(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】着磁装置
(51)【国際特許分類】
H01F 13/00 20060101AFI20240913BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H01F13/00 300
H01F1/057 180
(21)【出願番号】P 2020177926
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019217556
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸村 治洋
(72)【発明者】
【氏名】大河原 遊
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-49361(JP,A)
【文献】特開2006-295122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 13/00
H01F 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状の被着磁物に対して磁界を発生する永久磁石を有し、かつ前記永久磁石が周方向に等間隔に複数配列される界磁部と、
前記被着磁物のアキシャル方向において前記被着磁物と対向する加熱面を有し、かつ前記被着磁物に対して、前記被着磁物の構成する磁粉のキュリー点以上に加熱を行う加熱部と、
前記被着磁物のアキシャル方向において、前記被着磁物および前記加熱部を非加熱位置と加熱位置との間で相対移動させる移動部と、
少なくとも前記加熱部および前記移動部を制御する制御部と、
を備え、
前記非加熱位置は、前記アキシャル方向において前記被着磁物に対して前記加熱面が離間し、かつ前記加熱部による前記被着磁物の加熱が行われない位置であり、
前記加熱位置は、前記アキシャル方向において前記被着磁物に対して前記加熱面が近接し、前記加熱部による前記被着磁物の加熱が行われる位置であ
り、
前記加熱位置となる前に、前記被着磁物に対して、前記キュリー点未満に加熱を行う予熱部を備え、
前記制御部は、前記予熱部を制御する、
ことを特徴とする着磁装置。
【請求項2】
前記界磁部に非磁性材料からなるスペーサを載置し、前記スペーサが前記界磁部と前記被着磁物との間に介装した構成となる、
請求項1に記載の着磁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着磁装置および被着磁物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機器の回転位置検出として、磁気エンコーダが知られている。この磁気エンコーダは、回転軸方向に対してラジアル方向、またはアキシャル方向に所定の着磁パターンで複数の磁極(N極、S極)が着磁されてトラックを形成している被着磁物である。このような所定の着磁パターンで複数の磁極(N極、S極)を着磁する場合、一般にコイル通電方式の着磁装置が用いられている。このコイル通電方式の着磁装置は、例えば、着磁ヨークに巻回されたコイルを有する界磁部にパルス電流を流し、それによって発生する磁界により、被着磁物に対して着磁を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
磁気エンコーダの小型化や高分解能化に対応して、被着磁物である永久磁石が高磁気特性を有する希土類磁石(例えば、Ndボンド磁石)で構成されている場合、従来のパルス電流を流したコイル通電方式では、より大きな電流を流す必要があり、着磁装置の大型化、高価格化を招くという問題が考えられる。これに対して、加熱部により被着磁物に対する加熱を行い、被着磁物を構成する磁粉のキュリー点以上の温度からキュリー点未満の温度まで降温させつつ、その間、界磁部が有する永久磁石によって磁界を発生し続けることによって、多極着磁が行われた被着磁物の着磁装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2における着磁装置は、加熱部10と着磁部12を別体構造として軸方向に配設すると共に、加熱部10と着磁部12とを相対的に接近・離間自在に支持し、かつ被着磁物20の保持部材22を加熱部10および着磁部12に対して相対的に移動可能とし、着磁部12と離間している加熱部10で被着磁物20がラジアル方向において加熱され、被着磁物20が加熱されたままの状態で着磁部12と加熱部10を接近させ、次いで被着磁物20が着磁部12に移されてラジアル方向において着磁され、着磁部12と加熱部10とが離間するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-038939号公報
【文献】特開2006-261460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の着磁装置は、小さい被着磁物の着磁において有用である。これは、小さい被着磁物は、熱し易く、冷め易いため、被着磁物での温度分布に偏りが生じ難い。一方、被着磁物が大きくなると、熱容量が増加するため、熱し難く、被着磁物に加熱の不均質が生じ易くなり、その結果、被着磁物の着磁特性の均一性が低下する虞がある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、被着磁物に加熱の不均質を抑制することができ、被着磁物の着磁特性の均一性を図ることができる着磁装置および被着磁物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明における着磁装置は、リング状の被着磁物に対して磁界を発生する永久磁石を有し、かつ前記永久磁石が周方向に等間隔に複数配列される界磁部と、前記被着磁物のアキシャル方向において前記被着磁物と対向する加熱面を有し、かつ前記被着磁物に対して、前記被着磁物の構成する磁粉のキュリー点以上に加熱を行う加熱部と、前記アキシャル方向において、前記被着磁物および前記加熱部を非加熱位置と加熱位置との間で相対移動させる移動部と、前記界磁部、加熱部および移動部を制御する制御部と、を備え、前記非加熱位置は、前記アキシャル方向において前記被着磁物に対して前記加熱面が離間し、かつ前記加熱部による前記被着磁物の加熱が行われない位置であり、前記加熱位置は、前記アキシャル方向において前記被着磁物に対して前記加熱面が近接し、前記加熱部による前記被着磁物の加熱が行われる位置である、ことを特徴とする。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明における被着磁物は、着磁装置により加熱された状態で、着磁されたリング状の被着磁物であって、アキシャル方向における両面のうち、一方の面は、ラジアル方向における外周面に対して酸化被膜の膜厚が厚い、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る着磁装置および被着磁物は、被着磁物に加熱の不均質を抑制することができ、被着磁物の着磁特性の均一性を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態1における着磁装置の概略構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態1における着磁装置の界磁部を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、着磁後の被着磁物を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1における着磁装置の動作説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態1における着磁装置の動作説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態1における着磁装置の動作説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態2における着磁装置の概略構成例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態2における着磁装置の動作説明図である。
【
図9】
図9は、実施形態2における着磁装置の動作説明図である。
【
図10】
図10は、実施形態2における着磁装置の動作説明図である。
【
図11】
図11は、変形例における着磁装置の概略構成例を示す図である。
【
図12】
図12は、変形例における着磁装置の界磁部を示す斜視図である。
【
図13】
図13は、被着磁物100として、4種類の磁石を作製し、それぞれ被着磁物100と界磁部6との間に介装したスペーサの厚さ11を変えたときの被着磁物100の発生磁界(表面磁束密度)(mT)を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
[実施形態1]
まず、実施形態1における着磁装置および被着磁物について説明する。
図1は、実施形態1における着磁装置の概略構成例を示す図である。
図2は、実施形態1における着磁装置の界磁部を示す斜視図である。
図3は、着磁後の被着磁物を示す断面図である。
図4~
図6は、実施形態1における着磁装置の動作説明図である。なお、
図3は、被着磁物のアキシャル方向を含む平面における断面図である。ここで、各図のX方向は、本実施形態1における被着磁物のラジアル方向である。Z方向は、被着磁物のアキシャル方向であり、上下方向であり、Z1方向が上方向であり、Z2方向が下方向である。
【0014】
本実施形態1における着磁装置1は、
図1~
図3に示すように、被着磁物100に着磁を行い、着磁後の被着磁物100’を製造するものである。着磁装置1は、架台部2と、移動部3と、加熱部4と、予熱部5と、界磁部6と、位置決めピン7と、冷却部8と、制御部10とを備える。
【0015】
架台部2は、着磁装置1の基部であり、少なくとも移動部3、加熱部4、予熱部5、界磁部6、位置決めピン7、冷却部8および制御部10が搭載されるものである。
【0016】
移動部3は、アキシャル方向において、被着磁物100および加熱部4を非加熱位置と加熱位置との間で相対移動させるものである。本実施形態1における移動部3は、天井板31と、アクチュエータ32と、加熱部取付台33とを有する。天井板31は、アキシャル方向において、架台部2と離間して配置されており、アクチュエータ32および加熱部取付台33が固定されている。アクチュエータ32は、架台部2に対して天井板31をアキシャル方向において相対移動させるものである。アクチュエータ32は、例えば、油圧シリンダなどの直動機構であり、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、制御部10により駆動制御が行われる。アクチュエータ32は、架台部2と天井板31との間に、複数配置されており、例えば、2つ、4つ配置されている。加熱部取付台33は、加熱部4が固定されるものであり、天井板31の下方向側面に固定されている。
【0017】
加熱部4は、被着磁物100に対して着磁用加熱を行うものである。加熱部4は、非磁性金属材料、例えば非磁性のステンレス鋼などにより構成されており、被着磁物100を構成する磁粉のキュリー点以上に被着磁物100を加熱するものである。本実施形態1における加熱部4は、円板状に形成され、上下方向における両面のうち、上方向側面が移動部3の加熱部取付台33に固定されており、下方向側面が加熱面4aである。加熱面4aは、外径が被着磁物100の外径よりも大きく形成されており、アキシャル方向において界磁部6の後述する載置面6aと対向する。つまり、加熱面4aは、アキシャル方向において、載置面6aに載置された被着磁物100と対向する。また、加熱面4aは、加熱位置において、被着磁物100と接触する。加熱部4は、1以上のヒータを有しており、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、制御部10により温度制御が行われる。
【0018】
予熱部5は、被着磁物100に対して予備用加熱を行うものである。予熱部5は、非磁性金属材料により構成されており、加熱位置となる前に、被着磁物100を構成する磁粉のキュリー点未満(常温よりも高い温度)に被着磁物100を加熱するものである。本実施形態1における予熱部5は、円柱状に形成され、界磁部6および位置決めピン7が固定されるものである。ここで、予熱部5は、界磁部6および位置決めピン7を介して、界磁部6に載置された被着磁物100を加熱する。予熱部5は、上下方向における両面のうち、下方向側面が架台部2に固定されており、上方向側面が載置加熱面5aである。載置加熱面5aは、界磁部6の外径よりも大きく形成されており、界磁部6および位置決めピン7と接触する。予熱部5は、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、1以上のヒータを有しており、制御部10により温度制御が行われる。
【0019】
界磁部6は、被着磁物100に対して磁界を発生するものである。本実施形態1における界磁部6は、被着磁物100に対してアキシャル方向に着磁を行うものであり、本体部61と、フランジ部62と、永久磁石63,64とを有する。本体部61は、非磁性金属材料により構成されており、円筒形状に形成されており、上下方向における両面のうち、下方向側面が予熱部5の載置加熱面5aに固定されており、上方向側面は被着磁物100が載置される載置面6aである。本体部61は、位置決めピン7が挿入される挿入孔6bが形成されている。フランジ部62は、本体部61の下方向側端部から径方向外側に突出して形成されている。フランジ部62は、予熱部5の載置加熱面5aに界磁部6が載置された状態で、図示しない貫通孔に固定具、例えば締結ネジなどが挿入され、固定具が予熱部5に固定されることで、予熱部5に対して界磁部6を固定するものである。永久磁石63,64は、本体部61の上方向側端部に埋設され、被着磁物100に対して磁界を発生するものであり、例えば、矩形状のSmCo磁石である。永久磁石63,64は、上下方向から見た場合において、本体部61の中心を中心として同心円に形成され、永久磁石63が径方向内側において、周方向に等間隔に複数配列され、永久磁石64が径方向外側において、永久磁石63に対して径方向に離間して、周方向に等間隔に複数配列される。永久磁石63,64は、上方向側及び下方向側において2つ磁極(S極、N極)を有し、周方向において、交互に磁極が異なるように、本体部61に対して埋設されている。ここでは、永久磁石63,64は、上方向側における磁極(例えば、S極)が周方向において隣り合う永久磁石63,64の上方向側における磁極と異なり(例えば、N極)、下方向側における磁極(例えば、N極)が周方向において隣り合う永久磁石63,64の下方向側における磁極と異なる(例えば、S極)。本実施形態1における永久磁石63,64は、埋設される個数および周方向における厚さが異なり、周方向に配置される位置、すなわち配列ピッチが異なっている。なお、永久磁石63,64は、本体部61に対して、載置面6aに露出した状態で埋設されているが、載置面6aに露出せず、本体部61内部に埋設されていてもよい。
【0020】
位置決めピン7は、ラジアル方向における界磁部6に対する被着磁物100の位置を決めるものであり、被着磁物100の後述する貫通孔100cに挿入されるものである。位置決めピン7は、界磁部6が予熱部5に固定された状態で、界磁部6の挿入孔6bに挿入されることで、予熱部5に固定されるものである。
【0021】
冷却部8は、加熱部4により加熱された被着磁物100を冷却するものである。本実施形態1における冷却部8は、図示しない固定部材により、架台部2に固定されており、空気を界磁部6に載置された被着磁物100に向けて出力するものである。冷却部8は、例えば、空冷ファンや、圧縮空気供給するコンプレッサーなどであり、加熱後の被着磁物100を自然空冷ではなく、冷却効率が高い強制空冷により冷却するものである。冷却部8は、図示しない外部電力により電力が供給されるとともに、制御部10により送風制御が行われる。
【0022】
制御部10は、被着磁物100に対して着磁を行うために、着磁装置1を制御するものである。制御部10は、移動部3、加熱部4、予熱部5および冷却部8を制御するものである。制御部10は、移動部3を駆動制御することで、界磁部6に載置された被着磁物100に対して加熱部4を非加熱位置と加熱位置との間で相対移動させる。ここで、非加熱位置とは、アキシャル方向において被着磁物100に対して加熱面4aが離間、本実施形態1では加熱面4aが被着磁物100に非接触であり、かつ加熱部4による被着磁物100の加熱が行われない位置である(
図4参照)。一方、加熱位置は、アキシャル方向において被着磁物100に対して加熱面4aが近接、本実施形態1では加熱面4aが被着磁物100に接触し、加熱部4による被着磁物100の加熱が行われる位置である(
図5参照)。制御部10は、加熱部4を温度制御することで、被着磁物100を構成する磁粉のキュリー点以上の加熱温度、本実施形態1では、加熱位置となる前に、キュリー点に対してプラス30℃以上であり、350℃以下となるように加熱部4を加熱する。加熱温度は、被着磁物100を構成する磁粉の磁気特性劣化および後述する熱硬化性樹脂の劣化が生じることを抑制できる温度である。ここで、制御部10は、加熱面4aが被着磁物100に接触する際の加熱部4による被着磁物100に対する押圧力の制御を行う。制御部10は、加熱面4aが被着磁物100に接触した際に、被着磁物100の破損を抑制できる押圧力となるように、移動部3を駆動制御する。これにより、被着磁物100の破損を抑制できるとともに、被着磁物100と加熱部4との接触状態の均一化を図ることができる。制御部10は、予熱部5を温度制御することで、加熱位置となる前に、被着磁物100を構成する磁粉のキュリー点未満の予熱温度、本実施形態1では、キュリー点に対してマイナス30℃以下であり、150℃以上となるように予熱部5を加熱する。すなわち、好ましい予備温度Tの範囲はT<T
c、より好ましい予備温度Tの範囲はT≦T
c-30である。また、より具体的には、150℃≦T<T
c、さらに具体的には、150℃≦T≦T
c-30である。制御部10は、冷却部8を温度制御することで、加熱位置から非加熱位置となった後に、加熱された被着磁物100を冷却する(
図6参照)。
【0023】
ここで、被着磁物100および着磁後の被着磁物100’は、
図1、
図3に示すように、リング状に形成されており、アキシャル方向における両面である下方向側面100aと、上方向側面100bと、貫通孔100cと、外周面100dとを有する。被着磁物100は、着磁前の希土類鉄系磁石であり、本実施形態1では、例えば、磁気的に等方性の希土類鉄系磁石であるネオジム(Nd-Fe-B)を含む磁粉と熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂を所定比率で混合して形成したものである。被着磁物100は、小さい被着磁物ではなく、いわゆる大きい被着磁物であり、一例としては、外径が10mm以上、好ましくは、外径が15mm以上~50mm以下のリング状に形成されている。
【0024】
被着磁物100は、平均結晶粒径が10nm以上10000nm以下である異方性希土類鉄系磁石であることが好ましく、平均結晶粒径が10nm以上6600nm以下である異方性希土類鉄系磁石であることがより好ましい。このような異方性希土類鉄系磁石を用いると、上述した着磁装置1により、強力に着磁できる。
【0025】
次に、本実施形態1における着磁装置1による被着磁物100に対する着磁方法について、説明する。なお、着磁装置1は、非加熱位置となっている。また、被着磁物100は、予め製造個数に応じてリング状に成形されている。まず、制御部10は、
図1に示すように、加熱部4および予熱部5の加熱を開始する。ここでは、制御部10は、加熱部4を加熱温度まで加熱するとともに、予熱部5を予熱温度まで加熱する。次に、作業員は、アキシャル方向において、被着磁物100の貫通孔100cと位置決めピン7とを対向させた状態で、被着磁物100を下方向側に移動する(同図矢印A)。これにより、被着磁物100は、
図4に示すように、界磁部6の載置面6aに載置される。このとき、作業員は、界磁部6の載置面6aから突出する位置決めピンの上方向側端部を、被着磁物100の貫通孔100cに挿入することで、着磁装置1に対する被着磁物100の位置決めを行う。なお、被着磁物100の上方向側面100bは、加熱部4の加熱面4aとアキシャル方向において対向する。
【0026】
次に、制御部10は、被着磁物100が載置面6aに載置してから第1所定時間T1経過後に、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる(同図矢印B)。ここで、第1所定時間T1とは、加熱部4が加熱温度を維持しているとともに、載置面6aに載置された被着磁物100が界磁部6を介して予熱部5から受熱することで、被着磁物100が常温よりも高いキュリー点未満の温度にすることができるまでに十分な時間をいう。つまり、制御部10は、非加熱位置において、加熱部4が加熱温度であるとともに、被着磁物100が予熱されてから、被着磁物100に対して加熱部4を加熱位置に移動させ、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、予熱された被着磁物100の加熱を開始する。なお、制御部10は、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4が移動すると、予熱部5に対する加熱を終了、すなわち温度制御をOFFとする。次に、制御部10は、
図5に示すように、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、被着磁物100をキュリー点以上となるまで加熱をする。次に、制御部10は、加熱位置において、被着磁物100の加熱を開始してから第2所定時間T2経過後に、移動部3により、加熱位置から非加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる(同図矢印C)。ここで、第2所定時間T2とは、被着磁物100がキュリー点以上となるまでに十分な時間をいう。
【0027】
次に、制御部10は、
図6に示すように、非加熱位置において、被着磁物100に対して冷却部8により冷却を行う。次に、制御部10は、非加熱位置において、冷却部8による冷却を開始してから第3所定時間T3経過後に、冷却部8による冷却を終了する。ここで、第3所定時間T3とは、被着磁物100がキュリー点以上からキュリー点未満、好ましくは、キュリー点マイナス50℃となるまでに十分な時間をいう。
【0028】
次に、作業員は、着磁された被着磁物100’を取り出す。着磁装置1により、被着磁物100に新たに着磁を行う場合、制御部10は、既に加熱部4は加熱されているので、予熱部5の加熱を開始する。
【0029】
以上により、本実施形態1における着磁装置1は、被着磁物100をキュリー点未満からキュリー点以上に昇温し、界磁部6により着磁磁界を印加された状態のまま、キュリー点以上からキュリー点未満に降温することで、被着磁物100に対して着磁を行う。これにより、着磁装置1は、被着磁物100から、
図3に示すように、着磁後の被着磁物100’を製造する。着磁後の被着磁物100’は、界磁部6の永久磁石63,64にそれぞれ対応した領域に着磁が行われる。本実施形1態における着磁後の被着磁物100’は、各永久磁石63に対応する着磁領域101および各永久磁石64に対応する着磁領域102が形成、すなわち少なくとも下方向側面100aにおいて、リング状に2列の多極着磁された永久磁石である。ここで、着磁後の被着磁物100’は、加熱部4により、被着磁物100をアキシャル方向において加熱、すなわち加熱面4aと被着磁物100の上方向側面100bとを対向させて加熱するため、アキシャル方向における両面のうち、一方の面である上方向側面100bがラジアル方向における外周面100dに対して酸化被膜の膜厚が厚くなる。結果として、着磁後の被着磁物100’は、外周面100dよりも上方向側面100bにおいてNd量が増大し、Ndの偏析が多く生じることを確認した。
【0030】
本実施形態1における着磁装置1は、加熱位置において非加熱位置よりも、アキシャル方向において被着磁物100に対して加熱部4の加熱面4aが近接することで、アキシャル方向において加熱部4により被着磁物100の加熱が行われる。従って、加熱部4により、被着磁物100をラジアル方向、すなわち加熱面4aと被着磁物100の外周面100dとを対向させて加熱する場合と比較して、被着磁物100をアキシャル方向、すなわち加熱面4aと被着磁物100の上方向側面100bとを対向させて加熱する場合は、被着磁物100に対する加熱ムラを抑制することができ、被着磁物100に対する加熱の不均質を抑制することができる。特に、大きい被着磁物100は、小さい被着磁物100よりも熱容量が大きい。小さい被着磁物100は、熱し易く、冷め易いため、被着磁物100での温度分布に偏りが生じ難いが、被着磁物が大きく、例えば大径になると、被着磁物100に加熱の不均質が生じ易くなる。大きい被着磁物100の場合において、加熱の不均質の発生を抑制するために、加熱温度をさらに高温にしたり、または第2所定時間T2を長くすることも可能であるが、被着磁物100を構成する磁粉の磁気特性劣化および後述する熱硬化性樹脂の劣化が生じる虞がある。しかしながら、本実施形態1における着磁装置1は、大きい被着磁物100であっても、被着磁物100をアキシャル方向、すなわち加熱面4aと被着磁物100の上方向側面100bとを対向させて加熱するので、加熱温度が高温でなくても、また、第2所定時間T2が長くなくても、被着磁物100に対する加熱の不均質を抑制することができる。これにより、界磁部6により着磁磁界を印加された状態における被着磁物100の温度不均一を抑制することができるので、被着磁物100の着磁特性の均一性を図ることができる。
【0031】
[実施形態2]
まず、実施形態2における着磁装置および被着磁物について説明する。
図7は、実施形態2における着磁装置の概略構成例を示す図である。
図8~
図10は、実施形態2における着磁装置の動作説明図である。ここで、各図のX方向は、本実施形態2における被着磁物のラジアル方向である。Z方向は、被着磁物のアキシャル方向であり、上下方向であり、Z1方向が上方向であり、Z2方向が下方向である。
【0032】
実施形態2における着磁装置1が実施形態1における着磁装置1と異なる点は、界磁部6に非磁性材料からなるスペーサ11を載置し、スペーサ11が界磁部6と被着磁物100との間に介装した構成となる点である。また、被着磁物100がスペーサ11を介して界磁部6により着磁される点が異なる。なお、実施形態2における着磁装置1の基本的構成は、実施形態1における着磁装置1の基本的構成と同一であるため、同一符号の構成について省略または簡略化して説明する。
【0033】
スペーサ11は、界磁部6の載置面6aに載置され、界磁部6と被着磁物100との間に介装される部材である。スペーサ11は、例えば、非磁性金属材料でリング状に形成されている。非磁性金属材料で薄くできる材料として、例えば、非磁性のステンレス鋼、チタン合金、真鍮などが挙げられ、スペーサ11は、これらにより構成されていることが好ましい。なお、加熱されるため、350℃°以上の耐熱性を有していれば、非磁性金属材料に限定されない。例えば、非磁性のセクラミックスでもよい。
【0034】
このスペーサ11の外径は、界磁部6の載置面6aと同じである。また、スペーサ11のアキシャル方向の厚さは0.7mm以下に形成されていることが好ましく、0.3mm以下に形成されていることがより好ましい。スペーサ厚は、0.7mmよりも大きくなると、被着磁物を着磁(磁化)することが難しくなる場合がある。この非磁性金属材料のスペーサ11を界磁部6と被着磁物100との間に介装することによって、被着磁物100に着磁した後、着磁された被着磁物100’と界磁部6との間の吸着力を低減できる。この結果、被着磁物100’を界磁部6から容易に取り去ることができる。さらに、被着磁物100’を界磁部6から取り去る際、被着磁物100’の一部に欠けが生じることや、被着磁物100’のエッジで、界磁部6の載置面6aに露出する永久磁石であるSmCo磁石を傷付けることを防止できる。
【0035】
次に、実施形態2における着磁装置1による被着磁物100に対する着磁方法について、説明する。なお、着磁装置1は、非加熱位置となっている。まず、制御部10は、
図8に示すように、加熱部4および予熱部5の加熱を開始する。ここでは、制御部10は、加熱部4を加熱温度まで加熱するとともに、予熱部5を予熱温度まで加熱する。次に、作業員は、アキシャル方向において、被着磁物100の貫通孔100cと位置決めピン7とを対向させた状態で、被着磁物100を下方向側に移動する(同図矢印A)。これにより、被着磁物100は、
図8に示すように、位置決めピン7に挿入されて界磁部6の載置面6aに載置されたスペーサ11上に、載置される。このとき、作業員は、界磁部6の載置面6aおよびスペーサ11から突出する位置決めピンの上方向側端部を、被着磁物100の貫通孔100cに挿入することで、着磁装置1に対する被着磁物100の位置決めを行う。
【0036】
次に、制御部10は、被着磁物100が載置面6a上のスペーサ11に載置してから第1所定時間T1経過後に、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる(同図矢印B)。ここで、第1所定時間T1とは、加熱部4が加熱温度を維持しているとともに、スペーサ11に載置された被着磁物100が界磁部6およびスペーサ11を介して予熱部5から受熱することで、被着磁物100が常温よりも高いキュリー点未満の温度にすることができるまでに十分な時間をいう。つまり、制御部10は、非加熱位置において、加熱部4が加熱温度であるとともに、被着磁物100が予熱されてから、被着磁物100に対して加熱部4を加熱位置に移動させ、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、予熱された被着磁物100の加熱を開始する。なお、制御部10は、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4が移動すると、予熱部5に対する加熱を終了、すなわち温度制御をOFFとする。次に、制御部10は、
図9に示すように、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、被着磁物100をキュリー点以上となるまで加熱をする。次に、制御部10は、加熱位置において、被着磁物100の加熱を開始してから第2所定時間T2経過後に、移動部3により、加熱位置から非加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる(同図矢印C)。ここで、第2所定時間T2とは、被着磁物100がキュリー点以上となるまでに十分な時間をいう。
【0037】
次に、制御部10は、
図10に示すように、非加熱位置において、被着磁物100に対して冷却部8により冷却を行う。次に、制御部10は、非加熱位置において、冷却部8による冷却を開始してから第3所定時間T3経過後に、冷却部8による冷却を終了する。ここで、第3所定時間T3とは、被着磁物100がキュリー点以上からキュリー点未満、好ましくは、キュリー点マイナス50℃となるまでに十分な時間をいう。
【0038】
次に、作業員は、着磁された被着磁物100’を取り出す。上述のように、スペーサ11が界磁部6と被着磁物100’との間に介装されているため、被着磁物100’を界磁部6から容易に取り去ることができる。さらに、被着磁物100’の一部に欠けが生じることや、界磁部6の載置面6aに露出する永久磁石であるSmCo磁石を傷付けることを防止できる。
【0039】
[変形例]
なお、本実施形態1における着磁装置1は、被着磁物100に対してアキシャル方向に着磁を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ラジアル方向に着磁を行ってもよい。
【0040】
図11は、変形例における着磁装置の概略構成例を示す図である。
図12は、変形例における着磁装置の界磁部を示す斜視図である。変形例における着磁装置1が実施形態1における着磁装置1と異なる点は、界磁部9が被着磁物100に対してラジアル方向に着磁を行う構成である点である。また、予熱部5が界磁部9を介して、すなわち間接的に被着磁物100に予熱を行うのではなく、直接予熱を行う点が異なる。なお、変形例における着磁装置1における基本的構成は、実施形態1における着磁装置1の基本的構成と同一であるため、同一符号の構成について省略または簡略化して説明する。
【0041】
加熱部4は、本体部41と突出部42とを有する。本体部41は、円板状に形成され、上下方向における両面のうち、上方向側面が移動部3の加熱部取付台33に固定されており、下方向側面から突出部42が下方向に突出して形成されている。突出部42は、上下方向における下方向側面が加熱面4aである。加熱面4aは、界磁部9の挿入孔9bの径よりも小さい径で構成されている。
【0042】
予熱部5は、上方向側面が載置加熱面5aであり、2段に形成されている。載置加熱面5aのうち、上方向側の1段目において被着磁物100が載置加熱され、下方向側の2段目において界磁部9が載置加熱される。
【0043】
界磁部9は、被着磁物100に対して磁界を発生するものである。変形例における界磁部9は、被着磁物100に対してラジアル方向に着磁を行うものであり、本体部91と、フランジ部92と、永久磁石93とを有する。本体部91は、非磁性金属材料により構成されており、円筒形状に形成されており、上下方向における両面のうち、下方向側面が予熱部5の載置加熱面5aの2段目に固定されており、上方向側面9aが天井板31とアキシャル方向において対向している。本体部91は、被着磁物100が挿入される挿入孔9bが形成されている。フランジ部92は、本体部91の下方向側端部から径方向外側に突出して形成されている。フランジ部92は、予熱部5の載置加熱面5aの2段目に界磁部9が載置された状態で、図示しない貫通孔に固定具、例えば締結ネジなどが挿入され、固定具が予熱部5に固定されることで、予熱部5に対して界磁部9を固定するものである。永久磁石93は、径方向において本体部91の挿入孔9b側に埋設され、被着磁物100に対して磁界を発生するものであり、例えば、矩形状のSmCo磁石である。永久磁石93は、上下方向から見た場合において、本体部91の中心を中心として同心円に形成され、周方向に等間隔に複数配列される。永久磁石93は、径方向内側および径方向外側において2つ磁極(S極、N極)を有し、周方向において、交互に磁極が異なるように、本体部91に対して埋設されている。ここでは、永久磁石93は、径方向内側における磁極(例えば、S極)が周方向において隣り合う永久磁石93の径方向内側における磁極と異なり(例えば、N極)、径方向外側における磁極(例えば、N極)が周方向において隣り合う永久磁石93の径方向外側における磁極と異なる(例えば、S極)。なお、永久磁石93は、本体部91において、挿入孔9bに露出した状態で埋設されているが、挿入孔9bに露出せず、本体部91内部に埋設されていてもよい。
【0044】
次に、変形例における着磁装置1による被着磁物100に対する着磁方法について、説明する。なお、実施形態1における着磁装置1による着磁方法と同一の部分は、省略または簡略化して説明する。まず、制御部10は、加熱部4および予熱部5の加熱を開始する。次に、作業員は、アキシャル方向において、被着磁物100と界磁部9の挿入孔9bとを対向させた状態で、被着磁物100を下方向側に移動し、被着磁物100を界磁部9の挿入孔9bに挿入し、予熱部5の加熱載置面5aの1段目に載置する。このとき、作業員は、被着磁物100を挿入孔9bに挿入することで、着磁装置1に対する被着磁物100の位置決めを行う。なお、被着磁物100は、外周面100dが径方向、すなわちラジアル方向において界磁部9と対向し、上方向側面100bが加熱部4の加熱面4aとアキシャル方向において対向する。
【0045】
次に、制御部10は、被着磁物100が加熱載置面5aに載置してから第1所定時間T1経過後に、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させ、予熱された被着磁物100の加熱を開始し、加熱位置において、被着磁物100の加熱を開始してから第2所定時間T2経過後に、移動部3により、加熱位置から非加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させる。制御部10は、非加熱位置において、被着磁物100に対して冷却部8により冷却を行い、非加熱位置において、冷却部8による冷却を開始してから第3所定時間T3経過後に、冷却部8による冷却を終了する。次に、作業員は、着磁された被着磁物100’を取り出す。
【0046】
以上により、変形例における着磁装置1は、被着磁物100をキュリー点未満からキュリー点以上に昇温し、界磁部9により着磁磁界を印加された状態のまま、キュリー点以上からキュリー点未満に降温することで、被着磁物100に対して着磁を行う。これにより、着磁装置1は、被着磁物100から着磁後の被着磁物を製造する。着磁後の被着磁物は、界磁部9の永久磁石93にそれぞれ対応した領域に着磁が行われる。変形例における着磁後の被着磁物は、各永久磁石93に対応する着磁領域が形成、すなわち少なくとも外周面100dにおいて、1列の多極着磁された永久磁石である。
【0047】
また、変形例における着磁装置1は、被着磁物100の外周面100dにおいて、1列に多極着磁された永久磁石を備える形態であるが、界磁部9に設けた永久磁石93を同軸状で、軸方向に離間して複列(例えば、2列)に配置してもよい。この場合、被着磁物100の外周面100dに、アキシャル方向において、複列(例えば、2列)で多極着磁することができる。
【0048】
なお、上記実施形態および変形例においては、加熱部4が加熱位置となる前に加熱温度に到達しているがこれに限定されるものではなく、非加熱位置において加熱温度よりも低い待機温度に加熱しておき、加熱位置において、被着磁物100に加熱面4aが接触した状態で待機温度から加熱温度まで昇温してもよい。
【0049】
[実施例]
本実施形態2における着磁装置1を用いて、被着磁物100に着磁を行った。具体的には、下記のスペーサ11、被着磁物100を用いた。
〔スペーサ11〕
・材質:SUS304
・形状:リング形状(外径φ30mm、φ内径15mm、厚さ(0.1mm~0.7mm)
〔被着磁物100〕
・形状:リング形状(外径φ30mm、φ内径15mm、厚さ1mm)
・着磁ピッチ:1.28mm(64極)、0.95mm(62極)
径方向に2列で、それぞれ円周方向に、着磁
(外側列が64極、内側列が62極)
・種類
(1)異方性希土類鉄系バルク磁石
磁石粉末は、超急冷法にて作製したNd-Fe-B系の等方性磁石粉末を粉砕した磁石粉末をホットプレス成形して密度を高め、さらに熱間塑性加工して異方性を付与した、マグネクエンチ社製の熱間加工の異方性磁石(いわゆる、MQ3磁石)用の磁石粉末を用いた。そして、放電プラズマ焼結(SPS)装置を利用して、この磁石粉末を所定温度で熱間塑性加工して異方性を付与した磁石を作製した。
(2)等方性希土類鉄系バルク磁石
超急冷法にて作製した、マグネクエンチ社製のNd-Fe-B系の等方性磁石粉末を用いた。放電プラズマ焼結(SPS)装置を利用して、この磁石粉末を所定温度で焼結して等方性の焼結磁石を作製した。
(3)希土類鉄系ボンド磁石
超急冷法にて作製した、マグネクエンチ社製のNd-Fe-B系の等方性磁石粉末を用い、エポキシ樹脂と混合、圧縮した後、エポキシ樹脂を所定温度で硬化させて等方性の希土類鉄系ボンド磁石を作製した。
(4)ネオジム焼結磁石
ネオジム系焼結磁石(信越化学工業(株)製の型番N39UH)を機械加工して、リング形状の磁石を作製した。
上記(1)、(4)は異方性磁石で、(2)、(3)は等方性磁石である。
異方性希土類鉄系バルク磁石の平均結晶粒径は、285nmであり、ネオジム焼結磁石の平均結晶粒径は、6700nmであった。
ここで、平均結晶粒径は下記のようにして求めた。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて各磁石の主相結晶粒を観察した。
観察倍率:1500~20000倍
観察条件:2次電子像
観察方向:磁化容易方向
粒径確認方法:画像処理(WinROOF、三谷商事株式会社)
これら条件により測定したSEM像を粒子解析ソフトに読み込み、粒子の面積と周囲長を算出し、円相当径を換算。各磁石300個程測定し、円相当径の平均値を平均結晶粒径とした。
【0050】
[着磁方法]
作製した上記(1)のリング状の磁石を着磁装置1にセットし、厚さ0.1mmのスペーサ11を用いて、アキシャル方向に着磁した。
着磁装置1は、非加熱位置となっていた(
図8)。まず、制御部10は、
図8に示すように、加熱部4および予熱部5の加熱を開始した。ここでは、制御部10は、加熱部4を加熱温度(350℃)まで加熱するとともに、予熱部5を予熱温度(200℃)まで加熱した。次に、作業員は、アキシャル方向において、被着磁物100の貫通孔100cと位置決めピン7とを対向させた状態で、被着磁物100を下方向側に移動する(同図矢印A)。これにより、被着磁物100は、
図8に示すように、界磁部6の載置面6aに載置されたスペーサ11上に、載置された。このとき、作業員は、界磁部6の載置面6aおよびスペーサ11から突出する位置決めピンの上方向側端部を、被着磁物100の貫通孔100cに挿入することで、着磁装置1に対する被着磁物100の位置決めを行った。なお、被着磁物100の上方向側面100bは、加熱部4の加熱面4aとアキシャル方向において対向していた。
次に、制御部10は、被着磁物100が載置面6aのスペーサ11に載置してから第1所定時間T1(30秒)経過後に、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させた(同図矢印B)。被着磁物100に対して加熱部4を加熱位置に移動させ、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、予熱された被着磁物100の加熱を開始した。なお、制御部10は、移動部3により、非加熱位置から加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4が移動すると、予熱部5に対する加熱を終了した。次に、制御部10は、
図9に示すように、被着磁物100に加熱面4aを接触させた状態で、被着磁物100をキュリー点以上(330℃(なお、キュリー点は315℃である。))となるまで加熱した。次に、制御部10は、加熱位置において、被着磁物100の加熱を開始してから第2所定時間T2(30秒)経過後に、移動部3により、加熱位置から非加熱位置に被着磁物100に対して加熱部4を移動させた(同図矢印C)。
次に、制御部10は、
図10に示すように、非加熱位置において、被着磁物100に対して冷却部8により冷却を行った。次に、制御部10は、非加熱位置において、冷却部8による冷却を開始してから第3所定時間T3(60秒)経過後に、冷却部8による冷却を終了した。ここで、被着磁物100がキュリー点以上からキュリー点マイナス50℃となっていた。
次に、作業員は、着磁された被着磁物100’を取り出した。スペーサ11が界磁部6と被着磁物100’との間に介装されているため、被着磁物100’を界磁部6から、界磁部6の載置面6aに露出する永久磁石であるSmCo磁石を傷付けることなく、容易に取り去ることができた。
そして、スペーサ厚を変えて(0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.7mm)、同様に着磁した。また、上記(2)~(4)のリング状の磁石についても、同様に着磁した。
【0051】
[表面磁束密度]
着磁した後、上記(1)~(4)のリング状の磁石の表面磁束密度を測定した。
図13は、被着磁物100として、4種類の磁石を作製し、それぞれ被着磁物100と界磁部6との間に介装したスペーサの厚さを変えたときの被着磁物100の発生磁界(表面磁束密度)(mT)を測定した結果である。なお、
図13において、着磁ピッチ:0.95mmのグラフは、
図2の界磁部6を用いて着磁した試料の符号63(0.95mm)に対応する箇所の表面磁束測定結果である。また、着磁ピッチ:1.28のグラフは、
図2の界磁部6を用いて着磁した試料の符号64(1.28mm)に対応する箇所の表面磁束測定結果である。実施形態2における着磁装置1を用いると、上記(1)~(4)のリング状の磁石のいずれも、好適に着磁されていた。また、
図13からもわかるように、スペーサの厚みが増えると、界磁部6に配置した永久磁石から被着磁物100までの距離寸法が大きくなるため、界磁部6に配置した永久磁石からの磁力が被着磁物100に及ぼす範囲が小さくなり、発生磁界(表面磁束密度)が減少する。スペーサ厚が0.1mmの場合、明らかに異方性希土類鉄系バルク磁石の発生磁界(表面磁束密度)の値が大きく、それに対して、ネオジム焼結磁石の発生磁界(表面磁束密度)の値は比較的小さい。
また、スペーサ厚が0.7mmの場合、異方性希土類鉄系バルク磁石、等方性希土類鉄系バルク磁石、ボンド磁石それぞれにおける発生磁界(表面磁束密度)は、略同じ値で、100mT~110mTとなっている。一方、ネオジム焼結磁石の発生磁界(表面磁束密度)は、約20mTで、比較的低い値を示す。
図13から、熱間塑性加工して異方性を付与した異方性希土類鉄系バルク磁石をアキシャル方向に着磁した磁石は、狭ピッチで多極着磁を行っても、強力に着磁された磁石を得ることができる。これは、異方性希土類鉄系バルク磁石の平均結晶粒径が10nm以上6600nm以下であることによると考えられる。
また、スペーサ厚は、0.7mmよりも大きくなると、被着磁物を着磁(磁化)することが難しくなる場合がある。このため、スペーサ厚は、0.7mm以下で使用することが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましい。
【符号の説明】
【0052】
1 着磁装置、2 架台部、3 移動部、4 加熱部、4a 加熱面、5 予熱部、6 界磁部、63,64 永久磁石、7 位置決めピン、8 冷却部、9 界磁部、10 制御部、11 スペーサ、100 被着磁物、100’ 着磁後の被着磁物、100b 上方向側面(一方の面)