(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-12
(45)【発行日】2024-09-24
(54)【発明の名称】加熱によって支援されたバッテリ充電のシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6571 20140101AFI20240913BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20240913BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20240913BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240913BHJP
H01M 10/637 20140101ALI20240913BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20240913BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20240913BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240913BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H01M10/6571
H01M10/633
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/637
H01M10/651
H02J7/10 Q
H02J7/10 B
H02J7/10 H
H02J7/10 L
H01M10/44 Q
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2020553452
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 US2019022690
(87)【国際公開番号】W WO2019203969
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-09
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515317215
【氏名又は名称】イーシー パワー,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チャオ-ヤン
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-041614(JP,A)
【文献】特開平07-274408(JP,A)
【文献】特許第4946749(JP,B2)
【文献】特開平11-150885(JP,A)
【文献】特許第6238582(JP,B2)
【文献】特開2005-065476(JP,A)
【文献】特開2016-219224(JP,A)
【文献】特開2009-087814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/52-10/667
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリを充電するための充電方法であって、前記充電方法は、
バッテリセルが所定の充電温度(T
2)未満である場合、前記バッテリセルと熱接触する加熱要素に対し、充電器により電力を供給することによって、少なくとも5℃/分の速度で前記バッテリセルを加熱することを含む第1の動作
であって、前記充電器は、前記加熱要素にT
2
未満で電力を供給するときに、前記バッテリセルに直接電気的に接続される第1の動作と、
前記バッテリセルが、少なくとも35℃であるT
2以上である場合、前記充電器で前記バッテリセルを充電することを含む第2の動作とを含む、充電方法。
【請求項2】
前記第1の動作が、少なくとも10℃/分の速度で前記バッテリセルを加熱することを含む、請求項1に記載の充電方法。
【請求項3】
T
2が少なくとも40℃である、請求項1又は2に記載の充電方法。
【請求項4】
前記第2の動作が、電圧上限に達するまで、3.5Cの又は3.5Cよりも高い、充電レートの定電流で、続いて、所定の電流が達せられるまでセル電圧の前記上限での定電圧で、前記バッテリセルを充電することを含む、請求項1又は2に記載の充電方法。
【請求項5】
前記充電方法が、前記バッテリセルの温度を決定することと、前記温度がT
2未満である場合、前記バッテリセルを加熱するために前記第1の動作を開始することと、前記温度がT
2以上である場合、前記バッテリセルを充電することとをさらに含む、請求項1又は2に記載の充電方法。
【請求項6】
統合型加熱バッテリシステムであって、
少なくとも1つのバッテリセルを含む再充電可能バッテリと、
前記少なくとも1つのバッテリセルと熱接触する加熱要素であって、スイッチ-ヒータ組立体を形成するために、スイッチに直列に電気的に接続された加熱要素とを含み、
前記スイッチ-ヒータ組立体が、前記バッテリに並列に電気的に接続されて、バッテリ-スイッチ-ヒータ回路を形成し、
前記バッテリ-スイッチ-ヒータ回路が、充電器に直接電気的に連結されるように構成され、
前記加熱要素が、
50%を超えて、前記充電器によって電力を供給され、そして、前記加熱要素が、
50%を超えて、前記充電器によって電力を供給されるとき、前記少なくとも1つのバッテリセルに電気的に接続されている、統合型加熱バッテリシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つのバッテリセルが、リチウム金属を含むアノードを含む、請求項6に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つのバッテリセルが、ケイ素またはケイ素-炭素複合材料を含むアノードを含む、請求項6に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのバッテリセルが固体電解質を含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【請求項10】
前記少なくとも1つのバッテリセルが、1リットル当たり4モルを超える濃度の塩を含有する電解質を含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【請求項11】
前記加熱要素が、抵抗体シートを含み、前記抵抗体シートが、2つの主表面と、1~200マイクロメートルの厚さとを有する、請求項6から8のいずれか一項に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【請求項12】
前記抵抗体シートが、グラファイト、高配向パイログラファイト(HOPG)、ステンレス鋼、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、アルミニウム、チタン、またはそれらの組合せを含む、請求項11に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【請求項13】
前記スイッチが、電気機械リレーおよび温度コントローラ、温度センサをもつ固体リレー、温度センサをもつパワーMOSFET、温度センサをもつ大電流スイッチ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、またはバイメタルスイッチを含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【請求項14】
前記スイッチが、充電動作中に時間とともにパルスを発するように構成される、請求項6から8のいずれか一項に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【請求項15】
前記加熱要素と前記スイッチの両方が、前記バッテリセルの内部に配置される、請求項6から8のいずれか一項に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【請求項16】
前記加熱要素は、前記少なくとも1つのバッテリセルが所定の充電温度(T
2)未満である場合、少なくとも5℃/分の速度で前記少なくとも1つのバッテリセルを加熱し、前記充電器は、前記少なくとも1つのバッテリセルがT
2以上である場合、前記少なくとも1つのバッテリセルを充電する、請求項6から8のいずれか一項に記載の統合型加熱バッテリシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年4月16日に出願された米国特許仮出願第62/658,176号明細書の利益を主張するものであり、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、再充電可能電気化学エネルギー貯蔵セルに関する。特に、本開示は、リチウムイオンバッテリなどの再充電可能バッテリの充電プロセスの改善に関する。
【背景技術】
【0003】
再充電可能リチウムイオンバッテリは、電動車両、家庭用電化製品、および固定エネルギー貯蔵システムにおいて広く使用されている。再充電可能バッテリを使用するのに不可欠な部分は充電プロセスであり、充電プロセスは、充電動力学および充電レートに応じて平衡電位を超える過電圧を発生する。その結果、充電中のセル電圧が上昇し、潜在的に、電圧上限に達するが、その電圧上限は、セルの内部のバッテリ材料の大幅な劣化の発生によって規定されている。これにより、許容される充電過電圧が制限され、その結果として、充電レートが低下し(または同様な意味で充電時間が延び)、充電動作を続行するには室温に近い温度が必要とされる。両方の要因のため、適用分野でのバッテリ使用が著しく不便になる。それゆえに、充電動力学を改善し、その結果、再充電可能バッテリの充電過電圧を低下させる必要がある。
【0004】
いくつかの刊行物が、再充電可能バッテリと充電器との間に電気的に接続されたデバイス、例えばDC-DCコンバータなどを含む比較的複雑な構成を有する充電システムを開示している(例えば、米国特許第8779728号明細書、米国出願番号97/999934)。他の充電システムは、バッテリを加熱するとき、再充電可能バッテリを電気的に切り離す(例えば、米国特許出願公開第2013-0288089号明細書)。しかしながら、充電時間と充電温度の範囲とを改善する必要性が継続している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の利点は、再充電可能バッテリを充電するための加熱-充電プロセスである。そのようなプロセスは、急速充電および様々な温度での充電を可能にする統合型加熱バッテリシステムで実施することができる。そのようなプロセスおよびシステムは、家庭用電化製品、輸送、航空宇宙、軍事、および固定エネルギー貯蔵用途でのバッテリ充電に有用である。
【0006】
これらおよび他の利点は、少なくとも部分的に、バッテリを充電するための充電方法によって満たされ、充電方法は、バッテリセルが所定の充電温度(T2)未満である場合、バッテリのセルを加熱することを含む第1の動作と、バッテリセルがT2以上である場合、外部充電器によってバッテリセルを充電することを含む第2の動作とを含む。有利には、バッテリセルは、バッテリセルがT2未満である場合、バッテリセルを迅速に加熱するために、少なくとも5℃/分、例えば、少なくとも10℃/分、例えば、少なくとも20、30、40、および50℃/分などの速度で加熱することができる。充電するときバッテリセルに悪影響を及ぼす温度などの特定の低温では、バッテリセルを加熱する第1の動作の間バッテリセルの充電はほとんどないし全く行われない。この方法は、バッテリセルの温度を決定すること、温度がT2未満である場合、バッテリセルを加熱するために第1の動作を開始すること、および温度がT2以上である場合、バッテリセルを充電することをさらに含むことができる。
【0007】
本開示の別の態様は、統合型加熱バッテリシステムを含み、統合型加熱バッテリシステムは、少なくとも1つのバッテリセルを有する再充電可能バッテリと、スイッチ-ヒータ組立体を形成するために、少なくとも1つのバッテリセルと熱接触し、スイッチに直列に電気的に接続された加熱要素とを含む。スイッチ-ヒータ組立体は、バッテリ-スイッチ-ヒータ回路を形成するためにバッテリに並列に電気的に接続され、バッテリ-スイッチ-ヒータ回路は、充電器に直接電気的に連結されるように構成される。有利には、加熱要素は、主として、充電器によって電力を供給され、そして、加熱要素が、主として、充電器によって電力を供給されるとき、少なくとも1つのバッテリセルに電気的に接続されている。
【0008】
本開示のバッテリ構成は、例えば、限定はしないが、リチウムイオン、リチウムポリマー、鉛酸、ニッケル金属水素化物、リチウム硫黄、リチウム空気、および全固体バッテリなどのような様々なバッテリ化学作用および形態に適用することができる。例えば、少なくとも1つのバッテリセルは、リチウム金属、ケイ素、またはケイ素-炭素複合材料を含むアノードを含むことができる。
【0009】
特定の実施形態では、加熱要素は、バッテリセルの内部(電解質にさらされる)に配置されてもよく、またはセルと熱接触するようにバッテリセルの外部表面と接触して配置されてもよく、あるいは1つを超える加熱要素がシステムに含まれる場合、加熱要素はセルの内部と外部の両方に存在し、各加熱要素が、セルと熱接触し、スイッチと電気接触してもよい。加えて、スイッチが、バッテリセルの内部に配置されてもよい。いくつかの実施形態では、加熱要素は、平坦な抵抗体シートを含む。
【0010】
他の実施形態では、スイッチは、電気機械リレーおよび温度コントローラ、温度センサをもつ固体リレー、温度センサをもつパワーMOSFET、温度センサをもつ大電流スイッチ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、またはバイメタルスイッチを含むことができる。さらなる実施形態では、スイッチは、温度センサによって駆動されて、バッテリセル温度が第1の所定の値未満である場合にオンになり、またはバッテリセル温度が第2の所定の値以上である場合にオフになるように構成される。さらに他の実施形態では、スイッチは、充電および/または加熱動作中に時間とともにパルスを発するように構成することができる。
【0011】
本開示のさらなる態様は、本開示による統合型加熱バッテリシステムを含むバッテリを充電するための充電方法を含む。この方法は、バッテリセルが所定の充電温度(T2)未満である場合、充電器で加熱要素に電力を供給することによって、バッテリのセルを加熱することを含む第1の動作を含むことができる。この方法は、充電の前にバッテリセルの第1の温度を決定することと、第1の温度がT2未満である場合、第1の動作を開始することとをさらに含むことができる。この方法は、バッテリセルの温度がT2以上である場合、充電器によってバッテリセルを充電する(加熱要素に電力を供給することなしに)ことを含む第2の動作をさらに含むことができる。
【0012】
本発明の追加の利点は、以下の詳細な説明から当業者には容易に明らかになり、本発明の好ましい実施形態のみが、単に本発明を実行するように意図された最良の形態の例として示され説明される。理解されるように、本発明は、他のおよび異なる実施形態とすることができ、そのいくつかの詳細は、すべて本発明から逸脱することなく、様々な明白な点で変形することができる。その結果、図面および説明は、本質的に例示と見なされるべきであり、限定と見なされるべきでない。
【0013】
添付図面が参照され、同じ参照番号の指定を有する要素は、全体を通して同様の要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】バッテリを加熱する利点のないバッテリ充電方法を概略的に示す図である。
【
図1B】本開示の一実施態様によるバッテリ充電方法を概略的に示す図である。
【
図2A】本開示の一実施形態によるバッテリ-スイッチ-ヒータ回路の概略図である。
【
図2B】本開示の1つの実施形態による、複数のバッテリセル、ヒータ、および1つまたは複数のスイッチを含む回路の概略図である。
【
図3A】別個の加熱動作のないおよび別個の加熱動作のあるバッテリ充電方法を概略的に示す図である。
図3Aは、加熱なしの定電流、定電圧(cccv)充電動作を示す。
【
図3B】
図3Bは、本開示の一実施態様による、先行してバッテリセルを加熱している定電流、定電圧(h-cccv)充電動作を示す図である。
【
図4】本開示の一態様による、バッテリ加熱-充電動作におけるパルス状スイッチング動作の概略図である。
【
図5A】
図5A~Dは本開示のバッテリ加熱-充電方法による、3.5C充電レートを使用し、-40℃の温度から開始するバッテリセルの充電の実験データを示す図である。
図5Aは、充電動作中の充電電圧の展開を示す。
【
図5B】
図5Bは、充電動作中にそれぞれ加熱要素(例えば、ニッケル箔)およびバッテリセルを通って流れる電流を示す。
【
図5C】
図5Cは、充電動作中のバッテリ表面温度の図である。
【
図5D】
図5Dは、充電動作中のバッテリの充電状態(SOC)図である。
【
図6A】
図6A及びBは-50℃、-40℃、-20℃、および0℃の様々な環境温度に基づいた、本開示の一実施形態による一連の加熱-充電実験からの結果を示す図である。
図6Aは、加熱および充電ステップ中の電圧曲線と、加熱ステップ中のバッテリ表面温度展開とを示す。
【
図6B】
図6Bは、すべての場合の加熱時間および全充電時間を要約している。
【
図7】0℃の環境温度で3.5Cレート充電によるサイクリングテスト中の加熱ありと加熱なしのバッテリセルに対するバッテリ容量保持率対サイクル数を比較している図である。
【
図8】6C充電レートを使用して充電する前に様々な充電温度(T
2)に加熱された4つのテストバッテリセルに対する容量保持率対サイクル数のプロットである。
【
図9】本開示の加熱-充電方法による、加熱速度のバッテリサイクル寿命への影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、急速充電(時間の節約)を可能にし、氷点下温度を含む実質的にすべての環境温度での充電を可能にする改善された充電プロセスを有するバッテリシステムに関する。本開示のバッテリシステムは、有利には、充電過電圧を低下させ、それにより、放電および充電のサイクリングの際にバッテリセルのエネルギー効率を向上させることができる。
【0016】
背景技術のセクションで説明したように、再充電可能バッテリを使用するのに不可欠な部分は充電プロセスであり、充電プロセスは、充電動力学および充電レートに応じて平衡セル電位を超える過電圧を発生する。その結果、充電中のセル電圧は上昇し、通常、電圧上限に達する(
図1Aを参照)が、その電圧上限は、セルの内部のバッテリ材料の大幅な劣化の発生により規定されている。バッテリの劣化により、許容充電過電圧(η
chg)(すなわち、充電電圧と開回路平衡電位U
oとの間の差)が制限され、その結果として、充電レートが低下し(または同様な意味で充電時間が延び)、充電動作を続行するには室温に近い温度が必要とされる。両方の要因、すなわち、低い充電レートおよび室温近くの充電のため、実際の適用分野でのバッテリ使用が著しく不便になる。しかしながら、有利には、本開示のバッテリシステムの構成は、バッテリの温度がT
2未満である場合、
図1Bに示されるように、バッテリ充電動作の前に加熱ステップを加えて、バッテリの温度を第1の温度(T
1)から少なくとも第2の温度(T
2)(例えば、好ましい充電温度)まで上げることができる。重要な充電の前の充電温度(T
2)が高いと、バッテリセルの電気化学および輸送特性が熱的に刺激され、それによって、充電動力学が大幅に改善され、充電過電圧(η
chg)が低下する。充電動力学の改善により、その後、加熱されていない対照物よりもバッテリのより速いレートの充電が促進されるか、または同じ充電条件の下での充電過電圧が低下してエネルギー効率が向上する。
図1Bを参照されたい。
【0017】
本開示の一態様は、バッテリおよび/またはそれの1つまたは複数のセルを迅速に加熱し、続いて充電する加熱-充電方法を含む。この方法は、バッテリセルが所定の充電温度(T2)未満である場合、迅速な加熱速度でバッテリのセルを加熱することを含む第1の動作を含む。好ましくは、バッテリセルは、少なくとも5℃/分、例えば、少なくとも10℃/分、例えば、少なくとも20、30、40、および50℃/分などの速度で加熱される。そのような迅速な速度でのバッテリセルの加熱は、充電器、例えば、バッテリセルを充電するためにも使用される充電器などで加熱要素に電力を供給することによって達成することができる。加熱要素は、バッテリセルと熱接触することが好ましい。
【0018】
加熱動作は、バッテリセルを大きく充電する前に、バッテリセルをT2以上に加熱することを含むことができる。充電するときバッテリセルに悪影響を及ぼす温度などの特定の低温では、バッテリセルを加熱する第1の動作の間バッテリセルの充電はほとんどないし全く行われない。そのような低温では、バッテリセルは迅速に加熱され、充電はほとんどないし全く行われない、すなわち、0.1C未満もしくは0.05C未満の充電が行われるかまたは測定可能な充電は行われない。
【0019】
所定の充電温度(T2)は、バッテリ充電の基礎をなす電気化学および輸送プロセスに最も有利になるように選択することができる値である。例えば、充電温度は、少なくとも35℃、40℃、または60℃に近いもしくは60℃などのかなり高い温度とすることができる。
【0020】
この方法は、バッテリセルがT2以上である場合、充電器でバッテリセルを充電することを含む第2の動作をさらに含むことができる。バッテリのセルがT2以上になると、セルの加熱を中止することができる、すなわち、バッテリセルの充電は、別個の加熱源でバッテリセルを加熱することなしに行うことができる。
【0021】
特定の実施形態では、この方法は、T2以上で、外部電源により、定電流、定電圧、定電力もしくは可変電力、またはそれらの任意の組合せでバッテリを充電することをさらに含むことができる。例えば、この方法は、T2以上で、外部電源により、電圧上限に達するまで定電流で、続いて、所定の電流が達せられるまでセル電圧の上限での定電圧で、バッテリを充電することをさらに含むことができる。他の実施形態では、この方法は、バッテリセルの温度を決定することと、温度がT2未満である場合、バッテリセルを加熱するために第1の動作を開始することと、温度がT2以上である場合、バッテリセルを充電することとを含むことができる。さらなる実施形態は、加熱動作と充電動作との間に休止期間を含む。
【0022】
本開示の別の態様は、少なくとも1つのバッテリセルを含む再充電可能バッテリを含む統合型バッテリ加熱-充電システムを含む。システムは、スイッチ-ヒータ組立体を形成するために、少なくとも1つのバッテリセルと熱接触し、スイッチに直列に電気的に接続された加熱要素をさらに含む。システムはまた、バッテリ-スイッチ-ヒータ回路を含む。バッテリ-スイッチ-ヒータ回路は、充電器に直接電気的に連結されるように構成することができる、例えば、バッテリ-スイッチ-ヒータ回路は、充電器からの電流がDC/DCコンバータなどの他のデバイスによる中断なしにバッテリ-スイッチ-ヒータ回路に直接に流れるように、充電器に直接電気的に連結されるように構成することができる。本明細書で使用される充電器は、システムの再充電可能バッテリを充電することができる任意の外部充電源、例えば、外部バッテリ充電器または外部電源などを指す。
【0023】
有利には、スイッチ-ヒータ組立体は、バッテリに並列に電気的に接続される。この単純な構成によって、加熱要素およびバッテリは、余分な電源の必要なしに、および電子制御ユニット(ECU)またはバッテリ管理システム(BMS)の必要なしに、同じ充電器によって電力を供給することができる。本開示のシステムは、充電器とバッテリとの間に電気的に接続された追加のデバイスを開示している、または充電および加熱のための別個の回路と、そのような別個の回路のための制御ユニットおよびBMSとを使用する他のシステムと基本的に異なる。特定の態様では、本開示のシステムは、本開示のバッテリおよびヒータが並列に接続され、一方、特定のシステムでは、それらが直列に電気的に接続されるという点で、他のシステムと異なる。この違いのために、充電器は、従来の場合のように同じ電圧ウィンドウで動作することができる。
【0024】
図2Aは、外部充電器(30)に直接電気的に連結されるように構成されたバッテリ-スイッチ-ヒータ回路を概略的に示す。図に示されるように、回路は、バッテリセル22と、スイッチ-ヒータ組立体24とを含み、スイッチ-ヒータ組立体24内で、加熱要素26がスイッチ28と直列に電気的に接続されている。図は、さらに、バッテリ22およびスイッチ-ヒータ組立体24が、外部バッテリ充電器または外部電源(30)などの充電源と並列に直接電気的に接続されることを示している。
図2Aに示されていないが、加熱要素26は、バッテリセル22と熱接触することになる。特定の実施形態では、加熱要素は、バッテリセルの内部(電解質にさらされる)に配置されてもよく、またはセルと熱接触するようにバッテリセルの外部表面と接触して配置されてもよい。加えて、スイッチは、バッテリセルの内部に加熱要素とともに配置されてもよい。
【0025】
本開示の一態様では、加熱要素は、スイッチがオンであるとき充電器によって主として(>50%、例えば、>51%など)電力を供給することができ、バッテリの充電は、前記スイッチがオフであるとき充電器によって電力を供給される。加熱要素に電力を供給すると、バッテリが加熱され、バッテリの温度が上がる。当業者なら理解するように、スイッチがオンであるとき、加熱要素の電圧はバッテリの電圧よりも著しく低くなるように構成されているので、充電電流は、バッテリよりも加熱要素を通って流れる方を選ぶ。したがって、特定の態様では、加熱-充電の方法の加熱動作の間、バッテリセルの充電はほとんどないし全く行われない。
【0026】
図2Aは1つのスイッチ-ヒータ組立体をもつ1つのバッテリセルを示しているが、本開示の統合型加熱バッテリシステムは、複数の電気化学セル、および/または複数の加熱要素、および/または複数のスイッチを有するバッテリを含むことができる。例えば、他の実施形態において、そのような例示的な回路が
図2Bに示されており、システムは、複数のバッテリセル(22
1-n)を含むことができ、オプションとして、複数のバッテリセルと熱接触する複数の加熱要素(26
1-n)と、オプションとして1つまたは複数のスイッチ(28)とを含むことができ、加熱要素は、複数のスイッチ-ヒータ組立体を形成するために1つまたは複数のスイッチに直列に電気的に接続される。バッテリセルおよびスイッチ-ヒータ組立体は、外部バッテリ充電器または外部電源(30)などの充電源と並列に直接電気的に接続される。
【0027】
本開示の特定の実施形態を実践する際、統合型加熱バッテリシステムは、バッテリが所定の充電温度(T2)未満である場合に充電器で加熱要素に電力を供給することによってバッテリを加熱することを含む第1の動作によって充電することができる。充電動作は、バッテリ充電または加熱の前に、例えば温度センサによってバッテリの温度を決定することをさらに含むことができる。決定された温度がバッテリ充電に望ましい所定の値よりも低い(例えば、T2未満である)場合、統合型システムのスイッチは起動され、ヒータの加熱は、バッテリを充電するために使用される充電源と同じにすることができる充電源によって電力が供給される。温度センサによって決定されたバッテリ温度が所定の値以上に達すると、スイッチはオフにされ、バッテリの充電は、同じ充電器によって電力が供給され得る。したがって、第2の充電動作は、バッテリがT2以上の温度である場合、充電器によってバッテリを充電する(加熱要素に電力を供給することなしに)ことを含む。
【0028】
有利には、本システムの同じ充電源(バッテリ充電器または外部電源)は、スイッチがオンであるときにヒータに、そしてスイッチがオフであるときにバッテリの充電に電力を途切れずに供給することができる。例えば、本開示の統合型加熱-充電システムは、その実施態様においてバッテリ加熱または充電を設定するのに、DC/DCコンバータ、インバータ、ダイオード、または追加のスイッチ(ヒータと直列接続されたもの以外)、ECUもしくはBMSを必要としない。したがって、いくつかの実施形態では、本開示の統合型加熱-充電システムは、充電源とバッテリとの間のDC/DCコンバータ、インバータ、ダイオード、追加のスイッチ、ECU、またそのようなデバイスの任意の組合せのいずれも除外する。本開示の特定の実施形態による統合型加熱バッテリシステムの顕著な特徴は、従来のBMSに見られるより複雑なシステムと比較して、その単純さ、それゆえに、そのようなシステムの低いコストである。
【0029】
所定の充電温度(T2)は、バッテリ充電の基礎をなす電気化学および輸送プロセスに最も有利となるように選択することができ、特定の場合には室温よりも実質的に高くすることができる値である。例えば、充電温度は、人体温度の近くに、すなわち、35~40℃に、または60℃に近いもしくは60℃などのかなり高い温度に決定されてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、バッテリ加熱の第1の動作は、定電流、定電圧、定電力または可変電力での充電器からのエネルギー送出を含むことができる。加えて、バッテリ加熱の第1の動作は、速い速度で、すなわち、毎分少なくとも摂氏1度の速度でバッテリを加熱することを含むことができる。より好ましくは、バッテリ加熱の第1の動作は、少なくとも5℃/分、例えば、少なくとも10℃/分、例えば、少なくとも20、30、40、および50℃/分などの迅速な速度でバッテリを加熱することを含むことができる。
【0031】
従来から、バッテリは、
図3Aに示されたものなどのように定電流-定電圧(cccv)充電方法で充電される。本発明の1つの実施形態は、h-cccvと呼ばれる新しい充電アルゴリズムである(
図3Bを参照)。そのようなh-cccv充電アルゴリズムは、バッテリ加熱ステップと、電圧上限に達するまでの定電流段階と、次いで、充電電流が例えばC/20に減少するまで上限に固定された定電圧段階とを含むことができる。h-cccv方法は、本開示の統合型加熱-充電システムで実現することができる。例えば、スイッチ-ヒータ組立体をもつバッテリでは、スイッチは、最初に、バッテリ温度が充電に最も適する所定の温度に達するまで加熱をオンにするように構成することができる。続いて、スイッチをオフにすることができ、そこで、事前加熱されたバッテリをcccvモードで充電するために充電器電力が全面的に使用される。h-cccv方法は、低温から室温または最適な充電温度への急速充電に特に適する。
【0032】
本明細書で使用される再充電可能バッテリまたはバッテリという用語は、1つまたは複数の電気化学セルを含む任意の再充電可能な電気化学エネルギー貯蔵デバイスを表すために使用される。バッテリセルの基本要素には、集電子に被覆されたアノード電極、別の集電子に被覆されたカソード電極、および電解質が含まれる。
【0033】
本開示の統合型加熱バッテリシステムは、限定はしないが、リチウムイオン、リチウムポリマー、鉛酸、ニッケル金属水素化物、ニッケルマンガンコバルト、リチウム硫黄、リチウム空気、および全固体バッテリなどの様々なバッテリ化学作用を含むことができる。特に、アノード電極が高エネルギー密度用のリチウム金属から構成されるリチウム金属バッテリは、本開示から利益を得ることができる。リチウム金属バッテリの充電中に、リチウム析出は樹枝状成長をしがちであり、それは、種拡散抵抗を減少させ、表面の過電圧を最小化するのに最も効率的な形態であるからである。樹枝状成長とそれに続く低いめっき/ストリッピングクーロン効率は、低温および高充電電流で特に顕著である。本開示は、リチウムめっきを高温で操作し、リチウム金属の低融点、Liめっきの非常に強化された界面反応速度、電解質の非常に改善されたイオン伝導率、およびLi原子の非常に改善された界面拡散を利用することによって両方の問題に対処する。これらのすべての改善の結果により、Liめっき/ストリッピングサイクルの高いクーロン効率、樹状突起のない成長、および高い充電電流密度がもたらされる。
【0034】
アノードがSiまたはSiグラファイト複合材料からなるバッテリは、本開示によって改善することができる。Liらの実験の測定(J. Li, F. Yang, Y.-T. Cheng, M.W. Verbrugge, X. Xiao, J. Phys. Chem. C 116, 2012)により、Si中のLiの拡散係数がグラファイト中よりも2桁低いことが見いだされており、それは急速充電にとって問題である。この問題は、今では、本開示の高温加熱-充電方法中にSi中のLiの拡散係数が実質的に増加するような事前加熱動作によって対処することができる。
【0035】
追加として、高濃度電解質(例えば、少なくとも1リットル当たり約4モル(4M)の塩濃度をもつ)または固体電解質のいずれかを含有するバッテリは、本開示から利益を得ることができる。例えば、高濃度電解質を有するバッテリセルは、粘性になる傾向があり、低いイオン伝導率を示す。しかしながら、本開示の実施態様による加熱-充電方法は、充電過電圧を著しく低下させることができる。ポリマー電解質、硫化物電解質、および酸化物電解質などの固体電解質は、高い界面電荷移動抵抗および/または低いイオン伝導率を示す。しかしながら、本開示の実施態様による加熱-充電方法はまた、固体電解質を有するバッテリセルの全体的な充電過電圧を低下させるのに有利である。
【0036】
本開示から利益を得ることができる別のバッテリ化学作用は、充電中の酸素発生反応が周知のように不活発であるリチウム空気バッテリである。空気カソードは、放電中に、Liイオンおよび空気中の酸素と反応して、それらの酸化物、例えば、Li2O2を形成する。充電中に、リチウム酸化物、例えば、Li2O2は、リチウムイオンと電子とに分解され、酸素が放出される。空気カソードの充電過電圧は、通常、非常に高く、その結果、本発明におけるような熱刺激を使用することは、充電過電圧を低下させるのに特に効果的であり、それにより、Li空気バッテリのエネルギー効率が大きく改善される。
【0037】
本開示の一実施形態では、加熱要素は、少なくとも1つの抵抗体シートを含み、それは、バッテリセルの内部(電解質にさらされる)に、または2つのバッテリセルの外部でそれらの間に、あるいはセルの内部のいくつかの抵抗体シートとセルの外部のいくつかの抵抗体シートの組合せで配置することができる。抵抗体シートは、0.1から5の間の数値をアンペア時(Ah)単位のバッテリの容量で除算したもの、例えば、約0.5から2の間の数値をAh単位のバッテリの容量で除算したものに等しいオーム単位の抵抗を有することが好ましい。例えば、20Ahバッテリの抵抗体シートは、約0.005オーム(0.1を20で除算したもの)から約0.25オーム(5を20で除算したもの)の間、例えば、約0.025オーム(0.5を20で除算したもの)から約0.1オーム(2を20で除算したもの)の間にあることが好ましい。
【0038】
本開示の抵抗体シートは、例えば、グラファイト、高配向パイログラファイト(HOPG)、ステンレス鋼、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、アルミニウム、チタン、またはそれらの組合せで製作することができる。抵抗体シートは、バッテリセルの外部でおよびモジュール内の2つの隣接するセル間で使用される場合、耐腐食性である必要がなく、したがって、本開示の抵抗体シートとして使用するために、追加の材料が利用されてもよい。特定の実施形態では、本開示の抵抗体シートは、好ましくは、2つの主表面を有し、例えば、大きい表面積をもつ平坦なシートであり、その結果、バッテリ構成要素との良好な熱連通を有することができる。本開示の抵抗体シートは、約1マイクロメートルと約200マイクロメートルとの間の厚さを有することができ、約5マイクロメートルから約100マイクロメートルの好ましい範囲を有することができる。大きい電気抵抗、高い熱伝導率、および低コストを有する抵抗体シートは、本開示の特定の実施形態にとって有用である。
【0039】
抵抗体シートの抵抗は、シートをパターン化すること、すなわち、抵抗体シートから材料を除去することによって調節することができる。パターニングにより、抵抗体シートは、機械的強度および溶接性には十分な厚さを有するが、抵抗が減少する。隅が丸いパターンは、パターンの隅での温度上昇を低減するという利点を有する。パターン化された抵抗体シートは、フォトエッチング、放電加工、水ジェット切断、レーザー切断、打抜き加工などによって製造することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、抵抗体シートがバッテリセルの内部に挿入される場合、望ましくない化学反応または電解質との電気接続を避けるために、抵抗体シートの表面のかなりの部分を被覆することができる。保護被覆は、熱伝導性であり、電気的絶縁性であり、バッテリセル内で化学的に安定であるべきである。保護被覆は、ポリマー、金属酸化物などで製作することができる。保護被覆のポリマー材料の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、PVDF、PTFE、ナイロン、またはそれらのコポリマーが含まれる。保護被覆の金属酸化物材料の例には、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、およびそれらの組合せの酸化物が含まれる。保護被覆は、誘電率が高いことが好ましい。いくつかの実施形態では、接着剤が、抵抗体シートと保護被覆との間に使用されてもよい。保護被覆の厚さは、10nmから100μmの間、好ましくは、10nmから50μmの間とすることができる。被膜は、良好な熱伝達を可能にするように十分に薄くすべきであるが、抵抗体シートがバッテリセルの内部の電解質と接触しないように不浸透性にすべきである。保護被覆は、テーピング、ラミネーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、化学気相堆積、原子層堆積、溶液キャスティング、電着、自己組織化単分子膜、光造形、表面酸化などのような方法によって抵抗体シート上に付けることができる。
【0041】
本開示のスイッチ-ヒータ組立体のスイッチは、電気機械リレーおよび温度コントローラ、温度センサをもつ固体リレー、温度センサをもつパワーMOSFET(酸化金属半導体電界効果トランジスタ)、温度センサをもつ大電流スイッチ、またはIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)で構成することができる。本開示のスイッチは、バッテリセルの内部にまたは外部に配置することができる。スイッチがバッテリセルの内部に配置される場合、スイッチ、例えばMOSFETを抵抗体シートと統合して、平坦な基板を形成することができ、ゲートワイヤが、バッテリセルの外部からスイッチを制御するためにバッテリセルから引き出される。
【0042】
セルの内部のバッテリ材料の損傷を避けるために、バッテリ使用電圧V
cellを2Vなどの所定の値より上に維持することが好ましい。
図4は、
図2Aに記載されたような1つのスイッチ-ヒータ組立体で構成されたバッテリセルの充電電流の流れを示す。スイッチがオンであるとき、すなわち、加熱モードのとき、セル電圧はI
hR
hに等しく、I
hR
hは、バッテリセルを通過する電流I
bが無視できるほど小さいと仮定する場合、I
chgR
hと概略で等しい。したがって、I
chgR
hは、2V以上でなければならない。この条件は、充電レートが高いときに満たすことができる。例えば、0.06Ohmのヒータの抵抗をもつ10Ahバッテリセルでは、充電電流が35A(すなわち、3.5C)よりも高いとき、上述の条件は満たされ、その結果、バッテリ温度が所定の充電温度より低いときにはいつでも、バッテリ材料の劣化のリスクなしにスイッチをオンにすることができる。しかしながら、低い充電電流またはI
chgR
h<2Vでは、2Vを超えるセル電圧を維持するために、連続的なオンの代わりにパルス状スイッチングプロトコルを適用することができる。例えば、
図4に示されるように、スイッチのオフ期間の間、バッテリは、I
chgt
offの全電荷を受け取ることになる。スイッチがオン期間になった後、バッテリは、オフ期間中に受け取った同じ電荷をヒータに放出し、バッテリ放電電流I
b=I
chgt
off/t
onに変換されることになる。したがって、全加熱電流は、実際には、
図4に表示されたように、I
bとI
chgの和に等しくなる。それゆえに、V
cell=I
hR
h=I
chgR
h(1+t
off/t
on)>2Vであり、それは、t
off/t
on>2/(I
chgR
h)-1を必要とする。例えば、0.3C、または同じ10Ahセルの3Aなどの低い充電電流では、スイッチオン時間に対するスイッチオフ時間の比は、セル電圧が常に2Vの閾値より上にとどまるように、10.11を超えるかまたは切り上げて11である必要がある。この条件は、スイッチがt
on=1秒とt
off=11秒の組合せまたはt
on=0.1秒とt
off=1.1秒の別の組合せを有するように構成される場合、満たすことができる。
【0043】
本開示のスイッチは、最初にバッテリセルを室温から事前加熱するために起動することができる。これは、10分の充電または80%充電状態までの急速充電などの、高い質量負荷および厚い電極を有するエネルギー密度の高い電気車両(EV)バッテリの超急速充電にとって好ましい。理由は、特定の電気車両(EV)バッテリの急速充電が、Liめっき、すなわち、バッテリ寿命を著しく短くするプロセスを避けるために、非常に厚い電極の全域で高温での電解質の移送が大幅に強化されることから利益を得るからである。固体電解質界面(SEI)成長の加速に起因して、高い充電温度(T2)でのバッテリ充電の間、バッテリ劣化速度は2倍になることがあることに留意されたい。しかしながら、SEIの成長は露出時間に依存する。充電は、通常、実際の用途では充電-休止-放電の全サイクル時間の5%未満であり、高温で充電している間のバッテリ劣化の増加は、バッテリ寿命全体への影響に関する限り、無視できる。例えば、200マイル巡行距離を有する車両の100,000マイル/10年の保証メインバッテリでは、100,000マイルを達成するには500回の充電を必要とすることになる。500回の充電のすべてが本開示の30分急速充電方法で行われると仮定すると、合計の充電時間は250時間である。10年の寿命から、これは、T2の高温充電および高いバッテリ劣化にさらされる0.3%未満の時間である。
【0044】
バッテリ充電の前の加熱速度は、少なくとも5℃/分であることが好ましく、少なくとも10℃/分、例えば、少なくとも20、30、40、および50℃/分などであることがより好ましい。例えば、充電の前の20℃温度上昇では、加熱に4分未満しかかからず、例えば1時間のバッテリ充電への影響は無視できる。バッテリ充電と比べて加熱ステップを無視できる速さにするために、バッテリ充電が速いほど、加熱速度も速いことが好ましい。特定の実施形態では、加熱動作は、バッテリを80%SOCまで充電する全時間の10%弱、例えば、5%弱である。
【実施例】
【0045】
一例として、カソードとしてリチウムニッケルマンガンコバルト(NMC622)と、アノードとしてグラファイトと、電解質としてエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(EC/EMC)(重量で3:7)+2重量%ビニレンカーボネート(VC)に溶解された1MのLiPF
6と、セパレータとしてCelgard-2325微孔性三層メンブレンとを有する9.5Ahパウチセルを造る。カソードは、N-メチルピロリドン(NMP)ベースのスラリーを15μm厚Al箔上に被覆することによって準備されており、その乾燥材料は、バインダとしてNMC622(91.5重量%)、Super-C65(Timcal)(4.4重量%)、およびポリビニリデンフルオライド(PVdF)(Hitachi)(4.1重量%)を含む。アノードは、脱イオン(DI)水ベースのスラリーを10μm厚Cu箔上に被覆することによって準備されており、その乾燥材料は、グラファイト(95.4重量%)、Super-C65(1.0重量%)、SBR(JSR)(2.2重量%)、およびCMC(Nippon Paper)(1.4重量%)を含む。NMC622カソードおよびグラファイトアノードの負荷質量は、それぞれ、1.85mAh/cm
2および2.23mAh/cm
2に対応する10.574mg/cm
2および6.678mg/cm
2であった。カレンダ加工の後、カソードの厚さおよびアノードの厚さ(片側)は、40.75μmおよび48.7μmであった。パウチセルは、34個のアノード層および33個のカソード層を含んでおり、152×75mm占有面積と、9.5Ah公称容量(それに対してすべてのCレートが規定される)と、170Wh/kgおよび334のWh/Lの比エネルギーとを有していた。パウチセルの内部に加熱要素として2つのNi箔を配置しており、一方のNi箔は上部セル表面から1/4セル厚さのところに、他方は3/4セル厚さのところに設置された。各Ni箔は、30μmの厚さ、および25℃で80.2mΩの抵抗を有していた。
図2Aに概略的に示されているように、Ni箔の一方の端部は、負端子に接続され、他方の端部は、MOSFETスイッチに接続され、MOSFETスイッチは、次いで、正端子に接続される。
【0046】
9.5Ahセルの加熱-充電実験が、-40℃の環境温度で実行された。実験のデータが、充電電圧について
図5A、充電電流について
図5B、セル温度について
図5C、およびバッテリの充電状態について
図5Dに示されている。テストの前に、完全に放電されたセルが、-40℃の環境チャンバに12時間を超えて置かれた。初期の加熱ステップでは、充電源からの電気エネルギーは、定電流、定電圧、定電力または可変電力で送り出すことができる。この実験では、加熱ステップでスイッチを閉にすることとともに、バッテリの開路電圧(≒3.2V)よりもわずかに低い3.15Vの定電圧を印加した(
図5Aを参照)。そのため、事実上、充電源からのすべての電流がバッテリではなくNi箔ヒータに流れ込んだ(
図5Bを参照)ので、バッテリがまだ冷えていたにもかかわらず材料損傷はない。セルは、迅速に加熱された(
図5C)。セルの表面温度が20℃に達した後、MOSFETスイッチは、加熱ステップを終了するために開にされ、次いで、セルは、内部温度勾配を緩和するために10秒休止した(
図5C)。その後、セルは、80%SOCに達するまで、3.5Cの電流および4.2Vのカットオフ電圧で定電流定電圧(cccv)プロトコルにより充電された(
図5D)。全加熱-充電プロセスは、61.6秒加熱ステップおよび10秒熱緩和を含めて894.8秒(14.91分)を要した。
【0047】
上述の実験では、加熱ステップが完了しバッテリが暖まる前に電流がバッテリに流れ込まないことを正確に保証するために、設定電圧をバッテリの開路電圧のごく近くになるように制御することができるので、定電圧が加熱ステップに適用された。本開示の独特な電気回路により、常に、電流のごく一部分がバッテリを通過し(開路電圧の障壁を克服した後)、電流の大部分がヒータを通過する(克服すべき電圧障壁がないことにより)ので、定電流または定電力を加熱ステップに等しく適切に適用することができる。
【0048】
本開示により、好結果の加熱-充電実験が、さらに、それぞれ、0℃、-20℃、-40℃、さらに-50℃の環境温度に対して
図6Aおよび
図6Bに示された。様々な初期温度に対する加熱時間が、
図6Bに示されている。-50℃から20℃までセルを加熱するのに69秒を要し(≒60℃/分)、0℃から20℃まで30.2秒を要した(≒40℃/分)。-50℃の最も厳しい場合でさえ、加熱ステップは、加熱ステップと充電ステップを合わせた全プロセスの時間の7.6%しか占めていなかった。80%SOCまでセルを充電する全時間は、4つの場合すべてにおいて同様であった(
図6B、-50℃で905.7秒および0℃で863.2秒、≒5%の差)。
【0049】
図7は、本発明の加熱-充電(h-cccv)方法と従来の定電流、定電圧(cccv)方法との間で、3.5C充電レートを使用して摂氏ゼロ度でのバッテリサイクリングの容量保持率データを比較している。cccv方法を使用したバッテリセルはわずか50サイクルで20%の容量を失ったことが分かり、一方、h-cccv方法は、驚いたことに、同じ容量保持率で4500サイクルを乗り切っており、これは、サイクル寿命の90倍の改善である。
【0050】
図8は、6C充電レートを使用して充電する前に様々な充電温度に加熱された様々なバッテリに対する容量保持率対サイクル数のプロットである。驚いたことに、80%容量保持率のサイクル数は、34℃の充電温度での100サイクル未満から61℃の充電温度による1200サイクル超まで著しく改善されていることが示されている。データは、サイクル寿命の驚くべき12倍の改善を示している。サイクル寿命の著しい改善は、充電の前にバッテリのセルを迅速に加熱することがバッテリセル寿命にそのような有益な効果を有することが直感では分からなかったので驚くべきことである。
【0051】
様々な充電温度(T
2)でのバッテリ劣化速度の測定データに基づいて、
図9は、様々な加熱速度(曲線パラメータ)下での充電温度(T
2)の関数として、20%容量損失におけるバッテリサイクル数を要約している。0.5℃/分で、バッテリサイクル寿命が急激に減少することが分かる。この減少は、高い充電温度、例えば60℃へのバッテリセルの過度に長い露出時間に起因すると考えられる。他方、再充電可能バッテリの加熱を少なくとも5℃/分に加速することによって、高い充電温度へのバッテリの露出時間が最小になり、そのために、バッテリサイクル寿命の減少が制限される。少なくとも5℃/分の迅速な加熱速度は、本開示の最適な加熱-充電方法におけるバッテリ劣化を管理するためのより低い閾値速度であると考えられる。
【0052】
本発明の好ましい実施形態およびその多用性の例のみが、本開示において図示および説明されている。本発明は、様々な他の組合せおよび環境で使用することができ、本明細書で表されるような発明概念の範囲内で変更または変形することができることを理解されたい。したがって、例えば、当業者は、単に通常の実験を使用して、本明細書で説明された特定の物質、手順、および構成の多数の等価物を認識するか、または確認することができるであろう。そのような等価物は、本発明の範囲内にあると考えられ、以下の特許請求の範囲によって包含される。
【符号の説明】
【0053】
22 バッテリセル
24 スイッチ-ヒータ組立体
26 加熱要素
28 スイッチ
30 外部充電器、外部バッテリ充電器または外部電源