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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】電気回路体および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20240913BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20240913BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20240913BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20240913BHJP
   H01L 23/473 20060101ALI20240913BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H01L23/36 A
H01L23/28 B
H01L25/04 C
H01L23/46 Z
H05K7/20 M
H05K7/20 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020212046
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022098583
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】露野 円丈
(72)【発明者】
【氏名】井出 英一
(72)【発明者】
【氏名】金子 裕二朗
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-009865(JP,A)
【文献】特開2019-102561(JP,A)
【文献】特開2004-006717(JP,A)
【文献】特開2011-166122(JP,A)
【文献】特開2020-061509(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065427(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29
H01L 23/28
H01L 25/07
H01L 23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体素子と、前記パワー半導体素子と接合される導体板と、前記導体板を挟んで前記パワー半導体素子と対向して配置される冷却部材と、前記導体板と前記冷却部材との間に挟まれて前記導体板に接着又は接合されるシート部材と、前記パワー半導体素子と前記導体板と前記シート部材と前記冷却部材とを封止する封止部材と、を備えた電気回路体であって、
前記冷却部材は、一方面が前記封止部材から露出する所定厚さのフィンベースと、前記フィンベースの前記一方面上において立設する複数のフィンと、前記フィンベースの外周において前記封止部材に覆われる端部と、を備え、
前記複数のフィンは、前記フィンベースの前記導体板と対向する導体板領域と前記導体板領域の外周の外周領域との境界上又は前記境界に隣接してそれぞれ配置された複数の境界フィンを含み、
前記外周領域に配置されたフィン同士の間隔は、前記フィンベースの厚さの2倍以下であり、
前記境界フィン同士の間隔は、前記フィンベースの厚さの2倍以下であり、かつ、前記複数のフィンのうち前記導体板領域内に配置されて前記境界フィンを除いた各フィン同士の間隔よりも狭い電気回路体。
【請求項2】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記境界フィンは、前記導体板領域で前記境界に隣接して配置された第1フィンと、前記外周領域で前記境界に隣接して配置された第2フィンと、を含み、
前記第1フィンと前記第2フィンとの間隔は、前記フィンベースの厚さの2倍以下である電気回路体。
【請求項3】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記境界フィンは、前記境界上に配置されており、
前記境界フィンと前記外周領域に配置された前記フィンとの間隔は、前記フィンベースの厚さの2倍以下である電気回路体。
【請求項4】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記冷却部材を流れる冷媒の流れに平行に配置された前記フィンの間隔は冷媒の流れに垂直に配置された前記フィンの間隔よりも狭い電気回路体。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の電気回路体において、
前記導体板は、前記パワー半導体素子の両面に配置されて、前記配置された前記各導体板の一方面は前記パワー半導体素子に接合され、
前記シート部材は、前記各導体板の他方面にそれぞれ接着又は接合され、
前記冷却部材は、前記各シート部材を介して接着される電気回路体。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の電気回路体を備え、直流電力を交流電力に変換する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路体および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体素子のスイッチングによる電力変換装置は、変換効率が高いため、民生用、車載用、鉄道用、変電設備等に幅広く利用されている。パワー半導体素子は通電により発熱するため、パワー半導体素子を内蔵した装置には冷却部材が設けられている。冷却部材は、フィンベースと、このフィンベースに立設された複数のフィンと、を備え、フィンの間に冷媒を流通することによってパワー半導体素子を冷却する。
【0003】
特許文献1には、トランスファーモールド工程で封止部材が封止される半導体装置において、フィンの厚さ方向に貫通するスリットを形成し、成形金型には、スリットに対応する位置に衝立部を設けて、成形時の圧力に対して衝立部でフィンベースの変形を抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2013/114647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された装置は、フィンベースのスリット部分にはフィンが形成できないため、放熱性が低下する課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による電気回路体は、パワー半導体素子と、前記パワー半導体素子と接合される導体板と、前記導体板を挟んで前記パワー半導体素子と対向して配置される冷却部材と、前記導体板と前記冷却部材との間に挟まれて前記導体板に接着又は接合されるシート部材と、前記パワー半導体素子と前記導体板と前記シート部材と前記冷却部材とを封止する封止部材と、を備えた電気回路体であって、前記冷却部材は、一方面が前記封止部材から露出する所定厚さのフィンベースと、前記フィンベースの前記一方面上において立設する複数のフィンと、前記フィンベースの外周において前記封止部材に覆われる端部と、を備え、前記複数のフィンは、前記フィンベースの前記導体板と対向する導体板領域と前記導体板領域の外周の外周領域との境界上又は前記境界に隣接してそれぞれ配置された複数の境界フィンを含み、前記外周領域に配置されたフィン同士の間隔は、前記フィンベースの厚さの2倍以下であり、前記境界フィン同士の間隔は、前記フィンベースの厚さの2倍以下であり、かつ、前記複数のフィンのうち前記導体板領域内に配置されて前記境界フィンを除いた各フィン同士の間隔よりも狭い
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フィンベースがフィン以外のスリットなどに占有されることを回避し、放熱性が低下することなくフィンベースの変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電気回路体の平面図である。
図2】電気回路体のX-X線の断面図である。
図3】電気回路体のY-Y線の断面図である。
図4】パワーモジュールの断面斜視図である。
図5】(a)~(c)電気回路体の製造方法を示す断面図である。
図6】(d)~(f)電気回路体の製造方法を示す断面図である。
図7】(a)(b)トランスファーモールド工程における拡大図である。
図8】(a)(b)フィンの間隔とフィンベースの厚さとの関係を説明する図である。
図9】断面形状が長方形のフィンが立設されたフィンベースの平面図である。
図10】断面形状が円形のフィンが立設されたフィンベースの平面図である。
図11】断面形状が円形のフィンが境界上に立設されたフィンベースの平面図である。
図12】フィンが立設されたフィンベースの平面図を部分拡大した図である。
図13】パワーモジュールの半透過平面図である。
図14】パワーモジュールの回路図である。
図15】電気回路体を用いた電力変換装置の回路図である。
図16】電力変換装置の外観斜視図である。
図17】電力変換装置の断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0010】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0011】
図1は、電気回路体400の平面図、図2は、電気回路体400の図1に示すX-X線の断面図である。図3は、電気回路体400の図1に示すY-Y線の断面図である。
図1に示すように、電気回路体400は、3個のパワーモジュール300と冷却部材340よりなる。パワーモジュール300は、パワー半導体素子を用い直流電流と交流電流とを変換する機能があり、通電により発熱する。このため、冷却部材340の中に冷媒を流通して冷却する構造としている。冷媒には、水や水にエチレングリコールを混入した不凍液等を用いる。なお、冷却部材340は、ピン状の複数のフィンが冷却部材340のフィンベースに立設されている。冷却部材340は、熱伝導率が高く軽量なアルミ系が望ましい。冷却部材340は、押し出し成型や、鍛造、ろう付け等で作製する。
【0012】
パワーモジュール300は、一方側に、直流回路のコンデンサモジュール500(後述の図15参照)に連結する正極側端子315Bおよび負極側端子319Bを備えている。正極側端子315Bおよび負極側端子319Bの他方側には、交流回路のモータジェネレータ192、194(後述の図15参照)に連結する交流側端子320B等の大電流が流れるパワー端子を備えている。また、他方側には、下アームゲート信号端子325L、ミラーエミッタ信号端子325M、ケルビンエミッタ信号端子325K、上アームゲート信号端子325U等のパワーモジュール300の制御に用いる信号端子等を備えている。
【0013】
図2に示すように、上アーム回路を形成する第1パワー半導体素子として、能動素子155、ダイオード156を備える。能動素子155を構成する半導体材料としては、例えばSi、SiC、GaN、GaO、C等を用いることができる。能動素子155のボディダイオードを用いる場合は、ダイオード156を省略してもよい。能動素子155のコレクタ側およびダイオード156のカソード側は、第2導体板431に接合されている。能動素子155のエミッタ側およびダイオード156のアノード側には第1導体板430が接合されている。これらの接合には、はんだを用いてもよいし、焼結金属を用いてもよい。また、第1導体板430、第2導体板431は、電気伝導性と熱伝導率が高い材料であれば特に限定されないが、銅系又はアルミ系材料が望ましい。これらは、単独で用いてもよいが、はんだや、焼結金属との接合性を高めるためNiやAg等のめっきを施してもよい。
【0014】
第1導体板430には、第1シート部材440を介して冷却部材340が密着される。第1シート部材440は、樹脂絶縁層と金属箔とを積層して構成される。第1シート部材440と冷却部材340との間には図示省略した熱伝導部材を設け、第1シート部材440の金属箔側が熱伝導部材に密着される。熱伝導部材は、熱伝導率が高い材料であれば特に限定されないが、金属、セラミックス、炭素系材料等の高熱伝導材料を樹脂材料と組み合わせて用いることが好ましい。
【0015】
第2導体板431には、第2シート部材441を介して冷却部材340が密着される。第2シート部材441は、樹脂絶縁層と金属箔とを積層して構成される。第2シート部材441と冷却部材340との間には熱伝導部材を設け、第2シート部材441の金属箔側が熱伝導部材に密着される。なお、放熱性の観点から、冷却部材340の幅はシート部材440、441の幅より広いことが望ましい。
【0016】
シート部材440、441は、導体板430、431と冷却部材340との間に挟まれて導体板430、431に接着又は接合される。パワー半導体素子155、156と導体板430、431とシート部材440、441と冷却部材340は一体的にトランスファーモールド工程により封止部材360で封止されて電気回路体400を構成する。
【0017】
冷却部材340は、導体板430、431を挟んでパワー半導体素子155、156と対向して配置される。冷却部材340は、一方面が封止部材360から露出する所定厚さのフィンベース371と、フィンベース371の一方面上において立設する複数のフィン370とを備える。フィンベース371の端部は、フィンベース371の外周において封止部材360に覆われる。詳細は後述するが、冷却部材340の導体板430、431と対向する導体板領域S1(図7(a)参照)と導体板領域S1の外周の外周領域S2(図7(a)参照)において、外周領域S2に配置されたフィン370同士の間隔は、フィンベース371の厚さの2倍以下である。
【0018】
図3に示すように、第1導体板430、第2導体板431、第3導体板432、第4導体板433は、電流を通電する役割の他に、第1パワー半導体素子155、156、第2パワー半導体素子157、158が発する熱を冷却部材340に伝熱する伝熱部材としての役割を果たしている。各導体板430、431、432、433と冷却部材340とは電位が異なるため、図2に示すように、各導体板430、431、432、433と冷却部材340との間にシート部材440、441を介する。なお、第1パワー半導体素子155、156、第2パワー半導体素子157、158を単にパワー半導体素子159と称する場合がある。
【0019】
シート部材440、441は、冷却部材340及び導体板430、431、432、433と接着性を有するものであれば特に限定されないが、粉末状の無機充填剤を分散したエポキシ樹脂系樹脂絶縁層が望ましい。これは、接着性と放熱性のバランスが良いためである。
【0020】
導体板430、431、432、433は、電気伝導性が高く、熱伝導率が高い材料が望ましく、銅やアルミ等の金属系材料や、金属系材料と高熱伝導率のダイヤモンド、カーボンやセラミック等の複合材料等を用いることもできる。
【0021】
図4は、図1に示すX-X線におけるパワーモジュール300の断面斜視図である。図4に示すように、第1シート部材440の端部およびフィンベース371の端部は、封止部材360によって覆われている。第1導体板430の表面と重なる第1シート部材440は放熱面である。第1シート部材440の放熱面上に冷却部材340を密着して、冷却部材340との間の密着性を確保し、放熱性が損なわれないようにする。
【0022】
冷却部材340は、熱伝導率が高く軽量なアルミ系が望ましい。押し出し成型や、鍛造、ろう付け等で作製する。冷却部材340はフィンベース371に図示していないシール部材を介して接着及び水密構造を形成している。フィンベース371の外周部には、トランスファーモールドの樹脂漏れを防止する薄肉部374を有し、ここがトランスファーモールド成型時に変形することで、厚さばらつきを吸収しつつ、トランスファーモールドの樹脂漏れを防止している。
【0023】
図5(a)~(c)、図6(d)~(f)は、電気回路体400の製造方法を示す断面図である。図5(a)~(c)、図6(d)は、図1に示すY-Y線における1パワーモジュール分の断面図、図6(e)~(f)は、図1に示すX-X線における1パワーモジュール分の断面図を示す。
【0024】
図5(a)は、はんだ接続工程及びワイヤボンディング工程を示す図である。第2導体板431に、第1パワー半導体素子である能動素子155のコレクタ側を接続する。第1導体板430に能動素子155のエミッタ側を接続する。同様に、第4導体板433に、第2パワー半導体素子である能動素子157のコレクタ側を接続する。第3導体板432に能動素子157のエミッタ側を接続する。このようにして、回路体310を形成する。そして、回路体310の一方の面に、第1シート部材440、フィン370を備えたフィンベース371を、回路体310の他方の面に、第2シート部材441、フィン370を備えたフィンベース371を配置して、組み立て体311を設ける。
【0025】
図5(b)~図5(c)は、トランスファーモールド工程を示す図である。
図5(b)に示すように、トランスファーモールド装置601は、バネ機構602を備える。シート部材440、441等を金型に真空吸着するための真空脱気機構等は図示省略している。予め175℃の恒温状態に加熱した金型内に、あらかじめ175℃に予熱した組み立て体311を金型内に設置する。
【0026】
次に、図5(c)に示すように、金型を閉じて、封止部材360を金型キャビティに注入する。この時、フィンベース371の外周に設けた薄肉部374が金型で変形し、組み立て体311の厚さのばらつきを吸収し、また、封止部材360がフィン370側に流入するのを防止する蓋となる。また、金型を閉じた際に、フィン370の先端はバネ機構602により加圧され、この加圧はトランスファーモールド成型時における封止部材360の注入圧力より大きい。金型内の加熱に、バネ機構602による加圧力が加わることで、シート部材440、441は硬化反応が進行し、シート部材440、441はフィンベース371と導体板430、431、432、433に接着する。しかし、トランスファーモールド成型時における封止部材360の注入圧力でフィンベース371が変形する可能性がある。本実施形態では、後述するように、フィンベース371の変形を抑制する。
【0027】
図6(d)は、硬化工程を示す図である。トランスファーモールド装置601から封止部材360で封止したパワーモジュール300を取り出し、常温で冷却し、2時間以上の硬化を行う。
【0028】
図6(e)は、冷却部材340の設置工程を示す図である。フィンベース371の周囲にシール部材372を配置し、蓋373をフィンベース371に接着して冷却部材340とする。
【0029】
図6(f)は、以上の工程により製造された電気回路体400を示す図である。このようにして、パワーモジュール300の両面に冷却部材340が設置されて電気回路体400が製造される。
【0030】
図7は、トランスファーモールド工程における図5(c)の点線部分Hの拡大図である。図7(a)は、本実施形態を示し、図7(b)は、本実施形態を適用しない比較例を示す。
【0031】
図7(a)は、トランスファーモールド工程であり、金型を閉じてバネ機構602による加圧力Pが加わっている。そして、バネ機構602によりフィン370先端にも加圧力Pが加わる。また、封止部材360が注入されている状態では、注入圧力Qが静水圧としてフィンベース371と導体板432に加わる。バネ機構602による加圧力Pの方が注入圧力Qより大きくなるよう設定しているため、シート部材440は、フィンベース371と導体板432の間で加熱、加圧され接着する。本実施形態では、詳細は後述するように、フィンベース371の導体板432と対向する導体板領域S1と導体板領域S1の外周の外周領域S2において、外周領域S2に配置されたフィン370同士の間隔は、フィンベース371の厚さの2倍以下にする。これにより、フィンベース371の変形を抑制する。
【0032】
図7(b)に示す比較例では、フィン370の間隔が大きく、フィンベース371の厚さが薄い場合、注入圧力Qによりフィン370とフィン370との間でフィンベース371の変形Rが生じる。この場合、導体板432の端部で、フィンベース371がシート部材440から離れるため、シート部材440の接着が不良になる。フィンベース371の変形Rが生じた部位には、封止部材360が侵入するが、封止部材360は、金型への樹脂バリを抑制するため20μm以下の隙間には侵入しない。その結果、フィンベース371の変形量により導体板432の端部でシート部材440に空気層を持つ剥離が生じる場合があり、この場合は電気回路体400の絶縁性・放熱性が低下する。
【0033】
図8(a)、図8(b)は、フィン370の間隔とフィンベース371の厚さとの関係を説明する図である。フィン370とフィン370との間の距離(間隔)をD、フィン370とフィン370との間のフィンベース371の厚さをTとする。
図8(a)は、D≦2Tの場合を示す。バネ機構602による加圧力Pは、まず、フィン370の先端に加わる。この加圧力Pは、フィンベース371の厚さTを点線tで示すようにおよそ45度の角度で広がる。D≦2Tの関係を満足する場合、フィンベース371の裏面の全域は、バネ機構602の加圧力Pにより面圧が高い領域P1となる。
【0034】
図8(b)は、D>2Tの場合を示す。フィンベース371の裏面には、バネ機構602による加圧力Pによりフィンベース371の厚さTを点線tで示すようにおよそ45度の角度で広がる。この結果、フィンベース371の厚さTが薄い場合や、間隔Dが大きい場合は、面圧が高い領域P1と、面圧が低い領域P2が形成される。面圧が低い領域P2では、トランスファーモールド工程での注入圧力Qに対抗できないため、フィンベース371に変形が生じる。このような原理から、トランスファーモールド工程において、フィン370の先端を金型で支持する場合、フィンベース371の変形を抑制するには、D≦2Tの関係を満足する必要があることが解明された。なお、この関係は、フィン370を設けた全ての領域で満たす必要はない。
【0035】
図9は、フィン370が立設されたフィンベース371の平面図である。この図では、フィン370の断面形状が長方形の場合を例に説明する。
フィンベース371の導体板と対向する導体板領域S1では、フィン370の距離(間隔)Dとフィンベース371の厚さTは、D≦2Tの関係を満足しなくてもよく、パワー半導体素子159の放熱に必要なフィン370を適宜配列すればよい。一方、導体板領域S1の外周の外周領域S2には、トランスファーモールド工程の注入圧力Qが封止部材360を介してフィンベース371に加わる。このため、D≦2Tの関係を満たすように、すなわち、外周領域S2に配置されたフィン370同士の間隔d1は、フィンベース371の厚さの2倍以下にする。これにより、フィンベース371の変形を抑制することにより、シート部材440の剥離を防止し、電気回路体400の絶縁性・放熱性を良好に保っている。
【0036】
また、導体板領域S1に配置されたフィン370と、このフィン370に隣接して外周領域S2に配置されたフィン370との間隔d2は、フィンベース371の厚さTの2倍以下である。ここで、導体板領域S1に配置されたフィン370は、導体板領域S1と外周領域S2との境界上に配置されてもよい。フィン370が、導体板領域S1と外周領域S2との境界上にある方が、フィンベース371の変形をより抑制できる。
【0037】
また、導体板領域S1と外周領域S2との境界上に配置されたフィン370同士の間隔d3は、フィンベース371の厚さの2倍以下である。ここで、導体板領域S1と外周領域S2との境界上に配置されたフィン370同士の間隔d3は、導体板領域S1内に配置されたフィン同士の間隔d4よりも狭く配置されてもよい。
また、導体板領域S1と外周領域S2との境界上に配置されたフィン370と外周領域S2に配置されたフィン370との間隔d5は、フィンベース371の厚さの2倍以下である。
【0038】
冷却部材を流れる冷媒の流れFに平行に配置されたフィン370の間隔d1は冷媒の流れFに垂直に配置されたフィン370の間隔d3よりも狭い。
【0039】
図10は、フィン370が立設されたフィンベース371の平面図である。この図では、フィン370の断面形状が円形の場合を例に説明する。
フィンベース371の導体板と対向する導体板領域S1では、フィン370の距離(間隔)Dとフィンベース371の厚さTは、D≦2Tの関係を満足しなくてもよく、パワー半導体素子159の放熱に必要なフィン370を適宜配列すればよい。一方、導体板領域S1の外周の外周領域S2には、トランスファーモールド工程での注入圧力Qが封止部材360を介してフィンベース371に加わる。このため、D≦2Tの関係を満たすように、すなわち、外周領域S2に配置されたフィン370同士の間隔d1は、フィンベース371の厚さの2倍以下にする。これにより、フィンベース371の変形を抑制することにより、シート部材440の剥離を防止し、電気回路体400の絶縁性・放熱性を良好に保っている。
【0040】
また、導体板領域S1に配置されたフィン370と、このフィン370に隣接して外周領域S2に配置されたフィン370との間隔d2は、フィンベース371の厚さTの2倍以下である。ここで、導体板領域S1に配置されたフィン370は、導体板領域S1と外周領域S2との境界上に配置されてもよい。フィン370が、導体板領域S1と外周領域S2との境界上にある方が、フィンベース371の変形をより抑制できる。
【0041】
冷却部材を流れる冷媒の流れFに平行に配置されたフィン370の間隔d1は冷媒の流れFに垂直に配置されたフィン370の間隔d3よりも狭い。
【0042】
図11は、フィン370が立設されたフィンベース371の平面図である。この図では、フィン370の断面形状が円形の場合であり、フィン370が導体板領域S1と外周領域S2との境界上に配置されている場合を例に説明する。
導体板領域S1と外周領域S2との境界上に配置されたフィン370同士の間隔d1、d3は、フィンベース371の厚さの2倍以下にする。これにより、フィンベース371の変形を抑制することにより、シート部材440の剥離を防止し、電気回路体400の絶縁性・放熱性を良好に保つ。
【0043】
ここで、導体板領域S1と外周領域S2との境界上に配置されたフィン370同士の間隔d1、d3は、導体板領域S1内に配置されたフィン同士の間隔d4よりも狭く配置されてもよい。
また、導体板領域S1と外周領域S2との境界上に配置されたフィン370と外周領域S2に配置されたフィン370との間隔d5は、フィンベース371の厚さの2倍以下である。
【0044】
冷却部材を流れる冷媒の流れFに平行に配置されたフィン370の間隔d1は冷媒の流れFに垂直に配置されたフィン370の間隔d3よりも狭い。
【0045】
図12は、フィン370が立設されたフィンベース371の平面図を部分拡大した図である。
冷媒の流れFに平行な方向のフィン間距離をDv、冷媒の流れFに垂直な方向のフィン間距離をDpとする。Dpが小さいと、冷媒が流れにくく水路の圧損が高くなり、冷媒を流すのにポンプの出力を高くする必要が生じる。一方、Dvを小さくしても、水路の圧損は上がらない。このため、Dp>Dvとすることで、水路の圧損の低下を抑制する。その上で、外周領域S2のフィン370の間隔Dp、d1を小さくし、D≦2Tを満足させることができる。
【0046】
本実施形態によれば、トランスファーモールド成型によるフィンベース371の変形を抑制し、導体板432の端部でシート部材440が剥離することを防止でき、電気回路体400の絶縁性・放熱性を良好に保つことができる。
【0047】
図13は、本実施形態におけるパワーモジュール300の半透過平面図である。図14は、本実施形態におけるパワーモジュール300の回路図である。
【0048】
図13図14に示すように、正極側端子315Bは、上アーム回路のコレクタ側から出力しており、バッテリ又はコンデンサの正極側に接続される。上アームゲート信号端子325Uは、上アーム回路の能動素子155のゲート及びエミッタセンスから出力している。負極側端子319Bは、下アーム回路のエミッタ側から出力しており、バッテリ若しくはコンデンサの負極側、又はGNDに接続される。下アームゲート信号端子325Lは、下アーム回路の能動素子157のゲート及びエミッタセンスから出力している。交流側端子320Bは、下アーム回路のコレクタ側から出力しており、モータに接続される。中性点接地をする場合は、下アーム回路は、GNDでなくコンデンサの負極側に接続する。
【0049】
また、第1パワー半導体素子(上アーム回路)の能動素子155およびダイオード156の上下に第1導体板(上アーム回路エミッタ側)430、第2導体板(上アーム回路コレクタ側)431が配置される。第2パワー半導体素子(下アーム回路)の能動素子157およびダイオード158の上下に第3導体板(下アーム回路エミッタ側)432、第4導体板(下アーム回路コレクタ側)433が配置される。
【0050】
本実施形態のパワーモジュール300は、上アーム回路及び下アーム回路の2つのアーム回路を、1つのモジュールに一体化した構造である2in1構造である。この他に、複数の上アーム回路及び下アーム回路を、1つのモジュールに一体化した構造を用いてもよい。この場合は、パワーモジュール300からの出力端子の数を低減し小型化することができる。
【0051】
図15は、電気回路体400を用いた電力変換装置200の回路図である。
電力変換装置200は、インバータ回路140、142と、補機用のインバータ回路43と、コンデンサモジュール500とを備えている。インバータ回路140及び142は、パワーモジュール300を複数個備えた電気回路体400(図示省略)により構成されており、それらを接続することにより三相ブリッジ回路を構成している。電流容量が大きい場合には、更にパワーモジュール300を並列接続し、これら並列接続を三相インバータ回路の各相に対応して行うことにより、電流容量の増大に対応できる。また、パワーモジュール300に内蔵しているパワー半導体素子である能動素子155、157やダイオード156、158を並列接続することでも電流容量の増大に対応できる。
【0052】
インバータ回路140とインバータ回路142とは、基本的な回路構成は同じであり、制御方法や動作も基本的には同じである。インバータ回路140等の回路的な動作の概要は周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0053】
上述のように、上アーム回路は、スイッチング用のパワー半導体素子として上アーム用の能動素子155と上アーム用のダイオード156とを備えており、下アーム回路は、スイッチング用のパワー半導体素子として下アーム用の能動素子157と下アーム用のダイオード158とを備えている。能動素子155、157は、ドライバ回路174を構成する2つのドライバ回路の一方あるいは他方から出力された駆動信号を受けてスイッチング動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。
【0054】
上述したように、上アーム用の能動素子155および下アーム用の能動素子157は、コレクタ電極、エミッタ電極、ゲート電極を備えている。上アーム用のダイオード156および下アーム用のダイオード158は、カソード電極およびアノード電極の2つの電極を備えている。図13に示すように、ダイオード156、158のカソード電極が能動素子155、157のコレクタ電極に、アノード電極が能動素子155、157のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。これにより、上アーム用の能動素子155および下アーム用の能動素子157のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう電流の流れが順方向となっている。
【0055】
なお、能動素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いても良く、この場合は、上アーム用のダイオード156、下アーム用のダイオード158は不要となる。
【0056】
各上・下アーム直列回路の正極側端子315Bと負極側端子319Bとはコンデンサモジュール500のコンデンサ接続用の直流端子362A、362Bにそれぞれ接続されている。上アーム回路と下アーム回路の接続部にはそれぞれ交流電力が発生し、各上・下アーム直列回路の上アーム回路と下アーム回路の接続部は各パワーモジュール300の交流側端子320Bに接続されている。各相の各パワーモジュール300の交流側端子320Bはそれぞれ電力変換装置200の交流出力端子に接続され、発生した交流電力はモータジェネレータ192または194の固定子巻線に供給される。
【0057】
制御回路172は、車両側の制御装置やセンサ(例えば、電流センサ180)などからの入力情報に基づいて、上アーム用の能動素子155、下アームの能動素子157のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する。ドライバ回路174は、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、上アーム用の能動素子155、下アーム用の能動素子157をスイッチング動作させるための駆動信号を生成する。なお、181、182、188はコネクタである。
【0058】
上・下アーム直列回路は、不図示の温度センサを含み、上・下アーム直列回路の温度情報が制御回路172に入力される。また、制御回路172には上・下アーム直列回路の直流正極側の電圧情報が入力される。制御回路172は、それらの情報に基づいて過温度検知および過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全ての上アーム用の能動素子155、下アーム用の能動素子157のスイッチング動作を停止させ、上・下アーム直列回路を過温度或いは過電圧から保護する。
【0059】
図16は、図15に示す電力変換装置200の外観斜視図であり、図17は、図16に示す電力変換装置200のXV-XV線の断面斜視図である。
図16に示すように、電力変換装置200は、下部ケース11および上部ケース10により構成され、ほぼ直方体形状に形成された筐体12を備えている。筐体12の内部には、電気回路体400、コンデンサモジュール500等が収容されている。電気回路体400は冷却流路を有しており、筐体12の一側面からは、冷却流路に連通する冷却水流入管13および冷却水流出管14が突出している。下部ケース11は、上部側(Z方向)が開口され、上部ケース10は、下部ケース11の開口を塞いで下部ケース11に取り付けられている。上部ケース10と下部ケース11とは、アルミニウム合金等により形成され、外部に対して密封して固定される。上部ケース10と下部ケース11とを一体化して構成してもよい。筐体12を、単純な直方体形状としたことで、車両等への取り付けが容易となり、また、生産性も向上する。
【0060】
筐体12の長手方向の一側面に、コネクタ17が取り付けられており、このコネクタ17には、交流ターミナル18が接続されている。また、冷却水流入管13および冷却水流出管14が導出された面には、コネクタ21が設けられている。
【0061】
図17に示すように、筐体12内には、電気回路体400が収容されている。電気回路体400の上方には、制御回路172およびドライバ回路174が配置され、電気回路体400の直流端子側には、コンデンサモジュール500が収容されている。コンデンサモジュールを電気回路体400と同一高さに配置することで、電力変換装置200を薄型化でき、車両への設置自由度が向上する。電気回路体400の交流側端子320Bは、電流センサ180を貫通してバスバーに接合されている。また、電気回路体400の直流端子である正極側端子315Bおよび負極側端子319Bは、それぞれ、コンデンサモジュール500の正・負極端子(図13の直流端子362A、362B)に接合される。
【0062】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)電気回路体400は、パワー半導体素子159と、パワー半導体素子159と接合される導体板430、431、432、433と、導体板430、431、432、433を挟んでパワー半導体素子159と対向して配置される冷却部材340と、導体板430、431、432、433と冷却部材340との間に挟まれて導体板430、431、432、433に接着又は接合されるシート部材440、441と、パワー半導体素子159と導体板430、431、432、433とシート部材440、441と冷却部材340とを封止する封止部材360と、を備えた電気回路体400であって、冷却部材340は、一方面が封止部材360から露出する所定厚さのフィンベース371と、フィンベース371の一方面上において立設する複数のフィン370と、フィンベース371の外周において封止部材360に覆われる端部と、を備え、フィンベース371の導体板430、431、432、433と対向する導体板領域S1と導体板領域S1の外周の外周領域S2において、外周領域S2に配置されたフィン370同士の間隔は、フィンベース371の厚さの2倍以下である。これにより、フィンベースがフィン以外のスリットなどに占有されることを回避し、放熱性が低下することなくフィンベースの変形を抑えることができる。
【0063】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上述の実施形態と複数の例を組み合わせた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0064】
155・・・第1パワー半導体素子(上アーム回路能動素子)、156・・・第1パワー半導体素子(上アーム回路ダイオード)、157・・・第2パワー半導体素子(下アーム回路能動素子)、158・・・第2パワー半導体素子(下アーム回路ダイオード)、159・・・パワー半導体素子、172・・・制御回路、174・・・ドライバ回路、180・・・電流センサ、181、182、188・・・コネクタ、192、194・・・モータジェネレータ、200・・・電力変換装置、300・・・パワーモジュール、310・・・回路体、311・・・組み立て体、315B・・・正極側端子、319B・・・負極側端子、320B・・・交流側端子、325・・・信号端子、325K・・・ケルビンエミッタ信号端子、325L・・・下アームゲート信号端子、325M・・・ミラーエミッタ信号端子、325U・・・上アームゲート信号端子、340・・・冷却部材、360・・・封止部材、370・・・フィン、371・・・フィンベース、372・・・シール部材、400・・・電気回路体、430・・・第1導体板(上アーム回路エミッタ側)、431・・・第2導体板(上アーム回路コレクタ側)、432・・・第3導体板(下アーム回路エミッタ側)、433・・・第4導体板(下アーム回路コレクタ側)、440・・・第1シート部材(エミッタ側)、441・・・第2シート部材(コレクタ側)、500・・・コンデンサモジュール、601・・・トランスファーモールド装置、602・・・バネ機構、D・・・フィンの間隔、P・・・バネ機構による加圧力、Q・・・封止部材の注入圧力、S1・・・導体板領域、S2・・・外周領域、T・・・フィンベースの厚さ。
図1
図2
図3
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図10
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図17