熱安定性は、上記の溶融粘度測定条件にて、予熱6分後と30分後の溶融粘度の変化率が-50%~150%の範囲であることが好ましい。なお、変化率は下記の式で表される。
[変化率=(P30-P6)/P6×100(P6:予熱6分後の測定値、P30:予熱30分後の測定値)]
【0063】
PAS系樹脂の分子量は、射出成形性を考慮すると、数平均分子量で13000~30000が好ましく、さらに耐疲労性、高成形精度を考慮すると、数平均分子量で18000~25000がより好ましい。数平均分子量が13000未満の場合には、分子量が低すぎて、耐疲労性が劣る傾向にある。一方、数平均分子量が30000を超える場合には耐疲労性は向上するものの、必要な衝撃強度などの機械的強度が低下するおそれがある。なお、ここでの数平均分子量とは、PAS系樹脂を溶媒に溶解させた後、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC法)で測定されるポリスチレン換算での数平均分子量を示す。
【0064】
PAS系樹脂の融点は、例えば約220℃~290℃であり、好ましくは280℃~290℃である。一般に、PPS樹脂の融点は、約285℃であるため、PAS系樹脂としてPPS樹脂を用いることが好ましい。PAS系樹脂は吸水性が低いため、吸水による寸法変化が低減される。PPS樹脂などのPAS系樹脂をベース樹脂とする樹脂成形体は、耐クリープ性、耐薬品性などに優れるとともに、吸水による寸法変化が低減されるという優れた安定性を有する。
【0065】
また、PAS系樹脂を有する樹脂組成物は、ISO75-1、2(1.8MPa)の試験法に基づいて測定された荷重たわみ温度が、例えば105℃以上とされる。
【0066】
以上のように、PAS系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物からなる樹脂成形体は、樹脂ナット10の本体15に要求される特性を備えている。
【0067】
射出成形品を形成する樹脂組成物の主成分とされる熱可塑性樹脂に添加される固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂(粉末)、黒鉛(グラファイト)、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素などが使用できる。これらは、例えば粒状充填剤とされる。また、潤滑特性に優れる粉末状のPTFE樹脂などは、粒状有機物とされ、潤滑特性に優れる黒鉛(グラファイト)、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素などは、粒状無機物とされる。
【0068】
粉末状のPTFE樹脂は、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー、加熱焼成されたPTFE樹脂粉末のいずれであってもよいが、加熱焼成されたPTFE樹脂粉末を採用することが好ましい。これは、加熱焼成されていないモールディングパウダー、ファインパウダーは、低摩擦特性ではあるが、均一分散性、耐摩耗性に劣るからである。加熱焼成されたPTFE樹脂粉末は、モールディングパウダーまたはファインパウダーを加熱焼成(素材成形、熱処理)後に粉砕した粉末、また、この粉末にさらにγ線または電子線などを照射した粉末であってもよい。なお、PTFE樹脂粉末の粒子径は特に限定しないが、安定した低摩擦特性を得るためには、平均粒子径が5μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0069】
また、上記樹脂組成物は、上述したベース樹脂の熱可塑性樹脂に加えて、無機充填材として、粒状無機物および繊維状無機物が所定量含まれることが好ましい。粒状無機物および繊維状無機物を用いることにより、樹脂ナット10の本体15などに要求される寸法精度と機械的強度との両立を発揮させやすい。粒状無機物は、主に寸法精度の向上に寄与し、繊維状無機物は、主に機械的強度の向上に寄与する。
【0070】
樹脂組成物に用いる粒状無機物は、球状、不定形の粒状、板状、扁平状、鱗片状などの非繊維状の充填材である。このような形態であれば、射出成形体において粒状無機物による異方性が発現されにくくなる。粒状無機物として、例えば、珪藻土、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、シリカバルーン、球状黒鉛、フッ化黒鉛、グラファイト、球状セラミック、アルミナ、カオリン、タルク、クレー、マイカ、シリカ、酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどの粉末状のカルシウム化合物などが挙げられる。また、粒状無機物としては、1種単独の粒状無機物ばかりでなく、複数種の粒状無機物を混合して使用することもできる。
【0071】
上述の粒状無機物の中でも、グラファイト、ガラスフレーク、アルミナ、タルク、クレー、マイカ、シリカ、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムは、比較的低価格であるため好ましい。
【0072】
粒状無機物の平均粒径は、下限が0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、上限が100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。平均粒径が所定の平均粒径(例えば0.5μm)未満の場合は、粒子間の凝集が起こり、均一分散が困難となるおそれがある。また、平均粒径が所定の平均粒径(例えば100μm)を超える場合は、表面平滑性が悪くなるおそれがある。ここで、平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定して得られる体積平均粒子径(MV:Mean Volume Diameter)である。
【0073】
樹脂組成物に用いる繊維状無機物として、例えば、ケイ酸カルシウムウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、硫酸カルシウムウィスカ、硫酸マグネシウムウィスカ、硝酸マグネシウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、酸化チタンウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、シリコーンカーバイドウィスカ、サファイアウィスカ、ウォラストナイトウィスカ、グラファイトウィスカなどのウィスカ、ウォラストナイト、炭化珪素繊維、バサルト繊維、グラファイト繊維、炭素繊維、ガラス繊維、タングステン心線または炭素繊維などにボロン、炭化ケイ素などを蒸着したいわゆるボロン繊維、炭化ケイ素繊維、チラノ繊維などの複合繊維などが挙げられる。上記炭素繊維として、例えば、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系(PAN系)、カーボン質、グラファイト質、レーヨン系、リグニン-ポバール系混合物など原料の種類によらない炭素繊維を使用できる。また、繊維状無機物としては、1種単独の繊維状無機物ばかりでなく、複数種の繊維状無機物を混合して使用することもできる。
【0074】
上述の繊維状無機物の中でも、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などの炭素繊維、ガラス繊維は、比較的低価格であるため好ましい。粒状無機物として、グラファイト、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、および炭酸カルシウムの中から少なくとも1つを選択し、かつ、繊維状無機物として、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、およびガラス繊維の中から少なくとも1つを選択することにより、樹脂成形体の価格を低く抑えることができる。
【0075】
繊維状無機物の平均繊維長は、下限は10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、繊維状無機物の種類によっては40μm以上、さらには50μm以上である。上限は3mm以下、実質的には2mm以下、より実質的には1mm以下であり、繊維状無機物の種類によっては700μm以下、さらには300μm以下である。なお、本発明において、平均繊維長は数平均繊維長であり、概ねカット長さに相当する。平均繊維長は、例えば、光学顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維長を測定する対象の繊維状無機物をランダムに抽出してその長辺を測定し、得られた測定値に基づいて得られる。
【0076】
繊維状無機物の平均繊維径は、下限は5μm以上、好ましくは6μm以上であり、上限は25μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは13μm以下である。なお、平均繊維径は、本分野において通常使用される電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などにより測定される。平均繊維径は、上記測定に基づき数平均繊維径として算出できる。
【0077】
繊維状無機物の平均繊維長が所定値(例えば10μm)未満であったり、平均繊維径が所定値(例えば5μm)未満であったりすると、樹脂組成物に必要とされる機械的強度が期待できないおそれがある。一方、繊維状無機物の平均繊維長が所定値(例えば3mm)を超えたり、平均繊維径が所定値(例えば25μm)を超えたりすると、樹脂と混合する際に均一に分散させることが困難になるおそれがあり、ひいては射出成形に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0078】
繊維状無機物の平均アスペクト比は、下限は2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、繊維状無機物の種類によっては5以上、さらには6以上である。上限は1000以下、実質的には700以下、より実質的には500以下、繊維状無機物の種類によっては300以下、さらには50以下である。平均アスペクト比が所定値(例えば2)未満の場合、マトリックス自体の補強効果が損なわれて機械的特性が低下するおそれがある。平均アスペクト比が所定値(例えば1000)を超える場合には、混合時の均一分散が困難となりやすく、品質低下を招くおそれがある。
【0079】
なお、「平均アスペクト比」とは、「平均繊維長/平均繊維径」を意味し、詳しくは「平均繊維長」を「平均繊維径」で除した値である。
【0080】
本発明に係る樹脂ナット10の本体15に用いる樹脂組成物には、発明の目的を阻害しない配合量で各種の添加剤を混合させることができる。混合可能な各種の添加剤として、例えば、離型剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、防錆剤、イオントラップ剤、難燃剤、難助剤、染料・顔料などの着色剤、帯電防止剤などの1種以上のものが挙げられる。
【0081】
このような樹脂組成物を用いて、樹脂ナット10の本体15が射出成形されることにより、単に一般的な樹脂を用いて射出成形した場合よりも寸法精度を向上させた本体15を備える樹脂ナット10の提供が可能となる。また、ベース樹脂として熱可塑性樹脂を用いることで、大量生産性に適している射出成形法によって樹脂ナット10の本体15が作製できることから、樹脂ナット10の単価が下がり、低価格化を図ることができる。また、金属製本体よりも樹脂製本体15の方が、例えば、錆発生防止、摺動特性にも貢献できる。
【0082】
本発明の樹脂ナット10としては、送りねじ以外に、ボールねじであってもよい。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、樹脂ナット10に用いる樹脂としては、樹脂ナット10の材質として一般に知られている種々の樹脂材料を使用することができる。そして、樹脂ナット10を構成するベース樹脂としては、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、TPI(熱可塑性ポリイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、POM(ポリアセタール)、PA(ポリアミド)、PE(ポリエチレン)等の熱可塑性樹脂が採用できる。これらのベース樹脂に、強化剤や充填剤を適宜配合して樹脂材料とする。
【0084】
また、段付きの面21aに設けられるゲート跡Gの数として、3個に限るものではなく、増減が任意であるが、1個では、ねじ孔が楕円形状等となるおそれがあり、逆に多すぎると、成形品への入り口である射出成形金型のゲート径が小さくなって、樹脂が成形品を形成させるキャビティ内に良好に流れ込まなくなるおそれがある。このため、ゲート跡Gの数として、例えば、2個以上6個以下、好ましくは3個以上5個以下、さらには3個または4個程度とするのがより好ましい。また、前記ゲート跡Gの数に対応して、段付きの面21aにおける径方向突出部21a2の数が設定されるのが好ましい。また、前記実施形態では、段付きの面21aに径方向突出部21a2を設け、この径方向突出部21a2にゲート跡Gを設けるようにしたが、このような径方向突出部21a2を設けない場合であってもよい。
【符号の説明】
【0085】
10 樹脂ナット
15 本体
15b 端面
15c 端部
20 ねじ孔
20a ねじ孔開口部(開口部)
20b ねじ孔端部
21 凹み部
21a 段付きの面(面)
A 軸方向
D 直径(径寸法)
G 射出ゲート跡(ゲート跡)
T 深さ