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特許7555241付加製造装置および三次元造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】付加製造装置および三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/342 20140101AFI20240913BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20240913BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20240913BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240913BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240913BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240913BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240913BHJP
   B22F 12/90 20210101ALI20240913BHJP
【FI】
B23K26/342
B23K9/04 J
B23K9/095 501G
B23K26/00 M
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B22F12/90
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020189737
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078804
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】小田 千紗子
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】遠山 健
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-031447(JP,A)
【文献】特開2011-005533(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045383(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/084673(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0136579(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105,3/16,10/00,12/00
B23K 9/00,26/00
B29C 64/00
B33Y 10/00,30/00,50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交するX軸およびY軸によって形成されるXY面と平行な第1面を有するベースプレートを支持するステージと、
前記ベースプレートの前記第1面および前記ベースプレート上に形成される堆積物を構成する面のいずれかの面である加工面に向けて付加材料を供給するとともに、XY面内で移動可能なノズルと、
前記ノズルに前記付加材料を供給する付加材料供給部と、
前記加工面上に熱源を生成する熱源生成部と、
前記ステージおよび前記付加材料のうちの一方に振動を与えることが可能な振動子と、
前記ステージおよび前記付加材料のうちの前記振動子によって振動が与えられていない他方で振動を検知することが可能な振動センサと、
前記付加材料のX軸方向およびY軸方向の変位量を計測する変位計測器と、
前記変位計測器での計測結果に基づいてXY面における前記ノズルの位置を補正する制御を行う第1制御部と、
前記振動子で発生させた振動の検知結果を前記振動センサから取得し、前記検知結果に基づいて、XY面に垂直なZ軸方向における前記付加材料の先端部と前記加工面との間の位置関係を推定し、推定結果に基づいて前記付加材料供給部での前記付加材料の供給状態を制御する第2制御部と、
を備えることを特徴とする付加製造装置。
【請求項2】
前記変位計測器は、予め定められた長さの区間について、前記付加材料のX軸方向およびY軸方向の変位量を計測し、
前記第1制御部は、前記変位計測器での計測結果から、単位長さ当たりの前記付加材料のX軸方向およびY軸方向の変位量である単位変位量を算出し、前記単位変位量から算出したXY面内における前記ノズルの前記付加材料の送出位置を基準とした前記付加材料の先端部の変位量に基づいてXY面における前記ノズルの位置を補正することを特徴とする請求項1に記載の付加製造装置。
【請求項3】
前記第1制御部は、前記付加材料が溶融する前記熱源の照射範囲内に前記付加材料の先端部が位置するように前記ノズルのXY面の位置を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の付加製造装置。
【請求項4】
XY面内で前記ノズルを移動可能なアクチュエータをさらに備え、
前記変位計測器は、前記アクチュエータよりも前記付加材料の供給方向の下流側に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の付加製造装置。
【請求項5】
前記振動センサは、縦波の強度、横波の強度および振動の伝播速度を検知することができ、
前記第2制御部は、前記振動センサでの検知結果から、前記付加材料の先端部が前記加工面と接触した状態、前記付加材料が溶融した溶融池を介して前記付加材料の先端部が前記加工面と接触した状態、および前記付加材料の先端部が前記加工面とも前記溶融池とも乖離している状態のうちのいずれかを推定することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の付加製造装置。
【請求項6】
前記第2制御部は、推定した状態に基づいて、前記付加材料の先端部が前記加工面と接触しないように、前記付加材料供給部での前記付加材料の供給状態を制御することを特徴とする請求項5に記載の付加製造装置。
【請求項7】
前記第2制御部は、前記振動の伝播速度に基づいて、前記付加材料の先端部が前記溶融池から離れないように、前記付加材料供給部での前記付加材料の供給状態を制御することを特徴とする請求項5に記載の付加製造装置。
【請求項8】
前記第2制御部は、前記付加材料の先端部が前記加工面と接触しないように、前記付加材料の供給速度を制御することを特徴とする請求項6または7に記載の付加製造装置。
【請求項9】
前記第2制御部は、前記付加材料の先端部が前記溶融池から離れないように、前記付加材料の供給速度を制御することを特徴とする請求項6または7に記載の付加製造装置。
【請求項10】
前記振動子は、時間履歴を検知することができる波形を有する振動を発生させ、
前記振動センサは、時間履歴を検知することができる前記波形を有する振動を検知し、
前記第2制御部は、前記振動センサで検知された前記波形から前記付加材料の先端部と前記加工面との間の距離を推定することを特徴とする請求項5から9のいずれか1つに記載の付加製造装置。
【請求項11】
前記振動子は、前記ステージの前記ベースプレートが配置される面とは反対側の面に、XY面内で移動可能に設けられることを特徴とする請求項1から10のいずれか1つに記載の付加製造装置。
【請求項12】
前記熱源生成部は、前記付加材料を溶融させるレーザビームをパルス状に発生させるレーザ発振器であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1つに記載の付加製造装置。
【請求項13】
前記付加材料を揺動させる付加材料揺動部をさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか1つに記載の付加製造装置。
【請求項14】
前記付加材料が溶融した溶融池に電流および磁場を印加して磁気撹拌を生じさせる磁気撹拌部をさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか1つに記載の付加製造装置。
【請求項15】
互いに直交するX軸およびY軸によって形成されるXY面と平行な第1面を有するベースプレートを支持するステージと、
前記ベースプレートの前記第1面および前記ベースプレート上に形成される堆積物を構成する面のいずれかの面である加工面に向けて付加材料を供給するとともに、XY面内で移動可能なノズルと、
前記ノズルに前記付加材料を供給する付加材料供給部と、
前記加工面上に熱源を生成する熱源生成部と、
前記付加材料に電流を供給する電流供給部と、
前記ステージの前記ベースプレートが配置される面とは反対側の面に設けられる電流計測器と、
前記付加材料供給部で前記付加材料を供給するモータの負荷を計測する電圧計測器と、
前記付加材料のX軸方向およびY軸方向の変位量を計測する変位計測器と、
前記変位計測器での計測結果に基づいてXY面における前記ノズルの位置を補正する制御を行う第1制御部と、
前記電流供給部から前記付加材料に供給された電流の前記電流計測器での計測結果と、前記電圧計測器での計測結果と、に基づいて、X軸およびY軸の両方に垂直なZ軸方向における前記付加材料の先端部と前記加工面との間の位置関係を推定し、推定結果に基づいて前記付加材料供給部での前記付加材料の供給状態を制御する第2制御部と、
を備え
前記第2制御部は、前記電流計測器での電流の検知の有無によって、前記付加材料の先端部が前記加工面または前記付加材料が溶融した溶融池と接触している接触状態であるか、前記溶融池と接触していない乖離状態であるかを推定し、前記接触状態のうち、前記付加材料の先端部が前記溶融池と接触しているが前記加工面とは接触していない状態に比して前記負荷が上昇した場合に、前記付加材料の先端部が前記加工面と接触している状態であり、前記負荷が上昇していない場合に、前記付加材料の先端部が前記溶融池と接触しているが前記加工面とは接触していない状態であると推定することを特徴とする付加製造装置。
【請求項16】
ステージ上に配置され、互いに直交するX軸およびY軸によって形成されるXY面と平行な第1面を有するベースプレートの前記第1面および前記ベースプレート上に形成される堆積物を構成する面のいずれの面である加工面に向けて、付加材料をノズルから供給する供給工程と、
熱源生成部で前記加工面上に生成された熱源の照射によって前記付加材料の先端部を溶融凝固させる溶融凝固工程と、
を含み、前記供給工程と前記溶融凝固工程とを繰り返し行って三次元造形物を造形する三次元造形物の製造方法であって、
前記付加材料のX軸方向およびY軸方向の変位量を計測する工程と、
前記X軸方向およびY軸方向の変位量の計測結果に基づいてXY面における前記ノズルの位置を補正する工程と、
前記ステージおよび前記付加材料のうちの一方に振動子で発生させた振動を与え、前記ステージおよび前記付加材料のうちの前記振動子によって振動が与えられていない他方で振動センサで振動を検知する工程と、
前記振動子で発生させた振動の検知結果を前記振動センサから取得し、前記検知結果に基づいて、XY軸面に垂直なZ軸方向における前記付加材料の先端部と前記加工面との間の位置関係を推定し、推定結果に基づいて前記付加材料の供給状態を制御する工程と、
を含むことを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、付加材料を供給する工程と、付加材料を溶融凝固させる工程とを繰り返すことによって三次元造形物を製造する付加製造装置および三次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を材料として立体物を製造する手法として、付加製造(Additive Manufacturing)と呼ばれる技術が従来から知られている。付加製造の方式は材料および積層方法などによって、いくつかの種類に分けられるが、付加製造の方式の中の1つに指向性エネルギ堆積(Directed Energy Deposition:DED)方式がある。DED方式は、加工ヘッドに取り付けられたノズルから積層する材料である付加材料を送出する工程と、レーザ、電子ビームまたはアーク放電などの熱源となるエネルギを投入することで、付加材料を選択的に、溶融凝固させる工程と、を含む。そして、これらの工程を繰り返すことによって得られる堆積物から三次元造形物が形成される。
【0003】
DED方式は、他の付加製造の方式に比べて、造形速度が速い、積層材料の切り替えが容易である、造形サイズの制限が少ない、など利点を有する。また、DED方式では、必要部分のみに付加材料を付加するので付加材料の歩留まりがよく、特にワイヤを付加材料として用いる場合には、既製品である溶接用ワイヤを流用できる。つまり、DED方式は、価格が安価であるとともに、付加材料の入手が容易であるという利点を有する。
【0004】
また、ワイヤを用いたDED方式では、ワイヤを付加材料として挿入するため空気およびシールドガスが造形材料に混じりにくい。このため、ワイヤを用いたDED方式は、造形密度が他の付加製造の方式と比較して、高いという利点も有する。しかし、ワイヤ位置を適切に設定しなければ、造形不良が生じることがある。そこで、ワイヤを用いたDED方式において、ワイヤの変位を制御する手法は非常に重要である。特許文献1には、ワイヤの供給方向をZ軸方向とし、溶接方向をY軸方向とし、Z軸方向およびY軸方向の両方に垂直な方向をX軸方向としたときに、Y軸方向からワイヤを撮像し、撮像したデータからX軸方向の変位を測定し、測定結果に基づいてワイヤのX軸方向の位置補正を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2607691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術をワイヤを用いたDED方式の付加製造に適用した場合には、ワイヤのX軸方向の変位を補正制御することはできるが、ワイヤが溶融した溶融池内のワイヤのZ軸方向の侵入深さおよび溶融池内のワイヤの造形物への突き当りを計測することができない。また、カメラとワイヤとの間が造形物の一部等で遮られてしまった場合には、ワイヤのX軸方向およびY軸方向の変位を計測することができない。このように、上記従来の技術をDED方式の付加製造に適用した場合には、エネルギ照射点に侵入する付加材料の先端のX軸方向およびY軸方向の変位並びにZ軸方向の位置を精確に測定し、制御することができないという問題があった。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、エネルギ照射点に侵入する付加材料の先端のX軸方向およびY軸方向の変位並びにZ軸方向の位置を従来に比して精確に測定し、制御することができる付加製造装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る付加製造装置は、ステージと、ノズルと、付加材料供給部と、熱源生成部と、振動子と、振動センサと、変位計測器と、第1制御部と、第2制御部と、を備える。ステージは、互いに直交するX軸およびY軸によって形成されるXY面と平行な第1面を有するベースプレートを支持する。ノズルは、ベースプレートの第1面およびベースプレート上に形成される堆積物を構成する面のいずれかの面である加工面に向けて付加材料を供給するとともに、XY面内で移動可能である。付加材料供給部は、ノズルに付加材料を供給する。熱源生成部は、加工面上に熱源を生成する。振動子は、ステージおよび付加材料のうちの一方に振動を与えることが可能である。振動センサは、ステージおよび付加材料のうちの振動子によって振動が与えられていない他方で振動を検知することが可能である。変位計測器は、付加材料のX軸方向およびY軸方向の変位量を計測する。第1制御部は、変位計測器での計測結果に基づいてXY面におけるノズルの位置を補正する制御を行う。第2制御部は、振動子で発生させた振動の検知結果を振動センサから取得し、検知結果に基づいて、XY面に垂直なZ軸方向における付加材料の先端部と加工面との間の位置関係を推定し、推定結果に基づいて付加材料供給部での付加材料の供給状態を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、エネルギ照射点に侵入する付加材料の先端のX軸方向およびY軸方向の変位並びにZ軸方向の位置を従来に比して精確に測定し、制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1による付加製造装置の構成の一例を模式的に示す図
図2】実施の形態1による付加製造装置の移動ステージと加工ヘッドの部分を模式的に示す断面図
図3】実施の形態1による付加製造装置の制御の概要の一例を模式的に示す図
図4】加工面上におけるワイヤの変位の一例を示す図
図5】ワイヤの先端部が加工面と接触した状態の一例を模式的に示す図
図6】ワイヤの先端部が溶融池を介して加工面と接触した状態の一例を模式的に示す図
図7】ワイヤの先端部が加工面とも溶融池とも接触していない状態の一例を模式的に示す図
図8】実施の形態1による付加製造装置のワイヤ供給制御処理の概要の一例を模式的に示すブロック図
図9】実施の形態1による三次元造形物の製造方法の手順の一例を示すフローチャート
図10】ワイヤノズルのXY面内の位置補正処理の手順の一例を示すフローチャート
図11】ワイヤ供給部のワイヤ供給制御処理の手順の一例を示すフローチャート
図12】三次元造形物の製造方法でガス層が形成される様子の一例を模式的に示す断面図
図13】三次元造形物の製造方法でガス層が形成される様子の一例を模式的に示す断面図
図14】実施の形態2による付加製造装置の移動ステージ付近の構成の一例を模式的に示す図
図15】実施の形態2による付加製造装置の移動ステージ付近の構成の一例を模式的に示す図
図16】実施の形態3による付加製造装置の構成の一例を模式的に示す図
図17】実施の形態3による付加製造装置のワイヤ供給制御処理の概要の一例を模式的に示すブロック図
図18】実施の形態1から3による付加製造装置に備えられる制御部、XY軸制御部およびZ軸制御部のハードウェア構成の一例を模式的に示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施の形態に係る付加製造装置および三次元造形物の製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
以下の実施の形態で説明される付加製造装置は、ワイヤを付加材料として用いたDED方式の積層造形法を適用した付加製造装置である。ワイヤを用いたDED方式の積層造形法の概要は、ワイヤをワイヤノズルから加工面に向けて供給する供給工程と、加工面上のワイヤに熱源を照射して材料を溶融、凝固させることで堆積物を得る溶融凝固工程と、を含み、これらの供給工程と溶融凝固工程とを繰り返すことによって、三次元形状の造形物である三次元造形物を製造する方法である。ここで、造形物とは、堆積物が積層することにより製造される物体を指すものとする。また、熱源の一例は、レーザビーム、電子ビームまたはアーク放電である。
【0013】
図1は、実施の形態1による付加製造装置の構成の一例を模式的に示す図である。付加製造装置1は、移動ステージ11と、レーザ発振器21と、ガス供給部22と、チラー23と、ワイヤ供給部30と、加工ヘッド40と、制御部50と、を備える。なお、図1において、三次元造形物61が形成される土台となる平面と平行な面内において、互いに直交する方向にX軸およびY軸をとり、X軸およびY軸の両方に垂直な方向にZ軸をとるものとする。
【0014】
移動ステージ11は、三次元造形物61を積層するための土台となるベースプレート12を支持し、図示しない駆動機構によって、ベースプレート12を所望の位置に移動可能である。図2は、実施の形態1による付加製造装置の移動ステージと加工ヘッドの部分を模式的に示す断面図である。移動ステージ11は、図示しない駆動機構によって、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に沿って移動可能である。また、図2に示されるように、移動ステージ11は、A軸およびΘ軸の回転方向にも移動可能である。A軸は、移動ステージ11のY軸方向の中心を通り、X軸と平行な回転軸である。Θ軸は、移動ステージ11のY軸方向の中心を通り、Z軸と平行である回転軸である。移動ステージ11は、ステージに対応する。
【0015】
ベースプレート12は、移動ステージ11の上面に設けられる。ベースプレート12は、XY面と平行な第1面を有する金属プレートである。またベースプレート12は、平面を有する金属プレート以外のものであってもよく、例えば円柱、羽根形状など移動ステージ11に設置できる形状を選択可能である。
【0016】
図1に戻り、レーザ発振器21は、付加材料であるワイヤ31を堆積させる面である加工面上で熱源を生成する熱源生成部の一例である。レーザ発振器21は、制御部50からの指示に基づいて、熱源となるレーザビームLを発振する。実施の形態1では、レーザ発振器21からのレーザビームLは、光伝送路であるファイバケーブル24と、図示しない集光レンズおよび保護レンズと、を通過し、後述する加工ヘッド40のビームノズル42へと伝播する。そして、ビームノズル42からのレーザビームLが加工面上に照射される。なお、以下の実施の形態では、ワイヤ31を溶融させるための熱源が、レーザビームLである場合を示すが、レーザビームL以外にも電子ビーム、アーク放電などを選択できる。電子ビームを選択した場合には、熱源生成部は電子銃となり、アーク放電を選択した場合には、熱源生成部は付加材料の供給源となるアーク溶接棒と移動ステージ11との間に電圧を印加する電源となる。
【0017】
ガス供給部22は、制御部50からの指示に基づいて、ガスを後述する加工ヘッド40のガスノズル43に供給する。ガスとして、レーザビームLでワイヤ31を溶融凝固して加工領域62上に堆積物63を形成しているときに、堆積物63の酸化抑制および冷却のためのガスであるシールドガスGが用いられる。シールドガスGの一例は、窒素ガス、アルゴンガスなどである。加工領域62については後述する。
【0018】
チラー23は、付加製造装置1を冷却する。一例では、チラー23は、水などの冷却媒体を加工ヘッド40およびレーザ発振器21との間で循環させ、加工ヘッド40が予め定められた温度よりも高温になってしまうことを抑制する。
【0019】
ワイヤ供給部30は、付加材料であるワイヤ31を後述する加工ヘッド40のワイヤノズル41へ供給する装置である。ワイヤ供給部30は、ワイヤリール32と、モータ33と、ワイヤホルダ34と、ワイヤ送りローラ35と、ワイヤケーブル36と、を備える。ワイヤリール32は、ワイヤノズル41に供給するワイヤ31の供給元となる。ワイヤリール32には、ワイヤ31が巻き回されている。モータ33は、ワイヤリール32の回転軸と接続され、ワイヤリール32を回転させる。ワイヤホルダ34は、モータ33が接続されたワイヤリール32を保持する。ワイヤ送りローラ35は、ワイヤリール32とワイヤノズル41との間に配置され、ワイヤリール32からのワイヤ31を矯正する。ワイヤケーブル36は、ワイヤ送りローラ35からワイヤノズル41までの間で、ワイヤ31の露出面を覆う中空の筒状の部材である。ワイヤ供給部30は、付加材料供給部に対応する。
【0020】
加工ヘッド40は、ベースプレート12と対向して配置され、制御部50からの指示に従って、加工領域62上へのワイヤ31の供給と、加工領域62上へのレーザビームLの照射と、加工領域62上のワイヤ31の周囲へのシールドガスGの噴出と、を行う。加工領域62は、ベースプレート12上で、レーザビームLの進行方向とワイヤ31が供給されるエリアとが交差する領域である。加工ヘッド40は、図示しない駆動機構によって、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動可能である。図2に示されるように、加工ヘッド40は、ワイヤノズル41と、ビームノズル42と、ガスノズル43と、を有する。
【0021】
ワイヤノズル41は、ワイヤ供給部30のワイヤケーブル36と接続され、供給口41aからベースプレート12上の加工領域62に向かってワイヤ31を供給する。ワイヤノズル41は、ベースプレート12の第1面である上面またはベースプレート12上に形成される堆積物63を構成する面のいずれかの面である加工面に向けて付加材料を供給するノズルに対応する。
【0022】
ビームノズル42は、レーザ発振器21とファイバケーブル24を介して接続され、レーザ発振器21から発振されるレーザビームLを出射する。ビームノズル42は、レーザビームLの出射口がベースプレート12側となるように配置される。
【0023】
ガスノズル43は、ガス供給部22と配管を介して接続され、ガス供給部22からのシールドガスGを噴出する。ガスノズル43は、ワイヤノズル41と同軸上に配置され、シールドガスGは、ワイヤ31の周囲に噴出される。シールドガスGで囲まれた領域内にレーザビームLが照射されるように、ビームノズル42が配置される。
【0024】
図1に戻り、制御部50は、付加製造装置1の全体を制御する。図3は、実施の形態1による付加製造装置の制御の概要の一例を模式的に示す図である。図3に示されるように、制御部50は、移動ステージ11の移動制御、レーザ発振器21の動作制御、ガス供給部22のガス供給制御、ワイヤ供給部30のワイヤ供給制御および加工ヘッド40の移動制御を行う。一例では、制御部50は、これらの制御を予め定められたプログラムにしたがって行う。また、チラー23と、レーザ発振器21および加工ヘッド40と、の間では、冷却媒体である冷却水が循環される。
【0025】
移動ステージ11の移動制御では、制御部50は、移動ステージ11上に配置されるベースプレート12の加工面の位置を移動させる。制御部50は、移動ステージ11を、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のうちの任意の方向に移動させ、場合によってはこれに加えて、A軸およびΘ軸を中心に回転させる。これによって、加工面が加工ヘッド40と対向して配置される。加工面上の堆積物63が形成される領域は、加工領域62となる部分である。造形開始時では、ベースプレート12のZ方向の上面が加工面となるが、造形の進行に伴い、ベースプレート12上に形成される堆積物63を構成する面のいずれかの面が加工面となる。
【0026】
レーザ発振器21の動作制御では、制御部50は、レーザビームLの強度、レーザビームLの出射の可否などを制御する。ガス供給部22のガス供給制御では、制御部50は、ガス供給部22から供給されるシールドガスGの流量、シールドガスGの供給の可否などを制御する。
【0027】
ワイヤ供給部30のワイヤ供給制御では、制御部50は、ワイヤノズル41から送り出されるワイヤ31の供給状態を制御する。ワイヤ31の供給状態として、ワイヤ31の供給速度、ワイヤ31の先端位置の補正などが例示される。
【0028】
加工ヘッド40の移動制御では、制御部50は、加工ヘッド40の位置をベースプレート12上で移動させる。つまり、制御部50は、加工面に向けてレーザビームLの照射位置を移動させる。制御部50は、加工ヘッド40を、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のうち任意の方向に移動させる。一例では、制御部50は、三次元造形物61を造形するためのデータにしたがって、ベースプレート12上で加工ヘッド40の位置を制御する。
【0029】
このような構成の付加製造装置1において、ワイヤリール32は、通常円柱状の形状であり、円柱状の円面の中央部にワイヤホルダ34にワイヤリール32をはめ込む溝と、円柱状の円柱側面部分にワイヤ31を保持する溝と、を有する。ワイヤリール32は、ワイヤ31を円柱側面の溝に円状に巻付けて保持している。ワイヤ供給部30は、加工ヘッド40のワイヤノズル41へとワイヤ31を供給している。このため、ワイヤ31の中心軸には、ワイヤリール32に保持されているときの円形の歪みが発生しており、この円形の歪みが、ワイヤ供給部30からワイヤ31が送り出される段階でもワイヤ31の中心軸に残る。そこで、ワイヤ供給部30または加工ヘッド40には、ワイヤ31を矯正するワイヤ送りローラ35が使用される。ワイヤ送りローラ35は、複数のローラを有する。ワイヤ31がワイヤ送りローラ35を通過する際にローラとローラとの間でワイヤ31に圧力を付与することで、ワイヤ31の歪みが矯正される。ワイヤ送りローラ35から送出されるワイヤ31は、ワイヤケーブル36の内部を通り、ワイヤノズル41まで送られる。ワイヤケーブル36は、中空の筒状であり、可撓性を有し、かつワイヤ31の動きに倣って変形する樹脂によって構成される。しかし、ワイヤ送りローラ35で歪みを完全に除去することは難しく、矯正がなされたワイヤ31であっても、ワイヤノズル41から露出している箇所についてはX軸方向またはY軸方向のいずれかへの偏向が生じていることが多い。
【0030】
ワイヤ供給部30から供給されたワイヤ31はワイヤノズル41によって、加工面へ向けて送り出される。ワイヤ31は供給口41aからワイヤ31の供給方向であるZ軸方向に進み、送り出されたワイヤ31にレーザビームLが照射される。しかし、ワイヤノズル41の供給口41aから露出したワイヤ31の中心軸は、上記したようにワイヤリール32に保持されていたことによる円形の歪みによって、歪みがない場合の当初予定する供給地点よりもずれてしまう。この結果、ワイヤ31とレーザビームLの焦点との位置関係において設定されている設定値からのX軸方向またはY軸方向の変位が発生する。
【0031】
図4は、加工面上におけるワイヤの変位の一例を示す図である。図4では、XZ面内でのベースプレート12とワイヤノズル41との関係の一例を示している。図4に示されるように、ワイヤノズル41から供給されるワイヤ31は、ワイヤ31が溶融した溶融池64を介して加工面と接触している。また、ワイヤ31は、歪みを有しており、ワイヤ31の先端部は、X軸の負方向にわずかに曲がっている。つまり、ワイヤノズル41の供給口41a付近のワイヤ31の中心軸を理想の中心軸A0とすると、理想の中心軸A0の位置に比して、加工面付近のワイヤ31の先端部の中心の位置はX軸の負方向に変位している。この結果、ワイヤ31の先端部の中心を通るZ軸に平行な実際の中心軸A1は、理想の中心軸A0からずれている。図4では、Y軸方向から見た場合を示しているが、X軸方向から見た場合も同様である。このX軸方向またはY軸方向の変位量が、ワイヤ31が溶融するレーザビームLの照射範囲を超えると、ワイヤ31が十分に融解せず、造形不良が発生する。以下では、ワイヤ31が溶融する熱源であるレーザビームLの適正な照射範囲は、照射適正範囲と称される。
【0032】
そこで、実施の形態1では、ワイヤ31の歪みにより発生するX軸方向またはY軸方向の変位量が、レーザビームLの照射適正範囲を超えないようにする構成を保持している。つまり、図1に示されるように、実施の形態1による付加製造装置1は、変位計測器37と、アクチュエータ44と、XY軸制御部51と、をさらに備える。
【0033】
変位計測器37は、供給されるワイヤ31のX軸方向およびY軸方向の変位量を計測する。具体的には、変位計測器37は、ワイヤ送りローラ35の送出位置からワイヤ31の供給方向の下流側の予め定められた距離の位置において、XY面内でのワイヤ送りローラ35の送出位置からの変位を計測する。ワイヤ送りローラ35の送出位置は、一例ではワイヤ送りローラ35の供給方向の下流側に位置するローラの端部とすることができる。変位計測器37は、ある一定区間、例えばワイヤ送りローラ35の送出位置からワイヤ31の供給方向の下流側に取り付けられた変位計測器37までなどのように、不変または計測できる距離をもつ区間について、ワイヤ31のX軸方向またはY軸方向の変位量を計測する。変位計測器37の一例は、計測できる距離を持つ区間の終端において、例えばX軸方向およびY軸方向に設置された2つのレーザ変位計測器である。また、XY面が水平面である場合には、水平面内でのワイヤ31の変位を計測するため、ワイヤ31の送出方向が鉛直方向となるように、ワイヤ送りローラ35は配置される。変位計測器37は、計測結果をXY軸制御部51に出力する。
【0034】
アクチュエータ44は、XY軸制御部51からの指示にしたがって、加工ヘッド40におけるワイヤノズル41の位置をX軸方向およびY軸方向に移動させる移動機構である。つまり、ワイヤノズル41の位置はX軸方向およびY軸方向に可変である。一例として、ワイヤノズル41には、X軸方向にワイヤノズル41を移動させるアクチュエータ44と、Y軸方向にワイヤノズル41を移動させるアクチュエータ44と、が設けられる。アクチュエータ44は、XY軸制御部51からの指示に従って動作し、指示によって与えられた値のワイヤノズル41の移動を実現する。
【0035】
XY軸制御部51は、変位計測器37での計測結果に基づいてワイヤノズル41のXY面における位置を補正する制御を行う。XY軸制御部51は、第1制御部に対応する。図1では、XY軸制御部51は、制御部50とは別に表示されているが、制御部50のワイヤ供給部30のワイヤ供給制御を行う処理部の1つである。このため、XY軸制御部51は、制御部50内に設けられる構成であってもよい。
【0036】
XY軸制御部51は、変位計測器37の計測結果からワイヤ31の単位長さ当たりのX軸方向およびY軸方向の変位量である単位変位量を算出する。例えば最も簡単な構成であればワイヤ送りローラ35の送出位置から、計測できる距離をもつ区間の終端までの距離をαとし、原点をワイヤ送りローラ35の送出位置とし、計測できる距離をもつ区間の終端におけるX軸方向の変位量をβとし、Y軸方向の変位量をγとする。この場合には、ワイヤ31のX軸方向およびY軸方向の単位変位量は、それぞれβ/αおよびγ/αと計算できる。
【0037】
あるいは、計測できる距離をもつ区間を2箇所としてもよい。この場合には、2つの計測できる距離をもつ区間の終端までの距離をそれぞれα1,α2とし、原点をワイヤ送りローラ35の送出位置とし、2つの計測できる距離を持つ区間の終端におけるX軸方向の変位量をそれぞれβ1,β2とし、Y軸方向の変位量をそれぞれγ1,γ2として、関数を生成する。XY軸制御部51は、この関数を用いることによってより正確に単位長さにおけるX軸方向およびY軸方向の変位量を計算することができる。これにより、XY軸制御部51は、ワイヤノズル41から送出されたワイヤ31が持つ歪み量を取得することができる。
【0038】
変位計測器37を通過したワイヤ31は、ワイヤケーブル36の内部を通りワイヤノズル41まで供給される。このとき、ワイヤケーブル36は、ワイヤ31の動きに倣った動作をする。このため、ワイヤケーブル36は、ワイヤ31の歪み量に影響を与えない。このため、XY軸制御部51で計算されたワイヤ31のX軸方向およびY軸方向の単位変位量は、ワイヤ送りローラ35の送出位置から供給方向の下流側に供給されたワイヤ31についても維持されているとすることができる。
【0039】
また、XY軸制御部51は、ワイヤ31のX軸方向およびY軸方向の単位変位量を用いて、ワイヤノズル41の送出位置を原点としたワイヤ31の先端部におけるX軸方向およびY軸方向の変位量を算出し、ワイヤ31がレーザビームLの照射適正範囲に存在するかを判定する。以下では、X軸方向およびY軸方向の変位量は、XY面内の変位量と称される。XY軸制御部51は、ワイヤ31がレーザビームLの照射適正範囲に存在しない場合に、ワイヤ31の先端部がレーザビームLの照射適正範囲となるように、ワイヤノズル41を移動させる指示を生成し、アクチュエータ44を制御する。ここで、レーザビームLの照射適正範囲は、ワイヤ31の先端部にレーザビームLが照射され、ワイヤ31の先端部が溶融凝固して適切に加工面上に堆積物63を形成することができるレーザビームLの照射領域中の範囲である。加工ヘッド40におけるビームノズル42の位置は固定されているため、ワイヤノズル41のビームノズル42を基準とした位置と、ワイヤ31の先端部での変位量と、が分かれば、ワイヤ31の先端部がレーザビームLの照射適正範囲にあるか否かを判定することができる。
【0040】
例えば、算出したワイヤ31のX軸方向およびY軸方向の単位変位量に、ワイヤノズル41のワイヤ31の供給口41aから加工面までの距離を掛けることで、XY面内におけるワイヤ31の先端部の基準位置からの変位量が算出される。一例では、このワイヤ31の先端部の変位量をワイヤノズル41の補正値とすることができる。そして、XY軸制御部51は、ワイヤノズル41の補正値を指示としてワイヤノズル41のアクチュエータ44を制御する。
【0041】
アクチュエータ44は、指示が入力されると、指示に従って動作を行う。これによって、レーザビームLの照射適正範囲にワイヤ31の先端部が位置するように、ワイヤノズル41はXY面内で移動する。この一連の動作により、ワイヤ31の歪みにより発生するX軸方向またはY軸方向の変位量を補正することができ、ワイヤ31の先端部がレーザビームLの照射適正範囲を超えることなく適切な造形条件を維持することが可能となる。
【0042】
ここで、ワイヤノズル41を駆動するアクチュエータ44は、変位計測器37で取得した歪み量に対しX軸方向およびY軸方向にワイヤノズル41を移動させる構成を説明したが、ワイヤ31の先端部の補正方法はこれに限定されない。例えばワイヤノズル41をアクチュエータ44によってZ軸方向に移動させることももちろん可能である。ワイヤ31が持つ歪み量が大きい場合などは、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動させることで少ないスペースで歪み量を補正することが可能となる。
【0043】
また、図1では、変位計測器37が、ワイヤ送りローラ35のワイヤ31の供給方向の下流側に設置される構成を説明したが、変位計測器37の位置はワイヤ送りローラ35からワイヤノズル41に至る経路上であれば設置場所が制限されるものではない。また、変位計測器37からワイヤノズル41までの距離はできる限り短い方が望ましい。このため、加工ヘッド40内部の、アクチュエータ44の下部に変位計測器37を設けてもよい。この場合には、XY軸制御部51は、アクチュエータ44から変位計測器37までの距離におけるXY面内でのワイヤ31の歪み量からワイヤ31のXY面内の単位変位量を算出する。そして、XY軸制御部51は、この単位変位量を用いてワイヤノズル41から加工面側に供給されたワイヤ31の先端部の位置を算出し、この位置に基づいてワイヤノズル41の位置を補正する。この構成によれば、変位計測器37からワイヤノズル41までの距離が短くなり、ワイヤノズル41から供給されるワイヤ31のXY方向の変位量を算出する際の誤差を小さくすることができる。
【0044】
以上では、ワイヤ31の歪みによるワイヤ31の先端部のXY面内の変位量を補正する構成について説明した。付加製造装置1では、ワイヤ31の先端部のZ軸方向の位置を適切に制御することも求められる。図5図6および図7は、Z軸方向におけるワイヤの先端部、加工面および溶融池の位置関係の一例を模式的に示す図である。図5は、ワイヤの先端部が加工面と接触した状態の一例を模式的に示す図であり、図6は、ワイヤの先端部が溶融池を介して加工面と接触した状態の一例を模式的に示す図であり、図7は、ワイヤの先端部が加工面とも溶融池とも接触していない状態の一例を模式的に示す図である。溶融池64は、レーザビームLによってワイヤ31が溶融した状態にある部分である。また、これらの図では、Y軸方向から見た状態が示されている。
【0045】
図6に示されるように、ワイヤ31の先端部が、溶融池64内にありながらも加工面と接触していない状態が造形には最適である。しかし、ワイヤ31は加工面に向けて供給されながら、レーザビームLにより溶融されているため、先端部の位置は常に変化している。また、加工面のZ軸方向においては、ワイヤ31の供給速度が過大であると、図5に示されるように、ワイヤ31が三次元造形物61またはベースプレート12を突くことによって、ワイヤ31に曲げが発生し、この結果、造形不良が生じる。逆に、ワイヤ31の供給速度が過小であると、図7に示されるように、溶融したワイヤ31mが加工面に堆積されず、ワイヤ31の先端部に液滴状態として存在するようになる。この結果、不連続の造形となったり、あるいはワイヤノズル41の先端部に発生した液滴が固化し、ワイヤノズル41の詰まりが発生する原因となったりする。
【0046】
そこで、実施の形態1では、Z軸方向についての加工面とワイヤ31との位置関係の情報を取得し、取得結果に基づいてワイヤ供給部30におけるワイヤ31の供給状態を制御するための構成を保持している。位置関係は、図5に示されるように、三次元造形物61の加工面とワイヤ31とが直接に接触している状態、図6に示されるように、三次元造形物61の加工面とワイヤ31との間に溶融池64が介される状態、および図7に示されるように、ワイヤ31が三次元造形物61の加工面とも溶融池64とも乖離している状態のいずれかである。以下では、図5図6および図7に示される状態のそれぞれは、状態A、状態Bおよび状態Cと称される。これらの3つの状態A,B,Cは、三次元造形物61に振動を付加することで検知することができる。このため、図1に示されるように、実施の形態1による付加製造装置1は、振動子13と、振動センサ38と、Z軸制御部52と、をさらに備える。
【0047】
振動子13は、移動ステージ11に振動を付与する。この明細書では、振動は、揺動も含むものとする。振動子13は、一例では、移動ステージ11のベースプレート12が載置される面とは反対側の下面に、XY面内におけるベースプレート12の載置位置に対応して設けられる。振動子13は、制御部50またはZ軸制御部52からの指示に基づいて振動する。
【0048】
振動センサ38は、振動子13によって移動ステージ11に付与され、三次元造形物61、溶融池64およびワイヤ31を介して伝わってきた振動を検知する。振動センサ38は、縦波の強度、横波の強度および伝播速度を検知できるものであればよい。振動センサ38は、ワイヤノズル41またはワイヤ供給部30に設けられる。図1の例では、振動センサ38は、ワイヤ供給部30を構成するワイヤ送りローラ35に取り付けられる場合を示している。振動センサ38は、振動の検知結果をZ軸制御部52に出力する。振動の検知結果は、縦波の強度、横波の強度並びに縦波および横波の伝播速度を含む。振動センサ38を設けることで、加工面とワイヤ31の先端部との位置関係を取得するために振動子13によって付与された振動を検知することができる。
【0049】
Z軸制御部52は、振動子13で発生させた振動の検知結果を振動センサ38から取得し、検知結果に基づいて、Z軸方向におけるワイヤ31の先端部と加工面との間の位置関係を推定し、推定結果に基づいてワイヤ供給部30でのワイヤ31の供給速度およびワイヤ31の先端部の位置であるワイヤ31の供給状態を制御する。なお、図1では、Z軸制御部52は、制御部50とは別に表示されているが、制御部50のワイヤ供給部30のワイヤ供給制御を行う処理部の1つである。このため、Z軸制御部52は、制御部50内に設けられる構成であってもよい。Z軸制御部52は、第2制御部に対応する。
【0050】
ここで、Z軸制御部52における処理の詳細を説明する。図5から図7に示されるように、移動ステージ11、ベースプレート12および三次元造形物61は固体であり、溶融池64は液体であり、ワイヤ31は固体である。固体は、振動子13からの縦波および横波をともに伝播することができる。液体は、縦波を伝播することができるが、横波を伝播することができない。また、ワイヤ31が三次元造形物61の加工面とも溶融池64とも乖離している場合には、縦波および横波は振動センサ38まで伝播することができない。
【0051】
実施の形態1では、これらの特徴を利用することで、加工面とワイヤ31との間の位置関係が状態A,B,Cのいずれであるかを推定する。まず、図5に示されるように、ワイヤ31の先端部が三次元造形物61の加工面と接触している状態Aである場合には、移動ステージ11に設置された振動子13の振動は、縦波および横波として、三次元造形物61を介してワイヤ31に伝播する。このため、ワイヤ送りローラ35に設置された振動センサ38では、縦波および横波がともに検知される。つまり、Z軸制御部52は、振動センサ38で縦波および横波がともに検知された場合には、図5に示される状態Aであると推定し、図6に示される適正状態である状態B、すなわちワイヤ31の先端部が加工面と接触していない状態となるようにワイヤ供給部30を制御する。この場合には、ワイヤ31の供給速度が、ワイヤ31が溶融する速度よりも大きい状態であるので、ワイヤ31の先端部が三次元造形物61と接触してしまっている。このため、Z軸制御部52は、ワイヤ31の溶融速度がワイヤ31の供給速度と等しくなるようにするために、ワイヤ供給部30から供給されるワイヤ31の速度を低下させる制御を行う。あるいは、アクチュエータ44がワイヤノズル41をZ軸方向に移動させることが可能な場合には、Z軸制御部52は、アクチュエータ44によってZ軸方向にワイヤ31の先端を上昇させる制御を行ってもよい。また、この場合には、Z軸制御部52は、アクチュエータ44によってワイヤ31の先端を上昇させながら、ワイヤ31の供給速度を低下させるように、両方の制御を行ってもよい。
【0052】
次に、図6に示されるように、三次元造形物61の加工面とワイヤ31とが溶融池64を介して接触している状態Bである場合には、縦波は、溶融池64を伝播することができるが、横波は、溶融池64を伝播することができない。このため、振動センサ38では、縦波のみが検知され、横波は検知されない。この状態であれば、三次元造形物61、ワイヤ31および溶融池64の位置関係は適切である。また、縦波の伝播速度は液体と固体とでは10倍ほど異なるため、振動子13に付加する振動を、パルス波または異なる波形などの時間履歴を検知することができる波形とすることによって、伝播時間からワイヤ31の先端部と三次元造形物61の加工面との間の距離を推定することもできる。Z軸制御部52は、推定したワイヤ31の先端部と加工面との間の距離を用いて、造形処理を行う上で望ましい距離となるようにワイヤ31の供給速度を制御することができる。
【0053】
次に、図7に示されるように、ワイヤ31が三次元造形物61の加工面とも溶融池64とも乖離している状態Cである場合には、振動センサ38は縦波も横波も検知しない。この場合には、Z軸制御部52は、造形処理を停止してもよいし、あるいは、ワイヤ31の先端部が加工面へと向かうようにワイヤ31の供給速度を増加させるようにしてもよい。
【0054】
このように、Z軸制御部52は、付加製造装置1内の振動子13による振動の振動センサ38での検知結果を用いた評価によって、三次元造形物61、ワイヤ31および溶融池64の位置関係を推定し、推定した位置関係に基づいてワイヤ31の供給速度またはワイヤ31の先端部の位置を制御することを可能とする。なお、上記した説明では、振動子13を移動ステージ11に設置し、振動センサ38をワイヤ送りローラ35に設置する構成を示したが、これは一例である。例えば、振動子13を三次元造形物61が配置される側に設置し、振動センサ38をワイヤ供給部30からワイヤノズル41までの任意の箇所に設置することも可能である。一例では、振動子13を三次元造形物61に設置し、振動センサ38をワイヤノズル41の直下に設置してもよい。また、三次元造形物61とワイヤ31との間で伝わる振動を検知することができればよいため、上記とは逆に、振動子13をワイヤ供給部30からワイヤノズル41までの任意の箇所に設置し、振動センサ38を三次元造形物61が配置される側に設置してもよい。つまり、振動子13は、移動ステージ11および付加材料であるワイヤ31のうちの一方に振動を与えることが可能な位置に設けられ、振動センサ38は、移動ステージ11およびワイヤ31のうちの振動子13によって振動が与えられていない他方で振動を検知することが可能な位置に設けられればよい。
【0055】
図8は、実施の形態1による付加製造装置のワイヤ供給制御処理の概要の一例を模式的に示すブロック図である。図8に示されるように、ワイヤ供給部30には、ワイヤ31のX軸方向およびY軸方向の歪みを検知する変位計測器37が設けられる。XY軸制御部51は、変位計測器37での計測結果にしたがって、XY面内におけるワイヤノズル41でのワイヤ31の送出位置を基準としたワイヤ31の先端部の変位量を算出する。また、XY軸制御部51は、ワイヤ31の先端部がレーザビームLの照射適正範囲に収まるように、算出した変位量に基づいてワイヤノズル41の位置を補正する指示をアクチュエータ44に出力する。そして、アクチュエータ44は、ワイヤノズル41のXY方向の位置を補正する。
【0056】
一方、造形処理中では、振動子13によってベースプレート12に振動が与えられる。この振動は、ベースプレート12から三次元造形物61を介してワイヤ31に伝達する。ワイヤ供給部30からワイヤノズル41までの間に設けられた振動センサ38によって、縦波の強度、横波の強度および伝播速度が検知される。Z軸制御部52は、振動センサ38での検知結果に基づいて、ワイヤ31の先端部と加工面との間の位置関係を推定する。Z軸制御部52は、推定結果に基づいて、ワイヤ31の供給速度またはワイヤ31の先端部のZ軸方向の変位量を決定し、ワイヤ供給部30の動作を制御する指示をワイヤ供給部30に出力する。そして、ワイヤ供給部30は、指示に従って、ワイヤ31の供給速度またはワイヤ31の先端部の位置を変更する。
【0057】
つぎに、図1に示される付加製造装置1における三次元造形物61の製造方法について説明する。図9は、実施の形態1による三次元造形物の製造方法の手順の一例を示すフローチャートである。まず、制御部50は、ベースプレート12上の三次元造形物61を造形する位置と対向する位置に加工ヘッド40を移動させる(ステップS11)。ついで、制御部50は、ワイヤノズル41からワイヤ31をベースプレート12上の加工面に向けて供給させる(ステップS12)。このとき、XY軸制御部51は、ワイヤノズル41のXY面内の位置補正処理を行う(ステップS13)。その後、制御部50は、レーザ発振器21からレーザビームLを加工面に照射させる(ステップS14)。このとき、ワイヤノズル41のXY面内の位置補正処理によって、ワイヤ31の先端部は、レーザビームLの照射適正範囲に収まっている。また、ワイヤ31の先端部にレーザビームLが照射されることによって、ワイヤ31の先端部が溶融し、加工面上には溶融池64が形成される。
【0058】
ついで、Z軸制御部52は、ワイヤ31の先端部と加工面との間の位置関係を取得し、必要な場合にワイヤ供給部30のワイヤ供給制御処理を行う(ステップS15)。ワイヤ供給部30のワイヤ31の供給状態の制御処理の一例は、ワイヤ31の供給速度またはワイヤ31の先端部のZ軸方向の位置の補正である。その後、制御部50は、造形処理が終了したかを判定する(ステップS16)。造形処理が終了していないと判定した場合(ステップS16でNoの場合)には、ステップS11に処理が戻る。また、造形処理が終了したと判定した場合(ステップS16でYesの場合)には、ベースプレート12上に三次元造形物61が完成した状態となり、造形処理が終了する。
【0059】
ここで、図9のステップS13のワイヤノズル41のXY面内の位置補正処理について説明する。図10は、ワイヤノズルのXY面内の位置補正処理の手順の一例を示すフローチャートである。まず、変位計測器37は、ワイヤ送りローラ35の送出位置から送出されたワイヤ31のX軸方向およびY軸方向の歪みを計測する(ステップS31)。XY軸制御部51は、変位計測器37によって計測されたX軸方向およびY軸方向の歪みを用いて、ワイヤ31のX軸方向およびY軸方向の単位変位量を算出する(ステップS32)。ついで、XY軸制御部51は、算出したX軸方向およびY軸方向の単位変位量と、ワイヤノズル41の送出位置と加工面との距離と、からXY面内におけるワイヤノズル41の送出位置を基準としたワイヤ31の先端部の変位量を算出する(ステップS33)。XY軸制御部51は、算出したワイヤ31の先端部の変位量に基づいて、ワイヤノズル41の位置を補正する補正指令をアクチュエータ44に出力する(ステップS34)。アクチュエータ44は、補正指令に基づいてワイヤノズル41の位置を補正し(ステップS35)、処理が図9へと戻る。
【0060】
つぎに、図9のステップS15のワイヤ供給部30のワイヤ供給制御処理について説明する。図11は、ワイヤ供給部のワイヤ供給制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。まず、Z軸制御部52は、振動子13に振動を発生させる(ステップS51)。振動センサ38は、振動子13で発生させた振動の結果を検知し、検知結果をZ軸制御部52に出力する。
【0061】
Z軸制御部52は、振動センサ38によって振動が検知されたかを判定する(ステップS52)。振動センサ38によって振動が検知された場合(ステップS52でYesの場合)には、Z軸制御部52は、検知した波の種類を判定する(ステップS53)。縦波および横波の両方を検知した場合(ステップS53で縦波および横波の場合)には、Z軸制御部52は、ワイヤ31の先端部が加工面と接触していると推定する(ステップS54)。そして、Z軸制御部52は、ワイヤ31の供給速度を低下させるように、またはZ軸方向にワイヤ31の先端部を上昇させるように、ワイヤ供給部30に指示を出力する(ステップS55)。ワイヤ供給部30は、指示に従って、ワイヤ31の供給速度を低下させる、またはZ軸方向にワイヤ31の先端部を上昇させる(ステップS56)。その後、処理が図9へと戻る。
【0062】
ステップS53で、縦波のみを検知した場合(ステップS53で縦波のみの場合)には、Z軸制御部52は、ワイヤ31の先端部は、溶融池64を介して加工面と接触していると推定する(ステップS57)。つまり、ワイヤ31の先端部と溶融池64との位置関係は適切であり、ワイヤ31の供給速度およびワイヤ31の先端部の位置も適切である。Z軸制御部52は、振動センサ38によって検知された伝播速度から加工面とワイヤ31の先端部との間の距離を算出する(ステップS58)。また、Z軸制御部52は、算出した加工面とワイヤ31の先端部との間の距離に基づいてワイヤ31の供給速度を制御する(ステップS59)。そして、処理が図9へと戻る。
【0063】
状態Bにある場合には、適切な状態で造形処理が実行されているが、状態Bでも、ワイヤ31の先端部が加工面に近い場合、あるいはワイヤ31の先端部が溶融池64の上端に近い場合には、状態Aまたは状態Cに移行してしまう可能性がある。このため、このような場合には、Z軸制御部52は、ワイヤ31の先端部が溶融池64の中心部付近に位置するようにワイヤ31の供給速度またはワイヤ31の先端部の位置を制御する。
【0064】
ステップS52で振動センサ38によって振動が検知されなかった場合(ステップS52でNoの場合)には、Z軸制御部52は、ワイヤ31の先端部が加工面とも溶融池64とも乖離していると推定する(ステップS60)。その後、Z軸制御部52は、ワイヤ31の先端部が溶融池64と接触するように、ワイヤ31の供給速度またはワイヤ31の先端部の位置を制御し(ステップS61)、処理が図9へと戻る。なお、ステップS61で、ワイヤ31の先端部が溶融した後に凝固して塊状となってしまっている可能性がある。このため、制御部50は、造形処理を終了するようにしてもよい。
【0065】
実施の形態1の付加製造装置1は、ベースプレート12と、ワイヤ供給部30からワイヤノズル41までの部材と、の一方に振動子13を備え、他方に振動センサ38を備える。また、付加製造装置1は、振動子13によって発生した振動の振動センサ38での検知結果に基づいて、Z軸方向におけるワイヤ31の先端部と加工面との間の位置関係を推定するZ軸制御部52を備える。具体的には、Z軸制御部52は、ワイヤ31の先端部が、加工面と接触している状態A、溶融池64を介して加工面と接触している状態Bおよび加工面とも溶融池64とも乖離している状態Cのいずれかであることを推定する。これによって、ワイヤ31の先端部と加工面との間の位置関係を把握するための撮像装置を必要とせずに、ワイヤ31の先端部と加工面との間の位置関係を推定することができる。また、円筒内側面のような造形処理で撮像部と加工面との間に三次元造形物61の一部などの干渉物がある場合には、撮像部でワイヤ31の先端部の状態を観察することができないので、制御が不能となる。しかし、実施の形態1の付加製造装置1では、撮像部を用いることがないので、このような状況でもワイヤ31の先端部と加工面との間の位置関係を把握することができ、造形処理の制御を続行することができる。一例では、円筒内側面の造形処理中でも、ワイヤ31の先端部の位置を制御することができる。また、Z軸方向においては、ワイヤ31の供給速度が過大であることによるワイヤ31による加工面への突きまたはワイヤ31の曲げの発生、あるいはワイヤ31の供給速度が過小であることによるワイヤ31の先端部に液滴状態の不良発生またはワイヤノズル41の詰まりの発生を抑制することができる。さらに、液体金属の状態である溶融池64内におけるワイヤ31の状態も評価することができる。
【0066】
また、付加製造装置1は、ワイヤ送りローラ35の送出位置の下流側にワイヤ31のXY面内での変位を計測する変位計測器37と、ワイヤノズル41をXY面内で移動させるアクチュエータ44と、変位計測器37での計測結果に基づいてワイヤ31の先端部のXY面内の変位量を算出し、算出した変位量に基づいてワイヤノズル41の位置を補正するようにアクチュエータ44に指示するXY軸制御部51と、を備える。これによって、ワイヤ31の中心軸に生じた歪みによってワイヤ31の先端部に変位が生じたとしても、ワイヤ31の先端部がレーザビームLの照射適正範囲に収まるようにワイヤノズル41の位置を補正することができる。つまり、ワイヤ31の歪みにより発生するXY面内の変位量が、レーザビームLの照射適正範囲を超えないようにすることができる。以上のように、実施の形態1によれば、ワイヤ31を用いたDED方式の付加製造装置1において、エネルギ照射点に侵入するワイヤ31の先端のXY面内の変位量並びにZ軸方向の位置を従来に比して精確に測定し、制御することができる。
【0067】
実施の形態2.
付加製造による造形では、堆積物63を形成する工程を繰り返して予め定められた厚さになるまで積層することによって、三次元造形物61が形成される。しかし、これらの工程の繰り返しによって新たに形成される堆積物63では、既に形成された下層の堆積物63と一体化される際に、外部空気またはシールドガスGなどのガス層を間に含んだまま凝固することに起因する、ボイドなどの造形不良が発生することがある。そこで、実施の形態2では、振動を溶融池64に付与することで、堆積物63間に発生したガス層の脱離を促し、ボイドを低減させることができる付加製造装置1について説明する。
【0068】
まず、三次元造形物61の製造方法でガス層が形成される概要について説明する。図12および図13は、三次元造形物の製造方法でガス層が形成される様子の一例を模式的に示す断面図である。図12は、X軸に垂直な断面図であり、図13は、Y軸に垂直な断面図である。図12および図13では、実施の形態1で説明したように、ベースプレート12上にX方向に延在する1層目の堆積物63が形成された後、1層目の堆積物63上に2層目の堆積物63が形成される場合を示している。上記したように、新たに形成される堆積物63と既に形成された下層の堆積物63とが一体化される際に、ボイドなどの造形不良が発生することがある。図12および図13に示されるように、堆積物63間に発生するガス層65は、堆積物63が重なり合う線上に発生することが実験によって判明している。すなわち、既に形成された堆積物63と接触するように新たな堆積物63を形成する場合に、新たな堆積物63の輪郭が既に形成された堆積物63の輪郭と交わる部分である線の上に、ガス層65が発生する。また、図13に示されるように、ガス層65は線上に発生した後、溶融方向に向けて上昇するような挙動をみせることも判明している。これは、ガス層65が脱離する前に溶融池64の金属成分が凝固することでボイドが発生するためであると考えられる。つまり、ガス層65が堆積物63の外部に逃げる前に溶融した金属成分が凝固してしまうために、ボイドが発生するものと考えられる。
【0069】
そこで、実施の形態2の付加製造装置1は、造形処理中にも溶融池64に揺動を与えることで、溶融池64に運動量を付加し、内部のガス層65に振動を与えてより大きな空気として結合を促進させる構成を有する。実施の形態2でも、振動には、揺動が含まれる。ガス層65は振動を付加しない場合と比較して上部への浮力を早く得る。この結果、ガス層65の堆積物63からの脱離が促される。実施の形態2の付加製造装置1の構成は、実施の形態1と同様である。ただし、実施の形態1では、制御部50は、ワイヤ31の先端部と加工面との間のZ軸方向の位置関係を検出する場合に振動子13に振動を与えていたが、実施の形態2では、造形処理中にも振動子13に振動を与える。
【0070】
また、ガス層65同士の結合を促進するためには溶融池64に効果的に振動を与えることが望ましい。溶融池64は、液体であり横波を伝播しないことから、例えば溶融池64のZ軸方向における最短位置に振動子13が位置することが望ましい。
【0071】
図14および図15は、実施の形態2による付加製造装置の移動ステージ付近の構成の一例を模式的に示す図である。図14は、X軸に垂直な断面図であり、図15は、Y軸に垂直な断面図である。図14および図15に示されるように、実施の形態2の付加製造装置1では、移動ステージ11の下面のサイズよりも小さいサイズであり、XY面内で移動可能な振動子13aが設けられる。実施の形態1では、移動ステージ11の下面のベースプレート12の載置位置に対応する位置に振動子13が設けられる場合を示したが、実施の形態2では、移動ステージ11の下面にXY面内で移動可能な振動子13aが設けられる。一例では、付加製造装置1は、移動ステージ11の下面で振動子13aをXY面内で移動可能とする図示しないアジャスタをさらに備える。アジャスタは、制御部50またはZ軸制御部52からの指示によってXY面内で振動子13aを移動させる。
【0072】
図14および図15に示されるように、溶融池64の下方に振動子13aが移動され、造形処理中に振動が加えられる。すなわち、XY面内における振動子13aの位置は、加工ヘッド40の位置と対応するように、振動子13aの位置が制御される。これによって、溶融池64から振動子13aまでの距離が短くなり、効果的に縦波の振動を溶融池64に付与することが可能となる。この結果、ガス層65が溶融池64中を移動するとともに溶融方向に向けて上昇し、溶融池64が凝固する前に、ガス層65の堆積物63の外部への脱離を促進させることが可能となる。その他の構成については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0073】
なお、上記した説明では、移動ステージ11の下部に、XY面内で移動可能なアジャスタを設け、アジャスタに振動子13aを取り付ける場合を示したが、溶融池64に振動を与える方法は、これに限定されるものではない。
【0074】
一例では、レーザ発振器21に、レーザビームLをパルス状に発生させる機能を付加してもよい。これによって、パルス状のレーザビームLが溶融池64に照射されるたびに、溶融池64に振動が発生することになる。この結果、堆積物63間に発生したガス層65の脱離が促進され、堆積物63の堆積によって形成される三次元造形物61におけるボイドを低減させることができる。また、パルス状のレーザビームLを照射することで、溶融池64のピーク温度を低減させ、溶接部の冷却速度を向上させることもできる。
【0075】
また、他の例では、ワイヤ供給部30が、ワイヤ31を揺動させるワイヤ揺動部を備えていてもよい。ワイヤ揺動部によるワイヤ31の揺動方法として、ワイヤ31の進行方向に垂直な方向もしくは平行な方向への揺動、ワイヤ31の進行方向に垂直な方向での円運動、またはこれらを組み合わせたものを挙げることができる。これによって、堆積物63間に発生したガス層65に運動量を与え、ガス層65の脱離を促進することができる。この場合には、ガス層65に運動量を与えるためのワイヤ31の揺動と、振動センサ38によって検知される振動と、は、例えばタイミングをずらす等の方法によって分離して検知できるようにされている。ワイヤ揺動部は、付加材料揺動部に対応する。
【0076】
さらに、ワイヤ31をアーク放電によって溶融するアーク溶接の場合には、溶融池64に流れるアーク電流および磁場の向きによる磁気撹拌による揺動によって、溶融池64に振動を与えてもよい。つまり、この場合の付加製造装置1は、溶融池64に電流および磁場を印加して磁気撹拌を生じさせる磁気撹拌部をさらに備える。一例では、アーク溶接棒に励磁コイルを設けることで、溶融池64に磁場を印加することができる。
【0077】
実施の形態2では、造形処理中の溶融池64に縦波の振動を与えるようにした。これによって、堆積物63間に発生するガス層65に運動量が与えられ、溶融池64が凝固する前にガス層65の溶融池64の外部への脱離を促進することができる。この結果、堆積物63の堆積によって形成される三次元造形物61内におけるボイドの量を実施の形態1の場合に比して減少させることができるという効果を有する。
【0078】
実施の形態3.
実施の形態1では、三次元造形物61とワイヤ31との間の位置関係の取得にワイヤ31に付加した振動を、縦波の強度、横波の強度および伝播速度を検知できる振動センサ38によって検知する場合を述べた。実施の形態3では、電流によって三次元造形物61とワイヤ31との間の位置関係を取得する場合を説明する。
【0079】
図16は、実施の形態3による付加製造装置の構成の一例を模式的に示す図である。以下では、実施の形態1と異なる点について説明し、実施の形態1と同様の構成については、説明を省略する。実施の形態3による付加製造装置1aは、実施の形態1の付加製造装置1から振動子13および振動センサ38が除去され、電流供給部71と、電流センサ14と、電圧センサ72と、を備える。
【0080】
電流供給部71は、一例では、Z軸制御部52からの指示によってワイヤ31に電流を供給する。電流供給部71は、ワイヤ供給部30からワイヤノズル41までの間でワイヤ31と接触するように設けられる。電流センサ14は、移動ステージ11に設けられる。電流センサ14は、電流の検知の有無をZ軸制御部52に出力する。電圧センサ72は、ワイヤリール32に設けられるモータ33の負荷である電圧を計測する。電圧センサ72は、計測した電圧をZ軸制御部52に出力する。ワイヤ31に供給する電流は、電流センサ14で検知することができる程度のものであればよい。
【0081】
図17は、実施の形態3による付加製造装置のワイヤ供給制御処理の概要の一例を模式的に示すブロック図である。以下では、実施の形態1の図8と異なる点について説明し、図8と同様の構成については、説明を省略する。図17に示されるように、実施の形態3では、Z軸制御部52は、電流センサ14での計測結果に基づいて、Z軸方向のワイヤ31の位置を制御する。例えばワイヤ31に通電し、溶融池64または三次元造形物61に接触させる。この場合、溶融池64および三次元造形物61は金属であり、またベースプレート12および移動ステージ11も金属である場合には、電流センサ14で電流を検知することで、Z軸制御部52は、図5の状態Aまたは図6の状態Bであることを検知できる。図5の状態Aと図6の状態Bとのいずれかであるかの検知については、例えばワイヤ31が三次元造形物61に接触した場合にはワイヤ供給部30のモータ33の負荷が上昇する。このため、実施の形態3では、Z軸制御部52は、電圧センサ72からの計測結果を用いて、モータ33の負荷が上昇しているか否かを判定する。Z軸制御部52は、モータ33の負荷が上昇している場合には、図5の状態Aであると推定し、モータ33の負荷が上昇していない場合には、図6の状態Bであると推定することができる。また、ワイヤ31に電流を供給したにもかかわらず、電流センサ14が電流を計測しない場合には、ワイヤ31が溶融池64および三次元造形物61と接触していない図7の状態Cであると推定する。なお、ワイヤ31の先端部と加工面との位置関係を推定した後のワイヤ供給部30の制御については、実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0082】
また、図17において、電圧センサ72を設けず、実施の形態1の場合のように、移動ステージ11と、ワイヤ供給部30からワイヤノズル41までの間と、の一方に振動子13を設け、他方に振動センサ38を設ける構成としてもよい。これによって、図5および図6のいずれかの状態であるかの推定には、実施の形態1のように、振動子13からの振動を振動センサ38で検知した結果を用いることができる。
【0083】
あるいは、実施の形態2で説明したように、ガス層65を除去するために移動ステージ11の下部に移動可能な振動子13aを設け、ワイヤ供給部30からワイヤノズル41までの間に振動センサ38を設けてもよい。
【0084】
実施の形態3では、付加製造装置1は、ワイヤ31に電流を供給する電流供給部71と、移動ステージ11に設けられる電流センサ14と、を備える。これによって、ワイヤ31に供給した電流が移動ステージ11で検知されたか否かによって、ワイヤ31の先端部と加工面との間のZ軸方向の位置関係を推定することができる。また、付加製造装置1は、ワイヤ31を供給するワイヤリール32に設けられるモータ33に負荷を検知する電圧センサ72をさらに備える。これによって、モータ33の負荷が上昇した場合には、ワイヤ31の先端部と加工面とが接触している状態であり、モータ33の負荷が上昇していない場合には、ワイヤ31の先端部と加工面とが溶融池64を介して接触している状態であると推定することができる。これによっても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0085】
実施の形態1から3の制御部50、XY軸制御部51およびZ軸制御部52は、処理回路として実現される。処理回路は専用のハードウェアであってもよいし、プロセッサを備える回路であってもよい。図18は、実施の形態1から3による付加製造装置に備えられる制御部、XY軸制御部およびZ軸制御部のハードウェア構成の一例を模式的に示すブロック図である。制御部50、XY軸制御部51およびZ軸制御部52は、プロセッサ501と、メモリ502と、を有する。プロセッサ501とメモリ502とは、バスライン503を介して接続される。制御部50、XY軸制御部51およびZ軸制御部52は、メモリ502に記憶されたプログラムをプロセッサ501が実行することによって実現される。また、複数のプロセッサ501および複数のメモリ502が連携して上記機能を実現してもよい。さらに、制御部50、XY軸制御部51およびZ軸制御部52の機能のうちの一部を専用のハードウェアである電子回路として実装し、他の部分をプロセッサ501およびメモリ502を用いて実現するようにしてもよい。XY軸制御部51は、ワイヤノズル41に設けられるアクチュエータ44を電気信号によって制御し、Z軸制御部52は、ワイヤ供給部30を電気信号によって制御する。
【0086】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0087】
1,1a 付加製造装置、11 移動ステージ、12 ベースプレート、13,13a 振動子、14 電流センサ、21 レーザ発振器、22 ガス供給部、23 チラー、24 ファイバケーブル、30 ワイヤ供給部、31 ワイヤ、32 ワイヤリール、33 モータ、34 ワイヤホルダ、35 ワイヤ送りローラ、36 ワイヤケーブル、37 変位計測器、38 振動センサ、40 加工ヘッド、41 ワイヤノズル、41a 供給口、42 ビームノズル、43 ガスノズル、44 アクチュエータ、50 制御部、51 XY軸制御部、52 Z軸制御部、61 三次元造形物、62 加工領域、63 堆積物、64 溶融池、65 ガス層、71 電流供給部、72 電圧センサ、G シールドガス、L レーザビーム。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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