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特許7555253多孔質樹脂シートの製造方法、流路含有シートおよびロール体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】多孔質樹脂シートの製造方法、流路含有シートおよびロール体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20240913BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20240913BHJP
   B29K 105/04 20060101ALN20240913BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CEZ
C08J9/26 CER
B29C67/20 Z
B29K105:04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020203638
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2021098844
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019228988
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】三島 慧
(72)【発明者】
【氏名】松富 亮人
(72)【発明者】
【氏名】澤岻 佳菜代
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-100120(JP,A)
【文献】特開2012-031399(JP,A)
【文献】特開2019-123851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 67/20
B29C 44/12
C08J 9/26
B29K 105/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂および多孔化剤を含有する多孔化剤含有樹脂シートを形成する第1工程、
流路を内部に有する流路含有シートを前記多孔化剤含有樹脂シートの厚み方向一方面に接触させて、前記多孔化剤含有樹脂シートおよび前記流路含有シートを厚み方向に順に備える積層体を巻回したロール体を作製する第2工程、
前記ロール体の前記流路含有シートに超臨界流体を流通させ、前記超臨界流体により前記多孔化剤を抽出して、多孔質樹脂シートを作製する第3工程を備え、
JIS R 1655(2003年)に準拠した水銀圧入法によって求められる前記流路含有シートにおける前記流路の体積割合が、50%以上であり、
JIS K 7125(1999年)に準拠した静摩擦係数試験方法によって求められる前記流路含有シートの静摩擦係数が、0.6以下であることを特徴とする、多孔質樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記水銀圧入法によって求められる、前記流路の大きさの中央値が、30μm以上、250μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記水銀圧入法によって求められる、前記流路含有シートの質量に対する前記流路の体積の割合が、1mL/g以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の多孔質樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記流路含有シートは、繊維および/またはメッシュからなることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の多孔質樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の多孔質樹脂シートの製造方法に用いられることを特徴とする、流路含有シート。
【請求項6】
多孔質樹脂シートと、空隙を内部に有する空隙含有シートとが、互いに接触するように、径方向外側に向かって交互に配置され、
JIS R 1655(2003年)に準拠した水銀圧入法によって求められる前記空隙含有シートにおける前記空隙の体積割合が、50%以上であり、
JIS K 7125(1999年)に準拠した静摩擦係数試験方法によって求められる前記空隙含有シートの静摩擦係数が、0.6以下であることを特徴とする、ロール体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質樹脂シートの製造方法、流路含有シートおよびロール体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質樹脂シートは、種々の工業用途に用いられることが知られている。
【0003】
そのような多孔質樹脂シートを工業的に製造する方法として、長尺状の銅箔に、多孔化剤および樹脂前駆体を含む溶液を塗布し、乾燥して、膜を得た後、膜をロール状に巻き取って、巻回体を作成する。この巻回体では、膜は、樹脂前駆体の連続相に多孔化剤からなる非連続相が分散したミクロ相構造を有する。その後、巻回体における膜から、超臨界二酸化炭素によって多孔化剤を抽出することによって、多孔質構造の多孔質樹脂シートを形成する(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2018/186486号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の記載の方法は、巻回体における膜の径方向外面および内面が、銅箔に接触しているため、かかる膜の両面に超臨界二酸化炭素が十分に接触できない。そのため、多孔化剤を膜から十分に抽出できない。そうすると、多孔質樹脂シートは、多量に残存する多孔化剤に起因して、変色するという不具合がある。
【0006】
また、巻回体の内側部分の多孔質樹脂シートにおける多孔化剤の抽出効率と、巻回体の外側部分の多孔質樹脂シートにおける多孔化剤の抽出効率とが、大きく異なり易い。そのため、巻回体の内側部分の多孔質樹脂シートにおける電気的特性と、巻回体の内側部分の多孔質樹脂シートにおける電気的特性とが、大きく異なるという不具合がある。つまり、巻回体の径方向において多孔質樹脂シートの電気的特性が不均一になるという不具合がある。
【0007】
本発明は、変色が抑制され、巻回体の径方向における電気的特性の不均一が抑制された多孔質樹脂シートの製造方法、それに用いられる流路含有シート、および、多孔質樹脂シートを備えるロール体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(1)は、樹脂および多孔化剤を含有する多孔化剤含有樹脂シートを形成する第1工程、流路を内部に有する流路含有シートを前記多孔化剤含有樹脂シートの厚み方向一方面に接触させて、前記多孔化剤含有樹脂シートおよび前記流路含有シートを厚み方向に順に備える積層体を巻回したロール体を作製する第2工程、前記ロール体の前記流路含有シートに超臨界流体を流通させ、前記超臨界流体により前記多孔化剤を抽出して、多孔質樹脂シートを作製する第3工程を備え、JIS R 1655(2003年)に準拠した水銀圧入法によって求められる前記流路含有シートにおける前記流路の体積割合が、50%以上である、多孔質樹脂シートの製造方法を含む。
【0009】
この製造方法によれば、流路の体積割合が50%以上である流路含有シートに超臨界流体を円滑に流通させることができ、超臨界流体により多孔化剤を効率よく抽出できる。そのため、多孔化剤が多孔質樹脂シートに残存することに起因する変色が抑制された多孔質樹脂シートを製造することができる。
【0010】
また、この製造方法によれば、流路の体積割合が50%以上である流路含有シートに超臨界流体を円滑に流通させることができるので、第3工程において、ロール体の内側部分の多孔質樹脂シートにおける多孔化剤の抽出効率と、ロール体の外側部分の多孔質樹脂シートにおける多孔化剤の抽出効率とを近づけることができる。そのため、ロール体の内側部分の多孔質樹脂シートにおける電気的特性と、ロール体の内側部分の多孔質樹脂シートにおける電気的特性とを近づけることができる。つまり、ロール体の径方向において多孔質樹脂シートの電気的特性が不均一になることを抑制できる。
【0011】
本発明(2)は、前記水銀圧入法によって求められる、前記流路の大きさの中央値が、30μm以上、250μm以下である、(1)に記載の多孔質樹脂シートの製造方法を含む。
【0012】
この製造方法では、流路の大きさの中央値が250μm以下であるので、第3工程において超臨界流体が均一に流路含有シートの厚み方向一方面に接触でき、そのため、均質な多孔質樹脂シートを製造できる。また、流路の大きさの中央値が30μm以上であるので、第3工程において多孔化剤を効率よく抽出できる。
【0013】
本発明(3)は、前記水銀圧入法によって求められる、前記流路含有シートの質量に対する前記流路の体積の割合が、1mL/g以上である、(1)または(2)に記載の多孔質樹脂シートの製造方法を含む。
【0014】
この製造方法では、流路含有シートの質量に対する流路の体積の割合が上記した1mL/g以上であるので、所望の流路含有シートにおける流路の体積割合、具体的には、50%以上に確実に調整することができる。
【0015】
本発明(4)は、JIS K 7125(1999年)に準拠した静摩擦係数試験方法によって求められる前記流路含有シートの静摩擦係数が、0.6以下である、(1)~(3)のいずれか一項に記載の多孔質樹脂シートの製造方法を含む。
【0016】
この製造方法では、流路含有シートの静摩擦係数が0.6以下であるので、第3工程において、流路含有シートに超臨界流体が流通して、流路含有シートが膨潤しても、流路含有シートから多孔化剤含有樹脂シートにかかる応力を低減できる。そのため、上記した応力の増大に伴うロール体における皺の発生を抑制できる。
【0017】
本発明(5)は、前記流路含有シートは、繊維および/またはメッシュからなる、(1)~(4)のいずれか一項に記載の多孔質樹脂シートの製造方法を含む。
【0018】
この製造方法によれば、流路含有シートが繊維および/またはメッシュから形成されるので、流路含有シートが、流路を確実に形成できる。そのため、流路含有シート内に超臨界流体を確実に流通させることができる。
【0019】
本発明(6)は、(1)~(5)のいずれか一項に記載の多孔質樹脂シートの製造方法に用いられる、流路含有シートを含む。
【0020】
流路の体積割合が50%以上である流路含有シートに超臨界流体を流通させれば、超臨界流体により多孔化剤を効率よく抽出できる。そのため、多孔化剤が多孔質樹脂シートに残存することに起因する変色が抑制された多孔質樹脂シートを製造することができる。また、第3工程において、ロール体の内側部分の多孔質樹脂シートにおける多孔化剤の抽出効率と、ロール体の外側部分の多孔質樹脂シートにおける多孔化剤の抽出効率とをより一層近づけることができる。そのため、ロール体の径方向において多孔質樹脂シートの電気的特性が不均一になることをより一層抑制できる。
【0021】
本発明(7)は、多孔質樹脂シートと、空隙を内部に有する空隙含有シートとが、互いに接触するように、径方向外側に向かって交互に配置され、JIS R 1655(2003年)に準拠した水銀圧入法によって求められる前記空隙含有シートにおける前記空隙の体積割合が、50%以上である、ロール体を含む。
【0022】
このロール体では、空隙の体積割合が50%以上である空隙含有シートを備えるので、超臨界流体により多孔化剤を効率よく抽出されている。そのため、多孔化剤が多孔質樹脂シートに残存することに起因する多孔質樹脂シートの変色が抑制されている。また、このロール体では、ロール体の径方向において多孔質樹脂シートの電気的特性が不均一になることを抑制できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の多孔質樹脂シートの製造方法および流路含有シートは、変色が抑制され、ロール体の径方向における電気的特性の不均一が抑制された多孔質樹脂シートを製造することができる。
【0024】
本発明のロール体では、多孔質樹脂シートの変色が抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1A図1Cは、本発明の多孔質樹脂シートの製造方法の一実施形態の製造工程図であり、図1Aが、多孔化剤含有樹脂シートを形成する第1工程、図1Bが、ロール体を形成する第2工程、図1Cが、多孔化剤を抽出して、多孔質樹脂シートおよびそれを備える多孔質ロール体を製造する第3工程を示す。
図2図2は、第3工程における超臨界流体装置およびロール体の分解斜視図である。
図3図3は、第3工程における超臨界流体装置およびロール体の断面図である。
図4図4A図4Cは、図1A図1Cで示す製造方法で得られる多孔質樹脂シートおよびその用途例の断面図であり、図4Aが、多孔質積層体、図4Bが、多孔質積層体から流路含有シートを除く工程、図4Cが、基材シートをパターンニングする工程である。
図5図5A図5Bは、図1B図1Cに示す一実施形態の変形例(多孔化剤含有積層体が基材シートを備えない態様)であり、図5Aが、多孔化剤含有積層体を巻回してロール体を作製する工程、図5Bが、多孔質樹脂シートを含む多孔質ロール体の断面図である。
図6図6A図6Bは、図1B図1Cに示す一実施形態の変形例(多孔化剤含有積層体が第2流路含有シートを備えない態様)であり、図6Aが、多孔化剤含有積層体を巻回してロール体を作製する工程、図6Bが、多孔質樹脂シートを含む多孔質ロール体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の多孔質樹脂シートの製造方法の一実施形態を図1図4Cを参照して説明する。
【0027】
多孔質樹脂シート1の製造方法は、基材シート2の厚み方向一方面に多孔化剤含有樹脂シート3を形成する第1工程(図1A参照)と、流路含有シート4を多孔化剤含有樹脂シート3の厚み方向一方面に接触させて、ロール体5を作製する第2工程(図1B参照)と、ロール体5の流路含有シート4に超臨界流体を流通させ、超臨界流体により多孔化剤6を抽出して、多孔質樹脂シート1を作製する第3工程(図1C参照)とを備える。この製造方法では、第1工程~第3工程が順に実施される。
【0028】
基材シート2は、所定厚みを有し、長尺の平帯形状を有する。基材シート2の材料としては、例えば、金属、樹脂などが挙げられる。金属としては、例えば、銅、鉄、銀、金、アルミニウム、ニッケル、それらの合金(ステンレス、青銅)などが挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルなどのポリマーが挙げられる。これら材料は、単独または併用される。これら材料のうち、基材シート2をパターンニングして、配線29(図4C参照)を形成する観点から、好ましくは、金属が挙げられ、より好ましくは、銅が挙げられる。基材シート2の材料が金属であれば、これを精度よくパターンニングして、配線29として機能させることができる。基材シート2の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、1μm以上であり、また、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下である。
【0029】
多孔化剤含有樹脂シート3の材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0030】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性フッ化ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、フッ素樹脂(含フッ素オレフィンの重合体(具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など))、液晶ポリマー(LCP)などが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、マレイミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性フッ化ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、セルロース樹脂、液晶ポリマー、アイオノマーなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0032】
上記した樹脂のうち、機械強度の観点から、好ましくは、熱硬化性樹脂が挙げられ、より好ましくは、ポリイミド樹脂が挙げられる。なお、上記した好適な樹脂の物性および製造方法等の詳細は、例えば、特開2018-021171号公報、特開2018-021172号公報などに記載されている。
【0033】
多孔化剤含有樹脂シート3を基材シート2に形成するには、まず、上記した樹脂の前駆体と、多孔化剤(図1Aにおける符号6)と、核剤(PTFEなど)と、溶媒(NMPなど)とを含むワニスを調製する。ワニスにおける多孔化剤6、核剤および溶媒の、種類および配合割合などは、例えば、特開2018-021171号公報、特開2018-021172号公報などに記載されている。とりわけ、多孔化剤としては、好ましくは、ポリオキシエチレンジメチルエーテルが挙げられ、その割合は、前駆体100質量部に対して、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、50質量部以上、さらに好ましくは、100質量部以上であり、また、例えば、500質量部以下、より好ましくは、400質量部以下、さらに好ましくは、300質量部以下である。
【0034】
次いで、ワニスを基材シート2の厚み方向一方面に塗布して、塗膜を形成する。その後、塗膜を、加熱により乾燥させる。加熱によって、ワニスにおける溶媒の一部が多孔化剤含有樹脂シート3から除かれるとともに、核剤を核とした、多孔化剤6と前駆体7との相分離構造が形成される。
【0035】
これによって、少なくとも多孔化剤6を内部に有する多孔化剤含有樹脂シート3を、基材シート2の厚み方向一方面に形成する。
【0036】
多孔化剤含有樹脂シート3は、所定厚みを有し、基材シート2と同一の平面視形状を有する。
【0037】
多孔化剤含有樹脂シート3は、ロール体5(図1B参照)に含まれる場合、つまり、ロール体5に巻回される場合にも、その形状(具体的には、厚みと、厚み方向一方面および他方面の平坦と)を保持できる硬さを有する。具体的には、多孔化剤含有樹脂シート3の25℃における引張弾性率は、熱硬化性樹脂を含有する場合には、Bステージの多孔化剤含有樹脂シート3の引張弾性率であって、例えば、0.1GPa以上、好ましくは、1GPa以上である。また、多孔化剤含有樹脂シート3の25℃における引張弾性率は、例えば、10GPa以下、好ましくは、5GPa以下である。
【0038】
多孔化剤含有樹脂シート3の厚みT1は、例えば、1μm以上、好ましくは、2μm以上、より好ましくは、5μm以上であり、また、例えば、1,000μm以下、好ましくは、500μm以下、より好ましくは、300μm以下である。多孔化剤含有樹脂シート3の厚みT1が上記した下限以上であれば、多孔化剤含有積層体9の機械強度を向上できる。多孔化剤含有樹脂シート3の厚みT1が上記した上限以下であれば、多孔化剤含有樹脂シート3から多孔化剤6を効率よく抽出できる。
【0039】
第2工程では、流路含有シート4を多孔化剤含有樹脂シート3の厚み方向一方面に接触させる。
【0040】
図1Aに示すように、流路含有シート4は、所定厚みを有し、長尺の平帯形状を有する。
【0041】
具体的には、流路含有シート4は、例えば、繊維および/またはメッシュから形成される。繊維は、融着されていない又は織り込まれていない網目状シートである。対して、メッシュは、融着されている又は織り込まれている網目状シートである。これによって、流路含有シート4には、繊維および/またはメッシュによって仕切られる空隙(隙間)を有する。流路含有シート4は、空隙含有シート14でもある。そして、この空隙は、流路含有シート4を流通する超臨界流体の流路を形成する。
【0042】
なお、流路含有シート4における繊維の有無、および、織り込まれの有無は、光学顕微鏡観察により確認される。
【0043】
好ましくは、流路含有シート4は、繊維から形成される。繊維は、メッシュに比べて、流路の長尺方向における連続性に優れていることから、有利である。繊維の長さの平均は、例えば、100nm以上、例えば、10μm以下であり、また、繊維の太さの平均は、例えば、3nm以上、例えば、50nm以下である。
【0044】
流路含有シート4の材料は、超臨界流体に実質的に不溶であれば特に限定されず、例えば、有機材料、無機材料、それらのハイブリッド材料などが挙げられる。有機材料としては、セルロース、ポリエステル(PET、PBTなど)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイドなどが挙げられる。無機材料としては、銅、鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属が挙げられる。流路含有シート4の材料として、好ましくは、有機材料、より好ましくは、流路含有シート4に対する超臨界二酸化炭素の溶解量を低減させる点から、セルロースが挙げられる。
【0045】
空隙の形状は、特に限定されないが、少なくとも長尺方向および厚み方向に連続する形状を有する。
【0046】
JIS R 1655(2003年)に準拠した水銀圧入法によって求められる流路含有シートにおける流路の体積割合は、百分率で、50%以上であり、好ましくは、60%以上、より好ましくは、70%以上、さらに好ましくは、75%以上、とりわけ好ましくは、80%以上である。また、流路の体積割合は、例えば、95%以下、好ましくは、90%以下である。流路の体積割合は、空隙の体積割合と同義である。
【0047】
流路の体積割合が、50%未満であれば、次に説明する第3工程で、多孔化剤6を効率よく抽出できず、そのため、多孔化剤6が多孔質樹脂シート1に多量に残存することに起因する変色を抑制できず、また、多孔質ロール体15の径方向において多孔質樹脂シート1の電気的特性が不均一になる。換言すれば、流路の体積割合が、上記した下限以上であれば、第3工程で、多孔化剤6を効率よく抽出でき、そのため、多孔化剤6が多孔質樹脂シート1に残存することに起因する変色を抑制できる。さらに、多孔質ロール体15の径方向において多孔質樹脂シート1の電気的特性を均一にできる。
【0048】
また、流路の体積割合が上記した上限以下であれば、ロール体5における流路含有シート4の流路を確実に確保できる。
【0049】
なお、流路の体積割合の求め方は、実施例で詳述する。
【0050】
また、JIS R 1655(2003年)に準拠した水銀圧入法によって求められる流路の大きさの中央値は、例えば、10μm以上、好ましくは、30μm以上、より好ましくは、40μm以上であり、また、例えば、250μm以下、好ましくは、150μm以下、より好ましくは、100μm以下である。
【0051】
流路の大きさの中央値が上記した上限以下であれば、第3工程において超臨界流体が均一に流路含有シート4の厚み方向一方面に接触でき、そのため、均質な多孔質樹脂シート1を製造できる。
【0052】
流路の大きさの中央値が上記した下限以上であれば、第3工程において多孔化剤6を効率よく抽出できる。
【0053】
なお、流路の大きさの中央値は、流路が気孔である場合には、流路含有シート4における「気孔径」として求められる。なお、流路の大きさの中央値(メジアン径)は、実施例で詳述する。
【0054】
JIS R 1655(2003年)に準拠した水銀圧入法によって求められる流路含有シート4の質量(g)に対する流路の体積(mL)の割合(mL/g)は、例えば、0.75mL/g以上、好ましくは、1mL/g以上、より好ましくは、2mL/g以上、さらに好ましくは、3mL/g以上、とりわけ好ましくは、4mL/g以上であり、また、例えば、10mL/g以下、好ましくは、9mL/g以下、より好ましくは、8mL/g以下、さらに好ましくは、7mL/g以下、とりわけ好ましくは、6mL/g以下である。
【0055】
流路含有シート4の質量に対する流路の体積の割合(mL/g)が上記した下限以上であれば、所望の流路含有シートにおける流路の体積割合(50%以上)に調整することができる。そのため、流路含有シートに超臨界流体を円滑に流通させ、超臨界流体により多孔化剤を効率よく抽出できる。その結果、多孔化剤が多孔質樹脂シートに残存することに起因する変色が抑制された多孔質樹脂シートを製造することができる。
【0056】
なお、流路含有シート4の質量に対する流路の体積の割合の求め方は、実施例で詳述する。
【0057】
JIS K 7125(1999年)に準拠した静摩擦係数試験方法によって求められる流路含有シート4の静摩擦係数は、例えば、0.80以下、好ましくは、0.70以下、より好ましくは、0.60以下であり、また、例えば、0.20以上、好ましくは、0.30以上である。
【0058】
流路含有シート4の静摩擦係数が上記した上限以下であれば、第3工程において、ロール体5において流路含有シート4に超臨界流体が流通して、流路含有シート4が膨潤しても、流路含有シート4から多孔化剤含有樹脂シート3にかかる応力を低減できる。そのため、上記した応力の増大に伴うロール体5における皺の発生を抑制できる。
【0059】
一方、流路含有シート4の静摩擦係数が上記した下限以上であれば、多孔化剤含有積層体9を巻回するときの滑りが過度になり、ロール体5において流路含有シート4と多孔化剤含有樹脂シート3との間で巻きずれが発生する場合がある。
【0060】
流路含有シート4の静摩擦係数の詳細な測定方法は、後の実施例で説明する。
【0061】
流路含有シート4の厚みT2は、例えば、10μm以上、好ましくは、20μm以上、より好ましくは、100μm以上であり、また、例えば、800μm以下、好ましくは、400μm以下、より好ましくは、200μm以下である。
【0062】
流路含有シート4の厚みT2が上記した下限以上であれば、流路含有シート4に十分な量の超臨界流体を円滑に流通させることができる。
【0063】
流路含有シート4の厚みT2が上記した上限以下であれば、ロール体5の単位厚み当たりの流路含有シート4の厚みを低減できる。そのため、ロール体5の単位厚み当たりの多孔質樹脂シート1の厚みを増大できる。従って、ロール体5の生産効率を向上できる。
【0064】
多孔化剤含有樹脂シート3の厚みT1に対する流路含有シート4の厚みT2の比(T2/T1)は、例えば、0.3以上、好ましくは、0.5以上、より好ましくは、1超過であり、また、例えば、20以下、好ましくは、10以下、より好ましくは、5以下である。流路含有シート4の厚みT2の比(T2/T1)が上記した範囲にあれば、生産性よくロール体5を製造しながら、多孔化剤含有樹脂シート3から多孔化剤6を効率的に抽出できる。
【0065】
流路含有シート4は、市販品を用いることができ、例えば、繊維からなる流路含有シート4として、ベンリーゼシリーズ(旭化成社製)、例えば、メッシュからなる流路含有シート4として、メッシュ#2500シリーズ(KBセーレン製)を用いることができる。
【0066】
図1Aの矢印および図1Bの左側図で示すように、多孔化剤含有樹脂シート3を基材シート2の厚み方向一方面に形成するには、多孔化剤含有樹脂シート3を基材シート2の厚み方向一方面に配置する。具体的には、多孔化剤含有樹脂シート3の厚み方向他方面と、基材シート2の厚み方向一方面とを接触させる。
【0067】
これによって、基材シート2と、多孔化剤含有樹脂シート3と、流路含有シート4とを厚み方向一方側に向かって順に備える、シート状の多孔化剤含有積層体(多孔化剤含有積層体シート)9を得る。
【0068】
続いて、多孔化剤含有積層体9を巻回させる。具体的には、多孔化剤含有積層体9の長尺方向一端部を芯8の表面に固定し、続いて、多孔化剤含有積層体9の長尺方向中間部および他端部を芯8に巻き付ける。芯8は、巻き芯であって、略円筒または略円柱形状を有する。
【0069】
例えば、基材シート2の長尺方向一端部が芯8の表面に接触するように、多孔化剤含有積層体9を芯8に巻き付ける。
【0070】
これによって、芯8の径方向外側には、基材シート2と多孔化剤含有樹脂シート3と流路含有シート4とが繰り返し配列された層構成が形成される。
【0071】
これによって、芯8と、その径方向外側に向かって繰り返し配列された基材シート2と多孔化剤含有樹脂シート3と流路含有シート4とを有するロール体5が作製される。
【0072】
図2に示すように、ロール体5の外径R1は、芯8の外径R2に、基材シート2と多孔化剤含有樹脂シート3と流路含有シート4との厚みの合計R3の2倍値を加えた値(R2+2×R3)である。また、ロール体5の外径R1は、第3工程における槽本体22の内径IDと実質的に同一である。
【0073】
図2および図3に示すように、第3工程では、超臨界流体抽出装置20にロール体5をセットし、その後、ロール体5に超臨界流体を流通させる。
【0074】
超臨界流体として、例えば、超臨界二酸化炭素、超臨界窒素などが挙げられ、好ましくは、超臨界二酸化炭素が挙げられる。
【0075】
超臨界流体抽出装置20は、例えば、抽出槽21と、抽出槽21に接続される循環装置(図示せず)および貯留槽(図示せず)とを備える。
【0076】
抽出槽21は、例えば、軸線が鉛直線に沿って延び、上側に向かって開放される有底略円筒形の槽本体22と、槽本体22の開口端(上端)を閉塞する蓋23とを備える。槽本体22は、円板形状の底壁25と、底壁25の周端縁から上側に向かって延びる周側壁24とを一体的に有する。周側壁24は、円筒形状を有する。周側壁24の内径IDは、上記したロール体5の外径R1と同一である。底壁25および蓋23のそれぞれには、超臨界流体の入口26および出口27が設けられている。また、底壁25および蓋23のそれぞれには、芯8の軸方向両端部のそれぞれを固定する固定部28が形成されている。
【0077】
図示しない循環装置は、ポンプおよび配管を含む。ポンプは、ガス(二酸化炭素など)を圧縮して、超臨界流体(超臨界二酸化炭素など)を生成する。配管は、上記した入口26および出口27に接続されており、超臨界流体の循環路を形成する。
【0078】
図示しない貯留槽は、配管の途中に接続されている。貯留槽の容量は、抽出槽21の容量より多い。抽出槽21の内容量100容量部に対する貯留槽の容量は、例えば、500容量部以上、さらには、1000容量部以上であり、また、例えば、100,000容量部以下である。
【0079】
ロール体5を超臨界流体抽出装置20にセットするには、ロール体5の芯8の一端部を、底壁25の固定部28に固定する。この際、ロール体5の外周面と、周側壁24の内周面とは、接触する。また、ロール体5における基材シート2と多孔化剤含有樹脂シート3と流路含有シート4との幅方向一方側(芯8の軸方向一方側)の面は、底壁25の底面および入口26と間隔が隔てられる。
【0080】
その後、蓋23で周側壁24を閉塞する。この際、蓋23の固定部28に、芯8の他端部を固定させる。また、この際、ロール体5における基材シート2と多孔化剤含有樹脂シート3と流路含有シート4との幅方向他方側(芯8の軸方向他方側)の面は、底壁25の底面および出口27と間隔が隔てられる。
【0081】
なお、超臨界流体抽出装置20は、市販の各種超臨界抽出装置(例えば、三菱化工社製、アイテック社製、東洋高圧社製、神鋼エアーテック社製)を用いることができる。
【0082】
そして、超臨界流体抽出装置20を駆動する。具体的には、ポンプの駆動によって超臨界流体が生成され、超臨界流体が、入口26から抽出槽21に流入し、続いて、流路含有シート4内を流通する。流路含有シート4において、超臨界流体は、芯8の軸方向に沿って、上側に向かって進みながら、多孔化剤含有樹脂シート3に接触し、多孔化剤含有樹脂シート3内の多孔化剤6を抽出する。多孔化剤6を抽出した超臨界流体、つまり、多孔化剤6を含む超臨界流体は、出口27から配管を介して貯留槽(図示せず)に貯留される。多孔化剤6を含む超臨界流体の一部は、貯留槽において減圧されて、ガスに戻り、残部は、再び、循環路を循環して、抽出槽21に送られる。
【0083】
なお、ロール体5において、流路含有シート4は、内部を超臨界流体が流通することによって、膨潤することが許容され、これによって、流路含有シート4が多孔化剤含有樹脂シート3に応力をかけることも許容される。しかし、流路含有シート4の静摩擦係数が上記した上限以下であるので、上記した応力が低減される。
【0084】
これによって、多孔化剤含有樹脂シート3の多孔化剤6は、流路含有シート4を介して、超臨界流体によって抽出される。つまり、多孔化剤含有樹脂シート3から多孔化剤6が取り除かれる。
【0085】
多孔化剤6の抽出率は、多孔化剤含有樹脂シート3に含まれる多孔化剤6の質量(M1)に対する、上記した多孔化剤6の質量(M1)から多孔質樹脂シート1に残存する多孔化剤6の質量(M2)を差し引いた値(M1-M2)の割合([M1-M2]/M1)であって、例えば、35%以上、好ましくは、45%以上、より好ましくは、50%以上であり、また、例えば、90%以下である。
【0086】
多孔化剤6(具体的には、多孔化剤6を含む抽出対象物)の抽出率は、樹脂がポリイミド樹脂であり、溶媒がNMPである場合を例示して、以下の通りに求められる。
【0087】
抽出前の多孔化剤含有樹脂シート3、および、抽出後の多孔質樹脂シート1のそれぞれ約3mgを取り、測定用アルミパンに入れ、熱重量-示差熱測定装置にセットする。熱重量-示差熱測定装置では、23℃から450℃まで昇温し、抽出前の多孔化剤含有樹脂シート3および抽出後の多孔質樹脂シート1に含まれる抽出対象物(NMP、多孔化剤、水)の質量割合とポリイミド樹脂の質量割合とを以下のとおり算出する。
・抽出対象物の質量割合
=[試料の昇温前質量(g)-試料の昇温後質量(g)]/試料の昇温前質量(g)
・ポリイミド樹脂の質量割合
=1-抽出対象物の質量割合
その上で、抽出率は以下のとおり計算する。
【0088】
(記号の定義)
抽出前の多孔化剤含有樹脂シート3試料の質量:A(g)
抽出前の多孔化剤含有樹脂シート3試料中の抽出対象物の質量割合:R
抽出前の多孔化剤含有樹脂シート3試料中のポリイミドの質量割合:P
抽出後の多孔質樹脂シート1試料の質量:B(g)
抽出後の多孔質樹脂シート1試料中の抽出対象物の質量割合:RB
抽出後の多孔質樹脂シート1試料中のポリイミドの質量割合:P
【0089】
ここで、抽出後の多孔質樹脂シート1中には、残った抽出対象物が均一に分布していることから、抽出後の多孔質樹脂シート1試料の質量Bの値に関わらず、RBおよびPの値は一定である。
これを前提として、抽出前の多孔化剤含有樹脂シート3試料中のポリイミドの質量と抽出後の多孔質樹脂シート1試料中のポリイミドの質量が同じ、つまりは、
B=(P/P)A が成り立つ場合において、抽出率を算出する。
【0090】
抽出率(%)=(抽出された抽出対象物の質量(g)/抽出前の多孔化剤含有樹脂シート3試料中の抽出対象物の質量(g))×100
={[A-(P/P)A]/(RA)}×100
=[(P―P)/(R)]×100
【0091】
また、ロール体5において芯8の表面から径方向外側に1mm進んだ箇所(ロール体5の内側部分)16から多孔質樹脂シート1を採取して、それを内側部分16の試料とすることができる。試料を、ロール体5においてロール体5の表面(外表面)から径方向内側に1mm進んだ箇所(ロール体5の外側部分)17から多孔質樹脂シート1を採取して、それを外側部分17の試料とすることができる。ロール体5において、外側部分17は、内側部分16よりも、径方向外側に間隔を隔てて配置される。上記した内側部分16の試料、および、外側部分17の試料のそれぞれの抽出率を上記に倣って求めることができる。
【0092】
外側部分17における多孔化剤の抽出効率に対する、内側部分16における多孔化剤の抽出効率の比は、例えば、0.3以上、好ましくは、0.5以上、より好ましくは、0.8以上、さらに好ましくは、0.90以上、とりわけ好ましくは、0.95以上であり、また、例えば、2以下、好ましくは、1.5以下、より好ましくは、1.00以下である。上記した比が上記した下限以上、上限以下であれば、多孔質ロール体15の径方向において多孔質樹脂シート1の電気的特性が不均一になることを抑制できる。
【0093】
なお、必要により、多孔化剤含有樹脂シート3を加熱し、前駆体がポリイミド前駆体であれば、イミド化を促進させる。これによって、孔化剤含有樹脂シート3がCステージとなる。加熱温度は、例えば、200℃以上、好ましくは、300℃以上であり、また、例えば、500℃以下、好ましくは、400℃以下である。
【0094】
図1Cに示すように、これにより、ロール体5は、多孔質積層体19(図4A参照)を備える多孔質ロール体15となる。多孔質ロール体15は、径方向外側に向かって繰り返し配置される基材シート2と、多孔質樹脂シート1と、流路含有シート4とを備える。
【0095】
多孔質樹脂シート1における空孔率は、例えば、60%以上、より好ましくは、70%以上、さらに好ましくは、80%以上、とりわけ好ましくは、85%以上である。なお、多孔質樹脂シート1の空孔率は、例えば、100%未満、さらには、99%以下である。
空孔率は、例えば、多孔質樹脂シート1の断面SEM写真の画像解析により求められる。
あるいは、空孔率は、下記式(1)に基づく計算により求められる。
【0096】
空孔率(%)=(1-多孔化剤含有樹脂シート3の比重/多孔化剤含有樹脂シート3の比重)×100 (1)
【0097】
多孔質樹脂シート1の周波数10GHzにおける誘電率は、例えば、2.5以下、好ましくは、2.0以下であり、また、例えば、1.0超過である。多孔質樹脂シート1の誘電率は、周波数の10GHzを用いる共振器法により、実測される。
【0098】
上記した内側部分16の多孔質樹脂シート1、および、外側部分17の多孔質樹脂シート1のそれぞれの誘電率を上記に倣って求めることができる。内側部分16における誘電率、および、外側部分17における誘電率のそれぞれは、上記した範囲内にある。外側部分17における誘電率に対する、内側部分16における誘電率の比は、例えば、0.95超過、好ましくは、0.97以上、より好ましくは、0.98以上、さらに好ましくは、0.99以上であり、また、例えば、1.5以下、好ましくは、1.2以下、より好ましくは、1.1以下である。上記した比が上記した下限以上、上限以下であれば、多孔質ロール体15の径方向において多孔質樹脂シート1の誘電率が不均一になることを抑制できる。
【0099】
多孔質樹脂シート1の周波数10GHzにおける誘電正接は、例えば、0.01以下、好ましくは、0.005以下であり、また、例えば、0超過である。多孔質樹脂シート1の誘電正接は、周波数の10GHzを用いる共振器法により、実測される。
【0100】
上記した内側部分16の多孔質樹脂シート1、および、外側部分17の多孔質樹脂シート1のそれぞれの誘電正接を上記に倣って求めることができる。内側部分16における誘電正接、および、外側部分17における誘電正接のそれぞれは、上記した範囲内にある。外側部分17における誘電正接に対する、内側部分16における誘電正接の比は、例えば、0.80超過、好ましくは、0.85以上、より好ましくは、0.90以上であり、また、例えば、1.5以下、好ましくは、1.2以下、より好ましくは、1.1以下である。上記した比が上記した下限以上、上限以下であれば、多孔質ロール体15の径方向において多孔質樹脂シート1の誘電正接が不均一になることを抑制できる。
【0101】
多孔質樹脂シート1の厚みT5は、多孔化剤含有樹脂シート3の厚みと実質的に同一である。
【0102】
このような多孔質樹脂シート1は、好ましくは、第五世代(5G)の規格や高速FPCに適合でき低誘電基板材として用いられる。
【0103】
例えば、図1Cに示すロール体5から、図4Aに示すシート形状の多孔質積層体19を繰り出す。図4Bに示すように、その後、多孔質積層体19から流路含有シート4を取り除く。具体的には、流路含有シート4を、多孔質樹脂シート1の厚み方向一方面から剥離する。
【0104】
その後、図4Cに示すように、基材シート2の材料が金属である場合には、基材シート2を、第五世代(5G)の規格に対応するアンテナや高速FPCの基板の配線29としてパターンニングする。具体的には、基材シート2をエッチング(ウエットエッチング)する。
【0105】
<一実施形態の作用効果>
そして、この製造方法によれば、第3工程において、流路の体積割合が50%以上である流路含有シート4に超臨界流体を円滑に流通させることができ、超臨界流体により多孔化剤6を効率よく抽出できる。そのため、多孔化剤6が多孔質樹脂シート1に残存することに起因する変色が抑制された多孔質樹脂シート1を製造することができる。
【0106】
また、この製造方法によれば、流路の体積割合が50%以上である流路含有シート4に超臨界流体を円滑に流通させることができるので、第3工程において、ロール体5の内側部分16の多孔化剤含有樹脂シート3における多孔化剤の抽出効率と、ロール体5の外側部分の多孔化剤含有樹脂シート3における多孔化剤の抽出効率とを近づけることができる。そのため、多孔質ロール体15の内側部分の多孔質樹脂シート1における電気的特性と、多孔質ロール体15の内側部分の多孔質樹脂シート1における電気的特性とを近づけることができる。つまり、多孔質ロール体15の径方向において多孔質樹脂シート1の電気的特性が不均一になることを抑制できる。
【0107】
また、流路の大きさの中央値が250μm以下であれば、第3工程において超臨界流体が均一に流路含有シート4の厚み方向一方面に接触でき、そのため、均質な多孔質樹脂シート1を製造できる。流路の大きさの中央値が30μm以上であれば、第3工程において多孔化剤6を効率よく抽出できる。
【0108】
また、流路含有シート4の質量に対する流路の体積の割合が上記した下限以上であれば、所望の流路含有シート4における流路の体積割合、具体的には、50%以上に確実に調整することができる。
【0109】
流路含有シート4の静摩擦係数が0.6以下であれば、第3工程において、流路含有シート4に超臨界流体が流通して、流路含有シート4が膨潤しても、流路含有シート4から多孔化剤含有樹脂シート3にかかる応力を低減できる。そのため、上記した応力の増大に伴うロール体5における皺の発生を抑制できる。
【0110】
また、流路含有シート4が繊維および/またはメッシュから形成されれば、流路含有シート4が、流路を確実に形成できる。そのため、流路含有シート4内に超臨界流体を確実に流通させることができる。
【0111】
多孔質ロール体15は、空隙の体積割合が、50%以上の空隙含有シート14を備えるため、空隙含有シート14に超臨界流体が流通されて、超臨界流体により多孔化剤6を効率よく抽出されている。そのため、多孔化剤6が多孔質樹脂シート1に残存することに起因する変色が抑制された多孔質樹脂シート1を製造することができる。また、この多孔質ロール体15では、多孔質ロール体15の径方向において多孔質樹脂シートの誘電率および誘電正接が不均一になることを抑制できる。
【0112】
<変形例>
次に、一実施形態の変形例を説明する。以下の各変形例において、上記した一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、一実施形態および各変形例を適宜組み合わせることができる。さらに、各変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0113】
図5Aに示すように、多孔化剤含有積層体9およびロール体5のそれぞれは、基材シート2を備えず、多孔化剤含有樹脂シート3および流路含有シート4(空隙含有シート14)のみを備える。図5Bに示すように、多孔質ロール体15は、基材シート2を備えず、多孔質樹脂シート1および流路含有シート4(空隙含有シート14)のみを備える。図5A図5Bでは、図示しないが、多孔質積層体19は、基材シート2を備えず、多孔質樹脂シート1および流路含有シート4(空隙含有シート14)のみを備える。
【0114】
図6Aに示すように、多孔化剤含有積層体9およびロール体5のそれぞれは、基材シート2に代えて、第2の流路含有シート44を備える。つまり、多孔化剤含有積層体9およびロール体5のそれぞれは、第2の流路含有シート44と、多孔化剤含有樹脂シート3と、流路含有シート4(空隙含有シート14)とを厚み方向一方側に向かって順に備える。
【0115】
図6Bに示すように、多孔質ロール体15は、第2流路含有シート44と、多孔質樹脂シート1と、流路含有シート4(空隙含有シート14)とを備える。図6A図6Bで図示しないが、多孔質積層体19は、第2流路含有シート44と、多孔質樹脂シート1と、流路含有シート4(空隙含有シート14)とを備える。第2流路含有シート44の流路の割合は、特に限定されず、好ましくは、50%以上である。
【0116】
一実施形態では、図3に示すように、第3工程において、超臨界流体が、抽出槽21において、下側から上側に向かって流通する。一方、変形例では、図示しないが、第3工程において、超臨界流体が、抽出槽21において、上側から下側に向かって流通する。
【0117】
変形では、図示しないが、抽出槽21は、その軸線が、水平方向に沿う。超臨界流体は、水平方向に沿って、抽出槽21内を流通する。
【実施例
【0118】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0119】
実施例1
攪拌機および温度計を備えた3000mLのフラスコに、p-フェニレンジアミン(PDA)130gおよびジアミノフェニルエーテル(DPE)60gを入れ、溶媒としてもN-メチル-2-ピロリドン(NMP)2960gを加えて攪拌し、溶解させた。次いで、この溶液にビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)441gを徐々に添加し、室温にて3時間攪拌し、80℃に昇温した後、20時間攪拌し、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0120】
ポリイミド前駆体溶液に、ポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し、多孔化剤としての、重量平均分子量が400のポリオキシエチレンジメチルエーテル(日油社製 グレード:MM400)200重量部、および、核剤としての粒径1μm以下のPTFE粉末3重量部を添加し、攪拌して透明な均一なワニスを調製した。ワニスを厚み12.5μmの銅箔からなる基材シート2の厚み方向一方面に塗布し、120℃で7分間熱風乾燥させて、厚みT1が60μmの相分離構造を有する多孔化剤含有樹脂シート3を作製した(図1A参照)。上記した乾燥では、NMPの一部が多孔化剤含有樹脂シート3から除かれた。
【0121】
その後、流路含有シート4として、繊維からなるベンリーゼSH25G(厚みT2が160μm)(旭化成社製)を準備した。流路含有シート4を多孔化剤含有樹脂シート3の厚み方向一方面に接触させて、基材シート2と、多孔化剤含有樹脂シート3と、流路含有シート4とを厚み方向一方側に向かって順に備える多孔化剤含有積層体9を調製した。
【0122】
図1Bおよび図2に示すように、多孔化剤含有積層体9を、ステンレス製で外径R2が280mmの芯8に巻回して、外径R1が1700mmのロール体5を作製した。
【0123】
次いで、図2および図3に示すように、神鋼エアーテック社製の超臨界流体抽出装置20を準備した。超臨界流体抽出装置20における槽本体22の内径IDは、1700mmである。
【0124】
ロール体5を超臨界流体抽出装置20の槽本体22内に収容し、芯8の両端部を底壁25および蓋23とで固定しながら、蓋23を槽本体22に取り付けた。
【0125】
そして、60℃、30MPaの超臨界二酸化炭素を、抽出槽21に60kg/時間で流通させた。超臨界二酸化炭素は、流路含有シート4を、芯8の軸方向に沿って流通し、多孔化剤含有樹脂シート3の多孔化剤6を抽出した。併せて、残存するNMPが超臨界流体に抽出された。これによって、図1Cに示すように、Bステージの多孔質樹脂シート1を備える多孔質ロール体15が得られた。
【0126】
その後、多孔質ロール体15を超臨界流体抽出装置20から取り出した。
【0127】
その後、多孔質ロール体15から、多孔質樹脂シート1を含む多孔質積層体19を繰り出して、これを380℃の加熱装置で2時間加熱して、多孔質樹脂シート1をCステージ化した後、別の芯8に多孔質積層体19を巻き取り、多孔質ロール体15を再び得た。
【0128】
実施例2~3、参考例4および比較例1
流路含有シート4の種類を、表1に従って変更した以外は、実施例1と同様に処理した。
【0129】
(評価)
下記の項目を測定した。それらの結果を表1に記載する。
(1)水銀圧入法による流路含有シートにおける流路(空隙)の測定
流路含有シート4について、JIS R 1655(2003年)に準拠した水銀圧入法を実施して、流路含有シート4における流路の体積割合(%)、流路の大きさの中央値(μm)、流路含有シート4の質量に対する流路の体積の割合(mL/g)をそれぞれ求めた。
【0130】
具体的には、流路含有シート4 約0.03~0.4gを容量5mLのセルに採り、これを細孔分布測定装置(商品名「オートポアIV」、9520形、島津製作所-マイクロメリティックス社製)にセットして、水銀圧入法を実施した。水銀圧入法では、初期圧を2.6kPaに設定した。また、水銀圧入法では、水銀の接触角を130度、水銀の表面張力0.485N/mとして、上記した各物性を算出した。
【0131】
これによって、流路含有シートにおける流路の体積割合(%)を求めた。
【0132】
また、測定最大圧力までに流路に圧入される水銀容積の積算値をサンプル重量で割り、流路含有シートの質量に対する流路の体積の割合(mL/g)を求めた。
【0133】
さらに、積算細孔(流路)分布において、曲線の細孔容積の最小値と最大値の中間値(μm)を、流路の大きさの中央値として求めた。
【0134】
(2)流路含有シートの静摩擦係数
流路含有シート4の静摩擦係数を、JIS K 7125の摩擦係数試験方法(スプリングあり)に従って測定した。
【0135】
JIS K 7125の摩擦係数試験方法では、流路含有シート4から、サイズ63×63mmの滑りサンプルと、サイズ300×200mmの固定サンプルとを作製した。また、滑り片と同一サイズで、200gの箱形状のおもりの裏面に滑りサンプルを固定した。おもりを、速度100mm/minで、10Nの力で、水平方向に引っ張った。試験雰囲気は、温度23±2℃、湿度50±10%RHであった。上記した引張における最大荷重を静摩擦力とし、これを、おもりの重さ(200g)で割った値を静摩擦係数μを得、これを4回繰り返し、計5回の平均値を「流路含有シートの静摩擦係数」として得た。
【0136】
(3)多孔質樹脂シートの観察(変色、皺)
抽出後の多孔質ロール体15の基材シート2を観察して、変色の有無、および、皺の有無を目視で確認した。
【0137】
(4)多孔質樹脂シートの空孔率
多孔質樹脂シート1の空孔率を、下記式に基づく計算により求めた。
【0138】
多孔質樹脂シート1の誘電率=空気の誘電率×空孔率+ポリイミドの誘電率×(1-空孔率)
ここで、空気の誘電率は1、ポリイミドの誘電率は3.6であるため、
多孔質樹脂シート1の誘電率=空孔率+3.6(1-空孔率)
空孔率=(3.6-多孔質樹脂シート1の誘電率)/2.6
空孔率(%)=[(3.6-多孔質樹脂シート1の誘電率)/2.6]×100
【0139】
(5)多孔質樹脂シートの誘電率および誘電正接
多孔質ロール体15の内側部分16の多孔質樹脂シート1と、多孔質ロール体15の外側部分17の多孔質樹脂シート1とのそれぞれの周波数の10GHzにおける誘電率を、共振器法により、求めた。多孔質ロール体15の内側部分16の多孔質樹脂シート1と、多孔質ロール体15の外側部分17の多孔質樹脂シート1とのそれぞれの誘電正接も、上記に倣って求めた。
【0140】
(6)多孔化剤の抽出率
多孔質ロール体15(ロール体5)の内側部分16の多孔質樹脂シート1(多孔化剤含有樹脂シート3)と、外側部分17の多孔質樹脂シート1(多孔化剤含有樹脂シート3)とのそれぞれの多孔化剤の抽出率を、上記した実施形態に記載の方法に従って、求めた。
【0141】
【表1】
【符号の説明】
【0142】
1 多孔質樹脂シート
3 多孔化剤含有樹脂シート
4 流路含有シート
5 ロール体
9 多孔化剤含有積層体
15 多孔質ロール体
図1
図2
図3
図4
図5
図6