(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 5/16 20060101AFI20240913BHJP
H02K 7/08 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H02K5/16
H02K7/08 Z
(21)【出願番号】P 2020187947
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 雅一
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-057827(JP,A)
【文献】特開2009-044863(JP,A)
【文献】実開平06-070461(JP,U)
【文献】特開2007-143379(JP,A)
【文献】特開平06-245476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/16
H02K 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータケース内に設けられた固定子と、固定子に対向配置された回転子を支持する回転子軸が前記モータケースに回転可能に支持された電動機であって、
前記モータケースに保持され、前記回転子軸に締結されて当該回転子軸を回転可能に支持する一対の軸受と、
前記軸受の前記回転子軸に対する軸方向位置を規定するストッパー部と、を備えており、
前記ストッパー部は
前記回転子軸の軸直角方向にレーザー光が照射されて前記回転子軸の金属表層を溶解させて径方向外側に盛り上げられた盛り上げ凸部
が周回して形成され、前記回転子軸に対するレーザー光の照射位置を軸方向に相対的に移動させることで前記盛り上げ凸部と凹部が複数交互に形成されており、当該盛り上げ凸部により前記軸受の軸方向位置が規定されていることを特徴とする電動機。
【請求項2】
モータケース内に設けられた固定子と、固定子に対向配置された回転子を支持する回転子軸が前記モータケースに回転可能に支持された電動機であって、
前記モータケースに保持され、前記回転子軸に締結されて当該回転子軸を回転可能に支持する一対の軸受と、
前記軸受の前記回転子軸に対する軸方向位置を規定するストッパー部と、を備えており、
前記ストッパー部は前記回転子軸の軸直角方向にレーザー光が照射されたまま軸方向に相対移動させて前記回転子軸の金属表層を溶解させて径方向外側に盛り上げられた軸方向に連なる軸方向盛り上げ凸部が形成されており、当該軸方向盛り上げ凸部により前記軸受の軸方向位置が規定されていることを特徴とする電動機。
【請求項3】
前記回転子軸に対するレーザー光の照射位置を周方向に相対的に移動させて軸方向盛り上げ凸部と凹部が複数交互に形成されている請求項
2記載の電動機。
【請求項4】
前記回転子軸の周方向に軸方向盛り上げ凸部と凹部が複数交互に形成されたストッパー部が前記回転子軸の周方向に所定間隔を設けて複数箇所に形成されている請求項
2又は請求項3記載の電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば家電製品などに駆動源として用いられる電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、インナーロータ型の電動機は、モータケース内に設けられた固定子と、固定子に対向配置された回転子を支持する回転子軸がモータケースに回転可能に支持されている。
図3Aにおいて、回転子51は、回転子軸52を中心に回転子ヨーク53及び永久磁石54が同心状に設けられている。回転子軸52は、両側に軸受57(ベアリング)などの金属圧入部品が圧入され、軸受57は図示しないモータケースに一体に組み付けられる。
【0003】
上記電動機においては、回転子軸52に荷重がかかっても軸受57と回転子軸52との締結位置がずれないようにストッパー部が設けられている。一般的には、
図3Bに示すように回転子軸52に周溝55が切られており、該周溝55に止め輪56を嵌め込むことで、止め輪56と図示しないモータケースにより軸受57の軸方向の位置ずれを防いでいた(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-30175号公報
【文献】WO2018/179833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回転子軸52に周溝55を形成する溝加工を各々形成する必要があり、周溝55に対して止め輪56を作業者が手作業で装着する必要があるため、生産性が低下する。
また、止め輪56自体は非対称形状をしていることから、回転子51の回転バランスが崩れてアンバランスとなるおそれがあり、回転子軸52に溝加工が必要となるうえに止め輪56の分だけ部品点数が増えることで製造コストが嵩む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、これらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、回転子軸に止め輪などの非対称部品を増やすことなく軸受位置を保持することで、回転子の回転バランスを崩さずかつ低コストで量産することができる電動機を提供することにある。
【0007】
上記従来技術の課題を解決するため、以下に述べるいくつかの実施形態に適用される発明は、少なくとも次の構成を備える。
モータケース内に設けられた固定子と、固定子に対向配置された回転子を支持する回転子軸が前記モータケースに回転可能に支持された電動機であって、前記モータケースに保持され、前記回転子軸に締結されて当該回転子軸を回転可能に支持する一対の軸受と、前記軸受の前記回転子軸に対する軸方向位置を規定するストッパー部と、を備えており、前記ストッパー部は前記回転子軸の軸直角方向にレーザー光が照射されて前記回転子軸の金属表層を溶解させて径方向外側に盛り上げられた盛り上げ凸部が周回して形成され、前記回転子軸に対するレーザー光の照射位置を軸方向に相対的に移動させることで前記盛り上げ凸部と凹部が複数交互に形成されており、当該盛り上げ凸部により前記軸受の軸方向位置が規定されていることを特徴とする。
このように、回転子軸の金属表層を溶解させて径方向外側に盛り上げた盛り上げ凸部が形成されて軸受の軸方向位置が規定されているので、回転子軸に止め輪など非対称形状の部品を増やすことなく、軸受位置を保持することができる。よって、回転子の回転バランスを崩さずかつ低コストで量産できる電動機を提供することができる。
また、例えば回転子軸を回転させながら回転子軸の軸直角方向からレーザー光を照射することで盛り上げ凸部が周回して均一に形成されるため、軸受の位置決めとなるうえに回転バランスが崩れることがなくなる。尚、回転子軸を静止させてレーザー光を周回して照射するようにしてもよい。
また、例えば回転子軸が1回転するごとにレーザー光の軸方向位置を変えて照射することで複数の盛り上げ凸部が凹部と交互に形成される。よって、回転子軸にスラスト方向に負荷が作用しても軸受が複数の盛り上げ凸部を乗り越えて移動し難くなるので、軸受位置を安定化することができる。尚、レーザー光の照射位置を静止したまま回転子軸の位置を軸方向に変化させてもよい。
【0010】
他の構成として、モータケース内に設けられた固定子と、固定子に対向配置された回転子を支持する回転子軸が前記モータケースに回転可能に支持された電動機であって、前記モータケースに保持され、前記回転子軸に締結されて当該回転子軸を回転可能に支持する一対の軸受と、前記軸受の前記回転子軸に対する軸方向位置を規定するストッパー部と、を備えており、前記ストッパー部は前記回転子軸の軸直角方向にレーザー光が照射されたまま軸方向に相対移動させて前記回転子軸の金属表層を溶解させて径方向外側に盛り上げられた軸方向に連なる軸方向盛り上げ凸部が形成されており、当該軸方向盛り上げ凸部により前記軸受の軸方向位置が規定されていることを特徴とする。
これにより、例えば回転子軸の軸直角方向からレーザー光を照射しながら軸方向に所定長走査することで、軸方向に連なる軸方向盛り上げ凸部が均一に形成されるため、軸受の位置決めとなるうえに回転バランスが崩れることがなくなる。尚、レーザー光の照射位置を静止したまま回転子軸の軸方向位置を変化させてもよい。
【0011】
前記回転子軸に対するレーザー光の照射位置を周方向に相対的に移動させて軸方向盛り上げ凸部と凹部が複数交互に形成されていてもよい。
これにより、例えば回転子軸に対してレーザー光を照射したまま軸方向に所定距離走査するごとに回転子軸が所定量回転して同様にレーザー光を照射したまま軸方向に所定距離走査する動作を繰り返すことで複数の軸方向盛り上げ凸部が凹部と交互に形成される。よって、回転子軸にスラスト方向に負荷が作用しても軸受が複数の軸方向盛り上げ凸部を乗り越えて移動し難くなるので、軸受位置を安定化することができる。尚、レーザー光の照射位置を静止したまま回転子軸の軸方向位置及び周方向位置を交互に変化させてもよい。
【0012】
前記回転子軸の周方向に軸方向盛り上げ凸部と凹部が複数交互に形成されたストッパー部が前記回転子軸の周方向に所定間隔を設けて複数箇所に形成されていてもよい。
これにより、回転子軸にスラスト荷重が作用してもストッパー部による軸受位置の安定化を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
回転子軸に止め輪など非対称形状の部品を増やすことなく回転子軸の金属表層を溶解させて径方向外側に盛り上げた盛り上げ凸部により軸受位置を保持することで、回転子の回転バランスを崩さずかつ低コストで量産することができる電動機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1の回転子の斜視図、正面図及びストッパー部の部分拡大図である。
【
図3】従来の回転子に止め輪を装着前の斜視図及び正面図並びに回転子に止め輪を装着後の斜視図である。
【
図4】レーザー加工機による盛り上げ凸部の加工結果を示す表及びグラフ図である。
【
図5】他例に係る回転子の斜視図、正面図、右側面図、ストッパー部の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電動機の一実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。先ず、電動機の概略構成について
図1を参照して説明する。
電動機1は、以下の構成を備える。
図1に示すように、ハウジング2は、後述する回転子4及び固定子8を収容する筒状のハウジング本体2aと、ハウジング本体2aの開口を塞ぐエンドカバー2bを有している。ハウジング本体2aとエンドカバー2bには軸受保持部2cが各々形成されている。軸受保持部2cには、軸受(ボールベアリング)3が各々保持され、一対の軸受3には回転子4が回転可能に支持されている。回転子4は、回転子軸5を中心として回転子ヨーク6及び回転子マグネット7が同心状に組み付けられている。回転子軸5は、一対の軸受3に圧入されて回転可能に支持されている。また、ハウジング2内には、固定子8が組み付けられている。固定子8は、固定子コア8aの環状のコアバック部がハウジング本体2aの内壁面に圧入、接着等により組み付けられている。固定子コア8aは、環状のコアバック部から径方向内側に向けて固定子極歯が複数突設されている。固定子極歯にはインシュレータ8bを介してモータコイル8cが巻かれている。固定子極歯は、回転子マグネット7と対向配置されている。また、インシュレータ8bには、回路基板8dが支持されている。回路基板8dにはモータコイル8cより引き出された口出し線が接続されている。
【0016】
次に、
図1において、回転子軸5の軸受保持部2c近傍には、ストッパー部9が2か所に設けられている。ストッパー部9は、軸受3の回転子軸5との締結が軸方向にずれないように回転子軸5に設けられる。
具体的には、
図2A,Bに示すようにストッパー部9は回転子軸5(例えばSUS420等)の金属表層を溶解させて径方向外側に盛り上げた盛り上げ凸部5aが形成されている。一対の軸受3は、軸受保持部2cと盛り上げ凸部5aに軸方向に挟まれて各々位置決めがなされる。
【0017】
図2Cにストッパー部9の拡大図を示す。ストッパー部9は、回転子軸5を回転させながら図示しないレーザー光照射装置よりレーザー光10を軸直角方向に照射することで金属表層を溶解させて盛り上げ凸部5aが周回して形成されている。
このように、例えば回転子軸5を回転させながら回転子軸5の軸直角方向からレーザー光10を照射することで盛り上げ凸部5aが周回して均一に形成されるため、軸受3の位置決めとなるうえに回転バランスが崩れることがなくなる。尚、回転子軸5を静止させてレーザー光10を周回して照射するようにしてもよい。
【0018】
また、回転子軸5に対するレーザー光10の照射位置を軸方向に移動させることで複数の盛り上げ凸部5aが凹部5bと交互に形成されている。
これにより、例えば回転子軸5が1回転するごとにレーザー光10の軸方向位置を変えて照射することで複数の盛り上げ凸部が凹部と交互に形成される。よって、回転子軸5にスラスト方向に負荷が作用しても軸受3が複数の盛り上げ凸部5aを乗り越えて移動し難くなるので、軸受位置を安定化することができる。
【0019】
回転子軸5に対するレーザー加工による盛り上げ凸部5aの加工例について説明する。回転子軸5はSUS420(φ5mm)を用い、レーザー加工機はファイバーレーザーを用い、出力80%、スポット径50μm、加工時間4sec、送りピッチ20μmでレーザー光照射回数が4回若しくは8回で照射した。また、回転子軸5の回転速度は630rpm、1000rpm、1520rpmで各々実験を行った。レーザー加工結果を
図4Aの表図に示す。
図4Bのグラフ図によれば、回転子軸5の回転数が630rpmから1000rpmにおいては、照射回数4回に比べて照射回数8回とすると盛り上げ凸部5aの加工高さと溝幅(凹部5b)が略一様に形成できることが確認された。
【0020】
以上説明したように、回転子軸5の金属表層を溶解させて径方向に盛り上げた盛り上げ凸部5aが形成されて軸受3の軸方向位置が規定されているので、回転子軸5に止め輪など非対称形状の部品を増やすことなく、軸受位置を保持することができる。よって、回転子4の回転バランスを崩さずかつ低コストで量産できる電動機1を提供することができる。
【0021】
次に、
図5A~Dを参照して、回転子の他の構成について説明する。
図2と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとし、繰り返しの説明は省略する。回転子4の概略構成は、
図2と同様であるため異なる構成を中心に説明する。回転子軸5の軸受保持部2c(
図1参照)近傍には、ストッパー部9が2か所に設けられている。ストッパー部9は、軸受3の回転子軸5との締結が軸方向にずれないように回転子軸5に設けられる。
具体的には、
図5A~Cに示すようにストッパー部9には、回転子軸5(例えばSUS420等)の金属表層を溶解させて径方向外側に盛り上げた軸方向盛り上げ凸部5cが形成されている(
図5D参照)。一対の軸受3は、軸受保持部2c(
図1参照)と軸方向盛り上げ凸部5cに軸方向に挟まれて各々位置決めがなされる。
【0022】
図5B,Dに示すように、ストッパー部9は、回転子軸5が静止状態で軸直角方向からレーザー光10を照射しながら軸方向に所定長走査することで金属表層を溶解させて軸方向に連なる軸方向盛り上げ凸部5cが形成されている。
これにより、例えば回転子軸5の軸直角方向からレーザー光10を照射しながら軸方向に所定長走査することで、軸方向盛り上げ凸部5cが均一に形成されるため、軸受3の位置決めとなるうえに回転バランスが崩れることがなくなる。尚、レーザー光10の照射位置を静止したまま回転子軸5の軸方向位置を変化させてもよい。
【0023】
また、
図5Dに示すように、回転子軸5に対するレーザー光10の照射位置を周方向に相対的に移動させて軸方向盛り上げ凸部5cと凹部5dが複数交互に形成されている。
これにより、例えば回転子軸5に対してレーザー光10を照射したまま軸方向に所定距離走査するごとに回転子軸5が所定量回転して同様にレーザー光10を照射したまま軸方向に所定距離走査する動作を繰り返すことで複数の軸方向盛り上げ凸部5cと凹部5dが交互に形成される。よって、回転子軸5にスラスト方向に負荷が作用しても軸受3が複数の軸方向盛り上げ凸部5cを乗り越えて移動し難くなるので、軸受位置を安定化することができる。尚、レーザー光10の照射位置を静止したまま回転子軸5の軸方向位置及び周方向位置を交互に変化させてもよい。
【0024】
また、回転子軸5の周方向に軸方向盛り上げ凸部5cと凹部5dが複数交互に形成されたストッパー部9が回転子軸5の周方向に所定間隔を設けて複数箇所(
図5Dでは6か所)に等間隔で形成されている。尚、ストッパー部9の数は6か所より多くても少なくてもいずれでもよい。
これにより、回転子軸5にスラスト荷重が作用してもストッパー部9による軸受位置の安定化を高めることができる。
【0025】
尚、電動機1はインナーロータ型モータについて説明したがアウターロータ型モータであってもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 電動機 2 ハウジング 2a ハウジング本体 2b エンドカバー 2c 軸受保持部 3 軸受 4 回転子 5 回転子軸 5a 盛り上げ凸部 5b,5d 凹部 5c 軸方向盛り上げ凸部 6 回転子ヨーク 7 回転子マグネット 8 固定子 8a 固定子コア 8b インシュレータ 8c モータコイル 8d 回路基板 9 ストッパー部