IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大王製紙株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-産業用ワイプ 図1
  • 特許-産業用ワイプ 図2
  • 特許-産業用ワイプ 図3
  • 特許-産業用ワイプ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】産業用ワイプ
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
A47L13/16 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020179972
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070739
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-06-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 力
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-297355(JP,A)
【文献】特表2003-515415(JP,A)
【文献】特開2010-069109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主原料とするシートが複数枚積層され、エンボス加工による凹凸によって一体化されている産業用ワイプであり、
各シートの坪量が、15~30g/mであり、
前記凹凸は、一方面に凹部のみが形成され、他方面に前記凹部に対応する凸部のみが形成されているシングルエンボスであり、
凸部が、凹部と平面直視形状が異なっており、
凹部の平面視形状が、平行四辺形又は角部が曲線の角丸平行四辺形であり、凸部の平面視形状が、楕円又は略楕円形状であり、
凹部の深さが、0.7~1.3mmであり、
前記平行四辺形又は角丸平行四辺形の平行な一対の縁が、縦方向に対して50~60度の角度で配され、前記平行な一対の縁間の間隔が5~10mmであり、他の一対の平行な縁間の間隔が10~20mmである、
ことを特徴とする産業用ワイプ。
【請求項2】
凹部は、平行な他の一対の縁が縦方向に平行となるように配されている、請求項1記載の産業用ワイプ。
【請求項3】
凹部は、縦方向に隣り合う凹部の平行な他の一対の縁が、一直線上に位置するようにして配されている、請求項2記載の産業用ワイプ。
【請求項4】
前記凹部の底部の総面積率が60%以上であり、かつ、表面面積率が110%以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の産業用ワイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ワイプ、特にエンボス加工による凹凸を有する産業用ワイプに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ワイプは、各種の産業用製品や研究用器具、さらにこれらに用いる部品に付着した塵・埃・薬剤・水分・油分等の拭き取りに使用されている。
【0003】
また、産業用ワイプは、複雑な形状の製品、器具及び部品等の拭き取りを使用されるとともに、何度も擦るように拭き取り操作を行う使用態様が想定されることから、複雑な形状に追従するしなやかさと丈夫さとが要求される。
【0004】
ところで、産業用ワイプは、主に不織布のものと紙素材のものがある。特に、紙素材のものは、上記の産業用ワイプの使用態様から、紙厚の薄いクレープ紙等の薄葉紙基材を複数枚積層して一体化したものとなっており、各層を薄くし、全体として厚くすることで、しなやかさと丈夫さを確保する。
【0005】
他方で、この紙素材の産業用ワイプでは、拭き取り時に各層がずれないように、エンボス加工による凹凸を形成して、各層の積層一体化が行われる。
【0006】
従来、紙素材の産業用ワイプの多くは、擦り操作を行っても各層が分離しないように、ピンエンボスとも称されるエンボス加工がよく行われている。ピンエンボスは、積層したシートを、エンボスロールの周面に形成した多数の鋭利なピン状の凸部によりエンボス加工を行うものであり、このピンエンボス加工された産業用ワイプは、多数のピン状の凸部により強く押圧され、紙面を貫通する孔に近い凹部が形成されているものもありプライ剥離がし難く、細かな塵や埃の拭き取り性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-195846号公報
【文献】特開2005-160654号公報
【文献】特開2005-245913号公報
【文献】特開2003-116761号公報
【文献】特開2002-238822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ピンエンボス加工された産業用ワイプは、凹部の面積が小さいため、粘度の高いグリス等を掻き取るように拭き取る性能については優れてはおらず、特に、平面部分に付着した粘性の高いグリス等を一回で拭き取ることが難しい。
【0009】
他方で、産業用ワイプには、ピンエンボスに比して凸部の頂部面積が広い凸部を有するエンボスロールによってエンボス加工による凹凸を形成したものもある。
【0010】
しかしながら、凸部頂部の面積が広くなると繊維が押されて密となる部分が増加するため、粘度の低い液体、例えば水分の吸収速度や吸収量といった吸収性能が低下することがあった。
【0011】
粘度の高いグリス等の拭き取り性能と吸収性能を高めるために、米坪を高める手法があるが、米坪を高めると必要となる繊維原料が増加するためコストアップとなる。また、エンボス加工による凹部の深さを深める、又は、凸の高さを高めることも考えられるが、過度に深い又は高い凹凸を形成すると、嵩張るようになり配送の観点や収納の観点で好ましくない場合が多い。
【0012】
そこで、本発明の主たる課題は、プライ剥離し難く、グリス等の粘度の高い付着物の拭き取り性、及び、水等の粘度の低い液体の吸収性能がより高められ、さらに過度に嵩ばらない産業用ワイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題を解決するための手段は次のとおりである。
【0014】
その第一の手段は、
パルプを主原料とするシートが複数枚積層され、エンボス加工による凹凸によって一体化されている産業用ワイプであり、
各シートの坪量が、15~30g/mであり、
前記凹凸は、一方面に凹部のみが形成され、他方面に前記凹部に対応する凸部のみが形成されているシングルエンボスであり、
前記凹部の平面視形状が、平行な一対の縁を有し、その縁が縦方向に対して、50~60度の角度で配されている形状であり、かつ、その凹部の深さが、0.7~1.3mmである、
ことを特徴とする産業用ワイプである。
【0015】
第二の手段は、
凹部の平面視形状は、平行な他の一対の縁を有し、平行な他の一対の縁が縦方向に平行となるように配されている、上記第一に手段に係る産業用ワイプである。
【0016】
第三の手段は、
凹部は、平面視形状は、平行四辺形又は角部が曲線の角丸平行四辺形である、上記第一又は第二の手段に係る産業用ワイプである。
【0017】
第四の手段は、
凹部は、隣り合う凹部の一対の平行な縁が一直線上に位置するようにして配されている、上記第三の手段に係る産業用ワイプである。
【0018】
第五の手段は、
前記凹部の底部の総面積率が60%以上であり、かつ、表面面積率が110%以上である、上記第一~第四の手段に係る産業用ワイプである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プライ剥離し難く、グリス等の粘度の高い付着物の拭き取り性、及び、水等の粘度の低い液体の吸収性能がより高められ、さらに過度に嵩ばらない産業用ワイプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る産業用ワイプの凹部側を示す平面図、A部拡大図及び(B)-(B)断面図である。
図2】本発明に係る凹部の深さの測定方法を説明するための図である。
図3】本発明の実施形態に係る産業用ワイプの凸部側を示す裏面図である。
図4】比較例2の凹部の形状及び配列を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次いで。本実施形態の産業用ワイプの実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0022】
本実施形態の産業用ワイプ1は、パルプを主原料とするシート10が四枚積層され、エンボス加工による凹凸20,21によって一体化されているものである。積層数は限定されないが三プライ~五プライであると、十分な強度を発現しやすく、また、しなやかさとしやすい。
【0023】
本実施形態のシート10は、繊維原料を湿式抄紙により抄紙して形成される紙であり、不織布とは異なる。このシートは、ドライクレープ及びウェットクレープの少なくとも一方が形成されたクレープ紙又は薄様紙である。クレープ率は特に限定はされない。
【0024】
シートの主原料となるパルプの種類は、限定されないが、LUKP、LBKP、NUKP、NBKP等の未晒又は晒のクラフトパルプが望ましい。この場合、Nパルプと称される針葉樹由来のパルプを50%以上、特には90%以上と高配合するのが望ましい。Nパルプは繊維長が長いため紙粉は発生しがたい。また、古紙パルプが配合されていてもよい。
【0025】
繊維原料中におけるパルプの配合割合としては、90質量%以上、好ましくは100質量%である。パルプ以外の繊維としては、ケナフパルプ、マニラ麻等の非木材パルプ、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維等の合成繊維が例示できる。
【0026】
本実施形態の産業用ワイプにおけるシートの坪量は、15~30g/mであり、好ましく15~20g/mである。坪量の測定は、JIS P 8124(1998)の米坪測定方に基づくものである。
【0027】
本実施形態の産業用ワイプにおける紙厚は、350~550μm、好ましくは、400~500μmであるのが望ましい。この紙厚であれば、過度にかさばらない。ここで、紙厚の測定方法は、試験片をJIS P 8111(1998)の条件下で十分に(通常は、8時間程度)調湿した後、同条件下でダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて1プライの状態で測定するものとする。具体的には、プランジャーと測定台の間にゴミ、チリ等がないことを確認してプランジャーを測定台の上におろし、前記ダイヤルシックネスゲージのメモリを移動させてゼロ点を合わせ、次いで、プランジャーを上げて試料を試験台の上におき、プランジャーをゆっくりと下ろしそのときのゲージを読み取る。なお、測定に際しては、一つの凹部及び凸部が必ず測定台の範囲に入るようにする。なお、深さの異なる凹部が存在する場合には、最も深さの深い凹部が位置するようにする。この測定時には、プランジャーはのせるだけとして押えない。プランジャーの端子は金属製で直径10mmの円形の平面が紙平面に対し垂直に当たるようにし、この紙厚測定時の荷重は、約70gfである。なお、紙厚は測定を10回行って得られる平均値とする。
【0028】
他方、本実施形態にかかる産業用ワイプは、エンボス加工による凹凸20,21が、一方面に凹部20のみが形成され、他方面に前記凹部に対応する凸部21のみが形成されている形態で配されるシングルエンボスの形態である。このシングルエンボスとすることで、特に粘性の高い液体を掻き取り性が高まる。エンボス加工による凹凸は、スチールラバー方式、スチールマッチ方式の何れの方式でもよいが、凹部の縁がはっきりしやすいスチールマッチ方式のエンボス加工によって凹凸20,21を形成するのが望ましい。
【0029】
凹部20の平面視形状は、消費者の使用用途や嗜好に応じた様々なとすることができるが、本実施形態に係る産業用ワイプ1は、少なくとも凹部の平面視形状は、平行な一対の縁を有し、その縁が縦方向に対して、50~60度の角度で配されている形状となっている。特に好適には54~56度である。
【0030】
図示の形態は、好ましい形態として、個々の凹部20の平面視形状が、角部30,30…が曲線の角丸平行四辺形となっており、特に、その凹部の平行な一対の縁40,40がシートの縦方向に対して、50~60度の角度∠αとなるようにして配されている。なお、角丸平行四辺形の角部の曲率は特に限定されない。角丸平行四辺形ではなく単なる平行四辺形でもよいが、角部が曲線であるほうが使用時の紙の破断の虞が小さくなる。
【0031】
ここで、本発明及び実施形態における縦方向MD及び横方向CDとは、紙の縦方向、横方向である。原反ロールから連続シートに製造する場合には、縦方向MDは製造時における搬送方向と一致し、横方向CDは製造時における搬送方向と直交する方向と一致する。クレープ紙のシート10は、縦方向に沿って繊維が配向しており、クレープの尾根が、横方向CDに沿うように並ぶ。この繊維配向性とクレープの尾根の延在方向に対して、凹部20の縁40,40が50~60度となるように配されていると、クレープの尾根の延在方向よりもやや繊維配向性に沿う方向に近く縁が配され、繊維の分断とクレープの分断のバランスがよく、特に粘度の低い液体が、凹部20の縁に沿って浸透しやすくなり、吸収速度及び吸収量が高まるようになるとともに、しなやかさに優れるようになる、
【0032】
さらに、凹部20の平面視形状は、平行な他の一対の縁50,50を有し、その縁が縦方向に平行となるように配されているのが望ましい。クレープの延在方向に対して直行する方向に凹部20の縁が延在するようになるため、クレープが折れやすくしなやかさが発現しやすい。また、産業用ワイプを製品化する際に、二つ折り、四つ折りにする場合に、凹部20の縁にそって折り曲げやすく加工性も高まる。
【0033】
本実施形態の産業用ワイプでは、上記のとおり凹部の平面視形状が、角丸平行四辺形であり、平行な一対の縁40,40が、シートの縦方向に対して、50~60度の角度∠αであり、他の平行な一対の縁50,50が縦方向に平行になっている。この凹部20においては、角部30及び略直線状の一対の縁40,50を有しているため塵・埃・グリスを掻き取りやすく、凹部内へも取り込みやすい。また、特に、凹部20は、正方形や長方形ではなく略鋭角と略鈍角の二種の角部を有しており、種々の粘性のグリス等、性状の異なる被拭き取り物を効果的に拭き取れる。例えば、グリスにおいて175以上のちょう度に相当する粘性の高い液体や、グリスにおいて355以上のちょう度に相当する粘性の低い液体の双方の拭き取り性に優れるものとなる。
なお、一対の縁のいずれが長いかは必ずしも限定されない。凹部20における平行な一対の縁の長さの比も限定されないが、凹部は過度に細長にならないのが望ましく、3:1~1:3の範囲にあるのがよい
【0034】
さらに、本実施形態の産業ワイプにおいては、図1に示されるように、隣り合う凹部20の各平行な一対の縁40,50がそれぞれ一直線上に位置するようにして配されているのが望ましい。均等に凹部20が配置され、拭き取り時や液吸収時のムラが少なくなり。
【0035】
ここで、一つの凹部20のより好ましい具体的な形状としては、シートの縦方向に対して、50~60度の角度∠αである一対の平行な縁の間隔L1が5~10mm、他の一対の平行な縁の間隔L2が10~20mmである。特にこの間隔の角丸平行四辺形がよい。この大きさの凹部20であると拭き取り操作時に凹部20の縁でグリス等の粘性の高い液体を掻き取って凹部20内に入り込みやすくなり、粘性の高い液体の拭き取り性が高まる。
【0036】
また、本実施形態の産業用ワイプでは、前記凹部20の深さが、0.7~1.3mmである。凹部の深さが0.7mm未満であると粘性の高い液体の掻き取り性が十分に発現せず。1.3mmを超えると、シングルエンボスの形態の場合、嵩や厚みが高くなりすぎて、保管性、輸送性の観点で望ましくない。
【0037】
エンボス加工による凹部の深さは、株式会社キーエンス社製ワンショット3D測定マクロスコープ VR-3200又はその相当機と、画像解析ソフトウェア「VR-H1A」又はその相当ソフトウェアにより測定する。測定は、倍率12倍、視野面積24mm×18mmの条件で測定する。但し、倍率と視野面積は、凹部20の大きさによって、適宜変更することができる。具体的な測定手順は、図4を参照して説明すると、上記ソフトウェア等を用いて、平面視点で示される画像部(図中X部分)中の一つの凹部20の周縁の最長部を横切る線分Q1におけるエンボス深さ(測定断面曲線)プロファイルを得る。このエンボス深さプロファイルの断面曲線からλc:800μm(但し、λcはJIS-B0601「3.1.1.2」に記載の「粗さ成分とうねり成分との境界を定義するフィルタ」)より短波長の表面粗さの成分を低域フィルタによって除去して得られる断面視点で示される画像部(図中Y部分)の「輪郭曲線Q2」のうち、上に凸で最も曲がりが強くなる2つの凹部エッジ点P1,P2と、凹部エッジ点P1,P2で挟まれる最小値を求め、深さの最小値Minとする。さらに、凹部エッジ点P1,P2の深さの値の平均値を深さの最大値Maxとする。このようにして、エンボス深さ=最大値Max-最小値Minとする。又、凹部エッジ点P1,P2のX-Y平面上の距離(長さ)を最長部の長さと規定する。上記の上に凸で最も曲がりが強くなる2つの凹部エッジ点P1,P2は目視にて選択する。なお、その選択にあたっては、当該測定中の凹部20の平面視点の画像中の輪郭Eを参考としてもよい。同様にして、最長部に垂直な方向での最短部についても凹部20の深さを測定し、大きい方の値を凹部20の深さとして採用する。以上の測定を、表面の任意の10個のエンボスについて行い、その平均値を凹部の深さとする。
【0038】
他方、本実施形態の産業用ワイプでは、凸部の平面視形状も、消費者の使用用途や嗜好に応じた様々なとすることができるが、凸部の平面視形状は、楕円又は略楕円形状であるのが望ましい。凸部においては、楕円又は略楕円形状であることにより、直線状の縁がなく全体が弧であり角も有さないため、繊維が過度に密にならず吸液性能や紙力を高めやすい。特に、図3に示すように、凸部21は、角丸平行四辺形の各辺をその中央部分が外方に向かって膨出するようにされた形状であるのが望ましい。
【0039】
凹部20と凸部21との平面視形状を異なるようにするには、スチールマッチエンボス加工によりエンボス加工を行えばよい。この場合、凹部が角丸平行四辺形であり、凸部が角丸平行四辺形の各辺をその中央部分が外方に向かって膨出するようにされた略楕円形状であると、凹部及び凸部の形成が近く、スチールマッチエンボス加工による紙面押圧時に原紙に対する負荷が小さく紙力の低下を少なくすることができる。
【0040】
他方、本実施形態の産業用ワイプでは、前記凹部20の底部の総面積率が60%以上、好ましくは75%以上であり、かつ、表面面積率が110%以上、好ましくは130%以上であるのが望ましい。凹部20の底部は、エンボスロールの凸部頂面によって押されているため、この部分の総面積率が60%以上あれば、紙の十分なコシが発現し、丈夫さ優れるものとなる。また、凹部20の底部の総面積率が60%以上であり、表面面積率が110%以上であると、凹部形成による掻き取り性や吸収性能が十分に高まる。なお、凹部20の底部の総面積率の上限値は必ずしも限定されない。また、表面面積率は、平面視における面積に対する凹部内の表面面積の割合であり、表面面積率が高いと紙面が多く伸ばされて表面積が増加するようになる。
【0041】
ここで、凹部の底面の総面積率及び表面面積率についても、株式会社キーエンス社製ワンショット3D測定マクロスコープ VR-3200又はその相当機と、画像解析ソフトウェア「VR-H1A」又はその相当ソフトウェアにより、測定することができる。具体的には、平面視点で示される画像部及び「輪郭曲線Q2」から測定される。底面位置については、深さの測定と同じように、「輪郭曲線Q2」の底側のエッジ点P3,P4を定めればよい。
【0042】
さらに、本実施形態の産業用ワイプは、乾燥引張強度の縦横比が4.5以下、好ましくは4.0以下であるのが望ましい。縦方向及び横方向の具体的な乾燥引張強度は、必ずしも限定されないが、縦方向で2000~3500cN/25mm、横方向で600~1000cN/25mmであるのが望ましい。この範囲であれば拭き取りに十分な強度である。なお、乾燥引張強度の測定方法は、JIS P8113(1998)に準ずる方法で実施する。測定装置としては、ミネベア株式会社製「万能引張圧縮試験機 TG-200N」及びその相当機が挙げられる。
【0043】
また、本実施形態の産業用ワイプ1は、縦方向及び横方向の具体的な湿潤引張強度は、必ずしも限定されないが、縦方向で700~1100cN/25mm、横方向で200~800cN/25mmであるのが望ましい。この範囲であれば液吸収した後の拭き取りに十分な強度である。
【0044】
特に、本実施形態の産業用ワイプ1は、上記のとおり凹部20と凸部21の平面視形状が異なっており、一つの凹部20の表面積が6.6~12.4mmであり、かつ、一つの凸部21の表面積が10.3~19.3mmであり、凹部20の表面積と凸部21の表面積の差が3.7~6.9mmである。なお、ここでの表面積及びその差は、立体視におけるものであり、凸部21の面積が広くなる。凹部20と凸部21の平面視形状が異なっており、凹部表面積と凸部表面積とその差が上記の範囲であれば、複数プライの多層品の紙製の産業用ワイプ1において堀の深いエンボス形状として加工中や使用中におけるプライ離れを防止できつつ、しなやかで十分な吸収性能とすることができ、さらに、十分な紙力とすることができる。このような凹凸は、エンボス加工時において、凹部20を形成するための凸部61と、凸部21を形成するための凹部71の形状及び表面積を異なるようにする。例えば、スチールマッチ方式のエンボス加工により形成することができる。特にスチールマッチエンボスは、紙面の凹部20の縁をはっきりさせやすく、拭き取り性を高めることができる。
【0045】
また、本実施形態の産業用ワイプ1は、縦方向MDの伸長率が30%以上であるのが望ましい。伸長率が30%以上であれば十分にしなやかさがあるといえる。ここで、特に上記のように、凹部20と凸部21の平面視形状が異なっており、凹部表面積と凸部表面積の差が3.7~6.9mmであると、縦方向MDの伸長率が30%以上にしやすい。これは、エンボス加工時における凹部20を形成するための凸部61と凸部21を形成するための凹部71とのクリアランスを適宜にすることで、上記の面積差とするこができるためである。このクリアランスは原紙に対する負荷に関係し繊維を押し固める度合いに関連するため上記面積差の場合に、特にこの有意に高い伸長率を達成することが容易となる。
【0046】
ここで、本実施形態に係る伸長率は、JIS P 8113(2006)の引張試験に基づいて測定する。試験片は横方向25mm(±0.5mm)×縦方向150mm程度に裁断したものを用いる。試験機は、ミネベア株式会社製ロードセル引張り試験機TG-200Nを用いる。つかみ間隔が100mmに設定する。測定は、試験片の両端を試験機のつかみに締め付け、紙片を上下方向に引張り荷重をかけ、紙が破断する時の指示値(デジタル値)を読み取る手順で行う。引張速度は100mm/minとする。各々5組の試料を用意して各5回ずつ測定し、その測定値の平均を各方向の乾燥引張強度とする。
【0047】
他方で、本実施形態の産業用ワイプ1では、凹部20及び凸部21のエンボス密度は、必ずしも限定されないが、凹部20において、30mm×30mmあたりに、完全な形状で30個以上あるのがよく、好ましくは、50個~60個、より好ましくは45~55個である。
【0048】
また、本実施形態の産業用ワイプ1は、凸部側における凸部以外の部分の面積率が50%超、より好ましくは55%超であるのが望ましい。この面積率であると上記の伸長率としやすい。ここで、凸部以外の面積率は、上記株式会社キーエンス社製ワンショット3D測定マクロスコープ VR-3200又はその相当機と、画像解析ソフトウェア「VR-H1A」又はその相当ソフトウェアにより測定することができる。測定は、倍率12倍、視野面積30mm×30mmの条件で測定する。但し、倍率と視野面積は、適宜変更することができる。少なくとも凸部が30個以上はいるように選択するのがよい。具体的には、測定範囲に示される高低差画像中の凸部の最高値から設計上のエンボス高さ値を差し引いた部分の面積を測定し、割合を算出するのが望ましいが、凹部側面における凹部20の深さを後述のとおり測定し、その値を差し引いてもよい。
【実施例
【0049】
本実施形態に係る産業ワイプ(実施例)と、従来の紙素材の産業用ワイプ(比較例1~3)について、吸水速度、吸水量及び吸油量、さらにグリスの拭き取り性について測定した。なお、実施例1は、図1に示す凹部の形状及び配列を有するものである。比較例2は、図4に示す凹部の形状及び配列のものである。この比較例2に係る凹部120は、縦方向MDに沿う平行な一対の縁150,150と、その縁の端を繋ぐ外方に膨出する半円の縁140,140を有する形状となっている。また、凹部120の配列はMD方向に対して54度の角度∠βで配列されている。比較例2及び比較例3は、ピンエンボスのものである。各実施例及び比較例の物性・組成は、試験の結果とともに、表1に示す。なお、吸水速度、吸水量及び吸油量、さらにグリスの拭き取り性は下記のように測定した。
【0050】
〔吸水速度〕
吸水速度の測定は下記(1)~(5)のとおりに行った。
(1)試料をMD方向250mm×CD方向250mmの矩形に裁断する。
(2)試料を四つ折りとする。
(3)四つ折りとした試料よりも大きいトレイ(例えば、内寸:215mm×160mm)に、20mm程度の深さとなるように、25℃の水を入れる。
(4)四つ折りとした試料を、四つ折りとした試料以上の大きさの剛性のある平網(例えば、120mm×120mm、網目15mm)の上に載せ、前記水を入れたトレイ内におろして、水面に接触するように試験片を水面に載せる。
(5)水面に載せてから試料全体に水が浸むまでの時間を測定する。なお、水がしみこんだか否かは、目視にて確認する。
【0051】
〔吸水量〕
吸水量の測定は下記(1)~(6)のとおりに行った。
(1)試料をMD方向250mm×CD方向250mmの矩形に裁断する。
(2)試料の質量を電子天秤(A&D HR300等)により測定する。
(3)試料を四つ折りにしその試料よりも大きいトレイ(例えば、内寸:215mm×160mm)に、20mm程度の深さとなるように、25℃の水を入れる。
(4)試料を、試料以上の大きさの剛性のある平網(例えば、120mm×120mm、網目15mm)の上に載せ、前記水を入れたトレイ内におろして、試料を11分間浸水させる。
(5)浸漬後、ピンセットで対角線状に二つ折りした後、バットから引き上げる。
(6)吸水した試料の質量を電子天秤により測定し、下記式により1m当たりの吸水量を算出する。
吸水量(g/m)=((上記(4)で測定した吸水した試験片の質量)-(上記(1)で測定した試験片の質量))×100(注:mに換算するため、100倍する)
【0052】
〔吸油量〕
上記〔吸水量〕の試験と同様の操作及び算出式により測定した。なお、〔吸水量〕の試験からの変更点は、裁断する試料の大きさを縦方向200mm×横方向200mmの矩形とした点、バット内に入れる液体を25℃のサラダ油(日清サラダ油:日清オイリオグループ株式会社製)、エンジンオイル(ULTRA 2 SUPER:本田技研工業株式会社製)、潤滑油(スーパーギア220:出光興産株式会社製)とした点である。
【0053】
〔グリスの拭き取り性〕
グリスの拭き取り性は、下記の(1)~(5)の手順で測定した。
(1)試料を縦方向200mm×横方向200mmの矩形に裁断する。
(2)この試料を四つ折りとして、電子天秤(A&D HR300等)により質量を測定する。
(3)平滑なステンレス製のバット上に平滑な樹脂フィルム(旭化成株式会社製:サランラップ)を敷き、その上に1.7gのグリスを直線状(約2.0cm)に絞り出す。
(4)四つ折りにした試料をグリスの上に載置し、さらにその上から350mLの水を入れた500mLビーカーを錘として載せる。
(5)試料の端を摘まみ横方向に試料をバット上をスライドするように20cm引っ張る。
(6)その後に錘のビーカーを取り除き、電子天秤(A&D HR300等)により質量を測定し、グリスを付着させる前の試料の質量との差を算出する。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の結果が示すとおり、本発明に係る実施例は、ピンエンボスの比較例2及び比較例3よりも、グリスのふき取り性に優れる。さらに、凹部形状の異なる比較例1よりもグリスの拭き取り性に優れる。また、吸水速度及び吸水量、さらに各種の油の吸油量についてもすべて比較例1~比較例3よりも優れている。また、紙厚も実施例1は、低い値である、
以上の結果とおり、特に、平行な一対の縁が縦方向に対して、50~60度の角度で配されている形状の凹部により、プライ剥離し難く、グリス等の粘度の高い付着物の拭き取り性、及び、水等の粘度の低い液体の吸収性能がより高められ、さらに過度に嵩ばらない産業用ワイプとなる。
【符号の説明】
【0056】
1…産業用ワイプ、10…シート、20、120…凹部、21…凸部、30…角部、40,50,150…平行な一対の縁、∠α…MD方向と縁との角度、∠β…凹部の配列角度、L1,L2…一対の縁の間隔。
図1
図2
図3
図4